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[本]のメルマガ vol.764

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■■ [本]のメルマガ                 2020.09.05.発行
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■■  mailmagazine of books         [確かに全て炭水化物 号]
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『今日から理系思考!「お家にある材料」でおもしろ科学の実験図鑑』

セルゲイ・ウルバン著 黒木章人訳
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卵の上に乗る!? 描いた絵が泳ぎ出す!? ロンドン在住2児のパパが家庭学習
のために考案した、家にある材料で簡単にできて盛り上がる40の科学実験。世
界で300万人のファンを持つ人気実験動画サイトの書籍化!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その51「続あしながおじさん」その1

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第127回 時空の暗がり、言葉の暗がり

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ メールにて、インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その51「続あしながおじさん」その1

 『あしながおじさん』に続編があることを知っている人はどれくらいいるだ
ろうか?
 主人公がジュディから大学生時代の親友のサリーに変わるので正確に言うと
別の小説なのだが、邦題はすべて『続あしながおじさん』になっている。原題
は“Dear enemy”直訳すれば「親愛なる敵様」という感じだろうか?『あしな
がおじさん』と同じように手紙文で構成されていて、宛先は結婚して富豪の妻
になっているジュディとワシントンの若き政治家で恋人のゴードン、そして敵
様と呼ばれる孤児院の嘱託医の三人となっている。
 
 物語は、ジュディが自分の育った孤児院の院長になるようにサリーに依頼し
たところから始まる。ジュディの夫が孤児院を経営する評議会の会長となり、
孤児院を改革することにしたのだ。そして、大学を出て就職もせず実家のある
ウスターの社交界で時間をつぶしているだけのサリーに、白羽の矢を立てたの
だ。最初は驚いたサリーも説得され、自分付きの女中と愛犬を引き連れて、孤
児院にやってくる。そう、サリーは大富豪とまではいわないまでも、かなりの
お金持ちのお嬢様なのだ。働く必要はなく、今まで四回もヨーロッパ旅行に行
ったことがあるし、ジュディ夫婦がやがて移り住むことになるジャマイカにも
観光旅行で行ったことがある。

 ここでいう社交界で暮らすという言葉の意味が実は私にはよくわからないの
だけれど、サリーは自分の本来的な場所は社会事業より「カントリークラブ、
車、ダンス、スポーツ、儀礼」だと書いているので、そういう生活を送ってい
たのだろう。最後の儀礼というのがいわゆる社交のことで、お茶の会や夜会に
招待したり答礼したりのお付き合いのことだと思える。孤児院に赴任した後も
サリーは孤児院周辺の村のお茶会や夜会にも積極に出かけて行き、村周辺の別
荘地に住むお金持ちから、寄付や有力なボランティアの働き手を得たりして、
孤児院の改革に役立てているから、社交にたけている人柄なのだろう。

 ある意味、「お仕事小説」でもあるし、作者の孤児への教育の理念なども読
み取れてとても面白い小説なのだが、今は話題にされることはほとんどない。
その理由はこの本が根底において数々の問題点をはらんでいることにあると思
うのだが、まずは、この本の中の食べ物について見て行きたいと思っている。

 大学時代には秘密にされていた孤児院の生活について、たぶんジュディは熱
くサリーに語っていたに違いない。孤児院では普通、中学卒業程度で孤児を世
の中に出すところを、ジュディは孤児院で働いて子供たちの面倒を見ることに
よってお情けで高校までいかせてもらったようだ。そんな彼女が感じた孤児院
に対する不満やつらさが『あしながおじさん』にも垣間見られたのだが、サリ
ーはその言葉に耳を傾けて、孤児院を改革しようとしていく。

 サリーの目指しているところは、まずは孤児院を教育機関として整備するこ
とのようだ。又、幼いころから世間を知らずに育ち、そのまま女中や農村の働
き手として院から出される子供たちに、常識を身につけさせることも重要な課
題として見ている。そして、何より家庭的な愛情を子供たちに感じさせようと
している。

 そんな良き意志に満ちたサリーを出迎えた食事は、おいしくないものだった
ようだ。職員たちの夕飯のメニュウは「マトン・ハッシュ」(羊肉の細切れと
か煮物と訳されている)とほうれん草とタピオカ・プディング。そう、去年ま
で一世風靡していたあのタピオカなのだけれど、それを粉にして作ったプディ
ングはおいしものではないらしい。職員用でこれならば、子供用はもっとひど
いだろうと書いているから、そうとうまずかったのだろう。食事をおいしく楽
しく食べるという事より、倹約の方が大事にされているのだ。コックは、この
新任の院長に向かって、「当院では、水曜日の晩は、とうもろこし粥を食べる
しきたりだ」と言い聞かせに来たりする。そこで、サリーは同じく新任の嘱託
の医師と二人で、過去の献立表を調べて驚愕する。

ゆでジャガイモ  Boiled potatoes
米のおかゆ    Boiled rice
ブラマンジェ     Blanc mange

 確かに全て炭水化物。

「子供たちが百十一個の小さな糊のかたまりにならなかったのが不思議です」
というのも無理はない。

 でも、私は最初にこの本を読んだ時うっとりしたのだ。ブラマンジェ、羨ま
しい。なぜなら、『若草物語』のこのお菓子に憧れていたから。主人公のジョ
ーが初めて隣家のローリーを訪ねるとき持って行ったお菓子。姉のメグが、牛
乳やコーンスターチなどで作ったプリンやゼリーのような真っ白くて冷たい菓
子。長い間憧れていて、やっと大学生の時にお茶の水のYWCAの食堂で食べてそ
の味を知ったのだ。一緒に食べた友人たちは皆、あの『若草物語』のお菓子よ
ねと言っていたっけ。もちろん、この三種類はジャガイモもコメもコーンスタ
ーチも糊の材料で、頭韻を踏んでいるからこう並べたのだろうけれど、それだ
けではなく『あしながおじさん』の中で、ジュディが「『若草物語』を読まず
に成長したのは大学中で私だけ」というくらい当時のアメリカでも愛されてい
た本へのオマージュのような気もするのだ。

 それはともかく、そんな子供たちの食生活を改善しようと、サリーはこんな
献立表を作成して、一週間の変化にとんだ食事をコックに命じる。

「全粒粉のパン、牛乳と卵入りパン、全粒粉のマフィン、とうもろこし粥、ほ
しぶどうのたっぷり入ったライスプディング、濃い野菜スープ、イタリア風マ
カロニ、糖蜜の入った栗粉菓子、リンゴ入りだんご、ジンジャーパン……」

 水曜日は妥協したようだけれど、コックは期待に応えてくれたのだろうか?
なにせ、このコック、料理の種類をあまり知らないらしく、サリーが院長専用
の食堂で来客をもてなそうとすると、出てくるのは毎回「子牛の圧搾肉」とい
う料理だけ。このpressed vealという料理、調べても調べてもどんな料理かわ
からないままだった。生後六か月の子牛肉というのも日本ではあまり食べられ
ない肉でもあるし、圧搾肉というのは肉の破片をハムのように加工する料理と
あるので、薄切り肉をステーキのように固めたものかなと想像しているところ
だ。サリーも困り果てて、重要な客のときには仕出し屋から牡蠣や雛バトやア
イスクリームを取り寄せている。結局この物語の中でコックは四回も変わるこ
とになるようだ。あるコックには夜逃げされたりもしてしまうのだが、確かに、
百十人分の孤児の食事と職員用の食事を三食作り、来客用のご馳走まで作りあ
げる手腕を求められるのは、なかなか大変な仕事にも思える。

 サリーは、まず医師と共に孤児たちの身体検査をし、多くの子どもたちが貧
血を起こしていることを知る。そして、肝油や牛乳や体操で体質を改善しよう
と試みる。また食事についても、炭水化物だけではなく蛋白質や脂質を正しい
比率でとらせようとする。

 さらにサリーは孤児たちが愛されているという感覚を得られるように、様々
な工夫もしている。

 例えば凧揚げの日。サリーは近所の地主を説得して羊の牧草地を開放しても
らう。そしてジュディ宛の手紙で「子供たち今丘の上で凧揚げをして走り回っ
ています。そして、息を切らして帰って来ると、ジンジャー・クッキーとレモ
ンジュースが待っていて子供たちはびっくりする予定」と、書くのだ。ただ遊
んだだけなのに、ご褒美がもらえる驚きと嬉しさ。林間学校から帰って来た晩
に大好きなカレーがテーブルで待っているようなそんな思い出がわき起こりま
せんか? そんな家庭では当たり前の喜びを孤児たちにも味合わせようとする
気持ちには嬉しくなるし、きっとサリー自身も子供の心を失っていないんだな
と感じるのだ。

 けれども、ジャガイモ畑を教育用に区分けした菜園にしようとする試みは、
孤児院付きの農夫の反対に合う。まず、孤児院の食事がジャガイモだけでなく
なるので他の野菜を作るようにという提案に対して怒り出し、いわくジャガイ
モやキャベツが自分にとって充分な食べ物なら、お情けで養われている子供た
ちにも充分なはずだと言い出す。教育用菜園などもってのほかで、サリーの言
葉に憤怒の声を上げるのだ。あげくに、なぜか女性の参政権についても語り出
し、自分は評議会から雇われた身だから院長からの解雇には応じないと言い張
るのだった。

 ここら辺は、今読んでもサリーと共に怒りを感じずにはいられない場面だ。
彼だけではなく、年中現れてお喋りをしたがる評議員の老人は、サリーの導入
しようとする「明るい遊戯室、かわいい服、お風呂、もっといい食事や新鮮な
空気、遊びや楽しみ、アイスクリーム、キス」などは孤児たちには身分不相応
だと言い張るし、女性職員の給与も親が養っている身なのだから払わなくても
いいとか言い出す。サリーを若い女性と見て、いつ行っても自分の相手をすべ
きだし自分の指導に従うべきで、人の上に立つのは出過ぎたことだというこの
老人特有の主張は、毎回サリーを怒らせ闘志を掻き立てる。意見を同じくして
共に働いてくれる医師にしても、その不機嫌丸出しの態度や独善性に対して、
いったいどっちが本当の院長なんだと、サリーが怒りに震える場面も多いのだ。

 女性が参政権を持たないほどの昔(一九一五年出版)、そして、主人公が女性
ならではの手段で切り抜けるというような書き方もしないではないジーン・ウ
エブスターではあるけれど、この最後の作品では一味違う強さをサリーに与え
ている。物語が進むにつれ、自分自身が成長したとサリーが語る場面も多い。
院長として先頭に立って物事を改革していく中で変わって行ったサリーが、恋
人との結婚を前に迷う様子には、今の読者でも共感できる点が多いだろう。

 ただ、これをまっすぐ子供や若い読者の手に渡すには、ためらいがある。そ
の点については、長くなったので次回に明らかにしようと思う。

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『続あしながおじさん』ジーン・ウエブスター著 遠藤寿子訳   岩波書店
『続あしながおじさん』            松本恵子訳   新潮文庫
『続あしながおじさん』            畔柳和代訳   新潮文庫
“Dear Enemy”                      Penguin classics

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第127回 時空の暗がり、言葉の暗がり―杉本真維子『三日間の石』(響文社)

 詩人杉本真維子(1973年生まれ 詩集に第58回H氏賞受賞『袖口の動物』や
第45回高見順賞受賞『裾花』などがある)のエッセイ集『三日間の石』(響文
社)は、図書新聞の連載「裏百年まち)をまとめたものである。テーマは日常
雑記。となると、作家や詩人が自身の暮らしぶりをユーモアを交えながら披露
するといった形が定石だろう。普段は出さない素の顔を曝け出して、一般の人
が共感できる喜怒哀楽を面白く描くわけである。肩の力を抜いて楽しめるのが、
新聞連載エッセイの醍醐味だろう。しかし、本書はそこのところがかなり変わ
っている。日常を描いていることに変わりはないが、あっというまに見慣れぬ
回路を作り出して、平穏な日常に穴をあけていく。扱うのはあくまで身辺の出
来事で大きな事件などは起きないのにまるで怪談を読んだような気分に陥る。
それでは本書に収録された話を幾つか紹介してみよう。

 冒頭の「校門の前の黒マント」は、小学校の門の前で教材セットを売ってい
る男のことを書いた一編。子供たちの興味を惹きそうな特典がついていて放課
後は人だかりができている。学校側は子供たちに買うなと繰り返す。そして著
者は買っていった子を目撃する。「それを見とき、なんともいえない、うっと
りと甘い気持ちがした。その子だけ、黒いマントを着た悪魔にそっと呼ばれ、
何かをすでに決意したような唇で、その懐へ自分からすっと入っていくような」。
男の行為は非合法ではないが、学校という子供にとっての権威からは否定され
た存在だ。禁忌の魅惑と禁忌を破ることの恐ろしさ。学校・家庭・友だちとい
った守備範囲の外にぽっかりと空いた異空間の感触。

 「押し入れのなかの異性」も幼い頃の話。保育園のお昼寝の時間、女の子が
押入れの中に連れていかれ、中には男の子たちがいて、女の子は「ぼうっと赤
い顔をして」這い出てくる、ということが何度もあったという。いわゆる「お
医者さんごっこ」のようなものだったのだろうか。そして「私もそのひとりで、
同じく赤い顔をして出てきたような気がする」というのだ。更に著者はいとこ
と炬燵に潜ってくすくす笑いあったという体験も思い出す。著者は口に出され
ることのない「秘密の共有みたいなものは、けっこういろいろな場面に散らば
っている」と述べた上で、「あの押入れのなかで、私は初めて、異性、という
ものに出会った」と回想する。一種の性的ないたずらだが、これに類する経験
は、誰しも多少なりとも記憶にあるのではないだろうか。語られないが確かに
存在するこうした事柄が、人生に影をつけていく。

 「びぼうし!」は富良野線の美馬牛という駅名を知ったことから発する話。
そのアイヌ語語源の魅力的な名前を知ったことが嬉しくて、著者はその名を何
度も口に出し、「透明な風船が口から飛び出していく」ような気分を楽しむ。
そこから話が急展開し、若い頃上京し、東京の男の人が「きみ」という二人称
代名詞を使うのを聞いて驚いたことが話題にされる。著者の出身は長野で、
「きみ」という言葉を使う人はいず、それに代わる言葉もなかったという。そ
して長野では「誰」という言葉が「いいえ」を意味する返事であることを披露
する。話がランダムに膨らんでいくようであるが、使い慣れない言葉に対しぽ
っかーんと無反応に口を開ける幼い頃の自分を想像した上で、著者は「その口
に、びぼうし、という言葉を突っ込んでみたい」と書いて冒頭に戻るのである。
何とも大胆な収拾のつけ方だが、言葉と身体の反応は切っても切れないものが
あり、それを直接読者に伝えるにはこうした話のつなぎ方をせざるを得ないと
いうことだ。

 表題作「三日間の石」は新盆のことを書いた話。いきなり「子どものころ、
掻巻布団が、怖かった」という本筋からややずれた話から始まる。「それは、
人間の形をしていた」というから、お化けのようなものに見えたのだろう。こ
のトーンが全体の雰囲気を支配する。著者の家は新盆の儀式をかなり丁寧に行
っているようだ。「茄子と胡瓜に割り箸をさして、死者になった父の乗り物を
こしらえる」。そして火をつけようとするが難儀する。「だって帰ってくるん
でしょう! ちくしょう! という子どものような地団駄を踏む」とあるので、
霊のために本気になっているのだ。そして、「動かないこころが、半分、石の
ように硬くなって」きて、「最終日、送り火を迎えるころには、私は窓際に置
かれた石であった」という風に自分を石にたとえ、「石はまだ人間に戻れず、
正座したまま、動けずにいた」というように、自分=石のイメージの置き換え
を強引に推し進める。これは幼少の頃感じた掻巻布団の怖さを、自身の身体で
再現しているとも言える。霊と対峙することの緊張感がひしひしと伝わってく
る。

 最後の「何屋でもなく」は不思議なお店を描いた話。転居先のマンションの
向かいにある駄菓子屋は「クリーニング屋にも、文房具店にも、米屋にも見え
る」そうで、つまりはもう積極的に営業する気がなくなった、時代に取り残さ
れた個人商店のようだ。入ってみると、商品は余りなく、著者はアタリクジつ
きのお菓子を台の上に置く。すると驚くことに「お金はいらないですよ」とい
う返事。ぼうっと立ち尽くしていると、店のおばあさんはカッターでクジの辺
りを剥き、「あら残念、ハズレ!」と楽しそうに言うのだ。著者は、子供たち
がクジの当たりはずれに一喜一憂する瞬間に立ち会うことが「お金にはかえら
れないよろこびかもしれない」と考える。著者はもうその店に足を向けること
なく、おばあさんと子供たちの幸福な時間について「この世には想像するだけ
でいい、ということが、きっとある」と結ぶ。店主は店の収入で生活を立てて
いるわけでなく、趣味のような感じで店を開けているのだろう。経済効率が全
てではない。巻頭の作品の「黒マント」の善人版のような一編だ。

 著者は決して超常的な世界や非常識な世界を描いているわけではない。珍事
のようなことが出てこなくもないが、あり得ないという程ではないし、本書は
特に「変わった体験」をウリにしてはいない。出来事を一つ一つじっくり掘り
起こし、眺め回しているだけだ。しかし、そのシンプルな身振りからとんでも
なく幻想的な世界が焼きあがってくる。私は、著者は物事に対する時、無意識
のうちにその裏側の世界を考えてしまうのだと思う。表に見えるものの裏側、
常識に覆われていない時空の暗がりである。つまり、目の前にあるものを観察
しつつ、同時に目をつむっているような態度なのだ。それによって、事物はこ
とごとく現実に置かれた実体から離れ、一種の暗喩と化す。これらの散文にリ
ズムを付与し、現実を更に抽象化する観念を授ければ、目の覚めるような詩が
できあがることだろう。このエッセイ集はいわゆる詩的な修辞を多用している
わけではないが、にもかかわらず著者の詩人としての資質が滲み出るものに仕
上がっている。無意識のうちに、注意を向けた先の時空の暗がりを探し求めて
しまう著者の心が、言葉の暗がりとして、結晶した作品集だと言えるだろう。

*杉本真維子『三日間の石』(響文社 本体2400円)                                
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 メールにて、インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
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■あとがき
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 少し配信遅くなりました。台風や雷雨、ご用心ください。(aguni原口)

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