[本]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [本]のメルマガ vol.762 | main | [本]のメルマガ vol.764 >>
[本]のメルマガ vol.763

■□------------------------------------------------------------------
□■[本]のメルマガ【vol.763】20年8月25日発行
[凶悪犯たちの英雄化 号]
http://honmaga.net/ 
■□------------------------------------------------------------------
□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4015名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
□■------------------------------------------------------------------

★トピックス
→募集中です
★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→日本より進んでる?イタリアのコロナ対策

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→文学と凶悪犯の投げかけるもの

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→ニューノーマルで、昔の反密集を

★「はてな?現代美術編」 koko
→久しぶりのオークションレポート

★「沖縄切手モノ語り」内藤陽介
→琉球切手始動

----------------------------------------------------------------------
★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp
『英国レシピと暮らしの文化史:家庭医学、科学、日常生活の知恵』

エレイン・レオン著 村山美雪訳
四六判 312ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562057788

料理だけではない! 美味しいエールの醸造法から疫病から身を守る家庭薬の
実証試験、王様に贈る上級メロンの栽培方法まで。17世紀英国の上流家庭で貴
重な財産とされた「レシピ帳」。それは知の収集と緻密な家庭戦略だった。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
募集中です

----------------------------------------------------------------------
■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
----------------------------------------------------------------------
第113回 長期マラソンの道半ば?・・・

今年も早、後半に入っている。なんとも冴えない気分で長期にわたって過ごす
ことになると身にしみていなかったのは甘い。“苦い”だけの年になりそうな
気がしてくる。

現在まで、イタリア人のコロナウイルス(COVID-19)感染者数は約150万人で、
これは公表された数の6倍という「ラ・ナツィオーネ」紙の記事だが、感染率は
2.5パーセント。専門家による説明では「20人に会ったら、50%の確率で1人の
陽性の人がいる」ということになる。これは他の国と並ぶ感染率のようだ。

ローマ以南の州では感染者数も少なくて、感染率も1パーセントに満たない。
ヴェネツィアが州都のヴェネト州では、4人に1人が陽性か陰性かの検査を受け
たと数字が語る。

気になっていたヴァカンスの8月に入ったら、ヴェネト州やエミリアロマーニャ
州やトスカーナ州のリゾート地で若い人が密集するディスコの感染が問題になっ
ている。守るべき人との間隔がとれるはずはなく、混みあっていてマスクなし。
陽性なのに無症状な人も多い世代。感染者の平均年齢が30歳前半とぐっと低く
なった。

ディスコやそれに次ぐホールは屋外でも閉鎖され、または入場者が半減される。
砂浜など公共スペースでのダンスも禁止となり、人の間隔が1メートルでマスク
着用はさらに鉄則になった。

業界は経済的打撃に激怒して、経営者たちは、まるで17世紀のペスト塗リ(ペ
ストの毒を油に混ぜて家の門などに塗ったと非難された)みたいな扱いだと息
まいたよう。自分たちが犠牲にされてしまったのだ、と。

これでコンテ首相は首相令を9月7日まで更新した。マスク着用が一カ月間延長
され、ヴァカンス客の多い地では夜間も着用しなければならない。
街中ではこの暑さのなか、人の集まる「密」の場合以外はマスク・フリーにやっ
となったというのに。

一方、学校閉鎖が7カ月にもなっているとは信じられないが、9月14日から新学
期を無事に始めるというのが強い社会的目標だったよう。
ヴァカンスも楽しめない教師たちは難しい状況に“怯えている”と新聞には書
かれる。

教師たちのジレンマは、生徒の間隔を1メートルとるための新しい一人用の机が
10月に納品されるのか、又はまだ先になるのか確信できないことにある。一人
用の机が遅れるならサージカルマスクが必須となる。6歳の生徒にはマスク着用
で授業なんて無理だろう。
学校再開はしなければならないが、もし教師や用務員や生徒に感染者が出た場
合、責任がどこにあるとするのかが不明だ。ここまで杞憂すれば、怯える。

ほかにも問題はある。生徒の間に必要な間隔をつくれない教室が多いため、リ
ゾートホテルなどを代替利用することも考えられている。観光やリゾート地で
はまだツーリストが少なくて、がら空きのプチホテルも多いようだから。

期待されるワクチンのほうは、開発はイタリアでも進んでいる。ローマ近郊に
所在するバイオテクノロジー企業のワクチンはすでに試験管と動物テストが終
わっていて、ローマのスパランザーニ研究所が18〜55歳までと65〜85歳までの
健康な男女のボランティアを90人選別してワクチン投与を始めるという。

その結果が良ければ、秋にはボランティアの人数を増やした第二段階に入れる
ようだ。
さらに、DNAを介した革新的な技術によるワクチンの医学実験も準備されている
という。こちらは北部のモンザとミラノで80人のボランティアの人を対象にし
ている。

世界的には中国がすでにテストを15件実施しており、ロシアでは早くも10月か
らワクチンを普及させるそうだ。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
melmaで16年間、メルマガ「イタリア猫の小言と夢」を発行。

----------------------------------------------------------------------
■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
----------------------------------------------------------------------
イヴァン・ジャブロンカ 高野倫平訳
『歴史家と少女殺人事件 レティシアの悲劇』名古屋大学出版会 3600円
+税

2011年1月。18歳の少女、レティシア・ペレが惨殺され、死体が湖に遺
棄される事件が起こります。犯人の男が累犯者であったことから、監督義務を
怠った当局の怠慢を、サルコジ大統領は厳しく批判します。司法官たちは、こ
れに反発し、フランス全土でストを打ちます。サルコジ政権の進めてきた行政
機構のリストラが、この不手際の遠因にあったからです。事件はグロテスクな
展開をたどります。児童養護施設で育ったレティシアと双子の姉ジェシカの里
親となった男性が、ジェシカに対する強姦容疑で逮捕されたのです。

「三面記事事件」(「ワイドショーネタ」)は、トルーマン・カポーティの
『冷血』や、ノーマン・メイラーの『死刑執行人の歌』など、多くの文学者た
ちの想像力をかきたててきました。しかし、そのために凶悪犯たちが英雄視さ
れ、彼らの加害行為が栄光化されるという倒錯を引き起こしてきたことは否定
できません。被害者に関心が払われることはありませんでした。無残な死を遂
げた少女の実像を描きだすために、高名な歴史家でもある著者は、この事件の
関係者たちに聴き取りを重ねる、社会学的調査に乗り出していきます。

レティシアたちの姉妹は、刑務所への出入りを繰り返し、家族に暴力をふる
う父親と夫の暴力に晒された結果鬱病になった母親の下で育ちました。犯人の
男も、刑務所への出入りを繰り返していますが、子ども時代には父親による虐
待を受けています。加害者も被害者も、暴力の犠牲者だったのです。レティシ
アは、里親の家庭からまじめに職業高校に通い、外食産業のウエイトレスとし
て働き始めます。彼女の類まれな美貌とまじめな仕事への取組みは、職場の人
たちから高く評価されています。彼女は、いかにも幸福そうでした。

カフェで犯人と知りあったレティシアは、酒を飲み、コカインを吸引してあ
げくに殺されています。ここで疑問が生じます。レティシアはまじめな少女で
す。そして順風満帆の歩みをはじめています。そんな彼女がなぜ、破滅的な行
動をとったのでしょうか。事件の数日前、レティシアは彼女のSNSに自殺を
ほのめかす投稿をしています。姉のジェシカから、里親の性暴力について打ち
明けられたことが原因と思われます。信頼していた里親と姉に裏切られたとい
う思いが、彼女に絶望感をもたらしたことは、容易に推測できます。

レティシアの里親は事件の後大統領官邸に招かれています。里親はサルコジ
と同様、レティシアの死を利用して、自らの名声を高めていったのです。里親
を告発したのは、ジェシカでした。レティシアの死を契機としてジェシカは、
里親との依存を断ち切り、自立する道を選んだのです。レティシアの死が、ジェ
シカの再生をもたらしたのです。フランス西部の下層の若者たちの生活世界を
浮き彫りにした本書は、エドガール・モランの『オルレアンのうわさ』を彷彿
させる第一級の社会学的レポートとなっています。ぜひご一読を。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

----------------------------------------------------------------------
■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
----------------------------------------------------------------------
今回は「ニューノーマル」な話

昨日のニュースで聞いたのだが「東京の人口増加に陰りが見えた」そう。
東京の大学に行くはずだった学生がオンラインになって地方に留まったままだ
ろうからそれもあるだろうと思いつつ…「都の税収に影響が」と言うアナウン
サーのセリフに「まだ増やす気だったのか」とびっくりした。

東京はとっくにキャパオーバーだったんじゃなかったっけ?

ずいぶん前に危機管理の観点から省庁の地方移転の話など持ち上がっていたと
思うのに全然進んで無いようだ。
テレワークの増加で住居を郊外に移す人も増えている様だがそれでも「都内の
会社勤め」に違いはない。相変わらず大手企業の本社は東京だし。

東京は「密集」をコンセプトにビジネスモデルが確定している様に思う。
ちょっと知った目黒の居酒屋さんの家賃を聞いて「そりゃ、7、8割がた席が埋
まらないとやっていけないよな」と。都会であっても客単価はそれ程あげる訳
には行かないだろうし、となると「ニューノーマルな座席」にしていては満席
になっても赤字が出る。

人が密集する事で地代が上がり、そのせいで賃料が上がり、密集がデフォルト
のビジネスモデルが出来上がる。かなり危ういがなんとかそれで回ったいたモ
ノが今回根底から崩れた様に思うのだが。
いや、東京だけじゃないな。デフレが続いたせいか日本そのものが商売を「密
集」を基本にしてしまったのではないだろうか?
大阪なら黒門市場は普通に買い物が出来る程の人出でそれで充分商売になって
いたはず。
馴染みの居酒屋も今より2割ぐらいは席が少なかったのに潰れず今に至る。
でも一度密集させてしまうと元に戻る事は不可能なのかも知れない。

昔話で申し訳ないが前は花火大会も祇園祭も「2メートルのソーシャルディスタ
ンス」とまではいかないが1mぐらいは優に離れていた。どこへ行っても人の頭
しか見えなくなったのは何時ごろからだろう。
そう思うとニューノーマルはオールドノーマルなのかもしれないね。

そーそー、ニューノーマルになって欲しい事が一つ。
これを機に切符の取れない舞台や東京でしかやってない芝居のライブビューイ
ングを映画館でやって欲しい。大きな舞台は大きな映画館で、小劇場公演はミ
ニシアターで。
これの撮影やら配信やらが新しいビジネスになる。
いかがですか?

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
----------------------------------------------------------------------
■はてな?現代美術編 koko
----------------------------------------------------------------------
第109回
『コロナ禍のオークション事情 ――― サザビーズ VS クリスティーズ 』

コロナの影響で当然売り上げが下がったアートマーケットがどうなっているの
か、7月になってぼんやりと様相が掴めるようになってきました。

オークション業界1位のクリスティーズも、業界2位のサザビーズも、なんとか
損失を最小限にとどめた模様。特にサザビーズは、オンラインオークションに
力を入れて、2020年1月から前半期に25億USドルの売上をあげました。
※Artpriceレポート参照

前年度は33億ドルだったので、まぁなんとか踏ん張ってる感じですね。つまり
はアート市場は意外に打たれ強いマーケットということが明らかになってきた
のです。

サザビーズは、昨年アメリカの上場企業からプライベート企業になって、新し
いパトロンPatrick Drahi(パトリック・ドライ)のもと、先を見越したインター
ネットオークションに積極的に参画したことが功を奏しました。

それに7月に入ってから香港でのオークションも上々の売上で、7月の香港での
イブニングセールに至っては売れなかった作品は私が見たところ皮肉にも梅原
龍三郎の油絵だけ。

航空会社や旅行会社の損害と比べると十分満足できる結果です。
それに世の中は日本人コレクター以外は元気がいいのだということですよね。

Patrick Drahiは、フランス-イスラエルの実業家で、日本でいうところのソフ
トバンクグループ孫正義のような感じでしょうか。とにかく借金しまくってい
て、あっちこっちの会社を買収するイメージがあります。しかもフランスの業
界2位の通信会社SFRの持ち主でもあります。

正直、彼はアートコレクターとしては252位にランクされる(le Monde誌 201
9/6/19記事)程度のコレクターで、クリスティーズの筆頭株主François Pinau
lt(フランソワ・ピノー)と比較するとなんだかちょっと違和感ありありの買
収劇でした。

François Pinault氏は1998年からクリスティーズの筆頭株主で、しかも本人が
筋金入りの現代美術コレクターなのです。しかもメセナ活動や自身のコレクショ
ンを展示する世界的評価の高い美術館を持ちます。

おいおいサザビーズ、なんだかな、ってな感じですが、サザビーズ自体はこの
コロナ禍に頑張ったということになります。

もちろんクリスディーズも頑張ってます。
7月には『One』というタイトルで、ニューヨーク・ロンドン・パリ・香港の4か
所でグローバルライブオークションをしました。
落札総額は、$420,941,042 。

この落札状況をみていると、意外と香港が元気だということ。米中摩擦の最中
に、美術品を購入して資産を金の代わりに美術品に変えているのかしら、と思
うほど。

コロナと香港問題のセンシティブな経済的そして政治的状況の中、アートマー
ケットが元気な理由について本当のところを知りたいものです。

世界のトップ富裕層にとってそんな問題とは無関係にお金は世界を巡るのか、
はたまた最近のニューヨークの株式市場と同じように折込済の話だというのか、
いずれにせよ庶民とは無関係な世界が広がっているようです。

□サザビーズ 香港Contemporary Art Evening Sale落札結果(英語)
https://www.sothebys.com/en/auctions/2020/contemporary-art-evening-sal
e-hk0927.html
□クリスティーズ 『One』落札報告レポート(英語)
https://www.christies.com/features/ONE-sale-results-2020-10777-3.aspx

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

----------------------------------------------------------------------
■沖縄切手モノ語り 内藤陽介
----------------------------------------------------------------------
(2)B円の導入と琉球切手の誕生

1948年6月、戦前の状態を基準とする沖縄の経済復興政策を進めていた米軍当
局は、B型軍票円(戦前の日本円と等価交換された米軍政府発行のB型軍票を基
準とする通貨)を琉球列島全域に共通する法定通貨として一本化した。

ここで、米軍による占領当初の沖縄における通貨がB円に統一されるまでの経緯
を簡単にまとめておこう。

1945年6月の沖縄戦終結と前後して、米軍は占領下の沖縄で“B円”を額面と
する軍票の使用を開始する。この時点での米ドルとの交換レートは1ドル=10
B円。ただし、沖縄本島など、戦争による被害が大きく無貨幣経済を行わざるを
得ない地域もあった。

敗戦直後の1945年9月、大蔵省はGHQの要請を受けて、1ドル=15B円のレートで
(日本円と等価で)占領下でのB型軍票円の発行を承認する。しかし、占領軍が
本土でB型軍票円を使用すれば日本経済の混乱が拡大することが懸念されたため、
日本政府は占領経費を日本円で支弁することを条件に、占領軍による軍票支払
の停止を要請。GHQ側もこれを承認したため、日本本土ではB円軍票はごく少数
が流通しただけにとどまった。

ところで、日本本土では、敗戦後の急激なインフレに対処するため、1946年2
月16日、「金融緊急措置令」と「日本銀行券預入令」が発せられる。

その骨子は、
1946年(以下同)2月17日以降、全金融機関の預貯金を封鎖する
∋埣罎卜通している10円以上の銀行券(旧券)を同年3月2日限りで無効と
する(2月22日に旧5円券も追加)
3月7日までに旧券を強制的に預入させ、既存の預金とともに封鎖する一方、
2月25日から新様式の銀行券(新円)を発行し、一定限度内に限って旧券との
引き換えおよび新円による引き出しを認める

というものだった。いわゆる“新円切り替え”である。
なお、この施策は、当初、1946年夏に実施予定だったが、インフレの進行が予
想以上に早く、2月に繰り上げての実施となったため、新日銀券として、A10
0円および10円券が3 月1日、A5円券が同8日、A1円券が同月20日に発行
されたものの、当初は必要な数量を調達することができなかった。そこで、2
月20日、政府は「日本銀行券預入令ノ特例ノ件」を公布し、1000円、200円、1
00円および10円の証紙4種を発行し、これを旧券の表面に貼付することで、暫
定的に“新円券”として流通させることにした。(証紙貼付銀行券。ただし、
1946年10月末で通用停止)

一方、軍政下の沖縄では、無貨幣経済から貨幣経済の再建のための最初の措置
として、1946年4月15日、第一次通貨交換が行われたが、ここにも、本土の新
円切り替えの影響があった。

すなわち、この時の通貨交換で、米軍政下の琉球地区の法定通貨として認めら
れたのは、B円型軍票円紙幣、⊃憩本銀行券(新円)、5円以上の証紙貼
付旧日本銀行券、ぃ輝潴にの旧日本銀行券および同硬貨(小額紙幣と硬貨は
新円切り替えの対象外で、1946年3月3日以降も有効とされていた)で、沖縄
住民が戦前から所有していた旧円は原則としてすべて回収され、B円軍票と1対 
1で交換された。

ところが、1946年7月以降、本土に疎開していた沖縄本島出身者の引揚げが
実施され、引揚者が日本円を沖縄に持込むようになる。当時の日本本土はハイ
パーインフレの時代で、対ドルの実勢交換レートでは日本円は急速に下落した
が、沖縄では日本本土よりもインフレのスピードが緩かったため、建前として
は等価とされていた日本円を密輸し、建前としては日本円と等価とされていた
B円軍票と交換して差益を得るものが横行した。さらに、貨幣経済の復活により
通貨量も急速に増大したこともあって、沖縄本島でもインフレが急速に進行す
ることになる

そこで、軍政当局は、同年8月5日から20日にかけて、沖縄本島と周辺の離
島にかぎって第二次通貨交換を実施し、B円軍票を新日本円に交換させ、沖縄本
島の通貨をいったん新日本円に統一させた。

一方、米軍政下の奄美大島、宮古、八重山ではB円軍票と新日本円が併用される
状態が続いていたため、9月15日、軍政当局は沖縄本島以外の他の南西諸島にも
同様の布令を出したものの、新日本円不足のため全面的な交換はできず、各種
通貨が混在する状況が続いた。

その後、1947年9月になって、ようやく、北緯30度以南の南西諸島の法定通貨と
して新日本円とB円軍票を併用することとなり、当初の二本建通貨制度が復活す
る。
こうした経緯を経て、1948年になると、東アジアでも東西冷戦が本格化してき
たことから、米国は、沖縄を太平洋戦略の要石として長期的に確保すべく、さ
まざまな布石を打ち始めたが、その一環として、琉球全域における通貨の統一
が図られるようになった。かくして、1948年6月、法定通貨を新たに発行するB
円(新B円)に一本化することが決定され、同年7月16日から21日にかけて行わ
れた第三次通貨交換で、日本円とB円軍票の流通が禁じられ、すべて、新B円に
交換された。

これに合わせて、7月1日、全琉球統一の“琉球切手”(額面は新B円に対応)
が発行され、それまで、各地区で発行されていた暫定切手類は使用禁止となっ
た。

じつは、琉球切手の発行に先立ち、1947年の時点で沖縄地区では独自の切手発
行が試みられ、地元軍政府の依頼を受けた逓信部の比嘉秀太郎が、琉球王国の
紋章や首里城、守礼門を描く切手図案の原案を作成していたが、これは、「民
主的ではない」との理由で、東京の総司令部によって却下されている。

その後、比嘉は新たに四種の図案を制作し、1947年7月31日、これを東京に空
輸。今度は総司令部に承認されたことで、1948年6月7日、日本の大蔵省印刷
局で製造された琉球切手が納品され、7月1日の切手発行となった。

この時発行された切手は、国名の表示が“琉球郵便”となっており、ソテツを
描く5銭および20銭切手
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/202008251350597ca.jpg

テッポウユリを描く10銭および40銭切手
 https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/202008251351033a6.jpg

御冠船を描く30銭および50銭切手(当局の発表では“唐船” 
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20200825135100320.jpg 
を描く30銭および50銭切手、

そして農夫を描く1円切手
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/2020082513510264e.jpg

の7種で、日本本土とのつながりを連想させるような要素は避けられている。
国名表示として“沖縄”ではなく“琉球”が採用されたのは、“沖縄”の語が
狭義には沖縄本島のみを指す言葉であったことにくわえ、琉球王国を大日本帝
国に編入する際に琉球から改称することでこの地域が日本領であることを示す
ために用いられていたこと、さらに、琉球という名称が戦勝国の一角を占めて
いた中国による命名であったことなどが総合的に考慮された結果と考えられる。

また、切手の図案として、御冠船が取り上げられている点にも注目したい。
江戸時代初期の1609年、薩摩藩は幕府の承認を得て琉球王国を征服し、琉球
国王を薩摩藩主の臣下としたが、その一方で、従来通り、琉球国王が明(後に
清)の皇帝に朝貢をつづけることも認めていた。このため、1872年の“琉球処
分”によって琉球藩が設置されるまで、琉球はいわゆる日中両属の時代が続い
た。

切手に描かれた御冠船は、こうした日中両属の時代、中国皇帝から琉球へと
派遣された冊封使が乗ってくる船のことで、王冠や王服などの下賜品を積んで
くることから“お冠の船”とも呼ばれて歓待された。船団は2隻からなり、一
度に約500人を乗せ、夏に南風にのって来琉し、秋から冬にかけて北からの季節
風を利用して帰国するのが通例であった。

こうした題材を、あえて“唐船”の名で切手に取り上げた背景には、かつて
の琉球王国が中国の冊封体制下に(も)あったこと、すなわち、歴史的には日
本が独占的に支配していたわけではないことを示す意図があったことは明らか
であろう。


内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。
最新作『みんな大好き陰謀論』ビジネス社
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

----------------------------------------------------------------------

■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4015名の読者の皆さんに配信してお
り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

----------------------------------------------------------------------
■編集後記
今月は、いつも原稿をせかさなければならない竜巻先生が、催促なしに原稿を
送ってきてくださった。酷暑の毎日、夏に雪を降らせる力はないまでも、雹は
降らせることができると踏んで締め切り前に原稿を出されたようだ。

が、バラパラと地面が濡れない程度の雨が降ったのみであった。それでも降ら
せただけ竜巻先生はエライ!w

====================================================
■ 電子メールマガジン「[本]のメルマガ 」(毎月5・15・25日発行)
■ 発行:[本]のメルマガ発行委員会
■ 掲載されたコンテンツを小会の許可無く転載することはご遠慮ください。
■ copyrightはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・ご質問は25日号編集同人「朝日山」まで
メールアドレス asahi_yama@nifty.com
(あっとまーくは、全角ですので半角にしてください)
■ バックナンバーurl http://back.honmaga.net/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を通じて発行しています。
■ メールマガジンidナンバー:13315
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行えます。
====================================================

◎このメルマガに返信すると発行者さんにメッセージを届けられます
※発行者さんに届く内容は、メッセージ、メールアドレスです

◎[本]のメルマガ
 の配信停止はこちら
⇒ https://www.mag2.com/m/0000013315.html?l=kbi00b11f0

| バックナンバー | 20:50 | comments(0) | -
コメント
コメントする









SEARCH
[本]のメルマガ
哲学・思想・社会などの人文書や、小説や詩など芸術の最前線、書籍の出版流通、電子出版などの「本」の現在を気鋭の出版社員、書店員が伝える、まさに[本]のメルマガです。
発行周期発行周期:月3回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000013315

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

コーチ募集(コーチングバンク) 無料 コーチング カーディーラー経営品質向上 CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC フリーラーニング
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930   
<< September 2020 >>
ARCHIVES
LINKS