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[本]のメルマガ vol.754


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□■[本]のメルマガ【vol.754】20年5月25日発行
[生前に二階級特進 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4064名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です
★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→コロナと読書

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→東京をスローに

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→もちっとなんとかならんかテレワーク、オンライン授業

★「はてな?現代美術編」 koko
→チェルノブイリとアイン・ランド

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→最終回、ガガーリン宇宙へ

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『黒き侍、ヤスケ:信長に忠義を尽くした元南蛮奴隷の数奇な半生』
浅倉徹著
四六判 320ページ 本体1,900円+税 ISBN 9784562057702

ハリウッドで映画化! イエズス会宣教師の奴隷として日本を訪れ、織田信長
に見出されて戦功を上げ、侍「弥助」になる。極めて資料の少ない「ブラック・
サムライ」のありえた半生を、専門家がわかりやすい物語形式で紹介。
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■トピックス
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募集中です
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第111回 ネガティヴな状況の中で

韓国がコロナ第二波に見舞われ始めたとか、中国の武漢でまた感染者が出たと
ネットで見た。日本の情報ではイタリアが観光旅行を呼びかけていると読んだ
が大丈夫なのだろうかと思ってしまう。

今までは人の声が外から入ってくることがあまりなかったのだが、ここのとこ
ろ朝から家族で話しながら歩いている人たちが増えているとヴェランダに出る
としみじみ思う。

美術館が再開されたらウフィツィに行こうと思っていたが、予約が必須という
ので肩すかしを感じ、館内では鑑賞のための進み方まで指示されるようで、な
にかと煩わしくおもわれ、確認してから行こうかという気になってしまった。

閉鎖が解けた大型店の園芸売り場に行くと、入口であいかわらず間隔をあけて
列に並び、出る人の数だけ入るシステムにしたがう。広大な売り場には咲き乱
れる花が香り、夏野菜の苗はトマトもズッキーニもすでに売れ残り状態で置か
れていた。

購入した満開のツツジとラベンダーの鉢を替えるのに土が必要になり、土を買
うなら近くの雑貨店の入口に袋が積んであったと思い出して出かけたが、10分
も歩かないうちにフクラハギに緊張感が走って運動不足も極まっている。

その小さな店舗にあふれんばかりにキッチン雑貨が置いてあるのが見えるが、
入口に設置された番号チケット器からチケットを取り、ほかの人との間隔をとっ
て外で待つ。通りの向かいの食品店でも同じように待つ人がいるが、このシス
テムも商店の営業再開から始まったのだ。

近くの広場では毎朝開かれる市場のために工事が始まっていたが、まだ土を掘
り返している状態でいつまでかかるのかわからない。目にとまるのは“ウーマ
レル”とイタリア語(ボローニャ方言)で呼ばれる暇人のおじさんたち。両手
を後ろに組んで、どこへ行くのか、何を見に行くのか、ゆっくり歩いているの
をみるとやっと日常に戻りつつあるのかなと思う。

ひたすら本を読むのに明け暮れているが、『知的再武装60のヒント』(池上彰・
佐藤優著)電子版のあと、手元にあった『西郷隆盛の道』(アラン・ブース著)
と『海辺のカフカ』(村上春樹著)を、そしてたまたまクリックのミスで買う
ことになった『女たちのシベリア抑留』(小柳ちひろ著)を読んだ。

『女たちのシベリア抑留』はいわば、読んでおかなければという気持ちにとら
われる。日本支配だった満州への敗戦直後のソ連軍侵攻で、満州や樺太からシ
ベリアに抑留された若い看護婦たちの(また日本兵士たちの)過酷な数年間が
痛ましくも、目を背けられない。

つまり、こういう運命に巻き込まれることがありうるということを知っていな
くてはと思うのだろう。そうした展開を察知したり予知する必要があるのでは
ないかと思っているのではないか。そうでもなければ、こういう読書は辛すぎ
る。

語られる事実が凄すぎて、意外な展開で最後に語られるのが、家族の貧困から
満州へ行かされ、ファシスト活動の刑でシベリアまで抑留され、遂に日本へは
引き揚げずにロシア国籍をえて人々からは愛されて亡くなったという女性。彼
女のような生き方や貧困のために負わされた役目が少なくなかったというのも、
戦争の殺戮に劣らず恐怖をもたされる。

読んだ翌日にミラノに住む友人へのトークにこうした体験の痛ましさを書いた
ら、彼女も『夜と霧』を霜山訳と池田訳で両方ともやっと読みましたと返しが
来た。私は中学一年のころに読んだから、むしろおどろいた。
ネガティヴな状況の中では同じようにネガティヴな傾向のものを求めるという
言葉が多様なコロナ禍の記事の中にあったが、私たちも陥ったのかもしれない。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
melmaで16年間、メルマガ「イタリア猫の小言と夢」を発行。

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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吉見俊哉 『五輪と戦後 上演としての東京オリンピック』河出書房新社 2
600円

新型コロナウイルスの感染はとどまるところを知りません。2020年東京
オリンピックも、すでに1年の延期が決まっています。世界的パンデミックが、
たった1年で終息するとは思えません。なぜ日本の指導層は、オリンピックの
開催にここまでこだわるのか。それは彼ら年配の日本人の中に、1964年東
京オリンピックを豊かさと繁栄の象徴として捉え、その再現を望む心理が根強
く残っているからでしょう。『博覧会の政治学』で知られる著者は、1964
年東京オリンピックに様々な角度から光を当てその実像に迫ります。

1964東京オリンピックのスローガンは、「平和の祭典」。しかし、選手
村の置かれた代々木オリンピック公園は、戦前の代々木練兵所跡。「軍都」東
京の遺産です。このオリンピックでは、自衛隊が大活躍しました。海外の聖火
リレーを担ったのは自衛隊です。自衛隊体育学校は、メダルの量産に大いに貢
献しました。江ノ島でのヨット競技の警護のために、「日本海海戦を凌ぐ」数
の自衛隊の艦船が動員されています。「平和の祭典」のおかげで、それまで日
陰者扱いされていた自衛隊が、市民権を獲得した逆説を著者は指摘します。

女子バレーボールで金メダルを獲得した「東洋の魔女」と、戦後のマラソン
選手として初のメダルを獲得した円谷幸吉は、この大会を代表するスター選手
です。「東洋の魔女」たちは、中学や高校を出て紡績工場で働く女子工員たち
でした。非業の死を遂げた円谷は自衛官。紡績工場も自衛隊も、高度経済成長
期に農村の若い余剰人口を吸収する機能を果たしていました。魔女たちと円谷
は、普通の若者たちの右代表でした。他方、大松監督の過剰な精神主義と円谷
に対する上官の過酷な仕打ちは、「戦中」との連続性を感じさせます。

日本に遅れて経済発展を遂げた韓国と中国は、1964年東京オリンピック
を、それぞれソウルと北京で「再演」しています。「東アジアオリンピック」
に共通するのは、先進国に成長した姿を世界に誇示したことと、それを機に行
われた大規模な首都の改造です。アマチュアの祭典であった東京大会は、テレ
ビというナショナルなメディアを「舞台」として「上演」されました。商業主
義化したソウル大会では、グローバル化した衛星テレビが「舞台」となります。
北京大会の「舞台」には、さらにインターネットが加わりました。

3度の東京オリンピックは、いずれも「復興」を旗印に掲げています。幻と
なった1940年は関東大震災、1964年は戦災、そして2020年は東日
本大震災からの「復興」です。しかしそれならばなぜ東北での開催ではないの
か。どんなに懐かしんでも東京五輪当時の日本の勢いは戻ってこない。日本は、
かつての「より高く、より速く、より強く」ではなく、「より愉しく、よりし
なやかに、より末永く」を目指すべきだ。そして著者は、2020年東京オリ
ンピックを機に、東京をスローな都市へと改造すべきだと主張します。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「技術革新」の話

と言ってもそれほど大した話では無いのだが…なんだかんだで「オンライン授
業」とか「テレワーク」とか「リモート会議」とか…自分の生きてるうちはさ
ほど必要は無いだろうと思っていたモノが俄然必要になって来て、ただでさえ
超アナログ人間の私は右往左往させられている。

で、やってみて思ったのが「あれ?意外と技術は進んでないかも」だ。

21世紀なんだしVRだなんだとよく知らないけどスゴいみたいだし、もうちょっ
としたら流星号も飛ぶかもしれないし(古くてすみません)なのでもっと技術
は進んでると思っていたのだが…。

やってみると音は切れる割れる雑音は入る、映像は乱れる途切れる居なくなる…。
向こうが見ているもの聞いているものがこちらには反映されてなかったり逆も
あったりと。

おかしい、思ってたのと違う。
サンダーバードのTV電話は(古くてすみません)もっとスムーズだった。

もちろん使う方の問題も有るとは思うけどイメージとしては「ど素人が触って
もストレスなく、まるで直接会っているように使える」だった。携帯電話の進
化の速度を考えるとそれぐらいは可能なんじゃないのかと。
なんだったら「ホログラムの様に立体に見えるぐらいまで」進んでいるのかと
まで期待していたのだが。

多分高価な機材を取り揃えれば少しはマシかもしれないがテレビなどでそれな
りの機材を使って自宅から出演しているタレントや識者を見てもストレスがな
いと言えばウソになる。局内の別室の場合はよりスムーズだから機材や回線も
それぐらいまでグレードを上げないとサンダーバードにはならない様だ。

流石に一個人としてそこまでの投資は出来かねる。まだ需要がそれほどないの
でこれぐらいだけどこれがビジネスとして成り立つなら加速度的に進んでいく
のかな?

だが残念ながらこの手の開発競争に日本は参加出来ていない。
「日本すごい」と呪文を唱えている間に国際競争からはすっかり脱落してしまっ
た。

天馬博士やお茶の水博士は(古くてすみません)は今の日本にはいない様だ。

最後に一番絶望的なのは自分が打つ「キーボードの速度」だったりする。亀で
ももっと速い。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第107回 『自粛生活の過ごし方 その2 ――― HBOを通して世界を見る』

関西では緊急事態宣言解除に伴い、映画館が22日から営業再開となり、美術館
も6月2日から開館する予定のところが増えています。

フランスは5月11日に第一段階の解除が始まりましたが、レストランや映画館は
まだ営業できません。大企業ではテレワークは9月一杯の予定のようです。

家賃のモラトリアムや毎月800ユーロを3か月支給されるとも聞きていますので、
フランス人にとっては経済的不安は少ないのは羨ましい。

今週パリ近隣の国立公園内は車が溢れて、見たことがないほどの路駐車が並ん
でいます。石の町に閉じ込められていたんですから、当然といえば当然です。

私個人は、今月は4月より自宅にいる時間が増えて、家での過ごし方が重要になっ
てきました。

スターチャンネルEXに加入して、去年エミー賞を受賞したHBO(HOME BOX OFFI
CE)制作のドラマ『CHERNOBYL(チェルノブイリ)』鑑賞でした。少なくともこ
の10年の中で最も恐怖を覚え、かつ重要と認識したドラマです。

ここでは触れませんが、自粛前に見た『Fukushima 50』と比較すると、映像作
品としての質は大人と子供の差があります。ただ原子力災害という視点からは、
福島で起こったことを理解する上で『Fukushima 50』も大切な映画だといえま
す。

『チェルノブイリ』は、原子力災害がいかに悲惨かを知るだけではなく、目下
コロナ禍の中国で起こっている隠蔽をはじめとする共産党の内部の動きを想像
するのに役に立ちます。

さらに言えば、ソ連はこの後、隠蔽のために多大な命が無駄に死に追いやられ
たために、ゴルバチョフがペレストロイカを行い情報開示を進めた結果、4、5
年後にはソ連は崩壊するのです。

もしかすると、5年後には中国共産党体制に大きな変化が起きても不思議ではな
いのだと思いました。

約5時間強のドラマで知ることは膨大で、心の底から原子力災害の恐ろしさや、
人間の行為の結果が一歩間違えば多くの命を一瞬で奪う事実を知る良い機会と
なりました。

□『CHERNOBYL(チェルノブイリ)』 公式予告(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=eHe4o3RKHy4

もう一つ、HBOのドラマ『WATCHMEM(ウォッチメン)』にも触れなければなりま
せん。

9エピソードからなるグラフィックノベル『WATCHMEM』のドラマ化です。ただの
リブートではなく、完全に作り替えをしたリミックスドラマで、100年ほど前の
虐殺事件から原作の舞台になる1986年を経て、2019年の今の世界を描いていま
す。

歴史改変ものなので、設定は超人Dr.Manhattan(ドクターマンハッタン)のお
かげでベトナム戦争に勝利し、ベトナムがアメリカの州になっているアメリカ
の田舎町が舞台です。

ニクソン大統領はウォーターゲート事件も回避し、その後レーガンではなくレッ
ドフォード大統領が選ばれたアメリカです。なかなか笑える設定です。

主人公は女性、しかも黒人で、人種差別をテーマにしています。最近のハリウッ
ドの政治潮流をもうまく捉えています。原作本と、2009年の映画『WATCHMEM』
については、Wikiで確認してください。

それまで子供向けだったアメコミを大人も楽しめる内容にしたDCコミック『ウォッ
チメン』は、アメリカ人ではなくイギリス人アラン・ムーアによって作られま
した。

ムーアの『ウォッチメン』に込められた主題は、『誰が見張りを見張るのか?』。
つまり政府は信用できない、自分のことは自分で守れ、というような世界で活
躍する覆面自警団のようなヒーローたちの物語です。

ムーアの『ウォッチメン』に見て取れる思想は、アイン・ランド(Ayn Rand
1905年-1982年 ロシア系アメリカ人の小説家、思想家、劇作家、映画脚本家)
の思想と考えられます。

彼女の提唱した説は、オブジェクティビズム(客観主義)と言われるものだそ
う。
彼女の小説は、アカデミズムでは無視されますがアメリカ社会で広く読み継が
れ、トランプ大統領政権下の多くの政治家、GAFAをはじめとする起業家などに
信奉者が多いらしいです。

この思想は、自ら汗水流し働き儲けた金を手段として、社会に影響を及ぼすこ
とを後押しする思想のようで、アメリカンドリームを奨励するような考え方に
つながっています。

草の根保守やリバタリアンがトランプを支持するのも、トランプが自ら事業を
起こし自身の財で事を成そうとするキャラクターとうまく一致していると考え
ることは可能です。

さらにこの『ウォッチメン』のメインキャラクターDr.Manhattanは、あらゆる
原子を操作できる能力を持ち、自分の体験した過去・現在・未来の事象を同時
に認識している存在として描かれています。

時間の概念をもたない彼は、量子力学ブームにもはまるキャラクターです。何
も知らず見ればわけがわからず、予習をして内容を掘れば掘るほどはまってし
まう超難解ドラマがこの『ウォッチメン』でしょう。

エンターテイメントというよりは、すでにアートの領域に達している感があり、
ワクワクする反面、正直疲れました。2020年はテレビドラマも気軽に見れなく
なってきたのかと思うとこれから先が思いやられます。

コンテンポラリーアートと同じように鑑賞者に多大な知識を事前に要求する作
品が増えると、私ごときがついていくことができない世界がすぐそこに迫って
いると感じます。

こりゃ、困った。
なんていっても、アイン・ランドの代表作『水源』は、1000ページを超えるボ
リュームなんですよ!
この宣言解除の今、こんなの読む時間ないよなぁ、と溜息をつくのでした。

(参考サイト)
□トランプを支えるアイン・ランド信者の正体 (東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/150766
□HBOのドラマ『WATCHMEM(ウォッチメン)』 町山智浩氏解説(Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=On8HmzEMamk

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。

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■スプートニクとガガリーンの闇 30 内藤陽介
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ヴォストーク1号打上成功の記念切手

ソ連空軍のパイロットだったユーリ・ガガーリンは、1961年4月12日午前9
時7分、ヴォストーク3KA−2(ヴォストーク1号)でバイコヌール宇宙基地
を飛び立ち、地球を1周した後、10時25分に逆噴射をかけて大気圏に再突入。
高度7000mからパラシュートで降下し、無事帰還を果たした。

なお、当初、ガガーリンは宇宙船と共に着陸したとされていたが、当時の国際
航空連盟 (FAI) のルールとして、公式な宇宙飛行となる条件にパイロットは必
ず宇宙船と共に着陸することとされていたためである。

人類初の有人宇宙飛行の成功と同時に、ソ連当局は東西冷戦における自国の
優位を示すものとしてこれを大々的に宣伝したが、準備段階では、計画は極秘
裏に進められていた。ちなみに、ガガーリンは飛行中(帰還後ではなく)に中
尉から少佐に二階級特進したことを告げられているが、そこには、彼が無事に
帰還できない可能性が少なからずあると判断したソ連当局の“温情”があった
とも言われている。したがって、不幸にして彼が無事に帰還できなかったとき
には、事前に用意されていた打ち上げ成功の記念切手もすべて破棄されていた
可能性が高い。

打ち上げ成功の記念切手は3種発行されたが、このうちの3コペイカ切手ht
tps://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/2020052502493353d.jpg

に取り上げられたガガーリンの肖像が(一般には公開されていなかった)宇宙
服姿ではなく、スーツ姿になっているのも、そうした事情によるものだろう。
ちなみに、残りの切手は、クレムリンとパラボラアンテナに過去のスプート
ニク衛星と宇宙ロケットを描く6コペイカ切手
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20200525030053bcb.jpg
(フルシチョフのメッセージが印刷されたタブつき)

クレムリンのシルエットとロケットと宇宙飛行士のイメージ(
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/202005250259492c6.jpg

を描いた10コペイカ切手で、いずれも、実際のヴォストーク1号や宇宙服姿の
ガガーリンに取材しなくてもデザインを作成できるイメージ画である。

結局、ガガーリンが無事に帰国したことを確認して、ソ連は人類初の有人宇
宙飛行の成功を記念する切手を発行するのだが、その実際の発行日をどう考え
るかということは、ちょっと厄介な問題である。

すなわち、ソ連当局の公式な記録では、記念切手は飛行当日の4月12日に発
行され、即日、各地の郵便局で売りさばかれたということになっているが、前
日の4月11日まではソ連の一般国民はガガーリンのことを全く知らされていな
い。当然、各地の郵便局にも記念切手は配給されていなかったと考えるのが自
然だろう。したがって、飛行成功が確認されてすぐに切手の配給を始めたとし
ても、モスクワなどの主要都市でさえ、最短で4月12日の午後にならないと郵
便局の窓口で売り出すことはほぼ不可能だったはずだ。

ちなみに、世界の切手カタログでは、この3種の記念切手は4月15日発行の
切手と22日発行の切手の間で、日付不詳の4月発行としてリストされている。
また、3種の切手に押されている“発行初日”の記念印は、公式見解通り、大
半が飛行当日に当たる4月12日付となっている
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/202005250318072fe.jpg

が、それらは、しばしば、ソ連が外国の切手収集家向けに輸出用の記念品を作
る際におこなっていたように、後になって消印の日付を遡って押印したものと
考えられる。

ちなみに、ガガーリンが1968年に飛行訓練中の事故で亡くなった時の詳細が
公表されたのは2011年のことだった。人類初の宇宙飛行士として、ソ連の優位
を象徴する英雄の地位に祭り上げられたガガーリンに関しては、歴史的事実と
プロパガンダの物語を弁別することが容易ではない面も多々あるますが、それ
は、彼にまつわる切手についても例外ではないのである。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965)』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
このメルマガが読者の目に触れる頃には、首都圏で緊急事態宣言の解除が宣言
されていることだろう。だからといって、以前の日常がすぐに戻ってくるとも
思えないし、今回の災禍によって別の日常が始まる可能性もある。

未来は不透明ですが、なんとか生きていきましょう。

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