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[本]のメルマガ Vol.748

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□■[本]のメルマガ【vol.748】20年3月25日発行
[ 今月もコロナです 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4075名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→スーパー銭湯のライブラリー

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→最新フィレンツェの状況報告

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→犯罪者との心理戦で見えたもの

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→コロナの前では竜巻先生もまじめモード

★「はてな?現代美術編」 koko
→美しい手書きは、アートです

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→宇宙に行ったイヌの後日談
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『嘘と拡散の世紀:「われわれ」と「彼ら」の情報戦争』
ピーター・ポメランツェフ著 築地誠子・竹田円訳
四六判 296ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562057511

世界は嘘が個人の内面に一瞬で侵入する時代に突入した。偽情報はいかに生み
出され、深刻な対立をまねくか……キエフ出身の英国人ジャーナリストが米中
ほか世界各地、特に祖国ウクライナとロシアについて詳述した必読の書!
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■トピックス
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寿の湯レポート
兵庫県三田市に新しいスーパー銭湯ができて、ライブラリーが売り物になって
いると聞いて行ってきた。名前は寿ノ湯。運営会社の社長の実家がかつてやっ
ていた銭湯の名前らしい。メルマガの性格上、スーパー銭湯の話は省略して、
ライブラリーにフォーカスすることにする。雰囲気はこのあたりのサイトの写
真を見ていだければおよそ雰囲気はつかめると思います。
https://www.supersento.com/kinki/hyogo/kotobukinoyu.html
https://www.lmaga.jp/news/2020/02/94122/

図書館は施設二階の最も奥にある。ここに入るには岩盤浴とセットにした追加
料金が必要だ。

入り口手前左側にはマンガたくさん並んでいて、右は人工芝が敷き詰められた
屋外休憩スペースだった。入り口を入ったところに、図書館にありそうな本や
読書用の机やイス、ソファが置かれている。

ここにあるのは、どちらかと言うと女性向けの雑誌や児童書、ちょっと古めの
単行本が目立つ。私にはあまり興味が持てないラインナップだ。さらに奥に行
くと、読書用のおしゃれなカプセル風個室が並んでいる。部屋の色がいろいろ
あって楽しい。

そして一番奥に行くとスロープがあり、スロープから先が「ライブラリー」と
いうことになる。この辺まで来ると、並んでいる本は「おしゃれ」がキーワー
ドになりそうなアートやスローライフ関係の本が多くなる。横尾忠則とか、安
藤忠雄とか。そして翻訳物も多い。文庫の小説も少しあった。

六本木にある入場料が必要な書店「文喫」が選書しているそうだが、休憩中に
暇つぶしに読める(眺める)ようなのを選んでいる感じである。もっとも「ほ
ぼ命がけサメ図鑑」のような尖った本も・・・。一番目立たないところに、あ
る宗教指導者の全集が揃えてあったの。経営者の宗派がこの宗教なのだろうか?。

そしてよく見ると、本棚の所々に、数は少ないが読書用の隠れスペースがある。
頭だけ隠す形で図書館風に読む姿勢を保つスペースもあれば、ぐで〜としてペー
ジをめくるスペースもある。その気になれば、ノートを持ち込んで隠れスペー
スで勉強や仕事も出来るだろう。その意味ではいろんな読書スタイルが取れる
ように工夫して作られていると言えそうだ。

個人的には、昼前くらいに入って、温泉に浸かった後、ランチにビールを付け
てほろ酔い加減になったところで図書館に行くのがいいと思う。そして本を眺
めながら瞼が重くなったらそのまま寝て、起きたら風呂に入ってまた読書とい
う感じで一日過ごしてみたい。そんなことを思った。

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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第109回 「死ぬ人はみな死んだ」のタイトルへの疑問

ほんの一ヵ月前、2月21日に北部ベネト州で新型コロナウイルス感染による死者
が初めて確認されてから、今日までに膨張したイタリア内の感染者・死者の数
といい、ついに感染が世界的に拡大する事態にまで急発展したことを考えては
驚いている。

4月3日まで、必要不可欠な理由以外では外に出ない。外出をしてはいけない。
せいぜい早すぎる春の兆候をみせる太陽の輝きをあびようとテラスやバルコニー
に出る。と、物音がいっさい消えていて、不思議な静けさの中で風だけが動い
ているのを感じる。

目に入るたくさんの住宅に人がいるはずなのに、声も聞こえず、姿も見えない。
音もたてずに動くのはモミの木やポプラの木の間を飛ぶカササギやハトやカラ
ス...。

たぶん、多くの人はリビングやキッチンや書斎で、ほかの家族もしているよ
うにスマホを見て、友だちにトークを送り、写真を送って、返信が来た音がす
ればすぐに見てホッとしているのだろう。家族といっしょにテレビでえんえん
と続くコロナニュースを見ているのかもしれない。

必要な外出は食料を買いに行くことだけで、開店時に大型店に行くと一列に、
目安の一メートルの間隔をとってほぼ一人ずつが入場待ちで並んでいる。マス
ク姿が増えた。
今月の二度の経験では店になくて買えないものは何もなかった。入口に張り紙
があるように、生産状況は安定しているので余分な量は買う必要がないという
ことを表しているのだろう。

時間は今までと同じように、早まるでもなく遅れるでもなく過ぎている。退
屈するということもない。本を読むしかないとしても、一年かかっても読み切
れないだけの量はあると夫もいって笑ったくらいだ。

今朝は旧友が日本から電話してきて、よほど心配してくれたのだろうと思っ
た。彼女は年上だが旧式のケイタイを使い、メールも拒否しているほどのテク
ノ嫌いで、帰日するたびに会ってはいるのだが手紙を書き送れなかった。
ここのところ甥や姪たちも日本に伝えられるイタリアの現況にショックを受け
たのか、安否を確かめるようにスマホに連絡をしてきた。

日本のメディアの記事は毎日よく読んでいる。タイトルにあげた記事も読み、
フィレンツェ在住の女性が北部の深刻な医療状況の中でボランティア活動をし
ているのに感嘆した。自らへの感染の危機感はあっても“やるしかない”とい
う気持ちなのではないかと思う。

ただ、記事のこのタイトルは、まだ英国が感染の嵐に見舞われる前に表現して
いた、感染した高齢者の命を救おうとするより、“自然淘汰”とみるという考
え方にあまりに近いような気がする。
確かに医療体制が完全に崩壊するリスクは論外だが、高齢でも若くても、死ぬ
人をあくまで防ぐという体制は守らなければならない。

一か月後の世界はどうなるかわからないし、新型ウイルスについて研究が進ん
だとしたら、どう方向の見直しがされるのか予測はできない。

「30万人以上の死者か、大量の失業者か」という、現在、行われている対策に
ついてのmag2ニュースも気になるし、また「イタリアは今月中にも金融機関の
破綻が出てきてもおかしくない状態だ」という週刊エコノミストOnlineに載っ
たリサーチ記事も読んで暗澹となるばかり。

厳しいが、力づけられたのは、これは短距離走ではなく長いマラソンで一人
一人が状況に応じたペースで走り続ける必要があるという山中伸弥教授の言葉
だ。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
melmaで16年間に発行しましたメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melma の
事情によりサービス終了しました。


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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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柚木麻子 『BUTTER』新潮文庫 900円+税

10年ほど前、関東と鳥取で、さして美人とはいえない女性の周囲で、社会
的な地位も財産もある中高年男性が相次いで不審死を遂げる事件が起こりまし
た。女性たちの痩身願望が病的に高まっている時代に、男たちを魅了してやま
なかった二人の女性が、それとは真逆の体型であることにも世間は驚いたので
す。関東の事件に題材を得た本作は、刊行当時大きな反響を呼び、このたび文
庫化されました。連続不審死事件の容疑者、梶井真奈子(カジマナ)と、週刊
誌記者町田里佳との心理戦を軸に、ストーリーが展開していきます。

カジマナの独占インタビューを掲載するために、里佳は繁く拘置所に足を運
びます。カジマナが、マーガリンとフェミニズムを嫌悪することに里佳は驚き
ます。カジマナの歓心を買うために、里佳は彼女の指示する食べ物を食べ続け
ます。バター醤油掛けごはんに始まり、深夜のバターラーメン。そしてクラシ
カルなバターケーキ。当然里佳は太ります。そうは言ってもまだ標準体重以下
なのですが、周囲は大騒ぎをします。「(痩せるよう)努力しなよ」という恋
人の心ないことばをきっかけに、二人の関係は冷え込んでいきました。

周囲の目を気にすることなく、欲望の赴くままに生きたカジマナに、里佳は
強い憧れを抱くようになります。里佳は、ほとんどカジマナのマインドコント
ロールを受けているに等しい状態に陥ってしまったのです。しかし、カジマナ
が少女時代を送った町を訪れるなど、旺盛な取材を重ねる過程で、里佳は徐々
にカジマナの呪縛から脱していきます。カジマナの大言壮語の陰に潜む、寂し
い素顔にも気づくようになります。こうして二人の力関係に、微妙な変化が生
じていきます。しかし、カジマナとの戦いは一筋縄ではいきません。

本作の主題の一つは、里佳とカジマナ、そして里佳の学生時代からの親友で
ある怜子との「三角関係」です。母親との離婚の後の自堕落な生活の果てに死
んだ父親をもつ里佳。性的にふしだらな両親をもつ怜子。そして父親が謎の死
を遂げたカジマナ。3人は壊れた家庭の娘という意味で似た者同士であり、相
互にそのことを意識していたのです。里佳と怜子の間には、友情の域を超えた
ほとんど同性愛的とも呼ぶべき感情が流れていました。カジマナから里佳を奪
還するために怜子は、無謀な行動に走り深く傷ついてしまいます。

カジマナと里佳との心理戦の結末は?それは読んでのお楽しみ。しかし本作の
結末は希望に満ちたもので、読後感も爽やかです。家事能力のない、孤独な男
たちがカジマナの餌食になった。他方、一度は奈落の底に墜ちた里佳を救った
のは、怜子をはじめとする友人たちの存在であり、カジマナの取材の過程で覚
えた料理の楽しみだったのです。人間を苦境から救うのは同性異性を問わぬ友
人の存在であり、生活を自らの手で築き上げ楽しむことのできる能力である。
そのことを本作は繰り返し訴えています。どうかご一読ください。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「見えない敵」の話

「新型コロナウイルス」の事はどうしても避けて通れない。
当初「水際作戦」だとかいろいろ言っていたがウイルスの特異な?性質のため
あっという間に世界中に広がって収束する片鱗さえ見えない状況だ。
仕事や留学などで海外にいる知人が帰国が困難になって困っていると聞き、思っ
た以上に世界は身近で繋がっているんだとつくづく思う。

これの厄介なのが接触感染、飛沫感染に加えてエアゾル感染の可能性が高い事。
当初に散々言われ続けた「8割の人間は軽い風邪の症状で自己免疫で治る」と
言う情報も「自分はその8割だ」と考える人間がウイルスを拡散させている可
能性が高い。

あと「未症状感染者がまあまあの割合で存在する」と言う事。
この「未症状感染」の未症状がどれぐらいのものなのかあまりアナウンスされ
ていないように思うのだが…例えば「ほんのちょっとだけど喉の痛みはある」
とか「微熱だがある」とかなのか、または「全く自覚症状がない」のか?
もし「全く自覚症状が無いのに感染していて他の人にうつす」のならば実にた
ちが悪い。

本人も気づかなければうつされる方も防ぎようが無い。
無自覚のうちに加害者にも被害者にもなってしまう。感染経路も追いようが無
い。
まさに「見えざる敵」だと。

ネット上ではいろんな情報が飛び交っているけど本当に欲しい情報はどこにあ
るのだろう。

「未症状感染」とはどんなレベルか?「重篤化しやすい持病」とはどれぐらい
のモノを指すのか?「自己免疫で回復した後もどれぐらい身体にダメージを受
けるのか」とか。
あと「高齢者」って十把一絡げ言われてもそれがどれぐらいリスキーなのかが
わからない。
(お上からは70まで働けと言われているのにね)

「見えない敵」に対峙するには相手を少しでも可視化する事が大切なんだけど、
長期政権でダレまくった現政府の的外れな対応を見ると悲観論者の私としては
2割の重篤者になる気がしてならない。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第105回 『美しい文字は最高のアート ─── 静岡県の旅 』

いやいや、外出自粛ム─ドにどっぷりつかって、ネット配信動画三昧の3月。
住野よる原作の映画『君の膵臓をたべたい』を見た。映画自体ももちろんよかっ
たけれど、何が印象的だったって、主人公の女子高生桜良(さくら)が書く手
書きの文字がとても美しかったこと。

あんな文字が書ければ手紙書くのも楽しいのではないだろうか。一文字一文字
のペン運びはとても上品で女性らしい。桜良の人柄がこの文字に現れている。

自分が学生の時は、今よりかなりましな文字が書けたけれど、今となっては醜
い文字しか書けなくなっている。

これもPCの影響。便利になった反面、何かを忘れてしまった感は否めない。
≪字は体を表す≫というけれど、私の心はかすれてしまったのかな。
桜良とは比較にならないほどすさんでるよ。。。

フランスでも同じことが起こっているが、それはPCというよりも教育とタイプ
ライターの出現のせいだろう。筆記文字が書けるフランス人はかなり少なくなっ
ている。

書いた文字を読むのはさらに難しい。悪筆が重なると全く読めない。余談だが、
悪筆というとき、仏語では「comme un chat(猫のように) 」とか 「de coc
hon(豚みたいにひどい)」という。

本当にフランス人は全く猫豚のようなひどい字を書く。日本人の方がよっぽど
綺麗にアルファベットを書くことができるのは学校教育のおかげです。

安倍首相と習近平主席の文字を並べて話題になっていたブログをたまたま見た
時も、さもありなん、的な話だった。
安倍さんの達筆毛筆と、習さんのサインペンの今時文字の画像だ。
笑えた。
私の仏語とフランス人の友人の文字を並べるのに少し似ている。
こっちは筆記体、本場の彼らは大文字のブロック体。
どうみても私の方が正しいフランス人でしょ、って昔は思ったものだ。

美しい文字に心奪われる瞬間は、完璧な裸体ギリシャ彫刻に魅せられるのと同
じようなもの。目は釘付け。

今月、その瞬間は、コロナウィルスを逃れて車で出かけた先でたまたま起こっ
た。
静岡県熱海市のMOA美術館の一室でのこと。

国宝『手鑑 翰墨城(かんぼくじょう)』である。この部屋には尾形光琳の『
紅白梅図屏風』と野々村仁清の『色絵藤花文茶壺』が一緒に展示されていた。

三大手鏡と言われる『翰墨城』は、現代アートの抽象画のようでもあり、生き
物のようでもあり、とにかく私の眼を釘付けにした。昔の人の美的センスには
驚愕する。

あの筆運びはどうやって習得されたのだろうか。漢詩もいいけど、仮名文字の
うっとりとする曲線と紙面とのバランスが絶妙だった。
ハガキに宛名や氏名を書く時の瞬間のバランス判断と同じなんだろうな。

□MOA美術館サイト 翰墨城について
http://www.moaart.or.jp/?collections=090

実は今回の車で散歩の目的は、江之浦測候所を訪れることだった。
このコラムで触れたこともあるけど、小田原文化財団江之浦測候所は、カメラ
マン杉本博司氏が個人的にコレクションしてきた古美術を配置した贅沢な空間。
どうしても天気のいい日に行きたかったので、天気図をにらんでパーフェクト
な日に訪れることができた。
お陰様で最高に気分のいい朝を送れました。
海に向かって「さらば、ウィルス!」

□小田原文化財団江之浦測候所サイト
https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

訪問後すぐにヨーロッパの軟禁生活を強いられている友人達にFBで日本の春を
伝えた。
はやく収束するといいのだけれど・・・
自由に散歩できる日本で本当によかった。
◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 28 内藤陽介
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ストレルカとベルカ

1960年5月15日にスプートニク4号(コラブリ・スプートニク1号)が打ち上
げられた後、6月28日の打ち上げ失敗を経て、8月19日、バイコヌール宇宙基地
からスプートニク5号(コラブリ・スプートニク2号)が打ち上げられた。

スプートニク5号はヴォストーク有人宇宙船の試験機として、生命維持装置
を備えた気密室と大気圏突入のための構造を備えており、人間こそ乗らなかっ
たものの、ストレルカとベルカと名づけられた2匹の犬に加え、1匹のウサギ、
42匹のネズミ、2匹のラット、ハエ、沢山の植物や菌類が乗せられていた。

2匹の犬はモスクワで捕獲された雑種の野良犬で、

1.メスであること(宇宙服とトイレの調達がオスに比べて容易)
2.体重7キロ以下
3.体毛が明るい色(カメラ写りがよいように)

という条件を満たしていたことが決め手となった。ちなみに、名前のストレル
カはロシア語で“矢”、ベルカはロシア語で“リス”の意味である。

8月19日に打ち上げられたスプートニク5号は軌道へ到達した後、地球を18周
した後、無事帰還を果たした。この間、ボンのラジオ局がスプートニク5号か
らの信号を始めて受信し、3周目にはスウェーデンのラジオ局がそれを確認し
ている。なお、打ち上げの正確な時刻については、08:38:24 UTC(協定世界時)
と08:44:06の2説がある。

スプートニク5号の成功を受けて、9月29日に発行された記念切手
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20200325001840518.jpg
には、クレムリンの上空を飛ぶロケットとストレルカとベルカが描かれている。
宇宙から無事に帰還した世界初の生物となったストレルカとベルカは、ソ連の
宇宙技術の優越性を示すアイドルとして、当時、メディア等でも盛んに取り上
げられた。

スプートニク5号の帰還から8ヶ月後の1961年4月12日、ユーリ・ガガーリンを
乗せたヴォストーク1号の打ち上げにより、ソ連はついに、人類初の有人宇宙飛
行に成功するが、その後も、ストレルカとベルカの“アイドル”としての価値
は衰えなかった。

そのことを示すかのように、1961年6月3−4日、同年1月に米国大統領に就任
したばかりのジョン・F・ケネディとフルシチョフがウィーンで首脳会談を行っ
た際、晩餐会でフルシチョフの隣に座ったファースト・レディのジャクリーン
は、ストレルカとその子犬について話題にしている。もっとも、ジャクリーン
としては、フルシチョフとの会話に詰まって、とっさに無難な話題として犬の
ことを話しただけだったようだが、ヴォストーク1号の成功で得意絶頂のフルシ
チョフは、即座に、ストレルカの産んだ子犬をケネディの娘、キャロライン(
後の駐日大使)に贈ることを決断した。

ちなみに、宇宙から戻った後、ストレルカはプショークと名付けられたオス犬
との間に6匹の子犬を産んでいる。また、プショークもソ連の宇宙基地内で地
上での実験に数多く参加したが、結局、宇宙には行っていない。

ストレルカの産んだ6匹のうち、米国に贈られることになったのは、“綿毛
”を意味するプシンカと名付けられたメス犬で、その名の通り、真っ白でふわ
ふわの毛が特徴だった。

米国に到着したプシンカは、隠しカメラや盗聴器を仕込まれた“スパイ犬”で
ないことを確認するための厳重な検査を経て、ホワイトハウスに届けられた。
ホワイトハウスでは、まず、ホワイトハウスのスタッフだったトラフィーズ・
ブライアントと、ケネディの息子のジョンがプシンカと対面した。そのとき、
ケネディは私室にいたので、ジョンは「ねえ、ブライアント、プシンカをパパ
の部屋に連れて行こう」と言ったが、ブライアントには大統領の私室に入る権
限がなかったため、ジョンが大統領のいる部屋に連れて行った。

プシンカが無事に到着したことを受けて、ケネディは「親愛なる閣下…妻と私
は『プシンカ』を受け取り、大変嬉しい。ソ連から米国への飛行は、プシンカ
の母親の宇宙飛行ほど劇的ではなかったかもしれないが、やはり長い旅路であ
り、彼女はそれによく耐えた」とフルシチョフに礼状を送っている。
その後、ようやく、プシンカは新たな主人となる4歳のキャロラインの元へ
届けられた。

プシンカを初めて見たキャロラインがプシンカを撫でようとしたとき、警戒
したプシンカが唸り声をあげると、キャロラインは犬の後ろにまわって尻を蹴
飛ばした。この話を聞いたケネディは「それは、悪者のロシア人たちを懲らし
めたんだな」と大笑いしたという。
当時、ケネディ家には、ウルフ、クリッパー、チャーリー、シャノンの4匹
の犬がおり、プシンカもすぐに溶け込み、チャーリーとの間に4匹の子犬を産
むと、ケネディは子犬を、“子犬とスプートニク(puppy + sputnik)”の造語
で“パプニクス(pupniks)”と呼んだ。
パプニクス誕生のニュースに米国は沸き立ち、ホワイトハウスには約5000人
から「子犬を一匹分けてください」との手紙が殺到した。最終的に、バタフラ
イとストリーカーと命名された2匹が中西部の子供たちに贈られ、ホワイト・チッ
プスおよびブラッキーと命名された2匹はケネディ家で暮らすことになった。


内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965)』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
コロナの直撃を受けて、どこも大変ですね。
うちもしばらく無収入(でも経費はかかる)で行かざるを得ません。
社会が正常化するまでまだまただかかりそうですが、今は耐えるしかありませ
ん。


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