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[本]のメルマガ vol.747


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 ■■ [本]のメルマガ                 2020.3.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book       [桜が咲き始めました号]
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 →  第64回「こんなときだからこそ本を読む」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第129回 新しいパンツをはこう 
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → そもそも「歴史」を学ぶとは…
  
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 ■「散慮逍遥月記」停雲荘主人
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 第64回「こんなときだからこそ本を読む」
 
 こんにちは。世情騒然とする中,みなさま如何お過ごしでしょうか。
 
 とうとうWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言し,世情騒然とする中で,
 アルベール・カミュの『ペスト』が売れているという新聞報道(1)を見ると複
 雑な気分になります。わたしはもう40年近く前になる高校生の頃,新潮文庫に
 てスタイリッシュなお揃いの装丁(2)で刊行されていたカミュの文庫本を片
 っ端から読み漁ったことがあり,そのとき読んだ『ペスト』(1981年の23刷)
 はいまも手元にあります。以前読んで以来ほとんど読み返していなかったの
 で,売れてる,という記事を見てびっくりして本棚から発掘して読み返そうと
 したら,活字が小さいため老眼が進んだ現在では読むのがつらいため,やむを
 得ず改版されて字が大きくなったもの(2004年1月改版,2019年8月84刷)を
 書店で購入しました。改版されて字が大きくなると,1ページあたりの情報量
 が変わってくることを実感しています。
 
 ところで,学校が休校になり,大学も陸続と行事が中止に追い込まれていく中
 で,ひょっとすると若い世代に「読書」の愉しみが見直されることになるきっ
 かけになっていくのかどうか,さまざまな「おすすめの本」がSNSを中心に紹
 介されています(3)。わたしもこれにあやかって,若いひとに読んでほしい書
 籍を何冊か紹介してみます。
 
 1)『大学教育について』(岩波文庫)(4)
 
 「ある人間の知性と他の人間の知性とを区別する根本的でもっとも特徴的な点
 は何でしょうか。それは証拠となるものを正しく判断できる能力です。」
 (66ページ)
 
 ジョン・ステュアート・ミル(1806-1873)が60歳のとき,セント・
 アンドルーズ大学の名誉学長となった際の就任演説の翻訳です。J.S.ミルにつ
 いては説明するまでもないでしょう。19世紀半ばのイギリスの大学教育をめぐ
 る演説ですが,20世紀の終わる頃からこの国で行われてきた「大学改革」なる
 ものが如何にネオリベラリズムに汚染されたデタラメで欺瞞に満ちたものであ
 るか,すでにミルの演説は遠き異国の地における「改革」のデタラメぶりを見
 通したかの如く,鋭い舌鋒で読者に「教養教育」の大切さを説き迫ります。現
 在のわたしたちの大学教育がミルのお眼鏡にかなうとは到底思えず,ただただ
 本書の主張に恥じ入るばかりです。これから大学を目指す若いひとに読んでも
 らえるとありがたい1冊です。
 
 2)『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫)(5)
 
 「わたしがいいたいことは,国家というものは,人間に対して贈り物のように
 与えられる一つの社会形態ではなく,人間が額に汗して造り上げてゆかねばな
 らないものなのだということである。」(220ページ)
 
 いわゆる「大衆社会」と呼ばれる社会の傾向について,その分析と評論を試み
 た書であり,「大衆社会論の嚆矢」(ちくま学芸文庫版の帯)と目されるもの
 です。ホセ・オルテガ・イ・ガセット(1883-1955)はスペイン出身の哲学者
 ですが,本書の巻末解説の見出しに「活動的教育者としてのオルテガ)
 (288ページ)とあるように,大学教授の職にあるかたわら,新聞や雑誌に評
 論を寄稿し,講演を行い,書を携えて社会に出て啓蒙家としての役割を果たし
 たひとであったようです。
 『大衆の反逆』は1930年に出版されましたが,この本もまた,現在のこの国に
 おいて自由主義が危機に瀕し,またこれほどまでに「専門家」が軽視されてい
 ることを,そして「ナショナリズム」が跳梁跋扈していることを,はるか以前
 に予言し,警告している本のような気がします。わたしの身内が就職前に,就
 職先のひとに勧められて読んでいたのが『大衆の反逆』でしたが,蓋し慧眼と
 言うべきでしょう。
 
 3)『伊丹万作エッセイ集』(ちくま学芸文庫)(6)
 
 「現在の日本は政治,軍事,生産ともに行き当りばったりであり,万事が無為
 無策の一語に尽きる」(「戦争中止ヲ望ム」76ページ,原文のカタカナをひら
 がなに直した)
 
 伊丹万作(1900-1946)は脚本家にして映画監督。いまも見ることのできる作
 品では,志賀直哉の小説が原作である「赤西蠣太」(1936年)が志賀直哉も絶
 賛したという,傑作としての呼び声が高い作品です。第二次世界大戦でのこの
 国の敗戦にいたる過程を,かなり醒めた目で眺めていた(病臥しており活動が
 困難だった)ひとで,「戦争中止ヲ望ム」は執筆当時発表されませんでしたが,
 1941年から翌年にかけて雑誌に連載された「シナリオ時評」や戦後すぐに書か
 れた「戦争責任者の問題」の中で,時の為政者や社会の空気,そして当時の映
 画関係者の姿勢を厳しく批判しています。何でもかんでも現在の状況を通して
 見るのは邪な見方だとは思うものの,やはり昨今の状況を伊丹の文章に投影せ
 ずにはいられません。
 
 以上3冊,どこかで目にしたらご一読ください。この難局を若いみなさんひと
 りひとりが,各々のやり方で乗り切ることができる一助になれば幸甚です。
 ではまた次回。
 
 
 
 (1)目に止まったのはこのあたり。
 カミュの小説「ペスト」在庫切れ相次ぐ 伝染病の脅威、後手に回る行政 現状
 と重ねてか - 毎日新聞
 https://mainichi.jp/articles/20200227/k00/00m/040/366000c
 
 カミュの小説「ペスト」が人気 新型コロナで1万部増刷:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASN32643TN32UCVL014.html
 
 困難から得られるもの 週のはじめに考える:社説:中日新聞(CHUNICHI Web)
 https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial
                                             /CK2020031502000111.html
 
 (2)現在刊行されている『異邦人』や『ペスト』は装丁が代わってしまったが,
 2012年に初めて文庫本が出た同じくカミュの『最初の人間』でその装丁をしの
 ぶことはできる。
 カミュ、大久保敏彦/訳 『最初の人間』 | 新潮社
 https://www.shinchosha.co.jp/book/211411/
 
 (3)このあたりをご参照ください
 出版社さんや作者ご本人さまのオススメもある #外に出られないなら本を読め
 ばいいじゃない - Togetter
 https://togetter.com/li/1474761
 
 出版社さんや作者ご本人さまのオススメもある #外に出られないなら本を読め
 ばいいじゃない その2 - Togetter
 https://togetter.com/li/1477816
 
 ハッシュタグ #こんな時だからこそ読みたい本 まとめ - Togetter
 https://togetter.com/li/1478070
 
 (4)
 大学教育について - 岩波書店
 https://www.iwanami.co.jp/book/b270889.html
 
 (5)
 筑摩書房 大衆の反逆 / オルテガ・イ・ガセット 著, 神吉 敬三 著
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480082091/
 
 (6)
 筑摩書房 伊丹万作エッセイ集 / 伊丹 万作 著, 大江 健三郎 著
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480092892/
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から司書養成が本務のはずの大学教員兼大学図書館員。南東北在住。
 好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,我
 に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第129回 新しいパンツをはこう
 
  東日本大震災から9年が経った日に原稿を書いている。たしかあの日も仕事
 場で原稿を書いていた。突然の激しい揺れにあわてて部屋を飛び出して、階段
 を駆け下りビルの外に出た。まわりに倒壊した建物などはなかったが、電線が
 ユラユラと不気味に揺れていたのを憶えている。同じように建物から出た人た
 ちと顔を見合わせる。隣は小さな料亭で料理人や仲居の女性たちが不安そうに
 空を見上げていた。
 
  そばにいたカップルのiPhoneから警告音が鳴った。「いまごろになって鳴っ
 ても遅いよ」と苦笑いした。そのときは、これほどの惨事になるとは想像して
 もいなかった。
 
  テレビの画面に流れる信じられない東北の惨状、節電のため暖房を切り、湯
 たんぽを抱いて過ごしたこと、余震が続く中で一箱古本市の準備をしたこと、
 そして放射能の恐怖……平成は31年間あったけれど、平成23年、つまり
 2011年3月11日以前と以後ではまったく世界が変わってしまったようだ。だが、
 記憶が薄れていき、気をつけなければ、その感覚も忘れてしまいそうだ。
 
 『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(松永良平 著
  晶文社)を読んだ。
 
  松永さんは、ぼくがときどき行くレコード店に勤めている。物静かな人で、
 ゆっくりお話をしたことはない。音楽ライターとして活躍している人なので、
 レコードを買うときに松永さんがカウンターにいると、ぼくはドキドキしてし
 まう。いや、ドキドキする必要などまったくないのだけど。
 
  『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』って面白いタイト
 ルだな。ユーモラスな装丁もあって書店でも目立っていた。装丁は平野甲賀
 +古本美加、装画は坂本慎太郎だった。

  タイトルについて、あとがきで書いている。それは松永さんのライターとし
 ての心得、生き方でもあった。
 
  書くことを、野球選手の素振りにたとえて毎日何かを書き続けることが大切
 だと言っている。

 「疲れ切っていても、眠くても、一文無しでも、心が興奮で踊っていても、泣
 いていても、どんなときでも心の足腰がしゃんとしてれば言葉を先に運んでく
 れる。」
 
  心の足腰を守ってくれるのがパンツや靴下や靴だ。過去や現在のカルチャー、
 サブカルチャー、いいものでもクソみたいものでも、あらゆる文化から影響を
 受けて生きているのだから、それを受け止める自分の足腰が大切であること。
 そして、歩き続けるには、自分を守ってくれるパンツとソックスとシューズが
 大事であるということらしい。パンツ、ソックス、シューズとは自分の心を歌
 い踊らせてくれる存在すべてのことだ。
 
  この本は、音楽ライターの松永さんが音楽とともに過ごした平成元年から平
 成31年までを振り返ったエッセイ集だ。その一年一年に松永さんの生活に何が
 あったか、どんな音楽を聴いていたかを綴っている。ものすごくドラマチック
 なことが起こるわけではないが、仕事のこと、恋愛のこと、友人のことなど、
 個人的なリアルな日常というのは、こうやって書いていくと時代が浮かび上が
 ってくるようだ。二十歳過ぎからの30年なのだから、いろいろなことがあり、
 落ち込んだり転機があったり、迷ったり、決意したり、それぞれの人生にとっ
 てとても長い時間だ。
 
  小泉今日子が「これはもう長編青春小説だと思う」と帯に言葉を寄せていて
 いる。なるほど私小説ともいえそうだ。
 
  松永さんの人生には、常に音楽、そしてレコードがある。音楽がバックグラ
 ウンドにある文章は、読んでいて楽しい。そして、うらやましくもある。
 
  この本は、1年ごとに1章となっていて、松永さんがその年にふさわしいと思
 う1曲を挙げている。その年にヒットした曲ということではなく、個人的な思
 い入れの選曲になっていて、知っている曲ならば、「うーん、なるほど」とう
 なずき、知らなければ、検索して聴いてみる。そんなことが音楽好きには、じ
 つに楽しい。松永さんの部屋で話を聞きながら、レコードをかけてもらってい
 る気分になる。ぼくも二十歳ぐらいのときは、毎晩のように友人の部屋で朝ま
 でレコードを聴きながら、音楽の夢を語っていたんだっけ。そんなことも思い
 出させてくれる。
 
  音楽の世界で地道に活動をしてきた松永さんだから、たくさんのミュージシ
 ャンに囲まれている。本に登場するミュージシャンは、多士済々だ。
 
  ジョナサン・リッチマン、NRBQ、クレイジーケンバンド、SAKEROCK、星野源、
 小西康陽、細野晴臣、GUIRO、カジヒデキ、坂本慎太郎、大滝詠一、
 ヴァン・ダイク・パークス、小泉今日子、cero、片想い、VIDEOTAPEMUSIC ……
 そしてアーチストの永井宏もいる。
 
  この本に登場するのは、一般的に有名な人ばかりではないけれど、音楽シー
 ンでは重要な人たちだ。この人たちの音楽を聴いておくと、ちょっとした
 “音楽通”になれるかも(笑)じつは、正直にいうと、ぼくも名前は知っては
 いるけれど、その音楽を聴き込んでいないミュージシャンも多かった。ジェネ
 レーションギャップというか、ぼくはもうオッサンなのだ。
 
  でも登場するミュージシャンや音楽のことを知らなくても大丈夫、この本は
 音楽を背景にした青春物語として面白いからだ。
 
  平成元年、大学2年生だった松永さんは福岡の兄の部屋で昭和天皇崩御の
 ニュースを見ていた。翌日、東京に戻り御茶ノ水にあるディスクユニオンとい
 うレコード店でアルバイトに行く予定だった。こんなふうに松永さんの平成は
 始まった。
 
  どうやら落ちこぼれ大学生(結局7年生になった…)だった松永さんは友人
 と一緒に音楽雑誌を作った。楽器をやっている人だったら、バンドを作るとこ
 ろだろうけれど、松永さんはギターではなくペンを持ったわけだ。

  『リズム&ペンシル』という雑誌を作ることにした松永さんと友人は、創刊
 号のメイン記事に来日予定のジョナサン・リッチマンというアメリカのロック
 ミュージシャンを特集することにする。
 
  それからがすごい!
  松永さんたちはツテもないのにジョナサンが当時所属していたラウンダー・
 レコード宛に英文の手紙を書いたのだ。そして本人から返事をもらって、イン
 タビューを実現させてしまう。
 
  結局、この雑誌は紆余曲折があって、刊行まで5年もの年月が経ってしまう
 のだが、この熱意の持続もすごいなあ、と思う。決してあきらめず、しぶとく
 夢を持っている。音楽ライターになる、音楽とともに生きる、ことをずっと思
 い続けていた。その熱さがうらやましい。
 
  亡くなったアメリカのシンガー&ソングライター、アルゾーの遺族を訪ねる
 話、ミュージシャンズ・ミュージシャン・バンドNRBQのドラマー、トム・アル
 ドーノとの交流など、心温まるエピソードが生まれたのは、やはり実際に大好
 きなミュージシャンに会って、自分の思いを伝えるという姿勢があるからだろ
 うな。
 
  そして夢を追う青年は、たいていの場合、貧乏なのだ。ライターをするため
 にアルバイトに精を出す。その貧乏具合がとてもリアルだ。いつもお金がない
 話が出てくる。レコード店をクビになる話、工場でアルバイトをしながら、音
 楽ライターになる夢を“社員さん”に話すエピソード。
 
  そして、極めつきが電話ボックスで見た「どんな状況の人でもご融資します」
 というチラシにあった高利貸しを訪ねる。そこで自分より若い高利貸しに「お
 まえに金は貸さない!」と追い返されるエピソードはリアルで、思わず笑いな
 がら、冷や汗をかいていた。
 
  ぼく自身にとって平成という時代は何だったんだろう?
  そんなことを考えるきっかけにもなった。平成元年には、ぼくはすでに30歳
 を過ぎていて、目の前の仕事をこなすのに必死だった。夢を語るには、年をと
 っていた。それでも夢のかけらのようなものを心のどこかに持っていて、いつ
 か音楽のそばに行きたいと思っていた。それはいまも変わらない。それじゃあ、
 ぼくもそろそろ新しいパンツをはこうかな。

 ◎吉上恭太
 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し
 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。
 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!  
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  歴史の本ですから、過去のことについて書いているわけですが、なぜか今も
 その渦中にいるようなような感じを受けるというか。思い過ごしならいいので
 すが…。
 
 『建国神話の社会史』、古川隆久、中央公論新社、2020
 
  古事記や日本書紀に書かれている日本の誕生の神話。イザナギとイザナミが
 国土や神々を生み出し〜天照大神の子が降り立って〜神武天皇が即位した、と
 いう一連の物語のことです。本当に空の上から天皇の先祖が降りてくるわけも
 なく、もちろん神話であり歴史的事実ではありません。
 
  この神話が戦前の歴史教育のなかで事実であるとして教えられていたという
 ことを御存知の方もいらっしゃるでしょう。しかし人びとがそんな素直に神話
 が事実だと受け入れるわけもなく、歴史教育に携わる教師などはどのように教
 えるかで四苦八苦することになります。本書は建国神話が人々にどのように受
 け止められていたのかを探っていきます。
 
  しかし戦前の教育といっても、ずっと同じだったわけではありません。そも
 そも江戸時代には、古事記や日本書紀の記述が、事実として考えるとおかしい
 ということが知られていたといいます。中国の史書と照らし合わせると時代が
 合わなかったり、不自然に長寿の天皇が存在したりするのが理由でした。
 
  ところが幕末に尊皇攘夷思想に影響を与えた水戸学が、この神話に疑問をさ
 しはさむべきでないということを唱え始めます。こうした思想統制じみた態度
 をとれば天皇を中心とした国家の統制が取れるとした水戸学の主張に、著者は
 「愚民観」が透けて見えるとしています。水戸学は幕末の維新の中心人物たちに
 も影響を与えています。
 
  明治時代になると学校制度も次第に整備されるようになって、学校教育でも
 歴史が扱われるようになります。1881年からは建国神話も史実として教えられ
 るようになります。このときの小学校の歴史教育の目的は「天皇を敬い国を愛
 する意識を養うため」(p,39)とされました。歴史の教育に道徳の要素が多分に
 盛り込まれています。
 
  とは言いながらも実際には子どもへの教育は大変だったようで、本書に引用
 されている指導の手引きのようなものには、色々な方法が示されています。詳
 細には深く立ち入らないようにするようにするというのがあったり、児童の疑
 問には寛大に対応して丁寧に対応というやり方が推奨されていたり、歴史教育
 者の悩みぶりがよく伝わってきます。
 
  ただ学校の中では事実として教えるということになりましたが、学校の外を
 見てみると、教えることの是非はともかく、それが事実であったという点につ
 いては否定的な意見が当たり前でした。これでは教える側が大変なのは当然と
 いえるでしょう。
 
  意外だったのは大正デモクラシー期には、建国神話にでてくる神々の会議を、
 議会制民主主義と結びつける解釈すら存在したことです。なかなかアクロバッ
 ティックな解釈な感じですけれども。
 
  1940年の神武天皇即位2600年(この年代がおかしいことは前述のように江戸
 時代から指摘されています)にあわせて、オリンピックや万博と結びつけて経
 済振興を図るのにも建国神話は利用されています。逆に言えばそういうものと
 結び付けて普及を図るほど、建国神話は事実ではないと思われていたのでしょ
 う。
 
  ふんわりと社会と神話を結びつける雰囲気が社会に蔓延しだしているという
 のは、危険な兆候も感じさせますが。
 
  そして戦時中には日本は天皇を中心とした神の国であるので、国民は一丸と
 なって、国のために働かなければならないということになります。建国神話も
 国民統合のために重視されるようになります。ただし下々のものが馬鹿正直に
 それを信じていたわけでもなく、本書にも色々な事例が紹介されています。
 
  だから指導者層も建国神話は事実でないと知っていたはずですが、それにか
 こつけて国民を動員した責任は重いのではないでしょうか。逆に指導者層が一
 点の曇りもなく建国神話を信じていたとしたら、それはそれでまずいわけです
 が。
 
  そんな国が長期に及ぶ戦争を戦った末にどうなったのかは皆さん御存知のと
 おりです。
 
  やはり事実でないことを事実だと強弁する国は残念な進路を辿るというのが
 如実に伝わってきます。「そもそも、主張する本人すら事実とは信じていない
 ことを事実だとして、それを前提に政治を行うことは、不誠実で人々を愚弄し
 ています。」(p,258)と著者も述べています。
 
  まあそれが今の日本にばっちり当てはまるというのが一番問題です。明らか
 に著者もそれを意識してるでしょう。冒頭の感覚は残念ながら思い過ごしでは
 ないのでした。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■あとがき
 こんなことが起こるとは、と思う反面、なんでも起きるのが世の中なんだな、
と納得したり。仕方ないので、粛々と働き、本を読み、食べて、楽しもうと思
います。隠れていたことが明らかになるのもこういう状況でなのかな。
                              畠中理恵子
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