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[本]のメルマガ vol.743

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■■ [本]のメルマガ                 2020.02.05.発行
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■■  mailmagazine of books      [政府により捏造された事件 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『図説 デザートの歴史』

ジェリ・クィンジオ著 富原まさ江訳
A5判 304ページ 本体各2,800円+税 ISBN: 9784562057221

食事の最後の甘い至福、デザート。その歴史は意外に短い。香辛料との深い関
係、デザート誕生の背景、産業革命とデザートの進化、大衆文化の影響……デ
ザートの奥深い歴史を楽しいエピソード、美しいカラー写真と共に探訪する。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その44「チョコレートをめぐる不穏な動き」 その1.ココアと男たち

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ 『「論語」がわかれば日本がわかる』守屋淳  ちくま新書  968円

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その44「チョコレートをめぐる不穏な動き」 その1.ココアと男たち
     
 子供の時、ココアを作るのが大好きだった。まだ電子レンジがない時代だっ
たから、牛乳をガスこん炉で噴きこぼさないように慎重に温めてもらっている
間に、カップにココアと砂糖を入れて少しのお湯を注いでもらい、気がすむま
でスプーンで練りに練っておく。そこに、牛乳を注いでもらって出来上がり。
自分で好きな濃さにできるのも嬉しかった。練り終わった時に、こっそりスプ
ーンに付いたどろどろのココアを舐めるのもお決まりで、チョコレートの味だ
と毎回感動するのだった。

 厳密にいうとココアと飲み物としてのホット・チョコレートは違うものらし
い。けれど、日本の近現代文学の中に現れるのは一律にココアのようなので、
ここではココアに注目していきたい。

 日本文学の中で、ココアに言及している文学者は何人かいるのだが、何故か
それは男性作家が多い。なかでもココアをよく飲んだ文学者として一番有名な
のは正岡子規なのだが、優れた研究書が先行してあるので、ここでは割愛する
ことにしよう。(と言いながら、実は、子規が食物で病と戦っている姿に、ま
だ面と向かう勇気がないのを告白しておく。いつか、必ずとは思っているのだ
が……)

 では、まずはあの甘くて苦みがないココアに、実際はありもしない苦みと歴
史的な事件の刻印を刻み込んだ詩を見ていこう。それは、石川啄木の『ココア
のひと匙』だ。かの大逆事件の5カ月後に書かれた詩として有名なこの詩、短
いので全部引用してみよう。


「ココアのひと匙」      一九一一・六・一五・TOKYO

われは知る、テロリストの
かなしき心を――
言葉とおこなひとを分ちがたき
ただひとつの心を、
奪はれたる言葉のかはりに
おこなひをもて語らむとする心を、
われとわがからだを敵に擲げつくる心を――
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり。

はてしなき議論の後の
冷さめたるココアのひと匙を啜りて、
そのうすにがき舌触りに、
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。
 

 新聞社に勤めていた啄木は、大逆事件の記録を読み、弁護士の一人から裁判
の様子も聞いていたという。

 最初この詩を読んだ時には、そんなことも知らぬまま、どうして苦くないコ
コアに「うすにがき舌触り」を与えたのだろうと思っていた。この詩の前にあ
る「はてしなき議論の後」にある遠いロシア革命への憧れに目をくらまされて、
大逆事件との関わりに気づかなかったのだ。

 ありもしない罪とありもしない苦み。

 明治の終わりに、政府により捏造された事件への怒りと処刑された人々への
哀悼の思いをココアの味わいの中にうたい込めた啄木のおかげで、新かなであ
れば小学生でも読めるこの詩は、素朴な疑問を投げかけ続ける。ココアが苦い
のはなぜか?政府の欺瞞への怒りと虐げられた人々の苦しみの味がそこにある
のを感じないのかと。

 日本で国産のココアが発売されたのが大正八年の森永製菓のミルクココアだ
ったというから、啄木の飲んだココアは輸入ものだったに違いない。現在では、
輸入物と言えばヴァン・ホーテンが一般的なのだろうが、かの芥川龍之介の作
品には、その頃手に入った西洋のココアが三種類も出てくる作品がある。

 舞台はたぶん芥川が英語教師として勤めていた海軍機関学校に近い、横須賀
あたりにある一軒の食料品店。芥川本人を思い起こさせる保吉という男が、そ
こでマッチや煙草やココアを買うだけの物語だ。

 保吉は、その店の主人について飽き飽きするほど見慣れてしまっていて、

<彼は如何に咳をするか、如何に小僧に命令をするか、ココアを一罐買ふにし
ても、「Fry よりはこちらになさい。これはオランダの Droste です」などと、
如何に客を悩ませるか、――主人の一挙一動さへ悉くとうに心得てゐる>

と、ある。

 Fryはイギリス製、Drosteはオランダ製。ヴァン・ホーテンしか知らなかっ
た私は、この店は随分輸入品が揃っているのだなと、読みながら感心した。両
方とも歴史ある会社で、もちろん今も手に入る。Drosteは赤い缶や箱に入って
いて、白い大きな頭巾のような帽子を被ったナースがココアの缶や箱を持って
いる絵が描かれている。そして、その絵の箱の中に、さらに同じ絵が描かかれ
ているという無限な感じがする商標が特徴で、この図柄から、画像の再帰的効
果を表す「ドロステ効果」という言葉が生まれたらしい。芥川も<西洋の尼さ
んの商標をつけた Droste>と、言っている。そして、この物語の中で保吉は、
Fryの缶の中には虫が湧いているからFryはいらないとか嘘八百を述べ立てて、
Van Houtenがあるかないか確かめさせようとするのだが、その実は、すぐ顔を
赤らめる若いおかみさんを困らせるのを楽しんでいるのだ。あれこれ探させた
後、保吉はDrosteのココアの缶を買って出て行くことになる……。

 物語はまだ続くのだが、短いこの物語の最後については、読んでからのお楽
しみに取っておこう。

 さて、この物語を読む限り、実際に芥川もココアを飲んでいたように思える。
主人公の保吉は、この小説の中では独身者のくせに子供や妻があるふりをして
ココアを買おうとしている。ここを見ると、ココアはコーヒーと違って、この
頃すでに、女性や子供向きの飲み物と思われていたようだ。芥川も実際にココ
アを買ったときに、こんな言動をしたのかもしれない。そして、家族と一緒に
ココアを飲んだりもしたのだろう。どんな顔をして芥川はココアを飲んだのだ
ろう?味についての記述がないのが残念だ。

 ただ、なんとなく、そういう家族の団欒風景よりも、書斎で一人傍らに缶を
置いてココアを飲んでいる姿の方が、芥川には似合うような気がする。そして
ドロステ効果を知ってしまうと、この商標をしみじみ眺めるうちに、果てしな
く続く画像の世界の中にふっと吸い込まれて行ってしまう芥川の姿が、見えて
くるような気がしてしまうのだ。


 芥川のこの小説、初出は『中央公論』1923年(大正12年)12月号なのだが、
この年の一月に、ココアについて書かれた短くて魅力的な作品がもう一つ出て
いる。

 それは、稲垣足穂の『一千一秒物語』の中にある掌編だ。実に短い一篇なの
で引用してみよう。


「ココアのいたずら」

 ある晩 ココアを飲もうとすると あついココア色の中から ゲラゲラと笑
い声がした びっくりして窓の外へほうり投げた
 しばらくたってソーと窓から首を出してみると 闇の中で茶碗らしいものが
白く見えていた 
 なんであったろうかと庭へ下りて いじろうとしたら ホイ! という懸声
もろとも屋根の上までほうり上げられた 

 
 ね、おわかりでしょう?

 ココアという奴は、たかが粉でありながらも練ったり飲んだりできるからと
言って甘く見てはいけない奴だという事が、これではっきりしたかと思う。実
に、ココアやチョコレートは隅に置けない危険な奴なのだ。

 と、いうわけで、次回はチョコレートについて、またまた不穏な話を語って
行こうと思っている。


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『チョコレートの歴史物語』サラ・モス、
 アレクサンダー・バデック著 堤理華訳        原書房
『石河啄木作品集第一巻』 石川啄木著         昭和出版社
『啄木詩集』      大岡誠編           岩波文庫
「現代日本文学大系43芥川龍之介集」          筑摩書房
『年末の一日・浅草公園 他十七篇』          岩波文庫
『一千一秒物語』    稲垣足穂著          新潮文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:(特別編)
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 さて、久しぶりのこの企画。今回は、このメルマガの創設者でもある、この
方の新著を御紹介します。
 今回はインタビューではなく、独白(?)形式でお送りします。

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『「論語」がわかれば日本がわかる』守屋淳  ちくま新書  968円

 みなさん、こんにちは、というかお久しぶりです。このメルマガの創設にか
かわった守屋淳です。

 今回、一般の皆さんにも楽しんで頂けるような新刊を発売しますので、宣伝
のためにしゃしゃり出てきました。2月5日の発売です。

 日本人は、教育学や社会学、心理学などの比較調査や、種々のアンケートの
結果に明らかなように、いろいろ特徴的な傾向を持っています。たとえば、

・日本人が好むコンピューターゲームの形は、たとえば五人のメンバーがいた
 場合、その五人でチームを作って、強大な敵を倒しに行くようなゲーム。ア
 メリカ人の好むゲームの形は、五人のメンバーがバトルロイヤルでお互いに
 殺し合いをして、一人の勝ち残りを決めるようなゲーム。(和田洋一スクウ
 ェアエニックス前社長の指摘)

・日本の「いじめの特徴」は、何かをすることというより、何かをしないこと
 (〜外し、ハブにする)であり、加害者、被害者、傍観者がころころ変わり
 やすい。

・日本の学校で成績のいい子は、不得意科目を我慢して努力して克服できた子。
 アメリカで成績のいい子は、自分の得意な部分を伸ばした子。

・二〇一四年に実施された、日本を含めた七カ国の満一三〜二九歳の若者を対
 象とした意識調査で「自分自身に満足している」「自分には長所がある」と
 いう質問に対して、ともに調査国中で日本は最低の数字だった。

・二〇〇七年、アメリカのピュー研究所が、各国の意識調査を行ったなかで、
 「政府はひどい貧困に陥っている人を助けるべきか」という質問に対して、
 日本は「完全に同意する」という答えが一五%で、調査国中ダントツの最下
 位。

・日本の総務省が二〇一四年に実施した「ICTの進化がもたらす社会へのイ
 ンパクトに関する調査研究」によると、ツイッターやSNS,掲示板、ブロ
 グなどにおいて匿名率が諸外国に比べてかなり高い。たとえば日本では、ツ
 イッターの匿名での利用率が七十五.一%ですが、フランスが四十五%、そ
 れ以外の国はすべて三十%台の匿名率。

 なぜ、こういった傾向が出るのか。それは日本の公教育や組織文化のなかに、
『論語』や儒教の価値観が根強く残り続けていて、その影響を複合的に受けて
いるからだ、ということを、歴史的な経緯から解き明かしたのが本書なのです。

 昨今、いろいろな大企業が不祥事を起こしていますが、その多くは、『論語』
や儒教の価値観の悪い面が出てしまったと見ることもできます。

 そして、こうした問題は、『論語』や儒教の価値観が、まさしく「無意識」
の刷り込みになっているから起こる、と筆者は考えています。いわば日本人の
刷り込まれた性(サガ)とでもいうべきもの。ただし、「自分には、こういう無
意識の刷り込みがある」とわかれば、人はそこから自由になることもできるの
です。自由になるとは、それを捨てろという意味ではありません。もう一回同
じものを選んでもいいし、ダメな部分を直して使ってもいいし、全然別の道を
選ぶこともできます。つまり再選択をすることができるのです。

 ぜひ、ご一読して頂ければと思います。

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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 今年になって、知人の多くがなぜかnoteを始めています。たまたま偶然に、
私も始めてみました。

 https://note.com/bizknowledge

 このメルマガも発行遅延ですが、そんな仕事が遅れている言い訳を中心に、
現状報告を書いています(笑。(aguni原口)

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おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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■ 発行:[本]のメルマガ発行委員会
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