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本]のメルマガ vol.736

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□■[本]のメルマガ【vol.736】19年11月25日発行
                                    [ 行く移民来る移民 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4066名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→内藤陽介氏の最新刊、本日発売!

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→日本とは全く違う理由でイタリアから若者がいなくなる理由

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→小谷先生はベーシックインカムが好き

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→自分の納めた消費税を計算しようw

★「はてな?現代美術編」 koko
→たまには失敗もあるものさ

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→今度はモンゴルだ!

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp
『アジアの世紀:接続性の未来』(上下)

パラグ・カンナ著 尼丁千津子訳
四六判 本体各2,400円+税 ISBN:9784562057061/9784562057078

アジア全体の「成長と発信」は、生産力、資源、マンパワーのみならず、文化
や習慣にいたるまで、世界中の注目を集めている。気鋭の国際政治学者がアジ
アと日本の潜在能力と行く末を、膨大なデータからひもといたベストセラー!

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■トピックス
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内藤陽介氏の最新刊、本日発売
「アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版」
アウシュヴィッツ強制収容所の実態に郵便学の手法でアプローチした独創的研
究!新資料、新事実を大幅増補!
知られざる都市の歴史と収容所の実態を明らかにする。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908073717

■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第105 回 若い世代のイタリア離れ

11月のフィレンツェは2週間近くも続く悪天候で、毎日暗く、必ず雨に降られ
た。
アルノ川は17日に最悪状況で危険水位までわずか65cmだったという。自宅近
くの川幅は大きく広がり、心穏やかではなかった。

水の都といわれるベニス(ヴェネツィア)といえば、まさに水難の都になり、
SNSの映像を見て暗澹とする。「こんな状況も慣れているので」という自虐
的な女性の声が聞こえたが、海水はまだ引いてないし、その後の塩害も大変と
いう。

ヴェネツィアが沈下している状況に対処するために“モーゼ計画”というシステ
ムが討議されたのは1980年代だった。
このころ日本から水の環境問題で社会学の教授や研究者の人たちがヴェネツィ
アに視察に来たため、初めてこの計画について耳にした。

モーゼ計画について、日本語でこちらに:
https://newsphere.jp/national/20171114-4/

システムの映像が観られる英語の動画:
https://www.youtube.com/watch?v=NUXNhYshUbw

討議をへたのち、2003年に最終案が承認され、2006年にプローディ首相の内
閣がモーゼ計画の実施を発動して以来、収賄などのスキャンダルにもまみれ、
なんと2016年からシステムが機能するはずだったのが、温暖化で海面の水位
上昇が予測よりもはるかに上がったことも影響して暗礁に乗り上げ、現在は94
パーセントの作業が停止され、2021年末まではスタートできないという現状
と知って絶句気分におちいった。

問題は数々あるようだが、まとめると: 
押し寄せる海水を止めるために海中で上下に動かす「フラップ式の可動型ゲー
ト」(78ある)の留め金のサビと腐食が問題になる。
激しい風や波でゲートが低くなるのを防ぐ操作の自動化テストがまだ行われて
いない。
全ての関連部署の同意をえる公文書について、また指示センターの開設、シス
テム維持に要する人員などの人的問題。
現在まで、最初の予想だった38億ユーロを上回る55億ユーロがすでに支出さ
れていること。

こうした大計画が暗礁に乗り上げるのと全く無関係ではないと思われる別のジ
ャンルのテーマに移りたい。
それはイタリアから他国へ移民していく若者が多いという状況だ。
イタリアが難民受け入れで厳しい状況なのは知られていると思うが、自国の若
年層の移民についてはあまり知られてないと思う。

この10年間(2009−2018)にイタリアからの移民総数は50万人になり、半数
の25万人は15−34歳の若い世代なのだ。イタリアは移民の国に戻った、若い
世代を “移民で失った”とメディアは書いている。
若年層の移民による損害額が160億ユーロ(約20兆円)と計上されている。こ
れはPIL(国内総生産)の1%にあたるという。

移民の理由は就労であり、50.8%が雇用されていて、残りの5割弱は主に学
生。
興味があるのは、どこへ移民するのかというと、目指されるのはロンドンだ。
20%近くの若年移民が英国に出発した。EU圏からの移民について、ブレグジ
ット以降の対応がまだ知らされていない英国なのに。
次はドイツで、資格を得たり就労する機会が見つかる。スイスやフランスは地
理的に近いという理由で選ばれる。

どの州が最も多くの若い世代を移民で失ったかとみると、北部のロンバルディ
ア州(ミラノが州都)が18.3パーセントを占めている。それに次ぐのが南部の
シチリア州(パレルモ)、東部のヴェネト州(ヴェネツィア)、中央のラツィ
オ州(ローマ)で、それぞれ2万人を上回る。

これで想像されるのは、出生率の減少(平均で1.32人)や人生百年の傾向もあ
って、イタリアがEU圏でもっとも老いた国になっていること。
Istat (国立統計研究所)によると、2038年には3人に1人が65歳以上の高齢者に
なりそうなイタリア。

自国の若い世代の流出を防ぐか、非イタリア人の若い住民数を増やす政策は...
執れるでしょうか。

こちらが出典の記事です:
https://www.ilsole24ore.com/art/in-10-anni-l-italia-ha-perso-250mila-giovani-
fuga-all-estero-costa-16-miliardi-AC0kqkp

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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アニー・ローリー 上原裕美子訳 『みんなにお金を配ったら ベーシック・
インカムは世界でどう議論されているのか』みすず書房3000円+税

すべての人々に一定額の所得を無条件で保障するという、ユニバーサル・ベ
ーシック・インカム(UBI)の考え方には、『ユートピア』のトマス・モアに
始まる長い歴史があります。ありとあらゆる政治的傾向の人々の中に、賛同者
と批判者とが含まれていることも、UBIの興味深い特徴です。夢物語のように
思われてきたUBIですが、近年その実現を求める声が高まってきています。世
界各地でUBIの社会実験や、UBIの実施を求める住(国)民投票も行われてい
ます。本書はUBIをめぐる現況を、丹念な取材を基に伝えています。

急速な人口知能(AI)の発達が、UBIへの関心の高まりを生みました。自ら
学ぶ力を備え、人間の知的能力を遠からず凌駕するであろうと言われているAI
は、自動車の運転手や事務員のみならず、医者や弁護士の業務に至るまでのあ
りとあらゆる人間の仕事を奪う可能性があります。仕事がなく所得がなければ
人は生きていけません。そのことに最も鋭い危機意識をもっているのが、シリ
コンバレーの起業家たちです。彼らはAIによって労働が必要とされなくなる未
来を見据えて、UBIの社会実験に大きな資金を投下しているのです。

お金が無条件で配られれば、人々は働かなくなるのではないか。与えられたお
金は浪費されてしまうのではないか。そうした疑問が持たれています。しか
し、途上国であれ先進国であれ、社会実験の結果はそうした観方を否定してい
ます。UBIが支給されても人々が労働から離れることはありません。そして支
給されたお金は、生活の改善に資する健全な方向に支出されています。ケニア
の事例をもとに著者は、途上国援助の最も有効な方法は、無条件でお金を配る
ことだといいます。普通の人々は、怠け者でも愚か者でもないのです。

UBIは、人々に自由と平等を保障するものです。最低限生きていくのに必要
なお金が手元にあれば、劣悪な労働条件で働くことを人々は拒否することがで
きます。UBIが実施されれば、ブラック企業は消えてなくなるはずです。社会
的に差別され、貧困に沈んでいる人々を救い上げる力もUBIにはあります。子
どもの貧困も解消することでしょう。家事や介護は、社会的に有用な仕事であ
るにも関わらず賃金は支払われておらず、これらの仕事は主として女性によっ
て担われてきました。UBIはそうした労働への対価となるものです。

その膨大な財源を何処に求めるのかが、UBI実施する上での最大の難所で
す。著者は一章を割いて財源に関する様々なプランを検討していますが、いず
れも決定打になるとは思えません。UBIに至る一つのステップとして、著者は
一定の所得に届かない人に、税金をとるのではなく逆にお金を支払う「負の所
得税」を推奨しています。これが日本で実施された場合に、受給者は「怠け
者」・「税金泥棒」等のバッシングに晒されることでしょう。この国における
UBI実現の最大の障壁は、ジェラシーに支配された人々の意識なのです。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「軽減税率」の話

消費税が上がって、「5%ポイント還元です」とか言われて「でもICOCAし
か使えないんです」とか「JCBだと還元対象にならない」とか「クレジットの
ポイントは各社の規程に基づいて」とか。

いろいろ舐めくさっているとしか思えない政策に何十億も注ぎ込むのも腹立た
しいが、今回物理的に「ハァ〜〜」となるのがイートイン問題だ。

パン屋さんでいろいろ購入し「小腹も空いているので一個食べて帰えろっとレ
ジに並ぶ。
「どちらを召し上がりますか?」
「ウインナーロールを」でウインナーロール10%、他が8%。
席について「あ、ウインナーロールよりドーナッツの方が食べたい気分」にな
った。
さーどうする?

本当にバカバカしい。
外食を「贅沢」としたヤツは一体誰なんだ?210円のウインナーロールも170
円のドーナッツも極々普通。
「ああ、今月は頑張ったから自分へのご褒美に吉牛で並盛りを食べよう」は明
らかに生活困難者だ。
牛丼だってラーメンだって立ち食い蕎麦だって普通に暮らしていれば「ちょっ
とお昼に」「夜食に」食べるモノ。こんな話は軽減税率が出た時に散々されて
いる筈。なのに「じゃあ食料品は全て据え置きで」にならず「外食は贅沢だか
ら外で食べる物は軽減しない」方に収まった。

「贅沢なフレンチを食べる人が軽減されるのはおかしい」などと言う人がい
た。
1万のフレンチ(相場はもっと高いらしい、知らんけど)で+2%は200円。
210円のウインナーロール+2%は4.2円。
だがウインナーロールをイートインする分母はフレンチより圧倒的に多いし回
数だってフレンチの何十倍になる。

こんなおいしい税収を財務省が手放すわけもなく、かくしてイートインは10%
に。

確かに微々たるモノかもしれないけど4.2円、いや消費税21円として納税して
いるわけだ。

私が払った21円、仕事帰り週2で行っているので年間でほぼ2200円(コーヒ
ーも飲んでるしたまにはカツサンドも食べるし)で、多分5000円は超えている
だろう。
桜の主催者である内閣総理大臣に返還を要求するぞ!

しかし…こうやって自分が納めた消費税を計算すると結構な額なのが判明。
(酒税をプラスすると青ざめる額に)
全ての国民がこれをやれば自分が納税者であることをもっと自覚出来るだろう
な。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第101回 『集まりゃいいってもんじゃない!─── 現代アートの試み』

私が信奉してやまない日本人現代アーティストに杉本博司氏がいます。たまた
ま私が大好きな文楽を杉本氏も熱心に勉強されていました。そして文楽の海外
公演を次々と成功させてきました。

今回はパリに住んでないので観に行くことは叶いませんでしたが、以前のパリ
杉本文楽公演の評判は好評でした。たぶんその流れで、今年のパリオペラ座の
シーズン最初の演目の一つに、杉本氏が演出を手掛ける『鷹の井戸』というプ
ログラムが決まりました。2019年9月15日から1か月公演です。

パリオペラ座ガルニエの350周年記念の栄えあるオープニング演目だったので
すが、評判は・・・むしろ否定的なようです。

はじめてこの舞台の映像を見た時や、ポスターは、絶対すごくいい舞台に違い
ないと確信がもてるほどのいい出来映えだったんですよ。Youtubeで数分の舞
台映像をみてもとてもいい舞台に見えるんですが、本当に残念です。

□オペラ座『鷹の井戸』 PV
https://www.youtube.com/watch?v=VabR9LGCU5g

───なぜ成功しなかったのか?
まず、演目内容が難しいですよー。
アイルランドのWilliam Butler Yeats(イエーツ)が日本の能に影響を受けて書
いた『At the Hawk's Well(鷹の井戸)』ですよ。
時間の流れが止まったようなお話ですから、どうやって40分もたせるんでしょ
うか?バレエダンサーに何を躍らせるっちゅうんですか。

しかもアメリカ人の振付師ですよ。もちろん集まった面々は疑う余地のない才
能の持ち主達ですけどホントにこれでよかったの?
もちろん後付けの疑問ですけど。

以前の文楽公演の時は演出は杉本氏でも演者は全て日本の国立文楽劇場の方々
でしたので、この点は問題なかったわけです。

───続いて顔ぶれご紹介いたしましょう。
オペラ座を代表する二人のダンサー:Ludmila Pagliero と Hugo
Marchand。
フランスで活躍する日本人音楽家兼アーティスト:池田 亮司
衣装:Rick Owens
舞台演出・照明:杉本 博司
この名前を観たら、私だって楽しみにしちゃいますよ。
ハテナマークがついたのは振付師のAlesso Silvestrin氏ぐらいですか。
でもよく知らないからなんとも言えませんでした。

□Youtube 杉本博司氏による『鷹の井戸』説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=PQVRePb1dmo
※この説明聞いたら、ますますどんな舞台かワクワクしてしまいます。

しかし、フランスでの批評には、<un rendez-vous manqu?>と書かれていま
した。
『まずい取り合わせ』みたいな感じですかね。ポスターはめちゃめちゃ格好良
かったみたいです。このポスター見て行きたいと思った人は多かったことでし
ょう。

フランス人は動きがなくて退屈だという評価は絶対にしないので、これは全体
の組み合わせがうまくかみ合わず、能の世界を表現するのに失敗したんだと思
います。

超ミニマリズムな舞台演出に、計算された実験音楽と、ディスニーランドのよ
うな衣装に説明くさい振付、ってな感じだったことが批評から読み取れるわけ
です。
一つ一つの出来がどうのこうのというよりも、それが一体にならなかったこと
が一番の原因なのでしょう。

ラグビーで日本が快進撃できたのは、一人一人の能力が一体となって大きな力
となったからです。あのような融合がない舞踊だったとすると、40分の舞台を
続けるのは至難の業ですよね。。


世界で活躍する人達が集まってもうまくまわらないことってあるんですよね。
この演目の後にあった、フォーサイスのバレエは期待を裏切らなかったようで
す。
せめてもの救いかな。

しかしながらクリエーションには冒険も必要ですので、こんなこともあるとい
うことでしょうか。次の挑戦を楽しみに待ってます。

参考サイト
□Rick Owensについて(ヴォーグ 日本語)
https://www.vogue.co.jp/tag/rick-owens
□池田亮司について(美術手帖)
https://bijutsutecho.com/artists/8
□Figaro Japonの好意的な記事
https://madamefigaro.jp/paris/series/ballet/190930-hiroshi-sugimoto.html
□野村万作・萬斎・裕基×杉本博司『ディヴァイン・ダンス 三番叟』〜ジャポ
ニスム2018 in パリ」動画
https://bouncy.news/29965

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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スプートニクとガガリーンの闇 24 内藤陽介
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モンゴルのルナ3号切手

モンゴル民族の居住地域は、かつては帝政ロシアと清朝に分割されて支配さ
れ、ゴビ砂漠をはさんで、南側が内蒙古、北側が外蒙古と呼ばれていた。

旧清朝の体制は、満洲族の皇帝が漢族を含む他の諸民族を中央集権的に支配す
るというのではなく、どちらかというと、域内諸民族の緩やかな連合国家とい
う性質が強かった。

ところが、1912年に清朝を打倒して成立した中華民国政府は、建前として“五
民族(漢族、チベット族、満洲族、モンゴル族、ウイグル族)の“平等”を掲げ
ていたものの、もともと、孫文らの革命活動は、“駆除韃虜 恢復中華”のスロ
ーガンの下、満州族の支配を打倒して漢民族の政治的・文化的支配を復活させ
ることを建前としており、革命政権の政治の中枢は漢族がほぼ独占。清朝の時
代と比べて、満州族やモンゴル族の地位は大幅に後退する。

“韃虜”に分類された満洲・チベット・モンゴル・ウィグルの各民族は、そもそ
も自分たちを駆除するということを公言してきた革命政権に服属しなければな
らない理由はなく、モンゴル人はロシアの援助を受け、活仏のジェプツンダン
バ・ホトクト8世を“ボグド・ハーン”として君主(ハーン)に推戴し、独立を宣
言した。

これに対して、あくまでもモンゴルの独立を認めない中華民国は、1919年、
モンゴルに侵攻。ハーンとして即位したボグド・ハーンを退位させ、私邸に軟
禁した。

このため、1921年、ソ連赤軍の支援を受けたモンゴル人民党(後にモンゴル
人民革命党)のダムディン・スフバートルによる独立闘争の結果、モンゴルは
再独立し、ボグド・ハーンは推戴されて君主として復位したものの、以前と比
べて、ボグド・ハーンの権限は大幅に制限された。

そして、1924年4月、ボグド・ハーンが亡くなると、コミンテルンの指導を受
けたモンゴル人民革命党は、同党による一党独裁の社会主義国を宣言。同年11
月26日、ソ連の衛星国としてのモンゴル人民共和国が誕生する。

人民共和国の成立後、国家小会議議長として権力を掌握したホルローギーン・
チョイバルサン(1939−52年は首相兼外相)は、形式的にせよ、モンゴル国
家の存在を維持するためにはソ連とスターリンに忠誠を誓うことが不可欠と考
え、徹底した親ソ政策を採用するとともに、反対派の粛清を通じて、“モンゴ
ルのスターリン”とも呼ばれた独裁権力を確立した。

チョイバルサンは1952年が亡くなると、後継首相には人民革命党第一書記の
ユミジャージン・ツェデンバルが就任する。

ツェデンバルは1938年にモンゴル経済大学長、1939年3月に財務副大臣、同年
7月に財務大臣兼貿易銀行総裁と要職を歴任。1940年1月、チョイバルサンと
ともに訪ソしてスターリンと面会し、スターリンに気にいられたことで、同年
3月20日から4月5日に開かれたモンゴル人民革命党第10回党大会で中央委
員会書記に選出され、政権ナンバー2としての地位を確立。

1952年にチョイバルサンが亡くなると、“ウランバートルにおいてクレムリン
の政策を受け入れる能力があり、信頼できる人物をモンゴルの指導者にするこ
とが重要である”とのスターリンの言を受けて、1952年5月26日、モンゴルの
首相に就任した。なお、首相就任直前の5月8日、ツェデンバルは第二次世界
大戦終戦7周年祝賀会に際し、スターリ ンを最高の言葉で褒め称えている。

1953年、スターリンが亡くなると、後ろ盾を失って体制が動揺することを恐
れたツェデンバル指導部はモンゴルが“16番目の共和国”としてソ連に加盟する
途を模索したが、ソ連は“ソ連帝国主義”に対する国際世論の非難を恐れてこれ
を拒否。ソ連外相のモロトフがツェデンバルに対して、直々に「貴国の決定は
大きな間違いである」と言い渡し、ツェデンバルの求心力を失わせることにな
る。

こうした状況の下、中央委員会書記のダシーン・ダンバは、モンゴルのソ連加
盟反対と集団指導体制の移行を訴えて、フルシチョフの信頼を獲得。1954年
11月の党大会で人民革命党第一書記に選出される。

1956年2月、モスクワではソ連共産党第20回党大会が行われ、フルシチョフ
がスターリン批判を行ったが、同大会にはモンゴルからダンバ、ツェデンバ
ル、トゥムル・オチルの3人が参加。大会では首相のツェデンバルがモンゴル
代表として演説したものの、ソ連側は党第一書記のダンバをモンゴル指導者と
して遇し、フルシチョフもダンバと会談し、個人崇拝の克服を進めるべきと語
った。

帰国後、ダンバは11月に予定されていたモンゴル人民革命党中央委員会第4回
総会の準備に取りかかり、チョイバルサン批判の総会演説の原稿を準備した
が、スターリン批判の流れがチョイバルサン批判へと展開し、そこから、自ら
への批判へ発展しかねないことを恐れたツェデンバルは猛反発し、ダンバとツ
ェデンバルの亀裂は決定的になった。

結局、総会ではダンバがチョイバルサン時代の個人崇拝を批判し、集団指導体
制への移行を主張した。そして、総会後、チョイバルサン時代に粛清された
人々(その中にはソ連に送られて処刑された人も少なくなかった)の罪を晴ら
し、名誉回復を試みた。

こうしたダンバの路線は、スターリン後のソ連の政策に沿うものだったが、総
会直前の1956年10月、ハンガリーで反ソ暴動(1956年革命)が発生し、ソ連
軍に鎮圧されたことで、微妙に状況が変化し始める。

1957年5月26日、ソ連はスターリン時代の要人で、最高会議幹部会議長ヴォロ
シーロフをモンゴルに派遣し、ダンバによる改革の“行き過ぎ”に警鐘を鳴らす
とともに、スターリン主義者として追い詰められつつあったツェデンバルを支
持する姿勢を示した。さらに、同年、10月革命40周年式典に参加するため、
モスクワを訪問したダンバがソ連共産党イデオロギー担当書記ミハイル・スー
スロフにチョイバルサン時代の粛清事件解明への協力を求めたが、スースロフ
はこれを明確に拒否している。

こうした経緯を経て、1958年11 月、モンゴル人民革命党中央委員会第2回総
会でダンバの「国家と協同組合の商業の現状と今後の発展方法について」と題
する演説が討議された時、突如、ダンバを党第一書記から解任する問題が突如
提起され、採択される。さらに、1959年3月の人民革命党中央委員会第3回総
会では、ダンバは第二書記の地位からも外され、完全に政治的影響力を失っ
た。人民を“知的な混乱”に追い込んだダンバの責任を追及するというのが、そ
の名目である。

このように、1957年10月、ソ連がスプートニク1号の打ち上げに成功した
際、東欧諸国が“宗主国”ソ連の快挙をたたえる切手を相次いで発行していたこ
ろ、モンゴル国内はツェデンバル派とダンバ派による熾烈な権力闘争の真最中
にあった。このため、ソ連とその偉業を礼賛する切手を発行することは国内の
政治的なハレーションを起こしかねず、それゆえ、スプートニク1号の切手を
発行できなかったとみるのが妥当であろう。

ダンバとツェデンバルの権力闘争の帰趨がみえてくると、ソ連は、1958−
60年に行われたモンゴルの経済3ヵ年計画に2億ルーブルの借款を供与したほ
か、数多くの合弁企業をモンゴルに委譲した。また、1959−60年に行った農
業支援により、26万ヘクタールが耕地化されてモンゴルの耕地面積は3倍に、
小麦の収穫は300%以上に増加している。

こうした経緯を経て、1959年12月、モンゴルはソ連の宇宙開発を称える最
初の切手として、ルナ3号打ち上げ成功の記念切手2種
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20191125153913e37.jpg
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201911251539141cc.jpg 

を発行した。このことは、ツェデンバル政権の安定化に伴い、ようやく、モン
ゴルにもソ連への感謝の意を対外的に示す余裕が生じた結果と考えるのが妥当
だろう。
ちなみに、ツェデンバル政権が自前の憲法として新憲法を採択したのは、切
手発行の翌年、1960年7月のことである。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けてい
る。主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ
(日本郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新
書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』
(角川選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。
最新作『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』えにし書房。電子書籍で「切
手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21な
どがある。
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り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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■編集後記
事典などは別として、私は本を読み出すと、面白くないと思っても一応は全て
読もうとしていた。要は、もう少し読んだら面白くなるかも知れないと思って
読んでいた。

しかし近年、面白くないと思ったら、途中で読むのをやめることが増えてき
た、理由のひとつは体力の温存で、面白くなくても我慢して読む体力がなくな
って来つつあるからだ。

もうひとつの理由は、人生後半戦になってきて時間は無限ではないと自覚する
ようになったから。年何冊読めて残りの人生で何冊読めるかを考えれば、面白
くない本を読んでいる時間はない。面白い本だって一生かかっても読み切れな
いほど出ているのだから、まずはそっちを優先したい。

とはいえ、これって堕落かな?とも思う自分もいる。
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