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[本]のメルマガ vol.732


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.10.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book             [読書の秋号]
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 『図説 世界の神話伝説怪物百科』
 
 ミシェル・パストゥロー著 蔵持不三也訳
 A5判 192ページ 本体3,800円+税 ISBN:9784562056866
 
 ギリシア・ローマ・ゲルマン・北欧・ケルト神話や博物誌、聖人信仰、エンブレ
 ム(紋章)、古典的な造形表現、民間伝承、俗信などに登場する狼の社会的
 ・象徴的・歴史的意味とその変容を多くの貴重な図像とともに解読する名著。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第124回 微笑みの重み
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 社会運動の中にあるぼんやりとした’何か’
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」
 
 お久しぶりです。
 
 4回連続での休載,大変失礼いたしました。勤務先での身分が変わって以来,
 勤務先での講義に加えて他所での研修会の講師,公共図書館の図書館協議会
 委員の拝命,課外活動の運営など様々な案件が重なり重なり,なかなか記事を
 出稿できずにおりました。大学における前期の受講生への評価も終わり,後期
 はなるべく新しい案件を引き受けずに,いま請けている/取り組んでいる仕事に
 専念したいところですが,果たして如何相成るでしょうか。
 
 
 さて,今年に入って,公共図書館が警察の任意の捜査協力依頼に対し,利用者
 の情報を提供していたとされる事例が,主に地方紙に散見されます。わたしが
 確認しただけでも,北海道新聞(2019年6月3日付,以下「年」の記載のないも
 のはいずれも2019年の記事),南日本新聞(8月17日付),琉球新報(9月1日
 付)と続いています(1)。中では鹿児島県の地方紙である南日本新聞の記事が,
 Webには掲載されなかったにもかかわらず,写真を載せたTwitterが拡散したの
 と,その写真が全文を載せていなかったが故に,却ってセンセーショナルに感
 じられたのか,多くの関心を引いたところがあったようです。
 
 興味深いのは,同様の問題を取り上げても,その記事の書き方が微妙に異なる
 ところです。上記の3紙を読み比べても「ああ,この記事を書いた記者は問題
 の所在がどこであるか,よくわかっていらっしゃる」「この記事は枠組みの把
 握に難があるのでは」と思わせます。総じて事実を伝える記事によいものがあ
 り,新聞社の論説にはいささか難がある,という傾向が見られるようです。
 
 好い例が琉球新報9月11日付の社説「警察の捜査事項照会/図書館の自由宣言順
 守を」という記事です。この社説は標題からして「交通マナーを守りましょう」
 レベル(「図書館の自由に関する宣言」は日本図書館協会という公益社団法人
 が採択した政策文書であり,法令のごとくその内容を履行することは義務では
 ない)ですが,この社説では
 
 “国民の知る自由を保障する機関である図書館に対する不信を生みかねない。
 知る権利を含む表現の自由をも萎縮させる恐れがある。”
 
 このように「知る自由」と「知る権利」のふたつが並立して存在するかの如き
 表現(2)が見られるあたり,この社説を執筆した記者の,この問題への理解に
 心もとないものを感じてしまうのはわたしだけでしょうか。公共図書館の味方
 を任じていただけるのは大変ありがたいのですが,「図書館の自由」に関する
 調査と考察が不足している状態での掩護射撃,時として後ろ玉になります。沖
 縄には沖縄国際大学の山口真也先生(3)という業界きっての「図書館の自由」
 に関する専門家もいらっしゃいますし,山口先生に取材して,継続的にこの問
 題に関する考察を深めていただきたいと願います。基地問題などを抱える沖縄
 の地元紙であることですし。
 
 論説がいまひとつなのは北海道新聞7月14日付「記者の視点」も同様で,いき
 なり『図書館戦争』から始まってしまいます。確かに『図書館戦争』は,「図
 書館の自由に関する宣言」をこれまで以上に広く世に知らしめた点では「図書
 館の自由に関する宣言」史上の画期ではありますが,「図書館の自由」を守る
 ために武器を持つ,という展開には,図書館関係者としては違和感しかないも
 のです。図書館というところがこの「記者の視点」言うところの「知的自由」
 を守るところであるならば,紛争についてそもそも武器を執らなくてもよい解
 決法を,わたしたちがその知的自由を行使して図書館の資料の中から探し出す
 べきところのはずです。そこが理解されていなかったところが『図書館戦争』
 の限界です。
 
 とはいえ,北海道新聞の「記者の視点」が琉球新報の社説と異なるところは,
 アメリカの事例や「企業に集まる膨大な個人情報」にも注意を向け,法制度の
 問題を言外に指摘するその視野の広さにあります。「図書館の自由に関する宣
 言」を順守しろ,で終わっている琉球新報の社説にはこの視点が欠けています。
 
 北海道新聞「記者の視点」は次の一文で締めくくられます。
 
 “そして,これまで守ってきた知的自由を失うことのないよう,図書館の「た
 たかい」を私たち一人一人も自覚して後押ししていく必要がある。”
 
 「図書館の自由を守る」のではなく,「図書館の自由が守る」ものは何なのか,
 を図書館業界関係者も図書館を利用する側も考え続けていく必要があります。
 「図書館の自由に関する宣言」は不磨の大典ではなく,その余白を埋めること
 は,何もかもを「宣言」の本文に書き込んで事例集にすることではないはずで
 す。
 
 ではまた。
 
 
 注記
 (1)この記事を書いている時点で,Webで参照できるのは琉球新報の記事だけ
    と思われる。
 
   図書館が令状なく利用者情報を捜査当局に提供 プライバシー侵害の恐れ 
   - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/news/entry-981600.html
 
   <社説>警察の捜査事項照会 図書館の自由宣言順守を - 琉球新報 - 
   沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-987278.html
 
 (2)これはわたしの理解がおかしいのであればご指摘いただきたいのだが,管
    見の限り「知る自由」という表現は図書館関係の文献以外でほとんど見る
    ことがないし,一般の雑誌等で見るときも図書館絡みであるように思われ
    る。
    図書館業界では「知る自由は知る権利に優越する」と考えている論者もい
    るようだが,如何に「図書館の自由に関する宣言」採択当時の議論でも
   「知る自由」という言葉が見られるとはいえ,政治や法律の分野で広く使わ
    れている「知る権利」ではなく,「知る自由」という表現を選択すること
    の正統性について,今後検証が必要なのではないか。
 
 (3)山口 真也 - 研究者 - researchmap 
   https://researchmap.jp/read0061951/
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第124回 微笑みの重み
 
  
   色とりどりのキャンディーを屋台にのせて、おじさんが微笑んでいる。なに
 も知らずにこの本を手に取ったら、中東の国の観光案内ではないかと思えるほ
 どチャーミングな写真だ。
『パレスチナのちいさないとなみ 働いている、生
 きている』(高橋美香 文・写真 皆川万葉 文 かもがわ出版)は、中東の
 パレスチナに暮らす人々の生活をたんねんに追ったルポルタージュだ。高橋美
 香さんは、写真家で世界を歩き、そこに生きる人々の「いとなみ」をテーマに
 撮影している。皆川万葉さんは、「パレスチナ・オリーブ」という会社の代表
 として、パレスチナのオリーブオイルや石鹸、刺繍製品などの商品をフェアト
 レードで輸入・販売している。この本は2018年に二人がいっしょにパレスチナ
 を歩き、その旅のあいだの語らいから生まれたという。パレスチナの人々と生
 活をともにする二人が、いまパレスチナの人々がどんな暮らしをしているかを
 写真と文で伝える本だ。キイワードは、「仕事」だ。

 
   10月7日に神保町ブックハウスカフェで行われたトークショーに行ってきた。
 印象的だったのは、おふたりがとても明るいことだった。高橋さんがパレスチ
 ナにはまったのは、イケメンがいるから、とか…。スライドを映しながら、パ
 レスチナにいる友人、家族のことを愛情深く語った。

 
  正直に言って、いままでパレスチナに大きな関心を持ったことがなかった。
 ときおり伝えられる紛争、イスラエルによるガザ地区への爆撃、パレスチナの
 テロ、報復の応酬などの陰惨なニュースを遠い国で起きたこととして見てきた。

 
  イスラエルに旅行をした友人がいるが、その土産話からはパレスチナの人々
 の話はかけらもなかったな。彼にとっては、キリスト教の聖地を訪れることが
 すべてで、パレスチナについてはなんの関心もないようだった。たぶん、パレ
 スチナの人と出会うことがなかったのだと思う。そういうぼくだって、この本
 を読むまでは、パレスチナに住む人々の暮らしに思いを馳せることはなかった。

 
  本の前半は、高橋美香さんが撮影した、働く人を中心に構成されている。家
 畜の世話をする人、オリーブの実を拾う人、ハーブ摘み…写真に写った人々は、
 ほとんど笑顔を見せている。その笑顔だけ見ていると、平穏な暮らしを営んで
 いる人たちの表情だ。

 
  だがパレスチナの人々の現状を思うと、この微笑みの奥には深い悲しみと苦
 しみがあるにちがいない。産まれたばかりのヤギを抱いて嬉しそうにしている
 アブーハミスさんは、分離壁反対デモで頭を撃たれて以来、体調を崩した長男
 の結婚資金のために、家畜をすべて売り払った。放牧をやめると、糖尿病が悪
 化して、失明したという。また遊牧民は住居や家畜小屋が「違法建築物」だと
 して当局から破壊されて土地を追われてしまう。漁師は船の燃料を得ることも
 難しく、漁が出来る海域も狭められ、その海域内であってもイスラエル海軍に
 攻撃されて、命を失う人も多い。自動車修理工の青年の体にもイスラエル軍兵
 士に撃たれた傷跡が残る。たとえゲリラの武装戦闘員でなくても、その場に居
 合わせたというだけで、イスラエル軍に撃たれて殺される。「パレスチナで生
 きるってこういうこと」と語る。

 
  ただこの本はそんな悲惨さ、絶望を訴えているんじゃない。『自らの手や才
 覚で稼ぎ出すお金で、自らの夢をかなえ、人生を切り拓くことや、生きがいを
 感じられることこそが「仕事をする」ということであり、「生きる」というこ
 と』と高橋さんがいうとおり、写真を見ていると、希望や勇気をもらえる。

 
  住んでいる街に、高さ8メートルもある「壁」が作られてしまって日々の生
 活が分断されてしまうって、いったい何なんだろう?
 
  トークにときどき出てくる「分離壁」はいまパレスチナの人々が置かれてい
 る状態の象徴的なものだ。こんなものを作る発想が不気味で気持ちが悪くなる。
 イスラエルの言い分では、テロ対策だというが、結局はパレスチナの人を閉じ
 込めてしまい、自由を奪うためだろう。パレスチナの人は壁のせいで、村の中
 を行き来が難しくなり、いちいち検問所を通過しなければならない。調べて見
 たら、2004年に国際司法裁判所でこの壁は違法だと判断されているじゃないか!
 
  後半は皆川万葉さんが「ユダヤ人もパレスチナ人も男性も女性もみんなが平
 等で対等な社会を目指す」という考えを持つ『ガリラヤのシンディアナ』とい
 う生産者団体のことを教えてくれる。もともとオリーブの原産地は中東で6000
 年前から地中海東沿岸地域で栽培されていたという。パレスチナでは、オリー
 ブオイルは昔から食用、燃料、薬用、美容などさまざまな用途に使われてきた。
 農家でなくても、村に住む人々は代々受け継がれてきたオリーブの木を持って
 いるという。パレスチナの人たちにとって、オリーブの木は土地とのつながり
 の象徴で、故郷を追われた人たちは先祖代々のオリーブの木も失った。だから
 オリーブの木は抵抗の象徴として詩歌や絵画に描かれるという。

 
  シンディアナの立ち上げメンバーのアベットさん、ムギーラさんはオリーブ
 栽培をしながら、それぞれ農業学校の先生、農業アドバイザーを兼業している。
 農業だけでは食べていけないからだった。ふたりはこのままではイスラエル内
 のアラブ・パレスチナ人の農業が衰退してしまうという危機感を持っていた。
 衰退を止めるために近代的な有機農法で高品質なオリーブオイルを作ることを
 目指そうと思った。ハダスさん(ユダヤ女性)とサーミヤさん(アラブ・パレ
 スチナ女性)は社会を変えていくには、女性たちが力をつけることが大事だと
 考えていたが、パレスチナ女性の仕事が減っていくなかで、教育・文化活動だ
 けでなく、具体的な女性たちの仕事作りが必要だと考えた。そこで地域に根ざ
 したオリーブに目をつけて、高品質なオリーブオイルを製造・販売することで
 地域を活性化しようと思った。こうしてシンディアナは立ち上げられたという。
 
   パレスチナの人は土地・農地を奪われ続け、水の利用が制限されてきた。ユ
 ダヤ人の農場は、広大で、十分灌漑されているが、アラブ・パレスチナ人の畑
 は小規模で、見ただけではっきりと違う。いくら地下に豊富な水があっても、
 深い井戸を掘ったり、水の施設を作ることはイスラエル政府に禁止されている。
 シンディアナのオリーブ林の灌漑用には数キロメートル離れた村から水道を引
 いている。その水道の許可をとるにも一年かかったという。シンディアナのオ
 リーブは丹念に一粒一粒手摘みで収穫されて、酸化を防ぐために収穫後24時
 間以内にオリーブをしぼってオリーブオイルにしている。大事につくられたオ
 リーブオイルは風味が豊かで、各地の国際コンペティションでも入賞している。
 たしかに試食したところ、くせのない味で美味しかった。パンにつけると、い
 くらでも食べてしまいそう!
 
  それからファラフェルサンドという中東のコロッケサンド、また食べたい!

 
  シンディアナのユダヤ人スタッフは、ユダヤ人優位のイスラエルの在り方を
 変えないといけないと考える「反シオニスト」であり、そしてユダヤ人が多数
 の国であることにもこだわらず、パレスチナ難民が故郷、つまり現イスラエル
 に帰還する権利も支持している。このように考えるユダヤ系イスラエル人の左
 派(「和平」派)のなかでもごく少数だという。

 
  最近は、イスラエル人によるパレスチナ人に対するヘイトスピーチ、ヘイト
 クライムが、これまで以上に多くなってきている。ユダヤ人の乗客がタクシー
 ドライバーがユダヤ人であるかどうかを確認する、つまりパレスチナ人ドライ
 バーのタクシーには乗らないなんてこともあるらしい。
 

 

 巻末にパレスチナの歴史がまとめてあったり、Q&Aのコーナーでパレスチナ
 人の生活について、具体的に解説がしてあって、パレスチナ人が置かれている
 状況がよくわかるようになっている。それにしても、ぼくは、あまりにも知ら
 ないことが多すぎる。パレスチナに住む人たちを身近に感じることから始める
 ことが大切なのだと思う。
 

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  やはりタイトルに惹かれるものがありますね。「ぼそぼそ声」。大声は苦手
 です。自分の思いが多数派にはなりそうもないことを予感しているけど、黙っ
 ているわけにはいかない。そんな感じでしょうか。
 
 『ぼそぼそ声のフェミニズム』、栗田隆子、作品社、2019
 
  著者はフェミニズム思想に親しみを抱きつつ、労働運動などを行ってきまし
 た。もっともそれは一筋縄ではない道程だったのですが。その中で感じたこと
 を「ぼそぼそ」と呟いています。
 
  例えば本書第7章「『愚かさ』と『弱さ』の尊重」では、貧困問題の文脈に
 感じる違和感を取り上げています。
 
  貧困問題を語るなかでよく言われるのが、貧困は自己責任であるということ
 です。努力が足りないから貧困に陥っているのだと。つまり貧困は個人で解決
 できる問題であると言っています。

  これに反対する側の立場、そこではどう貧困を捉えているのかというと、
 「努力ができないことは社会的な背景があり、構造の問題である」(p,145)
 という主張がなされたりします。著者によると「多くの反貧困の運動はこの発
 想に根ざしている」(同前)らしいのですが…。
 
  しかしこの反貧困の理屈は、人間は努力をするものだという前提になりった
 っています。本書では「努力本性説」と呼ばれていますが。しかしこれは構造
 が撤去されてなお貧困から抜け出せないのは結局自己責任だといってるという
 ことですよね。
 
  努力できないという中には、したくてもできなかったり、したくなかったり、
 したいのかしたくないのかよくわからないとか、色々な感情が渦巻いているわ
 けですが…。あんまりやる気が出ないとか。明確な理由が無いこともあります。
 なかなかそのあたりは言語化しにくいところもあります。
 
  なにより「努力本性説」は言う側が楽だから、声高に叫ばれやすい。何でも
 かんでも努力が足りないで切って捨てればいいわけですから。それでも著者は
 それに対する違和感をつぶやくのです。努力できなかったり、しなかったりす
 ることそういう「弱さ」を尊重すること。それが大事なことではないかと。
 
  第9章『「気持ち悪い」男・「気持ち悪い」出来事』出来事では、様々な社
 会運動の場で著者が感じたある違和感について語られています。
 
  男性が支配的な態度をとること、パワハラ・セクハラです。弱者を手助けす
 る運動の中で、弱者を「かわいそう」な人と位置づけることによって支配しよ
 うとすることです。本書では弱者萌えと呼ばれていますが、これは運動の対象
 にのみ発揮されるのではなく、自分より「弱い」立場の同じ運動の仲間にも向
 けられます。
 
  著者は会合で発表をした際に、その内容には触れず「一生懸命で、かわいか
 った。」(p,167)という感想を言われたことがあるようなのですが、こういっ
 たところに端的にあらわれています。相手を愛玩動物のように扱う態度に、相
 手を尊重する気持ちは感じられません。性的な感情もそこに入ってきたりしま
 す。
 
  しかも外見上は運動の対象や、仲間内に熱心に働きかけているので運動家と
 しては優れた人という評価が与えられたりしてしまいます。そして当の本人も
 社会運動の目標と自分の欲望が渾然一体としてしまって、パワハラ・セクハラ
 をしている自分を自覚できなくなってしまいます。
 
  非常に厄介というか付き合いたくない。暴力とかではなく理屈で支配しよう
 としてくるところも、外から気づきにくいところがあるのかもしれませんが…。
 わざわざそんなことに疲弊してまで運動をやる必要はなく、運動の現場では被
 害者は去っていくだけなので問題が顕在化しにくいということもあります。
 
  もちろん支配的な立場(地位が高かったり・先輩だったり)になっていけば
 男女問わずこうなる可能性は高くなるわけですが、男性であるということはそ
 れだけで女性に対して支配的な立場を容易に取れるので、「気持ち悪い」男が
 たくさんいるのでしょう。
 
  私自身も「気持ち悪く」ならないように気をつけなければいけませんが。本
 書のような本を読んでわかったつもりになるのは危ないかもしれません。それ
 でも本書の様々なぼそぼそ声の多くが私の心に響くものでした(響き方が違う
 可能性はありますが)。
 
  本書では今までの社会運動で見落とされたり、触れられていなかったことに
 気づかせてくれます。それと同時に自分が今までぼんやりと感じていた違和感
 にことばが与えられたと思う読者の方もいるのではないでしょうか。その違和
 感を大事に咀嚼するにもうってつけです。
        
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ ブックオカ2019
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 ひと月近い「ブックオカ2019」も後半折り返し地点です。
 まだまだ楽しいイベントが目白押し!
 
 □書店員ナイトin福岡[拡大版]□□ 
 
 ◆日時:11月12日(火) 19時半〜(開場19時) 
 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ゲストに田尻久子さん(熊本「橙書店・オレンジ」店主)を迎えます。
 
 熊本で本屋兼喫茶店「橙書店・オレンジ」を営みながら、
 文芸誌『アルテリ』責任編集や、
 西日本新聞書評欄や雑誌『SWITCH』等の連載で活躍中の田尻久子さん。
 11月に上梓される3作目の著書『橙書店にて』(晶文社)の話題にも触れつつ、
 熊本の街と人と本をつないできた田尻さんの営みに迫ります
 一般の方も歓迎です!
 
 ◎田尻久子さん◎
 1969年熊本市生まれ。橙書店・オレンジ店主。会社勤めを経て2001年に雑貨
 と喫茶の店orangeを開店。2008年に隣の空き店舗を借り増しして橙書店を開く。
 2016年より渡辺京二氏の呼びかけにより創刊した熊本発の文芸誌『アルテリ』
 の発行・責任編集をつとめる。同年熊本地震被災後、近くに移転し再開。
 2017年、第39回サントリー地域文化賞受賞。2019年11月、
 最新作『橙書店にて』(晶文社)を上梓。他著書に
 『猫はしっぽでしゃべる』(ナナロク社)、『みぎわに立って』(里山社)がある。
 現在、西日本新聞で「カリスマ書店員の激オシ本」を、雑誌『SWITCH』で
 「橙が実るまで」を連載中。
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877
 
 ★会費:2000円 *1ドリンク&軽食付き 
 お問合せは、info@bookuoka.com Tel: 092-406-2036(事務局=忘羊社) 
 
 ☆共催 西南学院大学「〈ことばの力〉養成講座」 
 
 
 □第2回『読婦の友』読書会  「あなたと座談延長戦!」□□ 
 
 ◆日時:11月17日(日) 14時〜15時半 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ミニコミ誌『読婦の友』の巻頭座談会の気分で、一緒に本を語りませんか?
 課題図書は『平場の月』(朝倉かすみ/光文社)。
 その他「大人の恋愛本」も持参でどうぞ!
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877(先着10名) 
 ★料金:1000円(1ドリンク付き) 
 お問合せ ajirobooks@gmail.com(書肆侃侃房 担当:池田) 
 
 ☆主催 ブックオカ婦人部 
                                                       ―HPより抜粋― 
 ■ 第9回 かまくらブックフェスタ
 └─────────────────────────────────
 個性豊かな出版社や、本と活字にまつわるユニークな活動をする人々が集まり、
 出版物を展示販売します。
 広い庭のある落ち着いた空間で、大切な一冊となる本に出会えますように。
 会場にはコーヒーと軽食のコーナーも。書店ではうもれがちなおもしろい本、
 貴重な本の数々が、本好きのかたのご来場をお待ちしています。
 
 ◆会期:2019年11月2日(土)・3日(日・祝) 10時から18時 
 
 ◇会場:garden & space くるくる
      鎌倉市由比ガ浜2-7-12
      JR「鎌倉駅」徒歩10分・江ノ電「和田塚駅」徒歩3分
   
 ★出展
 牛若丸/UTSUWA SHOKEN+text,(テクスト)/ecrit(エクリ)/北と南とヒロイヨミ
 共和国/群像社/新曜社/タバブックス/鐵線書林+ktr/夏葉社
 編集工房ノア+ぽかん編集室/りいぶる・とふん+みずのわ出版
 アンドサタデー 珈琲と編集と/港の人
 
 
 □同時開催イベント□□
 
 「山田稔自選集」(編集工房ノア)
「門司の幼少時代」(ぽかん編集室)刊行記念
 
 講演「堀江敏幸が語る山田稔文学の魅力」
 
 作家・堀江敏幸さんを鎌倉にお迎えし、
 山田稔さんの文学について語っていただきます。
 堀江敏幸さんは『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)の
 解説において
 「山田稔が固有名詞であると同時に、ひとつの文学ジャンルであることは、
 もはや疑いようがない」とし、
 散文芸術とも言われる山田稔文学の真価を繙かれました。
 1930年生まれである山田稔さんは、
 近年も『天野さんの傘』『こないだ』(編集工房ノア、2015年・2018年)などに
 おいて、
 独自の文学をますます極めていらっしゃいます。
 読者を深く魅了してやまない、
 おふたりの作家の「声」に触れる時間をもちたいと思います。 
 
 ◆日時:2019年11月2日(土曜) 14時半から16時(14時開場)
 
 ☆出演:堀江敏幸(作家、仏文学者)
 
 
 ◎堀江敏幸 (ほりえとしゆき)◎◎
 作家、仏文学者。早稲田大学教授。『おぱらばん』(三島由紀夫賞)、
 『熊の敷石』(芥川賞)、『雪沼とその周辺』(谷崎潤一郎賞)、『正弦曲線』
 (読売文学賞)、『曇天記』『オールドレンズの神のもとで』『傍らにいた人』
 など著書多数。
 
 
 講演「AIR LANGUAGE──さらなる空中の本へ」

 同日開催 ≪air language program 2019≫展
 
 かまくらブックフェスタでは、
 2011年の第1回より詩人の平出隆さんに講演をお願いしてきました。
 初回は2010年秋に創刊された《via wwalnuts 叢書》についてのお話を伺い、
 2017年には「空中の本へ」と題された、
 きわめて刺激的な書物論を展開していただきました。
 昨年は《言語と美術──平出隆と美術家たち》展(DIC川村記念美術館)
 が開催され、
 河原温、加納光於、若林奮ら美術家たちとの対話に呼応する、
 書物空間論としての《Air Language Program》が、
 新たな詩作としても示されました。
 この展示を経て、
 さらに強靭に実践されつつある書物論について
 語っていただきたいと思います。
 
 同会場で講演前に《言語と美術》展関連の映像を上映いたします。
 また会場では、 
 新刊の《via wwalnuts 叢書》美術論シリーズを販売いたします。
 
 ◎平出隆(ひらいで・たかし)◎◎
 詩人、作家。多摩美術大学教授、多摩美術大学図書館長。近著に『私のティ
 ーアガルテン行』『言語と美術──平出隆と美術家たち』など。
 《via wwalnuts 叢書》《crystal cage 叢書》《ppripo》など独自の出版プロジェ
 クトをもつ。
 
 ◆日時:2019年11月3日(日曜・祝日)
    展示:10時から13時半
    講演:14時半から16時(14時開場) 
 ◇会場:由比ガ浜公会堂(本会場より徒歩1分)
 
 ★講演入場料:各1500円
 
 参加ご希望のかたはメールか電話で予約をお願いします。定員50名です。
 入場料は当日受付にてお支払いください。
 3日におこなう展示は10時から13時半。どなたでも無料でご覧いただけます。
 
 ▼イベント予約方法
  メール kamakura@minatonohito.jp
  お名前と希望人数を明記ください。
  2〜3日中に、確認のメールを返信します。
  返信がない場合はお問い合わせ下さい。
  電話  0467-60-1374 港の人
  土日は不在の場合があります。
  その際はおかけ直し下さい。
 
 問い合わせ先
 港の人
 〒248-0014 鎌倉市由比ガ浜 3-11-49
     tel 0467-60-1374 fax 0467-60-1375
      mail:info@minatonohito.jp

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 ■あとがき  
 台風19号、そして今も降り続く雨。被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げま
 す。
 そして、ついに、こんなに配信が遅くなり、読者の皆様、著者の皆様、本のメル
 マガ関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳りません。
 お詫び申し上げます。毎度遅れておりますが、このように遅れることは、今後
 無いようにいたします。本当にすみませんせした。
 10月25日からは神田古本まつりが始まり、あいにくの雨ですが、60回を迎える
 本の街の本のイベントがやっております。
 いろいろと暗い話が多いですが、楽しい時間を過ごせますように。
 また、全国でも本のイベントが開催されます。
 美味しいものでも食べ、面白い本と出会いひとと出会う、そんな時間をお過ごし
 ください。                       畠中理恵子
  
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 ■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4066名の読者名の皆さんに配信して
 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
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  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
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