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[本]のメルマガ vol.700

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□■[本]のメルマガ【vol.700】18年11月25日発行
[東京の実家に暮していたのに 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4195名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→しぱらく東京にいました。

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→ナチスもアメリカも、そう変らない?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→変る常識、変ってはならない常識

★「はてな?現代美術編」 koko
→美術界、今はバブルでおます!

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→中ソの蜜月と対立
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp
『クリスマスの歴史:祝祭誕生の謎を解く』

ジュディス・フランダーズ著 伊藤はるみ訳
四六判 上製 336頁 本体2,800円+税 ISBN:9784562056095

クリスマスについての私たちの知識はほとんど間違っている! サンタクロー
ス、ケーキ、プレゼント…多様な要素とイメージを丹念に検証、クリスマスと
いう風習を人々の生活史と重ねながら歴史的に読み解くユニークな文化史。
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■トピックス
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■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第94回 トーキョー、住環境とその他

日本への一か月ちょっとの帰国滞在は、今年も10月中旬から先週14日まで続け
ることができて、無事にイタリアに戻ってきた。
と、こんなふうにいくぶん回りくどい言い方をするのは、必ずしも順風満帆な
滞在とはいえないせいなのだ。

今回は旅立つ前から不安にしばしば駆られ、心配性が高じているだけと自分を
なだめる。拠点にする東京は、杉並区荻窪を選び、それがよかったし、広さを
ミニマムでも35平米として選んだマンスリーマンションも、日が差し込まなかっ
たことをのぞけば満点だった。
一日中、日が差さない一階という立地環境だとは残念ながら前もって知ること
ができなかったが、次回はこういうこともクリヤーしたいもの。

荻窪のマンションを選んだのは地の利がいちばんの理由だった。東京をいろい
ろな角度から取りあげた無数の雑誌やガイドブックを見たことがあるが、まっ
たく参考にしなかったし、誰かに相談するということもしない。
イタリア人と日本を旅するなら、東京などより他に良いところがいっぱいある
ではないか、と考えられる方もいるかもしれない。

トーキョーにこだわるのは、かつて20年以上も東京の実家に暮らしていたのに、
実家と学校あるいは勤務先との往復をしながら、そのあたりには詳しいだけで
東京を知らなすぎるということにショックとともに気づいたからなのだ。
街を知るには、そこへ通うだけでは不十分、住むことが不可欠だ。
推理(ミステリ)小説界の大先達といわれる江戸川乱歩が東京だけでも30回は
引っ越しをして住んだ、というのもミステリの舞台にするためとはいえ、十分
にうなずける。

ここ数年、長い間一か月間の滞在先だった実家に住むのが難しくなっていた。
そこで、東京の滞在地を次々に変えてマンスリーマンションに住んでみるのを
始めたのだ。
去年は渋谷区幡ヶ谷、一昨年は文京区白山、その前年は実家の近い北区王子。
つまり、ようやく住みたい街に近づいてきたといえる。

始めは街を選ぶというよりも、入居するマンションがあったから街が決まった
のだった。そのため、街への満足度は低かった。
ただ文京区の白山や本郷あたりは面白く、35平米以上の広さで条件のととのった
マンスリーさえあればこれからも住んでみたい。

幡ヶ谷もセミダブルベッドでなく、もっと広いダブルベッドが備えてあったら
リピートしていたかもしれない。新宿の都庁街まで歩いて30分あまりの散策は、
かなり刺激的でいい体験だった。

荻窪に住み始めてから、たまたま友人から聞いたのは、東京に住みたい人にもっ
とも人気があるのが、まさに荻窪のようなJRの新宿沿線だという。
高円寺、中野、西荻窪、吉祥寺、・・・たしかにこうした新宿沿線の街はどこ
もこじんまりしているが活気があり、街歩きや食や古本探しへの欲求にも十分
に対応しているようにみえた。

どこへ行くにも家から10分もかからない荻窪駅で中央線かメトロ丸ノ内線に乗
る。それでだいたい主要な駅に行くことができる。
朝、駅へ向かえば出勤の大勢の人並みにあう。もちろん学生風の若い人も多い。
働く庶民の街という印象をもたされた。中野や吉祥寺はもう少しリッチな感じ
がある。でも今や荻窪の家賃も高くなったと友人は付け加えていた。

ありとあらゆるといっていいほど物を扱う商店やショッピングビルが並んでい
て、郵便局まであるのを見たときは、イタリアに帰るころにはいつも荷物を発
送するので安心した。

日中に行き交う人のなかにはかなりの高齢者も多く、身体の問題を抱えた人た
ちもよく見かけた。手押しのキャリーバッグを押すことで、やっと歩く高齢の
女性たち。もしかしたら一人暮らしで、そのようにして歩くのが困難になった
らたいへんだろうと思う。

イタリアなら、ほぼ車に頼らざるをえないかもしれない。だから、やっと歩け
るという様子の高齢者は人並みの多い時間帯にはあまり目にしない。見かける
としたら、運動のためにヘルパーさんに腕をとられるか、隣にいて同行しても
らう姿だ。

駅前のメインストリートにブックオフがあって何度も通った。
バスで10分ほどの西荻窪に行った夕べには古本店を見つけ、古本がすべて半透
明の紙で丁寧にカバーしてあるのに感じ入った。文学関係が充実していて、た
またま見た『小説修行』(小島信夫・保坂和志著)を買った。

それがその後、神保町の古本祭りでごった返しの中で見つけた小島信夫の小説
の文庫本に4,200円の値がついているのに驚くことになり、書店とみれば入って
棚をながめる、小島信夫の本探しのきっかけになっている。評論は分厚く重い。

『残光』、『弱い結婚』(両書とも新潮社)を別便で送ったので着くのを楽し
みにしているが、『アメリカン・スクール』(新潮社文庫)の短編集には、も
う思い出すしかない1960年代の香りを感じる一方、不可解(シュール)な感覚
にぶちあたる作品が多く、この作家に違和感も持たされる理由の一つなのだろ
う。

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門で
2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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ジェイムズ・Q・ウイットマン 西川美樹訳『ヒットラーのモデルはアメリカだっ
た─法システムによる「純潔の追求」』みすず書房 3800円+税

自由と民主主義の母国アメリカは、同時に建国以来人種主義の支配する国でも
ありました。人種差別的な排日移民法案の議会通過直後、駐日フランス大使で
あったポール・クローデルは、次のように記しています。「…すべてのアング
ロサクソンの心のなかに…爆発しかねない激しい感情があるとすれば、それは
皮膚の色に対する偏見です」(『孤独な帝国 日本の1920年代』240頁)。
アメリカにおける人種偏見の根強さを物語る事例としてクローデルは、南部の
集団暴力行為やクー・クラックス・クランの存在等々をあげています。

人種主義という一点において、アメリカとナチスドイツは酷似しています。
ヒットラーは、アメリカ建国は北方人種の世界制覇の輝かしい事例だと考えて
いました。ナチスの指導者たちは、アメリカ原住民を虐殺し狭い保護区に彼ら
を押し込めているアメリカを、「生存圏(レーベンスラウム)」構想の先駆と
して高く評価していたのです。そして、ユダヤ人差別を明文化した悪名高き「
ニュルンベルク法」の制定に際して、ナチスの法律家たちはアメリカの人種法
を大いに参考にした。それが、比較法研究の権威である著者の主張です。

「ニュルンベルク法」は、ユダヤ人を「2級市民」と規定して彼らの市民権
を大幅に制限しています。また同法はドイツ人とユダヤ人の婚姻を民族の純潔
性を汚す犯罪と位置づけていたのです。アメリカ南部は、黒人の公民権を20
世紀中葉に至るまで認めていませんでした。白人と黒人の社会的分離を促進し
た「ジム・クロウ法」の存在は広く知られています。そして多くの州で、異人
種間の婚姻は犯罪と位置づけられていたのです。アメリカはまさに人種差別的
法律の宝庫。ナチスの法律家たちが、アメリカに注目した所以です。

驚くべきことに、ナチスの法律家たちにとってさえ、アメリカの人種法は厳
しすぎると感じられていました。長い歴史の中で混血が進んでいます。誰がユ
ダヤ人であるかを決めることは、実質的に不可能だと法曹エリートたちは考え
ていました。婚姻は民事に関する事柄であり、重婚のような詐欺まがいの行為
以外は刑事罰の対象とはなりえない。厳密な法律の解釈と適用を金科玉条とす
る保守的な法律家たちにとって、判事の自由裁量の余地の大きいコモンロー的
伝統に根差すアメリカの人種法は、受け容れ難いものだったのです。

法曹エリートたちの抵抗も空しく「ニュルンベルク法」は制定されました。
これはナチス体制下での伝統的エリート層の敗北を意味すると同時に、形式主
義的法解釈に対する「プラグマティズム」の勝利を意味するものでもありまし
た。同時代のアメリカでは、「プラグマティズム」に則って、ニューディール
政策を推し進める進歩主義的な経済法が次々と制定されていたのです。テオドー
ル・アドルノはナチスドイツとアメリカの文化における類似性を批判していま
したが、本書は法システムにおける両者の類似性を指摘しています。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「ジェラシーが支配する国」高文研

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「常識」の話

私はほぼほぼゲームをしない。
ゲームと言ってもトランプや花札ではなく、いわゆるテレビゲーム、パソコン
ゲーム、スマホゲーム(どの言葉が一番いいのかわからないが…)だ。

元々ハマり易い性格と時間が自由の自営業なんで「こんなモノに手を出す」と
どうなるか、よくわかっているため極力距離を置くようにしてきた。

さすがに仕事柄、流行ったゲームは何となく存在は知っているし、だいたいど
んなものか知っているつもりだったがゲームの進化は恐ろしく早く「学生たち
のゲーム廃人問題(オンラインで24時間ゲームをしてしまい学校に来れなくな
る問題)」が深刻化する頃には完全に置いていかれてしまっていた。

しかしそれは「その世界での知識」であって、日常に困ることはなかった。

ところが先日知り合いと話していて、その方のお子さんが通う学校の学園祭で
上演されたお芝居があるスマホゲームの世界の話で、出てくるキャラクターも
その中のキャラがそのまま出てくる芝居だったそう。彼女はそのゲームを知ら
なかったのだが、子どもたちも先生方も…そして父兄のほとんどがわかってい
てお芝居を楽しんでいたそうだ。

ゲームの名前を聞いたが「確かにテレビCMでやってたような…」ぐらいの知識
しかなく、ましてやキャラの設定など全くもって「わからない」

つまり私は「その場の常識」を持ち合わせていない事になる。

子供、先生、父兄の総数に「ゲーム世界の知識を持つ」数が過半数を上回ると
「知らない少数派」は「非常識である」となるのだ。

子供や孫を持たない私であっても何かのきっかけでそんな場所に行かないとは
限らない。そんな場合どうしたらいいのだろう?前もってその常識を知るべく
勉強をすべきか?隣の人に迷惑がられようが逐一質問すべきか?せっかくのお
誘いだがお断りするか?

先日ツイッターで「フィルムが」と言ったらスマホに貼る保護フィルムのこと
だと認識され、延々とカメラの説明をした話が流れていた。今はもう感光式カ
メラを知る方が少数派になっているかもしれない。でも「フィルムとは保護フィ
ルム」派ももしかしたらそんなものの必要ないスマホが出来たら少数派になっ
ていく。

常識とはそんなものなのかも。

ただ、先日広島の原爆投下から二日後の長崎の描いた芝居を見た。芝居の中で
は原爆投下のシーンはない。だから次の日に長崎に原爆が投下される事を知っ
ておかないとこの芝居は成立しない。

この事は世界中の「普遍的な常識」であって欲しいと切に思う。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html

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■はてな?現代美術編 koko
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第90回 『2018年オークションレポート── キーワード 10億ドル』

今回は単刀直入にお金の話です。

5月と11月は毎年最高のオークションが開催されます。クリスティーズもサザビー
ズもウッハウハの2018年秋となりました。クリスティーズだけでもこの秋10億
ドル超えの落札額です。
クリスティーズの総落札額に貢献したのは、このコラムで取り上げたこともあ
るEdward HopperとDavid Hockneyです。
特に現存作家として最高額で落札されたのがHockneyでした。
9000万ドルというとざっくりと100億円です。
う〜ん、凄すぎる。
スタートは18億円からで、あっという間に競り上がり9分後には100億円になっ
ていたというお話です。
カルロス・ゴーン容疑者(今日の段階では・・)の年俸でも購入が難しい額で
す。

□Hockney作品紹介(christie's)
https://www.christies.com/lotfinder/paintings/david-hockney-portrait-o
f-an-artist-6171867-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=6171867&
sid=20d47c18-0334-46fa-a51f-6f856267d628

もう一つの目玉のHopperもざっくり100億円超えです。
□Hopper作品紹介(christie's)
https://www.christies.com/lotfinder/paintings/edward-hopper-chop-suey-
6168966-details.aspx?from=salesummery&intobjectid=6168966&sid=dd5783be
-09e6-4b20-b802-3223eac6f8cb

11月のたった3日間でニューヨークのサザビーズとクリスティーズで開催された
イブニングオークションの合計落札額は989.441.750(USD)となります。
これに重要なサザビーズの14日のアフタヌーンセールを加えるとこれも10億ド
ル超えです。

<参考:トータルセール額>
2018/11/13日 317,801,250(USD)
2018/11/14日 314,018,000(USD)
2018/11/15日 357,622,500(USD)

個人的には某日本人実業家がバスキアを100億円超えで購入しましたよね。
どーせお金使うなら今回のHopperを落札してもらえたら少しは感心したと思う
のです。
バスキアじゃ、ちと芸がないというか、当たり前というか、ミーハーすぎるぅ。。
。。
バスキアに特に悪意はもっていませんが、宇宙旅行に行くのとあまり差がない
感じがします。
何買おうがご本人の勝手ですが、正直もったいないと思うのでした。

話がそれてしまいましたが、要は今年も美術市場は盛況で、金持ちのハートを
掴み続けるのでした。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 13 内藤陽介
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スプートニクと渾天儀

1949年10月、中華人民共和国の建国を宣言した毛沢東は「向ソ一辺倒」を打ち
出し、中ソ友好同盟相互援助条約(中ソ同盟条約)を調印した。抗日戦争に続
き、国民党との血みどろの内戦を戦った共産党政権にとって、米国による中国
封じ込め政策に対抗するためには、軍事的にも経済的にもソ連の支援が必要で
あり、社会主義陣営の有力メンバーという金看板は対外的にも重要な意味を持っ
ていたからである。

もっとも、伝統的な中華思想の思考回路が根底にある中国人にとって、建前の
上ではソ連を“兄”として尊重していたものの、本音の部分では、“夷狄”の
ソ連から“弟”扱いされることは耐えがたいことでもあった。

また、1950年6月に始まる朝鮮戦争は、同年10月に中国が人民志願軍を派遣し
たことで、実質的に米中戦争として展開された。朝鮮戦争への参戦は中国に多
大な犠牲を強いたが、同時に、犠牲を厭わず“米帝国主義”と戦った中国に対
する社会主義陣営内の評価を高める結果をもたらした。じっさい、1953年3月、
全世界の社会主義者たちの“首領”として君臨してきたスターリンが亡くなる
と、中国は次第にソ連との対等の立場を目指すようになる。

もっとも、スターリンの死後、数年間の中ソ関係は良好に推移した。中国は19
53年から1954年にかけて第1次5ヵ年計画を策定してソ連の経済モデルに倣っ
た社会主義建設を目指し、ソ連も中国の戦後復興を支援していたからだ。

ところが、1956年2月、ソ連共産党書記長のニキータ・フルシチョフは、帝
国主義国との戦争(=第三次世界大戦)は不可避としていたスターリンを批判
し、西側との平和共存に向けて一歩を踏み出した。この時点ですでに、米ソの
経済力および軍事力には絶望的な格差があり、まともに米国と戦っても勝ち目
は全くないという現実を見据えての判断である。

しかし、ソ連の路線転換は、中国の目には“修正主義者”による変節としか
映らなかった。北朝鮮や北ベトナムが東西冷戦の最前線で(駐留)米軍と対峙
している状況の中では、西側に対して弱腰の姿勢を示すべきではないというの
が、わずか3年前まで米国と直接戦っていた中国の基本的な認識だったからで
ある。

このため、1957年11月18日、モスクワで行われた共産党・労働者党代表者会
議に参加した毛沢東は、「東風は西風を圧す」、「米帝国主義は張子の虎」と
演説。米国との核戦争を恐れるべきではないと主張し、平和共存を進めるフル
シチョフを批判した。

もっとも、こうした中ソの亀裂は、当時、西側に対しては表向き秘匿されて
いた。

このため、平和共存という方針を維持しつつも、米国に対する軍事的な劣勢を
挽回する必要に迫られたソ連は、中国から軍事部門での協力を求められていた
こともあり、中ソ同盟の文脈に沿って中ソの軍事力を一体化すべく、1957年か
ら翌年にかけて、長距離無線基地の設置と中ソ共同の潜水艦艦隊の創設を中国
に提案する。

しかし、毛沢東は、ソ連の提案は中国を支配しようとするものと激しく反発。
このため、フルシチョフは1958年7月末に北京を訪れて説得を試みたが、毛の
態度は頑なだった。

一方、内政面では、1957年11月、フルシチョフが「ソ連は工業生産(鉄鋼・
石油・セメント)および農業生産において15年以内に米国を追い越すだろう」
と宣言したことに刺激され、毛沢東ら中国指導部は、1958年から始まる第2次
5ヵ年計画において、当時世界第2位の経済大国であったイギリスを15年で追
い越すという無謀な計画を立案。

その一環として、1957年に約535万トンであった鉄鋼生産高を1958年には倍の1
070万トンにするとの目標が掲げられ(大躍進政策)、1958年10月以降、原始的
な溶鉱炉(土法炉)を用いた製鉄が全国の都市、農村で大々的に展開された。

土法炉とは煉瓦製の原始的な小規模溶鉱炉で、燃料としては木炭ないしはコー
クスが用いられた。しかし、銑鉄1トンを生産するのに、近代的高炉では2ト
ンの石炭で済むところを、土法炉では、4−6トン、場合によっては8−10ト
ンもの石炭が必要とされたうえ、生産される鉄の品質もきわめて粗悪なものだっ
た。

また、そもそも前年の倍の量の鉄鋼を生産するという計画自体が無謀なもので、
材料の鉄を確保するために都市部では鉄製の各種設備・構築物を解体し、農村
部では鉄製の農機具・炊事用具を供出させることが行われたほか、農村部では
燃料の確保のために森林・樹木が無計画に乱伐され、多くの農民が強制的に製
鉄現場に動員されたため、農村は荒廃し、食糧生産も激減。国民生活は大きな
打撃を受けた。

結局、鉄鋼大増産政策は、使い物にならない粗悪な鉄鋼を大量に作り出しただ
けで惨憺たる失敗に終わり、翌1959年、毛沢東は政策の失敗を自己批判し、国
家主席の座を劉少奇に譲らざるを得なくなった。

さらに、大躍進政策が大きな混乱を招いている中で、1958年8月23日、中国
人民解放軍が金門島(福建省・厦門の沖合数キロメートルの位置にある島。台
湾が支配していた)に向け大規模な砲撃を開始。このとき、毛沢東は本気で米
国との全面対決を望んでいたわけではなく、対外的な緊張をもたらすことで国
内の統制を強化するのが目的だったが、米国には台湾問題に関して中ソが共同
歩調をとっていると誤解させておきたいと考えていた。

ところが、フルシチョフは台湾問題にソ連が巻き込まれることを懸念。さら
に、ほぼ時を同じくして、台湾軍機の落としたAIM−9ミサイル(米国製)
の不発弾について、同盟国であるはずの中国がソ連に対して技術情報を不完全
なかたちでしか渡さなかったことから、中国に対して不信感を強めた。

それでも、1958年の時点では、中ソ両国は、対西側政策の必要から、両国が
友好関係にあるという体裁を何とか取り繕おうとしていた。

1958年10月30日、中国が“ソ連の人工衛星”と題して3種セットの切手を発行
したのも、そうした政治的文脈に沿ったものだった。

“ソ連の人工衛星”の切手のうち2種類
https://blog-imgs-123.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20181125141800f95.jpg
および
https://blog-imgs-123.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201811251418028ae.jpg 

は地球を周回する衛星が描かれており、ソ連の宇宙技術を讃え、西側に対する
東側の優位をアピールする内容となっている。
しかし、ここでは、残りの1枚
http://blog-imgs-45.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201012131655530c3.jpg 

に、スプートニク1号と並んで、渾天儀(渾儀とも)が描かれていることに注
目したい。

渾天儀は、古くから主として中国で天体の位置の観測に用いられた天文観測
器械で、前漢の太初改暦(前104)には落下?が作った渾天儀が使用された記録が
ある。また、後漢の順帝(在位126〜144)の時代には、張衡が地動儀(地震計)
を製作し、内外規、南北極、黄赤道、二十四気(二十四節気)、二十八宿、中
外星官(星座)、日月五緯(太陽、月、五惑星。日月五星ともいう)などの目
盛りをつけた円環を組み合わせた“渾象”を使って天体の位置を推定したとい
う。

なお、切手に取り上げられている渾天儀は明代の製作で、北京古観象台に残さ
れている青銅製のものである。

スプートニク1号のはるか以前から用いられてきた渾天儀という題材は、天文
宇宙の分野では中国が“兄”であることを主張するためのシンボルであり、そ
の意味では、かつての「向ソ一辺倒」路線が既に放棄されつつあったことがう
かがえる。

ちなみに、この切手が発行された翌年の1959年6月20日、“平和勢力”の盟主
を自任していたソ連は、米国との核実験禁止の合意に基づき、アジアの非核構
想を実現するため、中国に対して核技術の供与は行えないと通告したが、これ
は、中国に対して原子爆弾製造の技術的情報を与えるとの中ソ国防用新技術協
定(1957年10月締結)を一方的に破棄するもので、

中国は猛反発。同年9月30日、中華人民共和国の建国10周年にあわせてフルシ
チョフが北京を訪問し、毛沢東と首脳会談を行ったものの、あらゆる問題で両
者の意見は噛み合わず、両国の共同声明が出せないという異常事態に終わって
いる。

1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。
主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本
郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、
『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川
選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作
『パレスチナ現代史: 岩のドームの郵便学』えにし書房 電子書籍で「切手と
戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21などがある。
近刊に「チェ・ゲバラとキューバ革命」えにし書房(12月25日発売予定)
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■編集後記
ゴーン逮捕にはビックリした。日産とルノー、日本とフランスのみならず、世
界的に大きな影響を与えるだろう。何がどうなっているのか、全容が分かるま
では何年もかかると思うが、この事件について書いたノンフィクションも、きっ
と国際的に売れると思う。誰が書くんだろう?

某所にイタリア財務警察のコートを売っていた。しかも払い下げてはなく新品
である。たぶんどこの国でもそうだと思うが、犯罪に使われないよう、警察の
制服なんか一般に売ったりしないだろう。

それが売っていたのだ。原稿をいただいた返信ついでに雨宮さんにこの件を書
いたら、財務警察の制服の色が最近変ったらしい。もちろん売っていたのは新
色ではない、もう使われていない色であるから、警官に化ける小道具としてす
でに使えないので在庫品を市中に流したのではないかと言うのが雨宮さんの推
理であった。たぶんそうなのだろう。
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