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□■[本]のメルマガ【vol.709】11年 2月25日発行
[SNSやめると漫画家デビューできる? 号]
http://honmaga.net/ 
■□------------------------------------------------------------------
□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4142名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→内藤陽介氏の新刊

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→アカデミー賞、これがとれるといいな。

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→トランプは精神病か?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→承認要求とSNS

★「はてな?現代美術編」 koko
→サザビースとスパイ

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→インドネシアの苦悩

→----------------------------------------------------------------
★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『ナチスから図書館を守った人たち:囚われの司書、詩人、学者の闘い』

デイヴィッド・E・フィッシュマン著 羽田詩津子訳
四六判 352頁 本体2,500円+税 ISBN: 9784562056354

見つかれば命はない。それでも服の下に隠して守ったのは、食料でも宝石でも
なく、本だった。最も激しいホロコーストの地で図書館を運営し、本を守った
ユダヤ人たちの激闘を描くノンフィクション。全米ユダヤ図書賞受賞作品。

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■トピックス
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内藤陽介氏の新刊
「チェ・ゲバラとキューバ革命」えにし書房
ゲバラ生誕90周年の昨年に出るはずだったのが、思っていたより文章量が多く
なってしまったようで、今年の発行になってしまった模様。2段組で696ペー
ジ!。

当メルマガの読者なら、「内藤品質」でこれだけのモノとなると、巷にあふれ
るゲバラ本は一線を画すだろうと私が言っても反論はあるまい。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/978-4-908073-52-6

■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第97 回 とても華麗なことなのに、とても地味なお話

これを読まれる読者さんはすでに今年のアカデミー賞の受賞結果はご存じだ。
ノミネーションだけでも華麗なことで、5つの部門にノミネートされていた
「グリーン・ブック」がオリジナル言語にイタリア語字幕でフィレンツェでも
上映されていたので観にいった。

主演のヴィゴ・モーテンセンは好きな俳優で、今までの役から大胆に変わった
イタリア移民、しかも体重オーバーのマッチョな姿はおどろきものだった。
かれがドライバー兼何でも解決屋を引き受け、有色人種の超絶ピアニストと南
部へコンサート巡りする1962年のアメリカ。その実話が元になっている。

まだ遠すぎる過去でもないその時代のアメリカに、芸術は嬉々として崇めなが
ら人種は差別するという理不尽な実話には今さらのようにおどろいた。だか
ら、憤り、また映画が進むにつれて感動させられる。

映画にはその1960年代風という雰囲気が色濃くあらわれている。実は映画など
にはカラリスト(colorist)という映像の色彩を補正する人たちの作業がある
と知った。全体のトーンを決めたり、ただ補正を加えるだけでなく、撮影時の
条件もいろいろに異なる映像の色調調整をする専門の作業という。
    
「グリーン・ブック」では、カリフォルニア在住のイタリア人、ワルテル・ヴ
ォルパット(Walter Volpatto)氏がカラリストとのことだ。
イタリアは北部のトリノ県出身で、エンジニアなどの経験をして、この専門職
についたという。

かれ自身の言葉によれば、「映画には色のトーンが主要な人物の精神に役割を
演じる時がある」という。
登場人物たちの肌の色にもこだわる。どう見えるかのルックスよりも、そうあ
るというリアリティを再現したり、とらえることに熱中すると。刺激せずに鑑
賞者が映画のストーリーに引き込まれるように。

ヴォルパット氏が仕事についてインタビューに答える動画がこちら:
https://www.youtube.com/watch?v=GCfvDuQ-IWU (英語)

これまでに手掛けている映画は、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケル
ク」(2017)。これは第2次世界大戦下における、史上最大の救出作戦と言わ
れたフランスのダンケルクの戦いを描いていて、私などは1964年にジャン=ポ
ール・ベルモンド主演の同名フランス映画「ダンケルク」を思い出すが。

ヴォルパット氏はこの「ダンケルク」ではグレーを基調とした映像で重々しい
雰囲気を伝えたようだ。
同じノーラン監督の「インターステラー」ではまたうって変わった色調に違い
ないが、近未来を舞台に、家族や人類の滅亡から守るため未知の宇宙へと旅立
っていく映像をどんな色で表しているのか。

ほかにも「インデペンデンス・デイ」、「スターウオーズ 最後のジェダイ」
など話題作の映像に関わっている。2018年公開の「ランペイジ 巨獣大乱闘」
ではキングコングを彷彿させる巨獣から世界を救う映像にも参加。
アマゾンのTVシリーズ「Home coming」も手がけているというが、これは検索
しても見つからない。

映画鑑賞者は何気なく、ほぼ本能的に映画の色調に染められて観るから、カラ
リストがこれは!と力点とするところや微妙な隠し味など、その手腕の効果は
小さいものではない。静止画で見ると、絵画のように、そのシーンの色彩の扱
い方の意図がはっきりしているのがわかるはず。

「グリーン・ブック」でもピアニストがいかにも喜んで乗るような車の色や、
ドライバーが運転中に食べるフライドチキンやピッツァなど食べ物が生き生き
していて、ピアニストの行動が納得させるほど。
そういうたくさんの映像の中でもハッとさせられたのは、終わりの方で遠く
に、見るべきものが靄っとしてよく見えないシーンで、これは反対の表し方な
がら、今思い出しても最強の効果になっている。

映画を見るときに新しい関心がひとつ加わるような気がする、あまり意識せず
に。

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ
家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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バンディ・リー編 松村太郎訳
『ドナルド・トランプの危険な兆候 精神科医たちは敢えて告発する』
岩波書店 2500円+税

アメリカ精神医学会には、医師が直接診療していない人物についての医学的コ
メントを禁止する「ゴールドウオータール─ル」があります。この規則は、ト
ランプの当選直後から厳格化され大統領の精神状態に対しては、実質的に緘口
令がしかれてしまったのです。心ある精神科医やカウンセラーたちは、これに
異を唱えます。精神に大きな問題を抱えた人物が大統領の地位にあり、アメリ
カ社会を大きな危険に晒さしている時には、それに対して警告を発することが
精神医学に携わるものの責務である。本書に集う著者たちの共通認識です。

平気で嘘をつく。政敵を口汚くののしる。友好国の首脳に礼を失した態度をと
り、残忍な独裁者を礼賛する。性的マイノリティや、外国人に差別的言辞を重
ねる。セクハラ発言を連発し、過去の性犯罪に類する自らの行動を自慢げに語
る。腹心と思われていた人物をあっという間にクビにする…。トランプは自由
と民主主義者の国の最高権力者として、過去に例をみない悪しき存在です。悪
性ナルシシズム、パラノイア、社会病質…。専門家たちは、トランプの一連の
言動のなかに、各種精神疾患や人格障害の明らかな症状を読み取っています。

トランプが精神病であるか否かは、どうでもよいことだ。過去のアメリカ大
統領の過半が、精神病を抱えていたのだから。問題は、トランプが非常に危険
な人物であることであると専門家たちは口をそろえて言います。アメリカ大統
領は、膨大な決断を迅速に下さなければなりません。アルツハイマー症を思わ
せる、知力の後退がみられるトランプにそれが可能か。アメリカ大統領は世界
を破滅させることのできる、核のスイッチを握っています。キューバ危機のよ
うな状況が訪れた時に、トランプの衝動性は世界を終わらせてしまいかねませ
ん。

トランプの性的・人種的・宗教的マイノリティに対する差別的発言や、セク
ハラ的な言辞はマスメディアによって大きく取り上げられ、SNSによって大規
模に拡散されていきました。これに刺激されて、マイノリティに対する差別や
物理的な攻撃が、トランプの当選直後から全米で激増しています。性犯罪の被
害者や、かつて暴力に晒されたマイノリティたちは、トランプの心ない言辞に
よって、PTSDを発症させています。トランプはただ心を病んでいるだけではな
い。多くのアメリカ人に心の病をもたらしている。そう本書は告発していま
す。

平気で嘘をつく。他者からの非難に過敏に反応し、メディアに不当な圧力を
かける。野党に「日教組」等の心ない野次を飛ばす。自分と妻の幼児的全能感
を満足させるために「忖度」を強要し、公文書の破棄や統計の改竄を行って、
行政プロセスを破壊することを躊躇わない。トランプやプーチンのような強権
的支配者には、ひたすら阿諛追従する。本書を読んでトランプと日本の総理大
臣は酷似しているという印象をもちました。日本の精神科医たちによって、
『安倍晋三の危険な兆候』という本が書かれる必要がある。本書を読んでの感
想です。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「承認欲求」の話

最近またまた「不適切動画」なるものが出回って、その話題で本来伝えられる
はずの情報がかき消されてしまっているようだ。

動画投稿者に損害賠償を求めるとか何とか、こちらも無駄に話題にして大切な
ニュースが流されないのはどーなんだ?とか。色々思う事はある。

ただ今回はその流れでよく耳にする「承認欲求」と言う言葉。SNSの「気軽に
投稿出来る性質」が若者の持つ「承認欲求」を刺激していると言う識者も多
い。

不適切動画の内容を見ると小学生レベルで、承認を求めているとは思いにく
い。が逆に彼らの精神年齢が小学生ぐらいなら…何となくわかるかも。

永らく続けて来た「マンガの講師の仕事」が一区切りついた為、歴代の卒業制
作本を整理していて気づいた事がある。確かにSNSが普及し始めてから特に絵
の上手い学生のモチベーションが下がる傾向にあり、それがどうもtwitterや
pixivで自分の絵をアップしてそれなりの評価をもらえている為の様なのだ。

マンガは絵の上手さも大切なのだがそれ以上にアイデアやらストーリーテーリ
ングやら演出やら、やらなければならない事が山ほどある。だがその力がつい
たのかどうかは自分ではなかなか見えてこない。

持ち込みなどで担当編集がついても賞や掲載に至るまではなかなかハードルが
高く「果たしてやっていけるのか?」不安になるのもよくわかる。

そんな時に投稿したイラストが「いいね」をもらえたら…。

自分の過去に照らし合せて考えればダメ出しする編集がいる出版社よりは「い
いね」を押してくれる世界の方が明らかに居心地が良いだろう。

私たちの時でも「同人誌」と言う承認欲求を満たすものはあったが今のSNSに
比べてたら狼煙とメールぐらいの差があり、しかも私自身が「絵で見せる作
家」ではない為、とりあえず承認欲求を満たす前に商業誌で金を稼ぐ方向に気
持ちはシフトして行った。

本を整理しながら「SNSがなく自分の評価をもらう為には商業誌デビューしか
方法がなかったらコイツらの何人かはプロになってたかな?」と考えた。

「うん、無いかも」

やっぱり周りにいるプロ作家の顔ぶれを考えるとSNSごときで承認欲求を満た
して終わる様なヤワなヤツは居ないな。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html

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■はてな?現代美術編 koko
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第93回 『オークションハウスの歴史─── サザビーズはやるね!』

この1か月の私の余暇の過ごし方は、今月2月初めに開催されたグラミー賞と24
日開催されるアカデミー賞を楽しむための読書や情報収集、過去作鑑賞。1年
のうちに最高にwowowの価値が上がる季節なのです。

ゴージャスな主演者や舞台美術、ノミネートや受賞に纏わる裏話に一喜一憂す
るのが楽しいものです。それを知ったかぶりして家族に話すのが2月の恒例行
事。このメルマガが発行される頃にはすでにアカデミー賞も終わっているの
で、一人ワクワクに一段落ついているとは思います。

上記余暇と同時並行してフィリップ・フック氏の『ならず者たちのギャラリー
誰が「名画」をつくりだしたのか?』を読了。画商やオークションハウスの歴
史がわかる本です。

一昨年から去年にかけてメルマガに書いたフランドルやオランダの繁栄と共
に、ブルジョア階級の美術品購入が始まり、徐々に取引所やエージェントの存
在が重要になってくる様子がよくわかる本です。

特に良くも悪くも現代の美術市場における現代オークションハウスの原型を用
意したサザビーズの話が興味深い。最も古いオークションハウスの一つサザビ
ーズは、1744年にSamuel Baker氏によりロンドンに設立。

George Leighが共同経営に参加し、Bakerの甥John Sothebyが加わり、最終的
にJohnの息子Samuel Leigh Sothebyが親族としては最後の経営者となります。
初めは本の売買を取り扱っていたらしいのですが、第一次世界大戦を境に美術
品も扱うようになったそうです。

サザビーズが最も美術市場に影響を及ぼすようになったのは、第二次大戦後か
ら。その立役者がピーター ウィルソン(Peter Wilson 1913-1984)。
このイギリス貴族階級出身の彼が、<死><離婚><負債>の理由で売買を委託され
る競売人の役割を変容させました。

それまでは競売場は業者間の商品現金化システムのような場でしかなかったの
です。

オークションハスの仕事が<B to B>から<B to C> へ変えるために、21世
紀に行われていることほとんど全てを最初に始めたのがWilson。

全てというのは広告宣伝や情報戦、イブニングセールの開催、アートインデッ
クスの発行、人たらしのための人選などです。

マーケティングとプロモーションの才能があったWilsonは、サザビーズに入社
して3年後に当時経営者の一人の引退を機に、経営権を買い取り共同経営者と
なります。

第二次大戦が勃発して政府の郵便検閲の軍務につくことになり、その後情報部
で働くためにアメリカのワシントンへ派遣され、軍事行動から保護されるべき
ヨーロッパの記念碑と美術品を特定するのが任務の一つになったようです。
この時に得たスパイ活動の技術がその後のサザビーズ経営に役に立ったことは
間違いないでしょう。

また007を書いたイワン・フレミングの友人でもあり、本人曰く映画『007 オ
クトパス』の競売人は彼がモデルらしいです。

ワインバーグコレクションは、印象派絵画部門の初の成功例となりました。
当時の新聞の見出しは以下のとおり。

≪LONDON ART SALE PRODUCES $914,256; William Weinberg Collection Sold 
at Auction
--TV Used to Increase Bidding Bids Relayed by Phone Film Producer 
Biggest Buyer
Special to The New York Times.JULY 11, 1957≫

このコレクションには10点のゴッホがあり、そのうちの一つは1956年のカーク 
ダグラス主演映画『炎の人』に登場する絵と同じものが含まれていました。
広告会社を雇い大々的に宣伝、ハリウッド映画と印象主義を結びつけることに
成功した最初の例です。

この1年後、ゴールドシュミットコレクションセールにあたり、マネ(3点)、
セザンヌ(2点)、ゴッホとルノワール(各1点)の傑作計7点のみのイブニン
グセールを開催します。
しかもガラ風に盛装のディナージャケット着用で。

□1958年のゴールドシュミットコレクションセールについて(Christies.com
英語)
https://www.christies.com/features/
Auctions_That_Made_History_2-5580-1.aspx

とにかく美術市場を一変する仕掛けで、セレブの心を鷲掴みにしたのです。

1964年にアメリカの Parke-Bernet社を買収してアメリカでの活動を広げた
Wilsonは、1960年代に彼の人生の全盛時代を迎えることになります。
最後は下り坂の人生となったようですが、それでも彼の業績は計り知れないも
のがあります。
こんなサザビーズに比べるとクリスティーズは保守的ですね。。。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 19 内藤陽介
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空振りに終わったバンドン会議とその後

現在のインドネシアに相当する地域は、第二次大戦以前はオランダの植民地支
配下にあったが(オランダ領東インド)、大戦中は日本軍の占領下に置かれ
た。日本の敗戦を受けて、1945年8月17日、独立運動の指導者だったスカルノ
とムハンマド・ハッタは、オランダ植民地政府が戻ってくるまでの間隙を縫っ
て、インドネシア共和国の独立を宣言する。

これに対して、戦後のオランダ領東インド復活をもくろむオランダは、周辺
に植民地を持つ英国やオーストラリアなどの支援を受けて軍を派遣。この結
果、スカルノらインドネシア共和国との間でインドネシア独立戦争が勃発し
た。

4年以上にも及ぶ独立戦争の結果、1949年12月、ハーグ協定の締結によっ
て、16の国・自治政府から構成されるインドネシア連邦共和国の独立が正式に
承認された。

その後、連邦構成国は順次、最大の構成国であるインドネシア共和国(ジャ
ワの約半分とスマトラの大部分を有し、連邦共和国4600万のうち3100万の人口
を占めていた)に合流し、1950年8月15日、単一国家としてのインドネシア共
和国に統合された。

これに伴い公布されたインドネシア共和国暫定憲法(1950年憲法)では、単
一国家制への移行を受けて、全インドネシア国民の宥和を図るため、国民の権
利を大幅に拡大し、議院内閣制を規定して大統領の権限を制限していた。

しかし、もともと、“オランダ領インドネシア”という枠組は、英蘭の事情
で、現地の民族、言語、宗教などの分布とは全く無関係に設定された(たとえ
ば、もともと、スマトラ島は民族や言語、文化などの面ではマレー世界の一部
であったが、列強による東南アジア分割の過程で、英領マライから切り離され
て、オランダ領東インド(蘭印)に組み込まれた)ため、独立後の“インドネ
シア”では国家としての統一的なアイデンティティを形成することが困難だっ
た。

そこで、スカルノは、インドネシア国家の国際的な地位を向上させることで、
統一国家とその大統領である自らへの求心力を高めるべく、積極的な外交攻勢
を展開。1954年、ネルーと周恩来が平和五原則を発表すると、これに呼応して
同年4月28日から5月2日まで、セイロン(現スリランカ)のコロンボで開催さ
れたコロンボ会議に首相のアリ・サストロアミジョヨを派遣。

アジア・アフリカ各国間の協力、相互利益、友好の推進などを目的とするアジ
ア・アフリカ会議の必要性を提案させた。この提案は、翌1955年4月、ジャワ
島西部、バンドンに30国を招いてのアジア・アフリカ会議の開催として結実す
る。

アジア・アフリカ会議は、反帝国主義、反植民主義、民族自決の精神を称揚
し、東西両陣営のいずれにも属さない“第三世界(ただし、英仏等の植民地支
配から独立したという経緯もあって、その実態は東寄りの中立であった
が…)”を確立し、会議を主催したスカルノの国際的な権威と発言力はいやが
おうにも高まった。

ところが、そのことは直ちに国内の政治基盤を強化することにはつながらなか
った。

すなわち、会議から半年弱、1955年9月29日に行われた第1回インドネシア国
民議会の総選挙では、定数257のうち、インドネシア国民党(大統領スカルノ
の与党)57、マシュミ(イスラム政党)57、ナフダトゥル・ウラマー(マシュ
ミから分裂した別のイスラム政党)45、インドネシア共産党(中国からの支援
で勢力を拡大していた)39、と4大政党が票を分け合う結果となり、インドネ
シア国民党は主導権を握ることができなかった。

この結果、各党の対立から議会は空転し、短命内閣が続いて政情は不安定化し
たが、これと並行して、政党政治家たちの腐敗も目に余るものがあった。

中央での政治的混乱が続けば、当然、地方に対する統制も不十分にならざるを
得ず、イスラム国家の樹立を主張するアチェをはじめ、西ジャワ、南スラウェ
シ、西スマトラなどでは反ジャカルタの叛乱が発生したものの、憲法上の制約
もあり、スカルノは強権をもってこれを抑え込むことができない状況が続い
た。

こうした状況の中で国際地球観測年を迎えたインドネシアは、1958年10月15
日、地球と周回する人工衛星を描く記念切手を発行した。
https://blog-imgs-124.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20190225164041b48.jpg 
はこの記念切手の初日カバー

この時期、東欧諸国が発行した国際地球観測年の記念切手には、ソ連が打ち上
げた3基の人工衛星を描くものが多い反面、西側諸国の切手では人工衛星は無
視されていることが多いから、人工衛星を1基のみ描いたインドネシアの切手
は“第三世界”として、両者の折衷的な立場を取ったということなのかもしれ
ない。

さて、混迷する国内情勢に業を煮やしたスカルノは、1959年7月5日、大統領
布告によって1950年憲法を停止し、大統領に大きな権限を与えた1945年憲法
(独立宣言翌日の1945年8月18日に公布)への復帰を宣言。また、国会もほぼ
同時期に解散され、以後、議員は任命制となり、政党の活動も大きく制限され
た。いわゆる“指導される民主主義”体制の発足である。

“指導される民主主義”の下で、スカルノが強調したのが、民族主義 
(Nasionalisme)、宗教 (Agama)、共産主義 (Komunisme) の各勢力の挙国一致
で国難を乗り切ろうという“ナサコム(NASAKOM)”のスローガンである。

以後、スカルノは国軍と共産党の対立を利用し、両者の調停役としてふるま
うことによって、みずからのリーダーシップを維持しようとした。その過程
で、彼は民族主義を鼓舞するとともに、1961年にはインドネシア共産党書記長
のディパ・ヌサンタラ・アイディットを閣内に招き入れて中国との関係強化を
強化。“反帝国主義”を強調して、米英や台湾など西側諸国との対立姿勢を強
めると同時に、西側諸国との関係が深い近隣諸国との対立を深めていくことに
なる。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
チェ・ゲバラとキューバ革命』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4142名の読者の皆さんに配信してお
り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

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■編集後記
内藤氏の本のことを書くため、えにし書房のページにアクセスしたら、こんな
本が見つかった。

「アラス戦線へ 復刻版 第一次世界大戦の日本人カナダ義勇兵」
諸岡 幸麿(著)大橋 尚泰(解説) 
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/978-4-908073-62-5

アメリカの第二次大戦時の日系442部隊は有名だけど、第一次大戦時にカナダ
にこんな部隊があったとは初めて知った。
本が売れない時代に、こんな本を発掘してくる人がいる・・・日本の出版の豊
饒さに呆然とした。
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