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[本]のメルマガ vol.721

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□■[本]のメルマガ【vol.721】19年6月25日発行
[連載第一回を回顧する 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4102名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→連載回数もテーマも100回ちょっと

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→アメリカから見た日本の死刑

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→高齢者の事故について思う

★「はてな?現代美術編」 koko
→令和初のマーケットレポート

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→ルナ1号と手抜きの北方領土地図

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『失われた芸術作品の記憶』

ノア・チャーニイ著 服部理佳訳
四六判 344頁 本体各2,800円+税 ISBN: 9784562056699

失われた芸術作品の数は現存する作品よりはるかに多い。盗難に遭い未発見の
フェルメール、火災で焼失したダ・ヴィンチ、制作後すぐに破棄されたミケラ
ンジェロなど、あまりに脆い人類の宝の運命を綴ったノンフィクション。
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■トピックス
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■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第101 回 生誕百年ちょっとの作家、ナタリア・ギンズブルグ

私のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は16年前の誕生日に創刊した。
その最新号を数日前に配信したが、トップ記事に書いたのは警部ものの人気シ
リーズの作者アンドレア・カミッレーリについてだった。ほぼ94歳という高齢
で心臓機能停止のため入院となり、新作を出したばかりだったり、小康をえた
ら次の作品の構想を語っていると知っておどろいた。作家魂というか、心が元
気な人がいるものだ。

そして自分のことで驚いたのは、ここに連載を書かせていただくことになって
第一回が10年前の今、6月25日号。とりあげたのが、このカミッレーリのそのシ
リーズ、モンタルバーノ警部ものについてだったことがわかった。
あれから十年...。

本のメルマガなのに、本のことを書くのはようやく最近になってからで、また
かと笑う人がいらっしゃるかもしれない。
しかも、今度は読んだ本ではなく、なぜ、これから読みたいのかを書くつもり
だから。

いつものようにイタリアの数紙をネットで追っていたら、米国でイタリアの女
性作家、ナタリア・ギンズブルグの作品が見直されていると読んだ。
6月25日に『こんな風でした』がクラシック版(1949)で発売され、『拝啓ミケー
レ君』は新たに英訳されて新タイトル『Happyness as Such』で刊行されるとい
う。

ナタリア・ギンズブルグといえば、一時期よく読んだ須賀敦子さんが『ある家
族の会話』、『マンゾーニ家の人々』、『モンテ・フェルモの丘の家』を訳出
しているし、あらたに最近できた「須賀敦子の本棚」(河出書房社新社)では
白崎容子訳で『小さな徳』が刊行されている。

1916年生まれで、父がレ─ヴィという姓のユダヤ人のため、ファシズム下で父
も弾圧にあい、エイナウディ(Einaudi)出版社に勤めるレオーネ・ギンズブル
グと結婚してからはギンズブルグを姓にする。
すると父は“娘のキンズブルグ”と呼ぶようになった。

「家族について書くのは、そこから全てが始まるからだ」と作家自身がいって
いるように、第二次大戦の終戦直前に出版された『町へゆく道』(1942年)か
ら始まり、一見平易な文体であくまでも自分に起きたことのみを忠実に書きな
がら、“小説”として発表していく。
この時代の“人種的”法律のため、この処女作はAlessandra Tornimparteとい
う、実の娘の名と土地名を合わせたペンネームで出版せざるをえなかった。

ファシズムが倒壊したが、夫レオーネは政治活動のために投獄されるようにな
り、獄死した。
戦後すぐには、ほんの5年間で離党するが共産党員になり、1950年に英文学者と
の再婚後はずっとローマに暮らす。

ナタリア・ギンズブルグの生涯が1991年の死までイタリアの怒涛の歴史と重なっ
ていることは、1970年代初めからイタリアに住む私にもよくわかる。

1963年には『ある家族の会話』でストレーガ賞を受賞して大衆に近づいた。ミ
ラノの有力紙に執筆し始め、戯曲も8本書いた。
そして1983年、なんと政界にも出る。下院議長からトリノの下院議員選挙に立
候補するよう打診され、政治にはまったく素質がないと断ったが、独立左翼グ
ループで出馬して当選すると、出版社の仕事を辞めてしまう。

同僚の議員に、議場に通う率がこれほど高い政治家を知らないといわしめ、議
題に注意をかたむけて、さして関心をもっていないとみなされたことにも注目
するので感銘をうけたともいわれている。
回数は少なかったが、発言のさいはストレートで表現は明快、雄弁だったとい
う。闇につつまれるとか、エリートの政治は嫌いだったようだ。

さて、米国でニューヨークタイムズに書かれたゲンズブルグの再評価だが、そ
の引き金になったのは、もう一人の女性作家エレナ・フェッランテ(ペンネー
ム)原作のテレビドラマ「リラとわたし (ナポリの物語)」(原題L'amica gen
iale)が世界的に大ヒットしたことだという。

このドラマはその代表作『ナポリの物語(英語版)四部作』(2011年から刊行)
がベースになっている。大ヒットのため、フェッランテは2016年にタイムズ紙
が選んだ「世界でもっとも影響力のある百人」に入ったほどだ。

二人の作家については、「フェッランテを読むのは新しい友だちを作るような
ことで、ギンズブルグは良き助言者を見出すようなこと」と文芸評論家が英ガー
ディアン紙に書いた。

テーマが家族的な生活への興味に傾いていると、ナタリア・ギンズブルグは初
めはマイナーな作家とみなされた。
しかし、再発見はゆっくりだが、コンスタントに進んだといわれ、「チェホフ
の散文にベケットがいるようだ」とニューヨーカー誌に詩人Cynthia Zarinが2
017年に書き、翌年に作家のRachel Cuskが「ギンズブルグは新しい女性の声の
モデルをくれた」と続けたとか...そういえば女性たちからの注目だ。

米国の政治状況が20世紀のイタリア女性作家の文学を求めるような傾向にある
のだろうか。
作品を読むことは、その検証にもなる。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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ディビッド.T.ジョンソン 笹倉加奈役『アメリカ人のみた日本の死刑』岩波新
書760円+税

オウム真理教元幹部13名に死刑が執行されてから、もうすぐ1年になります。
平和な民主主義国家日本にいまも死刑が残り、大量の執行が行われたことに世
界は驚き、日本は大きな非難に晒されました。主要国の中で死刑が残っている
のは日本とアメリカだけ。この事実はよく知られています。しかし、そのアメ
リカでも死刑の執行は近年激減しており、遠からず消滅するであろうという事
実は、本書を読んではじめて知りました。日本とアメリカの司法制度に詳しい
著者は、日本の死刑の「不都合な真実」を明らかにしていきます。

連邦最高裁判事を筆頭とする多くの法曹人が、死刑制度への懐疑を強めたこ
とがアメリカで死刑の衰退を招いた最大の要因です。死刑判決には人種差別的
な傾向が根強く、冤罪はあまりに多い。執行方法も残虐だ。法曹人たちはそう
考えました。アメリカで死刑は「特別な刑罰」と考えられています。陪審員の
中の一人でも反対票を投じれば、死刑判決は下りません。検察側には上訴権が
なく、死刑判決を受けた被告は必ず上訴しなければならない。冤罪を防止する
ための機関も強力です。こうした環境が死刑執行を激減させました。

死刑執行の実態を可能な限り公開し、警察や法曹が過ちを犯しうることを素
直に認めるアメリカとは正反対の方向を日本はひた走っています。死刑は秘密
のうちに執行されます。執行の現場に、法曹関係者や研究者、そしてジャーナ
リストが立ち会うことはありません。絞首刑がどのように行われており、本当
に残虐な刑罰ではないのかという問いは闇に鎖されたままです。数多くの著名
な冤罪事件が生じているにも関わらず、日本の警察と法曹は、自分たちは無謬
であり、間違いは起こらないという「否認の文化」を貫いています。

日本で死刑はなくなる可能性はあるのか。アメリカで死刑がなくなれば、日
本が追随する可能性は高いと著者は考えています。また司法改革による市民の
司法参加にも著者は期待をよせています。司法改革の中で取り調べの可視化な
ど冤罪を防ぐ構造が生み出され、市民の間に死刑への関心が高まり、死刑の実
態が明らかにされていくことで、死刑廃止の世論が高まることに著者は期待を
かけています。他方、被告にひたすら極刑を求める犯罪被害者とその遺族の裁
判への参加は、死刑廃止に逆行する流れだと著者は批判しています。

世論の力で死刑をなくした国はない。「世論を迂回」してエリートたちが死
刑廃止を推進したのです。保守的なエリートたちが権力を掌握し続けたことに
よって、日本の死刑制度は永らえてきました。憲法9条があるから死刑もある、
と著者は言います。戦争を禁止されているから、権力行使の象徴としての死刑
に日本の保守的な国家エリートは固執するのだと。筆者には、「犯人を死刑に!」
という報復感情はバブル崩壊後の経済の停滞の時代に強まっていった印象があ
ります。経済が好転すれば死刑制度も支持を失うように思います。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「高齢者の運転」の話

最近、高齢者の運転による悲惨な事故が多発している。前期高齢者の自分とし
ては他人事とは思えない。年齢を重ねるにつれ「ヒヤリとする」事が確かに増
えてきている気がする。

一番はやはり「見ている様で見えてない」事だろう。夜の運転は言わずもがな、
昼間でも車の死角にいる歩行者や自転車、並走する車も目の端に入っているは
ずなのに認識していない場合がある。

「死角に入っているなら年齢関係なく見えてないはずじゃ?」と言われるだろ
うが若い時は多分可視域が今より広いのだと思う。今は本来の死角より見えな
い部分が増えている様な気がするのだ。

先日、実家の駐車場で義姉の車に気付かずバックしていてぶつけてしまい、か
なり落ち込んでいたら一月後に彼女が全く同じ状態でこちらの車にぶつけてき
た。

これは別の理由なんだろうが同い年の我々にはかなりショックな出来事だった。
バックカメラもあるのになぜ?と思うが「見ている」のと「認識している」の
は別物なのだ。

昨今の事故はそれにプラスして「直前の事故」や「法令違反」が引き金になっ
ている様にも思える。何かあった時、人はほぼパニックに陥る。

何かにぶつかったり道を間違えたりしたら誰でも焦ってしまう。が、認識能力
が落ちてくる高齢者は何が起こっているのか理解するまでに昔より時間がかか
り、パニクる時間が若い時より長くかかるのではないだろうか。

私もぶつけた時だがパニックになっても今の車はアクセルを踏めば走ってしま
う。そこが恐ろしい。
交差点で停止している時に「何かのアクシデントで間違ってアクセル踏み込ん
だらえらいことになる」とドキドキする事がある。

だが「高齢者には運転させるな。年齢を決めて免許を取り上げろ」の声には大
反対だ。

当たり前だけど技術には個人差があるから一様に年齢を区切るのもおかしな話
だし公共交通機関の脆弱な地方では80代90代でも車がなければ医者にも通えな
い。

あ、そうか。そうやって高齢者にかさむ医療費負担を減らそうって腹だな。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第97回 『令和のワールドアートマーケット事情』

今回はいつものスタンスに戻りまして、令和になった5月のコンテンポラリーアー
トマーケットの相変わらずの活況をご紹介します。

5月は年に2回ある大型オークションが続きます。
今年は15日前後に開催された現代アートイブニングセール結果のダイジェスト
です。

結果はすこぶる好調でした。
5/16 サザビーズ コンテンポラリーアート イブニングセール 341.8M$(
約370億円)
5/15 クリスティーズ コンテンポラリーアート イブニングセール 538.9M
$(約600億円)

一晩の出来事なのに、こんなに???
相変わらず世の中にはたくさんのお小遣(?)があるのだと痛感します。

オークションハウス上位2位の落札結果のハイライトは、サザビーズで落札され
たお馴染みJeff Koons(ジェフ・クーンズ)の「Rabbit」。5000万ドルから70
00万ドルの評価額でしたが、結果は9107.5万ドルで余裕の個人記録突破です。
現存作家としては破格の価格で、ウォーホールにも並ぶ勢い。

これは S.I. Newhouse Jrというアメリカの大手雑誌出版社(the Cond? Nas
t)オーナーのコレクションから出品されたもの。
2017年に89歳で亡くなったためセールの運びとなったようです。

the Cond? Nast社は日本人でも知っている、『GQ』『ヴォーグ(Vogue)』『Gl
omour』『The New Yorker』『Wired』『Vanity Fair』のような雑誌を発行して
います。

彼のコレクションの詳細については、英語ではありますが下記の記事を読んで
ください。
□ニューヨークタイムズ 記事(英語)
https://www.nytimes.com/2019/03/26/arts/design/newhouse-christies-auct
ion-geffen.html


続いて同じクリスティーズのイブニングセールに出品されたRobert Rauschenb
erg (ロバート・ラウシェンバーグ 1925-2008)の「Buffalo II」、
これも5000万ドルから7000万ドルの評価額でしたが、結果は8880.5万ドル。
ジョン・F・ケネディ暗殺後に制作されたこの作品は、1964年のヴェネツィアビ
エンナーレでグランプリを獲得。
今回の落札額は同作家の作品としては最高額です。

女性作家作品では、Louise Bourgeois (ルイーズ・ブルジョア 1911-2010)の
「Spider」が3205.5万ドルで落札。

□クリスティーズ 2019/5/15 NY Post-War and Contemporary Art Evening 
Saleイブニングセール 落札結果
https://www.christies.com/post-war-and-contemporary-art-28020.aspx?lid
=1&dt=230620191125&saletitle=

モダンアート部門では、毎度おなじみのモネの「積みわら」が、サザビーズで
1107万ドル(約120億円)で最高額更新となりました。
詳しくは下記サイトでご覧ください。
□美術手帖 サイト(日本語)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/19838


もう少し身近で、しかも手堅く親しみのわく作品のオークションとして注目し
たいのが、業界第3位のフィリップスのイブニングセールでした。

5/16のイブニングセールへの出品作品はとても親近感のわくラインナップです。

デ・クーニング、バスキア、マーク・ブラッドフォード、ロイ・リキテンスタ
インなど、部屋に飾りたいと思える作品がズラッと並びました。

一つ話題になった作品を挙げるとすると、ユニクロのコラボTシャツで話題のあ
のKAWS(1974-)の「THE WALK HOME」。60万ドルから80万ドルの評価が、ふた
をあけると595万ドル(約6億6000万円)。

今年の4月に香港のオークションで吃驚落札となった、「The Kaws Album, 200
5」に続く金額となりました。ちなみに4月のオークションの落札者は、あのア
イドル歌手ジャスティン・ビーバーとの噂も。

□美術手帖 香港サザビーズのKAWSオークション (日本語)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/19604
□フィリップスオークション 2019/5/16 NY コンテンポラリーアートイブニ
ングセール
https://www.phillips.com/auctions/auction/NY010319


今回もARTPRICEの記事を基本にざっと5月のイブニングセールをご紹介しました。
この他にも取り上げたい作品はたくさんあるのですが、いつもの通り価格と話
題性でピックアップ致しました。。
取りこぼしはまたの機会に。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■スプートニクとガガリーンの闇 20 内藤陽介
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ルナ1号

1958年の時点で人工衛星の地球周回軌道投入に成功していた米ソ両国にとっ
て、次なる課題となったのが無人の月探査だった。

1958年9月以降、米国はパイオニア月探査機の打ち上げを繰り返していたが、
成果を上げることができなかった。一方、ソ連もルナ探査機を3回にわたって
打ち上げたものの、1958年中はすべて失敗に終わっている。

しかし、1959年1月1日、ソ連首相のフルシチョフが新年の辞で社会主義の
優位をうたいあげ、その翌日の2日、バイコヌール宇宙基地から探査機を載せ
て打ち上げられたボストーク・ロケットは、ついに月へと向かう軌道に探査機
を投入することに成功した。

ルナ1号である。
ルナ1号の目的は月面への着陸ないしは衝突だったが結果的に、同機は1月4
日に月から5995キロの地点を通過し、初期の目的を達成できずに終わっている。

もちろん、米国はU-2偵察機により、ルナ1号の打ち上げを察知しており、ソ連
の“失敗”も把握していたが、世界の世論は、米国のパイオニア1号が達成し
ていた高度記録をソ連があっさりと破ったことに加え、衛星からナトリウムを
放出して“人工彗星”をつくる実験に成功したこと、さらに、第2宇宙速度達
成を達成したことに目を奪われ、スプートニク・ショック以来のソ連優位のイ
メージはますます強固になった。

ソ連科学アカデミーのブラゴヌラボフが「月ロケットのスピードは非常に大き
く月の重力圏に入るには早すぎた。ロケットは月の衛星にはならず月を飛びこ
して太陽系内の宇宙を飛び続けるだろう」と“弁明”したことも、かえって、
宇宙開発競争におけるソ連の優位を世界に印象づけ、多くの人々に月一番乗り
もソ連が達成するのではないかと思わせる効果をもたらしたといってよい。

はたして、ソ連は早速、ルナ1号の打ち上げを1月27日からの党大会を記念して
のものと主張。これに先立つ1月4日から、副首相のミコヤンはルナ1号の成
功を手土産に意気揚々と訪米する。

前回の本連載でご紹介した“ソヴィエト人民による宇宙征服”のモチーフは、
こうした文脈の下で党大会に合わせて発行されたもので、公式には、スプート
ニク1−3号の人工衛星とルナ1号を打ち上げたロケットを描くと説明されて
いる。しかし、切手の製作準備が進められていた1958年中、ソ連がルナ探査機
の打ち上げにことごとく失敗していたことを考えると、ルナ1号そのものが描か
れていないことと併せて、これは後付けの説明のように思われる。

ちなみに、ソ連がルナ1号打ち上げ成功の記念切手2種を発行したのは、打ち上
げから3ヶ月以上がたった4月13日のことである。おそらく、それまでの経緯
からして、打ち上げの成功を確認してからでないと、切手の制作作業に取り掛
かれなかったためであろう。

2種類の記念切手のうち、赤い40コペイカ切手(
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201906241059328b7.jpg 

は、南北アメリカ大陸の上空を通過し、月を飛び越すロケットを描いており、
ブラゴヌラボフ発言と同様、米国に対するソ連の優位を強調するプロパガンダ
効果を狙った内容となっている。

一方、青い40コペイカ切手(
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/2019062410593082b.jpg 

は、1月2日に打ち上げられたロケットが、3日、4日、5日と地球の周りを周回し、
月方向へと飛んで行ったイメージが表現されている。こちらに描かれている地
球の地図はモスクワを含むユーラシア大陸とオーストラリア、アフリカの一部
となっているが、日本地図の部分は本州・四国・九州が一体化し、北海道と樺
太が一体化しているなど、かなりいい加減である。

ちなみに、ソ連ないしはロシアが“デザイン”として作成する世界地図はかな
りデフォルメされていることも珍しくない。
たとえば、
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20190624105933b2f.jpg

は、ハバロフスクの戦没者慰霊碑の前に設置された、戦没者の分布を示す地球
儀だが、日本列島は本州と北海道をつなげてアヒルのような格好になっていて、
九州や四国、沖縄などは完全に無視されている)、その場合には、今回の青い
切手同様、北方領土問題の焦点となっている千島列島が無視されていることも
多い。

縮尺の問題で、千島列島を表現できないという物理的な制約もあるのだろうが、
領土問題を抱える国はあらゆる手段を通じて係争地の領有権を主張するのが一
般的であることを考えると、北方領土を不法占拠しているロシア側の主張を強
調するような地図になっていないのはいささか意外な感じがする。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
パレスチナ現代史: 岩のドームの郵便学』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
関西はもう7月になると言うのにまだ梅雨入りしていない。本メルマガを出し
て2日するとようやく梅雨入りしそうな感じだが、いつまで梅雨が続くかどう
かもよくわからない。7月入るまでに梅雨が終わったりしないだろうな?

などと言ってると本日梅雨入りした。

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