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[本]のメルマガ vol.707

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■■ [本]のメルマガ                 2019.02.05.発行
■■                              vol.707
■■  mailmagazine of books       [実は食べられるという話 号]
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『魔法使いたちの料理帳』

オーレリア・ボーポミエ著 田中裕子訳
B5変形判 192頁 本体2,400円+税 ISBN: 9784562056286

読んで見て食べるファンタジー! 『ナルニア国物語』『アラジン』『アーサ
ー王物語』から『メアリー・ポピンズ』『オズの魔法使い』『ハリー・ポッタ
ー』まで、写真と共に名作ファンタジーの世界を作って味わう100のレシピ!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その32「イラクサ」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ スリップの話

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その32「イラクサ」

 イラクサときいて、あなたはどんな物語を思い浮かべるだろうか?

 アンデルセン童話集の中の『野の白鳥』が物語の中では一番有名かもしれな
い。

 物語はこうだ。ある国の王さまは十一人の王子と一人の姫に恵まれていたの
だが、ある日再婚をする。新しい后様は、魔法を使って王子たちを白鳥に変え
て城から追い払ってしまう。同じようにエリサ姫も胡桃の汁などを擦り付けら
れて醜い姿に変えられて、城から追われてしまう。森をさまよい、湖で身を清
めて元の姿に戻ったエリサは、白鳥の姿の兄たちに巡り合う。彼らに連れられ
て海の向こうの国へ渡り、その国の王様に見初められて城へ連れていかれる。
けれども、エリサは、夢の中の仙女から、沈黙を守るように言われていて、一
言も口をきくことができない。そして、ひたすら編み物をしている。仙女が言
うには、兄たちの魔法をとくためには、洞穴と墓場にあるイラクサを摘んでア
マ糸にしたもので鎖帷子を作り、それを兄たちに着せなくてはいけないという
のだ。

 この物語の中に出てくるイラクサの痛そうな事、仙女が手にしたイラクサを
見せてこう言うのだ、

「私の手に持っている、このトゲトゲのイラクサをごらん!…中略…それをお
まえはつみ取るのです。たとえ、そのために、ひふがヒリヒリして火ぶくれが
できても、がまんおし!それから、足でイラクサをふみしだくのですよ。そう
するとアマ糸がとれるから、それをより合わせて、長い袖のついた、くさりか
たびらを十一枚おあみなさい」

 エリサの手や腕は火ぶくれだらけになるけれど、一番下のお兄さん白鳥の涙
が触れた時だけ、治るらしい。

 そんな試練に耐えてイラクサを編み続けたエリサが魔女と間違えられて絞首
刑台に連れられて行った時、やっと、十一枚のイラクサの鎖帷子が片袖を残し
てできあがり、白鳥の王子たちは人間に戻ることができる。

 この物語で描かれるイラクサの痛さ(「がまんおし!」と、いわれてもねえ
……)と、この草が生える墓地の情景の気味悪さに、この草ばかりは触れては
いけない禁断の草なのだと知ったのだ。


 ところがある日、このイラクサが、実は食べられるという話を聞いたのだっ
た。

 それは現代のセルビアでの物語だった。

 <それがすべて、底をつくと祖母は「建物の周りに萌えているイラクサの若
葉を見つけて摘んでおいで」と言った。イラクサで、本物のホウレンソウみた
いなスープを作ってくれた。ピッタの生地を作って、そこに湯がいたイラクサ
を巻き込んで、ゼーリェ(菜っ葉の一種)のピッタみたいなものを焼いてくれ
た。>

 へええ、イラクサって食べられるんだ。と、私は驚いたのだが、その続きに
はこうある。

<じきにイラクサの若葉もなくなった。後には動物たちが小便をかけ、人間が
唾を吐いたイラクサの茎だけが残った。やがて茎さえもなくなった。ぼくたち
がすべて食べ尽したのだ。>

イラクサを?
すべて?

 そう、この食べ物が出てくるのは、1991年からの十年間、バルカン半島の多
民族国家ユーゴスラビアを解体させた内戦時下の物語なのだ。

『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著
 
 民族が違い宗教が違う国々。そこで起きた戦争の下、難民となった人々が語
った戦時下での食べ物の記憶が記されたこの本を、私はなんとジャンル分けし
ていいかわからない。
 著者の友人たちが語る戦時下での食糧事情や非常事態での料理の方法、難民
への食糧支援の現状などを通して、いかに生きのびたかが語られる貴重な記録
であり、何代にもわたる料理や食べ物の記憶でもある。
 口承文芸の国でもあるというセルビアにおいて、まだ若い記憶の詰まったこ
の語りは、実に貴重なものであると同時に、物語というには生々しく、難民と
いうものが次々に発生している世界の状況を思わされずにはいられないものだ。

 そこでは、アンデルセンの物語の中で、触るだけで火ぶくれがするイラクサ
までもが食べられているという事に、私は驚いたし、おびえもした。

 ただ、この西洋イラクサというのは、ヨーロッパでは実によくみられる植物
らしく、放っておくと庭がイラクサだらけになってしまうというほどの繁殖力
の強い雑草らしい。

 イラクサには薬効もあって、アレルギー薬としてそのお茶も注目されている
らしい。そういう観点で食べられることがあっても、平時にはあまり誰も食べ
ようとしないようだ。
 
 例えば、この本の著者は最後にイラクサのスープ(チョルバ・オト・コブリ
エ)のレシピをのせている。レストランで出しているところもあると書いてい
るが、家族は著者のほかに誰もこれを好まないとある。

 非常時の味なのだろうか?

<戦争になって初めてイラクサを食べました。まずいと言われるでしょう?で
も、とても美味しかった。最高だったわ。チュスパイズという名前の料理、ホ
ウレンソウのように湯がいてから、小麦粉でとろみをつけます>

と、別の語り手も言っているのだが。
 
 この本には戦時に食べたものとして野にある草の花のてんぷらなどが語られ
ている。これらの戦時下で草を食べた記憶というものは、日本でも第二次大戦
下の記憶として語られているのだが、今の若者で聞いたことがある人はいるだ
ろうか?

 ノビルやタンポポ、どんぐりの実。

 今でもいつでも食べられるけれど、誰も食べようとはしない植物。

 何かの時のために記憶の中には残しておかなくてはならない食べ物だけれど、
それを食べなくてはならないようなときが二度と来なければいいなんと思える
食べ物だ。

 「蕁麻にな触れそ……愛の絆の固ければ」

 これは、『チャタレイ夫人の恋人』の中で、主人公のコニーがピアノを弾き
ながら歌う歌だけれど、もはや、この歌を思い浮かべると、戦時下で家族の為
にイラクサを摘むような場面が思い浮かんでしまうのだ。

 そして、このイラクサのスープの話は、戦争というものへの恐怖を心の奥底
に、深く植え付けるのだ。
 
 普段は触ることも恐れる草を摘むとき、家族への愛や、次の日も生き延びよ
うとする意志などが大地に試されるような気がしてくる。

 食べてみたくはあるけれど、食べるときが来ないでほしい本の中の食物、そ
れが、私にとってはこのイラクサのスープなのだ。

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『アンデルセン童話集2』   アンデルセン著 大畑末吉訳 岩波少年文庫
『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著  勁草書房
『チャタレイ夫人の恋人』   D.H.ロレンス著 伊藤整訳  新潮文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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スリップの話

 とある場でスリップの話をした。といっても滑った話でも女性用下着の話で
もない。書籍に入っている奴のことである。

 このメルマガの読者の方はきっとご存じだと思う。でも、もしかしたら、知
らないという方も増えているかもしれない。

 先日、ソフトバンクの通信障害が起こった際、公衆電話の掛け方がわからな
い、さらには、受話器の戻し方がわからない、テレホンカードって何?という
パニックが起こったという話も聞いた。スリップも同じようなことになってい
る可能性もある。

 スリップというのは、書籍に入っている細長い短冊上の紙のことである。二
つ折りになっていて、上の部分が丸く切られており、出っ張っている。

 本来、これは書店で回収されるものであり、読者の手には渡らないはずのも
のであるが、最近のネット書店では抜かずに配送してしまうこともあり、しお
り代わりに使っている人も多いかもしれない。

 で、このスリップをよく見てみると、表面と裏面(正確には、どっちが表で
どっちが裏なのかは私は知らない。)で書かれている内容が違うことに気付く。

 どちらかが注文カード(だいたい、出っ張ったボウズの部分がくっついてい
る方である。)になっており、反対側が売上カードになっている。

 注文カードには、「帳合・書店名」とか「注文数」とかの欄がある。実は昔
の書店や取次は、この紙で注文をしていたのである。書店がバンセンという判
子を押し、冊数を記載する。記載が無い場合には1冊ということになる。で、
取次に渡す。取次さんは自社の倉庫に行き、同じ本を探し出し、このスリップ
の注文カードを入れて書店に納品する。恐るべき人海戦術。

 売上カードには、このような説明が書かれている。「販売実績として配本等
の参考資料に活用させていただきます。(中略)お手数でも毎月定期的にお送
りください。」つまり、書店に、出版社に送り返して欲しい、と言っているの
だ。

 出版社によっては、この売上カードにインセンティブ(報酬)をつけている
ところもあった。締め前ともなると、その出版社の本で書店があふれかえるこ
とになっていたのはひとつの風物詩である。

 さて。

 こんな涙ぐましい手作業の数々も、基本的には大書店を中心に、POSレジ
を活用した自動発注システムに切り替わっている。当然、出版社との間もデー
タでやりとりするので、売上カードも必要が無い。町の小さな書店ではいまだ
に活用しているんだろうか? そもそも売上カード送っても配本に影響なさそ
うではあるが。

 取次も当然のように進化している。ピックアップが完全自動ってことはない
だろうが、少なくともスリップの注文カードを手で挟んで、という非効率な業
務はイレギュラーになりつつあると思う。

 で、ひとつ疑問なのは、このスリップはいつまで書籍に入り続けるのだろう
か、ということである。無くしちゃマズいんだろうか?

 ちなみに私は未だにガラケーであるが、携帯会社からついに、2022年3月末
でガラケー廃止するとの通知が来た。まだ2年以上もひっぱるあたりが日本の
すごいところだと思う。

 以前、ある方の講演を聞いていて、面白いことを言っていた。高速道路にETC
の仕組みを入れる際、日本の場合には、全車がETC対応にならないだろうからと
上下にばったんばったん開くゲートをつけた。これにより、ETC対応車も減速し
なければならないので、渋滞は緩和されなかった。シンガポールでは、法律で
義務化し、補助金もつけた。結果としてゲートをつけなくてよかったので設備
投資コストもかからず、渋滞も緩和された、というお話。

 スリップ無くせば、少しでも出版社の利益率って上がらないんだろうか?

 などと思う今日この頃であった。

 ガラケー愛好家としては、個人的に、少し、寂しい気もしますが。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れましたすみません。平成が終わるのを理由に、いろんなサービスが
終わりそうな今年ですね。(aguni原口)

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