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[本]のメルマガ vol.667

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□■[本]のメルマガ【vol.667】17年12月25日発行 
                   [電池寿命は3週間 号]
 http://honmaga.net/ 
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□■     創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4379名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→イタリア高級レジデンス事情

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→日本は例外だった?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→あの、神戸のクリスマスツリーの件

★「はてな?現代美術編」 koko
→映画『ノクターナル アニマルズ(夜の獣たち)』を見よう

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→スプートニク切手ラッシュ

→----------------------------------------------------------------
★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『「食」の図書館 ハチミツの歴史』
           ルーシー・M・ロング著 大山晶訳

四六判 192ページ 本体2,200円+税 ISBN:9784562054114

現代人にとっては甘味料だが、ハチミツは古来神々の食べ物であり、薬、保存
料、武器でさえあった。ミツバチと養蜂、食べ方・飲み方の歴史から、政治、
経済、文化との関係まで、ハチミツと人間との甘美な歴史を描く。レシピ付。

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■トピックス
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■トピックス募集中です!

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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第85回 高級レジデンスの夢をみる

観光客の多いローマやフィレンツェでは、ツーリストに部屋貸しをして収入を
えるために不動産を買うのが流行っているという。

歴史的旧市街なら、この2都市以外でも、北はトリノ、ミラノ、ヴェローナから、
南はナポリ、パレルモと、ここ4、5年にみられる顕著な傾向のよう。

住宅の賃貸や売買をあつかう業界誌には月刊850万部というテクノカーザ(
TECNOCASA)誌がある。それによると、こうしたビジネスが成長していて、どん
な家があるのかネットでも検索できる。
(イタリア語 https://www.tecnocasa.it/

短期滞在の部屋貸しがわりに安定した収入源になるのは私も身近にみた。夫の
妹がフィレンツェ旧市街にある建物の一隅の、改造が必要な1LDKくらいの家を
買い、天井から床下までも改築・改装のあと、賃貸の事務を扱うエージェント
を通して貸したのだ。彼女の場合、ゆくゆくは一人娘が使う家として購入し、
その代金と改造費が少しでも回収できればいいと思っていたようだが。

その家からは旧市街の名所旧跡には徒歩で行けるし、近くに食品を買える市場
やスーパーもあるという立地の良さに、小さな子ども一人の夫婦なら十分に住
めるような広さだった。

最初のツーリストを見つけるまで数ヶ月しかかからなかったと思う。数人が借
りたあと、その家はイタリアワインの売買に手を染めた米国人の女性が住んで
から気に入られてしまい、仕事で米国に帰ったりフィレンツェに戻ったりする
彼女に独占されることになった。

こうして部屋貸しが順調にいくかと思われたが、2年ぐらいたったあと、購入
した家の代金と改造費の何パーセントしか回収しないうちに(たぶん)、娘に
新たなボーイフレンドができて自分の家として住みだしたから、義妹のビジネ
スへの思惑は外れてしまったのだ。

もう一人、この副業をしている人に日本人女性Aさんがいる。義妹よりも先に
部屋貸しを始めていた。本業がコーディネーターの彼女は住んでいる部屋の隣
の空室を買えるという幸運に恵まれ、内装をすっかり新しくして貸す準備がで
きた部屋を見せてくれた。

Aさんの場合は顧客がほぼ例外なく短期間しか滞在しないツーリストで、やは
りエージェントが賃貸管理を請けおい、賃貸終了の時には借りたほうも貸した
ほうも自由に相手についてコメントすると聞いた。イタリア人の好きな“民主
的”方法!と感嘆した覚えがある。

不動産売買といえば、経済状況が回復すると、超富裕層は現代アートを買うの
かもしれないが、ふつうの富裕層は部屋貸しなどという経済的見返りも求めず、
ただ美しい景観と理想的な居住条件がかなった場所に家やセカンドハウスを求
めるようだ。

とくに北イタリアの住人やさらに北にある英国、ベルギー、ドイツ、オースト
リアなどから買い手が多いのは、観光でも滞在者が増えている南イタリアのシ
チリア。島を縁取るように点在する海辺の都市に高級レジデンスを探し出して
買いあさっているらしい。

1平米当たりの価格が高い順に、タオルミーナ、チェファル、パレルモ、カター
ニア、シラクーザ、トラーパニなど。そこでは太陽と潮風とこれ以上ないくら
いの美観と美味な食べものには恵まれ、観光地としても人気が高まっている。

売れている家の平均価格は、改築が必要な物件でも、すでに改築後でも、1平方
メートルにつき3,000ユーロ(約40万5千円)のようだ。家の大きさは平均として
50から100平方メートルという。

求められる条件はともかく海に面しているか、または海の近く、あるいは旧市
街のメインストリートにあり、バルコニーかテラスが付いていなければならな
い。物件には昔風の農園あり、旧貴族の館もあり...。

太陽と歴史と芸術を求めて北方からイタリアにやってきた往時の“グランド・
ツアー”を思い出してしまう。やはり、その子孫たちが巨大な根をはり始めて
いるのかもしれない。

さて、またも新しい年を迎えるころとなりました。
来年はどのような風が吹くのでしょうか、よいお年をお迎えください。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。来年3月には創刊15年
を迎えるメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門で2007年
メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/


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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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マルク・レヴィンソン 松本裕訳 『例外時代 高度成長はいかに特殊であっ
たのか』 みすず書房 3800円

 NHKの朝の連続テレビ小説「ひよっこ」が話題になりました。茨城県の田舎か
ら高度経済成長期に上京した一人の少女の物語。出稼ぎで「蒸発」した父親等、
負の部分も描かれていましたが、高度経済成長期のイメージは「ひよっこ」に
おいてもポジティブなものでした。日本人の多くはあの時代への郷愁をいまだ
に抱いている。20世紀の第三・四半期は、世界中が経済成長のブームにわい
ていました。この経済成長の時代は世界の経済史の中でも例外的な事象であり、
残念ながら当面再来しないだろう。これが本書の主張です。

 戦災からの復興需要。家電や自動車などの大衆消費財の普及。石油が驚くほ
ど安価であったこと。強力なドルが世界貿易を支え、アメリカのアジアでの戦
争が特需景気を世界にもたらしたこと…。様々な要因が複合して、経済成長の
時代はもたらされたのです。この時代には、完全雇用を実現し、人々に豊かな
生活を保障することが、西側先進諸国における「社会契約」となっていました。
福祉国家が生まれ、労働組合は大きな力をもち、国営企業がどこの国でも幅を
きかせ、競争を制限するための様々な規制が作られていたのです。
 
1971年にアメリカは、ニクソン声明によって、ドルと各国通貨との固定的
な交換レートを定めたブレトンウッズ体制からの離脱を表明します。1973
年の秋には、ペルシャ湾岸の産油国が原油価格の大幅値上げを宣言。この「オ
イルショック」によって世界は、不況であるにも関わらず物価が高騰する「ス
タグフレーション」という経済学の常識を超えた現象に苦しめられます。各国
の政治指導者は経済の混乱の中でなす術を知りません。権力者たちの「ガバナ
ビリティ(統治能力)」の欠如が、世界的に問題視されていました。

強いドルと安い石油。経済成長の時代を支えた車の両輪が失われてしまいまし
た。70年代の後半から世界は、低成長の時代へと転じていきます。かの「社
会契約」を維持することもできなくなってしまいました。失業率は高騰し、財
政赤字の拡大によって各種社会保障が削減されます。国営企業の民営化と規制
緩和もトレンドとなります。産業構造の変化によって経済成長の時代を支えた
工業団地は廃墟と化し、労働組合も無力化してしまいました。「労働分配率」
は低下の一途を辿り、資本家と勤労者の格差が拡大していきます。

経済成長を可能にする生産性の向上も1970年代以降鈍化したまま。「東ア
ジアの虎」や「BRICS」等、経済成長の牽引車となることが期待された新興諸国
もすぐに成長の壁に突き当たってしまいました。目覚ましい生産性の向上を示
しているのは、コンピュータや娯楽の部門だけ。生産性の向上の速度を無視し
て政策介入によって経済を成長させようとしたことが、バブル崩壊やリーマン
ショック等80年代以降の数多の経済の破局の原因となっていると著者は言い
ます。「アベノミクス」の行く末を案じたのは、私だけでしょうか。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「ジェラシーが支配する国」高文研

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「神戸はどうなってる?」の話

神戸に生まれて神戸に育って…多分このまま神戸で死んで行くであろう人間と
しては「ここ最近の神戸のあり方」が気になっている。

震災以降なかなか経済的に伸びない中、「神戸開港150年」とかで色々なイベン
トが行われてきたが、どうも「一過性で先を見てない感」が強く、多少なりと
も税金を払っている身にしては「いや、使うのはええけどもっと良い使い方っ
てあるんちゃうん?」と感じてしまう。

今回の「世界一のクリスマスツリープロジェクト」もそう。

神戸市民の私がネットの情報でそんなことがあると知った。もしかしたら何年
も前からこれに関わっていて私が知らないだけなのかと調べて見たら、結構降っ
て湧いたような話に神戸市がのっかかって、しかも色々炎上してる事をまるで
「ない事のように」して切り抜ける気のようだ。

「山っ気のある人物の話にのっかかってしまった」
それもどうかと思うけど、問題は後半。
「ない事のように」は「神戸市には責任がない」としようとしているところ。

炎上の理由は色々あるが特に問題が大きいのが「後付けで震災で亡くなった方
への鎮魂」をくっつけたところだと思う。当事者の神戸市がなぜそんな後付け
に乗るのか?つまり神戸市の中でも(いや、神戸市役所と言うべきか?)「阪
神淡路大震災」は過去のモノになっているような気がするのだ。

色々と見栄えの良いイベントを考え経済的にボトムアップしたい気持ちはわか
る。逆にショービジネスと割り切ってやれば「株式会社神戸市」と言われた昔
のように、やるなあと思うかもしれない。

しかし今回のケースは明らか「胡散臭い話を検証もせず乗っかかって」「しか
も批判が出ると次々後付けで理由をつけ」「挙句、最もダメな部分を当事者で
ある神戸市が認めた」状態だ。

「インスタ映えを考え…」どこかの総理大臣が地方再生の鍵だと言ってたヤツ
だ。
まさかそれを信じてやったわけではないだろうが、まさしくインスタ映えのみ
考えて中身の付いてこなかったイベントだと言える。

そしてこの件の責任を取るものがいない。

神戸開港150年プロジェクトには大きなお金が動いている。なんども言うが、い
かに「少なくとも」私の税金が使われているのだ。心ある使い方をして欲しい
と望むのは当然だろう。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第81回 『映画で現代美術をチラ見する』

今年もあと僅かになりました。忙しい一年でした。

バタバタした日常の合間をぬって映画館へ飛び込むのが今年一年の私の過ごし
方だったような気がします。

昔はゆったりと映画館へ行き、いろんなことを考えていたのですが、忙しさに
かまけて思い返すことができない日々が続きました。

そこで今回は本来はじっくりと考えなければならなかった映画を一つ取りあげ
ます。

それも飛び切り極上の現代美術作品が画面を飾る映画です。
『ノクターナル アニマルズ(夜の獣たち)』、監督TOM FORD(トム・フォー
ド)の現代美術の嗜好を一目で見せてくれる興味深い映画です。

トム・フォードは90年代にパリでイヴ・サンローランとグッチのクリエイティ
ブディレクターとして敏腕をふるい、当時のモード界を大きく変えた時代の寵
児です。
その頃から映画を撮ることを考えてたそうです。
映画についてはまずは下記をお読みください。
□美術手帖
https://bijutsutecho.com/insight/8201/
□美術担当 Shane Valentino氏インタヴュー記事
https://www.honeyee.com/art-culture/000601

今年11月公開だったこの映画がDVDになるまでしばらく時間がかかるかもしれま
せんが、もし鑑賞の機会があれば何も事前にわかっていないより、少しわかっ
てみた方がずっと映像が面白くなると思います。

この映画がいかに完璧なイメージに基づき制作されたか、たった2本目の映画と
は思えない出来栄えにも驚くはずです。TOM FORD恐るべし。


映画としての話はさておき、本題はここに登場するアート作品たち。
今時の最先端現代アート作品とはどのようなものをいうのかが一目でわかるラ
インアップです。

しかし深堀するとキリがないので、今回は観る者の視線をある意味釘付けにす
るという意味において、数々の作品の中から2つ選んでお話します。

まずはJohn Currin(ジョン・カリン)。
1962年コロラド生まれのアーティストで、最初は抽象画を描いていたらしいで
す。
今はフィギュラティブ(具象)絵画作家として第一線で活躍しています。

それが一目でわかるのがこのコラム恒例オークション落札結果。下記に添付し
た彼の最高落札作品≪Nice'n easy≫の価格は特別に高額ですが、概ねその他の
作品も数億から数千万円で取引される売れっ子です。

映画の中では主人公の女性ギャラリストスーザンのデスクの後ろにかかってい
る、女性のお尻が丸い鏡にアップになっている作品がそれ。
□映画中作品 『Nude in Convex Mirror』(2015)画像
https://theartstack.com/artist/john-currin/nude-convex-mirror

ジョン・カリンの作品シリーズにはアダルト雑誌の表紙を題材にしたものもあ
り、クラシックな技法を使いつつ、かなり過激にデフォルメした具象画が高い
評価を得ています。

この彼特有のデフォルメが何故か脳内に残像として残ります。ここでは紹介し
ませんが、アダルト雑誌のシリーズはかなりエログロです。一言でいえば、春
画をみているような感じでしょうか。強烈この上ないです。


□クリスティーズ ≪Nice'n easy≫ 落札結果(英語)
http://www.christies.com/lotfinder/Lot/john-currin-b-1962-nice-n-easy-
6038647-details.aspx
□2016年秋のNYオークション落札結果top10(英語)
https://news.artnet.com/market/top-10-records-new-york-auctions-757085

参考画像
□John Currin作品画像  NAVER matome
https://matome.naver.jp/odai/2137286013901297401

そしてもう一つがオープニングのビデオインスタレーション。
この作品中に現れる2つの映画のために制作された偽りのアート作品。
豊満を通り越したっぷりとした体をくねらす裸の女性たちが織り成すイメージ
は、最新の現代アートヴィジュアルです。

この作品は映画のオープニングに、主人公のアートギャラリーオーナースーザ
ンが仕掛けた展覧会会場に展示されている作品という仕立て。その異様な光景
がぐっと観客の神経を映画の世界へ向かわせます。

映画の批評家によってはこの映像がいただけないという人も多いようですが、
私はスーザンが超敏腕のギャラリストであることを一目で理解させ、さらに現
実と虚構、制御と開放の間の危うい彼女の内面を物語ってもいるとも思うので
す。
個人的にある種の感動を覚える衝撃映像でした。

このオープニングについて、トム・フォードのVULTURE誌でのコメントは以下の
通り。

≪全ては少しばかりのおとぎ話のようなもので、(肥満の女性たちは)あなた
を導いてくれる魔女のようなものだ。彼女たちはある意味ワルキューレ(戦場
において死を定め、勝敗を決める女性的存在)のようなもの。映画全体にまじ
ないを唱えている。だからあのシークエンスには様々な理由があるんだ。特に、
観客を最初からぐっとつかみ、映画に引き込むために≫

≪でも僕がヌード撮影をして、彼女たち(『ノクターナル・アニマルズ』オー
プニングの女性たち)に恋をした時に変わった。僕は自分の最初の気持ちに罪
を感じたんだ。彼女たちはとても美しく、楽しそうにそこにいた。彼らは誰に
も阻害されることなく、そして映画が伝えたいことの小宇宙だったことに気が
ついた。彼女たちは世の中がそうすべきだとしていた文化を放棄していた。と
ても自由なんだ。(映画の主人公の)スーザンが制限しているものだ。≫

私も「あんな醜い体を晒すなんて見るに耐えられない」と思った後、そう思う
ことに罪悪感を覚えた自分がいて、やはりとても小市民的に感じたのです。

このようなことを考えさせてくれる映像は、やはり現代アートなんじゃないか
なぁ。本当によくこんな映像撮ったものです。

□ノクターナル アニマルズ オープニング映像(youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=KP-WFDLG5xQ&has_verified=1
※さすがに年齢制限がかかってます!

では楽しい年末年始をお過ごしください。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 4 内藤陽介
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スプートニク1号

スプートニク1号の打ち上げ成功(1957年10月4日)から3日後の10月7日、ソ
連はコンスタンチン・ツィオルコフスキー生誕100周年の記念切手
https://blog-imgs-108.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/2017092521384508f.jpg 

を発行した。
ツィオルコフスキーの誕生日は1857年9月17日(新暦では9月5日)、命日は
1935年9月19日で、切手発行日の10月7日はそのいずれにも該当しない。

もちろん、ツィオルコフスキーの生誕100年は、人工衛星打ち上げの成否にかか
わらず、記念すべき出来事ではあるのだが、当初の打ち上げ予定日が10月6日
だったことを考えると、人工衛星の打ち上げ成功を見越して、その翌日に記念
切手の発行日が設定されたと考えるのが妥当なように思われる。

たとえば、打ち上げの成功を受けて、開発責任者のセルゲイ・パヴロヴィチ・
コロリョフは次のように演説しており、彼がツィオルコフスキー(の生誕100年)
を意識していたことは明らかである。(以下、ロシア語からの訳文は富田信之
『ロシア宇宙開発史 気球からヴォストークまで』 東京大学出版会 2012年)

  同志諸君!本日人類の最高の知性が夢見たことが現実となった。 
  コンスタンチン・エドゥアルドヴィチ・ツィオルコフスキーの、
  人類は永久に地球上にとどまることはないであろうとの預言が
  実現した。本日、世界初の人工衛星が地球周回軌道上に投入さ
  れた。その結果として、宇宙の征服が始まった。そして、宇宙
  空間への道を敷いた最初の国は、我が国ソヴィエト国家である。
  諸君とともに、この歴史的な日を祝いたい。

 ただし、コロリョフの興奮とは1957年10月4日の時点では、打ち上げに関わっ
ていた実務担当者の多くは、ロケットR-7が正常に飛ぶか否かに関心があり、ス
タッフの一人で打ち上げ当日、モスクワにいたボリス・エフセーヴィチ・チェ
ルトクは「我々は、宇宙時代が今始まったなどと思いもよらずに散会し、深夜、
黙々と家路に就いた」と証言している。

フルシチョフもまた、スプートニク1号の打ち上げ成功は、いまだ成功に至らぬ
長距離誘導ロケットに代わる科学技術上の業績の一つとしてしか考えておらず、
当初は、その政治的な重要性をあまり理解していなかったとされる。ただし、
実際には、モスクワ放送(現ロシアの声)は、国内向けのロシア語放送よりも
先に、米国向けの英語放送で打ち上げ成功の第一報を報じており、打ち上げの
成功を対米戦略に活用しようという意思はあったらしい。

ところが、スプートニク1号の打ち上げ成功は、ソ連関係者の予想をはるかに上
回る国際的な反響を呼び起こした。このため、政治家・フルシチョフは宇宙活
動の成果を最大限に活用することを決断。ソ連のメディアはソヴィエト科学の
“勝利”を大々的に報じ、国民は、詳細はわからないものの、“なにかすごい
こと”をソ連の科学者が達成したことは理解し、フルシチョフに対する支持も
上昇した。

これを受けて、打ち上げからほぼ1ヶ月後の11月5日、スプートニク1号の成功
を記念する切手が発行された。
http://blog-imgs-30.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20090620161556085.jpg

切手は地球を周回するスプートニク1号を描いたもので、左上には1957年10月
4日の日付も入っている。また、スプートニク1号は直径58cmのアルミニウム
製の球であり、それに長さ2.4mのアンテナ4本が一方向についていたが、実際
に打ち上げが成功するまで、この形状は外部に明らかにされなかったから、切
手のデザインは打ち上げの成功に制作され、そこから突貫作業で切手の製造が
進められたと考えてよいだろう。

ちなみに、スプートニク1号を球形にしたのはコロリョフのこだわりで、表面
積が最小で内容積が最大となるのが大きな利点だった。また、表面を磨き上げ
ることによって、反射率を高めて熱吸収率を下げれば表面の温度上昇を抑える
こともできる。さらに、反射により地上からも衛星が見えるという効果も期待
されていた。

さらに、11月28日には、10月7日に発行されたツィオルコフスキー生誕100周年
の記念切手に打ち上げ成功の記念銘を加刷した切手

https://blog-imgs-108.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20171225141538efd.jpg
も発行されている。
新たにオリジナル・デザインの切手を発行するよりも、既に存在する切手に文
字を加刷する方が製造工程としてははるかに簡単で制作期間も短くて済む。そ
れだけに、加刷切手に先んじて正刷切手が先に発行されたことは、結果的に、
正刷記念切手の製造がいかに突貫作業で進められたかを物語るものといってよ
い。

なお、11月5日に発行された切手は青みがかった用紙に紺色で印刷されている
が、12月28日には白紙に明るい青色で印刷された切手が発行されている。両者
のデザインと額面は全く同じで刷色も同系統なので、このような変更が行われ
る必然性はあまりないように思われるが、あるいは、突貫作業で作られたため
に用紙やインクの調達の関係で、2度に分けて製造・発行せざるを得なかった
ということなのかもしれない。

なお、上記のような切手とは別に、1958年用の年賀はがきには、スプートニク
1号にまたがる子供を取り上げたものもあった。
https://blog-imgs-108.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20171225141539fe9.jpg 

スプートニク1号の反響に気をよくしたフルシチョフは、10月10日、コロリョフ
に対して、11月7日の革命記念日までにスプートニク2号を打ち上げるよう命じ、
それは、11月3日に実現された。

しかし、スプートニク2号は、12月から販売される年賀はがきのデザインに加
えるには間に合わなかったのか、1958年用の年賀はがきにはスプートニク2号
を取り上げたものはなく、1号と2号を並べて描くデザインの絵葉書が出回る
ようになるのは1958年以降のことだった。

ちなみに、スプートニク1号の電池寿命は3週間で、打ち上げから22日後には
電池が切れたが、その後も衛星は軌道周回を続け、年が明け、打ち上げから92
日後の1958年1月4日に高度がさがり、大気圏に再突入して消滅した
 
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。
主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本
郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、
『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川
選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作
『リオデジャネイロ歴史紀行』えにし書房 電子書籍で「切手と戦争 もうひ
とつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21などがある。
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り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

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■編集後記
当メルマガの読者は、発足の経緯から出版社や取次、書店に勤務している方、
そして学者さんが比較的多そうな感じというか、だいぶ前に開催されたオフ会
の参加者は、8割ほどがそんな人だったような記憶がある。
http://blog.bizknowledge.jp/?eid=880518

そんな読者にとって、とても興味深く読んでもらえそうなネタを見つけた。ネ
タ元さんが多忙ですぐにはインタビューは受けてもらえないが、時間ができた
ら受けると了解をいただいている。

出版の重要な、ある一要素に革命的なパラダイムチェンジを起こすかも知れな
い・・・来月か、再来月か、下手すりゃ半年後か・・・いつ記事ができるか不
明ですが、お楽しみに!

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