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[本]のメルマガ vol.658

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□■[本]のメルマガ【vol.658】17年9月25日発行 
                   [現代のラテン語は英語? 号]
 http://honmaga.net/ 
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□■     創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4415名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→休載です。

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→大学の国際評価もほどほどにしないと・・・

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→漫画家として「銭」しゃなく「線」にこだわる

★「はてな?現代美術編」 koko
→アントワープ編その1

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→新連載スタートはツィオルコフスキーから
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp
『北朝鮮を撮ってきた!:アメリカ人女性カメラマン「不思議の国」漫遊記』

ウェンディ・E・シモンズ著 藤田美菜子訳
四六判 304ページ 本体1,800円+税 ISBN:9784562054268

外国人向けに演出されたものをどれほど見せられようと、「普通の人々」との
交流を求め、秘められた「本物」の感情を見つけよう。どこまで北朝鮮の「真
実」に迫れるのか。普通の人の目線で追ったフォトドキュメント!

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■トピックス
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■トピックス募集中です!
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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コンラート・パウル・リースマン 齊藤成夫・斉藤直樹訳
 『反教養の理論 大学改革の錯誤』 法政大学出版局 2800円

 「大学改革」の掛け声の下、教員たちは意味不明の会議と書類書きに追われ
ています。研究成果の競争ではなく、「科研費」をはじめとする外部資金の獲
得競争に教員は血眼です。学生の「面倒見」は中堅私学の至上命令。その学生
たちたるや、学力も人間的な成熟度も往時の中学生のレベルです。専攻会議は、
さながら中学校の職員会議の様相を呈します。これが日本の大学教員の日常で
す。ヨーロッパの大学はもっとましなのかと思っていましたが、ウイーン大学
の教授が書いた本書を読むと日本と似たり寄ったりの状況のようです。

「教養」とは、精神の成長を助け、人々の自律的な判断を可能にする無形の財
貨です。研究と一体となった教育によって若者のなかに「教養」を育んでいく
ことが、フンボルトによって創始された、ドイツ大学の理念でした。かつてア
ドルノは、生煮えの物知りをもてはやす「半教養」を嘆いていました。現在の
大学を支配しているのは、「反教養」の理念だと著者は言います。答えはすで
にきまっている。ビジネスの論理にかない、実利をもたらすものこそが善であ
り真なのです。教員は自分の頭で考えることを禁止されています。

大学関係者の頭の中を占めているのは、各種ランキングで高い評価を獲得する
ことです。そのために大学は、女性教員の比率を高め、留学生を多く受け容れ
ています。教員には、外部資金を多く獲得し、引用頻度の高い論文を書くこと
が求められています。簡単には評価されにくいオリジナルな研究は歓迎されま
せん。ランキング至上主義は、高校以下のレベルの学校にも及んでいます。15
歳の子どもたちを対象とした国際学力比較調査(PISA)でオーストリアの成績
が低迷した時には、教育界をあげての大パニックが生じています。

ヨーロッパ諸国は、多様な各国の高等教育制度を一元的に統一してしまいまし
た。そしてすべてのヨーロッパの学生が、均質な教育を受けられるよう、英語
で授業を行うことが奨励されるようになったのです。ルターによる聖書の俗語
訳以来、自国語で学問を行うことがヨーロッパ諸国の目標となってきました。
著者はこの改革を、ルター以来のヨーロッパのよき伝統を否定するものである
と同時に、自国の文化や社会についての研究と教育が、その国のことばで行わ
れなくなることは、重大な文化的損失につながると批判しています。

かつての大学人は、国民に対して責任感を抱く「知識人」でした。他方、いま
の大学人は、自国語ならざることば(英語)を用いる知識層という意味で中世
の聖職者に似た存在になってしまったと著者は言います。ヨーロッパ諸国は大
衆化した大学を見捨て、エリート研究機関に力を注ぐ傾向にあります。大学人
たちは、民衆には何の関心もなく、エリート研究機関に参入するための利己的
な競争に余念がありません。ヨーロッパ諸国を覆う排外主義は、利己的なエリー
ト層に対する「大衆の反逆」なのかと本書を読んで思いました。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「ジェラシーが支配する国」高文研

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「アナログ線」の話

最近、マンガの原画展が盛んに行われている。残念ながら東京限定開催が多い
中、この夏山岸涼子先生と萩尾望都先生の原画を立て続けで見ることが出来た。
その前もいろいろな先生の原画を見たが、やはりリアルタイムで憧れた作家の
しかもリアルタイムで読んでいた作品の原画は感慨深かい。

もちろん現在も現役で描いておられるのだがこちらが老けたせいか自分に「あ
の頃」の様な没入感がなく、そうなると要らないアラ探しをしてしまう。ファ
ンとは厄介なものだ。両先生、すみません。

実は最近とみに自分が引く「アナログの線」のクオリティの低さに辟易してし
まい「やっぱりデジタルに移行しないとダメなのかなぁ」と思っていた矢先の
事で、変色した写植文字にも魅力を感じた。

考えれば両氏の「その頃」とは連載も持ち、読み切りも描き、しかも体力気力
が最盛期だったはず。あの線の強さや魅力、繊細さは全て大量の原稿を描く事
で培われたのだろう。
私ごとき者が「線のクオリティ云々」と言ってる場合じゃない。

もちろん他にも要因はある事は重々承知しているが…やはり手仕事のクオリティ
は膨大な作業量に比例するのだ、と改めて感じた。

そう、学生に呪文の様に言っている「描けば絶対上手くなる」

「上手い」かどうかはともかくも線のクオリティは間違いなく上がるのだ。
自分がそれを忘れてどうする。

「紙にペン」だけ。

「便利な道具はどんどん使いましょう。デジタルツールも道具に他ならないか
ら使いこなしてね」とは言っているが…まずは大量の原稿をアナログで描く事
で得られるモノは忘れてはいけないと再認識した夏だった。

しかし…現在の読者たちは「データ」しか存在しないモノにこんな風に思い入
れする事が出来るのかな。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第79回 
『アントワープへの旅 その1─ 大人の町、クールキャピタルを散歩する』


先月休載させていただいていた間、ベルギー・オランダ・ドイツへ旅行に行っ
てきました。

久しぶりのヨーロッパ周遊です。今回はその旅行で立ち寄った、未だ私が行っ
たことがなくて気になってたまらなかった町をご案内します。家族旅行でした
ので十分に観光ができたわけではありません。正直全く時間が足りませんでし
た。

今回は実際に見聞してきたことというよりは、今までに読み聞きした話に旅行
体験を加えています。旅の参考にしてください。

その最初はベルギー第2の都市『アントワープ(Antwerpe)』です。

なぜ私がこの町になが〜い間想いを馳せていたかというと、まずはそこが90年
代アントワープ王立芸術アカデミー出身のファッションデザイナー、アントワー
プ6(ドリス・ヴァン・ノッテン、アン・ドゥムルメステール、ダーク・ビッ
ケンバーグなど)の町だったから。

90年代のパリコレを見ていた私はアントワープに興味津々でした。マルタン・
マンジェラもアントワープのデザイナーでしたっけ。ともかく≪オシャレ≫な
町のイメージが強烈でした。

またパリで知り合ったジュエリーデザイナーが語る、ダイヤモンド取引で光輝
く西のエルサレム:アントワープの町の話を聞くにつれ興味が深まりました。

1456年、この街に住むユダヤ系ベルギー人がダイヤモンド研磨用の円盤を発明。
街にはユダヤ人のダイヤモンドカット職人が集まるようになったのが始まりだ
そうです。

そして当然フランドル絵画の代表アーティスト:ブリューゲルやルーベンスの
街でもあるのですから私の興味は尽きないわけです。ちなみに「フランダース
の犬」で出てきた教会はこのアントワープの大聖堂です。

しかしその頃はパリから中途半端(つまり車では遠いし、飛行機では近すぎる)
な距離にあるこの町に行くタイミングがありませんでした。

パリからたったの340キロほどの位置にあるアントワープは、手前にブリュッセ
ルやゲント、もっと海側にあがるとブルージュなどの観光地が並ぶため、パリ
から観光していくと辿り着くのに時間がかかるベルギー東部のオランダ国境付
近に位置します。

そのため中世の頃から領土の帰属がいろいろ変わってきました。神聖ローマ帝
国時代しかり、ハプスブルグ家の時代しかり、町の盛衰は時代によって大きく
変化してきました。

アントワープの町に流れ着くスヘルデ川はその源流をフランスに発し、ベルギー
西部とオランダ南西部を流れ北海に流入します。水運上重要な川で、運河でラ
イン川やマース川さらにセーヌ川とつながっていて、フランスのダンケルクや
リール、ベルギーの首都ブリュッセルやリエージュといった工業都市を結びま
す。

この川を境としてフランスと神聖ローマ帝国の政治的・文化的国境となったこ
ともあります。

アントワープの町の由来はこのスヘルデ川の川岸の城に住む巨人アンティゴー
ンとローマ戦士の英雄ブラボーの伝説に由来するといわれています。

□アントワープ(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%A6%E3%
82%A7%E3%83%AB%E3%83%9A%E3%83%B3


今でもヨーロッパ第2の貿易港をもつこの町は、さほど大きくない町の中にキュッ
とエッセンスがつまった心地良い土地でした。

例えばまずは、≪食≫から。
『The Jane』という2015年の世界のベストレストランに選ばれた店もアントワー
プにあります。

□The Jane HP(英語)
https://www.thejaneantwerp.com/?lang=en
このレストラン以外にもとても今どきのおしゃれインテリアのレストランがた
くさんあるのがこの町。
□Yonder(仏語、旅行ガイドサイト)このページのレストランの写真がとても
きれいです。
http://www.yonder.fr/destinations/grand-angle/anvers-capitale-
gastronomique-les-meilleurs-restaurants

続いて≪衣≫のブティック。
『Vier Antwerp』は今年東京と熊本に初進出のスケートショップです。ストリー
トブランドとハイエンドな服を扱うセレクトショップ。
□Vier Antwerp HP(英語)
https://www.vierantwerp.com/index.php/brands/raf-simons.html

素晴らしく美しいアントワープ中央駅からスヘルデ川のある西に向かって20分
ほど歩けば大聖堂と市庁舎のあるグロートマルクトに出ます。
それまでにたくさんのブティックや飲食店が並び、不可思議な建物にも遭遇で
きます。

広場から南に下ると地元の人で賑わうレストランやおしゃれなウィンドウのお
店もたくさんありました。川沿いには美術館やレストランがあり、夕日とステー
ン城を望みながら食事できるスポットもあります。

□ヨーロッパの最もクールな町、アントワープ。Yonder記事(仏語)※写真が
綺麗なのでURL添付しました。
アントワープ中央駅は必見です。
http://www.yonder.fr/destinations/grand-angle/est-ce-qu-anvers-est-la-
ville-la-plus-cool-d-europe

この町が最も栄えた16世紀から17世紀のアートが、世界でも有名なフランドル
の画家を輩出した時期です。
現代美術でもかなり高額で取引されるアントワープ出身アーティストもいます。
というわけで、次回はこの町の美術を中心にご紹介します。

□アントワープ観光サイト
http://www.visitflanders.com/ja/destinations/antwerp/index.jsp

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 1 内藤陽介
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宇宙旅行の父・ツィオルコフスキー

 ことし(2017年)は、1957年10月4日にソ連が人類初の人工衛星、スプート
ニク1号を打ち上げてから60周年にあたる。

 東西冷戦の時代、米ソ両国は自らの宇宙開発が相手よりも先んじている、す
なわち、相手に対して科学技術ならびに軍事において優位に立っていることを
アピールするためにさまざまな切手を発行した。そして、宇宙開発の当事者で
ある米ソ両国のみならず、両陣営に属する国々も、さまざまな思惑から各陣営
の宇宙開発を讃える切手を盛んに発行していた。1950-70年代の切手ブームの時
代、そうした切手に魅了された記憶をもつ元切手少年は少なくないはずだ。

 筆者もまた、その一人として、1950年代から1960年代にかけての宇宙切手に
ついて『切手が語る宇宙開発史』と題するコラムを、『ハッカー・ジャパン』
誌に連載していたことがある。このときの連載では、とりあえず、スプートニ
ク1号の打ち上げから1961年4月12日のユーリ・ガガーリンによる人類初の有人
宇宙飛行までを扱ったのだが、回数と紙幅の制約もあり、関連する切手類のご
く一部しか取り上げることができないまま、残念ながら、同誌が2013年3月号
をもって休刊になったため、連載も24回で強制終了となってしまった。

 そこで、スプートニク1号の打ち上げから60周年となったのを機に、あらた
めて、『ハッカー・ジャパン』誌の連載の補遺を兼ねて、今月から何回かにわ
けて、“スプートニク”とその時代について、宇宙切手や絵葉書、郵便物など
から興味深いモノを気の向くままにピックアップしてご紹介していきたい。

 第1回目の今回は、前史として、“宇宙旅行の父”とも称されるコンスタンチ
ン・ツィオルコフスキーの切手をとりあげることにしよう。

 コンスタン・ツィオルコフスキーは、ロシア帝国時代の1857年9月17日、(
新暦では9月5日)、モスクワ南東のリャザン県イジェフスクで生まれた。ツィ
オルコフスキー家は、リトアニア・ポーランド王国の貴族、シュラフタの血統
で、18世紀末にキエフに移住してきた。父親のエドヴァルトは森林管理の役人
で、母親のマリア・ユマシェワはヴォルガ・タタール人である。

 幼少の頃から科学の方面には並々ならぬ才能を発揮していたツィオルコフス
キー少年だったが、1867年、10歳の時に風邪をこじらせて猩紅熱にかかり、そ
れが元で聴力をほとんど失った。さらに、1870年、13歳の頃に母親が他界。こ
うしたことが重なり、1873年、古典ギムナージヤ(高等中学校)を退学した。

 しかし、その才能を惜しんだ父親の援助を得て、モスクワに出て(本来の目
的であった帝室モスクワ技術学校への入学は、ギムナージヤを中退したため、
入学資格を満たさず、断念)図書館で数学や物理学、天文学を学んだ。

 その後、1879年、教師資格を取得し、1880年以降、モスクワ南方のボロフス
クやカルーガで数学教師として教鞭を執るかたわら、1935年に亡くなるまで、
気球や飛行船に関する数多くの論文やエッセイを発表した。

 なかでも、1897年に発表した“ツィオルコフスキーの公式”は「噴射ガスの
速度が大きく、ロケット点火時と燃焼終了時の質量比が大きい程、より大きな
速度を得られる」というもので、液体燃料が固体燃料に比べて遥かに大きな排
気速度を出せることを示したものとして画期的なものだった。

 さらに、1903年、独自のロケット理論をまとめた代表作『反作用利用装置に
よる宇宙探検』を著す。これは同年に科学雑誌『モスクワ科学評論』にも掲載
され、この中で宇宙旅行や軌道エレベータの可能性や液体水素と液体酸素を燃
料とする流線型のロケットの設計図も発表された。

 さらに、1903年の論文を継承・改良して発表した1911年の論文では「地球は
人類のゆりかごである。しかし人類はゆりかごにいつまでも留まっていないだ
ろう」との名言を記している。この一言は、後に彼が“宇宙旅行の父”と呼ば
れる所以となるものだったが、当時のアカデミズムからはほとんど相手にされ
ず、狂人扱いされることさえあった。

 1917年にロシア革命が起こり、1918年に共産主義アカデミーが創設されると
(1919年に社会主義社会科学アカデミーと改称)、ツィオルコフスキーは会員
募集に応募して選ばれた。ただし、彼がアカデミーの会員資格を得たのは、宇
宙ロケットの研究によってではなく、帝政末期の1912年以来、彼が熱心に取り
組んでいた金属製飛行船の開発が評価されてのことであった。

 その後、1922年末にソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)が成立すると、
ツェッペリンに代表されるドイツの飛行船開発に刺激を受けた共産党政権は、
金属製飛行船の開発者としてのツィオルコフスキーに注目し、特に空軍は彼を
積極的に支援した。また、彼が帝政時代には不遇をかこっていたという経歴の
持ち主であることに加え、自然を征服し、改良するという彼の思想は社会主義
イデオロギーとも親和性の高いものであったことも、プラスに作用した。

 かくして、ツィオルコフスキーは1925年に空軍アカデミーの名誉教授となり、
多額の年金を国から支給され、1932年には労働赤旗勲章を授与された。さらに、
1935年9月19日にツィオルコフスキーが亡くなった際には、彼の葬儀は国葬の
礼をもって執り行われた。これらは、いずれも、彼の飛行船開発の功績に対し
て与えられたものである。

 その後、第二次大戦を経て、気球と飛行船は時代遅れの輸送手段となっていっ
たが、それと入れ替わりに、ロケット開発の重要性が増してくると、今度は、
ツィオルコフスキーの位置づけは“ロケットの父”へと変化していく。

 すなわち、1939年に第二次大戦が勃発した当初、ソ連は核分裂を兵器に応用
することは現実的ではないと考えていたが、大戦中、米独などで核兵器の開発
が進められていることを探知すると、1943年、物理学者イーゴリ・ワシリエヴィ
チ・クルチャトフに対して核兵器の研究を要請した。

 さらに、1945年8月、広島・長崎への原子爆弾投下を知ると、核兵器の持つ
政治的効果をすぐに覚り、早くも同月中には核兵器開発を促進するための“第
一委員会”を発足させている。そうしたこともあって、1949年8月29日には、
ソ連は原爆実験に成功する。

 ところで、原子爆弾を実際に兵器として利用するためには、爆弾そのものの
品質向上とともに、運搬手段を確保しなければならない。

 ここで、ロケット開発が重要な課題となってくる。1949年、ソ連が最初の原
爆実験に成功した時点では、彼らは欧州大陸を標的として、3000キロ程度の射
程のミサイルで十分と考えていたが、翌1950年1月、米国のトルーマン政権が水
素爆弾の製造を指示すると、ソ連は“自衛のため”、米国を直接核攻撃できる
ミサイルを開発する必要に迫られた。

 こうした背景の下、1951年8月15日、ソ連は“ソ連の科学者”と題する16種
セットの切手を発行し、そのうちの1枚に、ロケットを背景にツィオルコフスキー
の肖像を描く切手を

https://blog-imgs-108.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201709252130240dc.jpg

発行し、ツィオルコフスキーを“ロケットの父”として顕彰している。
 1957年のスプートニク1号の打ち上げはそうしたミサイル開発の延長線上に達
成されたものだったが、そのタイミングが1957年になったのは、同年が国際地
球観測年にあたっていたことに加え、ツィオルコフスキーの生誕100周年にあたっ
ていたという事情もあった。

 このため、スプートニク1号の打ち上げ成功(1957年10月4日)を確認したう
えで、その3日後(10月7日)に発行されたツィオルコフスキー生誕100周年の
記念切手
https://blog-imgs-108.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/2017092521384508f.jpg

は、ツィオルコフスキーの肖像の両脇に、人工衛星と宇宙旅行のイメージを廃
したデザインになっている。

 以後、東西冷戦という国際環境の下で、宇宙開発はイデオロギーや武力に関
係なく、ソ連の威信を内外に示すことができる、数少ない文化資源として活用
されることになり、ツィオルコフスキーも“宇宙旅行の父”として神格化され
ていくのである。

1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。
主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本
郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、
『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川
選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作
『リオデジャネイロ歴史紀行』えにし書房 電子書籍で「切手と戦争 もうひ
とつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21などがある。
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■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4415名の読者の皆さんに配信してお
り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

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■編集後記

内藤陽介氏の連載に出てくるツィオルコフスキーについ私が初めて知ったのは
1986年に週刊ヤングジャンプで連載が開始されたコミック「栄光なき天才たち」
のシリーズだ。ツィオルコフスキーから、フォン・ブラウンまでの宇宙開発史
を群像劇として描いていたのが今も印象に残っている。

同作で同じく群像劇として描かれたのに「鈴木商店」がある。鈴木商店を源流
の一つとする総合商社、双日では今年神戸開港150年、鈴木商店誕生100年と言
うことで特別サイトを作っていて、同作品の一部を見ることができる。

http://sp.sojitz.com/kobe150/

これ、双日のうち源流となる日商の分しかなく、それも全編が読めるわけでも
ない。岩井商店やニチメンの描き下ろしイラストまで作っているんだから、双
日が作者の森田信吾氏に依頼して全編描いていただいて一冊の本にして欲しい
と思うのは私だけだろうか・・・

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