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[本]のメルマガ vol.641

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■■ [本]のメルマガ                 2017.04.05.発行
■■                              vol.641
■■  mailmagazine of books            [ほとんど病気 号]
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『国際テロリズム:その戦術と実態から抑止まで』

安部川元伸著
四六判 284ページ 本体2500円+税 ISBN:9784562053902

公安調査庁で長年にわたって国際情勢、国際テロの情報収集、分析にあたった
著者が、ひろく市民に向けて紹介する「現代のテロ」の実際とその対策。大規
模テロが他人事とは言えない時代の必須の情報を網羅した決定版。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その10「シュークルートとザワークラウト」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『ぼくのあさ』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その10「シュークルートとザワークラウト」

 フランスではシュークルートといい、ドイツではザワークラウトという食べ
物が気になって仕方がない。日本風に書くならば、キャベツの酢漬け。でも実
は酢漬けではなくて、発酵して酸っぱくなった漬物のような食べ物らしい。
 
 イメージとしてはソーセージや豚肉の添え物に過ぎない感じなのだけれど、
何故だかどちらの国でも、そこの名物のように言われている不思議な食べ物だ。 
 
 そこで、本の中に出てくるこの食物の場面を探って行って、どちらが魅力的
だか見てみたいと思う。 

 まず、何故この食べ物が、フランスの名物だと思ったかを思い出してみた。
それは、この作品の中で、アメリカ人の観光客が、大喜びでシュークルートを
食べるこの名場面を読んだからなのだ。 

レーモン・クノー作の『地下鉄のザジ』 

 パリの叔父の家に預けられた少女が、変な大人たちをきりきり舞いさせなが
ら、パリを歩きまわる話。なぜ地下鉄なのかと言うと、ザジは地下鉄に乗るの
を楽しみにしていたのに、あいにくストで止まっているから。とても、奇妙で
おかしな物語だ。

 ここで、シュークルートが出てくるのは、ビヤホール「回転楕円体」。 

 なぜかアメリカ人観光客の団体に気に入られたせいで、ザジの叔父のガブリ
エルは、添乗員代わりに彼らを引き連れて歩くことになる。そこで、彼は、観
光客にこのビヤホールで食事させることにする。 

<いっぽう原住民風腰巻きを纏ったボーイたちは給仕を開始し、 
 風邪を引いたビール壜や 
 くさったソーセージをふりかけたシュークルートや、 
 カビの生えたベーコンや、なめし革みたいなハムや、 
 芽の生えたジャガ芋などを運び込み、 
 この調子で好意的味覚の無分別な鑑賞の前に 
 お仏蘭西料理の精華を提供する。> 

 すみません、まずそうで。 
 でも、アメリカ人観光客は、この異国の味に大満足らしい。 

<「ウーム、ウーム」 
 シュークルート皿の底の底まで味わって旅行者の一人がいう。 
 身振りで、彼はもっと欲しいことを示す> 

 ね、やっぱり、お仏蘭西料理の精華なんだ。 

 でも、もちろんザジは、こんなまずそうなものは食べられないとだだをこね
る。 

「アメリカ人の観光客のくせに 
 うちのアルザス・シュークルートに文句を言うなんて」 
 
 店の支配人は怒り狂う。けれども、連れに警官らしき者がいるのに気づいて、
慌てて彼は、お嬢様は何をお望みかと訊ねる。 

 すると、ザジは、 

「代わりのシュークルートよ」 
と、いいはなつのだ。 
 
 でも、この店はまともに食べられるものはないほどひどい店らしく、ザジは
シュークルートが食べられないまま終わるのだ。

 シュークルートというのは、パリの場末の味なのだろうか? 

 そんな風に思えるのは、シモーヌ・ド・ボーヴォワール作の『招かれた女』
の一場面にも、モンマルトルの怪しげな店の一品として描かれているからだ。 


 病気で入院中のフランソワーズに、グザヴィエールという若い女性が、ピエ
ールと出かけた夜の様子を話している。 

 二人は、モンマルトルのピガル広場をぶらぶら探検し、ちょっと曖昧屋らし
いかんじもした赤い家に入ったのだった。そして、その満員の酒場で見た、酔
っぱらいたちについて語って聞かせる。

<「それからシュークルートを食べたの」 

 「シュークルートを食べた?」 

 「ええ、そうよ」
 グザヴィエールは思うつぼにはまったとほくそえんでいる。 
 「とてもおいしかったわ」 
 
 フランソワーズは、眼に不敵な輝きを見せて、 
 「あたしにもシュークルート」
 と言う、グザヴィエールの様子を想像した> 

 この本を最初に読んだのはとてもは若い時だったので、「曖昧屋」もシュー
クルートもわからず、とても不思議な気がした。 

 この場面をフランス語で書くと、 

 ca vait l’air tout intime et un peu louche. 

 で、 その家は、 
 「少しいかがわしい感じがした」 
 と訳すところだ。 

(辞書によると、曖昧屋とは、料理屋・茶屋・旅館などに見せかけて売春をす
る家のことらしい。曖昧茶屋。曖昧宿ともいうそうだ) 

 ま、それはともかく、普段は「何も食べない、痩せぎすの少女」 
 のイメージがあるグザヴィエールが、 シュークルートを食べる場面が、そ
んなに意外だったのかい、フランソワーズ?とも思った。 

 翻訳では「酢漬けキャベツ」に「シュークルート」とルビが振ってあったの
で、 よけいに、キャベツだけ食べたように思えたのだ。 

 そこで、どういうお料理なのか、もう少し具体的に味わった作品はないのか
と思って調べると、ありました。しかも食べたのは日本人。 

 岡本かの子女史です。 

 彼女は仏蘭西が大好きで、特に仏蘭西料理が気に入ったらしく、

<私は巴里で本当においしい西洋料理を味った。而も格式張らない如何にも打
 ち解けて、痒いところを掻いてもらうような家庭料理を、一流の店でも三四
 流の店でも食べさせて貰った>

 と、随筆『巴里の食事』に、書いている。 


 そんな彼女が気に入ったのが、高級娼婦が出入りするようなカフェの一角で
食べたシュークルートだったらしい。

 残念ながら、本文は夫である岡本一平が書いたものなのだが、引用してみよ
う。 

 『お総菜』(昭和一七年十一小学館刊『かの子の記』 )

 この中で一平は、かの子が特殊なお嬢様育ちで、いわゆる出来合いのお総菜
のたぐいは一つも口にせず成長し、一平と家庭を持ってから食べる用になった
ことを強調している。 
 そして、幼児の時禁じられていたからこそ、それらのお総菜に愛着を持って
いたことが語られる。 

 その上で、シュークルートが姿を現すのだ。 

<……大概な名料理店の名料理を味った。しかし一方巴里式お総菜料理も疎か
 にはしなかった。かの女はモンマルトルのいぶせきキャフェで、売れ残りの
 遊び女たちにじろじろ眺められながら、シュークルートを食べた。 
 キャベツの刻んだものが酢と油で和えられて、皿の上に、肘附き座布団ほど
 の厚みで載せられている、 
 その上に温めた指型腸詰が二本載っている。 
 これをこなして食べている女史の唇が、腕白小僧のように油っぽく光る。> 
 

 かの子本人の言葉ではないので味はわからないけれど、「肘附き座布団」に
よって、どうも、かなりの量が出てくる感じは、分かる気がする。 こんなふ
うに場末のキャフェでシュークルートを食べるかの子の様子を描きながら、こ
の一品は、巴里のお総菜だと一平は言いたいようだ。 

 きっとそうなのだろう。 

 シュークルートは缶詰或いは漬物屋で買って来る酢漬けキャベツによって、
手早く出来る一品で、家庭で気楽に出せる一品なのだ。ボリュームもあってビ
ールにピッタリで、レストランではなく、ビヤホールやキャフェには必ずある
一品という感じだ。 


 ところで、岡本かの子は、随筆の『欧州土産話』で、独逸料理についても言
及しているのだが、どうも、性に合わなかったようだ。
 それどころか、 

<ドイツ人の感覚が粗野で教養の足りないことが独逸料理を見るとよく判るよ
 うな気がします。 
 独逸の料理は紀元四世紀頃に諸方を移動していた野蛮時代から大した発達を
 見ないのではないかと思われます。> 

 とまで言いきっている。 

 ひどいじゃないか。 

 じゃあ、ザワークラウトはどう思ったのだろう? 
 実はここにも僅かばかり出てくる。 

<キャベツは細く刻んで酢にします。 
 これも独逸人の好物らしく八百屋でも食料品店でも売っていますが、 
 非常に酸っぱくておいしいとは思えませんでした。> 

 とあって、料理として味わってはいないようだ。 

 ザワークラウトは、ドイツ特有の家庭料理だと思う。かの子自身もドイツで
は女中さんを雇って家庭生活を営んでいたというのだが、料理下手の女中さん
だったのか、ドイツ料理の評価が低い。

 岡本かの子が、欧州旅行をしたのは、昭和5年から7年にかけて。この以前
から、いわゆる円本景気で、多くの作家が欧州を訪れていた。例えば昭和3年
には吉屋信子と門馬千代が、翌年の昭和4年には宮本百合子と湯浅芳子が、昭
和6年には、林芙美子がパリを訪れている。そして、かの子が去って7年後の
昭和14年ごろ、野上弥生子が夫の豊一郎とともに、欧州にやってくる。

 いずれも特にシュークルートやザワークラウトについての記載はない。

 けれども、宮本百合子の小説『道標』の中に、それらしい記載がある。この
小説には、ベルリンのビヤホールや怪しげなカフェの場面の描写があるのだが、
ビールのおいしさについては書いてあるのだが、おつまみについては何も書い
ていない。
 それらしいものが出てくるのは、親戚の医者である津山に連れられて、食事
をする場面だ。

<伸子たちが会うときは、とかくいつもくたびれているソフト・カラーがもの
 がたっているように、金の使いかたのこまかい津山進治郎は、女づれでも、
 塩豚とキャベジを水っぽく煮たようなベルリンの小店の惣菜をふるまった>

 まあ、水っぽくてまずかったという感じのようだけれど、調べてみると、こ
れこそ、ベルリン名物のアイスバインのザワークラウト添えじゃあないですか。
 津山は素朴な名物料理をご馳走したつもりだったかもしれないのに、百合子
たちは旅情をそこには感じなかったとみえる。

 野上弥生子の日記には、時期が時期だけに、戦争の予感が時たま顔を出す。
彼女もドイツを汽車で旅してまわり、ドイツの食べ物をまずいと思うのだが、
特にパンについて、こんなことを言っている。

<フランスではタダで卓においてあるパンが頼まなければ持って来ず、それも
 すゑたやうな茶っぽいパン一つ輪切りにしたもの也>

 まあ、パンというのは、お国柄で全然違うと思うし、いまだにドイツパンと
言うと堅くて茶色くてすっぱみがあるのだから、これは仕方ないと思う。けれ
ども、

<これは私だけの観察ではない。江原氏などもドイツが穀物その他の物資を、
 一朝事に備えて夥しく貯蔵してゐるに相違ないと、見てゐる。その為に一般
 民衆がまづいパンとバタを食べることを余儀なくされてゐるのである。>

と、考えている。そして、パンはベルリンが一番まずく、田舎に行くとましに
なっていると書いている。こんな風に、ロンドンやベルリンで戦争の気配を感
じながらも、彼女たちはそのままパリに戻り、何の危機感もなく、早朝のドー
ムというカフェで、温かいクロワッサンと大コップ入りの珈琲で朝食を堪能す
るのだ。

 まさしく、戦争勃発寸前の8月の日記なのだ。

 最初にあげたボーヴォワールの『招かれた女』も、同じころを舞台にした小
説だけれど、戦争が始まる直前まで、町に物は溢れていて、おいしそうな場面
には事欠かない。ヴァカンスにも出かけている。野上弥生子が、貧しいのか豊
かなのかわからないと書いたドイツとは対照的に、フランスは戦争が始まる直
前まで、おいしいものに溢れた享楽的な場所なのだ。

 さて、こうなっては、絶対においしそうなザワークラウトを探さないと、な
んだかドイツがかわいそうな気がしてきた。 
 焦って、児童書の山を掘り起こしたら、やっと、最初から最後まで、実にお
いしそうなザワークラウトで埋め尽くされている作品を見つけた。 

 それがこれ、 

 プロイスラー作『大どろぼうホッツエンプロッツ ふたたびあらわる』 

 『大どろぼうホッツエンプロッツ』は、全三巻あって、どれも素晴らしい。
ご存知の方も多いと思うけれど、ざっとストーリーを説明したい。主な登場人
物は、カスパールとゼッペルの二人の少年と、カスパールのおばあさん、そし
て、おまわりさんと泥棒のホッツエンプロッツなのだが、その他にも大魔法使
いや妖精や、占い師の魔女などが出てきて、単純な話のようで、実は奥深い楽
しみに充ち溢れている物語なのだ。 

 特に、一巻目は私にとっては素晴らしきジャガイモ本なのだが、それだけで
はなく、プロイスラーの中にあるチェコの昔話が、(彼はドイツ系チェコ人で、
戦後帰れなくなった人) 染み透るような感じであふれている。 
 物語は、一巻目は、お婆さんのコーヒー引きを盗んだホッツエンプロッツを、
少年たちが協力して捕まえるまでのお話。 
二巻目は、脱走したホッヘンプロッツを、又捕まえるまで。 
三巻目は、出所して改心したホッヘンプロッツがどうなったか、
を描いている。

 とにかく、ストーリーといい、面白さといい、やはり一巻目が素晴らしい。 
しかも、この中に少年を奴隷にしてひたすらジャガイモの皮をむかせる場面が
あり、もう、こんなに食べられるのかと思うほど、ジャガイモ料理が並ぶのだ。
さらに、三巻目も、少年たちが食べそびれた杏のケーキといい、ホッツエンプ
ロッツが作る、どろぼう料理(うーん、ニンニクの香り!)といい、なんだか
とてもおいしそう。 

 それなのに、二巻目はなんだか地味なのだ。と、いうのも、少年たちが食べ
そびれたのは、かのザワークラウトとソーセージにすぎないから。 けれども、
この二品が、どんなに愛されて重要な食べ物なのかが、逆にわかるような気も
する物語なのだ。

 冒頭から、いきなりこの二品が現れる。

<レンジの上には、フライパンと並んで、ザワークラウトのはいった大きなな
 べが、かかっていました。ザワークラウトから、ほかほかゆげがあがり、ソ
 ーセージは、じゅじゅう音をたてています。家じゅうに、なんともいえない、
 いいにおいがあふれています>

 ね、こうこなくっちゃ。挿絵で見ると、ザワークラウトは本当に大きな鍋に
入っていて、ふたをおしあげるほどどっさりで、焼きソーセージも大フライパ
ンぎりぎりの長さでとても大きい。

 この家では、木曜のお昼はいつもこのメニュウだ。カスパールとゼッペルの
大好物なので、二人は毎日このメニュウだといいなと思っていて、木曜日はい
つも朝御飯を控えて学校に出かけるほどなのだ。 

 では、そんな大好物のザワークラウトはどうやって作られるのか? 
 買ってきた、あるいは漬けておいたキャベツをそのまま出すのが、ザワーク
ラウトの食べ方ではない。たいてい加熱して、酸味を飛ばし、白ワインを加え
たり、リンゴジュースを入れたり、家庭によって様々な香り付けなどもなされ
るのだ。 

 さて、この物語では、こんな何人前ものご馳走を、牢屋から脱走して逃げて
きたホッツエンプロッツが、食べて(盗んで)しまう。それだけではなく、悔
しがったおばあさんが、泥棒が捕まるまで、二度とこの料理を作らないと宣言
してしまう。さあ、大変……。

 結論を言って申し訳ないのだが、物語の最後には、ホッツエンプロッツは無
事捕まえられるし、おばあさんは張り切ってお祝いのパーティの用事を始める。
日曜日なのに、コネを使ってソーセージを手に入れて、ザワークラウトと焼き
ソーセージを、みんなおなかが痛くなるほど食べ尽すのだ。もちろん大人には
ビールを添えて。
 
 こんな風にザワークラウトで始まってザワークラウトで終わるような物語が
できるほど、ドイツ人は、ザワークラウトが好きなのだとも思えてくる物語だ。

 家庭料理としてこれを味合わなかった岡本かの子は、残念なことをしたと言
えるだろう。ドイツ料理をののしる前に、どこかの家で、家庭料理を食べたら
よかったのにと思う。そうしたら、かの子もホッツエンプロッツのように鍋ご
と食べてしまったかもしれない。

 あるいは、ベルリンの退廃した一面を見ていたなら。

 例えば『道標』で、伸子や素子にベルリンの暗黒面を見学させようと男友達
たちが連れて行ったいくつかの場所のうちの一軒のカフェ。彼女たちに流し眼
を送るレズビアンの踊り子の描写を読みながら、もし、ここのテーブルでザワ
ークラウトが供されたなら、カップルで踊る女たちの様子に目を配りながら、
岡本かの子はその味に舌鼓を打ったかもしれない、と思うのだ。

 場末の味というのは、もしかすると家庭料理への悲しみを込めた郷愁なのか
もしれない。

 昨日わたしが手に入れたドイツ料理店のザワークラウトは、何故か昔懐かし
い祖母の作った白菜の漬物の味がした。酸っぱくなって、発酵した味。

 これをもとに、フランス料理を作ろうか、ドイツ料理を作ろうか、少し思案
に暮れているところだ。もちろん、家庭料理として作るのだけれど、食べると
きには、想像の中の頽廃の風味をスパイスとして、ゆっくりと味わってみよう
と思っている。

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『地下鉄のザジ』中公文庫
『招かれた女』新潮文庫
『食魔 岡本かの子食文学傑作選』講談社文芸文庫
『野上弥生子全集 第II期』岩波書店
『宮本百合子全集』新日本出版
 
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『ぼくのあさ』

 今年の正月明け、母が亡くなった。それから通夜と葬儀の手配、掃除、遺品
の整理、引っ越し、相続手続き等、ばたばたと過ごしてかれこれ3ヵ月が過ぎ
た。

 もともと肺がんが発見されたのが3年前の年末。肺がん自体は分子治療薬が
適合し、最終的にはほとんど収まったのだけれども、その結果、がん性髄膜炎
になり、これが悪化し、歩行困難、難聴、視覚障害などの症状が出て、要介護
状態となった。

 私はちょうどそうなった1年くらいの間、実家に戻ってケアマネとの打ち合
わせから医者との会話、治療方針の相談、それから家事全般をやって過ごして
いた。

 母の死によって、そんな日々が突然終わりを迎えた。幸いにも独り身の私は、
最後の最後まで、母の看病が出来たので、後悔や反省というものはあまりない。
ただ、大きな仕事が終わってしまったような、介護ロスとでも言うべき喪失感
を味わっていて、そろそろ再起動しなくっちゃ、と自分に言い聞かせていると
ころである。

 私が本好きになった原因の大きなひとつは、この母の影響である。といって
も、母が本好きだったという印象はあまりない。そうではなく、子どもの頃に
手作りの絵本を作らせたり、親子で絵本をテーマに語り合う読書会という集ま
りに参加させたりと、本というものの世界を広げるきっかけを作ってくれた。

 特に手作りの絵本に関しては、何歳の頃から何歳の頃までかはわからないが、
毎年、1冊作ることを決めていて、今でもそのときの「作品」が残っている。
しかし、内容については、意味がさっぱりわからない(笑。

 例えば、『ぼくのあさ』という作品。絵は私、母が文章を担当しており、ま
だわかりやすい。朝起きて幼稚園に行くまでの流れをシュールな絵の切り貼り
と文章で表現している。

 裏表紙を見ると母の字で、「3才後半、4才の時、ぼくが書いた絵でママが
絵本を作ってくれました」とあり、当時の私の写真が貼ってある。その下に、
「出品票 東京展絵本の部屋」とあるから、何かのイベントに出品したものな
のだろうということに、今回、初めて気づいた。

 調べたら、こんなサイトが発見した。

東京展
http://www.tokyoten.com/index.html

「作品募集」を見ると、

「東京展」の内容に簡単に触れますと、会員と一般出品者の平面・立体作品の
展示と、絵本の部屋があります。

とあり、確かにここに出品したのだろう。

「東京展略史」を見ると、開始は1975年から、となっており、ちょうど、この
絵本を作った頃に、始まったことがわかる。

http://www.tokyoten.com/history.html

 岡本太郎だの手塚治虫だの、何だかすごいメンバーも出品していたというか
ら、大層な話である。

 『カツオくんのぐるぐる話』は小学生の時の作品。おそらく2、3年生の頃
だと思う。折り紙を手でちぎったものを大きめの点描よろしく、モザイク状に
貼り付け、絵を描いている。何とも暇人な作品である。

 ストーリーは、カツオくんという魚(金銀・オレンジ・赤・黄色で構成され
ており、とてもカツオには見えない)が釣り上げられ、ペットショップで売ら
れているところを男の子に助けられ、その話をタコ先生とクジラくんに報告し、
最後にお腹がすいたと、釣り針についた餌を食べてしまう、というお話。最初
に戻ってしまうところが「ぐるぐる話」なのだろう。

 他にも、タコ星人が地面を掘って何かを探している話とかがあったと思うの
だが、まだ発見できていない。実家のどこかに眠っているのだろう。

 母はどこで覚えたのか、そういうキットが売っていたのか、色画用紙に描い
たものを製本し、表紙にはフィルムを貼って絵本っぽく仕上げてくれていた。
で、今でも残っているというわけである。

 考えてみれば、大学時代に文芸サークルで同人誌を作っていたのも、今、出
版社のようなことをしているのも、そのきっかけはこうした絵本作りの体験か
ら来ているのかもしれない。

 しかし、ぱらぱらと絵本を見ていて、どうも大人になるにつれ、本を作る際
の「楽しさ」とか「自由さ」というものを忘れそうになっているのではないか、
とちょっと思った。

 再起動して、何か楽しい本やお話でも書いてみようかな、と思った。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 引っ越しして1ヵ月、今日、やっと最後の段ボールを開けました。まだまだ
片付いたとか整理できたとは言い難いですが、何とか「何がどこにあるのかが
わかる」状態になりました。

 しかし、物が多い(笑。

 特に、本が多い(笑。

 と、言っている間にも本を買ってしまっているのですから、ほとんど病気と
しか言いようがないですね…。(aguni原口)

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