[本]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [本]のメルマガ vol.635 | main | [本]のメルマガ vol.637 >>
[本]のメルマガ vol.636


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■■------------------------------------------------------------------
 ■■ [本]のメルマガ                 2017.2.15.発行
 ■■                             vol.636
 ■■  mailmagazine of book           [春三番吹きます?号]
 ■■------------------------------------------------------------------
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
 
 『航空から見た戦後昭和史:ビートルズからマッカーサーまで』
 
 夫馬信一著 A5判 本体2500円+税 ISBN:9784562053674
 
 サンフランシスコ講和条約調印、東京五輪、ビートルズ来日、沖縄本土復帰、
 中国との国交正常化など激動の戦後史を、航空を通じて見た異色ノンフィクシ
 ョン。そこには20世紀を彩るVIPたちをはじめ多彩な人々が織りなす熱いド
 ラマがあった。図版・写真340点以上。

【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第42回「JASRACが大手音楽教室から著作権料を徴収しようとしている件
           について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第92回 俳句は、フォークソングのようだ

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → マニアックすぎる日本全国土木遺産案内の本を紹介します

 ★「けやき通りの古本屋から」 / 古書五車堂あるじ 
 → 最終回 これからも本に関わる場所から

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ----------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 ----------------------------------------------------------------------
 ふたつのイベントをご紹介します。
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
 ----------------------------------------------------------------------  
 第42回「JASRACが大手音楽教室から著作権料を徴収しようとしている件につい
         て」
 
 こんにちは。立春も過ぎたはずですが,立春を過ぎたら一段と冷え込んできた
 昨日今日の南東北です。豪雪の被害に遭われたみなさまには,謹んでお見舞い
 申し上げます。
 
 さて,わたしも図書館に関係する者として,著作権・著作権法絡みの世の中の
 動向には,できる限り目配りをするように心がけているところですが,「音楽
 教室から著作権料徴収へ JASRAC方針、反発も」という2月2日付朝日新聞の記
 事(1)には,いささか驚かされました。件の詳細については新聞記事をあたっ
 ていただくことにして,大まかに言えば「演奏権」を盾にJASRAC(日本音楽著
 作権協会)が大手の音楽教室から著作権料を徴収しようとしている,というも
 のです。ここではこの件についてわたしが思うところを1,2述べてまいりまし
 ょう。
 
 その前に,このメールマガジンをお読みのみなさまには釈迦に説法であるとは
 存じますが,前提となる著作権の知識についていくつかおさらいをいたします。
 まず,著作権法上で認められている諸々の「権利」とは,あくまでも当該著作
 物を著した著作者および著作者の権利を譲り受けた著作権者に認められている
 権利のことであり,著作物を利用する立場にある者に認められる権利は存在し
 ない,ということです。そして,著作権法で言う「権利の制限」つまり利用す
 る側が対価を払わずに著作物を利用できるケースとは,『著作権テキスト』
 (2)第8章の見出しにもあるように「著作物等の『例外的な無断使用』ができる
 場合」においてのみ,利用する側に認められる,という立場を著作権法がとっ
 ていることを,この件を考える上では忘れてならないでしょう。
 
 著作権法が例外的な無断使用ができる場合,としているケースを『著作権テキ
 スト』に従って示すと以下のようになります。それぞれの詳細は原テキストに
 当たってください。
 
 1.「私的使用」,「付随対象著作物の利用」等
 2.「教育」関係 
 3.「図書館・美術館・博物館等」関係 
 4.「福祉」関係 
 5.「報道」関係等 
 6.「立法」「司法」「行政」関係 
 7.「非営利・無料」の場合の「上演」「演奏」「上映」「口述」「貸与」等
    関係
 8.「引用」「転載」関係 
 9.「美術品」「写真」「建築」関係 
 10.「コンピュータ・ネットワーク」関係 
 11.「放送局」「有線放送局」関係
 
 この中で今回の一件に関係がありそうだと思われる2番の「教育」関係は,著作
 権法(3)第33条から36条にそれぞれ規定がありますが,これは 複製権と公衆送
 信権が主たる権利制限の対象であるため,今回の一件とは無関係です。
 今回JASRACが日本経済新聞2月11日付の記事で「社交ダンス教室からの徴収を
 巡る裁判で,受講生のみを対象にした音楽の再生でも『公衆』にあたるとの判
 例がでました。教室内における演奏の公(おおやけ)性はすでに結論が出てい
 ます。」(4)(5)として大手音楽教室から著作権料を徴収しようとしているのは,
 7番の「非営利・無料」の場合の「演奏」に,音楽教室での指導者による実演
 が該当しないが故なのです。そのため,大手音楽教室の連合が立ち上げた「音
 楽教育を守る会」が主張する「教室での演奏は教育目的で演奏権は及ばないと
 いう法解釈」(6)は,現行著作権法上では筋が悪い(対抗言論としては無理が
 ある)と考えられます。
 
 むしろここでは,小倉秀夫弁護士が主張する(7)ように,「これらの授業にお
 いて、JASRACが信託譲渡を受けている「音楽著作物」が「演奏」されていると
 言えるのか」という点を問題の俎上に上げるべきではないかと,わたしは考え
 ています。ある作品の勘所〜楽譜の解釈が分かれていたり,楽譜の指示が二通
 り記されているような箇所〜について,限られた数小節を音にして実例を聞か
 せる,ということはありそうですが,果たしてその実例が「実演」として演奏
 権を盾に著作権料を徴収できるものとして成立しているのかどうかは,いささ
 か疑問であると言うことができそうです。これは,最終的には裁判で争われ,
 その判決によって判例として確立するまでは判断が保留されるところではない
 でしょうか。
 
 もう一点,朝日新聞の記事には「作曲家の死後50年が過ぎて著作権が切れた
 クラシック曲も使われる一方,歌謡曲や映画音楽などJASRACが管理する楽曲を
 使っている講座も多いとみて」(8)とあります。音楽のジャンルにもよるので
 しょうが,例えばピアノの学習者に使われる『メトードローズ』や『バイエル
 ピアノ教本』,ブルグミュラーの『25の練習曲』,吹奏楽の分野で使用される
 『アーバン金管教本』のような教則本や練習曲(エテュード)は作者の死後50
 年を過ぎているので,とっくに著作権が切れているわけです。このような著作
 権の切れた著作物を教則本として音楽教育を施している音楽教室を,JASRACは
 どのように合理的に選別していくつもりがあるのでしょうか。今回は大手の音
 楽教室を著作権料徴収の対象にしているとJASRACは表明していますが,大手を
 征服したら次は小規模な街の音楽教室に触手を伸ばすであろうことは,喫茶店
 等からCD演奏の著作権料を聴取する際のJASRACのなりふり構わぬ(失礼)対応
 から考えても,火を見るよりも明らかなことだと思われますが,小規模な音楽
 教室から,どのような合理的な算出方法で演奏権の著作権料を徴収することが
 可能なのか。
 
 今回の一件が円満に解決するとは思えず,いずれ大手音楽教室とJASRACとの法
 廷闘争に向かうことになるのでしょうが,その際にはJASRACからの情報開示
 (例えば,2003年から行われていたという大手音楽教室の交渉の経緯)が不可
 欠になるでしょう。できれば法廷に持ち込まれる前にJASRACからの広範な情報
 開示が行われることを期待しています。わたしのような第三者が,今回の一件
 でのJASRACの対応の是非を考えるためには,これまで以上の情報の開示が不可
 欠です。
 
 では,また次回。
 
 注記
 (1)音楽教室から著作権料徴収へ JASRAC方針、反発も:朝日新聞デジタ
    ル
    http://www.asahi.com/articles/ASK213QYXK21UCVL00P.html
 
 (2)著作権テキスト平成28年版
   http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu
                                                     /pdf/h28_text.pdf
   このテキストは年度ごとに編集・更新されるので注意が必要。
 
 (3)著作権法
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html
 
 (4)音楽教室から著作権料 JASRAC理事長、批判に答える:日本経済新聞
    http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12787480Q7A210C1000000/
 
 (5)ここでJASRAC会長の発言の根拠となっているのが,今回改めて注目されて
    いる「カラオケ法理」である。
   カラオケ法理についてWebではこちらの記事が参考になる。
   IT法務ライブラリ - 著作権の間接侵害(2)カラオケ法理のポイントは
   「管理・支配の要件」「営利目的の要件」:ITpro
    
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20080617/308428/
 
 (6)「音楽教育を守る会」 発足のお知らせ | 共同通信PRワイヤー
    http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201702038454/
   本文でも述べたように「教育目的」での著作権の権利制限に演奏権は含ま
    れない。
   また楽譜の売買に関わる著作権法上の権利は複製権(著作権法第21条)や
    譲渡権(著作権法第26条の2)であり,演奏権とは別に存在する権利であ
    る。
  
 (7)benli: 音楽教室でJASRAC管理楽曲は「演奏」されているのか。
    http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2017/02/jasrac-3747.html
   この記事以外にも,この件に関心がお有りでしたら小椋弁護士のblogの以
    下の記事は読む価値がある。
   benli: 音楽教室とJASRAC
    http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2017/02/jasrac-0677.html
    benli: 還元の要否に関する原則と例外
    
http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2017/02/post-1044.html
 
 (8)注記(1)と同じ記事
 
 今回執筆するにあたって,他にも以下の記事を参考にした。
 
 JASRACが音楽教室からも著作権使用料を徴収しようとする法的根拠は何か?
 (栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
 http://bylines.news.yahoo.co.jp/kuriharakiyoshi/20170202-00067263/
 
 JASRAC、音楽教室から「著作権料」徴収へ…なぜレッスンで使うだけでもダ
 メ? - 弁護士ドットコム

 https://www.bengo4.com/houmu/17/n_5653/
 
 JASRAC音楽教室問題から1週間。<br /> 取材等で話したことをざっくりまと
 めてみる 福井健策|コラム|骨董通り法律事務所 For the Arts
 http://www.kottolaw.com/column/001379.html
 
 参考URLはいずれも2017年2月12日確認。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  
 第92回 俳句は、フォークソングのようだ
 
  ぼくの友人、知人には俳句をたしなむ人が多い。川柳をやっている友人もい
 る。定期的に句会を開いたり、結社に参加したりして吟じているようだ。ぼく
 はといえば、俳句といってまず思い浮かぶのが松尾芭蕉や正岡子規ではなく、
 赤塚不二夫の『おそ松くん』で読んだ「秋深し、タバコふかして 芋ふかし」
 なのだから情けないったらありゃしない。いや、赤塚不二夫は偉大ですけれど。
 
 『俳句世がたり』(小沢信男 岩波新書)を読んだ。面白かった!
  岩波新書といってもかたい本ではないし、いわゆる俳句の入門書ではない。
 みすず書房の月刊誌『みすず』に連載していたエッセイをまとめたもので、小
 沢さんも「はじめに」で書いているが、2010年4月から2016年10月までの日記
 のようでもある。採り上げられた句も高浜虚子や久保田万太郎に始まって、ホ
 ームレス川柳まで幅広い。なるほど俳句というのは、民衆芸術なのだなあ、と
 納得する。
 
  そういえば『俳句世がたり』を読みながら、ふとアメリカのフォークソング、
 たとえばウディ・ガスリーやピート・シーガーの歌を思い浮かべた。時代の移
 り変わりや矛盾、怒りや悲しみをフォークソングという形にしていた人たちだ。
 いや、もっと古くは黒人たちのブルースもそうだった。俳句には、いわゆる
 “侘び寂び”だけではなく力強さも感じられる。もしかしたら素人の勝手な思
 い込みなのかもしれないが。
 
  短歌には、もっとジェームス・テイラーやポール・サイモンなどのシンガー
 &ソングライターたちの世界を感じたけれど、この違いはどうしてなんだろう。
 詩人のアーサー・ビナードさんも俳句を詠んでいるけれど、いつか俳句と短歌
 のちがいについて話してくれたことがある。「短歌のほうが文字が多い分、詩
 に近い。だから自分にとって、文字数を切り詰めた俳句のほうが魅力がある」
 というような意味だったように思う。そういうことと関係があるのかもしれな
 い。もちろん俳句と短歌、どちらがすぐれた表現であるかということではない。
 
  不勉強なぼくにとって、俳句って、老人の趣味といったイメージがあったの
 だが、どうやら、そんなことはないらしい。小沢さんも「詩こそは青春の文学
 だ。と多年いわれてきましたが。みまわせば、現代詩はいまや老熟の文学のご
 とく。むしろ俳句や川柳に、老壮青にもまたがるみずみずしさが、なおある
 か。」と書いている。なるほどなあ。小難しい言葉を並べた現代詩よりも、シ
 ンプルな五七五の文字で表現したほうがより伝わるものがあるのかな。
 『俳句世がたり』の面白さは、もちろん小沢さんの文章にあって、子どものこ
 ろの思い出や、亡くなった友人のこと、そして世の中のこと、祭りのことから
 チェ・ゲバラ、じつに話題が豊富で、読んでいると腹を抱えて笑いたくなった
 り、目がうるんだり、怒りに震えたり、とても忙しい。たとえば
 「猿を聞人捨子に秋の風いかに」という芭蕉の句を紹介して、それがマンショ
 ンの一室に3歳と1歳の幼児の現在の餓死事件につながっていく。江戸時代の
 句が時代を超えた時評となっている。小沢さんの文章は軽妙でユーモアたっぷ
 り、しかし鋭く斬り込む。読んでいて痛快だ。
 
  1927年生まれで戦争を経験した小沢さんだから、東日本大震災、原発事故、
 右傾化していく社会に対しても反骨の姿勢を崩さない。大震災のあと、「日本
 人はひとつになるぞ」なんてかけ声も聞くが「原子力発電は安全」「地球にや
 さしい」とかいって大もうけしてきた東電幹部、歴代政府、自民党、官僚、御
 用学者どものような種族と、うかうかひとつになっていいものでしょうか?
  小沢さんは忌野清志郎の言葉もとりあげて訴えている。
 
  戦争、敗戦、そして軍隊を詠んだ句も多く採り上げられている。印象的だっ
 たのは、「ざん壕で読む妹を売る手紙」という鶴彬の句だ。小沢さんは貧窮、
 飢饉、生活難という強制で作り上げた慰安婦政策を「強制連行の証拠がないな
 どとぬけぬけよく言えるものだ」という。
 
  もうひとつ「危うくも吾れ祭られず招魂祭」。これは変哲の句。変哲は俳優
 の小沢昭一の俳号で、軍国少年だった小沢昭一は兵学校に行ったのだが、その
 理由のひとつに「殴られるより殴るほうへまわろう」という計算があったと何
 度も語っていたと。ぼくの父親も兵学校で終戦を迎えた。飛行機に乗りたかっ
 たが、1機もなく一度も飛ばず仕舞い。もっとも飛行訓練をしていたら、海の
 藻屑だっただろう。父は小沢信男さんよりひとつ年下だった。兵学校に行った
 とき、殴られるより殴るほうへ、という気持ちがあったかどうかは聞かなかっ
 た。だがそういう動機があるのも軍隊というところなのだと思う。父親からは、
 柱にしがみつかせられて「ミンミン」と鳴く「セミ」というリンチや、真冬、
 川の中に永遠と立たされた話を聞いた。それが軍隊だと教えられた。
 
  先日、小沢さんにお会いする機会があった。帰り道、「ぼくはこれで」と駅
 に向かう小沢さんは、颯爽としていて、とても89歳とは思えなかった。この春
 には、2冊の本が出るそうだ。楽しみだなあ。
 
 ◎吉上恭太
 文筆業。仕事よりギターを弾いていることが多い。初めてのエッセイ集『とき
 には積ん読の日々』がトマソン社から出ました。詳しくはトマソン社のサイト
 を見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、6月にリリースの予定です。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
  長崎県の端島(軍艦島)や福岡県の八幡製鉄所などが世界遺産に選ばれるな
 ど、近代の産業遺産が注目されています。今回紹介する本もそうした中で出
 された一冊といえるかもしれません。ダム・堰・灯台など湿度の高い場所(?)
 の構造物を巡るのが好きな私としては、かなりピンポイントな一冊でもあり
 ますが…。
 
 『水と生きる建築土木遺産』、後藤治+二村悟編著・小野吉彦写真、
                                                       彰国社、2016
 
  「水と生きる」というのがタイトルにも入っているとおり、ここに紹介されて
 いる土木遺産は水にまつわるものがほとんどです。だから冒頭に紹介した軍艦
 島も八幡製鉄所も直接は出てきません。そういった点ではその他の近代化遺産
 書籍とは一線を画しているといえるかもしれません。
 
  それでも日本は水資源には恵まれた国ですので、港湾施設・橋梁・ダム・水
 道施設など水にまつわる土木遺産は枚挙に暇がありません。
 
  例えば有名なところでは琵琶湖疏水があります。琵琶湖の水を京都市内に引
 くために作られたこの水路があったからこそ、近代京都の発展がありました。
 赤レンガの水道橋の写真をご覧になったことのある方も多いのではないかと思
 います。水路を行く舟が高低差を克服するために設けられたインクラインも琵
 琶湖疏水では有名ですね。
 
  しかしこの本が面白いのは琵琶湖疏水に費やしているページ数が僅かに1ペ
 ージというところです。逆に石川県能登半島の揚浜式塩田や三重県熊野市の丸
 山千枚田などのほうがより多くのページを割いて紹介されています。
 
  一見それって土木遺産なのか?と思いかねないものもありますが、地域の文
 化に根ざした構造物という意味では、塩田も棚田もまさに「水と生きる」土木遺
 産といえるでしょう。揚浜式塩田は今やあまり盛んには行われてはいませんが、
 塩田の跡を水田化した場所にも特徴的な風景があります。細々とではあります
 が伝統の製塩技術もいまなお受け継がれています。
 
  そして三重県の丸山千枚田も棚田を守る地元の人たちが復元と維持に努める
 ことにより、その特徴的な風景が維持されています。棚田を維持するには代々
 伝わってきた技術が必要であり、その維持のための技術も含めて土木遺産いえ
 るでしょう。
 
  こうした派手さはないけれども地域の特徴的な構造物を多く紹介しているの
 が本書の一番の特徴といえるかもしれません。
 
  盛岡の望楼式火の見櫓や静岡県下田の天草洗い場・山形県新庄市の消防ポン
 プ小屋などなど、よくそんなところまで目配りしているなという感じのセレク
 トになっています。ちなみに天草洗い場というのは文字通り海で収穫した天草
 を洗う場所のことです。そこにどのような工夫があるのかは…読んでのお楽し
 みということで。
 
  その消防ポンプ小屋の解説の最後にはこうあります。
 
  日本各地に、まだ多くのこうした地域資産があるはずなので、身近な資産を
 発見する楽しみを見出していただきたい。(p,32)
 
  なので、本書には愛媛県大三島のタンボ(井戸)や長野県の千ヶ滝湯川用水
 温水路(冷水を温める施設)など、世界遺産どころか土木学会の選奨土木遺産
 でもないものもあります。おそらくこうした土木遺産はまだ紹介されていない
 だけで、私たちの身近に沢山潜んでいる(?)ものだと思われます。
 
  皆さんの住む町にもきっと素敵な土木遺産があるはずなので、本書を読んで
 ぜひ探しに行ってみてください。配水塔・用水路・火の見櫓・防波堤…などな
 どむしろ何もないはずがないのではないでしょうか。
 
  また本書で紹介されている、先人が「水と生きる」ために築いてきた様々な構
 造物を頭に入れておけば、別の場所で似たような施設に遭遇した時、その土地
 での水との付き合い方もより理解しやすくなるはずです。そして私たちの暮ら
 しがそうした土木建築の上に成り立っていることも改めて実感されるでしょう。
 
  なにより今までとは一味違った形で風景を見ることが出来るようになるはず
 です。本書の帯には「土木を知ると、世界の見方が変わる」というコピーがあり
 ますが、まさしくそのとおりだといえるでしょう。
 
  しかし本文には収録されなかった(編集後記にチラッと登場する)宮城野納豆
 製造所の足元の雑菌を洗い落とす施設はちょっと渋すぎるのではないだろう
 か…。
 
 ◎副隊長 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「けやき通りの古本屋から」 / 古書五車堂あるじ
 ----------------------------------------------------------------------
   昨年、店主を交代し、店頭にはほとんど立たなくなりました。
 では何をしているかといえば、ネット販売や委託先の本の入れ替えなど、「外
 商部」と称して活動しています。
 
 それともうひとつ。ふとした縁から新刊書店で働くこととなりました。週に5日
 の勤務、こうなれば古本屋というよりは新刊書店員ですか。古書店では長く働い
 てはいたが、新刊書店はなにせはじめてのこと、知らないことだらけ。お客さま
 の問い合わせもさまざまで、文芸や歴史はまだなんとか分かりますが、資格や学
 参、女性誌はよく分からず。コミックにいたってはチンプンカンプンで、もっぱ
 らパソコン頼りの毎日。
 
  今までさわったことのない、複雑なレジに各種カード類。やっと慣れはじめ
 たころに続いたミスの数々と、心身ともに疲れたここ数ヶ月でした。
 
   それでも古本であれ新刊本であれ、本を愛する気持ちには変わりなく、本を手
 にしたお客さまの様子などを見ていると、やはり嬉しくなります。
 これからも本に関わる場所でいられたらと思います。
 
   古書五車堂あるじの「けやき通りの古本屋から」は今回で終わります。今まで
 読んでいただき有難うございました。
   なお、妻のんによる「小さな本屋の小さな話」はまだまだ続きます。ご愛読の
 ほど、ひきつづき宜しくお願いいたします。
  
 ◎古書五車堂外商部
 十数年の古書店勤務を経て、2013年6月岡山市中区浜に古書五車堂を開店。
 
 古書五車堂 http://www.gosyado.com/

 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ 神楽坂で「一箱古本市」
 └─────────────────────────────────
 神楽坂駅前から毘沙門天近くまでをみなさんの一箱で埋め尽くしましょう!
 
 ◆日時:2017年3月11日(土)、12日(日)
 ◇場所:神楽坂
 
 ★参加費:一箱1500円、両日参加は2500円。
 ☆お申し込みは→ kusunose@shinchosha.co.jp (担当新潮社楠瀬) 
    https://twitter.com/kagubookclub?lang=ja  
 
 ■ 鬼子母神通り みちくさ市 第9回 みちくさ市連続講座
     『作品と商品』のあいだ〜表現という仕事のリアルな現場の話〜
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2017年3月19日(日) 13:30〜15:00(開場13:10〜)
 ◇場所:雑司が谷地域文化創造館 第2会議室
 
 聞き手:中野達仁さん
 司会:武田俊さん
 ゲスト:姫乃たまさん(地下アイドル)

 http://kmstreet.exblog.jp/

 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 ----------------------------------------------------------------------
 毎度遅くなり誠に申し訳ありません。
 古書五車堂あるじさんの「けやき通りの古本屋から」がご事情により今回で最
 終回です。
 古本屋さんの、とりわけ東京でない場所の、日常のお話は大変興味深く、毎回
 楽しみにしていました。古書五車堂あるじさんには、お忙しい中、新鮮な話題
 をお書き頂き心よりお礼申し上げます。また、お時間のある時に、今度は「新
 刊書店」についてお書き頂ければと勝手に期待しています。本当にありがとう
 ございました。
 来月からは、新しい五車堂店主のんさんの「小さな本屋の小さな話」が連載に
 なります。ちょっと不思議な本のお話。ご期待くださいませ。
                                                       畠中理恵子
 ----------------------------------------------------------------------
 ■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在名の読者4610名の皆さんに配信して
 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで hatanaka3floor@jcom.home.ne.jp
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
   ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
   ・15日号:畠中理恵子 hatanaka3floor@jcom.home.ne.jp
   ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
   ただし、掲載の可否については編集同人が判断します。
 ■ 広告掲載につきましては、下記までお問い合わせください。
   事務局担当:aguni hon@aguni.com
 ■ HPアドレス http://www.honmaga.net/
 ■ このメルマガは『まぐまぐ』を通じて発行しています。
 ■ メールマガジンIDナンバー:0000013315
 ■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行えます。
 ---------------------------------------------------------------------
 

| バックナンバー | 16:55 | comments(0) | trackbacks(0)
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://back.honmaga.net/trackback/979240
トラックバック
SEARCH
[本]のメルマガ
哲学・思想・社会などの人文書や、小説や詩など芸術の最前線、書籍の出版流通、電子出版などの「本」の現在を気鋭の出版社員、書店員が伝える、まさに[本]のメルマガです。
発行周期発行周期:月3回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000013315

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

コーチ募集(コーチングバンク) 無料 コーチング カーディーラー経営品質向上 CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC フリーラーニング
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< December 2017 >>
ARCHIVES
LINKS