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[本]のメルマガ vol.632

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■■ [本]のメルマガ                 2017.01.05.発行
■■                              vol.632
■■  mailmagazine of books              [新年早々 号]
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『〈ヴィジュアル版〉ラルース 新版 地図で見る国際関係:現代の地政学』

イヴ・ラコスト著 猪口孝日本語版監修 大塚宏子訳
A5判 386頁 本体5800円+税 ISBN:9784562053506

苦悩する超大国・アメリカとEU、BRICsの野望とアフリカの躍進、資源と領土
・領海をめぐる日本と東アジアの緊張……地政学的観点から描かれた150を超
える地図によって国際関係のいまを解き明かす! 大幅改訂/加筆の新版。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その7 中條百合子の恋 1.『伸子』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 現在という「点」の集積―神尾和寿詩集『アオキ』(編集工房ノア)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その7 中條百合子の恋 1.『伸子』
 
 恋をしたことがある人なら誰でもわかるように、恋は食欲を支配する。

 好きな人の前では何も食べられなくなる。あるいは幸福のあまり、何も飲み
食いしなくても元気はつらつと動きまわれたりする。そして、恋人とともに過
ごしたカフェでの一杯のコーヒーの味が、とても重要な記憶として後に残る。

 そこで、作品に描かれた恋を、食べ物という観点から見てみよう思う。

 中條百合子というのは聞きなれないかもしれないが、宮本百合子の元のペン
ネームだ。天才少女として文壇にデビュウし昭和十二年に改名するまで、かな
りの作品をこの名前で書いている。

 彼女はこの名前でいるときに、幾つかの重要な恋に陥る。そのうちのひとつ
が、ニューヨークで出会った十四歳年上の古代イラン語研究者の荒木茂という
男性との恋。彼女は親に無断で結婚をし、その後日本に帰って生活を共にする
が離婚する。

 もう一つの恋の相手はロシア文学者の湯浅芳子。離婚寸前に彼女と出会い、
友情が恋に変化し、ともに暮らし、ともに革命後のロシアを訪れる。

 そんな自分自身をモデルに、荒木との出会いから離婚までの過程を書きあげ
たのが『伸子』という小説である。この小説では後半に、湯浅芳子をモデルに
した女性も姿を現す。

 ここでは、まず荒木との恋を『伸子』で、湯浅芳子との恋を『二つの庭』で、
食物を中心に見て行こうと思う。
 
 ところで、百合子の写真を見たことがある人なら分かるだろうが、彼女は晩
年ほどではないが、若い時もふっくらとした体型の持ち主だった。湯浅芳子は
随筆『いっぴき狼』のなかで百合子のことを、体のいろいろな器官が悪く実は
顔色が悪い人だったけれど「胃腸は丈夫で、食欲はいつも旺盛で、文字通りモ
リモリ食べ、よく喋り、よく読み、よく仕事をし、よく眠った」と、生活を共
にした人ならではの感じで書いている。
 
 そんな彼女の小説なら、おいしい物がいっぱいだろうと思われるだろうが、
不思議にそうではないのだ。そこに、この『伸子』という小説の謎もある。

 まずは『伸子』の内容をざっと語るとしよう。若い作家である主人公伸子が、
第一次大戦終結直前の時期に父親と渡米する。父親の帰国後は、ニューヨーク
の大学の聴講生として残る。そこで、古代イラン語研究者の佃という男と出会
い恋に落ち、二人だけで結婚をする。帰国後、その結婚を喜ばない親たちとの
葛藤や結婚生活の不自由さに苦しみ、離婚するにいたる。

 この作品を読んでいて驚くのは、カタカナ英語の多さだ。百合子の父親はイ
ギリス留学をした建築家であり、母は華族学校で津田梅子から直々英語を習っ
た人なので、日常生活でもかなり英語を使う環境だったらしい。だから大正か
ら昭和初期の自分を反映した作品にはかなりの頻度で横文字の英語が現れる。
この作品でも同様で、夫もアメリカで苦学しながら長い間暮らしていた人だか
ら、夫婦の中でも英語が多く飛び交う。今とは違うカタカナ表記も面白い。 
 
 さて、最初の舞台はニューヨーク。大学で寮生活を送る伸子は、何度も佃と
デートを繰り返す。アメリカの自由な男女交際の様子や、留学生の日常生活も
垣間見られる。だが、寮の門前の喫茶店などが話には出てくるのだが、具体的
にお茶を飲むなどの場面はない。

 様々な形でその交際を反対される中、二人は周囲のすべての人との交際を断
って夏休みを湖畔で過ごし、結婚する。そして、十月になって初めてニューヨ
ークに戻り、知人に結婚を通知する。

 そんな記念すべき日のブロードウエイのレストランでの夕食の様子が描かれ
ているのだが、ここでも食物についての記載はいっさいない。けれども、気に
なる一場面がある。

<伸子のすぐ背後の仕切りの向う側で、無遠慮な男の日本語がはっきり聞えた。
 「おい、佐々伸子が結婚したってさ」
  別のしわがれた声が応えた。
 「へえ、……一体どんな奴だい」
 「狆くしゃんさ。――佃とか何とか云うアメリカごろとくっついたのさ!」
  ――伸子は、高く酒を啜る音を聞いた。>

 そう、音だけなのだ。

 啜るというからにはカクテルかウィスキーだろうか。けれど、これはあまり
に不吉な結婚生活の幕開けの合図の音のようだ。

 この後帰国した二人の食生活では、朝ご飯は紅茶にトウストらしい。これは
実家でも同じようだ。大正時代後半の東京の中流家庭の食事場面には、火鉢や
ストーブであぶったトウストがかなり出てくる。もっとも、主人公が寝坊なの
で、二人が一緒に朝食を取る場面はない。 

 そして、作品の中ではずっと、主人公は結婚生活に苦しんでいる。そのため
なのか「食べない」場面が多い。 

 例えば、「ペルシャ棗の砂糖漬け」。

 ある日、佃が自宅でハフィズの詩を教材にペルシャ語の個人授業をしている。
別室でその声を聞きながら伸子は無性に「隠れたい!」という衝動に駆られる。
その時、やって来た夫が

「――ミスタ・スミルノフがこれを下さいましたよ……」

 と言って彼女の膝にのせたのが、平たい「ペルシャ棗の砂糖漬け」の箱だ。

 最初に彼女を夫に惹きつけた、中近東を思わせるエキゾチックなお菓子なの
に、彼女は触れてみようともしない。

 ごく最近、やっと私もこのナツメヤシのお菓子というのを味わうことができ
たのだけれど、昭和初期の読者にとっては、見たことも聞いたこともないお菓
子だったろう。「伸子、その菓子箱の蓋を開けて味わってよ!」と、私は何度
思った事か……。

 けれど、このミスタ・スミルノフのお土産は、このまま誰にも手をつけられ
ないまま捨てられてしまいそうだ。

 伸子の作る料理も、なんだか美味しくはなさそうだ。 

 夫婦仲がこじれてきているときに上京してきた義父のため、伸子が台所で作
る魚の煮物。匂いが籠もってむし暑い台所の様子が描かれる。伸子は考えに沈
みながら、じっとガスの炎を見つめている。自分たちの男女の生活に、これは
一人の女が人間ではなくなる道ではないかと震え上がって涙を流す。これでは
煮魚がどんな味に仕上がるか、恐ろしくなってくる。 

 夫が結核になり、別室の寝台の上で病を養っているときに、伸子が作ったス
ープもそう。 

<「さ、熱いうちに召上れな。冷えたら、クックがクックだから仕方がなくな
っちまってよ」
  佃は、伸子の明るさを撥ねかえすような眼付で、寝台の上に起きなおった。
黙って匙をとった。義務のようにスープを吸いながら、白眼のはっきりした神
経質な視線を時々あげて傍の伸子を見た。>

 うーん、そんなにまずいのかと、本当のところを尋ねたくなる場面だ。

<「――有難う……おいしかった」
  佃は皿をかえし、サーヴィエットで口のあたりをふき、云った。>

 え、おいしかったの?それにサーヴィエットってなに?と、誰でも思うとこ
ろだろう。ナプキンのことらしいのはわかるのだが……。この奇妙に暗い食事
の場面で、スープの味などより印象に残る片仮名英語だ。調べてみたら、今は
聞きなれないこの言葉は、明治大正から昭和初期までは普通に使われていたよ
うだ。フランス料理ではセルヴィエット、イギリス料理ではサーヴィエット。
レストランでは当たり前に使われる言葉だったらしい。スープの味より印象に
残る言葉だ。そして、スープの盆にサーヴィエットを添えて出すという、いか
にも洋行帰りの二人らしい生活も感じられる。

 そして、この後、二人は言い争いになる。 

 最後の章には、佃が食事を作る場面がある。佃はアメリカでの生活が長いの
で、台所仕事を手伝うのを厭わないということだったが、ここでは様相が違う。
勤務先の大学に三日の欠勤届を出し離婚問題を解決しようとする佃に、伸子は
半ば一部屋に監禁されて話し合いを重ねる。席を立つのは食事をするときだけ。
その支度も佃がする。味わったり語り合ったりしないでただ食べるだけの食物。
殺伐とした風景の一部でしかない食事。

 その後、やっと二人は決着をつける。
 
 こうやって見てくる限り、『伸子』には、美味しそうにモリモリと食べたり
食卓を囲んで語り合ったりする場面はない。けれども、中條百合子は伸子を人
生への食欲が旺盛な人間として描いている。

<彼の幸福の種類は伸子のいるものではなかった。夫が満足して、その幸福を
食うのをそばから眺め、自分は食わず、微笑んでいるべきなのであろうか? 
伸子は食いたい人間であった。きびしく空腹を感じる人間であった。食わずに
はいられない人間であった。>
<頼めば、夫は彼の分をわけてくれるだろう。しかし、伸子にそれは食えなか
った。彼女は、もっと清潔なものを欲した。>

 『伸子』の小説においしい場面が少ないわけが、少し納得いくような気もし
てくる。

 けれども、家庭以外の場面では、美味しそうな場面も少しある。それは、野
上弥生子をモデルにした楢崎佐保子を訪ねる場面。湯浅芳子をモデルにした素
子と伸子が初めて出会う重要な箇所だ。どちらかの手みやげなのだろうか?大
阪寿司が出てくる。小さなお寿司をつまみながら、のんびりと楽しげに文学や
人生を語り合っている三人。小さな一口大に切ってあって食べやすい大阪寿司
は、軽いお昼や重いおやつにぴったりだ。 
  
 その後伸子たちは楢崎氏も交えて「自笑軒」という茶料理の店までぶらぶら
散歩し、(西日暮里から田端まで!)夕食を共にする。この店は芥川龍之介が
良く利用し、内田百間*の小説にも出てくるところだ。
 もっとも、この場面でも料理については何も書かれていない。ただ、誰も酒
を飲まないので、あっけないほど早く食事が終わったとある。 

「いやに、また、はかどらせるんですね」 

 と、言う素子の言葉の元に、一同打ちそろって笑い散歩して帰る。楽しそう
な夜の風景が心を和ませる。

 『伸子』は、まだ離婚も成立しないままに書き始められた。別居状態にあっ
た夫の結核が再発した為看病に呼び戻され、病人が寝ている家の二階で最初の
章を書き上げたという。鬼気迫る執筆状況の中で書き上げたことを、湯浅芳子
は手紙の中で、

<『改造』は昨日読みました。あんな最中によくあれだけ書けた。感心した。
君の芸術家魂に尊敬をささげる>

と、讃えている。

 素子と伸子のこの最初の出会いの場面のからりとした明るさと優しい味わい
は、中條百合子のもう一つの恋の始まりの場面として、この作品の中では独特
の魅力をたたえている。

 この物語の中で、本当においしそうな場面が一つだけある。
 それは「クリームソーダ」が出てくるところだ。

 伸子と弟の保が銀座で買い物をして、資生堂でアイスクリームソーダを飲ん
だ、とある場面。伸子は二本のストローを弟に渡し、自分のソーダ水にも二本
差して、ぶくぶくとソーダの泡を立ててみせる。 

<「やって御覧なさい。この頃はやる飲み方。
―― 一本の方を吹いてよく泡を立てながら、もう一本の方で飲むの」> 

 ちょっと試してみたくなりませんか? 
 慎重な性格の弟は引っかからなかったけれど、あなたはどうだろう?

 伸子は以前に、ニューヨークでおじいさんにだまされて一生懸命ストローを
吹きながら飲もうとしたと笑っている。主人公の本来的な性格を語るエピソー
ドだ。佃の影が差す前の、ニューヨークの明るい思い出。 

 よく晴れた七月の銀座の午後。さっぱりした風に吹かれて愉快に翻る三越の
赤い旗。ブクブクとコップから溢れるほどのソーダ水の泡。中條百合子の描い
てみせる大正時代の銀座はとても魅力的で、もし大正時代にタイムスリップで
きるなら、ぜひ一度は出かけてみたいと思っている。その時は資生堂に行って
クリームソーダを注文し、このストローを昇っていく黄色いソーダ水が何味だ
ったかをご報告するつもりなので、お楽しみに。

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*(編集注:原文では門構えに月)

『伸子』 宮本百合子全集            新日本出版 
『往復書簡 宮本百合子と湯浅芳子』黒澤亜里子編著 編翰林書房
『いっぴき狼』湯浅芳子著              筑摩書房

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第106回 現在という「点」の集積―神尾和寿詩集『アオキ』(編集工房ノア)

 詩にはライト・ヴァースというタイプのものがある。厳密な定義はさておき、
一般的には、心理を主軸にしない、ユーモアの効いた軽妙なスタイルの詩を指
すようだ。対象から距離を取った視線による、叙情的であるより叙景的な詩と
いう理解でいくと、軽妙な筆致であっても必ずしも「軽い」とは言えない。こ
うした詩においては「ひねり」が重要な要素であり、物事を生活者としての規
定の見方から離れた地点で眺める面白さがある。日本では岩田宏や藤富保男の
幾つかの詩が有名だが、最近読んだ神尾和寿の詩集『アオキ』(編集工房ノア)
もそうした範疇に入る詩だと思う。

 神尾和寿は1958年埼玉県生まれ。京都大学大学院文学研究科で学び、現在は
大学で哲学を教えているようだ。『モンローな夜』(思潮社)、『地上のメニ
ュー』(砂子屋書房)などの詩集があり、詩誌「ガーネット」に参加している。

 本詩集には見開き2ページに印刷された49編の詩が収められている。各々の
詩のタイトルは前の詩のページの左下に記され、次のページはいきなり本文で
始まる。また、詩の内容は前の詩の何らかの要素を引き継ぐものとなっている。
つまり、詩集全体が循環形式で作られており、短詩を集めたように見えて、実
は連作長編詩としての体裁を取っている。

 1編目の「アオキさん」は、会合があり皆が揃うのを待つ、という内容の詩。
「アオキさんが/まだ来ない/イノウエさんなら/三年前から来ている/ドラ
ム缶にまたがってたばこを吸っている/旨そうだ/イヌのウエダ君と/サルの
エグチ君に声をかければ/けんかの最中だ かみつかれてひっかかれて/すご
く痛いのかもしれない」。現実離れした情景だが話者はそれをごく当たり前の
ことのように受け止め、淡々とした対応をしている。たばこが旨そうだという
記述に、話者がこの不条理な世界を日常的なものとして受け入れている余裕が
感じられる。

 2編目の「いつもの茄子」は「いつもの優等生の あの娘(こ)が/今朝は
 真っ赤に/髪を染め上げている」で始まる。「アオキさん」の集まりが同窓
会だとすると、それを受けていることになる。卒業してちょっと不良っぽくな
ったのだろうか。その彼女は、朝食に卵焼きを食べ、茄子の味噌汁も飲んでき
たとのんきに語るが、話者の注意は突然彼女から離れ、「運命のように」鳴る
チャイムを聞くことに集中する。気になった対象の細部にまで注目したかと思
うと、突然視線をそらして別のことに夢中になるパターンは全編を通じて現わ
れる。

 3編目の「ヒヒヒィーン」は、「馬がヒヒヒィーンとおもむろに鳴いたよう
な 気がする」で始まる。前作のチャイムがここでは馬のいななきにすり替わ
っている。但し、はっきり聞いたわけではなく「気がする」だけだ。直後、話
者は「電灯の下で物語ばかりを読んでいたような 気もする」と、自分の判断
能力に再び否定的な見解を述べる。馬からの連想か、「草原には/悪のひとか
けらさえ見当たらなかった」と何やら哲学的なつぶやきをした後、自転車に乗
って「はじめての海水浴」に行くところでこの詩は終結する。考えていること
と行動とのちぐはぐさを故意に際立たせているのだ。

 49編目の「初恋のひと」は、「未来が少なくなっていくにつれ/過去は/ま
るまると太って/暖かくなっていく」というしおらしい叙述から始まる。「同
窓会が待ち遠しく」なり、亡くなった同窓生(?)のニック・ネームを思い出
そうとしているうちに「現在のビールを飲み忘れる」とあるので、居酒屋にで
もいるようだ。そして斜向かいに「初恋のひとだったらしき人」の姿を発見す
る。「初恋のひと」でもなく「初恋のひとに似た人」でもなく、「初恋のひと
だったらしき人」とあるところがこの詩のミソである。判断の曖昧さをそのま
ま肯定し、真実を追求しようとせず、曖昧な事態を曖昧なままに受け入れてい
く。その先に、1編目の「アオキさん」の不思議な同窓会の待機のシーンがあ
るのだろう。

 本詩集で描かれる世界は夢の世界に近い。不条理な出来事が続けざまに起こ
っても、それら全てを肯定してしまうのが夢というものである。矛盾や不整合
を飲み込み、不条理を既知の日常にすり替え、平然と進んでいく。

 実はこうしたことは、夢ばかりでなく、目覚めているこの現実の世界でも多
かれ少なかれ起こっていることである。我々は日常において、数え切れない程
の聞き間違い、見間違い、記憶違いなどの大小の誤りを犯している。それでも
さほど迷うわけでもなく、平然として生活している。都合の悪いことをなかっ
たことにするなど、お手のものだ。距離を取って眺めれば、不気味な光景に見
えるかもしれないが、人間の脳は元々そんな風にできているのだろう。そうし
た人間の本性を、この詩集はうまく捉えている。過去、現在、未来をつなぐの
は、なだらかな認識の直線ではなく、ブツブツ切れながら辛うじて連続する現
在という「点」の集積だ、という考えを、神尾和寿は49編の詩を通じて律儀に
展開している。超現実的な出来事をダルい日常にケロリとしてつないでいく
『アオキ』の世界を作り上げるのに、べったりした叙情を切り捨てたライト・
ヴァースという形式は、うってつけのものであったに違いない。

*神尾和寿詩集『アオキ』(編集工房ノア 本体価格2,000円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 新年早々、発行が遅くなりましてすみません。(aguni原口)

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