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[本]のメルマガ vol.629

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■■ [本]のメルマガ                 2016.12.05.発行
■■                              vol.629
■■  mailmagazine of books        [タブレット端末を紛失 号]
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『世界のシードル図鑑』

P・ブラウン/B・ブラッドショー著 国際りんご・シードル振興会監訳
A4変形版 256ページ 本体6000円+税 ISBN:9784562053513

世界のシードル醸造所と、500種以上の銘柄を紹介する初のガイドブック。
スペインからフランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、アメリカ、日本に
いたる各地のシードルとその特徴、料理まで豊富なカラー写真で案内する。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その6 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 其伍 来るべき書物

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その6 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』

 宮沢賢治の物語の中は、おいしそうな食物で一杯だ。現実世界の食物だけで
はなく、普通の食物が不思議なものに変身したり、この世の中にはありえない
ような食物になってしまったりする。
 
 そんな食物がちょうど三種類現れる『銀河鉄道の夜』の世界を見てみよう。

<一、「トマトで何かこしらえたもの」について>

 家に帰ってきたジョバンニにお母さんがこう言う。

「…、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」「では
ぼくたべよう。」
ジョバンニは窓のところからトマトの皿をとってパンといっしょにしばらくむ
しゃむしゃたべました。

 この「トマトで何かこしらえたもの」は、子供の時から気になっていて、あ
れは何だろうと考え続けて来た。

 登場人物の名前はイタリア風だけれど、物語の舞台は日本のような気もする
この不思議な世界。ここでもトマトができるとすれば夏だろう。夏に作り置き
しても傷まない食物で、温めなくてもおいしく食べられるのは何なのだろう?
きっと、大人になれば分かると思ってきた。そして、トマトで煮込んだ野菜料
理、ラタトゥイユを知るに至り、きっとこれだと思い込むようになった。

 ラタトゥイユというのは、ズッキーニやナスやパプリカをニンニクとオリー
ブオイルで炒め、トマトソースで煮込んだ料理。冷たくなってもおいしいお惣
菜。作るたびにジョバンニの気持ちで味わっていたのだけれど、ある日調べて
みたら、びっくり。このラタトゥイユ(ratatouille)は、なんとフランスの
お料理だった。でも、イタリアにも似た料理があるはずと思って調べたら、材
料はナスの素揚げなのだがカポナータ(Caponata)というものが見つかり、少
しほっとした。きっと、そこらへんにある夏野菜とトマトを炒めて煮込んだ料
理ならこれだろうと思った。

 でも、宮沢賢治は、そんな料理を知っていただろうか?それに、その頃の日
本人はどうやってトマトを食べたのだろう?
 その謎を解くために、ちょっと現実の時間を旅してみようと思う。

 『銀河鉄道の夜』は、1924年ごろ初稿が執筆され、晩年の1931年頃まで推敲
がくりかえされて、1933年の賢治の死後、草稿の形で遺されたと全集には記さ
れている。1924年つまり大正15年。ちょうどその頃に、宮沢賢治に多少ゆかり
のある文学者のトマトについての記載があるので見てみよう。

 その人の名は湯浅芳子。ロシア文学者として知られ、マルシャークの『森は
生きている』を翻訳した人といえば、ああ、と思い浮かべる人も多いだろう。
だが、それだけではなく、その頃まだ中條百合子だった宮本百合子の恋人でも
あった人で、その姿は『伸子』『二つの庭』『道標』その他の作品の中で、生
き生きと描かれている。

 そんな彼女は、大正9年から機関誌「愛国婦人」の編集に携わっている。宮
沢賢治が最初に、童謡詩の募集に応じて『あまの川』を投稿し(大正10年9月
第473号)、次に『雪渡り』を投稿したとき(大正10年12月 第476号、大正11年
1月第477号に亘って掲載)、湯浅芳子は編集者としてそこにいたのだ。賢治の
同時代人と考えていいだろう。

 彼女がトマトについて記載しているのを見ることができるのは、『往復書簡
 宮本百合子と湯浅芳子』に記載された芳子の日記の中だ。野上弥生子の家で
出会った百合子と芳子が1924年4月22日に、初めて二人で出かけて資生堂で食
事をした時のことだ。この場面は、百合子の『伸子』の中でも見られるのだが、
そこで二人は「サンドウィッチとトマトサラダとお菓子」を食べたとある。こ
の時のトマトサラダがどのような形状であったかについては特に記載はないの
だけれど、同じ年の6月の手紙に「ふと気が向いてマヨネソースをこさえ、ト
マトにかけて今たべて来たところです」とあって、ああ、この時代にはまだマ
ヨネーズは自分で作るものだったのだと気づいた。

 ジョバンニのお姉さんは、もしかするとマヨネーズをこしらえて、トマトサ
ラダを作ったのかもしれない。そんな気もしてこないだろうか?でも……。何
となくこのサラダは、資生堂で食べたということから、普段の料理より少しお
しゃれな料理の気もする。

 宮沢賢治の研究書などを見ていると、その頃のトマトはまだ珍しい野菜で、
トマトの酸っぱさが苦手な人々は砂糖をつけて食べていたが、賢治は塩をつけ
て食べていたと書かれている。どうも、サラダではないような気もしてきた。
 それでは、時代の中でもう少し、賢治が生ではないトマトの家庭料理の仕方
を知る可能性をさぐってみようと思う。

 そこで、まず、前述の機関誌「愛国婦人」の中を見てみることにした。この
機関誌はそれまで新聞の形をとっていたのだが、大正10年1月、月刊の雑誌形
態に変更された。賢治の母が「愛国婦人」を定期購読していたとすれば、雑誌
になったことに気づいた賢治が、ふと手に取って見たのではないかと私は推測
している。そのことが、童謡や童話を投稿するきっかけになったとも思うのだ。
この雑誌には、会の活動報告の他に、多くの啓蒙的な論説や小説、洋裁や料理
などの記事が掲載されている。そして、その中には西洋家庭料理の献立も数多
くみられる。

 大正12年9月発行の497号にこんな記事があるのを見つけた。

「ポテトーのトマトー煮」

 このレシピは、トマトを皮むきして細かく刻んだものを鍋に入れて煮て、そ
こに、ゆでるか蒸すかしたポテトを輪切りにして入れて、塩コショウで味付け
するもの。あっさりとして手軽な家庭料理だ。氷で冷やす冷蔵庫もあまりない
この頃、余った野菜は過熱して料理するしかないから、この手軽な西洋風お惣
菜が提案されたのだと思う。この記事は最後に、

「あっさりとしたこの一皿が、楽しい夕餉の卓上で大人も小人もよろこばして
くれます」

 とあって、少し、モダンな香りもする一品なのかもしれない。

 賢治が見たとは断言できないけれど、少なくともこの時代に生食やサラダだ
けではない料理もあったのがわかる記事だ。トマトを刻んであり合わせの野菜
と煮込んだ料理。茄子かもしれないし、枝豆かもしれない。でも、この記事を
読んで「トマトで何かこしらえたもの」が、遠い異国料理としてではなく、こ
の物語の不思議な舞台の中から現実味を帯びて現れて来た気がしてきた。

<二、苹果―りんごについて>

 出てくる順番は後なのだが、二番目に気になる食物としてあげたいのは、
「りんご」だ。

 林檎ではなく、苹果と表記されているこのりんごは、銀河鉄道に乗り合わせ
た灯台守が、いつの間にか膝の上に抱え込んでいたもの。灯台守はみんなに配
ってくれる。沈没した船からやってきた家庭教師の青年と姉弟、カムパネルラ
とジョバンニが受け取ったそのりんごは、素晴らしい香気を放ち、黄金と紅の
色彩で輝いている。
 けれど、そのりんごを食べるのは、最初は眠っていた幼い弟だけだ。

「男の子はまるでパイを喰べるようにもうそれを喰べていました、また折角剥
いたそのきれいな皮も、くるくるコルク抜きのような形になって床へ落ちるま
での間にはすうっと、灰いろに光って蒸発してしまうのでした」

と、ある。
とても不思議な食べ方で心に残る。

 実は、誰かがナイフを出してりんごの皮をむく場面がある原稿と、それがな
い原稿があって、全集には異稿として掲載されている。

 ますむらひろしの漫画『ますむらひろし版宮沢賢治童話集』では、二つの
『銀河鉄道の夜』が描かれているのだが、『銀河鉄道の夜[初期形]ブルカニロ
博士篇』には、男の子がりんごを丸かじりする様子と誰かがナイフでりんごを
剥く場面が描かれ、もう一つの『銀河鉄道の夜』では、男の子が食べると同時
に皮がくるくると剥け落ちていく様子が描かれている。各原稿の違いが、明確
にわかって面白い。

 いずれにしろ、皮が蒸発してしまう場面は、この前に灯台守が言う、

「苹果だってお菓子だってかすが少しもありませんからみんなそのひとそのひ
とによってちがったわずかのいいかおりになって毛あなからちらけてしまうの
です。」

を受けているのだと思うのだ。でも、私は実はこの皮より芯や種の方が気にな
る。皮は丸かじりして食べてしまうことも多いけれど、芯や種はてのひらに残
る。これも、蒸発してしまったのだろうか?芯や種については、特にどこにも
書かれてはいない。だからこそ、りんごの食べ方が「まるでパイを喰べるよう
に」となっていることの方に、興味があるのだ。

 この物語では、りんごの実が、丸ごと全体たべられるお菓子に変身すると考
えていいだろう。だけど、その時なぜ、「パイのように」という言葉が出て来
たのだろう?りんごのお菓子=アップルパイという考えが、どうして賢治の中
で起きたのだろう?ここを読むたびに、口の中に生のりんごそのものよりアッ
プルパイの味がひろがって来て、いつも考えてしまうのだ。

 では、この頃、アップルパイはもう巷で簡単に手に入る食物だったのだろう
か? 日本の古いホテルのホームページなどには、100年前からのレシピで作
っていると書かれていたりするので、アップルパイ自体はこの頃もう作られて
いたと思うのだが、賢治は味わったことがあるのだろうか?

 ここで、又、同時代人の書いたものを見てみたいと思う。その人は尾崎翠。
昭和4年の「女人芸術」8月号に発表した作品に『アップルパイの午後』とい
う戯曲がある。もはや、賢治が他界した後の作品ではあるが、昭和初期の感触
を得るために、少し作品の中を見てみたい。この作品の主人公は女子大生。賢
治の妹のトシのように、地方から出てきている身だ。彼女が兄と喧嘩している
ところに、兄の友人が菓子箱を片手に訪ねてくる。もちろん、箱の中身はアッ
プルパイ。題名にあるとおり、そのパイは重要な役割を担うのだが、それはと
もかく、そのお菓子がものすごく珍しい物という風には表現はされていない。
普通の手土産のお菓子という感じだ。

 賢治がアップルパイを食べたかどうだかわからないけれど、この作品を読む
限り、時代的にアップルパイというものは知っていた可能性がある。例えば、
短い滞在で東京にいた時。病院で妹を看病中に、誰かのお見舞いの手土産とし
て見かけたことがあるかもしれない。そんなことを思うのだ。

 余談ではあるが、前述の湯浅芳子も尾崎翠もトシも、学年は違うが同じ時期
に日本女子大学にいたことがある。東京で同じ時間を生きていた女性たちなの
だ。

 もし銀河鉄道の中のりんごがアップルパイならば、皮も芯も関係ないから、
丸ごとそれを食べてしまえるだろう。そんな風に丸ごとお菓子になってしまっ
たようなりんごを、賢治は夢見たのかもしれない。

 いつか、丸ごとりんごの形のパイを作ってみて、汽車の席で、あっという間
に食べてみたい。その時、私の毛あなからは、どんな夢の香りがちらけていく
のだろう?

<三、鳥捕りのくれたお菓子について>

 さて、三番目にあげるのは、まさしくこの物語の中にしか存在しえないもの、
鳥捕りがとらえた雁や鷺のお菓子だ。

 引用してみよう。

「こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。」鳥捕りは、
黄いろな雁の足を、軽くひっぱりました。するとそれは、チョコレートででも
できているように、すっときれいにはなれました。
「どうです。すこしたべてごらんなさい。」鳥捕りは、それを二つにちぎって
わたしました。ジョバンニは、ちょっと喰べてみて、(なんだ、やっぱりこい
つはお菓子だ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんな雁が飛
んでいるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、
このひとをばかにしながら、この人のお菓子をたべているのは、大へん気の毒
だ。)とおもいながら、やっぱりぽくぽくそれをたべていました。

 こんなふうに、ジョバンニがお菓子だと思ってぽくぽく食べるその雁は、本
当に鳥捕りが川原で捕まえた鳥だということが、この後、瞬間移動のように川
原に降り立って、鳥を捕まえる鳥捕りの姿によって証明されるのだ。

 けれども、雁と違って鷺は、鳥捕りの言葉によると、

「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日
うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられる
ようになるよ。」

 というものなのだそうだ。何度読んでも、水銀のような猛毒が入ったものを、
どうして食べるのだろうとドキドキしてしまう。

 チョコレートのように身離れが良くて、鳥の形をした大きなお菓子。どんな
味でどんな食感なんだろう? ぽくぽくという食べ方を見ると、おせんべいや
クッキーではなく、もう少しねっとりしたケーキやタルトや饅頭のような感じ
に思えてくる。

 自由に逞しく空を渡って行く鳥たちが、一瞬にして捕まってしまい、袋の中
で青い光を放ちながらも、すぐにぺしゃんこの押し葉のようになってしまう。
そして、それがそのまま菓子になる。
 とてもグロテスクで怖い食物のようで、昔、親が持ってきたお土産にあった、
お祝いのお返しの大きな鯛の形の砂糖の塊や、不気味なほど大きいかまぼこや
羊羹などの記憶がよみがえってくる。
 もちろん今でも、鳥の形や動物の顔をしたお饅頭やケーキのお菓子は作られ
ていて、可愛いとか残酷とか言いながらも、私たちはそれをぽくぽく食べてい
る。でも、この押し葉の鳥のお菓子の作り方だけは、どんなに時代の中を探っ
てみても見つからないだろう。

 少し悪夢めいた夢の中にしか現れないお菓子、それが、鳥捕りの捕まえた雁
や鷺のお菓子だ。

 力強く羽ばたく羽や、袋の中で蛍のように青くぺかぺか光ったり消えたりす
る発光する体を持っているのに、一瞬にして死んでしまう鳥。あっという間に
ひらべったい菓子に変身してしまう鳥。たとえ鳥捕りの手から逃れたとしても、
溶鉱炉から出た銅の汁のように溶けて砂の中に消えて行ってしまう。鷺や雁の
そんな様子を見れば見るほど、この菓子の中に、賢治の好む科学の作用や岩石
の輝きが見えてくる気がする。

 いつかは、想像力でその味を味わってみたいと思いながらも、決してかなわ
ない食物。

けれども、賢治の言う、
「すきとおったほんとうのたべもの」
として、心に残り続ける。

そんな幻の食物であるこの雁や鷺の菓子を、私はいつまでも追い求めていくだ
ろう。

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『宮沢賢治全集』
         ちくま文庫

『往復書簡 宮本百合子と湯浅芳子』黒澤 亜里子編著
                                  翰林書房 
『森は生きている』サムイル・マルシャーク著 湯浅芳子訳
         岩波少年文庫    

『伸子』宮本百合子著 (『宮本百合子全集』)
    新日本出版社

『ますむらひろし版宮沢賢治童話集』ますむらひろし著
                 朝日ソノラマ   
『アップルパイの午後』尾崎翠 
           岩波文庫他
『宮沢賢治のレストラン』中野由貴著
            平凡社
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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其伍 来るべき書物

 前回のこの連載で、虎が栗に勝つというようなことを書いていたら、本当に
そうなってしまい、読者の方から「お見事!」というメッセージまでいただい
てしまった。時事ネタ怖いですね。

 といいつつ、またも時事ネタ。某D社のWサイト閉鎖の話が少し気になって
います。

 この話、どことなくおかしな話。会長だったNさんは旦那さんの看病で現場
を引退。で、医療情報のコンテンツサイトもやっていたのが、いつのまにか、
コピペ・嘘情報・SEO対策サイトに成り下がっていた、というお話なのだが、
やっぱり何か変だ。

 ネットメディアでは、やれ誰それが雲隠れしているだの、1字1円ライター
がどうだの言っているが、そもそも、キュレーションメディアってのは、ビジ
ネスとして成立するんだろうかって話だと思っている。

 いや、これが英語圏なら、まだわかる。英語の情報は世界の誰もがアクセス
できるから、レバレッジが掛かって広告収入もデカくなるだろう。しかし、日
本語じゃあねぇ。日本人+αが見たところで、サイトを維持できるだけの収入
が得られるんだろうか。

 お金が稼げなければ、コストを下げるしかない。いかに安くコストを抑えて
アクセスを得るか、ということを最大限に突き詰めれば、センセーショナルな
単語を並べて引き込む、という話になるのも不思議ではない。

 前職で時代に先駆けて、コンテンツで集客して本を売って稼ぐ、というビジ
ネスモデルの破たんを見てしまった私としては、そんな思いにもなってしまう
のだが、今日はどちらかというと自分の過去の罪についての精算話など。

 かつて無職だった20代の頃、知人に頼まれていくつかライター仕事をしたこ
とがある。もちろん、インターネットなどは当時、まだ無かったので、雑誌や
書籍の原稿を書く仕事である。

 で、特にひどかった仕事が、ある編集プロダクションから来た歴史本の原稿
書き。原稿書きといったら聞こえが良いが、どう考えても企画が間違っていて、
本というよりは細かい文字の詰まった紙の束といった方がいい。要は過去から
現在までの歴史的事件を時代毎に新聞のような形式で紹介する、というもので、
確か原稿料は40ページかなんかで買い取り20万とか15万とか、そんなものだっ
たような気がする。

 しかも私の手元に来た段階で締め切りまで一週間とか10日とか、そんなよう
な話。編集プロダクションの担当者の指示も、この資料とこの資料を使って、
埋めてください、というもの。ざっくりすぎだろう。

 どうも背景としては、資料集めまでやって編集者が自分で書こうとしたのだ
が、手が回らずに外注にすることにした、というものだったらしい。

 まあ、私も無職だったので引き受けたが、引き受けたものの、そもそも用意
されている資料ではこの文字数は埋まらない。同時代の別記事も入れるという
話だったが、それもほとんどない。

 繰り返しになるが、インターネットもない時代。当然、WikipediaもAmazon
も無い。ついでに時間もない。

 もうこうなるとタイピング優先。図書館からいろいろ本を借りてきて、ひた
すら打ち込むこと一週間。丸写しの部分は後から修正すればいいや、と思って
いたが、当然、そんな時間はなく、結論としてはそのまま世の中に出てしまっ
た。

 後で飲んだ席でその編集者に話したら「何かあったらどうしよう」と言って
いたが、結局、未だに何も無し。っていうか、そもそも本も売れなかったと思
うし、もう絶版である。

 個人的に思ったのは、無茶な仕事を受けるのはやめよう、ということと、こ
の出版社の本は気をつけよう、だった。そもそも、こういう使い捨てライター
仕事は受けるべきではない、と思ったのを、今回のD社の報道を見て思ったの
だった。

 振り返って思うのは、これってこの本だけのことでは無いだろうなーという
ことだ。もし、私が断っていたら、編集者が命削って書いていただろうし、結
局、本は似たような形で世に出ていただろう。コピペはまずいかもしれないが、
電子化されない限りバレることもないかもしれないし、てにおはを直せば問題
ないのかといえば、いや、そもそも、オリジナルを称するなら歴史家にでも名
前入りで書いてもらえ、って話である。ってか、そもそもその本に読む価値・
買う価値はあったのか、という問題でもある。出版業界の常で、自転車操業の
ための一冊に過ぎなかったのではないか、というのは極論である。

 しかしおかげで、クサい本というのはなんとなくわかるようになった。書き
手の名前が無く、編集委員会なんてのが執筆者になっていて、さらにやたらと
文字が多い本は要注意である。

 日々、これだけの書籍が出版され続けていることは、そもそも異常である。
さらに言えば、ネットに大量にアップされる記事。それほどオリジナルのコン
テンツを生み出せるなんてことが、実際にありうるのだろうか? 自己啓発本
や成功本は、外資系企業×〇つの法則で量産できるし、ある編集者によると、
売れる自己啓発本は、2割が新しいことで、8割当たり前のことというバラン
スが良いそうだ。あまり新しいことが多すぎると読者の自己肯定感が下がるの
で売れないという。なるほど、と思うが、じゃあ2割だけを2割の値段で出せ
や、とか思ってしまう。

 編集者の指示、この本とこの本を参考に埋めて、というのは今もどこかでや
られているだろう。それは出版が文化ではなく、産業になってしまったことの
ひとつの弊害かもしれない。しかし、デジタルが前提の世の中になってしまっ
た今、剽窃という問題はすぐバレるものになっている。

 AIが原稿を書く、なんて話も進んでいるらしいが、言葉は何を言ったか、
ということよりも、誰が言っているか、に価値がある時代になっている。この
拙文に価値があるかどうかはともかく、自分の言葉を、オリジナルだという意
識で以て書いている。SEO対策的にどうだとか考えてる時点で、人間がAI
に乗っ取られてるんじゃないかと思う、今日この頃である。

原口aguni:当メルマガの発行人代表。発行人のくせに原稿遅くなってすみませ
ん。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
----------------------------------------------------------------------

 タブレット端末を紛失してしまいました。実は極度の方向音痴で、どこに行
くにも頼り切りになっていたので、不安この上ない。

 と、実は仕事で使う必要性があったことに気づき、本日、慌てて再購入しま
した。

 年末に予期せぬ大出費です。

 ということで、今度は絶対に無くさないように、カバーをド目立つ真っ赤に
しました。

 これで無くしたら、まさに赤っ恥です。

 来年もよろしくお願いいたします。(aguni原口)

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