━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■------------------------------------------------------------------
■■ [本]のメルマガ 2013.10.05.発行
■■ vol.515
■■ mailmagazine of books [「普通の国」の感覚 号]
■■------------------------------------------------------------------
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
『図説 世界史を変えた50の機械』
エリック・シャリーン著 柴田譲治訳
B5変型判 224ページ 2940円(本体) ISBN:9784562049233
電球、自動車、パソコン、電話、ウォークマン…人類の進歩に大きく貢献し、
生活に劇的な変化を与えてきた50の機械の興味深い物語を、豊富な図版と共に
紹介。好評『世界史を変えた50の植物』『同動物』『同鉱物』に続く第4弾。
■CONTENTS------------------------------------------------------------
★トピックス
→ トピックスをお寄せください
★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 諫山創『進撃の巨人』(講談社コミックス)
★ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
→ 第16回 エクセレント・リーダーシップ
★「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ
→ 今回はお休みです。
★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。
----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■文化通信メディアセミナー
└──────────────────────────────────
電子書籍・電子雑誌をビジネスにできるのか
―出版社のデジタル活用、可能性と課題―
タブレットやスマートフォン、電子書籍端末の普及が進み、いよいよ電子書
籍・電子雑誌の環境が整いつつあるが、出版社はこの状況をビジネスに活か
せるのか。電子書籍で『もしドラ』などのヒットを飛ばし、イーシングルも
発行するダイヤモンド社の井上直営業局次長と、雑誌と電子版のバンドルサ
ービスなど雑誌の価値向上に取り組むハースト婦人画報社の田中精一販売本
部長に、実体験から語ってもらう。
■講師:ダイヤモンド社営業局次長・井上直
ハースト婦人画報社販売本部長・田中精一氏
司会:文化通信社取締役編集長・星野渉氏
■日時:10月30日(水) 18時30分〜20時30分
■会場:岩波セミナールーム
http://skc.index.ne.jp/seminar/image/map03.gif
■会費:5000円
◆出版ビジネススクール共催/お問い合わせ03-3234-7623
■お申し込みはこちら→ http://skc.index.ne.jp/seminar/20131030.html
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────
出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。
情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。
----------------------------------------------------------------------
■「声のはじまり」 / 忘れっぽい天使
----------------------------------------------------------------------
第78回 あり得なくもない世界を描く
―諫山創『進撃の巨人』(講談社コミックス)
現時点で累計2300万部を超えるというのマンガ作品『進撃の巨人』。
こんな大ヒットは久々だ。全巻平積みしている書店も多いが、補充が追いつか
ない様子だ。諫山創は大分県出身の27歳。何と本作がデビュー作である。講
談社のマンガグランプリで佳作を取り、『別冊少年マガジン』で連載を始めた
途端に大きな反響を呼んだ。第35回講談社漫画賞少年部門を受賞し、テレビ
アニメも作られた。嘘のようなトントン拍子のメガヒットぶりなのだ。何がこ
んなに多くの人の心を捉えたのか、と思って読んでみると、なるほど、こうい
うわけだったかと合点がいったのだった。
舞台は中世と近代の中間のような異世界が舞台。人間を食べる巨人が突如現
れ、人類は存亡の危機に陥り、巨大な3重の壁を築いて辛うじて生活圏を維持
していた。が、壁を築いてから100年程たったある日、壁の高さを上回る巨
人が出現して外側の壁を壊し、人類は生活圏の縮小を余儀なくされてしまう。
その時、母親を巨人に殺されたエレンは、幼馴染のミカサ、アルミンらととも
に巨人討伐の兵団に入り、失った領域の奪還を目指す。
以上が物語の大枠である。なぜ巨人が出現したかは誰もわからない。巨人は
食べなくても生きていける体であり、人間を食べるのは単に人間を殺すためで
あるらしい。読者は登場人物同様、この不条理すぎる謎を抱えながら作品を読
み進めることになる。巨人たちは、合理的な理由があって人類を攻撃するので
なく、単に天敵=捕食者として立ち現れる。諫山創の絵は格別にうまいとは思
えないのだが、人間の形をしているが意志の疎通を図れない怪物としての巨人
の不気味さを巧みに視覚化している。
侵略ではなく捕食。「天敵」が突如襲いかかってくるという設定は、グロー
バリズム経済の侵入や大自然災害の予感におびえる現代の日本人の心理にマッ
チしていると言える。但し、この作品が構想されたのはリーマン・ショックや
東日本大震災の前である。3.11事件やイラク戦争のような世界史的出来事
に接したり、長期不況に陥って雇用が不安定化した状況をまのあたりにした経
験が、若い日本人漫画家にこのような作品を書かしめるきっかけを与えたのか
もしれない。合理的な理由で攻撃してくる敵を相手にした『宇宙戦艦ヤマト』
や『機動戦士ガンダム』、敵を自我の裏の姿として内面化する描き方を取った
『新世紀エヴァンゲリオン』とは随分違うなという印象だ。
そして興味深いのが、敵への対処の方法だ。巨人たちは大砲で頭を吹き飛ば
されても再生する能力を有しているが、うなじの肉を削ぎ落とされると死んで
生き返ることがない。そのため、兵団は立体機動装置というガスの力で空中で
浮くことのできる武具を使って巨人の首を狙うしかない。もちろん、こんなや
り方は至難を極めており、余程熟練した兵士以外、成功の確率はごく低い。巨
人討伐隊である調査兵団に入った者たちのほとんどは、戦闘で死ぬ運命にある。
この国の軍隊は志願制のようだが、志願兵の大部分は、壁の内側を守る憲兵団
を目指し、調査兵団を希望する者は余程志の高い者か変わり種に限られる。軍
事訓練を受けて高い能力を示した者ほど安全度の高い憲兵団に入るわけだ。人
類の活動領域が制限されているおかげで、食糧が入手困難な状態が慢性的に続
いており、民は貧しい。故に軍隊は就職先として人気が高い。
この辺りの事情を、この作品はかなり力を入れて描いている。軍というもの
が一般国民にとって身近な存在として意識されている。これはつまり、今日本
がなろうとしているかもしれない「普通の国」の感覚だろう。日本は開国以来、
富国強兵政策を取って幾つもの戦争をし、太平洋戦争で敗戦してからは「平和
憲法」の下で不戦(と言ってもそれなりの加担はしたが)の状態を保った。
『進撃の巨人』では、人類は、巨人の攻撃にあって絶滅寸前になりながらも、
高い壁を築くことによって100年間の平和を享受した、ということになって
いる。とすると、突如超大型巨人が現れて壁を壊し、世界が再び戦闘状態に陥
いる事態は、日本が経済的・外交的に行き詰り、戦争に巻き込まれていくとい
う、あり得なくもない未来図に相当する。
『進撃の巨人』では、こうした「あり得なくもない」戦争に対して現代の日
本人が抱く想像が丁寧に拾い集められている。
まず、世界の本質は残酷であるという苦い認識が何度も示される。壁を壊さ
れ縮小した領域を奪還するために、人類は巨人に総攻撃を仕掛けるが、逆襲さ
れ、人口の2割を失ってしまう。息子の死を悲しむ母親が兵団の長に、息子の
死はせめて人類の役に立ったのだろうかと問うた時、長は身も蓋もなくそれを
否定する。そして主人公と行動を共にしてきた仲間たちもまた、次々と巨人に
つまみあげられては無惨にも食われていく。エレンの母親は幼いエレンの目の
前で巨人に食われて死んだ。エレンの幼馴染の少女ミカサの父母は、幼いミカ
サの目の前で家に侵入してきた暴漢に殺された。戦争に代表される、弱肉強食
の原理が世界の根本原理だと思い知らされるシーンが多数挿入される。
軍は中央集権的な組織である。戦いに勝利するためには、個より全体を優先
しなければならない。この作品にはキレ者のリーダーが2人登場する。調査兵
団の団長エルヴィン・スミスと駐屯兵団の司令官ドット・ピクシスである。エ
レンは人間の意識を保ったまま、巨人に変身する能力を身につける。そのこと
が知れ渡ると、軍の大事な「武器」であるエレンを保護するために、両者とも
部下を何人も巨人の餌食にすることをためらわない。彼らは目的達成のため意
図的に軍から犠牲者を出す。犠牲が出ることを前提とした作戦を立案・実行し
たことで、彼らを咎める者は誰もいない。むしろ、勝利を目指すための崇高な
行為として讃えられる。現実の戦争においても、軍事作戦はある程度の犠牲は
出て当然として立案されるが、その身も蓋もない事実を、読者は再認識させら
れることになるのだ。
軍や国家が幾ら中央集権的に作られていようと、個人の意志を思うままにす
ることはできない。巨人との戦いに勝ち人類の活動領域を回復するという軍が
掲げる理念に心から同調する者は少ない。軍に入隊した理由は、故郷に錦を飾
りたいからとか、家が貧しくて食べられなくなったからといった自分本位的な
ものが多い。また、軍に入っても、巨人と直接対峙しなければならない調査兵
団は配属先としては嫌われる。『進撃の巨人』が最も力を入れて描いているの
は、実は戦闘シーンではなく、こうした集団と個人、個人と個人の間の意識の
ズレや軋轢、対立である。訓練生の中でも、(実戦の少ない)憲兵隊に入るた
めに良い成績を取るのだと公言する者もいれば、私は自分のことだけを考えて
いると言い放つ者もいる。
初老の司令官ピクシスはエレンに言う。「巨人に地上を支配される前、人類
は種族や理の違う者同士で果てのない殺し合いを続けていたと言われておる。
その時に誰かが言ったそううな。もし…人類以外の強大な敵が現れたら人類は
一丸となり争い事をやめるだろうと…お主はどう思うかの?」。エレンは呑気
な話だと即座に否定する。巨人との戦いが熾烈を極める程に、軍や市民の内紛
は激しくなる。それも戦争の風景の一つなのだ。ピクシスは兵士たちに、壁が
破壊された後巨人に総攻撃をかけたのは、巨人に対抗するためというより、政
府が抱えきれない大量の失業者の口べらしのためだったと真実をぶちまけもす
る。
この「内紛・裏切り・テロリズム」のテーマは巻を追うごとにクローズアッ
プされていく。エレンの他に、巨人に変身できる人間がいることがわかり、し
かも彼らが軍の内部の人間だということが明らかになる。更に壁の内部に巨人
が眠っていることまで判明。軍の敵は、軍が属する権力の中にもいる可能性が
出てくる。こうした複雑な構図の中で、民衆・軍隊・国家がそれぞれの思惑で
動く様が細かく描かれているところが、この作品の最もスリリングなところな
のだ。
そして個人は、周囲に流される者と、自身の意志で動く者にはっきり分かれ
ていく。主人公のエレンは自由でありたいと希求する激しい性格の持ち主だ。
身体能力は低いが明敏な頭脳を持つ友人アルミンが教えてくれた、塩水でいっ
ぱいの広大な「海」を見たいと願っている。軍隊に入ったのも、巨人を駆逐し
ようと意気込むのも、自由を獲得したいという内発的な欲求のためだ。損得を
計算する意識が希薄で、合理性を欠く衝動的な行動を取ろうとすることもしば
しば。勇猛で知られるリヴァイ兵長に「コイツの意識を服従させることは誰に
もできない」と言わしめる程だ。自分の意志をはっきり持つ彼は、優柔不断な
仲間から羨望の眼差しで見られたこともあった。エレンの幼馴染で驚異的な身
体能力を有する少女ミカサは、恩を受けたエレンを守ることに執着する点で、
エレンと同質の人間である。自らの価値観による選択を重視するか、意志を抑
制して周りに合わせて生きるか。誰もがぶつかる普遍的な問題だろうが、戦争
という非常時においては、その選択が生死に直結する。無論、周囲に付和雷同
して行動していれば生存率が上がるということはない。付和雷同してばかりい
る者には、「非常」の姿が見えにくくなる。壁を築いてから100年の平和を
享受してきた人類は、だらけきって防衛意識が弱くなり、壁を壊されて「想定
外」の事態に陥っても、右往左往するばかりだった。結果、多数の死者が出た。
状況の急変による想定外の惨事、事態に対応するための中央による強権の発
動、内部分裂と派閥対立、テロリズムやクーデターの可能性、民衆の不安につ
けこんだ新興宗教の発生。非常時に起こり得ることのポイントを一通り描く中
で、純粋な心を持つ軍国少年がいかに生きたかに焦点を当てる。少し前だった
ら、奥浩哉の『GANTZ』(ヤングジャンプコミックス)の玄野計のような、
非常時にあっても自分のことしか考えない主人公の方が身近に感じられただろ
う。しかし、今は違う。自分の内的な衝動を国の運命と結び付け、ひたすら燃
焼させていく主人公の方がリアリティを持ってしまうのだ。『進撃の巨人』に
おいて、個の自由は戦争という深淵から眺められている。主人公エレンにとっ
て何より大切な「自由」は、敵と戦い国を救うことではじめて得られるものだ。
国家は民を見限るかもしれないのに…。
こういう主人公が親近感を呼ぶということは、日本人にとって戦争が起こり
得るべき事態としてリアルに感じられるようになってきたということなのだろ
うか。巨人に食われてもいいから軍とは関係なく隠者として勝手に生きるよ、
という人物が登場したら、その人物はエレンと同じくらい気概があるように映
るかもしれない。ゆるい生き方が許されなくなり、制度にコミットするしない
の意識を鮮明にすることを迫られる、そういう時代が「こなくもない」ことを、
この作品を読んで感じてしまうのだ。
*諫山創『進撃の巨人』(各巻税込み450円 講談社コミックス)
現在11巻まで刊行。
----------------------------------------------------------------------
■ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
----------------------------------------------------------------------
第16回 エクセレント・リーダーシップ
前回の掲載から2ヶ月開いてしまったので、今回は、少し俯瞰したようなお
話をしてみることにする。
マネジメント能力の欠如とか、リーダーシップの欠落とかいうことは、今の
どの日本企業でも問題になっていることだろう。
例えば最近では、GREEという会社があって、200人だかの早期退職を
募集していた。つい半年か1年前には、転職者を紹介した者には安からぬ報奨
金を出していた、ということはあまり知られていない事実だろうが、それにし
ても、やっていることがめちゃくちゃだ。
長期戦略とか方針とかが立てずらいのはわからないでもない。しかし、それ
はどの企業も同じこと。あっちへふらふら、こっちへふらふらという経営をし
てしまっているのは、そこにマネジメントの不在を見て取れる。
外の環境変化をいち早く感じ、大局を見つめながら目の前のことの意思決定
を行い、人の心を理解し、生命体としての組織を動かしていく。そんなリーダ
ーが、やはり日本には圧倒的に足りないように思う。
前に少しお話したかもしれないが、IT企業というのはどこかブラックなマ
ネジメントをしている会社が多く、理由は簡単で素人がマネジメントしようと
しているからだ。2000年の頃、ネットバブルの頃の会社では、ネットに詳しく
てマネジメントができる人材なんてのはほとんど皆無で、どうしたってネット
に詳しい人材にマネジメントさせようとすると、これが人の気持ちとかがまっ
たく理解できない阿呆だったりするので、もうひどいことがいろいろあったと
思う。知人の居た会社でも、ストレスでロッカーに頭をぶつける奴や、トイレ
に吐きに行く奴続出だったらしい。(しかも、これは現在の某有名企業の話で
ある。)
さて、今日、御紹介するお話は、それほどひどい話でもなかったが、どうい
う風なマネジメントが当時、行われていたのかを時系列的に紹介しようと思う。
もちろん、これは私の目から見たフィクションであり、実際にどうだったのか、
ということを保障するものではない。
まず最初はMさん。本当は彼の上司に当たるOさんというのが取締役待遇で
入っていたので、マネジメントは彼の担当ではないと思うのだけれども、そこ
はサラリーマン。結局、彼が行っていた。彼は日経BPからの出向組で、彼の
手法は数値管理と外部連携という手法だった。
つまり、日々の売上を確認し、目標にいかない場合には外の会社に営業し、
提携を結ぶことで数字を作ろうとした。この戦略は、わからなくはない。
しかし、この戦略の大きな欠点は、本当に問題があったシステムとコンテン
ツに手をつけないで行うための戦略であった、ということだ。事実、彼は取締
役ではなくマネージャーだったので、他の部署には手を出せなかったのだ。要
は組織内部の問題に手をつけず、外部との連携で経営しようとしたわけだ。
ただ、所詮、ベンチャーなので、どこまでも越境し、良かれと思うことを情
熱で乗り越える。そういう行動を取ろうと思えば取れたかもしれない。しかし、
彼はこの会社で終わるつもりはなかったし、常に日経BPに返り咲くことを考
えていた。
そうなると、あくまで与えられた権限で頑張る以外の選択肢はなかったのだ。
しかし、次のステージになって、さらに厄介なことになった。上司の取締役
のOさんが居なくなり、実質的にナンバーワンになってしまった。上司となる
のはもはや社長のIさんしかなく、彼に取っては自分の会社の上司よりもやり
にくい存在。
そこからのMさんはIさんの言うことを何でもハイハイと聞く駒になってし
まった。まあ、それしか選択肢はなかっただろうと思う。
続いてMさんが念願の日経BPに帰ることになった。このとき同時に様々な
方が会社を去ることになり、結果として、マネジメント経験のない若造しか居
なくなってしまった。
社長のIさんは、私を含む数名の社員を自宅に呼んで、宅配のピザを食べな
がら、「リーダーは、周りの人間がリーダーとして扱うからリーダーになるの
であって、その人間に特別、能力があるからリーダーになるのではない」と言
った。
このときのお話はすごくインパクトがあった。実際にこのときリーダーにな
ったのは、この会社設立前からの流れで最も給料の条件が良いSさんだった。
だから実際、他の人にとっては、お手並み拝見といったところだったろう。
このSさん、後でわかったことだが、せっせとIさんに意見書を出していて、
それが評価されたらしい。傍から見ると、自分の担当の仕事しかしない上に、
他に仕事があるからとさっさと帰るタイプで、とてもリーダータイプではない
のだが、どうやら野心があったようで、それを実現することに命を掛けていた
のだと思う。
それは決して悪いことではないし、その目的は達せられたのだろうから、彼
は一環していたのだと思う。しかし、リーダーとしての彼はほぼ何もしなかっ
た。何も変えようとしなかったし、何も変わらなかったし、ただ無駄に組織の
時間とお金を消耗していった。
こういうリーダーはリスクを侵さない代わりに欠点も見えないので、非常に
扱いにくい。部下の仕事の邪魔をするわけでもないので、評判が悪いというこ
ともない。
「タイタニックで皿洗いしているようなもの」という表現を、故盛田昭夫氏
が使われたそうだが、まさにそんな感じだったろう。
さて、そんな中、再び日経BPからやってきたのが、Mさん(前のMさんと
は別人)だった。彼はこの会社がうまくいっていないことを前提として、どう
にかして来いと送り込まれたようなタイプ。役職はトップではなく、前のMさ
んと同じ、営業のマネージャーというポジション。
その頃には、そもそも営業とか編集とかが意味が良くわからなくなり、どち
らかというとカスタマーから生まれた物流管理チームのポジションが大きくな
ってきていた。リーダーシップはなくとも、お客さんさえ居れば、マネジメン
トはきちんと生まれ、機能するのだということが良くわかる事例だと思う。
当時、私は何をしていたかと言うと、編集とも営業とも違う、WEB運営な
る部署を勝手に立ち上げ、個人的なつながりでシステムと連携し、サイトの改
善業務をこなしていた。どういう仕組みで何がどうなっており、何が問題なの
か、ということを調べていた。
例えば、検索結果の表示がなぜ遅いのか、ということは、みんな、データベ
ースの検索が遅いのだと思っていた。富士通さんに協力してもらって、実際、
どうなのかということを調べてみると、実は結果を出すところまではものすご
く早いことが判明した。で、何で遅いのかと言えば、実は表示のところで時間
が掛かっていることが判明。
で、表示のテンプレートを見直して見ると、とても動的に表示させるテンプ
レートになっていない。もともと日経BPが使っている広告用HP作成会社に
デザインを依頼し、それを富士通にそのまま投げて搭載していたのだが、スペ
ースGIFで成型したりという無用なパーツが多く、それが検索を遅くしてい
たことが判明。
なーんだ、ということで、それらをすべて削って、ついでにJavascriptを使
ってまとめて買い物カゴに放り込めるようにして、、、検索機能がリニューア
ルして早くなりました!
そんなことをしていたのでした。もう完全に独立部隊。
そうこうしているうちに、あるきっかけで、この会社を去ろうと思い始めて
居た頃、今度は、新しいMさんが若いシステム屋を連れてきたのでした。
この新しいMさん、社員をリストラしようとか、いろんなことを言い出して
困ったのですが、私の退社計画を知らずと、後継者に当たる人を入れてくれた
のですから、これはこれで正直、ラッキー。
このKさんは前のSさんにこの新Mさんが加わったようなタイプ。目立つこ
と、褒められることが好きで、しかもあまりコミュニケーションが好きではな
いタイプ。使命感は持っているのだけれども野心で占められているようなタイ
プ。
社長のIさんにもいろいろアタックし、何と、CEOなるポジションを創っ
て収まってしまった。
しかし、彼はシステムやWEBのことはわかるし、こうすればいいというの
は結構、センスがあるのですが、人のマネジメントのことは素人。カリスマ型
のリーダーシップに憧れ、そういう風に振舞おうとしてしまい、結局、私が退
社するきっかけとなるある事件を起こし、最終的には、自身がメンタルを病ん
でしまい、出社しなくなり、退社してしまったと風の噂に聞きました。
面白い小手先のツールとか、結構、役に立つWEBサービスとかを開発し、
リリースしてそこそこ話題になったのですが、結局、もっと強い力に勝てなか
った、ということなのかな、と密かに推測していますが…。
その後は、もともと物流の改善を仕切っていたボスであるM(また別のMで
すね)さんが、統括するようになったと、これまた風の噂…。
私が関わっていたのは設立2ヶ月後からの4年ちょっとですが、こうして振
り返ってみると、まさにマネジメントやリーダーシップの実験場。いろいろな
人がいろいろなチャレンジをして敗れていった、というのが良くわかる。いず
れも、自分が何の権限を持っていて、何を意思決定できるのか、そして、何の
結果責任を追っているのか、それが良くわからないままに、ポジションが必要
だからという理由で立ってしまった。
実は私が辞めようと思ったきっかけというのは、こういうことが表舞台で行
われている間に、そもそもビジネスモデルに問題があるのではないか、という
ことを疑いだしたのだ。
おそらくその予感は当たっていて、新しいビジネスモデルを考えるにはどう
すればいいのか、ということで、まずは現状分析から始めることにした。
それが、個人的に「bk2」と呼ばれるプロジェクトで、これはいつの間に
か、システムを置き換える話になってしまって社内に広まり、さらにめんどく
さいことになっていくのでした。
(つづく)
----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------
メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
【著者インタビュー希望】と表題の上、
下記のアドレスまでお願い致します。
5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com
----------------------------------------------------------------------
■あとがき
----------------------------------------------------------------------
早いものでもう10月。今年も残すところあと3ヶ月ですね。ただ、気候はま
だ暑かったり寒かったり変化が激しく、その結果かはわかりませんが、私
の周りでは、体調を崩される方も多いようです。
皆さんも、お気をつけください。(aguni原口)
----------------------------------------------------------------------
■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4877名の読者の皆さんに配信して
おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
----------------------------------------------------------------------
■ 電子メールマガジン「[本]のメルマガ 」(毎月5・15・25日発行)
■ 発行:[本]のメルマガ発行委員会
■ 掲載された内容を小会の許可無く転載することはご遠慮ください。
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ 今号のご意見・ご質問は5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com
■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わります。
・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
・15日号:畠中理恵子 hatanaka3floor@jcom.home.ne.jp
・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
ただし、掲載の可否については編集同人が判断します。
■ 広告掲載につきましては、下記までお問い合わせください。
事務局担当:aguni hon@aguni.com
■ HPアドレス http://www.honmaga.net/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を通じて発行しています。
■ メールマガジンIDナンバー:0000013315
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行えます。
---------------------------------------------------------------------