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[本]のメルマガ vol.506

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■■ [本]のメルマガ                 2013.07.05.発行
■■                              vol.506
■■  mailmagazine of books     [学問のミューズは向こうから 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『日本兵を殺した父:ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち』

デール・マハリッジ著 藤井留美訳
四六判 374頁 定価2625円 ISBN:9784562049257

自分は沖縄戦に加わり、日本兵を殺したと告白し、死んでいった父。あとに残
されたのは謎の写真と日本人のパスポート。父の真実を知るためにピュリツァ
ー賞作家は帰還兵たちを訪ね、沖縄へ飛び、戦争の凄惨な実像に迫っていく。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ
→ 第92回 スーツのお話

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第75回 つるむのかつるまないのか―福澤徹三のアウトロー小説

★ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
→ 第15回 夏への扉

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■出版社が「本気で」Webメディアを成功させる方法(仮題)
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「日刊サイゾー」プロデューサーが語る、
出版社が「本気で」Webメディアを成功させる方法(仮題)

■講師:川原崎晋裕氏(メディアプロデューサー/元(株)サイゾー)

■日時:2013年8月2日(金)19:00〜20:45(18:45受付開始)
※21:00より、近隣で懇親会を開催いたします。

■場所:水道橋・貸会議室「内海」
http://www.kaigishitsu.co.jp/company/map.pdf

■料金:勉強会参加料 1,000円 懇親会参加料 4,000円(予定)

■予約お申し込み 下記の受付フォームにて承ります。
http://my.formman.com/form/pc/74enUAgEh1wcbNtU/

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■「マスコミ 川柳」募集
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文化通信社では、新聞、出版、テレビ、広告など、マスコミ業界に関する
「マスコミ 川柳」を募集しています。テーマは 「メディア業界、マス
コミ業界」。メディア・マスコミ業界に関連することなら、何でも結構です。
詳細はhttp://www.bunkanews.jp/information/senryuu.phpまで。

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■目利きが語る“私の10冊”第25回隈研吾(建築家)
└──────────────────────────────────

歌舞伎座をはじめ、数々の話題作を設計し、世界の第一線で活躍する隈研吾さ
ん。隈さんが選んだ10冊は、「負ける建築」を自称するその建築観がいかに育
まれたかを教えてくれます。ご期待ください。

日時:2013年7月12日(金)19:00-20:30
会場:ヒルサイドライブラリー(ヒルサイドテラス アネックスB棟3F)
会費:一般2,000円 クラブヒルサイド会員/学生:1,000円
定員:50名(要予約)
予約・お問合せ:ヒルサイドインフォメーション
        TEL03-5489-3705 FAX:03-5489-1269
        E‐mail:info@hillsideterrace.com

▼詳細はこちらをご覧下さい
 http://www.clubhillside.jp/seminar/mekiki130705/

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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ
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 第92回 スーツのお話
 
 遅い梅雨もようやく終わりかけて、七月また今度は暑い夏が来る。
こんなじめじめした天気な蒸し暑い日は、夕方からビールを飲みに行きつけの
店へ行くのが、密かな梅雨の気の晴らし方なんだけど一人で行く時は、必ず文
庫本を一冊カバンに入れて、ジャズの流れるカウンターでパラパラ本を読む。
そんな六月も終わりの或る木曜日に、ビールを飲みながら適当に本棚から抜い
てきた『村上ラヂオ』村上春樹作・大橋歩画(講談社文庫)を出して読みはじ
めると冒頭の文に、スーツを全然着ないのに何故か五着も持っていた。という
のがあり、ふーむ。と、それから一気にスーツのことで頭が一杯になってしま
った。

 と言うのも、私は現在まともに着れるスーツは一着も無いから。唯一、ある
のが黒の礼服が一着あるだけで、この一着でここ数年の冠婚葬祭をやり過ごし
てきた。その礼服も上着とスカートは別々に買った物なので、正式にはスーツ
と言えない。それで、どうしていい年の今までまともなスーツがひとつも無し
で来たのかと考えるに、まず震災で家が全壊じてタンスも何もかも埋まってし
まい何も出せなかったのが一番の理由。それとこの二十年ほどで、相当太り前
に買った服が入らなくなったことだ。もともと若い頃からラフな格好が好きで
夏はジーパンにTシャツ、冬はトレーナーが好きで今だに同じスタイルで居る
のが、大きな原因だが今まで必要に迫られて買ったスーツは、最初は長女が幼
稚園に入園する時に、きちんとした服が無く仕方なく芦屋浜にある大型店で茶
色のバックスキン風のスーツを二万円で買ったのが初め。二度目もやはり次女
の幼稚園の入園式の時で、最初の茶のスーツが入らなくなり着る服が無いので、
近所にできた大型生活百貨店でグレーのスーツをバーゲンで買った。(値段は
失念)ようするに入学卒業時期に慌てて買うパターンで、三度目は阪神大震災
の直後に東大阪の学校に転入し、新学期の式の日に着ていく服が無く、瓢箪山
駅前の長崎屋でそれしか入るのが無く仕方なく赤いスーツを買った。流石に大
阪は安く、五千円だったと思う。長い間、この赤いスーツを着て次女の小学校
の入学式から七五三のお参りなどに着ていた。
 
 しかし恐ろしいことに、そのスーツも入らなくなるほど知らぬ間に体が太く
なり着れるスーツが無い状態になった。十年ほど前に、そんな服なし状態の時
に、たて続きにパーティに出席することがありひとつは東京であり参加者が直
木賞作家やベストセラー作家が名を連ねるウソみたいなパーティに、招待して
いただいたのだが、着る服が無い。スーツは入らないし、どうしようと思うも
のの結局、新しく買わずに持っていた赤いブラウスに黒いスラックスを着て行
った。それからも出版関係などのパーティに何度か招待されたが、夏は同じ服
で冬は、母親のお下がりのハナエ・モリの黒地に白い蝶が左右に飛んでいるセ
ーターに黒のスラックスで出かけた。そして、ざっとまた十年。つまり今もス
ーツは持っていない。いい加減、買わないと困る時が来るだろと思ってたがお
金もいるし面度くさいし相変わらずジーパンにトレーナーの生活で通していた
が、去年末に突然に京都の南座で、歌舞伎の顔見世の千秋楽の桟敷席の招待券
が手に入り、行くのに服が無い。一緒に行く母親からも汚い格好で来るな。と
言われてそうだよなぁ早いお正月みたいな席だし、う〜む。と思うけど当日着
ていったのは先の冬の正装の黒のセーターにスラックス。勿論、スラックスは
大きなサイズになって買ったので、セーターは伸びるので何とか入ったのを幸
い、十六年は同じ服を着て出かけていることになる。
 
 まぁ少し前の話になるけど師走の南座の劇場では、あちこちに舞妓芸妓さん
が観にきていて、昼間の私用の着物ながら白い訪問着を粋に着こなしている。
何故かお昼の外出には白地の着物を着るらしい。夜の仕事用には黒地の着物を
着て祇園を日本髪に白い厚塗りの化粧で、お座敷に行く姿をよく見るのでその
反対になるのだろうか。補足だけど、舞妓さんは自分の髪の毛を結って日本髪
にして普段着も基本、着物を着ている。芸妓さんは日頃はおまんじゅうに後ろ
にまとめて、日本髪にする時はかつらをつけている。京都を歩くと観光用の舞
妓姿で歩いたり写真を撮ったりする人がいるけど、そんな人はかつらなので、
よく見ると本物でないとわかるのだ。
 
 夏は舞妓さんは昼間は、浴衣をきれいに着て歩いているのを見かける。朝に
お稽古があり夕方からお座敷に出る支度があるので、午後数時間が休み時間ら
しく、その時間によく外を歩いているのをよく見かける。暑い京都にいて汗も
かかず、きれいな浴衣姿の舞妓さんが通り過ぎてゆくのを見るのは、京の夏の
たのしみだ。
 
大島なえ(おおしま・なえ):1958年生。神戸在住のふらふら兼業主婦も
している。梅雨のあとさき、出ようとすると雨が降りだし外出しなかったこと
何回もあり、本屋へ行く回数が減った。家の中には読んでない本は、それこそ
腐るほどあるけどそれはそれ。雨の日はミステリーの勉強でもしよう。と植草
さんも言っている。植草おじさんは子どもの時に学校で外国人の女性教師に、
いつもウエグソと呼ばれたと書いているが、ウエグソは腹立つよなぁ
フリ−ぺ−パ−「ほんの手帖」発行人。書店巡り愛好者。
http://d.hatena.ne.jp/nae58625/
 
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■「声のはじまり」 / 忘れっぽい天使
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第75回 つるむのかつるまないのか―福澤徹三のアウトロー小説

 北九州出身・1962年生まれの福澤徹三という作家について、以前当メル
マガに「破滅というカタルシス」というタイトルで書いたことがある。
 http://back.honmaga.net/?eid=494064

 主人公と社会との絆が全て絶たれた時に、まるでカタルシスが訪れるかのよ
うに怪異が出現する。そんなことを彼のホラー・怪談小説を例にとって文章に
したのだが、その後、福澤徹三は作風の幅を広げ、サスペンスからコメディー
までバラエティ豊かな作品を数多く発表するようになった。

 それらはアウトロー小説、つまり、何らかの意味で裏社会と関わりのある人
物を主人公に据えた小説として括ることができるように思う。今回は、ホラー
・怪談作家として出発した福澤徹三の、それ以外の作品の幾つかを紹介し、彼
の世界の発展ぶりを見ていくことにしよう。

 『すじぼり』(2006年)は、何事にもやる気を見いだせない、むしろ気
弱な大学生亮がふとしたきっかけでヤクザと関わりあうようになり、抗争に巻
き込まれていく様を描いた作品。亮は友誼に厚い、細やかな感情の持ち主であ
るが、度し難く世間知らずであり、故に周囲の人間を危険に晒してしまう。学
業には身を入れられないがヤクザにもなりきれず、好意を持った女性にも煮え
切らない態度を取ってしまう。本人は常に必死だが、結果的にやることなすこ
と全てが中途半端なのだ。完成に至らなかった入れ墨(すじぼり)がそのこと
を象徴している。主人公が成長しない不思議なビルドゥングス・ロマン。福澤
はこの作品で大藪春彦賞を受賞した。

 『Iターン』(2010年)は、冴えない中年男を主人公にしたコメディー
タッチのサスペンス。広告代理店に勤める狛江は、北九州の支店に左遷される。
多額の借金を負わされ、ヤクザ岩切と杯を交わすハメになる。あり得ない要求
に振り回され、ヤケクソ気味に振舞う狛江だったが、岩切を貶めようとする経
済ヤクザの思惑を知ると、今度は岩切を助けようとする。急展開が連続するド
タバタ劇だが、細部がきっちり書き込まれていてリアリティがある。追い込ま
れた者のあがきが一番強い、というメッセージに思わず励まされてしまう。

 『東京難民』(2011年)は、『すじぼり』と同じように、やる気のない
今ドキの若者が主人公なのだが、こちらはもっとしぶとさも持ち合わせている。
大学生の修は、父親の破産がきっかけで学校を辞めるハメになる。不器用かつ
短慮かつお人好しな彼は瞬く間にホームレスになってしまう。バイトを転々と
し、ホストになってひと息つくが、不始末をやらかした同僚をかばって中国マ
フィアに売られそうになってしまう。何とか逃げ出したものの、どん底の生活
から這い上がれない修。そんな彼は、『すじぼり』の少年とは違い、「仕事な
ら、なんだってできるさ」と言い放つ強さをいつのまにか身につけていた。都
市の「難民」の実情がとてもよく調べられていて、そのディティールの精度は
驚くしかない。

 『俺たちに偏差値はない ガチバカ高校リターンズ』(2012年)は、い
わゆるタイムスリップもの。しかし、他の多くの小説と違い、SFっぽい匂い
は全くしない。学業優秀でちょっとひ弱な16歳の少年悠太は、死んだ父親の
実家に帰省した時、井戸に落ちたことがきっかけで1979年にタイムスリッ
プしてしまう。そこで「父」として高校に通うことになるが、その高校はとこ
とん偏差値の低い、暴力のはびこるヤンキーな高校だった! ぼくは悠太の父
とほぼ同年代なのだが、あの頃の日本の雰囲気を実に正確に再現していること
を保証する。ビーバップハイスクールみたいな格好の不良高校生はあの時代、
たくさんいたし、生徒を力任せに殴る教師もたくさんいた。大人も子供もツッ
パリ、そしてツルんでいた。そうした様子が、まるで事典ように整然と展開さ
れる、爆笑小説。

 『死に金』(2013年)は、複数の登場人物の視点を借りて物語が進行す
る視点小説。闇金で巨額の財を築いた矢坂は、癌に冒され、死に瀕している。
つきあいのあったヤクザたちが、愛想の尽き果てた妻が、遺産を狙い、矢坂に
近づいては身を滅ぼしていく。一方、矢坂はかつて破滅に追いやった男の娘に
特別な関心を寄せる。質素な生活に徹し、冷酷な手法でひたすら「死に金」を
貯め込む矢坂の不気味さと、組織にがんじがらめにされたヤクザたちの情けな
さ。組織を超越して生きるにも、組織の中で出世するにも、金が必要であり、
彼らは金の奴隷になるしかない。任侠を捨てた現在のヤクザの、まるでブラッ
ク企業の社員のような生態にはっとさせられる。そして、死に直面して初めて
矢坂がチョイスした金の使い途に、誰もが救われる想いがすることだろう。

 これらの小説において共通するのは、一つは下調べがしっかりしていること。
現在のヤクザのあり様、場所と時代にあった服装や持ち物や風俗、職業の実態
の描写が細かくかつ正確で、シーンの生々しさがすっと伝わってくる。もう一
つは物語の展開がスピーディーで、山場がドラマチックに作られていること。
つまり「ご都合主義」を上手に利用して、読者を飽きさせない工夫を凝らして
いる。物語の先の展開が読めてもなおドキドキしてしまうのだ。意外性や実験
性の点では、ホラー・怪談小説の方がやや優っているが、その代わりハリウッ
ド映画のような、安心して楽しめる娯楽性が用意されていると言えよう。

 そして最も大きな共通点は、どの作品にも「仲間」との絆に重点が置かれて
いることだろう。肉親との情や素敵な女性との恋愛はむしろ二義的。ひょんな
ことで関りあうことになり何となくつるむハメになった、必ずしも相性がいい
わけでもない仲間たちとの(多くは野郎同士)色気抜きの泥臭い連帯感がクロ
ーズアップされるのである。『死に金』はやや例外的だが、これとて色恋沙汰
とはほど遠い。

 彼のホラー小説においては、経済的な破綻などをきっかけに、徐々に周囲の
人間との絆が絶たれていき、完全に孤立に至った時、怪異が出現するのが基本
的な構成である。しかし、これらのアウトロー小説においては、主人公たちは、
経済的破綻など何のそので、とりあえず生きていこうとする。また、仲間と見
なした者は少々の危険を犯してでもかばおうとする。つまり、ホラー小説群は
社会に対して「アウト」の位置を取るが、アウトロー小説群は「イン」の位置
を取るのである。アウトロー同士のいびつな裏社会の方が、常に対面を取り繕
わなければならない表の社会よりも、絆が強く、温かい。

 このことから福澤徹三の人間観をうかがい知ることができるだろう。はぐれ
者を許さない組織に無理に適合しようとすると、いつしか対面を取り繕いきれ
なくなる。怪異は、自分を押し殺して組織に順応しようとしてきた人間が組織
から見放され、生きることの価値を実感できなくなったことの象徴として現れ
る。一方、ホームレスや(ひと世代前の)ヤクザの世界は、寄り添っていなけ
れば生存していけない厳しさ故に、とりあえず生存すること・とりあえずつる
むこと、自体に価値が生まれる。福澤徹三のホラー小説とアウトロー小説は、
互いを補完する、表裏の関係にあるように思える。つるむのかつるまないのか、
福澤徹三はその選択の重みを突きつけてくる作家なのだ。

『すじぼり』(角川書店 税込1680円)
『Iターン』(文藝春秋 税込1680円)
『東京難民』(光文社 税込2205円)
『俺たちに偏差値はない。』(徳間書店 税込1680円)
『死に金』(文藝春秋 税込1418円)

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■ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
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第15回 夏への扉

 2013年6月23日、24日の2日間、東京・池袋で、日本コミュニケーション学
会の第43回年次大会が開催された。テーマは「コミュニケーションと教育」。

 学術講演のゲストは東京大学名誉教授、学習院大学教授の佐藤学先生だった。

 懇親会の時、「お久しぶりです。覚えていらっしゃらないかと思いますが、
『内破する知』でインタビューさせていただいたのですが、、、」と話すと、
「ああ、あのときの。どっかで会ったと思っていた。」というありがたいお言
葉をいただいた。

 あれは良い企画だったし、あれがなかったら今の自分はない、と思う。でも、
10年早かった、とおっしゃっておられ、私も同感であった。

 さて、この『内破する知』というのは、bk1の人文サイトで私が手がけた
最初に手掛けたコンテンツのひとつだった。

 どちらかというと書評・コラムで記事を作成しようとしていたbk1の初期
のコンテンツの中で、私は「本当にコラムで本が売れるのか?」ということは
懐疑的だった。

 実は、書評に関しても、批評めいた書評なんかで売れるとは思っていなかっ
た。この辺のことと顛末に関しては、前に書いた。

 むしろ、著者がその本のポイントについて語ってくれた方が売れるのではな
いか、ということを思っていて、東京大学出版会さんと協力して作り上げたの
が、この『内破する知』並びにそこから始まるシリーズの「越境する知」だっ
た。

 ちなみに、今、思い出したけれども、このインタビュー偏重の流れは私がコ
ンテンツ作成部隊を外れる直前まで続いていて、当時では珍しかったビデオ動
画を埋め込んだインタビュー記事も作成した気がする。内容詳細は覚えていな
い。

 さて、話を戻すと、この『内破する知』は、栗原彬先生、佐藤学先生、小森
陽一先生、吉見俊哉先生という4人の著者でもあり、編者が、現在の「知」の
在り方に閉塞感をいだき、「知」の「領域」を超えて関わり合う、というのが
テーマだった。

 『内破する知』は最初のイントロダクションの1冊、そして「越境する知」
はシリーズとして、「1 身体:よみがえる」「2 語り:つむぎだす」「3
 言説:切り裂く」「4 装置:壊し築く」「5 文化の市場:交通する」
「6 知の植民地:越境する」という風に続いていく。

 http://www.utp.or.jp/series/ekkyou.html

 この刊行に合わせて、各先生方のインタビューを掲載していくと面白いので
はないだろうか、という企画だった。

 結論から言うと、栗原彬先生、佐藤学先生にはインタビューしたものの、小
森陽一先生と吉見俊哉先生については、直接ではなく、御2人が対談している
記事を東京大学出版会さんよりいただき、掲載するという形を取った。

 この数ヶ月の間に、オリジナルで記事をアップしても売れるわけではない、
ということがわかってきた、ということもあるのかもしれないが、それはそれ
として、栗原彬先生、佐藤学先生へのインタビュー、特に夏の東大で行われた
佐藤学先生へのインタビューは、私自身、とても印象に残るものとなった。

 それは歴史と伝統を感じる、古びた東大の研究室に入ったというミーハーな
気持ちなのかもしれないし、教育というものの行き詰まりについて話していた
だいた佐藤先生のお話に共感したからなのかもしれない。

 そういえば、同じ東大の水越伸先生にインタビューしたとき、東京大学大学
院 情報学環・学際情報学府がこの「越境する知」の延長線にあるのだなぁ、
と感じたのを覚えている。(以前、日本コミュニケーション学会で吉見俊哉先
生がお話され、結局、これも新しい権威を作ってしまったのかもしれないとい
う振り返りをされていたが、この頃はまだできたてのほやほやで、エネルギー
が違った。)

 こうした知の世界の方々が既存の「壁」に窮屈なものを感じ、新しい可能性
を求めるところと、出版業界の制度的限界と戦おうとしているインターネット
書店の我々の姿が、非常に重なったこともあり、このプロジェクトはとても印
象に残るものとなった。

 その佐藤学先生が60歳を契機に東京大学を退任されるときにまとめられたの
が『学校改革の哲学』(東京大学出版会)である。この本は2012年の3月に出
版されているが、掲載されている文章の「初出一覧」を見ると、全10章のうち
3章は、『内破する知』「越境する知」から採られていることがわかる。

 あとがきにはこうある。

 本書に所収した論文のほとんどは、二〇〇〇年前後に執筆している。私の哲
学的遍歴から言うと、ラディカル・プラグマティズムによる脱構築主義とポス
ト構造主義の立場は若い頃から一貫しているが、二〇〇〇年以降は、カルチュ
ラル・スタディーズのインパクトを受け、ポスト・モダニズム批判の方法を模
索しつつ、文化の政治学としての教育学を模索していた時期にあたる。この時
期、栗原彬さん、小森陽一さん、吉見俊哉さんと共に『シリーズ・越境する知』
(全六巻、「〇巻」(『内破する知』)を含め計七巻、東京大学出版会)の編
集を行った経験は啓発的であり、その後の私の哲学的探究を決定づけるものと
なった。(中略)
 さらにこの時期は、数々の役職の重責に押しつぶされる日々であった。(中
略)これらの役職の経験が研究にもたらしたものはほぼ皆無であったし、学問
研究の停滞期を迎えたことは疑いえない。幸い、本書の論文のほとんどは、そ
の直前の時期、すなわち学問のミューズがまだかろうじて私の身体に宿ってい
た時期の論稿である。学問のミューズはこちらから追求しても姿を現してくれ
ないものだ。学問のミューズは向こうから訪れてくる。今後、再び学問のミュ
ーズが私のもとを訪れてくれるかどうかはわからない。しかし、学問のミュー
ズは確かに一時期、燦然と私の研究を祝福してくれたのである。その一抹の光
を本書から感じとっていただければ幸いである。(pp.211-pp.212)

 「文化の政治学としての教育学」という言葉が目を引く。東京大学という冠
もひとつの政治装置だし、文部科学省もそうだ。教育である以上、政治からは
逃れられない。政治のための制度に閉塞感を感じたとき、身体があり言葉が交
わせれば、壁の外に出ることができる。壁の外から眺めることができれば、閉
塞感を生み出している「構造」を発見することができる。

 簡単に言うと、私がこの「内破」「越境」から感じたことはこういうことで
ある。それは大きな、そして深い気づきであったし、確かに、私自身の今の
「哲学的態度」を決定づけたように思う。

 オンラインに載らないところ、本では書き記せないところにこうした啓発が
起き、それは確かに現在にまでつながっていることを、改めて実感した出来事
となった。

 そう、過去は現在につながり、これからの未来の在り方にも影響を与えてい
くものなのだ。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com

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■あとがき
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 5日号ですが、七夕の日の配信となってしまいました。

 ところで、巷では今年は1000年に一度の猛暑などと言われています。毎年、
このレベルが訪れるタイやインド、インドネシアのことを考えれば、きちんと
文化的・制度的対策さえしっかり取っていれば、問題ない気もします。

 とりあえず、上半身裸だったり、水着で街を歩いたり、電車に乗ってもいい
という、スーパースーパークールビズをOKにしてくれませんかね。

 あと、アロハも正装ということで。

 きっと通勤も楽しくなると思いますよ。(aguni原口)

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  ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
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  ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
  ただし、掲載の可否については編集同人が判断します。
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