[本]のメルマガ

配信済のメルマガのバックナンバーを見ることができます。また、記事に対するコメントもお待ちしております。
<< [本]のメルマガ vol.504 | main | [本]のメルマガ vol.506 >>
[本]のメルマガ vol.505
■□------------------------------------------------------------------
□■[本]のメルマガ【vol.505】13年6月25日発行 
                      [だまされたと思って 号]
 http://honmaga.net/
■□------------------------------------------------------------------
□■     創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4923名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
□■------------------------------------------------------------------

★トピックス
→イベント「いける本・いけない本」

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→ダン・ブラウンは西村京太郎?

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→学力って何だ?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→学生の会話を聞くともなしに・・・

★「はてな?現代美術編」 koko
→特集 瀬戸内国際芸術祭 その2

★「岩のドームの郵便学」内藤陽介
→切手が語る歴史・イスラエル建国。

----------------------------------------------------------------------
★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『日本兵を殺した父:ピュリツァー賞作家が見た沖縄戦と元兵士たち』

デール・マハリッジ著 藤井留美訳

四六判 374頁 定価2625円 ISBN:9784562049257

自分は沖縄戦に加わり、日本兵を殺したと告白し、死んでいった父。あとに残
されたのは謎の写真と日本人のパスポート。父の真実を知るためにピュリツァー
賞作家は帰還兵たちを訪ね、沖縄へ飛び、戦争の凄惨な実像に迫っていく。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■ムダの会 presents 
    辣腕編集者が語る「いける本・いけない本」2013年上期

日時:2013年7月6日(土)14時〜(17時終了予定)
会場:代官山蔦屋書店1号館 1階 総合インフォメーション(東京都渋谷区猿楽
町17-5)
参加費:1000円(特典・いける本いけない本2013夏号と冬号を進呈(冬号は年
末発行予定))
※ 参加費は会誌『いける本・いけない本』製作費の一部として使用させていた
だきます。
お問い合わせ:03-3770-2525 URL http://tsite.jp/daikanyama/

出版の第一線で活躍中の編集者たちによる「ムダの会」が発足しておよそ20年。
会員が執筆・編集する年2回発行のホンネの書評誌「いける本・いけない本」
は、読書家のあいだで静かな評判を呼んでいます。
今回のイベントでは、9人の個性派編集者がそれぞれ10分ずつ、2013年上期の話
題の本を紹介します。その後、参加者の皆様を交えての大合評会。
本好きの方ならどなたでも大歓迎。とりあげ予定の本を読んでなくても楽しめ
ます。皆さまとともに、こんな「いける本」、あんな「いけない本」をめぐっ
て、楽しく語り合いましょう。

【とりあげる予定の本】
第1部「まずはやっぱりこの本でしょ」篇 14:00〜
 村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
 いとうせいこう『想像ラジオ』
 飯間浩明『辞書を編む』
評者/上原昌弘(七つ森書館)、佐藤美奈子(フリー編集者)、依田浩司(東
京大学出版会)
司会/倉田晃宏(晶文社)

第2部「いまノンフィクションが熱い」篇 15:00〜
 朝日新聞中国総局『紅の党』/橋爪大三郎・大澤 真幸・宮台 真司『おどろ
きの中国』
 高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』
 トーマス・カリアー『ノーベル経済学賞の40年』
評者/中嶋廣(トランスビュー)、高橋伸児(朝日新聞社)、島崎勁一(慶應
義塾大学出版会)
司会/松澤隆(フリー編集者)

第3部「時代を見る眼を鍛える」篇 16:00〜
 堀川惠子『永山則夫』
 開沼博『漂白される社会』
 柄谷行人『哲学の起源』
評者/鷲尾賢也(元講談社)、東海亮樹(共同通信社)、松本裕喜(元三省堂)
司会/小木田順子(幻冬舎)


■トピックス募集中です!
----------------------------------------------------------------------
■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
----------------------------------------------------------------------
第40回 『インフェルノ』(地獄)って、どう?

ダン・ブラウンの新作『インフェルノ』を読んだ。スーパーマーケットで15%
値引きで買ったイタリア語版は、まず厚さで度肝を抜く。表紙と裏表紙を除い
て、本文の厚さが4.5センチもある。まるで辞書みたいな厚さだ。プロローグが
始まるのが13ページで、104章のあとのエピローグで終了するのが522ページ。
つまり509ページも使って書かれた物語というわけだ。

この厚さに本好きはかえってわくわくする。ヴァカンスで海辺で読むにはまさ
に適当だろう。時間はたっぷりあるのだし。
宗教象徴学者ロバート・ラングドンが主人公の作品はこれが4作目というが、私
は英語版『ダ・ヴィンチ・コード』以後は読んでいない。実は、イタリア語版
の『デセプション・ポイント』も買ったのだが、未だに読んでいない。

『インフェルノ』が、なんといってもフィレンツェが舞台にされ、ダンテの『
神曲・地獄篇』にインスパイヤーされたというのでは読まずにはいられない。
科学的用語を駆使したり、ホラー映画の脚本のようだったり...と、書評には駄
作という極論もあり、賛否両論があがっているというのでまた読まねばと思う
わけだ。

『インフェルノ』読了後、一言でいえば、好感がもてた。
日本で翻訳が出るのが今年の冬というから、それを待っている方のためにネタ
バレにならないようにしたい。
たしかに科学用語が多いし、描写はホラー映画のようというのも当たっている。
プロローグの最初の一行から、思わせぶりな人物(影)が街を疾走してフィレ
ンツェでも古い歴史のある教会の塔から投身自殺し、その人物の贈物は未来で
あり、救済であり、地獄である、という。最初から陰々滅々な気分にさせる。

ダンテの地獄篇に想をえたシーンの描写は、数日間の記憶を失って頭に傷のあ
るラングドンがフィレンツェの病室で目を覚ます第1章から全体にわたって、繰
り返し書かれる。血に染まった紅い川、銀色の長い髪の60代の美女、彼女の足
元にいる何百か何千という苦痛に悶えて死にゆく体と、その漂う悪臭。そして
彼女の「探して見出せよ、時間がない!」という囁きを、ラングドンは悪夢の
ように何度も頭に浮かべる。しかし、なぜフィレンツェにいるのかも思い出せ
ない。

これらのシーンや『神曲・地獄篇』に基づいて描かれたボッティチェッリの地
獄の図について繰り返し書かれている。これが謎解きなのだ。

クリックしてボッティチェッリの絵を拡大して観られます:
http://www.worldofdante.org/botticelli_detail.html

命を狙われて追跡されるラングドンが逃亡するのを助け、ラングドンといっしょ
に謎を解明する30代の英国人の女医、シエナ・ブルックス(Sienna Brooks)が
好感をもたせるのに成功している。シエナは7歳でIQが208という驚異の天才少
女ゆえに、疎外感にみちて生きてきた。ラングドンとの逃避行をさまざまな才
能と当意即妙な対応で生き生きと切り抜ける。女医ゆえに、相手の身体の急所
を押すだけで身体の自由を奪う手業もできる。こういう手業はベストセラーの
流行りらしい。

しかし、誰から追跡されているのか、それはなぜなのか、それを知りたいスリ
リングさはひんぱんに減少される。なぜかというと、ラングドンとシエナが逃
亡で移動する名所の記述が、その都度、かなりのボリュームで入るからだ。初
めて知る人にとってはそれこそが楽しい薀蓄で、読んだ後に追っかけをする愛
読者もいるのだろうけれど。

二人の逃亡の場所はどこも、誰でも一般の観光者が立ち入りできるところが選
ばれている。それも好感をもたせられた理由の一つだと思う。歴史学者や、特
別な待遇をされるような特権階級の人や、許可がなければ行けず、観られない
ような場所ではない。

例えば、フィレンツェではパラッツォ・ヴェッキオの「五百人大広間」の天井
裏も、現在は公開されていないにしても、一時は”秘密巡りツアー“が企画さ
れていたので見たことがある人もいるはずだ。ただ、重要な文化財である天井
画の中央の絵、「コジモ1世の神格化」が破損されるという、実際にはあっては
ならないことが、唯一、起きるのだが。

そして、もう一つの、むしろこれがメインというべきテーマがある。それが地
球規模の未来の危機、世界人口の過剰膨張である。これは生きとし生ける者な
ら誰にでも関わりのあるテーマだ。ダンテの『神曲』の地獄篇に想を借りた『
インフェルノ』だが、この未来の危機についてはある意味でニアミスともいえ
る。『神曲』の地獄篇自体が象徴している危機ではないからだ。

物語はようやく300ページくらいから急転直下でスリルが増してくる。
謎が解かれ始める。この未来に起こるべき人類の大問題を否定したり、回避し
ないバイオテクノロジーの能力者が、ある救済法を産みだすのだが、未来の医
療はそれに抗してどう解決できるのか?

ダン・ブラウンの小説では共通して「事件は24時間以内に決着がつく」らしい
が...。

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
フィレンツェ在住のフリーランス。3月に「天才力 三巨匠と激動のルネサンス
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)」(世界文化社)を刊行。
『メディチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)既刊。[メルマ
ガ『イタリア猫の小言と夢』は、melmaの2007年メルマガ・オブ・ ザ ・イヤー
受賞。
http://www.melma.com/backnumber_86333/

----------------------------------------------------------------------
■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
----------------------------------------------------------------------
小玉重夫 『学力幻想』 ちくま新書 760円+税

 「ゆとり教育」は、様々な立場の識者からの指弾を浴びました。それを受け
て文部科学省は、ゆとり教育からの転換を決断。教える内容が増やされ、子ど
もたちの教科書も分厚くなりました。しかし著者は、こうした動きに疑問を呈
しています。「学力向上」が叫ばれていますが、「学力」が何なのか、その正
体ははっきりしません。また、努力さえすればどんな子どもでも学力が身につ
き、ハッピーになれるという「学力幻想」も幅をきかせています。本書は混乱
する「学力」論議を整理し、教育の進むべき方向を模索する好著です。
 
 1958年に文部省は、はじめて学習指導要領に法的な拘束力をもたせまし
た。日本の教育行政は、これ以降、「全国一律主義」・「一元的能力主義」(
学力はテストの点で図れるもの)・「教科主義」の方向で進められていきます。
日教組も政治的には文部省と鋭く対立しながらも、上記の3原則に異議を唱え
ることはありませんでした。著者は、これを教育の「1958年体制」と呼び
ます。教育の「58年体制」は自民党と社会党が、経済の発展によるパイの拡
大という点で一致していた政治の「55年体制」と重なりあうものです。
 
 1990年代に入って経済の成長が止まり政治の「55年体制」が崩壊する
と、教育の「58年体制」もまたゆらぎはじめます。「ゆとり教育」は、「総
合的学習の時間」を設け教科主義を相対化します。「総合的学習の時間」では
既存の教科のように一元的に能力を測定することはできません。また「総合的
学習の時間」の内容は各教員の裁量に任されますから全国一律主義も通用しま
せん。著者はゆとり教育が目指したのは、子どもに楽をさせることではなく、
戦後教育のラディカルな方向転換であったことを説得的に語っています。
 
 「ゆとり教育」から「詰め込み教育」の昔に回帰してしまったかにみえます。
しかし、ことはそう単純ではありません。PISAという国債学力検査においては、
知識の量より臨機応変な応用力(リテラシー)が重視されます。ポストゆとり
教育においても応用力は重視せざるを得ない。「臨機応変な応用力」を全国一
律に涵養することはできないから、「58年体制」の昔に戻ることはできない。
これは「目から鱗」の指摘です。また、「子ども中心主義」は、大人が未来を
子どもに丸投げしてしまう無責任な態度だという指摘も新鮮です。
 
 これまでの教育は医者や科学者のような専門家に子どもを育てることを目標
としたものでした。しかし普通に生きる「市民」としてわれわれは、医療や放
射能の問題に直面します。「市民」として賢く生きる能力こそが、学校で培わ
れるべき「学力」だと著者は言います。「学力」の基準は、大人が設定しなけ
ればならない。「学力」の達成度合いは、教師と子どもの集団がいかに変容し
たか、彼らの属するコミュニティがどう変わったかによって図られるべきだ。
本書のラディカルな主張が広く受け容れられようになることを願います。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「ジェラシーが支配する国」高文研
----------------------------------------------------------------------
■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
----------------------------------------------------------------------
今回は「そんな時代もあぁ~たねと」の話

某日、電車内で乗り合わせた「大学生であろう2人」の会話とそれを聞いている
私の心の声。

A「お前、ちゃんと学校に来いよ。俺が朝、迎えに行ったろか?」
(小学生か?)

B「そんな女の子おったら行くかもしれん『いっつもうるさいなぁ…』って言い
ながら、心の中で『ホンマありがとう』って感じ?」
(半疑問型はやめろ)

B「行きたい気持ちはあるんやけどなぁ」
(じゃあ、来いよ)

A「必須は落としたらヤバイぞ」
B「必須って何単位ぐらいなん?」
(自分で確認しとけ!)

B「バイトはちゃんと行くんやけどなぁ、休みでも電話かかってきたらいくねん」
(そんなにバイトが面白いんか?)

B「親から定期代もらう時、ほとんど行ってないんやけどなぁと思うと、申し訳
なくて涙出そうになんねん」
(やったら、行きなさい!)

A「俺は勉強、楽しいぞ」
(おお!やっとイライラから解放されるか!)

B「そしたら俺のプリント返せや」
(借りとったんかぁ~い!)

A「そのプリントで勉強してんねん」
(なんか…小学生みたいや)

B「最初はヤル気あってんで、4月ぐらいは」
(始まってすぐ無くなったんか)

A「高校はいっとんたんやろ?」
B「うん、近かったからな」
(やっぱり小学生か)

B「よし!明日から頑張るわ」
(おお!よう言った、その言葉…)

B「あ!DSの充電無くなった!最悪!もう行かへん!」
(来るなぁ!、辞めてしまえ!)

まあ…
私も学生の頃は訳のわからん理由で人生を見限った事もありましたわ。でも学
校は行ったぞ!勿体無いから。
今年も3年目の一年生とか復学した一年生とかがいたがGW明けから姿を見せなく
なった。その分の学費、ユニセフにでも寄付をすればいいのにね。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
----------------------------------------------------------------------
■はてな?現代美術編 koko
----------------------------------------------------------------------
第40回 『現代アートの今を知る ─── 瀬戸内国際芸術祭(2)』

先月は瀬戸内国際芸術祭の成り立ちとプロジェクトの幾つかをご紹介しました。
今月は直島にある美術館に幾つかを案内します。

ベネッセアートサイト直島のプロジェクトは福武總一郎氏と安藤忠雄が中心と
なって発展してきました。もちろん購入作品の最終決断やプロジェクトの基本
方針は福武氏から出ています。しかしながらそのブレーンやアドバイザーとし
て大きく何名かの名前が出てきます。

1989年に完成した子どものためのキャンプ場を皮切りに、安藤忠雄は4つの美術
館と3つの宿泊施設の設計を担当しました。最新では2010年完成のリ・ウファン
美術館(漢字が打てませんのでカタカナ表記にします)を設計しました。

北川フラム氏は芸術祭の総合プロデューサーです。この方は2000年から始まっ
た大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレのディレクターでもあります。

第4回から福武總一郎氏が協賛し、この大地の芸術祭の運営に関わるようになり
ました。

瀬戸内芸術祭と越後妻有トリエンナーレはその意味で運営形態が似ています。

□オフィシャルサイト
http://www.echigo-tsumari.jp/

それから目立つところではやはり世界的建築ユニットであるSANNAの参加。

金沢21世紀美術館で一躍有名になった妹島和世氏と西沢立衛氏は、ユニットと
してもそして個人としても直島や芸術祭全般に参加をしています。その最初が
「海の駅 なおしま」です。

そして妹島氏個人ではアートディレクター長谷川祐子氏と共に犬島の「家プロ
ジェクトを手がけ」、西沢氏は直島・本村地区の「本村ラウンジ&アーカイブ」
と豊島の「豊島美術館」を手がけています。

建設中の豊島美術館を見たことがありますが、とても変わった外観で中に入っ
てみたいという好奇心が生まれる建物でした。

□SANNA(Wiki)

http://ja.wikipedia.org/wiki/SANAA

□豊島美術館(youtube)

http://www.youtube.com/watch?v=mwh-LtrQDGU

ベネッセアートサイト直島が手掛けたプロジェクトでどうしても言及しなけれ
ばならないのが、お隣に浮かぶ豊島と犬島での活動です。

直島と並んで素晴しい作品が島のいたるところに隠されています。

代表的なものが犬島の製錬所。

□犬島製錬所アートプロジェクト(youtube)

http://www.youtube.com/watch?v=MVLyG68ImPA

□犬島(Wiki)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8A%AC%E5%B3%B6

□豊島(Wiki)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%8A%E5%B3%B6_(%E9%A6%99%E5%B7%9D%E7
%9C%8C)

安藤忠雄やSANNAといった世界的な建築家が関わることで、これらのプロジェク
トに厚みや深みが増しています。

コンセプト部分でぶれることなくプロジェクトを展開していく原動力にもなっ
ているのではないでしょうか。

それに世界への発信も強力になりますよね。
建築とアートは限りなく共有されるべき領域を抱えています。


その具体的例を肌で実感するのに手っとり早いのは、やはり『地中美術館』に
足を踏み入れることです。

あそこは安藤忠雄と3名のアーティスト作品のコラボレーションの結果生まれた
唯一無二の美術館です。

入場制限を各部屋に設けている関係上建物へ入るのも整理券が配られて入場す
るのに待ち時間が多いのがたまにキズですが、

もし平日の空いた日に行けるのであれば、間違いなく異次元の空間を体験でき
る美術館です。

≪外見のない建築物をつくる≫というコンセプトのもと建てられたのがこの地
中に埋められた美術館で、直島の南側斜面に埋め込まれました。

ここには、ジェームス・タレル、ウォルター・デ・マリア、クロード・モネと
いう3名のアーティストの作品が恒久展示されています。

光を扱うアーティスト、ジェームズ・タレルの作品は3つ。年代の違う作品を
設置して、タレルの対象としての光の扱い方の変遷を見てとれる構成です。

そしてパリのオランジェリー美術館に永久設置されている4点と同じシリーズの
作品を鑑賞できるモネの部屋。

それこそ大理石のひんやりとした感触と自然光の柔らかい光に心まで洗われる
究極の展示ルームです。

最後に美術館建設現場の時点からアーティストと安藤氏の間で綿密な打ち合わ
せが行われながら作られた、ウォルター・デ・マリアの部屋。

直径2.2mの球体と、27対の金箔をほどこした木製の立体が配置された空間は、
しばらくそこに留まらざるをえない不思議な空気で満ち満ちた部屋です。

時間帯や季節によって変わる採光状況に応じ作品の印象が変わっていきます。

※地中美術館のサイトには写真がないので、イメージは雑誌かガイドブックで
ご覧ください。

直島は世界でも最も尖がった現代アートの実験場の一つ。

こんなすごいものが日本国内で見れるのだから、もっと普通の人々も行くべき
だと思うのです。

わざわざ飛行機でNYへ行ってメトロポリタン観て喜んでいる場合じゃありま
せん。

逆にいえばだからこそ海外からたくさんの観光客がこの瀬戸内の小さな島に上
陸するわけです。

だまされたと思って行ってみてください。

□瀬戸内国際芸術祭2013

http://setouchi-artfest.jp/

◎koko
苦節10年、円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」(通常は隔
週、現在不定期発行) 発行中。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html
----------------------------------------------------------------------
■岩のドームの郵便学7 内藤陽介
----------------------------------------------------------------------
イスラエル国家は混沌の中から誕生した

 1947年2月、シオニストの反英テロに手を焼いた英国は自力でのパレスチナ
問題の解決を放棄し、国際連合(以下、国連)に問題の解決を一任すると一方
的に宣言する。

 これを受けて、同年5月、国連にパレスチナ問題特別委員会が設立された。
同委員会は同年8月31日、パレスチナにアラブ、ユダヤの2独立国を創設し、
エルサレムとその周辺は国連信託統治下に置くというパレスチナ分割案を多数
派意見として発表。この分割案は、ユダヤ人国家の創設に同情的であった米国
のみならず、国内のユダヤ人をパレスチナへ入植させることで中東地域に影響
力を扶植しようと考えていたソ連の賛成もあり、同年11月29日、国連決議第
181号として採択された。

 しかし、分割案は、当時、全体の一割の土地を所有していたに過ぎないユダ
ヤ系住民に対して、東地中海の肥沃な農耕地を含むパレスチナ全土の過半数が
与えられるというもので、アラブ系住民にとっては、とうてい承服しがたいも
のであった。しかも、この分割案の作成に際しては、当事者であるパレスチナ
のアラブ住民の代表が意見を求められることはなかった。この結果、アラブ地
域では、国連決議が採択された11月29日は「服喪と圧政の日」とされ、パレス
チナ全土で反シオニストの武装闘争が再開される。

 こうして、アラブ住民とシオニストとの間でテロの応報が繰り広げられ、パ
レスチナ全土は事実上の内戦に突入したが、パレスチナの治安に責任を負うべ
きはずの英国は、英国人兵士や警官の死傷があいついだことを理由に、1947年
12月、先の国連決議で決められた8月1日という日程を2ヵ月半繰り上げ、
1948年5月15日をもってパレスチナから撤退すると発表。委任統治国としての
責任を放棄し、みずからの中東政策の失敗が招いた混乱を放置してパレスチナ
から逃げ出すことになった。

 事実上の内戦に突入したパレスチナからは、多数のアラブ系住民がトランス
ヨルダンやシリアなどへと脱出。今日にいたるまで続く「パレスチナ難民」の
問題が発生。アラブ諸国では難民となった同胞への同情から、パレスチナへの
本格的な軍事介入を求める世論が形成されていった。この結果、1948年1月、
シリアならびにトランスヨルダンからの義勇兵がパレスチナに到着。同年2月
には、エジプト、トランスヨルダン、レバノン、シリア、サウジアラビア、イ
ラクの6ヶ国がカイロで会議を開き、パレスチナでのユダヤ人国家の建設阻止
の決議を採択。義勇兵の派遣を決定する。

 これに対して、同年3月、シオニストたちは、パレスチナ分割の国連決議を
受けて、テルアビブにパレスチナのユダヤ人居住区を統治する臨時政府「ユダ
ヤ国民評議会」を樹立し、新国家樹立に向けての具体的なスタートを切った。
同時に、シオニストたちは、英国の撤退後の軍事的空白を利用して、軍事的に
パレスチナを制圧する準備も進めていく。いわゆるダレット計画(パレスチナ
のアラブ社会を破壊してアラブ住民を追放し、パレスチナ全土を制圧してユダ
ヤ人国家創設を既成事実とすることをめざす計画)である。

 内戦が激しさを増していくのを目の当たりにした米国は、ようやく、事態の
深刻さを認識し、国連に対してパレスチナ分割決議の再検討を要請するととも
に、ユダヤ、アラブ双方に停戦を要求した。このパレスチナ休戦決議案は、
1948年4月1日、国連の安全保障理事会で採択されるが、もはや、両者の対立
を止めることはできなかった。

 しかし、4月9日から10日にかけて、シオニストがアラブの村デイル・ヤー
シーンを襲撃し、254名もの村民を殺害する事件が発生した。いわゆるデイル・
ヤーシーン事件である。事件の後、身の危険を感じたアラブ系住民約10万人が
パレスチナから脱出。国際社会の非難をよそに、ダレット計画は結果的に大き
く前進する。

 こうした状況の中で、シオニスト側による建国準備は着々と進められ、1948
年5月に入ると、ユダヤ国民評議会は、テルアビブ、ハイファ、エルサレムの
各郵便局でユダヤ国民基金の義捐証紙などにヘブライ語で「郵便」を示す加刷
したものを、臨時の切手として発行し、自らの支配地域内における郵便物に貼
付させることもあった。こうした暫定切手は、5月3日(1日説もある)から
英国の委任統治が終了する同月14日(一部では15日)まで発売され、イスラエ
ル建国宣言後の同月22日まで有効とされた。また、これらの切手は、ユダヤ人
地区(間)においてのみ有効で外国郵便には無効であった。

 http://blog-imgs-23.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20071130092430.jpg

は、そうした暫定切手が貼られた郵便物で、テルアビブの切手商が(後に販売
品とするために)自分宛に差し出したものである。押されている消印は、外側
の円に郵便とテルアビブの文字が、中央に「暫定政府」の文字が、それぞれ入っ
ているのみで日付は入っていない。

 また、カバーの余白には、ユダヤの象徴であるダビデの星をはさんで、上下
に、シオニズム運動の父と呼ばれるテオドール・ヘルツルの『ユダヤ人国家』
の一節(1896年2月14日)と、パレスチナ分割によるユダヤ人国家の創設を決
めた国連決議第181号(1947年11月29日)の文字が入っており、イスラエル建国
直前のシオニスト側の昂揚した雰囲気が伝わってくるようだ。

 また。地域によっては、義捐証紙ではなく、既存の英領パレスチナ切手に英
領パレスチナ地域とは別のユダヤ系ローカル政府の加刷を施した切手が使われ
ることもあった。 たとえば、

http://blog-imgs-57.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20130625110533df8.jpg

 は、パレスチナ北部、レバノンとの国境にも近い地中海岸のナハリヤで使わ
れた切手で、英領パレスチナ切手に“Government Tohu wa bohu”と加刷した切
手の使用例(部分)で、消印部分は、上記のテルアビブの郵便物と同じタイプ
の消印が押されている。ちなみに、ナハリヤは1933年から建設が始まったユダ
ヤ系移民の入植地で、ハルツーム勤務の英国将校が休暇を過ごすリゾート地で
もあった。

 加刷に用いられている“Tohu wa bohu”は『旧約聖書』の「創世記」第1章
2節「地は形なく、むなしく、やみが淵の表にあり、神の霊が水のおもてをお
おっていた」のうちの“形なく、むなしく”の部分に相当する単語で、当時の
混乱した状況の中で、英領パレスチナ当局があてにならないので、加刷文字に
よって、ユダヤ国民評議会側が自前の政府を樹立したという意思をアピールし
ようとしたものといえよう。

 さらに、従前どおり、英領パレスチナ切手をそのまま使っていても、

http://blog-imgs-57.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20130625112714799.jpg

 のように、消印はユダヤ国民評議会のモノを使うというケースもあった。ち
なみに、この郵便物には書状基本料金10ミリーム+書留領15ミリーム=25ミリー
ム分の切手が貼られているが、それぞれの内訳に相当する切手が1枚ずつ貼られ
ているのでわかりやすい。なお、発信地のネタニヤは、テルアビブ北方30キロ
の地中海沿岸にあるユダヤ系移民の入植地で、地名は、イスラエルに多額の献
金を行ったユダヤ系米国人のネイサン・ストラウスにちなむ。

 1928年にブネイ・ビンヤミン協会の会員が350エーカー(約1.4平方キロ)の
土地を購入し、同年末に井戸が掘削されて開拓開始。1933年から観光地として
の開発も始まり、現在はビーチとして人気を集めている。

 第二次大戦後の1947年には近郊のエベン・エフーダ村近くで、シオニスト武
装組織のイルグンが、メンバー3人が“テロリスト”として処刑されたことへ
の報復として、英国の諜報員を殺害(彼らによれば“絞首刑”)した兵長事件
が起きたことでも知られており、イスラエルの建国後の1948年12月3日には、
イスラエル国家として最初の市に昇格したという土地柄である。

 その一方で、1948年5月14日までは英領パレスチナ当局の郵政機関も可能な
限り活動を継続していた。このため、

http://blog-imgs-57.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201306251208446f7.jpg

 のように、英領パレスチナの切手を貼り、英領パレスチナ当局の消印を押し
た郵便物も存在している。ただし、この郵便物の場合は、英国撤退ひと月前の
1948年4月9日にテルアビブから差し出されたものだが、宛先不明で差出人に返
送されている。混乱の中で名宛人は避難してしまったということなのかもしれ
ない。

 こうした状況の中、パレスチナにおける英国の委任統治が終了する1948年5
月14日がやってきた。

 同日午後4時6分(現地時間)、テルアビブの博物館でユダヤ国民評議会が
開催され、イスラエル初代首相となったベングリオンが、「ユダヤ民族の天与
の歴史的権利に基づき、国際連合の決議による」とするユダヤ人国家イスラエ
ルの独立を宣言する。

 ベングリオンの独立宣言を受けて、同日、米国のトルーマン政権は主要国の
中で最初にイスラエルを承認。ついで、5月17日にはソ連がイスラエルを承認
した。

 この間の5月16日、イスラエル国家は古代の貨幣を描く建国後最初の切手

http://blog-imgs-23.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20080514113226.jpg

(これは、そのうちの1枚)を発行した。ただし、この切手には「ヘブライ郵便」
との表記はあるものの、「イスラエル」との表記は全くない。これは、切手の
制作時にはまだ新国家の正式な国号が決定されていなかったことによる。

 まさしく、“Tohu wa bohu”さながらの混沌の中で、イスラエルの独立宣言
がいかに慌しい状況の下に行われたかということを、これほど雄弁に物語る証
拠はあるまい。
 

◎内藤陽介(ないとう・ようすけ)
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
マリ近現代史』彩流社 電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」復

http://booklive.jp/product/index/title_id/183460/vol_no/001
http://yosukenaito.blog40.fc2.com/blog-entry-2906.html
----------------------------------------------------------------------

■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4923名の読者の皆さんに配信してお
り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

----------------------------------------------------------------------
■編集後記
最近、付き合いのあるメーカーの社員の方より会社名の変更通知が来た。そう
いえば、私が子供のころに見知っていた会社名は、もうかなりなくなっている。

会社が潰れたわけではない。合併その他で会社名がコロコロ変わるのだ。典型
例が金融業界だろう。数が少ない都銀ならまだ前身がどこだったかまだ区別は
つく。しかし保険会社など、昔どこの会社だったっけかと調べなければわかに
なくなっている。

しかも物覚えが悪くなっているから、新社名もなかなか覚えられない。いつま
でも旧社名でこの社員さんの会社を呼んでしまいそう・・・。


====================================================
■ 電子メールマガジン「[本]のメルマガ 」(毎月5・15・25日発行)
■ 発行:[本]のメルマガ発行委員会
■ 掲載されたコンテンツを小会の許可無く転載することはご遠慮ください。
■ copyrightはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・ご質問は25日号編集同人「朝日山」まで
メールアドレス asahi_yama@nifty.com
(あっとまーくは、全角ですので半角にしてください)
■ バックナンバーurl http://back.honmaga.net/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を通じて発行しています。
■ メールマガジンidナンバー:13315
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行えます。
====================================================
◎[本]のメルマガ
のバックナンバー・配信停止はこちら
⇒ http://archive.mag2.com/0000013315/index.html
◎[本]のメルマガ
のバックナンバー・配信停止はこちら
⇒ http://archive.mag2.com/0000013315/index.html
| バックナンバー | 22:38 | comments(3) | trackbacks(0)
コメント
尖閣騒動の煽りで中国の書店から自分の作品が消えたと嘆く、朝日新聞への寄稿を読んで、加害国と被害国との区別もつかぬ村上春樹の幼稚なレベルに驚いた。
丹念に読むと「騒ぎを煽る政治家や論客」への注意を呼びかけるなど、暗に尖閣の国有化を進めた自国を批判している。
だから中国メディアはこれを歓迎し、全訳まで配信した。
その直後にノーベル文学賞を逃したのはよかった。
| うなぎ | 2013/06/26 8:11 PM |
 バック・ナンバーになぜかvol.504(2013.6.15.發行)が見當らず、vol.503と505との間がぬけてゐるやうですが、もしや載せ忘れでせうか。
| 森 洋介 | 2013/10/16 11:53 PM |
森様、アップ遅くなりまして、失礼致しました。
| aguni | 2013/11/17 1:43 PM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック
SEARCH
[本]のメルマガ
哲学・思想・社会などの人文書や、小説や詩など芸術の最前線、書籍の出版流通、電子出版などの「本」の現在を気鋭の出版社員、書店員が伝える、まさに[本]のメルマガです。
発行周期発行周期:月3回
バックナンバーバックナンバー:すべて公開
マガジンIDマガジンID:0000013315

メールアドレス:

メールアドレス:
Powered by まぐまぐ
※読者登録は無料です

コーチ募集(コーチングバンク) 無料 コーチング カーディーラー経営品質向上 CSR コンプライアンス 経営倫理 実践研究 BERC フリーラーニング
LATEST ENTRY
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
CALENDAR
S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2024 >>
ARCHIVES
LINKS