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[本]のメルマガ vol.485

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■■ [本]のメルマガ                 2012.12.05.発行
■■                              vol.485
■■  mailmagazine of books       [夜は立ち飲みでせんべろ 号]
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『新版 ホビット ゆきてかえりし物語 第四版・注釈版 上下』≪文庫判≫

J・R・R・トールキン著 D・A・アンダーソン注釈 山本史郎訳
各約400頁 定価各840円 ISBN:9784562070008, 9784562070015

時代を越えて読み継がれる名作の新訳版。著者自筆の挿絵および各国語版の挿
絵を収録。物語世界を深く知る詳細な注釈付。A5愛蔵版(新版)も刊行。
◎映画『ホビット 思いがけない冒険』12月14日公開予定

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ 『校正のこころ―積極的受け身のすすめ』大西寿男さんインタビュー

★「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ
→ わたしは古本屋バイト見習い

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 撮られたい姿を撮る―篠山紀信「写真力」展

★ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
→ 第8回 C調言葉に御用心

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■トピックス
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■電子書籍の本格化と、出版社、取次、書店の動向
|−出版業界2012年の整理と2013年の展望−
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 2012年は電子書籍専用端末が相次いで発売され、新刊の刊行に合わせて電子
版を投入する体制も整いつつあるなど、日本でも電子書籍市場の拡大に向けた
準備が進みました。一方で、取次、書店は新たな存在価値を見いだすべく、試
行錯誤を続けています。年末に当たり、そうした動きと今後の展望を整理しま
す。

 ◆講師 文化通信社 取締役編集長 星野渉
 ◆日時 2012年12月12日(水) 18時〜午後20時30分
 ◆会場 日本教育会館 (http://www.jec.or.jp/koutuu/)
 ◆会費:5000円
 ◆出版ビジネススクール共催/お問い合わせ03-3234-7623
 ◆お申し込みはこちらへ http://skc.index.ne.jp/

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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com
あるいは、FAX 03-6410-7768 まで。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 今回は、『校正のこころ―積極的受け身のすすめ』の著者でもあり、自費出
版の制作を請け負う個人出版事務所「ぼっと舎」も開設されている大西寿男さ
んへのインタビューです。

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『校正のこころ―積極的受け身のすすめ』
 著者 大西寿男
 定価 2,100円(税込)
 ISBN  978-4-422-93217-0
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−この本が誕生したきっかけを教えて下さい。

大西「校正の仕事は、出版にたずさわる人ならみな、必要でだいじな仕事だと
   知っています。でも、じゃあ校正の仕事ってどんな仕事か、何をやるの
   かということについて、理解している人はおどろくほど少ないし、誤解
   もたくさんあります。校正者自身も、きちんと言葉で説明できるように
   はなっていませんでした。

   たとえば、こういうときはこの文字にこういう赤字を入れるんだよ、と
   いうことを校正の教科書は教えてくれますが、なぜそうするのか、その
   根拠は何で、なんのためにかまでは明らかではなかったのです。

   さらに、この20年のあいだに、出版と言葉をめぐる状況は劇的に変わり
   ました。出版のデジタル化、構造不況、パソコンとインターネットの普
   及です。校正の現場でも、従来の校正術が通用しない場面が増え、コス
   ト削減で校正者の待遇は不安定な下請け業に転落しました。

   ぼくは、校正者として働きながら、たんなる技術論や知識ではない校正
   の方法、それもデジタル時代の新しい校正の方法論がほしいと痛切にお
   もいました。

   また、生身の人間としても、言葉を援助する専門職としても、校正者が
   尊重される世の中になってほしいとねがいました。

   そのためには、現場からまず声をあげる必要がありました。ぼくが20年
   あまりの仕事の経験で得たこと、共有したことを、借り物でない校正者
   自身の言葉で語りたい。そうして5年をかけて書き上げたのが、『校正
   のこころ─積極的受け身のすすめ』(創元社、1999年)でした。」

−なぜこの出版社に決まったのですか?

大西「じつは、東京で10名ほど編集者に原稿を見ていただいたのですが、出版
   には至りませんでした。ユニークでおもしろいけれど、校正のノウハウ
   を教える教科書なのか、うんちく本的なエッセイなのか、本としてのキ
   ャラを決めないと売れない、というのが、いちばんの理由でした。ぼく
   は、そのどちらでもない、「校正の方法・思想」を明らかにしたかった
   ので、不満でした。

   ある日、神戸の実家に帰っているとき、関西の出版社はどうだろう? 
   とおもい、なんのつてもなかったのですが、大阪の創元社さんに電話を
   差し上げたところ、興味をもってくださって、原稿を持参しました。ほ
   とんど即断即決のようなかたちで、編集会議にかけられ、刊行が決まり
   ました。

   見ず知らずの出版社に飛びこみで持ちこみの原稿が本になるなんて、ま
   るでドラマみたいな信じられない展開で、ほんとにびっくりしました。」

−編集の担当の方に一言!

大西「創元社の松浦利彦さんは、打てば響くような明快さで、これまでにない
   包括的な校正論であり、出版論・言葉論だと太鼓判を捺してくださいま
   した。東京の編集者が問題にした「本としてのキャラ」も、商品化のた
   めにある方向に矯めるよりも、類書のないオリジナルのまま読者に見て
   もらおうと、原稿の価値を尊重してくれました。社として冒険すること
   を、引き受けてくださったのだとおもいます。

   編集や造本の作業にあたっては、刊行後のフォローもふくめ、細やかで
   適確な指示やアドバイスをいただきました。

   おかげで、いまのぼくがあります。松浦さん、始まりのドアを開いてく
   ださって、ほんとうにありがとうございました!」

−書籍を形にするまでにいちばん苦労したことは?

大西「なんといっても、原稿の執筆ですね。

   現場で体感的に身につける智恵や、あまたの校正者の声にならない声を、
   どう普遍的な言葉にするか、ということにいちばん苦心しました。その
   ために、先行する校正関連本のことはいったん忘れて、自分自身の体験
   の深いところに降りていかねばなりませんでした。

   と同時に、データや事実関係はおもに注釈にまとめたのですが、その確
   認作業や参考図版の選定は、何度もおこないました。

   じつは、執筆は、関西の故郷に一時Uターンした時期に集中的におこな
   いました。ずっと働いてきた東京の出版界と結果的に距離をとったこと
   で、書けたのだとおもいます。」

−書籍を出版していちばんうれしかったことを教えてください。

大西「たくさんの無名の校正者の方から、「こういう本を待っていた」「勇気
   づけられた」「座右の書にしています」という声をいただいたことです。
   日々の仕事になにがしかお役に立てたら、本望です。

   ブログやツイッターなどで本を紹介してくださったみなさんと知り合え
   たことも、読者と著者がダイレクトにつながるよろこびです。そのなか
   には、校正者の道に進んだ若い人たちもおられるんですよ!
   校正講座やセミナーの講師もつとめるようになりました。

   1冊の本を出したことで、人と知り合い、世界が広がり、2冊目の本の
   出版もかないました。『校正のレッスン─活字との対話のために』(出
   版メディアパル、2011年)です。」

−これから本を出したいんだけど、という方にアドバイスを!

大西「編集者や読者と出会うために、ツイッターやフェイスブックなどのSN
   S、ブログをはじめ、ネットでの情報発信やつながりを積極的に活用す
   るのは、リサーチや広告のためにも、効果的だとおもいます。

   もうひとつは、商業出版は版元のビジネスにしばられますから、自費出
   版という選択肢もじゅうぶん魅力的です。技術的には、商業出版となん
   ら遜色ない本づくりがいまのDTP環境で可能です。

   二人三脚でていねいに寄り添って支えてくれる版元さんを選べば、商業
   出版とはまた別の満足と豊かさを得られるでしょう。電子書籍の自費出
   版も、ブレイクの予感があります。」

−最後に書籍の宣伝をどうぞ!

大西「いま、私たちは言葉をとても必要としているのに、言葉を信じがたい時
   代に生きています。

   校正者や編集者だけでなく、言葉に関心のある人、本を愛する人、何か
   を表現したい人、生きることにつまずいたり疲れた人、言葉をなくしか
   けている人に、「校正のこころ」が届きますように! 言葉との信頼と
   絆がよみがえる一冊です。

   また、ぼくは、校正の仕事と併行して、自費出版の制作を請け負う個人
   出版事務所「ぼっと舎」を開設していますので、どうぞお気軽にご相談
   ください。」

   本づくりと校正 ◆ ぼっと舎
   http://www.bot-sha.com
   Mail : info@bot-sha.com

−ありがとうございました。

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 メールにて、インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで hon@aguni.com

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■「神戸発、本棚通信」 / 大島なえ
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 第81回: わたしは古本屋バイト見習い
 
 早いもので今年も12月になった。年末の慌しさもなんとなし今年は景気が
悪く余り浮かれた気分が少ないよう。クリスマスに雪は降るの?なんて言う前
に、馬鹿げた乱立選挙もある。こんなので日本の未来は明るいのかと、なんだ
か不安だねー

 今年の秋から冬にかけても古本市は、あちこちで開かれた。昔ながらの、古
書即売会の他に東京京都大阪神戸だけをみても、ひと箱古本市など小さい規模
のも入れると毎週どこかで古本市をやっている。それも秋になる前の、真夏か
らそんな状態で、プロだけでなく兼業や読書好きな一般の人も参加する形式が
あり、やや乱立気味と言っても良い位だ。真夏にあちこちで夏枯れ対策みたい
にした時は、ちょっと行く方のことも考えろと文句が言いたくなった。汗だら
だら流して歩いてやっと着いたら節電で、むあっと暑く本を見るどころじゃな
いなんて店もある。一応商売してんならお客さんに親切にして欲しいよね。そ
れにそんな本屋は、私は二度といかない。熱中症になってまで行くわけがない
だろ。と思う。節電すると電気代も安くなるだろけど売上も落ちると困るので
はと思う。そういう節電は自宅でやって欲しい。と夏になる前に言っておきた
い。別に、きんきんに冷房を入れろと言ってるのでは無い、室内30度以上で
冷房を切って営業するなと言っているだけ。何度かそんな事が今夏はあったな。
 
 今年の秋は、個人的に忙しくなった。知り合いの古書店の人から夏の後半に
突然電話があり、急に今までいたアルバイトの女性がやめるので私にとりあえ
ずでもアルバイトしてくれないか?と言われた。とても困っている様子だし今
は特に仕事もしていないので、良いですよ。と返事するものの、よく考えたら
古本屋や古本市は年中行ってるが、仕事をしたことは一度も無い。思えば若い
頃は、夢は古本屋になることだった時もあるし仕事を捜している時も書店、古
書店で就職できるものならしたかったが全然そんなのは無く、結局まるで関係
の無い仕事ばかりしていた。それが50代半ば近くになっていきなり古書店で
バイトする話が来て、あれよと言う間に10月から本当に古本屋のバイト見習
いになってしまった。人生は、まったく摩訶不思議。
 
 また通いだした古書店のある場所は神戸の元町の真ん中にあった。これも感
慨深く初めは苦笑する思いだったが、私は20代前半から後半にかけ五年ほど
元町でOL勤めをしていたので、30年ほど前まで毎日同じ電車に乗り同じ駅
で降り、同じ道を歩いて会社に通っていた。

 なので否応なく、昔を思い出す。当時から朝、出勤前にコーヒーを飲むのを
習慣にしていたのだけは、今も続いている。バイトに行く初出の朝も喫茶店で
コーヒーを飲んで休憩してから行った。開店の10分前に行くと、電話でバイ
トを頼んできたYさんが先に裏口に立って、タバコを吸いながら待っていた。
仕事は、はじめはレジ打ちと店番だが私はスーパーやコンビニで仕事をした事
が無く、殆どレジ打ちをしたことが無いので操作方法を一から教えてもらった。
そんな作業をしている間も今年の夏はしつこく暑く、10月でも店内はエアコ
ンを切っているし暑い。汗が出て中では、半袖シャツでないと暑くておれなか
った。しかしまぁ幸いなことに暑いのが苦手な私には、それから涼しくなり長
袖シャツ一枚で良くなり、そのうち冷えるぐらいになって今はセーターでも少
し寒い。勿論エアコンは切られたままの状態である。節電節約は売上不振な店
では電気代が高くなるエアコンは、真夏真冬以外はつけないらしい。まぁ真夏
になるまでいるかどうかもわからんし。なんせ、とりあえず頼まれたんだし・
・・
 
 そんなので秋から古本屋バイト見習生活がはじまった。私にとって非常にラ
ッキーだったのは、夏が終わってから10月から行きだしたこと。これが夏の
初めだったら真夏までに暑くてやめたかも。もひとつなんとなく続いていけそ
うな理由は、仕事中に本が読める。古本屋てのが客がそうバタバタ来るような
仕事では無い大体がヒマと言っていいので時間が長い。それに店主は午前中は
居ないので本出しや値付けなど仕事をまだしていないので、客が本を買うまで
じーっとレジの番台に座っていることになる。そのヒマな時間を持て余す。こ
れが最初の苦痛だったが、本を読んでて良いよと言われたのをそのまま受け取
り、一生分以上読めそうな古書の棚から好きなのを取りだし座って本を読んで
バイトの時間給をもらうと言う、真面目に汗水流して働いておられる方々から
見れば、申し訳ないようなことをしているのだ。それに本を読んでても違和感
が無いのも古本屋のバイトらしく、番台に座らずに外でバタバタ仕事している
人の方が余り本が売れない。買おうと思ったら、誰もいないいつまで経っても
レジに人が居ないと買わない人もいるらしい。動きまわらず、亀のようにじっ
としている私はそのせいかバイト中は割に本が売れる。最初の3日ぐらいはひ
どく売れない日もあったが、その後はそこそこ売れるのでホッとしている。そ
れに午前中がバイトの時間なのも、主婦の仕事もある私には夕方の買い物や夕
食作りが待っている身には助かる。
 
 友人に古本屋でバイトすることになって。と言うと、あんたにぴったしの仕
事じゃない。と口を揃えて言われる。そうかなぁ。
 
大島なえ(おおしま・なえ):1958年生。神戸在住のふらふら兼業主婦も
している。なんとか辞めずに古本屋バイト続行中。何故か飲み会が増えて書店
員て酒飲みが多いのを知ったな。書店だけでなくサラリーマンは酒飲みが多い
ね。昼飯に吉牛丼食べて夜は立ち飲みでせんべろになる哀しきサラリーマンが
多い寒いさむい2012年の年の瀬なのだ。
フリ−ぺ−パ−「ほんの手帖」発行人。書店巡り愛好者。
http://d.hatena.ne.jp/nae58625/

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■声のはじまり/忘れっぽい天使
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第72回 撮られたい姿を撮る―篠山紀信「写真力」展

 日本の著名な写真家と言えば、まず荒木経惟と篠山紀信の二人の名前があが
るのではないだろうか。

 このうち、荒木経惟は「私性」を色濃く作品に残す写真家である。素人ヌー
ドでも有名人の肖像でも猫でも街角でも、彼の撮る写真には、「アラーキー」
が居合わせた痕跡がある。それはぱっと一瞬目にしただけでもわかるほど個性
的なものだ。作家性が滲み出る文学的な写真表現。だから荒木経惟の写真は美
術館で見るのに適しているし、また、恐らく論じやすくもある。

 しかし、篠山紀信の作品は美術館では余りお目にかかることがない。荒木経
惟の個展は何度か足を運んだことはあるが、篠山紀信は考えてみれば今回
(「写真力」展 東京オペラシティアートギャラリー)が初めてだ。篠山紀信
は主に商業写真、広告写真の道を歩いてきた。時代を代表するタレントやスポ
ーツ選手、文化人の写真を数え切れない程撮り、その何枚かは、誰もがすぐ思
い出せる程メジャーである。誰が撮ったかは知らないけれどこの写真は見たこ
とがある、そういう万人ウケする良作が何枚もあるのである。一般の人は、荒
木経惟の写真を一枚思い浮かべてと聞かれても、即答できないだろう。篠山紀
信は、その大衆性故に、写真家としてかえって過小評価されてきた面があるか
もしれないのだ。

 本展「写真力」は、篠山紀信の初めての美術館巡回個展となる。デビュー時
から現在までの過去50年の作品を厳選した回顧展であり、次の5つのセクシ
ョンに分かれて展示が行われている。

「GOD:鬼籍に入られた人々」
 亡くなってしまった著名人の肖像写真。美空ひばり、大原麗子、金さん銀さ
ん、武満徹ら。亡くなった人と思って写真を見ると、存命中に見るのとは違っ
た輝きが滲み出るものだ。大原麗子の悠然とした、それでいて一抹の孤独の影
を感じさせる微笑、観覧車をバックに下駄を高く脱ぎ捨てる勝新太郎の無頼な
格好、それぞれまさに昭和の大スターそのものといった感じだ。中でも面白い
のが、和服を着てバラの花を手に取るバルテュスの写真。消え去りつつある東
西の高踏的な文化の交点が、その秀麗な横顔に刻みつけられているように思え
る。

「STAR:すべての人々に知られる有名人」
 このパートでは文字通り著名人の肖像写真が多数展示されている。ビキニ姿
で水上に仰向けになって手足を投げ出し、物憂げな表情を浮かべる山口百恵の
写真が絶品。我々が山口百恵というタレントに対して抱く、影を帯びた謎めい
た美少女のイメージは、篠山紀信の一連の「激写」によって作られたと言って
も過言ではないだろう。唇をかみしめた詰襟学生服の舟木一夫の純情さ、目玉
をギョロつかせた市川海老蔵の野獣のような精悍さ、見所が多すぎて困ってし
まうが、ユニークなのは長嶋茂雄の一枚。バットを握ったまま呆然とした顔で
俯いている。ここぞという場面でキメられなかった無念さが滲み出ている。稀
代の天才も人間だったと、親近感を抱いてしまうのである。

「SPECTACLE:私たちを異次元に連れ出す夢の世界」
 人工的な華やかに溢れる賑やかな光景を撮った写真群。東京ディズニーリゾ
ート25周年を記念して作られた写真集からの作品にまずは圧倒される。日常
を忘れさせてくれるディズニーランドの夢の力が眩しく放射される。ディズニ
ーランドの従業員が勢ぞろいした一枚は特に迫力満点。ディズニーランドがた
くさんの従業員たちの汗によって成り立っていることを、汗臭くなく、映画の
ワンシーンのようなスウィートな調子で撮っている。歌舞伎役者を撮った一連
の写真もすごい。何しろ伝統のヘンな重さが少しも感じられない。ぷかぷか空
中に浮かんでしまうようなポップな感覚が支配的なのだ。中村勘三郎他、名だ
たる役者たちのアップ写真は、アニメのような軽さに満ちている。歌舞伎が、
観客をドキドキさせる現代の第一級のエンタメだということを教えてくれる。

「BODY:裸の肉体、美とエロスと闘い」
 篠山紀信はヌード写真の名手。社会現象にもなった宮沢りえ『サンタフェ』
からの一枚は妖精のような健康美に魅せられるし、樋口可南子のヌードはしっ
とりと成熟した妖艶さに恍然とさせられる。篠山紀信の女性ヌードは、女体の
形態美を抽象的なレベルにまで追求しながら、しっかり実用に耐える(!)エ
ロも備えているのが特徴だ。現代写真の様々な技巧を凝らし、芸術写真として
の枠を広げながら、最後は男性目線でキメて、業写真に仕上げていく。結果と
して、彼女たちの「女性として最も美しい姿」が残されるのである。ダンサー
のウラジミル・マラコフや力士たちの男性ヌードも、力強く瑞々しく、艶めか
しさの点で女性たちに負けていない。また、彼の名を不動のものにした初期の
傑作「The Birth」「ダンサー」は、今見ても躍動感に満ちていて新
鮮だ。人体とは何と美しいものだろうか。

「ACCIDENTS:2011年3月11日、東日本大震災で被災された人々の肖像」
 本展の中では異色なパート。篠山紀信は、東日本大震災後50日に被災地に
入り、現地の人々のポートレートを撮影した。普段彼がカメラを向けることが
少ない普通の人々だ。厳しい表情のおばさん、肩をぴったり寄せ合った初老の
夫婦、子供を抱えた女性、幼い兄妹。背景は瓦礫の山であることが多いが、ぼ
かして撮っており、対象が人物であることを訴えている。厳しい表情を浮かべ
ている人ももちろんいるが、絶望しきったように見える人はいない。ある人は
口元に微かな笑みを浮かべて人さえいる。篠山紀信は、悲惨な情景をドラマチ
ックに撮ることはあえてせず、現地の人々が生きる意志をしっかり持っている
ことを静かに示すやり方を取った。人々の平常心を撮ることで希望への道を暗
示したのだ。

 写真評論家タカザワケンジは、「芸術新潮」に寄せた「破格の写真家、篠山
紀信」という優れた文章の中で「篠山紀信ほど、写真の歴史の中で、その領土
拡大に貢献してきた写真家はほかにいない」とし、その膨大な仕事に詳細な分
析を加えている。その上で、「篠山の写真活動はいつも現在進行形である。そ
のため、篠山が写真に対して行ってきた『貢献』や『功績』を語るような『歴
史化』を篠山自身が拒んできたとも言えるのだ」と述べる。

 この回顧展を見れば、篠山紀信が、ありとあらゆるものをあらゆる技法で撮
ってきたことがわかる。タカザワが指摘するように、カメレオンのようにくる
くる方向を変え進化する表現者を、評論の対象とするのは確かに難しいだろう。
しかし、彼にはデビュー以来変わらない部分もある。それは、対象となる人間
が、無意識に自分をこう撮って欲しいと願う姿を、敏感に察知する能力である。
対象者に近づき、アピールの意志を感得し、その魅力が最も映えるポイントを
細かなレベルで探知する。対象を自分に引き寄せて解釈することを禁じ、相手
のナルシシズムに奉仕する。相手が自分自身に酔って、最高の演技をする瞬間
を待ち構える根気と好奇心が、篠山紀信には備わっているのである。撮って欲
しい姿が映像として定着することの幸福が、彼の写真には漲っている。

 普通、時代の文脈に沿ったコマーシャルの仕事をしていれば作品は古びてい
くものだが、彼の作品だけはそうならない。対象に即した技法の工夫をしてい
るうちに、気がついたら「領土拡大」をしていた、というのが本当のところで
はないだろうか。カメラを向けられるとどんな人でも思わずポーズを取ってし
まう。その演技しようとする気持ちを肯定的に捉え、応援するのが篠山マジッ
クの原点なのだ。山口百恵の物憂げな表情と気仙沼の被災者の凛とした表情は、
ある意味で同じものなのである。篠山紀信の写真を「見かけた」ことはあって
も「見た」ことはない人は、是非会場に足を運ぶべきだ。

*篠山紀信展「写真力」(東京オペラシティアートギャラリー)
 会期:2012年10月3日(木)−2012年12月24日(日)

*『THE PEOPLE by KISHIN 篠山紀信写真力』
 (読売新聞東京本社 税込2,625円)

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■ぼくたちは、こうしてオンライン書店を作った。 / aguni
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第8回 C調言葉に御用心

 先日、11月28日、bk1の編集長をされていた保森章男氏が亡くなられた。
55歳とまだ若い、残念なことだったけれども、実は知らなかったけれども、肺
がん、気道がん、舌がんと、2年に渡る闘病生活を送られていたらしい。

 本人も死期を悟ってのことだったらしく、弔辞のセレクトからお通夜の音楽
や写真まで、すべて自身で「編集」したとのことで、まるでこの世に最後に残
した「作品」を拝見しているような、そんな不思議なお通夜でした。

 弔辞の中でbk1に触れられることはなく、日経クリックの編集長時代のお
話とか、その後、日経レストランで食べ歩いていた話とか、そんな話が出てい
た。よく考えたらこういう話は当時、良く飲んでいる席で聴いていた。

 そう思って、昔の写真を整理したり、昔のファイルを眺めていると、本当に
よく飲みまくっていたことがわかった。とにかく飲んでいる写真ばかり(笑。

 そのうち、あれ、これは何年のことだっけ? ということになる。昔の紙焼
きの写真はデジタルデータと違って、撮影日の情報が入っていない。写ってい
る人を見ると、この人はこの時代の人だっけ? という頭の中の勘違いが発見
できて、これはこれで貴重な体験だった。

 ということで、A3の紙とペンを取り出し、年表めいたものを作ってみた。
これだけ見ても、社内のことなので何がなんだかわからないと思うけれども、
今後はこういう軸で話を進めていく。

 2000年3月 会社設立
 2000年6月 プレサイト
 2001年3月 席替え、全体会議開始、アスクル見学会
 2001年6月 業務報告メール開始
 2001年7月 丸善が資本参加
 2001年11月 dash'M開始、bk1pro停止
 2002年12月 鈴木書店倒産
 2002年3月 書店ML開始、席替え、保森さん、TJさん退社、洋書取扱い
 2002年4月 編集ML、企画ML、議論ML終了
 2002年7月 サイトー取締役誕生

 とりあえず前半部分まで。つまり、保森さんは2000年3月から2002年3月まで、
日経BPからbk1に出向して編集長を務められていたことになります。

 まあ、長い記者歴から見れば短い間だったかと思いますが、日経クリック時
代の人脈をフルに活用されて、当時、編集には雑誌を作る勢いですごい人たち
が集まっていました。

 しかし、残念ながらオンライン書店は雑誌とはビジネスモデルとは違ったわ
けで、それでうまく行ったとは言えないのですが、今、考えるとブログメディ
アなどを作って運営していれば、NAVERとは言わないまでも、また違った
展開があったのかなぁ、と思うのです。

 まあ、はっきり言って、早すぎる実験的な要素が強かったわけで、それだけ
で中に居る人間にとっては、濃厚な時間でした。はっきりいって、この2年間
は20年くらいに感じます。

 それはさておき、今年、bk1という名前のサイトが消滅したのと同時に、
初代編集長も故人となってしまい、また、調べますと、bk1の実現に積極的
でした恩田さんも、6月22日に亡くなられていました。知らなかった…。

 恩田敏夫氏が死去 日本経済新聞社社友、元日経BP常務
 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2501Y_V20C12A6000000/

 こうして思い出してみると、どの方も非常に真面目で、とてもやりがいを持
って、自分が正しいと思うことを主張し、実行していました。みんないい人ば
かり。でもなぜ、bk1はうまくいかなかったのか?

 誰かを責めるのではなく、その見えていない理由を探ることが、この連載の
目的です。

 保森さんと言えば、すぐに思い出すのは、SG原さんなり、TJさんなり、
Daiさんなり、M内さんなりが、茗荷谷の和民か日本海庄屋に飲みに行こう
としたときに、タバコを右手にはさみ、パソコンから顔を上げて、「先に行っ
ておいて、後から行く」という声を挙げられていたこと。おそらくこの言葉が
いちばん多く聞いた言葉だったのではないか、と思います。

 で、保森さんが何をやっていたのかは、実は数年経って分かったのですが、
なんと、大量に投稿されている書評の校正をやっていたのです。

 「だって、誰もやる人いないじゃん。あのままじゃ、とても外に出せない。」

 記者・編集者のプライドだなぁ、と思ったことを、今更ながらに思い出して
います。

 ユーモアがあってプライドがあって、何と言うか、人間臭い人でした。お世
話になったり、ご迷惑をおかけしただけで、何もお返しすることもなく、残念
な人を亡くしてしまいました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

 まあ、実際、「お返し」なんてことを言ったら、生意気だ、と言われてしま
いそうですが…。

                               (続く)

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■あとがき
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 発行がまたまた遅くなりました。師走の忙しさをちょっと舐めていたフシが
あります。反省です。

 来週からはまた、連夜連夜の飲み会シーズン。体に気をつけつつ、楽しいお
酒を飲みたいと思います。って、結局、飲むんじゃん。

 次の5日号の配信はもう明けましておめでとうですね。皆様も良い行く年来
る年をお迎えください。(早すぎ? (aguni原口)

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コメント
出版の仕事は奥が深いですよね。
私も以前、編集の仕事をしていました。
自分がかかわった書籍が店頭に並ぶ時の感動といったらありません。
また、機会があったらそのような仕事にかかわりたいです。
| starfield | 2012/12/11 12:46 PM |
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