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[本]のメルマガ vol.474

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 ■■ [本]のメルマガ                 2012.8.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book          [蝉もなく8月15日号]
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 【コージーミステリ専門文庫≪コージーブックス≫8月の新刊】
 アンティーク雑貨探偵1『掘り出し物には理由(わけ)がある』
 シャロン・フィファー著 川副智子訳 930円 ISBN:9784562060061
 
 がらくたの中からお宝を見つけ出すアンティーク雑貨の狃Δげ(ピッカー)″
 ジェーン。ガレージセールで美しい植木鉢と出会い、幸せな気分で帰宅する
 と予期せぬ事件! 隣家の主婦が殺され、遺体の服からアンティークのボタ
 ンが消えていた。いったいなぜ? 蒐集家の観察眼で殺人事件の謎に挑む!

【連載】………………………………………………………………………………

 ★「虚実皮膜の書評」 / キウ
 → 「小説とはこういうこともできるのだと、いや、小説だからこそできる
   ことがあるのだ」。赤坂真理『東京プリズン』。

 ★「ひよっこ行政書士 Rock’n’law相談室」 / いそむらまき
 → 改正育児・介護休業法が7月1日から全面的に実施されました!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第38回 ウィジョヨクスモの花

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 → 『詩歌と戦争』。北原白秋の郷愁。

 ★「知るは楽しみ」 / 立木 菜
 → 「現在と過去との対話」とは何か

  今月のお休みは……………………………………………………………………

 ★「図書館の壁の穴」 /  田圃兎

   またの回をお楽しみに!

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 ■トピックス
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 3つのイベントをご紹介します。
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 ■「虚実皮膜の書評」 / キウ
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 『東京プリズン』 赤坂真理 河出書房新社 12.7
 
  1980年15歳のマリはアメリカ東海岸の果てメイン州に留学していて、そこか
 ら日本にいる母親にコレクトコールの電話を掛ける。しかしその電話を受ける
 のは2009年東京に住む45歳のマリ自身であり、15歳のマリの母親を装い、会話
 を続ける。
 
  マリは留学先での生活に違和感を覚えている。しかしその違和感は日米の文
 化の違いというよりも、おそらく日本にいるころから抱え込んでいるもののよ
 うであり、それはこの複雑で幻想的な小説の中で、日本人が戦後から抱え込ん
 でいる違和感として主題化されてゆく。
 
  マリは留学先の学校で、アメリカン・ガヴァメントの教師から、進級をかけ
 た課題を出される。天皇の戦争責任を巡って、ディベートを行うことに。天皇
 には戦争責任があるという論題を、肯定する側に立って論陣を張らなければな
 らない。日本の近現代史について、学校の授業でも碌に教わっていないマリは、
 よく分からないまま勉強に取り組んでゆく。
 
  30年の時と日米の場所を超えてつながったり。45歳になったマリが、なぜあ
 の時自分をアメリカに送り込んだのかを知りたくて、母親と電話で話しながら、
 母親が東京裁判の資料の翻訳の仕事に従事していたことを具体的に聞き出しな
 がら、当時の母親の世界に入り込んでいったり。留学時に狩猟に友達と出かけ
 て仕留めたヘラジカを食したことから、ヘラジカと一体となって会話を交わし
 たり。アメリカの恥部であるベトナム戦争を学ぶ過程で、マリの幻想の中に結
 合双生児がたびたびあらわれて議論をしたり。
 
   現実の時間軸と幻想的な叙述が続く部分とが入り乱れ、読みにくさを感じさ
 せるほど錯綜しているが、それらが混然一体となって重層的に小説を推し進め
 ている。この作家の初期の作品にあった、皮膚感覚・身体感覚で観念的なこと
 を記述してゆく才能は健在で、そこに明治以降の近代国家を目指した日本が戦
 後を超えて抱え込んでいる問題を照射しようとする姿勢が組み込まれ、魅力あ
 る文芸作品になっている。

  さまざまなところに通路が開いており、その開かれた回路を巡ることで、物
 語をつくってゆく手法は、村上春樹を思わせる。そういえば『1Q84』に登場し
 たリトル・ピープルが、この作品にも出てくる。メタファーとしての使われ方
 は、違うように思うが(この作品では「忘れられた人びと、顧みられない人び
 と、見捨てられた人びと、すべての、声なき人びと。戦った後で、戦いの名誉
 を全否定された人たち」(P420)といった定義になる。三島の『英霊の聲』の
 ような)。天皇の問題を語りながら、そこに様々な人々が呼び出されてくる。
 この小説の中では、2011年3月11日の震災も組み込まれてゆく。関東大震災も
 東京大空襲も広島・長崎の原爆も組み込まれてゆく。すべてのピープルの声を
 開放してゆく。
 
  東京裁判のやり直しといった意味を背負ったディベートの、最終弁論でマリ
 が行う演説は圧巻。この錯綜した巨大な物語がようやくここに着地したのか、
 と嘆息する。新聞書評で池澤夏樹も感心していたが、小説とはこういうことも
 できるのだと、いや、小説だからこそできることがあるのだ、と。『1Q84』が
 世界文学として流通するのであれば、ぜひこの作品も翻訳されて世界に紹介さ
 れてほしいと願う。

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 ■ 「ひよっこ行政書士 Rock’n’law相談室」 / いそむらまき
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  いままでに何度かふれてきた改正育児・介護休業法が7月1日から全面的に
 施行されました。経過措置として100名以下の中小企業について猶予期間を
 おいていたものも全面的に適用されることになりました。そこで、いままでは
 育児休業についてスポットを当ててきましたが、今回は育児休業から復帰した
 場合に関係する内容について書いてみたいと思います。
 
  まず大きなものとして「短時間勤務制度」があります。3歳に満たない子ど
 もがいる場合に、所定労働時間を短縮してもらえるというものです。短縮とい
 うのは、原則最低でも1日6時間労働は認めないといけないということで、労
 働者が希望すればそれ以上であることは構いません。6時間労働だと休憩時間
 を含むと9時4時で働くことになりますが、これなら会社が少し遠くても5時
 にはお迎えに行けるのでとても助かります。
 
  他にも労働時間ということで言えば、時間外労働の免除というものもありま
 す。まぁ、上記の時短制度を利用していて、時間外労働をするのであればまっ
 たく意味がないので、当たり前といえば当たり前ですけれど…
 
  ただ、このどちらも実感としては、代替措置を何にもとらずに、「短時間勤
 務にしていいよ」とか「残業しなくていいよ」と言われても、そのうち行き詰
 ってしまうのだなということです。短縮された労働時間では収まりきらない分
 の仕事をどう処理するのかということを、経営者と十分に話し合い、会社内で
 コンセンサスをとっておかないと、結局は同じ部署の他の人の仕事が増えるだ
 けになったり、それを気にして短くなった時間内で必死に仕事を処理するとい
 ったことになったりしてしまうのです。それはやっぱり育児しながらの働きに
 くさにつながります。表面的には制度が整っていても、子育てしながら働きや
 すい職場とはいえないと思います。
 
  そして前に愚痴まじりに一度書きましたが、他にも「子の看護休暇制度」と
 いうのがあります。小学校就学前の子どもがいる場合、1年のうちで5日は子
 どもが病気になったときなど看病のために休めるというものです。ただし、有
 給である必要はないので、おそらく普通の人は有給休暇で代用しているのでは
 ないかと思います。ちなみに保育園児であれば5日なんて最初の1か月で使い
 切ることでしょう…
 
  この法律に関する前2回の記事に比べてとてもトーンの落ちたものになって
 しまいました。実際に自分で利用してみて、やはり法律で規制した内容という
 のはあくまで最低限の話であり、運用にあたって実質的に会社側がプラスして
 いくことで利用しやすい制度にしないと、法律にあまり意味がなくなってしま
 うということをひしひしと感じています。子育てが大変なのは重々承知してい
 ますが、そういうところでより負荷がかかると疲労感が一層募るというもので
 す。もう少しだけ楽にならないものかしら…そのためにもう少しいい方法がな
 いのか、これからも考えていきたいと思います(笑)
 
 みなさまのご相談やご意見、または、それは違うぞ!などというおしかりもお
 待ちしています。そのほかにも法律にからんで何か知りたいことなどあればお
 寄せください。もちろん、仕事依頼、メール相談(初回無料)もお待ちしており
 ます。

 ◎いそむらまき行政書士事務所
  rockandlaw@yahoo.co.jp

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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第38回 ウィジョヨクスモの花

   6月末からインドネシア、ジャワに行ってきた。約3週間の、ひさしぶりの長旅
 だった。日本人にとってジャワという場所は印象がうすいらしく、友人たちには、
 何度もインドネシアのジャワに行くといっているのだが、どうもバリ島に行って
 きたと勘違いされてしまう。そんな話をすると、インドネシア通の友人には、3度
 もインドネシアに旅行しているのに、一度もバリ島に行ったことがないほうが、
 かなり珍しいと笑われてしまった。もともとジャワに行くことになったのは、日
 本ワヤン協会の松本亮さんと松本さんが語るワヤンの魅力に惹かれたからだった。
 今までの2回とも日本ワヤン協会のジャワ公演に同行する旅なので、どうしても
 バリ島に行く時間がなかったのだ。

  そして今回も松本亮さんのワヤン公演に同行させていただくことが出来た。ワ
 ヤンについてはこのメルマガでも何度か紹介しているが、インドネシアのジャワ
 島やバリ島で行われる、人形を用いた伝統的な影絵芝居のことで、インドの古代
 叙事詩『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』を演目にしている。松本さんは影
 絵詩劇と訳していて、人形の動きだけでなく、ダランという人形遣いの語りの要
 素が強い。

  慌ただしく仕事を終わらせて羽田からクアラルンプール経由でジャカルタに着
 く。東京と変わらない印象の大都会のジャカルタでさえ、時間がゆっくり流れて
 いるような気がする。部屋でWi-Fiが使えないのもかえってよかったのかもしれ
 ない。

  そして古都ソロの町に入るとストレスが少しずつうすれていく感覚。ソロの
 町の風景を見ると5年前と昨年、ほんの数日を過ごしただけなのに懐かしさを覚
 える。ジャワに来るとこの「懐かしい」という感覚を何度も感じることになる。
 その懐かしさは、ワヤンでクリルと呼ばれる幕に浮かぶ人形の影を見たときに
 も感じることがある。みょうに郷愁にかられるのだ。町を歩いても、路地で出
 会う子どもたちの無邪気な笑顔、暑さをしのぐために縁台に座り、タバコを吹
 かしているおじさんたち、子どものころに見かけたような、どこか昭和を感じ
 させる風景だ。そして人情。「テレマカシ(ありがとう)」といったときに
 「サマサマ(どういたしまして)」と返してくれるときのニッコリとした笑顔。
 旅に同行した人の「インドネシアの人は日本人から棘を3本ほど抜いた感じで
 すね」という言葉に思わずうなづいた。

  今年のワヤンの公演は、ソロのマンクヌゴロ宮殿で行われた。演目は「天人
 の羽衣」。羽衣伝説を元にした松本さんのオリジナルだ。音楽はあえてガムラ
 ン音楽を使わずに和楽器を中心にしたもの。ジャワのワヤンには、いわゆるオ
 リジナルはなく、「ワヤン・ジュパン(日本のワヤン)」のユニークな照明や
 音楽はとても新鮮で人気があるようだ。

  昨年もそうだったが、音響、照明の設備のことなどいろいろ不測の事態があ
 ったが臨機応変に演出を変更し、本番前にはきちんと仕上げてしまう。日本ワ
 ヤン協会のスタッフとインドネシア人スタッフの抜群のチームワーク。今回は、
 ぼくもスポットライトを担当することになり、残念ながら本番はゆっくり見ら
 れなかった。公演は新聞でも取り上げられ、85歳のダラン(人形遣い)松本亮
 のオリジナル影絵詩劇を賞賛していた。公演前は「今回が最後です」といって
 いた松本さんだが、来年の公演依頼があったらしい。どうやら来年もジャワ旅
 行が待っているようだ。

  3回目、そして3週間とゆったりとしたジャワ旅行だったが、ますますその魅
 力は増してきた。ジャワはちょうど乾季で、ソロやジョグジャの町は、もちろ
 ん暑いのは暑いのだが、東京の蒸し暑さに比べれば大分ましで夜は過ごしやす
 い。それでも、炎天下、強い日差しの中を歩いていると、頭がフラフラしてく
 る。とくにジョグジャの繁華街、マリオボロ通りの雑踏を歩いていると、売り
 子の声、ベチャ(輪タク)の運転士たちの客を引く声、屋台からは香辛料の匂
 いが漂ってきて、頭がボーッとしてくる。歩いているうちに、自分が生きてい
 るのか、死んでいるのか、わからなくなってくる。ワヤンを見たときに、同じ
 ような感覚になったことがある。松本亮さんは、よく故郷の和歌山のことを
 「死霊とともに暮らす」場所といっているが、ジャワもまた生と死の境目があ
 いまいなところなのかもしれない。

  公演の数日後、ソロのマンクヌガラン王宮で行われた法要を見た帰りにふら
 ふらと路地を歩いていた。夜中近くの暗闇、わずかな街灯の明かりと青々とし
 た月の光を浴びて、白い花が妖しく浮かんで見える。月下美人。邸宅といえそ
 うな立派な家の塀に大きな月下美人の花がいくつも咲いている。松本亮さんの
 著書「ジャワ夢幻日記」(めこん)に「ウィジョヨクスモの花」という章があ
 る。ウィジョヨクスモの花は月下美人のこと。ソロの王家では即位にはなくて
 はならない花で、ワヤンの物語にも多く登場すると書いてある。年に一度、真
 夜中に開花して朝にはしぼんでしまうこの花は、死者の魂を甦らせると言われ
 ている。「美しい王女の死の化身としてウィジョヨクスモの花はその純白の肉
 体を花開かせるという」という花を王宮の帰り道に見つける、なんという偶然。
 もちろん写真を撮って、松本さんに差し上げた。
 
  今後の日本ワヤン協会の公演は以下の予定になっています。くわしくは日本
 ワヤン協会のホームページ(http://warungroti.p2.bindsite.jp/banuwati/
 でご確認下さい。

 ●9月8日(土)渋谷 ラ・ママ 開演午後9時〜終演翌朝午前5時
 ●9月29日(土)東京家政大学 開演午後2時〜終演4時 入場無料
 
  ◎吉上恭太 文筆業。仕事よりギターを弾いていることが多い。

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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  歌は世につれ、世は歌につれといいます。巷にはやる歌の数々が、時代を映
 す鏡であるとはよく言われるところです。というわけで今回は歌にまつわる本
 の話です(あれ?前回も歌にまつわる本だったような…)。
 
 『詩歌と戦争』、中野敏男、NHK出版、2012
 
 この本は関東大震災からアジア太平洋戦争に至るまでの民衆の心情を童謡をは
 じめとした歌を中心にたどっていきます。といってもその時代の歌と一口に言
 っても、対象となる歌は数多あります。そこでこの本では、北原白秋の作詞し
 た童謡あるいは新民謡を中心にとりあげています。ちなみに新民謡というのは、
 昔から歌われている民謡ではなく、近代に入って新しく「ご当地の歌」として
 作られた民謡のことを言います。
 
  なぜ北原白秋なのか?というのは気になるところです。詩人・童謡作家とい
 うのが白秋の知られた姿ではありますが、その一方で彼は戦時体制に協力する
 詩をかなり多く書いていたのでした。抒情詩人である一方、国民歌謡などで愛
 国精神を鼓舞し国威発揚を図る詩人という両面を白秋は持っていました。そし
 てどちらも民衆に受け入れられた。とすれば白秋の軌跡と、詩を受容する側の
 民衆の心情にも共振するところがあったのでしょう。
 
  ここで著者が示しているのが白秋の郷愁に対する考え方です。それは故郷を
 思う心というものは誰もが自ずから持っているものであるということです。こ
 れは白秋が国家から押し付けられる唱歌教育に反対していたことから導かれま
 す。つまり故郷を思う心を育てようとした唱歌に対し、白秋は故郷を思う心は
 最初から人間に備わっているのであるとするのです。大事なのは故郷を大切に
 思うよう教育するのではなく、それを育てていくことだと。もちろんその郷愁
 の対象は、海外への移民・大陸への進出の時代の中では祖国ということになる
 わけですが。
 
  一方で社会の側には関東大震災後どのような変化が起こったのでしょうか。
 著者は東京から地方への人口の流出を挙げています。震災後の東京市は一時大
 阪市よりも人口が少なかった事などが示されています。そして地方への人口の
 流出は、東京の文化が地方に伝播していくということでもあります。また地方
 自治制度の改革もこの時期に行われ、地域自治の担い手も地主層から商工業者
 へと移り、地域の振興が課題となりつつありました。
 
  その表れとして取り上げられているのが新民謡運動です。震災翌年1923年の
 「須坂小唄」のヒットをきっかけに、この時期新民謡が続々と生まれていきま
 した。そしてこれらの歌は地元の商工業者を中心に、有名な詩人に依頼すると
 いう形で作られました。ここでは白秋は新民謡を作る側に回っているわけです。
 
  この時期の白秋の新民謡の特徴として、著者は対象となる地域を国全体の中
 に位置づける詞をあげています。「〜〜は○○」という型がその表れで、
 〜〜に名物など、○○に歌われている地域が入ります。例えば「松島音頭」で
 は「松は松しま」となります。別のものは別の場所の名物、けど松島には松が
 あるという主張は、裏返せば全体(国)の中に地元の居場所を作るということ
 になるでしょう。
 
  さらにここでポイントなのが、白秋と歌を求める民衆の姿勢です。まず白秋
 は前にも触れたとおり唱歌教育など国家からの郷愁の押し付けには反対してい
 ました。そして民衆の方でも自主的に自らの地域の歌を求めていました。つま
 りどちらも、国に求められたわけではなく、自由に行動した結果であるという
 ことです。
 
  こう辿ってくると、童謡の作者北原白秋がなぜ愛国歌謡を作るようになって
 いったのかという点が少しずつ見えてくるのではないかと思います。そしてそ
 れと共振した民衆の姿も。この後白秋は新民謡運動から国民歌謡へと続く歌を
 作っていきます。アジア太平洋戦争へ日本が向かう道としては、国家の方から
 民衆を戦争に動員していったことがいわれていました。けれどもそこには当然
 それを支持した国民がいたわけです。この本ではその一端として、童謡をはじ
 めとした歌の面から、戦争を支持していった国民とそれを導いていった詩人の
 姿を描いています。それも強制されたのでなく、自由に行動した結果として。
 
  そして著者の視線は、戦後にも向けられます。戦中と戦後の文化運動の連続
 性にも気を配る著者の視線は、さらには新たな「震災後」の時代である現代に
 も注がれています。戦中と戦後に連続性が見られるということは、私たちの中
 にも昭和初期の人たちと同じメンタリティが潜んでいるかもしれないというこ
 とですね。
 
  流行歌全般から社会を読み解くというテーマでは、見田宗介『近代日本の心
 情の歴史』(講談社学術文庫、1978)が代表的です。品切れだったようですが、
 岩波書店の見田宗介著作集に収録されましたので、未読の方はこの機会にぜひ
 どうぞ。
 
 ◎副隊長 鉄道とペンギンの好きな元書店員

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 ■ 「知るは楽しみ」 / 立木 菜
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  「現在と過去との対話」とは何か
 
 日本史ものの新書が巷で話題と聞いた。著者は女性。教鞭を執る先は海外の大
 学らしい。興味が湧く。海外で日本史はどのように扱われているのか、土産物
 売り場のパッケージ化された固定的な色合いとは離れたものであってほしいと
 まず思った。そして、国内の高度に専門的で細分化した一方、暗記科目的な歴
 史知識の上にふんわり被せられる脚色とトンデモの曖昧な言説の跋扈する日本
 史界隈の、頼もしいカウンターパートとなってくれないかな、などと勝手に期
 待値をあげながら探しにゆく。『ハーバード白熱日本史教室』は、都心の書店
 の平台中央に一際高く積まれていた。

 一章を読みながら、のびやかな文章を書く人だなと思う。季節や風景、建物の
 描写やそこに立ち会っている著者の心理描写が眩しいほどさわやかだった。元々
 の専攻であるという数学や生命科学で培った視点がぽつりぽつりと出てくる。
 北米の日本史学者への敬意とそこで生まれる素朴でいて深い疑問。そこから著
 者が日本史の道を歩き始めるのだが、とてもあっさりと書かれているため肩透
 かしをくらったように感じ、少し驚く。二章ではハーバード大学での講義内容
 の一部について、三章ではハーバードの教育体制、著者の講義に対する学生か
 らの評価について書かれる。まえがきで「もっとチャーミングなもの」と記し
 ていることがあとでもう一度読み返すとわかるのだが、全体に平易な言葉が選
 ばれ柔らかい文章で書かれているため、この辺りで一度躓いてしまう。たしか
 にその国の国史でもなければ著しい発展から時の経った極東の国の歴史を教え
 るには、取っ掛かりや興味を継続させることが至極骨の折れるだろうことは想
 像に難くない。それを著者は軽やかに迷いなどないかのように見つけ出し、学
 生たちに提供しあっさりと強い関心と興味を手にする(ように感じられる)。
 これは日本にいる日本史研究者や愛好家から様々なアドバイスが集中してしま
 うのではないかなあなどと老婆心が湧いてしまう。

 文学や多くの学問と同様、歴史に「正しい」はあるのだろうか。残された資料
 からの史実があっても、伝え方や話者の考えや思想で受け手の史実に対する印
 象は大きく変わってしまうことは少なくない。そしてそのことに自覚的である
 人ほど慎重で、数多くの資料に当たり、他者からの批判や意見に耳を傾けてい
 る場にいるはずだ。そうして鍛えられた言説が強度を持ち普遍的であるとも思
 う。そこに、誰かの思い扉を開きながら発する発言を否定することの無意味さ
 を感じる。

 四章のアクティブ・ラーニングの過程は「歴史とは現在と過去との対話である
 (E・H・カー)」ことの実践と感じられた時、著者の目指すものが私の知る既
 存のものとは異なる視点のものなのだということがありありと浮かび上がって
 きて、その目から鱗感は爽快であった。五章へ進み、あとがきを読み、またも
 う一度はしがきから一章目へと進むとこの著者のいう「チャーミング」の見つ
 めるものの豊かさと新しい地平への飽くなき挑戦の意志がやっとわかったよう
 に思った。それは「ハーバード大学」や「女性」「若い」などの余計な装飾/
 一方的な期待をきれいさっぱり吹き飛ばしてくれるものであった。

 その終章にして要である五章は、日本史全体を俯瞰し大きな流れとして纏める
 人が出てきて欲しい、というようなことを言っていた鶴見俊輔の言葉を思い出
 すものだった。著者も「新しい歴史の見方や捉え方を提案」したいと述べてい
 るところからわかるように、和風イメージを強めた日本好きではなく、日本の
 一時期を擬似的に体験することから「始まる」日本史や日本への興味は、本人
 と日本との細くとも強固な紐帯となるように思う。それは、繋ぐ対象を変えれ
 ば誰でもどこへでも広げてゆける、普遍的な方法ではないだろうか。

 読者である私の中にもたしかに新しい視点を与え、歴史の深みや広がり、「日
 本の一地域の歴史を体験する」ということに異国の学生が楽しんでいるという
 点も加えてくれた。控えめながらしっかりと強く鮮やかな点である。最後に著
 者は新しい挑戦、と語る。新しい力点を確かに得た人のこれからと、この本に
 刺激された多くの人のこれからがとても楽しみである。

 既存のものやまったく新しいものを含め広く集まることで描かれてゆく日本の
 歴史が豊かなものとなり、広くかかわりあっていってほしい、と思う一冊だっ
 た。

 ・北川智子『ハーバード白熱日本史教室』(新潮新書、2012.5.12刊)

 ◎立木 菜

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 ■トピックス
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 ■ あいおい古本まつりvol.4 http://aioibooklabo.com/index.html
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  中央区佃・月島を舞台にした「あいおい古本まつり」の第4回を開催します。
 
  会場は〈相生の里〉という高齢者介護福祉サービス施設で、月島駅からほ
 ど近い相生橋のたもとにあります。
  晴海運河に面しており、豊洲エリアのビル群やスカイツリーも見える絶好
 のロケーションです。
   この施設の1Fに〈あいおい文庫〉という図書室があり、施設利用者以外に
 も開放されています。

  そこの管理者である砂金一平が、地域の人たちにもっとこの場所のことを
 知ってほしいと考えたのがはじまりでした。
  そして、砂金から打診を受けた早稲田〈古書現世〉の向井透史とライター
 ・編集者の南陀楼綾繁が、

 「ここでしかできないブックイベントをやりたい」と思い、
 その考えに賛同してくれる人たちに声をかけ、2011年3月に産声をあげました。
  
  主催団体は「あいおいブックラボ」といます。
  砂金が代表となり、向井が古本市部門、
  南陀楼がイベント部門の責任者となるとともに、
  地元で活動する出版社「アニカ」の佃由美子にも
 
 メンバーに加わってもらいました。
 
  すでに行なわれているイベントと同じことをやってもしかたありません。
 この場所、この集まりでしかできないことをやりたいのです。
   云ってみれば、「既視感のないイベント」です。
 
  これからはじめる「あいおいブックラボ」を、
 本の可能性を少しでも広げるための実験場にしていきたいと
 私たちは考えています。
 
  トークイベントから古本漁り、そして街歩きまでが楽しめる、
  一日いても飽きない空間をご用意いたします。
 たくさんのご来場、心よりお待ちしております。(HPより)

 @あいおいの里 アクセス
 →東京メトロ有楽町線・都営大江戸線「月島」2番出口より徒歩3分

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 ■古本市
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 ◆日時:2012年8月25日(土)、26日(日) 11:00〜18:00
 ◇場所:相生の里 東京都中央区佃3-1-15
 ★参加店
 archipelago books/古書現世/三楽書房/青聲社/立石書店
 にわとり文庫/藤井書店/丸三文庫/やすだ書店/リズム&ブックス

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 ■イベント インタビューの心得 木村俊介×佐久間文子
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 ◆日時:2012年8月25日(土)13:00〜14:30
 ◇場所:1Fあいおい文庫
 ★参加費:1000円
 
 インタビュアーを生業とする木村俊介さん。
 木村さんはなぜインタビューの仕事を始めたのでしょうか?
 
 インタビューの面白さや難しさから、インタビューの心得まで。
 普段はインタビューする立場である木村さんに
 フリーライターの佐久間文子さんがたっぷりインタビューします。
 
 □木村俊介[きむら・しゅんすけ]
 1977年生まれ。インタビュアー。
  大学在学中に「ほぼ日刊イトイ新聞」の編集に携わり、フリーに。
  著書に『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)『料理の旅人』(リトル・モア)
  『仕事の話日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」』
 (文藝春秋)他、
  聞き書きに、斉須政雄『調理場という戦場「コート・ドール」斉須政雄の仕事
   論』(幻冬舎文庫)
  村上隆『芸術起業論』(幻冬舎)他多数。
 
 □佐久間文子[さくま・あやこ]
  1964年生まれ。フリーライター。1986年に朝日新聞社に入社。
  文化部、『AERA』、『週刊朝日』などで主に文芸や出版の記事を執筆。
  2009年から2011年まで、書評欄の編集長を務める。
  2011年に退社、フリーライターとなる。
 
 要申込│件名「インタビュー」

 イベントのご予約・お問合せ先
 abooklabo@gmail.com/FAX 03-6220-1502[相生の里]
  *予約される際は、イベントごとの件名、お名前、参加人数、電話番号を明記
 のうえ、メールもしくはファクスにてお申し込みください。
 
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 ■ 中世・近世の芦屋 / 近代の芦屋
        伊勢物語への憧憬と絢爛な文化 / 芦屋モダニズム文化
   └─────────────────────────────────
 ◆日時 : 2012年8月4日(土)〜9月23日(日)*月曜休館
 ◇場所 : <芦屋市立美術館> 電話079-738-5432
           659−0052 芦屋市伊勢町12−25
           http://ashiya-museum.jp/ 
 ★観覧料 : 300円
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 「古代の芦屋---珠玉の出土品」は展観中 *終了期日はいずれも9月23日
 
 〔ギャラリートーク〕日程(学芸員による展示解説)
  8/4(土),18(土),25(土),9/23(日)  午後2:00〜

 ■ 第25回 下鴨納涼古本まつり
 └─────────────────────────────────
 ◆日時 : 2012年8月11日(土)〜16日(木)
      午前10時〜午後5時30分(最終日は午後4時終了)
 ◇場所 : <下鴨神社境内 糺の森(ただすのもり)>
            詳細 → http://kosyoken.seasaa.net/
 ★参加費 : 無料
 ----------------------------------------------------------------------
 京都・大阪・奈良・岡山・滋賀より多数の古書店が参加予定。
 古書目録『下鴨納涼古本まつり目録』(500円分切手を同封して申込)
 目録請求先;604-0882 京都市中京区高倉通夷川上る
            京都府古書組合気付 京都古書研究会「目録」係

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ===================================
  以上、アース・インテグレート川口 正氏の
  <関西・業界トピックス>12・08・03より抜粋掲載させて頂きました。
 いつもありがとうございます。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
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 また一日発行が遅れてしまいました。申し訳ありません。
 来週の土曜日、佃島の「あいおい古本市」で催される「インタビューの心得
  木村俊介さん×佐久間文子さん」イベント。ひとに聞く、その魅力と力、
 記録の面白さを存分に教えてくれそうです!
 ご興味のある方はぜひ。畠中理恵子
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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| バックナンバー | 11:20 | comments(1) | trackbacks(1)
コメント
「現在と過去との対話」という部分に最近関心があります。
大変参考になりました。
| 現代広告@吉田 | 2012/08/17 4:39 AM |
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