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[本]のメルマガ vol.366
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■■ [本]のメルマガ                2009.08.15.発行
■■                             vol.366
■■  mailmagazine of books        [梅雨も終わって夏本番 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『わたしはホロコーストから生まれた』

バニース・アイゼンシュタイン作・画 山川純子訳
四六判 212頁 定価1680円 ISBN:9784562045082

世界6か国で翻訳出版。アウシュビッツ収容所で出会い、結婚した両親のもと
に生まれた著者が、生きのびた人々の人生と二世である自分の人生を重ね
合わせ、個性あふれる挿画とともに描く新世代のホロコーストYA文学。

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■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ 〔本〕のメルマガ&〔書評〕のメルマガ 10周年記念イベントです!
  ご参加ヨロシク!

→ 紀伊國屋書店 新宿本店
  「じんぶんや 第53講―「戦争と人間そして非戦」選者:山室信一」

→ 「東京堂書店 トークショー」2連発!
   中山千夏さん×香山リカさんトーク&サイン会
   湯浅誠先生×佐高信先生トーク&サイン会

【連載】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★ 「虚実皮膜の書評」/ キウ 
→ あの<話題作>をとりあげます。

★ 「ひよっこ行政書士 Rock’n’law相談室」/ いそむらまき 
→ 「更新料は無効です。返してあげなさい!」という判決とは…
   気になる、気になる!
 
★ 「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
→ 真夏の夜の夢。
  インドネシアに伝わる影絵芝居のお話です。

★ 「本棚つまみ食い」 / 副隊長
→ 武田信玄や上杉謙信ばかりでない!
   関東平野、今は昔。戦国時代武将たちの書籍を紹介。

★ 「知るは楽しみ」 / 立木 菜
→ 「歴史から何を学ぶのか」―今いる場所から考えます。


今月のお休みは… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★ 「育児と書」 /柳瀬徹 
→ ヤナセさんをもうちょっと待とう! 

★ 「図書館の壁の穴」/ 田圃兎 
→ 今月はお休み。来月にも期待しましょう。

★ 「舐めるように読んでみる」/ たまこ
→ 今月は急遽お休み。来月臨時に掲載予定です。

★ 「今月の***」/ 畠中理恵子
→ お盆休みということで…。

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■トピックス
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■〔本〕のメルマガ&〔書評〕のメルマガ
 10周年記念 読者&執筆者感謝イベント!
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 〔本〕のメルマガ&〔書評〕のメルマガ10周年記念 読者&執筆者感謝イベント!
 <あなた>のご参加をお待ちしてます!

 お申込みは、
 http://www.honmaga.net/modules/eguide/event.php?eid=1

 パーティ形式で、縁とゆかりのある方入れ替わり立ち替わりその場のノリで
トークしていただくという、トークセッション方式です。

 日時:8月28日(金)18:00-21:00(途中入退OK)
 会場:ビジョンセンター秋葉原
    東京都千代田区神田淡路町2-10-6 OAK PLAZA 2F
    http://www.visioncenter.jp/location/index.html

 会費:(※飲み放題・食べ放題つき)
     メルマガ読者   2000円
     過去の執筆者 1000円
     それ以外の方  3000円

 詳細はHPまで。ぜひご参加くださいませ。


■じんぶんや 第53講―「戦争と人間そして非戦」
選者:山室信一
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じんぶんや 第53講―「戦争と人間そして非戦」
選者:山室信一(やまむろしんいち)
http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn531.html

於:紀伊國屋書店 新宿本店 5Fカウンター前


『憲法9条の思想水脈』(朝日新聞出版)にて第11回司馬遼太郎賞受賞
された山室信一氏が選ぶ「戦争と人間そして非戦」について考えるための
書籍30点!
終戦記念日を迎えるこの8月、いつもお読みになる本の他に是非とも加えて
頂きたい、だいじな1冊1冊です。必見!


■中山千夏さん×香山リカさん トーク&サイン会
「母娘という関係」
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中山千夏著『幸子さんと私』、香山リカ著『うつ病が日本を滅ぼす!?』
(創出版・刊)の刊行を記念してトーク&サイン会 「母娘という関係」を
開催いたします。

◆日時:9月2日水)午後6時より(開場17:45)
◆場所:東京堂書店本店6階(東京都千代田区神田神保町1-17)
    http://www.tokyodoshoten.co.jp/
◆参加費:500円
ご予約、お問い合わせは東京堂書店1階カウンターで。
お電話(03-3291-5181)でも承ります。

■湯浅誠先生×佐高信先生 トーク&サイン会
「貧困・格差・新自由主義」
└──────────────────────────────────
高杉良・佐高信共著『罪深き新自由主義』(週刊金曜日・刊)の
刊行を記念し、
自立生活サポートセンター もやい事務局長・湯浅誠先生と
作家・佐高信先生のトーク&サイン会 「貧困・格差・新自由主義」 
を開催いたします。

◆日時:9月9日(水)午後2時より(開場13:45)
◆場所:東京堂書店本店6階(東京都千代田区神田神保町1-17)
    http://www.tokyodoshoten.co.jp/
◆参加費:500円
ご予約、お問い合わせは東京堂書店1階カウンターで。
お電話(03-3291-5181)でも承ります。


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■ 「虚実皮膜の書評」/ キウ
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『1Q84 BOOK1 BOOK2』 村上春樹 新潮社 09.5

 主人公は二人。青豆と天吾。それぞれの視点で描かれた物語が、三人称で
交互に展開される。以下内容を記す。

 青豆は、都内のスポーツジムで働く女性インストラクター。そのジムで知
り合った老婦人の依頼を受けて、DV男を殺害する仕事を請け負っている。青
豆自身の親友が、DVを繰り返し受け、結婚した家庭において自殺を遂げたこ
とから、その男を秘密裏に殺害した過去もある。そして、カルト教団「さき
がけ」の教祖が10歳の少女をレイプしているとして、老婦人からその「リー
ダー」の殺害を依頼され準備する。しかし、青豆は自分の知っている世界
と、現実が少しずつズレてしまっているこの世界が(自分の知らない武装闘
争が過去にあったり、それをきっかけに警察の制服と拳銃が変更になってい
たり、月が二つになっていたり)よく分からなくなっており、その現実を
1984年ではなく、1Q84年としてとりあえず保留している。
 
 天吾は、予備校の数学の講師を務めながら、小説家を目指している。新人
賞の下読みを通して出会った『空気さなぎ』という作品を、懇意にしている
編集者・小松から徹底的に書き直して新人賞を取らせてデビューさせたい、
とリライト作業を依頼され、その作品の魅力に取り付かれて引き受ける。
「ふかえり」という17歳の女子高生が書いた『空気さなぎ』は天吾の高い文
章能力によって、女子高生が書いたとは思えない小説に生まれ変わり、新人
賞を受賞してベストセラーとなる。

 このふかえりは山梨県の山中に拠点を持つ教団「さきがけ」のリーダーの
娘で、10歳のときに教団から逃げ出して、父親の旧友・戎野の元に庇護され
る。ふかえりはディスレクシア(読字障害)を負っていて、本を読んだり文
章を書いたりすることが出来ない。話すときも、複数のセンテンスを一度に
言えず、疑問形の発話も出来ない。『空気さなぎ』は教団内での体験を、戎
野の娘アザミに語って書き留めたものだった。

 舞台は1984年の4月から9月。二人は29歳。小学生の頃同じ学校の同じクラ
スに通っていた。二人はそれぞれ家庭に問題を抱えていた。青豆は「証人
会」という教団の信者の家庭に生まれ育った。給食の際に、お祈りを大きな
声で唱えることから、完全にクラスで孤立していた。天吾は父親がNHKの集
金人で、日曜日に必ず集金に同道させられた。そうすると集金の確率が上が
るからだ。天吾はその日曜日が来るのがとても嫌だった。天吾はこの父親は
実の親ではないのではと疑っている。母親はいない。青豆も日曜日は布教活
動に同道させられていて、二人は町で何度かすれ違った。

 小学校4年生のとき、青豆は理科の実験の際に手順を間違えてグループの
他の生徒に罵られた。もともと宗教団体がらみで孤立していた青豆は無視さ
れるような存在だったが、今回はむしろその教団がらみでからかわれ侮辱さ
れた。別のグループにいた天吾は青豆を自分のグループに引き入れて、実験
の手順を丁寧に説明した。天吾はそのころ数学の神童として一目置かれてお
り、他の教科の成績もよく、身体も大きく、スポーツも出来た。しかし、日
曜日に友達と遊べないことなどから孤独を感じてもおり、孤立していた青豆
のことも気になっていた。後日、掃除の終わった誰もいない教室で、天吾は
青豆に手を強く握られ、澄んだ目でじっと見詰められる。青豆は黙ってその
場を立ち去る。この風景は二人の中で特別な意味を持つようになる。特に青
豆にとっては自身を支える根拠となる。

 この小説は大きな構造を持っているし、いろいろな角度から読み語ること
が出来る。すぐれたエンターテイメント性も有しており、読み手を飽きさせ
ない。また登場する事物にモデルを想起しやすい。「さきがけ」にオウム真
理教を重ね合わせることが出来るのはもちろん、「タカシマ塾」はヤマギシ
会、「証人会」はエホバの証人、編集者・小松は安原顕がモデルであろうと
は多くの人が指摘している。しかし、それでこの小説がこれまでの村上春樹
の作風を大きく変更するようなリアリズム小説かといえば、そんなことはな
く、やはり、『海辺のカフカ』に続いて、従来の作風の延長線上にある(こ
れまでの作品の集大成的な)、寓意性に満ちた、マジック・リアリズム小説
となっている。

 この小説の中でもっとも大きな謎として残るのは、「リトル・ピープル」
だろう。この物語の出発点となっているのは、間違いなくこのリトル・ピー
プルなるものの存在であり、リトル・ピープル的なるものはなんなのか、と
いうことこそ、この物語の核心であると思う。もともと農業コミューンだっ
た「さきがけ」は宗教へと変質してゆく。それはふかえりがパシヴァ(知覚
するもの)としてリトル・ピープルを導き入れ、それをリーダーである父が
レシヴァ(受け入れるもの)として、リトル・ピープルの代理人となったこ
とによる(BOOK2 P276)。リトル・ピープルとはジョージ・オーウェルの描
いたディストピア小説『一九八四年』に出てくる独裁者「ビッグ・ブラ
ザー」に対して用いられている言葉だ。我々は社会を管理・統御しようとす
るものとして、もはや「ビッグ・ブラザー」のような分かりやすい対象を見
出すことは出来ない。それに替わって出てきたものがリトル・ピープルだと
いう(BOOK1 P422)。そこから容易にうかがえることはリトル・ピープルと
は集合無意識のようなもの、そのようなものの要求によって形成されたシス
テムということになるだろう。カルト教団のリーダーはそのようにして要請
されたのだ。現にこの作品の中で、自分の娘を含めた幼女をレイプするリー
ダーは自分の意志とは関係なく、リトル・ピープルに要請されるがままに、
その役割を果たしているだけのように語られている。青豆に殺されること
を、むしろ望んでおり、躊躇する彼女を励ましさえする。

 もうひとつの謎はリトル・ピープルによって空気中の糸をつむいで作られ
る「空気さなぎ」と、そのなかに形成されるドウタという自身の影。これは
最後までよく分からない。分身としてのドウタがその「空気さなぎ」から生
じると実体のほうはマザと呼ばれる。ふかえりは自身のドウタが生成された
ことに恐怖を覚えて、ドウタを後に残して逃走する。

 また「さきがけ」のリーダーの殺害に成功した青豆は、自分の紛れ込んで
しまった1Q84年から従来の1984年へと帰るべく、その転換点となったであろ
う場所まで向かうが、そこにあったはずの1984年の側へと戻るべき通路は消
えてしまっている。リトル・ピープルが活動する、空に月が二つ浮かんでい
る1Q84年から、抜け出すすべはない。リーダーが語ったとおり、これはパラ
レル・ワールドではないのだ。1Q84年とは別に1984年があるわけではない。
リトル・ピープルが暗躍する世界から逃れることは出来ないと悟った青豆
は、天吾への愛を胸に、拳銃自殺を遂げようとする。

 そのころ天吾は、認知症を患った父が、息を引き取ろうとしている療養所
で、「空気さなぎ」を前にしていた。その「空気さなぎ」のなかには10歳の
青豆が眠っていた。彼は青豆を必ず探し出すことを決意する。「空気さな
ぎ」と10歳の青豆は消えてゆく。

 そのようにこの物語は終わるのだが、とても終わっているようには思えな
い。天吾はふかえりと交わることによって、レシヴァとしての役割を担おう
としている。もともと『空気さなぎ』のリライトとは、ふかえり/天吾がパ
シヴァ/レシヴァとして機能する作業であって、その二人とリトル・ピープ
ルとの対峙(あるいは継承)は始まったばかりであると思う。また、「さき
がけ」というレシヴァを失ったシステムの行方も書き残されている。同じよ
うに新興宗教団体を描いた大江健三郎の『燃え上がる緑の木』『宙返り』は
その生成から破綻・再生まで描いたけれど、宗教団体としてのリアリティは
感じられなかった。この作品の「さきがけ」には、具体的にモデルとなる教
団があるためだろうか、妙なリアリティを感じる。それを描ききってほしい
という思いもある。

 また、何よりも、青豆をあのような形で描いて終わりにしてほしくないと
いう思いも強い。カルト宗教団体の家庭に生まれ、そのことを背負わされて
生きてゆく人間は、容易にその呪縛から逃れることは出来ない。彼女の行
なっている殺人行為は、どういう理屈があっても、殺人に他ならないし、宗
教テロリズムと原理的には同じである。そこからの再生がありえるのか、そ
れは分からないが、純愛を胸に秘めて自殺を遂げるというような、陳腐と
いっては言い過ぎかもしれないが、そのような終わり方をしてほしくない。
徹底的に闘ってゆく姿を示してほしい。システムとしての宗教との、またそ
のシステムが血肉となってしまっている自分自身との、闘いを。

 BOOK3の執筆・刊行を切望する。

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■ 「ひよっこ行政書士 Rock’n’law相談室」/ いそむらまき 
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 1年以上前に、このメルマガで賃貸などの更新料についての裁判のことを書
いたのですが、覚えていらっしゃる方はいますでしょうか? 
 簡単にまとめると、「更新料は消費者契約法10条の「消費者の利益を一方
的に害する条項」に該当するから無効だ!金返せ!」という訴えだったのです
が、あえなく棄却されてしまったというものです
(気になる方は2008年の2月15日号をごらんください)。

 それが!何と先月またまた京都地裁で、「更新料は無効です。返してあげな
さい!」という判決が出たのです!うぉー!!すごいですね!!

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090729130229.pdf

うれしいのでリンクはっときますね(笑)。
話がそれますが、このサイトご存知ですか?
裁判所のサイトなのですが、判例が検索できるのです! 
気になる裁判などがあったら読んでみると面白いと思います。私はなんだかい
ろいろと読んでいるうちに、「しかるに…、よって……、蓋し…」という普段絶対
使わない言い回しで理由付けして判決文書いてみてぇ〜!とか思いますけど、
みなさんは思いませんか? はじめに読んだときは「蓋(けだ)し」って何よ!
って思いました(笑)。

 話を戻します…。今度も更新料2ヶ月分(高っ!)は消費者契約法の10条
により無効だから返還しろ!というものです。今回の判例では、「賃借人が賃
料以外の金員の支払を負担することは賃貸借契約の基本的内容に含まれ」ず、
また「賃料の補充としての性質を有しているといえるかは疑問」で、「仮にその
性質を有していたとしても,その支払時期が早い点で賃借人の義務を加重す
る特約である」としています。そして、賃貸人と賃借人にはやはり情報収集力の
格差があり、被告(賃貸人)の主張する更新料の合理的理由((1)更新拒絶権
放棄の対価、(2)賃借権強化の対価、(3)賃料の補充、(4)中途解約権の対価と
いった要素)は認められないので、ちゃんと更新料の意味などを具体的に説明
したうえで合意を得たのでなければ、「賃借人の利益を一方的に害するものと
いうべきである」としています。つまり、無効!ってことです。

 前にあげた棄却された判例の理由にもなっていた、「賃料の補充」ってやつも
合理的理由になってないって言っていますね!理由としては、更新料は借りた
期間に関係なく徴収してんじゃん。 払って1ヶ月後に退去しても返還しないんだ
から、ちょうど期間満了時に退去する人と同じ額を払うことになって、そんなの
「使用の対価としての」賃料なわけなくね?!みたいなことです。
うん、うん、納得できる!

 すごいですね。このままこの流れが一気に盛り上がり、更新料が撤廃される
といいなぁと、一生賃借暮らしを覚悟する私は思うわけです(他人任せ?!)。
ちなみにこのなかにも触れられていたのですが、更新料というのは全国的にあ
るものではないのですね。これを読んでいる方のなかにも、自分の住んでいる
地域にはそんなのないなぁと思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。だ
としたらなおのこと、そんな不公平は撤廃してほしいものです。

ではでは、今回はこのへんで。まだまだ暑い日が続きそうですが、お身体にき
をつけてください!

みなさまのご相談やご意見、または、それは違うぞ!などというおしかりもお待
ちしています。そのほかにも法律にからんで何か知りたいことなどあればお寄
せください。もちろん、仕事依頼、メール相談(初回無料)もお待ちしております。

いそむらまき行政書士事務所
rockandlaw@yahoo.co.jp


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■ 「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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第2回 ワヤンの誘惑

 ここのところの蒸し暑さ、とつぜんのスコールのような雨は、一昨年訪れた
インドネシア・ジャワを思い起こさせる。日本ワヤン協会主宰・松本亮さんの
公演旅行にお供させてもらった旅だった。

 古都ソロにあるマンクヌゴロ王宮で演じられたのは、御伽草紙・浦島伝説を
下敷きにしたオリジナル・ワヤン「まぼろしの城をめざす」。ジャワの湿気を帯
びた心地よい風と虫たちの声とともに、いつのまにか光と影の幻想の世界に
連れていかれていた。今、思い出しても不思議な体験だった。

 ワヤンとはインドネシアに伝わる影絵芝居。祭や、結婚式の夜に、白い幕
(クリム)を張り、ダランと呼ばれる人形使いが水牛の皮で作られた色鮮やか
な人形を巧みに操り、美しい影を作り出す。

 ダランは人形を操るだけでなく、効果音を出したり、後ろに控えているガム
ラン奏者に曲の指示を出している。

 そしてダランのもっとも重要な役割は語り。ストーリーは古代叙事詩「マハー
バーラタ」や「ラーマーヤナ」から演目が選ばれるが、驚くことに脚本はない。
ダランの語りはすべて即興だ。徹夜で行われるワヤンならば、日本語に翻訳
すれば400字詰め原稿用紙で250枚分の語りを即興でするという超人的な
語り芸だ。ジャワで録音されたダランの語りを聞くと、歌うように抑揚をつけて
聴衆を盛り上げている。東京で見る日本ワヤン協会による公演では、現地で
録音された語りの上に重ねて、翻訳された語りがテープで流され、それに合わ
せてダランが人形を操っている。たとえ録音であってもジャワ語、日本語両方
の語りの声、そして台詞が心地よい記憶となって耳に残っている。

 ジャワでのワヤンの公演は、ときには何千人と聴衆が集まるという。後ろに
いる人は、もちろん影絵など見えはしない。それでもダランの語りを聴きにそれ
だけの人が集まるのだ。松本さんがいうとおり、ワヤンは、実は語りの芸なの
である。

 影絵芝居なのだから、クリルというスクリーンに影が投影されるわけだが、
面白いのは、ジャワの観客は影を見るよりもクリルの裏側にいるダランの人形
さばきを見ているのだ。ワヤンは、クリルの表と裏(どちらが表か裏かはよく
わからないが)を行き来して、光と影の世界を楽しむものらしい。影で描かれる
のは現世の世界、そして色鮮やかなワヤン人形で描かれるのが、あの世の
世界ということらしい。

 こんなふうにワヤンの魅力を語っていても、不勉強なぼくはいまだに人形たち
の見分けもつかず、さらに正直に告白すれば、公演中、一度とならず睡魔に
襲われて居眠りをしてしまう。

 いいわけをすれば、ワヤンはそれだけ心地よいのだ。演目が始まるまえの
ガムランの演奏から時間の流れがゆるやかになっていき、薄暗がりの中で
ダランが人形を操り、語りが始まるとスーッと物語の世界に迷い込んでしまう。
あとは壮大な物語に身を任せればいい。この感覚は、子どものときに読んだ
ナルニア国物語などの長編の物語を読書しているときに感じたものに近い
かもしれない。

 先日、出版された絵本『山からきたふたご スマントリとスコスロノ』(福音館
書店)は、そんなワヤンの魅力を存分に伝える力作だ。ダランの語りをよく
理解した乾千恵の文と早川純子の細密な木口版画による絵によって、絵本
の中にワヤンの濃密な時間が漂っているようだ。

 片観音開きのページもあり、これで元がとれるのかしら、と心配になるほど
贅沢な造本でもある。そう、この絵本は編集者、デザイナーの力が大きく
関わっているのがわかる。

 7月末にビリケンギャラリーで原画展が行われたが、絵本に使われた木口
版画、モノタイプ、木版リトグラフの版画が壁いっぱいに飾られていて、それ
以外にも試作のもの、絵本に使われなかった「日の目コーナー」などすごい数
の作品が展示してあった。 これだけの力を注いだ絵本なのだ。

 監修をした松本さんが、「こんなにすごい絵を描いてしまって、早川さん、この
あとどうすればいいんでしょうね〜」というほどの作品だ。

 会場には数冊の絵本のラフがおいてあった。絵本がすこしずつ形になってい
く過程がよくわかる。木口版画なので作品ひとつひとつは小さい。その原画を
デザイナーのアイデアで迫力あふれる画面に構成されていく。画家である早川
純子の力はもちろんだが、編集者の執念、デザイナーのアイデアなどが相まっ
て、一冊の絵本が完成した。ひさしぶりに「すごい仕事」を見たような気がする。

◎吉上恭太 文筆業。仕事よりギターを弾いていることが多い。

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■ 「本棚つまみ食い」/ 副隊長
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 今回は「戦争の日本史」というシリーズから第10巻

『東国の戦国合戦』、市村高男、吉川弘文館、2009

を取り上げてみようと思います。おまけとして夏休みにお薦めのスポットも紹介
しているのでよろしくお付き合いください。

 この本が取り上げているのは戦国時代の、関東地方における勢力争いの
推移であり、時代的には15世紀末から16世紀末までが取り上げられています(も
っともそれ以前から関東地方では騒乱が絶えなかったのではありますが)。
そしてこの本の特徴といえるのが、関東の戦国時代の主役ともいえる北条氏
のみではなく、幅広い勢力に記述が割かれている点です。むしろ北条氏以外
の関東の諸勢力がこの本の主役です。まさに本の帯にあるように「東国武士
団の合戦絵巻」が展開されています。

 具体的に言えば、前半の軸になるのが古河公方足利氏と関東管領(山内)
上杉氏、後半に入ると佐竹氏を中心とした反北条同盟へと移っていきます。
他に登場する諸勢力も様々です。相模から武蔵に勢力を誇る(扇谷)上杉氏・
下総の名門である千葉氏といった有名(?)なところから、(上総)武田氏・(江
戸崎)土岐氏・鹿島氏といった無名(?)な勢力まで登場してきます。さらには
陸奥南部の(白河)結城氏・岩城氏や上杉謙信で有名な越後の長尾氏に
武田信玄の(甲斐)武田氏など、関東とかかわりの深い周辺勢力についても
記されています。こうした勢力が入り乱れて、関東も他の地域に違わず騒乱
の巷でありました。そして相互の敵対と連携、さらには内紛まで抱える中、
家の存続を図り勢力の拡大を目指す関東の諸勢力の奮闘ぶりが細かく描か
れているのがこの本の魅力です。

 ところで上に出てきた〜氏・〜氏というのが誰だか分からない、という方も
多いと思います。日本史の授業などで語られる、大きな流れの中で戦国時代
といえば信長や秀吉、そしてそれと戦った勢力(上杉・武田・毛利など)が
中心に語られることが多いので、それ以外についてはあまり知られてい
ないのではないでしょうか。けれど当たり前のことですが、知られていない
だけであって上に書いたような歴史が展開されていたわけです。この本は
そんな(少し)無名な歴史をよく知られた人物たちとも接続してくれます。
武田信玄は上野国に勢力を伸ばしていましたし、上杉謙信は関東管領の
役職に就いていました。後半いよいよ信長が関東へ進出してからは、北条
氏を含む関東の諸勢力もそれとかかわりを持たなければなりませんでした。
そうした記述を通じて、関東の諸勢力が彼らとどう関わっていたのかを教え
てくれます。一方で、さらに無名な歴史の一方の極である郷土史的なもの
への橋渡しの役目もしてくれると私は考えています。

 町を歩いていて、ふと目にする教育委員会が設置していたりする史跡の
由来などについて、読んでもよく分からないという経験があるのではないで
しょうか。城跡にある看板を読んでみても、分かるのは時代と城主の名前
ぐらいで他の事はよく分からないとか(私だけ?)。この本はそんなより
ローカルかつ断片的な関東地方の歴史への理解も深めてくれるはずです。
そういう意味では地図を参照しつつ読むのも面白いでしょう。

 というわけでこの夏は関東地方の城跡めぐりで、はるか500〜400年前の
戦争に思いをめぐらせるのはいかがでしょうか。この本の巻頭カラー写真にも
ある本佐倉城は遺構がよく残っていてお薦めです(京成線大佐倉駅から徒歩
10分位)。他にも駅の近くにある鉢形城・小金城から、公共交通機関が全く
ない逆井城などよりどりみどりです。すべての城が戦場になったわけではない
としても、あちこちで戦争が行われていたということです。三浦半島の新井城
と油壺についての言い伝えのような恐ろしい話も残っていますし…。

 関東地方に興味がないという方には同じシリーズで11巻『畿内・近国の戦国
合戦』・12巻『西国の戦国合戦』も出ているので興味のある所からどうぞ。
他の時代の関東に興味のある方は4巻『平将門の乱』もあわせてご覧に
なってください。

◎副隊長 鉄道とペンギンの好きな書店員
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■ 「知るは楽しみ」 / 立木 菜
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「歴史から何を学ぶのか」

 漠然と出来事を知っているだけでは何も知らないのと同じであり、瑣末な知
識を競うように披露することもまた、歴史を知っていることにはならない。その
どちらでもなく、歴史に迫れる手段の一つが本を読むことであると思う。教育
や対話も一つだと思っているけれど、そのどちらも門外漢なのでここでは本
について考えたい。いや、それについても詳しいわけではなく、ただ門の辺り
をうろついているだけに過ぎないのだけれど。

 文学の世界性を語ってくれた人がいた。勧められて、楊 逸『時の滲む朝』
(文藝春秋)を読んだ。たしかに日本語を母語としない著者が書いたものなの
で表現に少なからず驚く部分があったりもするけれど、そこに書かれた、呼吸
するように様々なものを学んでいる主人公たちの瑞々しさと、大きなものに巻
き込まれ、流され、たどり着いた今の彼らの姿に惹きこまれた。短絡的だけれ
ど、そこに描かれたものが著者のなかの「歴史」であり、日本語で物事を理解
する私にも訴えかけた「世界性」なのではないかと思っている。

 文学作品はフィクションとして読む側をその場に立ち会わせることができ、
歴史書は事実をそのままに読者の前に示し訴えかける。どちらの読者にも共
通するのはそこから何をするのか、ということだと思う。恋愛小説を読んで
恋愛をしたことにはならないのと同じに。

 普段そんなことを考えずに読んでいたり、事務作業に追われて足早に新刊
の棚出しを済ませてしまっているので、『ベトナム戦争』吉沢南 著(吉川弘文
館)の、赤い帯に白字で書かれた「歴史から何を学ぶのか」というシンプルな
言葉に目を醒まされる思いがした。帯には「今なお戦争の続く世界の中で、
歴史から何を学ぶか」とある。この本が出版されたのは5月。それからずっ
と、ふとした時にその帯の言葉を思い出す。歴史書を担当していて自分の
知識の無さを日々痛感しているけれど、「学ぶ場」を与えられているのだとも
思っている。仕事の場なのに。ありがたい。


 今、戦国武将ブームだという。うん、「歴史が趣味」でもいい。ぞんざいな
物言いで恐縮ですが、ただそこから一歩踏み出して、あの時何ができなくて、
その一方で何をしてしまって、結果、何が起こったのか、私たちは何をしまっ
たのかを、今に続き、そしてこの先も続いてゆく歴史の上で共通認識として
持つこと、またはそこへ至る過程として一人ひとりが同じテーブルに着くこと
が必要なのではないか。


 私たちは「世界の中」におり、その「歴史から何を学」び、明日に、
つぎの「世界」に遺していくのか。

 新刊書店の歴史書の棚というのは、そういう試行錯誤が形になったばかりの
ホクホクなものを手に取れる貴重な場なのではないのかと思っている。



 そして、このメルマガが配信される日からまた、

 「65年目の戦後」が始まるのだということを、忘れないでいたい。


◎立木 菜 (たちき さい)
書店での勤続年数は片手で済んでしまう数。最近、昭和家族ものに惹かれ、
向田邦子とアニメ「サザエさん」に浸る日々。


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■あとがき

まずは、またまたお詫びを。
発行日に間に合わず申し訳ありませんでした。


ひとつご紹介を。

8月18日、
岩波書店より『冬の兵士−イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
反戦イラク帰還兵の会、アーロン・グランツ著 TUP訳 が刊行されます。

これは、2008年3月13日〜16日までの4日間、ワシントンDC近郊の全米
労働大学で開かれた、反戦イラク帰還兵の会(IVAW)主催のイラクから
の軍の即時撤退を求める集会において、300人以上の参加者を前に
約50人の帰還兵がイラク戦争での体験を証言した内容です。

「冬の兵士」とは…1971年ベトナム戦争時に帰還兵たちが戦場で行われ
ている残虐行為を告発、軍の撤退を要求した証言集会の名前です。

しでにDVDも販売されている、田保寿一監督作品・ドキュメンタリー映画
「冬の兵士−良心の告発」は各地で上映会を開催されていましたが、
出版を記念し、9月から全国で上映会・集会がもたれます。
「民間人への攻撃は、国際法違反に相当する組織的殺戮」と訴え続ける
アダム・コケッシュ元海兵隊軍曹も来日。
ご興味にある方は下記のHPまで。
http://wintersoldier.web.fc2.com/


今年の夏は何だか変でしたね。
湿度みちみち、でも暑い盛りはなくすでに晩夏の様子です。

充実した夏をお過ごしになりましたか?
もう8月も後半。
[本]のメルマガ&[書評]のメルマガのイベントで
最後にパーっと盛り上げませんか?
ご参加お待ちしています。

 (畠中理恵子)

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