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[本]のメルマガ vol.117
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■■ [本]のメルマガ     2002.9.15.発行
■■         vol.117
■■  mailmagazine of books        [神保町の敵は 号]
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■CONTENTS----------------------------------------------------------
★トピックス 

★特別企画! 鈴木書店って何だったんだろう(その後)/涼来暑点
→明大生協解散にともない、人気の短期連載がかえってきました。

★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)
→今回は、韓国と猛暑の東京で書店をさ迷います。

★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→ミロ、カンディンスキー、ケージを横断して芸術家の「初期」を考えます。

★「書店を面白くするためノウハウ」/掩耳
→本好きの機微に触れた、売れるフェアの条件を探ります。
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■トピックス
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■BK1の送料無料が1,500円以上に!
ネット書店の大手BK1(ビーケーワン)が、10月1日より送料無料のお
買い上げ額を1,500円に引き下げます(現状は7000円以上)。これ
で送料無料の金額に関しては、アマゾンと同じ条件となり、今後のネット書
店間の競い合いが注目されます。

■篠沢教授の詩集が売れています
三十代以上なら懐かしい「クイズダービー」の名解答者だった篠沢秀夫さん
の詩集が思潮社より出版され、話題になっています。もともと著名な仏文学
者であり、身内を亡くされたり、自身も大腸ポリープの手術を受けたりなど
の経験が詩作の原動力になったようです。
『彼方からの風』思潮社 二千円

■書評誌『レコレコ』三号目の特集は神保町
メタローグより隔月で発売されている『レコレコ』、10月1日号の特集は
神保町です。編集者が1軒1軒すべて確認した150以上のお店などの載っ
た地図など、非常に丁寧かつマニアックな情報に溢れた特集になっているよ
うです。
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■「鈴木書店って何だったんだろう(その後)」/涼来暑点
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 とりあえず、その後の〈ス〉関係のまとめなど。
 
(労働債権)
 業界紙によれば、7月23日に〈ス〉従業員86人の労働債権が全額支払われ
たようだ。
 総額3億5571万円。
 5月13日の第1回債権者集会時に配布された目録の労働債権評価額の3億
5587万7932円より約16万減少しているが、ほぼ予定通りの支払いとなった。
 あとは、来春予定とされている一般債権の支払いが何%になるかだけとな
った。
 その額5%とされていたが、未集金分をいくら回収できるか、破産財団が
費用としていくら取るかによるので、果たしてどうなるか。
 来春、まだ私がこの業界にいたら、またスペースをいただきたいと思いま
す。
 
(中央社)
 ゴールデン・ウィークあたりからいろいろ噂が飛び交っていた。
 出荷制限したところもあるという。 
 ガセネタという情報もあり、なんとなく忘れかけていたところ、トーハン
が役員を派遣したと業界紙に発表された。
 まあ、〈ト〉が中に入れば、商品はある程度確保できるので、とりあえず
一安心といったところか。

(明治大学生協問題)
 9月9日に債権者集会が開かれた。
 私は神保町の交差点から坂を上っていったのだが、通りに6台の警察の車
あり。
 会場は横道を入った建物だったが、その前にも覆面を含めれば3台の車あ
り。
 ただ、各建物入口は警備で物々しかったものの集会所のある建物の入口は
口頭で通過でき、ちょっとした矛盾を感じた。
 ともかく、明治大学生協は解散することになった。
 そこに至るまでの経緯は大学側と生協側での言い分が平行線をたどってい
る状態なので、ここではあえて触れない。
 負債の順番としては
(1)公租公課――金額公表されず。
(2)労働債権――3億7977万6454円。
(3)一般債権――1億4527万5815円。182件だそうで。
(4)出資金―――4億4540万4000円。2001年卒業生分からの返還
滞納額。
となるらしい。
 これに対して、生協側の資産は約5000万円ということで、お話にならない。
 大学側に助成金をお願いしているということだが、それも(3)まで(と
いっても全額ではなく、10%程度とか)ということで、生協加入時に学生が
支払い、卒業時に返還される筈の(4)は、株主扱いになるとかで、助成の
対象には含まれないらしい。
 2001年新入生の加入が前年の2割程度しかなかったため、新入生の出資金
で成立していた卒業生への返還ができなくなり、今年度にいたっては数十人
という有様で、身動きが執れなくなってしまったらしい。
 質疑応答で、生協というより大学の名前で取引をしていたと主張する債権
者がいたが、その通りである。
 さて、出版業界だが、本来書店が倒産しても版元に直接債権は生じない。
 取次を通して書店に流通しているからだ。
 神戸の駸々堂がつぶれたときも、その後の売り上げマイナスは別としても、
あくまで、〈ニ〉とのやり取りだけで済んだ。
 ここで、〈ス〉の倒産による二次被害が出てしまった。
 前にも書いたが、「常備」というこの業界独自の制度があって、版元の出
先在庫扱いになるもので、税金は置いてある書店でなく預けている版元にか
かるというものだ。
 〈ス〉崩壊に伴い、他書店の常備についてはうまく各取次との伝票切替が
済んだものの明大生協だけが結局まとまらず、常備品は各版元が引き取り、
不足分を直接請求ということになった。
 のはずが、〈ト〉から常備品の返品があったりして、なかなか一筋縄では
いかなかった。
 そして、今回の解散。
 明大生協に〈ス〉帳合で常備出荷した版元が債権者となってしまった。
 
涼来暑点 (47歳)
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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第29回 つまらないコトが気になって

 新刊書店に行くと、いつもつまらないコトが気になって困る。たとえば、
平台の本の上に、コレから並べられるであろう別の本が10冊ぐらい積まれて
いるのを見ると、いかにも「品出し」前の風情で、思わず買いたくなるのだ
が、はたしてココから抜き取ってもイイものなのか? 古本屋では、通路脇
に積まれている本には「未整理」とか書かれていて、手を出そうものなら店
主に怒られるのであるが、新刊書店の本はどの段階から「購入可能」なの
か? 普通の客はべつにフシギに思わないのだろうが、ぼくは猛烈にそうい
うのが気になる。で、書店員に会ったときに「アレって◎◎ですか?」なん
て推測を話してみたら、考えすぎだと一笑にふされたりして。ようするに、
毎日みたいに行っているから、本そのものよりも書店に興味が移っているの
だ。それだけヒマ人なのだろうか……。

八月三日
◎Artinus(ソウル)
『表情エッセイ』
『読み直す(再検証)我らが漫画 1950〜1969』
『漫画ノスタルジー「こぶしの大将」は生きている』
『ボルラルラ大行進』
『母さん、父さんが学校に通っていた頃』
『あの時を見て、今を読み』
以上6冊、計約6000円(タイトルは直訳)。
【ひとこと】毎度おなじみ、ソウルに行くと必ず寄る美術書店。二階の韓国
書コーナーでマンガ史の本などを買う。最後の二冊は、1960年代(?)の生
活雑貨の写真集で、日本のとそっくりなアルマイトの弁当箱に本が入ってい
るというアイデア本だ。こういうの、日本の出版社も出せばイイのに。

八月四日
◎東京堂書店(神保町)
坪内祐三『後ろ向きで前へ進む』晶文社、1600円+税(以下同じ)
多木浩二『もし世界の声が聴こえたら 言葉と身体の想像力』青土社、
2400円
富田修二『さまよえるグーテンベルク聖書』慶應義塾大学出版会、2800円
清水徹=宮川淳『どこにもない都市どこにもない書物』水声社、2500円
『山口昌男山脈』第1号、めいけい出版、2000円
【ひとこと】サイン本を集める趣味はないのだが、東京堂では一部の著者の
サイン本を並べているので、つい買ってしまう。今日は『後ろ向きで前へ進
む』を。

◎高岡書店(神保町)
山本マサユキ『ガタピシ車でいこう!!』第2巻、講談社、505円
ほったゆみ(作)・小畑健(画)『ヒカルの碁』第18巻、集英社、390円

八月六日
◎青山ブックセンター(表参道本店)
山田風太郎『戦中派焼け跡日記』小学館、2095円
柳下毅一郎編・訳『ロバート・クラムBEST』河出書房新社、2800円
【ひとこと】ちょっと行かない間に奥の売り場(マンガコーナーがあったと
ころ)がなくなっていた。拡張したイメージが強かったので、そのあと、ち
ょっと狭めただけで以前よりももっと狭くなったような気がするからフシギ。

八月八日
◎高岡書店(神保町)
いましろたかし『釣れんボーイ』エンターブレイン、1980円
有間しのぶ『モンキー・パトロール』第3巻、祥伝社、667円
ほりのぶゆき『怪獣人生』生の巻、小学館、790円
みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』第1巻、リイド社、524円

◎岩波ブックセンター(神保町)
大庭萱朗編『田中小実昌エッセイ・コレクション3 映画』ちくま文庫、
780円
谷沢永一『書物耽溺』講談社、1600円
『本の雑誌』9月号、505円

八月十日
◎往来堂書店(千駄木)
長谷川元吉『父・長谷川四郎の謎』草思社、2200円
いましろたかし『トコトコ節』イースト・プレス、854円
田中圭一最低漫画全集『神罰』イースト・プレス、999円
とり・みき+田北鑑生『ダイホンヤ』早川書房、1500円
『大阪人』9月号、大阪都市協会、552円
『噂の真相』9月号、448円

八月十一日
◎文教堂書店(市ヶ谷店)
比古地朔弥『けだもののように』学園編、太田出版、1380円
『創』9月号、524円

八月十二日
◎青梅市教育委員会(通販)
『活版印刷技術調査報告書』青梅市教育委員会、4000円(頒価)

◎書肆アクセス(神保町)
さなだゆきたか『宮本常一の伝説』阿吽社、3300円
『少女趣味』創刊号、チャメコ堂、800円
中村哲講演録『平和の井戸を掘る アフガニスタンからの報告』ピース
ウォーク京都、700円
中村哲『ペシャワールにて 増補版』石風社、1800円
中村哲『医は国境を越えて』石風社、2000円
中村哲『医者 井戸を掘る』石風社、1800円

◎高岡書店(神保町)
いましろたかし『初期のいましろたかし』小学館、2500円
米根真紀『小桧山中学吹奏楽部』ラポート、505円
【ひとこと】いましろたかしの新刊が、同じ時期に新作、復刻、再版と並ん
で出た。いましろにホレこんだ各社の編集者が結託して出したのではないだ
ろうか。こういうのを見ると、つい嬉しくなって、全部買ってしまう。

八月十五日
◎旭屋書店(銀座店)
土屋隆夫推理小説集成6『ミレイの囚人・あなたも探偵士になれる』創元推
理文庫、1900円
【ひとこと】お盆で東京にヒトがいなくなったとはいえ、まだ銀座には人出
が多い。友人のOさんが旭屋でバイトを始めたというので、店を覗いたら、
レジに立っていた。今日は正社員がほとんど夏休みでバイトだけで店を回し
ているそうだ。客はむしろいつもより多いとのコトだった。

八月十八日
◎書泉グランデ(神保町)
『サイゾー』9月号、インフォバーン、657円
小田原ドラゴン『コギャル寿司』第3巻、講談社、514円
【ひとこと】仕事前に神保町に行く。ヨメが明日発売の『ハチミツとクロー
バー』第2巻(1巻目は最初、別の版元から出たという珍しいケース)を欲し
いというので、発売前に手に入れるならやはりこの店だろうと、高岡書店に
連れて行ったら、日曜日は12時開店。それで、その前に覗いたばかりの書泉
グランデに戻り、地下のマンガ売り場で同書を探すがココには入荷してない。
で、また高岡書店に行ったら、12時過ぎてるのにまだ準備中(ココはいつも
平気で開店時間を遅らせる)なので、隣のディスクユニオンで時間をツブし
(イキオイでCD何枚か買っちゃったよ)、ようやく入店するも、「一度
入ったけど売り切れです」とのことだった。日ごろ、神保町の新刊書店なら
オレに任せろと大口叩いているだけに、ちょっとバツが悪いぜ。

◎リブロブックス(外苑前店)
羽海野チカ『ハチミツとクローバー』第2巻、集英社、400円
【ひとこと】神保町の敵は外苑前で。夜、デザイン事務所で打ち合わせを終
えたあと、フラフラっと入ったこの店のマンガ売り場で、『ハチクロ』第2
巻を発見。ウチに持って帰り、大いに面目を施したとさ。ちなみに、「ヤン
グユー」連載のこのマンガ、ぼくもけっこう好きなんですが。

八月二十一日
◎東京堂書店(神保町)
森まゆみ『にんげんは夢を盛るうつわ』みすず書房、1900円
【ひとこと】支払いのとき、イイ光景を見た。広告の切り抜きをもったおじ
さんが、レジの店員に「コレはどこ?」と尋ねる。店員が「Sさーん、『日
本精神分析』は?」と叫ぶと、間髪を入れずスッと、S店長が柄谷行人著・
文藝春秋発行の同書を差し出した。このタイミング、抜群だ。やっぱり東
京堂はすげぇぞ。

八月二十四日
◎文教堂書店(市谷店)
すぎむらしんいち『ホテル・カルフォリニア』上・下、KKベストセラーズ、
各1895円
『小説新潮』9月号、819円

八月二十六日
◎リブロ・ブックス(青山店)
武田康広『のーてんき通信 エヴァンゲリオンを創った男たち』ワニブック
ス、1400円
高浜虚子『回想 子規・漱石』岩波文庫、600円

八月二十五日
◎ブックスきんし町(錦糸町)
はた万次郎『北海道青空日記』集英社文庫、400円

八月二十七日
◎ディスクユニオン(神保町店)
『ロック画報』9号、ブルース・インターアクションズ、1700円

八月二十八日
◎パルコ・ブックセンター(吉祥寺店)
山口瞳『行きつけの店』新潮文庫、667円
【ひとこと】ココの文庫売り場で「文庫魂、裏百冊の夏」というフェアを
やっている。今度、ぼくたちも10月8日からリブロ池袋&青山で、「sumus」
が選ぶ秋の文庫・新書100冊というフェアをやるので、その偵察をかねて覗
く。ココのは全点手書きのPOP付き。わりと定番中心のセレクションか
(愛読書の広瀬正『マイナス・ゼロ』集英社文庫があったのは嬉しかった)。

八月三十日
◎岩波ブックセンター(神保町)
森まゆみ『にんげんは夢を盛るうつわ』みすず書房、1900円
【ひとこと】サイン会をやるというので、著者に挨拶に行ったが、すでに一
冊持っているのにもかかわらず、その場のイキオイでまた買ってしまう(サ
イン本でない方をあとで友人にアゲた)。でも、そのあと打ち上げにのこの
こついていって、タダでビール飲ませてもらったので、かえってトクした気
分。

八月三十一日
◎紀伊國屋書店(新宿本店)
とり・みき+田北鑑生『ラスト・ブックマン』早川書房、1400円
湯本豪一『妖怪あつめ』角川書店、1800円

◎bk1(オンライン)
日高由仁『新村スケッチブック ソウルの学生街から』新宿書房、1800円
永寿日郎『液体殺人 連続毒ドリンク事件』太田出版、1700円
金子光晴『下駄ばき対談』現代書館、1500円
川崎長太郎『鳳仙花』講談社文芸文庫、940円
いましろたかし『デメキング』KKベストセラーズ、1143円

今月の購入本 計60冊(マンガがやたら多いなあ)
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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芸術家の「初期」を考える

長く活躍した芸術家の仕事を振り返る時、便宜上その作品群は「初期」「
中期」「後期」といった区分で分けられて考えられることが多い。模索の時
期、個性を確立した充実の時期、衰退期・稀に第二の模索期、といったとこ
ろだろうか。ぼく自身も初期・中期・後期という言葉を使ったこともあるし
(これからも使うだろう)、便利な分け方だと思う。だが、本当は一人の人
間の一生の仕事が都合よく三つの段階に分かれる、なんてことはあるわけな
いのだ。

そして、仮に分けたこの三つの時期の作品のうち、一番ソンをするのが「
初期」のものであることは間違いない。習作、実験、模索、誰それの影響下、
未完成・・・マイナスのイメージがどうしてもつきまとう。
しかし、「初期」の作品に虚心に接してみると、思いの他魅せられてしま
うことが多い。師匠や先行者の作品の影響下にあるにせよ、その人がやりた
いことは極めてダイレクトに表出されていることが多いのだ。

先日、世田谷美術館に「ミロ展」を見に行った。この展覧会はミロが19
18年に初めて個展を催してから第二次大戦までの活動に焦点を当てている。
1920年以前のものは印象派風だが、極めて個性の強い作品ばかりだ。少
年時代を過ごしたスペインの農村の風景を対象としたものが多く、それらの
風物を自由な色彩で描いている。最早、写実=肉眼を基にした主観でなく、
心の眼が見た通りのイメージに事物の姿をあてはめていくような、幻想の勝
った主観性である。現実にある風物を描くのにも、そのものをスケッチする
のでなく、その現実的な姿をむしろ「見ない」ことによって、イメージを「
見る」ような描き方であると言える。初期の代表作の一つ、「棕櫚の木のあ
る家」は、ミロが少年時代に親しみを覚えていた、庭に生えていた背の高い
棕櫚の木を、童話の中の主人公であるかのように暖かなタッチで描いたもの
だ。棕櫚は屋敷よりも大きく描かれており、何だか純真な子供の絵のように
も見える。だが、畑に植えられた作物など、その一本一本に至るまで個性の
異なる生命体として描き分けられており、その他の部分も細部ははっとさせ
られる程細かい部分に目が行き届いている。全体の明快な構図と、細部の意
外な細かさが、一枚の絵の中で責めぎあっているようであり、見た目の素朴
さと裏腹の、緻密な計算と荒々しい筆の息遣いが背後に隠されていることが
わかる多義的な作品である。
印象主義を越えた強い主観性、という点では、後年の、星や女が抽象的な
線描と戯れるような、シュルレアリスムの技法で描かれた絵画の萌芽がここ
にある、と言ってもいいかもしれない。だが、後年の絵が失ってしまった個
物の多様な生命感を描き分ける筆の繊細さが「初期」の作品にはある。これ
らはこれらで一つの完成体であり、ミロが「ミロ」になる前の絵だ、と言っ
て済ますことはとてもできない。

5月に見た「カンディンスキー展」(国立近代美術館)も、そう言えば「
初期」の作品に大きな比重がかかっていた企画だった。カンディンスキーは
「コンポジション」のような完全に抽象的な作品を手がける以前、故郷であ
るロシアの風景を極めて幻想的に描いていたのだった。ミロと同じく主観性
の勝った表現(これは時代の流れだろう)だが、よりものの「動き」に注目
した描き方で、絵の具は、事物の動的な存在性をなぞるかのように、流れる
ように紙に塗られる。その色彩の熱い流れの中から、人や草木、動物が輪郭
を保持しつつ立ち上がってくる。具体−抽象、民俗−洗練、の対立が魅力的
な作品群だった。完全に抽象の側に、「精神」の側に行ってしまった「コン
ポジション」の時代よりも、ある意味複雑な意味合いを隠し持った表現とも
言える。

また、先日、東京都交響楽団のメンバーの演奏でジョン・ケージの作品を
聞いたが、ここでもケージの比較的「初期」の作品が演奏された。「四季」
というタイトルを持った曲がそれで、1947年の作品だ。断片的なパッセ
ージが、意外な断絶と反復の中で演奏されていく、サティー風の叙情性を備
えた音楽。トゥッティはほとんどなく、オーケストラが室内楽団の集合のよ
うに扱われる。その後で、偶然性を導入した「ピアノとオーケストラのため
のコンサート」も演奏されたが、音楽が「曲」を放棄した「コンサート」と
異なり、「曲」でありながら、各パッセージが一つの「曲」の中に治まろう
するのを拒否しようとする微妙な意識を感じた。「曲」と「曲でないもの」
との微妙な緊張感は、後年の現代音楽化したケージの諸作からは聞けなくな
っていくものである。

「初期」とはそれはそれで一つの完成体であり、決してその後に来る何か
のための準備段階ではない。逆に言えば、表現が「生きる」こととつながり
がある限り、全ての表現は「初期」的であり、過渡的なものである。「生き
る」ということは常に次のステップに移る行為そのものであり、行為という
ものは完成しないものだ。表現が生の似姿なのであれば、次へのステップを
歩み続ける過渡的な不安定さが表現にもその足場を提供することになるだろ
う。芸術家の「成熟期」などを基準にするのでなく、個々の作品が背負った
一つ一つ異なった条件を丁寧に読み解いていくことが、作品の鑑賞の重要な
ポイントではないかと思うのである。
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■「書店を面白くするためノウハウ」/掩耳
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人は、他人が何に感動したのかを知りたい
              ――売れるフェアとは何か?

出せば売れるといった著者ではない人の本が、ベストセラーになっていくに
は、いくつかのパターンがあります。(現実的には、いろいろなパターンが
綯い交ぜになって売れていくわけですが)

まず、本の中身を見込んだ出版社が大宣伝を打って、マスコミの力で売って
いくもの。今なら草思社や幻冬舎などが得意とするパターンですね。

また、TVのニュースや番組で取り上げられたことがきっかけになってブレ
ークするものもあります。『知の技法』(東大出版会)や『五体不満足』
(講談社)などは、TVでの紹介が大きな力になったものでした。

さらに、書評の影響で売れるというパターンもあります。特に新聞書評は昔
に比べれば大きく影響力を落としたと言われていますが、斎藤美奈子さんな
どの新聞評には、まだまだ力があり、その誉め方一つで売れるものもあるよ
うです。また、その昔に小泉今日子さんの誉めた本が売れるという現象が
あって、書店が「小泉今日子コーナー」を作ったこともありました。つまり、
「この人の薦めたものなら」という信頼感が、本を手に取らせてしまうわけ
です。

そして、「この人の薦めたものなら」という信頼感が、より身近になったと
言える形のものが、口コミによるベストセラーです。ほとんど宣伝なしに
150万部(教材込み)を超えた『DUO』(ICP)などはこの典型で
しょう。

もちろん、口コミは実用書だけではなく、文学等にも当然起こってきます。
というより、本が好きな人なら多かれ少なかれ経験があると思いますが、自
分の知人に本好きがいれば、ついつい「最近読んだ本で、何か面白いものな
い?」と尋ねてしまう性癖がありがちで、そこで「これは今年のベストワン」
とか「一生で三本の指に入る」とかの強い勧め方をされると、ついついその
本を買ってしまったりするわけです。

どうも、本が好きな人は、自分と似た性癖の人が何に感動したかを知りたが
り、そこでのお薦めぶりが心からのものであれば、買わずにはいられないよ
うなのです。

この性癖を利用したフェア、それが
「私、この本で徹夜しました」
「私、この本で号泣しました」
「私、この本で爆笑しました」
の三つでした。
ともに、書店員、出版社の方、取次ぎの方、著者の方に、フェアのタイトル
通りのお題で三冊本を選んでもらい、自分でPOPも書いてもらって、それ
をそのまま本の所に立てる形で販売を行いました。各フェア、六十人以上の
方にご協力を仰ぎました。

それぞれの方の書いたPOPは、どれも素晴らしいものでした。自分の思い
入れがあるモノを他人に紹介する場合、人はいかに力がこもり、説得力のあ
る文章を書くことか(笑)

フェアの結果も、もちろん良好なものでした。ちょっと意外だったのは、衝
動買いには向きそうにないかなり堅めな本まで――例えばカネッティの『眩
暈』(法政大学出版局)とか、『夜と霧』(みすず書房)といったものまで、
よく売れたことでした。「徹夜した」「爆笑した」といった強力なお薦めの
前には、少々小難しそうな字の並びも問題ないのかもしれません。

本当は、この後、
「私、この本で旅心を誘われました」
「私、この本で食欲を刺激されました(5キロ太りました)」
などをやりたかったのですが、実現する前に書店を退職してしまいました。
もちろんパクリOKですので、どこかやってくれないかな……
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>最近、お前が言うなーって思うこと、多いですよね
>はあはあ
>ブッシュ大統領が、イスラエルに「戦争は利益にならない」とか言ってた
のなんか、その典型だし
>ああ、そういうのありましたねー。日本なら、武部農水大臣が、日本ハム
の経営者に対して、責任の取り方が甘い、とか言ってたのも同じことですよ
ねー
>そうそう、日ハムのトップから、「大臣を見習って、現職にとどまって責
任を取ろうとしているのです」と返されていたら、果たして何と答えたこと
やら(笑)。でもそこで、自分が他人にこんなこと言ったら間違えなく「お
前が言うなー」って返される発言って何かな、って思ったんですよ
>ほうほう、何か見つかったんですが?
>一つ完璧なのがありました。「お前、そんなんだからモテないんだよ」…
…ああ、自分で言って暗くなってきた(笑)
>目の前でこんなに深い墓穴を掘ってる人、わたしゃ見たことありません(笑)
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