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[本]のメルマガ vol.60
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■■ [本]のメルマガ     2001.2.15.発行
■■         vol.60
■■  mailmagazine of books           [職人芸 号]
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■CONTENTS----------------------------------------------------------
★トピックス 

★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)
→今回は、山陰地方でお買い物です。

★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→知る人ぞ知る、小沼勝監督へのオマージュです。

★「中国古典で浅学菲才が直る?」/掩耳(えんじ)
→人間なんて信用できるけぇ!・・でも、それでどうやって組織はまとめる
の?

★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→しばらく休載になりまーす。
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■トピックス
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■ちょっと残念なお知らせ
15日号で好評を博していた湯川新一さんの連載ですが、ご本人の本業が多
忙を極めてしまっているため、しばらく休載したいとの連絡がありました。
今後、ご本人に余裕が出来しだい、再開して頂く予定でおります。ファンの
方、本当にゴメンナサイ。

■三省堂書店がWEB上で創業120周年記念ブックフェア
「翻訳家・翻訳編集者が選んだ会心の1冊・嫉妬の1冊」と題して、有名翻
訳家や編集者総動員による、記念フェアをやっています。柴田元幸氏が嫉妬
の本に「白鯨」の新訳を挙げていたりして、ハハーンとなかなか楽しめちゃ
います。以下からどうぞ。
http://www.books-sanseido.co.jp/


■みすず書房、注目の新刊
以前、サイードの自伝はご紹介いたしましたが、他に下記のような有力新刊
が出る予定でーす。
R・グルニエ『六月の長い一日』2/20配本です。
ナボコフ『ベンドシニスター』¥2300 2/15配本。
アラン・ヤング著・中井久夫訳、『PTSDの医療人類学』予価¥7000
2/下旬配本。
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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全点報告 この店で買った本
第10回 新春山陰書店漫遊記

一月三日
◎共栄堂書店(黒川店・浜田市)
松下順一『悠遊大山』今井書店、2000円+税(以下同じ)
【ひとこと】ぼくの実家は島根県東部にあるのだが、久しぶりに県西部の浜
田に行ってみる。この共栄堂は今井書店グループの一店。母親が読みたそう
だったので、大山の画文集を買ってあげた。

一月四日
◎今井ブックセンター・本の学校(米子市)
野坂昭如『タックル右往左往』文藝春秋、1000円
蘆原英了『私の半自叙伝』新宿書房、1800円
真杉高之『黒枠のドラマ 死亡広告物語』蒼洋社、1500円
【ひとこと】翌日、米子へ。この店には、何度となく来ているのに、毎回買
いたい本が見つかるなあ。この三冊はいずれもとっくに版元品切れ。文芸書
専門店だったころの在庫なのだろうか? こういう本が新刊と同じ棚に並ん
でいるトコロがたまらなくいい。

一月五日
◎ブックセンター・コスモ(米子店)
佐川一政『まんがサガワさん』オークラ出版、1200円
【ひとこと】今井書店のヒトに「あれは見とくといいよ」とススメられて、
行ってみる。一見、ごくフツーの郊外型書店だが、一押しコーナーに、半年
前に出て一部で評判になった『自分を知る力がつく自分史のドリル』(扶桑
社)がドーンと積んであったり、客層を反映してティーンズ小説・耽美小説
には、ストーリーを丁寧に紹介したPOPが大量に立っている。二階のCD売場
に来る十代を、なんとかして本の売場につなぎとめようという姿勢が見える。
エロマンガのコーナーに立っていたら、老ヒッピー風のおじさんが寄ってき
て、「20世紀はどうなったんですかねえ? 判りやすい教科書はありません
か?」などと話しかけてくる。ううう。
◎倉吉富士書店(倉吉市)
谷口ジロー『遥かな町へ』上・下、小学館、各800円
【ひとこと】ココも今井書店グループ。別にひいきしているワケではないの
だが。郷土出版物のコーナーが広くて、鳥取県出身の谷口ジローが倉吉の町
を舞台に描いた作品もちゃんと置いてあるのが嬉しい。
◎定有堂書店(鳥取市)
鶴見太郎『柳田国男とその弟子たち 民俗学を学ぶマルクス主義者』人文書
院、2300円
瀧音能之『図説 古代出雲と風土記世界』河出書房新社(ふくろうの本)、
1800円
【ひとこと】この店のサイト「Website Teiyu」
(http://homepage2.nifty.com/teiyu/)に、去年から連載しているのに、
店を訪れるのは今回が初めて。入ると、天井から本のカバーを巻き付けた筒
が何本も下がっていたり、映画やジャズのポスターが貼ってあったりと、さ
りげなく店長である奈良敏行さんの好みを主張している。棚には「なんとな
く愉快な本」「ヴァラエティのある本」などのシールを貼ってあり、安藤哲
也さんが往来堂書店をはじめるときに影響を受けたのは、この辺りだろう。
小さな店なのに、奥の棚に入り込んで一冊一冊を見ていると、知らないウチ
に時間が過ぎていく。帰りに、1998年に定有堂で出版した『伝えたいこと 
濱崎洋三著作集』(2800円)をいただいてしまった。

一月六日
◎富士書店(吉成店)
黒井千次『珈琲記』紀伊國屋書店、1400円
桑野隆『夢みる権利 ロシア・アヴァンギャルド再考』東京大学出版会、
2900円
【ひとこと】今井書店グループでは、米子のブックセンターに次ぐ規模の大
型店。しかし、どの棚にも細かく手が入っているようだ。店内在庫の検索シ
ステムが入っていて、ヒットした場合には場所情報をプリントアウトできる。
ココに来る直前に鳥取県立図書館で見かけた『夢みる権利』(5年ぐらい前
に出た本)をダメモトで検索してみると、本当にあったので、ちょっと感動
した。鳥取市内では他に、江戸時代の創業という横山書店や、富士書店・本
店にも行った。新刊書店が元気な町は、なんだか羨ましいなあ。
◎甲川正文堂(池田市)
大澤良貴『ゲーム雑誌のカラクリ』KTC、1200円
【ひとこと】米子から大阪まで、この店の甲川純一さんの車にずっと乗せて
いってもらった。小さな駅前書店だが、見事に男の子向けに品揃えして、効
率化を図っている。おかげで普段見もしないゲーム本のコーナーで、思わぬ
拾いモノが見つかった。

一月七日
◎東京堂書店
伊従寛編『著作物再販制と消費者』岩波書店、2200円
池澤夏樹編『日本の名随筆別巻50 本屋』作品社、1800円
◎書泉グランデ
『東京人』2月号、900円
『リラックス』2月号、800円
【ひとこと】今年初めての神保町。一緒に行ったヨメが「ナンか用事あるの
?」と聞くので、「いや、別に用はないけど、とりあえず年始のつもりで
……」と答えたら、絶句してた。

一月八日
◎近藤書店
大西巨人『精神の氷点』みすず書房、2200円
◎旭屋書店(銀座店)
辻征夫『貨物船句集』書肆山田、1500円
ジャン=ジャック・フィシュテル『私家版』創元推理文庫、560円
戸川昌子『火の接吻』扶桑社文庫、700円

一月九日
◎岩波ブックセンター
金子勝昭『歴史としての文藝春秋 増補「菊池寛の時代」』日本エディター
スクール出版部、2136円
『畸人研究』第13号、600円
◎南洋堂書店 http://www.nanyodo.co.jp/
『住宅建築』1月号、2250円
【ひとこと】建築関係の本は、まずこの店のサイトで検索してから、買いに
行くに限る。一般書店に置いてない専門誌も必ず見つかる。ナゼこんなのを
買ったかというと、この号で知ってる編集者の新居について、100ページも
の大特集が組まれていたから。

一月十日
◎ブックマート市ヶ谷
『噂の真相』2月号、448円

一月十二日
◎紀伊國屋書店(新宿本店)
片山宏行『菊池寛のうしろ影』未知谷、2200円
ジョージ・オーウェル『ウィガン波止場への道』ちくま学芸文庫、951円
ミステリー文学資料館編『「探偵春秋」傑作選』光文社文庫、724円
『本の雑誌』1月号、505円
【ひとこと】二階のカウンター前で「店員がすすめるこの一冊」というフェ
アをやっていた。ヒトがどんな本を挙げるかが気になって、思わず覗いてし
まう。オーウェルの本のPOPがなかなかヨカッタので買う。この企画で、知
らなかった著者と出会う客もいるかもしれない。やれば、できるじゃない
か、紀伊國屋書店(以前からやっていたら、失礼)。
◎bk1
山本武利『紙芝居 街角のメディア』吉川弘文館(歴史文化ライブラリー)、
1700円
【ひとこと】この本と一緒に、『チャリング・クロス街84番地』(中公文
庫)という本を頼んだのだが、注文直後に本棚の整理をしていて、同じ本を
発見。すっかり忘れていた。慌ててキャンセルをお願いし、ナンとか間にあ
ったハズだったが、数日後にその本が一緒に届いてしまう。メールで問い合
わせると、宅配業者が取りに来るから、パッケージごと渡してくれとのコト
だった。こんな問い合わせにいちいち応対しなけりゃならないのだから、カ
スタマーセンターの人はタイヘンである。お手間を取らせました。

一月十三日
◎ブックファースト(渋谷店)
脇田繁明『電鉄日記 私鉄鉄道員が見た終戦直後の電鉄物語』グリーンアロ
ー出版社、1800円
◎ギャラリーTOM(渋谷)
村山亜土『母と歩く時 童話作家村山籌子の肖像』JULA出版局、1800円
【ひとこと】「村山知義 未発表の童画展」を見に行く。来てから知ったの
だが、このギャラリー自体、村山の遺児が開いたものらしい。会場で上映さ
れていた、昭和六年につくったというアニメーション『三匹の小熊さん』の
ナンセンスには驚く。展示された童画は未発表に終わったもの。村山知義の
妻、籌子が書いたという話の原稿が残ってないため、息子(村山亜土)が補
作したものが、『母と歩く時』に収録されているというので、買う。
◎高円寺文庫センター
ジョージ秋山『銭豚』狩猟社(発行)、青林堂(発売)、1800円
長新太『クレヨン・ナンセンス』トムズボックス、1200円
『marie madeleine』第3号、500円
◎bk1
池田良孝『本屋の法則』同文書院、1400円
『食べ歩きラーメン日記』旭屋出版、552円
【ひとこと】仕事中の気分転換に、「日記」と検索していたら、『ラーメン
日記』なる変な本を見つけた。自分が入ったラーメン屋について、スープ、
麺、具、総合コメントなどの評価を記入して、百店のデータをつくろうとい
う、バカげたメモ帳。待ち時間から温度、麺の縮れぐあいまで、細かい記入
欄が設けてある。使ってみようかなあ。

一月十七日
◎bk1
山田稔『生の傾き』編集工房ノア、1748円
伊藤文八郎『紙魚の鼻いき』桃園書房、1429円

一月十八日
◎アマゾン・ジャパン
小沼丹『緑色のバス 短篇名作選』構想社、1400円
山田稔『ああ、そうかね』京都新聞社、1553円
【ひとこと】この本は、昨年末、東京駅近くの「丸の内カフェ」に期間限定
で特設されていた「アマゾン・カフェ」コーナーで注文した。ゆったりして
いて、パソコンもたくさん置いてある。飲み物を頼まなくとも使えるところ
がイイ。ところで、この二冊ともふるい本なので、バーコードが付いていな
いのだが、裏表紙やオビにアマゾンが勝手にバーコードのシールを貼り付け
ていて、本を汚している。こういうトコロは無神経だ。

一月十八日
◎青山ブックセンター(新宿・ルミネ1店)
花井愛子『「ご破産」で願いましては。』小学館文庫、533円
【ひとこと】ココはかなりスペースを取って、メタローグ『ことし読む本い
ち押しガイド』で取り上げた本を、紹介文のコピーと一緒に面出ししている。
エライ! ぼくが紹介した『野坂昭如コレクション』もあったが、記事が添
えられてなかったのは残念。

一月十九日
◎書肆アクセス
高島真『追跡「東京パック」 下田憲一郎と風刺漫画の時代』無明舎出版、
1800円
松本品子『挿絵画家英朋 鰭崎英朋伝』スカイドア、2400円
『人間観察』創刊号、200円
◎岩波ブックセンター
内田隆三『探偵小説の社会学』岩波書店、2400円
伊藤千尋『たたかう新聞 「ハンギョレ」の12年』岩波ブックレット、440円
小谷野敦『バカのための読書術』ちくま新書、680円
『この新書がすごい!』洋泉社、720円

一月二十六日
◎七月堂(版元直販)http://www.bekkoame.ne.jp/~s-uchi/
栗原澪子『黄金の砂の舞い 嵯峨さんに聞く』七月堂、2000円
◎菊池寛記念館(刊行元直販)
『菊池寛全集』第23巻、24巻、高松市、各7282円
【ひとこと】本屋でも見つからず、オンライン書店のデータベースにも載っ
てない本がある。そういう時には、ナンとか版元を突き止めて、直接注文す
るのがいちばん早い。七月堂はホームページで注文できて、しかも送料をサ
ービスしてくれる。
◎丸善(御茶の水店)
『天藤真推理小説全集13 星を拾う男たち』創元推理文庫、820円
『サイゾー』2月号、657円
『Title』2月号、530円

一月二十八日
◎bk1
『野坂昭如コレクション3 エストリールの夏』国書刊行会、3000円
【ひとこと】大雪のなか、新刊予約していた本を宅配便屋さんが運んできて
くれた。いくら本屋好きでも今日は行けないとあきらめていたので、本が届
くだけでも嬉しい。そこで一句「雪の日に けなげに届く bk1」
◎往来堂書店
岩田宏『渡り歩き』草思社、2300円
田口ランディ『ぐるぐる日記』筑摩書房、1600円
【ひとこと】大雪が午後から熔けたので、やっぱり近所の本屋まで行ってし
まった。

一月三十一日
◎近藤書店
中野不二男『メモの技術』新潮選書、1100円
中野不二男『「からくり」の話』文春文庫、437円
長谷川宏『哲学者の休日』作品社、1800円
◎旭屋書店(銀座店)
秦隆司『スロー・トレインに乗っていこう』KKベストセラーズ、1400円
切通理作『ある朝、セカイは死んでいた』文藝春秋、1762円

今月の購入本 計62冊(わが山陰にはけっこうイイ書店が多いのだ!)
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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裏職人芸の世界
―小沼勝監督作品特集

以前、ユーロスペースでの増村保造監督の映画の特集のことを書いたこと
があったが、同じ場所で今度は日活ロマンポルノの巨匠・小沼勝監督の特集
をやっているので足を運んでみた。
(ホームページhttp://www.nikkatsu.com. 上映は3/9まで。キネマ旬報
社より「S&M 小沼勝の華麗なる映像」(仮)が発売決定)。

今の時点で見たのは「生贄夫人」「花と蛇」(以上谷ナオミ主演)、「妻
たちの性体験」(風祭ゆき主演)「夢野久作の少女地獄」(飛鳥裕子、小川
亜佐美主演)「ベッド・イン」(柳美希主演)及び小沼勝を対象としたドキ
ュメンタリー映画「サディスティック&マゾヒスティック」(中田秀夫監督)
である。どうです? 題名を見るだけでいかにも「ポルノ」という感じがする
でしょう? 日活は経営が悪化する中、1971年よりロマンポルノ路線で製作を
再開することに決めた。10分に一度はセックス・シーンを入れること、低予
算に抑えること、などの条件をクリアしさえすれば基本的に何をやってもよ
いと製作者たちは言われたらしい。世間体を気にする人は日活から去ってい
ったが、映画好きの映画製作者たちはむしろ製作の自由を歓迎した節があっ
たようだ。小沼勝をはじめ、神代辰巳、相米慎二ら多くの名監督が日活から
巣立っていった。仲間うちでの互いの映画についての議論も盛んに行われ、
熱気と活気が仕事場に溢れていたという。

どの作品も大変に密度の濃いことに驚かされる。性的快感を求める男性客
の視線を考慮した映画作りなので、当然ストーリーはすぐ安易な方向へ流れ
るが、映像一瞬一瞬が一枚の絵として成立するほど均整が取れている。
「生贄夫人」は、行方不明だった夫が突如出現して妻を空き家に監禁し、
サディスティックな行為に耽るが、やがてマゾヒズムの快感に目覚めた妻の
性欲に怖れをなして再び逃げ出すというものである。その中で、縛った妻が
排便する様子を夫が側で見るという場面がある。女性が排泄の欲求を訴えて
全身を震わせ、恥ずかしさのために額に汗の玉を滲ませながら排便に至る様
を克明に撮っていくわけである。こうした非日常的なシーンを撮る際、小沼
勝は事前に自ら演技を練習し、手本を示しながら女優たちにつきっきりで厳
しく指導をしたという。小沼勝は日常においては極めて常識的な人間であっ
たようだが、映画製作のこととなると人が変わったようになるタイプらしい。
演技者はさぞかし大変だったろう。「妻たちの性体験」には壮絶な乱交シー
ンがあり、主演女優の熱演もさることながら群がる男たちの裸体の輝きにも
目を奪われる。物語の意味合いではなく、画像そのものの美をためらうこと
なく優先する姿勢が一貫していて気持ちいい。

故に小沼勝の映画においては、作者の主張は二次的な価値を持つに留まる。
大映の増村保造の映画が、映像の視覚的な効果や女優たちのエロティックな
魅力に充分敏感でありながら、作品を支える底辺の部分に人間主義的な倫理
観(善悪を決する)を置いていたのとは大違い。増村保造の映画が、個人の
自由な生命の謳歌が人間にとって何よりも大事なのだ、という個人主義の思
想を登場人物の造形の基本としていたがために、もっと下等で矮小な欲望−
排泄欲やフェティシズムなど−を充分に描くスペースを備えていなかったの
に対し、小沼勝の映画はそもそも“倫理観”というものを作品形成の基盤に
据えていないために、映像にしたいイメージを即視覚化の対象に据えること
のできる自由闊達さがある。まだ見ていない「箱の中の女 処女いけにえ」
には、下水道を裸の女性がさまようシーンがあるそうだが、ロケの現場で思
ったより下水の水がさらさら流れてしまうのを見てとった小沼勝は、下水の
水をわざわざ塞き止めたそうだ。充満する汚水という、想像するだに嫌らし
いシーンを撮りたいがためだったという。

その頂点は「夢野久作の少女地獄」であろう。女子高の中のレズビアンの
関係を描くこの映画は、イメージの豊かさという点で夢野久作の原作を遥か
に超えている。「アイ子さん」と「火星さん」の二人の女の子が友愛から性
愛に目覚め、更に宗教的な死後の愛への信仰にまで進んでいく様が、個人の
内面の成長という側面からでなく、気まぐれなイメージへの固執という側面
から描かれていく様は驚きである。二人がもてあそぶ風船のイメージは、誰
からも妨げられない二人の性愛の自由の象徴という意味から離れていき、ど
こにでも飛んでいってしまう風船のイメージに二人の運命が委ねられている
かのような錯覚を起こさせる。時空列の大胆な切断・連結の手法をはじめ、
驚くべき仕掛けが詰められるだけ詰め込んである。これぞ傑作!

そうかと思えば、若い女性の不倫とその終結を叙情的に追った「ベッド・
イン」のような作品もある。全共闘の残響も含んだ、水気たっぷりの荒井晴
彦の脚本を、小沼勝は必要以上の心理描写を排除してさっぱりと描いていく。
心の動きは何気ない仕草で説明され、足りない分は短いBGMのように流さ
れる背景の挿入によって補われる。平凡な街の情景が女性の心の哀しみを映
す水たまりのように見えてくるから不思議である。オーバーアクションによ
り不倫の悲哀を演歌調に歌い上げる野暮は一切なし。親密に寄り添ったカメ
ラが提示してくる、女性の外見の微細な変化だけがその心の内側を解く唯一
の鍵となる。水彩画のような淡い色調の映像美を狙い続けるだけで、能弁な
心理描写以上に人間の複雑な感情が伝えられてしまうのだ。地味ながらまさ
に「見かけ以上」の作品と嘆息せざるを得ない。

ロマンポルノの作家としての職人芸に徹すること−芸術家としての内面を
持つことにこだわる必要がなかったことが、小沼勝にとって幸いしたように
思える。持ち込まれてきた企画を、主観を挟まず、素材(脚本や俳優たち)
の性質をひたすら生かすように料理する、その、こう言ってよければ一種の
無私の精神によって、小沼勝は自分自身でもびっくりするようなイメージの
数々を手にすることになったのではないだろうか。
今回の特集で、ユーロスペースはわざわざ「女性専用シート」を設け、ポ
ルノ映画を敬遠する女性客に配慮を見せているが、その必要はないと思う。
パンフレットには「究極の愛を追い求めた」とか「エキセントリックに変貌
する、しなやかな女たち」とか書かれているけれど、小沼映画が愛に対する
一定の倫理的主張を持っているとは思えない。性的欲求を満足させたい男性
の視線に応えること−これがロマンポルノの第一義。時代を経て作品に古典
的価値が出てきたからと言って、ポルノ作品の製作理由を曖昧にする必要な
ど全くない。来場した女性客の方はかなり多かったが、その辺は割り切って
鑑賞していたように見え、頼もしく思った。
---------------------------------------------------------------------
■中国古典で浅学菲才が直る!?/掩耳
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「部下と上司は敵対するものなのだ――韓非子って冷酷無残」

『韓非子』が、中国古典中の最高傑作に挙げられる背景には、その独特のリ
アリズムがあります。それは、組織に属したことのあるヒトならきっと感じ
たであろう、次のような前提にも現れています。

韓非子流、部下とは何か)
徒党を組んで(派閥ですな)、有能な人間の足を引っ張り、人事の実権を握
って仲間だけを昇進させ、あわよくばトップの地位を奪おうとする輩の総称。

韓非子流、上司とは何か)
部下に、下手に好み(ゴルフとか、麻雀とか、愛人とか≪笑≫)を見せれば、
そこをつけこまれ、お気に入りの人物や、派閥を重用すると、入ってくる情
報をコントロールされて下克上の憂き目にあう、誰も信用できないつら―い
立場のお人(笑)

なんか、ここまで人間は醜い存在なのか、と言いたくもなりますが――師匠
が性悪説を称えた荀子だというのは、なるほどと肯けますが――しかし、組
織に所属する方なら、思い当たる節あるんじゃないでしょうか。
かくいう私も会社勤めをしていたとき、ある部長の家に新年の挨拶と称して
集まるのが・・派であり、実際、目撃例多数、その派の情実人事はもっと多
数というのに接したことがありますし――ライバル派閥にいた人間がいかに
冷遇されたかもですが――まあ、人間てそんなものなのかもしれません。

では、――特に、トップは――どうするのか。

韓非子の答えは簡単です。まず、<人間を信用するな>なのです。
では、何を頼れというのか。
法律――恩賞(部下にやる気、やりがいを出させる力)と、刑罰(部下にわ
くをはめ、鞭打つ力)の二つ、つまり<言葉>と<実績>なのです。

そして、<人間を信用するな>というところから、<実績以外のものでは人
間は判断できない>と明快に言い切ります。よく、俺って結構人を見る目が
ある、とかなんとか言う人がいますが、韓非子に言わせればそういう人こそ
騙されやすい典型なのです(韓非子本文では、聖人の孔子でさえ人物を見誤
った――論語にも載っている話ですが――を引いて、ましてや我々凡人では
絶対無理、と指摘します)

もし、人に何かを任せたかったら、まず実地に試してみよ、そこで約束通り
の成果が挙げられなかったらクビ――これなら子供でも評価できるというの
です。

そして、トップは恩賞と刑罰という二つのコントロール用ハンドルを使って、
びしばし使うべし、というのです。

と、ここまで見れば、至極まっとなことを言っているわけですが、しかしこ
のシステム大きな問題があって――あ、紙幅がなくなってしまいました・・
前回予告した、秦王朝の話も含めて次回取り上げまーす(続)
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>あの、新型アイボが発売されてて、踊ったりとか凄く進歩してるじゃない
ですか
>はあはあ
>それと、コンピューターがチェスで人間のチャンピオンに勝っちゃったじ
ゃないですか
>それは、ちょっと前の話ですよね
>この調子で進歩して、二つが合体すると、将来末恐ろしいことが起こるよ
うな・・
>と、言いますと??
>いや、飼い主よりも圧倒的に頭の言いロボットペットが生まれるんでは・・
>ああ、なるほど。それはちょっと悲しいですな。昔のアニメのケンケンの
「うししししし」っていう笑いで、飼い主馬鹿にしたりして・・
>あ、けんけんだったら僕欲しい・・ってそういう問題じゃないか(笑)
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