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[本]のメルマガ vol.48
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■■ [本]のメルマガ   2000.10.15.発行
■■         vol.48
■■  mailmagazine of books        [あれから6年 号]
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■CONTENTS--------------------------------------------------------- 
★トピックス 

★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
→がんばれ丸善!

★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→久々復活! ジョン・レノンの還暦を祝います

★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→メディアとアートの関係をスルドク抉ります

★「中国古典で浅学菲才が直る?」/掩耳(えんじ)
→過労のため休載です。ゴメンナサイ
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■トピックス
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■週刊ビーケーワンと、坪内祐三氏VSヤスケン

オンライン書店、bk1が、オリジナルメルマガの配信を開始するそうです。
無料。タイトルは「週刊ビーケーワン」で、「bk1・出版業界のニュース」
「連載コラム」「新着記事一覧」「bk1総合ランキング」「注目書籍」な
どの内容になる予定だそうです。

http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_message.cgi?tpl=help/he-0502
-01.html

で、そのBK1の文芸サイト特別編集長の安原顕氏ことヤスケンを、文学界
(文芸春秋)11月号にて、若手評論家・坪内祐三氏が「インターネット書
評誌の私物化を「ぶっ叩く」」のタイトルで批判しています。「インターネ
ットは書き散らしのメディアである」とのことで、ぜひ、建設的な議論につ
なげていって欲しいですね。

■みすず書房・限定リバイバル復刊
みすず書房さんが、10月のリバイバル復刊として下記の2点を出します。
・『アイゼンハワー回顧録』全2巻 限定400セット 3万円
・『イーデン回顧録』全4巻 限定300セット 4万5千円

■鈴木書店・11月に移転
人文系専門の取次ぎ・鈴木書店が、11月頭に仕入部門を残して現在の神田
を引き払い、成増に引越しをするそうです。神田神保町周辺は、俗称「神田
村」と言われて、中小の取次ぎさん(卸問屋)が集まり賑わっていたのです
が、ちょっと寂しくなっちゃいますね・・
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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全点報告 この店で買った本
第6回 倦怠期はアイデアで乗り切れ

新刊書店を毎日のように回って、その店のオモシロイところを見つけようと
しているのだが、ときどき飽きるコトがある。そうなるとフシギなもので、
「出たら買おう」と思ってた本まで、また今度でいいや、と買わずに帰るこ
とになる。そういうときは、店の中でナニか起こってないか、耳をすまして
いるといい。たまーに店員と客の興味深いハナシが聞こえてくることがある
から。そんなコトやってたので、今回はコメントが長いです。すまん。

九月一日
◎高岡書店
辛酸なめ子『ニガヨモギ』三才ブックス、857円+税(以下同)
【ひとこと】ミニコミの女帝(ただし電波系)がはじめて出したマンガ集。
いちおう商業出版なのに、ほとんどミニコミにしか見えない造本がこのヒト
らしい。中身も強烈。
◎書泉グランデ
坂崎重盛『蒐集する猿』同朋舎発行・角川書店発売、2200円
【ひとこと】今日いちばんビックリしたのは、レジ横にあった酒井若菜の『
do‐dai?』(ワニブックス)という写真集のコト。箱の中に、写真集
と一緒にフィギュアが見えるように入っているのだ。ギョッとする。こうな
ると、もはや写真集はオマケである。買う気はないけど、スゴイぞ。
◎bk1(オンライン書店)
つげ忠男『自然術3 釣りに行く日』晶文社、1553円

九月二日
◎北海道立帯広美術館(通信販売)
『グラフィック・デザインのモダニズム展』図録、2600円
【ひとこと】最近、展覧会のカタログを通販で買うのがけっこう楽しい。美
術館まで行くのがメンドくさいぼくには、たいてい現金書留で申し込むだけ
で手に入るのがありがたい。以前の展覧会でもカタログの在庫があれば受け
付けてくれる。この展覧会は川崎市民ミュージアムなど数カ所を巡回したよ
うだ。
◎博山房書店(本駒込)
柏木ハルコ『ブラブラバンバン』第2、3、4巻、小学館、505円
さそうあきら(画)・花村萬月(作)『犬犬犬(ドッグ・ドッグ・ドッグ)』
第1巻、小学館、505円
【ひとこと】前回この店のマッチラベルを見つけたハナシを書いたが、『地
域雑誌 谷中・根津・千駄木』第二十五号によれば、この店は震災前からあ
るという。今は人通りが少ないが、昔は「田端文士村が近いこともあり(略)
インテリの客が多かった。かつて神明町に住んでいた作家の佐多稲子さんも
数年前にみえたという」。なるほど、ナンとなく佇まいがヨイのはそのせい
か。

九月八日
◎丸善(お茶の水店)
赤瀬川原平『ゼロ発信』中央公論新社、1600円
【ひとこと】あくまでぼくの感じだが、チェーン展開している大書店のなか
で、今いちばん丸善がオモシロくない。妙に「老舗」感を漂わせているワリ
には品揃えはよくない。じゃあ、刺激的なフェアをやってるかというと、そ
れもない。テレビの「本パラ! 関口堂書店」(だったけ?)で取り上げら
れた本のコーナーを二カ所も設置するのは、ほかの店に任せてもイイじゃな
いか。ガンバレ、丸善。

九月九日
◎高岡書店
さそうあきら『トトの世界』第4巻、双葉社、533円
小田原ドラゴン『コギャル寿司』第1巻、講談社、505円
有間しのぶ『モンキー・パトロール』第1巻、祥伝社、667円
『まんだらけZENBU』第8号、1429円
◎東京堂書店
殿山泰司『三文役者の無責任放言録』ちくま文庫、620円
小沼丹『椋鳥日記』講談社文芸文庫、1200円
『噂の真相』9月号、448円
◎書肆アクセス
『気刊 何の雑誌』創刊号、667円
『中南米マガジン』第8号、476円
『LB中洲通信』10月号、477円
【ひとこと】仕事が佳境に入ると、ウチと仕事場のあいだにある神保町に寄
るだけが楽しみになってくる。落ち着いて本を物色する余裕はあんまりない
ので、目に付いた新刊書を機械的に買うだけ。

九月十二日
◎あおい書店(六本木店)
熊谷信夫『ブリキのオモチャ』グリーンアロー出版社、2800円

『編集会議』第4号、838円
【ひとこと】最近改装したらしいが、二フロアあってゆったりと広い。フェ
ア台が合計で四つぐらいあり、デザイン関係のフェアもけっこう幅広いセレ
クションだった。つい先日休刊が発表された平凡社の『太陽』バックナンバ
ーのフェアが行なわれていたが、このフェアを始めるころに平凡社の営業は
休刊をすでに知ってたのだろうか。気になる。あおい書店チェーンは、早稲
田店、志木店などに行っているが、いずれも小さいながらぼく好みの店だっ
た。
◎青山ブックセンター(六本木店)
『本の雑誌』10月号、505円
【ひとこと】入って階段を上がった奥のフロアを、ここ数年、ちょこちょこ
並び替えている。久しぶりに行ったら、マンガのコーナーが消えていたので
驚く。

九月十三日
◎bk1(オンライン書店)
佐藤朔『モダニズム今昔』小沢書店、2000円

九月十四日
◎書泉グランデ
『野坂昭如コレクション1 ベトナム姐ちゃん』国書刊行会、3000円
平井呈一『真夜中の檻』創元推理文庫、800円
【ひとこと】野坂本の箱は真っ黒な地に、白とアカでタイトルが入っている。
中身を引き出すと、カヴァーは付いておらずイキナリ本体だ。表には黒メガ
ネの正面像、引っくり返すと原稿を書いている部屋の風景写真が刷り込まれ
ている。すごくクールなデザインで、一目見て気に入った。
◎書肆アクセス
『BLOODY TAKANOの献血ルームあらし1』200円
『SHAG』第1、2号、各300円
◎岩波ブックサービス
朝永振一郎『科学者の自由な楽園』岩波文庫、760円
『畸人研究』別冊「千葉論」600円

九月二十日
◎書泉グランデ
『サイゾー』10月号、657円
◎三省堂書店
たかさきももこ『白衣でポン』第2巻、集英社、857円

九月二十二日
◎東京堂書店
三好達治編『萩原朔太郎詩集』岩波文庫、760円
『天藤真推理小説全集11 わが師はサタン』創元推理文庫、840円

九月二十五日
◎プロジェット(渋谷)
横尾忠則『滝狂 横尾忠則Collection中毒』新潮社、5631円
『HOLLYWOOD STARS&CARS』G.I.P.TOKYO、1500円
Philippe Halsman『JUMP BOOK』Abrams、2063円
【ひとこと】この店の棚をジーっと眺めていると、向こうから目に飛び込ん
でくる妙な本が必ず何冊かある。買おうかどうしようか悩んだ末、けっきょ
く買っちゃうんだよ、コレが。今日買ったのは、滝の絵葉書コレクションと、
スターと車が一緒に写ってる写真集と、有名人が空中にジャンプしているだ
けの写真集(ジャック・タチのジャンプは絶品!)。いつか役に立ちそうな
気がして買ったけど、そんな日は来ない。

九月二十六日
◎創文堂書店(本駒込)
林丈二『明治がらくた博覧会』晶文社、2000円
野坂昭如『ひとでなし』中公文庫、705円
『土屋隆夫推理小説集成2 危険な童話・影の告発』創元推理文庫、1100円
安岡章太郎『アメリカ感情旅行』岩波新書、740円
【ひとこと】この店は岩波書店の書店に強く、入ってない本でもだいたい翌
日には取り寄せてくれる。安岡章太郎の本は復刊で並べている店も少ないの
で、ココに頼んでおいたら、バッチリだった。

九月二十七日
◎丸善(日本橋本店)
保坂和志『この人の閾(いき)』新潮文庫、400円
【ひとこと】本店に来るのは、おそらく二年ぶりぐらい。少しは変わってい
るかと思ったが、ホトンド変わってない。一階のスペースに和書を全部押し
込むのはどう見てもムリがある。それなのに、ネクタイ売場には八人も売り
子がいたり、三階ではジャズピアノの生演奏をやってたりで、この辺の会社
の偉いさんには喜ばれても、ぼくなんかには猫に小判、無意味にゼータクな
カンジがする。丸善とは相性が悪いようだなァ。

九月二十八日
◎三省堂書店(神保町本店)
保坂和志『季節の記憶』中公文庫、743円
保坂和志『もうひとつの季節』朝日新聞社、1300円
【ひとこと】文芸書売場で、客と女性店員の会話が耳に入ってくる。「小沢
書店の◎◎って本はないの?」「小沢書店は倒産しちゃったんで、全部返品
したんですよ」「え?じゃあ、もうココにはないの?」「そうです。倒産す
ると返品しなきゃならないんで」「そうすると、他の書店にも置いてないの
?」「そうですねえー。たぶんどこも返品しちゃってると思いますよ」。ふ
ーん。版元が倒産したときの書店の対応についてはナニも知らなかったが、
委託制とはいえ、「強制的に返品させられる」というのはホントーだろうか。
小沢書店の本など、「ウチでは責任もって売り切ります」と宣言する書店が
あってもイイような気がするが、それもママならないのか。やろうと思えば、
できちゃったりするんじゃないだろうねェ(疑惑の目)。あとで、元書店員
に聞いたら、別に一律に返品するワケではないとのこと。やっぱり、ちょっ
と見切りが早すぎるんじゃないのかい、三省堂さん?
◎日本特価書籍(神保町)
『ユリイカ』1998年9月号(特集・西遊記)、1080円
【ひとこと】『ユリイカ』『現代思想』といったあたりのバックナンバーは、
あるテーマで資料を探しているときに、入手する必要が出てくる。ところが、
以前は書店の棚に余裕があったのか、数年分のバックナンバーを並べている
店がけっこうあったのに、最近では意外に見つけにくい。今日も三店回って
見つからず、最後にこの店で入手。ココで買うと、一割引なのでよけいウレ
シイ。

九月三十日
◎FOLIO(神保町)
G・マクスウェル『カワウソと暮す スコットランドの入江にて』冨山房百
科文庫、880円
【ひとこと】すずらん通りの冨山房ビル地下にある喫茶店だが、先年刊行を
中止した冨山房百科文庫の在庫が置いてあり、紅茶を飲みながら本を見るこ
とができる。出版社がどんどん消えていく現在、この手はかなり使えるので
はないか。ペヨトル書房や小沢書店の在庫を置く喫茶店や居酒屋ができたら、
他人は知らず、ぼくは必ず行くのだが。

今月の購入本 計46冊(マンガばっかり買ってるなあ)
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■「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
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ジョン・レノン還暦祝い 

ここ数ヶ月、特にここ数週間ジョン・レノンの映像や活字が目に入って
くることが多くなった。
最初はカップラーメンのCM、最近は缶コーヒーのCM、メトロカードの
発売とあっという間の売り切れ。
アルバム『JOHN LENNON/PLASTIC ONO BAND』
と『Double Fantasy』のデジタル化でのCD再発売。
『アンソロジー・ブック』の発売、その他関連本の発売。
『ジョン・レノン ミュージアム』のオープン、それに伴なうオノ・ヨーコ
の来日。また、射殺犯マーク・チャップマンの仮釈放とその延期等々
レノン関係の情報は気になる人には確実に届くように見事に
コーディネートされ展開、発信されている。

たしかに、今年は2000年。この10月9日で生誕60年、ビートルズ
としてのデビューから40年、ビートルズ正式解散から30年、没後
20年と区切りにはなる。

そんな雰囲気に後押しされて、久しぶりに昔のレコードを引っ張り出して
みた。
古ぼけた『Double Fantasy』のジャケットをあけるとぷーん
と懐かしい匂いとともに買って聞きまくった当時の記憶が呼び起こされる。
このアルバム、日本では80年12月5日発売だったので、待ちきれず英
米11月17日発売の米輸入盤を秋葉原に何回か通って購入したもの。

ジャケット裏面に記されている曲順がメチャメチャに間違っているのは
何故?

ジャケット撮影は篠山紀信、アルバム発売前『写楽』という小学館発行
の写真雑誌に数枚と週刊誌に数枚が発表されている。数枚の中のジョン
とヨーコのツーショットの一枚の写真には何かが写っているような気が
いまだにしている。当時、写真集にして欲しいと『写楽』編集部に電話
したが「考えてます」との答えだった。あれから20年経ちました。

『Double Fantasy』発売から1ヵ月にも満たない12月8日
、ポケットに『ライ麦畑でつかまえて』を入れた当時25歳のマーク・
デイヴィット・チャップマンに射殺される。
『Double Fantasy』の一曲目で
『Just like starting over』と歌い
最後に『Hard times are over』と歌った数日後のこと
だった。

チャップマンに関しては『誰がジョン・レノンを殺したか』音楽之友社と
『ジョン・レノンを殺した男』リブロポートが対照的なノンフィクション
で読むことができた。『ジョン・レノンを殺した男』では知り合いの編集者
からレノン関係の資料を貸して欲しいと頼まれ数冊貸したが戻ってきた
のは一部分だけだった。まだでしょうか。あれから6年経ちました。

事件直後から関係書の発売が例によって相次いだ。記憶に残っている
のは、購入したのは宝島の別冊の特集号と集英社発売の『John 
Lennon PLAYBOY Interview』の2冊だった。
宝島は巻頭にジョンの若い頃から死の直前までの顔写真が連続掲載
されていて、人の顔ってこんなに変わるものなんだと思わせくれた。
また、『John Lennon PLAYBOY Interview』
は81年3月10日発行でPLAYBOY誌インタヴューの完全収録と死
の当日まで続けられていた自ら語った127曲の未公開遺稿「レノン・
ソング」が巻末60ページにわたって掲載されている。これは私の好きな
本のひとつ。

埼玉県与野市にオープンした『ジョン・レノン ミュージアム』の記者会見
でオノ・ヨーコが「・・・このようなかたちで・・・ジョンも喜んでくれ
てると思います・・・」と言った。・・・?

ジョンが取り上げられると必ずといって良いほど『IMAGINE』がBG
Mとしてかかる。シドニー・オリンピックでも歌われたらしい。
過日のライヴでジョンは『IMAGINE』を you ではなく 
「I wonder if we can・・」と we で歌っていた。
『John Lennon PLAYBOY Interview』の
中では次のように言っている「ぼくらが言っているのは「これがぼくらの
身におこっていることなんです」だけさ。ぼくらは葉書きを出してるんだよ
。その葉書きの内容を、「ぼくは目覚めた者だ。君たちは進むべき道を
示される羊だ」なんてものにはしないよ。」
「・・・リーダーの後にはついていくな。パーキング・メーター(金を
入れないと動かないという比喩)に気をつけろ、さ。」

そもそも『IMAGINE』は非宗教的で政治的な曲ではなかったのか。

最近のジョンの露出のさせられかたは、はたして彼の望んでいる方向
に向かっているのだろうか?

それでは、また。
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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メディアとアートの関係は?
−「ゲイリー・ヒル 幻想空間体験展」と船渡川由夏写真展

先日、原宿のワタリウム美術館で「ゲイリー・ヒル 幻想空間体験展」を
見た。ヒル氏は70年代から活躍している「メディア・アートの第一人者」
だという。展示は三部構成から成り、いずれも暗くした会場の中でビデオ・
インスタレーション作品を光らせるという形式で、鑑賞者に日常とは異質な
空間を体験してもらうことを狙っている。(来年の1/14まで開催。会期
中何度でも入場可のパスポート・チケット制)。

一つめの作品は暗闇の遠方から少女が歩いてくる、というもの。少女は何
やら不思議な叫び声をあげながら近づいてきて、しまいには顔が大きくクロ
ーズ・アップされる。その動物めいた表情と声が印象的。二つめの作品は、
ヒル氏自身が、叫びながら激しく壁に体を打ちつけ続ける、というもの。ヒ
ル氏が発する言葉の翻訳がパンフレットに載っているが、「抽象的かつ哲学
的」な内容だ。三つめの作品は、机に向かっている人の両腕と後頭部にカメ
ラをとりつけ、動作を三方向から追うというもの。文字を書くとか紙飛行機
を折るといった何気ない動作が思いがけない角度から見られる。いずれも「
孤独感」というものを感じさせる。

正直言って面白くないことはないが、格別刺激を受けた、という感じはし
なかった。パンフレットには「あなたは作品の一部となって、もはや作品を
外から『眺める』ことはできません」とあるが、まさにその「作品の一部に
させられてしまう」恐怖感に乏しいのだ。どの作品も、一目見ただけで作者
が自己表現の基盤としているものがあっけなく見透かせてしまう。つまり、
比喩されるもの(ヒル氏の場合は“不安な心的状態”)が、鑑賞者にとって
自明すぎる心理主義の図式を踏襲しきっているために、外見がいかに新しそ
うに見えようと、スリルを覚えるに至らないのである(だからといってヒル
氏の作品の完成度が低いなどということはないのでお間違えなく)。

ヒル氏の作品に限らず、いわゆる「メディア・アート」と呼ばれる作品に
接してぼくは今まで何度となく失望してきた。その理由は、「メディア」が
単に新しい「手段」として捉えられるばかりで、新しい「鑑賞者との関係・
コミュニケーション」を志向するものとしては捉えられていないからだ。
どんな美術作品にも、それを見るための「ストーリー」が存在する。純粋
な視覚上の「美」などあり得ない。複雑な社会関係の網の目が視覚体験の「
意味」を決定していく。「メディア・アート」は特に、それを見ることでど
の鑑賞者の心の中にも、彼(女)が体験していてなおかつ忘れ去っていたと
ころの社会的・身体的関係の記憶を、鮮烈に呼び覚ますことを目指さなくて
はならないのではないだろうか。ヒル氏の作品は、それなりに強烈なストー
リーの上に組み立てられているように一見思えるけれど、実は自明な心理ド
ラマを新しい手段でなぞり返しているに過ぎない気がしてしまう。


その日はもう一つ展覧会を見に行った。歴史ある写真専門のギャラリー
Mole(四谷)が今月で展示活動をやめるというので、その最後の写真展を覗
くことにしたのだ。
そこでやっていたのは、若い写真家船渡川由夏の個展「少年と、少女のた
めのノート」。少年と少女、と言うには幼すぎる児童たちが被写体。船渡川
はどの子にも取ることのできるぎりぎりの近い距離でカメラを向ける。その
「近い距離」とは物理的な距離をさすだけでなく、心理的距離をもさす。ど
の子もカメラを向けてくる「おねえちゃん」に対し、無邪気な笑顔を向けた
り、仏頂面をしたり、恥ずかしそうにそっぽ向いたり、千差万別の個性的な
ポーズを取る。ここに写されているのは、一人の若い女性(撮影者)と通り
すがりの子どもたち(被写体)との関係性そのものであろう。個々の子ども
たちの表情を超えたものが写っているのである。若い、といっても「大人」
の年齢に達した船渡川が、カメラを武器に子どもたちに真正面からぶつかり
合い、その衝突から零れてきた子どもたちの様々な感情の噴出の中に「大人
以前」だった頃の自分の心の有り様を見つめようとしたのではないか。彼女
の写真作品は何の衒いもないごくシンプルなものだけれど、自分の中に眠っ
ていた感情と再度の出会いを果たすことのできた複雑な感動が漲っている。
シャッターのひと押しの瞬間に、笑顔と笑顔が、しかめ面としかめ面が、撮
影者の内と外とで火花を散らし合うー。
このような、心理主義の図式に収まらない関係の特別性を鑑賞者にそのま
ま伝えられる作品の方を、むしろ「メディア・アート」と呼びたい気持ちが
してしまうのである。
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
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>湯川さんが復活しましたねー
>はーい、もうどれ程お待ち申し上げていたことやら。と思ったら、今回、
掩耳氏がダウンですか・・
>噂では、仕事の方の〆きりと、どうもほとんど重なっちゃったようです
ねー
>噂ではとかいって、自分で言ってるじゃないですか(笑)。まあ、みな
さん、働きすぎには注意しましょう。「煮詰まる前のズル休み」という格
言もありますからね・・
>え、そんな格言本当にあるんですか??
>う、うそです・・
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