[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ vol.733

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□■[本]のメルマガ【vol.733】19年10月25日発行
                                     [ トップの3社 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4064名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→どこまでできる?エリクソンの省エネ

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→田舎と高卒

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→ネットの、「そこじゃない」感

★「はてな?現代美術編」 koko
→コンテンポラリーアート急上昇!

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→休載です

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『独裁者はこんな本を書いていた』(上下)
ダニエル・カルダー著 黒木章人訳
四六判 本体各2,000円+税 ISBN:上 9784562057030/下 9784562057047

レーニン、スターリン、ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東…20世紀の悪名高き
独裁者たちは何を読み、何を執筆したのか。その膨大な著作すべてに目を通し
た著者が、彼らの目論見や文才まで、知られざる一面を明らかにする。

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■トピックス
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■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第104 回 地球温暖化を変える可能性はある?

日本では台風の被害が大きくてショックをうけた。
地形的に川が多くて、大雨によって氾濫し、避難中に命を失った人も多かった
と知って、これでは今後も強力な台風が来たらこのような被害が繰り返される
のかと思って暗澹とする。

過去にも大型の台風による大きな被害は起きている。
ただ最近の現象には、今や国際的な環境ストまで起きて大問題とされる地球温
暖化も原因の一つになっているのではないか。

イタリアでも年間の平均気温が上がってきているのを示す“情報グラフ表”(
Infografica)がイル・ソーレ・24オーレ紙に載った:

https://www.infodata.ilsole24ore.com/2019/09/20/40754/
(イタリア語)

記事にある青と赤に彩られたグラフがイタリアの北から南まで55の都市の気温
の1900年から2018年までの推移を示している。

上から下へ一行ずつが北端のボルツァーノから南端のシチリア島シラクサまで
の気温の上昇を示している。各行は横に青と赤で色づけされているが、左端の
1900年から右端の2018年までの各年について、その年間の平均気温が、1900年
から2018年までの最低気温に比べて1度以下の上昇の場合は青、1度以上の上昇
は赤で表わされている。

パソコンでマウスをグラフの上に置くと、都市の名と年とその年の平均気温が
摂氏度数で記され、青の色が薄くなるほど上昇の度数が小さくなり、赤がもっ
とも濃い場合は3度以上も上昇しているのがわかる。

すぐ目につくのは赤い部分(気温上昇)がグラフの右端で圧倒的に広い部分を
占めていること。つまり、イタリア北部からシチリア島まで、この20年間の平
均気温が集中的に上昇したということだ。

今年の気温がまだ示されていないが、感覚的にはこの夏の暑さは酷かったので、
このグラフの赤がより強調されるのではないか。

この気温上昇の原因として問題になっている温室効果ガス(二酸化炭素とメタ
ン)を大量に放出している世界の石油化学・エネルギーの企業20社が放出量と
いっしょにリストされているのを見た。

トップの三社はサウジアラビアのサウジアラムコ社、米国のシェブロン社、ロ
シアのガスプロム社となっている。
これら20の企業が放出する量だけでも全体のほぼ36パーセントを占めていると
いうのにおどろく。

国別のリストでは放出量のトップは米国で、ここ60年間に一人当たり1,100トン
の温室効果ガスを放出したことになるという。一年間で単純計算すると一人当
たり約20トンもの量だ!
日本の放出量は9番め、イタリアは13番めだ。

こうした温室効果ガスによる異常な気候現象を元に戻すことが、今や人類の大
きな挑戦といわれるほどになっている。気候変動の問題はまるでダモクレスの
剣(まるで頭の上に、一筋の毛髪でダモクレスの剣が天井から吊るされている
かのように、常に危険に脅かされているという譬え)だと...。

放出される二酸化炭素の量を10年単位で半減させる方法を見出し、平均して毎
年7パーセントに減少させたいと専門家たちは考えているようだ。

スウェーデンのエリクソン社の最高経営責任者(CEO)であるボリエ・エクホル
ム氏も「これからの10年間に5G(第5世代移動通信システム)やAI・人口知
能のテクノロジーが世界経済の効率を増して、化石燃料から解放される社会を
準備する手段になる」と語った。

情報通信技術(ICT)セクターが期待されている。このセクターは地球環境に負荷
の少ない自然界の再生可能エネルギーを多大に購買しているという。

エリクソン社ではすでに温室ガスの排出を50%減らし、さらに減少を目指して
いるようだ。2030年までに放出量を減らす試みは、そのゴールテープを切るこ
とがすでに野心的だといわれるが、エクホルム氏はこの目標に達するのは現実
的に可能だといっていた。

ところで、スウェーデンの経済紙は、エクホルム氏はエリクソン社を半年内に
退任すると8月末に報道している。
2030年までに放出量を減らす試みはどこまで可能なのだろう。

参照記事はこちらです:
https://www.ilsole24ore.com/art/le-tecnologie-possono-ridurre-emission
i-gas-serra-ecco-come-ACjf1yq (イタリア語)


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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土井隆義 『宿命を生きる若者たち 格差と幸福をつなぐもの』岩波ブックレッ
ト 620円+税

就職状況こそ好転したものの若者の前途は明るいとは到底いえません。非正
規雇用で働く若者は増大を続けています。国と地方自治体の借金は増える一方。
今回10%に上がった消費税はどこまで上がるのか想像もつきません。いまの
若者たちが年金を貰える可能性は低いだろうと言われています。日本の若者は
現状に大きな不満を抱いているに違いない。誰しもがそう思うはずです。とこ
ろが日本の若者の幸福度(現状満足度)はかつてなく高い。若者の幸福をめぐ
るパラドクスに、名著『友だち地獄』で知られる著者が挑みます。

いまの若者たちは、バブル崩壊後の経済が成長を止めた「高原社会」の申し
子です。「高原社会」に適応した若者たちは未来に期待を寄せません。期待し
なければ不満も生じない。そして若者たちが高い価値を置く、親しい人たちと
の人間関係は極めて良好で、現在を楽しく過ごしています。だから若者は現状
に満足していて犯罪にも走らない。他方中高年の幸福度が低く、「暴走老人」
が目立つのは、この世代は「成長社会」の残像に囚われている上に、変化する
コミュニケーション環境に適応できないでいるからだ、と著者はいいます。

若者たちはSNSを駆使して、選択的な人間関係を築き上げています。ソリの合
わない人とは付き合わなければよい。人間関係の満足度が高まるはずです。し
かし個人化の進展は、若者たちの中に「存在論的不安」を生じさせます。それ
を解消するために若者たちは共同体への「再埋め込み」を求める。若者たちは
「地元」志向を強めていきます。いまや日本の地域社会はすっかり空洞化して
しまった。かつての抑圧的な人間関係は存在しません。「地元」はいまや若者
が親しい友人と楽しく時を過ごす「ジモト」へと変貌したのです。

社会階層は日々固定化の度合いを強めています。若者たちの中には努力をし
ても報われないという諦観が広まっている。価値観が多様化した社会の中で若
者たちの絶対的なものへの希求も強まっています。スピリチュアル指向はその
一つの現われです。いまの若者たちは、「成長社会」の若者とは異なり、未来
ではなく過去に絶対的な価値の源泉を求めていきます。「ジモト」への偏愛も、
幼なじみという「宿命」的なつながりがそこにあるからでしょう。過去に根差
した「宿命」的つながりという観念は、ナショナリズムを召喚します。

若者の分断のラインは、大学進学者と非大学進学者の間に引かれています。
後者は前者に比べて非正規雇用に就く者が格段に多い。後者の若者たちは、努
力した者が成功するという考えを内面化していて、自らの不遇を努力不足の結
果として受け容れています。ところが彼彼女らの生活満足度は、大学進学組や
大人世代よりも高い。そこには同じような境遇の者としか付き合わない人間関
係の内閉化が一因している。違う境遇の者と付き合わなければ嫉妬や不満が生
じる余地もないからだという著者の指摘には慄然とさせられました。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「データ」の話

マンガ家、吾妻ひでお先生が亡くなられた。数々のギャグマンガを描かれ私も
おおいに影響を受けた作家だ。アルコール依存症の体験を綴った「失踪日記」
は中島らもさんの「今宵すべてのバーで」と共に私のバイブルに(何の)。

で、なぜデータの話が吾妻ひでおさんの話から入るかと言うと…かのAmazonで
吾妻さんの本を購入した後、Amazonからのおススメ本が「美少女、ロリ系」で
埋め尽くされた事があった。
最初は気づかなくて「なんじゃこりゃ?」状態だったが「あ、そう言う事か」
と。
確かに吾妻先生は美少女マンガの先駆者だ。
だけど私が求めるモノは美少女のベールをまとった不条理マンガで先生はそれ
の先駆者でもあった。 

でもデータでは「美少女」で括られおススメはそちらのみのカテゴリーから送
られる。

「尊敬する吾妻先生をそんじょそこらの美少女マンガ家と一緒にするな!」
見ず知らずの作家さんは完全なもらい事故状態だ。

もちろんAmazonのおススメで知らない作家の作品に出会える事もあり、全くの
お節介と言う訳でもないが1人の作家の一方向だけをデータ化するとこう言う事
になる。

人は複雑だ。その作品のどこに共感を覚えたのか、何に興味を持ったのか、な
かなかデータ化しにくいもので、挿絵のために購入した本も「その方向から」
おススメされ辟易したことも。

デジタルコンテンツのほとんどはこの「データ収集」のためにあるようなもの
だから仕方ないかも知れないがFacebookにはペットの記事が、スマートニュー
スにはコストコと100均の記事が並びだした。確かにネコもイヌも好きだし、コ
ストコで何を買えば良いのか興味あるし、100均の新製品も気になる。

だが「それにしか興味がない」訳ではない。他にも気になる事はごまんとある。

逆にこの多数派で固められたデータからのみの記事だけを粛々と読んで過ごす
ようになるのが一番恐ろしい。
現に高齢ネトウヨと呼ばれる方々はこの罠にはまっているようだ。

デジタルの海に溺れそうになりながらも何か面白いモノを拾い上げるのも呆け
防止には良いのでは?

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第100回 『勝手に現代アート事情 ――― HYPEBEASTと現代アート』


祝、100回!
100という区切りはなんとなく嬉しいものです。
お付き合いいただいた読者の方々には感謝です。

思い返せば、日本に帰ってきてからいつも不思議に思っていたのは、雑誌のサ
イトのカテゴリーやジャンルに、『アート』という括りが見当たらなかったこ
と。

かなり深い階層までクリックしないと出てこなかったりしたもんです。
診察室の待合室で雑誌をめくると、アートの文字が!

喜んでページをめくると、ガックリ。
芸能人だせばいいっていうわけじゃなかろうが!と心の中でぼやく私。
新聞のアート欄は所謂文芸関係が多くて、このメルマガで書かせてもらってい
るアートとは題材もそれを扱う視点も違う。

美術手帖のような小難しい記事を読めといわれても面白くないので、広告記事
と専門記事の間を取り持つ記事を探すもなかなか見つからず、欲求不満の日々
がありましたっけ。

フランスでは特に専門メディアでなくても、アート欄には面白い記事が掲載さ
れていたのにね。

日本の小さな本屋の棚には『美術』コーナーがないことも。
思い起こせば、淋しいなぁ、と溜息をつくこともしばしばだったのです。

もうひとつ不思議だったのは、日本の既存ファッション雑誌の最新情報欄には
あまりフランス発信の記事がないということ。

日本人は今でもフランスのことを食やファッションの都だと思っているだろう
けど、実際の発信情報量からいうとそれは真実ではありません。ニューヨーク
やロンドン、最近では中国からの最新情報の方が圧倒的に多いのが現実。
日本はフランスのありとあらゆる流行ものを吸収し尽くした感があります。
もしかしたらネタ切れ?と思ったものです。

ネタがなくても、フランスブランドは今も黄門様の印籠であることに変わりは
ありませんが、、、

一方アートマーケットの最新の売上額をみてみると・・・
1.USA(39%)、2.中国(28%)、3.イギリス(23%) 4.フランス(2%)
5.ドイツ(1%) 5.日本(1%)
※今年度(2018年下半期から2019年上半期)artprice参照

ドイツは実際アートの発信量は多いような気がしますが、売上額は意外と少な
いですね。芸術の都にしてはフランスもこの程度ですよ。。

今年度はコンテンポラリーアートマーケット総落札価格が全体に占める割合が
15%にまで上昇。
2000年当時は3%だったのに、それが15%とは、なんと世の中コンテンポラリー
マーケットにバンバンお金を投資しているようです。
Post-Warアートが24%なので、戦後のアートでくくれば、全体の39%。
モダンアートが43%だそう。

その現状を踏まえて、2013年あたりから現存アーティスト作品の価格の伸びが
すさまじい理由を考えました。

最新流行事情がファッションや音楽の流行と連動していると思うのです。
一例ですが、10月6日の香港のサザビーズのイブニングセールで、奈良美智の『
KNIFE BEHIND BACK』が、19.736.150ユーロで落札されました。
ざっくりと23億円ほどの価格が付いたわけですが、現存日本人アーティストで
は最高額となりました。
この価格には吃驚です。
□サザビーズ 10/6 香港オークション 落札結果(英語)
https://www.sothebys.com/en/auctions/2019/contemporary-art-evening-sal
e-hk0885.html?locale=en#&page=all&sort=lotSortNum-asc&viewMode=list&lo
t=1142&scroll=3420

この香港のオークション結果で上位にくるアーティストの名前は今のアートコ
レクターの嗜好を繁栄しています。この傾向は流行に敏感なサイトのアート欄
に出てくる名前なのです。

例えば、<HYPEBEAST>というサイトのアート欄を読めば、この香港のオークショ
ンに並んだ名前に馴染みがでてきます。流行に敏感なファッションピープルの
関心を買うネタが並ぶこのサイトの記事はとても興味深いです。

ちなみに<HYPEBEAST>っていう単語は、「自分を格好よく見せるために一流ブ
ランドの衣服、靴、アクセサリーなどを買い集めることに取りつかれている人」
という意味。

コンテンポラリーアートは今やこの<HYPEBEAST>達の影響を色濃く受けている
ようです。ほらほら、サイトにこの現象を象徴するような記事が出ていました。

□HYPEBEAST ノートルダム大聖堂の再建築を支援するチャリティ展の記事(日
本語)
https://hypebeast.com/jp/2019/5/notre-dame-exhibition-gagosian-paris

もっともイケイケドンドンの有名画廊と、世界で屈指のファッションブランド、
フランスが誇る世界遺産に流行のアーティスト達。必要不可欠なアイテムが揃っ
てますよね。

ここにコンテンポラリーアートの一つの立ち位置が見てとれませんか。
でも実際にこの記事が掲載された今年の6月頃のフランスでは、ノートルダムの
修復基金がすぐに集まった一方、地方の教会の修復に回すお金がなくて困って
いる地方自治体の悲痛な訴えもあったわけです。

コンテンポラリーアートを通して、目の前の出来事の光と影を見るおもいがし
ました。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4064名の読者の皆さんに配信してお
り、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。

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■編集後記
拙宅でネット関係のトラブルが続いている。パソコン本体が壊れる、ネットが
つながらない(Wi-fiがつながらない)などなど・・・・

なんでこういうトラブルが一気にくるのかわからないが、台風でたいへんなめ
にあっておられる方に比べたら、はるかにましである。

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[本]のメルマガ vol.732


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.10.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book             [読書の秋号]
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 ・象徴的・歴史的意味とその変容を多くの貴重な図像とともに解読する名著。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第124回 微笑みの重み
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 社会運動の中にあるぼんやりとした’何か’
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」
 
 お久しぶりです。
 
 4回連続での休載,大変失礼いたしました。勤務先での身分が変わって以来,
 勤務先での講義に加えて他所での研修会の講師,公共図書館の図書館協議会
 委員の拝命,課外活動の運営など様々な案件が重なり重なり,なかなか記事を
 出稿できずにおりました。大学における前期の受講生への評価も終わり,後期
 はなるべく新しい案件を引き受けずに,いま請けている/取り組んでいる仕事に
 専念したいところですが,果たして如何相成るでしょうか。
 
 
 さて,今年に入って,公共図書館が警察の任意の捜査協力依頼に対し,利用者
 の情報を提供していたとされる事例が,主に地方紙に散見されます。わたしが
 確認しただけでも,北海道新聞(2019年6月3日付,以下「年」の記載のないも
 のはいずれも2019年の記事),南日本新聞(8月17日付),琉球新報(9月1日
 付)と続いています(1)。中では鹿児島県の地方紙である南日本新聞の記事が,
 Webには掲載されなかったにもかかわらず,写真を載せたTwitterが拡散したの
 と,その写真が全文を載せていなかったが故に,却ってセンセーショナルに感
 じられたのか,多くの関心を引いたところがあったようです。
 
 興味深いのは,同様の問題を取り上げても,その記事の書き方が微妙に異なる
 ところです。上記の3紙を読み比べても「ああ,この記事を書いた記者は問題
 の所在がどこであるか,よくわかっていらっしゃる」「この記事は枠組みの把
 握に難があるのでは」と思わせます。総じて事実を伝える記事によいものがあ
 り,新聞社の論説にはいささか難がある,という傾向が見られるようです。
 
 好い例が琉球新報9月11日付の社説「警察の捜査事項照会/図書館の自由宣言順
 守を」という記事です。この社説は標題からして「交通マナーを守りましょう」
 レベル(「図書館の自由に関する宣言」は日本図書館協会という公益社団法人
 が採択した政策文書であり,法令のごとくその内容を履行することは義務では
 ない)ですが,この社説では
 
 “国民の知る自由を保障する機関である図書館に対する不信を生みかねない。
 知る権利を含む表現の自由をも萎縮させる恐れがある。”
 
 このように「知る自由」と「知る権利」のふたつが並立して存在するかの如き
 表現(2)が見られるあたり,この社説を執筆した記者の,この問題への理解に
 心もとないものを感じてしまうのはわたしだけでしょうか。公共図書館の味方
 を任じていただけるのは大変ありがたいのですが,「図書館の自由」に関する
 調査と考察が不足している状態での掩護射撃,時として後ろ玉になります。沖
 縄には沖縄国際大学の山口真也先生(3)という業界きっての「図書館の自由」
 に関する専門家もいらっしゃいますし,山口先生に取材して,継続的にこの問
 題に関する考察を深めていただきたいと願います。基地問題などを抱える沖縄
 の地元紙であることですし。
 
 論説がいまひとつなのは北海道新聞7月14日付「記者の視点」も同様で,いき
 なり『図書館戦争』から始まってしまいます。確かに『図書館戦争』は,「図
 書館の自由に関する宣言」をこれまで以上に広く世に知らしめた点では「図書
 館の自由に関する宣言」史上の画期ではありますが,「図書館の自由」を守る
 ために武器を持つ,という展開には,図書館関係者としては違和感しかないも
 のです。図書館というところがこの「記者の視点」言うところの「知的自由」
 を守るところであるならば,紛争についてそもそも武器を執らなくてもよい解
 決法を,わたしたちがその知的自由を行使して図書館の資料の中から探し出す
 べきところのはずです。そこが理解されていなかったところが『図書館戦争』
 の限界です。
 
 とはいえ,北海道新聞の「記者の視点」が琉球新報の社説と異なるところは,
 アメリカの事例や「企業に集まる膨大な個人情報」にも注意を向け,法制度の
 問題を言外に指摘するその視野の広さにあります。「図書館の自由に関する宣
 言」を順守しろ,で終わっている琉球新報の社説にはこの視点が欠けています。
 
 北海道新聞「記者の視点」は次の一文で締めくくられます。
 
 “そして,これまで守ってきた知的自由を失うことのないよう,図書館の「た
 たかい」を私たち一人一人も自覚して後押ししていく必要がある。”
 
 「図書館の自由を守る」のではなく,「図書館の自由が守る」ものは何なのか,
 を図書館業界関係者も図書館を利用する側も考え続けていく必要があります。
 「図書館の自由に関する宣言」は不磨の大典ではなく,その余白を埋めること
 は,何もかもを「宣言」の本文に書き込んで事例集にすることではないはずで
 す。
 
 ではまた。
 
 
 注記
 (1)この記事を書いている時点で,Webで参照できるのは琉球新報の記事だけ
    と思われる。
 
   図書館が令状なく利用者情報を捜査当局に提供 プライバシー侵害の恐れ 
   - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/news/entry-981600.html
 
   <社説>警察の捜査事項照会 図書館の自由宣言順守を - 琉球新報 - 
   沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-987278.html
 
 (2)これはわたしの理解がおかしいのであればご指摘いただきたいのだが,管
    見の限り「知る自由」という表現は図書館関係の文献以外でほとんど見る
    ことがないし,一般の雑誌等で見るときも図書館絡みであるように思われ
    る。
    図書館業界では「知る自由は知る権利に優越する」と考えている論者もい
    るようだが,如何に「図書館の自由に関する宣言」採択当時の議論でも
   「知る自由」という言葉が見られるとはいえ,政治や法律の分野で広く使わ
    れている「知る権利」ではなく,「知る自由」という表現を選択すること
    の正統性について,今後検証が必要なのではないか。
 
 (3)山口 真也 - 研究者 - researchmap 
   https://researchmap.jp/read0061951/
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第124回 微笑みの重み
 
  
   色とりどりのキャンディーを屋台にのせて、おじさんが微笑んでいる。なに
 も知らずにこの本を手に取ったら、中東の国の観光案内ではないかと思えるほ
 どチャーミングな写真だ。
『パレスチナのちいさないとなみ 働いている、生
 きている』(高橋美香 文・写真 皆川万葉 文 かもがわ出版)は、中東の
 パレスチナに暮らす人々の生活をたんねんに追ったルポルタージュだ。高橋美
 香さんは、写真家で世界を歩き、そこに生きる人々の「いとなみ」をテーマに
 撮影している。皆川万葉さんは、「パレスチナ・オリーブ」という会社の代表
 として、パレスチナのオリーブオイルや石鹸、刺繍製品などの商品をフェアト
 レードで輸入・販売している。この本は2018年に二人がいっしょにパレスチナ
 を歩き、その旅のあいだの語らいから生まれたという。パレスチナの人々と生
 活をともにする二人が、いまパレスチナの人々がどんな暮らしをしているかを
 写真と文で伝える本だ。キイワードは、「仕事」だ。

 
   10月7日に神保町ブックハウスカフェで行われたトークショーに行ってきた。
 印象的だったのは、おふたりがとても明るいことだった。高橋さんがパレスチ
 ナにはまったのは、イケメンがいるから、とか…。スライドを映しながら、パ
 レスチナにいる友人、家族のことを愛情深く語った。

 
  正直に言って、いままでパレスチナに大きな関心を持ったことがなかった。
 ときおり伝えられる紛争、イスラエルによるガザ地区への爆撃、パレスチナの
 テロ、報復の応酬などの陰惨なニュースを遠い国で起きたこととして見てきた。

 
  イスラエルに旅行をした友人がいるが、その土産話からはパレスチナの人々
 の話はかけらもなかったな。彼にとっては、キリスト教の聖地を訪れることが
 すべてで、パレスチナについてはなんの関心もないようだった。たぶん、パレ
 スチナの人と出会うことがなかったのだと思う。そういうぼくだって、この本
 を読むまでは、パレスチナに住む人々の暮らしに思いを馳せることはなかった。

 
  本の前半は、高橋美香さんが撮影した、働く人を中心に構成されている。家
 畜の世話をする人、オリーブの実を拾う人、ハーブ摘み…写真に写った人々は、
 ほとんど笑顔を見せている。その笑顔だけ見ていると、平穏な暮らしを営んで
 いる人たちの表情だ。

 
  だがパレスチナの人々の現状を思うと、この微笑みの奥には深い悲しみと苦
 しみがあるにちがいない。産まれたばかりのヤギを抱いて嬉しそうにしている
 アブーハミスさんは、分離壁反対デモで頭を撃たれて以来、体調を崩した長男
 の結婚資金のために、家畜をすべて売り払った。放牧をやめると、糖尿病が悪
 化して、失明したという。また遊牧民は住居や家畜小屋が「違法建築物」だと
 して当局から破壊されて土地を追われてしまう。漁師は船の燃料を得ることも
 難しく、漁が出来る海域も狭められ、その海域内であってもイスラエル海軍に
 攻撃されて、命を失う人も多い。自動車修理工の青年の体にもイスラエル軍兵
 士に撃たれた傷跡が残る。たとえゲリラの武装戦闘員でなくても、その場に居
 合わせたというだけで、イスラエル軍に撃たれて殺される。「パレスチナで生
 きるってこういうこと」と語る。

 
  ただこの本はそんな悲惨さ、絶望を訴えているんじゃない。『自らの手や才
 覚で稼ぎ出すお金で、自らの夢をかなえ、人生を切り拓くことや、生きがいを
 感じられることこそが「仕事をする」ということであり、「生きる」というこ
 と』と高橋さんがいうとおり、写真を見ていると、希望や勇気をもらえる。

 
  住んでいる街に、高さ8メートルもある「壁」が作られてしまって日々の生
 活が分断されてしまうって、いったい何なんだろう?
 
  トークにときどき出てくる「分離壁」はいまパレスチナの人々が置かれてい
 る状態の象徴的なものだ。こんなものを作る発想が不気味で気持ちが悪くなる。
 イスラエルの言い分では、テロ対策だというが、結局はパレスチナの人を閉じ
 込めてしまい、自由を奪うためだろう。パレスチナの人は壁のせいで、村の中
 を行き来が難しくなり、いちいち検問所を通過しなければならない。調べて見
 たら、2004年に国際司法裁判所でこの壁は違法だと判断されているじゃないか!
 
  後半は皆川万葉さんが「ユダヤ人もパレスチナ人も男性も女性もみんなが平
 等で対等な社会を目指す」という考えを持つ『ガリラヤのシンディアナ』とい
 う生産者団体のことを教えてくれる。もともとオリーブの原産地は中東で6000
 年前から地中海東沿岸地域で栽培されていたという。パレスチナでは、オリー
 ブオイルは昔から食用、燃料、薬用、美容などさまざまな用途に使われてきた。
 農家でなくても、村に住む人々は代々受け継がれてきたオリーブの木を持って
 いるという。パレスチナの人たちにとって、オリーブの木は土地とのつながり
 の象徴で、故郷を追われた人たちは先祖代々のオリーブの木も失った。だから
 オリーブの木は抵抗の象徴として詩歌や絵画に描かれるという。

 
  シンディアナの立ち上げメンバーのアベットさん、ムギーラさんはオリーブ
 栽培をしながら、それぞれ農業学校の先生、農業アドバイザーを兼業している。
 農業だけでは食べていけないからだった。ふたりはこのままではイスラエル内
 のアラブ・パレスチナ人の農業が衰退してしまうという危機感を持っていた。
 衰退を止めるために近代的な有機農法で高品質なオリーブオイルを作ることを
 目指そうと思った。ハダスさん(ユダヤ女性)とサーミヤさん(アラブ・パレ
 スチナ女性)は社会を変えていくには、女性たちが力をつけることが大事だと
 考えていたが、パレスチナ女性の仕事が減っていくなかで、教育・文化活動だ
 けでなく、具体的な女性たちの仕事作りが必要だと考えた。そこで地域に根ざ
 したオリーブに目をつけて、高品質なオリーブオイルを製造・販売することで
 地域を活性化しようと思った。こうしてシンディアナは立ち上げられたという。
 
   パレスチナの人は土地・農地を奪われ続け、水の利用が制限されてきた。ユ
 ダヤ人の農場は、広大で、十分灌漑されているが、アラブ・パレスチナ人の畑
 は小規模で、見ただけではっきりと違う。いくら地下に豊富な水があっても、
 深い井戸を掘ったり、水の施設を作ることはイスラエル政府に禁止されている。
 シンディアナのオリーブ林の灌漑用には数キロメートル離れた村から水道を引
 いている。その水道の許可をとるにも一年かかったという。シンディアナのオ
 リーブは丹念に一粒一粒手摘みで収穫されて、酸化を防ぐために収穫後24時
 間以内にオリーブをしぼってオリーブオイルにしている。大事につくられたオ
 リーブオイルは風味が豊かで、各地の国際コンペティションでも入賞している。
 たしかに試食したところ、くせのない味で美味しかった。パンにつけると、い
 くらでも食べてしまいそう!
 
  それからファラフェルサンドという中東のコロッケサンド、また食べたい!

 
  シンディアナのユダヤ人スタッフは、ユダヤ人優位のイスラエルの在り方を
 変えないといけないと考える「反シオニスト」であり、そしてユダヤ人が多数
 の国であることにもこだわらず、パレスチナ難民が故郷、つまり現イスラエル
 に帰還する権利も支持している。このように考えるユダヤ系イスラエル人の左
 派(「和平」派)のなかでもごく少数だという。

 
  最近は、イスラエル人によるパレスチナ人に対するヘイトスピーチ、ヘイト
 クライムが、これまで以上に多くなってきている。ユダヤ人の乗客がタクシー
 ドライバーがユダヤ人であるかどうかを確認する、つまりパレスチナ人ドライ
 バーのタクシーには乗らないなんてこともあるらしい。
 

 

 巻末にパレスチナの歴史がまとめてあったり、Q&Aのコーナーでパレスチナ
 人の生活について、具体的に解説がしてあって、パレスチナ人が置かれている
 状況がよくわかるようになっている。それにしても、ぼくは、あまりにも知ら
 ないことが多すぎる。パレスチナに住む人たちを身近に感じることから始める
 ことが大切なのだと思う。
 

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  やはりタイトルに惹かれるものがありますね。「ぼそぼそ声」。大声は苦手
 です。自分の思いが多数派にはなりそうもないことを予感しているけど、黙っ
 ているわけにはいかない。そんな感じでしょうか。
 
 『ぼそぼそ声のフェミニズム』、栗田隆子、作品社、2019
 
  著者はフェミニズム思想に親しみを抱きつつ、労働運動などを行ってきまし
 た。もっともそれは一筋縄ではない道程だったのですが。その中で感じたこと
 を「ぼそぼそ」と呟いています。
 
  例えば本書第7章「『愚かさ』と『弱さ』の尊重」では、貧困問題の文脈に
 感じる違和感を取り上げています。
 
  貧困問題を語るなかでよく言われるのが、貧困は自己責任であるということ
 です。努力が足りないから貧困に陥っているのだと。つまり貧困は個人で解決
 できる問題であると言っています。

  これに反対する側の立場、そこではどう貧困を捉えているのかというと、
 「努力ができないことは社会的な背景があり、構造の問題である」(p,145)
 という主張がなされたりします。著者によると「多くの反貧困の運動はこの発
 想に根ざしている」(同前)らしいのですが…。
 
  しかしこの反貧困の理屈は、人間は努力をするものだという前提になりった
 っています。本書では「努力本性説」と呼ばれていますが。しかしこれは構造
 が撤去されてなお貧困から抜け出せないのは結局自己責任だといってるという
 ことですよね。
 
  努力できないという中には、したくてもできなかったり、したくなかったり、
 したいのかしたくないのかよくわからないとか、色々な感情が渦巻いているわ
 けですが…。あんまりやる気が出ないとか。明確な理由が無いこともあります。
 なかなかそのあたりは言語化しにくいところもあります。
 
  なにより「努力本性説」は言う側が楽だから、声高に叫ばれやすい。何でも
 かんでも努力が足りないで切って捨てればいいわけですから。それでも著者は
 それに対する違和感をつぶやくのです。努力できなかったり、しなかったりす
 ることそういう「弱さ」を尊重すること。それが大事なことではないかと。
 
  第9章『「気持ち悪い」男・「気持ち悪い」出来事』出来事では、様々な社
 会運動の場で著者が感じたある違和感について語られています。
 
  男性が支配的な態度をとること、パワハラ・セクハラです。弱者を手助けす
 る運動の中で、弱者を「かわいそう」な人と位置づけることによって支配しよ
 うとすることです。本書では弱者萌えと呼ばれていますが、これは運動の対象
 にのみ発揮されるのではなく、自分より「弱い」立場の同じ運動の仲間にも向
 けられます。
 
  著者は会合で発表をした際に、その内容には触れず「一生懸命で、かわいか
 った。」(p,167)という感想を言われたことがあるようなのですが、こういっ
 たところに端的にあらわれています。相手を愛玩動物のように扱う態度に、相
 手を尊重する気持ちは感じられません。性的な感情もそこに入ってきたりしま
 す。
 
  しかも外見上は運動の対象や、仲間内に熱心に働きかけているので運動家と
 しては優れた人という評価が与えられたりしてしまいます。そして当の本人も
 社会運動の目標と自分の欲望が渾然一体としてしまって、パワハラ・セクハラ
 をしている自分を自覚できなくなってしまいます。
 
  非常に厄介というか付き合いたくない。暴力とかではなく理屈で支配しよう
 としてくるところも、外から気づきにくいところがあるのかもしれませんが…。
 わざわざそんなことに疲弊してまで運動をやる必要はなく、運動の現場では被
 害者は去っていくだけなので問題が顕在化しにくいということもあります。
 
  もちろん支配的な立場(地位が高かったり・先輩だったり)になっていけば
 男女問わずこうなる可能性は高くなるわけですが、男性であるということはそ
 れだけで女性に対して支配的な立場を容易に取れるので、「気持ち悪い」男が
 たくさんいるのでしょう。
 
  私自身も「気持ち悪く」ならないように気をつけなければいけませんが。本
 書のような本を読んでわかったつもりになるのは危ないかもしれません。それ
 でも本書の様々なぼそぼそ声の多くが私の心に響くものでした(響き方が違う
 可能性はありますが)。
 
  本書では今までの社会運動で見落とされたり、触れられていなかったことに
 気づかせてくれます。それと同時に自分が今までぼんやりと感じていた違和感
 にことばが与えられたと思う読者の方もいるのではないでしょうか。その違和
 感を大事に咀嚼するにもうってつけです。
        
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ ブックオカ2019
 └─────────────────────────────────
 ひと月近い「ブックオカ2019」も後半折り返し地点です。
 まだまだ楽しいイベントが目白押し!
 
 □書店員ナイトin福岡[拡大版]□□ 
 
 ◆日時:11月12日(火) 19時半〜(開場19時) 
 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ゲストに田尻久子さん(熊本「橙書店・オレンジ」店主)を迎えます。
 
 熊本で本屋兼喫茶店「橙書店・オレンジ」を営みながら、
 文芸誌『アルテリ』責任編集や、
 西日本新聞書評欄や雑誌『SWITCH』等の連載で活躍中の田尻久子さん。
 11月に上梓される3作目の著書『橙書店にて』(晶文社)の話題にも触れつつ、
 熊本の街と人と本をつないできた田尻さんの営みに迫ります
 一般の方も歓迎です!
 
 ◎田尻久子さん◎
 1969年熊本市生まれ。橙書店・オレンジ店主。会社勤めを経て2001年に雑貨
 と喫茶の店orangeを開店。2008年に隣の空き店舗を借り増しして橙書店を開く。
 2016年より渡辺京二氏の呼びかけにより創刊した熊本発の文芸誌『アルテリ』
 の発行・責任編集をつとめる。同年熊本地震被災後、近くに移転し再開。
 2017年、第39回サントリー地域文化賞受賞。2019年11月、
 最新作『橙書店にて』(晶文社)を上梓。他著書に
 『猫はしっぽでしゃべる』(ナナロク社)、『みぎわに立って』(里山社)がある。
 現在、西日本新聞で「カリスマ書店員の激オシ本」を、雑誌『SWITCH』で
 「橙が実るまで」を連載中。
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877
 
 ★会費:2000円 *1ドリンク&軽食付き 
 お問合せは、info@bookuoka.com Tel: 092-406-2036(事務局=忘羊社) 
 
 ☆共催 西南学院大学「〈ことばの力〉養成講座」 
 
 
 □第2回『読婦の友』読書会  「あなたと座談延長戦!」□□ 
 
 ◆日時:11月17日(日) 14時〜15時半 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ミニコミ誌『読婦の友』の巻頭座談会の気分で、一緒に本を語りませんか?
 課題図書は『平場の月』(朝倉かすみ/光文社)。
 その他「大人の恋愛本」も持参でどうぞ!
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877(先着10名) 
 ★料金:1000円(1ドリンク付き) 
 お問合せ ajirobooks@gmail.com(書肆侃侃房 担当:池田) 
 
 ☆主催 ブックオカ婦人部 
                                                       ―HPより抜粋― 
 ■ 第9回 かまくらブックフェスタ
 └─────────────────────────────────
 個性豊かな出版社や、本と活字にまつわるユニークな活動をする人々が集まり、
 出版物を展示販売します。
 広い庭のある落ち着いた空間で、大切な一冊となる本に出会えますように。
 会場にはコーヒーと軽食のコーナーも。書店ではうもれがちなおもしろい本、
 貴重な本の数々が、本好きのかたのご来場をお待ちしています。
 
 ◆会期:2019年11月2日(土)・3日(日・祝) 10時から18時 
 
 ◇会場:garden & space くるくる
      鎌倉市由比ガ浜2-7-12
      JR「鎌倉駅」徒歩10分・江ノ電「和田塚駅」徒歩3分
   
 ★出展
 牛若丸/UTSUWA SHOKEN+text,(テクスト)/ecrit(エクリ)/北と南とヒロイヨミ
 共和国/群像社/新曜社/タバブックス/鐵線書林+ktr/夏葉社
 編集工房ノア+ぽかん編集室/りいぶる・とふん+みずのわ出版
 アンドサタデー 珈琲と編集と/港の人
 
 
 □同時開催イベント□□
 
 「山田稔自選集」(編集工房ノア)
「門司の幼少時代」(ぽかん編集室)刊行記念
 
 講演「堀江敏幸が語る山田稔文学の魅力」
 
 作家・堀江敏幸さんを鎌倉にお迎えし、
 山田稔さんの文学について語っていただきます。
 堀江敏幸さんは『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)の
 解説において
 「山田稔が固有名詞であると同時に、ひとつの文学ジャンルであることは、
 もはや疑いようがない」とし、
 散文芸術とも言われる山田稔文学の真価を繙かれました。
 1930年生まれである山田稔さんは、
 近年も『天野さんの傘』『こないだ』(編集工房ノア、2015年・2018年)などに
 おいて、
 独自の文学をますます極めていらっしゃいます。
 読者を深く魅了してやまない、
 おふたりの作家の「声」に触れる時間をもちたいと思います。 
 
 ◆日時:2019年11月2日(土曜) 14時半から16時(14時開場)
 
 ☆出演:堀江敏幸(作家、仏文学者)
 
 
 ◎堀江敏幸 (ほりえとしゆき)◎◎
 作家、仏文学者。早稲田大学教授。『おぱらばん』(三島由紀夫賞)、
 『熊の敷石』(芥川賞)、『雪沼とその周辺』(谷崎潤一郎賞)、『正弦曲線』
 (読売文学賞)、『曇天記』『オールドレンズの神のもとで』『傍らにいた人』
 など著書多数。
 
 
 講演「AIR LANGUAGE──さらなる空中の本へ」

 同日開催 ≪air language program 2019≫展
 
 かまくらブックフェスタでは、
 2011年の第1回より詩人の平出隆さんに講演をお願いしてきました。
 初回は2010年秋に創刊された《via wwalnuts 叢書》についてのお話を伺い、
 2017年には「空中の本へ」と題された、
 きわめて刺激的な書物論を展開していただきました。
 昨年は《言語と美術──平出隆と美術家たち》展(DIC川村記念美術館)
 が開催され、
 河原温、加納光於、若林奮ら美術家たちとの対話に呼応する、
 書物空間論としての《Air Language Program》が、
 新たな詩作としても示されました。
 この展示を経て、
 さらに強靭に実践されつつある書物論について
 語っていただきたいと思います。
 
 同会場で講演前に《言語と美術》展関連の映像を上映いたします。
 また会場では、 
 新刊の《via wwalnuts 叢書》美術論シリーズを販売いたします。
 
 ◎平出隆(ひらいで・たかし)◎◎
 詩人、作家。多摩美術大学教授、多摩美術大学図書館長。近著に『私のティ
 ーアガルテン行』『言語と美術──平出隆と美術家たち』など。
 《via wwalnuts 叢書》《crystal cage 叢書》《ppripo》など独自の出版プロジェ
 クトをもつ。
 
 ◆日時:2019年11月3日(日曜・祝日)
    展示:10時から13時半
    講演:14時半から16時(14時開場) 
 ◇会場:由比ガ浜公会堂(本会場より徒歩1分)
 
 ★講演入場料:各1500円
 
 参加ご希望のかたはメールか電話で予約をお願いします。定員50名です。
 入場料は当日受付にてお支払いください。
 3日におこなう展示は10時から13時半。どなたでも無料でご覧いただけます。
 
 ▼イベント予約方法
  メール kamakura@minatonohito.jp
  お名前と希望人数を明記ください。
  2〜3日中に、確認のメールを返信します。
  返信がない場合はお問い合わせ下さい。
  電話  0467-60-1374 港の人
  土日は不在の場合があります。
  その際はおかけ直し下さい。
 
 問い合わせ先
 港の人
 〒248-0014 鎌倉市由比ガ浜 3-11-49
     tel 0467-60-1374 fax 0467-60-1375
      mail:info@minatonohito.jp

 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき  
 台風19号、そして今も降り続く雨。被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げま
 す。
 そして、ついに、こんなに配信が遅くなり、読者の皆様、著者の皆様、本のメル
 マガ関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳りません。
 お詫び申し上げます。毎度遅れておりますが、このように遅れることは、今後
 無いようにいたします。本当にすみませんせした。
 10月25日からは神田古本まつりが始まり、あいにくの雨ですが、60回を迎える
 本の街の本のイベントがやっております。
 いろいろと暗い話が多いですが、楽しい時間を過ごせますように。
 また、全国でも本のイベントが開催されます。
 美味しいものでも食べ、面白い本と出会いひとと出会う、そんな時間をお過ごし
 ください。                       畠中理恵子
  
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[本]のメルマガ vol.731

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★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その40「贅沢な水」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ Zoomオンライン革命!

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その40「贅沢な水」

 たった、一杯の水の描写なのに忘れられない水がある。

 それは、二人の作家の小説と随筆の中に現れるのだが、どちらの作品もおい
しそうな食物がどっさり描かれているのだけれど、どんなご馳走よりも、この
コップ一杯の水の方が、なぜか忘れがたいのだ。

 それは、レモンを浮かばせた水。

 まずは宮本百合子著の『二つの庭』を見てみたい。

 この物語の舞台は昭和二年だが、書きあげられたのは戦後の昭和二十二年の
八月。長い食糧難の中で書かれたせいか実においしそうな食べ物の描写で溢れ
ている。その事については以前にも、本のメルマガvol.635とvol.638で、「味
覚の想像力−本の中の食物その8」および「その9」で、「中條百合子の恋
『二つの庭』」として言及しているのでご参照いただきたい。

 さて、今回の場面は以下のようなところから始まる。

 主人公の伸子が友人の素子とロシアへ行くことを決めて、父の知り合いの政
治家に旅券の裏書をしてもらう用件で実家に父を訪ねて行く。母や妹は海辺の
別荘に行って留守のはずなのに、家の角を曲がると聞き覚えのある車のクラク
ソンが聞こえる。玄関周りに三、四人の人影が見え、胸騒ぎを覚えながら入っ
ていくと、玄関にちらりと鶯色の羽織が見えて、母も帰って来たのがわかる。
入りぎわに運転手から、父と事務所からの帰りに上野にまわって皆を迎えに行
って来たところだと言われる。

「多計代は着いたなりの服装で食堂のいつもの場所に中腰で、早速大きいコッ
プにレモンの切れの浮いた水をもって来させているところだった。多計代の帰
京は急なことだったらしく、うちじゅうに特別なざわめきが感じられた。」

 私が忘れがたいのは、この「大きいコップにレモンの切れの浮いた水」なの
だ。

 まだ着替えもしていない家に着いたばかりの主婦が、こんな水を飲めること
の贅沢さがわかるだろうか?

 現代ならば、冷蔵庫を開けてレモンを取り出して薄く切り、コップに入れた
冷たい水に浮かばせて飲む、なんてことはすぐできるかもしれない。でも、そ
んな今の私たちとは違う贅沢さがこの一杯の水にはある気がする。

 この時代では、いつ帰って来るかわからない奥様の為にレモンを常備してお
くわけにはいかないだろう。氷式冷蔵庫も特に記載がないのでなかったかもし
れない。そうなると、今から帰るという連絡が入ったとたん台所は大騒ぎにな
り、女中が慌てて買い物に行き、夕飯の支度と共にレモンを買って用意し、奥
様がお帰りになったらすぐに出せるようにしておいたに違いない。それでこそ
奥様は指一本動かさずにこの水を飲めるわけだから、現代の私たちとは全然違
う贅沢さなのだ。

 先にも記したとおり、この物語の舞台は昭和二年。文学史的には芥川龍之介
が自死した年でもある。芥川龍之介の死から作者が受けた衝撃や葬儀の感想、
さらにその後の女性関係についての騒動についても、ここに描かれている。

 そして、その時代の作者の百合子の実家の食生活が色々と描かれていて、家
の主婦が一切食事を作らず台所専門の女中が食事を作るような中流の上の家庭
生活の様子がわかる。実家に来て、お茶の一杯も自分で入れない生活というの
は庶民の私には想像もつかないのだが、百合子はそういう生活を送ってきたの
だ。
 この家の息子たちもこの家の経済的地位の上昇にしたがって贅沢を身に着け
ていて、兄の方は親の留守宅で友人と一緒に出前の寿司を勝手に取っているし、
植物好きの弟は名家の温室を見学させてもらってからは、ひたすらメロン作り
に憧れている。
 戦中戦後の食糧難の時代の苦労を聞かされて育って来た身にとっては、戦前
の昭和の時代の贅沢さというものは想像がつかない。小学校もろくに通えずに
働きに出る人々がいる一方で、メロン作りに憧れるこの少年は、高校入学のお
祝いに温室をプレゼントされたことが、後の作品『道標』に描かれている。

 帰宅と同時に差し出される一杯のレモンの入った水は、そんな経済的に発展
した一中流家庭の贅沢さを象徴するもののようにも思える。
    
 時代は下って、昭和十二年刊の「林芙美子選集 3」にある随筆『朝御飯』
の中にも、この「レモンを浮かばせた水」が出てくる。

「倫敦で二ヶ月ばかり下宿住いをしたことがあるけれど、二ヶ月のあいだじゅ
う朝御飯が同じ献立だったのにはびっくりしてしまった」

と、始まるこの作品は、「オートミール、ハムエッグス、ベーコン、紅茶」が
毎日出されたことに驚いて今でもこの献立を見ると胸がつかえる気がすると言
いながら、オートミールは熱々にバターと塩か、またはママレードに砂糖と牛
乳をかけるといい等と書かれていて、なかなかおいしそうな話になって行く。
 パリのカフェのクロワッサンと珈琲がとても性に合うと言いながらも、家で
は紅茶と野菜サンドイッチだと言い、次々とおいしそうな野菜サンドの作り方
が書かれていく。あげくに、

「トマトをパンに挟む時は、パンの内側にピーナツバタを塗って召し上れ。美
味きこと天上に登る心地。」

 なんて言われてみれば、これは試さずにはいられないという気がする。

 夏の朝に炊き立てのご飯に冷たい水をかけて食べる朝御飯。

 徹夜明けのもうろうとした頭で、冷蔵庫から冷えたウィスキーを取り出し、
小さなコップ一杯飲むだけというような、いかにも作家風の朝御飯。

 続いて、旅先での旅館の食事の記述が続き、炊き立てのご飯ではなく何度も
「ふかし飯」を出したことに怒ってみせ、その旅館を実名入りで書いている。
かと思えば、樺太や北京という旅先での朝御飯に筆が及んで行く。生まれつき
放浪者である芙美子だが、その行動範囲はどんどん広がっていたことがわかる。

 筆はやがて又自宅での朝食風景に戻り、最後の方に、このレモンを浮かばせ
た水が姿を現す。

「私はこのごろ、朝々レモンを輪切りにして水に浮かして飲んでいるけれど運
動不足の躯には大変いいように思う」

 何となくこれは、おいしいからというより、健康のためというニュアンスが
してくる。

 林芙美子は料理上手だったらしいから、この文章からは女中に言いつけて持
ってこさせるというより、レモンを自分で冷蔵庫から取り出し、ササッと切っ
て冷たい水に浮かばせる手際のいい様子が見えて来る気がする。

 そんな風な記述の後、話は金沢の雲丹がおいしいという方向に向かって行く。
ジャガイモやトーストパンにバターの代わりにつけて召し上がれと言われても、
その高価なことを知っている身にとってはたじろがざるをえない。もっとも、
筆者は雲丹が食べられないので、よくわからない味なのが残念だ。

 旅先や家庭でのそれなりに贅沢な朝御飯の中に唐突に顔を出すこのレモンを
浮かばせた水。楽しそうだけれど慌ただしい気もする食べ物の記述の中で、何
故かそこだけが気になってしまうのだ。

 伸子の母の多計代も健康のために飲んでいたのだろうか?もしかすると、こ
のレモン入りの水は、時代の流行だったのかもしれない。

 先に挙げた『二つの庭』の素子のモデルである湯浅芳子が編集していた「愛
国婦人」という機関誌を見てみよう。

 大正十一年七月号の料理記事「涼しい夏の飲みものとゼリー」に、「レモン
ゼール」という飲み物の作り方が紹介されている。レシピを見てみよう。

「先づレモンを輪切りに二つとなし充分に汁を取る、氷は綺麗に洗ひ清潔なる
器物に入れて氷かきにて小さいコロコロに砕く、その氷に砂糖を入れてサイダ
ーを注ぎ最後にレモン汁を入れて供す」

 今ならレモンスカッシュというところだろうと思うのだが、このゼールの意
味は不明だ。このレシピ集で次に出てくるのが「イチゴソーダ水」なのだが、
こちらはイチゴシロップとラムネで作るとあって、なんとなく安易で、レモン
ゼールの方が上等な感じがする。何しろこちらのレシピには、

「氷は前の様にして用ふ其の他は全部前と同法にして供すればよろし」

とだけあるのだが、甘いイチゴシロップに甘いラムネを加えてさらに砂糖を入
れるとなると、あまりにも甘すぎる気がする。「よろし」といわれても、これ
はまずいでしょうと思うのだ。

 まあ、それはともかく、これを見ると、大正期にはレモンはすでに身近な果
物となっていたようだ。

 さらにその効用については、大正十二年の八月号の「美しくなるにはどんな
食物を摂ればよいか」という記事の中で「血を冷やして置く事、つまり皮膚を
サバサバと清涼にして置くのには、同じ酢の物でも、これに使ふ酢はレモンの
絞汁数滴を持って代える事と」と、レモンを使うように薦めている。続く文章
で、ちしゃ(レタス)のサラダにもレモンと油のドレッシングがいいと言って
いる。

 もっともこの記事は、あまり根拠がないままトマトが肝臓にいいとかアメリ
カでは水を一升二合飲むのだとか書いているから眉唾な文章なのだが、レモン
が体にいいものだということが大正期にはすでに誰もが認識していたというこ
とはうかがえるようだ。

 『二つの庭』の多計代のモデルの葭江には糖尿病の持病があり、林芙美子も
若くして心臓発作で亡くなることを知っている身には、このレモンを浮かばせ
た水には、やはり健康を意識したものが感じられてくる。

 贅沢な水。

 体にいいような気もするけれど、果汁を絞っているわけではない、レモンの
輪切りが浮かんだだけの水。

 それなのに、こんなに惹きつけられるのは、一家の主婦でもあるこの女性二
人が、家族のために用意するのではなく、自分自身のためだけに一人で飲んで
いるからではないだろうか。

 朝日のさしこむ食卓の上で、きらきらと輝く、レモンの輪切りを浮かばせた
グラス一杯の水。

 こんなふうに憧れながら、毎朝の慌しさの中で、この水を飲めないまま日々
を過ごしている。


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『宮本百合子全集』新日本出版
『二つの庭』                  宮本百合子著 新潮文庫
『林芙美子全集』文泉堂出版
『林芙美子選集』改造社
『林芙美子随筆集』               林芙美子著 岩波文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
 く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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Zoomオンライン革命!

 最近、仕事で、facebook と Zoomをかなり使っている。特にここのところの
Zoom使用率はかなり高い。

 Zoomを御存じない方もいらっしゃるので簡単に説明すると、無料でも使える
オンライン会議のアプリである。有料版でも毎月1000円ちょっとなので、お気
楽に導入できて使い倒せる。ちなみに、主催側ではなく参加側はずーっと無料
である。

 このZoom、これまでの類似のものと比べて、段違いにテクノロジーが進んで
いる感がある。メルカリがそれまでのサービスを質において凌駕したように、
同じような技術の成熟を感じる。

 特に「ブレイク」という機能は秀逸。これは例えば、オンラインでワークシ
ョップなどを行うことを可能にする技術で、オンライン上で小さなグループ分
けをして、その中だけで話し合うことができる。だから、小グループで話し合
って、その後、集まってシェア、といったこともできる。

 これ、すごくないだろうか?

 で、Zoomがすごいと言っても、単なるアプリである。問題は、このようなテ
クノロジーが進化することによって人の動き方、生活が変わる、もっといっち
ゃえば、人生が変わる、ということが、まさに「革命」なんだと思う。

 『Zoomオンライン革命!』著者の田原真人さんは現在はマレーシア在住。か
つては仙台在住でしたが、3.11とその後の混乱でマレーシアに移住。すべての
仕事をオンライン化し、現在、世界中の人とつながり、様々なプロジェクトを
起こしたり参加したりされています。

 私が田原さんと出会ったのは、Eessential Management School(以下、EMS)
というマネジメント・スクールのお手伝いを2018年10月からさせていただいて
いて、そこでお知り合いになりました。

 このEMSでは授業の他に「部活」といって、様々な方が御自身の関心に基づい
て参加する自由な活動があり、活動自体もZoomでやっていたりします。その部
活のひとつの会に田原さんに参加いただいたのがきっかけでした。

 このZoom、私はEMSに関わるまで未体験だったのですが、体験してしまうと
その便利さに驚き、実際に大阪と東京をつないだ研修でも導入してみました。
まったく違和感なし。これまでの集合研修にかかっていたコストは何だったの
だろう、という感じでした。

 そして、現在の私の状態といえば、ミーティングのほとんどがZoom会議にな
ってしまいました。これは良し悪しかもしれませんが、Facebookでグループメ
ッセージが立ち上がり、打合せしたいけどと、時間調整し、すぐに会議が始ま
る。移動も不要。どころか、移動中でも参加できます。声が出せなきゃチャッ
トもできるので、電車の中から参加していることもあります。

 私はどちらかというとフリーランスのような動き方をしているので、私も私
の周りもこういうテクノロジーは入れやすいのですが、日本の旧来の企業です
と、なかなかこういうものが取り入れにくい状態なんだろうなぁ、と感じてい
ます。

 もし、本気でこういうテクノロジーを企業が取り入れると、

・研修がオンライン化
・会議もオンライン化
・飲み会もオンライン化
・そもそも会社に行く必要がなくなる

 こんなことが実現してしまいます。

 例えば最後の、いわゆる在宅勤務ですが、これにはいろいろ旧来の常識から
の否定論も多いのではないかと思われます。では、仮に、勤務時間中、Zoomを
つなぎっぱなしにしとけば問題ないのでは?と思うのです。

 会社の近くに住んでいる人は会社に行き、いわゆるオペレーション系の仕事
を主に担当します。オンライン側に居る人が、どうしても物理的な何かをいじ
らなければならないもの。例えば、なんでしょうね。宅急便の箱を開けるとか、
そういう感じでしょうか。会社のサーバーとはリモートでつなげば問題ないの
で、自宅に居ながら、会社の環境で仕事をするのは全く問題ないはず。少なく
とも、関東圏の朝の電車のラッシュで社員をドナドナのように毎日移動させる
コストをかけるくらいなら、通信環境を整える方に予算を使う方が良いような
気がします。

 できないのはハグぐらいでしょうが、日本にはハグの習慣はないから大丈夫
でしょう。

 もちろん「研修のオンライン化」なんぞが実現してしまうと、これまでの既
得権益…これはお金もそうですし、仕事そのものもそうですね、側の人にとっ
ては大問題。だからいろいろ難癖つけて反対するでしょうが、反対の声が大き
ければ大きいほど、早く移行した組織はその成果を得られる。そんな時代にな
ってきているように思います。

 来年はオリンピック。東京都庁は御触れを出して、できるだけ競技時間前後
に社員に通勤させないように呼びかけていると漏れ聞こえています。だったら、
今から既得権益の声を封じ、すべてをオンライン化してしまう「革命」を、と
っとと起こしてしまえばいいのでは?と思ったりもします。

 あ、だったら、そもそも東京に住んでいる人を雇用する必要もないね。

参考URL)
・Zoom
  https://zoom.us/jp-jp/meetings.html
・Zoom 会議(YouTube)
  https://www.youtube.com/watch?v=yczj_3EBGo0
・東京 2020 大会時の交通対策
  https://2020tdm.tokyo/traffic/index.html
・Zoom革命−企業様向けZOOM革命のサービス
  https://zoom-japan.net/enterprise-services/
・Eessential Management School
  https://essential-management.jimdofree.com/

おまけ)
「テクノロジーがどのように学びと組織の構造を変えていくのか?」という点
について、Zoomを使った無料イベントを企画しました。御興味ある方であれば
誰でも参加できます。(Facebookイベントページより「参加」をクリック!)

10/11 19:00-20:30@Zoom
・自律型組織の土台を作る主体的な学びのデザイン
 https://www.facebook.com/events/2444526765823319/

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 昔は大組織に居た方が、最新の情報やテクノロジーに触れることができたの
が、今は逆に、個人と個人のゆるやかな集まりの方が、テクノロジーに合わせ
て組織の形を変えて進化できる時代になったなーという実感があります。

 日本は今更大きなインフラを改築できない国家になりつつあります。もっと
ミニマムな仕組みに置き直す時期が来ているように思います。(aguni原口)

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→ルナ3号切手が2号より早くなった理由

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『ヴィジュアル版 シルクロード歴史大百科』
ジョーディー・トール著 岡本千晶訳
A4変型判 264ページ 本体5,800円+税 ISBN:9784562056811

中央アジアを横断する「シルクロード」は、物資・文化・民族などの東西移動
の最も重要な幹線だった。本書は美しい大判写真と資料図版、年表、地図によ
って古代の壮大な交易ルート「絹の道」をたどり、文化と歴史をガイドする。
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第103 回 レオナルドの経済事情 ─ 500年前に戻って...【その2】

1504年にフィレンツェ政庁からフレスコ画《アンギアーリの戦い》の仕事を
依頼されるまで、レオナルドは4年以上の期間、サンタ・マリア・ヌオヴァ病
院の貸方に入金した600フィオリーニを引き出しながら暮らさざるをえなかっ
た。

同じ年の7月に公証人の父親ピエロが死去した。レオナルドが庶子だったこと
は、父親の遺産が全て義兄弟によって受け継がれ、何一つレオナルドは継げな
かったということだ。レオナルドはそれについては “いかなる行為も起こして
ない”と、記事の筆者は念をいれて書いている。

《アンギアーリの戦い》の下絵は1505年2月が完成期限で、報酬が毎月15フ
ィオリーニという条件だった。下絵の進行はおそかった。この状況に、フィレ
ンツェ共和国へのレオナルドの詐欺だという噂話がでるほどだった。憤慨した
レオナルドは2年間の金額をまとめて返すとスタンドプレーをし、返金はしな
い。

レオナルドの評価がミラノ公国を統治するフランスからも高いため、苦境を逃
れてミラノに行くことも考えた。公国のトゥリヴルツィオ全権大使からのオフ
ァーがきて、新たに騎馬像モニュメントの制作で4000ドゥカーティが提示さ
れた。レオナルドはそれを下回る3000ドゥカーティで見積もりを出してい
る。
ミラノでは押収されたブドウ畑を何よりも早く回収したく、《岩窟の聖母》制
作をめぐる信者会との悶着を解決する必要もあった。

1505年5月30日、レオナルドはフィレンツェから3カ月間離れるく許可を政
庁に願いでた。許可は出たが、万一戻らない場合は150フィオリーニの罰金と
いう条件だった。ミラノに発ち、シャルル・ダンボワーズ総督に迎えられ、フ
ランス王ルイ12世のミラノ到着を待って仕える手はずになっていた。

1507年にレオナルドの父親の兄弟フランチェスコが死去との知らせがあり、
遺産としてレオナルドにフィレンツェ北部フィエーゾレの土地を遺していた。
義兄弟はこの遺言に異議を申し立て、レオナルドは今度は激しく対抗する。

法廷で正当を認められるよう、フランス王ルイ12世とエステ家のイッポリト
枢機卿に援護を求める。レオナルドの知己がこれほどの高位の人物とわかった
義兄弟は降伏した:フィエーゾレの土地が庶子レオナルドの所有となった。

1508年にルイ12世の“国王の画家”としてレオナルドはミラノに戻った。2年
間で390スク─ディと200フランという報酬だった。これ以外にミラノの運河
の水の供給権による収入があったという。

ちなみに400スク─ディがどのくらいの価値かとネットで調べたら、同じ年代
の事例がなくて、ほぼ百年後の16世紀末の例では、一日に10−12時間の労働
で16年間分(6000日)もの報酬額にあたるという。

異変が4年後の1512年12月29日に起きる。皇帝軍によってミラノ公国のフラ
ンス統治が一掃された。またの経済上の不運。

しかし、60歳のレオナルドにとって逆境というわけではない。フィレンツェ
の病院にある預金はかなりの額だったし、さらに、賃貸の管理を任せたのが頼
れない徒弟のサライという難点はあるものの、ブドウ畑からの収入もあった。

1513年に思いがけないことが別の方向からきた。ローマの教皇庁にいる教皇
レオ10世の弟、ジュリアーノ・デ・メディチから要請があった。
フィレンツェに寄って病院の預金に300スクーディを入金し、ローマに赴い
た。
しかし、ジュリアーノ・デ・メディチは2年後に死去する。

そこへフランス国王に即位したばかりのフランソワ1世からの招聘がある。フ
ランスの麗しい邸宅と潤沢な年金が提示され、レオナルドは受諾してフランス
の中部アンボワーズに向かう。小さなクロ・リュセ城に住み、年金は年に
1000スクーディという晩年だが、レオナルドは最終地点にいた。

1519年4月23日に遺言をすませた。
ミラノからレオナルドに同行したフランチェスコ・メルツィは信頼した秘書で
もあり、全ての著作物と素描、衣服と現金を遺した。もっとも愛着の深いサラ
イはフランスに同行しなかったが、ミラノのブドウ畑の半分の所有権を与え
た。もう半分は雇人に、運河の水の供給権による収入とともに遺す。

義兄弟にもフィエーゾレの土地とフィレンツェの預金額400スクーディを遺言
に記している。5月2日の死を知った親族は矢のようにフィレンツェの預金に
飛んでいき、数日で使い果たしたとか。

しかし、預金額には300スクーディがあっただけで、遺言にあった400スク─
ディではなかった!
これはレオナルドのあの世からの復讐だったのか?
著者の最後の言葉だ。

出典を再度記します:
https://www.ilsole24ore.com/art/i-conti-tasca-leonardo-AClijua

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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奥田英朗 『罪の轍』新潮社 1800円+税

吉展ちゃん事件が起きたのは1963年の春のこと。小学校に入学する直前
に起きたこの事件は、筆者の印象に強く残っています。吉展ちゃん事件は、テ
レビによって大大的に取り上げられた、最初の凶悪事件でもありました。脅迫
電話の犯人の声がテレビで流され、複数の歌手が犯人へのメッセージソングを
歌います。警察の初動捜査の誤りから、事件の解決には2年以上の時日を要し
たのです。『オリンピックの身代金』で地方出身者を搾取する東京の暗部を描
き出した著者は、本書においてこの「史上最大の誘拐事件」に挑みます。

宇野寛治には脳に機能障害があります。寛治の継父は、金をゆすりとるため
に何度も幼い彼を走る車の前に突き出していました。脳の障害はその時の後遺
症です。そのため寛治の記憶力は極めて乏しく、周囲から「莫迦」と蔑まれて
いました。「当たり屋」体験のPTSDにも寛治は苦しめられます。寛治は少年
時代から空き巣の常習犯。母とともに流れ着いた礼文島では、悪い漁師仲間か
ら網元の家の納屋に火をつけ、その間に盗みに入るよう唆されます。漁師仲間
に裏切られ、殺されそうになった寛治は、命からがら島から脱出します。

「上京」を果たした寛治は、ここでも空き巣を重ねています。山谷で知り合
った在日二世でチンピラの明夫は、寛治に親身に接してくれます。沖縄出身の
ストリップ劇場の踊り子、里子とは深い男女の仲となりました。差別されて生
きる者たちの間に友情が芽生えたのです。この時、たしかに寛治は幸せでし
た。小さな子どもの誘拐を思いついたのも、さる事情で大金を必要としていた
明夫を思う、義侠心からだったのです。寛治は、「吉男ちゃん」をつまらない
理由で殺してしまいます。里子との関係も悲劇的な結末を迎えたのです。

テレビの報道によって吉男ちゃん事件は国民的な関心事となりました。しか
し、視聴者からの膨大な情報提供に振り回されて捜査は混乱してしまいます。
マスコミの集中砲火的な取材と心無い無言電話等によって、吉男ちゃん一家の
生活は破壊されていきました。寛治は強硬な取り調べにも頑として口を割りま
せん。マスメディアは、警察への批判を強めていきます。迷宮入りの危機を救
ったのは、伝説の名刑事平塚八兵衛を彷彿させる人情派のベテラン刑事大場
と、心理学にも通じる新世代の大卒刑事落合の名コンビだったのです。

筆者も多くの犯罪小説を読んできましたが、宇野寛治ほど、哀れで同情に値
する凶悪犯を他に知りません。彼の悲惨な幼児体験がなければ、吉男ちゃん事
件も起きなかったはずです。「悪さっていうのは繋がってるんだ。おれが盗み
を働くのは、おれだけのせいじゃねえ。おれを作ったのは、オガやオドだべ」
(514頁)ということばには胸を突かれます。大場と落合の合力によって寛
治は自白し、吉男ちゃんの遺体が発見されます。しかし物語はさらに続き、驚
愕のラストが待ち受けています。本書は犯罪小説として類稀な傑作です。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「誰が上げてくれる?」の話

消費税が上がる。私も昔は「少子高齢化で社会保障費も上がるし…消費税は仕
方無いのか」などと思っていた事もあった。だが「消費税は目的税」が嘘っぱ
ちだとわかった今は真っ向から反対している。これだけ反対しても消費税は来
月から10%になる。

毎回ながら納得がいかないのは「何%って元々の金額に対して算出するよね?
なんで上がった金額を元に計算してんの?ビールって酒税かかってるのになん
でかかった税金に消費税をかけてくれてんの?ガソリンだってそーだよね?誰
か説明しろよ!」と言う、もう多分に言い尽くされ、なのに誰も説明出来ない
し、しようとしない案件の事だが…。

今回はこちらでなく「税金が上がる分、誰か私のギャラを上げてくれる人はい
ますか?」と言う話。

自慢じゃないが消費税が導入されてからこのかた、原稿料が上がった試しはな
い。下手すると下がってるぐらいだし、経済が落ち込んでから仕事そのものも
減ってしまっている。

講師料も一回も上がっていない。ギャラ交渉の機会すらない。企業にお勤めの
方はもしかしたら微々でも上がっているかも知れないが、私の様なフリーラン
スのギャラは誰が上げてくれる?

原稿料がわずかではあっても春にちょっとづつ上がって行ったのは遥か昔の
話。増税を機にギャラ交渉…なんてした日にゃマンガの仕事も講師の仕事も無
くなってしまう。

トリクルダウンなどと言うホストクラブのシャンパンタワーみたいな話、例え
ば上から3段目ぐらいまでの量のしかつがなかったらそれ以下には落ちて来な
いし、そもそも3段目辺りに仕切りがあってそれが循環してたら一生シャンパ
ンは降ってこない。

最近、やたら出版社が「新人いませんか?」とセールスをかけてくる。セール
スをかけるなら「我が社はギャラも物価上昇率に連動させて上げて行きます
よ」ぐらい言って欲しいね。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■スプートニクとガガリーンの闇 23 内藤陽介
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ルナ3号
1959年9月13日に月面に到着したルナ2号(打ち上げは前日の12日)に続
き、スプートニク1号の打ち上げから2周年の記念日にあたる10月4日には、
ルナ3号がバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。

ルナ3号は直接月へ向かう軌道に投入され、10月6日、月の南極付近の上
空6200キロの地点まで最接近。月の引力で軌道を変えながら飛行を続け、翌
7日、月の上空6万3500キロの地点で撮影を開始します。29枚の写真を撮影
した後、月を半周して地球へ最接近する軌道に乗って地球へ戻りながら、18
日までに17枚の画像データを送信。この時撮影された写真が、人類として月
の裏側を撮影した最初の事例となった。

ルナ3号の成果により、月の裏側には表側(地球に向いている側)とは違っ
て“月の海”がほとんど存在しないことが明らかになったが、ソ連は、ぬかりな
く、ルナ3号によって判別できた月の地名に“モスクワの海”と名付けるなど、
自分たちが米国に先んじて月を“征服”したことを誇示している。

この間、10月12日にソ連が発行した記念切手

https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
201909241519534d7.jpg

は、地上から発射されたルナ3号が月の周囲を回って地球に戻り、さらに月へ
と向かっていくというプランが描かれており、このプランのゆえに、ソ連はル
ナ3号を“自動惑星間ステーション”と称している。

ルナ3号の実績からすれば、ここでいう“ステーション”は観測拠点と理解すべ
きものなのだが、それをあえてステーションと称した背後には、人々の宇宙に
対するロマンを掻き立て、あわせてソ連の宇宙技術に対する過大評価と幻想を
定着させようという意図が透けて見える。

ところで、前回のルナ2号の際には、打ち上げ日直後の9月14日にもソ連は
宇宙ロケットを描く切手を発行しているものの、月到着というルナ2号の具体
的な計画については切手の図案としては表現されていなかった。以前の記事で
紹介したルナ2号打ち上げの記念切手をソ連が発行したのは11月1日のこと
で、こちらは、ルナ2号の成功を確認してから切手の制作が開始されたものと
推測できる。

これに対して、今回の切手には、ルナ3号の具体的な予想航行図とあわせて、
打ち上げ日の10月4日という日付も入っている。この切手を10月12日に発行
するためには、遅くとも、ルナ2号が打ち上げられた時点では制作準備が進め
られていたはずで、ルナ3号の打ち上げが失敗に終わっていれば、切手は日の
目を見ることなく終わっていたはすだ。

そうしたリスクを冒しても、あえて、こうしたデザインの切手が準備された
のは、10月4日というルナ3号の打ち上げの日が、1957年のスプートニク1
号打ち上げから2周年の記念日であり、この2年間でソ連の宇宙開発が長足の
進歩を遂げたことを誇示しようという意図があったためだろう。その結果、ル
ナ3号の記念切手がルナ2号に先んじて発行されるという逆転現象が生じるこ
とになったのがなかなか興味深い。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
パレスチナ現代史: 岩のドームの郵便学』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
今月は意外と早い時間に発行できました。ありがたや・・・。

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[本]のメルマガ vol.729

 

 


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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第51回「カオスをコスモスにする仕事のキモを学ぶ,ということ」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第123回 うんとこしょ、どっこいしょ
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → テクノロジーの進歩が常に人間に幸福をもたらす?
     AIについて。
  
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 ■トピックス
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 三つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第51回「カオスをコスモスにする仕事のキモを学ぶ,ということ」
 
 こんにちは。もちろん時事問題には関心が大アリで,この国の行く末を心配す
 ることでは人後に落ちないつもりですが,取り敢えず今回は別の話を。
 
 来年度,と言っても,もう来月からに迫っていますが,紆余曲折あって勤務先
 の司書課程で「情報資源組織論」「図書館情報技術論」というふたつの講義を
 受け持つことになりました。今日は「情報資源組織論」のお話をしましょう。
 
 この講義は,わたしが大学で学んだ頃は「分類・目録論」という,1980年代ま
 での図書館学,そして図書館の現場における「専門性」の専門性たるゆえんを
 説く講義であったのでした。しかし1990年代以降は図書館業務の電算化に伴い,
 様々な館種の図書館にMARCが広く行き渡りコピーカタロギングが当たり前のよ
 うに行われるようになると,基本的に書籍を整理する業務を学ぶ「分類・目録
 論」と,分類作業と目録作成を柱とした,いわゆる「図書館員の専門性」論は
 図書館を論じる舞台の第一線から遥か後方に退くことになります。分類・目録
 論の栄光と転落は,例えば『図書館に訊け!』(井上真琴著/筑摩書房/2004年
 8月/ちくま新書486)でも,図書館内における目録担当部屋の消滅,という形
 で描かれています。
 
 のち,1996年度の図書館法施行規則の改定により,「分類・目録論」は「資料
 組織概説」と名称を変えますが,これは図書館で扱う「資料」が書籍と雑誌の
 枠を超えたことを考慮しての変更だったと記憶します。日本図書館協会が編集
 ・出版している『日本目録規則1987年版』の改訂も,片方では目録の電算化を
 見据えて,目録作成の方式を基本記入方式から記述ユニット方式へ変更すると
 いう改革を行う一方で,図書館が扱う目録の範囲を書籍から大きく範囲を広げ
 て雑誌のみならず,地球上に存在する人間の知的生産の結果をすべて図書館で
 扱い,目録化するという壮大な実験をしているのではないか,とあらぬ誤解を
 招きかねないほど様々な資料について,目録化を可能にする改訂が施されてい
 きます。講義の名称は変更されましたが,扱うべき図書館資料の内実と学ぶ対
 象に大きな変化はなく,「分類・目録論」の教科書の内容を引き継いだものが
 「資料組織概説」の教科書となっていました。
 
 そして2012年度より「資料組織概説」は「情報資源組織論」と再度名称を変更
 します。図書館業務において機械化・電算化と言われ,世の中ではOA化と称さ
 れていたものが,情報技術(Information TechnologyもしくはInformation
  and Communication Technology)の発達に伴い,情報化・情報社会の大きな
 進展に飲み込まれる形でインターネットが世界を席巻し,いまやほとんどの社
 会人がスマートフォンでインターネットにアクセス可能なほどの基盤整備が急
 速に実現している社会において,図書館学もまた「図書館情報学(Library
  and Information Science)」に衣替えしています。図書館もまた「情報」
 「情報化」とは無縁ではいることはできず,情報を図書館の活用できる「資源」
 として扱い,これを図書館間で共有し,利用者に提供できるような形で整理し
 ておかなければならない時代を迎えています。
 
 もともと図書館が所蔵する書籍や雑誌に分類を施しその目録を作成する,とい
 う一連の作業は,片や目録を作成することにより財産の管理を行うことが目的
 のひとつであり,他方で利用者(来館者)の求めに応じてすばやく的確な資料
 を提供することをもうひとつの大きな目的としていたわけですが,現在では
 「情報」という名称の下に集約される,当該図書館が所蔵していない(所有し
 ていない)資料をも整理し提供できるようにすることが,これからの「目録」
 作成者には求められるようになってきている,というのが,「情報資源組織論」
 という名称変更の主たる眼目ではないか,とわたしは見立てているのですが,
 さてどうでしょうか。司書養成カリキュラムの2011年度改訂後もなお,旧来の
 分類・目録論の枠から一歩も出ようとしていない情報資源組織論のテキストも
 あるのが現状です。
 
 こんなことを考えながら,「情報と知識の違いは」「情報資源とは何か」「図
 書館情報学における組織化とは何ぞや」「情報資源の組織化とは」「情報を的
 確に利用者に伝えるとき,図書館は何をする必要があるのか」などを15回に渡
 って講義してまいります。今日は花粉症とそのクスリに負けたので,この続き
 はまた後日。

 では,また次回。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第123回 うんとこしょ、どっこいしょ

 
  小さな絵本美術館 八ヶ岳館で「うちだ りさこ -遠い国の物語を日本の子
 どもたちへ- 展」という展覧会を開いていただくことになった。

 
  ぼくの母、内田莉莎子は児童文学の翻訳家で、主にロシア、ポーランドなど
 東欧の童話、絵本の翻訳、民話の再話などをしてきた。1997年に亡くなったが、
 50年近く子どもの本を翻訳してきた。1966年初版の『おおきなかぶ』
 (A・トルストイ 再話 佐藤忠良 絵 福音館書店)はずいぶん長いあいだ
 教科書にも載っているのでおなじみだと思う。いまでも幼稚園などで児童劇に
 なったり、ラジオで朗読が流れたり、ロシアの昔話のスタンダードとなってい
 るようだ。

 
 美術館の依頼で資料をさがしたのだけれど、引っ越しに次ぐ引っ越しで、本
 はダンボールに詰め込んだままで、それもきちんとまとめて詰めていないため、
 なかなか探している本が見つからない。やっとのことで主な絵本、童話、その
 原書を見つけ出した。もっとも主な絵本の原書は資料として出版社に寄贈した
 ため、手元には残っていない。

 
  それでも子どものころ、大好きだった『きつねものがたり』(ヨゼフ・ラダ
  作絵 福音館書店)の原書を見つかったのがうれしい! ぼくはラダの描く
 動物の絵が大好きだ。ラダはチェコの国民的なイラストレーターで、昨年、プ
 ラハに行ったとき、街中でイラストを見かけた。レストランチェーンの看板だ
 ったんだけど。
 
 
 絵本は、どうしても絵、絵描きが注目を集めることが多い。書店で絵本をさ
 がすとき、まず絵を見るものね。でも、面白いお話は、文章の魅力によるとこ
 ろが大きい。話の展開の面白さ、文章のリズム、テンポが楽しい絵本を作るの
 だと思う。とくに外国の絵本となると、日本とちがう外国の習慣や環境を子ど
 もにわかるように、違和感なく伝えなくてはならない。あまり目立たない裏方
 の仕事だけれど、翻訳の良し悪しで絵本(もちろんどんな本でもだが)の魅力
 が決まってしまう。目立たない、というのが母がこの仕事を続けてきた理由の
 ひとつだったような気がする。「トップは目指さないで、3位くらいがちょう
 どいい」が口癖だった。
 
 
 不肖の息子であるぼくもときどき翻訳の仕事をいただくようになったのだけ
 ど、翻訳や文章に困ったとき、それが難しければ難しいほど嬉しそうに答えて
 くれた。ぼくが原文にとらわれて、ウンウンと悩んでいると、母は、ときには
 大胆に「そこのところ、丸ごと、とっちゃえ!」なんていうこともあった。原
 文を忠実に訳すのではなく、作品の意味を伝えるために翻訳する、ということ
 だった。

 
  照れ臭さもあって、あまり翻訳について母と話したことはなかった。今回、
 いろいろと資料を探していて、何冊かの雑誌に翻訳についての原稿を見つけた。

 
  「翻訳というのは、原作のイメージをはっきりつかんで、テンポにのれて、
 生き生きとした自然な日本語になっていれば最高なのでしょうけれど、なかな
 かそれが難しくて、いつも苦しい思いばかりしています。原作の文章にあやつ
 られて自然に訳していたら、みんなに喜ばれる文章になっていた、というよう
 な幸福はことは、めったにあるものではありません」


  雑誌「翻訳の世界」1980年1月号で「経験をつんだ翻訳者のちから」という
 タイトルで翻訳の苦労を語っている。また、原作の雰囲気・内容を丁寧に伝え
 るということが翻訳の第一義だと思うが、結局自分は日本人で、原書を書いた
 人は外国人なのだから、作者が伝えたいことと自分がつかんだことは違うかも
 しれない。それは仕方がないことで、「作品を読んで私自身がああこういう世
 界なんだな、と感じたものを自分が日本語にするほかはありません」だからそ
 の責任は全部翻訳者にあるという。ときおり見せる母のきびしい面はこのよう
 な覚悟があったからだろう。

 
  翻訳は役者の演技や、音楽家の演奏にたとえられるが、内田莉莎子もそのと
 おりだといっている。作品の解釈と自分なりの表現というのは共通したもので、
 だから翻訳者によって翻訳作品はずいぶん変わってくる。たとえば谷川俊太郎
 や木島始のような詩人は、詩人としての日本語を持っているので訳文に強い個
 性を持っている。日本の児童文学のパイオニアともいえる瀬田貞二の翻訳は、
 瀬田が出したいものをフルに出している。

 
  それでは内田莉莎子はどうだったのか。それらの個性的な翻訳者に比べると、
 内田莉莎子自身は無色透明、個性のない翻訳者だという。それぞれの作品に合
 った文体を考えていて、いわば読者的な立場で翻訳をしている、といっている。

 
  原書に向かうとき、読者として作品を受け取って、自分を水みたいな状態に
 置いて、丸い器だったら丸く、くねくねしていたら、自分をせいいっぱいその
 器に合わせてくねくねさせるし、四角かったら四角く流れさせようと努力して
 いるといっている。

 
  自分が読者だったら、こういう日本語、こういう文体で読みたい、というの
 が文体を作る上での最大の判断基準なのだという。

 
 「素材としてだけ原文が与えられている民話の翻訳は、自分である程度自由に
 ふくらませるられるので、楽しく翻訳ができる。だが、創作の絵本は、読者と
 してはこう読みたい、だけどテキストはこうなっている、ということで、いつ
 も戦いがある。そういうときはギリギリの線であまりテキストからは遠ざから
 ないように翻訳する。」

 
  「翻訳の世界」1977年9月号では、こうもいっている。
 
  
「テキストを忠実に訳すことはもちろん大切ですが、テキストを一言一句ゆ
 るがせにせずすべての単語を訳すことが、必ずしも忠実な訳とは思えないので
 す。ある場合、べったり原文通りなぞった訳が、しまりのないのっぺらぼうな
 文章になって、原作者の意図した文章からはずれることもあるような気がしま
 す。丁寧な訳というのは、原作の内容、雰囲気、スタイルをできるだけきちん
 と伝える訳のことだと考えています。」

 
  もちろん原文を省略するのが良い翻訳といっているわけじゃない。テキスト
 だけにとらわれてはいけない、ということなのだと思う。茶の間のテーブルに
 原稿用紙を広げて、ひとつの文章、フレーズに納得がいかないと何冊も辞書を
 引きなおして、何回も原書を読み直していたすがたを思い出した。
「おおきな
 かぶ」のおなじみのフレーズ、原文にある「ひっぱる、ひっぱる、ひきぬけな
 い」を「うんとこしょ、どっこいしょ、まだまだ、かぶはぬけません」とした
 のは、こうした試行錯誤の上に生まれたフレーズだったのだろう。やはり翻訳
 家・内田莉莎子らしい訳文だったのだと思う。

 
  児童文学の翻訳家として単行本だけでも100冊近くを出している内田莉莎子だ
 が、雑誌「ポロニカ 1990年創刊号」(恒文社)掲載の「私が出会ったポーラ
 ンド児童文学」というエッセイの冒頭部分で石井桃子の翻訳によるエリナー・
 ファージョン『ムギと王さま』(岩波書店)の素晴らしさに触れながら、自分
 の仕事のことを振り返っている。

 
 「私はつくづく考え込む。いままで胸がキュンとなるような物語を訳したことが
 あるだろうか?
  翻訳の仕事を始めて、かれこれ35年はたったけれど、はっきりいって、ただの
 一冊もない。人生を深く考えさせる感動的な作品、血沸き肉躍る大長編というの
 を訳したことも、ただの一度もない。正直なところ、ときどきとても寂しく
 なる。」

 
 翻訳という仕事が何よりも好きで天職であるといっていた母だったが、それ
 なりに悩みはあった。ただそれは「でもそんな本に出会うチャンスがなかった
 というより、自分でチャンスをつかもうと努力しなかったから、ということも
 よくわかっている。まったく自分で情けなくなるなるほど消極的で、何にせよ
 仕事をするのに向いていないようだ。」といっている。
 どうやら、ぼくは母
 親の情けない部分だけ受け継いでしまったようだなあ。

 小さな絵本美術館 八ヶ岳館
  https://www.ba-ba.net/

 うちだ りさこ 
-遠い国の物語を日本の子どもたちへ- 展

 2019年9月29日(日)〜12月1日(日)


 【展示予定作品】(予定)

 ・『てぶくろ』1965年 ウクライナ民話 エフゲーニー・ラチョフ
    ※本作のみ複製
 
・『おおきなかぶ』ローシン ロシア 

 ・『12のつきのおくりもの』1973年 スロバキア 丸木俊
 
・『ひつじかいとうさぎ』1977年 ラトビア民話 スズキコージ

 ・『パンのかけらとちいさなあくま』1992年 リトアニア 堀内誠一

 ・『ねことおんどり』1997年 ロシア  小野かおる  

 ・『ごてんにすむのはだれ』片山健 ロシア・ビアンキ作


 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  今年の初めにも人工知能に関する本
 (『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』、松田雄馬、新潮選書、2018)
 
 を紹介しましたが、またしても人工知能についての本を取り上げたいと思いま
 す。
 
 『AIには何ができないか』、メレディス・ブルサード著
                                          ・北村京子訳、作品社、2019

  以前取り上げた本もAI礼賛とは一線を画すものでしたが、今回もタイトルの
 とおりAIが何でもできるわけではないことを示しています。
 
  この手の本を私が取り上げるのは、結局のところ人工知能とか言っても動か
 してあげる人がいなければ何もできないし、そもそも人工知能は機械であって
 人間と比較されるようなものではないと思っているからで。シンギュラリティ
 とか自動運転とかに対して、かなり冷ややかな気持ちでいるからなのですが…。
 
  そういった個人的な理由は置いておいて。前に紹介した『人工知能はなぜ椅
 子に座れないのか』はどちらかと言うと技術的な視点からのアプローチだった
 のに比べると、本書は人工知能を巡る社会にも多く光をあてているのが特徴と
 言えるでしょう。
 
  特に著者が本書の中で強調しているのが「技術至上主義」への疑問です。
 「技術至上主義」とはコンピューターは人間より物事を客観的に判断できるた
 め、コンピューターが適切に使われることによってユートピアが生まれるとい
 うような考え方のことです。
 
  シリコンバレーのようなところでIT関係の技術者たちには、そういう考えの
 持ち主が結構多いようです。テクノロジーの進歩が常に人間に幸福をもたらす。
 IT技術者でなくともそいう考えの人は結構いそうな気がします。
 
  本書ではドローンや自動運転車が挙げられていますが、技術的に可能である
 からといって、それが実用的だったり合理的だったりするかは別の問題なので
 すが…。優れた技術を用いれば問題は解決するというわけでないのは、ちょっ
 と考えればわかることではないでしょうか。
 
  例えば本書第6章では「人間の問題」というタイトルで、シリコンバレーに
 集う「技術至上主義」な人々の特徴を描いています。
 
  自らの数学的能力を過大評価する傾向にあり、(中略)女性や有色人種より
 も機械を優先し続けており、彼らはSFを現実のものにしようと思いがちで、彼
 らは社会的な慣習にはあまり関心を払わず、彼らは社会の規範やルールが自分
 にも適用されるとは思っておらず…(p,149)
 
  もちろんこういう人ばかりではないのでしょうが、人工知能研究の背景にこ
 うした思想の持ち主がいることは充分に気に留めておくべきでしょう。ちなみ
 に著者が自動運転車に同乗させてもらった際の技術者の態度はいかにもな感じ
 が漂っています。
 
  結局のところ人工知能をプログラミングするのは人間なのですから、こうし
 た思想などは、意識的にせよ無意識にせよ人工知能に入りこみます。
  
  それだけではありません。人工知能が結論を導くために取り入れるデータは
 現実の社会を反映したものです。本書ではアメリカで用いられている、警察に
 逮捕された人が再び犯罪を犯すリスクを計算するアルゴリズムが紹介されてい
 ます。このアルゴリズムは黒人の方がそのリスクが高いという結論を出します。
 
  しかしもとから黒人の方が告訴されやすいという要素があるので、それを単
 なる一つの要素として処理してしまっては、現実社会のゆがみを考慮しない結
 論が出てしまいます。誤った因果関係に基づいておかしな結論を出したり、逆
 に誤った因果関係から正解が出てくることもあります。常に客観的で公平な回
 答を出してくれるわけではないのです。
 
  色々なデータを打ち込んで、総合的な結果を人工知能が判断したとしても、
 それが正しいとも公平ともいえるわけではないのです。
 
  では人工知能は役に立たないのかというと、もちろんそういうわけではあり
 ません。あくまで中心になるのは人間で、人工知能が出した結論を判断するの
 も人間です。シンギュラリティとかなんとか喧しく言われる世の中ですが、人
 工知能はあくまで道具。道具がいくら優れているとしても人間の価値が下がる
 わけではありません。
 
  「技術至上主義」者の思いつきに振り回されているとろくなことはないので、
 本書を読んで人工知能の得手不得手を学び、AIバブルに踊らされず生きていき
 たいものです。
       
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 ■ 詩祭―百年のわたくし巻四
 └─────────────────────────────────

 ◆日時:2019年10月5日(土) 開場・14時 開演・15時
 
 ◇場所:徳正寺本堂
 
      京都市下京区富小路四条下ル徳正寺町39
 
 ●申込窓口:メリーゴーランド京都 
          〒600-8018 京都市下京区河原町通
            四条下ル市之町251-2寿ビルディング5F
 
            mail:mgr-kyoto@globe.ocn.ne.jp
            tel/fax:075-352-5408
 
 〇定員:70名 
 
 ★参加費:2000円
 
  
 
 ■出演:山崎佳代子/ぱくきょんみ/荒木みどり/吉田省念/季村敏夫
            /藤原安紀子/かりきん(下村よう子+宮田あずみ)/扉野良人
 
 □ゲスト:佐々木幹郎
 
 ■ 企画展「猫にお願い-東北地方の猫神・猫絵馬・猫供養-」
                                                in 村田町歴史みらい館
 └─────────────────────────────────
 
 猫は、江戸時代から鼠除けや愛玩動物として飼われていました。
 猫を神格化して祀った神社、猫を供養した塚や石碑などが、
 特に福島・宮城・岩手で見つかっています。
 
 今回の企画展では、猫を描いた絵馬、猫の絵が入った鼠除けのお札、
 猫の石像など、江戸時代から明治時代の貴重な民俗資料で、
 猫と人の深い関係を紹介します。ぜひ、ご覧下さい。 
                           (HPより抜粋) 
 
 ◆日時:2019年7月20日(土)〜10月20日(日)
            9:00〜17:00(展示室への入室は16:30まで)

 ◇開催場所:村田町歴史みらい館 1階 企画展示室 

         〒989-1305 宮城県柴田郡村田町大字村田迫85

                  ☎ 0224-83-6822
 ▼アクセス
 JR仙台駅より高速バスで30分「村田町役場前」下車徒歩5分 
 東北本線大河原駅からバスで20分 
 東北自動車道村田ICから車で1分 
 
 ★観覧料 :無料 

 ■ 「エドワード・ゴーリーの優雅な生活」展
 └───────────────────────────────── 
 ◆日時:25019年9月29日(日)〜11月24日(日) 10時〜18時
                           (入館は17時半まで)
 
      休館日→月曜日
      但し、10/14、11/4、開館、10/15、11/5閉館 
 
 ◇場所:練馬区立美術館
       〒176-0021 東京都練馬区貫井1丁目36−16
        TEL 03-3577-1821 
 
 ★観覧料:一般→1000円 高校・大学生、65〜74歳→800円
        中学生以下、75歳以上→無料
 
 ☆協力:Edward Gorey Charitable Trust、
      Brandywine River Museum、
      河出書房新社
 
 ☆後援:一般法人 日本国際児童書評評議会(JBBY)


           https://www.neribun.or.jp/museum.html
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 
 台風15号の被害を受けられた方たちに、心よりお見舞い申し上げます。
 すでに10日経ちましたが、まだ電気が復旧されていない方たち、水道が通じ
 ていない方たち、壊れた家で辛い不安な日々を送られている方たちを思い胸
 が痛みます。
 毎年どこかで災害が起こり、大変な思いをされ、その後の生活にも苦労を重
 ねていらっしゃる方たちが増える度、自治体や政府に対して「なぜ」という
 憤りを強くします。
 今回の台風も、なぜもっと早く動き、被災されている方たちの支援ができない
 のでしょうか。もちろん、色々な要因はあるのでしょうが、これほどの痛みを
 経験してきた国が、いつも同じように被害者の我慢に頼っているのに絶望を
 感じます。一体全体、どうしたら隣の、あるいは、地続きの、また同じ国の人
 たちが苦しむことに、すぐに手を差し伸べることができないのでしょうか。
 公共とは、こういう時にこそ力を発揮するものなのではないのでしょうか?
 自分への自戒も込めて強く思います。
 民間のボランティアも素晴らしいですが、公には「責任」を取って欲しいです。
 福島の東電訴訟の件も含め、だれも「想定外」で「責任はない」としてほしく
 ない。
 「長」とつく立場は、「責任」をとるためにそこにいるのでは、と思うのです。
 長々と申し訳ありませんでした。
 
 やっと秋です。
 読書の秋を、大いに楽しみましょう。            畠中理恵子
 
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[本]のメルマガ vol.728

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■■------------------------------------------------------------------
■■ [本]のメルマガ                 2019.09.05.発行
■■                              vol.728
■■  mailmagazine of books         [芸術の命は「遊び」 号]
■■------------------------------------------------------------------
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『人類は噛んで進化した:歯と食性の謎を巡る古人類学の発見』

ピーター・S・アンガー著 河合信和訳
四六判 380ページ 本体3,000円+税 ISBN:9784562056781

巨大な大臼歯を持つ早期ヒト族は何を食べていたのだろう。歯と顎、咀嚼に注
目して人類進化を解明しようとした著者は、歯の摩耗痕や骨の炭素同位体比な
どを追及するうち、従来の見方を覆す衝撃の復元像に導かれる。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その39「幽霊と囲む食卓」その3『とほぼえ』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第121回 本気のオバケ屋敷

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その39「幽霊と囲む食卓」その3『とほぼえ』

 いつも幽霊について考えるとき、うっかり自分も幽霊になってしまったらど
うしようと思う。生きている人に何か伝えなければとか、何かいいことをして
からあの世へ行きたいとかの志がある幽霊ならともかく、全然自覚のないまま
この世をさまようことになるのが怖ろしい。

 そんな自覚のない幽霊になったような気分を味わえる作品が、内田百間の
『とほぼえ』だ。

 しかも幽霊物にしては珍しく、食物を口にする場面がいくつかある。主人公
と共にその美味しさを味わいながら読めるのだが、ふと気がつくと、その食物
にもある仕掛けがある。

 物語を見てみよう。

 主人公の「私」は初めて訪れた家でご馳走になり、その家の主人に四つ辻ま
で送られて帰っていくところだ。少し酔っ払っているので、道ばたの氷屋が店
を開いているのを見て、かき氷が食べたくなって入り込む。

 真夏ではなく秋の初め。でも、蒸し暑い日らしい。

「すゐをくれませんか」

 この「すゐ」、新仮名で書くと「すい」が通じなくて、店主とあれこれやり
取りをするので、これがなんだかよくわかる。
 「すい」とは、透明な砂糖水のシロップを氷にかけただけのもの。小豆もア
イスクリームものせない、いちご味とかの食紅や香料が入っていない純粋なシ
ロップをかけただけの基本のかき氷のことだ。「すい」というのは関東や東京
の言い方で、関西では「みぞれ」、名古屋では「せんじ」というらしい。

 店主も中国地方の出でわからなかったらしく、

「ラムネぢやいけませんか」

なんていい出す。

 まあそこで、主人公は氷を食べるのをあきらめて、氷のかけらが入ったラム
ネを飲むことになる。酔い覚めの水代わりのラムネは美味しかったらしく、以
前やっぱりとてもおいしくラムネを飲んだときのことを思い出す。そして、ラ
ムネのお代わりまでしてしまう。

 お代わりを持ってきた店主が、主人公に振り返ってみろと言う。店の向かい
の塀のむこうは墓地で、今、光りものが飛んだ、と言い出すのだ。そして、

「お客さん、焼酎をお飲みになりますか」

なんて言う。

 主人公が飲むというと、二つのコップに入れて持ってきて、自分も一口で半
分ほど飲んでしまう。

「このちうは行けるでせう」

 いいなあ、私は焼酎を飲んだことはほとんどないのだけれど、百間好きとし
ては、このセリフを是非真似してみたい。いつか焼酎をすすめながら、

「このちゅうは行けるでしょう」

と、つぶやいてみたい。

 主人公も、そろそろ変わり者のおやじだなと思いながら、話し相手になり始
めているようだ。そして、二人はひとしきり人魂談義を始める。

 遠くで犬も吠え始め、店主はその犬のこともしきりに気味悪がってみせる。

 そこへ、「影の薄いおかみさん風の女」が入って来て、サイダー壜に焼酎を
入れてもらって帰る。

「こんなに遅く焼酎なんか買ひに来て、亭主が呑み助なのかな」

と、主人公が言うと、店主は、その女の亭主は少し前に死に、舅もいないと言
う。

 こんな遅い時間に買いに来る焼酎を一体誰が飲むというのだろう。

 二人は変だねと言い合うのだ。

 主人公は頭の中で、昔、家の向かいの煎餅屋に水飴も売っていて、夜中にな
ると誰かがことことと表を叩いて買いに来ていたのを思い出してしまう。きっ
とあれは、墓地の中で赤子が泣いていて、死んだ母親が夜になると飴を買いに
来るという「幽霊飴」の話と同じようなことだろうと考えをめぐらせていると、
ふと、さっきのかみさんは、死んだ者に焼酎を飲ませているんだと口に出して
しまう。

 ここで、私は、はたと膝を叩いたのだ。というのは、この幽霊飴について、
私は、江戸時代の物語だと思い込んでいたので、この飴は、棒状の長くて白い
飴、七五三の千歳飴のような、さらし飴だと思っていたのだ。けれどこの幽霊
飴の話はさまざまな地方の伝説として伝わっているようなので、さらし飴より
もっと古くからある水飴と考える方が正しいような気もする。固形の飴では、
赤ちゃんが喉に詰めてしまうだろう。

 さて、主人公が焼酎を買いに来る女について、そんなことを口にしたせいか、
店主は気味悪がり、お客さんはどこから来たんだとたびたび訊ねる。そして、
焼酎のお代わりをすすめてきて、断られると一人で青い顔をしながら飲む。

 あげくに、実は家内が先日亡くなったのだが、さっき茶の間に行ったら座っ
ていたから、あわてて店に出てきたのだと言う。

 出ました、本物の幽霊。

 でも、主人公は立って幽霊を見に行く気もなく、店主も、そんなこともある
かと見ていたのだけれど、膝をついて立ち上がりそうになったから出てきたん
だ等と言う。どうも足のある幽霊らしく、立ち上がるのを見るのは怖くてしょ
うがないらしいのだが、そのくせ、きっと、もういないでしょうよなんて、妙
に淡泊だ。

 それよりも店主は、お客さんはどこに帰るのだと、またまた訊くのだ。

 彼が言うには、主人公がそこから来たというところには家はない。そこにあ
るのは墓地だ。だから、墓地に帰るのでしょうと決めつけてくる。

 主人公がいい加減あきれて出ようとしたが、お代を払おうと紙入れを取り出
しても払いのけてくるので仕方なく外に出る。

 さて、「私」はどこへ帰るのだろう……。

 ここから、先は読んだ人が考える仕組みになっている気もする。

 ただの酔った男が、変な氷屋の亭主の泣き言に付き合っているうちに誤解さ
れてしまったのか、それとも実はうっかり幽霊になっていて気付かないのか。
それとも、この氷屋自体が妖しい化け物小屋なのか。

 それでも、この物語の主人公は、大変おいしそうに氷入りのラムネを飲む。
食べられはしなかったけれど、かき氷の「すい」の作り方まで教えてやる。
「いける」という焼酎も飲んでいるし、店主の方はお代わりまでして、噛みつ
くような口をして飲んでいる。なんだかおいしそうな化け物つきの氷屋なのだ。

 そんなふうに、ここに出てくる食べ物や飲み物は皆おいしそうで、だから何
となく主人公も店主の方も幽霊ではない気もするのだけれど……。

 これを書きだしたのは、かき氷もラムネも焼酎も、そして水飴もみな透明な
ものだと気付いたからなのだけれど、これも百間の仕掛けなのだろうか?

 これだけ透き通ったものしか口にしないということは、主人公は、やっぱり
幽霊なのかもしれない。

 蒸し暑い残暑の季節に、一杯の透き通った飲み物など口にしながら、考えて
みたい作品だと思う。

「このちうは行けるでせう」

なんて、呟きながら、氷入りのサイダーでも飲んで見ようか。

 なんだかグラスを握る指先が冷えて透明になってくる気がするけど、気にし
ない気にしない。

 そろそろ秋も近い。


(百けんのけんの字は門構えに月ですが、環境依存文字のため間で代用してい
ます)
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『とほぼえ』内田百間著  
「実説草平記」            旺文社文庫
「内田百間集成4 ─サラサーテの盤 」ちくま文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第121回 本気のオバケ屋敷
     ―「クリスチャン・ボルタンスキー  Lifetime」(新国立美術館)

 ボルタンスキーは食わず嫌いしていたアーティストで、実は新国立美術館で
行われる回顧展も行くかどうか迷っていたのだった。自意識を核にして社会や
歴史について語る、というスタンスに、げんなりするような重さを(食わず嫌
いのまま)感じていて、どうにも食指が働かなかったのだ。ぼくは芸術の命は
「遊び」だと思っていて、どんな哲学的なテーマを扱った作品でもアーティス
トが心から「遊んだ」痕跡が見い出せないと満足できない。ピカソの「ゲルニ
カ」は悲惨な光景を描いているが、奇抜な形態の表現は「遊び」に満ちていて
ワクワクさせられるではないか。ボルタンスキーの「重い」作品ではこのワク
ワク感は味わえないのではないかと邪推したということ。

 しかし、「クリスチャン・ボルタンスキー  Lifetime」展を見て、当初の予
感は少し当たり、大部分ははずれた。はずれた部分が大きかったのは良かった。
やはりアートは足を運ばなくてはわからない。ボルタンスキーはちゃんと「遊
ぶ」芸術家だった。

 クリスチャン・ボルタンスキーは1944年にパリで生まれた。父親はユダヤ教
からキリスト教に改宗した医者で、第二次世界大戦のナチス政権下、告発され
ないように隠れるように暮らしていたという。特定の手段によらない、空間を
活用する表現手法で知られている。本展も、映像、写真、インスタレーション
などバラエティに富んだ手段で、作品同士が緻密に関連づけられた形で構成さ
れている。

 入口に置かれた作品は「咳をする男」「なめる男」(1969)の2本の映像作
品。前者は血反吐を吐きながら咳をする顔を包帯で巻いた男、後者は不気味な
人形をなめる仮面をかぶった男の姿が延々と映し出される。これは自意識のメ
タファーだろう。醜く変態的な姿の裏に、聖なる作者の内面を読み込むことを、
鑑賞者は求められる。苦しみや醜さを執拗に凝視することで逆説的に崇高さを
演出する、一種のナルシシズムというかヒロイズム。

 ぼくが最も苦手とする部類(!)に属する作品でスタートする本展だが、こ
の野暮ったい執拗な視線はどこまでも続く。「D家のアルバム」(1971)は、
友人に借りたアルバムの写真を複数枚、年代順に並べたもの。平凡な家族の平
凡な日々が記録されているわけだが、ずらっと並んだこれらを見て誰しも思う
のは、人間は死すべき運命にある、幸せはいつかは過去のものになる、という
無常観であろう。連作「モニュメント」(1985-1987)は額に入れた顔写真を
祭壇に飾るように配置する作品で、死者の霊を弔う気配が濃厚だ。他にも「シ
ャス高校の祭壇」(1987)や「聖遺物箱」(1990)のような肖像写真を並べた
作品があり、ホロコーストの犠牲者の過去を想わせるものもある。幸せそうな
家族団欒の情景が死の匂いに包まれて現れる。これでもか、と壁を埋め尽くす
までの圧倒的な写真の数。ここでは物量といものが大きなポイントとなる。

 本展は幾つもの部屋に分かれて構成されているが、部屋から部屋へ移る通路
の中に「幽霊の廊下」(2019)という作品がある。悪魔か死神を思わせる天井
から吊るされた人形をカーテン越しに見ることになる。人形は扇風機で煽られ、
踊っているように見える。中世ヨーロッパの「死の舞踏」を意識したものか? 
まるで漫画の『ベルセルク』の一コマのようなベタな表現であるが、実際にこ
の中を歩いてみると、背筋が寒くような気分に襲われる。見るのと歩くのは大
違いなのだ。

 「幽霊の廊下」を抜けると正面に大量の黒い服を積み上げて作った「ぼた山」
(2015)がある。文字通り小山ほどの大きさであり、服は黒系統に統一されて
いる。大量の服は、それを着ていたたくさんの人たちの消失を意味する。つま
り、ホロコーストのようなジェノサイドを連想させる。同じ部屋に「アニミタ
ス」(2017)という映像作品があり、これは風鈴を先につけたたくさんの細い
棒を映したものである。絶え間なく聞こえる風鈴の音。死者の霊を慰める儀式
そのものだ。

 この部屋に隣接する空間に「ミステリオス」(2017)という映像インスタレ
ーションが置かれている。クジラの骨、風向計(?)、海を映した3面のスク
リーンから成る作品で、パタゴニアで撮影されたものだという。ひたすら静穏
な作品で、ベンチが用意されており、鑑賞の途中で疲れた足を休めることがで
きる。高いテンションで疲れた神経を緩める癒しの効果もある。ボルタンスキ
ーによると、クジラに呼びかけるという作品で、クジラからの応答はないが、
それでも疑問を呈し続けることが大事なのだという。見た限りではそこまでの
メッセージを掴むことは難しいが、残酷な歴史の営みによって凝り固まった自
我を自然の営みによってほぐすというのは優れた計算だと思う。

 ここから再び「死の世界」に戻る。ご丁寧にも「来世」と記された門を潜る
と、光る電球を先につけた何本もの紐を配置した「黄昏」(2015)という作品
を目にする。電球は人間の魂の比喩であろう。会期中、毎日2本ずつ光
が消えて、最後は真っ暗になるという。ボルタンスキーは電球を好んで使っ
ており、「黄金の海」(2017)は、毛布のようなもので覆われた床の上を吊
るされた電球が振り子のように揺れる、というもの。電球はこれまた人魂の
比喩だろう。人知れず、非業の死を遂げた人間の怨念が漂っているような感
じだ。

 自意識と歴史を連結させるボルタンスキーの表現方法はかなりベタである。
野暮ったいと言ってもいいくらいだ。魂を電球で表す、一般に流布する死神
のイメージをまんま使う、大量殺戮を暗示するために大量の服の山を築く、
などなど。技で魅せるというより力で圧しまくる感じであり、洗練に欠ける
印象がなきにしもあらず。家で静かに画集をめくってじっくり鑑賞する、に
は不向きな作家だろう。

 しかし、それはボルタンスキーの作品を「ハイアート」として見るからそ
うなのであって、これらを魂のこもった「見世物」、もっと端的に言えば「
オバケ屋敷」として見れば、欠点と見えたところが俄然魅力的に映ってくる。
会場に足を運べば、大衆に向けて自分をぶっ放している男がいる、という迫
力がダイレクトに伝わってくる。冒頭の「咳をする男」「なめる男」のよう
な作品も、表現主義の後継と捉えるとややげんなりさせられるが、「自意識
はともすると人を不快にさせるもの」という「一般常識」に沿って鑑賞すれ
ば、すんなりと受け止めることができる。

 ボルタンスキーは、エレガントな暗示的表現を武器とする戦後の前衛美術
の中では異端派かもしれないが、それ故に大衆の興奮を呼ぶパイプを確保し
ていると言えると思う。会場の空間の活用に大変な力を注ぎ込むのも、展覧
会に実際に足を運んでくれた人と熱く触れ合いたいからではないか。本気の
「オバケ屋敷」を実現したボルタンスキーの制作態度は、大衆との接点を取
り戻したい、美術を志す若い人たちの参考となるのではないだろうか。

*「クリスチャン・ボルタンスキー - Lifetime」(新国立美術館)
会期:2019年6月12日(水)〜9月2日(月)
*『クリスチャン・ボルタンスキー - Lifetime』(水声社 本体3000円)
*『クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生』(水声社 本体4500円)
*『クリスチャン・ボルタンスキー 死者のモニュメント』
(水声社 本体4500円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
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■あとがき
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 台風15号の影響で、今、借りているオフィスの一部が水浸しになり、壁紙を
張り替えるとの連絡がありました。思わぬところで災害は生活に影響してきま
すね。千葉の停電、いち早い復興をお祈りしております。(aguni原口)

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第102 回 500年前のレオナルド・ダ・ヴィンチに戻って...【その一】

前回のナタリア・ギンズブルグから、いっきょに五世紀も戻ってしまう。
というのも今年はダ・ヴィンチ没後500年にあたる年なので、イベント以外に研
究者の最新の研究成果が発表されている。

イタリア式にいうと“レオナルド”と名前でいうので、それに従ってみたい。
レオナルドはその生涯にどんな経済状況だったのか? マルコ・カルミナーティ
(Marco Carminati)氏の研究が「イル・ソーレ24オーレ」の記事にある。
さらに、レオナルドが所蔵した本との関係をみた研究も同紙にある。

こちらが二つの記事(イタリア語):
https://www.ilsole24ore.com/art/i-conti-tasca-leonardo-AClijua
https://www.ilsole24ore.com/art/la-biblioteca-leonardo-vinci-ACGXfqO

最初にお断りするが、当然、レオナルドの時代に流通していた貨幣で書かれて
いるので、どのくらいの金額なのかわからないのが残念。記事には数字しか挙
げられていない。
ただ、貨幣の代わりにブドウ畑の土地が提供された例もあり、現在でもその土
地を見ることができるのは興味深い(上記の最初のサイトに写真がある)。

レオナルドの父はフィレンツェ政庁やカトリック教会の公証人だった。嫡出子
でなく、祖父に育てられ、その時代の正統な教育を受けていないためか、自分
のことを教養人ではないといっていたが、同時代知識人や先哲に絶えず対話し
たり比肩を怠らなかったという。

祖父の死後、父親はレオナルドを有数の美術家ヴェロッキオの工房に入らせた。
父親の最初のサポートは、政庁パラッツォ・ヴェッキオの聖ベルナルド礼拝堂
の仕事だった。祭壇画の下絵が委託され、1478年に政庁から初の収入28フィオ
リーニ金貨を受け取るのだが、なんとこの下絵は実現しないのだ。

1481年には、現在ウフィツィ美術館のダ・ヴィンチの部屋に展示されている《
三賢王の礼拝》制作の契約が聖ドナート教会と交わされた。貨幣では300フィオ
リーニ、それに加えてヴァルデルサの土地が与えられると決まったが、現在惜
しまれるように絵画は未完に終わり、したがって貨幣も土地も無に帰した。

その理由は、レオナルドはミラノのスフォルツァ家の宮廷との豊穣な関係を求
めてフィレンツェを去ったからだが、宮廷とのつながりは早急には実現しなかっ
た。

そこでまた数多い祭壇画制作に戻り、《岩窟の聖母》(ルーヴル美術館所蔵)
では画面の内容をめぐって紛争し、その修正にレオナルドは割増料金100ドゥカー
ティを望んだところ、依頼主の信者会はたったの25ドゥカーティを約束。この
時代、フィオリーノ金貨もドゥカート金貨も同じ価値だった。

制作をめぐって今度は法的な紛争になり、1506年にいたるまで紛争は続き、第
二バージョンを制作することで終結した(第二バージョンはロンドンのナショ
ナルギャラリー所蔵)。

ついにミラノのルドヴィーコ・イル・モーロ公の寵愛を受け、宮廷や大聖堂(
ドゥオーモ)財産管理委員会へのコンサルティングを請け負う。
それ以外に収入として住み込みの徒弟から毎月一人当たり4〜5ドゥカーティ
の下宿代が入るようになった。
ネットで調べたら、ヴェネツィアでは1ドゥカートで一週間食べられた(ただ
し一日一食)と記述があるので、徒弟の食事代はこの額で賄えたと想像できる。

有名なエピソードは、サライのあだ名でよばれた最愛の弟子ジャン・ジャコモ・
カプロッティが、支払った下宿代よりも法外な出費をレオナルドにさせたこと。
主な出費は衣類だったとか。
1492年6月にレオナルドが家の金庫を開けて、フィオリーノからドゥカート、ソ
ルド、リラを合わせると811リラあった。
上記の情報では1ドゥカートは6リラだから、この現金でほぼ3人が1年間食べら
れたのではないだろうか。

レオナルドの生母が2年後の1494年に死去するが、その年にレオナルドがすでに
制作をかなり進めていたイル・モーロ公の父フランチェスコ・スフォルツァの
馬の青銅像が公によって中止と決まる。経済的に手痛い事態だった。イル・モー
ロ公に書簡で新しい仕事を要請すると、公からの返事はスフォルツァ城内の部
屋(現在のアッセの間)の装飾とサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の
食堂の《最後の晩餐》制作を告げられる。

この仕事への報酬は貨幣ではなく、ヴェルチェッリーナ門の外に広がる約1ヘ
クタールのブドウ畑だった。サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の近く
で、土地としては将来性のある評価の高い地区という。

イル・モーロ公の治世に陰りが見え、フランス勢がその権力剥奪をめざしてい
た。レオナルドの心中は安穏とはいえず、ブドウ畑の土地に建築と耕作の許可
をつけて公示してくれるよう求める。それから土地の評価額を調べ、1400ドゥ
カーティと知る。なお、現金を安全に管理できるように計らった。

1499年4月、徒弟の未払勘定の始末をつけ、家にある全現金をチェックして128
0リラと確認。それを幾つかの布袋に分けて入れ、奇妙なことに目立つところに
置いた──棚の上や釘の入ったガラス瓶の中とか。狙いやすい金庫にボロキレ
に包んで入れたのは大した額ではなかった。

8月にイル・モーロ公はミラノから逃亡。レオナルドは持ち金をフィレンツェに
移し、サンタ・マリア・ヌオヴァ病院の貸方に600フィオリーニの大金を入金。

ミラノを後にすると仕事や後援者を求めてマントヴァからヴェネツィア、ロー
マへと移り、1502年には占星術師に未来を占わせた支払いまで見つかっている
ようだ。

1504年、フィレンツェ政庁からフレスコ画を依頼され、《アンギアーリの戦い》
の下絵を1505年2月までに仕上げることで、毎月15フィオリーニが支払われるこ
とになった。

(次号に続きます) 


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
----------------------------------------------------------------------
■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
----------------------------------------------------------------------
大木毅 『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』岩波書店 860円+税

日本では第二次世界大戦によって、約300万もの尊い人命が失われました。
しかし、独ソ戦においては、それに数倍する人々が命を落としています。とり
わけソ連が受けた被害は甚大で、1939年当時約1億9000万人だった総
人口のうちの、実に2400万もの人命が失われています。激しい戦闘が行わ
れていただけではなく、「ジェノサイド、収奪、捕虜虐待が繰り広げられた」
ために、人類史上空前絶後の惨害が生まれたのです。本書はこれまで明
らかにされてこなかった独ソ戦の全容をコンパクトにまとめた好著です。

ヒットラーが独断で独ソ戦をはじめ、作戦指導にまで口出しをしたために、ド
イツは負けた。ジェノサイド等の残虐行為はナチスの主導で行われており、国
防軍は関与していない。こうした「国防軍神話」が長くドイツでは生きていま
した。本書は、近年の研究成果に基づいて、「国防軍神話」を真っ向から否定
しています。独ソ戦の構想は、早くから国防軍の中に持たれていました。物量
だけではなく作戦面においてもドイツはソ連に劣っており、国防軍兵士は戦地
で、略奪や捕虜虐待、婦女暴行等の残虐行為にふけっていたのです。

ドイツの戦争目的には、通常の戦争というだけではなく、ドイツ人の贅沢な暮
らしを維持するために占領地から収奪することと、劣等人種であるスラブ人を
殲滅する世界観戦争という3つの側面がありました。占領地域の人々に対する
略奪は、ナチスの人種イデオロギーによって正当化されていきます。敗色が濃
厚になればなるほど、ヒットラーは歪んだ世界観に固執するようになりました。
勝利を得ることではなく、スラブ民族の皆殺し自体が戦争の目的になってしまっ
たのです。それが、夥しい犠牲者を出す原因となりました。

ドイツが戦争準備をしているというゾルゲらの警告をスターリンが無視したた
めに、ソ連は緒戦において大敗を重ねていました。形成の逆転を図ったスター
リンは、独ソ戦に「大祖国戦争」という名前を与えます。ナポレオンを打ち破っ
た「祖国戦争」以上の救国の戦いとして独ソ戦を位置づけたのです。このシン
ボル操作は見事な成功を収めます。救国のための聖戦にソ連の軍民は燃え立ち
ます。しかし戦争を聖化する意識は、捕虜の虐待や占領地域の民間人への暴行・
略奪等、敵に対する蛮行を正当化する方向にも作用したのです。

1945年4月。ソ連はベルリンに侵攻します。独ソ戦での勝利によって、東
ヨーロッパにおける戦後の支配権をソ連は手にしました。ドイツについて不思
議に思うことがあります。敗戦が明らかになった時、なぜ第一次大戦における
ような民衆蜂起が起こらなかったのか。ドイツの市民は東方を略奪するナチの
政策によって、豊かさを享受していた。その共犯意識と特権的立場を失うこと
への恐れから、彼らはナチスを支持し続けたと著者は言います。普通の人たち
が負う戦争責任という問題を考えさせられた一冊でもありました。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「選挙」の話

ずいぶん長い間、神戸市選挙管理委員会の「明るい選挙を考えるマンガコンクー
ル」の選考委員をさせていただいている。
いわゆる啓発活動の一環で、先輩の一コマ漫画作家さんから引き継いで今にい
たっているのだが、毎年「今年は応募が減っていて」が最初の話題に上るよう
になって久しい。
小学生から一般まで広く公募はしているが基本は若年層の投票率UPを目指すモ
ノで、応募の方法やら賞金額やらを考えるとまあそれも宜なるかなと思う。

啓発活動とは言え「公」がやる事だから制約も多いし、選挙がなければ予算が
つかない部署だそうで(選挙があったらあったで少ない人員がフル活動している
事を川西市の過労死の件で初めて知った)コンクールにそれ程力も入れられない
のかも知れないが、それでももっとやれる事はあるのになぁと毎年歯痒い思い
をしている。

しかし今回の話題はそちらではなく子どもたちの感覚の変化の方だ。

昔は先生に言われて(多分美術の時間などに)ムリムリ出したであろう作品の中
にも「汚職」とか「賄賂」「公約違反」と言う文字やアイデアが見受けられた
のだが、ここ何年かはほぼゼロに近い。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第99回 『Tabooについて考える ─── あいちトリエンナーレ2019』

今回は避けては通れない時事ネタです。
いろんな方々が様々な意見を発信している≪あいちトリエンナーレ2019≫です
が、アートに携わる端くれとして自分の意見をまとめました。

というか、すでに2015年3月から5月発行の「本」のメルマガ(568/571/574号)
にて表現の自由について稚拙ながら当時思ったことを書いています。

元々それを書こうと思ったのはざっくり以下のような理由からです。
1.フランスでの生活で、心に深く衝撃を与える作品こそがアートであるとの結
論に至っていたから

2.Charlie Hebdo(シャーリー ヘブド)のテロ事件(568号)を経て、表現の
自由には覚悟が必要で、命をかけるほどに大切なテーマであると再認識をした
から

前者は、アートは娯楽ではなく、もっと深い部分で心に響くもので、価値観や
人生観に疑問を投げかけるものだという話。後者については、フランスでは風
刺漫画が一般的な表現方法で、結構キツイ絵が本の表紙を飾っていることも多
く、頻繁に論争が起こるので避けては通れないテーマでした。

イスラム教を信仰している人からみれば、キオスクに不敬な戯画が並ぶという
ことがどれほど不快なことか!

それでも尚且つ表現の自由を貫き通すCharlie Hebdoの作家達の戦う態度を通し
て、表現の自由について考えずにはいられなかったのです。当時問題の中心に
あったマホメッドの戯画は、今回でいう「昭和天皇の写真を燃やす」という動
画と似たアンタッチャブル(=Taboo)な主題です。

結論から先に書いておきます。
不敬と感じる作品であっても、展示に税金を投入されていても、言論の自由は
守らなければならない。

但し、偏った政治プロパガンダ色の強い展示ではなく、もっと様々な視点から
捉えられた企画の必要がある。

今回のような政治プロパガンダを目的とした作品はアートではない。
百歩譲っても、やると決めたら脅迫に屈して中止してはいけない。

公共の場で、エロ・グロや宗教に関する過激な主題の扱いについてはどこの国
でも賛否両論が巻き起こります。表現の自由を守るには表現者も鑑賞者も、そ
の間に立つ関係者すべてにそれ相応の心構えが必要であるとつくづく感じます。

このメルマガでその論争に挑む作品の数々を紹介してきました。
タブーに敢えて挑戦して、鑑賞者の心を動揺させ、今後の人生に何かしらの影
響を与える作品制作を目指すアーティスト達です。
論争を巻き起こした日本作家として、大浦信行さん≪遠近を抱えて≫(571号)
とろくでなし子さんの作品(574号)などを取り上げています。

その大浦信行さんこそ、今回のあいちトリエンナーレ2019の『表現の不自由展・
その後』で話題になっている昭和天皇の写真を燃やす動画作品の作者です。
以前書いたように、彼の版画は天皇を批判する政治プロパガンダ作品ではなく、
大浦氏の自画像の延長にある作品でした。
今回の騒動を踏まえてインタビューで大浦氏は以下のように言っています。
≪「表現の不自由展・その後」に展示した20分の動画は、前作の映画『靖国・
地霊・天皇』の映像を中心に、来年公開予定の『遠近を抱えた女』の映像を少
し加えたものです。
これはさらに1986年に富山の美術展に出品した版画『遠近を抱えて』から続い
ている一つながりの作品なんです。
同じ主題をずっと継続して描いてきたんですね。
登場するのは従軍看護婦の女性で、出征する前の日に母親に別れを告げ、次は
靖国で会いましょうと語る。
これは実話をもとにしたもので、前作『靖国・地霊・天皇』の映像です。次の
作品である映画『遠近を抱えた女』は既に海外の映画祭に出品しているのです
が、同じ従軍看護婦の女性が主人公です。
その女性に抱え込まれた「内なる天皇」、それを「昇華」させていくというの
が、『遠近を抱えて』を燃やしていくシーンなんですね。
そのシーンは1時間40分の映画の中ではごくわずかなのですが、今回の20分の
動画にそこを含めたために、そこだけが取り出されて騒ぎになってしまいまし
た。
しかも、天皇制を批判するために燃やしたという全く誤った解釈がなされてし
まったのですね。
僕自身には天皇を批判するとか冒涜する意図は全くありません。僕自身の「内
なる天皇」を従軍看護婦の女性に託して祈りを捧げるということなんです。≫

□Yahooニュース(参考記事)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190816-00138640/

これって、今年初めにテレビで話題になった兵庫県明石市の市長のとんでも発
言と似てませんか?
最初に流された1分強の録音では「殺してこい」という言葉だけがクローズアッ
プされましたが、結局全録音を聞くと随分と受ける印象が違ったはずです。
作品を切り取ってそこだけ非難するなんて、表現の自由以前の問題です。

作品の全体を踏まえても尚且つ、天皇の写真を燃やすことが不敬で許されない
というなら、ここにこそ議論の余地があり展示した価値もでてきますよね。
個人的には天皇の写真をわざわざ燃やすのは好みではないですが、それでもやっ
ぱり展示拒否にするのは間違いだと思います。
Tabooはあってはならないのが原則です。

今回の問題点を明らかにしていると思うのは、宮台真司氏の解釈でした。
パブリックアートとアートは折り合いが悪いという指摘はその通りなのです。
鑑賞者の心構えを地域芸術祭の場で求めることは難しいというのが話の本題だ
ろうと思います。
興味のある方は下記YouTubeをご覧ください。
□「表現の自由」を守るためにはそれ相応の覚悟と準備が必要だ(videonewsc
om)
https://www.youtube.com/watch?v=vB6u200aRWY

今回の最大の問題は、これらの複雑な展示を捌ききれなかった総監督の津田大
介氏とそれを任命した愛知県知事ということになります。
政治プロパガンダそのものの『表現の不自由展・その後』は、最初の意図がす
でに歪んでいたのだろうと思うのです。
それをごまかす小細工や言い訳は、ちょっとうんざりします。
個別作品(「従軍慰安婦像」や「まぬけな日本人の墓」)についても思うとこ
ろは満載ですが、これは各展示作品の些末な話に過ぎません。
今回は言及しないことにしました。
参加の参加アーティストの動きは下記の記事で。
□美術手帖
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20344

余談になりますが、あいちトリエンナーレ2019に関する茂木誠先生のなかなか
面白いYouTubeがありました。
気が利いていて面白いです。
□さいたまトリエンナーレ(タイトルまでギャグってます。笑)
https://www.youtube.com/watch?v=KGDEEN2XfuM


◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■スプートニクとガガリーンの闇 22 内藤陽介
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フルシチョフ訪米

1957年10月のスプートニク1号の打ち上げ成功以降、西側世界では、戦略爆撃機
や戦略ミサイルの数において、ソ連は米国を凌駕しているという“ボンバー・
ギャップ”や“ミサイル・ギャップ”の議論が説得力をもって語られていた。
実際には、米国は経済力・軍事力ともに終始一貫してソ連を圧倒していたが、
ソ連は、西側に蔓延していた“誤解”を活用して、「ソ連に対する圧力と攻撃
は深刻な反撃を招きかねないので、ソ連とは一定の妥協をはかり、平和共存を
目指すべきだ」という国際世論を誘導しようとした。その真の目標は、米ソ両
国の軍縮という形式をとって、米国により多くの核兵器を削減させ、ソ連包囲
網を緩和させようという点にあったことはいうまでもない。
そうした誘導に沿って、西側世界でも、「ソ連の宇宙開発は純粋な科学技術研
究で平和目的のものである」、「米国が膨大な核兵器を保有するがゆえに、ソ
連は、自衛のため、やむを得ず最低限の核を保有しているのみである」といっ
た論調がソ連に親和的な左派リベラル勢力を中心に盛んに唱えられるようにな
る。
こうした世論工作の総仕上げとして計画されたのが、フルシチョフの訪米だっ
た。
すでに1958年1月、フルシチョフはミンスクにおいて、“平和共存”に基づいて
話し合いによる国際問題を解決すべく、首脳会談を提唱していたが、1959年1
月27日から2月3日にかけて開催されたソ連共産党第21回大会では、大会直前、
第一副首相のアナスタス・ミコヤンが非公式訪米を成功裏に終えたことを受け
て、次のように演説している。

我々はすでに何度も、ソ連と米国という二大国が平和維持のうえで大きな
責任を持っていることを指摘した。…両国間においては、お互いに領土的要求
はいままでも存在しなかったし、現在も存在していない。両国民が衝突する理
由はないのに、ソ連と米国の関係は長期にわたって変則的なままである。…米
国にも、ソ連との善隣友好関係の支持者の数が増えていることは、訪米したミ
コヤンに対する歓迎ぶりからも明らかである。…(平和共存の)途をとるから
には、両当事者は大きな相互理解の努力、大きな忍耐力、そして、もし望むな
ら、大きな寛容を発揮しなければならない。

これを機に、フルシチョフ訪米のための地ならしが本格的に始まり、1959年
6月には第一副首相のフロル・コズロフが訪米。翌7月には、7月24日に、モスク
ワで開催の“米国産業博覧会”の開会式に出席するという名目で米副大統領リ
チャード・ニクソンがモスクワを訪問する。
博覧会会場に展示してあった米国製のキッチンおよび電化製品を前に、フル
シチョフとニクソンは、米国の自由経済とソ連の計画経済を対比し、資本主義
と共産主義のそれぞれの長所と短所について討論した。その際、ニクソンが消
費財の充実と民生の重要性を堂々かつ理路整然と語ったのに対して、フルシチョ
フは自国の宇宙および軍事分野における成功を感情的にまくしたてた。いわゆ
る“キッチン論争”である。
キッチン論争でのフルシチョフの態度は、ソ連の経済力が米国に到底及ばな
いことを熟知していたが故の焦りによるものであるのは明らかだったから、米
大統領のアイゼンハワーは、豊かで自由な米国社会を実際に見せれば、フルシ
チョフは、いっそう平和共存路線にかじを切るだろうと考えた。
かくして、1959年9月15日から27日までの13日間、フルシチョフは、夫人と3
人の子供ともども、アイゼンハワーの招待を受けて、ソ連首相として初の訪米
を果たした。
米国側は、フルシチョフに対してアイオワ州の成功した個人経営の大農場を
見せ、社会主義型の国営農場・集団農場の失敗を認めさせようとしたが、もと
より、フルシチョフも本心では米国の優位を十分に認識しているがゆえに、社
会主義の優位を象徴する宇宙開発の実績を強調しつつ平和共存を訴えざるを得
なかった。
国連総会に出席して、世界各国の軍備全廃を提案したフルシチョフは、9月
25−27日、メリーランド州キャンプ・デイヴィッドにあるアイゼンハワーの別
荘で首脳会談を行う。会談では、軍縮、ベルリン危機、貿易、人物交流などの
諸問題について話合いが進められ「すべての重要な国際問題は、武力に訴える
ことなく、交渉による平和的手段によって解決されるべきである」ことについ
て意見が一致した。
その一方で、フルシチョフは、アイゼンハワーにルナ2号が月に運んだペナン
トのレプリカを渡しながら、「米国も必ずや月に到達してソ連のペナントを見
つけるでしょう。ソ連のペナントがお待ちしていますよ。米ソのペナントは、
きっと、平和と友好の下に共存することになります」と得意げに語ったという。
フルシチョフ帰国後の10月27日、ともかくも米ソ首脳会談が無事に終了した
ことを受けて、ソ連は、ワシントンの連邦議事堂とモスクワのクレムリンを並
べて描く記念切手( https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201
90825171829829.jpg )を発行した。そのデザインは、両者の間には地球が描か
れており、宇宙空間におけるソ連の優位を暗示させるような内容になっている

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
パレスチナ現代史: 岩のドームの郵便学』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
お盆の直後に用事があって上京したのだが、宿が高いの何の。。。民泊がどん
どん増えたと話題になっていた頃、これでホテル代が下がると思っていたが、
全然下がっている感じじゃない。ましてや夏休み中である。

困ったなぁと思っていて、ふと考えた。23区の通勤圏までOKとしたらどうかと
探すと、茨城県まで行くと安い宿があった。それでも上野から一時間もかから
ない。往復の電車代もそんなにかからないというか、茨城まで行って、たった
これだけかと驚いた。

地方の人には、案外使えるノウハウかも知れないねこれはw
ちなみに15両編成の電車にも驚いた。新幹線かい!

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 『サー・ガウェインと緑の騎士:トールキンのアーサー王物語』
 
 J・R・R・トールキン著 山本史郎訳
 四六判 260ページ 本体1,600円+税 ISBN:9784562056736
 
 映画やゲーム、アニメなど様々なところで登場するアーサー王伝説の有名な物
 語を巨匠トールキンが翻案。1953年にBBCラジオで放送された幻の作品を収
 録した中世騎士道物語集。表題作の他「真珠」「サー・オルフェオ」を収録。
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 著者ご多忙につきお休みです。またをご期待ください。

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第122回 知ろうとしなければ、わからないこと
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → <名古屋>―戦後日本を代表する都市
  
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 ■トピックス
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 一つのイベントをご紹介します。
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  


 第122回 知ろうとしなければ、わからないこと

 
  遅ればせながら映画「新聞記者」を見た。森友事件や過去の疑獄事件を思わ
 せるストーリーは、見る前から思っていたとおり「やるせない映画」だった。
 扱っているテーマがテーマだし、アクションシーンなど皆無な地味な映画だし、
 よくぞ「忖度」せずに大手の劇場が公開したな、と思う。大掛かりな宣伝をし
 なくても、口コミで話題となってロングランとなっている。

  ヒット作には目が無いらしい首相も主役の松坂桃李をお食事会に誘えばいい
 のにね。そのぐらいすれば、「いいね!」のひとつもポチンとしてあげるのに。

  気になってネットにあがっている「新聞記者」のレビューを読んでみた。
 低評価の意見もある。たとえば新聞記者の描き方にリアリティがないとか、内
 閣情報調査室で全員がコンピュータに向かってフェイク情報をネットに打ち込
 んでいるとか…。確かにね、そうかもしれない。

  でもTwitterなどのSNSでは、政権に都合の悪い意見はすぐに削除されるし、
 先日の「おもてなし」アナウンサーと若手議員の結婚報道は大ニュースとして
 演出されて大きく報道された。しかも国会で何もしていないと書かれたその議
 員は官房長官から総理大臣候補のお墨付きをもらったという。どこかで仕組
 まれているとしか考えられない、この見え透いたタイミング!
  現実は、映画よりも“ありえない”作り物のストーリーのように展開してい
 るようだ。

  先日の参院選のときに、投票に行かない理由に多くの若者が「わからないか
 ら」と語っていた。自分たちは学校でも政治、社会について習ったことがない、
 友人たちとも話したことがない、だからだれに投票したらいいのかわからない
 という。

  ぼくは戦後生まれ、というか「もはや戦後ではない」といわれた時代に生ま
 れた。戦後10年過ぎでまだ民主主義がまだ元気だったのかもしれない。どんな
 にひどい政治が行われても、日本が戦争をすることはない、とどこか信じてい
 た。小学校の先生の中には、特攻隊の生き残りがいたし、高校の生物の先生
 は、授業をするのを忘れて南方のジャングルを彷徨った話をした。戦争の悲惨
 な体験を直に聞くことができた。変わり者の世界史の先生が授業中「軍隊を持
 たない国家などありえない」と憲法9条を批判したとき、ぼくは頭の中でこの
 時代錯誤のクソジジイは何をいっているんだ、とせせら笑った。だがいまはど
 うだろう。近いうちに徴兵制だって復活するかもしれない、という危機感を持
 たざるを得なくなっている。

  以前、反戦の名コピーを作った有名コピーライターは過去の作品を否定して、
 「好きなものに囲まれて、嫌なものには目を向けないようにする」事業を展開
 している。もちろん楽しくおしゃれに暮らすのは悪いことじゃない。でもなん
 で今なんだろう?

  こうやって気づかないうちに、いや、国家は気づかせないようにして、戦前
 の世界に戻そうとしている。
『知らなかった、ぼくらの戦争』
 (アーサー・ビナード編著 小学館)を読んだ。アメリカ出身の詩人アーサー
 ・ビナードが、日本人の太平洋戦争体験者たちを訪ね歩き、個人の体験から戦
 争とは何なのかを明らかにしていく。文化放送の番組「アーサー・ビナード
 『さがしています』(2015年4月〜2016年3月放送)でのインタビューをまとめ
 たもので、2017年に発行しているから、もう読んだ人もいるかもしれない。
 戦争について、読まなければわからないこと、国家というものについて、知ろ
 うとしなければわからないことがたくさん書いてあって、2年前の本だけれど、
 今、読むとますます、読まなくてはいけない本だと実感する。とくに若い人に
 読んでほしい。

  この本では、真珠湾攻撃に参加したゼロ戦の元パイロット、「毒ガス島」
 (瀬戸内海の大久野島)で働いた元女子学徒、戦後GHQで働いた元事務員など23
 人を訪ねて話を聞いている。戦時中、アメリカで生まれながら収容所に送られ
 た日系人、そして昨年亡くなったジブリの高畑勲や、元沖縄県知事の太田昌秀
 もインタビューを受けている。漫画家のちばてつやが語る、満州で中国人に助
 けられる話、そして明日のジョーの名前の由来が面白い。

  語り部たちは、高齢者だから、インタビューを終えて1年以内に亡くなる人
 も多い。戦後74年(インタビュー当時は70年)の貴重な記録になった。

  アーサー・ビナードさんとは菅原克己を偲ぶ会、げんげ忌で知り合って、英
 語や詩の講座にも通ったこともあるので、本を読んでいてその語り口、話をす
 るときの真摯な表情が目の前に浮かんでくる。ビナードさんは、アメリカ人で
 日本に来てから20年になる。1967年生まれで、太平洋戦争でいえば戦後生まれ
 だが、アメリカは1967年といえばベトナム戦争が激しくなっている頃、だから
 自らを「戦中派」といっている。日本で暮らすうちに「戦争」について疑問が
 生まれてくる。アメリカでは定説になっている、「大日本帝国は予告もなしに、
 アメリカ・ハワイ州真珠湾に奇襲攻撃をかけた」「原子爆弾の投下は戦争を終
 わらせるために必要かつ正しかった」は本当か?

 
 真珠湾攻撃で、艦隊護衛任務に就いたゼロ戦のパイロット原田要は、攻撃隊
 員から米軍空母は「一隻もなかった」と聞いた。そのとき「米国は日本の攻撃
 を知っていたと直観した」と語っている。ベテランの戦闘機乗りである原田さ
 んは、航空母艦の重要性を知っていた。すでに優れたレーダーを開発していた
 アメリカは、日本軍の動きを事前に察知していた。だから重要な航空母艦など
 はハワイから遠い海域に避難させていた。もちろん公式には偶然演習に出てい
 たことになっているが。そのかわり戦力的には価値の低いアリゾナ号のような
 戦艦をパールハーバーに並べておいたのだ。一刻も早く参戦したかったアメリ
 カは、無防備なパールハーバーを日本軍に攻撃させて、「開戦」の口実を作ら
 せたわけだ。その口実のためにアメリカ軍の2345人は犠牲となった。

  原田さんはその後も数々の戦場へ向かう。そしてミッドウェーで搭乗してい
 たゼロ戦が被弾、着水して8時間も海に浮いていたという。やがて駆逐艦に救
 出されるが、軍医は重傷者を放っておいて、原田さんに聴診器をあてた。軽傷
 の自分よりも、苦しんでいる負傷兵を診てやれ、と原田さんがいうと軍医はい
 った。
「ちゃんと使える人間を先に診て治療する。重傷を負ってもう使えなく
 なった者はいちばん後回しだ。これが戦争の決まり」。

  兵士は結局、機関銃や大砲や戦闘機と同じなんだ。使えなくなれば捨てられ
 る」と原田さんは、そのとき戦争を憎む一人になった。

  詩人であるビナードさんは、「玉砕」、「引き揚げ者」、「ピカ」と「ピカ
 ドン」の違い…英語に翻訳を試みるなどして、言葉のカラクリを追求しながら
 国家の欺瞞を暴いていく。国家という権力者は巧みな言葉や、ムード作り、プ
 ロパガンダを使って国民を掌握していこうとする。

  広島に落とされた原爆は「リトルボーイ」、長崎に落とされたプルトニウム
 原子爆弾は「ファットマン」と名前がつけられていることは知っていた。だが、
 長崎原爆の模擬爆弾「パンプキン」が投下されていた事、それも30都市に落と
 されていたことは知らなかった。それは長崎の原子爆弾が太平洋戦争を終わら
 せるためではなく、その後の新たな勢力争い、軍備力のための実験であったこ
 とを示している。

  2016年、オバマ米大統領の広島を訪問して、核兵器の廃絶を訴えてマスコミ
 はそろって感動の出来事として報道した。だがそのとき大統領に同行したスタ
 ッフは、核弾頭ミサイルを発射するための発射司令装置が入った黒い鞄が持っ
 ていた。どんなに平和を謳う素晴らしい演説をしても、その事実が欺瞞を表し
 ているとビナードさんはいう。

  ぼんやりしていると、いつのまにか、後戻りの出来なくなっているのではな
 いか、と不安になる。麻生太郎副総理が2013年に憲法改正論議に関して「ドイ
 ツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気
 が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と発言した。ぼくたちは、こ
 のことを忘れてはいけない。
 
 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  名古屋には行ったことがありません。与田とか今中とか好きな選手がいたの
 で(今は…どうだろう)中日ドラゴンズは好きなんですけどね。愛知県で行った
 ことがあるのは、東三河だけです。
 
 『夢みる名古屋』、矢部史郎、現代書館、2019
 
  タイトルを見ると楽しげにも聞こえますが、矢部さんがそんな名古屋礼賛本
 を書くわけはありませんね。『愛と暴力の現代思想』(矢部史郎/山の手緑、
 青土社、2006)をしみじみ読んでいた者としてはそう思いながら本書を手に取
 るのでした。
 
  まだ読んでない方には『愛と暴力の現代思想』もお薦めです。「失業者や非
 正規労働者が何もしていないように見えたり、遊んでいるように見えるのは、
 それは眼が腐っているからだ。」(『愛と暴力…』、p,191)とかいいですね。
 
  で『夢みる名古屋』。冒頭から名古屋についてこう書いています。
 
 「私はね、好きじゃないんだ、この街は。」(p,6)
 「ここに暮らしてもう八年になるが、いまだに慣れない」(p,7)
 
  もちろんここには著者の好みも多分に含まれています。アジア的なごみごみ
 した街が好きで、整然と街路が並んだような街を寒々しいと感じるような感覚。
 そういったものとは逆の感性の人にはちょっとわかりにくいのかもしれません。
 
  どうでもいいですが、私もどちらかと言えば整然と計画されて作られたよう
 な街はあまり好きではなくて、つくば(ひらがなの方)とかに行くとちょっと
 心が落ち着きません。もちろんそれは単に計画的に作られたと言う理由だけで
 はありませんが。
 
  さて、ではこの本は何について書かれているのかと言えば、なぜ名古屋はこ
 んな寒々しい都市になってしまったかという歴史について書かれています。第
 一章では戦前の名古屋の歴史と空襲後の都市計画、第二章では工業化とモータ
 リゼーション、第三章では新自由主義と排除についてといった感じでしょうか。
 
  各章とも興味深い(というか忘れ去られている?)歴史に色々と触れられていま
 す。トヨタ自動車がベトナム戦争向けのトラック受注で大もうけしたなんて、
 ぼんやりとそうなんだなと思っていても、朝鮮特需しかり戦後の経済成長に周
 辺諸国の紛争が関わっていたことを改めて認識させられます。
 
  自動車産業はそうして復興を遂げたわけですが、それには当然国内道路網の
 整備も不可分であったわけで。それは必然的に自動車にまつわる様々な問題を
 引き起こしてきます。交通事故、犯罪の広域化、そして口裂け女。
 
  口裂け女は自動車とどう関係があるのかと言うと、著者は口裂け女が目撃さ
 れたとされた場所である駐車場に注目します。駐車場はそれまで人間の尺度で
 作られていた都市空間を自動車の尺度に変えていったときに現れるものだと。
 
  モータリゼーションの進展に伴って駐車場はどんどん街を蚕食するようにな
 っていきます。かつては商店などがあったところに駐車場が現れて、街中に空
 白が生じます。口裂け女はそうして生じた街の空白に現れるのではないかと。
 また徒歩で生活する子供たちは駐車場で不審者と遭遇することがあるのに対し
 て、車を利用する大人たちは口裂け女には遭遇しない。そう考えると口裂け女
 の噂もモータリゼーションと関係があるように思えます。
 
  著者も言っていますが、こういう街は魅力に乏しく感じます。
 
  というか魅力どうこうという前に、隣の建物へ行くだけなのに巨大な駐車場
 をぐるりと回っていかないといけなかったり、横断歩道が無くて地下道や歩道
 橋を強制的に通らされたりして、単純に体にきつい。というのは私の実感です
 が。
 
  こんな街だったらみんな車に乗るに決まっています。地方では車が無いとや
 っていけないというのは、真実の部分があるとは思います。だからといって車
 に乗らないとやっていけない街づくりを進めるべきとは全く思えませんがね。
 
  自動車の尺度で作られた街が人間に向いているはずがありません。私は車に
 乗らないので、前述のとおり広大な駐車場を歩かされるハメになることがある
 のですが、そうやってとぼとぼ歩いてるとき、哲学とか思想とか関係なく「あ
 あ今疎外されてるな」と実感します。
 
  宇沢弘文『自動車の社会的費用』(岩波新書)が出されたのは1974年です。
 そこで自動車優先の街づくりは批判されていましたが、それから半世紀近く経
 っても世の中はあまり変わったように思えません。
 
  減ってはいるものの自動車事故で多くの死者が出ていることは変わりません。
 「おそろしいのは、人びとが死亡事故に慣れてしまったことだ。」(p,127)
 とあるように、私もそうですが現実を追認する方向に心が動いてしまいます。
 
  と、あまり自動車をくさしても仕方ないですが。本書を読んで感じることは
 結局人間の尺度を無視して作られた街は、人間にとって居心地の悪い街になる
 のではないかということです。見栄えのいい都市計画とか経済的効率性とかそ
 ういうものを優先してしまうと名古屋みたいな(行ったこと無いですけど…)街
 になってしまうのでしょうか。
 
  市街地からの野宿者の排除も名古屋が先駆的な事例として取り上げられてい
 ます。行政にとっては野宿者の生活よりも景観が大事という視点がうかがえま
 す。
 
  とまあ名古屋の話の一冊なわけですが、著者はこうも述べています。
 
 「これは名古屋の歴史でありながら、同時に、工業国日本がたどってきた不愉
 快な歴史だ」(p,10)
 
  実は名古屋こそ(反面教師的な意味で)日本を代表する都市であり、名古屋
 が抱える問題は多かれ少なかれ他の都市にもあるものです。そういう意味では
 単に名古屋だけのこととして済ますわけにはいきません。
 
  ところで171〜173ページの岐阜に対する賞賛ぶりがすごい。これも岐阜に行
 ったことがないので真偽の程はわかりませんが…。いずれ直接この目で確かめ
 たいものです。
      
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ ちいさいミシマ社展 @スーベニアフロムトーキョー
 └─────────────────────────────────
 小さな総合出版社・ミシマ社の「一冊入魂」の本づくりの世界をご紹介いたし
 ます。
 
 創業から13年、本の内容はもちろん、装丁や制作、流通の面でも新たなこと
 にチャレンジしてきたミシマ社。本展示では、一冊一冊の本がどのようにして
 生み出されたのか、制作資料や編集メモとともにご紹介します。色校正や装
 丁ラフ、編集者による手書きメモなど、普段は表に出ることのない資料も展示。
 一冊の本ができるまでの試行錯誤の数々やこだわりの片鱗を、ぜひご覧くだ
 さいませ。
 
 みなさまのご来場、お待ちしております。

                                  ―HPより抜粋

 ◆日時:2019年8月21日(水)〜10月14日(月・祝)10時〜18時(土・20時)
 
     定休・火曜日 (祝日または休日に当たる場合は開館し、翌日休館)
     
     
 
 ◇場所:スーベニアフロムトーキョー
     港区六本木7-22-2 国立新美術館地下1階ミュージアムショップ
 
          東京メトロ千代田線乃木坂駅
                                       青山霊園方面改札6 出口(美術館直結)

          ※ミュージアムショップへの入場は無料

    
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 ■あとがき 
  久ぶりにネット通販で本を購入しました。『全身編集者』白取千夏雄著・お
 おかみ書房刊 。
 伝説の雑誌『ガロ』の編集者だった著者の、ガロを通して生きてきた編集者と
 しての追想。漫画論であり、編集論でもあります。また、パートナー・やまだ
 紫さんへの惜しみない愛、『ガロ』への溢れる気持ちを率直に誠実に描かれて
 いました。
 青林堂のことは詳しくなく、騒動の末『ガロ』が休刊する顛末については元々
 よく知らなかったので、かなり胸が苦しい出来事でしたが、著者の言うとおり
 当事者によって見方は違うだろうし、意見もあるだろうと思います。
 ただ、神田神保町すずらん通りで、毎日胸を高鳴らせながら、すごいマンガ、
 新しい才能や表現と出会い『ガロ』をつくっていた時間の尊さを、そのいとし
 い時間を思いました。
 自分自身の、同じ神田神保町すずらん通りで書肆アクセスという書店で働い
 ていた時間が甦り、継続できなかった悔いとともに出会ったひとや出来事
 のかけがえのなさを感じました。

  今月も刊行が遅くなり申し訳ありませんでした。お詫びいたします。
                                                           畠中理恵子

 

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[本]のメルマガ vol.725


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■■                              vol.725
■■  mailmagazine of books         [そろそろ、旧のお盆 号]
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『図解 異常気象のしくみと自然災害対策術』

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■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その38「幽霊と囲む食卓」その2『黄泉から』

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 転生したら?

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
----------------------------------------------------------------------
その38「幽霊と囲む食卓」その2『黄泉から』

 何度も言うようだが、私は幽霊が苦手だ。

 だからこう書いていながら、幽霊と食卓を囲むなんて本当のところぞっとし
ないねと思っているのだが、そんな私でも嬉々として亡き人の霊と共に食卓を
囲みたい日がある。

 そう、それがお盆だ。

 実は私は、お盆の風習をあまり知らない。典型的な核家族で育ったことに加
え、親が京都人だったせいもある。あちらでは、これだけ盛大な五山の送り火
をしているのだから、送り火はもちろん迎え火も必要ない、というふうに過ご
していたらしい。実際マンション住まいでは気軽に迎え火を焚くわけにもいか
ないから、今でもせいぜい故人の好物を仏壇に供えて、みんなで食事をするく
らいで過ごしている。

 お盆というものはフランスにもあるようで、そんな風景や、戦前の下町のお
盆の様子が描かれている物語がある。

 それが、久生十蘭著の『黄泉から』という作品だ。
 
 物語は、戦争が終わった次の年のお盆の日から始まる。

 主人公の光太郎は、電話でこんな品々を注文する。

「ショコラ、キャンデイ、マロン・グラッセ、ブリュノオ……」

そして、

「女の子が飲むような甘口のヴァン・ド・リキュウル」はなかったので、
貴腐ワインの「オゥ・ソーテルヌ」を用意させる。

それから銀座にまわり、

「ボン・トンで誂えさせたキャナッペ」

を抱えて帰って行く。

 是非、この文章はフランス語の発音で思い浮かべて欲しい。

“Chocolat, Candy,  Maron Grasse,  Pruneau……et  Haut Sauternes”

 戦後すぐの東京では、まず手に入らないような贅沢でハイカラな品々だ。
 
 電話の相手は、闇屋のような怪しげな相手だろう。若い女性を連れ込むため
の品だと決めつけていたようだが、実は光太郎が迎えたかったのは、死者の霊、
若い女性の霊なのだ。

 彼が誂えたのは、仏蘭西に憧れた若い女性のためのお供えの品なのだ。

 彼女の名はおけい。光太郎のたった一人の肉親で従妹だった。生きていれば
たぶん二十二、三歳くらいだろうか。仏英和女学校を出て仏蘭西人の私塾に通
っていて、やがてはソルボンヌに留学する予定だった。そして何より光太郎を
慕っていて、パリに留学中の光太郎に招かれる事を待ち望んでいたという。け
れど光太郎にとって彼女はあまりにも子供で、その思いにこたえるつもりはな
かった。留学中の八年間も連絡を取ろうとしなかったし、今の今まで彼女のこ
とを思い出してもいなかったのだ。

 けれどこの日、偶然駅のホームでフランス語の私塾の主のルダンさんに会っ
たことから、全てが始まったのだ。

 ルダンさんは戦死したかつての生徒たちの霊を迎えに、今からお墓に行くの
だと言うのだった。そして、彼らが生還したら開くと約束していた大宴会を、
お盆のこの日、その霊の為に催すのだと言う。ルダンさんは、従妹のおけいに
ついても、きっと大宴会に来てくれると思うと言う。

 おけいは、戦争の末期に軍属の和文タイプライターとして従軍し、ニューギ
ニアで亡くなったらしい。いまだに遺骨も戻らず、墓もないままなのだった。

 おけいについて語るルダンさんの言葉から、光太郎は、もはや子供ではなく
なっていた彼女の思いと自分の冷酷さを改めて思い知ったのだ。

 すべての仕事の予定をキャンセルし、お盆の準備を始めた光太郎だったが、
遺骨も仏壇もない家では、このご馳走をどこに供えればいいのかがわからない。
小机に並べてみたり、暖炉に移したり、ピアノの上に飾ってみたりと、あれこ
れしてみるのだがどうも落ち着かない。結局そのまま、ぽつねんと椅子に腰を
かけて、様々なことを思いだしながらこおろぎの鳴く声を聞いているしかなく
なってしまう。

 そこへ思いもかけない来客があり、光太郎は従妹の最後の様子を知り、さら
に従妹の霊がここにいることを確信するのだが、その物語は読んでからのお楽
しみにしよう。

 光太郎は銀座に店を構えていた家の息子という設定で、下町の祖母の家での
戦前のお盆の風景も覚えている。

「真菰の畳を敷いてませ垣をつくり、小笹の藪には小さな瓢箪と酸漿がかかっ
ていた。巻葉を添えた蓮の蕾。葛餅に砧巻。真菰で編んだ馬。蓮の葉に盛った
団子と茄子の細切れ……」

 葛餅に砧巻、団子と茄子の細切れ、そんなお菓子や料理を供えるものなのだ
という事を私も初めて知ったのだが、きっと舞台となった戦後すぐの東京では
こんな品々も手に入らなかっただろう。

 この他に、物語の中にはフランスのお盆と呼ばれるレ・モール「死者の日」
のペール・ラシェーズの墓地の風景も描かれている。秋の日に墓参りをする人
々を見ながら、墓地を見下ろす墓地展望亭というカフェで、死者を悼む人々の
中に混じって感慨にふけったこともある彼なのだった。

 この物語で残念なのは、主人公たちが食べ物を味わう場面が一切ないことだ。
たとえ一粒のショコラであっても、光太郎は従妹の霊と共に味わうべきだった
のではないだろうか?

 ショコラ、その甘い響きを口にしながら味わうことによって、死者が持って
いた異国への憧れや、あの世とこの世を繋ぐ儚い感覚を、共に感じられるので
はないだろうか?けれど、光太郎がその甘く官能的な菓子を口にすることはな
く、物語は進んでいく。

 最後に光太郎は従妹の霊を伴って、ルダンさんが自宅で開いているという死
者との大宴会に行こうとする。

 ルダンさんは弟子に対してはいつも大盤振る舞いで、アルムーズやシャトゥ
・イクェムとかのボルドオやブルゴーニュの古酒の栓を開けてその旅立ちを祝
っていたとあるから、すごいご馳走が用意されているかもしれない。けれど、
そちらのパーティの様子を見ることはなく、物語は途中の道で終わってしまっ
ている。

 物語の最後の一行で、光太郎は闇に向かって手を差し伸べる。この姿に幽霊
談の怖ろしさを感じるべきか、それとも私のように、ああ彼にとって従妹はい
つまでも幼い女の子の感覚なんだなという寂しさを感じるべきかは、ぜひこの
短い物語を手に取ってご判断いただきたい。

 そろそろ、旧のお盆だ。

 私も亡き人の大好物、シュウ・ア・ラ・クレェムなどを用意しようと思う。
そして、その笑顔を思い浮かべ共に味わうことで、私なりのお盆を過ごそうと
思っている。

----------------------------------------------------------------------
『黄泉から』久生十蘭著
「文豪の怪談ジュニアセレクション 霊」   汐文社
「女霊は誘う 文豪怪談傑作選 ; 昭和篇」  ちくま文庫
「久生十蘭短篇選」            岩波文庫 
「定本久生十蘭全集 6」          国書刊行会
「久生十蘭全集 第2」            三一書房,

----------------------------------------------------------------------

高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

---------------------------------------------------------------------
■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
----------------------------------------------------------------------
転生したら?

 お盆だから、というわけではないが、遅ればせながら『転生したらスライム
だった件』をAmazonプライムで見て、面白い。なんじゃこりゃ、と思ってマン
ガも読んでしまった。現在、12巻。続きが早く読みたいところである。

 ただ、マンガとアニメとを比較したとき、アニメ版の方がストーリーがよく
まとまっている気がしたので、その印象を記載したい。

 初めてこのラノベというかマンガというかアニメの話を聞いたときに、印象
としてはさほど面白さを感じず、フーン、という印象だった。しかし、実際に
アニメを見てみると、ほほう、なるほど、と思った。

 以下、できるだけストーリーをばらさないように書くが、ネタバレが含まれ
るかもしれないので、これから読む人、見る人は気をつけられたい。

 まず転生ものということで、うだつのあがらない主人公が転生して活躍する、
という話かと思えば、まあ、そういう側面もあるかもしれないが、ゼネコン勤
務で37歳ということで、ああ、そうなんだ、と。

 彼女が居ないという設定はまあ、いろいろこの世に未練が残りそうなので、
そういう設定と解釈。

 で、ストーリー開始早々に転生し、現世の話はまったくと言っていいほど出
てこない。あれよあれよという間に事件に巻き込まれて話がぐいぐい進んでい
く。

 このストーリー展開、何かに似ているな、と思ったら、シュミレーションゲ
ームのそれだ、と思った。戦って勝って兵を育てたり食糧を作ったり城を築い
たりとしていくうち、だんだんと強くなって領土を拡大していく、というゲー
ム。あれをストーリーに起こすとこうなるんかなーという印象である。

 このマンガを読んで、例えば、パズルゲームなんかもそのうちストーリーに
なるんじゃないかと、そんなことも思った。

 話は全体として、非常に御都合主義である。その御都合主義が「転生したス
ライム」ということですべて片付いてしまうところがすごい。しかし、その御
都合主義が気にならない仕掛けが強力な「敵」の存在。

ちなみに、私がこのタイトルを最初に見たのがこちら。

講談社 純利益64%増 電子書籍好調 紙の不振補う
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41565580R20C19A2X30000/

「人気漫画「進撃の巨人」や「転生したらスライムだった件」などの電子の単
行本の販売が好調で、売上高を押し上げた。」

とのこと。確かに、Amazonプライムとかでアニメを見て、続きを知りたくなっ
て電子書籍、というのは行動としてアリ、だと思う。

 そしてこの本のユニークなのは、もともと、下記のサイトでの掲載から始ま
った、とのこと。

転生したらスライムだった件 小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n6316bn/

 以前、どこかで紹介した『まおゆう』もネットでの小説掲載からのスタート
だった。

 ネットに小説(プロットレベル)を掲載する→面白いからメディアミックス
展開

 そんな流れが既にメジャーになっていることに、驚くが、では、なんでもか
んでもそうなるわけではない。やはりこのプロットが圧倒的に面白かったから
メディアミックス展開にも耐え、なおかつ、講談社という大型出版社の業績に
ついての記事にまでタイトルが掲載されるのだろう。

 いわゆる編集者というのは、やはり一般のヒトとは違う嗅覚を持っているん
だなぁ、ということを、しみじみと感じた作品であった。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 お盆まっさい中ですね。台風も通過中です。(aguni原口)

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『「食」の図書館 ラム肉の歴史』
ブライアン・ヤーヴィン著 名取祥子訳
四六判 176ページ 本体2,200円+税 ISBN:9784562056545

栄養豊富でヘルシー……近年注目されるラム肉の歴史。古代メソポタミアの昔
から現代まで、古今東西のラム肉料理の歴史をたどり、小規模で持続可能な農
業についても考察する。世界のラム肉料理レシピ付。
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■トピックス募集中です!
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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デイビッド・ピリング 仲達志訳 『幻想の経済成長』早川書房 2100円
+税

2002年、フィナンシャル・タイムズの東京支局長として来日した著者
は、周囲から同情の目でみられたと言います。経済の停滞の続く「終わった
国」で仕事をするなんて、と。たしかに少子高齢化等、日本社会は大きな問題
を抱えていました。しかし、人々の平均寿命は極めて長く、治安は素晴らし
く、公共交通機関は整然と運行しており、消費生活は至って快適で、企業も新
しい時代に対応すべく変貌を重ねていました。これは「停滞した国」の姿では
ない。この経験から著者は、GDP※という指標への疑問を深めていきます。

GDPは、1930年代に生まれています。戦争を遂行する際に、どこまでの
資源を動員できるのか。それを算定するためには、一国の経済力を示す指標が
不可欠となります。経済学者クズネッツは、国内で生産され消費された財の総
和を推計し、それを指標として用いました。クズネッツ自身はこの指標に満足
していません。有害な投資や無駄な支出が算入されるのに対して、家事労働や
ヴォランティア等有益な無償行為はそこに参入されないからです。しかし、発
明者の憂慮をよそに、GDPは万能の指標として独り歩きを始めます。

著者はGDPそのものを否定していません。一国の経済力を示す指標は必要で
す。そしてある程度までの経済成長は、確実に人々を幸福にします。乳幼児死
亡率や平均寿命はあるところまでは、GDPと高い相関関係を持ちます。しかし
そのレベルを超えると、GDPが人々にとっての福音であるとは、言い難くなっ
てしまいます。経済成長に伴って拡大する格差もGDPには反映されません。驚
くべきことにアメリカ白人男性の平均寿命は、近年急速に短くなっています。
GDP世界最大の国で、「絶望死」と呼ぶべきものが蔓延しているのです。

世界の経済学者や統計の専門家たちは、GDPに替る(あるいは補完する)
よりよい経済指標の構築を目指しています。自然環境に打撃を与える経済活動
をGDPから差し引き、市民生活を豊かにするための有償無償の活動を指標に
算入しようとする点で、これらの試みは一致しています。しかし代替案もまた
万能ではありません。自然景観の美しさまでお金に換算しなければなりませ
ん。そしてどの項目を算入し、どの項目を除外するのか。ここには価値判断が
深く関わってきます。統計は極めて政治的な代物であると著者は言います。

経済の実態を正確に把握した上で政策の決定がなされるように、クズネッツ
以来、学者たちは有効な経済指標の構築に取り組んできました。ところが今
年、厚生労働省がアベノミクスによる賃上げ効果を過大にみせるような統計不
正を行っていたことが発覚しました。年金に関する「不都合な真実」を明らか
にした金融庁の担当官が、クビになってしまったことは記憶に新しいところで
す。客観的なデータを歪めて恥じるところがない人物が、長く政権の座に留ま
っている。日本はもはや、「終わった国」であるとの思いを禁じ得ません。

※GDP(国内総生産)は、1980年代までGNP(国民総生産)と呼ばれてい
た。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「情」の話

参院選が終わって「いろいろ思うところ有り」な時になぜだか「吉本事件」が
マスコミを凌駕している現在。

「いや、それだけじゃないし近々の問題山積みだしよぉ」なのだが…ちょっと
気になる部分が見えて今回のテーマにしてみた。吉本事件を「情」で捉えれる
かどうか?だ。

会社のトップに情があるかどうかではなく雇われ側がトップに情を持っている
かどうか?それが私の中では今回かなり気になった。

雇用関係は本来クールで情が挟まるモノではない。だが芸能関係もそうだし、
我々マンガ界でも最初に付いてくれた編集さんを信用し過ぎる傾向にあるんじ
ゃ無いのか?と。事実自分もそう言うところがあった。

学生さんたちは「一番最初に名刺をくれて個人的に連絡をくれた人」からなか
なか離れられない。もちろん大切な人かも知れないがその人が有能かどうか?
はまた別の話。

その編集さんとのやり取りを聞いていると「いや、良い人かも知れないがあな
たと二人三脚でやるにはどうなんだろう?」と思う事がある。発展途上の学
生、新人にかける言葉がそれなの?と思う事が多々あるのだ。

個別に個性を見出して育てて行く事は並大抵な事ではないと言うのは重々承知
している。でもそれが出来るのが有能な編集なんじゃないか?と常々思ってい
た。だから厳しくても的確なアドバイスをくれる人が自分のためには一番大切
だと。そして組織の中で発言力があるかどうか?も大切な事になる。

でも「情」が絡むとその線引きがあやふやになる。

今回の話でも現会長はある意味かなり有能な方なのかも知れないが、この状態
でどれだけ能力を発揮できるかと言うと難しいところがある。二人三脚でここ
まで頑張って来た過去の情にとらわれ過ぎると現実を見誤る事にならないか
と。

特にここ数年の権力サイドへの接近を考えると作品=芸人を高めて行くのとは
別の方向に動いている様に感じて、それを「情」で支えるのは芸人として違う
んじゃないかと思うのだ。

この話がどう言う決着を迎えるかはわからないが、本来大切な「情」が人の目
を曇らせる事があると言うのも自覚する必要があるなぁ。

阪神淡路の時に一番最初に「大丈夫でしたか?」と声をかけてくれたヤクルト
レディーに恩義を感じてヤクルトを飲み続ける私。身体には良いと思うけど。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第98回 『お宝発見の顛末はいかに ── ダヴィンチとカラヴァッジョ』

「参った、参った、オイルマネーには敵わないよなぁ」と当時の私。
2017年11月、ニューヨークのクリスティーズで落札された500億円ほどの小
さな油絵が、当時誰に落札されたのかわかりませんでした。噂ではサウジアラ
ビア方面ということでした。さもありなん、です。

落札後行方不明状態のこの絵は、ダヴィンチの『Salvador Mundi』
(65.7x45.7cm)という作品。

その後、アブダビの美術館で初お目見えになるかと思っていたけれど延期。
そして今年の秋のルーブルでのダヴィンチ展に貸し出されるのではないかとも
いわれていたけど、どうもそれも怪しくなってきたらしいです。

行方不明のその後についてはブルームバーグの記事、今までの経過については
AFPの記事に書かれています。
□ブルームバーグ記事 (日本語)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-11/
PSX9UV6KLVR401
□AFP(日本語)
https://www.afpbb.com/articles/-/3223150?page=3

なんたってこの絵は実際ダヴィンチ自身の手になるところは全体の5-10%ほ
どと言われているらしく、あとは弟子達が描いたとも言われています。

本物か、偽物か、疑念は深まるばかりですが、ルーブルに展示されないのは却
っていいのではないかという者もでる始末。偽物なんか展示したら沽券に係わ
りますからね。

でもね、このような話には夢とロマンがあります。オークションで日の目を見
るまでのワクワク感はたまらないものがあります。そしてそれが美術館に飾ら
れてたくさんの人にインスピレーションを与えると思うと真偽のほどは別にし
て、やはり影響は大きいです。

もう一作品をご紹介しましょう。
お宝発見シリーズの典型として、今年2019年6月に恐らくは150億円ほどでア
メリカの富豪に買取られた絵が、カラヴァッジョ『Judith et Holopherne』
(144x173,5cm)。
□カラヴァッジョオークションサイト(仏・英)
https://thetoulousecaravaggio.com/fr

欧米ではこのお宝の話で盛り上がってました。しかも発見されたのがパリのト
ゥールーズという地方都市の屋根裏部屋の話だったので、尚更フランスでは盛
り上がりました。この絵は屋根裏の水漏れ工事をきっかけに発見されました。

この作品の鑑定を依頼された地元のオークションハウスが17世紀の絵だと判
断して、さらに専門家に鑑定を依頼したのです。専門家も興奮したことでしょ
う。専門家人生に1度起こるか起こらないかのミラクルな出来事ですから。

世の中に認められたカラヴァッジョ作品は68点だけです。今回の作品は、
1617年に行方知れずになった作品だと言われています。当時の文書に記載さ
れている絵に違いないと専門家達が確信を持てるようになるまでの調査仮定は
ドキュメンタリー番組ネタです。

詳しくは美術手帖の記事を読んでください。
□「屋根裏の絵はカラヴァッジョ? 予想落札価格180億円の理由を探る」 美
術手帖
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19887

2019年6月27日、トゥールーズでのオークションを待たずして、示談売買が
成立。

購入者は アメリカのアートコレクターであり、メトロポリタン美術館とフェ
ルメールで有名なFrickコレクションの理事を務めるTomilson Hill氏です。
ということは、近いうちにメトロポリタンにお目見えするんですかね。
真贋論争も含めて今後が楽しみです。

お金のないフランスも購入しようと頑張ったのですが出せない金額だったんで
すよ。日本でいう国宝にこの作品を指定して、2年間ほどフランス国外に持ち
出せないようにパスポートを出し渋っておりました。

残念ですが、やはり美術品はお金のあるところに集まる、のでした。。。

<参考情報>
この秋、カラヴァッジョ展が日本で巡回します。

札幌展
会期:2019年8月10日〜10月14日
会場:北海道立近代美術館

名古屋展
会期:2019年10月26日〜12月15日
会場:名古屋市美術館

大阪展
会期:2019年12月26日〜2020年2月16日
会場:あべのハルカス美術館

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■スプートニクとガガリーンの闇 22 内藤陽介
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月に立つペナント

1959年1月2日のルナ1号の打ち上げに続いて同年9月12日、ソ連が打ち上
げたルナ2号は、翌13日、月面に到達した。

ちなみに、ソ連首相のフルシチョフは、同年9月15日、国連総会参加のために
訪米し、第二次大戦後初の米ソ首脳会談を行っている。この日程を見れば、フ
ルシチョフとしては、ルナ2号の成功を露払いとして西側のミサイルギャップ
幻想をさらに煽り、自国に有利な“平和共存”路線に持ち込みたいという意図が
あったことは明白といえよう。

さて、打ち上げから月面に到達するまでの間、ルナ2号は観測活動を行い、月
には地球にあるような磁場が無くバンアレン帯のような放射線帯も存在しない
ことを明らかにしたほか、いわゆる太陽風(太陽から流れ出る大量のイオン
流)の存在を確認するなどの成果を上げている。

1957年のスプートニク1号以来、ソ連は衛星が発する電波の周波数をあえて
公表し、それを西側機関が傍受することで、自国の技術力に対する“お墨付
き”にしようとの戦略をとっていたが、1959年1月のルナ1号に関しては、月
を通過した時点で電波を傍受したと発表する西側機関はなかった。

このため、一部にはルナ1号の成果を疑問視する声もあったので、ルナ2号の
打ち上げに際しては、ソ連は英国のジョドレルバンク電波天文台に電波傍受の
協力を求め、ルナ2号が月に命中して崩壊し、電波の送信が途絶えるととも
に、月の重量がわずかに増える瞬間を確認させている。もちろん、英国を通じ
て米国や西側世界にも情報が“流出”することを期待しての措置である。

また、ルナ2号には、ソ連の国章とCCCP(ソヴィエト社会主義共和国連邦の
キリル文字での略称)を刻んだペナント(正確にはペナント状の金属片が貼ら
れた金属球)が搭載されており、ソ連の月到達の証拠として、それを月面に置
いてくるという使命が課せられていた。万一、月面到着時の衝撃でも衛星が解
体されなかった場合には、機内に仕込まれた爆薬によって確実に解体が破壊さ
れてペナントが飛び出すという念の入れようである。

さて、ルナ2号の月面到達の報を受けて、到達翌日の9月14日、早くもルーマ
ニアが記念切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
201907251805014ab.jpg

を発行する。ルーマニアの記念切手は、1月2日のルナ1号の打ち上げ成功を
受けて、2月4日に発行した記念切手

https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
201907251801460d6.jpg

に“1959年9月14日 月に到達した最初のロケット”の文字を加刷したもの
で、ともかくも、ソ連の快挙をいち早く讃えようという意図がうかがえる。

ついで、9月21日、東ドイツが月面に“CCCP 1959年9月”と表示された旗が
立っている図案の記念切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190725181228974.jpg

同23日にチェコスロヴァキアが月に立つソ連国旗とロケットを描く記念切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190725200351680.jpg
を、同24日にハンガリーが、同年3月に発行した国際地球観測年の切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190425213225fb3.jpg
の図案をそのまま流用し、日附を9月13日に変更し、月の部分にソ連国旗とル
ナ2号の到達時刻を加えた記念切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190725201126646.jpg
を発行している。

ソ連に対する忠誠を競うかのようにルナ2号付到達の記念切手を発行した国々
は、ルーマニアを除いて、いずれも、月に立つソ連国旗をモチーフにしてお
り、当時の人々にとって“月に立つペナント”の印象がいかに強かったかがうか
がえる。

当事者であるソ連は、ルナ2号は月にペナントを立てたのではなく、単にペナ
ントを置いていただけということを自覚していたはずだが、上記のような国際
世論の反応を踏まえ、11月1日、ようやく、月に立つペナントを図案に取り込
んだルナ2号月到達の記念切手
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190724224334aae.jpg 
および
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
201907242243332e7.jpg
を発行した。また、記念の切手付封筒のカシェにも紅旗をなびかせて月へと向
かうロケットが描かれている。
https://blog-imgs-111.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/
20190724224332e0f.jpg 

なお、ソ連がルナ2号月到着の記念切手を発行したのは、上述のように11月
1日のことだったが、それ以前に、10月4日に打ち上げられたルナ3号の記念
切手が10月12日に発行されているので、切手の発行順としてはルナ3号がル
ナ2号に先んじるという逆転現象が生じている。

おそらく、ソ連当局としては、ルナ2号については確実に月に到達できるか否
か自信がなかったため、実際にルナ2号が月に到達したことを確認してから切
手の制作を開始すればよいとでも考えていたのであろう。

それだけに、“宗主国”の歓心を買うことに汲々として、ソ連よりも早く、ソ
連の偉業をたたえる切手をあいついで発行した東欧諸国の姿には、あらため
て“衛星国”の悲哀を感じざるを得ない。


内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
パレスチナ現代史: 岩のドームの郵便学』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
今年は、まだあまり暑くならない。おそらく8月に入る頃には本各的な夏の気
温になるのだろう。と言っても35度とか、そんな温度にはならないようだ。

それでは今年は冷夏かと言われると、ちょっと待って欲しい。私が子供の頃な
ど33度が最高気温というのが普通の夏だったのだ。毎日最高気温が35度に達
する近年の夏の方が異常なのである。

そんなことを思いつつ、涼しくなるまで我慢の日々が続く・・・。
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