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[本]のメルマガ vol.740

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■■ [本]のメルマガ                 2020.01.05.発行
■■                              vol.740
■■  mailmagazine of books      [夜食は少し、危険な悪巧み 号]
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『太神楽:寄席とともに歩む日本の芸能の原点』

鏡味仙三郎(太神楽曲芸協会会長/一般社団法人落語協会理事)著
A5判 210ページ 本体2,400円+税 ISBN: 9784562057191

最古の芸能「太神楽」の世界を、その歴史と盛衰、自身の交遊録から寄席での
楽しみ方まで縦横に紹介。また声優の田中真弓さん、太神楽界最長老の鏡味健
二郎さんとの特別対談や、技芸の写真も多数収録した誰でも楽しめる一冊!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その43『招かれた女』その3.たくらみの夜食と外食の自由

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第123回 「皆でノル」から「バラバラにノル」へ

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その43『招かれた女』その3.たくらみの夜食と外食の自由

  
 ボーヴォワールの『招かれた女』を見るのもこれで三回目。今回は戦前のパ
リの街に現れる食べ物を見て行こうと思う。

 最初に書いたように、主人公のフランソワーズは劇団の脚本家でもあり小説
家でもある。彼女の恋人であり、劇団の主催者で俳優兼演出家のピエールは売
れっ子で人気者。ブルジョワの伯母から引きだした運営資金で劇団を設立し順
調に行っているようだ。だから、レストランやバーで食事をする場面になると、
必ず若い人たちには食事をおごっている。その場面を見てみると、特にご馳走
を食べるわけではなく、レストランのコース料理というより定食という感じの、
前菜と主菜に食後のコーヒーぐらいの食事なのだが、それでもいかにもフラン
ス料理らしくて、おいしそうなのだ。

 フランソワーズとピエールが若手俳優で演出助手のジェルベールを、グリー
ユというレストランに連れて行ったときの食事場面を見てみよう。

 ピエールの好きな前菜は「マヨネーズかけの卵」。平たく言えば、ゆで卵に
マヨネーズをかけただけのものなのだけれど、レストランの自家製マヨネーズ
というと、イメージは少し違うと思う。

<ピエールはマヨネーズをかけた卵を注文して、たんねんにソースの中に黄身
を砕いていた。ミモザ卵と自称するやつだ>
 
 ジェルベールの注文は「隠元豆付きのハム」。メニュウにまだあったと言っ
て喜んでいるので、この赤い隠元豆つきのハムという料理は、季節のもののよ
うだ。この料理について一応調べたてみたのだが、サラダだとしたら前菜かも
しれないし、主菜の料理である可能性もある。とにかく、ジェルベールはこの
料理のことを後で、un miracle、「あったのは奇跡でしたよ」とグザヴィエー
ルに説明しているくらいだから、お気に入りのようだ。

 デザートにと、フランソワーズはジェルベールの好物のタルトをすすめるの
だが、戦争の危機を感じて気がふさいでいるジェルベールはそれを断り、最後
は埃をかぶった大きな首の細い瓶に入った古いマール酒で食事が締めくくられ
ている。

 では、フランソワーズの好きな食べ物は何かと言うと、「ヴェルシュ」なの
だが、この食べ物は長い間私にとって謎だった。

 それは、フランソワーズとピエールが二人だけでレストランに訪れた日のこ
とだ。運悪く大好きなマヨネーズかけの卵がなくて、ピエールはフランソワー
ズが食べたいというヴェルシュをふたつ注文した。

<ピエールは平然として、ほやほやのヴェルシュにイギリス・ソースをたっぷ
りかけた>

 ヴェルシュとは、辞書をひくとチーズトーストとあるのだが、チーズトース
トにソース?と釈然としないままでいた。だが、ある日ふと、これはWelsh 
rarebit ウェルシュ・ラビットだと気づいて、ほっとしたのだ。それではイギ
リス・ソースもかけたくなるだろう。たっぷりやりたまえ、ピエール君。

 ちなみに私がこの食べ物に本の中で初めて出会ったのは子どもの時に読んだ
『ジェーン・エア』だった。伯母さんの家の女中さんが、今晩はウェルシュ・
ラビットが食べたいと言う場面があって、註には「チーズにビールを混ぜてト
ーストの上に塗って焼いたもの」とあり、子供には想像もつかない苦そうな食
べ物として登場したのだった。レシピを調べるとウスターソースを混ぜるもの
もあり、ピエールの食べ方にも納得が行く。

 この作品を読んでいると主人公たちは外食ばかりしていて、実際に料理をし
ているところがあるのは、若い劇団員がゆで卵を作る場面だけなのだ。もちろ
ん主人公のフランソワーズは一切料理をしない。

 ただ、二人の人物が夜食を作って彼女にご馳走する場面が二か所ある。その
テーブルをのぞいてみよう。 

 若い友人のグザヴィエールが、自分のホテルの部屋にフランソワーズを招き
入れて、簡単な夜食を作ったから今晩はここでお過ごしくださいと言うところ
から情景は始まる。
 
<洗面台のそばのアルコール焜炉には、湯沸かしがシュウシュウ沸いて、暗が
りをすかしてみると、いろんな色のサンドイッチを持った皿が二枚置いてある>

 グザヴィエールは新鮮な緑茶も買ってあると言い、フランソワーズはその強
引な招待をむげに断るわけにもいかないと、しぶしぶ応じる。

 どうしてだろう?若い女の子が一生懸命作った料理を何故食べたがらないの
だろう?

 そんなまずそうなサンドイッチなのか?

「赤いキャヴィアはお好き?」
「ええ、とても」
「ああ、よかった。お嫌いかと思って、とても心配しましたの?」

 そんな心遣いを見せながら差し出されたのはオープン・サンドイッチで、

<円やら、四角やら、菱形やら、いろんなかたちに切った黒パンの上に、さま
ざまな色のジャムみたいなものを塗って、アンチョビや、オリーヴの実、ビー
ツの丸切りなどがのっている>

 このサンドイッチは二つと同じものがないんですと自慢しながらグザヴィエ
ールは、でも、所々にトマトソースをのせずにはいられなかった、とてもきれ
いに見えたからと言う。

 フランソワーズはトマトが大嫌いだと知っていながら、らしい。

 そこで、しぶしぶフランソワーズはサンドイッチを口にするのだが、そう変
わった味でもなかったようだ。グザヴィエールが壁に貼ったヌード写真や、同
じホテルに住むアフリカ系のダンサーの魅力について二人であれこれ話しなが
ら、お茶を飲み過ごす。

 なんとなく大学生の頃、友人の下宿を訪ねたときの風景を思い出す。あの頃
の誘い文句は、オーブン・トースターを買ったからピザトーストパーティーを
しようというものだった。お酒などなくても紅茶だけでも一晩語り明かせたし、
他人の恋の話だけでも盛り上がったっけ。

 でもグザヴィエールのこの夜食の招待は、やはりイクラとトマトソースの取
り合わせのように、何か裏があるのが分る。心遣いを見せながらも嫌いな食べ
物を食べさせるように、やさしさの影にピエールとの恋の駆け引きが隠されて
いるのが明らかになってきて、フランソワーズはグザヴィエールとの友情には
打ち込めないと思うのだ。

 それでは、もうひとつの夜食の場面を見てみよう。物語は進んで行き、フラ
ンソワーズはグザヴィエールとピエールの三人で、トリオで愛情を深め合うよ
うになって行く。彼女たちを夜食に招待したのはピエールの妹で画家のエリザ
ベート。最近は時代の最先端を行くキャバレエの装飾を任されて、名も売れて
お金持ちになってきたようだ。粋なアトリエ付きの部屋で、おしゃれをして三
人を待つエリザベート。自分の姿を鏡で見ると昔の夢がかなったかのように見
えると思っている。若かった頃は狭くてみじめなアパートの部屋で、ピエール
のためにリエットのサンドイッチとキャラフェに入れた量り売りの安葡萄酒の
夜食を用意しながら、キャヴィアとブルゴーニュの古酒を用意しているつもり
でいた等と思い出している。リエットというのは、レバー抜きのパテのような、
ラードの中に挽肉が入っているような感じのもので、パンに擦り付けて食べた
りする。瓶詰などで肉屋や食料品店で売っている、普段のお惣菜という感じの
ものなのだ。
    
 では、今夜エリザベートが用意した夜食は何だろう?

 キャヴィアのオープン・サンドイッチに、フォアグラのパテをのせたオープ
ン・サンドイッチ。そして、プチフール。

 シェリー酒やウオッカの壜もきらびやかに並んでいる。

 ピエールは、

「ほっぺたが落ちそうだ。エリザベート、まるで王様を迎えたようなおもてな
しだね」

と、ほめる。

 フランソワーズもフォアグラのサンドイッチをもりもり食べて、エリザベー
トの衣装をお姫様のようだともてはやす。普段人前で何も食べないグザヴィエ
ールも、すすめられたキャビアを食べておいしいと言う。

 でも、エリザベートは、二人が入れ込んでいるグザヴィエールが気に食わず、
自分の恋人の脚本家のクロードの芝居をピエールが取り上げようとしないのに
不満を持っている。部屋で蓄音機のレコードに合わせてダンスをするグザヴィ
エールとピエールを見ながら、エリザベートは幸せそうなこのトリオに水を差
す計画を密かに練り始めている。

 夜食は少し、危険な悪巧みを産むようだ。

 今回は省略したけれど、この他にも物語の中にはハイキングに行った山のカ
フェで食べる熱いスープや大きなオムレツなどおいしいものがまだまだ描かれ
ている。フランス文学は確かにおいしいものに溢れているのだが、それだけで
はなく、戦中の食糧難を経た作者の思い入れが感じられる。これは宮本百合子
の『二つの庭』にも共通する点で、飢えを知ったからこその食物への郷愁や思
い入れの深さがあると考えられるのだ。

 作者のボーヴォワールは一応お嬢様育ちだったけれど、家が没落し持参金を
持てない身となった。だから親たちに、お前はもう他のお嬢様のような結婚は
できない、大人になったら働かなくてはならない身分なのだと言われてきた。
そして、大学卒業時に教授資格を取り、教職につき、親の家から独立すること
ができた。

 すべての時間を自分で使っていい、自由な身になったのだ。

 その喜びをボーヴォワールは自伝『女ざかり』に、こう書いている。

<暁方に帰っても、一晩中本を読んでも、二十四時間ぶっ続けに閉じこもって
から急に往来に飛び出してもよかった。私はレストラン・ドミニックで、ボル
シチ一杯でお昼をすませたり、クーポールで、夕食代わりにチョコレートを一
杯飲んだりした。>

 彼女が初めて自分自身を投影した主人公であるフランソワーズを描く時、カ
フェやレストランで食事をする場面しか描かなかったのは、彼女自身、外食が
できる自由というのを強烈に感じていたからに違いない。そして、恋人の為に
朝食を作ったり夜食を用意するような場面がないのは、恋をしても対等で、仕
事をし、独立した生活を送っている女性を描きたかったからだろう。

 まだ将来『第二の性』を書くとは思いもよらないボーヴォワールが最初に書
いたこの長編小説。食物を通して見てきたこととは別に、様々なボーヴォワー
ルの特性が現れているのだが、それについて語るのは、また別の機会にしよう。

 ぜひ、フランソワーズが味わった様々なおいしい食べ物と共に、この小説を
おいしく召し上がって欲しいと思う。自由と独立の香りを楽しみながら。

Bon appétit.


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“L’invitée” Simone de Beauvoir                       Gallimard 

『招かれた女』ボーヴォワール著 河口篤 笹森孟正訳   講談社
                           新潮文庫 
『女ざかり』ボーヴォワール著 朝吹登美子 二宮フサ訳
                         紀伊國屋書店
『ジェイン・エア』シャーロット・ブロンテ著 大久保 康雄訳
                           新潮文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使 
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第123回 「皆でノル」から「バラバラにノル」へ
  ―井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』(アルテスパブリッシング)

 ジャズを聞いたことのある人なら誰でも、ソロを取るプレイヤーの音がリズ
ムセクションが刻む音に対しほんの少し遅れて聞こえてくることを不思議に感
じたことがあるのではないだろうか。ソロとリズムセクションで音が出るタイ
ミングに微妙なズレはあるが、一定の間隔でズレ続けるので演奏全体が破綻を
きたすことはない。それどころか独特のモタモタ感がジャズっぽくてかっこい
い! 

 このズレるリズム法のことを「レイドバック(leidback)と言い、モダン・
ジャズの演奏の基本になっている。このジャズ特有のノリを目に見える形で、
「科学的」に解析した本が現れた。井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』
である。著者は、福岡県出身のアマチュアのピアニスト(但し腕はプロ級)。
「フレーズにタメがない」と指摘されたことがきっかけで本業の医師の仕事を
しながら10年以上にわたって研究を続け、その成果を本書に結実させた。その
執念、努力に心から敬意を表したい。  

 著者の分析は精緻を極めるが、方法は意外とシンプルである。演奏をパソコ
ンに取り込み、波形編集ソフトを使って音の流れを図(波形図という)にし、
拍子とのズレのタイミングを計るというもの。ジャズのアドリブは1拍を8分
音符に分けて刻んでいくのが普通だが、著者は音の出るタイミングを4つの要
素で整理していく。

 1つ目は遅れ値。ベースが奏でるジャストの拍の頭からどのくらいの間隔で
ソロの音が出ているか。2つ目はハネ値。ベースの1拍の長さに対するソロの
8分音符の表拍の長さ。3つ目は裏拍値。ソロの8分音符の裏拍がジャストの
拍からどのくらいの間隔で出ているか。4つ目はタイミング値。上記の3つの
値を総合したもの。

 著者は4つのパラメータをフル活用して音の分布図を作っていく。その結果、
ジャズに革命をもたらしたと言われるアルト・サックスのチャーリー・パーカ
ーは、和声面だけでなく、音を刻むタイミングの面でも大革命を成し遂げてい
たことが明確に確認された。彼以前のジャズ、つまりスウィング・ジャズにお
いては、ベースと同じタイミングで表拍の音を出す「頭ノリ」が主流だった
(テナー・サックスのコールマン・ホーキンス等)。しかし、パーカーはベー
スの音からかなり遅れたタイミングで表拍の音を出し、裏拍のも後にズレる
「後ノリ」となっている。ベースとソロのタイミングが一致するスウィングは、
安定した勢いのある感じになるが、パーカーの「後ノリ」演奏は、浮遊感に満
ちたもったりした感じになる。我々が良く知っているモダン・ジャズのノリだ。

 パーカーは先輩であるレスター・ヤングの演奏を参考にしたようだが、それ
にしてもこの変化は急激だった。チャーリー・パーカーの「後ノリ」はたちま
ち周囲に影響を与え、ファッツ・ナヴァロはここからハネを減らし、イーヴン
に近い音の運びでよりスムーズにスウィングするノリを考え出した。マイルス
・デイヴィスはより大胆に後にズレるリズム法を導入した。著者はマイルスが
「卵の殻の上を歩く男」と呼ばれるのは、繊細なミュート・プレイのためばか
りでなく、ギリギリの「後ノリ」のためでもあると述べている。卓見であろう。
また、デクスター・ゴードンは局面によってこれらのノリを使い分ける、「い
いとこ取り」の奏法を確立した。

 自由なソロの重要性が浸透したスウィング時代、ジャズ・ミュージシャンた
ちは個性的な演奏を繰り広げていたが、表拍をベースの音とかっちりと合わせ
ることでは一致しており、比較的均一なリズムで演奏していたと言えそうだ。
が、ビバップ期のチャーリー・パーカーの「後ノリ」革命以後、プレイヤーた
ちはズレの面白さに目覚め、各々が個性的なリズム法を模索し始める。

 これはどういうことだろうか? ぼくには、1940年代後半のビバップの出現
は、単なる音楽の進化ではなくミュージシャンたちの人間としての自覚の進化
に促されたものであるように思える。1920-30年代のジャズはダンス音楽であ
り娯楽音楽だった。もちろん優れたプレイヤーは深い感情演奏に込めたが、基
本的なコンセプトは「皆でノル」であり、プレイヤーは客の楽しみへの「奉仕」
を前提に音楽表現を行っていたと言える。しかし、時代が下ってプレイヤーた
ちに「個」の意識が育ち、他の誰でもない自分自身としての主張を音に込めた
いと思うようになった。そのプレイヤーの言わば「自我の目覚め」が、複雑な
和声の提示として、更に音のタイミングのズレとして、顕在化したのがビバッ
プだったのではないだろうか。モダン・ジャズは踊れない音楽となり、バンド
はプレイヤーたちが各々の「孤独」を確かめ合う場に変わった。踊るのをやめ
て席についた客は、ステージ上での激しい「個」の応酬を固唾を飲んで見守る
ことになった。それは客自身が己の「孤独」を自覚することでもあった。こう
してジャズは「皆でノル」から「バラバラにノル」ものに変わり、大衆音楽か
ら表現音楽へと変貌していったのだ。

 本書の分析対象は多岐にわたり、後半ではドラムスとベースの関係が取り上
げられる。本書の第一の読者対象は実際にジャズを演奏する人だが、譜面では
なく図から演奏を分析するため、楽典の知識のない愛好家でも十分に読んで楽
しむことができる。ジャズへの理解が深まること間違いなしの一冊だ。


*井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』
(アルテスパブリッシング 本体1800円))

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 2020年最初の発行です。あけましておめでとうございます。本年もよろしく
お願い致します。(aguni原口)

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→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→今回は、日本の出版社の話

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→現場に武器なしでどう戦えと?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→消える学生

★「はてな?現代美術編」 koko
→美術の価格とは?トップたちの論争

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→朝鮮総連と帰国事業にスプートニク

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内藤陽介氏の新刊、来年早々発売
「日韓基本条約」えにし書房 2000円+税
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李承晩から朴正煕へ─
朝鮮戦争後の、復興から経済成長期へ向かうこの時期にこそ、現在の日韓関係
につながる問題の原点がある!
日韓基本条約への道のりを、郵便学者にして韓国史の研究者でもある著者が郵
便資料を駆使して詳細にたどる。
両国の関係を改めて見つめ直すための基本図書。

この本の発売を記念して、東京・目白の切手の博物館で行われる第11回テー
マティク研究会切手展のイベントとして、1月12日に内藤氏の郵趣カンファ
レンス(講演会)も行われます。時間は13時から90分の予定。先着20名限定
です。
http://yushu.or.jp/event/minipex/minipex.html

■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第106 回 本をつくる、落ち着いた小さな声を聴く

文章に向き合うようになってからほぼ50年になる。そう年数を知っておどろ
くのだが、このごろ言葉とか文章についてこんなふうに考えていた。

もし、ある一行の文章に感銘をうけ、またはある幾つかの言葉を読んで心が動
いたとしたら、それが新聞紙の余白に書かれていても、よく歩く道の石の壁に
書かれていたとしても、生き方が変わるかもしれないような凄いこと。

本で読むのとインパクトはなんら変わらない。書かれた状態ではなく、「何
が」書かれているかのほうに重みがある、と。

だから装丁がよいかどうかにもこだわらない。古本でも、文庫本でもいいし、
今や紙に印刷された日本語の新刊が手に入りにくいから、電子書籍でいいとさ
え思うようになった。ともかく読めればいい。

『古くてあたらしい仕事』というタイトルの本(新潮社刊)を読んで気づくの
は、この著者であり、夏葉社という出版社をひとりで立ち上げて経営して10
年になる島田潤一郎さんの、本をものとしてあつかう情熱というか愛という
か、心の込めかた、「本に対する美意識」だ。

「本をつくるのに際して、考えたのはただひとつ。それは、ぼくが欲しくなる
ような本をつくる、ということだけだった。」
「内容の素晴らしさが装丁や造本に反映されていなければ、読者は手にとって
くれない。」

これが島田さんが念頭においたことだった。実は新潮社刊のこの本を注文して
配送された日、いそいそと手にとってタイトルとモノクロの画がある扉に目を
とめたとき、手の中に何ともいえない温もりと宝物のような感覚をおぼえたの
だ。

ふつうの本と比べて紙質も良く、心持ち小さな版なのも、そうした印象をもた
された理由かもしれない。たぶん、著者が自身の出版社でつくるような本にな
っているのだと思った。

「二〇歳のときから、本を買い、本を読み、小説を書くことだけを自分の人生
の中心においてきた。」

この著書で島田さんは「小説を書くことでは結果を出すことができなかった
が、本を読むことに人生のあたらしい手応えを見出していた」と書くような学
生時代からの生き方も披歴していて、なんとも率直で繊細で心にしみる。

兄弟のように過ごした従兄や親友との死別や、苦手な営業を毎日することに苦
しみ、転職活動に失敗し続ける。

夏葉社と島田さんについては、愛読者だという人のブログをたまたま読んでい
て名前はかなり前から知っていたが、自分を振り返って語りかける佇まいや文
体から、実際よりも上の年代の人と想像していたが、40代前半の若さなのだ
とウェブマガジンの対談で知った。

それで納得したのは、「好き」ということを、よく書いていること。「それく
らい、ぼくはいまの自分の仕事が好きだ。大好きだ。」

島田さんも多くの時間をいっしょに楽しく過ごした従兄を事故で亡くしたあ
と、従弟に向けて「きみの兄は、きみのことをすごく好きだった。すごく愛し
ていた。ぼくはそれを、きみに忘れないでいてほしい。」とある。

「私」でなく「ぼく」という言い方なのも書き手の年代を表していると思うけ
ど、もっと年長に想像して“年代にこだわらず”清々しいとさえ思って読んでい
たのだから笑ってしまう。ひとり出版社の仕事についても、初めて知る読者に
島田さんの声はよく響く。

令和という新しい年号が始まった今年も終わりに向かっている。メルマガを書
き続けている理由は、島田さんの言葉(文章)をお借りすれば、こうなると思
う:

「ぼくが尊敬していた会社の先輩は、ぼくにひとつの金言を与えてくれてい
た。それは、真面目にちゃんと営業してまわれば、一日一回必ずいいことがあ
る、ということ。」

それを願って、来る年もよろしくお願いいたします。

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎・著 新潮社刊


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ
家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部

で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中ですが、
melma の事情により2020年1月末で終了とのことです: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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佐藤郁也『大学改革の迷走』ちくま新書 1200円+税

大学教員は、日々会議と書類書きとに明け暮れています。毎年文部科学省から
新たな「改革」が降って来て、その達成度合いによって私立大学でも助成金の
額が増減されます。そのため本来であれば教育と研究に割くべき教員の時間の
多くが、不毛な会議と書類書きに費やされていくのです。「改革」に「改革」
を重ねて大学がよくなったかといえば、そんな実感はまったくありません。
『暴走族のエスノグラフィー』によって知られる著者が、本書においては誤っ
た「改革」の結果、大学がいかに荒廃したかを鮮やかに描き出しています。

「改革」のモデルとされるのは、アメリカの大学と日本の実業界です。文科
省は、アメリカの大学で普及しているシラバスと、経営管理で用いられる
PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクト)サイクルを導入するよう、大学に対
して促します。アメリカの大学のシラバスは、個々の教員の裁量によって自由
に書かれている。統一的な書式で書かれた「和風」シラバスは、授業の実態か
ら乖離してしまいます。「PDCA」サイクルも、生産過程で不良品を減らすた
めには威力を発揮しますが、大学教育への適用には疑問符のつくところです。

文科省主導の「改革」には、端から無理があります。世界でトップクラスの
大学をいくつも生みだすという過大な目標を「改革」は掲げています。しか
し、予算はまるで増えない。膨大な資金を投下している中国やアメリカの大学
に太刀打ちできるはずがない。精神論と現場の工夫頼みの「改革」。さながら
大戦末期の日本です。文科省も「改革」は無理だと分っているから、「落とし
どころ」をみつけて大学と妥協を重ねます。大学の側も「改革」の実が上がら
ない後ろめたさがあるので、天下りポストを用意して文科省に阿るのです。

博士号をとっても職につけない「野良博士」を量産した大学院拡充政策。学
生を司法試験に合格させることができずに半数近くが閉校した法科大学院。近
年の文科省の大学政策は大失敗の連続です。しかし文科省は非を認めて、誤っ
た政策の被害者となった人たちに詫びようとは決してしません。霞ヶ関官僚は
無謬であり、政策がうまくいかないのは民間が悪いという発想があるからで
す。メディアも失敗をもたらした「諸悪の根源」を叩くだけ。真摯に失敗から
教訓をくみ取り、次の政策に生かすという発想はどこにもありません。

各種審議会も実質的な議論はなされておらず、官僚の作文を追認するだけ。
官僚にも審議会の委員にも責任感がありません。著者はこれを「集団無責任体
制」と呼びます。審議会の委員の中には芸能人等の教育の素人の名がみられま
す。著者はこれを病院の手術のカンファレスに素人が加わっているようなもの
だと述べています。まさに至言です。「エビデンス」に基づいて事実を把握
し、その上で政策立案をしようと著者は提言しています。本書は、大学を舞台
にした21世紀版『失敗の本質』とも呼ぶべき名著です。是非ご一読を。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「連鎖か?」の話

美術系非常勤講師歴が長いと12月の季語は「卒業制作」になる。ほぼ毎年
「この期に及んでまだ下書きが出来てない」などと書いている気がするが、今
回は違うアプローチをしようと思う。

学生が入学してから姿を見せなくなる時期が3回ある。GW終わりと夏休み
前、そして12月のこの時期、進級作品が出来なくてそのままフェードアウト
するパターンだ。入学してから一回も顔を見ぬまま居なくなるパターンもある
がイメージとしてはだいたいこの感じで今年も何人かの学生が姿を見せなくな
っている。

美術系で実習メインであるため学生は各自自分の机を持っている。席順はたい
がい名簿順で縦に並んだり横に並んだり学年によっていろいろなのだが…なぜ
か休みがちな学生は固まるのだ。

今年も一筋、キレイに休んでいる。あ行が学校に向いてないとか、た行が病弱
だとかそんな事があるはずもないのだが。ブロックごとの席にした時はあるブ
ロックが見事に消滅してしまった。

確率で言うなら虫食いの様になるはずだがなぜ?

実はこの「学生フェードアウト症候群」昔はそう多くはなかった。やはりそれ
なりの入学金も払って授業料も半期収めている訳だから保護者もそう簡単に辞
めさせる事はしないし、逆に辞める場合は深刻な金銭的問題であったりするか
らこちらも把握し易かった。

その当時はきれいに1列消える事はなかった様な気がする。ただ最近はなんと
なくフンワリと消えて行くケースが多く専任の先生は頭を悩ませている。

で、理由がフンワリしているので伝播してしまうのでは?と。1人が休みがち
でその前席の学生も「思ったよりキツイな」とか「毎日通うのダルいな」「後
ろの子も居ないし」と休み、後方の席の学生が「なんか前が寂しいし」「思っ
たように描けないし」と休みがちになり、そうこうするうち課題は溜まるし進
級作品は進まないし…。フェードアウト症候群の連鎖はこうやって作られてい
るのでは?

あ、でも…昔は昔で雀荘通いで単位を落としまくってフェードアウトしたヤツ
や映画三昧で学校に顔を出さなかったヤツや部活動しか来なくて留年を繰り返
したヤツなんかも居たよなぁ。

あいつらよりこのフンワリした学生の方が真面目なんだけどなぁ。

誰もいない列を見ながらそんな事を考えている。

あ、1番後ろの学生がいた。前5人がいない事を気に留めている気配はない。
作品を作ることに一生懸命でそんな事は知ったこっちゃ無いのだろう。マンガ
描きはそれぐらい個人主義の方がいいよ。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第102回 『アートのお値段 ─── 作品が輝く時』

今年の秋に、現代美術に興味がある人にはもってこいのドキュメンタリー映画
が日本でも公開されました。ナサニエル・カーン監督作品『The price of 
everything』(アートのお値段)は、NYで展開する現代美術の現場を、様々
な立場の関係者を通じて紹介しています。

アーティスト・コレクショナー・オークショナー・ギャラリストなどの視点か
ら現代美術市場を映し出しています。

□『アートのお値段』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=37At3ON2tE0

先日、このドキュメンタリー出演者の一人であるアメリカの富豪の訃報ニュー
スを読みました。Stefan Edlisはアメリカの実業家です。

50年間、美術館にこれらの絵が展示されることを条件に、2015年アメリカシ
カゴ美術館に、550億円相当の美術品を寄贈しました。2015年フォーブス、
最も寄付をしたアメリカ人リストの4位にその名が載っています。

≪The Edlis/Neeson Collection≫寄贈品アーティストリスト
※The Wall Street Journalの記事に基づく ()内は作品数
Jasper Johns(3)/Robert Rauschenberg(1)/Andy Warhol(9)/Roy 
Lichtenstein(2)/Gerhard Richter(4)/Brice Marden(1)/Cy Twombly(2)/
Jeff Koons(2)/Damien Hirst(1)/Charles Ray(1)/Katharina Fritsch(1)/
Eric Fischl(1)/John Currin(1)/Takashi Murakami(1)
写真:Richard Prince(6)/Cindy Sherman(6)

これらのアーティストについては、ほぼこのコラムで一度は取り扱っているこ
とでもわかるように教科書リストですね。美術館も喜んだことだと思います。

私がこのドキュメンタリーで一番感動したのは、彼のNYにある自宅ライブラ
リーの本棚と本棚の間に、あの『Him』が置かれていたこと。

彼がオーストリアから幼少の頃にナチから逃れアメリカへ渡った人間であるこ
とを知っていると、この作品の意味が何倍にも膨れあがります。

Maurizio Cattelan(マウリツィオ・カテラン)の作品『Him』の印象は、ほ
かの素晴らしい作品の中でもひときわ心に残る映像でした。

□Maurizio Cattelan『Him』Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=1cdbNAbPLy0

今までもコレクターが自宅に大切に飾る作品で心を打たれるものが多くありま
した。
美術館で観るよりも、生活と共にある作品はさらに輝きを増す気がします。
Edlis氏のコレクションは、ナチスドイツの歴史や、アメリカンドリーム、さ
らに現代美術について考える良い機会となりました。
機会があれば映画見てみてください。

参考サイト
□『アートのお値段』の映画内容についての記事(日本語)
https://h-media.jp/report/20190809/
□Stefan Edlisの訃報記事(The Artnews papaer)(英語)※Youtube動画で
寄贈作品映像が見れます。
https://www.theartnewspaper.com/news/stefan-edlis-prolific-chicago-
philanthropist-and-collector-of-contemporary-art-has-died-aged-94

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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スプートニクとガガリーンの闇 25 内藤陽介
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帰還事業と社会主義への“憧れ”

第二次大戦後の1945年10月15日に結成された“在日本朝鮮人連盟(朝
連)”は、当初、帰国斡旋や生活相談、朝鮮語講習などを行う民族的社会事業
団体としてスタートし、必ずしも、政治色が強いわけではなかった。

しかし、日本共産党(日共)幹部の指導により、急速に左傾化。こうした動き
に反発した朝連内部の右派・民族派は建国促進青年同盟(建青)や新朝鮮建設
同盟(建同)などを結成。その後、朝鮮半島における南北・左右の対立を反映
して、1946年10月、建同を発展的に解消した“在日本朝鮮人居留民団(現在の
在日本大韓民国居留民団の前身)”が結成され、以後、朝連と民団の激しい対
立・抗争が展開される。

1948年4月、朝連は“四・二四教育事件”と呼ばれる騒擾事件を起こしたほ
か、同年9月9日の朝鮮民主主義人民共和国の成立後は北朝鮮支持の姿勢を鮮
明にして占領当局と対立。このため、1949年9月、傘下団体の在日朝鮮民主
青年同盟とともに、団体等規制令による暴力団体に指定され、解散・財産没
収・幹部追放などの処分を受けた。

そこで、1949年12月、日共の中央委員候補でもあった朴恩哲が日共朝鮮人
部に代わり、同民族対策本部(民対)を組織。以後、朴のイニシアチブの下、
朝連の活動は、朝鮮学生同盟、朝鮮女性同盟、朝鮮解放救援会などの傘下団体
が継承したが、6月25日の朝鮮戦争勃発後、「在日朝鮮統一民主戦線(民
戦)」が結成された。民戦は、祖国防衛隊の結成など、日共の武装革命方針の
尖兵として、朝鮮戦争の後方撹乱を目的とした武装闘争を展開する。

朝鮮戦争休戦後の1955年2月、北朝鮮の南日外相が日本へ国交正常化を呼
びかけるとともに、金日成は“内政不干渉”の原則を理由に在日朝鮮人に対して
日共からの離脱を求める国際指令を発する。その真意は、荒廃した北朝鮮経済
を再建するため、日共の影響下から在日朝鮮人を切り離し(そのために、日共
民対を仕切っていた朴恩哲と対立し、冷遇されていた韓徳銖が金日成によって
クローズアップされる)、その資金と労働力を北朝鮮が直接掌握することにあ
った。

はたして、1955年5月24日、北朝鮮政府と韓徳銖の間で綿密な打ち合わせ
の上、東京・浅草公会堂で開催された民戦六全臨時大会では、韓徳銖、李季
伯、李浩然、尹徳昆が議長団として選出され、民戦の解散と日共民族指導部
の“指導”を排した北朝鮮直結の在日朝鮮人団体として、現在の在日本朝鮮人総
聯合会(朝鮮総連)の創立が決議された。

朝鮮総連は自らを北朝鮮の在日代表組織と位置づけ、在日朝鮮同胞の共和国
政府周囲への結集、南半部同胞との連帯・団結強化、外来侵略者の撤収と手先
傀儡の孤立化による平和的統一独立、在日子弟への民主民族教育実施などの八
大綱領を掲げ、日共からの“独立”を宣言する。

こうして誕生した朝鮮総連は、さっそく、同年7月15日、“朝鮮人帰国希望
者東京大会”を開催し、全国の帰国希望者は415名(うち東京に100名)と発
表。以後、朝鮮総連は国際赤十字も巻き込んで在日朝鮮人の帰還運動を本格的
に展開していった。

時あたかも、1956年、フルシチョフによるスターリン批判を契機として、北
朝鮮でも金日成個人崇拝に対する批判が発生。また、同年8月には、ソ連国籍
を有するなどソ連と関係の深いソ連派の朴昌玉が、中国共産党中央と関係の深
い延安派の崔昌益らとともに、党全員会議で公然と金日成批判を行う8月宗派
事件が発生した。

8月宗派事件を抑え込んだ金日成は、1958年までに、中ソ両国と関係のあ
る“反党分派”勢力を根こそぎ弾圧し、ソ連・中国の影響を排して自主路線を模
索するようになる。

すなわち、金日成は、1957年に始まる5ヵ年計画の発動を前にした1956年12
月の党中央委員会総会で、「最大限の増産と節約」とのスローガンを掲げ、重工
業(中でも製鉄と機械)優先路線の大衆動員運動として“千里馬運動”を展開する
とともに、“農業協同化(集団化)”を強行した。しかし、これらの大衆動員は
結果として惨憺たる失敗に終わり、北朝鮮の一般国民の生活水準は悲惨な状態
のままであった。

在日朝鮮人の労働力・資金・技術を獲得するための帰還事業は、こうした北朝
鮮の国内事情とも連動したものだった。

さて、1957年10月、インド。ニューデリーで開催の第19回赤十字国際会議
で、各国の赤十字に離散家族の再開に向けた責任を果たすよう求める“決議第
20”が採択されたことも追い風になって、1958年3月には衆院外務委員会でも
在日朝鮮人問題が審議されている。

こうした地ならしを経て、1958年8月11日、北朝鮮側と事前に打ち合わせ
たうえで、神奈川県川崎市の朝鮮総連分会が金日成首相に帰国を嘆願する手紙
を送ることを決議。これに呼応するという形式をとって、9月8日、金日成が
在日朝鮮人の帰国を歓迎すると明言した。

こうした在日朝鮮人および北朝鮮の動きを見て、日本社会も在日朝鮮人の帰
還事業を好意的に受け止め、1958年11月17日には元首相の鳩山一郎を会長と
する“在日朝鮮人帰国協力会”の結成総会が衆院第一議員会館で開催された。

帰国者たちの動機はさまざまだったが、その多くは、朝鮮人を差別する日本
での生活苦から逃れたい、日本では発揮できない自分の能力を祖国の発展に役
立てたい、故郷は“南”だがまもなく統一されるのだろうからとりあえず“北”に
行こう、などというものが多かったといわれている。

また、当時の日本社会では、北朝鮮の実態に関する情報がほとんどなかったた
め、“貧困にあえぐ韓国”に対して“発展する北朝鮮”、“(北朝鮮は)教育も医療
も無料の社会主義祖国”、“地上の楽園”という北朝鮮のプロパガンダがそのまま
メディアでも垂れ流されていただけでなく、親北朝鮮の立場を取っていた日本
国内の“進歩的知識人”がさかんに北朝鮮の体制を礼賛していたことも在日朝鮮
人の帰国を促す要因となったことは間違いない。

じっさい、1959年1月に田村茂が有楽町で開いた写真展「新しい中国と朝
鮮」や、同年4月に出版された寺尾五郎の『三十八度線の北』などは、北朝鮮
の暗部には一切触れず、“地上の楽園”として極端に理想化した内容で、それら
を見て、北朝鮮への“帰国”を決断した在日朝鮮人も多かったという。

また、1957年のスプートニク1号の打ち上げ以降、ソ連の科学技術(特に宇
宙開発)は米国を凌駕しているとの俗説が全世界に流布し、ソ連に対する若者
の純朴な憧れを喚起していたが、そうした中で、朝鮮総連が、在日朝鮮人の若
者に対して、努力次第で“友好国・ソ連”の大学に留学するチャンスもありうる
との甘言を弄していたことも見逃せない。当時の日本国内では、高校進学さえ
ままならない境遇の在日朝鮮人も少なくなかったから、ソ連への留学とい
う“人参”は、彼らにとってかなり魅力的なものに映ったのは想像に難くない。

1959年1月にソ連がルナ1号の打ち上げに成功してから4カ月後の同年5
月、北朝鮮は“ソ連での月に向けての宇宙ロケット発射”の切手
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20191225120626324.jpg 
を発行し、ソ連の科学技術を礼賛する切手を発行した背景にも、そうした文脈
があったことはほぼ確実であろう。

なお、在日朝鮮人に対する差別感情が強い中で、日本社会には、朝鮮人が帰
国する(=日本から出ていく)のは結構なことではないかという空気が強かっ
たことも見落としてはならない事実である。

当然のことながら、北朝鮮の存在そのものを“非合法”として認めない韓国
は、在日朝鮮人の多くが朝鮮半島南半部の出身であったこともあって、北朝鮮
への“帰還事業”には強く反発したが、1959年2月13日、日本政府は在日朝鮮
人の北朝鮮帰還に関して、「もつぱら基本的人権に基づく居住地選択の自由と
いう国際通念に従つて処理さるべきものである」との原則を閣議了解。これを
受けて、同16日には北朝鮮側も内閣決定第16号『日本から帰国する朝鮮公民
の歓迎に際して』を決定し、帰還受け入れの体制を着々と固めていった。

一方、2月13日の日本政府の閣議了解以降、韓国側は態度を硬化させ、閣
議了解の撤回を強く要求。これに対して、日本政府は「(在日朝鮮人の帰還事
業は)個人が自由意思によつて北朝鮮に帰還することを妨げないというに過ぎ
ないのであるから、これがすこしも北朝鮮政府承認の如き意味合いをもつもの
でないことはもちろんであり、韓国の主権の侵害でもなく、また韓国政府に対
する非友誼的行為でもない」と説明したが、韓国側は納得せず、1959年5月
28日、駐日韓国代表部の柳泰夏大使は日本政府に対して在日朝鮮人の帰還事
業を武力で阻止する旨を申し入れた。

さらに、6月15日、韓国は、日本政府が“北送事業”を撤回しないことを理由
に、対抗措置として、対日通商断交を声明する。
しかし、8月13日、インドのカルカッタで、日本赤十字社副社長の葛西嘉
資と朝鮮赤十字会副会長の李一卿が「日本赤十字社と朝鮮民主主義人民共和国
赤十字会との間における在日朝鮮人の帰還に関する協定」(カルカッタ協定)
を締結。これに対して、8月25日、柳が日本側に申し入れた通り、民団員
が“北送”に反対して日本赤十字社本社に乱入。さらに、12月4日には、帰還事
業に反対する韓国人テロ工作員二名が新潟日赤センター爆破未遂事件で逮捕さ
れている。

結局、12月10日には第一次帰国団を運ぶための専用列車が品川駅を出発。
同14日、第一次帰国船(ソ連船籍)が新潟港を出港し、16日、清津港に入港
し、金日成は在日朝鮮人の帰還運動を“わが党と人民の大きな勝利”と賞賛し
た。

こうして、当時の日朝間の経済格差や社会の現状を隠して、自らの体制を自
画自賛することで帰国者を集めた北朝鮮と朝鮮総連だったが、事前の宣伝とは
裏腹に、農業協同化によって荒廃した北朝鮮の生活環境は劣悪であった。さら
に、帰国者たちは潜在的な反体制分子もしくはスパイとみなされ、社会的にも
苦しい状態に置かれ続けた。

こうした実態が知られるようになったため、1960年には4万9036名、1961
年には2万2801名もいた帰国者数は、1962年には3497名に激減する。
最後に、次の2枚の切手を見ていただこう。
切手はいずれも、高麗青磁の名品として有名な飛龍形注子をほぼ同じ構図で
描いたもので、
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201912251632265d0.jpg 
が1958年に北朝鮮が発行したもの、

https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201912251632253c8.jpg
が1962年に韓国が発行したものである。

1960年代初頭の韓国では、人口の40%が“絶対的貧困層”で、1963年の失業者
は、公式統計に表れただけで250万名に上っていた。所得水準(米ドル換算)
も極めて低く、朴正煕政権下で第一次五ヵ年計画が発動された1964年でさ
え、85ドルしかなかった。ちなみに、同年のフィリピンは213ドル、マレーシ
アは242ドルと倍以上、シンガポールは487ドル、香港は537ドルと5倍以上の
開きがある。

独立後間もない低開発国が多かったアフリカでも、ザンビアが144ドル、アル
ジェリアが195ドル、ガーナが215ドル、日系移民も多かったラテンアメリカ
では、ブラジルが180ドル、コロンビアが235ドル、メキシコおよびチリが458
ドル、アルゼンチンが652ドルで、韓国の貧困が際立っている。

その韓国が発行した切手に比べても、北朝鮮の切手は、印刷物としての品質が
劣悪なのは一目瞭然である。

現在でも、しばしば、1960年代までは韓国よりも北朝鮮の方が豊かだった
という記述が見かけられる。たしかに、北朝鮮の発表した公式の統計データが
すべて正しいとすれば、国家全体のGDPレベルにおいては北朝鮮の経済力は
韓国を凌駕していたということになるのだろう。しかし、どれほどGDPが大
きかろうと、富の再分配が適正に機能しなければ、一般国民の生活は豊かにな
らないし、社会の活力も生まれない。一般国民の生活水準を比較するうえで、
彼らが日常的に使用している切手の品質は一つの目安となるだろうが、北朝鮮
よりも韓国のほうが高品質の切手を発行していたということは、国民生活の実
態において、北朝鮮は決して韓国よりも“豊か”ではなかったと考えてよい。

こうした現実に目を背けて北朝鮮を礼賛し続け、多くの在日朝鮮人を地獄へ
の帰還事業に追い込んだ“進歩的知識人”の無責任な言動は、絶対に忘れてはな
らない。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けてい
る。主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ
(日本郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新
書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』
(角川選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。
最新作『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』えにし書房。電子書籍で「切
手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21な
どがある。
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■編集後記
クリスマスイブも、クリスマスもこうやってメルマガの編集をしているわけだ
けども、毎年のことながらご執筆いただいているみなさまには頭が上がらな
い。

「クリスマスにも無償の原稿書いてもらっている」と申し訳ない気分でいっぱ
いになるのだけども、よくよく考えるとクリスマス前に原稿書いてもらえば問
題ないのだと気が付くw

早く出していただく分は、いっこうに問題ないのである。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第62回「2019年の読書(?)から」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第126回 年老いた少年
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 島国日本の島たるところ!久々に『SHIMADAS』降臨
  
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 ■トピックス
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 つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第62回「2019年の読書(?)から」
 
 こんにちは。
 
 気がつけば2019年もあとわずかになりました。わたしは,来年度から「卒業研
 究」を持つということで,今月からささやかながらゼミというものを始めまし
 た。海のものになるか山のものになるか,まだまだ混沌としておりますが,な
 かなか楽しみなことです。
 
 さて今年は仕事が変わったこともあり業務量も増えたため,読書量がめっきり
 落ちました。読書ノート代わりに利用していたメディアマーカーがサービスを
 停止したこともあって記録も付けておらず,新規に読了した本は10冊あったか
 どうか。その中で最高の収穫だったのは『現実逃避していたらボロボロになっ
 た話』(永田カビ著,イースト・プレス,2019年11月)(1)で,破滅型の私小
 説作家がマンガを書くとこうなるのか,と思わせる風情を漂わせています。
 常々「人間そう簡単に成長も反省もしませんよ」と思ってるわたしはこの作風
 わりと好きなタイプですが,ひとによっては,こうもあからさまに人間の弱い
 ところをさらっとサバサバ描くところが好悪を分けると見えて,他者に厳しく
 対処したい方々がお揃いであるらしいAmazonのレビューにはなかなか手厳しい
 ものが並んでいます。もっとも,これまでの破滅的な生き方を心底反省して真
 人間よろしくアルコールを断ち切ったら,この作家は何も書けなくなるのかも
 しれません。それはそれで損失だと思ってしまうわたしは,意地が悪いのでし
 ょう。
 
 閑話休題。
 この10年ほど,河出文庫がぽつりぽつりと吉田秀和の作曲家別あるいは演奏家
 別に編集されたアンソロジーを出しています。最初に出たのはわたしの大好き
 な作曲家を取り上げた『マーラー』(2011年3月)(2)で,これは忘れもしない
 2011年3月11日の午後,とある書店にて購入しようと手にしていたところへ,
 東日本大震災が発生しわたしはこの本を買うことなく書店をあとにしたのでし
 た。その後しばらくして購入し,いまも手元にありますが,吉田秀和の本領は
 作曲家よりも演奏家を批評した文章にある,とわたしはにらんでまして,例え
 ば最近出た『ブラームス』(3)でも,ページの前半分を占めるブラームスの評
 伝よりも,個々の作品について録音・演奏評を並べた後半の方がわたしには抜
 群に面白いです。
 
 「澄んだ開始から,音が次第にふくらんで,川幅いっぱいに水が滔々と流れ出
 すような趣は,実に見事なのだが,よく聴いていると,それは音が大きくなり,
 力が増してくるというだけではなくて,一句一句の間の休み,別の言葉を使え
 ば,休止の間合いのそれとはっきりわかる良さと切り離せないものだと合点が
 いくのである。」(4)
 
 どうやったら,音楽を文章化するにあたってどのような教養と筆力を兼ね備え
 たら,斯様な文章を紡ぐことができるのか,と嘆息するしかない見事なもので
 す。
 
 この吉田秀和が,『フルトヴェングラー』(5)を実際に聴いて実に敬愛し書き
 綴っていたのと同じくらい,『カラヤン』(6)についても紙幅を費やし評価し
 ていたのは,なかなかに興味深いことです。この国においては,中でもフルト
 ヴェングラーを褒めそやしカラヤンをけなしつける勢力の声が大きかった時代
 においては,カラヤンを適正かつ的確に評価していたのは大変なことではなか
 ったかと想像するのです。何よりカラヤンの演奏が持つアゴーギグを多用しな
 い,スマートなテンポ感を吉田秀和は好ましく思っていたのですが,『カラヤ
 ン』に収録されている「カラヤンのプッチーニ」という文章で,吉田秀和はカ
 ラヤンの「マダム・バタフライ」のある箇所の演奏の「つまらなさ」に触れて,
 こんなことを書いています。
 
 「これは,指揮者が音楽の中に情緒,感情を付け加えて演奏していないからで
 ある。」
 「カラヤンは,そこに,何も色をつけようとしない。」(7)
 
 別の音楽評論家が「カラヤンは音楽の内面を表現しようとしない代わりに外面
 を徹底的に磨き上げる」という意味のことを否定的に述べていた記憶がありま
 すが,ここで吉田秀和が書いていることは,恐らく同じことを指しているのだ
 ろうと思います。ただし,吉田秀和はここで「芝居っ気」のないことを称賛し
 てはいないものの,カラヤンのやり方を,音楽のありのままを提示しようとし
 ているものとして評価しているように読めます。そして「感情の表現」が,
 モーツァルトの演奏ではしっくりこないことに別の文章で触れ,「目下のとこ
 ろ,モーツァルトはカラヤンのアキレス腱ではないだろうか」(8)と書くにい
 たります。
 
 すでにカラヤンも吉田秀和もこの世のひとではない現在,わたしたちは,例え
 ば『僕は奇跡なんかじゃなかった:ヘルベルト・フォン・カラヤンその伝説と
 実像』(9)などにより,カラヤンがどちらかといえば俗物で,深遠な哲学など
 にてんで興味のなかった人物であることを知っているわけですが,カラヤン死
 して30年が経過して,さて彼の評価はこれからどのように変転していくでしょ
 うか。ちなみにわたしは,カラヤンの残した録音で,あとあとまで残るのは
 チャイコフスキーとリヒャルト・シュトラウスだと考えています。これに付け
 加えるなら新ヴィーン楽派(シェーンベルク,ヴェーベルン,ベルク)の録音
 だろうと。ヴェーベルンのほぼ同じ作品を収録しているヘルベルト・ケーゲル
 の録音と比較してみれば,カラヤンのヴェーベルンが恐ろしいほどの完成度に
 達していることは誰の耳にも明らかなことで,それは好き嫌いを超えて認めら
 れるべきものでしょう。
 
 最後,吉田秀和ではなくカラヤンの録音に力点が移ってしまいましたが,吉田
 秀和の音楽評論は,もうしばらくわたしの音楽生活を豊かにしてくれるもので
 あり続けるでしょう。
 
 
 2019年もお世話になりました。仕事が増えてこちらの連載も休載が多くなって
 しまったことを,この場を借りてお詫びいたします。2020年はもう少し計画的
 に原稿を執筆したいものです。その2020年は騒がしい年になりそうですが,ど
 うか引き続きご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
 
 注記
 (1) https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781618364
 
 (2) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309410685/
     今年(2019年)に増補新装版が出た
   http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309417110/
 
 (3) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309417233/
 
 (4) 『ブラームス』177ページ。これはカルロ・マリア・ジュリーニがEMIに
       録音したブラームスの交響曲第4番への評言である。
 
 (5) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309411194/
 
 (6) http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309416960/
 
 (7) 『カラヤン』212ページ
    ついでながらわたしは,感情を表現しないが故にカラヤンは,
      プロコフィエフの交響曲第5番やオネゲルの交響曲第2番を,あれだけの
      高水準で演奏し録音できたのだろうと思っている。
 
 (8) 『カラヤン』238ページ
 
 (9) https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail_sp.php?code=203790
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から司書養成が本務のはずの大学教員兼大学図書館員。南東北在住。
 好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,
 我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。 
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第126回 年老いた少年

 
  行きつけの食堂で偶然会った友人から、一冊の本を手渡された。『門司の幼
 少時代』(山田稔 著 ぽかん編集室)という本だった。四六判の洒落た装丁
 で、手触りがとてもいい。ドイツ装というらしい。手に取った瞬間、いい本だ
 なあ、と思った。
 本を贈るのは、むずかしい。自分の思いだけで本を選ぶと、
 本といっしょに自分をおしつけるような感じになってしまうし、あたりさわり
 のない本ならば、「本を贈る」意味なんてなくなるしなあ。

  そういえば、ずいぶん昔のことだけど、女の子に本をプレゼントしたら、
 「あたし、他人から本をもらわないことにしているの」といわれたことがある。
 もしその本が気に入らなかったら、その後、どんな顔をして会っていいかわか
 らないから、と。

  うーん、本をプレゼントするのも、女の子の歓心を買うのもむずかしい……
 ってことだった。贈った本はなんだったんだっけ。ずっと思い出せずにいたが、
 電車に乗っているときにふと思い出した。『草のかんむり』(井伊直行 
 講談社)だったっと思う。1983年の作品だって、36年も前になるんだ!
  たしか主人公の青年がアマガエルにされてしまう話。どうしてこの本を選ん
 だのか、どうも思い出せないけれど、寓話のようなロマンチックな話だった。
 もう一度、読み直してみよう。
 
 いただいた『門司の幼少時代』はフランス文学者で作家の山田稔が幼いころ
 を振り返ったエッセイ集で、舞台は北九州の門司という港町だ。
 
 門司という地名ですぐに思い出したのが、藤原新也の写真集『少年の港 』
 (SWITCH LIBRARY) だった。生まれ故郷の門司港を再び訪れて写真とエッセイ
 を書いている。そのカバーの写真が幼い男の子の後ろ姿だった。ぼくは山田稔
 の文章を読みながら、その写真を思い浮かべていた。まるでその男の子が幼い
 頃の山田稔のような気がしていた。そうしたら、本にはさんであった薄い冊子
 に藤原新也の写真展のことが書いてあった。

  じつはいままで山田稔の文章を読んだことがなかった。1930年生まれ、両親
 と同じ世代の仏文学者というので、なんとなく勝手に難しい文章を書く人、と
 思い込んでいた。でも、読み始めてすぐに、しまった!
  もっと早く読んでおけばよかった!と後悔した。

  なんて瑞々しい文章なんだろう。最初の生まれ育った門司の様子を描く文章
 が軽やかで楽しい。夏休みに帰省して、いっしょにバスに乗って停留所でおり
 て、とぼとぼと歩いているようだ。米屋、煙草屋、駄菓子屋、銭湯がならんで
 いる。東京生まれ東京育ちのぼくには田舎はないけれど、まるで久しぶりに故
 郷に帰ったような気分になる。

  でも、これは何十年も前の町のすがたなんだな。だからなのか、ぼくにとっ
 ても「幼い頃の記憶という故郷」を訪ねている気持ちになるのかもしれない。

  氷屋が自転車で氷を配達に来る。若者が自転車の荷台の上で目の粗いノコギ
 リで氷をシャッシャッと切る。最後のところで手を止め柄をコツンとぶつける
 と、氷がみごとに割れる。読んでいるとそのシャッシャッとか、コツンという
 音が聞こえてくる。ぼくも、その音は遠い昔に聞いたことがある。山田稔の素
 晴らしい記憶力、そのディテールを再現する文章によって、タイムトラベルを
 しているようだ。そしてぼく自身の記憶もつぎつぎに蘇ってくる。

  ただ昔を懐かしむエッセイではない。門の前で見つけたカブトガニの話。近
 所の子どもが海岸でつかまえて、弄んだ末に捨てていったカブトガニが、放置
 されてやがて腐った臭気を放ち始め、どこかに消えてしまうまでを十数行で書
 いている。生と死に迫る短編小説を読んでいるようだった。近所のお邸から聞
 こえてくる、鼓の音を書いた文章からは、ひっそりした午後の空気が伝わって
 くる。たった数行なんだけれど、「神秘」を感じる。
 ある日、どういうわけ
 かクラスメイトたちに無視されるエピソードが書いてある。遊びにも誘われな
 いし、遊び仲間は顔を見るとみなが慌てて逃げ出すようになる。しかたがなく、
 学校からの帰りに「競馬場」の小高い丘にのぼって、遠く門司港を見下ろして
 時間をつぶす山田少年。大型船が通るのを丘の上でながめることでくやしさを
 忘れようとした。大好きだった「あるぜんちん丸」「ぶらじる丸」が現れると
 胸のうちでわあーと歓声を発するシーンでは、ぼくの胸もつまって涙がこぼれ
 た。

  山田稔の文章から「外に向かっている」ような感じを受けるのは、もしかし
 たら、こんなふうに子どものころからずっと海や港を、そして外国に向かう船
 を見ていたからだったんじゃないか、と思った。

  遊び相手がいなくて、ひとり部屋にこもって本を読む。南洋一郎の『密林の
 王者』『吼える密林』、山中峯太郎の『敵中横断三百里』『亜細亜の曙』など
 の冒険小説、軍事小説は読み飽きていた。そして家庭医学書の「赤本」を母親
 にかくれて読んでいたそうだ。極彩色の内臓解剖図に見入っていたという。

  この話、学校をさぼっては、ナルニア物語やアーサー・ランサムを読んだり、
 こっそり両親の本棚からテリー・サザーンのエロチックな小説『キャンディ』
 を盗み読みしていたぼくにはとてもシンパシーのあるエピソードだ。

  赤本が置いてある部屋に忍び込めない日はレコードをかけていた。箱型とポ
 ータブル型の2台の蓄音機があったというから、裕福な家庭だったんだろうな。

  うちにも小型の蓄音機があったのを覚えている。小さなラッパがついていた。
 物置を探検したときに見つけた。残念ながら、ぼくは音を聴いたことがない。
 引っ越しのときに劇団、たぶん天井桟敷だったように思うが、たくさんのがら
 くたといっしょに譲ってしまったらしい。黒い円盤に針を落とすと、ラッパか
 ら音楽が流れてくるなんて、子どもにとっては夢のような体験だったろう。

  学校生活の話もほのぼのとしていて楽しい。小学生のときのクラスメイトに
 は、ふたりの朝鮮人の子がいた。小柄だが動作が機敏なチンくん、図体が大き
 く無口なゴンくん。チンくんはおどけ者でクラスの人気者、ゴンくんはいつも
 薄笑いを浮かべている。そんな生徒だったゴンくんだったが、5年生の担任
 だった土屋先生は授業中、答えられないことがわかっていても、ゴンくんを指
 名する。当たられてもゴンくんはのっそりと席を立ち、そのまま黙っている。
 先生は「よろしい」と笑顔でいって座らせた。教育っていうのは、こういうこ
 となんじゃないか。出来なくても無視をするわけでなく、答えられなくても叱
 らない。生徒のひとりであることをきちんと認めている。ゴンくんもまたクラ
 スの人気者だったそうだ。

  しかし、戦争が忍び寄ってくる。土屋先生は若く溌剌としていて、ランニン
 グシャツの下からのぞく腕の筋肉は隆々としていた。太平洋戦争が始まった昭
 和16年の年が明けた三学期、朝礼に軍服姿で現われた。長靴をはき軍刀を吊る
 していた。朝礼台にあがった土屋先生は力のこもった声で挨拶をして、最後に
 挙手の礼をした。
 生徒たちは「土屋先生バンザーイ!」を三唱した。その間、
 土屋先生は挙手の礼を続けていた。

  のちに土屋先生の戦死の報を聞くことになる。

  ぼくが小学生のころは、戦争で生き残って帰ってきた先生がたくさんいた。
 特攻隊だったが、戦闘機が故障したため不時着をして命を落とさずに帰ってき
 た長田先生は、こわい顔をしていたが、生徒たちにはとてもやさしかった。国
 語の小松先生は、便所に行くことを「爆撃」といっていたっけ。「みんな、授
 業が始まるまえに爆撃しておけよ」って。戦争はとても身近で生々しい存在だ
 った。

  『門司の幼少時代』を読んだ午後、美しい文章にうっとりしながら、両親の
 青春に思いを馳せたり、昭和の風景を思い出したり、文章と自分の思い出を行
 ったり来たりして過ごした。しばし、ぼくも老いた少年となって、とてもいい
 時間を過ごすことが出来たと思う。この時間こそが、素敵なプレゼントだった。
 

 

 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  満を持して15年ぶりの改訂版が待望の登場です。待ってない人は待って
 ないけど、待ってた人は首を長くして待っていただけに、喜ばしいことこの上
 なしです。
 
 『新版日本の島ガイド SHIMADAS』、日本離島センター、2019
 
 『SHIMADAS』は日本の離島についての百科事典です。人口や面積のよ
 うな基礎情報から、観光案内や特産品まで幅広く網羅しています。離島とい
 っても厳密に船でないと行けないところだけではなく、神奈川県の江ノ島や
 城ヶ島・広島県の向島・山口県の角島等々今では橋で結ばれている島も含
 まれています。
 
  そして観光案内的な島ガイド本とは一線を画しているのが、定期航路の無
 い有人島や、無人島も掲載している点です。掲載されている島の数は
 1,750島にも及びます。しかし日本全体では6,852島もの島がある
 (p,166「島の数」)というから全てではありませんが、それは本書の価値を低
 めるものではありません。
 
  島の紹介に目を移すと多くの島では、平成22年度国勢調査の時点と直近
 の27年の国勢調査での人口の比較で人口が減少傾向にあることがわかりま
 す。また65歳以上の老年人口が一番多いグループとなっている島も数多くあ
 ることがわかります。
 
  多くの島で過疎化と高齢化が進んでいることが見て取れます。無人島の中
 にはかつて有人島であったが、この数十年で無人化してしまった島もあります。
 そんななかでも定住者はいなくなっても耕作地などに使われるなど、通いで使
 われる島もあったりします。無人化しても人と島との縁がすぐに完全に切れて
 しまうわけではないことが伺えます。
 
  ちなみにU・Iターン情報なども載っていますので、島暮らしに興味のある方
 には特におすすめです。学校・医療関係の情報も島ごとに詳しく書いてあるの
 で、あちこちネットで調べるよりまずは本書で条件に合いそうな島を探した方が
 早いかもしれません。
 
  もちろん島の観光情報も満載なので、島に出かけてみたいという方にもうっ
 てつけです。交通事情や島内の宿泊施設についても詳しく書いてあります。
 
  私のような灯台好きな身としては、普段触れる機会の少ない離島の灯台情報
 が満載なのが嬉しいところです。岡山県笠岡諸島にある六島の六島灯台や広
 島県因島の大浜埼灯台など、離島には美しい灯台が数多くあります。なぜか添
 付されている島の地図にも灯台の地図記号がしっかり書き込まれていますし、
 「島の航路標識」と題されたコーナーが配置されていたりして、灯台好きを狙って
 いるとしか思えません。
 
  まあそれはさておき日本の離島の今が詰まっていますので、読むごとに新た
 な発見があるのは間違いありません。もちろん事典という情報の海からどのよう
 なイメージを立ち上げるのかは、読み手に委ねられているのですけれども。
 
  気が早いかもしれませんが次回の改定はいつになるのでしょう。人口減少社
 会で災害が続く(もっとも災害が続くのは今に始まったことではない気もします
 が)と、経済性だけを考えて離島へのインフラ投資が無駄と判断される世の中が
 来てしまうかもしれないと考えられる現状がありますので、次回の
 『SHIMADAS』では、今回の版に書かれた情報の多くが失われてしまう可能
 性もあるのではと、秘かに心配していたりもします。
 
  ただ当然その心配は杞憂であってほしい。人口一桁の島にだって住んでいる
 人がいます。前述のとおり住むには適さなくなった島に通いで漁業や農業を続
 けている人もいます。仮に人が住まない無人島になったとしても、それだけで人
 と島との繋がりが消えてしまうわけではありません。
 
  移住してくる人も出て行く人もいて、人が移動する生き物なのはそのとおりで
 す。ただ島に生きる人たちの暮らしに思いを馳せると、人と土地のつながりも軽
 く見てはならないとも改めて思います。
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』(作品社)刊行記念
         池澤夏樹さん×松山巖さんトークイベント「本への誘惑──書評という仕事」
 └─────────────────────────────────

 誕生日が4日違いという、池澤夏樹さんと松山巖さん。
 同時代を併走してきたお二人が、奇しくも大著の書評集を上梓した。
 池澤さんの『いつだってあるのは目の前の一冊なのだ』(作品社刊、704頁)
 と松山さんの『本を読む。──松山巖書評集』(西田書店刊、894頁)。
 本読み巧者のお二人に書評という仕事の魅力について
 存分に語っていただきます。
  
 
 ◆日時:2020年1月16日(木) 19時〜(開場18時30分)

 ◇場所:東京堂書店 神田神保町店6階 東京堂ホール    

 ★参加費:おひとり様1000円(要予約)
 
 ☆予約方法:メール・店頭・電話
 
 ・メールでご予約の場合
   http://www.tokyodo-web.co.jp/blog/?cat=5
   「お申し込みはこちら」のリンク先専用応募フォームから
   お申し込みください。
  ・店頭または電話でご予約の場合
   イベント名・お名前・電話番号・参加人数をお知らせください。

       ご予約受付電話番号:03-3291-5181

 ■ 『窓辺のこと』(港の人)刊行記念
        石田千さん×牧野伊三夫さんトーク&サイン会
                                                 「石田千のレルビー」
 └─────────────────────────────────
 2001年第1回古本小説大賞を受賞して以来、
 石田千は小説、エッセイ、紀行などと幅広い分野でチャレンジしながら
 作家の道を歩んで来た。
 2020年正月、そろそろ20年を迎える作家生活を振りかえり、
 明日のことを思う。
 石田千のレルビーを聞く。
 お相手は、銭湯仲間の画家、牧野伊三夫(本書の装画・絵を担当)。


 ◆日時:2020年1月17日(金) 19時〜(開場18時30分)
 
 ◇場所:東京堂書店 神田神保町店6階 東京堂ホール    
 
 ★参加費:おひとり様1000円(要予約)
 
 ☆予約方法:メール・店頭・電話
 
 ・メールでご予約の場合
    http://www.tokyodo-web.co.jp/blog/?cat=5
  上記「お申し込みはこちら」のリンク先専用応募フォームから
  お申し込みください。
 ・店頭または電話でご予約の場合
  イベント名・お名前・電話番号・参加人数をお知らせください。

     ご予約受付電話番号:03-3291-5181
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
  今年はどんどん配信が遅れて本当に申し訳ないです。
 執筆の方もみなさんきちんとされていて、一重に私のせいでございます。
 ご存知だと思いますが。
 本当に申し訳ありませんでした。
 今年もまた、一層時間に追い越されて生きてきました。
 年々そんな風になっています。
 
  いろいろと反省しきりですが、来年は勤勉に、いや難しいかな、
 でも、せめて出来る限り誠実にやっていければいいな、と思います。
 もうこれ以上はないです。
 
  来年もどうぞよろしくお願いします。         畠中理恵子
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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[本]のメルマガ vol.737

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■■ [本]のメルマガ                 2019.12.05.発行
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多くの民主主義国家で不平等が拡大、強権政治が台頭し、リベラリズムが機能
不全となっている。注目の政治学者が政治、経済、教育、テクノロジー等の様
々な分野で見られる問題を検証、失敗の原因と是正をさぐる。宇野重規解説。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その42『招かれた女』2.劇団と酒 

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ はてしない物語

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その42『招かれた女』2.劇団と酒 

 さて、それでは前回に続いて『招かれた女』に描かれる戦前のパリの街をさ
まよってみたい。

 実は最初に読んだときから、この物語の背景にある劇団「旅役者座」の魅力
とリアリティのある稽古場面には驚かされっぱなしだったのだが、ボーヴォワ
ールの自伝『女ざかり』を読んで、その秘密の一端が明らかにされた気がした。

 この作品の中に描かれる俳優兼演出家のピエールのモデルは、かの名優デュ
ランであるらしい。ピエールは、その外見や身振りがデュランで、中身はサル
トルという感じがする男なのだ。

 デュランは、サルトルの遠い従妹で昔の恋人だったカミーユという女性と恋
愛関係にあった。彼女は大変個性的な女性で、女優であるばかりではなく小説
家を目指していて、その脚本がデュランの劇団に採用されたこともある。ボー
ヴォワールは、『リチャード三世』や『ジュリアス・シーザー』の稽古に何度
も立ち合ったことがあり、役者たちの生活やデュラン独特の魅力ある表情や振
る舞いなどが、この作品の中に生かされているようだ。かの久生十蘭のペンネ
ームのもとになったという名優の姿を垣間見ることのできる作品といえるだろ
う。そしてストーリの背後に、この劇団がひとつの劇を作り上げていく過程が、
時間軸として描かれていく。

 だから、この小説は、主人公のフランソワーズがまず台本を作るところから
始まる。

 誰もいないがらんとした劇場の仕事部屋で、フランソワーズが俳優兼演出助
手のジェルベールとともに作り上げているのは、次回上演予定のシェイクスピ
アの『ジュリアス・シーザー』の台本だ。時間は真夜中の二時。誰もいない空
っぽの劇場の一室で二人きり。フランソワーズが走らすペンの音と、ジェルベ
ールがそれをタイプ原稿に起こしている音しかしない。
 
 ところで、ここで驚くべきやり取りが始まる。二人はかなり仕事をしたらし
く、ジェルベールは眼をしょぼしょぼさせ、眠そうにあくびをしている。テー
ブルの上の灰皿はいっぱいで、酒の空瓶が一本ある。そんな中で、フランソワ
ーズは

「もう一杯どう?」

と、ジェルベールに訊いて、ピエールの楽屋にウィスキーを取りに行く。

え、ウィスキー?仕事中に?
じゃあ、この空になった酒瓶は何なのだろう?
 
 読むにつれ二人がもう何日もこの台本作りの仕事に取り組んでいて、今日が
最終日であることがわかってくる。仕事をしながら毎晩ボージョレ―酒を一本
空け、仕事終わりにはブランデーかマール酒を一杯やって帰るというのが習慣
だったらしい。徹夜でワインを飲みながら仕事をして、仕上げにウィスキーや
ブランデーを飲んでアルコールでふらふらになりながら帰る。とても想像が付
かない世界だ。書き物をするときにアルコールなんて、しかも夜中に!

 子供の時からワインは水だと思って育ったヨーロッパ人は違うのだろうか。
初めて読んだ時は未成年だったから、日本も同じなのかと思い大人は大変だと
思った。しかもこれだけ飲んでも、この二人は疲れて眠くなったとは言っても、
酔っぱらう様子はない。

 こんな感じで、この物語には、要所要所にお酒が顔を出す。あまりなじみの
ないお酒もあるので、劇上演までの進行状態に合わせて見ていこう。

 台本が出来上がったら、次にするのは演出家と役者たちによる台本の読み合
わせだ。
 数日後、フランソワーズはピエールの楽屋に行き、

「稽古はうまくいった?」

と、きいている。

「みんなしっかりやったよ」

 ピエールはデスクの上の原稿を指差し

「いいよ、とてもいいよ」
「たいした仕事をしたね」

等と、フランソワーズの台本を評価している。

 それはいいのだが、実はフランソワーズはここで「惜しいけれどルシリウス
の死ぬところをカット」したと語っているのだが、私の手元にある二冊の『ジ
ュリアス・シーザー』では、ルシリウスは死んでいない。La mort de Luciliusu
とあるから翻訳の間違いはないのだが、ルシリウスがブルータスのふりをして
敵の兵士に自分を殺せとせまる場面なので、ルシリウスが死のうとするところ
とか訳して欲しいところだ。シェイクスピア好きならば、ほーっ、ここをカッ
トするのか、と思える名場面だろう。ブルータスの苦悩と死に観客の意識を収
斂させる効果を狙ったのだろうか?この第五幕四場の場面をカットすることに
よってこの幕の動きが別のものになったと語り合う二人の様子を見ていると、
二人が仕事上でも一心同体のカップルであることが分ってくる。

 さて、ここでまたワインが顔を出す。多分時刻は夕方。九時半にドームで待
ち合わせがあるのでその数時間前だろう。ピエールはハムサンドイッチを食べ
ている。フランソワーズも一切れ手に取り、

「受付に電話してシャトー・マルゴーを一本とって来てくれるように言ったら
どう?」
と、提案し、

「いいね」
と、ピエールは応じ、ワインの壜とコップが届けられる。

 フランソワーズはこれからダンスホールに行く予定なのに、飲んで大丈夫な
のか?やっぱりワインは、ジュースやサイダーみたいなものなのだろうか?ヘ
ミングウェイも大好きだったという、かの有名なシャトー・マルゴーの味を想
像しながら頭をひねるところだ。

 次は舞台の上で、実際に役者が動く舞台稽古の場面になる。初めて稽古の様
子を見学するグザヴィエールを引き連れて、フランソワーズは劇場にやってく
る。この場面では、衣装はまだ身に着けてはいないが、舞台には大道具も置か
れ、照明の色合いも決まっているほど舞台の上は進行している。けれど、主役
のブルータス役の役者の芝居がいまひとつうまくいっていないようだ。そこで、
シーザー役のピエールが、手本を見せる。

―フランソワーズはこの天下一品の芸を見るたびに、いつも驚きをあらたにし
た。風采はちっとも役にそぐわない。体はずんぐりして、顔だちも整っていな
いくせに、顔をあげたとたんに、憔悴した面を天にあげるブルータスになりき
っている。―

 その演技を見て役者は演出家の望むところを見事演じてみせ、フランソワー
ズは、役者にこういう啓示を与えられるピエールのことを誇らしく思うのだ。

 そして、ここがまさしく、デュランが劇団の中でやって見せたことらしい。
ボーヴォワールは『女ざかり』に、こう書いている。

―彼がテキストを読むとまるで新たなテキストを作った感じを与えるのである。
仕事の難しさは、彼が創り出したアクセントとリズムと抑揚を俳優に吹き込む
ことにあった。彼は説明せず、暗示をし、呪いをかけるのであった―

 ボーヴォワールは、デュランが『ジュリアス・シーザー』を上演したときに
何度も舞台稽古を見に行き、デュランが風采だけはシーザー向きのへぼ役者に、
セリフ回しだけではなく動作の一挙手一投足に至るまで全てを巧みに仕込んで、
見事シーザーに仕立て上げたのも目撃している。
 
 若い演出助手のジェルベールがくたくたになるほどきつい稽古が毎日続いて
いるらしいのだが、ピエールとフランソワーズとグザヴィエールは、稽古が終
わった真夜中近くに、一杯飲みに行くことにする。酒場の名は北極星。静かな
ところらしい。

 注文したのは、

「アクアヴィット二つ。本物をね。それと、ウィスキーをひとつ」

 強いお酒が飲みたいというグザヴィエールの注文で選ばれたのは、透明な蒸
留酒、ここでは焼酎ともブランデーとも言い換えられているが、大変強いお酒
だ。この透き通った火酒をまずいといいつつ飲みながら、若い女性が、こんな
風にいったら、どうだろう?

―「喉が焼けるようですわ」グザヴィエールは指先で、美しいほっそりした喉
元をなでた。手がゆっくりからだの上を下がってゆく。「ここも、ここも。焼
けるの。ふしぎね。からだのなかに明かりがついたような感じがしますわ」―

 ピエールがうっとりと、彼女に魅了されていく姿が目に浮かぶ。

 次はいよいよ「舞台稽古」の夜になるのだが、どうもこの言葉はそぐわない。
言葉通りだと衣装を着けた舞台稽古の印象だが、実はリハーサルなのだ。そし
て、この小説では、オペラなどで使うゲネプロという言い方のほうが意味は近
いようだ。批評家や有名な人々を招待客として呼び上演する日で、それ以外の
招待客だけではなく、安い価格で一般の人に見せることもあるという。批評家
や観客たちの反応により、成功する芝居かどうか決まってしまう運命の日でも
ある。観客は社交界の有名人や芸術家などを見ることができて楽しめる、晴れ
やかな夜なのだ。  

 この章はピエールの妹である画家エリザベートの視線で描かれている。彼女
は、劇場でいろいろな人々と言葉を交わしながら、ここでは自分はピエールの
実妹で有望な若い芸術家だ、こんな風に高名な作家や芸術家と話している自分
を見たら、昔の自分は羨望の目を見張ったに違いないと思うのだ。エリザベー
トはこのところ若い役者ギミョーと親しくしているのだが、シーザーの彫像の
周りを走り抜けて観客の目を引く美しい体のギミョーについてのエピソードは、
かのジャン・マレーのものらしい。

 そして、この夜の上演により成功間違いなしと太鼓判を押された役者たちは、
それぞれの仲間と一緒に一晩お祝いに飲み明かして過ごすのだ。
    
 さて、劇団は毎晩大入り満員。フランソワーズは百回公演の日のパーティの
ためにドレスをしつらえなくちゃと心配しているほどだ。 そんな社交上のパ
ーティの風景も描かれている。

 クリスマスの夜、ローマの戦闘場面が設えられていた舞台は、道具方の手に
よって、柊や寄木で飾られたダンス会場に変えられている。ランバンで仕立て
た目の覚めるような青と紫のアンサンブルを着た有名女優や役者、劇団の演出
家、その他の業界の人々が去年の二倍も押し寄せて来ていて、会場は押すな押
すなの大盛況らしい。そして、そこで飲まれるのは、ひたすらシャンパンだけ
なのだ。だが、シャンパンと言っても、パーティ会場で飲むシャンパンと、と
っておきの客のために取ってあるシャンパンは違うらしい。さらにフランソワ
ーズはピエールの楽屋に、大事な客が帰った後に、身内の人間だけで明け方別
れる前に食べるサンドイッチや菓子、それにシャンパンも隠している。どんな
銘柄のシャンパンが用意されていたのだろうと想像してしまう。

 戦争の気配が迫って来る中、ロングランを続けていたこの劇団も、観客席に
わずかな人数しかいない中で上演することになっていく。

 そんな日々の中で、ジェルベールの目を通して描かれる役者としての日常が
物語の要所要所に顔を出し、ややもすれば、登場人物の会話劇に終わりそうな
この物語を、役者生活という非日常の生活を送る人々の物語として成立させて
いる気がするのだ。

 実は、そんな劇団から離れたところでも多くの酒が登場する。ビヤホールで
飲む黒ビール、スペイン風のキャバレエで飲むマンデラ酒、植民地人ダンスホ
ールで飲むマルチニック・ポンス。夜食のもてなしに出されるシェリー酒とウ
オッカ。

 この種類の多さに、パリがヨーロッパ随一の歓楽地であったことを感じずに
はいられない。

 この物語に近い状況が実際に起きたのは田舎町のルーアンにいた頃なので、
パリに舞台を移したせいで切実さが欠けてしまったとボーヴォワールは言って
いる。けれども同時に、パリの街の好きな場所を描く方が楽しかったのだとも
言っているのだ。確かに、彼女が描く場所は、蚤の市にしろ酒場にしろとても
魅力に満ちている。

 というところで、次回は物語の中に現れる「食べ物」に注目しながら、さら
に、夜のパリを歩いて行こうと思っている。

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“L’invtee” Simone de Beauvoir                     Gallimard 
『招かれた女』ボーヴォワール著 河口篤 笹森孟正訳  講談社
                           新潮文庫 
『女ざかり』ボーヴォワール著 朝吹登美子 二宮フサ訳 紀伊國屋書店
『ジュリアス・シーザー』シェイクスピア著 松岡和子訳 ちくま文庫
                    安西徹雄訳 光文社古典新訳文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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はてしない物語

 田口ランディさんの主催するクリエイティブ・ライティングの3回講座に通
い始めた。月1回の講座なので、まだ1回しか受講していないが。

 http://ems-sc003.mystrikingly.com/

 その講座の中で、ビジュアライゼーションと言って、映像をイメージするワ
ークがあるのだけれども、これをやっていたときに、ちょっと不思議な体験を
した。

 そのとき、イメージに起き上ってきた風景というのが、ミヒャエル・エンデ
の『はてしない物語』の冒頭に出てくる古本屋のイメージだったのだけれども、
実はそのイメージがどこから湧いてきたのかがわからない。

 ヨーロッパの、重厚な茶色っぽい書籍がたくさん置かれた古本屋さんのイメ
ージ。しかしもちろん、そんなビジュアルは、本には出てこない。

 では映画版のイメージから来たのかな、と思って、ググってみたら、どうや
らそれも違う。

 ちなみにランディさんは、観察に寄らないこういうイメージを妄想と呼んで
いて、決して推奨されてはいないのだけども、私はこういう存在しない映像を
見ることが多く、それは実は、普通ではないことなのかもしれないと、思った
のだった。

 どうしてこういう習慣が出来たのかは定かではないのだけれども、よく考え
ると高校時代、映画制作部に居て八ミリ映画などを作っていたことと関係して
いるのだろうか?

 人が映画を作る場合、シーンをイメージするだけだが、そのイメージするシ
ーンというものが、実際にどこかで見たシーンであっては、面白さが無い。

 今まで誰も見たことのないようなシーンをイメージして、それを実現させる
ことにワクワクする。そんなことをやっていた結果、妄想力が上がってしまっ
たのであろーか?

 そんなことを思ったのであった。

 そこで改めて思ったのは、『はてしない物語』という物語は結局、どういう
物語だったのだろうか、ということだった。そこがいまいち思い出せない。

 個人的には、ハードカバー版の装丁が昔から大好きだった。赤文字と緑文字
でこの世界と本の中の世界を区別していて、本の中に出てくる『はてしない物
語』の装丁と、実際に読んでいるこの本が同じ装丁になっている。

 今回、改めて読み直してみて、この物語が「成長」をテーマにした物語であ
ることに気がついた。

 実際には実在しないかもしれないファンタジーの世界。その世界で人が成長
し、現実世界に帰ってくる。そのために、読者が物語の中の世界で動き回ると
いう仕掛けを用意した。

 これってなんだかゲームみたいだなぁ、と思った。

 例えばドラゴンクエストでは、プレイヤーが勇者、あるいは勇者になれなか
った者を操作し、世界を平和に導いていく。しかし、その冒険は決してゲーム
そのものを書き換える訳ではない。記憶や記録には残せるが、いつでも物語は
スタートから始められる。

 そこにあるのはひとりひとり違った選択。違った体験。その中で、プレイヤ
ーが成長していく物語が込められている。

 『はてしない物語』の最後の章で再会した古本屋の店主は言う。「(ファン
タージエンに)いけるけれども、そのまま向こうにいきっきりになってしまう
人間もいる。それから、ファンタージエンにいって、またもどってくるものも
いくらかいるんだな、きみのようにね。そして、そういう人たちが、両方の世
界を健やかにするんだ。」

 私の見るような「妄想」は「向こう」の情景なのかもしれない。そして、私
は、その「妄想」が表現されることで、両方の世界が健やかになればいいなぁ、
と、そう願っているのだと思う。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 また、またまためっちゃ遅れました。(aguni原口)

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★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→日本とは全く違う理由でイタリアから若者がいなくなる理由

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→小谷先生はベーシックインカムが好き

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→自分の納めた消費税を計算しようw

★「はてな?現代美術編」 koko
→たまには失敗もあるものさ

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
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『アジアの世紀:接続性の未来』(上下)

パラグ・カンナ著 尼丁千津子訳
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第105 回 若い世代のイタリア離れ

11月のフィレンツェは2週間近くも続く悪天候で、毎日暗く、必ず雨に降られ
た。
アルノ川は17日に最悪状況で危険水位までわずか65cmだったという。自宅近
くの川幅は大きく広がり、心穏やかではなかった。

水の都といわれるベニス(ヴェネツィア)といえば、まさに水難の都になり、
SNSの映像を見て暗澹とする。「こんな状況も慣れているので」という自虐
的な女性の声が聞こえたが、海水はまだ引いてないし、その後の塩害も大変と
いう。

ヴェネツィアが沈下している状況に対処するために“モーゼ計画”というシステ
ムが討議されたのは1980年代だった。
このころ日本から水の環境問題で社会学の教授や研究者の人たちがヴェネツィ
アに視察に来たため、初めてこの計画について耳にした。

モーゼ計画について、日本語でこちらに:
https://newsphere.jp/national/20171114-4/

システムの映像が観られる英語の動画:
https://www.youtube.com/watch?v=NUXNhYshUbw

討議をへたのち、2003年に最終案が承認され、2006年にプローディ首相の内
閣がモーゼ計画の実施を発動して以来、収賄などのスキャンダルにもまみれ、
なんと2016年からシステムが機能するはずだったのが、温暖化で海面の水位
上昇が予測よりもはるかに上がったことも影響して暗礁に乗り上げ、現在は94
パーセントの作業が停止され、2021年末まではスタートできないという現状
と知って絶句気分におちいった。

問題は数々あるようだが、まとめると: 
押し寄せる海水を止めるために海中で上下に動かす「フラップ式の可動型ゲー
ト」(78ある)の留め金のサビと腐食が問題になる。
激しい風や波でゲートが低くなるのを防ぐ操作の自動化テストがまだ行われて
いない。
全ての関連部署の同意をえる公文書について、また指示センターの開設、シス
テム維持に要する人員などの人的問題。
現在まで、最初の予想だった38億ユーロを上回る55億ユーロがすでに支出さ
れていること。

こうした大計画が暗礁に乗り上げるのと全く無関係ではないと思われる別のジ
ャンルのテーマに移りたい。
それはイタリアから他国へ移民していく若者が多いという状況だ。
イタリアが難民受け入れで厳しい状況なのは知られていると思うが、自国の若
年層の移民についてはあまり知られてないと思う。

この10年間(2009−2018)にイタリアからの移民総数は50万人になり、半数
の25万人は15−34歳の若い世代なのだ。イタリアは移民の国に戻った、若い
世代を “移民で失った”とメディアは書いている。
若年層の移民による損害額が160億ユーロ(約20兆円)と計上されている。こ
れはPIL(国内総生産)の1%にあたるという。

移民の理由は就労であり、50.8%が雇用されていて、残りの5割弱は主に学
生。
興味があるのは、どこへ移民するのかというと、目指されるのはロンドンだ。
20%近くの若年移民が英国に出発した。EU圏からの移民について、ブレグジ
ット以降の対応がまだ知らされていない英国なのに。
次はドイツで、資格を得たり就労する機会が見つかる。スイスやフランスは地
理的に近いという理由で選ばれる。

どの州が最も多くの若い世代を移民で失ったかとみると、北部のロンバルディ
ア州(ミラノが州都)が18.3パーセントを占めている。それに次ぐのが南部の
シチリア州(パレルモ)、東部のヴェネト州(ヴェネツィア)、中央のラツィ
オ州(ローマ)で、それぞれ2万人を上回る。

これで想像されるのは、出生率の減少(平均で1.32人)や人生百年の傾向もあ
って、イタリアがEU圏でもっとも老いた国になっていること。
Istat (国立統計研究所)によると、2038年には3人に1人が65歳以上の高齢者に
なりそうなイタリア。

自国の若い世代の流出を防ぐか、非イタリア人の若い住民数を増やす政策は...
執れるでしょうか。

こちらが出典の記事です:
https://www.ilsole24ore.com/art/in-10-anni-l-italia-ha-perso-250mila-giovani-
fuga-all-estero-costa-16-miliardi-AC0kqkp

◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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アニー・ローリー 上原裕美子訳 『みんなにお金を配ったら ベーシック・
インカムは世界でどう議論されているのか』みすず書房3000円+税

すべての人々に一定額の所得を無条件で保障するという、ユニバーサル・ベ
ーシック・インカム(UBI)の考え方には、『ユートピア』のトマス・モアに
始まる長い歴史があります。ありとあらゆる政治的傾向の人々の中に、賛同者
と批判者とが含まれていることも、UBIの興味深い特徴です。夢物語のように
思われてきたUBIですが、近年その実現を求める声が高まってきています。世
界各地でUBIの社会実験や、UBIの実施を求める住(国)民投票も行われてい
ます。本書はUBIをめぐる現況を、丹念な取材を基に伝えています。

急速な人口知能(AI)の発達が、UBIへの関心の高まりを生みました。自ら
学ぶ力を備え、人間の知的能力を遠からず凌駕するであろうと言われているAI
は、自動車の運転手や事務員のみならず、医者や弁護士の業務に至るまでのあ
りとあらゆる人間の仕事を奪う可能性があります。仕事がなく所得がなければ
人は生きていけません。そのことに最も鋭い危機意識をもっているのが、シリ
コンバレーの起業家たちです。彼らはAIによって労働が必要とされなくなる未
来を見据えて、UBIの社会実験に大きな資金を投下しているのです。

お金が無条件で配られれば、人々は働かなくなるのではないか。与えられたお
金は浪費されてしまうのではないか。そうした疑問が持たれています。しか
し、途上国であれ先進国であれ、社会実験の結果はそうした観方を否定してい
ます。UBIが支給されても人々が労働から離れることはありません。そして支
給されたお金は、生活の改善に資する健全な方向に支出されています。ケニア
の事例をもとに著者は、途上国援助の最も有効な方法は、無条件でお金を配る
ことだといいます。普通の人々は、怠け者でも愚か者でもないのです。

UBIは、人々に自由と平等を保障するものです。最低限生きていくのに必要
なお金が手元にあれば、劣悪な労働条件で働くことを人々は拒否することがで
きます。UBIが実施されれば、ブラック企業は消えてなくなるはずです。社会
的に差別され、貧困に沈んでいる人々を救い上げる力もUBIにはあります。子
どもの貧困も解消することでしょう。家事や介護は、社会的に有用な仕事であ
るにも関わらず賃金は支払われておらず、これらの仕事は主として女性によっ
て担われてきました。UBIはそうした労働への対価となるものです。

その膨大な財源を何処に求めるのかが、UBI実施する上での最大の難所で
す。著者は一章を割いて財源に関する様々なプランを検討していますが、いず
れも決定打になるとは思えません。UBIに至る一つのステップとして、著者は
一定の所得に届かない人に、税金をとるのではなく逆にお金を支払う「負の所
得税」を推奨しています。これが日本で実施された場合に、受給者は「怠け
者」・「税金泥棒」等のバッシングに晒されることでしょう。この国における
UBI実現の最大の障壁は、ジェラシーに支配された人々の意識なのです。


◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「軽減税率」の話

消費税が上がって、「5%ポイント還元です」とか言われて「でもICOCAし
か使えないんです」とか「JCBだと還元対象にならない」とか「クレジットの
ポイントは各社の規程に基づいて」とか。

いろいろ舐めくさっているとしか思えない政策に何十億も注ぎ込むのも腹立た
しいが、今回物理的に「ハァ〜〜」となるのがイートイン問題だ。

パン屋さんでいろいろ購入し「小腹も空いているので一個食べて帰えろっとレ
ジに並ぶ。
「どちらを召し上がりますか?」
「ウインナーロールを」でウインナーロール10%、他が8%。
席について「あ、ウインナーロールよりドーナッツの方が食べたい気分」にな
った。
さーどうする?

本当にバカバカしい。
外食を「贅沢」としたヤツは一体誰なんだ?210円のウインナーロールも170
円のドーナッツも極々普通。
「ああ、今月は頑張ったから自分へのご褒美に吉牛で並盛りを食べよう」は明
らかに生活困難者だ。
牛丼だってラーメンだって立ち食い蕎麦だって普通に暮らしていれば「ちょっ
とお昼に」「夜食に」食べるモノ。こんな話は軽減税率が出た時に散々されて
いる筈。なのに「じゃあ食料品は全て据え置きで」にならず「外食は贅沢だか
ら外で食べる物は軽減しない」方に収まった。

「贅沢なフレンチを食べる人が軽減されるのはおかしい」などと言う人がい
た。
1万のフレンチ(相場はもっと高いらしい、知らんけど)で+2%は200円。
210円のウインナーロール+2%は4.2円。
だがウインナーロールをイートインする分母はフレンチより圧倒的に多いし回
数だってフレンチの何十倍になる。

こんなおいしい税収を財務省が手放すわけもなく、かくしてイートインは10%
に。

確かに微々たるモノかもしれないけど4.2円、いや消費税21円として納税して
いるわけだ。

私が払った21円、仕事帰り週2で行っているので年間でほぼ2200円(コーヒ
ーも飲んでるしたまにはカツサンドも食べるし)で、多分5000円は超えている
だろう。
桜の主催者である内閣総理大臣に返還を要求するぞ!

しかし…こうやって自分が納めた消費税を計算すると結構な額なのが判明。
(酒税をプラスすると青ざめる額に)
全ての国民がこれをやれば自分が納税者であることをもっと自覚出来るだろう
な。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第101回 『集まりゃいいってもんじゃない!─── 現代アートの試み』

私が信奉してやまない日本人現代アーティストに杉本博司氏がいます。たまた
ま私が大好きな文楽を杉本氏も熱心に勉強されていました。そして文楽の海外
公演を次々と成功させてきました。

今回はパリに住んでないので観に行くことは叶いませんでしたが、以前のパリ
杉本文楽公演の評判は好評でした。たぶんその流れで、今年のパリオペラ座の
シーズン最初の演目の一つに、杉本氏が演出を手掛ける『鷹の井戸』というプ
ログラムが決まりました。2019年9月15日から1か月公演です。

パリオペラ座ガルニエの350周年記念の栄えあるオープニング演目だったので
すが、評判は・・・むしろ否定的なようです。

はじめてこの舞台の映像を見た時や、ポスターは、絶対すごくいい舞台に違い
ないと確信がもてるほどのいい出来映えだったんですよ。Youtubeで数分の舞
台映像をみてもとてもいい舞台に見えるんですが、本当に残念です。

□オペラ座『鷹の井戸』 PV
https://www.youtube.com/watch?v=VabR9LGCU5g

───なぜ成功しなかったのか?
まず、演目内容が難しいですよー。
アイルランドのWilliam Butler Yeats(イエーツ)が日本の能に影響を受けて書
いた『At the Hawk's Well(鷹の井戸)』ですよ。
時間の流れが止まったようなお話ですから、どうやって40分もたせるんでしょ
うか?バレエダンサーに何を躍らせるっちゅうんですか。

しかもアメリカ人の振付師ですよ。もちろん集まった面々は疑う余地のない才
能の持ち主達ですけどホントにこれでよかったの?
もちろん後付けの疑問ですけど。

以前の文楽公演の時は演出は杉本氏でも演者は全て日本の国立文楽劇場の方々
でしたので、この点は問題なかったわけです。

───続いて顔ぶれご紹介いたしましょう。
オペラ座を代表する二人のダンサー:Ludmila Pagliero と Hugo
Marchand。
フランスで活躍する日本人音楽家兼アーティスト:池田 亮司
衣装:Rick Owens
舞台演出・照明:杉本 博司
この名前を観たら、私だって楽しみにしちゃいますよ。
ハテナマークがついたのは振付師のAlesso Silvestrin氏ぐらいですか。
でもよく知らないからなんとも言えませんでした。

□Youtube 杉本博司氏による『鷹の井戸』説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=PQVRePb1dmo
※この説明聞いたら、ますますどんな舞台かワクワクしてしまいます。

しかし、フランスでの批評には、<un rendez-vous manqu?>と書かれていま
した。
『まずい取り合わせ』みたいな感じですかね。ポスターはめちゃめちゃ格好良
かったみたいです。このポスター見て行きたいと思った人は多かったことでし
ょう。

フランス人は動きがなくて退屈だという評価は絶対にしないので、これは全体
の組み合わせがうまくかみ合わず、能の世界を表現するのに失敗したんだと思
います。

超ミニマリズムな舞台演出に、計算された実験音楽と、ディスニーランドのよ
うな衣装に説明くさい振付、ってな感じだったことが批評から読み取れるわけ
です。
一つ一つの出来がどうのこうのというよりも、それが一体にならなかったこと
が一番の原因なのでしょう。

ラグビーで日本が快進撃できたのは、一人一人の能力が一体となって大きな力
となったからです。あのような融合がない舞踊だったとすると、40分の舞台を
続けるのは至難の業ですよね。。


世界で活躍する人達が集まってもうまくまわらないことってあるんですよね。
この演目の後にあった、フォーサイスのバレエは期待を裏切らなかったようで
す。
せめてもの救いかな。

しかしながらクリエーションには冒険も必要ですので、こんなこともあるとい
うことでしょうか。次の挑戦を楽しみに待ってます。

参考サイト
□Rick Owensについて(ヴォーグ 日本語)
https://www.vogue.co.jp/tag/rick-owens
□池田亮司について(美術手帖)
https://bijutsutecho.com/artists/8
□Figaro Japonの好意的な記事
https://madamefigaro.jp/paris/series/ballet/190930-hiroshi-sugimoto.html
□野村万作・萬斎・裕基×杉本博司『ディヴァイン・ダンス 三番叟』〜ジャポ
ニスム2018 in パリ」動画
https://bouncy.news/29965

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
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スプートニクとガガリーンの闇 24 内藤陽介
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モンゴルのルナ3号切手

モンゴル民族の居住地域は、かつては帝政ロシアと清朝に分割されて支配さ
れ、ゴビ砂漠をはさんで、南側が内蒙古、北側が外蒙古と呼ばれていた。

旧清朝の体制は、満洲族の皇帝が漢族を含む他の諸民族を中央集権的に支配す
るというのではなく、どちらかというと、域内諸民族の緩やかな連合国家とい
う性質が強かった。

ところが、1912年に清朝を打倒して成立した中華民国政府は、建前として“五
民族(漢族、チベット族、満洲族、モンゴル族、ウイグル族)の“平等”を掲げ
ていたものの、もともと、孫文らの革命活動は、“駆除韃虜 恢復中華”のスロ
ーガンの下、満州族の支配を打倒して漢民族の政治的・文化的支配を復活させ
ることを建前としており、革命政権の政治の中枢は漢族がほぼ独占。清朝の時
代と比べて、満州族やモンゴル族の地位は大幅に後退する。

“韃虜”に分類された満洲・チベット・モンゴル・ウィグルの各民族は、そもそ
も自分たちを駆除するということを公言してきた革命政権に服属しなければな
らない理由はなく、モンゴル人はロシアの援助を受け、活仏のジェプツンダン
バ・ホトクト8世を“ボグド・ハーン”として君主(ハーン)に推戴し、独立を宣
言した。

これに対して、あくまでもモンゴルの独立を認めない中華民国は、1919年、
モンゴルに侵攻。ハーンとして即位したボグド・ハーンを退位させ、私邸に軟
禁した。

このため、1921年、ソ連赤軍の支援を受けたモンゴル人民党(後にモンゴル
人民革命党)のダムディン・スフバートルによる独立闘争の結果、モンゴルは
再独立し、ボグド・ハーンは推戴されて君主として復位したものの、以前と比
べて、ボグド・ハーンの権限は大幅に制限された。

そして、1924年4月、ボグド・ハーンが亡くなると、コミンテルンの指導を受
けたモンゴル人民革命党は、同党による一党独裁の社会主義国を宣言。同年11
月26日、ソ連の衛星国としてのモンゴル人民共和国が誕生する。

人民共和国の成立後、国家小会議議長として権力を掌握したホルローギーン・
チョイバルサン(1939−52年は首相兼外相)は、形式的にせよ、モンゴル国
家の存在を維持するためにはソ連とスターリンに忠誠を誓うことが不可欠と考
え、徹底した親ソ政策を採用するとともに、反対派の粛清を通じて、“モンゴ
ルのスターリン”とも呼ばれた独裁権力を確立した。

チョイバルサンは1952年が亡くなると、後継首相には人民革命党第一書記の
ユミジャージン・ツェデンバルが就任する。

ツェデンバルは1938年にモンゴル経済大学長、1939年3月に財務副大臣、同年
7月に財務大臣兼貿易銀行総裁と要職を歴任。1940年1月、チョイバルサンと
ともに訪ソしてスターリンと面会し、スターリンに気にいられたことで、同年
3月20日から4月5日に開かれたモンゴル人民革命党第10回党大会で中央委
員会書記に選出され、政権ナンバー2としての地位を確立。

1952年にチョイバルサンが亡くなると、“ウランバートルにおいてクレムリン
の政策を受け入れる能力があり、信頼できる人物をモンゴルの指導者にするこ
とが重要である”とのスターリンの言を受けて、1952年5月26日、モンゴルの
首相に就任した。なお、首相就任直前の5月8日、ツェデンバルは第二次世界
大戦終戦7周年祝賀会に際し、スターリ ンを最高の言葉で褒め称えている。

1953年、スターリンが亡くなると、後ろ盾を失って体制が動揺することを恐
れたツェデンバル指導部はモンゴルが“16番目の共和国”としてソ連に加盟する
途を模索したが、ソ連は“ソ連帝国主義”に対する国際世論の非難を恐れてこれ
を拒否。ソ連外相のモロトフがツェデンバルに対して、直々に「貴国の決定は
大きな間違いである」と言い渡し、ツェデンバルの求心力を失わせることにな
る。

こうした状況の下、中央委員会書記のダシーン・ダンバは、モンゴルのソ連加
盟反対と集団指導体制の移行を訴えて、フルシチョフの信頼を獲得。1954年
11月の党大会で人民革命党第一書記に選出される。

1956年2月、モスクワではソ連共産党第20回党大会が行われ、フルシチョフ
がスターリン批判を行ったが、同大会にはモンゴルからダンバ、ツェデンバ
ル、トゥムル・オチルの3人が参加。大会では首相のツェデンバルがモンゴル
代表として演説したものの、ソ連側は党第一書記のダンバをモンゴル指導者と
して遇し、フルシチョフもダンバと会談し、個人崇拝の克服を進めるべきと語
った。

帰国後、ダンバは11月に予定されていたモンゴル人民革命党中央委員会第4回
総会の準備に取りかかり、チョイバルサン批判の総会演説の原稿を準備した
が、スターリン批判の流れがチョイバルサン批判へと展開し、そこから、自ら
への批判へ発展しかねないことを恐れたツェデンバルは猛反発し、ダンバとツ
ェデンバルの亀裂は決定的になった。

結局、総会ではダンバがチョイバルサン時代の個人崇拝を批判し、集団指導体
制への移行を主張した。そして、総会後、チョイバルサン時代に粛清された
人々(その中にはソ連に送られて処刑された人も少なくなかった)の罪を晴ら
し、名誉回復を試みた。

こうしたダンバの路線は、スターリン後のソ連の政策に沿うものだったが、総
会直前の1956年10月、ハンガリーで反ソ暴動(1956年革命)が発生し、ソ連
軍に鎮圧されたことで、微妙に状況が変化し始める。

1957年5月26日、ソ連はスターリン時代の要人で、最高会議幹部会議長ヴォロ
シーロフをモンゴルに派遣し、ダンバによる改革の“行き過ぎ”に警鐘を鳴らす
とともに、スターリン主義者として追い詰められつつあったツェデンバルを支
持する姿勢を示した。さらに、同年、10月革命40周年式典に参加するため、
モスクワを訪問したダンバがソ連共産党イデオロギー担当書記ミハイル・スー
スロフにチョイバルサン時代の粛清事件解明への協力を求めたが、スースロフ
はこれを明確に拒否している。

こうした経緯を経て、1958年11 月、モンゴル人民革命党中央委員会第2回総
会でダンバの「国家と協同組合の商業の現状と今後の発展方法について」と題
する演説が討議された時、突如、ダンバを党第一書記から解任する問題が突如
提起され、採択される。さらに、1959年3月の人民革命党中央委員会第3回総
会では、ダンバは第二書記の地位からも外され、完全に政治的影響力を失っ
た。人民を“知的な混乱”に追い込んだダンバの責任を追及するというのが、そ
の名目である。

このように、1957年10月、ソ連がスプートニク1号の打ち上げに成功した
際、東欧諸国が“宗主国”ソ連の快挙をたたえる切手を相次いで発行していたこ
ろ、モンゴル国内はツェデンバル派とダンバ派による熾烈な権力闘争の真最中
にあった。このため、ソ連とその偉業を礼賛する切手を発行することは国内の
政治的なハレーションを起こしかねず、それゆえ、スプートニク1号の切手を
発行できなかったとみるのが妥当であろう。

ダンバとツェデンバルの権力闘争の帰趨がみえてくると、ソ連は、1958−
60年に行われたモンゴルの経済3ヵ年計画に2億ルーブルの借款を供与したほ
か、数多くの合弁企業をモンゴルに委譲した。また、1959−60年に行った農
業支援により、26万ヘクタールが耕地化されてモンゴルの耕地面積は3倍に、
小麦の収穫は300%以上に増加している。

こうした経緯を経て、1959年12月、モンゴルはソ連の宇宙開発を称える最
初の切手として、ルナ3号打ち上げ成功の記念切手2種
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20191125153913e37.jpg
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201911251539141cc.jpg 

を発行した。このことは、ツェデンバル政権の安定化に伴い、ようやく、モン
ゴルにもソ連への感謝の意を対外的に示す余裕が生じた結果と考えるのが妥当
だろう。
ちなみに、ツェデンバル政権が自前の憲法として新憲法を採択したのは、切
手発行の翌年、1960年7月のことである。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けてい
る。主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ
(日本郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新
書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』
(角川選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。
最新作『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』えにし書房。電子書籍で「切
手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21な
どがある。
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■編集後記
事典などは別として、私は本を読み出すと、面白くないと思っても一応は全て
読もうとしていた。要は、もう少し読んだら面白くなるかも知れないと思って
読んでいた。

しかし近年、面白くないと思ったら、途中で読むのをやめることが増えてき
た、理由のひとつは体力の温存で、面白くなくても我慢して読む体力がなくな
って来つつあるからだ。

もうひとつの理由は、人生後半戦になってきて時間は無限ではないと自覚する
ようになったから。年何冊読めて残りの人生で何冊読めるかを考えれば、面白
くない本を読んでいる時間はない。面白い本だって一生かかっても読み切れな
いほど出ているのだから、まずはそっちを優先したい。

とはいえ、これって堕落かな?とも思う自分もいる。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第61回「にほん と にっぽん」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第125回 友人のような本
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 →  「朝鮮人虐殺は無かったという説」を真っ向から否定しなければ
    ならない現状
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第61回「にほん と にっぽん」
 
 こんにちは。
 
 めっきり寒くなってきました。当方は大学の学校暦における後期の日程が始ま
 っても相変わらず,講義の準備に追われる毎日ですが,みなさま如何お過ごし
 でしょうか。後期の講義は4科目ありますが,これまで手掛けたことのないもの
 がそのうち3つを占めるために,これまで仕事として関わってきたことであって
 も,学生に教えるには改めてそのために,こちらが持っている知識を現在の状
 況に対応したアップデートも含めて仕立て直さねばならず,なかなか気の抜け
 ない状況です。
 
 その,これまで仕事としてこなしてきたものの中には長年の蓄積で,その仕事
 で扱うモノを見たときに考えるより先に「手」が動くようになっている仕事もあり
 ます。わたしにとってのその例が,図書館の仕事で言うところの「目録作成」
 「受入(うけいれ)」と呼ばれる仕事です。1980年代以降,図書館ごとの目録作
 成業務は図書館システムの導入により「コピーカタロギング
 (Copy Cataloging)」と呼ばれる,大本になるMARC
 (MAchine Readable Catalog,機械可読目録)の書誌レコード(データ)を図書
 館ごとのローカルデータとして図書館システムにダウンロードする方法が一般
 的になり,目録規則と呼ばれる,書誌レコードを作成するためのツールを図書
 館ごとの目録作成者が参照しながら,自ら書誌データを作成し,図書館目録を
 作成していく,という作業は一部の書誌を除いてほとんど行われなくなりました。
 
 それでも勤務先は,扱ってきた図書館資料の中に,国内外で出版された楽譜
 と,大学が立地する地域の歴史などを記した地域資料(むかしは「郷土資料」
 と言いましたが,このところ図書館業界では「地域資料」と呼び習わします)を
 それなりに扱ってきたため,書誌を作成する機会が案外多かったこともあり,
 それなりに目録規則には慣れ親しんできました。それはそれなりに,演習など
 で学生さんに教えるときにも役立ってきました。これまでは。
 
 日本の図書館で一般的に使用されている目録規則は『日本目録規則』と言い
 ます。始まりは第二次世界大戦前に大阪にあった「青年図書館員連盟」(現在
 の日本図書館研究会の前身)が編集し,これも大阪にあった間宮商会が
 1943年に出版したものです。これを『1942年版』と呼びます。戦後にその編集
 と出版が日本図書館協会に移って『1951年版』『1965年版』『新版予備版』
 『1987年版(初版から改訂3版まであり)』と,その時々の様々な技術の移り変
 わりを反映して続いてきたものですが,昨年出版された『2018年版」からは規
 則そのものの内容が用語からまったく変わってしまい,これまで培ってきたノ
 ウハウが壊滅的な打撃を受けるのではないか,と戦々恐々としている目録担
 当者は少なくないのではないかと(苦笑)。この大改変は,世界標準の変更に
 よるものですが,これから様々な局面で大きな影響が出ることが予想されます。
 
 ところでこの『日本目録規則』,和文タイトルのヨミはCiNii Books(1)を見ても
 「にほん もくろく きそく」ですが,英文タイトルは“Nippon Cataloging Rules”
 で「にっぽん」なんですね。これは『日本十進分類法』も同様(2)で,和文タイトル
 は「にほん じゅっしん ぶんるいほう」ですが,英文タイトルは
 “Nippon Decimal Classification”で「にっぽん」なのです。これが以前から不思
 議で気になっていたのですが,今年になって改めて講義で「にほんとにっぽん」
 の話をしてみたところ,受講している学生に書いてもらっているミニットペーパー
 (リアクションペーパーとも言います。講義の終わりに簡単な感想や質問を書い
 て提出してもらう用紙のことです)に「関西が発祥だったからじゃないですか?」
 という推測が書かれておりました。確かに東京では「にほんばし」だけど大阪で
 は「にっぽんばし」だよなあ,何か調べる手立てはないかなあ,と考えて思いつ
 いたのが「国立国会図書館デジタルコレクション」。戦前の『日本十進分類法』
 はもり・きよし(森清)の個人著作で,もりさんは長命(1906-1990)を保ったの
 で『日本十進分類法』は著作権の保護期間がまだ切れていませんが,『日本
 目録規則』は青年図書館員連盟の団体著作だから1943年刊行の『1942年版』
 はデジタルコレクションで見ることができるんじゃないか。
 
 デジタルコレクションを検索したら『日本目録規則1942年版』出てきました。イン
 ターネット公開されていました(3)。そちらを確認してみたところ,コマ番号5番に
 掲載されているページに「NIPPON MOKUROKU KISOKU」とあるではないです
 か。大阪で最初に出版されたときのタイトルのヨミは「にっぽん もくろく きそく」
 だったんですね。これを見つけたときはちょっと驚きました。恐らく戦後,東京に
 本部を置く日本図書館協会に編集と出版が変更された後に,『日本目録規則』
 もヨミが「にほん もくろく きそく」になったのではないかと推測されます。その
 際,英文タイトルまで変更されなかった理由はわかりません。
 
 先日,勤務先図書館が国立国会図書館デジタルコレクションの「図書館向けデ
 ジタル化資料送信サービス」の閲覧を承認されたので,機会を見つけて『日本
 十進分類法』の戦前の版も確認してみようと思うところです。
 
 では,また次回。
 
 注記
 (1) 
 CiNii 図書 - 日本目録規則 
 http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB27491287
 
 (2)
 CiNii 図書 - 日本十進分類法 
 http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB17876514
 
 (3)
 日本目録規則 - 国立国会図書館デジタルコレクション 
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1122648
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から司書養成が本務のはずの大学教員兼大学図書館員。南東北在
 住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,
 我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第125回 友人のような本

 
  ここのところ、永井宏の本を続けて読んだ。永井宏は、美術作家、雑誌編集者、
 詩人、作家とさまざまな顔を持つ人で2011年4月に亡くなっている。59歳だった。
 ぼくはいままで永井宏という作家について、それほど熱心な読者ではなかった。
 名前は知っていたが、印象に残っているのは中川五郎さんとの対談で音楽を紹
 介している『友人のような音楽』(アスペクト)ぐらいだった、いや、だけじゃなかっ
 た。調べてみたら『カフェ・ジェネレーション TOKYO』(河出書房新社)も持って
 いるのを思い出したけれど、永井宏は、「名前を知っている」程度だったといって
 いい。
  
『サンライト』(夏葉社)は、永井宏の残した8冊の本から26のエッセイを集めた
 アンソロジー。読んでみようと思ったのは、この本を編集した丹治史彦さんが
 毎日のように永井さんの言葉をTwitterに投稿していて、その言葉に惹かれる
 ものがあったからだった。
 
  『サンライト』には、少年時代の永井さんが過ごした東京のことや、映画や音楽、
 喫茶店のことが書いてあった。ぼくが子どものころ、若いころを過ごした60年代
 から80年代の東京が描かれている。
 とくに冒頭の「初めて書いたライナーノーツ」というエッセイが好きだった。
 1974年、アメリカに滞在していたころのことを書ていて、「見るもの、聴くものが
 全てが珍しく、体験した全てが、新しい未来を見つけ出したような楽しさに満ち
 ていた」という感覚が、ちょうど同じ時期にロサンゼルスに行っていたぼくも同じ
 ことを感じていたなあ、と思ったりした。
 
 永井さんは、トム・ウェイツの「クロージング・タイム」「土曜日の朝」の2枚のア
 ルバムをサンフランシスコで買ったのだけど、ぼくもロサンゼルスで
 
 「クロージング・タイム」を買っている。ワン、ツー、スリー、フォーというカウント
 から始まる「オール55」、かっこよかった!
  
  と、初めてトム・ウェイツを聴いたときのことを思い出してしまった。

 
  トム・ウェイツだけじゃなくて、ダン・ヒックス、ジム・クウェスキンといったぼくが
 高校生のころ、渋谷百軒店にあったギャルソンという店で聴いたいたミュージシ
 ャンが次々と登場するのもうれしい。当時、いや今でも知る人ぞ知るミュージシ
 ャンたちだ。
 このころのエッセイをもっと読みたいと思っていたら、このエッセイ
 が収録されている『マーキュリー・シティ』(mille books ミルブックス)が復刊され
 ていた。
 永井宏の初めてのエッセイ集というこの本が東京書籍から刊行されたのは、
 1988年のことだ。
 音楽、美術、サブカルを書いた名著ということだけれど、ぼくはまったく知らなか
 った。どうしてだろう?

  そのころのぼくは、いちばん音楽から離れていたからか、いやレコード店には
 通っていたはずだ。ただそのころのぼくは、レコード店に行って、店でかかって
 いる曲でレコードを選んだり、ジャケットが気に入ったものを買っていた。インタ
 ーネットはもちろんなかったし、音楽雑誌も読んでいなかった。音楽好きな友人
 ともあまり付き合いがなかった。まあ、昔も今も、流行には疎いからなあ。

 
  あ、そうそう、ある日、会社帰りに寄ったレコード店を出たときに、バンドに
 スカウトされたことがあったっけ。テクノカットをした小柄な青年と黒ずくめの服を
 着た女の子にいきなり「ぼくたちとバンド、やりませんか?」と声をかけられた。
 ぼくがキョトンとしているのを見て、青年のほうがニコニコしながらいった。

 「あなたが手に取ったレコードがみんなぼくたちの趣味に合っているんです。
 だからきっとセンスがいいはずだと思って」

 
  あのとき彼らの連絡先をもらったかどうかも覚えていないけれど、もしいっしょ
 にバンドをやっていたら、売れていたかな?
 
  売れないにしても楽しかったにちがいない。まじめなサラリーマンだったことを
 悔やんでいる。
 
 
 そのとき手に取っていたレコードは、マーティン・スティーブンソン&デンティー
 ズ、ファンタスティック・サムシング、チャイナ・クライシスあたりだったかもしれな
 い。
 『マーキュリー・シティ』にも登場するぐらいだから、ぼくのセンスもまんざらでも
 なかったんだろう。

 
  こんなふうに『マーキュリー・シティ』を読んでいると、80年代の自分が甦って
 くる。
 懐かしいというより、もっと生々しい感覚だ。それは永井宏という書き手があの
 時代の空気を表現しているからだと思う。
 いや、80年代だけじゃない。前書きで書いているように「ときどき60年代の
 全てが夢のなかのことのように思えてきて、過ぎ去った昔を懐かしんでいる
 自分に出会ってしまうが、それとは別に今まで気がつかなかった60年代の
 何かを、現在のなかに探している自分にも気づくのである」というように、
 過去の思い出は現在につながっているのだと思う。
 「ウッドストックなんて知らなかった」というエッセイでは、70年代始めの、まだ
 アメリカが遠い国だったころのことを描いている。

 
  1969年の8月にニューヨーク郊外のウッドストックで歴史的なロックフェスティ
 バルがあった。ウッドストック・フェスティバルだ。今年は50周年にあたり、
 雑誌でも特集が組まれている。アメリカ、イギリスのロックバンドが出演して、
 観客は3日間で40万人も集まった。記録映画になって日本でも翌年公開され
 て、「ラブ&ピース」という言葉も流行した。
 永井さんは、高校3年生だったと書いている。ウッドストックの映画は美術学校
 に入った年に見たのだろう。中学生だったぼくは、有楽町のスバル座で見たの
 だと思う。
 評判にはなっていたのに、映画館はがら空きだった。スクリーンには、ぼくの
 知らないミュージシャンが次々と現れた。ミュージックライフなどの雑誌で名前
 は知ってはいるが聴いたことのないミュージシャンばかりだった。中学3年生
 のぼくは、ビートルズくらいしか知らなかった。印象に残っているのは、画面は
 暗くてよく見えなかったが、ハーモニーがきれいだったクロスビー・スティルス
 &ナッシュ、アコースティックギターで激しいリズムをきざむリッチー・ヘブンズ、
 妙な踊りをしながらしゃがれ声で歌うジョー・コッカー、顎を突き出して、ギター
 を早弾きするアルビン・リー率いるテンイヤーズアフター、
 そしてなんといってもジミ・ヘンドリックス!
 
  ぼくにとって、いや多くの日本人にとって「動くロック」を見るのは初めての
 ことだったんじゃないかな。

 
  翌日、その興奮を伝えようと、映画のプログラムを学校に持っていった。
 でも、クラスメイトはだれも興味を示さず、委員長だったS君に「こんなものは
 不良の見るものだ」とプログラムの表紙を破られてしまった。先日、そのプロ
 グラムを発見して、なんともいえない気分になった。
 ロックって、そういうものだったんだよ、そのころは。
 
 
 永井さんは当時、ヒット曲は聴いていたけれど、ロックのことはあまり知らな
 かったと書いている。美術学校で知り合った友人たちの影響でヒット曲以外の
 様々なレコードを聴くようになった。
 そして「60年代を生きていたけれど、何も知らずに生きていただけのことだ。
 好きな音楽の世界のこともよく知らずにいたのだから」と書いている。
 ウッドストックについても「どこか遠くの出来事であった」という。
 そう、アメリカってまだ遠いところにあったんだよね。

 「思い出せる限りのフォークソング・オリエンテッド」では、キングストン・トリオ、
 ブラザース・フォア、ピーター、ポール&マリーなどのフォークソングへの愛着
 を書いている。ぼくより5、6歳以上の世代はフォークソンングといえば
 「トム・ドゥーリー」や「7つの水仙」なんかを歌っているんだろう。
 永井さんは、フォークソングを愛しながらも、クリームやジミ・ヘンドリックスなど
 ハードなロックにも魅力を感じ始めている。このへんの感覚がフォークから
 ロックへと音楽の流れが変わっていく時代を表しているんだろう。
 このエッセイの終わりにP.S.として書かれている、片桐はいりが歌う
 ボブ・ディランの「ドント・シンク・トゥワイス・イッツ・オーライト」の日本語バー
 ジョンの話が出てくる。
 「イッツ・オール・ライトやで」と語りかけるという片桐はいりの歌、
 聴いてみたい!
 
  永井さんが「日本の強烈なネオ・モダン・フォークブームは片桐はいりに
 よって始まると真剣に思ったりするのだ」と書いているのだ。

 
  音楽の話、美術の話、映画の話、知っていることもあるけれど、もちろん
 知らなかったこともたくさんある。この本が最初に出たときに読んでいたら、
 どれだけ刺激を受けて、まだ新鮮だったその頃の空気を吸えたのだろうと思う
 と悔しいと思う。
 きっと80年代に出会っていたら、「友人のような本」になっていたはずだ。
 

 

 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  関東大震災の際に「朝鮮人虐殺が『あった』と言い切ってしまって大丈夫か」
 (p,3)ということばが、全国紙の校閲担当者から発せられたというエピソードか
 ら本書ははじまります。「大丈夫」も何もという感は否めませんが、どうやら
 一部ではおかしなことになっていることを感じさせます。
 
 『トリック『朝鮮人虐殺』をなかったことにしたい人たち』、加藤直樹、
                                                                                ころから、2019
 
  関東大震災の時に「朝鮮人が暴徒化している」、あるいは「井戸に毒を投げ
 入れている」等のデマが広まり、多くの朝鮮人が自警団をはじめとする日本
 人に虐殺されたというのは、歴史の授業でも習うところです。しかし近年その
 ような虐殺などは無かったという主張がなされているといいます。
 
  本書は朝鮮人虐殺の実相をまとめた『九月、東京の路上で』(ころから、
 2014)の加藤直樹氏が「朝鮮人虐殺否定論」の主張が荒唐無稽なものである
 ことを徹底的に暴くものです。
 
  例えばインターネット上で言われている、朝鮮人虐殺について「諸説あって
 はいけない」のかという主張があります。著者は当然のごとくばっさり切り捨
 てるわけです。朝鮮人虐殺は無かったという説は存在しません。
 
  まともな歴史家であれば朝鮮人虐殺を否定する説を唱える人など誰ひとり
 としていません。本書でも紹介されているように「右寄り」とされる育鵬社の
 歴史教科書においてさえ、朝鮮人虐殺は記載されています。
 
  過去に事実について諸説あっていいのは、残された史料を集めて検討した
 結果まだひとつの確たる結論に達していない場合であって、捏造や妄想は
 「諸説」のうちには入りません。
 
  それでもネット上には証拠を出せという人はいるようですが、著者はそれに
 も史料を挙げて懇切丁寧に対応しています。(自分で調べればいいのにと思
 いますが…。)
 
  それだけではなく意図的に朝鮮人虐殺は無かったという主張を流布する人
 物までいます。特に本書では工藤美代子・加藤康男夫妻を取り上げます。
 夫妻はその著書でまさに震災直後に出回ったデマの新聞記事等を史料とし
 て引用します。震災直後に朝鮮人が暴動を起こしたり凶悪犯罪を働いたの
 だから日本人は被害者であるという主張をし、虐殺ではないというのです。
 
  史料の恣意的な引用や文書史料の意図的な省略など、夫妻はわざと虐殺
 があったことを示す部分を避けて主張を構成していることは明白です。つまり
 夫妻は虐殺が存在したことを知りながら、あえてそれはなかったと主張して
 いると考えられます。
 
  (本書の著者の)加藤氏は夫妻の挙げる史料がいかに不適切な処置を施さ
 れた上で引用されているかをこれでもかと暴き立てます。 
 
  こうした虐殺否定の出版物を根拠に、「諸説」あるように思われてしまうのは、
 やはり朝鮮人虐殺は無かったという主張を、全く取るに足らないものとして無
 視してきてしまったことの表れでしょう。本職の歴史家にとって、明らかに荒唐
 無稽な説を否定するために労力を割くのはできれば避けたいところではある
 のでしょうが…。
 
  本書に紹介されている「横浜市副読本回収事件」など、虐殺否定論は行政
 にまで影響を与えるようになってきています。実はすでに一部ではないのか
 もしれません。
 
  虐殺否定論を徹底的に粉砕する本書の役割は非常に大きなものです。
 「最近朝鮮人虐殺は無かったという話も聞くのだが…」という方には是非読ん
 でいただきたいです。
 
  しかしこのような本がわざわざ出版されなければならないほどに虐殺否定
 論が蔓延してしまったという現状には、無念を感じます。改めて間違ってるも
 のは間違っていると声を出し続けないといけないということを身に沁みて思
 います。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 金井久美子さん×金井美恵子さんトークイベント
                                      『武田百合子対談集』(中央公論新社)刊行記念
 └─────────────────────────────────

 『武田百合子対談集』刊行を記念して、金井久美子さん、金井美恵子さんに、
 武田百合子さんとの思い出について対談していただきます。
 本書には、1979年1月におこなわれた百合子さんとお二人との鼎談が収録さ
 れています。それ以後も、親しくお付き合いを続けてこられたお二人から、
 百合子さんの作品や、人となり、そしてその周辺の人々について、貴重な
 お話を伺えるまたとない機会です。どうぞご期待ください。
 ※対談後にサイン会を予定しております。


 金井久美子《画家》(かない・くみこ)
 
 1945年、北京生まれ。ルナミ画廊(67年)、シロタ画廊(75年、77年)、アート
 スペース美蕾樹(87年、2003年)、青山ブックセンター(02年)、村越画廊
 (07年「楽しみと日々」、11年「猫の一年」、13年「小さいもの、大きいこと」、
 16年「お勝手太平記」「金井久美子 猫デッサン展」)にて個展開催。
 『愛の生活』から『「スタア誕生」』まで、妹・金井美恵子の著作の装幀、装画を
 手がける。姉妹の共著に、『金井美恵子、金井久美子の部屋』(85年)、
 『ノミ、サーカスヘゆく』(01年)、『待つこと、忘れること?』(02年)、
 『楽しみと日々』(07年)ほか。

 
 金井美恵子《作家》(かない・みえこ)
 
 1947年、高崎市生まれ。67年、「愛の生活」でデビュー。68年、同書で現代詩
 手帖賞受賞。小説に『岸辺のない海』(74年)、『プラトン的恋愛』(79年、
 泉鏡花文学賞)、『文章教室』(85年)『タマや』(87年、女流文学賞)、
 『恋愛太平記』(95年)『噂の娘』(2002年)、『ピース・オブ・ケーキと
 トゥワイス・トールド・テールズ』(12年)、
 『カストロの尻』(17年、芸術選奨文部科学大臣賞)、『「スタア誕生」』
 (18年)ほか。エッセイに『映画、柔らかい肌』(83年)、
 『待つこと、忘れること?』(02年)、『スクラップ・ギャラリー 切りぬき美術館』
 (05年)、『目白雑録』1〜6(04〜16年)、『金井美恵子エッセイコレクション』
 (全4巻、2013〜14年)などがある。

 ◆日時:2019年12月4日(水) 19時00分〜(開場18時30分)
 
 ◇場所:東京堂書店 神田神保町店6階 東京堂ホール    
 
 ★参加費: おひとり様1,000円(要予約)
 
 ⇒予約方法:メール・店頭・電話
 
 ・メールでご予約の場合
  上記「お申し込みはこちら」のリンク先専用応募フォームから
  お申し込みください。
 ・店頭または電話でご予約の場合
  イベント名・お名前・電話番号・参加人数をお知らせください。
 
        ご予約受付電話番号:03-3291-5181
 
 ※当日17:00より1階レジカウンターにて受付を行います。
    受付時にお渡しするイベントチケットは6階入口にて係員にご提示いただ
    きますのでそのままお持ちください。 
 ※6階には待機場所を設けておりませんので、開場時間前に6階へお上がり
    いただくのはご遠慮ください。 
 ※会場での書籍のご購入は現金のみの対応となっており、クレジットカード
    ・図書カード・電子マネー等でのお支払いはできません。また、東京堂の
    ポイントカードへのポイント付与もできませんので予めご了承ください。 
 ※やむを得ずキャンセルされる場合は、お手数ではございますが
     電話またはメール(shoten@tokyodo-web.co.jp)にて
     ご予約のお名前・イベント名をご連絡ください。

                                       ―――東京堂書店HPより抜粋―


 ■  2019年ドラマ大蔵ざらえ  テレビドラマの構造分析 番外編 京都・誠光社
 └─────────────────────────────────

  『いだてん』、『きのう何食べた?』、『凪のお暇』、はたまた、
 『白衣の戦士!』、『Heaven?』、『シャーロック』と、
 今年もさまざまなドラマが話題にのぼった豊作の一年。え?観てない?
 全然?もったいない!
 
 毎回圧倒的な熱量のトークでファンを増やしている
 「テレビドラマの構造分析」番外編として
 小柳帝さんの2019年ベスト10&ワーストを大発表。
 それらについて徹底的に語り尽くします。
 ドラマにはドラマの文法と語り口、そして楽しみ方がある。
 聴けばますますドラマが見たくなる名物トークイベント。
 
 新年注目のドラマの紹介もあり。
 年の瀬におつまみとビール、お菓子とコーヒー片手に
 2019年の振り返りと新年の視聴計画を。
 


 小柳帝(こやなぎみかど) 

 映画・音楽・デザイン・知育玩具・絵本などの分野を中心に、
 さまざまな媒体で執筆活動を行なってきた。主要な編・著書に、
 『モンド・ミュージック』、『ひとり』、『EDU-TOY』、
 『グラフィックデザイナーのブックデザイン』、
 『ROVAのフレンチカルチャー A to Z』、
 『小柳帝のバビロンノート 映画についての覚書1・2』、
 また、翻訳書に『ぼくの伯父さんの休暇』、
 『サヴィニャック ポスター A-Z』などがある。
 その他、CDやDVDの解説、映画パンフレットの執筆等多数。
 なお、小柳およびROVAについては、『ROVAのフレンチカルチャー A to Z』や、
 折形研究所発行の『折る、贈る』という本に詳しい。


 ◆日時:2019年12月13日(金)19時〜
 
 ◇場所:誠光社
 
 ★定員30名 ★参加費1500円+1ドリンクオーダー
 
 ⇒予約方法E-mail:s-contact@seikosha-books.com
 (参加ご希望イベント名、お名前、お電話番号をご記載ください)
 または店頭、お電話にて承ります。 

                      ―――誠光社HPより抜粋―

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 ■あとがき

  独立系出版社が集まるイベント「Books&something」が、
 今年も開催されます!
 11月30日(土) 11時より、18時まで。
 中目黒 bonill garally にて。
 興味のある方は、ぜひ!

 毎度遅れてしまい申し訳ありません。(こればっかりでごめんなさい)
 消費税が上がって、皆様いかがでしょうか。先日NHKでアンケート
 として、「あまり変わらない」という意見が三分の二くらいを占めていて
 愕然としました。売上、落ちてますよね?自分も出費が増えるばかり
 のように思うのですが…。これからどうなるのか。厳しいばかりな気が
 します。                         

                             畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.734

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『宇宙の地政学:科学者・軍事・武器ビジネス』(上下)

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宇宙をめぐる、切っても切れない軍と科学者の「奇妙な同盟」を、科学技術の
発展史、現代の巨大軍需産業と国際政治との関連にいたるまで、世界的宇宙物
理学者にしてベストセラー作家が皮肉や自戒を込めて描きあげた話題作。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その41『招かれた女』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 「自分探し」を拒否する語り―今村夏子『むらさきのスカートの女』

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その41『招かれた女』

1.カフェとコーヒー

 シモーヌ・ド・ボーヴォワール著の『招かれた女』を初めて読んだのはいつ
の頃だったろう。 

 この作品の描くパリの街はカフェだらけ。まだ一人で喫茶店に行けない年頃
だった私には、想像もつかない世界がそこに描かれていた。
 
 ドームに、ドゥ・マゴにフロール。

 ボーヴォワールもサルトルもまだ生きていたから、彼らが根城にしていると
されていたカフェがそのまま物語の中に姿を現わすのも面白かった。

 そして、この本には、濃いコーヒーの香りがするのだ。

 主人公たちは朝晩カフェを利用するし、年中コーヒーを飲んでいる。今回試
しに数えてみたら、名前がわかるカフェだけでも六軒、名前の出てこないカフ
ェも二軒あった。

 まずは粗筋と登場人物について書いておこう。

 主人公のフランソワーズは三十歳くらいの女性で、小説家兼脚本家。パート
ナーである演出家で俳優のピエールの劇団の為に、シェイクスピアの『ジュリ
アス・シーザー』の脚本を作っているところから物語は始まる。真夜中の劇場
で、一緒に出来上がった脚本をタイプしているのは、映画の子役上がりの若い
俳優で演出助手のジェルベール。そして、ルーアンから芝居を見に来てフラン
ソワーズと親しくなり、パリに出てくるように招かれる若い女性グザヴィエー
ル。この四人が主な登場人物だ。

 自分たちが若い時にチャンスを与えられたように、若い世代に金銭的援助を
しようというピエールとフランソワーズ。グザヴィエールもピエールの主催す
る演劇学校に通うようになる。この若者二人とピエールとフランソワーズとの
三角関係などが幾重にも絡み合って物語は進んでいく。その他にも、ピエール
の妹で画家のエリザベートやその恋人の脚本家、前衛的なダンスの踊り手や時
代の最先端を行くキャバレエの経営者などがいて、第二次世界大戦直前直後の
パリの街が魅力的に描かれていく。

 パートナーとはいえ、ピエールは劇場にある小部屋に、フランソワーズはホ
テルにと、それぞれ一人住まいをしている。ジェルベールに言わせると、彼女
の部屋は「けばけばしい装飾はひとつも眼につかない。棚を飾る置物も、刺繍
布も、ティーセットさえもないのだ」という様子らしい。これでは客をもてな
すこともできないだろう。だから彼女はドームをまるで自分の家の応接室のよ
うに使っていて、誰かと出かける時にも必ずここで待ち合わせる。ホテルから
も近いらしい。ドームが物語の中に描かれるのは十回。その日のうちに二度こ
こに来る日もあるし、「ドームで待ち合わせよう」などと会話の中に何度も現
れる。

 そんなフランソワーズは本当にコーヒーが好きらしい。ドーム以外でコーヒ
ーを飲む場面も三箇所ほどあるのだが、そのたびにフランソワーズはその味を
楽しんでいる。

 例えば最初の第二章で、朝早くにモンパルナス駅近くのカフェ・ビヤールに
入ってコーヒーを飲む場面がある。

「…彼女は、一口ごくりとコーヒーを飲みほした。夜明けの、ほんもののコー
ヒーだ。苦くて、砂糖がきいている。まるで、夜汽車の旅の後の駅のプラット
ホームや、始発のバスを待ちながら田舎の宿屋で飲むような…」

 実においしそうではないか。その頃コーヒーをほとんど飲んだことのなかっ
た私のコーヒーの味の好みここで決まってしまったようだ。

 濃くて苦くて砂糖のきいたコーヒー。

 それは、未だに変らない。

 ところが、実はここ以外の場面で、カフェのコーヒーをおいしいと言うこと
がないのだ。

 フランソワーズが次に、

「ここみたいなおいしいコーヒーはどこへいっても飲めないわ」

 と、満足そうにコーヒーを飲むのは実家の居間だ。母親のマダム・ミケルも
満足そうに、

「そりゃ食堂の定食で飲ませるのとは違いますよ」

と、答えている。

 その次においしそうに飲むのは、劇場にあるピエールの部屋での場面だ。朝
早く夏休みの登山旅行から帰って来たフランソワーズは、部屋に上がる前に劇
場の受付の女性に、こう言いつける。

「カフェ・オレを二つ持って来てね。トーストもつけて」

 出ました、朝のカフェ・オレ。

 フランス人は皆、朝にカフェ・オレを飲むものだと思っていたので、朝の場
面のたびに何故カフェ・オレが出てこないのだろうと思っていたのだが、第二
部の八章のこの場面でやっと姿を現わしたのだ。

 受付の女性に、

「朝御飯を持ってまいりました」

と、盆を渡されたフランソワーズは、カフェ・オレをボールに注いで、

「ほんもののカフェ・オレにほんもののトーストだわ、すてきね…」

と、満足げに味わうのだ。


 では、カフェでのコーヒー場面を見てみよう。

 まずは、ドゥ・マゴ。ここは、ジェルベールの根城らしく、彼と待ち合わせ
をする時はよくここが使われるのだが、ブラックコーヒーを頼んでジェルベー
ルを待つ間にいろいろ考えこんでしまい、冷えてしまったコーヒー飲み干して
いる場面があって、あまりおいしそうではない。

 ドームは、あまりにも頻繁に待ち合わせ場所として描かれているので、いち
いち何か頼んだとか書かれることはない。でも、ある日の明け方ドームにやっ
て来たピエールとフランソワーズとグザヴィエールが「ブラックコーヒー二つ
と、クリーム入りひとつと、クロワッサン」
をたのむ場面はある。

 ここで、クリームコーヒーに角砂糖を二つ放り込んだグザヴィエールをピエ
ールが咎めると、グザヴィエールは、これは毒消しなんだ、先生方はコーヒー
をがぶ飲みしすぎだと反論している。ということは、ピエールとフランソワー
ズはカフェに来るたびに、コーヒーをブラックで、しかも一日に何回も飲んで
いるらしいとわかるのだ。

 それにしても、コーヒーとクロワッサン。

 いかにもパリの朝食という感じがして心惹かれる場面だ。同じ場面で、劇団
の若い女優エロワが、ピエールに声をかけてもらおうと出口付近に陣取って大
人しげな様子でクリーム入りのコーヒーにクロワッサンを浸して食べている、
という描写もある。あのさくさくの味がおいしいクロワッサンをコーヒーに漬
けるのは、なんだかもったいない気もする。でも、その食べ方の方がパンが飛
び散らないから、おしとやかに見えるのもしれない。

 朝早くこの三人でコーヒーとクロワッサンを食べる場面はもう一度あるし、
ピエールはこう言う。

「早朝のドームはとても気持ちいいからね」

 夜型の演劇人であるピエールが朝のカフェが好きというのは意外だった。で
もそれは早起きして行くカフェではなく、夜遅く芝居が跳ねた後、一晩中飲ん
だり語り合ったり散歩をしたりして昼夜逆転で過ごすパリの街で、最後の締め
のコーヒーを飲む、そんな早朝のカフェなのだ。

 そしてカフェでは長い間座って周りのカップルの様子を見たり、議論したり、
けんかをしたり仲直りしたりして過ごしていく。コーヒー一杯でたくさんの時
を過ごせる場所がカフェなのだということをここで学んだのだ。

 もちろんカフェで飲むのはコーヒーだけではない。アラビア風のカフェでは
アラビアンダンスを見ながら薄荷茶を飲むし、蚤の市の近くの大きなカフェで
は、シャンソンを聴きながらマール酒を飲んでいる。と、ふいにジプシーの女
性が運勢を占ってあげようと近づいてくるのだ……。

 想像もつかないような世界がカフェで繰り広げられるこの物語。なんとか、
その味と香りから追いつこうと、インスタントコーヒーさえ置いていない紅茶
好きの我が家で一人、パーコレーターでコーヒーを淹れてみたりした。

 少し苦味の利いた恋と自由と、哲学要素が隠れたこの物語。
    
 次回は、さらに目を白黒させられた飲み物や食べ物の場面を見ながら、もう
少しこの物語について語って行きたい。

----------------------------------------------------------------------
“L’invtee” Simone de Beauvoir                       Gallimard 
『招かれた女』ボーヴォワール著 河口篤 笹森孟正訳   講談社
                           新潮文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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「自分探し」を拒否する語り
 ―今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版)

(若干のネタバレを含むのでご注意下さい)

 一人称小説というものは考えてみれば不思議なものだ。物語の登場人物の一
人の語りによって話が進められていくわけだが、話者の語る相手というのは、
不特定多数の読者なのだ(書簡形式の作品のように、物語の中の別の人物にあ
てて語るパターンもあるにはあるが)。ある世界の内側にいる人物が、世界の
外にいる誰かを想定しながら、事の次第を語る。こんなことは現実の世界では
あり得ない。客観的な筆致で状況説明がなされる三人称小説に対し、一人称小
説では話者という特殊なフレームを通して状況が伝えられる。話者は自分語り
がそのまま他者(=読者)に享受される世界の構築につながるという、奇妙な
立場に立たされる。それ故、野心的な小説は、話者の立場に様々な工夫を凝ら
してきた。狂人が語り手であったり、読者を故意に欺く人間が語り手であるケ
ースもあった。

 先頃、芥川賞を受賞した今村夏子『むらさきのスカートの女』もそうした野
心的な一人称小説の一つである。この小説は、話者である一人の女性が「むら
さきのスカートの女」と呼ばれる女性に執拗につきまとう様を描いている。理
由は一切記されない。単に「友達になりたい」とぶっきらぼうに書かれている
だけだ。三人称小説であれば、一種の人間の不条理を描いたものと理解できる。
が、語りによって進められる小説が他ならぬ自身の行動の動機に全く触れない
のは異例なことだ。しかし、そんなことに頓着することなく、語りは強引に進
められていく。冒頭のほんの数ページを読んだだけで、読者は話者が状況の忠
実な報告者ではないことを悟り、そのわがままな語りを受け入れることを覚悟
することになる。

 「むらさきのスカートの女」は「いつもむらさき色のスカートを穿いている
からそう呼ばれている」というのだが、本当に皆がそう呼んでいるかは怪しい。
話者は監視するように彼女を追い、その行動を細部にわたって描写していくの
だが、「うちの近所の公園には『むらさきのスカートの女専用シート』と名付
けられたベンチまである」などと語っているので、どこまでが実際にあったこ
とでどこまでが話者の妄想なのかは判然としない。この「どこまでが本当でど
こまでが妄想」かわからないという姿勢は最後まで崩れることがない。本来の
動機が不明なまま、病的な程細かい観察が延々と続く。この細かすぎる観察も
実際目にしたものかはわからない。

 「むらさきのスカートの女」はどうやら30過ぎくらいの独身の女性で、職
を転々とし、貧しい生活を送っている。暇な時には公園に行き、そこで子供た
ちと仲良く遊んだりなどしているようだ。話者は無職の彼女のためにコンビニ
で求人情報誌をもらってベンチに置くなどの支援をし、「むらさきのスカート
の女」は無事、ホテルの清掃員の職を得る。だが、彼女はそこである事件に巻
き込まれ、行方をくらます。

 読み始めてすぐ気づくことは、話者が、貧乏で不器用な「むらさきのスカー
トの女」よりもずっと危ない人間だということだ。自らを「黄色いカーディガ
ンの女」と呼ぶ話者は、一家離散した孤独の身であることを明かし、幼い頃の
エピソードを幾つか語るが、それ以上自分の過去について触れることはない。
話者が誘導した「むらさきのスカートの女」の勤め先は、実は話者が以前より
働いているホテルであることが途中からわかるが、話の流れの上で大事であろ
う事実を、話者は積極的に伝えようとしない。更に話者が「権藤」という名前
であることも判明するが、それは職場の人間の会話の中で偶然知らされるだけ
で、話者自らが明らかにしたのではない。話者は「むらさきのスカートの女」
にわざとぶつかろうとして肉屋のショーウィンドーを損傷してしまい、多額の
借金を抱え、アパートを追い出されるまでに困窮する。経済的にも、「むらさ
きのスカートの女」より厳しい状態にあるのだ。だが、そのことを特別問題視
するようには見えない。

 つまり、話者の語りの異様さは「自分が何者なのか」「自分はどうあるべき
なのか」というアイデンティティに関わる問いを一切排除しているところにあ
るのだ。関心を「むらさきのスカートの女」に限定し、対する自己を「黄色い
カーディガンの女」に限定し、それによって自分がどうなるということは一切
語らない。「むらさきのスカートの女」は社会の底辺に位置すると言って良い
人間だが、それでも公園の子供たちと仲良くしており、職場ではその仕事ぶり
が評価され、同僚とのつきあいは悪くなく、上司と不倫するような人間らしさ
も持つ。バスの中で痴漢行為を受けた際は相手の男を訴え出るような気の強さ
も持っている。それに対し、話者は酒が飲めず、同僚とつきあわず、他に友人
や恋人がいるようにも見えない。「むらさきのスカートの女」と友達になりた
い、と言った割には、一緒にお茶を飲みに行くなり遊びに行くなりといった誘
いをせず、ひたすらストーキングを続け、「むらさきのスカートの女」が事件
に巻き込まれて進退窮まった際に救いにやって来て、逆に不審がられる。話者
は通常の人間同士のコミュニケーションの機微を理解しない人間なのだ。

 作者の今村夏子は1980年生まれで、いわゆるロスジェネ世代にあたる。大学
卒業後に清掃員のアルバイトをしていた時期があったことが報じられているの
で、その時の経験が本作に生かされていると言うことができるだろう。但し、
本作を、非正規雇用に甘んじざるを得なくなった社会の底辺に位置する不器用
な人間が、同じ境遇の人間に共感を求めた作品、などとするのは誤っていると
思う。そんな風に社会的に解釈するのには無理がある。単に、自分が何者であ
るかを考えることを拒否し、自分が自分に対して任意に措定した目的のために
行動する人間の意識の在り様を描いた作品ということで良いのではないだろう
か。

 著者には『星の子』という、新興宗教に入信した父母に育てられた少女を主
人公とした作品がある。少女は両親のように宗教に入れ込むことはないが、だ
からと言って拒否するわけでもない。疑問を感じることがあっても反抗するこ
とはなく、差し出されたものを受け入れて、当面の行動に注力するだけだ。父
母の愛に包まれた『星の子』の主人公と、天涯孤独で奇妙なストーキングに没
頭する『むらさきのスカートの女』の主人公は、対称的に見えるが、自分とは
そもそも何者で何をしたいのか、という内省の感覚を持たない、或いは持たな
いように務めている点は共通している。二人ともいわゆる「自分探し」ができ
ない人たちなのだ。

 著者と同世代で同じく芥川賞受賞作家である村田沙耶加の『コンビニ人間』
は、世間とうまく同調できないことに悩む主人公が、コンビニに勤務すること
自体にアイデンティティを見出し、「コンビニ人間」として輝かしく再生する
様を描いている。恋愛や趣味や創造性のある仕事に興味を持てず、個性を殺し
て行うルーティンワークに没頭するというのは、通常の意味での「自分探し」
を放棄することに近い。やや強引だが、時代背景との関係を考えると、就職氷
河期に青春時代を迎え、仕事や結婚に希望を見出せなくなくなってしまった人
間が、生きがいとか人生の長期的展望とかいった難しい問題は脇に置いて、
「当面生きていく」ことを目指した結果生まれた人生観・処世術と言えなくも
ないかと思う。

 『コンビニ人間』が「コンビニ人間」という記号的存在になりきることによ
ってアイデンティティ喪失の危機を免れようとしたならば、『むらさきのスカ
ートの女』も、「むらさきのスカートの女」とか「黄色いカーディガンの女」
という記号に人間を同化させることによって、アイデンティティの問題を回避
したと言えるのではないだろうか。今村夏子の『むらさきのスカートの女』は、
現代文学の主要なテーマであった「自分探し」の否定を、語りそのものの中に
仕掛けるという点で、画期的な一人称小説だと思うのである。

*今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版 本体1300円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 またまためっちゃ遅れました。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.733

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□■[本]のメルマガ【vol.733】19年10月25日発行
                                     [ トップの3社 号]
http://honmaga.net/ 
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■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→どこまでできる?エリクソンの省エネ

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→田舎と高卒

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→ネットの、「そこじゃない」感

★「はてな?現代美術編」 koko
→コンテンポラリーアート急上昇!

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→休載です

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『独裁者はこんな本を書いていた』(上下)
ダニエル・カルダー著 黒木章人訳
四六判 本体各2,000円+税 ISBN:上 9784562057030/下 9784562057047

レーニン、スターリン、ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東…20世紀の悪名高き
独裁者たちは何を読み、何を執筆したのか。その膨大な著作すべてに目を通し
た著者が、彼らの目論見や文才まで、知られざる一面を明らかにする。

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■トピックス
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■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第104 回 地球温暖化を変える可能性はある?

日本では台風の被害が大きくてショックをうけた。
地形的に川が多くて、大雨によって氾濫し、避難中に命を失った人も多かった
と知って、これでは今後も強力な台風が来たらこのような被害が繰り返される
のかと思って暗澹とする。

過去にも大型の台風による大きな被害は起きている。
ただ最近の現象には、今や国際的な環境ストまで起きて大問題とされる地球温
暖化も原因の一つになっているのではないか。

イタリアでも年間の平均気温が上がってきているのを示す“情報グラフ表”(
Infografica)がイル・ソーレ・24オーレ紙に載った:

https://www.infodata.ilsole24ore.com/2019/09/20/40754/
(イタリア語)

記事にある青と赤に彩られたグラフがイタリアの北から南まで55の都市の気温
の1900年から2018年までの推移を示している。

上から下へ一行ずつが北端のボルツァーノから南端のシチリア島シラクサまで
の気温の上昇を示している。各行は横に青と赤で色づけされているが、左端の
1900年から右端の2018年までの各年について、その年間の平均気温が、1900年
から2018年までの最低気温に比べて1度以下の上昇の場合は青、1度以上の上昇
は赤で表わされている。

パソコンでマウスをグラフの上に置くと、都市の名と年とその年の平均気温が
摂氏度数で記され、青の色が薄くなるほど上昇の度数が小さくなり、赤がもっ
とも濃い場合は3度以上も上昇しているのがわかる。

すぐ目につくのは赤い部分(気温上昇)がグラフの右端で圧倒的に広い部分を
占めていること。つまり、イタリア北部からシチリア島まで、この20年間の平
均気温が集中的に上昇したということだ。

今年の気温がまだ示されていないが、感覚的にはこの夏の暑さは酷かったので、
このグラフの赤がより強調されるのではないか。

この気温上昇の原因として問題になっている温室効果ガス(二酸化炭素とメタ
ン)を大量に放出している世界の石油化学・エネルギーの企業20社が放出量と
いっしょにリストされているのを見た。

トップの三社はサウジアラビアのサウジアラムコ社、米国のシェブロン社、ロ
シアのガスプロム社となっている。
これら20の企業が放出する量だけでも全体のほぼ36パーセントを占めていると
いうのにおどろく。

国別のリストでは放出量のトップは米国で、ここ60年間に一人当たり1,100トン
の温室効果ガスを放出したことになるという。一年間で単純計算すると一人当
たり約20トンもの量だ!
日本の放出量は9番め、イタリアは13番めだ。

こうした温室効果ガスによる異常な気候現象を元に戻すことが、今や人類の大
きな挑戦といわれるほどになっている。気候変動の問題はまるでダモクレスの
剣(まるで頭の上に、一筋の毛髪でダモクレスの剣が天井から吊るされている
かのように、常に危険に脅かされているという譬え)だと...。

放出される二酸化炭素の量を10年単位で半減させる方法を見出し、平均して毎
年7パーセントに減少させたいと専門家たちは考えているようだ。

スウェーデンのエリクソン社の最高経営責任者(CEO)であるボリエ・エクホル
ム氏も「これからの10年間に5G(第5世代移動通信システム)やAI・人口知
能のテクノロジーが世界経済の効率を増して、化石燃料から解放される社会を
準備する手段になる」と語った。

情報通信技術(ICT)セクターが期待されている。このセクターは地球環境に負荷
の少ない自然界の再生可能エネルギーを多大に購買しているという。

エリクソン社ではすでに温室ガスの排出を50%減らし、さらに減少を目指して
いるようだ。2030年までに放出量を減らす試みは、そのゴールテープを切るこ
とがすでに野心的だといわれるが、エクホルム氏はこの目標に達するのは現実
的に可能だといっていた。

ところで、スウェーデンの経済紙は、エクホルム氏はエリクソン社を半年内に
退任すると8月末に報道している。
2030年までに放出量を減らす試みはどこまで可能なのだろう。

参照記事はこちらです:
https://www.ilsole24ore.com/art/le-tecnologie-possono-ridurre-emission
i-gas-serra-ecco-come-ACjf1yq (イタリア語)


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中です: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/
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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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土井隆義 『宿命を生きる若者たち 格差と幸福をつなぐもの』岩波ブックレッ
ト 620円+税

就職状況こそ好転したものの若者の前途は明るいとは到底いえません。非正
規雇用で働く若者は増大を続けています。国と地方自治体の借金は増える一方。
今回10%に上がった消費税はどこまで上がるのか想像もつきません。いまの
若者たちが年金を貰える可能性は低いだろうと言われています。日本の若者は
現状に大きな不満を抱いているに違いない。誰しもがそう思うはずです。とこ
ろが日本の若者の幸福度(現状満足度)はかつてなく高い。若者の幸福をめぐ
るパラドクスに、名著『友だち地獄』で知られる著者が挑みます。

いまの若者たちは、バブル崩壊後の経済が成長を止めた「高原社会」の申し
子です。「高原社会」に適応した若者たちは未来に期待を寄せません。期待し
なければ不満も生じない。そして若者たちが高い価値を置く、親しい人たちと
の人間関係は極めて良好で、現在を楽しく過ごしています。だから若者は現状
に満足していて犯罪にも走らない。他方中高年の幸福度が低く、「暴走老人」
が目立つのは、この世代は「成長社会」の残像に囚われている上に、変化する
コミュニケーション環境に適応できないでいるからだ、と著者はいいます。

若者たちはSNSを駆使して、選択的な人間関係を築き上げています。ソリの合
わない人とは付き合わなければよい。人間関係の満足度が高まるはずです。し
かし個人化の進展は、若者たちの中に「存在論的不安」を生じさせます。それ
を解消するために若者たちは共同体への「再埋め込み」を求める。若者たちは
「地元」志向を強めていきます。いまや日本の地域社会はすっかり空洞化して
しまった。かつての抑圧的な人間関係は存在しません。「地元」はいまや若者
が親しい友人と楽しく時を過ごす「ジモト」へと変貌したのです。

社会階層は日々固定化の度合いを強めています。若者たちの中には努力をし
ても報われないという諦観が広まっている。価値観が多様化した社会の中で若
者たちの絶対的なものへの希求も強まっています。スピリチュアル指向はその
一つの現われです。いまの若者たちは、「成長社会」の若者とは異なり、未来
ではなく過去に絶対的な価値の源泉を求めていきます。「ジモト」への偏愛も、
幼なじみという「宿命」的なつながりがそこにあるからでしょう。過去に根差
した「宿命」的つながりという観念は、ナショナリズムを召喚します。

若者の分断のラインは、大学進学者と非大学進学者の間に引かれています。
後者は前者に比べて非正規雇用に就く者が格段に多い。後者の若者たちは、努
力した者が成功するという考えを内面化していて、自らの不遇を努力不足の結
果として受け容れています。ところが彼彼女らの生活満足度は、大学進学組や
大人世代よりも高い。そこには同じような境遇の者としか付き合わない人間関
係の内閉化が一因している。違う境遇の者と付き合わなければ嫉妬や不満が生
じる余地もないからだという著者の指摘には慄然とさせられました。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「データ」の話

マンガ家、吾妻ひでお先生が亡くなられた。数々のギャグマンガを描かれ私も
おおいに影響を受けた作家だ。アルコール依存症の体験を綴った「失踪日記」
は中島らもさんの「今宵すべてのバーで」と共に私のバイブルに(何の)。

で、なぜデータの話が吾妻ひでおさんの話から入るかと言うと…かのAmazonで
吾妻さんの本を購入した後、Amazonからのおススメ本が「美少女、ロリ系」で
埋め尽くされた事があった。
最初は気づかなくて「なんじゃこりゃ?」状態だったが「あ、そう言う事か」
と。
確かに吾妻先生は美少女マンガの先駆者だ。
だけど私が求めるモノは美少女のベールをまとった不条理マンガで先生はそれ
の先駆者でもあった。 

でもデータでは「美少女」で括られおススメはそちらのみのカテゴリーから送
られる。

「尊敬する吾妻先生をそんじょそこらの美少女マンガ家と一緒にするな!」
見ず知らずの作家さんは完全なもらい事故状態だ。

もちろんAmazonのおススメで知らない作家の作品に出会える事もあり、全くの
お節介と言う訳でもないが1人の作家の一方向だけをデータ化するとこう言う事
になる。

人は複雑だ。その作品のどこに共感を覚えたのか、何に興味を持ったのか、な
かなかデータ化しにくいもので、挿絵のために購入した本も「その方向から」
おススメされ辟易したことも。

デジタルコンテンツのほとんどはこの「データ収集」のためにあるようなもの
だから仕方ないかも知れないがFacebookにはペットの記事が、スマートニュー
スにはコストコと100均の記事が並びだした。確かにネコもイヌも好きだし、コ
ストコで何を買えば良いのか興味あるし、100均の新製品も気になる。

だが「それにしか興味がない」訳ではない。他にも気になる事はごまんとある。

逆にこの多数派で固められたデータからのみの記事だけを粛々と読んで過ごす
ようになるのが一番恐ろしい。
現に高齢ネトウヨと呼ばれる方々はこの罠にはまっているようだ。

デジタルの海に溺れそうになりながらも何か面白いモノを拾い上げるのも呆け
防止には良いのでは?

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第100回 『勝手に現代アート事情 ――― HYPEBEASTと現代アート』


祝、100回!
100という区切りはなんとなく嬉しいものです。
お付き合いいただいた読者の方々には感謝です。

思い返せば、日本に帰ってきてからいつも不思議に思っていたのは、雑誌のサ
イトのカテゴリーやジャンルに、『アート』という括りが見当たらなかったこ
と。

かなり深い階層までクリックしないと出てこなかったりしたもんです。
診察室の待合室で雑誌をめくると、アートの文字が!

喜んでページをめくると、ガックリ。
芸能人だせばいいっていうわけじゃなかろうが!と心の中でぼやく私。
新聞のアート欄は所謂文芸関係が多くて、このメルマガで書かせてもらってい
るアートとは題材もそれを扱う視点も違う。

美術手帖のような小難しい記事を読めといわれても面白くないので、広告記事
と専門記事の間を取り持つ記事を探すもなかなか見つからず、欲求不満の日々
がありましたっけ。

フランスでは特に専門メディアでなくても、アート欄には面白い記事が掲載さ
れていたのにね。

日本の小さな本屋の棚には『美術』コーナーがないことも。
思い起こせば、淋しいなぁ、と溜息をつくこともしばしばだったのです。

もうひとつ不思議だったのは、日本の既存ファッション雑誌の最新情報欄には
あまりフランス発信の記事がないということ。

日本人は今でもフランスのことを食やファッションの都だと思っているだろう
けど、実際の発信情報量からいうとそれは真実ではありません。ニューヨーク
やロンドン、最近では中国からの最新情報の方が圧倒的に多いのが現実。
日本はフランスのありとあらゆる流行ものを吸収し尽くした感があります。
もしかしたらネタ切れ?と思ったものです。

ネタがなくても、フランスブランドは今も黄門様の印籠であることに変わりは
ありませんが、、、

一方アートマーケットの最新の売上額をみてみると・・・
1.USA(39%)、2.中国(28%)、3.イギリス(23%) 4.フランス(2%)
5.ドイツ(1%) 5.日本(1%)
※今年度(2018年下半期から2019年上半期)artprice参照

ドイツは実際アートの発信量は多いような気がしますが、売上額は意外と少な
いですね。芸術の都にしてはフランスもこの程度ですよ。。

今年度はコンテンポラリーアートマーケット総落札価格が全体に占める割合が
15%にまで上昇。
2000年当時は3%だったのに、それが15%とは、なんと世の中コンテンポラリー
マーケットにバンバンお金を投資しているようです。
Post-Warアートが24%なので、戦後のアートでくくれば、全体の39%。
モダンアートが43%だそう。

その現状を踏まえて、2013年あたりから現存アーティスト作品の価格の伸びが
すさまじい理由を考えました。

最新流行事情がファッションや音楽の流行と連動していると思うのです。
一例ですが、10月6日の香港のサザビーズのイブニングセールで、奈良美智の『
KNIFE BEHIND BACK』が、19.736.150ユーロで落札されました。
ざっくりと23億円ほどの価格が付いたわけですが、現存日本人アーティストで
は最高額となりました。
この価格には吃驚です。
□サザビーズ 10/6 香港オークション 落札結果(英語)
https://www.sothebys.com/en/auctions/2019/contemporary-art-evening-sal
e-hk0885.html?locale=en#&page=all&sort=lotSortNum-asc&viewMode=list&lo
t=1142&scroll=3420

この香港のオークション結果で上位にくるアーティストの名前は今のアートコ
レクターの嗜好を繁栄しています。この傾向は流行に敏感なサイトのアート欄
に出てくる名前なのです。

例えば、<HYPEBEAST>というサイトのアート欄を読めば、この香港のオークショ
ンに並んだ名前に馴染みがでてきます。流行に敏感なファッションピープルの
関心を買うネタが並ぶこのサイトの記事はとても興味深いです。

ちなみに<HYPEBEAST>っていう単語は、「自分を格好よく見せるために一流ブ
ランドの衣服、靴、アクセサリーなどを買い集めることに取りつかれている人」
という意味。

コンテンポラリーアートは今やこの<HYPEBEAST>達の影響を色濃く受けている
ようです。ほらほら、サイトにこの現象を象徴するような記事が出ていました。

□HYPEBEAST ノートルダム大聖堂の再建築を支援するチャリティ展の記事(日
本語)
https://hypebeast.com/jp/2019/5/notre-dame-exhibition-gagosian-paris

もっともイケイケドンドンの有名画廊と、世界で屈指のファッションブランド、
フランスが誇る世界遺産に流行のアーティスト達。必要不可欠なアイテムが揃っ
てますよね。

ここにコンテンポラリーアートの一つの立ち位置が見てとれませんか。
でも実際にこの記事が掲載された今年の6月頃のフランスでは、ノートルダムの
修復基金がすぐに集まった一方、地方の教会の修復に回すお金がなくて困って
いる地方自治体の悲痛な訴えもあったわけです。

コンテンポラリーアートを通して、目の前の出来事の光と影を見るおもいがし
ました。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■編集後記
拙宅でネット関係のトラブルが続いている。パソコン本体が壊れる、ネットが
つながらない(Wi-fiがつながらない)などなど・・・・

なんでこういうトラブルが一気にくるのかわからないが、台風でたいへんなめ
にあっておられる方に比べたら、はるかにましである。

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[本]のメルマガ vol.732


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.10.15.発行
 ■■                             vol.732

 ■■  mailmagazine of book             [読書の秋号]
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 ・象徴的・歴史的意味とその変容を多くの貴重な図像とともに解読する名著。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第124回 微笑みの重み
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 社会運動の中にあるぼんやりとした’何か’
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
 ----------------------------------------------------------------------
 第60回「マスメディアの公共図書館に関する理解について」
 
 お久しぶりです。
 
 4回連続での休載,大変失礼いたしました。勤務先での身分が変わって以来,
 勤務先での講義に加えて他所での研修会の講師,公共図書館の図書館協議会
 委員の拝命,課外活動の運営など様々な案件が重なり重なり,なかなか記事を
 出稿できずにおりました。大学における前期の受講生への評価も終わり,後期
 はなるべく新しい案件を引き受けずに,いま請けている/取り組んでいる仕事に
 専念したいところですが,果たして如何相成るでしょうか。
 
 
 さて,今年に入って,公共図書館が警察の任意の捜査協力依頼に対し,利用者
 の情報を提供していたとされる事例が,主に地方紙に散見されます。わたしが
 確認しただけでも,北海道新聞(2019年6月3日付,以下「年」の記載のないも
 のはいずれも2019年の記事),南日本新聞(8月17日付),琉球新報(9月1日
 付)と続いています(1)。中では鹿児島県の地方紙である南日本新聞の記事が,
 Webには掲載されなかったにもかかわらず,写真を載せたTwitterが拡散したの
 と,その写真が全文を載せていなかったが故に,却ってセンセーショナルに感
 じられたのか,多くの関心を引いたところがあったようです。
 
 興味深いのは,同様の問題を取り上げても,その記事の書き方が微妙に異なる
 ところです。上記の3紙を読み比べても「ああ,この記事を書いた記者は問題
 の所在がどこであるか,よくわかっていらっしゃる」「この記事は枠組みの把
 握に難があるのでは」と思わせます。総じて事実を伝える記事によいものがあ
 り,新聞社の論説にはいささか難がある,という傾向が見られるようです。
 
 好い例が琉球新報9月11日付の社説「警察の捜査事項照会/図書館の自由宣言順
 守を」という記事です。この社説は標題からして「交通マナーを守りましょう」
 レベル(「図書館の自由に関する宣言」は日本図書館協会という公益社団法人
 が採択した政策文書であり,法令のごとくその内容を履行することは義務では
 ない)ですが,この社説では
 
 “国民の知る自由を保障する機関である図書館に対する不信を生みかねない。
 知る権利を含む表現の自由をも萎縮させる恐れがある。”
 
 このように「知る自由」と「知る権利」のふたつが並立して存在するかの如き
 表現(2)が見られるあたり,この社説を執筆した記者の,この問題への理解に
 心もとないものを感じてしまうのはわたしだけでしょうか。公共図書館の味方
 を任じていただけるのは大変ありがたいのですが,「図書館の自由」に関する
 調査と考察が不足している状態での掩護射撃,時として後ろ玉になります。沖
 縄には沖縄国際大学の山口真也先生(3)という業界きっての「図書館の自由」
 に関する専門家もいらっしゃいますし,山口先生に取材して,継続的にこの問
 題に関する考察を深めていただきたいと願います。基地問題などを抱える沖縄
 の地元紙であることですし。
 
 論説がいまひとつなのは北海道新聞7月14日付「記者の視点」も同様で,いき
 なり『図書館戦争』から始まってしまいます。確かに『図書館戦争』は,「図
 書館の自由に関する宣言」をこれまで以上に広く世に知らしめた点では「図書
 館の自由に関する宣言」史上の画期ではありますが,「図書館の自由」を守る
 ために武器を持つ,という展開には,図書館関係者としては違和感しかないも
 のです。図書館というところがこの「記者の視点」言うところの「知的自由」
 を守るところであるならば,紛争についてそもそも武器を執らなくてもよい解
 決法を,わたしたちがその知的自由を行使して図書館の資料の中から探し出す
 べきところのはずです。そこが理解されていなかったところが『図書館戦争』
 の限界です。
 
 とはいえ,北海道新聞の「記者の視点」が琉球新報の社説と異なるところは,
 アメリカの事例や「企業に集まる膨大な個人情報」にも注意を向け,法制度の
 問題を言外に指摘するその視野の広さにあります。「図書館の自由に関する宣
 言」を順守しろ,で終わっている琉球新報の社説にはこの視点が欠けています。
 
 北海道新聞「記者の視点」は次の一文で締めくくられます。
 
 “そして,これまで守ってきた知的自由を失うことのないよう,図書館の「た
 たかい」を私たち一人一人も自覚して後押ししていく必要がある。”
 
 「図書館の自由を守る」のではなく,「図書館の自由が守る」ものは何なのか,
 を図書館業界関係者も図書館を利用する側も考え続けていく必要があります。
 「図書館の自由に関する宣言」は不磨の大典ではなく,その余白を埋めること
 は,何もかもを「宣言」の本文に書き込んで事例集にすることではないはずで
 す。
 
 ではまた。
 
 
 注記
 (1)この記事を書いている時点で,Webで参照できるのは琉球新報の記事だけ
    と思われる。
 
   図書館が令状なく利用者情報を捜査当局に提供 プライバシー侵害の恐れ 
   - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/news/entry-981600.html
 
   <社説>警察の捜査事項照会 図書館の自由宣言順守を - 琉球新報 - 
   沖縄の新聞、地域のニュース
   https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-987278.html
 
 (2)これはわたしの理解がおかしいのであればご指摘いただきたいのだが,管
    見の限り「知る自由」という表現は図書館関係の文献以外でほとんど見る
    ことがないし,一般の雑誌等で見るときも図書館絡みであるように思われ
    る。
    図書館業界では「知る自由は知る権利に優越する」と考えている論者もい
    るようだが,如何に「図書館の自由に関する宣言」採択当時の議論でも
   「知る自由」という言葉が見られるとはいえ,政治や法律の分野で広く使わ
    れている「知る権利」ではなく,「知る自由」という表現を選択すること
    の正統性について,今後検証が必要なのではないか。
 
 (3)山口 真也 - 研究者 - researchmap 
   https://researchmap.jp/read0061951/
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第124回 微笑みの重み
 
  
   色とりどりのキャンディーを屋台にのせて、おじさんが微笑んでいる。なに
 も知らずにこの本を手に取ったら、中東の国の観光案内ではないかと思えるほ
 どチャーミングな写真だ。
『パレスチナのちいさないとなみ 働いている、生
 きている』(高橋美香 文・写真 皆川万葉 文 かもがわ出版)は、中東の
 パレスチナに暮らす人々の生活をたんねんに追ったルポルタージュだ。高橋美
 香さんは、写真家で世界を歩き、そこに生きる人々の「いとなみ」をテーマに
 撮影している。皆川万葉さんは、「パレスチナ・オリーブ」という会社の代表
 として、パレスチナのオリーブオイルや石鹸、刺繍製品などの商品をフェアト
 レードで輸入・販売している。この本は2018年に二人がいっしょにパレスチナ
 を歩き、その旅のあいだの語らいから生まれたという。パレスチナの人々と生
 活をともにする二人が、いまパレスチナの人々がどんな暮らしをしているかを
 写真と文で伝える本だ。キイワードは、「仕事」だ。

 
   10月7日に神保町ブックハウスカフェで行われたトークショーに行ってきた。
 印象的だったのは、おふたりがとても明るいことだった。高橋さんがパレスチ
 ナにはまったのは、イケメンがいるから、とか…。スライドを映しながら、パ
 レスチナにいる友人、家族のことを愛情深く語った。

 
  正直に言って、いままでパレスチナに大きな関心を持ったことがなかった。
 ときおり伝えられる紛争、イスラエルによるガザ地区への爆撃、パレスチナの
 テロ、報復の応酬などの陰惨なニュースを遠い国で起きたこととして見てきた。

 
  イスラエルに旅行をした友人がいるが、その土産話からはパレスチナの人々
 の話はかけらもなかったな。彼にとっては、キリスト教の聖地を訪れることが
 すべてで、パレスチナについてはなんの関心もないようだった。たぶん、パレ
 スチナの人と出会うことがなかったのだと思う。そういうぼくだって、この本
 を読むまでは、パレスチナに住む人々の暮らしに思いを馳せることはなかった。

 
  本の前半は、高橋美香さんが撮影した、働く人を中心に構成されている。家
 畜の世話をする人、オリーブの実を拾う人、ハーブ摘み…写真に写った人々は、
 ほとんど笑顔を見せている。その笑顔だけ見ていると、平穏な暮らしを営んで
 いる人たちの表情だ。

 
  だがパレスチナの人々の現状を思うと、この微笑みの奥には深い悲しみと苦
 しみがあるにちがいない。産まれたばかりのヤギを抱いて嬉しそうにしている
 アブーハミスさんは、分離壁反対デモで頭を撃たれて以来、体調を崩した長男
 の結婚資金のために、家畜をすべて売り払った。放牧をやめると、糖尿病が悪
 化して、失明したという。また遊牧民は住居や家畜小屋が「違法建築物」だと
 して当局から破壊されて土地を追われてしまう。漁師は船の燃料を得ることも
 難しく、漁が出来る海域も狭められ、その海域内であってもイスラエル海軍に
 攻撃されて、命を失う人も多い。自動車修理工の青年の体にもイスラエル軍兵
 士に撃たれた傷跡が残る。たとえゲリラの武装戦闘員でなくても、その場に居
 合わせたというだけで、イスラエル軍に撃たれて殺される。「パレスチナで生
 きるってこういうこと」と語る。

 
  ただこの本はそんな悲惨さ、絶望を訴えているんじゃない。『自らの手や才
 覚で稼ぎ出すお金で、自らの夢をかなえ、人生を切り拓くことや、生きがいを
 感じられることこそが「仕事をする」ということであり、「生きる」というこ
 と』と高橋さんがいうとおり、写真を見ていると、希望や勇気をもらえる。

 
  住んでいる街に、高さ8メートルもある「壁」が作られてしまって日々の生
 活が分断されてしまうって、いったい何なんだろう?
 
  トークにときどき出てくる「分離壁」はいまパレスチナの人々が置かれてい
 る状態の象徴的なものだ。こんなものを作る発想が不気味で気持ちが悪くなる。
 イスラエルの言い分では、テロ対策だというが、結局はパレスチナの人を閉じ
 込めてしまい、自由を奪うためだろう。パレスチナの人は壁のせいで、村の中
 を行き来が難しくなり、いちいち検問所を通過しなければならない。調べて見
 たら、2004年に国際司法裁判所でこの壁は違法だと判断されているじゃないか!
 
  後半は皆川万葉さんが「ユダヤ人もパレスチナ人も男性も女性もみんなが平
 等で対等な社会を目指す」という考えを持つ『ガリラヤのシンディアナ』とい
 う生産者団体のことを教えてくれる。もともとオリーブの原産地は中東で6000
 年前から地中海東沿岸地域で栽培されていたという。パレスチナでは、オリー
 ブオイルは昔から食用、燃料、薬用、美容などさまざまな用途に使われてきた。
 農家でなくても、村に住む人々は代々受け継がれてきたオリーブの木を持って
 いるという。パレスチナの人たちにとって、オリーブの木は土地とのつながり
 の象徴で、故郷を追われた人たちは先祖代々のオリーブの木も失った。だから
 オリーブの木は抵抗の象徴として詩歌や絵画に描かれるという。

 
  シンディアナの立ち上げメンバーのアベットさん、ムギーラさんはオリーブ
 栽培をしながら、それぞれ農業学校の先生、農業アドバイザーを兼業している。
 農業だけでは食べていけないからだった。ふたりはこのままではイスラエル内
 のアラブ・パレスチナ人の農業が衰退してしまうという危機感を持っていた。
 衰退を止めるために近代的な有機農法で高品質なオリーブオイルを作ることを
 目指そうと思った。ハダスさん(ユダヤ女性)とサーミヤさん(アラブ・パレ
 スチナ女性)は社会を変えていくには、女性たちが力をつけることが大事だと
 考えていたが、パレスチナ女性の仕事が減っていくなかで、教育・文化活動だ
 けでなく、具体的な女性たちの仕事作りが必要だと考えた。そこで地域に根ざ
 したオリーブに目をつけて、高品質なオリーブオイルを製造・販売することで
 地域を活性化しようと思った。こうしてシンディアナは立ち上げられたという。
 
   パレスチナの人は土地・農地を奪われ続け、水の利用が制限されてきた。ユ
 ダヤ人の農場は、広大で、十分灌漑されているが、アラブ・パレスチナ人の畑
 は小規模で、見ただけではっきりと違う。いくら地下に豊富な水があっても、
 深い井戸を掘ったり、水の施設を作ることはイスラエル政府に禁止されている。
 シンディアナのオリーブ林の灌漑用には数キロメートル離れた村から水道を引
 いている。その水道の許可をとるにも一年かかったという。シンディアナのオ
 リーブは丹念に一粒一粒手摘みで収穫されて、酸化を防ぐために収穫後24時
 間以内にオリーブをしぼってオリーブオイルにしている。大事につくられたオ
 リーブオイルは風味が豊かで、各地の国際コンペティションでも入賞している。
 たしかに試食したところ、くせのない味で美味しかった。パンにつけると、い
 くらでも食べてしまいそう!
 
  それからファラフェルサンドという中東のコロッケサンド、また食べたい!

 
  シンディアナのユダヤ人スタッフは、ユダヤ人優位のイスラエルの在り方を
 変えないといけないと考える「反シオニスト」であり、そしてユダヤ人が多数
 の国であることにもこだわらず、パレスチナ難民が故郷、つまり現イスラエル
 に帰還する権利も支持している。このように考えるユダヤ系イスラエル人の左
 派(「和平」派)のなかでもごく少数だという。

 
  最近は、イスラエル人によるパレスチナ人に対するヘイトスピーチ、ヘイト
 クライムが、これまで以上に多くなってきている。ユダヤ人の乗客がタクシー
 ドライバーがユダヤ人であるかどうかを確認する、つまりパレスチナ人ドライ
 バーのタクシーには乗らないなんてこともあるらしい。
 

 

 巻末にパレスチナの歴史がまとめてあったり、Q&Aのコーナーでパレスチナ
 人の生活について、具体的に解説がしてあって、パレスチナ人が置かれている
 状況がよくわかるようになっている。それにしても、ぼくは、あまりにも知ら
 ないことが多すぎる。パレスチナに住む人たちを身近に感じることから始める
 ことが大切なのだと思う。
 

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  やはりタイトルに惹かれるものがありますね。「ぼそぼそ声」。大声は苦手
 です。自分の思いが多数派にはなりそうもないことを予感しているけど、黙っ
 ているわけにはいかない。そんな感じでしょうか。
 
 『ぼそぼそ声のフェミニズム』、栗田隆子、作品社、2019
 
  著者はフェミニズム思想に親しみを抱きつつ、労働運動などを行ってきまし
 た。もっともそれは一筋縄ではない道程だったのですが。その中で感じたこと
 を「ぼそぼそ」と呟いています。
 
  例えば本書第7章「『愚かさ』と『弱さ』の尊重」では、貧困問題の文脈に
 感じる違和感を取り上げています。
 
  貧困問題を語るなかでよく言われるのが、貧困は自己責任であるということ
 です。努力が足りないから貧困に陥っているのだと。つまり貧困は個人で解決
 できる問題であると言っています。

  これに反対する側の立場、そこではどう貧困を捉えているのかというと、
 「努力ができないことは社会的な背景があり、構造の問題である」(p,145)
 という主張がなされたりします。著者によると「多くの反貧困の運動はこの発
 想に根ざしている」(同前)らしいのですが…。
 
  しかしこの反貧困の理屈は、人間は努力をするものだという前提になりった
 っています。本書では「努力本性説」と呼ばれていますが。しかしこれは構造
 が撤去されてなお貧困から抜け出せないのは結局自己責任だといってるという
 ことですよね。
 
  努力できないという中には、したくてもできなかったり、したくなかったり、
 したいのかしたくないのかよくわからないとか、色々な感情が渦巻いているわ
 けですが…。あんまりやる気が出ないとか。明確な理由が無いこともあります。
 なかなかそのあたりは言語化しにくいところもあります。
 
  なにより「努力本性説」は言う側が楽だから、声高に叫ばれやすい。何でも
 かんでも努力が足りないで切って捨てればいいわけですから。それでも著者は
 それに対する違和感をつぶやくのです。努力できなかったり、しなかったりす
 ることそういう「弱さ」を尊重すること。それが大事なことではないかと。
 
  第9章『「気持ち悪い」男・「気持ち悪い」出来事』出来事では、様々な社
 会運動の場で著者が感じたある違和感について語られています。
 
  男性が支配的な態度をとること、パワハラ・セクハラです。弱者を手助けす
 る運動の中で、弱者を「かわいそう」な人と位置づけることによって支配しよ
 うとすることです。本書では弱者萌えと呼ばれていますが、これは運動の対象
 にのみ発揮されるのではなく、自分より「弱い」立場の同じ運動の仲間にも向
 けられます。
 
  著者は会合で発表をした際に、その内容には触れず「一生懸命で、かわいか
 った。」(p,167)という感想を言われたことがあるようなのですが、こういっ
 たところに端的にあらわれています。相手を愛玩動物のように扱う態度に、相
 手を尊重する気持ちは感じられません。性的な感情もそこに入ってきたりしま
 す。
 
  しかも外見上は運動の対象や、仲間内に熱心に働きかけているので運動家と
 しては優れた人という評価が与えられたりしてしまいます。そして当の本人も
 社会運動の目標と自分の欲望が渾然一体としてしまって、パワハラ・セクハラ
 をしている自分を自覚できなくなってしまいます。
 
  非常に厄介というか付き合いたくない。暴力とかではなく理屈で支配しよう
 としてくるところも、外から気づきにくいところがあるのかもしれませんが…。
 わざわざそんなことに疲弊してまで運動をやる必要はなく、運動の現場では被
 害者は去っていくだけなので問題が顕在化しにくいということもあります。
 
  もちろん支配的な立場(地位が高かったり・先輩だったり)になっていけば
 男女問わずこうなる可能性は高くなるわけですが、男性であるということはそ
 れだけで女性に対して支配的な立場を容易に取れるので、「気持ち悪い」男が
 たくさんいるのでしょう。
 
  私自身も「気持ち悪く」ならないように気をつけなければいけませんが。本
 書のような本を読んでわかったつもりになるのは危ないかもしれません。それ
 でも本書の様々なぼそぼそ声の多くが私の心に響くものでした(響き方が違う
 可能性はありますが)。
 
  本書では今までの社会運動で見落とされたり、触れられていなかったことに
 気づかせてくれます。それと同時に自分が今までぼんやりと感じていた違和感
 にことばが与えられたと思う読者の方もいるのではないでしょうか。その違和
 感を大事に咀嚼するにもうってつけです。
        
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ ブックオカ2019
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 ひと月近い「ブックオカ2019」も後半折り返し地点です。
 まだまだ楽しいイベントが目白押し!
 
 □書店員ナイトin福岡[拡大版]□□ 
 
 ◆日時:11月12日(火) 19時半〜(開場19時) 
 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ゲストに田尻久子さん(熊本「橙書店・オレンジ」店主)を迎えます。
 
 熊本で本屋兼喫茶店「橙書店・オレンジ」を営みながら、
 文芸誌『アルテリ』責任編集や、
 西日本新聞書評欄や雑誌『SWITCH』等の連載で活躍中の田尻久子さん。
 11月に上梓される3作目の著書『橙書店にて』(晶文社)の話題にも触れつつ、
 熊本の街と人と本をつないできた田尻さんの営みに迫ります
 一般の方も歓迎です!
 
 ◎田尻久子さん◎
 1969年熊本市生まれ。橙書店・オレンジ店主。会社勤めを経て2001年に雑貨
 と喫茶の店orangeを開店。2008年に隣の空き店舗を借り増しして橙書店を開く。
 2016年より渡辺京二氏の呼びかけにより創刊した熊本発の文芸誌『アルテリ』
 の発行・責任編集をつとめる。同年熊本地震被災後、近くに移転し再開。
 2017年、第39回サントリー地域文化賞受賞。2019年11月、
 最新作『橙書店にて』(晶文社)を上梓。他著書に
 『猫はしっぽでしゃべる』(ナナロク社)、『みぎわに立って』(里山社)がある。
 現在、西日本新聞で「カリスマ書店員の激オシ本」を、雑誌『SWITCH』で
 「橙が実るまで」を連載中。
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877
 
 ★会費:2000円 *1ドリンク&軽食付き 
 お問合せは、info@bookuoka.com Tel: 092-406-2036(事務局=忘羊社) 
 
 ☆共催 西南学院大学「〈ことばの力〉養成講座」 
 
 
 □第2回『読婦の友』読書会  「あなたと座談延長戦!」□□ 
 
 ◆日時:11月17日(日) 14時〜15時半 
 ◇場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 
 ミニコミ誌『読婦の友』の巻頭座談会の気分で、一緒に本を語りませんか?
 課題図書は『平場の月』(朝倉かすみ/光文社)。
 その他「大人の恋愛本」も持参でどうぞ!
 
 詳細は⇒ http://bookuoka.com/archives/2877(先着10名) 
 ★料金:1000円(1ドリンク付き) 
 お問合せ ajirobooks@gmail.com(書肆侃侃房 担当:池田) 
 
 ☆主催 ブックオカ婦人部 
                                                       ―HPより抜粋― 
 ■ 第9回 かまくらブックフェスタ
 └─────────────────────────────────
 個性豊かな出版社や、本と活字にまつわるユニークな活動をする人々が集まり、
 出版物を展示販売します。
 広い庭のある落ち着いた空間で、大切な一冊となる本に出会えますように。
 会場にはコーヒーと軽食のコーナーも。書店ではうもれがちなおもしろい本、
 貴重な本の数々が、本好きのかたのご来場をお待ちしています。
 
 ◆会期:2019年11月2日(土)・3日(日・祝) 10時から18時 
 
 ◇会場:garden & space くるくる
      鎌倉市由比ガ浜2-7-12
      JR「鎌倉駅」徒歩10分・江ノ電「和田塚駅」徒歩3分
   
 ★出展
 牛若丸/UTSUWA SHOKEN+text,(テクスト)/ecrit(エクリ)/北と南とヒロイヨミ
 共和国/群像社/新曜社/タバブックス/鐵線書林+ktr/夏葉社
 編集工房ノア+ぽかん編集室/りいぶる・とふん+みずのわ出版
 アンドサタデー 珈琲と編集と/港の人
 
 
 □同時開催イベント□□
 
 「山田稔自選集」(編集工房ノア)
「門司の幼少時代」(ぽかん編集室)刊行記念
 
 講演「堀江敏幸が語る山田稔文学の魅力」
 
 作家・堀江敏幸さんを鎌倉にお迎えし、
 山田稔さんの文学について語っていただきます。
 堀江敏幸さんは『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)の
 解説において
 「山田稔が固有名詞であると同時に、ひとつの文学ジャンルであることは、
 もはや疑いようがない」とし、
 散文芸術とも言われる山田稔文学の真価を繙かれました。
 1930年生まれである山田稔さんは、
 近年も『天野さんの傘』『こないだ』(編集工房ノア、2015年・2018年)などに
 おいて、
 独自の文学をますます極めていらっしゃいます。
 読者を深く魅了してやまない、
 おふたりの作家の「声」に触れる時間をもちたいと思います。 
 
 ◆日時:2019年11月2日(土曜) 14時半から16時(14時開場)
 
 ☆出演:堀江敏幸(作家、仏文学者)
 
 
 ◎堀江敏幸 (ほりえとしゆき)◎◎
 作家、仏文学者。早稲田大学教授。『おぱらばん』(三島由紀夫賞)、
 『熊の敷石』(芥川賞)、『雪沼とその周辺』(谷崎潤一郎賞)、『正弦曲線』
 (読売文学賞)、『曇天記』『オールドレンズの神のもとで』『傍らにいた人』
 など著書多数。
 
 
 講演「AIR LANGUAGE──さらなる空中の本へ」

 同日開催 ≪air language program 2019≫展
 
 かまくらブックフェスタでは、
 2011年の第1回より詩人の平出隆さんに講演をお願いしてきました。
 初回は2010年秋に創刊された《via wwalnuts 叢書》についてのお話を伺い、
 2017年には「空中の本へ」と題された、
 きわめて刺激的な書物論を展開していただきました。
 昨年は《言語と美術──平出隆と美術家たち》展(DIC川村記念美術館)
 が開催され、
 河原温、加納光於、若林奮ら美術家たちとの対話に呼応する、
 書物空間論としての《Air Language Program》が、
 新たな詩作としても示されました。
 この展示を経て、
 さらに強靭に実践されつつある書物論について
 語っていただきたいと思います。
 
 同会場で講演前に《言語と美術》展関連の映像を上映いたします。
 また会場では、 
 新刊の《via wwalnuts 叢書》美術論シリーズを販売いたします。
 
 ◎平出隆(ひらいで・たかし)◎◎
 詩人、作家。多摩美術大学教授、多摩美術大学図書館長。近著に『私のティ
 ーアガルテン行』『言語と美術──平出隆と美術家たち』など。
 《via wwalnuts 叢書》《crystal cage 叢書》《ppripo》など独自の出版プロジェ
 クトをもつ。
 
 ◆日時:2019年11月3日(日曜・祝日)
    展示:10時から13時半
    講演:14時半から16時(14時開場) 
 ◇会場:由比ガ浜公会堂(本会場より徒歩1分)
 
 ★講演入場料:各1500円
 
 参加ご希望のかたはメールか電話で予約をお願いします。定員50名です。
 入場料は当日受付にてお支払いください。
 3日におこなう展示は10時から13時半。どなたでも無料でご覧いただけます。
 
 ▼イベント予約方法
  メール kamakura@minatonohito.jp
  お名前と希望人数を明記ください。
  2〜3日中に、確認のメールを返信します。
  返信がない場合はお問い合わせ下さい。
  電話  0467-60-1374 港の人
  土日は不在の場合があります。
  その際はおかけ直し下さい。
 
 問い合わせ先
 港の人
 〒248-0014 鎌倉市由比ガ浜 3-11-49
     tel 0467-60-1374 fax 0467-60-1375
      mail:info@minatonohito.jp

 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき  
 台風19号、そして今も降り続く雨。被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げま
 す。
 そして、ついに、こんなに配信が遅くなり、読者の皆様、著者の皆様、本のメル
 マガ関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳りません。
 お詫び申し上げます。毎度遅れておりますが、このように遅れることは、今後
 無いようにいたします。本当にすみませんせした。
 10月25日からは神田古本まつりが始まり、あいにくの雨ですが、60回を迎える
 本の街の本のイベントがやっております。
 いろいろと暗い話が多いですが、楽しい時間を過ごせますように。
 また、全国でも本のイベントが開催されます。
 美味しいものでも食べ、面白い本と出会いひとと出会う、そんな時間をお過ごし
 ください。                       畠中理恵子
  
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[本]のメルマガ vol.731

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★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その40「贅沢な水」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ Zoomオンライン革命!

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その40「贅沢な水」

 たった、一杯の水の描写なのに忘れられない水がある。

 それは、二人の作家の小説と随筆の中に現れるのだが、どちらの作品もおい
しそうな食物がどっさり描かれているのだけれど、どんなご馳走よりも、この
コップ一杯の水の方が、なぜか忘れがたいのだ。

 それは、レモンを浮かばせた水。

 まずは宮本百合子著の『二つの庭』を見てみたい。

 この物語の舞台は昭和二年だが、書きあげられたのは戦後の昭和二十二年の
八月。長い食糧難の中で書かれたせいか実においしそうな食べ物の描写で溢れ
ている。その事については以前にも、本のメルマガvol.635とvol.638で、「味
覚の想像力−本の中の食物その8」および「その9」で、「中條百合子の恋
『二つの庭』」として言及しているのでご参照いただきたい。

 さて、今回の場面は以下のようなところから始まる。

 主人公の伸子が友人の素子とロシアへ行くことを決めて、父の知り合いの政
治家に旅券の裏書をしてもらう用件で実家に父を訪ねて行く。母や妹は海辺の
別荘に行って留守のはずなのに、家の角を曲がると聞き覚えのある車のクラク
ソンが聞こえる。玄関周りに三、四人の人影が見え、胸騒ぎを覚えながら入っ
ていくと、玄関にちらりと鶯色の羽織が見えて、母も帰って来たのがわかる。
入りぎわに運転手から、父と事務所からの帰りに上野にまわって皆を迎えに行
って来たところだと言われる。

「多計代は着いたなりの服装で食堂のいつもの場所に中腰で、早速大きいコッ
プにレモンの切れの浮いた水をもって来させているところだった。多計代の帰
京は急なことだったらしく、うちじゅうに特別なざわめきが感じられた。」

 私が忘れがたいのは、この「大きいコップにレモンの切れの浮いた水」なの
だ。

 まだ着替えもしていない家に着いたばかりの主婦が、こんな水を飲めること
の贅沢さがわかるだろうか?

 現代ならば、冷蔵庫を開けてレモンを取り出して薄く切り、コップに入れた
冷たい水に浮かばせて飲む、なんてことはすぐできるかもしれない。でも、そ
んな今の私たちとは違う贅沢さがこの一杯の水にはある気がする。

 この時代では、いつ帰って来るかわからない奥様の為にレモンを常備してお
くわけにはいかないだろう。氷式冷蔵庫も特に記載がないのでなかったかもし
れない。そうなると、今から帰るという連絡が入ったとたん台所は大騒ぎにな
り、女中が慌てて買い物に行き、夕飯の支度と共にレモンを買って用意し、奥
様がお帰りになったらすぐに出せるようにしておいたに違いない。それでこそ
奥様は指一本動かさずにこの水を飲めるわけだから、現代の私たちとは全然違
う贅沢さなのだ。

 先にも記したとおり、この物語の舞台は昭和二年。文学史的には芥川龍之介
が自死した年でもある。芥川龍之介の死から作者が受けた衝撃や葬儀の感想、
さらにその後の女性関係についての騒動についても、ここに描かれている。

 そして、その時代の作者の百合子の実家の食生活が色々と描かれていて、家
の主婦が一切食事を作らず台所専門の女中が食事を作るような中流の上の家庭
生活の様子がわかる。実家に来て、お茶の一杯も自分で入れない生活というの
は庶民の私には想像もつかないのだが、百合子はそういう生活を送ってきたの
だ。
 この家の息子たちもこの家の経済的地位の上昇にしたがって贅沢を身に着け
ていて、兄の方は親の留守宅で友人と一緒に出前の寿司を勝手に取っているし、
植物好きの弟は名家の温室を見学させてもらってからは、ひたすらメロン作り
に憧れている。
 戦中戦後の食糧難の時代の苦労を聞かされて育って来た身にとっては、戦前
の昭和の時代の贅沢さというものは想像がつかない。小学校もろくに通えずに
働きに出る人々がいる一方で、メロン作りに憧れるこの少年は、高校入学のお
祝いに温室をプレゼントされたことが、後の作品『道標』に描かれている。

 帰宅と同時に差し出される一杯のレモンの入った水は、そんな経済的に発展
した一中流家庭の贅沢さを象徴するもののようにも思える。
    
 時代は下って、昭和十二年刊の「林芙美子選集 3」にある随筆『朝御飯』
の中にも、この「レモンを浮かばせた水」が出てくる。

「倫敦で二ヶ月ばかり下宿住いをしたことがあるけれど、二ヶ月のあいだじゅ
う朝御飯が同じ献立だったのにはびっくりしてしまった」

と、始まるこの作品は、「オートミール、ハムエッグス、ベーコン、紅茶」が
毎日出されたことに驚いて今でもこの献立を見ると胸がつかえる気がすると言
いながら、オートミールは熱々にバターと塩か、またはママレードに砂糖と牛
乳をかけるといい等と書かれていて、なかなかおいしそうな話になって行く。
 パリのカフェのクロワッサンと珈琲がとても性に合うと言いながらも、家で
は紅茶と野菜サンドイッチだと言い、次々とおいしそうな野菜サンドの作り方
が書かれていく。あげくに、

「トマトをパンに挟む時は、パンの内側にピーナツバタを塗って召し上れ。美
味きこと天上に登る心地。」

 なんて言われてみれば、これは試さずにはいられないという気がする。

 夏の朝に炊き立てのご飯に冷たい水をかけて食べる朝御飯。

 徹夜明けのもうろうとした頭で、冷蔵庫から冷えたウィスキーを取り出し、
小さなコップ一杯飲むだけというような、いかにも作家風の朝御飯。

 続いて、旅先での旅館の食事の記述が続き、炊き立てのご飯ではなく何度も
「ふかし飯」を出したことに怒ってみせ、その旅館を実名入りで書いている。
かと思えば、樺太や北京という旅先での朝御飯に筆が及んで行く。生まれつき
放浪者である芙美子だが、その行動範囲はどんどん広がっていたことがわかる。

 筆はやがて又自宅での朝食風景に戻り、最後の方に、このレモンを浮かばせ
た水が姿を現す。

「私はこのごろ、朝々レモンを輪切りにして水に浮かして飲んでいるけれど運
動不足の躯には大変いいように思う」

 何となくこれは、おいしいからというより、健康のためというニュアンスが
してくる。

 林芙美子は料理上手だったらしいから、この文章からは女中に言いつけて持
ってこさせるというより、レモンを自分で冷蔵庫から取り出し、ササッと切っ
て冷たい水に浮かばせる手際のいい様子が見えて来る気がする。

 そんな風な記述の後、話は金沢の雲丹がおいしいという方向に向かって行く。
ジャガイモやトーストパンにバターの代わりにつけて召し上がれと言われても、
その高価なことを知っている身にとってはたじろがざるをえない。もっとも、
筆者は雲丹が食べられないので、よくわからない味なのが残念だ。

 旅先や家庭でのそれなりに贅沢な朝御飯の中に唐突に顔を出すこのレモンを
浮かばせた水。楽しそうだけれど慌ただしい気もする食べ物の記述の中で、何
故かそこだけが気になってしまうのだ。

 伸子の母の多計代も健康のために飲んでいたのだろうか?もしかすると、こ
のレモン入りの水は、時代の流行だったのかもしれない。

 先に挙げた『二つの庭』の素子のモデルである湯浅芳子が編集していた「愛
国婦人」という機関誌を見てみよう。

 大正十一年七月号の料理記事「涼しい夏の飲みものとゼリー」に、「レモン
ゼール」という飲み物の作り方が紹介されている。レシピを見てみよう。

「先づレモンを輪切りに二つとなし充分に汁を取る、氷は綺麗に洗ひ清潔なる
器物に入れて氷かきにて小さいコロコロに砕く、その氷に砂糖を入れてサイダ
ーを注ぎ最後にレモン汁を入れて供す」

 今ならレモンスカッシュというところだろうと思うのだが、このゼールの意
味は不明だ。このレシピ集で次に出てくるのが「イチゴソーダ水」なのだが、
こちらはイチゴシロップとラムネで作るとあって、なんとなく安易で、レモン
ゼールの方が上等な感じがする。何しろこちらのレシピには、

「氷は前の様にして用ふ其の他は全部前と同法にして供すればよろし」

とだけあるのだが、甘いイチゴシロップに甘いラムネを加えてさらに砂糖を入
れるとなると、あまりにも甘すぎる気がする。「よろし」といわれても、これ
はまずいでしょうと思うのだ。

 まあ、それはともかく、これを見ると、大正期にはレモンはすでに身近な果
物となっていたようだ。

 さらにその効用については、大正十二年の八月号の「美しくなるにはどんな
食物を摂ればよいか」という記事の中で「血を冷やして置く事、つまり皮膚を
サバサバと清涼にして置くのには、同じ酢の物でも、これに使ふ酢はレモンの
絞汁数滴を持って代える事と」と、レモンを使うように薦めている。続く文章
で、ちしゃ(レタス)のサラダにもレモンと油のドレッシングがいいと言って
いる。

 もっともこの記事は、あまり根拠がないままトマトが肝臓にいいとかアメリ
カでは水を一升二合飲むのだとか書いているから眉唾な文章なのだが、レモン
が体にいいものだということが大正期にはすでに誰もが認識していたというこ
とはうかがえるようだ。

 『二つの庭』の多計代のモデルの葭江には糖尿病の持病があり、林芙美子も
若くして心臓発作で亡くなることを知っている身には、このレモンを浮かばせ
た水には、やはり健康を意識したものが感じられてくる。

 贅沢な水。

 体にいいような気もするけれど、果汁を絞っているわけではない、レモンの
輪切りが浮かんだだけの水。

 それなのに、こんなに惹きつけられるのは、一家の主婦でもあるこの女性二
人が、家族のために用意するのではなく、自分自身のためだけに一人で飲んで
いるからではないだろうか。

 朝日のさしこむ食卓の上で、きらきらと輝く、レモンの輪切りを浮かばせた
グラス一杯の水。

 こんなふうに憧れながら、毎朝の慌しさの中で、この水を飲めないまま日々
を過ごしている。


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『宮本百合子全集』新日本出版
『二つの庭』                  宮本百合子著 新潮文庫
『林芙美子全集』文泉堂出版
『林芙美子選集』改造社
『林芙美子随筆集』               林芙美子著 岩波文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
 く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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Zoomオンライン革命!

 最近、仕事で、facebook と Zoomをかなり使っている。特にここのところの
Zoom使用率はかなり高い。

 Zoomを御存じない方もいらっしゃるので簡単に説明すると、無料でも使える
オンライン会議のアプリである。有料版でも毎月1000円ちょっとなので、お気
楽に導入できて使い倒せる。ちなみに、主催側ではなく参加側はずーっと無料
である。

 このZoom、これまでの類似のものと比べて、段違いにテクノロジーが進んで
いる感がある。メルカリがそれまでのサービスを質において凌駕したように、
同じような技術の成熟を感じる。

 特に「ブレイク」という機能は秀逸。これは例えば、オンラインでワークシ
ョップなどを行うことを可能にする技術で、オンライン上で小さなグループ分
けをして、その中だけで話し合うことができる。だから、小グループで話し合
って、その後、集まってシェア、といったこともできる。

 これ、すごくないだろうか?

 で、Zoomがすごいと言っても、単なるアプリである。問題は、このようなテ
クノロジーが進化することによって人の動き方、生活が変わる、もっといっち
ゃえば、人生が変わる、ということが、まさに「革命」なんだと思う。

 『Zoomオンライン革命!』著者の田原真人さんは現在はマレーシア在住。か
つては仙台在住でしたが、3.11とその後の混乱でマレーシアに移住。すべての
仕事をオンライン化し、現在、世界中の人とつながり、様々なプロジェクトを
起こしたり参加したりされています。

 私が田原さんと出会ったのは、Eessential Management School(以下、EMS)
というマネジメント・スクールのお手伝いを2018年10月からさせていただいて
いて、そこでお知り合いになりました。

 このEMSでは授業の他に「部活」といって、様々な方が御自身の関心に基づい
て参加する自由な活動があり、活動自体もZoomでやっていたりします。その部
活のひとつの会に田原さんに参加いただいたのがきっかけでした。

 このZoom、私はEMSに関わるまで未体験だったのですが、体験してしまうと
その便利さに驚き、実際に大阪と東京をつないだ研修でも導入してみました。
まったく違和感なし。これまでの集合研修にかかっていたコストは何だったの
だろう、という感じでした。

 そして、現在の私の状態といえば、ミーティングのほとんどがZoom会議にな
ってしまいました。これは良し悪しかもしれませんが、Facebookでグループメ
ッセージが立ち上がり、打合せしたいけどと、時間調整し、すぐに会議が始ま
る。移動も不要。どころか、移動中でも参加できます。声が出せなきゃチャッ
トもできるので、電車の中から参加していることもあります。

 私はどちらかというとフリーランスのような動き方をしているので、私も私
の周りもこういうテクノロジーは入れやすいのですが、日本の旧来の企業です
と、なかなかこういうものが取り入れにくい状態なんだろうなぁ、と感じてい
ます。

 もし、本気でこういうテクノロジーを企業が取り入れると、

・研修がオンライン化
・会議もオンライン化
・飲み会もオンライン化
・そもそも会社に行く必要がなくなる

 こんなことが実現してしまいます。

 例えば最後の、いわゆる在宅勤務ですが、これにはいろいろ旧来の常識から
の否定論も多いのではないかと思われます。では、仮に、勤務時間中、Zoomを
つなぎっぱなしにしとけば問題ないのでは?と思うのです。

 会社の近くに住んでいる人は会社に行き、いわゆるオペレーション系の仕事
を主に担当します。オンライン側に居る人が、どうしても物理的な何かをいじ
らなければならないもの。例えば、なんでしょうね。宅急便の箱を開けるとか、
そういう感じでしょうか。会社のサーバーとはリモートでつなげば問題ないの
で、自宅に居ながら、会社の環境で仕事をするのは全く問題ないはず。少なく
とも、関東圏の朝の電車のラッシュで社員をドナドナのように毎日移動させる
コストをかけるくらいなら、通信環境を整える方に予算を使う方が良いような
気がします。

 できないのはハグぐらいでしょうが、日本にはハグの習慣はないから大丈夫
でしょう。

 もちろん「研修のオンライン化」なんぞが実現してしまうと、これまでの既
得権益…これはお金もそうですし、仕事そのものもそうですね、側の人にとっ
ては大問題。だからいろいろ難癖つけて反対するでしょうが、反対の声が大き
ければ大きいほど、早く移行した組織はその成果を得られる。そんな時代にな
ってきているように思います。

 来年はオリンピック。東京都庁は御触れを出して、できるだけ競技時間前後
に社員に通勤させないように呼びかけていると漏れ聞こえています。だったら、
今から既得権益の声を封じ、すべてをオンライン化してしまう「革命」を、と
っとと起こしてしまえばいいのでは?と思ったりもします。

 あ、だったら、そもそも東京に住んでいる人を雇用する必要もないね。

参考URL)
・Zoom
  https://zoom.us/jp-jp/meetings.html
・Zoom 会議(YouTube)
  https://www.youtube.com/watch?v=yczj_3EBGo0
・東京 2020 大会時の交通対策
  https://2020tdm.tokyo/traffic/index.html
・Zoom革命−企業様向けZOOM革命のサービス
  https://zoom-japan.net/enterprise-services/
・Eessential Management School
  https://essential-management.jimdofree.com/

おまけ)
「テクノロジーがどのように学びと組織の構造を変えていくのか?」という点
について、Zoomを使った無料イベントを企画しました。御興味ある方であれば
誰でも参加できます。(Facebookイベントページより「参加」をクリック!)

10/11 19:00-20:30@Zoom
・自律型組織の土台を作る主体的な学びのデザイン
 https://www.facebook.com/events/2444526765823319/

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 昔は大組織に居た方が、最新の情報やテクノロジーに触れることができたの
が、今は逆に、個人と個人のゆるやかな集まりの方が、テクノロジーに合わせ
て組織の形を変えて進化できる時代になったなーという実感があります。

 日本は今更大きなインフラを改築できない国家になりつつあります。もっと
ミニマムな仕組みに置き直す時期が来ているように思います。(aguni原口)

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