[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ vol.684

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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.6.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book     [雨とサッカーとモヤモヤ号]
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 ★PR★ 原 書 房★
 
 ◎原書房ウェブサイトをリニューアル! http://www.harashobo.co.jp/
 弊社ウエブサイトを全面リニューアルしました。
 あんな本からこんな本、ああ、そんな本まで探せてしまう!
 カタイ本もスレスレの本も、精魂こめてつくってます。ぜひご覧下さい。
 
 ◎原書房公式twitter 開始!
 遅ればせながら公式Twitterはじめました。 @harashobo_Japan
 こちらもよろしく。【原書房 図書館部】 @harashobo_tosho
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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。来月にご期待を! 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第108回 プラハ「黄金の虎」へ 

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → モグラ、虹、ハエトリグモ…。鬱々とした時は異世界へ!
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第108回 プラハ「黄金の虎」へ


  5月の連休後、1週間ほどプラハに行ってきた。ひさしぶりのヨーロッパ、
 チェコを訪れるのは初めてだ。じつはプラハ行きが決まったのは、ひょんな
 ことだった。最初はハワイに住む友人を訪ねる予定だった。すっかりその
 つもりで常夏気分を味わおうとウクレレを引っ張り出してポロポロと弾いて
 いた。ところが友人からキャンセルのメールが届いた。ぼくが予定してい
 た期間にプラハに行くことになった。ついては、いっしょに行かないか?
 という内容だった。出不精で旅慣れないぼくは、それまでヨーロッパ旅行な
 ど考えたこともなかった。それもヨーロッパのど真ん中、チェコ!

  子どもの頃から、両親はたびたび東欧に出かけていたから、まったくなじ
 みがないわけではない。ポーランドに行ったこともあるけれど、はるか30
 年以上も前のことだ。予算もかかるわけで一旦は断ろうと思った。だがそ
 のとき、ふと父・吉上昭三(ポーランド文学者)の友人だったチェコ文学者の
 千野栄一さんのことを思い出した。


  16年前のことだった。入院していた千野さんからハガキをいただいた。
 話したいことがあるという。千野さんは病気のせいで耳が聞こえなくなって
 いたけれど、病室には原書が山のように積み上がっていた。「ここはゆっく
 り仕事が出来るからいいよ」とにっこりした。

 
   父と千野さんは、本当に仲がよかった。しょっちゅう家に遊びにきては、
 いたずらっ子のような笑顔で冗談をいっていた。
たとえば、こうだ。イギリス
 に行ったとき、切符を買おうとして、「ツー(to)・リバプール」といったら駅員
 が切符を2枚よこしたので、「フォー(for)・リバプール」といい直すと今度は
 4枚切符をわたされてしまった。「ああ、これじゃ、てんで話にならないぜ」と
 いったら、駅員は切符を10枚わたした…なんていうジョークを得意そうに
 話した。千野さんは言語学の先生だったから、アクセントにもうるさかった。
 ちなみに千野さんの千野は、チにアクセントがあるそうだ。アクセントをつけ
 ずに平坦に「千野さん」といわれると、「チ!の」と直していた。

   あまりにしょっちょう家に来ていたので、ぼくにとってはエラい言語学の
 先生ではなく、近所の面白いおじさんだった。父が亡くなってからも、なに
 かと気にかけていただいた。

 
   病院のロビーでいつかチェコ、プラハを訪ねなさいといってくれた。父が
 ポーランド、ワルシャワを愛していたように、千野さんはチェコを、プラハを
 愛していた。千野さんは、それからしばらくして亡くなった。
 
   友人がくれたこの機会を逃しては、一生プラハに行けないかもしれない。
 それでは千野さんにも申し訳が立たない。というわけですぐにエアチケット
 とホテルを予約した。
 
   プラハについて、なんの予備知識がなかった。ガイドブックをパラパラと
 めくってみたが、どうもイメージがわかない。チャペック兄弟、カフカ、エゴン
 ・シーレ、ミュシャ……と文学、美術の大家を生んだ街であり、中世ヨーロッ
 パがそのまま残る街であることは知っているけれど、行くまでは、それが
 どういうことなのか感じることが出来ない。いやいや今だってチェコの文学
 や美術、歴史に知識があるわけじゃない。
 
    だけど、プラハの街を歩き始めたとたんに千野さん、そして意外に多い
 チェコ好きの友人たちの気持ち わかった。名所旧跡に行かずとも石畳の
 道をコツコツと歩き、百塔といわれる、街中に見られる教会の尖塔を見上げ
 ていると中世の歴史にすっぽりと飲み込まれた感じがする。多くの小説家、
 詩人、たとえばミラン・クンデラが原稿を書いていたという老舗カフェ・スラヴ
 ィアで窓の外を行き交う路面電車を見ながらコーヒーを飲んでいると、じわじ
 わとこの街にいる喜びが湧いてきた。

 
   路面電車を乗り継げば、たいていのところに行くことが出来る。友人が教え
 てくれた古本カフェ「オーキー・ドーキー」に行った。入ってみると普通のカフェ
 でけっこう大きな音でポップスが流れている。古本カフェは奥の部屋だった。
 テーブルが4つほどで窓からの自然光がやわらかく、ほの暗い。とても落ち
 着く。壁一面は本棚になっていて、ほとんど天井まで古本でうまっている。棚
 はジャンルごとに分類されていた。本はすべて売り物のようで値札がついて
 いる。ちょっとかび臭いが古書好きならば、それもまた魅力になっているのか
 もしれない。このカフェが近くにあれば通うだろうなあ。ただこんなにたくさん
 の本があるのに、読める本が一冊もないのが残念。ああ、チェコ語が出来れ
 ば天国なのに。
 
   1週間の旅はあっという間に過ぎてしまう。とりあえず古書店でチャペック
 の「ダーシェンカ」を手に入れたし、感じのいい中古レコード店も見つけた。
 あとは…。フェイスブックに写真をあげたら、知人から「千野先生のお気に入
 りだったビアホールに行ってみては」というアドバイスがあった。そうだ、千野
 さんのエッセイ集『ビールと古本のプラハ』(白水社)に登場する「黄金の虎」
 に行かなくては!
 
   グーグルマップを頼りに旧市街近くにあるビアホールにたどり着くと、まだ
 午後6時前というのにテーブルは満席で、ジョッキを手にした人たちでごった
 返していた。これでは仕方がないとあきらめようとしたところ、旅慣れた友人
 夫婦が奥に入っていくと、「せっかく日本から来たのだから」と席を譲ってくれ
 た。千野さんのエッセイにも同じようなことが書いてあった。自慢のビールを
 遠い国から来た人に味わってもらいたい、という地元愛なのだろう。このとき
 ばかりは下戸の自分を恨んだ。ああ、くやしい。千野さん曰くプラハで一番お
 いしいビールなのだ。エッセイによると、常連たちは何十年も同じテーブルで
 飲んでいるそうだ。もしかしたら奥のテーブルには、千野さんといっしょに飲
 んだ人たちがいたのかもしれない。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
   失恋してしまったので、もうお天道様の下で生きていくのは嫌になってしま
 ったよ。よし、モグラになろう。私にはうらぶれた日陰暮らしがぴったりさ。
 けどどんなモグラになればいいのかわからないな?そんなときはこれ。
 
 『モグラハンドブック』、飯島正広・土屋公幸、文一総合出版、2015
 
   これで好きなモグラを選べばいいんだ。ミズラモグラやセンカクモグラは絶滅
 の危機にあるらしい。ちょっと生き延びるのが大変そうだからやめておこうかな。
 それにしてもセンカクモグラは尖閣諸島に固有のモグラなのか、日本固有種と
 書いてあるけど中国から抗議は来ないのかな。
 
   まあそれはそれとして、やっぱり関東人だしアズマモグラあたりがいいかな。
 だけど西からコウベモグラが進出してきてるのがちょっと心配だな。単独生活で
 坑道を守るために絶えず激しい喧嘩もするらしい。地中ならほとんど天敵もいな
 いように見えるけど、なかなか楽はできないものだ。
 
   地中をうごめくモグラの写真を見ると、なんだか目を見開いてるぞ。モグラは
 ほとんど視力がないように思っていたけど、どうもそうでもないらしいな。そもそ
 も生モグラを見たことがないような気がするので、今度見に行こうかな。
 
   そうだ、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。もっと上を向いていかないと。雨の
 後には虹も出る。と思ったら見たことない虹が出てきたな。下のほうまである丸
 い虹だ。
 
  『空の虹色ハンドブック』、池田圭一・服部貴昭、文一総合出版、2013
 
   これを紐解けば珍しい虹でもどんな現象かバッチリ解説してくれる。丸い虹…
 眼下に水滴がある場合には虹が丸く見える。そんなにレアな現象ではなかった
 …残念。
 
   だけどレア度の高い現象が起こっていても、こっちが気づかなきゃお話になら
 ないわけで、この本での予習は欠かせない。
 
   この本の中であと見たことあるのは、「紫色の夕焼け」かな。昔山口市で見た
 けど、あれはなかなか視界一面が赤紫に染まって幻想的な風景だったなあ。で
 きればまた体験したいもんだ。
 
   とこんな具合に、今まで風景の一部でしかなかったものに、実は名前があっ
 たことを知ると、世界の見方が昨日とは少し変わります。そういう体験を味わう
 には文一総合出版のハンドブックシリーズは実にお薦めです。
 
 『ハエトリグモハンドブック』、須黒達巳、文一総合出版、2017
 
   こちらは最近出たハエトリグモのガイドブック。なんと著者は日本産のハエト
 リグモ全種の採集・撮影を目指しフリーターになったという。カラフルでモフモフ
 なハエトリグモの姿を楽しむことができます。
 
   部屋の隅でピョンピョンしているあいつも、これを読めば単なるクモからアダン
 ソンハエトリ(例)として認識されることになるでしょう。
 
   ハエトリグモの生態についても知ることができます。なになにハエトリグモの
 オスはこんな風に求愛して、カップルになるのか。求愛…。…そういえば振られ
 ちゃったんだっけ。ハエトリグモでさえ出来ることが私にはできなかったと言うこ
 とか…。…。…。(冒頭に戻る)
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ 「trip to zine ~zineへの旅〜」展
 └───────────────────────────────── 
 ◆期間:2018年6月14日 (木) 〜 7月16 日(月)  9:00〜21:30
 
 ◇場所:多賀城市立図書館 3階 ギャラリー
 
 □主催:多賀城市立図書館/Book!Book!Sendai
 
 □問い合わせ先:多賀城市立図書館 022-368-6226
 
 ホームページ
 http://bookbooksendai.com/
 
 
 “近年、zineへの関心は高まっていて、ニューヨーク、フランス、台湾、
 韓国、東京など世界各地でzineのイベントが開かれています。
 なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。
 本展は『日本のZINEについて知ってることすべて』に掲載されている
 zineを中心に、1960年代から2010年代までに発行されたzineを
 年代順にセレクトして展示。
 会場内にzineライブラリーを開設し、東北のzine、世界のストリート
 ペーパーも合わせて紹介いたします。
                                 ======火星の庭HPより抜粋======

 ■ 僕の人形 原田栄夫作品展 at 長野県茅野市 アノニムギャラリー
 └─────────────────────────────────
 ◆期間:2018年7月5日(金)〜31日(火)  
                                     11:00−18:00 水・木曜は休み
 
 ◇場所:アノニム・ギャラリー&カフェ
       〒391-0211 長野県茅野市湖東4278
              Tel/Fax  0266-75-1658
              E-Mail  contact@anonym-gallery.com
 
            電車の場合
            JR中央本線 茅野駅よりタクシーか路線バス 
            路線バスの場合は
            「茅野駅〜横谷峡入口〜渋川口〜麦草峠線」で
            「北部中学校入口」下車 
 
 90歳を過ぎてから
 日々の趣味としてつくるようになったという
 原田栄夫氏の人形。
 
 テッシュでつくられた「ちり紙人形」。
 紙粘土を使った動物、張り子たち。
 
 唯一無二の人形たち。
  
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 ■あとがき 
 何だか嫌なことが続く年のような気がするのは私だけでしょうか。2018年、
 後に忘れられない年、として思い出すような気がします。毎度、遅くなって
 しまい本当に申し訳ありません。来月もよろしくお願いします。                 
                              畠中理恵子

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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
   ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
   ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
   ただし、掲載の可否については編集同人が判断します。
 ■ 広告掲載につきましては、下記までお問い合わせください。
   事務局担当:aguni hon@aguni.com
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 弊社ウエブサイトを全面リニューアルしました。
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 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。来月にご期待を! 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第108回 プラハ「黄金の虎」へ 

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → モグラ、虹、ハエトリグモ…。鬱々とした時は異世界へ!
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第108回 プラハ「黄金の虎」へ


  5月の連休後、1週間ほどプラハに行ってきた。ひさしぶりのヨーロッパ、
 チェコを訪れるのは初めてだ。じつはプラハ行きが決まったのは、ひょんな
 ことだった。最初はハワイに住む友人を訪ねる予定だった。すっかりその
 つもりで常夏気分を味わおうとウクレレを引っ張り出してポロポロと弾いて
 いた。ところが友人からキャンセルのメールが届いた。ぼくが予定してい
 た期間にプラハに行くことになった。ついては、いっしょに行かないか?
 という内容だった。出不精で旅慣れないぼくは、それまでヨーロッパ旅行な
 ど考えたこともなかった。それもヨーロッパのど真ん中、チェコ!

  子どもの頃から、両親はたびたび東欧に出かけていたから、まったくなじ
 みがないわけではない。ポーランドに行ったこともあるけれど、はるか30
 年以上も前のことだ。予算もかかるわけで一旦は断ろうと思った。だがそ
 のとき、ふと父・吉上昭三(ポーランド文学者)の友人だったチェコ文学者の
 千野栄一さんのことを思い出した。


  16年前のことだった。入院していた千野さんからハガキをいただいた。
 話したいことがあるという。千野さんは病気のせいで耳が聞こえなくなって
 いたけれど、病室には原書が山のように積み上がっていた。「ここはゆっく
 り仕事が出来るからいいよ」とにっこりした。

 
   父と千野さんは、本当に仲がよかった。しょっちゅう家に遊びにきては、
 いたずらっ子のような笑顔で冗談をいっていた。
たとえば、こうだ。イギリス
 に行ったとき、切符を買おうとして、「ツー(to)・リバプール」といったら駅員
 が切符を2枚よこしたので、「フォー(for)・リバプール」といい直すと今度は
 4枚切符をわたされてしまった。「ああ、これじゃ、てんで話にならないぜ」と
 いったら、駅員は切符を10枚わたした…なんていうジョークを得意そうに
 話した。千野さんは言語学の先生だったから、アクセントにもうるさかった。
 ちなみに千野さんの千野は、チにアクセントがあるそうだ。アクセントをつけ
 ずに平坦に「千野さん」といわれると、「チ!の」と直していた。

   あまりにしょっちょう家に来ていたので、ぼくにとってはエラい言語学の
 先生ではなく、近所の面白いおじさんだった。父が亡くなってからも、なに
 かと気にかけていただいた。

 
   病院のロビーでいつかチェコ、プラハを訪ねなさいといってくれた。父が
 ポーランド、ワルシャワを愛していたように、千野さんはチェコを、プラハを
 愛していた。千野さんは、それからしばらくして亡くなった。
 
   友人がくれたこの機会を逃しては、一生プラハに行けないかもしれない。
 それでは千野さんにも申し訳が立たない。というわけですぐにエアチケット
 とホテルを予約した。
 
   プラハについて、なんの予備知識がなかった。ガイドブックをパラパラと
 めくってみたが、どうもイメージがわかない。チャペック兄弟、カフカ、エゴン
 ・シーレ、ミュシャ……と文学、美術の大家を生んだ街であり、中世ヨーロッ
 パがそのまま残る街であることは知っているけれど、行くまでは、それが
 どういうことなのか感じることが出来ない。いやいや今だってチェコの文学
 や美術、歴史に知識があるわけじゃない。
 
    だけど、プラハの街を歩き始めたとたんに千野さん、そして意外に多い
 チェコ好きの友人たちの気持ち わかった。名所旧跡に行かずとも石畳の
 道をコツコツと歩き、百塔といわれる、街中に見られる教会の尖塔を見上げ
 ていると中世の歴史にすっぽりと飲み込まれた感じがする。多くの小説家、
 詩人、たとえばミラン・クンデラが原稿を書いていたという老舗カフェ・スラヴ
 ィアで窓の外を行き交う路面電車を見ながらコーヒーを飲んでいると、じわじ
 わとこの街にいる喜びが湧いてきた。

 
   路面電車を乗り継げば、たいていのところに行くことが出来る。友人が教え
 てくれた古本カフェ「オーキー・ドーキー」に行った。入ってみると普通のカフェ
 でけっこう大きな音でポップスが流れている。古本カフェは奥の部屋だった。
 テーブルが4つほどで窓からの自然光がやわらかく、ほの暗い。とても落ち
 着く。壁一面は本棚になっていて、ほとんど天井まで古本でうまっている。棚
 はジャンルごとに分類されていた。本はすべて売り物のようで値札がついて
 いる。ちょっとかび臭いが古書好きならば、それもまた魅力になっているのか
 もしれない。このカフェが近くにあれば通うだろうなあ。ただこんなにたくさん
 の本があるのに、読める本が一冊もないのが残念。ああ、チェコ語が出来れ
 ば天国なのに。
 
   1週間の旅はあっという間に過ぎてしまう。とりあえず古書店でチャペック
 の「ダーシェンカ」を手に入れたし、感じのいい中古レコード店も見つけた。
 あとは…。フェイスブックに写真をあげたら、知人から「千野先生のお気に入
 りだったビアホールに行ってみては」というアドバイスがあった。そうだ、千野
 さんのエッセイ集『ビールと古本のプラハ』(白水社)に登場する「黄金の虎」
 に行かなくては!
 
   グーグルマップを頼りに旧市街近くにあるビアホールにたどり着くと、まだ
 午後6時前というのにテーブルは満席で、ジョッキを手にした人たちでごった
 返していた。これでは仕方がないとあきらめようとしたところ、旅慣れた友人
 夫婦が奥に入っていくと、「せっかく日本から来たのだから」と席を譲ってくれ
 た。千野さんのエッセイにも同じようなことが書いてあった。自慢のビールを
 遠い国から来た人に味わってもらいたい、という地元愛なのだろう。このとき
 ばかりは下戸の自分を恨んだ。ああ、くやしい。千野さん曰くプラハで一番お
 いしいビールなのだ。エッセイによると、常連たちは何十年も同じテーブルで
 飲んでいるそうだ。もしかしたら奥のテーブルには、千野さんといっしょに飲
 んだ人たちがいたのかもしれない。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
   失恋してしまったので、もうお天道様の下で生きていくのは嫌になってしま
 ったよ。よし、モグラになろう。私にはうらぶれた日陰暮らしがぴったりさ。
 けどどんなモグラになればいいのかわからないな?そんなときはこれ。
 
 『モグラハンドブック』、飯島正広・土屋公幸、文一総合出版、2015
 
   これで好きなモグラを選べばいいんだ。ミズラモグラやセンカクモグラは絶滅
 の危機にあるらしい。ちょっと生き延びるのが大変そうだからやめておこうかな。
 それにしてもセンカクモグラは尖閣諸島に固有のモグラなのか、日本固有種と
 書いてあるけど中国から抗議は来ないのかな。
 
   まあそれはそれとして、やっぱり関東人だしアズマモグラあたりがいいかな。
 だけど西からコウベモグラが進出してきてるのがちょっと心配だな。単独生活で
 坑道を守るために絶えず激しい喧嘩もするらしい。地中ならほとんど天敵もいな
 いように見えるけど、なかなか楽はできないものだ。
 
   地中をうごめくモグラの写真を見ると、なんだか目を見開いてるぞ。モグラは
 ほとんど視力がないように思っていたけど、どうもそうでもないらしいな。そもそ
 も生モグラを見たことがないような気がするので、今度見に行こうかな。
 
   そうだ、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。もっと上を向いていかないと。雨の
 後には虹も出る。と思ったら見たことない虹が出てきたな。下のほうまである丸
 い虹だ。
 
  『空の虹色ハンドブック』、池田圭一・服部貴昭、文一総合出版、2013
 
   これを紐解けば珍しい虹でもどんな現象かバッチリ解説してくれる。丸い虹…
 眼下に水滴がある場合には虹が丸く見える。そんなにレアな現象ではなかった
 …残念。
 
   だけどレア度の高い現象が起こっていても、こっちが気づかなきゃお話になら
 ないわけで、この本での予習は欠かせない。
 
   この本の中であと見たことあるのは、「紫色の夕焼け」かな。昔山口市で見た
 けど、あれはなかなか視界一面が赤紫に染まって幻想的な風景だったなあ。で
 きればまた体験したいもんだ。
 
   とこんな具合に、今まで風景の一部でしかなかったものに、実は名前があっ
 たことを知ると、世界の見方が昨日とは少し変わります。そういう体験を味わう
 には文一総合出版のハンドブックシリーズは実にお薦めです。
 
 『ハエトリグモハンドブック』、須黒達巳、文一総合出版、2017
 
   こちらは最近出たハエトリグモのガイドブック。なんと著者は日本産のハエト
 リグモ全種の採集・撮影を目指しフリーターになったという。カラフルでモフモフ
 なハエトリグモの姿を楽しむことができます。
 
   部屋の隅でピョンピョンしているあいつも、これを読めば単なるクモからアダン
 ソンハエトリ(例)として認識されることになるでしょう。
 
   ハエトリグモの生態についても知ることができます。なになにハエトリグモの
 オスはこんな風に求愛して、カップルになるのか。求愛…。…そういえば振られ
 ちゃったんだっけ。ハエトリグモでさえ出来ることが私にはできなかったと言うこ
 とか…。…。…。(冒頭に戻る)
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 「trip to zine ~zineへの旅〜」展
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 ◆期間:2018年6月14日 (木) 〜 7月16 日(月)  9:00〜21:30
 
 ◇場所:多賀城市立図書館 3階 ギャラリー
 
 □主催:多賀城市立図書館/Book!Book!Sendai
 
 □問い合わせ先:多賀城市立図書館 022-368-6226
 
 ホームページ
 http://bookbooksendai.com/
 
 
 “近年、zineへの関心は高まっていて、ニューヨーク、フランス、台湾、
 韓国、東京など世界各地でzineのイベントが開かれています。
 なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。
 本展は『日本のZINEについて知ってることすべて』に掲載されている
 zineを中心に、1960年代から2010年代までに発行されたzineを
 年代順にセレクトして展示。
 会場内にzineライブラリーを開設し、東北のzine、世界のストリート
 ペーパーも合わせて紹介いたします。
                                 ======火星の庭HPより抜粋======

 ■ 僕の人形 原田栄夫作品展 at 長野県茅野市 アノニムギャラリー
 └─────────────────────────────────
 ◆期間:2018年7月5日(金)〜31日(火)  
                                     11:00−18:00 水・木曜は休み
 
 ◇場所:アノニム・ギャラリー&カフェ
       〒391-0211 長野県茅野市湖東4278
              Tel/Fax  0266-75-1658
              E-Mail  contact@anonym-gallery.com
 
            電車の場合
            JR中央本線 茅野駅よりタクシーか路線バス 
            路線バスの場合は
            「茅野駅〜横谷峡入口〜渋川口〜麦草峠線」で
            「北部中学校入口」下車 
 
 90歳を過ぎてから
 日々の趣味としてつくるようになったという
 原田栄夫氏の人形。
 
 テッシュでつくられた「ちり紙人形」。
 紙粘土を使った動物、張り子たち。
 
 唯一無二の人形たち。
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 
 何だか嫌なことが続く年のような気がするのは私だけでしょうか。2018年、
 後に忘れられない年、として思い出すような気がします。毎度、遅くなって
 しまい本当に申し訳ありません。来月もよろしくお願いします。                 
                              畠中理恵子

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[本]のメルマガ vol.683

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■■ [本]のメルマガ                 2018.06.05.発行
■■                              vol.683
■■  mailmagazine of books        [お悔やみ申し上げます 号]
■■------------------------------------------------------------------
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『新時代「戦争論」』

マーティン・ファン・クレフェルト著 石津朋之日本語版監修
江戸伸禎訳 四六判 348ページ 本体2,600円+税 ISBN:9784562055753

軍事戦略思想の世界的大家が、戦争の原因や経済の役割など、現代の戦争を取
り巻く状況の変化を読み込みつつ、クラウゼヴィッツと孫子を批判的に参照す
ることであらたに包括的な「戦争論」を提示。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その24「探偵たちの食生活』<その一 キンジー>

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『展望と開運』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その24「探偵たちの食生活』<その一 キンジー>

 異国の食べ物や食生活について知ることができるのは、推理小説が一番だと
思う。推理小説の主人公である探偵さんは一人で行動するせいか、私たち読者
に食べ物について語ってくれることが多い。顧客や被害者の日常生活に張りつ
いたり調べたりして、他人の食生活にも立ち入ることも多い。まあ、毒も入っ
ていたりするからね。

 探偵さんは忙しい。張り込みの間はろくにものも食べられない。だから彼ら
はやたらにジャンクフードを口にする。

 いつから食べ物に気を遣わないのがハードボイルドでマッチョな探偵の常識
になったのか分からないのだが、まずは私の愛する女性探偵たちの食生活から、
現代アメリカの推理小説における食生活を見てみたいと思う。
 
 推理小説の謎の解き手は、ミス・マープル(アガサ・クリスティ著)から始
まって主婦探偵ジェイン(ジル・チャーチル著)のように巻き込まれ型が多い
のだが、ここはまず、一世を風靡したハードボイルド型の女性探偵、キンジー
・ミルホーン(スー・グラフトン著)とV・Iウォーショースキー(サラ・バ
レツキー著)を見て行きたい。 

 カリフォルニアの架空の街サンタ・テレサに住む探偵キンジー・ミルホーン
が誕生したのは一九八二年。邦訳は一九八七年。『アリバイのA』から始まっ
て、去年スー・グラフトンが亡くなったので、二十六番目の『 "Z" Is for 
Zero』までが予定されていたらしいが、結局去年出版された『"Y" Is for 
Yesterday』が最後の作品となったようだ。ただし邦訳は『ロマンスのR』で
終わってしまっているので、私が読んだのは二〇〇四年までの十八冊という事
になる。
 
 花の八十年代。日本では贅沢なフランス料理店やイタリア料理店が山ほど開
いたころなのだが、同時にヘルシーな食生活という事が言われ始めた時代でも
ある。この言葉が使われ出したのは、アメリカでは一九七六年ころらしいので、
一九八〇年には一般常識となっていただろう。

 そんなアメリカ人の食生活の中で(もちろんここで話題にするのは本の中の
食生活だけなのだが)頻繁に目にするのは、ハンバーガー・ショップの登場率
の多さである。その中でも、何といってもハンバーガー・ショップが多く出て
くるのは、カリフォルニアにある架空の都市サンタ・テレサでのキンジー・ミ
ルホーンの物語だ。

 彼女の好きなのは、チーズ入りクォーター・パウンダーにフライドポテトと
コーラの組み合わせ。これは、お肉の量が約一一〇グラムという、お腹にずし
んと来る感じのハンバーガーのことで、日本でも昔は売られていたらしい。 

 一人暮らしのキンジーは、自宅では殆どサンドイッチしか口にしていない。
潰したゆで卵のマヨネーズあえということもあるが、たいていはお得意のピー
ナッツバターとピクルスの組み合わせのサンドイッチを食べて食事場面はおし
まいになる。

 その他には、行きつけのハンガリー料理の店に行くか、隣人で大家の元パン
職人の老人ヘンリーにご馳走してもらうかが、日常の食生活のすべてだ。あと
は、物語の中で出かけた町のレストラン、依頼人や聞き込みに行った先で出さ
れた食事を食べ、デートでレストランに行く。時たま、アメリカ人らしく、カ
リフォルニア風のダイエットフードを口にするのだが、まるでその事を打ち消
すかのようにジャンクな食事を口にする。それも、とてもおいしそうに。 
 
 数ある物語の中から『死体のC』を例にとってみてみよう。

 キンジーは交通事故で肢体不自由になった富豪の息子ボビーから、その事故
について調べるよう依頼を受ける。自分は殺されかけたのだが、事故による損
傷で記憶が抜け落ちていて思いだせないから調べて欲しいのだと。

 二人が出会ったのは、キンジーが骨折した腕の機能改善のために通っていた
フィットネス・センター。そこにあるヘルシー・フード・カフェで二人は食べ
ながら話し合う。ここは肉の代わりに大豆でできた偽の肉を食べさせる菜食主
義の店らしく、なぜこういう店をヘルシーというのか私にもキンジーにもわか
らないのだが、すでにこういう店はカリフォルニアでは常識だったらしい。い
かにも八十年代の終わりの話だ。彼女が注文したのは、

「いためた野菜と玄米、いびつな水差しのような瓶に入った白ワイン」

 これは、玄米のチャーハンみたいなものかと思える。筋肉トレーニングの後
にはズシンときておいしそうだ。 

 別の日にこんなものも食べている。

「百パーセント完璧な栄養素をそろえた長生きサラダ」
それは、
「海草と種が山盛りになった皿の上にぴりっと辛いピンクのソースがかかって
いる…ハンバーガーの味にははるかにおよばないが、体にいいものを食べてい
るという満足感は得られた。」

なんていうものらしいが、どうみても、お刺身のつまにアルファルファ―とか
モヤシをのっけて、ナッツをかけたようなサラダで、少し探偵さんには軽くな
いだろうか。 

 案の定、この後すぐに訪れた家で、彼女は、サンドイッチを作ろうとしてい
る男に出会い、彼女の視線に気がついた男に腹が減っているのかと聞かれて、

「ペコペコだわ。」 

と答えてしまい、自分でもびっくりしている。 

 ここで、男の作ってくれたサンドイッチというのが、とても体に悪そうで、
そして、とても美味しそうなのだ。 

「浴室で使うスポンジのようにぐんにゃりと二つ折りできそうな柔らかい食パ
ンに、ミラクルホイップをべったり塗りつけている。…パンのうえにうすくス
ライスしたオニオンをのせ、つぎにチーズのまわりの包装セロファンをとり、
レタス、ディルピクルス、マスタード、肉と次々重ね合わせていった。」 

 材料は、ごく普通のプロセスチーズに、甘ったるいマヨネーズのようなウル
トラ・ホイップというソース、オリーヴと何の動物の肉だか分からない塊を混
ぜたランチミート。

 キンジーは、どうやらこのサンドイッチには防腐剤がたっぷり入っていそう
だと思いながらも、このほうが私の健康には良さそうだと言って、三角形に切
ってくれたこのサンドイッチに無我夢中でむしゃぶりつき、ビールを飲む。 

 ヘルシーへの要求は、防腐剤入りのウルトラ・ホイップとランチョンミート
で、見事消え去ったようだ。

 この物語の中でキンジーが作ったのは、

「ダークブレッドにクリームチーズ、うすくスライスしたキュウリとオニオン
を挟んだサンドイッチ」

 皿も使わず、ペーパーナプキンに挟んでワインと一緒に食べている。

 ちょっとわけありの警官のジョブと再会する時も、裁判所の庭でサンドイッ
チの昼食を取ることを提案している。彼が持ってきたのは、

「サンドイッチにペプシと、フェイマス・エイモス・クッキーかな」

 そう言えば、このチョコチップクッキーは八十年代後半にアメリカで大ブー
ムになり、たしか銀座でも売りに出されていたような気がする。気取らないけ
れどちょっと気になるデザートを添えたんだ、やるなジョブ、という感じだ。

 この物語は、大金持ちが何人も話の中に出てくるので、その家でのパーティ
の様子や、言いつけると、あっという間に使用人によって用意される豪奢な食
事をする場面等があるが、どうも印象に残るのはサンドイッチの場面ばかりな
のだ。 

 ところで、このシリーズについては評伝があって、その『グラフトンのG』
(N・H・コーフマン、C・M・ケイ著)でも、「キンジーの日常生活」という章
で食事について書かれている。

 そこで指摘されるのは、女性探偵小説の愛読者が惹きつけられるのは「主人
公が彼女たちにはできないと思うことをしているからだ」

という事。その一つとして、キンジーは実によく食べると言って、色々な食事
場面を引用している。つまり、ことあるごとにワインを飲み、食事をご馳走さ
れれば心ゆくまで楽しみ残さず食べるキンジーの様子に、常にダイエットを気
にしている女性たちは惹きつけられるというのだ。そして、キンジーは必ずジ
ョギングに出かけ、決して太らないというところが魅力なのだとしている。

 これは裏を返せば、読者は常にカロリー計算をしてジャンクなものを食べる
わけにはいかないという事になるのだろうか?このダイエットという脅迫概念
は、アメリカ人を常に脅かしている気がする。けれどもこの説は、なんだか釈
然としない。本当のところは、ジャンクなものを常に食べ、運動嫌いで太って
いる自分たちとは違うから、惹きつけられるのだという事なのだろうか?

 私はそういう単純なものではなく、時代が見出した「ヘルシー」な日本食ブ
ームとかから始まる、「ヘルシー」や「菜食主義」の偽物臭さを、若くて元気
で体を張って生きている女性探偵たちが、ジャンクな食べ物を食べながら生き
抜いて見せて否定するところに、読者をひきつける魅力があるように思う。

 彼女たちは独身で、その多忙さから「料理をする」とい義務からも自分を解
放している。その事への羨望も感じられる気がするのだ。

 キンジーは、『探偵のM』で、ボディガードに雇って同居する羽目になった
探偵のディーツに

「私は料理をしないわ」

と宣言している。

もちろん、ディーツも

「私もだ」

と、答えている。

 おいおい、どうやって食べていくんだ、探偵さんたち?

 二人の食生活を見ていくと、朝はシリアルに牛乳をかけて食べている。確か
にこれは料理ではない。コーヒーはディーツが毎朝沸かしている。

 一度だけ、いり卵を作っているのだが、作者はこの場面でキンジーに、卵を
フライにするのは苦手、つまり目玉焼きも作れないと言わせている。まさか、
卵を割ってフライパンにのせるだけの料理を苦手というとはと呆れるかもしれ
ないが、実は目玉焼きほど個々人の好みが出るものもない気がする。白い膜が
黄身に張らないように必ず取るとか、黄身が固まるように両面を焼くとか、半
熟はいやだとか、いや半熟じゃなきゃいやだとか、その上、調味料には塩とコ
ショウだ、いやソースだ、いや醤油だ、とか……。私が聞いた、わがままな家
人の好みに合わせるやり方はこんな風に様々だ。食べる相手の好みに沿わなく
ては歓迎されない料理の最たるものかもしれない。苦手だ、やらない。つまり、
誰かのための料理をしないということが暗に感じられるやり取りだ。

 場面には出てこないが、買出しに出たディーツが買ってきたものの中にベー
コンもあるのでこれも焼いたのだろうけれど、野菜についてはなにも書かれて
いない。

 料理をしない生活は自由だけれど、ヘルシー以前に栄養が偏る気もする。

 ところで、 最初にあげたキンジーが作る

「ピーナッツバターとピクルスの組み合わせのサンドイッチ」

は、周囲の人たちにもあきれられるような食べ物なのだが、シリーズの中で何
度も現れ、キンジーを象徴するような食べ物となって行き、物語が進むにつれ、
実はキンジー自身も知らない過去に関わって行く。

 もちろん私も最初から気になっていて、作ってみたことがある。自家製のあ
っさり目のピクルスだったせいか、普通においしくて拍子抜けがした。ちょっ
と甘いキュウリのサンドイッチという感じ。これでは『悪意のM』 で、キン
ジーがこのサンドイッチを作ると言ったときにディーツに

「“庭のナメクジを料理する“とでも言ったかのようににらみつけられた」

というほどの気持ち悪さは感じられなかった。

 今度アメリカ産の毒々しい感じのピクルスとピーナッツバターを手に入れた
ら試してみようとは思っている。そのときは又、その味について語る予定なの
でお楽しみに。

以上、報告します。

と、キンジー風にまとめたところで、次回は、シカゴの探偵ヴィクの食生活を
見て行こうと思う。

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「死体のC」スー・グラフトン著    ハヤカワ・ミステリ文庫
「探偵のG」スー・グラフトン著    ハヤカワ・ミステリ文庫
「グラフトンのG―キンジー・ミルホーンの世界」
 N.H.コーフマン・C.M.ケイ著   ハヤカワ・ミステリ文庫    

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『展望と開運』

 村山幸徳先生がお亡くなりになられた。

 http://www.mindzoom.co.jp/news/view/284

 といっても、普通の方には「?」という感じだと思う。ので、プロフィール
を引用してみる。

村山幸徳

(株)シンクタンクマインドズーム代表取締役、教育学博士。

1948年新潟県柏崎の日蓮宗僧侶の家に生まれ、国際平和活動・宗教活動に関わ
り、衆議院議員政策秘書などを務めたのち、1998年「都市開発」と「企業経営」
のコンサルティングを行うシンクタンク・マインドズームを設立。

日本各地で「正法眼蔵」などの仏教哲学を基礎とした経営指導やビジネスマン
向けのセミナーを実施して高い評価を得ている。海外にも熱心な支持者が多い。
「気学」や「易」の研究者としても著名であり「社会運勢学」の第一人者。

著書に『幸せをつかむ「気」の活かし方』(たま出版)、毎年の『展望と開運』
(角川学芸出版)、『宇宙を見方につけて成功する方法』(大和出版)『正法
眼蔵の経営力』(PHP研究所)など。

http://www.mindzoom.co.jp/profile.html

 これを見ても「?」という方が多いだろう。

 私が知ったのは書店で『展望と開運』の2005年版を手に取ったときだと思う
が、どこでどんな風に出会ったのか、さっぱり思い出せない。ちなみに2005年
の頃は「TPIジャパン副社長」という肩書であったようだ。

 この本、まあ、言ってみれば占いの本ではあるのだが、いわゆる確率論の占
い解説本かといえば、そうではない。晩年、「社会運勢学」という言葉を用い
られて、後継者も講座形式で教育されていたようだから、単なる感覚に頼った
ものではないのだろうが、それにしても、様々な歴史的なエピソードや筆者の
体験談なども豊富に盛り込まれていて、読み物としても面白い。

 その後、コーチングなどという仕事をしていて、「TPIジャパン」という
のが、かつて日本に海外のコーチングプログラムを輸入してきた会社であった
ことを知った。

 さて、実際に村山先生にお目にかかったことが1度だけある。誘われて仏教
についての勉強会に参加し、大いに面白く受講させていただいたのだが、やめ
とけばいいのに紹介者に連れられてご挨拶した。先生は、なんじゃこの小さい
のは、というくらいの見方をされているようで、実際、こちらは緊張して小さ
くなっていた。

 なんていうか、高校生がお世話になっているグラビアアイドルかセクシータ
レントに会ったような、そんな緊張感であった。

 は、いいとして。

 亡くなられて思うのは、晩年、占いではなく「社会運勢学」とし、理論立て
て後継者を育てられたことには、どのような意味があるのか、ということであ
る。

 いわゆる九星気学は中国の易の影響を受けながら、江戸時代の日本で独自発
達した占術の体系であるという。天と地と人のそれぞれの60パターンの組み合
わせから、世の中の動きや人の好ましい動きを知ろうとするものである。

 問題なのは、村山先生の本は実際に起こる現象を予測し、それを的中させる
ところにある。といっても、リーディングのように非科学的なものではなく、
この流れで今年はこういう年になるから、こういう事件・災害が起こりやすい、
という、まさにフローを見ているようであった。

 実際、大変な事件が起こったり、今年であれば、様々な伝統的な組織で不祥
事が連続して起こったりしている。こういう「当たり年」を予測する、という
もので、別に何月何日何が起こる、という予言ではない。

 ユングの集団無意識にもつながる考え方でもあるようにも思うが、そもそも
ユングはタオ(易)の思想の影響を受けているので、当たり前と言えば当たり
前だ。

 最近、コーチングの効果に関する検証をしていて、言わゆる易のような占い
系との共通点について考えていた。

 某TV番組で強烈な呪うようなことを言っていたおばちゃんの影響もあって、
占いと言うと人の人生を勝手に決めつけるもののような印象があるが、実際の
ところには、これはそもそも、カメの甲羅を火にくべたときの割れ方から何か
予兆を読み解くというもので、つまりは合理的な意思決定の中に、偶然性の要
素を入れようというものである。

 コーチングでもイノベーションに関する研究でもわかる通り、合理的で論理
的な思考パターンというのは決して逸脱しないので、同じ結論にしかたどり着
かないことが多い。社会構成主義的な考え方に立てば、それはある種、偏った
物の見方しかしていないことになり、多様性を持つことのできない考え方であ
る。

 では、ここに何か意味ありげな偶然性・偶発性のものが挿入されるとどうな
るか。人間の思考はそこに関係性を求めようとするので、今まで見えていなか
ったものが見えたり、気づかなかった視点が生まれたりする。いわゆる「気づ
き」である。

 おそらく有効な占いというものは、この偶然性をさらに効果が高くなるよう
にするために体系づけたものではないかと思うのであるが、まだまだ仮説であ
って、これは検証の域にはない。

 さて、村山先生が残された「社会運勢学」が単にビジネスとしてではなく、
学として有効であるのかどうかは、後継者の皆様の今後のアウトプットに期待
するとして、私は草葉の陰の1ファンとして、このコーチングの有効性にもつ
ながる占いや東洋思想的、宗教的な考え方の検証について、バトンを受け取っ
たような気が、勝手にしている現在である。

 死者のバトンを生者が受け取る。しかもたくさんの生者に。私も物を書く人
間のはしくれとして、そういう生き方、死に方をしたい。

 心より、お悔やみ申し上げます。ありがとうございました。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 梅雨入りしましたね。とはいえ、雨が降ったのは1日だけですが。

 台風も来ているそうで、今年は梅雨明けも早いかもしれませんね。

 うちの紫陽花は成長が遅いので、開花が間に合うか心配です。(aguni原口)

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[書評]のメルマガ vol.654

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■■ [書評]のメルマガ                 2018.5.20.発行
■■                              vol.654
■■ mailmagazine of book reviews  [あの長さじゃないとダメなの? 号]
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■コンテンツ
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★「トピックス」
→ トピックス募集中です

★「音楽本専門書評 BOOK’N’ROLL」/おかじまたか佳
→ 『クラシック音楽は「ミステリー」である』

★「目につく本を読んでみる」/朝日山
→ 『中国抗日ドラマ読本』岩田宇伯 パブリブ

★「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
→ 孤独について数冊読んで考えました

★【募集中】献本読者書評のコーナー
→ 献本お待ちしています!

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■トピックス
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■今回の献本読者書評のコーナー
└──────────────────────────────────

 この本の書評を書きたい!という皆様、詳細は巻末で!

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■音楽本専門書評「BOOK'N'ROLL」/おかじまたか佳
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#95『クラシック音楽は「ミステリー」である』

 佐村河内守の『交響曲第1番HIROSHIMA』が、現代には珍しい「調」のある
クラシック音楽だったこと。
 そして、「そんな作品が書けて、実際に演奏されるかもしれない」という期
待に動かされて、新垣隆がゴーストライターを引き受けてしまったこと。

 前回はそんな話を紹介したが、だとすれば、少なくとも新垣隆は「調」のあ
る交響曲を書きたかった、ということになる。
 つまり、現代音楽が「無調」全盛になったのは、聴衆が求めなくなったから
であって、作曲家側は「古臭くても、やっぱり調のある音楽がいいよね」と思
っている、ということになる。
 少なくとも、一人は。

 いや、実際には、さらにもう一人、そういう作曲家がいる。それが今回取り
上げる『クラシック音楽は「ミステリー」である』の著者、吉松隆だ。

 吉松は音楽大学で作曲を学んだ経験がなく、慶應大学工学部中退。音楽アカ
デミズムとは無縁の場所から現れたせいか、「調」を捨てたいわゆる現代音楽
が、どんどん「非音楽的」になっていく傾向に異を唱え、メロディの復権を掲
げて、「現代音楽撲滅運動」や「世紀末叙情主義」を標榜した。

 デビュー作は『朱鷺によせる哀歌』。近年では大河ドラマ『平清盛』でお茶
の間進出。まー、お茶の間というのも死語ですが笑。
 ともあれ、吉松隆は20回以上作曲コンテストに応募しては落ちることを繰り
返し、自力でここまで到達したという。佐村河内に頼らず、新垣隆も自力で頑
張って「調」のあるシンフォニーを書けばよかったのに……と、これは他人事
ゆえの無責任な感想です。
 で、いま気づきましたが、二人とも「隆」なんだなー。

 さて、そんな吉松隆だが、文筆家としても旺盛な活動をしており、ウィキで
は12冊の著作が上がっている。
 その中の一冊を、今回は取り上げたい。

 本書はもともとブログ「月刊 クラシック音楽探偵事務所」の一部を書籍化
したもの。
 自身の「はじめに」に於ける定義では、「この本は、音楽の中にひそんでい
るそんな「暗号」や「謎」を深読みする(ちょっと怪しい)ミステリーであり、
音楽の世界の「裏側」に踏み込む冒険譚」ということになる。

 全体は5章からなっている。

 第1章は、「バッハと五線譜の中の「暗号」」

 正直言って、この部分を読んだ時はがっかりした。
 既に知っている話だったこともあるが、大して推理するほどのこともない、
ごく単純な「暗号」だからである。

 音の名前として知られるドレミは、もともとラテン語で、それがイタリア語
に転訛した。
 日本の音楽教育のダメなところは、音の名前としてはドレミを採用しながら、
調を示す時には「ハ長調」とか「イ短調」と日本語を使うところだ。
 ドとハが、実は同じ意味――つまり、同じ音の高さを表すことに、ぼくは随
分長い間気づかなった。
 しかも中学生になってギターを弾き始めると、CだのAmだのといった英語が
登場する。
 実はこれ、和音の名前ではあるが、アルファベット自体は音の高さを表して
いる。
 つまり、ド(伊)=ハ(日)=C(英)という関係なのだ。
 Mare(伊)=海(日)=sea(英)と同じことである。
 これを先に言っといてくれればよかったのに。
 ひょっとすると、授業では言っていたのに、ぼくが聞いてなかっただけなの
かもしれないけど。
 ちなみに、イタリア語はドから始まるが、日本語と英語はラに当たるイ、A
から始まる。これも混乱のもとだ。

 それはさておき、この章で取り上げられる楽聖バッハが住むドイツ語圏でも、
英語と同じように、音の名前はアルファベットで表すのだ。ただ、英語ではシ
=Bなのだが、ドイツ語ではシ=H(ハーと読む)、B=シ♭なのが、またやや
こしい。

 とはいえ、要は音の名前がアルファベットで書ける、ということだけご理解
いただければ、この場はいい。
 すると当然、楽譜にある音符を、アルファベットに置き換えて、意味のある
単語にすることが可能であることはおわかりいただけるだろう。
 これを本書では「暗号」と読んでいるのである。
 だから、これを解くのはまったく簡単だ。ドはC、レはD、ミはEと置き換え
てやればいいだけなのだから。

 しかし、使えるアルファベットがAからHまでと少ないので、長い文章は無理。
結局「暗号」と言ったところで、バッハも自分の名前「BACH」=「シ♭・ラ・
ド・シ」というメロディを曲の最後に入れる程度のことしかしていない。
 著者はこれを、画家が絵に記すサインに当たるものとしているが、だからと
いって何かが伝わるわけでもない。
 ただ、未完に終わった遺作「3つの主題によるフーガ」の、一番最後にこの
BACH=シ♭・ラ・ド・シのメロディが出てくるのが、ちょっと面白い。バッハ
ほどの大作曲家が、生涯の最後になって、やっと自分のサインを入れてもいい
と思うほどの曲が出来た、という意味なのだろうか。

 いや、未完に終わっているからには、まだその先があるべきだが、自分には
ここまでが限界だ、後は後世に託す、という意味にも取れる。
 確かにちょっと深読みしてみたくはなるにせよ、ただ、さほどの感銘は受け
なかった。

 ところが、第2章「ショスタコーヴィチ、二重人格の「ファウスト」」にな
ると、俄然面白くなってくる。

 ショスタコーヴィチは、ソ連という国と歩みを同じくした作曲家だ。若くし
て天才と呼ばれたが、時はスターリンによる恐怖政治の時代。すべての芸術は
社会主義リアリズムに奉仕しなければならないとされ、この方針に背いてスタ
ーリンの不興を買えば、死刑もシベリア流刑も、普通に有り得た時代なのだ。

 そんな中で作曲家生活を送ったショスタコーヴィチの鬱屈が、彼を二重人格
に追い込んだ、というのが著者の推理。

 しかも、第10交響曲がリストの「ファウスト」を下敷きにしているところか
ら、自らをファウストに、スターリンを悪魔メフィストになぞらえているので
はないか、と考え、ならばファウストを救う恋人グレートヒェンは誰なのか、
あれこれと推理を繰り広げる。

 さらに面白いのは、第3章「モーツァルト、「ドン・ジョバンニ」殺人事件」
である。

 この有名なオペラは、色事師ドン・ジョバンニが、騎士長の娘にちょっかい
を出し、その結果騎士長と決闘になって殺してしまうところから始まり、さら
に懲りずに今度は村の娘にちょっかいを出してその恋人を敵に回し、正妻には
ストーカーされ、最後は騎士長の亡霊によって地獄へ連れて行かれてしまう、
という話。

 このファンタジーを著者はリアリズムで解釈し、登場人物の誰かがトリック
によって「騎士長の亡霊に地獄へ連れて行かれた」かのように見せかけた、と
考えるのである。
 実際、ドン・ジョバンニの最期を目撃したのは、その忠実な従者ただ一人で
あり、この解釈はあながち無理ではない。たった一人を騙せればいいのだから。

 となると、騎士長の亡霊などというものは存在せず、ドン・ジョバンニは生
きている人間の手によって、殺されたか、拉致されたということになる。
 はたして、その犯人は誰か。

 この章を読んでみるとわかるが、著者は相当なミステリー・マニアでもある
ようだ。
 途中には、銀田一耕助、明智小二郎、御手洗きよし、荒川コナンと、名前を
見ているだけで嬉しくなってしまう名探偵のパロディたちが、喧々囂々の推理
合戦を繰り広げるシーンがあり、それぞれの仮説がアンソニー・バウチャーの
『毒入りチョコレート殺人事件』のように、よく練られているのだ。

 しかも、それらの諸説を凌駕する、驚愕の真相が用意されているところも、
バウチャーの名作を彷彿とさせる。

 さらに、第4章「作曲家たちの「犯罪捜査」風プロファイリング」では、様
々な作曲家のバイオグラフィーから性格を分析。実は作曲家のプロファイルっ
て、連続殺人鬼のそれに似ている、という空恐ろしい事実を指摘する。

 最後の第5章「プッチーニ「トゥーランドット」の謎」では、イタリアの作
曲家が、行ったこともない中国の、それも古代王朝を舞台に描いたオペラの、
あれ、これおかしくない?な点をいくつもあぶり出し、その背景を探っている
のである。

 ところで、ぼくにも、昔からクラシックに関する解けない謎がある。

 中学の時、友達がビゼーの『カルメン』を評して、「これが3分にまとめら
れたら天才なんだがなー」と言っていた。
 まあそれは極論だとしても、クラシック音楽はなんであんなに長いんだろう、
と言うのが長年の疑問なのである。
 室内楽なんかで短いものもあるけど、一般に
「長っ!」
 というのがクラシックに対する印象だ。あんなに長いと、飽きちゃうよね、
実際。

 もっとも、ベートーベンの交響曲は、暗い冒頭(例えば『運命』のハ短調)
が、紆余曲折を経て明るい終結部(ハ長調)に到達するから感動するのであっ
て、それを3分に凝縮したら、大河小説のダイジェストみたいなもので、内容
はわかるけど感動はしない、と言われると、まあそうかな、とは思うのだが。

 でも、やっぱり長いよなー。
 どうしても、あの長さじゃないとダメなの?


吉松隆
『クラシック音楽は「ミステリー」である』
2009年12月20日 第一刷発行
講談社+α新書

おかじまたか佳
素人書評家&アマチュア・ミュージシャン
再就職活動に備えて、会社に入ってからこれまでのキャリアを振り返る作業を
のんびりやっています。思い出に浸りつつ、結局これまでにどんなスキルを積
み上げてきたのか確かめてみるのも、初めての経験にして一興です。

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■「目につく本を読んでみる」/朝日山
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『中国抗日ドラマ読本』岩田宇伯 パブリブ

 4月10日の発売以来、日本よりも中国で話題になり、彼の地で大論争を引き
起こしている本である。

 ほとんどオールカラーでコストがかかってる。モノクロはアニメの紹介のあ
たりだけだが、なぜここだけモノクロなのかは謎である。「時代背景完全無視
!反日プロパガンダどころか、もはやギャグ」という帯の文句から、内容は想
像できよう。

 内容はタイトル通り、中国で製作されている抗日ドラマの解説本で、21作品
が紹介され、あらすじと人物相関図をつけた後に、ドラマシーンの写真付きで
解説という名の突っ込みが入っている。抗日ドラマだから共産党員が主人公の
作品ばかりなのかと最初は思っていたが、そうでもない。

 大げさな脚色で日本兵士をばたばた倒していく中国版水戸黄門みたいな共産
党英雄の話かと思っていたら、それも違う。

 いや、大げさにあり得ないことをやっていて、あるいは何も考えずにイケイ
ケと撮影しているように見えて、それが笑いを誘うのは間違いないのだが、単
なる宣伝映画以上に大まじめにエンタテイメントを作っているように思えた。
たとえば、読む前は日本人が一方的に、一面的な悪者に描かれていると思って
いたが必ずしもそうではない。意外とバラエティがある。

 日本軍に美人の女性将校や学ラン姿の忍者部隊がいたり、カンフー使いの抗
日英雄や「北斗の拳」のケンシロウみたいな、触れただけで相手を殺すキャラ
がいたりする。作中の80年間、顔が変わらない人もいたりする。そう書けば確
かに笑える。「吉岡ダンス」とか、実際見たら笑いが止まらなくて苦労するの
ではないか?

 作品内に登場するモノも面白い。1930〜40年代を描いている映画の主人公の
乗っているバギーにデジタルメーターがあったり、戦前が舞台なのに懐中時計
がクオーツだったりする。ここまで来ると、もはやネタとしてウケを狙って作
っているんじゃないかと疑うレベルだ。

 で、「ほう、中国人というのはそんな拙劣なドラマを見て満足していたのか
w」と、中国人を馬鹿にするネタが出来たと思った人は、認識不足だ。だって
考えてみて欲しい。日本人を馬鹿にするつもりなら、日本軍の女性将校の配役
に美女を持ってくるはずがない。ばかげたドラマかも知れないが、意外と真面
目に作っているように思えた。

 本の中にも書いてあるが、中国の映画作りのテクニカルの水準は決して低く
ない。中国の映画技術はもともと戦前にあった満映(満州映画協会)が源流と
なっていて、これまで多くの秀作を作ってきた歴史がある。香港映画のノウハ
ウも当然入ってきているだろう。

 最近日本で話題になった中国映画としては「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」
があるが、これを拙劣な映画と言う人はいないはず。言い換えれば、レベルが
低いから、こういうドラマを作っているわけでは、決してない。

 実際、抗日映画の製作現場では外国人スタッフを使っていることもあるし、
ハリウッド帰りの韓国人スタッフが戦争シーンを作っていたりする。大量のエ
キストラを使える優位性もあるし、日本よりも優れた部分も少なくないそうだ。

 そして無視できないのが中国共産党の意向だ。抗日ドラマは基本中国共産党
の意向に沿って作られるが、そうした中で中国の映画人は真剣に自分の作品を
撮ろうとしていると見るべきだろう。

 たとえば日本でも現代劇でやれば、どことは言わないが猛烈に批判してくる
組織や市民が出てくるのが容易に想像できるテーマがある。そういうテーマを
描くのに現代の代わりに江戸時代の設定にしたり、SFにして300万光年向こ
うの惑星の話にするとかして非難を回避するテクニックは多くの人が知ってい
る。

 同じことが、抗日映画という舞台を設定して、中国でも行われているのでは
ないか?

 そんなことを思うのは、コラム扱いになっている抗日ドラマに出てくる日本
人俳優のインタビューを読んだからだ。彼らが見ている映画づくりの現場は、
「中国共産党の意向に沿った作品しか作れない」といった嘆きが聞こえる無気
力な現場ではないし、日本よりも厳しい基準でドラマを作っていることがうか
がえる。

 日本人俳優が媚びて「日本悪い」と言っておれば人気が出たり、生き残れた
りするほど甘い世界じゃない。演技力があるのが前提だろうが、日本人として
誇りを持っている人でないと、観客もこついはダメな俳優だと見抜く。中国人
の目は節穴ではないのだ。

 そう考えると、次のような仮説が生まれる。私は映画作りなどしたことがな
いのでよくわからないが、日本で実際に映画を作る人が見たら、むしろ日本に
はない制限のかかった製作環境の中で、彼らはこんな風に頑張っているのか・
・・日本の映画作りのプロたちは、そんなことを考えるのではないか?

 この本は、一種のお笑いとして売れるのだろうし、それはそれでいいのだけ
ども、日本の、あるいはハリウッドで働くプロの映画人、ドラマ人たちはどん
な評価をするのだろうか? 普通書評を書く人は、自分の評が一番的確だと思
って書くと思うが、この本に限ってはプロのドラマ制作者とか映画人の書評を
読みたくなる。

 内容も珍しいが、人の書評が読みたくなる本というのも、また珍しい。


(朝日山 烏書房付属小判鮫 マカー歴二十うん年)

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■「おばちゃまの一人読書会〜中高年の本棚〜」/大友舞子
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孤独について数冊読んで考えました

 最近、「孤独」とタイトルがついた本が多くありませんか?
 揃ってまあまあの売れ行き…ということは、これからもまた柳の下を狙って
ぞろぞろと出ることでしょう。

 立ち読み、買って読み、借りて読みした中で、わかったことは孤独本は傾向
が3つぐらいに分かれるということです。

 1つめが、「孤独はいいもんだぜ」のエッセイ本です。

 一番売れている下重暁子『極上の孤独』、五木寛之『孤独のすすめ』がこの
代表。
 犖鋲箸老なものと思われがちだが、ほんとうはすばらしいもの瓩箸い趣
旨で、それ以上でもそれ以下でもありません。
 『孤独のすすめ』(それにしても、まんまなタイトルやなあ。五木先生だと
このタイトルでいいんですね。また、またタイトルはひねらないほうがいいと
いう典型かも。勉強になります)には、「私は歳を重ねるほど、人間は孤独だ
からこそ豊かに生きられると実感する気持ちがつよくなってきました」とあり
ます。
 孤独だからこそ豊かに生きられる……ふふふ。いや失礼しました。

 以下、青春、朱夏、白秋、玄冬の話や、下山の景色、学生期から遊行期の話
と、五木先生の総まとめ的なお話が続いていて、ものすごい安定感です。
 年を重ねると耳新しいことを聞くのはつらいですね。おとぎ話のようなこれ
まで聞いてきたことをもう一度聞くのが安らぐので、しばし孤独を忘れること
ができるでしょう。

 下重さんの著書もこれと同じだと思います。
 しかし、ほんとうに孤独な人、孤独に悩む人の気持はこれでは癒されません。
孤独エッセイには、人から離れてあえて一人になって自分を見つめるカッコイ
イ自分に酔ってる感があり、孤独なオレを見て見てという自己主張が感じられ
ます。

 孤独と孤立は違うと言われます。
 社会の中で孤立している人を救いになるという観点が見当たらないのがこれ
らの本の特徴と言えます。

◎ひとりではなくソロ?

 「孤独」という言葉は「おひとりさま」「ひとりぼっち」(若い世代的に言
うと「ぼっち」)、など時代時代で新しい言葉を派生させてきました。
 「おひとりさま」にはシングル女性の自虐と同時に矜持が感じられ、「ぼっ
ち」には集団から浮く存在へのからかいや恐れが含まれています。

 最近、気になったのが「ソロ」という言葉です。

 これまでとどう違うのか、『ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』
(名越康文著)を読んでみました。
 タイトルは「ひとりぼっち」とありますが、大事なのは一人の時間=ソロタ
イムであると書かれています。

 群れの中で空気を読んだり忖度していると疲れるので、そんなときは1人に
なって自分を見つめなおして疲労を回復しましょうという趣旨です。
 孤独な人がどうしたらいいのかではなく、現役でバリバリやっている人をあ
えて孤独にして癒し、休息させる感じです。
 そのためには呼吸法とか大きな木に抱き着くなどが効果的と、今、流行のマ
インドフルネス的な話が盛り込まれています。
 一方で、「1つの習慣を身につけるには2週間本気を出さないといけない」
とか上昇志向と裏腹なところがおもしろいですね。

 この本を読んで、アメリカのIT関係者とかが禅の思想とか、マインドフル
ネスに注目している理由がなにかがなんとなくわかった気がしました。
 まあ、ホントに疲れているのだとは思うけれど本来の老荘思想を源流とする
東洋的な考え方ではなく、また再び戦うための疲労回復療法として「孤独」と
か「ソロタイム」を位置付けているんじゃないかと思いました。

◎孤独を社会問題ととらえる

 孤独と孤立とは違うとさきほど述べました。

 これだけ人がいるのに、だれからも関心を持たれない孤立は、やはり社会で
解決していかなければいけない問題だと指摘しているのが『超ソロ社会 独身
大国・日本の衝撃』(荒川和久著)です。

 本文250ページに及ぶ力作で、2035年には人口の半数が独身になる日本の現
状を述べ、家族や社会がどのように変化するかを考察しています。
 結婚や血縁による家族ではない、新しい家族を構築することへの期待や、独
身者が支えるマーケットの可能性についてなどが書かれていておもしろいです。

 今回、時間切れで読めなかったのですが、『男の孤独死』(長尾和宏著)と
いう本でも、孤独を扱っていて、これはリアルな医療現場から発言されていま
す。

 「孤独」は文学や哲学の範疇に含まれると思っていましたが、そうなると社
会学や医療問題まで、(介護も含まれるので政治問題にもなる)幅広いジャン
ルを巻き込む壮大なテーマだということだということがわかりました。


大友舞子(おおとも・まいこ)
昭和20年代生まれのフリー編集&ライター。関東生まれで関西在住。

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さい。
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・『追憶 下弦の月』(パレードブックス)
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・『元アイドルのAVギャル瀬名あゆむ、アイドルプロデューサーになる』
 (コアマガジン)
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 参加ご希望の方(つまりは書評をご執筆いただく方)は、

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 料をご負担いただき、書籍を返送いただきます。

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■あとがき
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 さすがに5月もこの時期になると、初夏っぽい季節を感じますね。このまま
梅雨無しに夏がいいなぁ。(あ)

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 や中央アジアを中心とする関係各国への影響から、EU等の経済圏との比較ま
 で、グローバルな視点から解説。「一帯一路」解説本の決定版!
 
【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第53回「著作権法を巡る話題」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第107回 旅する本屋

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → ダムの歩き方!ダム愛好家が増えている?
  
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 ■トピックス
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 三つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
 ----------------------------------------------------------------------  
 第53回「著作権法を巡る話題」
 
 こんにちは。ゴールデンウィークはみなさまいかがお過ごしだったでしょうか。
 わたしは,前半はとある原稿執筆に専念し(しかも書き上がってません),後
 半は後期高齢者のお世話であちらこちらに出かけてきました。某所でいただい
 たジンギスカン鍋は美味でした。
 
 さて4月は,著作権を巡る動きがいくつもありました。その最たるものは著作
 権法の改正(1)で,4月17日には衆議院を通過し,参議院で審議入りするはずが,
 国会空転のあおりを被って,ようやく最近実質的な審議に入ったところです。
 この稿を執筆している時点ではまだ成立しておらず,改正点に関してある程度
 の見通しはあるものの,あまり先走るのもナニですから,今回は今次改正につ
 いては触れるのを控えます。
 
 さて,2018年4月13日に知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が「インターネ
 ット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を決定しました(2)。これはいわゆ
 る「海賊版サイト」対策として,「漫画村」など3つのサイトを指定してブロ
 ッキング(遮断)することを,刑法が定める「緊急避難」措置と解釈し,ブロ
 ッキングの実施をISP等に暗に要請したものです。これを受けて4月23日には
 NTTグループがブロッキングを実施したました(3)。
 
 日本国内ではこれまでいわゆる「児童ポルノ」に限定して,これも「緊急避
 難」としてブロッキングが実施されてきたものでしたが,同時にブロッキング
 の根拠となる「法制度の整備に向けて検討する」と謳っているとは言え,今回
 のブロッキングに至る経緯とその決定の内容を見るにつけ,あまりに拙速であ
 り,なおかつ「著作権」が時の為政者の都合で何事かをなす際の「錦の御旗」
 として機能してしまったことを,我々は憂えなければならないのではないかと
 愚考しますが如何でしょうか(4)。
 
 特に,今回のブロッキングを歓迎している大手出版社の関係者は,自分で自分
 の存立基盤を突き崩していることに思いが至らないのかなあ,と嘆息しきりで
 す(5)。マンガのビジネスモデルが大正年間より続いてきた「円本モデル」か
 ら電子書籍への移行の過渡期にありビジネスモデルとして盤石の地盤を築いて
 いるとは言い難いものの,「緊急避難」を謳う今回のブロッキングがISP利用
 者の「通信の自由」を侵害していることは明らかであり(6),大手出版社が
 ロビイングで獲得したのであろう「緊急避難」が他のケースに濫用され思想信
 条の自由を侵害することはない,と言い切れるのでしょうか。
 
 たまたま2018年4月には九州大学附属図書館の蔵書がいわゆる「自炊」のため
 破壊された状態で発見されるという事件が起きています(7)。これは,「電子
 書籍の未普及が招いた悲劇」でも「研究熱心さが招いた暴走」でも何でもな
 く,社会の秩序を維持するための法制度への挑戦であり,このような行為を図
 書館関係者は厳しく指弾しなければなりません。わたしが図書館関係者の端く
 れとしてこの件に「教育的指導」などと甘いことを言いたくないのは,この蔵
 書毀損事件から漫画村の件までが,著作権と社会秩序もしくは社会倫理にかか
 わる地続きの事件だと踏んでいるからです。著作権を保護しなければならない
 のはもちろんのことですが,だからといって著作権を錦の御旗にして棍棒よろ
 しく振り回し,必要な法整備なきまま「通信の自由」に踏み込もうとする国家
 権力による著作権の保護を求める,出版業界における権力との距離感の欠如と
 いうところまでを,著作権法制度の運用,さらには著作権教育の一連の問題と
 して提起する必要があると思うのです。
 
 これは大学図書館のみならず,広く図書館業界,関係者において著作権法制度
 の理解と的確な運用がこれまで以上に求めらる社会状況にあると思うのですが,
 それにもかかわらず図書館業界内における今回のブロッキングをめぐる議論は
 低調に見え,蔵書毀損事件が「電子書籍の未普及」に話がすり替えられている
 ように見えるのが残念です。
 
 では,また次回。
 
 注記:
 (1) 著作権法の一部を改正する法律案(概要)
     http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles
                               /afieldfile/2018/02/23/1401718_001.pdf
 
 (2)インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策
     https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/honpen.pdf
 
 (3)海賊版サイト、NTTが接続遮断へ 
                                  政府要請受け初実施:朝日新聞デジタル
     https://www.asahi.com/articles/ASL4R4Q81L4RULFA01G.html
 
 (4)社説 サイト遮断 NTTの説明が聞きたい | 信濃毎日新聞[信毎web] 
     http://www.shinmai.co.jp/news/nagano
                                   /20180425/KT180424ETI090007000.php
 
 (5)出版業界はブロッキング問題で岐路に立っている ≪ マガジン航 
     https://magazine-k.jp/2018/05/01/editors-note-32/
 
 (6)政府の海賊版サイト対策「あまりにも早急で杜撰」、「漫画村」
                        「Anitube」「Miomio」遮断へ - 弁護士ドットコム 
     https://www.bengo4.com/internet/n_7717/
 
 (7)ゴミ袋から九大図書館の蔵書78冊 背表紙だけの本も:朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASL4N63PVL4NTIPE038.html
     専門性から発覚…九大院生、大学図書館の本盗んだ疑い
                                                   :朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASL4T3H7VL4TTIPE00P.html

 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。 
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  
   
 第107回 旅する本屋

 
  4月29日(日)に行われた不忍ブックストリートの一箱古本市は、お天気にも
 恵まれて、盛況のうち、無事に終わりました。それにしても通算20回というのは、
 すごいなあ、と思う。すでに歴史っていう感じがする。ぼくは、助っ人という形で
 ほとんど参加しているけれど、
飽きることがない。さすがに歳のせいか、全部の
 スポットをまわると疲労困憊になってしまうけれど。時間が足りなくてゆっくり箱
 の中の本を見ることが出来なくても、全部の箱を見たくなってしまう。

 
 一年に一度、一箱古本市でしか会えない人もいる。職業もどんなバックグラウ
 ンドを持っているかも知らない、でも顔合わせで久しぶりに会うと、気持ちが通
 じ合うような気がする。一箱古本市が、そして本が結んでくれた縁だろう。

 
 本というのは不思議な力を持っているようだ。

 
 そんなことを思いを強くしたのは『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』
 (内田洋子著 方丈社)を読んだからだ。読みながら「ヘーっ」とか「「ホーッ」と
 か
 声をだして何度も驚き、感嘆のため息をついた。著者の内田洋子がヴェネツィア
 の古書店で「何世紀にもわたり、本の行商で生計を立ててきた村がある」ことを
 知ったことからこの猊垰弋弔世本当瓩諒語が始まる。籠いっぱいの本を担
 いでイタリア中を旅した行商人がいて、そのおかげで各地に書店が生まれ、「読
 むということ」が広まったというなんてこと、本当にあったんだ。

 
 著者が訪れたヴェネツィアの古書店がとても良い。路地の奥にひっそりと開いて
 いる古書店。店主と親しくなり、修行先を尋ねると「代々、本の行商人でしたの
 で」と答える。なんでもトスカーナ州のモンテレッジォという山村から、すべてが始
 まったという。


 多分、本好き、古書店好きな人ならば、「はじめに」を読んだだけで、この本の虜
 になるだろう。ぼくも書店で立ち読みをして、すぐにレジに持っていった。古書店
 のちょっと暗い店内が頭に浮かび、古い本の匂いがしてくるようだった。

 
 イタリア生活が長い著者も知らなかった山奥の小さな村モンテレッジォ。ネットで
 検索してもそれほどの情報が現れない村、山奥の辺鄙な場所にあり、これとい
 った観光資源もない小さな村だ。農繁期の夏から収穫期の秋にかけて、イタリア
 各地では祭りが行われる。モンテレッジオの収穫祭は、ワインでもソーセージで
 も、きのこでもなく、本なのだという。本を祀って踊る祭りがあるなんて!
 と著者でなくても興味がわいてくる。そして「行ってみることですね」と古本屋の
 老店主の一言に押されて出かけることになる。知らない世界への旅の予感。胸
 がわくわくしてくる。ノンフィクションなのだが、ファンタジーを読んでいるようだっ
 た。著者といっしょに冒険の旅に出かける気分。こんなにわくわくさせる本に出
 会ったのは久しぶりだ。

 
 どうしてモンテレッジォという村が本と深く結びついていくのか、村を訪ね、数少な
 い村の人たちに話を聞きながら、疑問を解いていく。大飢饉、ナポレオン、小さな
 村がイタリアの中世の歴史とどのように関わってきたか、そしてなぜ村人が籠い
 っぱいの本を売る旅に出るようなになったのか。それは壮大なドラマだった。

 
 ナポレオンの時代、本は、高価で一般人には手に入らなかった。モンテレッジォ
 の行商人は、小さな出版社から売れ残りや猝あり瓩遼椶鮹闇阿暴犬瓩毒笋
 に歩いた。当時、知識欲は旺盛でも、経済的にまだ余裕がなかった人々は本の
 行商人が来るのを心待ちにしていたという。
 オーストリアに支配されていた時
 代には、禁書を運んだこともあったという。注文を受けて、こっそりと届けたこと
 もあったという。文化の密売人だったのだ。 
 
 ファシスト政権下、憲兵たちが禁書の検閲に来たときには、こっそりとポルノ本
 を売った。憲兵が来ると「ご本尊様が入荷してます」と耳打ちした。憲兵は禁書
 の検閲に来ては、実際には「ご本尊様」を持ち帰った。「禁書取りが禁書買い」
 になったわけだ。

 
 小さな、貧しい村はこうやって本を愛して、本を愛する人のためにきびしい歴史
 の試練を知恵を使って生き延びてきた。そしてモンテレッジォの村人たちは「本
 があるから生きてこられた」と、本への感謝祭を開いた。それがイタリアのもっ
 とも由緒ある文学賞のひとつである『露店商賞』で、1953年最初の受賞者は
 ヘミングウェイだった。この賞は、文芸評論家も記者も出版社も加わらず、本屋
 だけで決定する文学賞だ。日本の「本屋大賞」の原点はモンテレッジォにあっ
 たわけだ。

 
 日本では、書店にとって苦しい状況が続いている。ぼくが若い頃から通ってい
 た青山ブックセンター六本木店が6月に閉店するというショッキングなニュース
 が流れた。東京でも書店が商売として成り立たない時代が来ているのだろう
 か?
 
 
 読み終えたあと、この本を熱心に勧めていた小さな書店の若い店主の顔や、
 近所にある、小さな書店の素敵な棚を思い浮かべた。ここにだってモンテレッ
 ジォの村人たちの誇りを持った書店があるのだ。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。
 http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  海外旅行に必須のガイドブックといえばダイヤモンド社『地球の歩き方』シ
 リーズが有名ですが、今回そのラインナップに新たな一冊が加わることになり
 ました。
 
 『ダムの歩き方』、萩原雅紀監修、ダイヤモンド社、2018
 
  「はじめてのダム旅入門ガイド」と銘うたれております。ついに地球の歩き
 方編集部もダムマニアの毒気にやられ…、もとい感化されたのですね。喜ばし
 い限りです。やっぱりダムは現物を見て楽しむのが一番ですから。ダム見学っ
 てハードルが高そうと思ってる方にお薦めです。
 
  第1章ではダムマニアがプランニングする選りすぐりのモデルプランが18も
 あります。プランに従って車を走らせれば、特に見ておくべきダムを効率よく
 回ることができます。対象の地域は北海道から九州までありますので、色々な
 地域の人に参考にしてもらえるのではないでしょうか。
 
  第2章は日本中のダムから厳選した100のダムを紹介しています。前章では触
 れられなかった特徴あるダムもこちらに載っていますので、あわせて回れば楽
 しさ倍増間違いなしです。
 
  もちろん旅の楽しみはダム見学のみにあらず。ダムカレーを食したり、ダム
 カードを集めたりの他にも温泉等の観光情報もしっかり記載されています。美
 味しい食事の情報もしっかり載っていますが、ところどころ食糧調達困難の注
 意書きもあるので気をつけましょう。
 
  しかし、ダムに行ってみたいけどどこをどう見ればいいのかよくわからない
 という方も多いはず。でもモデルプランにはそれぞれテーマがありますので、
 注目ポイントも自ずと浮かび上がってきます。
 
  たとえば「神戸ダム三兄弟を訪ねる」プランでは主役は千苅ダム・立ヶ畑ダ
 ム・布引五本松ダム(の三兄弟)が主役です。やっぱり神戸に行ったらこの三
 箇所ははずせませんね。(とか言いつつも私は立ヶ畑ダムしか行ったことがな
 い…時間の都合で。)
 
  これらのダムはいずれも作られてから100年近くが経過していますので、も
 はや土木遺産級の歴史的建造物です。しかもそれでいて今なお現役で神戸市民
 の水道用水を供給し続けています。
 
  ダム自体の装飾などつくり自体も優美に仕上がっており、途中に挟まってい
 る21世紀に完成した石井ダムと比べると全然違うことがわかります(石井ダム
 も近づいて見学できるいいダムです)。ダムの鑑賞ポイントがよくわからない
 という方は、まずビジュアルでぐっとくるダムへ行ってみるのもいいかもしれ
 ません。
 
  まあ実は鑑賞とか難しいことを言わなくても良かったりもします。神奈川県
 の宮ヶ瀬ダムでは、ケーブルカーに乗ったり観光放流があったりダム湖に遊覧
 船もあります。正直なところダム自体にさほど興味がなくても、一日楽しめる
 ようなスポットになっています。観光できるダムは富山県の黒部ダムだけでは
 ないんです。
 
  見学の申し込みをしなくてもダム内部に入れるダムもあります。監査廊と言
 われるダムの内部の管理用通路やエレベーターが太っ腹にも開放されているダ
 ムがあるんですね。実は普通の人が思ってる以上にダムは開かれているんです。
 資料館が併設されているところも多いですし、ダムの管理所の人もかなりフレ
 ンドリー。ダムカードを配るついでに色々なお話を聞かせてくれたりします。
 第2章の個別のダム紹介にはそういった情報も出ています。
 
  ということで皆さんも本書片手にぷらっとダムに行ってみるところから始め
 てみるのはいかがでしょうか。
 
  え…車に乗らないから行けない?
 
  そう、ひとつだけ(ひとつだけのはず)難があるとすると、紹介されているル
 ートのほとんどが車での移動が前提になっていることです。「ダムへの交通」
 のページでも車移動が薦められていますし。車がないと無理かと思いがちです。
 
  でも神戸の三兄弟は徒歩と電車で巡れるコースになっていますし。バスまで
 含めれば容易にアクセスできるダムも沢山あります。秩父の浦山・合角・滝沢
 ・二瀬の4ダムや、先に挙げた宮ヶ瀬ダムも大丈夫。逆にハイキング気分でダ
 ムまでの道をはるばる歩くのも達成感がありますけどね。
 
  何を隠そう(?)ここまでダムをプッシュしている私自身が車を運転しないで、
 これまで色んなダムを巡ってきたのですから。極度に山奥のダムでなければ
 大丈夫。里山をふらふら歩くのもなかなか良いものです。
 
  それではこの春は皆さんも本書片手に楽しいダム旅を楽しんできてくださ
 い。 
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 川口ブックマーケット                          〜埼玉県川口市
 └───────────────────────────────── 
 事前登録した「店主さん」が決められたスペースでの古本を販売する古本市です。
 誰でも気軽に「店主」になれる古本市です。本を探しながら歴史ある川口の街を
 歩いてみませんか。

 開催日 :2018年5月19日(土)11:00〜17:00
             雨天決行 ※雨天の場合は川口神社向いの金山町会館で開催予定。

 会 場 :川口神社(埼玉県川口市金山町6-15)
 
 アクセス:JR川口駅東口より徒歩約10分
 
 主 催 :川口ブックマーケット実行委員会
  
 協 力 :川口市立映像・情報メディアセンター メディアセブン
 
 問合せ :khitohako@gmail.com 
 URL  :http://khitohako.blogspot.jp/

 ■ 「手紙」 川上未映子×マームとジプシー「みえるわ」ツアーの記録  〜Title
 └─────────────────────────────────

 川上未映子さんの詩を、マームとジプシーを主宰する演劇作家・藤田貴大さんが
 演出し、女優の青柳いづみさんによる一人芝居として上演する。
 「みえるわ」と題したこの作品は、2018年の春に、全国10都市11会場を巡演しま
 した。
 その旅を記録した「手紙」を展示いたします。
 写真と文は橋本倫史さん、デザインは名久井直子さんが手がけた37通の「手紙」
 です。

 ◆会期:2018年6月7日(月) - 25日(金)
           時間12:00 - 21:00 水曜・第三火曜日休み
          *イベント開催日(6月8日、14日、18日)は18:00にて終了

 ◇場所:Title 〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2 
             八丁交差点すぐ セブンイレブン隣 
           JR中央線荻窪駅から青梅街道を西荻窪方面に歩いて
                                     、10分とすこし。
 
 【展示によせて】
 
 演劇というものは、現在という瞬間にだけ存在します。記録映像を残すことは可
 能でも、上演とはやはり別物で、その時間に劇場に足を運んだ俳優と観客のあ
 いだにだけ存在しうるものです。それに対して、ドキュメントとして書き記された
 言葉は常に過去にあります。そこに書き綴られた風景というのは、すでに過ぎ
 去ってしまったものです。その言葉というのもまた、読者の目に触れる瞬間から
 見れば、過去に綴られたものです。
 
 どうすれば現在という瞬間にだけ存在する演劇を記録することができるのか。
 そこで僕は、手紙としてドキュメントを書き記すという方法を選んでみました。
 ツアーに密着して全国を巡りながら、その土地土地で言葉を綴り、旅先から手紙
 として発送する。片面にはテキストが、片面には写真が印刷された手紙は、それ
 ぞれの土地の風景印を押してもらって投函しました。全部で37通をかぞえる、旅
 の記録です。(橋本倫史)
 
 
 
 彼の目に映っていた、みえるわ。言葉の瞬間に、目を凝らし、耳を澄まし、綴り、
 過ごした日々は、どういう風に、どこへ届いて、だれに残るのだろう。
 藤田貴大(マームとジプシー主宰・演劇作家)
 
 
 
 三月が終わり、大好きな四月がやってきて、五月を通り越して、そうしてまた六月
 になる。
 わたし達のみたもの、みなかったもの、かたちのないもの、ほんとうにはないもの、
 それらは言葉となって、ずっとずっと残ってゆく。
 青柳いづみ(女優)
 
 
 
 過去も、未来も思い出も想像も、ぜんぶが「今」に立ちあがる不思議。そしてその
 「今」は、言葉にすることができないということによってのみ存在するという、これ
 また不思議。
 わたしら何をしてるねやろ。何にむかって何のために、一回きりや今を、なんで
 別のものに置き換えていくことをやめられんのやろ。
 藤田くんが青柳さんを、橋本さんがふたりを、青柳さんが藤田くんを、言葉がみん
 なを、みんなが言葉をみている四月、今どこに?
 川上未映子(作家)
 
 
 
 *イベント会期中の6月18日(月)、橋本倫史さんと木村衣有子さんのトークイベント
 「風景を記述する」を開催します。お申し込みは、こちらのページよりお願いします
 : http://www.title-books.com/event/4510
 
 橋本倫史(はしもと・ともふみ) 

 橋本倫史(はしもと・ともふみ)

 1982年生まれ。広島県東広島市出身。2007年よりライターとして活動。また、2007
 年にリトルプレス『HB』を創刊。以降、『hb paper』、『SKETCHBOOK』、『月刊ドライ
 ブイン』などいくつかのリトルプレスを手がける。また、マームとジプシーの活動に密
 着し、『沖縄観劇日記』、『沖縄再訪日記』、『Firenze,2013』、『イタリア再訪日記』、
 『まえのひを再訪する』などを刊行。
 
                       〜Title HPより抜粋させていただきました。 
 


 ■ 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』刊行トークイベント  〜ひるねこBOOK
 └─────────────────────────────────

 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(岩崎書店)刊行を記念してイベントを開催し
 ます。
 
 訳者である枇谷玲子(ひだに・れいこ)さんをお招きして、男女平等の先進国と言
 われるスウェーデンの社会やフェミニズムの動きなどについて、また北欧語翻訳
 者としての普段のお仕事のことも伺いたいと思います。
 
 北欧の社会や子どもの本、フェミニズムなどに関心のある方、ぜひご参加ください。
 
 お待ちしております!
 
 ◆日時:2018年6月8日(金)18:30〜20:00 
           営業時間 11:00〜20:00 5月⇒毎月曜日定休、6月⇒毎火曜日定休

 ◇場所:ひるねこBOOKS 〈台東区谷中2-1-14-101〉
          千代田線根津駅1番出口より徒歩約6分

 ★定員:10名

 ●参加費:1,000円(当日お支払い)

 ◎営業の詳細、MAPはこちら⇒http://hirunekodou.seesaa.net/article/455909 
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき GWも終わり、暑かったり寒かったり何だか暮らしにくい毎日ですね。
 湿度が高いと頭に靄がかかったようで、いつも以上に鈍い感じです。ナナロク社から
 『猫はしっぽでしゃべる』という本が出ました。熊本で橙書店という本屋の主人・
 田尻久子さんが書いたエッセイ。まだ初めの方しか読めていませんが、誠実な文章
 に惹かれました。本を売る現場の声を楽しみながら読んでいきたいです。畠中理恵子
 ----------------------------------------------------------------------
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
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   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
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朝日新聞書評(4/28・宮田珠己氏) https://goo.gl/6mWkhh ◎私たちは太陽系
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ポット、楽しいアクティビティ、最新科学知識まで、オールカラーでご案内!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その23「女の子の料理」失敗篇

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容―メタモルフォーシス」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その23「女の子の料理」失敗篇

 児童文学の中で女の子が料理をする魅力的な場面のある物語と言えば、まず
は『赤毛のアン』だろう。
 
 六〇年以上にわたって女の子たちが夢中になって読んでいるこの本の舞台は、
何もかもが手作りだった一九〇〇年代初期のカナダ。だからこそ、まだあまり
ケーキなど作ったことのない世代の女の子たちを魅了し続けているのだ。

 例えば、牧師夫婦を招いたお茶会のために、アンと養い親のマリラが用意し
た食べ物の豪奢さと珍しさは今見ても新鮮だ。アンの言葉を借りてご馳走を羅
列してみよう。

「チキンのゼリー寄せ、牛タンの冷菜、それからゼリーは赤いのと黄色いの。
ホイップクリームをのせたレモンパイ、チェリーパイ、クッキーが三種類に、
フルーツケーキ。マリラご自慢のイエロー・プラムの砂糖煮、(中略)そして、
パウンドケーキにさっき言ったレイヤーケーキ」さらにベーキングパウダーを
使ったビスケットに、パン。

 パイが二種類に、ケーキが三種類ですよ。

 初訳は村岡花子さんで戦後の一九五二年。

 お茶といえば、お饅頭におせんべいだった時代の人たちがこれを読んでいっ
たいどう思っただろう。

 しかも、チキンのゼリー寄せ、牛タンの冷菜やパンというからには、これは
食事なのだろうか三時のおやつなのだろうかとわけがわからなくなって、外国
との生活習慣の違いを感じた人も多かっただろう。

 ともかく、初訳から六十六年たってもいまだ魅力的で新訳も出続けているこ
の物語のお料理場面を見て行こう。 

 アンは孤児で、独身のマリラとマシューの兄妹に引き取られた元気で赤毛の
十一歳の女の子だ。とてもお喋りなのに、想像力が豊富で、なにかをしている
最中にもうっとりと物語の主人公を思い浮かべたり、美しいものになんと名づ
けようと考え込んだりして、今現在していることを忘れてしまう。だから物語
の中で、アンは失敗ばかりしている。でも、きちんと謝れば許してもらえるし、
アンは元気に生きていく。

 早くに両親を亡くしたアンは、孤児院に入る前は、子沢山の家に引き取られ
て子守をさせられていた。だから、皿洗いくらいはお手の物なのだが、料理は
したことがないようだった。

 マリラは、アンにこう言っている。

「料理の話だがね、そろそろ手ほどきを始めようかと思っていたところだよ。
でもアン、あんたはあまりにもそそっかしいから、もう少し落ちつきが出て、
しっかりするまではと様子を見ていたんだよ。料理には集中力が大事で、途中
で手を止めてぼんやり想像を始めている暇はないからね。」

 その言葉どおり、まず、こんな失敗をしてしまう。

 親友ダイアナの家に遊びに行き、二人でタフィ―を作るのだが、

「ダイアナがお皿にバターを塗っている間、私はタフィ―のお鍋をかき混ぜな
きゃいけなかったのに、忘れて焦がしてしまったし、タフィ―ができてから戸
口にだして冷ましておいたら、猫がお皿の一枚の上を歩いてしまって捨てるは
めになったの」

 でも、タフィ―作りは面白かったらしい。

 ああ、なんだか少女漫画の原点を思わせる、失敗の名場面だ

 ネコの足跡のついたタフィ―を見てがっかりしながらも、たまらなくおかし
くなって、笑い転げる二人の少女の姿が目に浮かぶ。

 次に料理をするのは、先ほど書いた新しく着任した牧師夫婦を招いてのお茶
会。

 アンはこの頃にはマリラの指導の下に、とても上手にケーキを焼けるように
なったらしい。アラン夫人のために何かして差し上げたいと言って作ることに
なったのが、レイヤーケーキだ。これまた、聞き慣れないケーキだけれど、松
本侑子氏の註によるとレイヤーとは層のことで、
「スポンジケーキを横に薄く切り、その間に、ジャムやゼリーを挟んで層を作
ったケーキ」
と、ある。まず、スポンジケーキがうまく焼けさえすれば大丈夫なケーキのよ
うだ。アンはとにかくケーキが無事膨らむかどうかばかり心配している。どう
もこの時代には、ふくらし粉の粗悪品が出回っていたらしい。でも、ケーキは
無事に「黄金の泡のように、ふんわり軽やかにふくれ上がっていた。アンは嬉
しさのあまり、顔を紅潮させながら、横に切ったケーキの間に、ルビーのよう
な赤いゼリーを何層にもはさみ、ぱっとかぶせた。」

 ところが、このケーキは大失敗だった。牧師夫人が奇妙な表情をして食べる
様子を見たマリラは叫ぶ。

「アン・シャーリー」
「一体全体ケーキに何を入れたの」

 原因はふくらし粉ではなく、ヴァニラの香料。マリラが古いヴァニラの瓶に
痛み止めの塗り薬を入れておいたのが原因なのだが、風邪で鼻がつまっていた
アンには匂いがわからなかったらしい。アンは泣き崩れるが、優しい牧師夫人
に慰められ、その日は楽しく過ぎ去る。でも、ケーキはブタの餌となってしま
うのだ。

 なんだかこんな失敗話が続くアンの物語だが、どうも最後の方にはアンは無
事、料理上手になっているようだ。物語の後半、第三十章になるとこんな一節
がある。

「リンド夫人とマリラが、客間でくつろいでいると、アンはお茶を入れ、ホッ
トビスケットをこしらえた」

 註によるとホットビスケットとは「ビスケットより柔らかくて厚いお茶菓子」
とのこと。これは焼き立てを食べるものなので、リンド夫人とマリラがお茶を
飲んでいる間に、ササッと粉をこねて焼き上げたのだろう。大したもんだと思
う。

 でも、少し、つまらない気もしてくる。

 それでは、別の物語から、お料理を失敗する場面をお見せしよう。

 それは、ケストナーの『ふたりのロッテ』のルイーゼの料理場面だ。この物
語は夏休みの林間学校で、まるで見分けがつかないほど似ている二人の女の子
が出会うところから始まる。二人は自分たちが親の離婚によって引き離された
双子なのだと気づく。それぞれが父親と母親のもとでばらばらに育てられたの
だ。林間学校が終わると、二人は相手に成りすまして、会ったことのない父親
や母親のもとに行くことにする。

 ルイーゼはロッテのふりをして母のもとに行く。忙しい母は駅に迎えに来て
はくれるのだが、また、勤め先に戻ってしまう。そこで、ルイーゼは、夕飯の
支度をしなくてはならない。なにしろ、ルイーゼが成りすましているロッテの
方は「小さな主婦さん」と、呼ばれるほど、家事の名人なのだ。これに対して、
ルイーゼは普段お手伝いさんの作った料理を食べるか父親と外食をする生活を
送っているので、料理は生まれて初めてなのだ。

 ルイーゼは、初めて見る町に出かけて行き、買い物をしなくてはならない。
その品物は、

「肉屋で、赤味と脂身のまざった牛のあばら肉の細切れを半ポンド……腎臓と
骨を少しつけてもらう」
「食料品屋で、スープ用の野菜とヌードル」

と、なんだか本格的な感じだ。

 ルイーゼが作ろうとしているのはお母さんの大好物の、

「牛肉入りのヌードルスープ」

 これが、どんなに大変なことか。

 何しろ、初めての台所で、生まれて初めてお料理をするのに、誰も傍にいて
手伝ってはくれない。

ヌードルをゆでるとき、塩はどのくらいいれるのだったっけ?
「大さじ半分」

ハーブソルトは?
「ひとつまみ」
ひとつまみっていったいぜんたいどれくらい? 

それから「ナツメグをおろす」
おろし金はどこ?

 もはや、ここらへんで、ルイーゼはパニックになりかかっている。

 しゅんしゅんたぎる鍋に囲まれて、ルイーゼは手順がわからずおろおろして
しまう。肉が煮えたかどうだか、何度もフォークでつついてみるが、わからな
い。鍋のふたで指をやけどし、野菜をきざんで手を切ってしまう。おろし金も
こしきも見つからない、

 パニックになってへたへたと座り込みながらも、ルイーゼは果敢だ。お母さ
んが帰って来るあと二十八分の間になんとかしようと立ち上がるのだ。

 でも、ケストナーは言う。

「けれど、料理をするというのは特別ななにかだ。決心すれば、高い塔からと
びおりることはできるだろう。けれど、意志の力だけでは、ヌードルと牛肉を
料理することはできない」

 おいおい。

 まあ、そういうわけで、料理はできないままルイーゼは、完全にへたばって
うずくまってしまう。そして、今にも泣きそうになって、

「おこらないで、お母さん。わたしごはんがつくれなくなっちゃったみたい」

と言って、帰ってきた母親をびっくりさせてしまう。

 母親が手伝って無事にこのお料理はおいしく出来上がり、しばらくは母親が
料理を引き受け、ロッテのふりをしているルイーゼがもう一度!料理を覚え直
すという事になり、この場は無事おさまる。

 実は、私はこの場面を見るたびに、ケストナーは実によくわかっているなあ
と思うのだ。

 料理は時たまパニックを呼び込むのだ。

 全然知らないお台所で料理をしたことは数回くらいしかないけれど、料理を
作って何十年かの経験のある私でも、勝手のわからない台所で、勘を働かせて
調味料を見つけ出したりしながら料理をするのは、とても大変なのだ。まして、
それが作ったこともない料理だったら、まずおいしく作れる自信など私にはな
い。

 そして、今でさえ、初めてのメニュウを料理するときや、失敗しそうになる
たびに、私は少しパニックになる。料理は、火、油、熱湯との闘いだからだ。
ほんの一瞬の油断や勘違いで、何が起きるかわからない。料理にも料理人にも。

 だから、私はこの場面を読むたびに、いまだにドキドキしてしまう。

 そして、

「あら、とってもおいしいじゃないの、ね?」

と、言ってくれる母親の声にほっとするのだ。

 この後、ルイーゼはロッテに成りすましながら、どんどん料理を覚えていく。
物語が進んでいき、母親が二人のたくらみに気づいたことをルイーゼが知るの
も、数週間後の台所での料理の最中だった。

 子どもは、キッチンでいそがしく立働いている。おなべのふたが、かたかた
と鳴る。中では、なにかがとろとろと煮えている。その日のメニュウは、

「ポークリブに、ザウアークラウトに塩ゆでじゃがいも」

 うーん、おいしそう。母親じゃないけれど、

「お料理の上達が早いのね」

と、言いたくなってしまう。

 たった九歳の子供が、いくらそれが好きなのだと言ってもロッテのように、
嬉々として母親のために家事をするという設定は、少々無理がある気がするし、
異議を唱えたい気持ちになってしまう。でも、このルイーゼがパニックに落ち
ながら初めて料理をしようとする場面の見事さは、何ものにも代えがたいリア
リティがあって、子供の料理場面の最高峰だと思うのだ。

 これに比べたら、例えば『若草物語』の中の「ある実験」の章でジョーがす
る料理の失敗など、どうってことはない。

 夏休みになって、みんなが怠け気分でいたある日、お母さんはわざと女中の
ハンナに休みをやって、自分も何もしないという。長女のメグは朝ご飯を作る
のだが、そのオムレツは焦げているし紅茶は苦く、バーキングパウダー入りの
クッキーはぶつぶつだらけ。

 なんと、お母さんはそれを食べたふりをして捨ててしまい、あらかじめ用意
しておいた食べ物を食べるのだ。こういうところが、私はこのお母さんが苦手
に思うところなのだが……。まあ、それはさておき、昼食は次女のジョーが一
手に引き受けると言い出す。それだけではなく、隣家の少年ローリーまで招待
するという。そのメニュウは、

「コンビーフにじゃがいも、アスパラガスにロブスター―、レタスのサラダに、
ブラマンジェに、いちご」

の予定だったのだが、まず、パンは酸っぱくなって黒焦げに焼き上がるし、一
時間もゆでたアスパラは穂先が崩れ茎は固くなり、苦労したサラダのドレッシ
ングは出来上がらず、苦心して殻を剥いたロブスターの身は貧弱でレタスの影
に隠れてしまい、ブラマンジェはだまになってしまう。

 みんな一口食べては、食べ残すという具合。

 でも、ジョーは最後に出すフルーツにだけは自信を持っていたのだ。いちご
に、まっ白なお砂糖の衣をかけて、生クリームをピッチャーにたっぷり用意し
て差し出すと、

「きれいなガラス皿がみんなにいきわたり、白いクリームの海に浮かぶ小さな
バラ色のイチゴの島々をながめて、みんながうれしそうにしている」

 ところが……。

 みんなは一口食べて大騒ぎになる。ジョーは砂糖と間違えて、塩をかけてい
たのだ。冷蔵庫に入れ忘れていた生クリームも酸っぱくなってしまっていた。

 でも、この大失敗に怒り出す人は誰もいず、ローリーが笑いだすとジョーも
涙が出るほど笑ってしまい、ご近所の口うるさい老婦人まで一緒になって皆大
笑いのうちに、この悲惨な昼食会は終わるのだ。

 こんなふうに物語の有名な失敗場面を読んでいくと、料理の失敗なんて、ど
うってことないさ、と思えてくる。いつかはおいしいものが作れるし、お腹が
すけば何でもご馳走。「小さな主婦さん」になんてなる必要は全然ない。元気
にのんきにやっていこう。

 そんなふうに、アンやルイーゼやジョーの失敗は、なんだか明日の糧になる。
それが女の子のお料理場面失敗篇の魅力なのだ。

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『赤毛のアン』ルーシー・モード・モンゴメリー著 松本侑子訳 集英社文庫
『ふたりのロッテ』エーリヒ・ケストナー著 池田香代子訳 岩波少年文庫
『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット著 海部洋子訳 岩波少年文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第113回 空間を慈しむ手つき
―「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容―メタモルフォーシス」

 ジョルジュ・ブラックと言えば、ピカソとともにキュービズムを創始した画
家ということで知られている。中学校や高校の美術の教科書にもその作品がキ
ュービズムの典型例として載っていたはずだから、現代の日本人にはなじみの
深い画家だろう。しかし、一時共同制作を行っていたピカソに比べると圧倒的
に影が薄い。作風を次々と変化させ、私生活も派手だったピカソに比べると、
いかにも職人気質でドラマに欠ける感じがするからだろうか。

 パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ジョルジュ・ブラック展 絵画
から立体への変容―メタモルフォーシス」は、絵画ではなく、立体作品、それ
もジュエリーや陶器、工芸作品を軸に展示した珍しい企画展だ。うっかりキュ
ービズムの画家ブラックの姿を楽しみに来てしまった人は肩透かしを喰うこと
だろう。展示品は基本的に装飾芸術に分類されるもので、自己表現欲をギラギ
ラと押し出したものではない。しかし、それだけに、ブラックが造形一般に対
して抱いている好みを露出させたものになっていると思える。

 ジョルジュ・ブラックは1882年にパリの北西アルジャントゥイユで生まれ、
装飾画家のもとで絵を学んだ。印象派の絵に影響された後、フォービズムの運
動に参加。ピカソの「アヴィニョンの娘たち」やセザンヌの作品に刺激を受け
て、1908年から物を複数の視点から眺めて総合する、いわゆるキュービズムに
よる絵画の制作を開始する。ピカソと共同制作も行っており、2人の作品は見
分けがつかないほど類似したこともあったという。1963年にパリで死去。

 この企画展の目玉は、ジュエリークリエイターのエゲル・ド・ルレンフェル
ドとのコラボレーションであるジュエリー作品群である。最晩年の仕事であり、
ブラックは体調不良のため、これらの作品をまとめた「ブラック・ジュエリー
展」に足を運ぶことなく開催された年に亡くなっている。キュービズムのブラ
ックがこんな作品を作っていたとは知らなかった。館内で上映されていたビデ
オによると、ブラックはかねてから「質感」というものに強い関心を持ってい
たようだ。絵画においても絵具に砂を混ぜるなどして、厚みやザラつきを強調
する試みを行っていた。本格的に彫刻を制作したいという欲求もあったものの
なかなか機会が訪れず、晩年になって、エゲル・ド・ルレンフェルドとの出会
いにより、その意志が満たされる形になった。

 作品の多くはギリシャ神話を題材にしている。「トリプトレモス」(ブロー
チ)は放射線状に伸びる金の串に二羽の銀色の蝶々を遊ばせ、ルビーの赤紫で
アクセントを加えた作品。トリプトレモスは穀物の種を世界中に撒いて農耕を
教えたとされる。豊穣の喜びを爆発させたかのようなダイナミックな形状だ。
「三つの恩恵」(ブローチ)はゼウスの娘である三美神を三羽の鳥で表した作
品。金・銀・白の鳥たちが首を触れ合わせる様子が何とも平和的でかわいらし
い。「アルキュオネ」(ネックレス)は金とダイヤモンドによる、ゴツゴツし
た形状の作品。アルキュオネを死んだ夫のもとに行こうとして鳥になってしま
った女性だが、木の葉を思わせる不定形で複雑な姿が彼女の苦悩と情熱を表し
ているのだろうか。

 陶器作品も面白い。「ペルセポネ」(壺)は一筆書きに近いようなサラッと
したタッチで、冥界の女王の顔を描いた作品。威厳と不気味さと優雅さが入り
混じった表情が魅力的だ。「ペリウスとネリウス」(皿、壺)はブラックが繰
り返し描いたテーマの作品で、ペリウスとネリウスはポセイドンが不遇な娘テ
ューローに産ませた双子の兄弟で数奇な運命を辿る。2人は禍々しさを感じさ
せる、いびつな姿の黒い鳥として表現される。「アケロオス」(陶板)は、二
匹の大きな目をしたひし形の魚を描いた作品。アケロオスは川の神なので魚を
モチーフにしたのだろう。背景は濃いブルーでこれは水を表していると思われ
る。魚の後にあるのは岩だろうか。尾が大きく、すばしっこく元気に泳ぐ躍動
感に満ちている。

 ブラックは規模の大きな彫刻には手を染めなかったようだが、小型の彫刻作
品は残している。「アレイオン」は言葉を話すことのできる馬。耳をぴんと立
て、長い口を開いて、何か喋っているようだ。「セレーネ」は、デフォルメさ
れた女性の横顔を描いた作品。セレーネは月の女神で馬車で夜空を駆け巡った
とされる。作品は蝶々の羽のような形態で、右側が顔て、左側が風になびく髪
に見える。顔の表情の描出は簡素だが、やや傾いた、バランスの不安定な全体
の形状が不思議な色気を醸し出す。「グロウコス」という魚の彫刻には頭部を
含む体半分にアメジストが使われている。グロウコスは海神だが、その異貌を
アメジストのゴツゴツした質感が際立たせている。

 これらの作品を直に見ると、装飾芸術と言っても画家が造形したものなのだ
なあという印象が残る。優雅な形態であっても、どこかしら滑らかさを拒否す
る部分があり、身に着けたりインテリアとして部屋に飾ったりするには迫力が
ありすぎる。それはブラックの装飾芸術作品の長所であって、短所ではない。
ゴツゴツ・ザラザラを強調した、このいかにも「手作り」な感じ。これらの作
品を眺めていると、画家ブラックが目指していたものがわかる気がするのだ。

 本展にはキュービズムの油彩2点が展示されている。「静物」(1911)と
「楽譜のある静物」(1927)で、空間をバラバラにして再構成した、ブラック
と言えば誰もがすぐ思い出すような感じの作品なのだが、ジュエリーや陶器を
鑑賞した後に見ると今までと違った感想が浮かんでくる。彼は恐らく目の前に
ある空間をべたべた触って慈しむようにしながら、これらの作品を描いたのだ。
構成の工夫にとどまらず、塗り重ねた絵具の凹凸も気にしながら、二次元芸術
と言われる絵画に、触覚性と立体感を盛り込もうとしたのではないか。

 前述のように今回の展示作品の多くはギリシャ神話からテーマを取っている。
ヨーロッパの人間であるブラックにとって、ギリシャの神々は幼少の頃から親
しんできた精神的に近しい存在であったろう。空想の産物ではあるが心の中で
は頑として生き続けてきた懐かしい存在。そうしたものを造形するにあたって、
スマートさを避ける姿勢に共感を覚える。神話は造形されて、厚みを持ち触れ
ることのできるモノとして生まれ変わった。現実に存在するものはどこかしら
いびつな部分を持たないわけにはいかない。ブラックはゴツゴツ・ザラザラし
た感触を強調することで、現実の存在となった神々を愛でているのではないか
と思うのである。

*「ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容―メタモルフォーシス」
 パナソニック汐留ミュージアム 会期:2018/4/28-6/24

*ベルナール・ジュルシェ著/北山研二訳
『ジョルジュ・ブラック 絵画の探求から探求の絵画』(未知谷 本体4000円)

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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 GWが終わりました。個人的にはあっという間でした。(aguni原口)

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 始まって、街の中の架け橋となるお寺をめざし、若き住職は奮闘中!
     
 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第52回「評伝と書評の難しさ」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
第106回 国を愛すること

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「フィールドノート」というツール
  
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 ■トピックス
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 ふたつのイベントをご案内しています。
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 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
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 第52回「評伝と書評の難しさ」
 
 こんにちは。
 
 近頃,興味深い書評を見かけたので,遡ってその書評が取り上げていた書籍を
 読んでみました。その書籍は書評を読むより前に入手していたものですが,パ
 ラパラと繙いてみたところ,げんなりするようなことが書いてあったので放り出し
 てあったものでした。それをわざわざ気を取り直して読む気にさせた書評という
 のは,

 「戦後公立図書館発展史の中の前川恒雄さんの実践と思想」
                                      山口源治郎,出版ニュース2018年4月上旬号

 です。そして読んだ書籍は
 
 『前川恒雄と滋賀県立図書館の時代』田井郁久雄著,
                                                    出版ニュース社,2018年2月
 
 でした。著者の田井氏がが前川恒雄にインタビューし,その記録を基に再構成さ
 れた著作のようで,取材対象である前川のことを書きながら時に(裏方であるは
 ずの)田井氏の私感が全面に出てくる,しかもそれはいわゆる評伝というものと
 いうよりは,田井氏自身の著作(『図書館の基本を求めて』シリーズ,大学教育出
 版)で田井氏が展開している論旨の繰り返しという,伝記としては破格の構成を
 とっています。わたしが編集者だったら,田井氏の私感はすべて削除して前川自
 身の考え方をもっと書き込め,というところでしょうが,著者はもとより,取材対象
 であった前川もこの構成を了としたから斯様な書籍に仕上がっているわけで,こ
 の書籍を「警世の書」とする狙いがあったのかと思われます。
 
 おっと,話が先走りました。この書籍で取り上げられている前川恒雄(1930−)
 は,日本図書館協会の事務職員として『中小レポート』という通称で知られる
 『中小都市における公共図書館の運営』(1963)の編集に携わり,日野市立図
 書館の館長に転じて「徹底した資料提供」を前面に押し立てた公共図書館経を
 実践し,その実践を『市民の図書館』(1970)という形で世に送り出した,この国
 の戦後公共図書館を先導したふたつの書籍に深く関わった,この国の戦後公共
 図書館の立役者のひとりと評価されていい人物です。『移動図書館ひまわり号』
 (初版は筑摩書房,1988,復刻版は夏葉社,2016)では日野市立図書館の実
 践について,『われらの図書館』(筑摩書房,1987)では自身の公共図書館観を,
 盟友であった石井敦との共著『図書館の発見』初版では公共図書館の役割を熱
 く簡明に解説し,1970年代から90年代にかけて公共図書館の躍進とその市民
 権の獲得に果たした役割と功績は計り知れないものがありました。
 
 さて1980年に前川恒雄は滋賀県立図書館の館長に就任します。当時の滋賀県
 知事だった武村正義−のち中央政界に転じ,新党さきがけの党首として大蔵大
 臣,官房長官を歴任した政治家−の要請によるものでした。標題の通り,この書
 籍では滋賀県立図書館時代の前川恒雄について,これまであまり語られて来な
 かった,もしくはひとの口の端に上ることはあっても文章化されてこなかったエピ
 ソードなどを盛り込んで詳しく書かれています。わたしには未知の内容も多く,意
 外に面白く読める書籍でした。何より田井氏の文章は明快で歯切れがよい。ある
 知人から「田井氏は『書ける』ひとですよ」という評価を聞いたことがありましたが,
 なるほどと思わせます。
 
 前川恒雄自身はあまり自己に言及しないひとのようで,批判的なひとからは「前
 川さんは自らの失敗を語らない」「イギリスへの留学についてほとんど何も言わ
 ない」と評されていますが,巷間前川の失敗と評されることの多い日野市の助役
 からの降格については,この書籍では意外にも当人は肯定的に捉えているよう
 で(あとから振り返っての評価であることもあるでしょうが)なかなか興味を引かれ
 るところです。またイギリス留学については,前川がその時の資料を捨ててしま
 ったことを惜しんでいるエピソードが「あとがき」で紹介されるにとどまっています
 (p232)。興味深いのは,田井氏が一貫して前川を「非政治的な人間」として描き
 出すことに意を尽くしていることで,例えば石井敦のことは「マルクス主義者」と言
 い,「前川は明確な政治思想を掲げるようなことはしていない」(p36)とその対比
 を際立たせています。
 
 読める文章であるだけに,わたしが感じたこの書籍の問題点もわかりやすく浮
かび上がってきます。例えば,36ページに出てくる『中小レポート』の成立過程
 など,まるで石井敦と前川恒雄しか存在しないような書きぶりですが,わたしは
 他の『中小レポート』に関わった方々(例えばこの書籍にもチラッと登場する黒
 田一之)を存じ上げており,石井・前川の両人だけが文章化したかのような表
 現には違和感が残ります。そして『中小レポート』の編集委員長であった清水正
 三の名前は別件で登場するものの,『中小レポート』の関係者としては出てこな
 いのは如何なものですかね。総じてこの書籍は,清水正三の扱い方といい,前
 川の後半生における敵役として登場させられている栗原均の描き方といい,日
 本図書館協会事務職員時代以降に前川に関わったひとびとを,田井氏がおの
 れの好みで選別し役柄を割り付けたのではないかと思えるほど,その描き方が
 恣意的に感じられます。生涯の盟友であった石井敦ですら,この書籍の中では
 前川の引き立て役でしかない。
 
 そしてこの書籍を読んでいて困る(?)のは,先にも述べたように,とにかく田井
 氏の公共図書館に対する私感がそこかしこに散りばめられていることです。わ
 たしが冒頭の記した「げんなりするようなこと」もこれに類することです。その私
 感が前川恒雄の実践や思索を後付たところから来ているものだ,と田井氏自身
 は考えているのだろうけど,開館日と閉館日をめぐる議論(p102),「ビジネス支
 援」への呪詛(p134)などのように,わざわざ前川の伝記であるはずのこの書籍
 で展開する必要のない私感も多く,それがこの書籍の「伝記」もしくは「記録」とし
 ての価値を損なっているのは残念です。本来であれば田井氏は前川恒雄の実践
 と思索を以て,自らの思考を代弁させなければならない立場であるにもかかわら
 ず,おのれが前面に出て何かを語ることがこの書籍では多すぎます。矩を超えて
 いるのではありますまいか。
 
 この書籍の内容に照らし合わせるに,山口源治郎氏の書評は贔屓の引き倒しの
 ようなものであり,その手放しの高評価を疑うところから,わたしは『前川恒雄と
 滋賀県立図書館の時代』を読み始めたと言っても過言ではありません(苦笑)。
 その感想は上に書いたとおりであり,山口氏の書評のように一点の曇りもなく前
 川恒雄を神格化する方向にはとても向かえるものではない,というのがこの書籍
 の評価です。
 
 ところで,山口氏の書評にはひとつ引っかかる箇所があります。
 
 “図書館研究の業界には『市民の図書館』とその執筆者である前川さんの言説を,
 「貸出至上主義」と批判する人々がいる。このような人々は『市民の図書館』を実
 際に読み,前川さんの実践や言説を十分理解した上で批判しているのかと,疑問
 に思うことがある。自己に都合のよい『市民の図書館』像を勝手に作りあげ,前川
 さんの言説の一部を切り取って批判しているとすれば,図書館研究としての科学
 性も信頼性も無くしてしまうことになる。”
 
 「戦後公立図書館発展史の中の前川恒雄さんの実践と思想」山口源治郎,
 出版ニュース2018年4月上旬号p8
 
 ここで山口氏が言っていることは,要するに論敵の主張が「見解の相違」ではなく
 「認識不足」だと言っているわけです。永井荷風だったか,日華事変の頃に「最近
 は相手の意見を『見解の相違』ではなく『認識不足』と称するのが流行っているが
 云々」と指摘していたのと同じく,論敵を「認識不足」とするのはファシズム−とい
 うのが言い過ぎならプロパガンダ−のやり口であることが問題なんですね。「認識
 不足」とレッテルを貼れば,レッテルを貼った側はその意見を「取るに足らないも
 の」として処理できてしまう。
 
 貸出至上主義批判者のひとりであるわたしは,『市民の図書館』はもちろんのこと,
 『われらの図書館』も『図書館の発見』新版(初版は気がつくのが遅く入手は間に
 合いませんでしたが図書館で借りて読みました)も『前川恒雄著作集』も自腹切っ
 て購入し,読んでいます。『市民の図書館』について,山口氏が信奉するただひと
 つだけの「読み」を以てそれが正統であり,他の「読み」を認めないのが山口氏の
 唱える“科学性”なのでしょうか。『市民の図書館』の功と罪,明と暗はすでに歴史
 として研究の素材とされるべき対象であり,2018年の現在において「『市民の図
 書館』は戦後公立図書館の大いなる飛躍を作り出す導きの書となるとともに,現
 代日本の公立図書館の基本形としての意味を持つことになったのである」(出版
 ニュース2018年4月上旬号p8)という「読み」だけが正統であるという姿勢は,結
 局のところ師説を正典として奉るだけで何の発展性もなく,少なくとも近代市民が
 担う民主制下の社会科学としては成立し得ないのではありますまいか。
 
 わたしは,1990年代を境に前川恒雄の考え方が変化したところがあるのではな
 いか,それは親しい後輩であった伊藤昭治率いる日本図書館研究会読書調査研
 究グループの活動に影響を受けたからではないか,と考えています。それが『図
 書館の発見』初版(1973)と新版(2006)の間にある,埋めようのない思索と品位
 の落差の原因であろうと。それが前川にとってよいことだったのかどうか,わたし
 はそれを判断する材料を持っていません。
 
 では,また次回。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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第106回 国を愛すること

 
  ぼくはポーランドのワルシャワにいた。いまから30数年前のことだ。ワルシャワ
 大学に勤めていた父が帰国するというので、荷物運びの手伝いという口実で出
 かけることにした。ちょうど勤めていた会社を辞めたときだったのもいいタイミング
 だった。

  戒厳令こそ、すでに解かれていたが、まだベルリンの壁は崩壊していず、空港
 に到着すると、銃を携えた警備兵がこちらをじっと見ていた。

  社会主義の国を訪れるのは初めてのことで、最初のうちは緊張していたのだが、
 ワルシャワ大学の学生たちは日本語がうまかったし、とても気さくにつきあってく
 れたので、楽しく日々が過ぎていった。

 
  音楽好きの若者とも友人になって、彼にワルシャワのレコード店や楽器店を案
 内してもらった。レコード店も楽器店も対面式の販売だった。つまりカウンターが
 あって、レコードや楽器は店員のうしろに飾ってあった。客は店員に「あのレコー
 ドが欲しい」とリクエストをする。店員は商品をカウンターの上に置いて、「これか
 ?」と確認して販売する。

  こんなふうに客は直接触れることはできないようになっている。餌箱(レコード棚)
 をあさるのに慣れているぼくにはとても不思議な光景だった。ぼくは、ポーランドで
 人気のあるロックバンドを教えてもらい、レコードを何枚か注文した。友人がバンド
 の名前をいうとカウンターの向こう側にいる店員は面倒臭そうに棚からレコードを
 取り出した。日本円に換算すれば、一枚数百円から千円ぐらいの値段だったが、
 ポーランド人には高価だったのかもしれない。西側、つまりイギリスやアメリカのレ
 コードは一枚も置いていなかった。たぶんドルショップに行かなくては手に入らない
 のだろう。あったとしても高価なのだろう。

  これは聞いた話なのだが、楽器店では客は楽器を選ぶことができないらしい。た
 とえばギターを買いに行くと、店員はうしろに吊ってあるギターをカウンターに置く。
 このギターではなく、となりにあるものが欲しいといっても、店員は「だめだ」とひと
 こと。しかたがなしに店員が選んだギターを買ってきたという。
 こんなことを書くと
 ポーランド人におこられちゃうな。もちろんポーランド人が性格が悪いわけではない。
 みんな親切だしフレンドリーな人が多かった。店員の態度は制度のせいなのだろう
 と思う。どこの店でもおしなべて無表情で不機嫌そうだった。客に対するホスピタリ
 ティは感じられなかった。

 
  その日の夕方、友人の部屋に行った。彼は時計に目をやるとラジオのスイッチを
 入れた。ノイズまじりに音楽が聴こえてきた。ドアーズの「ライト・マイ・ファイア」だっ
 た。おそらくウィーンあたりのラジオ局の放送だろう。こうやって西側の音楽を聴い
 ているのだといった。

  日が翳りはじめた部屋で、ときおり遠くなるジム・モリスンの歌を聴きながら、友
 人は窓のむこうの空を見つめながら、「まったく、くだらない」とつぶやいた。
「国」
 を考えるとき、ぼくはなぜかこの光景が目に浮かんでくる。国の制度のために好き
 な音楽を自由に聴くことが出来ない。たかが音楽かもしれないが、ぼくには国家と
 いう存在が実にリアルに感じられた経験だった。いまから30数年前のこと、いまの
 若者はこんな時代のことはきっと知らないだろう。

 
  高橋源一郎の『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』(集英社新
 書)を読んだ。新書ではあるけれど、これは小説といってもいいし、若い人たちに向
 けたファンタジーであるといってもいいと思う。

  主人公の小学生「ぼく(ランちゃん)」とその仲間たちが、夏休みの研究に「くにを
 つくる」ことにする。「くに」をつくるには「国旗」や「憲法」を決めなくてはならない…
 架空の小学校を舞台にして、子どもたちが「くに」をつくることを通して国家の在り
 方を考えていく物語だ。

  たんに国家や憲法の解説ではなく、「くに」をつくるという発想で国家の理想的な
 形を考える手法がわかりやすい。きっと子どもにも読みやすいのではないかと思う。
 素直な子どもたちもいいが、ランちゃんの両親、小学校の園長ハラさんは知的で個
 性的であり、彼らの子どもたちを見守る姿勢に「理想の大人」を見るような気がする。
 なかなかできることではないが、こんなふうに子どもたちと接することが出来たらい
 いだろうな。

  あとがきを見ると、高橋源一郎は21世紀版の『君たちはどう生きるか』(吉野源三
 郎 著 岩波文庫)を目指して書いたという。そして現在が吉野源三郎が立ち会っ
 た時代に似てきているような気がするといっている。

  ツイッターのタイムラインで人気フォークデュオ・ゆずの新曲の歌詞を読んでゾッと
 した。いつだったか、テレビで徴兵制のことを議論していた。若者が徴兵に反対す
 る意見をいうと、年配の女性評論家が「あなたは国を愛していないのか!
  もし敵が攻めてきたとき、銃をとらないというのか!」とすごんだ。あのときのギラ
 ついた目を思い出したからだ。

 
  さて今月末、4月29日(日)は不忍ブックストリートの一箱古本市です。もう20回
 になるんですね。ぼくも助っ人として、どこかのスポットに立っています。どんな本
 と出会えるか、とても楽しみです!

 ◎吉上恭太
 
 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 
 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  高校生くらいの頃、予備校のパンフレットなんかに綺麗なノートがいっぱい載
 っていたりするのを見て、思わずため息をついてしまったものです。私なんぞは
 居眠りをしつつ授業を聴いてるもので、板書を写しているだけであるにもかか
 わらず、ノートに何が書いてあるか判別不能だったのですから。
 
 そんな思い出もありつつ手にとった本はこちら。
 
 『フィールドノート古今東西』、梶丸岳・丹羽朋子・椎野若菜編、古今書院、2016
 
  「100万人のフィールドワーカーシリーズ」と銘うたれたシリーズの第13巻にあ
 たります。フィールドワークにまつわるあれこれを網羅した本シリーズのなかで、
 本書はフィールドノートにスポットを当てています。
 
  フィールドノートというのは、言わずもがなではありますが、調査地で気づいた
 様々なことを記録するノートですが、ひとくちにフィールドノートといってもそこに
 記録されている内容は、観察する対象によって色々です。

  理系の研究者は割と着眼するところが決まっていて、ある程度の様式があり、
 そこにデータを記入していくという感じのフィールドノートも多くあります。西表
 島のカタツムリの研究者のフィールドノートは、必要な情報が数値と記号で表さ
 れていて、その典型と言えるでしょう。
 
  一方で文系の研究者は一見研究の内容と結びつかないようなことまで記録
 に残している印象があります。研究対象の人にフィールドノートに書いてもらう
 ということもあるようです。
 
  図書館で史料漁りをしていた史学科学生だった私にとっては、こうしたフィー
 ルドノートを垣間見ることは非常に刺激的です。大学時代にもっと外に出て勉強
 すればよかった、とか思いましたね。
 
  寄稿している研究者の皆さんも、相手あってのことなので上手くいかなかった
 り失敗したりして今のフィールドノートを作り上げてきた(そして今も進化中)わけ
 です。それができるまでの悪戦苦闘(?)ぶりもまた本書の読みどころの一つでも
 あります。勝手ながらノートを見てるとなんだかフィールドワークって楽しそうだ
 なあと思えてきます。
 
  ちなみに歴史学者もフィールドワークをしないわけではありません。その辺に
 ついては『古文書はいかに歴史を描くのか』(白水智、NHKブックス、2015)をお
 読みください。学生時代にも「歴史学者は足腰が大事」といわれた覚えもありま
 す。
 
  デジタル全盛の時代にあっても、手書きフィールドノートが使われているのが
 多いのも特徴でしょうか。ノートに書かれた内容の整理はパソコンでするでしょう
 し、もちろんデジカメでの写真、ICレコーダーでの録音なども併用されています
 が、紙に記録することの利点もあります。
 
  水を被ってもデータが飛ばないとか…基本的なことですがけっこう大事です。
 そして時には研究対象の人とのコミュニケーションツールになったりもするよう
 です。いちばんフィールドノートのIT化が進んでいたように感じたのは、ミュージ
 アム研究者の人でしたがそれでも手書きノートも大事なツールのようです。
 
  巻末の座談ではデジタルツールは何でも記録してしまうけど、ノートは自分が
 必要と思ったところだけが記録してあるとも言われています。だからノートの情
 報は質が高い(逆に記録を落とすともうどうにもならないという欠点もあるわけで
 すが)。そういったところも手書きフィールドノートが現役の理由かもしれません。
 
  と、くどくど述べてきましたけれど、フィールドワークなんてしないし関係ないね
 と思われてしまうかもしれません。しかしフィールドワークは学者だけがするも
 のというわけではありません。寄稿している研究者の方々も以下のように言って
 います。
 
 「思考の旅の始まりとしてのフィールドノートは研究者だけの専売特許ではなく、
 誰もが実践可能な知的技法の一つなのではないだろうか。」(増野亜子、p,47)
 
 「読者の皆さんには、日常的にフィールドノートをとるという生活をお勧めしたい。
 ひたすら溜め込んだ断片的な情報が、ある日突然一つのストーリーとなって浮
 かび上がってくる感覚はフィールドノートと共に生きることならではの醍醐味で
 あろう。」(柚洞一央、p,73)
 
  皆さんも出かけたときにポケットにノートを一冊忍ばせて、出会った興味のあ
 ることを書き込んでいけば、その積み重ねの中から新たな発見があるかもしれ
 ません。
 
  私も旅の記録はデジカメで済ませていたのですが、最近写真の整理をしてい
 て、何だかわからない写真が多くなってしまった(情報の質が低い典型か?)の
 で、今後は旅先で出会った面白そうなことはノートに記録していこうと思ってい
 ます。
 
  
 ◎副隊長
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。

 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 ■ Book! Book! Miyagi@こみち市
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2018年4月28日(土)10:00〜15:00

 毎月28日に新寺界隈でにぎわう「新寺こみち市」と合同で本の市をひらきます。
 宮城、福島、東京、秋田から個性豊かな本屋やショップ、コミュニティースペース
 が集まります。地域にとけ込む定期市と一緒に、生活に必要な食べものや生活
 雑貨を手に取る延長で、この日は本との出会いも楽しんでいただけますよう、
 ご来場をお待ちしております。

 ◇会場:新寺こみち市会場
      仙台市若林区新寺小路緑道〜新寺五丁目公園
     *Book! Book! Miyagiの会場は新寺五丁目公園。
      仙台駅より歩いて10分。

            新寺こみち市 http://www.komichiichi.com
          *駐車場の案内については上記のサイトをご覧ください。

 【出店者】
 石巻まちの本棚(石巻市)  NEWS STAND SATAKE(南三陸町)
 ちいさいおうち(多賀城市) スローバブックス(丸森町) イースト・リアス(気仙沼市)
 岡田書店(福島県楢葉町) 阿武隈書房(いわき市)
 うさぎや、Books & Cafe コトウ(福島市) 
 ブックギャラリーポポタム(東京) 6jumbopins、のら珈琲(秋田) RE プロジェクト、
 風の時編集部+3.11オモイデアーカイブ、 メアリーコリン、
 古書水の森、火星の庭、Book! Book! Sendai(仙台市)


 ■ 第20回 不忍ブックストリート 一箱古本市
 └─────────────────────────────────
   谷中・根津・千駄木エリアの書店、雑貨店、ギャラリー、カフェなどの店舗や
 施設の軒先をお借りして、一人が一箱分の古本を持ち寄って販売する
 青空古本市、それが「不忍ブックストリートの一箱古本市」です。
 
 誰でも参加できて、一日だけの「本屋さんごっこ」を愉しめるイベントです。
 
 ◆日時:2018年4月29日日曜日 11時〜16時30分 *雨天決行

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 ■あとがき
 また、遅れた配信となってしまいました。申し訳ありません。
 日が注ぎ、気持ちいい季節になってきました。本のブックイベントも
 このGW多いようです。どこかに出かけて、新しい本やひとと会いたいですね。
                                畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.677

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■■ [本]のメルマガ                 2018.04.05.発行
■■                              vol.677
■■  mailmagazine of books    [神に頼るな、自分の胸に訊け! 号]
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『図説 ケルト神話伝説物語』

マイケル・ケリガン著 高尾菜つこ訳
A5変型判 264頁 本体2,800円+税 ISBN:9784562054916

「マビノギオン」やアルスター物語群、フィン物語群といった写本に取り込ま
れ、ときに大きく形を変えて受け継がれてきたケルトの神話。魅惑的な古代の
営みを伝える神話物語を180以上の図版とともに集大成。オールカラー。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その22「男の子の料理」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 我は求め訴えたり

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その22「男の子の料理」

 「男の子の料理」なんて題名をつけたものの、私には男性がお料理すること
についての偏見はない。たぶんそれは、母方の祖父が料理上手で、普段でもサ
サッとお酒のつまみを作ったり、大勢の客が来るときなどは率先して包丁を握
ったりする人だったからだろう。父はまるきり料理ができなかったけれど、そ
の違いについては特に考えたこともなかった。母と祖父は「手先が器用」であ
ることを誇っていたので、不器用な父は料理が苦手なのだろうと思っていたし、
生まれつき不器用な私は料理に向かないんだろうなと漠然と思っていた。
 
 ところが世間に出てみると、料理をすることが男の沽券にかかわるとかいう
人が多数いて、しかも、女性が料理できないと一生嫁に行けないとか言って責
めたがる人も大勢いることに気づいた。

 そんな、バカな。

 小学校の家庭科の授業でも、目をみはるようなきれいな切り口のサンド+イッ
チを作る男子もいれば、ジャガイモの皮も剥けない女子(代表は私)もいた。
家庭科を男子にも受けさせる高校に通っていた時のお菓子つくりの特別学習は、
男女問わずすごい人気だった。それなのに、何故できないことを誇り、下手な
女子を責めたりするのだろう?

 今回は、児童文学の中での魅力的な男の子の料理の場面を見ながら、そこに
こめた作者の気持ちをさぐってみたいと思う。

 まずは、エーリヒ・ケストナー著『点子ちゃんとアントン』から。

 点子ちゃんが仲良しのアントンの家を訪ねる場面。アントンは病気で寝てい
るお母さんのために夕飯を用意しているところだ。

 そのメニュウは、ゆでたジャガイモにかき卵。

 その様子を眺めている点子ちゃんは、全然お料理をしたことがないらしい。
アントンが、袋からなにやら白いものを、鍋に割入れた卵と水に振りかけるの
を見て、

「どうしてお砂糖を入れたの」

なんて、きく。

「小麦粉だよ。かき卵を作るんだけど、小麦粉と水を入れると、量がふえるん
だ」

点子ちゃんはこくんとうなずいた。

「じゃがいもの塩ゆでには、塩はどれくらい入れるの?五百グラムの袋ぜんぶ?
それとも半分?」 
 
アントンは、大きな声で笑った。

 それは笑うだろう。まあとにかく、点子ちゃんは裕福な社長の娘で、お料理
を知らないまま育っているようだ。

 正しいお塩の量は「ナイフの先に何杯か」だそうで、「お塩一つまみ」はど
れだけか迷う身にとっては、少しわかりやすいかもしれない。

 この後マーガリンを入れたフライパンに卵を流し入れてかき混ぜ、点子ちゃ
んもかき混ぜるのを手伝って、かき卵は無事に出来上がる。ゆでじゃがいもも
よいころ合いでぐちゃぐちゃにならずに出来上がり、アントンとお母さんは、
お母さんの寝室でそれを食べる。
 お母さんによると、アントンは、ハンバーグもできるらしい。

 アントンがお料理ができることに、点子ちゃんはとても感心したらしく、そ
のことについて色々なところで発言している。

 例えば、アントンの担任の先生に。
(私は子供の頃、ここがこの物語の一番すごいところだと思っていた)点子ち
ゃんはアントンの通う男子校に自家用車を乗り付ける。そして、担任の先生と
お話ししたいと言って教員室に入って行く。丁寧な言葉で、けれど堂々と、先
生に、教室で眠そうにしているアントンは怠けているのではなく、病気で働け
ない母親の看病や夜のアルバイトで疲れているのだという事を説明するのだ。
小学生が自分の学校以外の先生の教員室に行くという事だけでもすごいのに、
アントンの秘密も守りながらアントンの状態について語り、先生の誤解を解い
て友人の窮状を救おうとする。

「……でも、だれかがごはんを作らなくちゃならないでしょう?だれがやって
いると思いますか?アントンが作っているんです。じゃがいもの塩ゆでとか、
かき卵とか、いろいろ。すっごくじょうずなんです!」

 ところで、話は変わるが、この先生へのセリフのラスト。

「すっごくじょうずなんです!」

を、旧訳の高橋健二訳では

「とにかく、すてきなのよ!」

とあって、料理の技術よりアントンがすてきだという事に比重がある感じで、
子供心に先生相手にのろけて見せるなんてすごいなと思ったのだ。

 その他にも、いろいろな事件の後で、お父さんにもこう言う。

「社長、あの子ね、お料理だってできるのよ」

 たかが、かき卵と言うなかれ。この時代の偏見はいかに強かったことか。

 このアントンの料理について、ケストナーは料理場面のある章の終わりに
「立ち止まって考えたことその2」という、作者自身の考えを付け加えている。

「みんなが、どう考えるかぼくにはわからない。男の子が料理することを、み
んな当たり前と思うだろうか?」で始まるこの文章の中で、パウルという少年
と病気のお母さんのためにお料理をすることについて問答している。そして、
「だって、料理なんて、男のすることじゃないもん」
と、恥ずかしがる男の子に、誇りに思っていいことだと説得しようとするのだ
が、男の子は恥ずかしいから料理をするときには鍵をかけてやるとか、家政婦
を頼むからやる必要がないとか言い出す。作者は、「わからない子だね、まっ
たく。」
と、言い終えている。
 これが、1931年。戦前のドイツの常識だったのだろう。

 ケストナー自身は、両親はそろっていたのだが家庭は貧しく、働く母親のた
めに、料理をすることがあったらしい。親孝行のために、生活のために、料理
その他の家事をすることを蔑まれてはたまらないという気持ちがあったのだろ
う。

 とにかく、このかき卵の場面だけ見ても、「卵に水と小麦粉を足すとかさが
増す」という、貧しさも空腹も知っている作者にしか描けない場面であること
がよくわかるだろう。

 こんど、卵が足りない時に試してみようか?

 でも、うっかりするとお好み焼きになってしまいそうな気がしないでもない、
かき卵の作り方だ。

 最近読んだ本にも、かき卵を作る男の子の話がある。

 それは、レベッカ・ステッド著の『うそつきとスパイ』の中の一場面だ。物
語は、父親が会社を首になったので家を手放した一家がマンションに引っ越し
てくるところから始まる。母は看護師で当面の間、夜間勤務を増やしている。
主人公のジョージは、運よく同じアパートに住む男の子セイファーと友達にな
る。セイファーの家に日曜日のお昼に遊びに行った時、その日の昼食のお料理
係であるセイファーが、おいしいスクランブルエッグを作ってくれて、「こつ」
を教えてくれる。

 物語の舞台はニューヨークのブルックリン。ジョージ親子が夕飯をとるのは
近所の中華料理の店とピザの店。朝ごはんもレストランでパンケーキやサンド
イッチを食べる。その様子見ていると、都会だなあと思う。でも、だんだん少
し奇妙に思えてくる。

 外食しすぎじゃないか?
 
 ジョージはある日、家で、セイファーに教わったようにチーズ入りのスクラ
ンブルエッグを作り、きゅうりのサラダを添えて父親と食べる。

「スクランブルエッグは大好きだ」お父さんは明るい声で言った。「大好物な
のをすっかりわすれていた」

 そこで父親は、自分がずっと料理をしていないことに気づくのだ。

 夜間勤務だから昼間の物語の中に姿を現わさない看護師の母が、実は入院中
だという事が明らかになってくる。毎日看病に通い、病状が悪くなるとふいに
病院に呼び出されたりする日々の中で、失意の父親は呆然としていたのだろう。
息子の料理を食べて、やっと、自分が料理をすればいいと気づくのだ。

 ジョージが料理を作り、親子でテーブルをはさんでそれを食べて、やっとジ
ョージは、学校でいじめに合っていることなどを打ち明けられるようになる。
こわれかけていた家庭が戻って来たのは、このジョージのスクランブルエッグ
のおかげだったような気がしてならない。

 さて、ここらでセイファーの教えてくれたおいしいかき卵のコツを皆様にも
伝授しよう。それは、

「うまいスクランブルエッグを作るコツは、弱火でいためること」

 ためしてみてください。
 ほんわりとやさしい味がしそうな気がします。


 現在の日本では、お弁当屋さんやコンビニで温かい食事を買うことができる。
でも、コンビニ弁当は高い。もし、その家が貧しい家庭であったとしても、ガ
スや水道が止められていなければ、食材を買って調理した方が安くつくだろう。
仕事で疲れ切った母親がいた時、あるいは病気だった時、日本の子供たちも料
理を始める。

 池田ゆみる著の『川のむこうの図書館』では、小学校六年生の竜司が野菜炒
めを作る場面がある。
 竜司の家は母子家庭で、引っ越しを繰り返している。母親は昼間スーパーの
レジ係で働いてから、いったん帰って食事を作り、夜は居酒屋で働くという生
活をしている。時間がない時はお金が置いてあって、竜司はコンビニでお弁当
を買って食べる。
 でも、時たまお金が置いてない時もあるのだ。
 給食で必ずお代わりをすることにしている竜司だが、人気メニュウでお代わ
り希望者が殺到するとじゃんけんで決めることになり、負けると空腹がつらい。
 竜司は自分から率先して物事を始めたりしない男の子のように描かれている。
学校で理科の実験や家庭科の実習があっても、後ろの方でひっそりと眺めて過
ごす。
 だから、ある日母親が病気で調子が悪い時に、うっかり野菜炒めを作ると言
ってしまい、自分でもびっくりしてしまう。

 そして、家庭科の教科書を引っ張り出し、冷蔵庫から食材を出すと、

「教科書を見ては野菜を切り、またのぞいては調味料を用意し、いちいち確認
しないと前に進まない」
という感じで料理をしていく。

 でも、野菜に火が通りジャージャーと音がし出すと、しだいにおいしそうな
匂いもして来て、野菜炒めは無事でき上がる。

 ケストナーの物語と違ってこの親子は抱き合ったりしないけれど、それでも
母親はぶっきらぼうにお礼を言う。竜司は驚いて、隣の部屋に横になりに行く
母親の細い背中を見送るのだ。

 この物語は文字通り図書館が舞台なので、竜司はその後図書館で料理の本を
借りてくるようになり、買い物もするようになっていく。

 竜司の作ったブタの薄切り肉の野菜炒めは、キャベツが少し焦げたところが
おいしそうで心に残る。

 どんな時代になっても、ケストナーがあきれたパウル少年のように、男が料
理するのを格好悪いと思ったりする人はい続けるだろう。けれども食べ物を煮
炊きすることは生きていくための必要最低限の技だ。 

 料理をするという事は親への愛情でもあるとともに、親離れすることでもあ
る。

 今日も物語の中の少年たちはフライパンを火にかざし、そして、少し先へと
進んで行くのだ。

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『点子ちゃんとアントン』  エーリヒ・ケストナー著池田香代子訳
                         岩波少年文庫
『点子ちゃんとアントン』  エーリヒ・ケストナー著 高橋健二訳
                           岩波書店
『ウソツキとスパイ』    レベッカ・ステッド著  樋渡正人訳
                           小峰書店
『川のむこうの図書館』   池田ゆみる著      さえら書房
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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我は求め訴えたり

 誕生日を迎えていつのまにかほぼアラフィフになってしまった。いろいろ考
えることも多いけれども、それにつけても、年を取れば取るほど、若いころに
影響を受けたことが自分の生き方というか、人生の選択を左右しているなぁ、
ということに気づく。

 たぶん、高校生の頃から大学時代に掛けて、私が影響を受けた人物の一人が、
この『我は求め訴えたり』という書物を書いた人物である。今は無き、NES
COから発行、発売は文芸春秋社。1987年に1刷で、私が持っているのは1990
年の6刷だから、結構、売れたのかもしれない。著者はデーモン小暮。

 この本の面白いところは、巻末のあとがきを「小暮ヨシノブ」が書いている
ことだろう。いわゆる「世を忍ぶ仮の姿」の人である。いかにデーモンのせい
でひどい目にあっているか、ということが書かれていて面白い。

 本の内容自体はデビューの話とか、解散の話とか、信者であればよく知って
いる聖飢魔IIの話が多い。知らない人は面白いかもしれない。早稲田大学の早
稲田フォークソングクラブ(WFS、そういえば、知り合いも複数、入ってい
た。)で結成されたことや、リーダーのダミアン浜田殿下が実家に帰ってしま
うことになって一度、解散したこと。ところが解散前に受けていたオーディシ
ョンに合格していたので続けることになったことなど。

 そういう話よりも個人的に面白かったのは、デーモン小暮あるいは小暮ヨシ
ノブがどういう生き方を選択し、結果、どうなったかという自伝的要素である。

 時系列で整理すると、アメリカで幼稚園から小学2年生まで過ごしたらしい
こと、クラシック好きな家族が居て、姉がピアノを習っていたこと。子どもの
頃にその練習を聞いているうちに耳コピしてクラシックを歌っていたこと。高
校は「日本一校則が厳しい」私立高校だったこと。大学時代は、音楽、演劇、
エンターティナーの3つの方法でメジャーになることを目指していたこと。

 聖飢魔IIというと世間的なイメージは「蝋人形の館」だろうが、実際にはあ
あいうストーリー仕立ての曲は珍しい。デビュー時の曲は「悪魔組曲作品666
ニ短調」で、ダミアン浜田殿下の手によるもの。黒ミサという名にふさわしく、
讃美歌風の荘厳な曲。聖飢魔IIの曲を通して聞いてみると、クラシックの雰囲
気があちこちに見える。ダミアン浜田殿下の音楽性のバックボーンはわからな
いが、まあ、数学の先生になるくらいだから論理とか美学とかありそうだし、
いわゆるクラシックやヘヴィメタルの「様式美」というところで、デーモン小
暮とダミアン浜田の音楽性が一致したのではないか、と思える。

 そこに独特の演出やエンターティンメント性、演劇性が混ざり合って、聖飢
魔IIになっていくわけだけれども、なにしろ最初から1999年で解散が決まって
いたコンセプトのバンドである。しかもデビュー前に一度、解散しちゃってい
るバンドである。商業主義に踊らされたとも言えるが、逆に言えば、デーモン
小暮という新リーダーのポテンシャルがそこまで高かったのだと思える。

 この本を読むと、インディーズに対する批判、メディアに対する批判なども
あるが、若者に向けてのメッセージも多く見られる。

 例えば、こんな感じである。

「才能は、たくさん伸ばそうと思えば、伸びる芽は幾つもあるのだ。ジャガイ
モにたくさんの芽があるように」(P94)

「神に頼るな、自分の胸に訊け!」(P153)

「先駆者の模倣をしつづける者は創造主たりえぬ」(P178)

「”普通”の人間なんてェものは、どこにも存在しない」(P180)

「真実の世界像は、この世の中にある瞳の数だけ存在するのである。諸君達ひ
とりひとりが、いわばそれぞれの世界の中心なのだ。」(P184)

「「俺がこの世を変えてやる」というくらいの心意気で臨めば、たとえそこま
で至らなかったにしても自分の人生の活路は開く。自分のことくらい変えられ
るのだ。」(P224)

「自分の感性に誇りをもて。諸君らはそれぞれ最高不可侵の素晴らしい感性、
価値観を所持しているのであり、それはいかなる外部からの圧力にも屈する必
要のないものばかりなのである。自分で判断し、自分でいいと思ったことは貫
け。何でも他人に従ってばかりおる者に待っているのは『死』あるのみである。」
(P244)

 いやー、かっこいい。まさにロックだけれども、年配の方から見れば、お前、
何様やねん、と言われそうな名言である。

 で、こういうことを真面目に主張しても突っ込まれない奇跡のポジションが
あって、それが「正体は悪魔なんです」というポジション。人間ではないなら、
人間界の基準を当てはめられない。つまり何を言っても自由である。

 ただまあ、こういうことをフォークギターに乗せて歌っていたら、それはそ
れでダサいので、壮大なスケールのセットで火を噴いたり生き血を飲んだりし
ながら重厚な音を大音量で流しまくる、ってことになったのが、デーモン小暮
率いる新・聖飢魔IIであり、その主張している「自分を信じろ、お前は自由だ」
というメッセージと、エンターテインメント性の高さに魅了されたのが、いわ
ゆる「信者」だったんだろうなぁ、と思う。

 で、この本の話はここまでだけれども、その後、聖飢魔IIはいわゆる「信者」
を集めての「ミサ」というモデルで1999年の解散を迎える。最初の大教典(ア
ルバム)「悪魔が来りてヘヴィメタる」は某専門音楽雑誌で0点をつけられた
というのは有名な話だけれども、「お茶の間にヘヴィメタを」のスローガン通
りに紅白歌合戦に出場したり、オリコンで1位を取ったりした。その後、やや
ブームは去って、音楽評論家からは「古い」などと言われて、その後、解散を
向かえるものの、その後、だいたい5年毎に「再結成」して「ミサ」を行って
いる。

 そんな中で、時代は変化しており、Youtubeなどで彼らの演奏が配信される
ようになると、日本だけではなく海外にも「信者」が現れるようになった。一
度、見てもらればわかるが、彼らのミサのセットの凝り方も半端なものではな
く、そこにあの風貌で演奏である。いかに悪魔といえども、おそらく当時は、
「インスタ映え」な時代が来るとは想像もしていなかったと思うが、彼らの強
烈な個性がむしろ海外で、イロモノではなくエンターティメントとして評価さ
れているのは面白い現象だと思う。

 いや、しかし、久々に読み返してみると、自分も随分、妥協して生きるよう
になってたなーと反省。大学時代、文芸サークルに入って文芸賞に応募したり、
編プロ経由で本を書いたり、古本屋まわって印刷費稼ぎのために編集のバイト
を引き受けたり、そういう行動も随分、影響を受けていたんかな、と思う。ち
ょっと若いころの自分のエネルギーを思い出しました。

 誰でも自分なりの、そういう本、あるのではないかと思います。たまには恥
ずかしがらずにそういう本のページをめくってみるのも、良い経験かもしれま
せん。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 またまた配信が遅くなりました。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.675


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 ■■ [本]のメルマガ                2018.3.15.発行
 ■■                            vol.675
 ■■  mailmagazine of book  [三月や茜さしたる萱の山 芥川龍之介 号]
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 マイケル・クロンドル著 木村/田畑/稲垣訳
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 十字軍が持ち帰った異国の財宝によって富んだ三つの都市……香辛料貿易で発
 展した三都を料理史家が実際に訪れて資料を渉猟、香辛料がもたらした栄枯盛
 衰は都市の文化と政治、そして人間をどのように変えたのか。
      
 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第51回「カオスをコスモスにする仕事のキモを学ぶ,ということ」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第105回 一杯のコーヒーから

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 短歌はおもしろい!
  
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 ■トピックス
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 一つご紹介いたします。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 ----------------------------------------------------------------------
 第51回「カオスをコスモスにする仕事のキモを学ぶ,ということ」

 こんにちは。もちろん時事問題には関心が大アリで,この国の行く末を心配す
 ることでは人後に落ちないつもりですが,取り敢えず今回は別の話を。
 
 来年度,と言っても,もう来月からに迫っていますが,紆余曲折あって勤務先
 の司書課程で「情報資源組織論」「図書館情報技術論」というふたつの講義を
 受け持つことになりました。今日は「情報資源組織論」のお話をしましょう。
 
 この講義は,わたしが大学で学んだ頃は「分類・目録論」という,1980年代ま
 での図書館学,そして図書館の現場における「専門性」の専門性たるゆえんを
 説く講義であったのでした。しかし1990年代以降は図書館業務の電算化に伴い,
 様々な館種の図書館にMARCが広く行き渡りコピーカタロギングが当たり前のよ
 うに行われるようになると,基本的に書籍を整理する業務を学ぶ「分類・目録
 論」と,分類作業と目録作成を柱とした,いわゆる「図書館員の専門性」論は
 図書館を論じる舞台の第一線から遥か後方に退くことになります。分類・目録
 論の栄光と転落は,例えば『図書館に訊け!』(井上真琴著/筑摩書房/2004年
 8月/ちくま新書486)でも,図書館内における目録担当部屋の消滅,という形
 で描かれています。
 
 のち,1996年度の図書館法施行規則の改定により,「分類・目録論」は「資料
 組織概説」と名称を変えますが,これは図書館で扱う「資料」が書籍と雑誌の
 枠を超えたことを考慮しての変更だったと記憶します。日本図書館協会が編集
 ・出版している『日本目録規則1987年版』の改訂も,片方では目録の電算化を
 見据えて,目録作成の方式を基本記入方式から記述ユニット方式へ変更すると
 いう改革を行う一方で,図書館が扱う目録の範囲を書籍から大きく範囲を広げ
 て雑誌のみならず,地球上に存在する人間の知的生産の結果をすべて図書館で
 扱い,目録化するという壮大な実験をしているのではないか,とあらぬ誤解を
 招きかねないほど様々な資料について,目録化を可能にする改訂が施されてい
 きます。講義の名称は変更されましたが,扱うべき図書館資料の内実と学ぶ対
 象に大きな変化はなく,「分類・目録論」の教科書の内容を引き継いだものが
 「資料組織概説」の教科書となっていました。
 
 そして2012年度より「資料組織概説」は「情報資源組織論」と再度名称を変更
 します。図書館業務において機械化・電算化と言われ,世の中ではOA化と称さ
 れていたものが,情報技術(Information Technologyもしくは
 Information and Communication Technology)の発達に伴い,情報化・情報社
 会の大きな進展に飲み込まれる形でインターネットが世界を席巻し,いまやほ
 とんどの社会人がスマートフォンでインターネットにアクセス可能なほどの基
 盤整備が急速に実現している社会において,図書館学もまた「図書館情報学
 (Library and Information Science)」に衣替えしています。図書館もまた
 「情報」「情報化」とは無縁ではいることはできず,情報を図書館の活用でき
 る「資源」として扱い,これを図書館間で共有し,利用者に提供できるような
 形で整理しておかなければならない時代を迎えています。
 
 もともと図書館が所蔵する書籍や雑誌に分類を施しその目録を作成する,とい
 う一連の作業は,片や目録を作成することにより財産の管理を行うことが目的
 のひとつであり,他方で利用者(来館者)の求めに応じてすばやく的確な資料
 を提供することをもうひとつの大きな目的としていたわけですが,現在では
 「情報」という名称の下に集約される,当該図書館が所蔵していない(所有し
 ていない)資料をも整理し提供できるようにすることが,これからの「目録」
 作成者には求められるようになってきている,というのが,「情報資源組織論」
 という名称変更の主たる眼目ではないか,とわたしは見立てているのですが,
 さてどうでしょうか。司書養成カリキュラムの2011年度改訂後もなお,旧来の
 分類・目録論の枠から一歩も出ようとしていない情報資源組織論のテキストも
 あるのが現状です。
 
 こんなことを考えながら,「情報と知識の違いは」「情報資源とは何か」「図
 書館情報学における組織化とは何ぞや」「情報資源の組織化とは」「情報を的
 確に利用者に伝えるとき,図書館は何をする必要があるのか」などを15回に渡
 って講義してまいります。今日は花粉症とそのクスリに負けたので,この続き
 はまた後日。
 
 では,また次回。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  
 第105回 一杯のコーヒーから

 
  読書と珈琲というのはよく似合う。たとえば植草甚一を読むと喫茶店に行き
 たくなるし、MJBの緑の缶が欲しくなる。山川直人の漫画『コーヒーもう一杯』
 (ビームコミックス)を読んだときは魔法瓶に珈琲を入れて公園に持って行きた
 くなった。

  久しぶりにインスタントコーヒーを買ってきた。近所のスーパーマーケットの
 棚には、4種類ほどの瓶詰めのインスタントコーヒーが並んでいた。意外と少
 ないな。いまはドリップ式やスティックのものが主流みたいだ。ぼくはラベルに
 有機栽培珈琲と書かれた50グラム瓶を買った。無性にインスタントコーヒーを
 飲みたくなったのは、片岡義男の新刊『珈琲が呼ぶ』(光文社)を読んだから
 だった。意外にも片岡義男には、いままで珈琲をテーマにしたエッセイ本はな
 かったという。
 先日、「片岡義男.com」に「わたしと片岡義男」というテーマで
 いエッセイを書かせていただいた。原稿を書きながら、ぼくは片岡義男をたくさ
 ん読んでいたわけではないけれど、ずいぶん影響を受けてきたのだなあ、と改
 めて思った。それはエッセーに書いたように「気まぐれ飛行船」というラジオ番
 組を聴いていたからかもしれない。インターネットなどなかった時代だから、片
 岡義男が語るアメリカは、遠い異国の匂いがした。この番組でかかる古いジャ
 ズに夢中になったし、ハワイのポップスも初めて聴いた。そうそう「ハセガワ・
 ゼネラル・ストア」というCMソングは楽しかった!
  youtubeで「Hasegawa General Store」を検索すると聴けます。

  それから40年が経って、いま『珈琲が呼ぶ』を読んでいると、自分が20歳に
 もならない、「気まぐれ飛行船」を聴いていたころに戻ったような気分になった。
 片岡義男の語り口はあの頃のままだ。珈琲をテーマに、ビートルズのサイン
 をめぐる話、アイスコーヒーという“不思議な飲み物”、「小サナ喫茶店」という
 タンゴの名曲と話題はバラエティに富んでいる。古い喫茶店の椅子に座るため
 に京都に行くなんて、うらやましい。写真ものっているが、じつに魅力的な椅子
 だった。

  最近は純喫茶ブームのようで本や雑誌なども見かける。ぼくもついつい買っ
 てしまうのだけど、雑誌で紹介されている店をさがして出かけることはない。な
 んか違うなあ、と思うのだ。たまたま近くにいったら入るとか、知人に連れてい
 ってもらうとか、そういうものだと思うから。いや、わざわざ出かけるのが、ただ
 面倒くさいからかな。

  もちろん珈琲をめぐる音楽についても素敵なエッセイが載っている。ボブ・ディ
 ラン、トム・ウェイツ、スザンヌ・ヴェガなど歌の背景にある物語が書かれている。
 印象に残ったのは、「一杯のコーヒーから」という歌について書かれた短いエッ
 セイ。ぼくはこの服部良一のが書いた名曲が大好きなのだけど、この本を読む
 までその時代背景などまったく気にしていなかった。「一杯のコーヒーから夢の
 花咲くこともある」、というほのぼのとした歌は、昭和14年に発売されていた。
 日本が太平洋戦争に向かっていく中で生まれた歌だったのだ。いったいどのよ
 うな気持ちでこの服部良一はこの美しいメロディを書いたのだろう。たまたまぼ
 くが持っている古いアメリカ製のギターは1938年製だった。あらためてこのギタ
 ーが生まれた時代を思うと、その弦の響きが深い音に聞こえてきた。

  この本に登場する、いくつかの喫茶店には行ったことがある。経堂育ちだった
 ぼくは、どこかで片岡義男とすれ違っていたかもしれないな。そういえば植草甚
 一はよく見かけた。目立つものなあ、あのファッション。片岡義男さんは、農大通
 りをひとつ裏にはいったところにあったNIZANには行ったことがあるだろうか?

  本を読みながら、自分が通っていた喫茶店のことを思い出していた。ぼくは高
 校生の時代、ほとんどを喫茶店で過ごしていた情けない学生だった。そのころ
 通っていた新宿の喫茶店はもう存在しない。成人映画館の並びにあったカミー
 は、珈琲を頼むとアイスクリームがついてきた。カトレアのマッチは擦ると色のつ
 いた炎が出た。腹をすかせた高校生がよく行ったのは、新宿なのに「六本木」と
 いう喫茶店。トーストが食べ放題で、薄暗い店内をウェイターがトーストをのせた
 トレイを持って店の中をまわっていた。珈琲を一杯だけ注文して、トーストを何回
 もお代わりした。友人と1時間ほどいて、出ようとすると、またほかの友人がやっ
 てくる。結局、トーストを頬張りながら4時間以上もねばることになる。なんて迷惑
 な客なんだ!
 
  
 いったい何を話していたんだろう?
  女の子にはもてなかったから、恋愛の話はしなかった。受験には興味がな
 かったから、勉強の話もしなかった。たぶん、名画座に何を見に行くかを相談
 したり、筒井康隆の本のことや、がきデカの話、それに当時ほとんどだれも知
 らなかった、はっぴいえんどという日本語の歌詞を歌うロックバンドのことだった
 かもしれない。

  このころに喫茶店で無駄に過ごしていなければ、もうちょっとましな暮らしをして
 いたかもしれない、と思うこともある。でも、この時間がなければ、いまの自分は
 いないし、還暦を過ぎてもずっとつきあっている友人とも出会わなかった。

  そんなことを考えながら飲んだインスタントコーヒーは、やたらと苦かった。スプ
 ーン2杯の砂糖とミルクをたっぷりと注いでみた。懐かしい味がした。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  先日新聞を読んでいたら、歌人の谷川電話の連載を発見しました(「あなたは
 どこに 短歌はここに」)。5回で終わってしまってちょっと残念。エッセイ風の文章
 に交えて短歌を紹介していくスタイルでとても面白かったです。
 
  というわけで久しぶりに短歌でも読んでみるかと思ったわけですが…。大きな
 書店へいくとそれなりの数の歌集があって、どれが自分にとって向いているの
 かもわからず、目移りしてしまいます。そんな歌集コーナーに平積みになってい
 たのがこちら。
 
 『短歌タイムカプセル』、東直子・佐藤弓生・千葉聡編著、書肆侃侃房、2018
 
  この本は編者3人が選んだ、戦後から2015年までに歌集を刊行した歌人115人
 から、ひとりあたり20首収録したものです。歌人が故人の場合を除き基本的に20
 首は自選となっています。
 
  目次を見ると岡井隆・馬場あき子といった教科書にも載っているような歌人もい
 れば、穂村弘や枡野浩一もいるし、もっと下の世代の歌人まで幅広く選ばれてい
 ます。
 
  岡井隆といえば現代歌人の中でも名の知れた人物ですが、私は勝手に難しい
 歌が多いに違いないと思い込んでいました(分厚い思潮社の『岡井隆全歌集』全
 4巻が私にそう思い込ませたのに違いない、ということにしておいて下さい)。
 しかし
 
 眠られぬ母のためわが誦む童話母の寝入りし後王子死す  (p,45)
 
 など作者の生活に即した平易な(と感じた)歌もあり、必ずしもそうではなかったと
 (恥ずかしながら)知りました。食わず嫌いは良くないですね。
 
  枡野浩一は自選の20首を時系列順ではなく配列を独自の順番にしています。
 何人かの歌人は時系列にしたがって恋愛の歌を詠み、子供が生まれ、という自
 らの生活の流れに応じた歌が並んでいたりするのですが、枡野の場合は全くそ
 れを感じさせません。
 
  彼の短歌は読み手の気持ちに寄り添ってくるような感じでしょうか。
 
 こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう (p,196)
 
 「ふざけたきょう」のふざけ具合には触れない、「何か」があってそう感じたうち
 の「何か」に触れないことで、かえって読み手の心に入ってくるのではないでし
 ょうか。
 
  なんて20首ばかりでそんなこと言いだすのは早計なのですが、枡野浩一の
 歌は好きです。
 
  歌人の日々の暮らしが歌われ、心の澱が歌われ、短歌というものは色々な
 ものを表現できるわけですが、中にはこんなものもあります。
 
 おれか おれはおまえの存在しない弟だ ルルとパブロンでできた獣だ (p,186)
 
  フラワーしげるのこの歌はどう解釈すればいいのでしょうか。もちろん短歌が
 現実しか詠めないなんてことはないので、全くの創作でもいいわけですが、そ
 れにしてもこれはかなりすごい。
 
  「ルルとパブロン」と改めて言われるとあれですが、市販の風邪薬の「ルル」と
 「パブロン」です。風邪薬でできた獣…、偉そうなこと言ってる割にはショボそうな
 感じがプンプンします。しかも弟のくせにずいぶん態度がでかいじゃないか。
 
  とりあえずフラワーしげるの言葉遣いのセンスはすごい。それは十分伝わって
 きます。
 
 もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい (P,49)
 
  こちらはぐっと若い1980年生まれの岡野大嗣の歌。そんなこと出来っこない
 のはわかっていても、こんな瞬間があったりしますよね。
 
 人間のふり難儀なり帰りきて睫毛一本一本はづす (p,16)
 
  こちらも1980年生まれの石川美南の歌。何となく心が弾まない感じの歌を選んだ
 のはまあ私の趣味の問題でしょう。これからきっと折々気に入った歌を「むやむや
 と口の中にて」呟きながら生きていくのだと思います。
 
  編者のひとり佐藤弓生は「それぞれの『好き』をさがしに、本書をひらいて」(p,243)
 ほしいと言っています。口ずさみたくなる一首が、さらには歌集を読みたくなる歌人
 がきっといるのではないかと思います。皆さんもぜひ本書をパラパラとめくりながら、
 現代短歌の世界をブラブラしてみてはいかがでしょうか。
 
  ところで冒頭に出てきた谷川電話は2015年までに歌集を出していなかったので、
 本書には収録されていません。『恋人不死身説』という歌集(いいタイトルですね)
 を同じ書肆侃侃房から2017年に出しているので、そちらを読んでください。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 ----------------------------------------------------------------------

 ■ 小出亜佐子×野中モモ×ばるぼら
     「日本のZINEについて知ってることすべて−80年代インディー編」
    『日本のZINEについて知ってることすべて』刊行記念
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2018年3月31日土曜日 15時〜17時(14時半開場)

 ◇場所 : 本屋B&B
       東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F
             TEL 03-6450-8272
             mail  hello<AT>bookandbeer.com
                   ※<AT>の部分は「@」に直してください。
 
 ★入場料:1500円 + 1 drink order
 
 
 ☆出演:小出亜佐子/野中モモ/ばるぼら
  
 小出亜佐子(こいで・あさこ)
 1985〜1989年までミニコミ『英国音楽』主宰。最後の2号にフリッパーズ・ギター
 の前身ロリポップ・ソニック参加のソノシートをつけたがために、身に余る評価を
 受けました。1993年から『米国音楽』に参加。現在は引退し、ぐ〜たら主婦兼
 主に80年代音楽墓掘り人。近年の仕事にred go-cartの7インチレコード
 『sprites gave』(2018/galaxy train)のライナーノーツ執筆。
 
 野中モモ(のなか・もも)
 文筆・翻訳業。オンライン書店「Lilmag」店主。著書に『デヴィッド・ボウイ 
 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)、訳書にキム・ゴードン『GIRL IN A 
 BAND キム・ゴードン自伝』(DU BOOKS)、ダナ・ボイド『つながりっぱなしの
 日常を生きる─ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの─』(草思社)、
 アリスン・ピープマイヤー『ガール・ジン「フェミニズムする」少女たちの参
 加型メディア』(太田出版)などがある。
 
 ばるぼら
 ネットワーカー、古雑誌蒐集家、周辺文化研究家。著書に『教科書には載らな
 いニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』
 (共に翔泳社)、『NYLON100%』『岡崎京子の研究』(共にアスペクト)。赤田
 祐一との共著で『消されたマンガ』(鉄人社)、『20世紀エディトリアル・オ
 デッセイ』(誠文堂新光社)がある。
                                    HPより抜粋
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 
 いつも大変お世話になっております。
 今回もぎりぎりになってしまい申し訳ありません。桜が咲いたり、雪が降ったり、
 暖かく販ぞででも大丈夫になったり、三月は目まぐるしい月ですね。
 どうぞご自愛くださいませ。また、来月。畠中理恵子拝
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域も異なれば、形も違っているアレクサンドロスの帝国から現代のアメリカま
で、2500年にわたる20の帝国の崩壊をまとめて取り上げた初の歴史書。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ 『枕草子』2「ぽりぽり篇」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 金村修・タカザワケンジ『挑発する写真史』(平凡社)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その21『枕草子』2「ぽりぽり篇」

 前回に続き、『枕草子』の中の食物を見ながら、千年を超える旅に出てみた
いと思う。

 引用するのは旺文社文庫版の段数。書き出しも少し表記するので、その他の
本で読むときは、そこから調べてみて欲しい。今回は、思い切ってほとんど私
の意訳です。

 今回はあまり優雅ではない食物ばかりをあげてみよう。

 まずは、第九十五段の五月のドライヴの様子から。

「五月の御精進のほど……」

で始まる章なのだが、これはかなり長い物語なので、ざっと粗筋を述べてみよ
う。

 五月と言っても旧暦なので今の六月。五月雨と書いてもそれは、梅雨の雨の
こと。あまり用事もない頃なので退屈した清少納言は、

「ほととぎすの声を聞きに行かない?」

と、同僚に声をかけ出かけることになる。

 お許しも出て、梅雨なので特別に牛車を殿舎に横づけにしてくれたので、さ
っそうと車に乗り込み四人で賀茂の奥の方に向かう。

 道中に高階明順の家があり、声をかけると主人もいるというので中に入る。
そこは田舎家めいた実に風流な造りの家で、ほととぎすもうるさいほど鳴いて
いる。

 明順は近所の女たちを集めて、稲核(いねこき)などの農作業の様子を見せ
たり、粉ひき歌など歌わせたりして、もてなしてくれる。そして、唐絵にかい
てあるような大きな懸盤(食事をのせる足つきの台)にご馳走を並べてすすめ
てくれる。けれども、女房たちは、なかなか手を出そうとしない。

 明順は、

「普通は主人の方が困って逃げ出してしまうほどお客の皆さんはお食べになる
のに、どうして、召し上がらないのですか。この蕨などは私が今朝摘んできた
ものなのですよ。高いお膳が嫌なのですか?『はいぶし』に慣れた方々ですか
らね」

などと言って笑わせてくれる。

 女房たちは普段、一人ずつのお膳で、おかずも器に分けてよそってある食事
を食べているので、皆で大テーブルにずらりと並んで大盛りの料理に手を出し
て食べるのは、まるで宮廷で働く下位の女官の食事風景のようで、手を出しか
ねて困っているらしい。

 ここで言われている「はいぶし」というのは、岩佐美代子さんの研究で解明
された宮中の作法で、高貴な方の前で食事をご相伴するときに、食物を畳の上
(のお盆等の上など)に置き、肘を畳、あるいは膝の上に乗せて食べるやり方
のことなのだ。この方法は、明治天皇の宮中でもなされていたようで、

「お陪食等のご前でいただく時には手のひじを膝の上に乗せて、なかばおじぎ
をしたような形で戴かなければならない」

と、山川三千子著の『女官』に書かれている。こんな姿勢では、食べ物がまっ
すぐ入って行かないような気がしたと言っている。めったに一緒に食事などで
きない方の前だから、畏まっていただきます、という作法だろうか。

 とにかく、明順が躍起になってもてなしてくれるので、清少納言は蕨に少し
だけ箸をつけるのだが、その時

「雨がふってきました」

と、下男が言ってきたので、みんなまた牛車に乗ってここを立ち去る。

 この田舎の別荘めいた家での、もてなしの料理がどんなものだったかを知り
たいけれど、出てくるのは「下蕨」だけなのだ。想像するしかない。例えば田
辺聖子著の小説『春はあけぼの』では、作者はこんな鄙びたご馳走を書き連ね
ている。

「野老(ところ)やら、蕨のおひたし、青菜のあつもの、瓜の塩漬け、川魚の
塩焼き」

 ああ、そうだったかもしれないと、私もご馳走のぎっしりのった幻の大懸盤
を思い浮かべてしまう。

 この後、卯の花の枝を山ほど車にさしたり、その評判を広めさせようと若い
侍従を呼び出してからかったりしながら、清少納言たちは中宮のもとに帰って
行く。そして、肝心のほととぎすの歌を作れないまま帰ってしまったので困っ
たという話なのだ。

 それから二、三日後、同僚から、その蕨の味はどうだったの?ときかれ、思
いだすのはそっちなの?と笑った中宮から

「下蕨こそ恋いしかりけれ」

という下の句を示されたので、

「ほととぎすたづねて聞きし声よりも」

とつけたので、大笑いされ、この共作の歌は大評判となったという。

(はるばる聞きに行ったほととぎすの声より、
 蕨のご馳走の方が恋しいな)

 そう、私もその味を知ってみたい。
 
 こんな風に、人を笑わせる清少納言ではあるが、時たま人の悪口も言う。

 百四段の
「正弘はいみじう人に笑わるる者かな」
(正弘は、とっても人に笑われちゃう人なのよね)

で始まる章は、言動が人より変わっている文章生の源正弘のことを書いていて、
こんなことをしたとか、あんなことをして又人に笑われた等と書いている。

 例えば、正弘の家は染物や裁縫などの専門家の家で、すばらしい仕立ての立
派な装束を着ているのに、正弘はわざと生地を紙燭に近づけて焦がしたりする。
みんなで、ほんと、あれを着ているのが正弘じゃなかったらかっこいいのにね
え、と言い合っている。なんて具合。

 でも、憎らしげというより「この変人」という感じで、この若い文章生を見
ているようで面白い。

 その中で気になるのは、殿上の間(天皇直属の宮中の事務室とでも言うべき
だろうか)では、懸盤(テーブル)で食事をする時には、蔵人の頭が座ってから
食べ始めるという規則があるのに、ある時、正弘はこっそり豆を一盛り取って
清涼殿の小障子の向こうで食べていたと書かれているところ。誰かが気づいて
小障子を開けたので、その姿が丸見えになり皆が大笑いしたという話だ。きっ
とそれは煮豆ではなく炒り豆だったのだろう。小障子の向こうでポリポリ音が
して、さてはと、そっと小障子を開けて見せる蔵人の姿が目に浮かぶ。ほら、
時を超えて豆をかじる音が聞こえてくる気はしないだろうか?

ぽりぽり。

この御所で働く人々の食事の様子がわかる一場面でもある。

 同じように殿上の間で気になるのが、和布、ワカメの話だ。

「里にまかでたるに、殿上人などの来るをもやすからずぞ人人はいひなすなる」
(第八十段)
(里帰りをして実家にいる時に、殿上人などが訪ねてくるのをあれこれ人が言
 っているみたい)

 清少納言が長い間宮廷から下がっていた時の事。人の口がうるさいので、今
住んでいる家のことは、少しの人にしか教えていなかった。けれど、清少納言
の前夫の橘則光はさすがに元夫だけあって見当をつけてやって来る。

 この則光は、六位という下級の官吏だけれど、蔵人(天皇の膳の給仕や秘書
的役割を担う官吏)なので、昇殿を許され殿上人になっていた。その為、宮中
では清少納言と顔を合わせてしまう。そこで、二人はいったいどういう仲なの
だと人にきかれ、

「まあ、兄のようなものです」

と、答えたらしい。

 それから則光は、宮中では、せうと(兄)というあだ名で呼ばれていたとい
う。そのあだ名がそれぞれの口語訳によって様々で、「お兄さま」とか「兄貴」
とかになっているのが読んでいて面白い。

 何となくそれだけでも滑稽味を感じる男なのだが、妙に気のいいところがあ
り、宮中で清少納言が褒められると、わざわざ、とてもうれしかったと言いに
来たりする様子が描かれている。
 
 そして、この段では、則光がこんなことを話に来たとしている。

 ある日、殿上の間に上司である藤原斉信がやって来て

「妹の家を教えろ」

と、言ってきた。

「知らない」

と、言い張ったのだが、目の前に清少納言の家に出入りをしている源経房が素
知らぬ顔をして座っているので、目があったらきっと笑い出してしまうと思っ

「台盤の上に布のありしを取りてただ食ひに食ひまぎらはししかば、中間にあ
 やしの食ひものやと人人見けむかし」

(テーブルの上にあったワカメを取ってむしゃむしゃ食べてごまかしたんだ。
 食事時でもないのに変なもの食べてと皆に思われただろうな).

 なんだか、可愛げのある男でとてもおかしい。

 さて、そこで清少納言は「家のありかを教えないでね」の暗号にワカメを使
おうと思い立ったらしい。斉信が妹の家を申せと本当にうるさくて大変だから
家を教えていいか?と則光が手紙をよこしたときに、何も文章は書かないで一
寸(3.3cm) ほどのワカメを包んで返事とした。ところが、肝心の則光はワカ
メ事件をもうすっかり忘れていて、その後やって来て、何であんな変なものを
包んでよこしたんだ?あれは何のつもりなんだ?と訊いてくる。なんだか、憎
たらしくなってワカメと海女を引っ掛けた和歌を書いて返事をした。

「かづきするあまのすみかをそことだにゆめいふなとやめを食はせけむ」

(海に潜って姿を見せない海女のように、絶対に私の居所を知らせないでとい
 う意味で、ワカメを食べさせようとしたんじゃないかしら)

 すると則光は、なんで歌なんて詠むんだよ、読むもんか、と和歌を書いた紙
を扇であおぎ返して、帰ってしまった。

 『枕草子』ではこんな風に、人が良くて鈍い男という描き方をされている則
光だが、実は歌人でもあり、『今昔物語』(第23の15) にその武勇を描かれて
いるというのが意外なところだ。

 でも、それより則光が食べたワカメの味の方が私は気になる。台盤の上に置
いてはあったけれど、まだ殿上人用の食事として出来上がっていなくて料理の
最中だったのではないだろうか? そして、一生懸命噛んで喋るまいとするく
らいだから、相当の量を口に頬張ったのに違いない。少しでも味がついていた
らいいなと思うのは、彼の魅力にはまったせいだろうか。

 さて、最後にまた、類聚という同じようなものを集めた文章に戻ってみよう。

第二十九段の「心ゆくもの」
(胸がすっとするもの)
 ここには、美しい衣装がこぼれて見える牛車がかっこよく走っている様子や、
細くて白く美しい美濃紙に細い細い筆で手紙が書いてあるものや、陰陽師に祓
えをさせる様子等々のたくさんの物事が上げられているのだが、食物として唯
一あげられているのは、水なのだ。

「夜、寝起きて飲む水」

 現代語訳も必要がない、寝起きの水。ただの水。

 寝苦しい夜にのどをつたう冷たい水。
 今も昔も、胸がすっとするもの代表だろう。

 それなのに、注釈に、

「この一文により、清少納言は酒を飲んだかと言われるが、いかがであろうか。」

と、書かれている。

 あれまあ、酔い覚めの水ですか?
 
 確か、清少納言は酔っ払いの男たちが嫌いだったはず。

 第二十六段の「にくきもの」でも、

「また、酒飲みてあめき、口をさぐり、鬚ある者はそれをなで、盃こと人に取
 らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。」
(また、お酒を飲んでわめいたり、口をせせったり、ひげを生やしている人は
 それを撫でながら、盃を押し付けて飲めと無理強いしているのは見苦しい。)

で始まる部分があり、お酒の席での男たちの酔態を見事に描いている。

 そして、下っ端ならともかく、いい身分の人がみっともないと清少納言は言
い捨てている。実は、この頃の貴族の宴会は、そんなに上品ではなく、貴族で
あってもぐたぐたに酔っぱらったりしたらしい。ライバルの紫式部も『紫式部
日記』にそんな宴会から逃げ出した様子を書いている。宴会で酔っぱらいがや
ることは今も昔も同じで、身分にも関係ないのだ。

 それなのに、たったこれだけでお酒のみの異名を得てしまうとは、清少納言
も気の毒に。でも、それだけ身近に感じられる人なのだとも思える注釈の一文
だ。

 まだまだ見逃した文章もあるとは思うけれど、今回はここまで。
 ぜひ『枕草子』を片手に、おいしいものを召しあがってみてください。

 さしあたっては、お豆などいかが?

 ぽりぽり。
 
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『枕草子』          池田亀鑑校訂 岩波文庫
『平安朝の生活と文学』     池田亀鑑著 角川文庫
対訳古典シリーズ『枕草子』 田中重太郎訳注 旺文社文庫
『宮廷文学のひそかな楽しみ』 岩佐美代子著 文春新書 
『枕草子のたくらみ』「春はあけぼの」に秘められた思い」
 山本淳子著 朝日新聞出版
『春はあけぼの』        田辺聖子著 角川文庫     
『紫式部日記』            宮崎荘平訳注 講談社学術文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第112回 現在に接続する歴史
―金村修・タカザワケンジ『挑発する写真史』(平凡社)

 芸術の歴史を綴った本を読むと、少し複雑な気持ちにさせられる。政治の歴
史であれば、その時代に影響を与えた人物というのは比較的明確であり、そう
した人物の業績を拾っていけば政治の流れを確実に追うことができるだろう。
芸術の歴史にももちろんそういう人はいる。しかし、芸術の世界で実効性とい
うものは、政治におけるように最重要の要素ではない。芸術は表現であり、表
現は人の内面の問題である。それは「成果」では測れないものだ。

 歴史を辿ろうとすれば、この技法・概念は誰それが発見した、ということを
手掛かりにしないわけにはいかないが、芸術の歴史を天才の歴史と割り切って
しまうと、「天才認定」されなかった多くの芸術家の真摯な精神の営為を見過
ごすことになっしまう。

 今回取り上げる金村修とタカザワケンジの対談集『挑発する写真史』(平凡
社)は、そうしたジレンマを鋭敏に感じ取りながら写真芸術の歴史を語っいる。
金村修は1964年東京生まれの写真家。東京綜合写真専門学校を卒業し、2000年
に史上2番目の若さで土門拳賞を受賞。ニューヨーク美術館が行った展覧会に
おいて「世界に注目される6人の写真家の1人に選ばれたこともある。タカザ
ワケンジは1968年群馬県生まれの写真評論家。早稲田大学を卒業後、写真全般
についての多くの文章を発表する傍ら、東京造形大学他で非常勤講師を務める
など、写真の教育・啓蒙活動に勤しんでいる。

 本書は写真の通史ではない。2013年に定期的に開催された写真史講座を単行
本化したものである。写真史を年代順に淡々と辿るのではなく、テーマ別に著
名な写真家たちを数名ずつ選び、対比させる形でその仕事を吟味する。そして
2人はその作業を極めて慎重に行っている。

 「歴史は矛盾したもの同士の衝突で、その衝突に勝ち残ったものだけが歴史
を更新していく。歴史はだから勝者の歴史だし、そんな勝者が中心を演じる写
真史にはまるで興味がなかった」(金村)

 「授業の冒頭で、私はいつも、受講生の方たちにこう言っている。『写真家
は、それぞれの写真史を持っている。みなさんも、自分の写真史を持ってほし
いし、自分がつくっている作品が、写真史の中のどのような作品と関連がある
かを知ってほしい」(タカザワ)

 写真史は英雄列伝ではなく、写真に興味がある人が各々の視点で各々が作り
上げていくものだという認識が根底にある。この本の気持ち良いところは取り
上げた写真家たちを、敬愛はしても神聖視することはせず、必要なエッセンス
を気取らない態度で的確に抽出していくところにある。

 「アジェの写真って、けっこう余分なものが写ってますよね。ちょっとだけ
通りが写ってるとか、ちょっとだけ看板が見えるとか。おまけっていうか。そ
ういうものが写ってくるところが、写真らしいリアリティを感じる」(タ
カザワ)

 「写真は写した主題以外のものが写ってしまうと、そちらに目がいく。主題
よりも画面の細部。近代写真の原点が、ここにあるような気がしますね」(金
村)

 こうした指摘は、ウジェーヌ・アジェを崇拝する人の口からはなかなか聞け
ないものではないだろうか。一つの光景を美しい絵のように撮るのでなく、ノ
イズも拾ってしっかり記録する。2人はそこに「歴史」を見出す。

 また、次のような個所では、写真の「芸術」としてのポジションに、踏み込
んだ疑問を投げかける。

 「スティーグリッツは、写真を芸術として認めさせようとしたけれど、写真
の存在そのものが芸術の獅子身中の虫、みたいな」(タカザワ)

 「真実を追求をすること、内面を告白することによって芸術になるというこ
とと、写真は対立する。写真は写せば写すほど、現実が真実という概念から遠
ざかっていることを明らかにするわけだから」(金村)

 貴族の文化を基盤に発展していった絵画と、大衆文化を基盤に発展していっ
た写真。両者の間で「真実」という概念の重みにズレがあるというのだ。


 表現として写真を志すことに対しては次のような発言がある。春日昌昭の写
真について。

 「写真を撮るのが面白い、ということで撮っていたわけで。行為だけが突出
してる。結果はどうでもよかったんじゃないかな。じゃあ、何のために? っ
て言われると……。この時代からでしょうね。『何のために?』という目的が
なくても、やる写真家が出てきた」(金村)

 「なるほど。職業としての写真家じゃないんですよね。/これは『写真家』
の定義に関わることですけど、一般に写真家というと、写真で食べてる人、プ
ロフェッショナル・フォトグラファーということになるけど、写真史を見てい
くと、歴史をつくってきた写真家は、必ずしも写真で食べている人ばかりでは
ない。むしろ、新しい表現をつくり出してきた人の中には、その作品では稼げ
なかった、あるいは稼いでいない人がたくさんいる」(タカザワ)

 生活の糧にはならないが、趣味でやっているわけではなく、写真を撮るとい
う行為そのものに人生を賭ける。表現の基盤が個人という単位に収斂すると、
当然そのような感じになるだろう。それがある種のダンディズムを形成するこ
とにもなると思う。但し、「一生無為なまま写真を撮り続けて、無為なまま死
んでいってもいいんじゃないかっていう人は、もうあんまりいない」(金村)
そうだ。

 本書には夥しい数の人名が登場する。これらの人名は、2人が評価を下すた
めではなく、写真の現在にとってどんな意味があるのかを吟味するために引か
れる。評価の固定化は、むしろ積極的に避けられている。それぞれの写真家が
一生を賭けて追及したものの現在における可能性について、つまり現在も生き
て動いているものとして、言及されるのである。歴史を過去の問題ではなく現
在の問題として捉える。芸術の歴史を扱った本で、こうした趣向のものは余り
ない。

 欲を言えば、それぞれの写真家が、見る人とどう関わってきたのか、その辺
りの話をもう少し読みたいところだった。表現というものは、表現者の内部で
完結するものではない。表現というものは伝えていくものであり、表現の先に
は他人の存在がある。撮る行為に没入する、個人性が極まった表現の先には、
たとえ大衆的な人気が得られなくても、大きな評価を受けられなくても、「知
る人ぞ知る存在」でありたいと願う気持ちが隠されていると思われる。無為な
ままに写真を撮り続けたいという人が少なくなったということは、「知る人ぞ
知る存在」を目指すことにリアリティが感じられなくなってきたということで
はないだろうか。尖鋭的な表現を行ってマニアに喜ばれるより、身の周りにい
る人たちを突き動かしたいという欲求が勝ってきているのではないか。だとす
ると、表現を交換しあう場作りの問題も、歴史から学べるのではないか。そん
なことも考えさせられたのだった。

*金村修・タカザワケンジ『挑発する写真史』(平凡社 本体価格2300円)

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■あとがき
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 さまざま事情が重なり、配信が遅くなりました。(aguni原口)

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