[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ Vol.748

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□■[本]のメルマガ【vol.748】20年3月25日発行
[ 今月もコロナです 号]
http://honmaga.net/ 
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□■ 創刊は1999年5月10日、現在の読者数は4075名です。
■□ 「まぐまぐ」で、殿堂入りメールマガジンのひとつに選ばれました。
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★トピックス
→スーパー銭湯のライブラリー

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→最新フィレンツェの状況報告

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→犯罪者との心理戦で見えたもの

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→コロナの前では竜巻先生もまじめモード

★「はてな?現代美術編」 koko
→美しい手書きは、アートです

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→宇宙に行ったイヌの後日談
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp

『嘘と拡散の世紀:「われわれ」と「彼ら」の情報戦争』
ピーター・ポメランツェフ著 築地誠子・竹田円訳
四六判 296ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562057511

世界は嘘が個人の内面に一瞬で侵入する時代に突入した。偽情報はいかに生み
出され、深刻な対立をまねくか……キエフ出身の英国人ジャーナリストが米中
ほか世界各地、特に祖国ウクライナとロシアについて詳述した必読の書!
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■トピックス
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寿の湯レポート
兵庫県三田市に新しいスーパー銭湯ができて、ライブラリーが売り物になって
いると聞いて行ってきた。名前は寿ノ湯。運営会社の社長の実家がかつてやっ
ていた銭湯の名前らしい。メルマガの性格上、スーパー銭湯の話は省略して、
ライブラリーにフォーカスすることにする。雰囲気はこのあたりのサイトの写
真を見ていだければおよそ雰囲気はつかめると思います。
https://www.supersento.com/kinki/hyogo/kotobukinoyu.html
https://www.lmaga.jp/news/2020/02/94122/

図書館は施設二階の最も奥にある。ここに入るには岩盤浴とセットにした追加
料金が必要だ。

入り口手前左側にはマンガたくさん並んでいて、右は人工芝が敷き詰められた
屋外休憩スペースだった。入り口を入ったところに、図書館にありそうな本や
読書用の机やイス、ソファが置かれている。

ここにあるのは、どちらかと言うと女性向けの雑誌や児童書、ちょっと古めの
単行本が目立つ。私にはあまり興味が持てないラインナップだ。さらに奥に行
くと、読書用のおしゃれなカプセル風個室が並んでいる。部屋の色がいろいろ
あって楽しい。

そして一番奥に行くとスロープがあり、スロープから先が「ライブラリー」と
いうことになる。この辺まで来ると、並んでいる本は「おしゃれ」がキーワー
ドになりそうなアートやスローライフ関係の本が多くなる。横尾忠則とか、安
藤忠雄とか。そして翻訳物も多い。文庫の小説も少しあった。

六本木にある入場料が必要な書店「文喫」が選書しているそうだが、休憩中に
暇つぶしに読める(眺める)ようなのを選んでいる感じである。もっとも「ほ
ぼ命がけサメ図鑑」のような尖った本も・・・。一番目立たないところに、あ
る宗教指導者の全集が揃えてあったの。経営者の宗派がこの宗教なのだろうか?。

そしてよく見ると、本棚の所々に、数は少ないが読書用の隠れスペースがある。
頭だけ隠す形で図書館風に読む姿勢を保つスペースもあれば、ぐで〜としてペー
ジをめくるスペースもある。その気になれば、ノートを持ち込んで隠れスペー
スで勉強や仕事も出来るだろう。その意味ではいろんな読書スタイルが取れる
ように工夫して作られていると言えそうだ。

個人的には、昼前くらいに入って、温泉に浸かった後、ランチにビールを付け
てほろ酔い加減になったところで図書館に行くのがいいと思う。そして本を眺
めながら瞼が重くなったらそのまま寝て、起きたら風呂に入ってまた読書とい
う感じで一日過ごしてみたい。そんなことを思った。

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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第109回 「死ぬ人はみな死んだ」のタイトルへの疑問

ほんの一ヵ月前、2月21日に北部ベネト州で新型コロナウイルス感染による死者
が初めて確認されてから、今日までに膨張したイタリア内の感染者・死者の数
といい、ついに感染が世界的に拡大する事態にまで急発展したことを考えては
驚いている。

4月3日まで、必要不可欠な理由以外では外に出ない。外出をしてはいけない。
せいぜい早すぎる春の兆候をみせる太陽の輝きをあびようとテラスやバルコニー
に出る。と、物音がいっさい消えていて、不思議な静けさの中で風だけが動い
ているのを感じる。

目に入るたくさんの住宅に人がいるはずなのに、声も聞こえず、姿も見えない。
音もたてずに動くのはモミの木やポプラの木の間を飛ぶカササギやハトやカラ
ス...。

たぶん、多くの人はリビングやキッチンや書斎で、ほかの家族もしているよ
うにスマホを見て、友だちにトークを送り、写真を送って、返信が来た音がす
ればすぐに見てホッとしているのだろう。家族といっしょにテレビでえんえん
と続くコロナニュースを見ているのかもしれない。

必要な外出は食料を買いに行くことだけで、開店時に大型店に行くと一列に、
目安の一メートルの間隔をとってほぼ一人ずつが入場待ちで並んでいる。マス
ク姿が増えた。
今月の二度の経験では店になくて買えないものは何もなかった。入口に張り紙
があるように、生産状況は安定しているので余分な量は買う必要がないという
ことを表しているのだろう。

時間は今までと同じように、早まるでもなく遅れるでもなく過ぎている。退
屈するということもない。本を読むしかないとしても、一年かかっても読み切
れないだけの量はあると夫もいって笑ったくらいだ。

今朝は旧友が日本から電話してきて、よほど心配してくれたのだろうと思っ
た。彼女は年上だが旧式のケイタイを使い、メールも拒否しているほどのテク
ノ嫌いで、帰日するたびに会ってはいるのだが手紙を書き送れなかった。
ここのところ甥や姪たちも日本に伝えられるイタリアの現況にショックを受け
たのか、安否を確かめるようにスマホに連絡をしてきた。

日本のメディアの記事は毎日よく読んでいる。タイトルにあげた記事も読み、
フィレンツェ在住の女性が北部の深刻な医療状況の中でボランティア活動をし
ているのに感嘆した。自らへの感染の危機感はあっても“やるしかない”とい
う気持ちなのではないかと思う。

ただ、記事のこのタイトルは、まだ英国が感染の嵐に見舞われる前に表現して
いた、感染した高齢者の命を救おうとするより、“自然淘汰”とみるという考
え方にあまりに近いような気がする。
確かに医療体制が完全に崩壊するリスクは論外だが、高齢でも若くても、死ぬ
人をあくまで防ぐという体制は守らなければならない。

一か月後の世界はどうなるかわからないし、新型ウイルスについて研究が進ん
だとしたら、どう方向の見直しがされるのか予測はできない。

「30万人以上の死者か、大量の失業者か」という、現在、行われている対策に
ついてのmag2ニュースも気になるし、また「イタリアは今月中にも金融機関の
破綻が出てきてもおかしくない状態だ」という週刊エコノミストOnlineに載っ
たリサーチ記事も読んで暗澹となるばかり。

厳しいが、力づけられたのは、これは短距離走ではなく長いマラソンで一人
一人が状況に応じたペースで走り続ける必要があるという山中伸弥教授の言葉
だ。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
melmaで16年間に発行しましたメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melma の
事情によりサービス終了しました。


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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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柚木麻子 『BUTTER』新潮文庫 900円+税

10年ほど前、関東と鳥取で、さして美人とはいえない女性の周囲で、社会
的な地位も財産もある中高年男性が相次いで不審死を遂げる事件が起こりまし
た。女性たちの痩身願望が病的に高まっている時代に、男たちを魅了してやま
なかった二人の女性が、それとは真逆の体型であることにも世間は驚いたので
す。関東の事件に題材を得た本作は、刊行当時大きな反響を呼び、このたび文
庫化されました。連続不審死事件の容疑者、梶井真奈子(カジマナ)と、週刊
誌記者町田里佳との心理戦を軸に、ストーリーが展開していきます。

カジマナの独占インタビューを掲載するために、里佳は繁く拘置所に足を運
びます。カジマナが、マーガリンとフェミニズムを嫌悪することに里佳は驚き
ます。カジマナの歓心を買うために、里佳は彼女の指示する食べ物を食べ続け
ます。バター醤油掛けごはんに始まり、深夜のバターラーメン。そしてクラシ
カルなバターケーキ。当然里佳は太ります。そうは言ってもまだ標準体重以下
なのですが、周囲は大騒ぎをします。「(痩せるよう)努力しなよ」という恋
人の心ないことばをきっかけに、二人の関係は冷え込んでいきました。

周囲の目を気にすることなく、欲望の赴くままに生きたカジマナに、里佳は
強い憧れを抱くようになります。里佳は、ほとんどカジマナのマインドコント
ロールを受けているに等しい状態に陥ってしまったのです。しかし、カジマナ
が少女時代を送った町を訪れるなど、旺盛な取材を重ねる過程で、里佳は徐々
にカジマナの呪縛から脱していきます。カジマナの大言壮語の陰に潜む、寂し
い素顔にも気づくようになります。こうして二人の力関係に、微妙な変化が生
じていきます。しかし、カジマナとの戦いは一筋縄ではいきません。

本作の主題の一つは、里佳とカジマナ、そして里佳の学生時代からの親友で
ある怜子との「三角関係」です。母親との離婚の後の自堕落な生活の果てに死
んだ父親をもつ里佳。性的にふしだらな両親をもつ怜子。そして父親が謎の死
を遂げたカジマナ。3人は壊れた家庭の娘という意味で似た者同士であり、相
互にそのことを意識していたのです。里佳と怜子の間には、友情の域を超えた
ほとんど同性愛的とも呼ぶべき感情が流れていました。カジマナから里佳を奪
還するために怜子は、無謀な行動に走り深く傷ついてしまいます。

カジマナと里佳との心理戦の結末は?それは読んでのお楽しみ。しかし本作の
結末は希望に満ちたもので、読後感も爽やかです。家事能力のない、孤独な男
たちがカジマナの餌食になった。他方、一度は奈落の底に墜ちた里佳を救った
のは、怜子をはじめとする友人たちの存在であり、カジマナの取材の過程で覚
えた料理の楽しみだったのです。人間を苦境から救うのは同性異性を問わぬ友
人の存在であり、生活を自らの手で築き上げ楽しむことのできる能力である。
そのことを本作は繰り返し訴えています。どうかご一読ください。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「見えない敵」の話

「新型コロナウイルス」の事はどうしても避けて通れない。
当初「水際作戦」だとかいろいろ言っていたがウイルスの特異な?性質のため
あっという間に世界中に広がって収束する片鱗さえ見えない状況だ。
仕事や留学などで海外にいる知人が帰国が困難になって困っていると聞き、思っ
た以上に世界は身近で繋がっているんだとつくづく思う。

これの厄介なのが接触感染、飛沫感染に加えてエアゾル感染の可能性が高い事。
当初に散々言われ続けた「8割の人間は軽い風邪の症状で自己免疫で治る」と
言う情報も「自分はその8割だ」と考える人間がウイルスを拡散させている可
能性が高い。

あと「未症状感染者がまあまあの割合で存在する」と言う事。
この「未症状感染」の未症状がどれぐらいのものなのかあまりアナウンスされ
ていないように思うのだが…例えば「ほんのちょっとだけど喉の痛みはある」
とか「微熱だがある」とかなのか、または「全く自覚症状がない」のか?
もし「全く自覚症状が無いのに感染していて他の人にうつす」のならば実にた
ちが悪い。

本人も気づかなければうつされる方も防ぎようが無い。
無自覚のうちに加害者にも被害者にもなってしまう。感染経路も追いようが無
い。
まさに「見えざる敵」だと。

ネット上ではいろんな情報が飛び交っているけど本当に欲しい情報はどこにあ
るのだろう。

「未症状感染」とはどんなレベルか?「重篤化しやすい持病」とはどれぐらい
のモノを指すのか?「自己免疫で回復した後もどれぐらい身体にダメージを受
けるのか」とか。
あと「高齢者」って十把一絡げ言われてもそれがどれぐらいリスキーなのかが
わからない。
(お上からは70まで働けと言われているのにね)

「見えない敵」に対峙するには相手を少しでも可視化する事が大切なんだけど、
長期政権でダレまくった現政府の的外れな対応を見ると悲観論者の私としては
2割の重篤者になる気がしてならない。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第105回 『美しい文字は最高のアート ─── 静岡県の旅 』

いやいや、外出自粛ム─ドにどっぷりつかって、ネット配信動画三昧の3月。
住野よる原作の映画『君の膵臓をたべたい』を見た。映画自体ももちろんよかっ
たけれど、何が印象的だったって、主人公の女子高生桜良(さくら)が書く手
書きの文字がとても美しかったこと。

あんな文字が書ければ手紙書くのも楽しいのではないだろうか。一文字一文字
のペン運びはとても上品で女性らしい。桜良の人柄がこの文字に現れている。

自分が学生の時は、今よりかなりましな文字が書けたけれど、今となっては醜
い文字しか書けなくなっている。

これもPCの影響。便利になった反面、何かを忘れてしまった感は否めない。
≪字は体を表す≫というけれど、私の心はかすれてしまったのかな。
桜良とは比較にならないほどすさんでるよ。。。

フランスでも同じことが起こっているが、それはPCというよりも教育とタイプ
ライターの出現のせいだろう。筆記文字が書けるフランス人はかなり少なくなっ
ている。

書いた文字を読むのはさらに難しい。悪筆が重なると全く読めない。余談だが、
悪筆というとき、仏語では「comme un chat(猫のように) 」とか 「de coc
hon(豚みたいにひどい)」という。

本当にフランス人は全く猫豚のようなひどい字を書く。日本人の方がよっぽど
綺麗にアルファベットを書くことができるのは学校教育のおかげです。

安倍首相と習近平主席の文字を並べて話題になっていたブログをたまたま見た
時も、さもありなん、的な話だった。
安倍さんの達筆毛筆と、習さんのサインペンの今時文字の画像だ。
笑えた。
私の仏語とフランス人の友人の文字を並べるのに少し似ている。
こっちは筆記体、本場の彼らは大文字のブロック体。
どうみても私の方が正しいフランス人でしょ、って昔は思ったものだ。

美しい文字に心奪われる瞬間は、完璧な裸体ギリシャ彫刻に魅せられるのと同
じようなもの。目は釘付け。

今月、その瞬間は、コロナウィルスを逃れて車で出かけた先でたまたま起こっ
た。
静岡県熱海市のMOA美術館の一室でのこと。

国宝『手鑑 翰墨城(かんぼくじょう)』である。この部屋には尾形光琳の『
紅白梅図屏風』と野々村仁清の『色絵藤花文茶壺』が一緒に展示されていた。

三大手鏡と言われる『翰墨城』は、現代アートの抽象画のようでもあり、生き
物のようでもあり、とにかく私の眼を釘付けにした。昔の人の美的センスには
驚愕する。

あの筆運びはどうやって習得されたのだろうか。漢詩もいいけど、仮名文字の
うっとりとする曲線と紙面とのバランスが絶妙だった。
ハガキに宛名や氏名を書く時の瞬間のバランス判断と同じなんだろうな。

□MOA美術館サイト 翰墨城について
http://www.moaart.or.jp/?collections=090

実は今回の車で散歩の目的は、江之浦測候所を訪れることだった。
このコラムで触れたこともあるけど、小田原文化財団江之浦測候所は、カメラ
マン杉本博司氏が個人的にコレクションしてきた古美術を配置した贅沢な空間。
どうしても天気のいい日に行きたかったので、天気図をにらんでパーフェクト
な日に訪れることができた。
お陰様で最高に気分のいい朝を送れました。
海に向かって「さらば、ウィルス!」

□小田原文化財団江之浦測候所サイト
https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

訪問後すぐにヨーロッパの軟禁生活を強いられている友人達にFBで日本の春を
伝えた。
はやく収束するといいのだけれど・・・
自由に散歩できる日本で本当によかった。
◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 28 内藤陽介
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ストレルカとベルカ

1960年5月15日にスプートニク4号(コラブリ・スプートニク1号)が打ち上
げられた後、6月28日の打ち上げ失敗を経て、8月19日、バイコヌール宇宙基地
からスプートニク5号(コラブリ・スプートニク2号)が打ち上げられた。

スプートニク5号はヴォストーク有人宇宙船の試験機として、生命維持装置
を備えた気密室と大気圏突入のための構造を備えており、人間こそ乗らなかっ
たものの、ストレルカとベルカと名づけられた2匹の犬に加え、1匹のウサギ、
42匹のネズミ、2匹のラット、ハエ、沢山の植物や菌類が乗せられていた。

2匹の犬はモスクワで捕獲された雑種の野良犬で、

1.メスであること(宇宙服とトイレの調達がオスに比べて容易)
2.体重7キロ以下
3.体毛が明るい色(カメラ写りがよいように)

という条件を満たしていたことが決め手となった。ちなみに、名前のストレル
カはロシア語で“矢”、ベルカはロシア語で“リス”の意味である。

8月19日に打ち上げられたスプートニク5号は軌道へ到達した後、地球を18周
した後、無事帰還を果たした。この間、ボンのラジオ局がスプートニク5号か
らの信号を始めて受信し、3周目にはスウェーデンのラジオ局がそれを確認し
ている。なお、打ち上げの正確な時刻については、08:38:24 UTC(協定世界時)
と08:44:06の2説がある。

スプートニク5号の成功を受けて、9月29日に発行された記念切手
https://blog-imgs-142.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20200325001840518.jpg
には、クレムリンの上空を飛ぶロケットとストレルカとベルカが描かれている。
宇宙から無事に帰還した世界初の生物となったストレルカとベルカは、ソ連の
宇宙技術の優越性を示すアイドルとして、当時、メディア等でも盛んに取り上
げられた。

スプートニク5号の帰還から8ヶ月後の1961年4月12日、ユーリ・ガガーリンを
乗せたヴォストーク1号の打ち上げにより、ソ連はついに、人類初の有人宇宙飛
行に成功するが、その後も、ストレルカとベルカの“アイドル”としての価値
は衰えなかった。

そのことを示すかのように、1961年6月3−4日、同年1月に米国大統領に就任
したばかりのジョン・F・ケネディとフルシチョフがウィーンで首脳会談を行っ
た際、晩餐会でフルシチョフの隣に座ったファースト・レディのジャクリーン
は、ストレルカとその子犬について話題にしている。もっとも、ジャクリーン
としては、フルシチョフとの会話に詰まって、とっさに無難な話題として犬の
ことを話しただけだったようだが、ヴォストーク1号の成功で得意絶頂のフルシ
チョフは、即座に、ストレルカの産んだ子犬をケネディの娘、キャロライン(
後の駐日大使)に贈ることを決断した。

ちなみに、宇宙から戻った後、ストレルカはプショークと名付けられたオス犬
との間に6匹の子犬を産んでいる。また、プショークもソ連の宇宙基地内で地
上での実験に数多く参加したが、結局、宇宙には行っていない。

ストレルカの産んだ6匹のうち、米国に贈られることになったのは、“綿毛
”を意味するプシンカと名付けられたメス犬で、その名の通り、真っ白でふわ
ふわの毛が特徴だった。

米国に到着したプシンカは、隠しカメラや盗聴器を仕込まれた“スパイ犬”で
ないことを確認するための厳重な検査を経て、ホワイトハウスに届けられた。
ホワイトハウスでは、まず、ホワイトハウスのスタッフだったトラフィーズ・
ブライアントと、ケネディの息子のジョンがプシンカと対面した。そのとき、
ケネディは私室にいたので、ジョンは「ねえ、ブライアント、プシンカをパパ
の部屋に連れて行こう」と言ったが、ブライアントには大統領の私室に入る権
限がなかったため、ジョンが大統領のいる部屋に連れて行った。

プシンカが無事に到着したことを受けて、ケネディは「親愛なる閣下…妻と私
は『プシンカ』を受け取り、大変嬉しい。ソ連から米国への飛行は、プシンカ
の母親の宇宙飛行ほど劇的ではなかったかもしれないが、やはり長い旅路であ
り、彼女はそれによく耐えた」とフルシチョフに礼状を送っている。
その後、ようやく、プシンカは新たな主人となる4歳のキャロラインの元へ
届けられた。

プシンカを初めて見たキャロラインがプシンカを撫でようとしたとき、警戒
したプシンカが唸り声をあげると、キャロラインは犬の後ろにまわって尻を蹴
飛ばした。この話を聞いたケネディは「それは、悪者のロシア人たちを懲らし
めたんだな」と大笑いしたという。
当時、ケネディ家には、ウルフ、クリッパー、チャーリー、シャノンの4匹
の犬がおり、プシンカもすぐに溶け込み、チャーリーとの間に4匹の子犬を産
むと、ケネディは子犬を、“子犬とスプートニク(puppy + sputnik)”の造語
で“パプニクス(pupniks)”と呼んだ。
パプニクス誕生のニュースに米国は沸き立ち、ホワイトハウスには約5000人
から「子犬を一匹分けてください」との手紙が殺到した。最終的に、バタフラ
イとストリーカーと命名された2匹が中西部の子供たちに贈られ、ホワイト・チッ
プスおよびブラッキーと命名された2匹はケネディ家で暮らすことになった。


内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965)』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記
コロナの直撃を受けて、どこも大変ですね。
うちもしばらく無収入(でも経費はかかる)で行かざるを得ません。
社会が正常化するまでまだまただかかりそうですが、今は耐えるしかありませ
ん。


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[本]のメルマガ vol.747


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 ■■ [本]のメルマガ                 2020.3.15.発行
 ■■                            vol.747
 ■■  mailmagazine of book       [桜が咲き始めました号]
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 生活になくてはならないレアメタルをめぐる状況と問題を政治や外交、地政学
 などさまざまな観点から掘り起こす。2018年フランス経済省経済書籍賞受賞。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 →  第64回「こんなときだからこそ本を読む」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第129回 新しいパンツをはこう 
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → そもそも「歴史」を学ぶとは…
  
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 ■「散慮逍遥月記」停雲荘主人
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 第64回「こんなときだからこそ本を読む」
 
 こんにちは。世情騒然とする中,みなさま如何お過ごしでしょうか。
 
 とうとうWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言し,世情騒然とする中で,
 アルベール・カミュの『ペスト』が売れているという新聞報道(1)を見ると複
 雑な気分になります。わたしはもう40年近く前になる高校生の頃,新潮文庫に
 てスタイリッシュなお揃いの装丁(2)で刊行されていたカミュの文庫本を片
 っ端から読み漁ったことがあり,そのとき読んだ『ペスト』(1981年の23刷)
 はいまも手元にあります。以前読んで以来ほとんど読み返していなかったの
 で,売れてる,という記事を見てびっくりして本棚から発掘して読み返そうと
 したら,活字が小さいため老眼が進んだ現在では読むのがつらいため,やむを
 得ず改版されて字が大きくなったもの(2004年1月改版,2019年8月84刷)を
 書店で購入しました。改版されて字が大きくなると,1ページあたりの情報量
 が変わってくることを実感しています。
 
 ところで,学校が休校になり,大学も陸続と行事が中止に追い込まれていく中
 で,ひょっとすると若い世代に「読書」の愉しみが見直されることになるきっ
 かけになっていくのかどうか,さまざまな「おすすめの本」がSNSを中心に紹
 介されています(3)。わたしもこれにあやかって,若いひとに読んでほしい書
 籍を何冊か紹介してみます。
 
 1)『大学教育について』(岩波文庫)(4)
 
 「ある人間の知性と他の人間の知性とを区別する根本的でもっとも特徴的な点
 は何でしょうか。それは証拠となるものを正しく判断できる能力です。」
 (66ページ)
 
 ジョン・ステュアート・ミル(1806-1873)が60歳のとき,セント・
 アンドルーズ大学の名誉学長となった際の就任演説の翻訳です。J.S.ミルにつ
 いては説明するまでもないでしょう。19世紀半ばのイギリスの大学教育をめぐ
 る演説ですが,20世紀の終わる頃からこの国で行われてきた「大学改革」なる
 ものが如何にネオリベラリズムに汚染されたデタラメで欺瞞に満ちたものであ
 るか,すでにミルの演説は遠き異国の地における「改革」のデタラメぶりを見
 通したかの如く,鋭い舌鋒で読者に「教養教育」の大切さを説き迫ります。現
 在のわたしたちの大学教育がミルのお眼鏡にかなうとは到底思えず,ただただ
 本書の主張に恥じ入るばかりです。これから大学を目指す若いひとに読んでも
 らえるとありがたい1冊です。
 
 2)『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫)(5)
 
 「わたしがいいたいことは,国家というものは,人間に対して贈り物のように
 与えられる一つの社会形態ではなく,人間が額に汗して造り上げてゆかねばな
 らないものなのだということである。」(220ページ)
 
 いわゆる「大衆社会」と呼ばれる社会の傾向について,その分析と評論を試み
 た書であり,「大衆社会論の嚆矢」(ちくま学芸文庫版の帯)と目されるもの
 です。ホセ・オルテガ・イ・ガセット(1883-1955)はスペイン出身の哲学者
 ですが,本書の巻末解説の見出しに「活動的教育者としてのオルテガ)
 (288ページ)とあるように,大学教授の職にあるかたわら,新聞や雑誌に評
 論を寄稿し,講演を行い,書を携えて社会に出て啓蒙家としての役割を果たし
 たひとであったようです。
 『大衆の反逆』は1930年に出版されましたが,この本もまた,現在のこの国に
 おいて自由主義が危機に瀕し,またこれほどまでに「専門家」が軽視されてい
 ることを,そして「ナショナリズム」が跳梁跋扈していることを,はるか以前
 に予言し,警告している本のような気がします。わたしの身内が就職前に,就
 職先のひとに勧められて読んでいたのが『大衆の反逆』でしたが,蓋し慧眼と
 言うべきでしょう。
 
 3)『伊丹万作エッセイ集』(ちくま学芸文庫)(6)
 
 「現在の日本は政治,軍事,生産ともに行き当りばったりであり,万事が無為
 無策の一語に尽きる」(「戦争中止ヲ望ム」76ページ,原文のカタカナをひら
 がなに直した)
 
 伊丹万作(1900-1946)は脚本家にして映画監督。いまも見ることのできる作
 品では,志賀直哉の小説が原作である「赤西蠣太」(1936年)が志賀直哉も絶
 賛したという,傑作としての呼び声が高い作品です。第二次世界大戦でのこの
 国の敗戦にいたる過程を,かなり醒めた目で眺めていた(病臥しており活動が
 困難だった)ひとで,「戦争中止ヲ望ム」は執筆当時発表されませんでしたが,
 1941年から翌年にかけて雑誌に連載された「シナリオ時評」や戦後すぐに書か
 れた「戦争責任者の問題」の中で,時の為政者や社会の空気,そして当時の映
 画関係者の姿勢を厳しく批判しています。何でもかんでも現在の状況を通して
 見るのは邪な見方だとは思うものの,やはり昨今の状況を伊丹の文章に投影せ
 ずにはいられません。
 
 以上3冊,どこかで目にしたらご一読ください。この難局を若いみなさんひと
 りひとりが,各々のやり方で乗り切ることができる一助になれば幸甚です。
 ではまた次回。
 
 
 
 (1)目に止まったのはこのあたり。
 カミュの小説「ペスト」在庫切れ相次ぐ 伝染病の脅威、後手に回る行政 現状
 と重ねてか - 毎日新聞
 https://mainichi.jp/articles/20200227/k00/00m/040/366000c
 
 カミュの小説「ペスト」が人気 新型コロナで1万部増刷:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASN32643TN32UCVL014.html
 
 困難から得られるもの 週のはじめに考える:社説:中日新聞(CHUNICHI Web)
 https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial
                                             /CK2020031502000111.html
 
 (2)現在刊行されている『異邦人』や『ペスト』は装丁が代わってしまったが,
 2012年に初めて文庫本が出た同じくカミュの『最初の人間』でその装丁をしの
 ぶことはできる。
 カミュ、大久保敏彦/訳 『最初の人間』 | 新潮社
 https://www.shinchosha.co.jp/book/211411/
 
 (3)このあたりをご参照ください
 出版社さんや作者ご本人さまのオススメもある #外に出られないなら本を読め
 ばいいじゃない - Togetter
 https://togetter.com/li/1474761
 
 出版社さんや作者ご本人さまのオススメもある #外に出られないなら本を読め
 ばいいじゃない その2 - Togetter
 https://togetter.com/li/1477816
 
 ハッシュタグ #こんな時だからこそ読みたい本 まとめ - Togetter
 https://togetter.com/li/1478070
 
 (4)
 大学教育について - 岩波書店
 https://www.iwanami.co.jp/book/b270889.html
 
 (5)
 筑摩書房 大衆の反逆 / オルテガ・イ・ガセット 著, 神吉 敬三 著
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480082091/
 
 (6)
 筑摩書房 伊丹万作エッセイ集 / 伊丹 万作 著, 大江 健三郎 著
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480092892/
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から司書養成が本務のはずの大学教員兼大学図書館員。南東北在住。
 好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,我
 に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  
 第129回 新しいパンツをはこう
 
  東日本大震災から9年が経った日に原稿を書いている。たしかあの日も仕事
 場で原稿を書いていた。突然の激しい揺れにあわてて部屋を飛び出して、階段
 を駆け下りビルの外に出た。まわりに倒壊した建物などはなかったが、電線が
 ユラユラと不気味に揺れていたのを憶えている。同じように建物から出た人た
 ちと顔を見合わせる。隣は小さな料亭で料理人や仲居の女性たちが不安そうに
 空を見上げていた。
 
  そばにいたカップルのiPhoneから警告音が鳴った。「いまごろになって鳴っ
 ても遅いよ」と苦笑いした。そのときは、これほどの惨事になるとは想像して
 もいなかった。
 
  テレビの画面に流れる信じられない東北の惨状、節電のため暖房を切り、湯
 たんぽを抱いて過ごしたこと、余震が続く中で一箱古本市の準備をしたこと、
 そして放射能の恐怖……平成は31年間あったけれど、平成23年、つまり
 2011年3月11日以前と以後ではまったく世界が変わってしまったようだ。だが、
 記憶が薄れていき、気をつけなければ、その感覚も忘れてしまいそうだ。
 
 『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(松永良平 著
  晶文社)を読んだ。
 
  松永さんは、ぼくがときどき行くレコード店に勤めている。物静かな人で、
 ゆっくりお話をしたことはない。音楽ライターとして活躍している人なので、
 レコードを買うときに松永さんがカウンターにいると、ぼくはドキドキしてし
 まう。いや、ドキドキする必要などまったくないのだけど。
 
  『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』って面白いタイト
 ルだな。ユーモラスな装丁もあって書店でも目立っていた。装丁は平野甲賀
 +古本美加、装画は坂本慎太郎だった。

  タイトルについて、あとがきで書いている。それは松永さんのライターとし
 ての心得、生き方でもあった。
 
  書くことを、野球選手の素振りにたとえて毎日何かを書き続けることが大切
 だと言っている。

 「疲れ切っていても、眠くても、一文無しでも、心が興奮で踊っていても、泣
 いていても、どんなときでも心の足腰がしゃんとしてれば言葉を先に運んでく
 れる。」
 
  心の足腰を守ってくれるのがパンツや靴下や靴だ。過去や現在のカルチャー、
 サブカルチャー、いいものでもクソみたいものでも、あらゆる文化から影響を
 受けて生きているのだから、それを受け止める自分の足腰が大切であること。
 そして、歩き続けるには、自分を守ってくれるパンツとソックスとシューズが
 大事であるということらしい。パンツ、ソックス、シューズとは自分の心を歌
 い踊らせてくれる存在すべてのことだ。
 
  この本は、音楽ライターの松永さんが音楽とともに過ごした平成元年から平
 成31年までを振り返ったエッセイ集だ。その一年一年に松永さんの生活に何が
 あったか、どんな音楽を聴いていたかを綴っている。ものすごくドラマチック
 なことが起こるわけではないが、仕事のこと、恋愛のこと、友人のことなど、
 個人的なリアルな日常というのは、こうやって書いていくと時代が浮かび上が
 ってくるようだ。二十歳過ぎからの30年なのだから、いろいろなことがあり、
 落ち込んだり転機があったり、迷ったり、決意したり、それぞれの人生にとっ
 てとても長い時間だ。
 
  小泉今日子が「これはもう長編青春小説だと思う」と帯に言葉を寄せていて
 いる。なるほど私小説ともいえそうだ。
 
  松永さんの人生には、常に音楽、そしてレコードがある。音楽がバックグラ
 ウンドにある文章は、読んでいて楽しい。そして、うらやましくもある。
 
  この本は、1年ごとに1章となっていて、松永さんがその年にふさわしいと思
 う1曲を挙げている。その年にヒットした曲ということではなく、個人的な思
 い入れの選曲になっていて、知っている曲ならば、「うーん、なるほど」とう
 なずき、知らなければ、検索して聴いてみる。そんなことが音楽好きには、じ
 つに楽しい。松永さんの部屋で話を聞きながら、レコードをかけてもらってい
 る気分になる。ぼくも二十歳ぐらいのときは、毎晩のように友人の部屋で朝ま
 でレコードを聴きながら、音楽の夢を語っていたんだっけ。そんなことも思い
 出させてくれる。
 
  音楽の世界で地道に活動をしてきた松永さんだから、たくさんのミュージシ
 ャンに囲まれている。本に登場するミュージシャンは、多士済々だ。
 
  ジョナサン・リッチマン、NRBQ、クレイジーケンバンド、SAKEROCK、星野源、
 小西康陽、細野晴臣、GUIRO、カジヒデキ、坂本慎太郎、大滝詠一、
 ヴァン・ダイク・パークス、小泉今日子、cero、片想い、VIDEOTAPEMUSIC ……
 そしてアーチストの永井宏もいる。
 
  この本に登場するのは、一般的に有名な人ばかりではないけれど、音楽シー
 ンでは重要な人たちだ。この人たちの音楽を聴いておくと、ちょっとした
 “音楽通”になれるかも(笑)じつは、正直にいうと、ぼくも名前は知っては
 いるけれど、その音楽を聴き込んでいないミュージシャンも多かった。ジェネ
 レーションギャップというか、ぼくはもうオッサンなのだ。
 
  でも登場するミュージシャンや音楽のことを知らなくても大丈夫、この本は
 音楽を背景にした青春物語として面白いからだ。
 
  平成元年、大学2年生だった松永さんは福岡の兄の部屋で昭和天皇崩御の
 ニュースを見ていた。翌日、東京に戻り御茶ノ水にあるディスクユニオンとい
 うレコード店でアルバイトに行く予定だった。こんなふうに松永さんの平成は
 始まった。
 
  どうやら落ちこぼれ大学生(結局7年生になった…)だった松永さんは友人
 と一緒に音楽雑誌を作った。楽器をやっている人だったら、バンドを作るとこ
 ろだろうけれど、松永さんはギターではなくペンを持ったわけだ。

  『リズム&ペンシル』という雑誌を作ることにした松永さんと友人は、創刊
 号のメイン記事に来日予定のジョナサン・リッチマンというアメリカのロック
 ミュージシャンを特集することにする。
 
  それからがすごい!
  松永さんたちはツテもないのにジョナサンが当時所属していたラウンダー・
 レコード宛に英文の手紙を書いたのだ。そして本人から返事をもらって、イン
 タビューを実現させてしまう。
 
  結局、この雑誌は紆余曲折があって、刊行まで5年もの年月が経ってしまう
 のだが、この熱意の持続もすごいなあ、と思う。決してあきらめず、しぶとく
 夢を持っている。音楽ライターになる、音楽とともに生きる、ことをずっと思
 い続けていた。その熱さがうらやましい。
 
  亡くなったアメリカのシンガー&ソングライター、アルゾーの遺族を訪ねる
 話、ミュージシャンズ・ミュージシャン・バンドNRBQのドラマー、トム・アル
 ドーノとの交流など、心温まるエピソードが生まれたのは、やはり実際に大好
 きなミュージシャンに会って、自分の思いを伝えるという姿勢があるからだろ
 うな。
 
  そして夢を追う青年は、たいていの場合、貧乏なのだ。ライターをするため
 にアルバイトに精を出す。その貧乏具合がとてもリアルだ。いつもお金がない
 話が出てくる。レコード店をクビになる話、工場でアルバイトをしながら、音
 楽ライターになる夢を“社員さん”に話すエピソード。
 
  そして、極めつきが電話ボックスで見た「どんな状況の人でもご融資します」
 というチラシにあった高利貸しを訪ねる。そこで自分より若い高利貸しに「お
 まえに金は貸さない!」と追い返されるエピソードはリアルで、思わず笑いな
 がら、冷や汗をかいていた。
 
  ぼく自身にとって平成という時代は何だったんだろう?
  そんなことを考えるきっかけにもなった。平成元年には、ぼくはすでに30歳
 を過ぎていて、目の前の仕事をこなすのに必死だった。夢を語るには、年をと
 っていた。それでも夢のかけらのようなものを心のどこかに持っていて、いつ
 か音楽のそばに行きたいと思っていた。それはいまも変わらない。それじゃあ、
 ぼくもそろそろ新しいパンツをはこうかな。

 ◎吉上恭太
 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し
 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。
 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!  
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  歴史の本ですから、過去のことについて書いているわけですが、なぜか今も
 その渦中にいるようなような感じを受けるというか。思い過ごしならいいので
 すが…。
 
 『建国神話の社会史』、古川隆久、中央公論新社、2020
 
  古事記や日本書紀に書かれている日本の誕生の神話。イザナギとイザナミが
 国土や神々を生み出し〜天照大神の子が降り立って〜神武天皇が即位した、と
 いう一連の物語のことです。本当に空の上から天皇の先祖が降りてくるわけも
 なく、もちろん神話であり歴史的事実ではありません。
 
  この神話が戦前の歴史教育のなかで事実であるとして教えられていたという
 ことを御存知の方もいらっしゃるでしょう。しかし人びとがそんな素直に神話
 が事実だと受け入れるわけもなく、歴史教育に携わる教師などはどのように教
 えるかで四苦八苦することになります。本書は建国神話が人々にどのように受
 け止められていたのかを探っていきます。
 
  しかし戦前の教育といっても、ずっと同じだったわけではありません。そも
 そも江戸時代には、古事記や日本書紀の記述が、事実として考えるとおかしい
 ということが知られていたといいます。中国の史書と照らし合わせると時代が
 合わなかったり、不自然に長寿の天皇が存在したりするのが理由でした。
 
  ところが幕末に尊皇攘夷思想に影響を与えた水戸学が、この神話に疑問をさ
 しはさむべきでないということを唱え始めます。こうした思想統制じみた態度
 をとれば天皇を中心とした国家の統制が取れるとした水戸学の主張に、著者は
 「愚民観」が透けて見えるとしています。水戸学は幕末の維新の中心人物たちに
 も影響を与えています。
 
  明治時代になると学校制度も次第に整備されるようになって、学校教育でも
 歴史が扱われるようになります。1881年からは建国神話も史実として教えられ
 るようになります。このときの小学校の歴史教育の目的は「天皇を敬い国を愛
 する意識を養うため」(p,39)とされました。歴史の教育に道徳の要素が多分に
 盛り込まれています。
 
  とは言いながらも実際には子どもへの教育は大変だったようで、本書に引用
 されている指導の手引きのようなものには、色々な方法が示されています。詳
 細には深く立ち入らないようにするようにするというのがあったり、児童の疑
 問には寛大に対応して丁寧に対応というやり方が推奨されていたり、歴史教育
 者の悩みぶりがよく伝わってきます。
 
  ただ学校の中では事実として教えるということになりましたが、学校の外を
 見てみると、教えることの是非はともかく、それが事実であったという点につ
 いては否定的な意見が当たり前でした。これでは教える側が大変なのは当然と
 いえるでしょう。
 
  意外だったのは大正デモクラシー期には、建国神話にでてくる神々の会議を、
 議会制民主主義と結びつける解釈すら存在したことです。なかなかアクロバッ
 ティックな解釈な感じですけれども。
 
  1940年の神武天皇即位2600年(この年代がおかしいことは前述のように江戸
 時代から指摘されています)にあわせて、オリンピックや万博と結びつけて経
 済振興を図るのにも建国神話は利用されています。逆に言えばそういうものと
 結び付けて普及を図るほど、建国神話は事実ではないと思われていたのでしょ
 う。
 
  ふんわりと社会と神話を結びつける雰囲気が社会に蔓延しだしているという
 のは、危険な兆候も感じさせますが。
 
  そして戦時中には日本は天皇を中心とした神の国であるので、国民は一丸と
 なって、国のために働かなければならないということになります。建国神話も
 国民統合のために重視されるようになります。ただし下々のものが馬鹿正直に
 それを信じていたわけでもなく、本書にも色々な事例が紹介されています。
 
  だから指導者層も建国神話は事実でないと知っていたはずですが、それにか
 こつけて国民を動員した責任は重いのではないでしょうか。逆に指導者層が一
 点の曇りもなく建国神話を信じていたとしたら、それはそれでまずいわけです
 が。
 
  そんな国が長期に及ぶ戦争を戦った末にどうなったのかは皆さん御存知のと
 おりです。
 
  やはり事実でないことを事実だと強弁する国は残念な進路を辿るというのが
 如実に伝わってきます。「そもそも、主張する本人すら事実とは信じていない
 ことを事実だとして、それを前提に政治を行うことは、不誠実で人々を愚弄し
 ています。」(p,258)と著者も述べています。
 
  まあそれが今の日本にばっちり当てはまるというのが一番問題です。明らか
 に著者もそれを意識してるでしょう。冒頭の感覚は残念ながら思い過ごしでは
 ないのでした。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 こんなことが起こるとは、と思う反面、なんでも起きるのが世の中なんだな、
と納得したり。仕方ないので、粛々と働き、本を読み、食べて、楽しもうと思
います。隠れていたことが明らかになるのもこういう状況でなのかな。
                              畠中理恵子
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なく、「普通」に食べる大切さを世界的なフードジャーナリストが指し示す。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その45「チョコレートをめぐる不穏な動き」その2. 危険なチョコレート

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第124回「正しさ」に従うということ─諸星大二郎「失楽園」

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビューを受けていただける著者の方、募集中です。

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
----------------------------------------------------------------------
その45「チョコレートをめぐる不穏な動き」その2. 危険なチョコレート
    
 冬の寒い季節にチョコレートを贈る。そんな、日本独特のヴァレンタインデ
ーの習慣を皆さんはどう思われているのだろう。女性から男性へチョコレート
を贈る日で、愛の告白だったり、お義理でチョコレートを買ったりする日だと
思うと気が重いけれど、今は違ってきたようだ。小中学生では女の子同士が友
チョコを手作りして贈りあったりする習慣があるようだし、大人の女性たちは
自分へのご褒美に高くておいしいチョコレートを買ったりする。知り合いの若
い人も、ヴァレンタインデーに、ケーキ作りが趣味の男の子が、クラス全員に
行きわたるように大きなケーキを三個も焼いてきてくれた思い出があると言っ
ていたから、男性側の意識も変わってきている気がする。そうなって来ると、
チョコレートに苦い思い出を付け加えずに、チョコレートそのものが楽しめる
日となって来ているようで嬉しい。
 
 だって、チョコレートのあの黒い肌には、特別の魅力があると思うのだ。決
して料理上手ではない私でさえ、この日には、チョコレートケーキやトリュフ
などのお菓子を手作りする。なぜかと言うと、チョコレートを砕いたり溶かし
たり、生クリームやバターを混ぜ込んだり、アーモンドや胡桃を混ぜたりする
過程がとても面白いからだ。

 だからだろうか?チョコレートは推理小説の題材として、大の人気者だ。

 作家たちは張り切って、ありとあらゆるものを、ここに混ぜ込もうとする。
推理小説だけでなく怪奇小説の中でも、チョコレートは大活躍する。ちょっと、
食欲がわかなくなってしまう描写も多いのだが、そういう毒の味を小説の中で
味わってみるのも一種の醍醐味だと思うので、チョコレートにまつわる物語の
中を歩いてみようと思っている。ヴァレンタインデーのチョコレートで苦い思
いを味わった方には、特に楽しんでもらえるに違いない危険なチョコレートも
いくつか用意しておこう。

(ここから先はもちろん、「ネタバレ」満載です。極力ぼかしますが、ご勘弁
を)

 最初に、私が毒入りチョコレート事件に出会ったのは、なんと児童文学の中
だった。少年探偵カッレ・ブルムクヴィストが活躍するアストリッド・リンド
グレーンの名作シリーズの第二巻にあたる『カッレ君の冒険』。このシリーズ
の物語に出てくるのは、夏休みに夢中になって赤バラ白バラの両軍に別れて戦
争ごっこをしている六人の子供たちだ。その中の一人、白バラ軍の勇士エーヴ
ァ・ロッタが、両軍が夢中になって奪い合っている「聖像」という石が隠され
ている空き家のお屋敷に行く途中、殺人犯と行きあってしまう。
 死体の第一発見者で犯人の顔も知っているこの少女について全国の新聞が書
きたてたので、国中から見舞いのチョコレートや菓子がどっさり届けられる。
それこそ、チョコレートなんてもう見たくなくなるくらいにどっさりと。そん
なある日、もうチョコレートにうんざりしているエーヴァ・ロッタの家の郵便
受けに大きな板チョコ入りの封筒が入っていたので、エーヴァ・ロッタは無理
やり仲間のアンデスとカッレに半分ずつ分け与える。アンデスはそのチョコを
犬にやり、自分も指を舐めたことによって犬も自分も具合が悪くなる。
 その事に気づいたカッレが、チョコレートが毒入りだったのではないかと疑
い、もらったチョコレートを自分の実験台に乗せて「ヒ素鏡」を作り、ヒ素が
入れられていたことを突き止めるのだ。さすが名探偵!
 この物語、毒入りチョコレートが送りつけられる話だと考えると、とても恐
ろしいのだが、カッレが自分の実験室でヒ素の抽出をする場面が魅力的で、子
供の時には、その怖さに気づかなかった。それより、挿絵にもあるアルコール
ランプやフラスコで作った水素発生装置があまりに魅力的で、カッレ君は凄い
な、私も実験室が欲しいなと思う方が先だった。
    
 チョコレートは溶ける。柔らかいから中に何でも入れられる。悪意のある者
にとってはそこが魅力的で、アメリカではヴァレンタインデーではなくハロウ
ィーンに、危険なチョコレートが出回るようだ。『恐怖のハロウィーン』とい
う怪奇小説のアンソロジーに入っているタルミジ・パウエル著の『小鬼の夜』
にも、なにやら魅力的な実験室まがいの場所で、チョコレートに工夫を凝らし
ている場面が描かれる。そこは、主人公の少年ボビーがプラモデルを作ったり
する自分の机の上なのだけれど、古切手集めの時に封筒からはがしたりするた
めの毛抜きや切手ばさみやらの道具が常備されている。ボビーは尖ったピンセ
ットの先でチョコレート・バーの袋の合わせ目を外し、包み紙を剥き、チョコ
レートを上下二等分にし、砕いた剃刀を入れこみ、また元のようにする。この
工程が実に息を詰めるような詳細さで、何とも言えず魅力的で、本当にどきど
きする。でも、大丈夫。このチョコレートを口にする人はいない。ある人の親
指が少し切れるだけ。けれど、ボビーの大事な願いは叶うのだ。

 これが大人が主人公の物語だとこうはいかない。例えば同じくアンソロジー
の『とっておきの特別料理 美食ミステリー傑作篇』のジョン・コリア著の
『完全犯罪』に描かれるチョコレートは、どんな毒が入っているのか最後まで
わからない。夫が妻に七キロ入りの巨大なチョコレートの詰め合わせの箱を送
り、妻はその三分の二を食べて亡くなったという。五キロ近いチョコレートを
食べれば、そりゃ病気になるよなと思いながら読んでいたのだが、主人公のス
コットランドヤードの警部が警視総監に語ったところによると、なんとこの夫
は料理の名人で、デザートにも素晴らしい手腕を発揮したという。もちろん、
この箱の中のチョコレートは、既製品に見せかけているが実はその男の手作り。
そこで、毒物検査で何の毒も発見できなかったという事から、二人はチョコレ
ートを手に取って食べ始める。そして、やめられなくなるのだ……。けれど五
つ目で運よく二人は具合が悪くなり一命をとりとめる。

 危険でおいしいらしいこのチョコレート、是非食べてみたいと思うのだが、
果たして、五つでやめられるだろうか?

 先にあげたようにチョコレートにカミソリや針を入れる話は、推理小説には
山ほどある。J・A・コンラス著の『ウィスキー・サワーは殺しの香り』の犯人
も、袋入りのチョコバーに夢中になって細工をしている。でもねえ、何度もや
ったことがあって名手だという割には、現実味がない数字が続く。口に放り込
めるようなミニサイズのチョコバーに釣り針を仕込むって、それも十一本って、
無理すぎる話だ。針を交差させるように入れるとか書いているが、それでは手
に取った時に刺さってばれるだろう。実にグロテスクなこの場面の後、けがを
するのは大食いの刑事。カミソリ入りのチョコレートで舌を切ることになるが、
食欲は少しも衰えないところが救いだ

 小説の中では、チョコレートは悪役になる。こんなふうに、そこに毒や危険
物が入ってなくても真っ先に疑われることになる。甘くて苦くて黒いからなの
だろうか?

 例えば、アガサ・クリスティ著の『予告殺人』に出てくる大きなチョコレー
トケーキには「デリシャス・デス」(甘美な死)という名前がついている。そ
れは、東欧からの難民であるこの家の料理番が作ったケーキで、砂糖や干し葡
萄がたっぷり入り、チョコレートの衣がかかったとても甘いケーキらしい。で
も、バースデイ・パーティのスペシャルケーキなのに、これを食べた人たちか
らは、評判が悪くて、

「あたし、ちょっと気分が悪くなったの。あのケーキよ。たしかこのまえもそ
うだったわ」

なんて言われてしまう。どうも、ヨーロッパ大陸式の甘いケーキはこの家に住
むイギリス人たちには評判が良くないようなのだ。もちろん、この後、毒殺事
件が起きるのだが、その正体がケーキではなかったのにもかかわらず、まるで
犯人であったかのように、記憶に残ってしまう不思議なチョコレートケーキな
のだ。

 ケストナー著の『ふたりのロッテ』。にも、象徴的な役割を果たしているチ
ョコレートがあって忘れがたい。

 離婚した父母にそれぞれ育てられていた双子の姉妹が偶然出会い、お互いに
入れ替わってみるというこの物語。チョコレートは三回ほど顔を出す。

 最初は、ウィーンの歌劇場の桟敷席の場面だ。姉のルイーゼのふりをして作
曲家で指揮者の父親のウィーンの家に行ったロッテは、ある夜、父が指揮する
『ヘンゼルとグレーテル』の歌劇を見ることになる。その時、一箱のチョコレ
ート菓子がふいに差し出される。

「あんたも少しどう?」

 そう、すすめてきたのは、父親の恋人のゲルラハ嬢。慌てたロッテは二階の
桟敷席の手すりからチョコレートの箱をはらい落としてしまい、一階席の客に
チョコレートの雨を降らせてしまう。

 このゲルラハ嬢、双子の姉妹にとっては悪役で、その晩のロッテの夢の中で
も魔女として出て来る。夢の中の魔女のお菓子の家には、チョコレートの垣根
があり、ロッテは夢中で齧ろうとするとするのだが、それは毒入りのお菓子だ
と言われて、投げ捨てることになるのだ。

 夢の中だけではなく、父親に彼女と婚約する予定だと聞いたロッテが、何と
かして止めようとゲルラハ嬢の家に行く場面でも、チョコレートは登場する。
やって来たロッテを迎えたゲルラハ嬢は、猫なで声でこう小間使いに命じる。

「チョコレートを入れてちょうだい!そしてウェファーをもってきて!」

 もちろん、ロッテは、チョコレートを飲む余裕もなく追い返され、やがて病
気になってしまう。この場面の最後は、せっかく入れたチョコレートを持って
来た小間使いをゲルラハ嬢がどなりつけるところで終るのだが、頭の中に浮か
ぶのはおぼんの上にあるチョコレートのカップだ。その黒々としてとろりとし
たチョコレートの液体に、ゲルラハ嬢の悪意が象徴されているように思えてく
るのだ。

 さて、こんな物語を思い出しながら、今年も私はヴァレンタインデーのチョ
コレートを溶かして、色々なものを入れたのだけれど、スパイスに悪意や毒な
どいれなかったことは神かけて誓います。

 でも、それでは、つまらないと思うあなたには、いつかまた改めて怖いお話
を紹介いたしましょう。

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『カッレ君の冒険』 A・リンドグレーン著 尾崎義訳     岩波少年文庫
『恐怖のハロウィーン』タルミジ・パウエル著他 仁賀克雄訳   徳間文庫
『とっておきの特別料理 美食ミステリ傑作集』小鷹信光編    大和書房
『ウィスキー・サワーは殺しの香り』J・A・コンラス著木村博江訳 文春文庫
『予告殺人』  アガサ・クリスティ著田村隆一訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
『ふたりのロッテ』      ケストナー著 高橋健二訳  岩波少年文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第124回 「正しさ」に従うということ
─諸星大二郎「失楽園」(『男たちの風景』小学館)

*ネタバレを含むのでご注意ください

 ポリティカル・コレクトネス(political correctness)という言葉がある。
人種・民族・性・宗教等の差別を禁止するために公正な表現を使用すること、
公正な態度を示すこと、という意味のようだ。グローバル化が進む世界で、様
々な立場の人を受入れ、平等を確保するために必要な方向性と言える。日本で
も遅ればせながらヘイトスピーチが規制の対象になったり、性暴力に対して声
をあげるいわゆる「me too」運動が広がったりしている。マイノリティや弱者
を保護するポリティカル・コレクトネスの運動の成果だろう。そしてこの運動
の波は環境保護や福祉などあらゆる分野に及んでいるようだ。

 ポリティカル・コレクネスは「正しさ」の基準を打ち立てるという方向性故
に、白黒をはっきりつけ、中立的立場を許さない傾向がある。16歳の環境保護
活動家グレタ・トゥンベリが「環境問題は白か黒かの問題でグレーはない」と
述べたことは記憶に新しいところだろう。ここで矛盾が起こる。ポリティカル
・コレクトネスは様々な立場の人の権利を守るために、人権を犯すとみなされ
るものに対しては逆に排除に向かうからである。最近の例だと、献血のポスタ
ーに使用された巨乳のマンガキャラ「宇崎ちゃん」が、胸の大きさの強調故に
女性蔑視であるとする声が上がり、掲示の停止が叫ばれることになった。ポリ
ティカル・コレクトネスは、同じ民主主義の原理に根差すはずの表現の自由や
多文化主義と、ともするとぶつかることがあるわけだ。

 ここでぼくが思い出すのは諸星大二郎の名作マンガ「失楽園」(1978年)で
ある。この作品は「正しさ」が貫徹されたユートピアに対する期待と失望を寓
意的な表現で描いている。あらすじを説明しよう。

 文明が荒廃した未来。人類は沼のほとりで原始的な生活を営むことで辛うじ
て生き延びていた。そこへ旅人が現れ、沼を囲む荒地の彼方に恵まれた「幸福
の沼」があることを村人たちに告げるが同時にそこへ行ってはならないとも言
い、村人たちに殺される。主人公の少年ダンは親しくしていた少女ララが肉食
性の大クモに食われたことをきっかけに、村を捨てて「幸福の沼」を目指す。
旅する老人に導かれて「幸福の沼」に辿り着いたダンは、そこに住む男から、
過去を忘れ外の世界の話を一切しないこと、この町(「レーテの町」と言う)
の‘掟’を守ること、以上を守りさえすれば無事安楽な暮らしができることを
告げられる。決まった時間に起きて眠り、決まった衣服を身に着ける。食事も
娯楽も提供される。働く必要はない。

 しかし、ダンの心には次から次へと疑念が沸き起こり、気持ちが晴れること
はない。ダンは町の住人でやはり町の‘掟’に疑問を持つ少女リーチャと親し
くなる。リーチャはダンをこれが‘町の心’だと、球体が積み重なった形の不
思議な‘機械’を見せる。球体の一つからララを食べた大グモに似たものの姿
が現れ、ダンは驚く。リーチャによると、この醜悪な‘機械’が町を動かして
いるのだという。しばらくしてリーチャは‘機械’に挟まれて死に、ダンはレ
ーテの町を出て元の沼に帰る。

 文明が荒廃した理由は推測されるだけではっきりしたことはわからず、リー
チャを殺した‘機械’の正体もわからない。しかし、作者の意図が「正しさ」
への疑問であることは確かである。かつて栄えた高度な文明は、考え方の違い
から起きた戦争のために失われたのかもしれない。しかし、そうした「争い」
の種を除いて全ての人が平等に生きられる平和な世界を実現しようとすると、
全ての人々が一つの理念、一つのシステム、つまり一つの「正しさ」に盲目的
に従わなければならなくなる。

 レーテの町の芸術の在り方は面白い。人々は「美術堂」と呼ばれるホールに
集まり、「磁気カンバス」という巨大なスクリーンに思念を送って絵を描く。
傑作には人々から惜しみない拍手が贈られ、データにして保存される。「町の
外の風景や不穏なテーマの絵」はいけないことになっており、抽象画が主流だ
という。ソ連の社会主義リアリズムを思わせる表現規制だが、こちらの方が徹
底している。社会主義リアリズムでは、前衛的な抽象画は西欧のブルジョワジ
ーの価値観に追随しているとされて弾圧され、プロパガンダに使えるような大
衆を鼓舞するテーマの具象画が推奨された。しかし、レーテの町では、テーマ
が制限されるばかりでなく、独自の政治的な意味が発生しかねない具象画の存
在そのものが傍流となっている。

 我々は「差別のない世界」を目指さなければならないが、それが実現してし
まったら、そこはユートピアではなくディストピアなのだ。人々が自由な感情
や思考を持つ限り、自己主張は抑えきれず、それは差別や争いの基となる。そ
して自由を制限しようとする者と制限される者とは、決して「平等」な関係に
はない。自由を制限して「平等」を実現しようとする者は、レーテの町の‘機
械’のような、「正しさ」を武器とした権力者なのである。「正しさ」は権力
者の恣意的な好みで決められているに過ぎない。

 ぼくは時代に即した「正しさ」の標準を示すこと自体は重要だと思う。これ
は差別に当たる、これは環境破壊につながる、そういった指針が社会の中で共
有されていなければ、弱肉強食が無制限に進んでいってしまうだろう。しかし、
その指針が、それを主導する一部の人間の道徳意識によって定められていくな
らば、寛容さを実現するために作られた「正しさ」がかえって非寛容を強化す
るものになってしまう。ポリティカル・コレクネスの言説そのものが「ああで
もない、こうでもない」という議論に常にさらされ、批判される必要があるの
ではないか。この魅力的な物語を読み返すことの意義は、この辺りにあると思
う。

*『男たちの風景 諸星大二郎特選集第1集』(小学館 本体1429円))                                                                                 
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★トピックス
→温泉と図書館のコラボ店誕生

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→イタリアのコロナウイルス、ちょっといい話

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→水俣川の現在

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→電子書籍、修正したのに、あれ?

★「はてな?現代美術編」 koko
→敵ながら、あっぱれと言ってみたい

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→有人飛行にいたるまで・ソ連の苦闘

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『骨が語る人類史』

ブライアン・スウィーテク著 大槻敦子訳
四六判 284ページ 本体2,700円+税 ISBN: 9784562057245

カンブリア期から現生人類までの生物の骨の発達の歴史、発掘されたヒトの骨
からわかる過去の暮らし、リチャード三世の遺骨などの歴史的発見、骨に関わ
る人種差別と倫理観など、骨にまつわる興味深い古生物学、人類学。
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■トピックス
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2月20日、図書館と風呂屋のコラボ店オープン
三田天然温泉・寿ノ湯(兵庫県三田市)
https://www.lmaga.jp/news/2020/02/94122/
https://kotobuki-yu.com

うちから近いので、近日中に行って記事にします。
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第108回 感染への注意、イタリアの場合

ローマにある在イタリア日本国大使館から、憂慮されている新型コロナウイル
ス感染への【注意喚起】とするメールが来たのは22日午前中だった。

「2月21日、イタリアで新型コロナウイルス感染による初の死亡が確認され
ました」と始まり、「イタリア北部ベネト州で,新型コロナウイルス(COV
ID−19)感染によるイタリア国内初の死者が確認されました。死亡したの
は,78歳のイタリア人男性です。これを受け,北部の10の町で公共イベン
トなどが中止されました。」

続いて《感染を予防するための正しい知識》が10項目挙げられている。
イタリアの新聞に同じ項目が挙がっていたので、その翻訳かと思われる。
その中ではこの2項目は予想していなかった: 
(8)中国製品または、中国から受け取った梱包物は危険ではない
(10) ペットは新コロナウイルスを拡散しない

ネットで日本のニュースを読んだ限り、中国製品への疑問が上がったというこ
とも、このように確認されるのも読んだことがなかったからだ。
イル・ソーレ24オーレ紙を調べたら、中国から手紙や小包を受けとったら新
コロナウイルスCovid-19を疑うべきかという問いに、前回の検査でコロナウイ
ルスは手紙や小包上では長く生き続けないとわかっているので問題はないと書
いてあった。

同紙はペットの動物がCovid-19を拡散するかという問いにも、現状ではペット
の犬や猫が感染する可能性について確証はないが、ともかくペットと接触した
あとは入念な手洗いをしたほうがいいとすすめている。

また、同誌では中国レストランでの食事や中国製食品からの感染はないのか?
という疑念を取り上げ、現状では食品は問題ないとしている。

こうした疑いがなぜあるのかというと、昨年、この連載でフィレンツェ近郊の
プラート市に住む中国の人たちについて書いたが、現在、プラート市の住民数
は19万5千人だが、その2割が中国人で、ヨーロッパではパリとロンドンに次い
で多いという。

それで中国レストランも食品の流通量も多いはずだから、疑問がわくのはわか
る。こうした地区にある、中国から輸入した食品を扱う巨大なスーパーに行っ
たことがあるが、当然だとしても、見たことがない食品やどう食べるのかさえ
見当がつかない物が多くておどろいた。

イル・ジョルナーレ紙によると、春節休暇で、フィレンツェやプラートが属す
るトスカーナ州から中国の故郷に帰り、戻ってきた中国人は約2千5百人いる。
トスカーナに移民した中国人の多くは故郷が浙江省にあり、感染者の数が中国
で四番目に多い地方とのことだ。

再入国した人たちは2週間の隔離を余儀なくされた。
そうした同国人に向けて、なんとプラート市にあるレストランがシャッターに
中国語の貼り紙をしたと別の新聞ラ・スタンパ紙は写真入りの記事にした。

こちらが貼り紙の写真記事:
https://www.lastampa.it/topnews/primo-piano/2020/02/20/news/nella-comu
nita-cinese-di-prato-che-ha-scelto-l-autoisolamento-1.38489990

貼り紙をしたのは“クワットロ・スタジオーニHot Pot”店で、イタリアでも死
者が二人となった北部のミラノにチェーン店があるそうだ。現在までイタリア
で死者が5人となったのは全て北部で、ロンバルディア州とヴェネト州。

記事のイタリア語から訳すと貼り紙にはこう書かれている。
「注意! 中国から帰ったばかりの人は責任感をもって、2週間の隔離が望まれ
る。ありがとう。がんばれ」。

ミラノに住む友だちのSNSによると、22日からバタバタと情況が変わってきて、
市内や郊外のスーパーで売場の棚がカラになるところもあり、スカラ座は23日
の午後に公演中止を決めたとか。
ヴェネツィアでは恒例のカーニヴァルも中止されるという。
南部にも感染して不思議はない。

予防ワクチンを実現するには一年を要するともいわれている。
今は一人ひとりが栄養を摂って体力をつけ、ウイルスに打ち勝つ生き方をする
以外に対策はないのだ。

籠りがちだった今日この頃、聴講の予約がしてあったので昨日はフィレンツェ
の20世紀始めの画家について講演を聴きに中心街に出かけ、昼食後はあまり歩
かない通りを眺めながらそぞろ歩き、大きな広々としたカフェで心地よく休む。
行き交うのは観光客よりも地元の人たちばかりのようにみえた。


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス (
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メディ
チ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
melmaで16年間に発行しましたメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの
地域情報部門で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。
残念ですがmelma の事情によりサービス終了となり、3月2日に全て削除される
とのことです。ご覧になりたい方はお早く!こちらです: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/


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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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寺田久義 『清流水俣川 治水・利水・親水がともにある世界』農文協プロダ
クション 1800円+税

1993年8月6日。記録的な豪雨に見舞われた鹿児島市では市内を流れる
甲突川が決壊。本書にも姿をあらわす肥後の名工、岩永三五郎が藩政時代に造っ
た石橋群も流出してしまいました。鹿児島市では、市民による石橋保存運動が
巻き起こりました。市民たちは、単なるノスタルジーから石橋の保存を求めた
のではありません。石橋の流出は、住宅地の乱造の結果山の保水力が失われた
ことと、河岸をコンクリートで覆い、甲突川の流れを直線化した、誤った河川
改修の結果であるという認識を、多くの市民が抱いていたのです。

肥薩の国境付近を流れる水俣川は大変な暴れ川でした。近代にいたるまで何度
も氾濫を繰り返し、そのたびに河道を変えてきたのです。他方水俣川の豊かな
水と、流域の清涼な湧水とは、農業用水として、あるいは飲料水として地域の
人たちの暮らしを支えてきました。不知火海に面した水俣の街は、水俣川の水
上交通に支えられて発展を遂げていきました。水俣川がもたらす豊富な水資源
なくしては、かの窒素水俣工場を中核とする、工業の発展もありえなかったで
しょう。水俣の地域社会は、水俣川によって作られてきたのです。

水俣川は、長く自然のままの姿をとどめていました。昭和30年代前半ごろ
までは、「早瀬の両岸にはネコヤナギが茂り、木陰の下にはえびやくらげが群
れをなし、沈んだ淵の深みにはたくさんの魚たちが生息していた」(148頁)。
「このころの水俣川は、…清流そのものであった」(同)と著者は言います。
水質の汚濁をもたらすダムが存在しないこと。生活排水が流入しないこと。そ
して流域の「エコファーマー」たちの努力。これらの合力によって、現在も水
俣川は清流の姿をとどめ、「水俣のおいしい水」を供給し続けています。

本書の中でもっとも楽しく読めたのは、水俣川でアユ釣りやウナギ獲りに興
じた子ども時代の思い出の記述です。水の流れを和らげるために設けられた石
刎や、渡河の手段として置かれた洗堰に付着した苔にアユたちは群がってきま
す。それを捕まえるために子どもたちは知恵を絞るのです。「治水」のために
造られた石刎や「利水」のために造られた「井手」は、子どもたちが川遊びに
興じる「親水」の舞台ともなりました。川で遊ぶなかで、著者の世代の子ども
たちは、楽しみ、身体を鍛え、多くのことを学び成長していきました。

著者は水俣川の現状に危機感を抱いています。水俣川の上流部分の水田の高
い保水力が、下流地域を洪水から守ってきました。しかし、上流での農業の維
持は困難なものになってきています。伝統的な取水堰は自動転倒ゲートにとっ
て替り、石刎や洗堰も姿を消してしまいました。これらの変化は、水害が生じ
る危険性を高めるだけではありません。人工化した川は、アユのような生き物
と、子どもたちをも遠ざけてしまいます。治水と利水と親水が一体となった水
俣川を将来の世代に遺そう。そうした著者の主張に深く共感します。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「電子書籍の乱丁」の話

新型コロナウイルスのおかげで色々なイベントが中止になって、せっかくの良
い季節なのに花見もままならなくて、ただでさえ消費増税で経済がダメージを
負っているのに物流も滞りだし、それもこれも後手後手に回る政府の失策のせ
いだと怒り心頭なのだが…。

今回は電子書籍に乱丁や画像の乱れがあった場合、どうすれば良いのかと言う
話を。

あからさまなCMなのだが…先日4コママンガ「侍えれじぃ」の連載をさせても
らっていたリイド社から単行本が電子書籍で配信された。話が出てから3年ほど。
やっとやっとなのだがとりあえず先ずキンドルで配信という事で自ら購入して
見た。
すると一箇所は同じページが被っている。

「まあ、気にしなければ(4コマなので)大丈夫かな?と読み進めて行くと今
度は三箇所、と言うか3ページ分に画像の乱れ(荒さ)があった。

さすがにマンガで画像が乱れてたらあかんでしょう!と言う事で担当編集に連
絡をしたところ、配信担当者にその旨伝えてくれすぐに修正版を送ってくれた
そうなのだが…。
(ホントのところは社内で校正すべきなんだろうけどね)

問題はここから。
検索をかけてみると「購入したデータはアマゾン経由ではあるが書籍は購入者
が出版元から直接購入したモノであるためアマゾンから連絡はするが乱丁等の
修正がいつなされるかわからない」らしい。

今回は出版元には連絡済みで修正も送ってもらっているのだが再購入して見て
もまだ反映されていない。

これが本屋さんならば現物を店に持って行って「これおかしいですよ」と言え
ば別の本に変えてくれたり、返金してくれたり、まあ購入者のストレスはそれ
ほどないと思うのだが、如何せん「電書」と言うのはデータであって形なきモ
ノ。データの不備を前に立ち尽くすしかない。

修正版の配信がどうなされるとかも調べて見ても「コンテンツの末端と管理」
にお知らせが入る「かも」知れないのでチェックしてくださいとある。

今まで紙の本と並行して出されたモノしか購入していなかったがたまにある文
字切れ、もしかしたらデータの問題?かも知れないと思い始めている。

カラーページなど端末が違うと全然違うイメージになるんじゃないかな?どれ
だけ作者がこだわっても思った色を読者に届けるのは印刷以上に不可能なんだ
ろうな。

そして…1番の問題は名刺代わりに本を差し上げることが出来ないこと。「宜
しかったら差し上げますのでアマゾンクーポンを差し上げますのでダウンロー
ドして頂いて…」面倒くさいがな!

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第104回
『表現について考える ─── 2020年は敵ながらあっぱれと言ってみたい 』

2019年の映画総括トーク番組で『主戦場』という左派系政治プロパガンダ映画
が話題になりました。

保守系の人達はこの映画のことを強く批判し、上映差し止め訴訟をおこしまし
た。
理由は監督がこの映画の政治的な意図を偽ったまま、保守系の人達にインター
ビューをして、しかも左派の人間の視点で都合のよい部分だけを切り取って映
画を作ったからだそうです。

しかし、映画関係者は他の理由でこの映画の不当な扱いを非難し、上映を応援
します。

なぜならば、上映イベント予算の半額に近い600万円を負担する共催の川崎市が、
上映差し止めの訴訟中にある「主戦場」の上映に「懸念」を示したためです。

また運営サイドが市民ボランティアや観客の十分な安全を確保できないという
運営面での課題を理由に上映見送りの事態に至ったためです。。

いうまでもなくあいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」の影
響です。

公共のお金が投入されるイベントに関して、行政側は判断をかなり厳しくした
2019年。
関連するイベントに携わった人達には迷惑なことだろうと思います。

□『主戦場』の提訴についての記事 (日本語)
https://natalie.mu/eiga/news/353539

そして今年も引き続き≪表現の自由・不自由≫についての議論が続きそうな気
配。
というのも「表現の不自由展・その後」と同じような展示がこっそりと広島県
百島で「ひろしまトリエンナーレ2020」のプレイベントとして開催されたから
です。

□「ひろしまトリエンナーレ2020」のプレイベントについて(KAZUYA Channel  
Youtube)
https://www.youtube.com/watch?v=WqoSSKhThCs&list=PLIHgNlD6TJLbmqS87-5N
lcr4c7bj501PH&index=6

百島で問題になっているのは、いうまでもなく政治プロパガンダを目的とした
イベントに税金が使われている点。

私が考える表現は、反対の論調の人間でさえも引き込む力のある作品です。何
かを伝えたければ、個人の主張の前に、圧倒的なパワーで見る者を引き寄せる
<美>や<エネルギー>を秘めた作品をつくって欲しい。

レニ・リーフェンシュタールが監督したナチスのプロパガンダ映画『意思の勝
利』や『民族の祭典』は、映像美として文句のつけようがありません。

プロパガンダ作品は支持しませんが、表現のクオリティが高いものであれば、
それなりに鑑賞者を作品世界に巻き込むことはできるのです。

鑑賞後にそれをどう考えるかは、各鑑賞者の判断に委ねられます。去年の映画
でいえば、『JOKER』のような社会を不安定にし兼ねない要素を含む映画でも、
映画それ自体が素晴らしいものなのでアカデミー賞の主演男優賞を受賞しまし
た。

音楽でいえば、U2の政治メッセージは強烈ですが、彼らの主張に同調できなく
ても、彼らのパフォーマンスは凄いと思うのです。同じ主義主張を持つ者へ訴
えるだけの作品なんてアート作品とは言えないのではないでしょうか。
「敵ながらあっぱれ!」と思わせて!

百島に話を戻します。
柳幸典氏は、広島トリエンナーレ2020のプレイベントが開催されたアートベー
ス百島のディレクターになっているアーティストです。

彼の作品は、『表現の不自由展』に出展された作品と比べて圧倒的なパワーが
あります。彼自身の作品も多分に政治的なメッセージを含んでいますが、表現
方法が魅了的で観る者を引き込む力があります。

実際どんな経緯で今回のプレイベントが開催されたのかは知りませんが、百島
の記事を読んだときにはなんか安易なプロパガンダ展示に虚脱感を覚えてしま
いました。

2016年、横浜で展示された柳幸典氏の<ワンダリング・ポジション>という展
示は、観る者に何かを強制するわけではありません。とても魅了的な展覧会で
した。
そのようなアーティストがどうして百島であんな展示に協力してるんでしょう
か。
なんだかもったいない・・・というか悲しい・・・

結局文化庁や尾道市からお金がでているために、保守系から突っ込まる有様。
笑うしかないけれど≪反日トイレ≫なるものも百島に出現しているらしい・・・
です。

呆れるよりも感心したい、そんな2020年でございます。

□柳幸典 (木曜新美術館)
https://www.youtube.com/watch?v=b2XAJ9VFQSU
□アートベース百島 柳幸典作品
http://artbasemomoshima.jp/exhibition/artist001_yanagi.html
□<ワンダリング・ポジション> ※2016-12-23の記事
https://travelyokohama.hatenablog.jp/entry/2016/12/23/000000

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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■スプートニクとガガリーンの闇 27 内藤陽介
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コラブリ・スプートニク計画の開始

1958‐59年、月への接近ないしは衝突を目的とした初期のルナ計画が成功裏
に終了したことを受けて、ソ連の宇宙開発は、有人飛行の準備段階として、コ
ラブリ・スプートニク計画へと移行する。

ちなみに、“コラブリ”はロシア語で“船”の意味だから、“コラブリ・ス
プートニク”は直訳すると“船舶衛星”となる。現在の辞書的な定義によれば、
“宇宙船”は打ち上げロケットを用いて大気圏外で使用される人工物(=宇宙
機)のうち、人が乗ることを想定しているものをいう。有人飛行の前段階のコ
ラブリ・スプートニクを“宇宙船”と呼べるかどうかは議論が分かれるだろう
が、ここではロシア語の原義を尊重して、とりあえず“宇宙船”と呼んでおき
たい。

さて、コラブリ・スプートニク計画の目的は、有人宇宙飛行へ向けて、生命
維持装置の機能の検証、宇宙飛行が生物に与える影響の調査、大気圏突入の実
験を行うことで、宇宙船内には生命維持装置、テレビジョン装置、人形などが
乗せられていた。また、地上との通信実験を行う目的で、宇宙船はテレメトリー
以外に録音された人間の声も送信した。

ただし、最初のコラブリ・スプートニク1号(1957年のスプートニク1号から通
算するとスプートニク4号)では、地上への帰還に必要な耐熱シールドの開発
が間に合わなかったため、先に完成していた他の技術を実証することを主目的
として、耐熱シールドは装備せず、ミッション終了後は大気圏に突入させて、
宇宙船そのものを廃棄することが計画された。

さて、スプートニク4号は、1960年5月15日にバイコヌール宇宙基地からボストー
クロケットによって打ち上げられた。宇宙船は予定通り4日間の飛行を終えた
後に、地球周回軌道から離脱するために逆噴射エンジンに点火した。しかし姿
勢制御装置に異常が起きたため、意図しない方向に加速された。

その結果宇宙船はより高い軌道に移動してしまい、大気圏再突入は失敗。宇宙
船はしばらく地球周回軌道にとどまった後、地球大気の抵抗による軌道の縮小
のために1962年9月5日に大気圏に突入し、機体の大部分は大気の断熱圧縮の熱
で燃え尽きたが、重量9kgの金属片が米ウィスコンシン州マニトワックの市街地
に落下した。この破片はソビエト政府に返還され、代わりにレプリカが地元の
博物館で展示されているほか、市街地には破片回収地点を示した石碑が建てら
れている。

ちなみに、スプートニク4号の破片の落花とほぼ同時に、ワシントン州スノホ
ミッシュにも宇宙船の破片らしき金属塊が落下しており、地元では、この物体
もスプートニク4号の一部ではないかと考えられた。しかし、調査の結果、こ
の破片はスプートニク4号のものではないことが確認されたものの、結局、そ
の素性は不明のままで、一部ではUFOの破片ではないかとする声(ただし、専門
家は否定的である)もある。

スプートニク4号打ち上げの記念切手は、打ち上げから約1ヶ月後の1960年
6月17日に発行された。図案は、クレムリンとソ連地図に上空を飛ぶスプート
ニク4号である。
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20200225014048a2a.jpg

なお、スプートニク4号には間に合わなかった耐熱シールドだが、1960年6月
28日に打ち上げられた宇宙船では初めて装備され、地球への帰還を想定して、
2匹の犬が乗せられた。しかし、この時はロケットが発射数十秒後に爆発し、
実験は失敗。このため、6月28日の宇宙船は命名されぬままに終わっている。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965)』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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当メルマガの執筆陣は、ぎりぎりになっても締め切りを守らない人はいないの
だが、竜巻先生は忘れていることがあるので毎月「締め切りですよ」メールを
出している。

すると、いつも「きゃ〜」としか悲鳴を書いたメールが返ってくる。
十年こういうことをくり返していると、もはや2人の掛け合い漫才。あるいは
伝統芸能と言っていいだろう(爆)

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[本]のメルマガ vol.744


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 スティーブン・キンザー著 花田知恵訳
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 CIAの薬物実験・拷問による尋問など、無法とも言える極秘洗脳工作の全貌
 を元ニューヨーク・タイムズの敏腕記者があぶり出す! 旧日本軍731部隊と
 の「つながり」も見逃せない、冷戦下CIAの語られざる秘史。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。次回、乞うご期待!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第128回 聴く耳と語る力
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「平凡な世界から地続きのまま不思議な世界」へ
      フレドリック・ブラウン短編集
  
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 ■トピックス
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 2つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第128回 聴く耳と語る力
 
  『あいたくて ききたくて 旅にでる』(小野和子 著 PUMPQUAKES)を読
 んだ。民話採訪者・小野和子が30代半ばから50年にわたって、東北で語り
 継がれてきた民話を求めて記した「民話採訪ノート」の中から十八話がまと
 められている本だ。
 
  民話には、それほど興味がなかったぼくがこの本を手にとったのは、偶然
 からだった。本に呼ばれた、のかもしれない。はじめてこの本のことを知った
 のは、ツイッターのタイムラインでだった。書影と簡単な内容の紹介だったの
 だが、しゃれた装丁とタイトルにひかれるものがあった。

  数日後、神保町の東京堂書店に寄ってみると、『あいたくて ききたくて 
 旅にでる』はひらづみされていた。手にとって、ページをパラパラとすると、
 “いい感じ”で、装丁はもちろん、文字組、なによりも数ページ読んだ文章が
 読みやすく、とても魅力的だった。ただ、そのときは荷物があって、けっこう
 厚い本だったこともあって買わなかった。
  
  それから数日、古書ほうろうでのトークショーで文筆家の大竹昭子さんが
 「早くも今年のベストワン!」といって紹介したのが、この本だった。これは、
 もう読まなくてはならない、と古書ほうろうで買おうと思ったら、すでに仕入
 れた分は売り切れで、もう数日待って入手、やっと読むことが出来た。
 
  やはり間違いなく、素晴らしい本だった。
 
   小野さんが民話を求めて歩き始めたのは、35歳のときだった。東北地方を
 採訪先に選んだのは、とくに理由はなくて、結婚をして移り住むことになった
 のが仙台だったためらしい。
 「ふとしたことから、民話を求めて歩くことになった」というけれど、それから50
 年という年月を民話を求めて歩くモチベーションはなんなのだろう?
  ノートとテープレコーダーを持って、ひっそりと、隔絶した村落に向かい、「幼
 い頃に聞いて憶えている昔話があったら、聞かせてくださいませんか」と家々
 を訪ねるのだ。
 
  あとがきで小野さんは書いている。“思えば、わたしの旅の根には、小学五
 年生で体験したあの「戦争」がありました……大切に扱ってきた教科書に
 黒々と墨を塗りました。真っ黒になって意味がつかめなくなったそれを読みま
 した。わたしは目に見えない傷を負ったまま成長し、信ずべきものを無意識に
 求めて生きていたのかもしれません。初めて民話を語ってもらった時、その語
 りに滲む物語の世界の深みと、この土台文化を支えてきた底辺の暮らしの健
 気に心を奪われました”と。
 
  そして、出会った話を聞かせてもらうたびに、「ああ、知らなかった。知らな
 かった」と自身の無知蒙昧に気づかされ、それがうれしくて、民話を語る人た
 ちを追いかけまわす、そんな年月を重ねたといっている。まさに本のタイトル
 である「あいたくて ききたくて 旅にでる」だ。
 
  小野さんが、「消えてゆく泡を掬うような気持ちで『民話』の足もとで見え隠
 れしたものを記した」という、この本に収められた18話を読みながら、ぼくは
 知らなかった日本のすがたを見た、というより、感じたといったほうがいいだ
 ろう。
 
  小野さんの文章を読んでいると民話、昔話にこめられた人間のすがたが迫
 ってきて圧倒されてしまったのだ。
 
  この本にある18の話には、それぞれの昔話の背景、語った人の人生がつ
 まっている。ひとつひとつの話が胸に迫ってくる。

  都会に生まれ育ったぼくにとって、昔話は、絵本や学校の授業で習うものに
 なっていた。

  もちろん幼いときに「桃太郎」や「浦島太郎」を話してもらったことはある。だ
 が、それは「むがぁす、むがぁす」で語られる昔話ではなくて、民話集を読んで
 もらうことであり、民話、昔話は「語られる」ものではなかった。
 
  昔話の「語りの会」を聞いたこともある。そのときは新潟の昔話を聞いたの
 だが、方言で語られる昔話は、「ああ、言葉の響きがいいなあ」とは思ったけ
 れど感動したわけではなかった。
 
 『あいたくて ききたくて 旅にでる』を読んで、その理由がわかった。昔話に
 は、語る人がいて、その語る人の人生の背景がある。そしてその人には、そ
 の昔話を語ってくれた、たとえば母親、父親がいる。母親、父親にもそれぞれ
 の人生がある。たいていは生きるか死ぬかのきびしい暮らしをしている。小
 野さんが出会った語り手たちは、「血の吹き上がる現実に支えられて、そこに
 物語は呼吸して生き続けてきたのだ」とあるようにきびしい生活を強いられて
 いた人たちが多い。昔話には、そのような背景というか深い歴史がある。その
 背景を知らずに、どんなに素晴らしい語りを聞いても、昔話は伝わらないので
 はないか、と思う。
 
  たとえば『第十話「捨てる」ということ』でヤチヨさんが語る「猿の嫁ご」という
 話が面白い。
 
  猿に嫁いだ娘の話で、猿が貧しい農家を助けるかわりに娘を嫁にほしいと
 いう。百姓の親父には三人の娘がいて、上のふたりは猿の申し出を断る。し
 かし末っ子は父親のために猿に嫁ぐことにする。機転のきく末娘は山に向か
 う途中で猿に川っぷちに咲く花を取らせようとして、猿は川に落ちてしまう。
 末娘は「ばか猿やぁい」ととっとと家に帰っていく。
 
  話だけ聞くと、娘に気を遣って花を取ろうとして命を落とした猿が気の毒に
 なるのだが、ヤチヨさんはとくにこの話が好きだったらしい。猿が気の毒だな
 んて、まったく思わなかったそうだ。
 
  16歳のときに親に「行け」といわれて、風呂敷包み一つ持って山を越して嫁
 に来たヤチヨさん。姑に行動一つひとつに文句を言われたという。辛くてつら
 くて実家に帰りたくて風呂敷を持って、今日こそ実家へ帰ろうと山道を走るけ
 れど、途中で思い留まる。母親、弟や妹のことを考えて、自分だけ泣けばい
 い、と諦める。そんなことを何度も繰り返したという。
 
  そんなヤチヨさんは、この昔話の最後のくだり、「とっとと家さ、帰っていった
 んだどしゃ」と声を高くして語ったそうだ。同じような運命を余儀なくされた女性
 は多いだろう。それだからこの昔話は脈々と語り継がれたのだろう。昔話だ
 け聞くだけでは、この話が持っている思いはわからないだろう。
 
  映画監督の濱口竜介が「聞くことが声をつくる」という文を寄せている。

 「語り手たちは、聞き手がなければ、そもそも民話を語り出すことができな
 い……語り手たちにとってただのお話ではありません。多くの語り手にとって
 民話は、厳しい暮らしの中で、両親にからだごと耳を寄せて聞いた記憶その
 ものであり、自身の存在の基底を成すものです」
 
  民話が、大きな人々の歴史の中にあることがわかる。
 
  音楽のことも考えた。アメリカの古いブルースギターを研究して、再現してい
 るステファン・グロスマンというギタリストがいる。彼が弾く正確なブルースギ
 ターを聴いても、ぼくはその技術に感心はしても感動することはなかった。彼
 のギターが“うまいだけでハートがない”というのは違うだろう。多くのブルー
 スファンが賞賛していることからも、ステファンが素晴らしいギタリストである
 ことは間違いない。小野さんの本を読んで気がついた。ぼくがステファンのギ
 ターに心を動かされなかったのは、ぼくが、彼が弾く、そのブルースが生まれ
 た背景、歴史について無知であるからではないか?
  聴き手にも知識が必要なのだ。そんなことを考えた。
 
  小野さんは「民話」を追うことは、どこか「影踏み」に似ているといっている。
 一つの話を理解したつもりになっても、いつの間にかするりと逃げられてしま
 うからだ。再び理解したように感じても、「影のように足の下に儚いもの」だと
 いう。
 “けれども、影の続きにはあたたかい血の通う確かな身体があり顔があり、
 「こっちだよ!」と、また呼んでいる。”
 
  85歳になっても、まだ夢を追いかけ続けるのだ。
 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

  くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドア
 ルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

  https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  書店員をやめて残念なことのひとつが、面白そうな新刊が出ているのに気
 がつかないままでいることです。今回も第二巻が出てから気がつきました。
 
 『フレドリック・ブラウンSF短編全集』、安原和見訳、東京創元社、
                                                     2019〜刊行中
 
  全四巻の予定で刊行中で現在二巻まで出ています。
 
  フレドリック・ブラウン(1906〜1972)はアメリカの作家。私も若いころに創
 元SF文庫の『未来世界から来た男』や早川書房の『さあ気ちがいになりな
 さい』などを読んですっかり虜になった記憶があります。ミステリーも書いて
 いたようですが、やはりSFで有名な作家といえるでしょう。
 
  その特徴は…というほどブラウンの著書を大量に読んでいるわけではない
 のですが、平凡な世界から地続きのまま不思議な世界に読者を引きずり込
 んでいくところにあるのではないかと思います。いつも通りの平穏な世界に
 何かが起きてちょっとずつおかしくなっていくような。その何かのところに投
 入するアイデアにもブラウンは抜群の冴えを見せます。
 
  藤子・F・不二雄が主に自作のSF作品について、SFというのは「すこしふ
 しぎ」のことであるといったというのは良く知られた話ですが、フレドリック・
 ブラウンのSF短編にもそのような味わいがあります。
 
  といっても年代的にブラウンの方が先輩である上に、読書好きな藤子・F・
 不二雄も彼の作品から影響を受けているに違いないので(第二巻の解説よ
 り)、ちょっと主客転倒した紹介ではありますが。
 
  第一巻の冒頭を飾るのが「最後の決戦」。チベットでふとした事故から悪魔
 を封じ込めていた封印が解かれ、アメリカのシンシナティで悪魔がよみがえ
 り世界が滅亡しかけるという物語です。滅亡しかけたけれども、人類代表の
 一撃で辛うじて世界が救われる、という結末まで含めて全部でたったの8ペー
 ジしかありません。しかもそれが手品師のショーという一場面だけで構成され
 ています。
 
  どのようにして一度解き放たれた悪魔が再び眠りに付くのかという点にも、
 ブラウンのアイデアが生かされていて、読んでいて思わず笑いがこみ上げて
 きます。
 
  本全集は短編の発表順に作品が収録されているので、これがブラウンのは
 じめてのSF短編ということになります。しかし既に軽妙な語り口・意外なオチ
 など彼の短編の特徴がよく現れています。
 
  もうちょっとSFっぽいものでは「イヤリングの神」(第一巻収録)があります。
 舞台は宇宙に浮かぶ小惑星。そこで働く労働者たちがいつものようにおしゃ
 べりに興じていると、その中のひとりが自分の訪れた星にいた世にも恐ろし
 い生き物に取り付くイヤリング型の宇宙人の話を始めます。その星に立ち寄
 ったものに取り付いて意思を奪う恐るべき宇宙人。その労働者の話では、そ
 れから逃れるすべなどなさそうに思えます。しかし語り手は生還している、イ
 ヤリングもついていない…。少しラストは不穏な終わり方ですが、そこで語ら
 れる地球人評にはユーモアも感じさせます。
 
  ミステリーも書いた(私は彼のミステリーはあまり読んだことがありませんが)
 ブラウンだけに、ミステリー風の作品もあります。「白昼の悪夢」(第一巻収録)
 は警察官が主人公なのですが、同じ人物が何回も殺されるという殺人事件
 の捜査をするハメになります。なぜそんなことが起こるのか?あくまでSFで
 すのでミステリーだと思って読むと謎解きの過程で憤慨してしまうかもしれま
 せんが、謎が謎を呼び最後まで一気に読んでしまいたくなります。
 
  第二巻収録の「夜空は大混乱」では、平穏な夜空が少しずつおかしなこと
 になっていきます。本来地球からの距離も方向もバラバラな恒星が、ある一
 定の領域に向かって異常なスピードで動き出してしまったのです。当然天文
 学者たちは大騒ぎなわけですが、その移動の結果もたらされたものはとても
 意外なもので…。ここでは常人には思いつかないような奇抜なオチが用意さ
 れています。さらにラストでもうひとひねり加えて、ブラウンの語りの面白さが
 際立っています。
 
  「ノックの音が」(第二巻収録)というタイトルは星新一の小説のタイトルでも
 有名ですが、このブラウンの短編がもとになっています。宇宙人に地球最後
 の人類にされてしまった男女とその宇宙人の物語です。
 
  地球上の動物を滅ぼしまくった宇宙人が案外たいしたことないという設定
 もなかなかですが、そのラストも読者の想像力を刺激します。いくら地球最後
 の男女といえど、むやみに泰然自若とした(若干いけ好かない)中年男の部屋
 の扉に、女性がするノックの音が聞こえてくるという解釈でいいのかなあ…。
 地球最後の男女だからといって最終的に一緒になるとは限らなくて、じつは
 別の何かが部屋にやってきた、というのもありそうではあります。
 
  半世紀以上前のSFなんて古臭くて読めたものではないだろうと思う方もい
 るかもしれませんが、そんなことは全くありません。光るアイデア・ひねったオ
 チ・巧妙な語り口が揃って読者を小説の世界に誘い込みます。この機会にフ
 レドリック・ブラウンが多くの人に知られるようになれば嬉しい限りです。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 宮脇慎太郎写真集『霧の子供たち』スライド上映とお話
                                        宮脇慎太郎×小笠原博毅
 └─────────────────────────────────

 ◆日時:2020年2月28日(金) 19時〜

 ◇場所: ameen's oven 
      〒662-0035 兵庫県西宮市若松町6-18 ヴィラドコアン1階
      TEL 0798-70-8485

 ★参加費:1500円(ドリンクつき)
 
 日本三大秘境のひとつとされる徳島県祖谷(いや)、圧倒的なローカルの風
 景とそこに生きる人々を記録した写真集『霧の子供たち 
   Children of the Mist』(サウダージ・ブックス)。その刊行を記念して、兵庫
 県西宮市のパン屋さん ameen's oven にて、著者で写真家の宮脇慎太郎さ
 ん、そしてゲストに神戸大学国際文化学研究科教授の小笠原博毅さんをお
 招きして、スライド上映とトークイベントを開催します。
 
 詳細はこちらでご確認ください。
 https://www.facebook.com/events/2506414986344794/

 ■ 『みーんな ほんなごと!』(さくら舎)刊行記念
                                                  小松政夫さん独演会
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2020年3月13日(金) 19時〜 

◇場所:東京堂書店 神田神保町店6階 東京堂ホール

 「しらけ鳥音頭」「小松の親分さん」など数々の芸をヒットさせ、日本を笑わせ
 続けるコメディアン・小松政夫!
 芸歴50年を超える大ベテランが繰り出す抱腹絶倒のトークショー!
 オフレコものの“ココだけの話”がたくさん飛び出す!?
 どれもこれも「みーんな ほんなごと(全部本当のこと)!」
 
 ※独演会終了後サイン会ございます。
 
 ★参加費: おひとり様1000円(要予約)
 
 ☆予約方法:メール・店頭・電話
 
 ・メールでご予約の場合
 上記「お申し込みはこちら」のリンク先専用応募フォームからお申し込みくだ
 さい。
 ・店頭または電話でご予約の場合
  イベント名・お名前・電話番号・参加人数をお知らせください。
       ⇒ご予約受付電話番号:03-3291-5181
 
 www.tokyodo-web.co.jp/blog/

 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 年が明けて、何だか不穏なはじまりだなあ、と鬱々しているところに、この
 コロナウィルス騒ぎ。未だ始まったばかり、と言われ、ほんとろくなことが
 ないと思ってしまいます。イベントなど、人が集まる場所を何となく避け、
 引きこもりがちな毎日。これを機会に、読書とか整理とかせよ、という啓示
 かもしれません。来月、いったいどうなっているのか。予想もできない日々
 が続きますね。どうぞご自愛くださいませ。           畠中理恵子
  
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ジェリ・クィンジオ著 富原まさ江訳
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食事の最後の甘い至福、デザート。その歴史は意外に短い。香辛料との深い関
係、デザート誕生の背景、産業革命とデザートの進化、大衆文化の影響……デ
ザートの奥深い歴史を楽しいエピソード、美しいカラー写真と共に探訪する。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その44「チョコレートをめぐる不穏な動き」 その1.ココアと男たち

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ 『「論語」がわかれば日本がわかる』守屋淳  ちくま新書  968円

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その44「チョコレートをめぐる不穏な動き」 その1.ココアと男たち
     
 子供の時、ココアを作るのが大好きだった。まだ電子レンジがない時代だっ
たから、牛乳をガスこん炉で噴きこぼさないように慎重に温めてもらっている
間に、カップにココアと砂糖を入れて少しのお湯を注いでもらい、気がすむま
でスプーンで練りに練っておく。そこに、牛乳を注いでもらって出来上がり。
自分で好きな濃さにできるのも嬉しかった。練り終わった時に、こっそりスプ
ーンに付いたどろどろのココアを舐めるのもお決まりで、チョコレートの味だ
と毎回感動するのだった。

 厳密にいうとココアと飲み物としてのホット・チョコレートは違うものらし
い。けれど、日本の近現代文学の中に現れるのは一律にココアのようなので、
ここではココアに注目していきたい。

 日本文学の中で、ココアに言及している文学者は何人かいるのだが、何故か
それは男性作家が多い。なかでもココアをよく飲んだ文学者として一番有名な
のは正岡子規なのだが、優れた研究書が先行してあるので、ここでは割愛する
ことにしよう。(と言いながら、実は、子規が食物で病と戦っている姿に、ま
だ面と向かう勇気がないのを告白しておく。いつか、必ずとは思っているのだ
が……)

 では、まずはあの甘くて苦みがないココアに、実際はありもしない苦みと歴
史的な事件の刻印を刻み込んだ詩を見ていこう。それは、石川啄木の『ココア
のひと匙』だ。かの大逆事件の5カ月後に書かれた詩として有名なこの詩、短
いので全部引用してみよう。


「ココアのひと匙」      一九一一・六・一五・TOKYO

われは知る、テロリストの
かなしき心を――
言葉とおこなひとを分ちがたき
ただひとつの心を、
奪はれたる言葉のかはりに
おこなひをもて語らむとする心を、
われとわがからだを敵に擲げつくる心を――
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり。

はてしなき議論の後の
冷さめたるココアのひと匙を啜りて、
そのうすにがき舌触りに、
われは知る、テロリストの
かなしき、かなしき心を。
 

 新聞社に勤めていた啄木は、大逆事件の記録を読み、弁護士の一人から裁判
の様子も聞いていたという。

 最初この詩を読んだ時には、そんなことも知らぬまま、どうして苦くないコ
コアに「うすにがき舌触り」を与えたのだろうと思っていた。この詩の前にあ
る「はてしなき議論の後」にある遠いロシア革命への憧れに目をくらまされて、
大逆事件との関わりに気づかなかったのだ。

 ありもしない罪とありもしない苦み。

 明治の終わりに、政府により捏造された事件への怒りと処刑された人々への
哀悼の思いをココアの味わいの中にうたい込めた啄木のおかげで、新かなであ
れば小学生でも読めるこの詩は、素朴な疑問を投げかけ続ける。ココアが苦い
のはなぜか?政府の欺瞞への怒りと虐げられた人々の苦しみの味がそこにある
のを感じないのかと。

 日本で国産のココアが発売されたのが大正八年の森永製菓のミルクココアだ
ったというから、啄木の飲んだココアは輸入ものだったに違いない。現在では、
輸入物と言えばヴァン・ホーテンが一般的なのだろうが、かの芥川龍之介の作
品には、その頃手に入った西洋のココアが三種類も出てくる作品がある。

 舞台はたぶん芥川が英語教師として勤めていた海軍機関学校に近い、横須賀
あたりにある一軒の食料品店。芥川本人を思い起こさせる保吉という男が、そ
こでマッチや煙草やココアを買うだけの物語だ。

 保吉は、その店の主人について飽き飽きするほど見慣れてしまっていて、

<彼は如何に咳をするか、如何に小僧に命令をするか、ココアを一罐買ふにし
ても、「Fry よりはこちらになさい。これはオランダの Droste です」などと、
如何に客を悩ませるか、――主人の一挙一動さへ悉くとうに心得てゐる>

と、ある。

 Fryはイギリス製、Drosteはオランダ製。ヴァン・ホーテンしか知らなかっ
た私は、この店は随分輸入品が揃っているのだなと、読みながら感心した。両
方とも歴史ある会社で、もちろん今も手に入る。Drosteは赤い缶や箱に入って
いて、白い大きな頭巾のような帽子を被ったナースがココアの缶や箱を持って
いる絵が描かれている。そして、その絵の箱の中に、さらに同じ絵が描かかれ
ているという無限な感じがする商標が特徴で、この図柄から、画像の再帰的効
果を表す「ドロステ効果」という言葉が生まれたらしい。芥川も<西洋の尼さ
んの商標をつけた Droste>と、言っている。そして、この物語の中で保吉は、
Fryの缶の中には虫が湧いているからFryはいらないとか嘘八百を述べ立てて、
Van Houtenがあるかないか確かめさせようとするのだが、その実は、すぐ顔を
赤らめる若いおかみさんを困らせるのを楽しんでいるのだ。あれこれ探させた
後、保吉はDrosteのココアの缶を買って出て行くことになる……。

 物語はまだ続くのだが、短いこの物語の最後については、読んでからのお楽
しみに取っておこう。

 さて、この物語を読む限り、実際に芥川もココアを飲んでいたように思える。
主人公の保吉は、この小説の中では独身者のくせに子供や妻があるふりをして
ココアを買おうとしている。ここを見ると、ココアはコーヒーと違って、この
頃すでに、女性や子供向きの飲み物と思われていたようだ。芥川も実際にココ
アを買ったときに、こんな言動をしたのかもしれない。そして、家族と一緒に
ココアを飲んだりもしたのだろう。どんな顔をして芥川はココアを飲んだのだ
ろう?味についての記述がないのが残念だ。

 ただ、なんとなく、そういう家族の団欒風景よりも、書斎で一人傍らに缶を
置いてココアを飲んでいる姿の方が、芥川には似合うような気がする。そして
ドロステ効果を知ってしまうと、この商標をしみじみ眺めるうちに、果てしな
く続く画像の世界の中にふっと吸い込まれて行ってしまう芥川の姿が、見えて
くるような気がしてしまうのだ。


 芥川のこの小説、初出は『中央公論』1923年(大正12年)12月号なのだが、
この年の一月に、ココアについて書かれた短くて魅力的な作品がもう一つ出て
いる。

 それは、稲垣足穂の『一千一秒物語』の中にある掌編だ。実に短い一篇なの
で引用してみよう。


「ココアのいたずら」

 ある晩 ココアを飲もうとすると あついココア色の中から ゲラゲラと笑
い声がした びっくりして窓の外へほうり投げた
 しばらくたってソーと窓から首を出してみると 闇の中で茶碗らしいものが
白く見えていた 
 なんであったろうかと庭へ下りて いじろうとしたら ホイ! という懸声
もろとも屋根の上までほうり上げられた 

 
 ね、おわかりでしょう?

 ココアという奴は、たかが粉でありながらも練ったり飲んだりできるからと
言って甘く見てはいけない奴だという事が、これではっきりしたかと思う。実
に、ココアやチョコレートは隅に置けない危険な奴なのだ。

 と、いうわけで、次回はチョコレートについて、またまた不穏な話を語って
行こうと思っている。


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『チョコレートの歴史物語』サラ・モス、
 アレクサンダー・バデック著 堤理華訳        原書房
『石河啄木作品集第一巻』 石川啄木著         昭和出版社
『啄木詩集』      大岡誠編           岩波文庫
「現代日本文学大系43芥川龍之介集」          筑摩書房
『年末の一日・浅草公園 他十七篇』          岩波文庫
『一千一秒物語』    稲垣足穂著          新潮文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:(特別編)
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 さて、久しぶりのこの企画。今回は、このメルマガの創設者でもある、この
方の新著を御紹介します。
 今回はインタビューではなく、独白(?)形式でお送りします。

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『「論語」がわかれば日本がわかる』守屋淳  ちくま新書  968円

 みなさん、こんにちは、というかお久しぶりです。このメルマガの創設にか
かわった守屋淳です。

 今回、一般の皆さんにも楽しんで頂けるような新刊を発売しますので、宣伝
のためにしゃしゃり出てきました。2月5日の発売です。

 日本人は、教育学や社会学、心理学などの比較調査や、種々のアンケートの
結果に明らかなように、いろいろ特徴的な傾向を持っています。たとえば、

・日本人が好むコンピューターゲームの形は、たとえば五人のメンバーがいた
 場合、その五人でチームを作って、強大な敵を倒しに行くようなゲーム。ア
 メリカ人の好むゲームの形は、五人のメンバーがバトルロイヤルでお互いに
 殺し合いをして、一人の勝ち残りを決めるようなゲーム。(和田洋一スクウ
 ェアエニックス前社長の指摘)

・日本の「いじめの特徴」は、何かをすることというより、何かをしないこと
 (〜外し、ハブにする)であり、加害者、被害者、傍観者がころころ変わり
 やすい。

・日本の学校で成績のいい子は、不得意科目を我慢して努力して克服できた子。
 アメリカで成績のいい子は、自分の得意な部分を伸ばした子。

・二〇一四年に実施された、日本を含めた七カ国の満一三〜二九歳の若者を対
 象とした意識調査で「自分自身に満足している」「自分には長所がある」と
 いう質問に対して、ともに調査国中で日本は最低の数字だった。

・二〇〇七年、アメリカのピュー研究所が、各国の意識調査を行ったなかで、
 「政府はひどい貧困に陥っている人を助けるべきか」という質問に対して、
 日本は「完全に同意する」という答えが一五%で、調査国中ダントツの最下
 位。

・日本の総務省が二〇一四年に実施した「ICTの進化がもたらす社会へのイ
 ンパクトに関する調査研究」によると、ツイッターやSNS,掲示板、ブロ
 グなどにおいて匿名率が諸外国に比べてかなり高い。たとえば日本では、ツ
 イッターの匿名での利用率が七十五.一%ですが、フランスが四十五%、そ
 れ以外の国はすべて三十%台の匿名率。

 なぜ、こういった傾向が出るのか。それは日本の公教育や組織文化のなかに、
『論語』や儒教の価値観が根強く残り続けていて、その影響を複合的に受けて
いるからだ、ということを、歴史的な経緯から解き明かしたのが本書なのです。

 昨今、いろいろな大企業が不祥事を起こしていますが、その多くは、『論語』
や儒教の価値観の悪い面が出てしまったと見ることもできます。

 そして、こうした問題は、『論語』や儒教の価値観が、まさしく「無意識」
の刷り込みになっているから起こる、と筆者は考えています。いわば日本人の
刷り込まれた性(サガ)とでもいうべきもの。ただし、「自分には、こういう無
意識の刷り込みがある」とわかれば、人はそこから自由になることもできるの
です。自由になるとは、それを捨てろという意味ではありません。もう一回同
じものを選んでもいいし、ダメな部分を直して使ってもいいし、全然別の道を
選ぶこともできます。つまり再選択をすることができるのです。

 ぜひ、ご一読して頂ければと思います。

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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 今年になって、知人の多くがなぜかnoteを始めています。たまたま偶然に、
私も始めてみました。

 https://note.com/bizknowledge

 このメルマガも発行遅延ですが、そんな仕事が遅れている言い訳を中心に、
現状報告を書いています(笑。(aguni原口)

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★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→30年前のヴェネツィア映画祭

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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp
『最期の言葉の村へ:消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』

ドン・クリック著 上京恵訳
四六判 332ページ 本体各2,700円+税 ISBN: 9784562057207

言語が消滅するとき、何が消えるのか? グローバリズムに呑み込まれゆくパ
プアニューギニアの先住民族の村。現地の人々と寝食を共にし、30年間にわ
たって調査をしてきた言語人類学者による、ある「終わり」のルポルタージ
ュ。
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■トピックス
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第107回 メルマガから1989年ヴェネツィア映画祭

はるか16年も前、2003年3月13日にmelmaの地域情報部門で創刊しましたメル
マガ「イタリア猫の小言と夢」がmelmaの事情により、残念ですが今月末で終
了とのことです。

イタリアについて日常的な次元で「イタリア猫〜」のメルマガ、そしてやや批
評的な目で「甘くて苦いイタリア」というリズムができあがっていました。
その片方がなくなるとどうなるのか、これからの課題です。

消去の憂き目を見る前に「イタリア猫〜」の全327号の中から、超なつかしい
昔話の一つをここに引用させていただきます(誤字は訂正し、一部カットして
あります)。

なんでも、魚をよく食べる人ほど認知症の発症が少ないようですが、昔の話を
するというのも脳の劣化を遅らせるのに役立つという記事もありますので。

〜ここから引用〜
《私的百景》イタリア、こんなこともあった!
『萬屋錦之介のヴェネツィア映画祭』

1989年(平成元年)の第46回ヴェネツィア映画祭で銀獅子賞を受賞したの
は、日本から出品された熊井啓監督の『千利休 本覺坊遺文』だった。熊井啓
監督を始め、利休役の三船敏郎、織田有楽斎(織田信長の弟)を演じた萬屋錦
之介、本覺坊の奥田瑛二などがリド島を訪れた。

私も熊井啓監督がメディアのインタビューを受ける際の通訳を頼まれて、リド
島に行った。こんな仕事はめったにできない。

三船敏郎はもちろんヴェネツィア映画祭には縁が深かったし、萬屋錦之介もテ
レビ「子連れ狼」がItto Ogamiという変なタイトルでイタリア語吹き替えで放
送されているところだった。しかし、そんなTV番組は『千利休 本覺坊遺
文』の格調を壊すとでもいうように、フランスのコーディネート会社は私に絶
対に口にしてはいけないというのだった。

前夜にリド島のホテル・エクセルシオールに入り、翌日の朝から、当時は赤い
カーペットはなかったが、監督さんと出演者全員のフォトセッションがあり、
それが終わると熊井啓監督へのTV局のインタビューだった。ギリシャやトル
コ、南米のメディアも来た。

夕方にはホテルに戻って着替え、紋付に袴を着け大きな扇子を動かしていた萬
屋錦之介や監督さんたち一行と『千利休 本覺坊遺文』の上映会場に行き、終
了後に、今度はモーターボートでホテル・ロンドラに行く。審査員たちを招い
た夕食会が深夜過ぎまで行われたのだ。

会場はとても古びたヴェネツィアらしい雰囲気の館で、100人以上の人たちが
詰めて置かれたテーブルにつき、エアコンもあまり効かない中でハリズ・バー
が用意した料理がサーブされた。

同じテーブルの真向かいに三船敏郎は着物姿の小さな娘と夫人と座り、拍子抜
けするくらい腰が低く寡黙だった。萬屋錦之介は当時まだ結婚していなかった
甲にしきがいっしょで、彼女といることが日本へ発覚しやしないかビクビクし
ていると、呆れたようにプロデューサーは朝から私にいっていた。プロデュー
サーの口調には反発を感じさせられた。奥田瑛二は夫人の安藤和津さんといち
ばん若く、夫妻ともとてもくだけた様子で座を盛り上げていた。甲にしきも安
藤和津も完璧なヘア&メイクで、正調な着物を美しく着ていた。

相手は大スター、ツーショットやサインを頼まれるのには慣れきっているだろ
うに、扇子にサインをもらってもツーショットを頼む気にはなれなかった。か
ろうじていっしょに撮らせてもらった奥田瑛二以外は、写真は一枚もない。携
帯という便利なものもなかった。

食事が進むにつれて蒸し暑くなり、招かれた女性たちも我慢がならないように
扇子やメニューの紙で風を送っていた。

ドルチェを味わうころだったか、錦之介さんが私に向かって呼びかけ、「頼み
たいことがあるんですが」という。ラ行の発音がちょっと引っかかるところ
も、その素顔も昔から観ていた映画と全く変わらず、まるで知っている人に呼
びかけるような口調だった。「何でしょう」とすぐにいったが、声が震えない
ようにした。

錦之介さんはちょっと先のテーブルの方に眼差しを向け、「あそこに座ってい
る真ん中の女性を見たことがあるんですが、誰ですか?」とかすれたような声
でいう。離れてはいるが、そこは審査員のテーブルで、女優のマリアンジェ
ラ・メラートが真ん中に座っていた。彼女の出世作でリーナ・ヴェルトミュラ
ー監督の題名が長いのでも有名な映画を錦之介さんは観たのだろう。

日本語題名が『流されて…』という映画のことをちょっと話し、主演女優だと
いうと、錦之介さんはぱっと目を輝かせ「そう、それだ、食事が終わったら、
ぜひ、挨拶したい」といった。

もちろん快諾し、「映画をほとんど毎日見ている」と錦之介さんがいうのを驚
いて聞いた。映画をいちばんよく観るのは映画人、小説をいちばんよく読むの
は小説家のはずだ。

『流されて…』はマリアンジェラ・メラートと、孤島に漂流する相手役は今も
人気のあるジャンカルロ・ジャンニーニの主演と知っていた。

エスプレッソが運ばれるころ、錦之介さんとマリアンジェラ・メラートがどん
な話をするのだろうとワクワクしていると、突然、審査員テーブルの方で大き
な音が聞こえ、見ると、彼女の真向かいにいた女性が床に倒れていた。ムシム
シした暑さと食事と、何かわからない個人的な理由があって卒倒したようだ。
審査員テーブルは騒然となり、倒れた女性の周りに人垣ができた。

錦之介さんと私が審査員のテーブルに近づいたのは、その状況が一段落してか
らだ。錦之介さんを紹介すると、マリアンジェラ・メラートの表情はあまりほ
がらかではなかった。『千利休 本覺坊遺文』もまだ選考中のはずだったし、
必要以上の好意は示せなかったかもしれない。錦之介さんも握手がすむと、そ
れ以上の話をしようという気分ではなかったらしい。それで、千載一隅のチャ
ンスは、錦之介さんがいったとおり、挨拶で終わってしまった。

授賞式は翌日の夜で、私は午前中にはフィレンツェに戻ることになっていた。
監督賞・銀獅子賞の受賞を知ったのもわが家のテレビの前だった。

あの女性が卒倒しなかったら、二人の映画人が交わした話はどうだったのだろ
う…。ヴェネツィア映画祭といえば、そのシーンが忘れられない。錦之介さん
は亡くなり、マリアンジェラ・メラートも女優として姿を見なくなって久し
い。 〜引用終わり〜


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から16年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部門
で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。melma の事情により今月末でサ
ービス終了とのことです: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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赤坂真理 『箱の中の天皇』河出書房新社 1400円+税

生前退位の意向を告げる現上皇のテレビメッセージを聴いた時、私は深い驚
きを覚えました。その時彼は、高齢に達したいま、「全身全霊をもって象徴の
務めを果していくことが、難しくなる」と述べました。象徴といえば旗やロゴ
をイメージします。それらが何かを「する」とは誰も思いません。ところが現
上皇は、天皇として存在する(「である」)だけでは不十分であり、国民統合
の象徴として行為「する」ことによってはじめて、天皇はその責務を果たしう
ると考えていたのです。本作は、このメッセージへの優れた文学的応答です。

作者の分身と思しきマリが、1946年の横浜にタイムスリップします。そ
こで彼女は謎の老女から、マッカーサーのもとにある天皇の魂の入った箱を、
偽物とすり替えて奪還して欲しいと頼まれます。マッカーサーのもとを訪れた
マリは、箱の奪還に成功しますが、中は空っぽ。マリは元帥の性的な魅力の虜
になります。敗戦後の日本人が、不在の「父」の像をマッカーサーに投影して
いたこと。そして占領がアメリカという「男」が日本という「女」をかき抱
く、性的なニュアンスを強くもつ現象であったことを感受するのです。

本作には数多の死者が姿をあらわし、マリは彼彼女らと対話をします。マリ
の父も、姿をあらわした死者たちの一人です。父は言います。あの空っぽの箱
は、私の人生なのだと。戦争に敗れすべてを失った空虚を満たすために、家族
を顧みず懸命に働いた。その挙句、バブル期の円高不況で破産して、自ら命を
絶った自分を許して欲しいと。戦争に敗れ、その男性性を否定された日本の男
たちの屈辱と不安に、マリは思いを致します。その苦しみを理解していなかっ
たことを、マリは父に対して詫びました。父娘は和解を果したのです。

憲法と占領政策を立案したGHQの幹部たちも姿をあらわし、マリと一緒に
生前退位のメッセージに耳を傾けます。彼らは言います。天皇は歴史的に権力
者から利用されて来た。空虚で実体のない存在だからこそ利用価値があった。
われわれはそれに倣った。だから「象徴」という空っぽの器を憲法の最初に据
えた。その空虚を満たすのは日本人の仕事なのだと。しかし日本人は誰もその
空虚を満たして、民主的な国家を創ろうとはしませんでした。現上皇のみが、
どうすれば国民統合の「象徴」たりうるかと考え、奮闘していたのです。

現上皇は、第二次世界大戦の激戦地や大災害の被災地、そして僻地離島への
慰霊と慰問の旅を退位の直前まで重ねてきました。大きな被害にあい、あるい
は日々困難な状況に置かれた人たちによりそい、彼彼女らのために祈りを捧げ
ることによって、誰一人として日本国民を見捨ててはならないという暗黙のメ
ッセージを発し続けてきたのです。それが現上皇の考えた「象徴的行為」でし
た。死者と交響する幻想的な作風は、石牟礼道子を彷彿とさせるものです。優
れた文学性と深い政治的思索とを含んだ本作を是非お読みください。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「何をどうすれば?」の話

ここ数年「マンガ図書館Z」と言うマンガ無料配信サイト(昔は「絶版図書館」
と言う名前でその名の通り絶版になった単行本を広告付きで無料で配信してく
れている)の新年会に行って情報を仕入れて来るのが正月の慣わしとなってい
る。

いやしくもマンガの講師をしているのだから少しはお金も使って学生の為に…
とは名ばかりで、それにかこつけて東京観光してると言う噂もあるが、色々実
になる情報や身の毛のよだつ情報など知る事が出来てありがたい。

問題になった「漫画村」や今、問題視されている「リーチサイト」(個人でア
ップした作品をまとめてダウンロード出来るところを「紹介」するサイトらし
い)などの存在などもここで教えてもらった。

やはり1番のテーマは出版業界の話と電子書籍の事になる。

去年までは紙の本の減少分を電子書籍が補って全体ではまだ増加傾向にある、
と言う話だったのだが…今年は全体数がなだらかに落ちてきたらしい。うん、
少子化で人口そのものが減っている中、右肩上がりを夢見る事は流石に無理な
様だ。

若年層壮年層の電子書籍シフトはどうなっているんだろう?そのあたりの細か
い動静はプロである彼らもまだ把握してはいない様だが、マンガ図書館Zに限
っては訪問分布では若い層が多い様なのだが、サイトに留まっている時間は
60代が多いらしい。

なるほど。
考えれば人間の1日の時間は限られている。
その中で「読書」に割ける時間はどれぐらいなのだろう?

特に若年層壮年層は日々流れてくるLINEに目を通さない訳にもいかないしも
ちろん返信も必要、面白いYouTubeがあれば見に行くだろうしTwitterもチェッ
クする。もちろん仕事に学校に取られる時間は削る訳には行かない。テレビ離
れが言われているがそれなりに録画なり配信なりで見る層は見ている。
実質時間はかなり限られてしまうような気がする。

しかし…紙の本は続きを読むためカバンから取り出して栞のところから読めば
いい。が、電書になるともう一手間二手間かかるように思えるのは慣れてない
だけなんだろうか?

読書って習慣だしなぁ。

購入した電子書籍がクラウドの中で積ん読になっているのは何とも笑えない話
だ。


◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第103回 『カラヴァッジオ展を観て ─── 素人探偵の真贋判断』

2014年にフランスのトゥルーズ(Toulouse)という町の民家の屋根裏部屋で
見つかったカラヴァッジオと思われる絵がオークションに出品されるという報
道に、アートマーケットは盛り上がったことをこのメルマガでもお伝えしまし
た。

2019年6月に行われるはずのオークションは、2日前にキャンセルされ、絵は
示談成立でフランスの地から海を渡ったようです。
たぶんアメリカ方面です。

20世紀に入って再びその価値を再認識されたカラヴァッジオの絵が、フラン
スの建物の片隅に誇りを被っているところを発見されることがこれまでにもあ
りました。

例えばロッシュ(Loches)の教会で発見された2枚の絵は本物ではないとの
大方の見方で一致。ロッシュの絵は素人の私が見ても本物ではないと思う程度
の出来でした。

かなりの出来栄えの今回のトゥルーズの絵が限りなく本物の可能性が高く、派
手な宣伝効果もありオークションではざっくり130億円から170億円ほどの評
価額がでていました。

□カラヴァッジオ作とされる《ユディトとホロフェルネス》 美術手帖(日本
語)
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19887

実際この絵がいくらで買われたのかは闇の中ですが、本物としての値段で売ら
れたわけです。バスキアが100億円を超える昨今は、当然100億円台でしょ
う。

そんな中、今回、北海道・名古屋・大阪を巡回中の『カラヴァッジオ展』を見
た時、限りなく本物と見まがうコピーがかかっていて驚きました。
それがコピーだなんて信じられない絵だったのです。

素晴らしい緊張感に覆われたこの絵を会場で見た時は、本物だと思ってまずは
見入ったのですが、、、、ありゃりゃ、表示板にはコピーとの文字が。
素人の印象なんてなんの意味もないけれど、この完璧に見えるコピーの目の前
では、トゥールーズの絵の細部は怪しいと探偵kokoの第一印象。
あ〜、悩ましい印象が頭に貼り付きました。

今回の展覧会には10点ほどの本物のカラヴァッジオの絵画が展示されていま
す。なかなか充実した展示で、当時のイタリアのカラヴァッジオを取り巻く様
子がよく理解できる構成でした。

その中で本物に全く引けをとらないと思われる「聖トマスの不信」(カラヴァ
ッジオ作品からの模写 1610-1660 ウフィツィ美術館蔵)が問題の作品。
個人的には他の本物とされている作品以上に素晴らしく見えてしまうよ〜〜
〜。
コピーとはいえ、流石ウフィツィ美術館蔵、第一級コピーです。

□『カラヴァッジオ展』(ニコニコニュース)※問題の絵はサイトの3番目の
画像です。
https://news.nicovideo.jp/watch/nw6464884?news_ref=50_50

当時、カラヴァッジオの人気は高く、たくさんのコピーが作られていました。
特にこの「聖トマスの不信」は人気の主題で、17世紀に制作された模写のう
ち22点が現存し、まだまだその数が増える可能性も大いにあるそうです。
こんなすごいコピーが描けるなら、トゥルーズの絵なんて偽物でも驚きませ
ん。
カラヴァッジオっぽい絵を描くことは当時の画家にとってはそんなに難しくな
いことだったんですね。

□オリジナルとされる「聖トマスの背信」画像
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/caravaggio_tommaso.html

このコラムで時折触れる真贋問題ですが、描かれた時代が同時代ならば科学的
な調査をしても判断が難しいでしょうね。400年後アートファンの熱狂の中、
真贋問題を考えるのは夢あふれる話題です。

いつもワクワクします。
この絵の発見と調査に関わったトゥールーズの関係者のスリリングな4年間を
想像すると、またこんな発見がどこかで起こるのが待ちどおしいなぁ。
今後、どこの美術館にトゥールーズのカラヴァッジオ作品が飾られる日がくる
のか・・・それも楽しみですね。

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)
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■スプートニクとガガリーンの闇 26 内藤陽介
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米国のロケットメール実験

1959年末の時点で、ソ連はルナ2号を月に衝突させ、同3号で月の裏側の
写真撮影に成功し、その成果を政治的プロパガンダとして大々的に活用してい
た。ただし、そうした成果は、必ずしも、すぐに軍事・民生面で実際に応用さ
れたわけではなく、見かけの華やかさに比して、じつは米ソの実際の軍事バラ
ンスは米国が圧倒的に優位という状況は変わらなかった。

一方、米国の宇宙開発は実用本位の地道なものであったため、ソ連の後塵を
拝しているような印象を与え、西側世界の一般市民に“ミサイル・ギャップ”の
不安を与えていたが、ソ連に比して遜色のない成果を着実にあげている。

たとえば、1957年10月にソ連がスプートニク1号の打ち上げに成功した後、
米国は1958年1月31日、人工衛星エクスプローラー1号を搭載したジュノーI
ロケットをフロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げることに成功
した。この計画を主導したのは米陸軍で、衛星を製造したのはジェット推進研
究所だったが、ロケットは、米陸軍弾道ミサイル局がそれまで開発を進めてき
たレッドストーン短距離弾道ミサイルの技術を活用し、84日間で組み立てた
ものである。米国としては、ともかくもソ連による宇宙の独占を一刻も早く打
破したいという思いが強かったのだろう。

もっとも、軍主導の計画ではあったものの、エクスプローラー1号の打ち上げ
は国際地球観測年事業の一環でもあったことから、実際の衛星の活動は科学目
的の計測が優先され、衛星にはガイガー・カウンターが搭載されていた。その
観測結果は、エクスプローラー3号によるものとあわせて、ヴァン・アレン帯
(地球を取り囲む放射線帯)の発見という成果に結びついている。

ついで、1958年3月のヴァンガード1号(太陽電池パネルを利用した最初の
衛星)、12月のプロジェクト・スコア(世界初の通信衛星)、1959年2月の
ヴァンガード2号(世界初の気象衛星)、ディスカバラー1号(世界初の極軌
道周回衛星)、8月のエクスプローラー6号(初の衛星からの地球撮影)な
ど、米国の宇宙開発は着々と専門的な実績を積み上げていったものの、プロパ
ガンダを主目的としたソ連の衛星に比べると地味な印象はぬぐえず、当初は記
念切手も発行されなかった。

こうした宇宙開発の成果を実際に応用したものとして、1959年6月、米海
軍は郵政省(現・郵便公社)とともにミサイル・メールの実験を行った。

すなわち、1959年6月8日正午少し前、フロリダ沖に停泊中の米海軍の潜
水艦バルベロから郵便物(郵政長官、アーサー・サマーフィールドの挨拶状が
同封されていた)を搭載したミサイルが発射され、22分後、フロリダ州メイ
ポートの海軍補助飛行場の標的に着弾。3000通の郵便物は、バルベロがヴァ
ージニア州ノーフォークを出航する前に、6月8日午前9時30分のバルベロ艦
内郵便局の消印を押してミサイルに搭載され、着弾後、大統領アイゼンハワー
以下の米政府要人ならびに万国郵便連合加盟各国(当然、ソ連も含まれる)の
郵政機関の長宛に届けられている。

http://blog-imgs-44.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/

201210211512397bd.jpg は、この実験で届けられた郵便物)
実験に立ち会ったサマーフィールドは、無事に郵便物がメイポートに到着した
ことを受けて、「郵便物の輸送という重要かつ実用的な目的のために、誘導ミ
サイルを平和的に利用したことは、今回が世界初の快挙であります」と演説
し、ミサイル・メールを「全世界の人々にとっての歴史的偉業」と自賛した。

さらに、サマーフィールドは「人類が月に到着する前に、誘導ミサイルを利用
して、ニューヨークからカリフォルニア、英国、インド、オーストラリアま
で、数時間以内に郵便が届くようになるでしょう」とも述べている。このくだ
りは、「ソ連はルナ計画で月ロケットを成功させているというが、それが一般
国民の生活にとって何の価値があるのか」と言っているようで、正論ではあろ
うが、負け惜しみに聞こえなくもない。

一方、http://blog-imgs-44.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/

2012121513142928f.jpg は、エクスプローラー6号の打ち上げ当日の
1959年8月7日、打ち上げられるロケットのデータを印刷した封筒に、ケー
プ・カナベラル空軍基地近くのポート・カナベラル郵便局の消印を押して作成
された記念カバーである。

エクスプローラー6号は、捕捉放射線観測、電磁圏の電波伝播観測、流星塵の
フラックス測定などを目的として打ち上げられ、所期の目的を達したが、一般
には、衛星軌道から撮影した地球の写真データを初めて地上に送信した衛星と
いうイメージの方が強いようだ。一般の米国民にとっては、理解しづらい専門
的な業績よりも、衛星写真は、ソ連に対する“ミサイル・ギャップ”を埋める対
抗手段になりうるものとして、その意義がわかりやすかったのだろう。

ちなみに、カバーに貼られている切手は、エクスプローラー6号の打ち上げか
ら4ヶ月ほど前の1959年4月に発行された北大西洋条約機構(NATO)創立
10周年の記念切手だが、カバーを制作・販売した業者が、こうした切手を封
筒に貼ることを選択したこと自体、エクスプローラー6号による衛星写真の撮
影成功に喜ぶ一般市民の心情に寄り添ったものと考えてよい。


内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。
フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国家や
地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けている。主
な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ(日本郵
趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『
切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』(角川選
書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。最新作『
日韓基本条約 (シリーズ韓国現代史1953-1965)』えにし書房
電子書籍で「切手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川
oneテーマ21などがある。

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■編集後記

竜巻先生の原稿。とてもタイミングが悪かった。24日にこういう記事が出て
いますが、これより前に原稿は出ていたと言うことで・・・(^^;)
新文化
紙と電子」の出版市場、0.2%増に(出版科学研究所調べ)
http://www.webdoku.jp/shinbunka/2020/01/24/183446.html

人口減少が止まらないので、このまま市場が成長軌道に乗るとは思えないのだ
けど、ある種の下げ止まりが来ているのかも知れません。

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 マルクスは「暴力は歴史の産婆である」と言った。暗殺者たちはつねに「これ
 は正義のための闘いだ」と確信していた。歴史を一変させた15の殺人を可能な
 かぎり正確に物語る。上:カエサルからフランツ=フェルディナントまで
 下:ニコライ二世からチャウシェスク夫妻まで  
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第63回 「2020年もよろしくお願いいたします」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第127回 小さな声によりそって
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「踏切」に名前があるってご存知ですか?
  
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 ----------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 つのイベントをご紹介します。
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 ----------------------------------------------------------------------
 ■「散慮逍遥月記」 / 停雲荘主人
 ----------------------------------------------------------------------
 第63回「2020年もよろしくお願いいたします」
 
 遅ればせながら,あけましておめでとうございます。本年もお引き立ての程よ
 ろしくお願い申し上げます。
 
 2017年の暮れからこちら,なかなかに慌ただしい毎日を送ってきましたが,さ
 て2020年は少し腰を落ち着けて研究と教育と課外活動と,それぞれすすめるこ
 とができるでしょうか。実は年始早々にやる気を削がれる話が舞い込んできて,
 いささかげんなりしているという事実はありますが,それはそのうちうっちゃ
 りを決める機会を伺うこととして(苦笑)。
 
 研究分野では,2019年は新しい業務に慣れるため進展がありませんでしたが,
 2020年は15年ほど前に公表した「貸出至上主義」に関する記事の再考を手掛け
 ることを考えています。これは我が論旨を見直す必要はなく(むしろこの15年
 にわたる業界での見聞により,論旨を補強する材料は増えつつあるというのが
 実感です),記事自体を撤回しなければならないほど悪い出来ではないと考え
 ているものの,手掛けてから15年も経つとあちらこちらに,取材が足りなかっ
 たり思考が浅かったり言葉が足りなかったりするが故の欠点が見え始めて,著
 者としても少々いたたまれなくなってきておりますので,新たに稿を起こして
 自説を補強更新するとともに,より多くの業界関係者に「貸出至上主義」の限
 界とその克服を考えていただこうというのが,再考の趣旨です。そして,でき
 れば電子媒体も整っている媒体に投稿し,本誌および電子媒体に掲載されるこ
 とで「貸出至上主義」の限界をご理解いただき,わたしの論説,趣旨に異議が
 あるのであればわたしを指名した上でご批判を賜ることができましたら幸甚で
 す。
 
 研究では他にも幾つか考えているものがありますが,まだまだアイデア段階の
 ものばかりですので,具体化には少々時間がかかりそうです。
 
 教育では,今年から卒業研究とプロジェクト学習を担当することになります。
 卒業研究は,学生時代に自分が執筆して以来の取り組みになりますが,卒業研
 究と言っても短大ですので学生さんも注力できる時間はそれほど多くないこと
 が予想できるため,その進め方には工夫が必要です。できるだけよい論文(問
 いが成立している,問いに対して自論を説得力ある文章で書き込んでいる,な
 どなど)を書き上げてもらって送り出すのがわたしの務めになるでしょうか。
 添削,とは言いますが「削る」はできるだけ控えて,文章に流れを「添える」
 方向でいきます。「図書館情報学」の看板を出して案内したところ,3名ほど
 希望者が来ました。
 プロジェクト学習とは,最近聞かれるようになった教育手法で,学生が自らプ
 ロジェクト(課題)を立ち上げ,チームを組んで自分たちで課題を設定して解
 決していく学習法のことを指します。勤務先では,これをこれまた昨今の大学
 において重要視されてきている「地域貢献」と組み合わせて,出身地が異なる
 学生が大学のある地域について学習し,理解し,課題解決を実践していく,と
 いう一連の作業を教員の指導の下すすめていく,という実習を行っています。
 こちらも,わたしが関わるのは初めてのことになるので,プロジェクトの設定
 から慎重にすすめてまいります。みなさまにプロジェクトの内容を広くお知ら
 せできるようになりましたら,またご報告できることがあるかもしれません。
 
 ここで触れた件以外にも,業務として,また課外活動として様々に煩雑な
 (失礼)作業をすすめながら,こちらの連載もできるだけ穴を開けずに,毎月
 出稿するようにいたします。改めて,よろしくお願い申し上げます。
 
 では,また次回。
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から司書養成が本務のはずの大学教員兼大学図書館員。南東北在住。
 好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主張,我
 に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。 
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  


 
第127回 小さな声によりそって

 
  新しい年を迎えて、今年こそは、積ん読を減らして、本を読むようにしたい
 なあ、と思ったものの、せっかく年末年始に読もうと思って買い込んだ本もや
 っぱり寝床の横に積まれてしまっている。いやいやこれではいけない、と読み
 始めたのが、『古くて新しい仕事』(島田潤一郎著 新潮社)だった。ひとり
 出版社「夏葉社」の島田さんの書き下ろしエッセイ集だ。この本だって、昨年
 の秋に出ていて、しばらく積ん読になっていたのだけど。

 
  この原稿は、成人の日の前日に書いているけれど、これから社会に出る若い
 人たちに読んでほしい一冊だ。島田さんは編集の経験などまったくないのに出
 版社を起業して、自分が出版したい本を出しながらもう10年を迎えている。何
 か新しいことを始めたい人、自分の道をさがしている人にぜひ、読んでほしい。
 
「嘘をつかない、裏切らない、ぼくは具体的なだれかを思って、本をつくる。
 それしかできない」と帯にあるように、10年前に島田さんに会ってから、その
 姿勢は少しも揺らいでいないようだ。

 
  出版を始めたばかりの若い島田さんが語っていたこと、エピソードがそのま
 ま書いてある。10年経っていても、ずっと同じ情熱を持ったまま続けているの
 がすごいなあ、と思う。いや10年という実績を積んで、より力強くなっている
 ようだ。世間の荒波に揉まれて、「大人」になってしまうことなく、いまだに
 「青年の青臭さ」を持っていて嬉しくなってくる。それにしても、もう10年も
 経ったんだな。その間、35冊も出版したんだ。改めて、すごいなあと思う。
 夏葉社5周年の記念ライブに出演させてもらったことも懐かしく思い出す。

  10年前、古本関係やトークショーなどで会った島田さんは、率直で正直で、
 自分の思いをてらいもなく熱く語る青年だった。30歳を過ぎているなのに、も
 っと若く見えた。この青年がどんなことをやろうとしているのか、興味があっ
 て、何回かトークショーにも行ってみた。
 
 
 ところが、ぼくが行ったトークショーでは、どういうわけか本や出版の話題
 よりも2時間近く失恋話をとうとうと語ったこともあった。話術に長けている
 し、あまりに熱く語るので面白く聞いたけれど、あれはいったいなんだったん
 だろう(笑)。
 
 
 いや、島田さんはふざけていたわけではない。このときだって、島田さんは
 受けを狙って話したのではなくて、きっと一番話したかったことを思いのまま
 に話しただけだったんだろう。このエッセイからもその熱さ、そしてときには
 “暑苦しさ”(失礼!)あまりの情熱にたじろいでしまう)が伝わってくる。
 「一人出版社」が注目されるようになったのは、夏葉社が『レンブラントの帽
 子』(バーナード・マラマッド 著 小島信夫 浜本武雄 井上謙治 訳)を
 和田誠の装丁で出版したり、幻の本だった『昔日の客』(関口義雄 著)を復
 刊したころだろうか。もちろん小規模の出版社はそれまでもたくさんあったは
 ずなのだけれど、夏葉社の本は復刊ということもあって、新しいのに懐かしさ
 を持っていたし、装丁が美しくて、たったひとりの出版社がこれほどの本を出
 版できるんだ、と驚きでもあった。

 
  ぼくはそれまで『昔日の客』という本を知らなかった。エッセイで島田さん
 が書いていたとおり、周りの古本好きや、Twitterのタイムラインに流れてく
 る礼賛の声を読んで知ったのだ。口コミ、SNSの宣伝効果は大きいのがわかる。

  そして『昔日の客』は、期待を裏切らなかった。古書店と作家たちとの温か
 い交流が伝わってくる。古本好きの間では有名な本だったらしいが、よく復刊
 したなあ、と感心した。とにかくぼくの周囲では、夏葉社の登場は画期的な出
 来事だった。ぼくも、つぎはどんな本が出るんだろうと、楽しみになった。

 
  このエッセイ集は、小説家を目指していた島田さんが出版社をどのようにし
 て企業したか、そしてそれからの10年を書いているけれど、決してハウツー本
 ではない。もちろん、ひとり出版社の仕事を具体的に書いてもいる。編集だけ
 でなく、営業をやりながら書店の棚が作られていく仕組みも面白い。島田さん
 は編集の仕事に、とても謙虚に向き合っている。「編集という仕事は、とどの
 つまり、だれかにお願いをする」といっている。本づくりの細かなことは、デ
 ザイナーや校正者の人に教わったという。何かのイベントの打ち上げで島田さ
 んと同席したことがあったが、そのときも校正者の猪熊良子さんにいろいろと
 話を聞いていたのを覚えている。

 
  このエッセイ集、生きることについて、働くことについて、たくさんのヒン
 トや、考えるべきこと、気づかされることが書いてある「青春のバイブル」と
 いえそうだ。60歳を過ぎているぼくだけど、ほんの少し勇気をもらえた。もっ
 と若い時にこの本があればな、なんて思ってしまった。

 
  島田さんが出版社を起業したのは、就職先がなかったからだったという。就
 職をしようにも50社連続で不採用になったらしい。たしかに小説家志望で27歳
 まで定職がなければ、なかなか就職先は見つからないだろう。だが、それだけ
 ではなかった。親友だった従兄の突然の死が大きな理由だった。落ち込む島田
 さんを救ったのは文学であり、本だった。そして大事な息子を失った叔父と叔
 母のために一編の詩を本にしたかったといのが夏葉社をつくる大きな動機だっ
 た。
「だれかを思って本をつくる」、これが島田さんの原点なのだ。この詩は
 のちに『さよならのあとで』(ヘンリー・スコット・ホランド 詩 高橋和枝
  絵 櫻井久 装丁)となって出版されている。
「だれかを思って本をつくる」
 は、「手紙のような本」をつくることだった。

 
  島田さんは仕事を依頼するとき、手紙を書くという。メールを書くときも、
 どうして仕事を依頼したいのか、自分の気持ちを正確に伝えようとする。紋切
 り型になって、島田さんという人間のことが伝わらないことがないように文章
 を書く。1時間も2時間もかかることがあるという。

 
  一対一の手紙、メールは、「この人ならわかってくれるだろうという表現で、
 自分の気持ちを伝え、相手の心情を慮る」ものだ。島田さんは、本をつくると
 き、一対一の手紙のような本をつくりたいと願っている。「具体的な読者の顔
 を想像して、よく知る書店員さんひとりひとりを思いながらつくる本」という
 のだ。

 
  これは、本だけでなく、あらゆるものづくりに大切なことなのでは、と改め
 て思った。このような作り方をしていては、おそらく大きな収入を得られるも
 のは出来ないかもしれない。ベストセラーにならないだろう。だが、だれかに
 とっては、かけがえのない一冊の本になるかもしれない。きっとそういう本は、
 ずっと長い間、残っていくのではないかな。一生に一冊でも、一曲でもそんな
 ものをつくれたら、どんなにいいんだろうと思う。

 
  島田さんは、「小さな仕事のすべてに価値があるとは思わない」、「大きな
 資本にはできないことをやることが、小さな仕事の価値なのだ」という。そう、
 それは、島田さんのいうとおり、大多数の側に立つのではなく、少数派の意見
 の立場に立つということなのだ。少数派の意見を大切にする出版社があるのは、
 これからもっと大切なことになっていくだろう。これって、出版だけじゃない
 よね。音楽だって、お店だって、個人で何かを始めようとしている人には大切
 にしなければならないことだと思う。
「意思があれば、続くというのではない。
 けれど、意思がなければ、いつの間にか遠くへと流されてしまう」と10年の経
 験を積んだ島田さんはいう。「小さな仕事を長く続けるコツのようなものがあ
 るとすれば、それは手間暇のかかった、具体的で、小さな声によりそったもの
 だろう」

 
  新年のはじめに、素敵な本を読んだ。襟を正して生きていかなくては!
  なんて、柄にもないこと思ってしまった。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

  くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドア
 ルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

  https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
 
 
 

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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  皆さんが普段通る道にも踏切がひとつふたつあったりするのではないかと思
 います。あまり知られていないかもしれませんが、踏切にも一箇所ごとに名前
 がつけられています。
 
 『ゆかいな珍名踏切』、今尾恵介、朝日新聞出版、2020
 
  著者の今尾恵介氏は地図・地名の分野では有名な方ですが、ついに踏切名ま
 で手を伸ばしたのかと感慨ひとしおです。というかいままで踏切の名前で一冊
 勝負してみようという出版社が無かっただけかもしれませんが。
 
  踏切というものは交通法規上はイレギュラーな存在で、基本的には例外的な
 存在です。そのため近年も立体交差化などで次々と姿を消しています。今後新
 しい踏切が生まれることはほぼ無いでしょう。ということで踏切というのはも
 うなくなる一方の存在ということです。うかうかしているとあなたのお家の近
 くの踏切も無くなってしまうかもしれません(立体交差化などで無くなっても
 困らないでしょうが)。
 
  そんな踏切の名前ですが、実は決め方が適当な感じが濃厚に漂っています。
 本書に紹介されただけでも「パーマ踏切」・「虚無僧踏切」・「古代文字踏切」・
 「爆発踏切」ともはや地名ですらないような名前が並びます。もちろんちゃんと
 (?)地名がつけられている踏切もあるのですが…。もはや部外者には一見何が
 何やらわかりません。
 
  と思いきや地元の人にとっても由来不明の場合が少なくありません。著者は
 地元の人にしばしば聞き取りを行っていますが(おそらく聞き取り以外で由来
 を辿るのは難しそう)、それでも明確な答えを得られないこともあります。
 
  例えば千葉県の「切られ踏切」。明らかに地名ではなさそうなこの踏切名、由
 来を地元の人に尋ねると、近くに旧藩時代の刑場があったというところまでは
 辿れます。おそらくそれが由来だろうと。しかしなぜ刑場跡の近くにあるこの
 踏切が「刑場」を名乗らず「切られ踏切」となったのかについては誰もわかりま
 せん。地元の教育委員会の人が国鉄に聞いても不明とのこと。
 
  長野県の「パーマ踏切」については、踏切の近くに繁盛していたパーマ屋さん
 があったのが、名付けの理由となっています。しかしそのパーマ屋さんは実に
 もう60年以上前に別の場所に移転しているということが現地調査で判明します。
 美容院ではなくパーマの方を名付けに持ってくるところに、パーマが特別だっ
 た時代を感じさせます。
 
  と、かように踏切の名前は鉄道会社にとっては(名前が付いて識別できれば)
 どうでもいいもののようです。だから由来不明でもかまわないし、現状に即し
 て改称することもありません。もっとも京浜工業地帯の真ん中には、会社の名
 称変更に合わせて名前を変えた踏切もあるようですが、大半は踏切ができたと
 きの状況がそのまま保存されています。
 
  館山市にある「汽船場海岸通り踏切」などはそのいい例です。館山駅のすぐ南
 に位置し、ここを西のほうへ進むとすぐに海岸に出ます。実はこの海岸にはか
 つて桟橋があり、東京と館山を結ぶ東海汽船の船が発着していました。そして
 この踏切のある通りにもかつては旅館が立ち並んでいました。この踏切名はか
 つての繁栄振りをとどめるものだったのでした。
 
  ちなみにこの踏切のそばには「靴屋踏切」もあり、こちらはかつてここに靴屋
 があった名残をとどめています。閉業したのはざっと30年は前らしいですが。
 
  山手線の踏切には「青山街道踏切」というのがあります。その道は青山方面
 へ通じているのですが、今尾氏をもってしても「青山街道」なる街道の名前は
 聞いたことがないとのことです。おそらくは愛称のような形でそう呼ばれて
 いたのでしょう。
 
  そんなわけで踏切の名前には地元の人でさえ忘れてしまっているような歴史
 がひっそりとその名をとどめていたりするのです。これが踏切の名前の最大の
 魅力といえるでしょう。
 
  ということで踏切の名前にはその土地の秘密(?)が隠されていることが往々
 にしてあります。本書を読んで珍名に驚くもよし、名付けの背景探索を楽しむ
 もよし、早速近所の踏切名を見に行ってみるのも面白いかもしれません(鉄道
 会社によっては数字のみの場合もあるようなので注意)。
 
  それぞれの土地の歴史にふれる「虚無僧踏切」・「古代文字踏切」・「爆発踏
 切」の由来については御一読の程を。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ ミロコマチコ 絵本「ドクルジン」(亜紀書房)原画展
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2020年1月20日(月)〜2月3日(月) 会期中無休
     平日 11時〜21時 土日祝 11時〜19時  ※最終日のみ17時まで
 
 ◇場所:ブックハウスカフェ
     〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル2F
     TEL 03-6261-6177
 
 ★入場無料
 
 詳細は、http://bookhousecafe.jp まで

 ■ 夏葉社 「サンライト 永井宏さんが残したもの」
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2020年1月17日(金)〜2月3日(月) 8時から19時
            定休日 水曜日+臨時休業
 
 ◇場所:栞日 2F 企画展示室
     〒390-0815 長野県松本市深志3-7-5
     TEL 0263-87-5377
         http://sioribi.jp

 美術作家であり、たくさんの詩やエッセイを残した永井宏さんの散文アンソロ
 ジー『サンライト』(夏葉社)の発売を記念して、永井さんのアート作品、関連
 書籍を展示販売します。初日前夜には版元である〈夏葉社〉の島田潤一郎さ
 ん、編集を担当した丹治史彦さんをお招きして、トークイベントも開催。
 「誰にでも表現はできる。ぼくたちの暮らしが作品になるんだ」とたくさんの人
 を励まし、没後もなお影響を与え続けている永井宏さんの作品と考え方に、
 ぜひ触れてください。                             ―HPより抜粋―
 


■映画館のかたち 中馬 聰   写真展 
             『藤森照信のクラシック映画館』(青幻舎)刊行記念
 └─────────────────────────────────
 ◆日時;2020年1月 18日(土)〜29日(土) 11時〜19時 水曜日休み
 
 ◇場所:メリーゴーランド京都
   〒600-8018 京都市下京区河原町通四条下ル
                           市之町251-2寿ビルディング5F

    mail:mgr-kyoto@globe.ocn.ne.jp

    tel/fax:075-352-5408

 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 1月から、また周回遅れの配信です。
 読者の皆様、寄稿してくださった皆様、関係者の皆様、誠に申し訳ありませ
 ん。今年もよろしくお願いします。
 
 新年早々、坪内祐三さんが亡くなられた知らせが届きました。
 坪内さんは、広い視野であらゆるものを観察され、細かな出来事まで丁寧に
 拾い上げてくださる方でした。
 それは、隅っこで働いている私(たち)に大変勇気を与えてくださるお仕事で、
 厳しいけれど、坪内さんが見ていて見つけてくださることは喜びでした。
 心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
 
 いらっしゃらなくなって、大変不安です。      畠中理恵子 
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[本]のメルマガ vol.740

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■■ [本]のメルマガ                 2020.01.05.発行
■■                              vol.740
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二郎さんとの特別対談や、技芸の写真も多数収録した誰でも楽しめる一冊!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その43『招かれた女』その3.たくらみの夜食と外食の自由

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第123回 「皆でノル」から「バラバラにノル」へ

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その43『招かれた女』その3.たくらみの夜食と外食の自由

  
 ボーヴォワールの『招かれた女』を見るのもこれで三回目。今回は戦前のパ
リの街に現れる食べ物を見て行こうと思う。

 最初に書いたように、主人公のフランソワーズは劇団の脚本家でもあり小説
家でもある。彼女の恋人であり、劇団の主催者で俳優兼演出家のピエールは売
れっ子で人気者。ブルジョワの伯母から引きだした運営資金で劇団を設立し順
調に行っているようだ。だから、レストランやバーで食事をする場面になると、
必ず若い人たちには食事をおごっている。その場面を見てみると、特にご馳走
を食べるわけではなく、レストランのコース料理というより定食という感じの、
前菜と主菜に食後のコーヒーぐらいの食事なのだが、それでもいかにもフラン
ス料理らしくて、おいしそうなのだ。

 フランソワーズとピエールが若手俳優で演出助手のジェルベールを、グリー
ユというレストランに連れて行ったときの食事場面を見てみよう。

 ピエールの好きな前菜は「マヨネーズかけの卵」。平たく言えば、ゆで卵に
マヨネーズをかけただけのものなのだけれど、レストランの自家製マヨネーズ
というと、イメージは少し違うと思う。

<ピエールはマヨネーズをかけた卵を注文して、たんねんにソースの中に黄身
を砕いていた。ミモザ卵と自称するやつだ>
 
 ジェルベールの注文は「隠元豆付きのハム」。メニュウにまだあったと言っ
て喜んでいるので、この赤い隠元豆つきのハムという料理は、季節のもののよ
うだ。この料理について一応調べたてみたのだが、サラダだとしたら前菜かも
しれないし、主菜の料理である可能性もある。とにかく、ジェルベールはこの
料理のことを後で、un miracle、「あったのは奇跡でしたよ」とグザヴィエー
ルに説明しているくらいだから、お気に入りのようだ。

 デザートにと、フランソワーズはジェルベールの好物のタルトをすすめるの
だが、戦争の危機を感じて気がふさいでいるジェルベールはそれを断り、最後
は埃をかぶった大きな首の細い瓶に入った古いマール酒で食事が締めくくられ
ている。

 では、フランソワーズの好きな食べ物は何かと言うと、「ヴェルシュ」なの
だが、この食べ物は長い間私にとって謎だった。

 それは、フランソワーズとピエールが二人だけでレストランに訪れた日のこ
とだ。運悪く大好きなマヨネーズかけの卵がなくて、ピエールはフランソワー
ズが食べたいというヴェルシュをふたつ注文した。

<ピエールは平然として、ほやほやのヴェルシュにイギリス・ソースをたっぷ
りかけた>

 ヴェルシュとは、辞書をひくとチーズトーストとあるのだが、チーズトース
トにソース?と釈然としないままでいた。だが、ある日ふと、これはWelsh 
rarebit ウェルシュ・ラビットだと気づいて、ほっとしたのだ。それではイギ
リス・ソースもかけたくなるだろう。たっぷりやりたまえ、ピエール君。

 ちなみに私がこの食べ物に本の中で初めて出会ったのは子どもの時に読んだ
『ジェーン・エア』だった。伯母さんの家の女中さんが、今晩はウェルシュ・
ラビットが食べたいと言う場面があって、註には「チーズにビールを混ぜてト
ーストの上に塗って焼いたもの」とあり、子供には想像もつかない苦そうな食
べ物として登場したのだった。レシピを調べるとウスターソースを混ぜるもの
もあり、ピエールの食べ方にも納得が行く。

 この作品を読んでいると主人公たちは外食ばかりしていて、実際に料理をし
ているところがあるのは、若い劇団員がゆで卵を作る場面だけなのだ。もちろ
ん主人公のフランソワーズは一切料理をしない。

 ただ、二人の人物が夜食を作って彼女にご馳走する場面が二か所ある。その
テーブルをのぞいてみよう。 

 若い友人のグザヴィエールが、自分のホテルの部屋にフランソワーズを招き
入れて、簡単な夜食を作ったから今晩はここでお過ごしくださいと言うところ
から情景は始まる。
 
<洗面台のそばのアルコール焜炉には、湯沸かしがシュウシュウ沸いて、暗が
りをすかしてみると、いろんな色のサンドイッチを持った皿が二枚置いてある>

 グザヴィエールは新鮮な緑茶も買ってあると言い、フランソワーズはその強
引な招待をむげに断るわけにもいかないと、しぶしぶ応じる。

 どうしてだろう?若い女の子が一生懸命作った料理を何故食べたがらないの
だろう?

 そんなまずそうなサンドイッチなのか?

「赤いキャヴィアはお好き?」
「ええ、とても」
「ああ、よかった。お嫌いかと思って、とても心配しましたの?」

 そんな心遣いを見せながら差し出されたのはオープン・サンドイッチで、

<円やら、四角やら、菱形やら、いろんなかたちに切った黒パンの上に、さま
ざまな色のジャムみたいなものを塗って、アンチョビや、オリーヴの実、ビー
ツの丸切りなどがのっている>

 このサンドイッチは二つと同じものがないんですと自慢しながらグザヴィエ
ールは、でも、所々にトマトソースをのせずにはいられなかった、とてもきれ
いに見えたからと言う。

 フランソワーズはトマトが大嫌いだと知っていながら、らしい。

 そこで、しぶしぶフランソワーズはサンドイッチを口にするのだが、そう変
わった味でもなかったようだ。グザヴィエールが壁に貼ったヌード写真や、同
じホテルに住むアフリカ系のダンサーの魅力について二人であれこれ話しなが
ら、お茶を飲み過ごす。

 なんとなく大学生の頃、友人の下宿を訪ねたときの風景を思い出す。あの頃
の誘い文句は、オーブン・トースターを買ったからピザトーストパーティーを
しようというものだった。お酒などなくても紅茶だけでも一晩語り明かせたし、
他人の恋の話だけでも盛り上がったっけ。

 でもグザヴィエールのこの夜食の招待は、やはりイクラとトマトソースの取
り合わせのように、何か裏があるのが分る。心遣いを見せながらも嫌いな食べ
物を食べさせるように、やさしさの影にピエールとの恋の駆け引きが隠されて
いるのが明らかになってきて、フランソワーズはグザヴィエールとの友情には
打ち込めないと思うのだ。

 それでは、もうひとつの夜食の場面を見てみよう。物語は進んで行き、フラ
ンソワーズはグザヴィエールとピエールの三人で、トリオで愛情を深め合うよ
うになって行く。彼女たちを夜食に招待したのはピエールの妹で画家のエリザ
ベート。最近は時代の最先端を行くキャバレエの装飾を任されて、名も売れて
お金持ちになってきたようだ。粋なアトリエ付きの部屋で、おしゃれをして三
人を待つエリザベート。自分の姿を鏡で見ると昔の夢がかなったかのように見
えると思っている。若かった頃は狭くてみじめなアパートの部屋で、ピエール
のためにリエットのサンドイッチとキャラフェに入れた量り売りの安葡萄酒の
夜食を用意しながら、キャヴィアとブルゴーニュの古酒を用意しているつもり
でいた等と思い出している。リエットというのは、レバー抜きのパテのような、
ラードの中に挽肉が入っているような感じのもので、パンに擦り付けて食べた
りする。瓶詰などで肉屋や食料品店で売っている、普段のお惣菜という感じの
ものなのだ。
    
 では、今夜エリザベートが用意した夜食は何だろう?

 キャヴィアのオープン・サンドイッチに、フォアグラのパテをのせたオープ
ン・サンドイッチ。そして、プチフール。

 シェリー酒やウオッカの壜もきらびやかに並んでいる。

 ピエールは、

「ほっぺたが落ちそうだ。エリザベート、まるで王様を迎えたようなおもてな
しだね」

と、ほめる。

 フランソワーズもフォアグラのサンドイッチをもりもり食べて、エリザベー
トの衣装をお姫様のようだともてはやす。普段人前で何も食べないグザヴィエ
ールも、すすめられたキャビアを食べておいしいと言う。

 でも、エリザベートは、二人が入れ込んでいるグザヴィエールが気に食わず、
自分の恋人の脚本家のクロードの芝居をピエールが取り上げようとしないのに
不満を持っている。部屋で蓄音機のレコードに合わせてダンスをするグザヴィ
エールとピエールを見ながら、エリザベートは幸せそうなこのトリオに水を差
す計画を密かに練り始めている。

 夜食は少し、危険な悪巧みを産むようだ。

 今回は省略したけれど、この他にも物語の中にはハイキングに行った山のカ
フェで食べる熱いスープや大きなオムレツなどおいしいものがまだまだ描かれ
ている。フランス文学は確かにおいしいものに溢れているのだが、それだけで
はなく、戦中の食糧難を経た作者の思い入れが感じられる。これは宮本百合子
の『二つの庭』にも共通する点で、飢えを知ったからこその食物への郷愁や思
い入れの深さがあると考えられるのだ。

 作者のボーヴォワールは一応お嬢様育ちだったけれど、家が没落し持参金を
持てない身となった。だから親たちに、お前はもう他のお嬢様のような結婚は
できない、大人になったら働かなくてはならない身分なのだと言われてきた。
そして、大学卒業時に教授資格を取り、教職につき、親の家から独立すること
ができた。

 すべての時間を自分で使っていい、自由な身になったのだ。

 その喜びをボーヴォワールは自伝『女ざかり』に、こう書いている。

<暁方に帰っても、一晩中本を読んでも、二十四時間ぶっ続けに閉じこもって
から急に往来に飛び出してもよかった。私はレストラン・ドミニックで、ボル
シチ一杯でお昼をすませたり、クーポールで、夕食代わりにチョコレートを一
杯飲んだりした。>

 彼女が初めて自分自身を投影した主人公であるフランソワーズを描く時、カ
フェやレストランで食事をする場面しか描かなかったのは、彼女自身、外食が
できる自由というのを強烈に感じていたからに違いない。そして、恋人の為に
朝食を作ったり夜食を用意するような場面がないのは、恋をしても対等で、仕
事をし、独立した生活を送っている女性を描きたかったからだろう。

 まだ将来『第二の性』を書くとは思いもよらないボーヴォワールが最初に書
いたこの長編小説。食物を通して見てきたこととは別に、様々なボーヴォワー
ルの特性が現れているのだが、それについて語るのは、また別の機会にしよう。

 ぜひ、フランソワーズが味わった様々なおいしい食べ物と共に、この小説を
おいしく召し上がって欲しいと思う。自由と独立の香りを楽しみながら。

Bon appétit.


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“L’invitée” Simone de Beauvoir                       Gallimard 

『招かれた女』ボーヴォワール著 河口篤 笹森孟正訳   講談社
                           新潮文庫 
『女ざかり』ボーヴォワール著 朝吹登美子 二宮フサ訳
                         紀伊國屋書店
『ジェイン・エア』シャーロット・ブロンテ著 大久保 康雄訳
                           新潮文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使 
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第123回 「皆でノル」から「バラバラにノル」へ
  ―井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』(アルテスパブリッシング)

 ジャズを聞いたことのある人なら誰でも、ソロを取るプレイヤーの音がリズ
ムセクションが刻む音に対しほんの少し遅れて聞こえてくることを不思議に感
じたことがあるのではないだろうか。ソロとリズムセクションで音が出るタイ
ミングに微妙なズレはあるが、一定の間隔でズレ続けるので演奏全体が破綻を
きたすことはない。それどころか独特のモタモタ感がジャズっぽくてかっこい
い! 

 このズレるリズム法のことを「レイドバック(leidback)と言い、モダン・
ジャズの演奏の基本になっている。このジャズ特有のノリを目に見える形で、
「科学的」に解析した本が現れた。井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』
である。著者は、福岡県出身のアマチュアのピアニスト(但し腕はプロ級)。
「フレーズにタメがない」と指摘されたことがきっかけで本業の医師の仕事を
しながら10年以上にわたって研究を続け、その成果を本書に結実させた。その
執念、努力に心から敬意を表したい。  

 著者の分析は精緻を極めるが、方法は意外とシンプルである。演奏をパソコ
ンに取り込み、波形編集ソフトを使って音の流れを図(波形図という)にし、
拍子とのズレのタイミングを計るというもの。ジャズのアドリブは1拍を8分
音符に分けて刻んでいくのが普通だが、著者は音の出るタイミングを4つの要
素で整理していく。

 1つ目は遅れ値。ベースが奏でるジャストの拍の頭からどのくらいの間隔で
ソロの音が出ているか。2つ目はハネ値。ベースの1拍の長さに対するソロの
8分音符の表拍の長さ。3つ目は裏拍値。ソロの8分音符の裏拍がジャストの
拍からどのくらいの間隔で出ているか。4つ目はタイミング値。上記の3つの
値を総合したもの。

 著者は4つのパラメータをフル活用して音の分布図を作っていく。その結果、
ジャズに革命をもたらしたと言われるアルト・サックスのチャーリー・パーカ
ーは、和声面だけでなく、音を刻むタイミングの面でも大革命を成し遂げてい
たことが明確に確認された。彼以前のジャズ、つまりスウィング・ジャズにお
いては、ベースと同じタイミングで表拍の音を出す「頭ノリ」が主流だった
(テナー・サックスのコールマン・ホーキンス等)。しかし、パーカーはベー
スの音からかなり遅れたタイミングで表拍の音を出し、裏拍のも後にズレる
「後ノリ」となっている。ベースとソロのタイミングが一致するスウィングは、
安定した勢いのある感じになるが、パーカーの「後ノリ」演奏は、浮遊感に満
ちたもったりした感じになる。我々が良く知っているモダン・ジャズのノリだ。

 パーカーは先輩であるレスター・ヤングの演奏を参考にしたようだが、それ
にしてもこの変化は急激だった。チャーリー・パーカーの「後ノリ」はたちま
ち周囲に影響を与え、ファッツ・ナヴァロはここからハネを減らし、イーヴン
に近い音の運びでよりスムーズにスウィングするノリを考え出した。マイルス
・デイヴィスはより大胆に後にズレるリズム法を導入した。著者はマイルスが
「卵の殻の上を歩く男」と呼ばれるのは、繊細なミュート・プレイのためばか
りでなく、ギリギリの「後ノリ」のためでもあると述べている。卓見であろう。
また、デクスター・ゴードンは局面によってこれらのノリを使い分ける、「い
いとこ取り」の奏法を確立した。

 自由なソロの重要性が浸透したスウィング時代、ジャズ・ミュージシャンた
ちは個性的な演奏を繰り広げていたが、表拍をベースの音とかっちりと合わせ
ることでは一致しており、比較的均一なリズムで演奏していたと言えそうだ。
が、ビバップ期のチャーリー・パーカーの「後ノリ」革命以後、プレイヤーた
ちはズレの面白さに目覚め、各々が個性的なリズム法を模索し始める。

 これはどういうことだろうか? ぼくには、1940年代後半のビバップの出現
は、単なる音楽の進化ではなくミュージシャンたちの人間としての自覚の進化
に促されたものであるように思える。1920-30年代のジャズはダンス音楽であ
り娯楽音楽だった。もちろん優れたプレイヤーは深い感情演奏に込めたが、基
本的なコンセプトは「皆でノル」であり、プレイヤーは客の楽しみへの「奉仕」
を前提に音楽表現を行っていたと言える。しかし、時代が下ってプレイヤーた
ちに「個」の意識が育ち、他の誰でもない自分自身としての主張を音に込めた
いと思うようになった。そのプレイヤーの言わば「自我の目覚め」が、複雑な
和声の提示として、更に音のタイミングのズレとして、顕在化したのがビバッ
プだったのではないだろうか。モダン・ジャズは踊れない音楽となり、バンド
はプレイヤーたちが各々の「孤独」を確かめ合う場に変わった。踊るのをやめ
て席についた客は、ステージ上での激しい「個」の応酬を固唾を飲んで見守る
ことになった。それは客自身が己の「孤独」を自覚することでもあった。こう
してジャズは「皆でノル」から「バラバラにノル」ものに変わり、大衆音楽か
ら表現音楽へと変貌していったのだ。

 本書の分析対象は多岐にわたり、後半ではドラムスとベースの関係が取り上
げられる。本書の第一の読者対象は実際にジャズを演奏する人だが、譜面では
なく図から演奏を分析するため、楽典の知識のない愛好家でも十分に読んで楽
しむことができる。ジャズへの理解が深まること間違いなしの一冊だ。


*井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』
(アルテスパブリッシング 本体1800円))

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 2020年最初の発行です。あけましておめでとうございます。本年もよろしく
お願い致します。(aguni原口)

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★トピックス
→募集中です

★「甘くて苦いイタリア」 雨宮紀子
→今回は、日本の出版社の話

★「今月のこの一冊」 小谷敏
→現場に武器なしでどう戦えと?

★「ちょっとそこを詰めていただけませんか」 竜巻竜次
→消える学生

★「はてな?現代美術編」 koko
→美術の価格とは?トップたちの論争

★「スプートニクとカガリーンの闇」内藤陽介
→朝鮮総連と帰国事業にスプートニク

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◎六刷出来! 大ロングセラー!
『誰も農業を知らない:プロ農家だからわかる日本農業の未来』
有坪民雄著 本体1,800円+税

机上の改革案が日本農業をつぶす。プロ農家のリアルすぎる目で見た日本農業
の現状と突破口。「目からウロコ」「率直で明快」「現場を知る農家ならでは
の説得力」と賛同の声続々。農業をわかりたいならマストな一冊!
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■トピックス
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内藤陽介氏の新刊、来年早々発売
「日韓基本条約」えにし書房 2000円+税
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908073724

李承晩から朴正煕へ─
朝鮮戦争後の、復興から経済成長期へ向かうこの時期にこそ、現在の日韓関係
につながる問題の原点がある!
日韓基本条約への道のりを、郵便学者にして韓国史の研究者でもある著者が郵
便資料を駆使して詳細にたどる。
両国の関係を改めて見つめ直すための基本図書。

この本の発売を記念して、東京・目白の切手の博物館で行われる第11回テー
マティク研究会切手展のイベントとして、1月12日に内藤氏の郵趣カンファ
レンス(講演会)も行われます。時間は13時から90分の予定。先着20名限定
です。
http://yushu.or.jp/event/minipex/minipex.html

■トピックス募集中です!
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■Italia dolce e amara: 甘くて苦いイタリア / 雨宮紀子
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第106 回 本をつくる、落ち着いた小さな声を聴く

文章に向き合うようになってからほぼ50年になる。そう年数を知っておどろ
くのだが、このごろ言葉とか文章についてこんなふうに考えていた。

もし、ある一行の文章に感銘をうけ、またはある幾つかの言葉を読んで心が動
いたとしたら、それが新聞紙の余白に書かれていても、よく歩く道の石の壁に
書かれていたとしても、生き方が変わるかもしれないような凄いこと。

本で読むのとインパクトはなんら変わらない。書かれた状態ではなく、「何
が」書かれているかのほうに重みがある、と。

だから装丁がよいかどうかにもこだわらない。古本でも、文庫本でもいいし、
今や紙に印刷された日本語の新刊が手に入りにくいから、電子書籍でいいとさ
え思うようになった。ともかく読めればいい。

『古くてあたらしい仕事』というタイトルの本(新潮社刊)を読んで気づくの
は、この著者であり、夏葉社という出版社をひとりで立ち上げて経営して10
年になる島田潤一郎さんの、本をものとしてあつかう情熱というか愛という
か、心の込めかた、「本に対する美意識」だ。

「本をつくるのに際して、考えたのはただひとつ。それは、ぼくが欲しくなる
ような本をつくる、ということだけだった。」
「内容の素晴らしさが装丁や造本に反映されていなければ、読者は手にとって
くれない。」

これが島田さんが念頭においたことだった。実は新潮社刊のこの本を注文して
配送された日、いそいそと手にとってタイトルとモノクロの画がある扉に目を
とめたとき、手の中に何ともいえない温もりと宝物のような感覚をおぼえたの
だ。

ふつうの本と比べて紙質も良く、心持ち小さな版なのも、そうした印象をもた
された理由かもしれない。たぶん、著者が自身の出版社でつくるような本にな
っているのだと思った。

「二〇歳のときから、本を買い、本を読み、小説を書くことだけを自分の人生
の中心においてきた。」

この著書で島田さんは「小説を書くことでは結果を出すことができなかった
が、本を読むことに人生のあたらしい手応えを見出していた」と書くような学
生時代からの生き方も披歴していて、なんとも率直で繊細で心にしみる。

兄弟のように過ごした従兄や親友との死別や、苦手な営業を毎日することに苦
しみ、転職活動に失敗し続ける。

夏葉社と島田さんについては、愛読者だという人のブログをたまたま読んでい
て名前はかなり前から知っていたが、自分を振り返って語りかける佇まいや文
体から、実際よりも上の年代の人と想像していたが、40代前半の若さなのだ
とウェブマガジンの対談で知った。

それで納得したのは、「好き」ということを、よく書いていること。「それく
らい、ぼくはいまの自分の仕事が好きだ。大好きだ。」

島田さんも多くの時間をいっしょに楽しく過ごした従兄を事故で亡くしたあ
と、従弟に向けて「きみの兄は、きみのことをすごく好きだった。すごく愛し
ていた。ぼくはそれを、きみに忘れないでいてほしい。」とある。

「私」でなく「ぼく」という言い方なのも書き手の年代を表していると思うけ
ど、もっと年長に想像して“年代にこだわらず”清々しいとさえ思って読んでい
たのだから笑ってしまう。ひとり出版社の仕事についても、初めて知る読者に
島田さんの声はよく響く。

令和という新しい年号が始まった今年も終わりに向かっている。メルマガを書
き続けている理由は、島田さんの言葉(文章)をお借りすれば、こうなると思
う:

「ぼくが尊敬していた会社の先輩は、ぼくにひとつの金言を与えてくれてい
た。それは、真面目にちゃんと営業してまわれば、一日一回必ずいいことがあ
る、ということ。」

それを願って、来る年もよろしくお願いいたします。

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎・著 新潮社刊


◎雨宮紀子(Gatta Italiana)
イタリア・フィレンツェ在住。著書に『天才力 三巨匠と激動のルネサンス 
(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ)』(世界文化社)、『メデ
ィチ
家 ルネサンス・美の遺産を旅する』(世界文化社)。
創刊から15年のメルマガ「イタリア猫の小言と夢」は、melmaの地域情報部

で2007年メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞。ほぼ隔週で発行中ですが、
melma の事情により2020年1月末で終了とのことです: 
http://www.melma.com/backnumber_86333/

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■今月のこの一冊 グロバール化した世界を斜め読みする 小谷敏
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佐藤郁也『大学改革の迷走』ちくま新書 1200円+税

大学教員は、日々会議と書類書きとに明け暮れています。毎年文部科学省から
新たな「改革」が降って来て、その達成度合いによって私立大学でも助成金の
額が増減されます。そのため本来であれば教育と研究に割くべき教員の時間の
多くが、不毛な会議と書類書きに費やされていくのです。「改革」に「改革」
を重ねて大学がよくなったかといえば、そんな実感はまったくありません。
『暴走族のエスノグラフィー』によって知られる著者が、本書においては誤っ
た「改革」の結果、大学がいかに荒廃したかを鮮やかに描き出しています。

「改革」のモデルとされるのは、アメリカの大学と日本の実業界です。文科
省は、アメリカの大学で普及しているシラバスと、経営管理で用いられる
PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクト)サイクルを導入するよう、大学に対
して促します。アメリカの大学のシラバスは、個々の教員の裁量によって自由
に書かれている。統一的な書式で書かれた「和風」シラバスは、授業の実態か
ら乖離してしまいます。「PDCA」サイクルも、生産過程で不良品を減らすた
めには威力を発揮しますが、大学教育への適用には疑問符のつくところです。

文科省主導の「改革」には、端から無理があります。世界でトップクラスの
大学をいくつも生みだすという過大な目標を「改革」は掲げています。しか
し、予算はまるで増えない。膨大な資金を投下している中国やアメリカの大学
に太刀打ちできるはずがない。精神論と現場の工夫頼みの「改革」。さながら
大戦末期の日本です。文科省も「改革」は無理だと分っているから、「落とし
どころ」をみつけて大学と妥協を重ねます。大学の側も「改革」の実が上がら
ない後ろめたさがあるので、天下りポストを用意して文科省に阿るのです。

博士号をとっても職につけない「野良博士」を量産した大学院拡充政策。学
生を司法試験に合格させることができずに半数近くが閉校した法科大学院。近
年の文科省の大学政策は大失敗の連続です。しかし文科省は非を認めて、誤っ
た政策の被害者となった人たちに詫びようとは決してしません。霞ヶ関官僚は
無謬であり、政策がうまくいかないのは民間が悪いという発想があるからで
す。メディアも失敗をもたらした「諸悪の根源」を叩くだけ。真摯に失敗から
教訓をくみ取り、次の政策に生かすという発想はどこにもありません。

各種審議会も実質的な議論はなされておらず、官僚の作文を追認するだけ。
官僚にも審議会の委員にも責任感がありません。著者はこれを「集団無責任体
制」と呼びます。審議会の委員の中には芸能人等の教育の素人の名がみられま
す。著者はこれを病院の手術のカンファレスに素人が加わっているようなもの
だと述べています。まさに至言です。「エビデンス」に基づいて事実を把握
し、その上で政策立案をしようと著者は提言しています。本書は、大学を舞台
にした21世紀版『失敗の本質』とも呼ぶべき名著です。是非ご一読を。

◎小谷敏
大妻女子大学人間関係学部教授。「余命5年」の難病から生還し、こうしてモ
ノが書けることに感謝。
最新刊「怠ける権利」高文研
http://www.koubunken.co.jp/book/b371637.html

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■ちょっとそこを詰めていただけませんか 竜巻竜次
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今回は「連鎖か?」の話

美術系非常勤講師歴が長いと12月の季語は「卒業制作」になる。ほぼ毎年
「この期に及んでまだ下書きが出来てない」などと書いている気がするが、今
回は違うアプローチをしようと思う。

学生が入学してから姿を見せなくなる時期が3回ある。GW終わりと夏休み
前、そして12月のこの時期、進級作品が出来なくてそのままフェードアウト
するパターンだ。入学してから一回も顔を見ぬまま居なくなるパターンもある
がイメージとしてはだいたいこの感じで今年も何人かの学生が姿を見せなくな
っている。

美術系で実習メインであるため学生は各自自分の机を持っている。席順はたい
がい名簿順で縦に並んだり横に並んだり学年によっていろいろなのだが…なぜ
か休みがちな学生は固まるのだ。

今年も一筋、キレイに休んでいる。あ行が学校に向いてないとか、た行が病弱
だとかそんな事があるはずもないのだが。ブロックごとの席にした時はあるブ
ロックが見事に消滅してしまった。

確率で言うなら虫食いの様になるはずだがなぜ?

実はこの「学生フェードアウト症候群」昔はそう多くはなかった。やはりそれ
なりの入学金も払って授業料も半期収めている訳だから保護者もそう簡単に辞
めさせる事はしないし、逆に辞める場合は深刻な金銭的問題であったりするか
らこちらも把握し易かった。

その当時はきれいに1列消える事はなかった様な気がする。ただ最近はなんと
なくフンワリと消えて行くケースが多く専任の先生は頭を悩ませている。

で、理由がフンワリしているので伝播してしまうのでは?と。1人が休みがち
でその前席の学生も「思ったよりキツイな」とか「毎日通うのダルいな」「後
ろの子も居ないし」と休み、後方の席の学生が「なんか前が寂しいし」「思っ
たように描けないし」と休みがちになり、そうこうするうち課題は溜まるし進
級作品は進まないし…。フェードアウト症候群の連鎖はこうやって作られてい
るのでは?

あ、でも…昔は昔で雀荘通いで単位を落としまくってフェードアウトしたヤツ
や映画三昧で学校に顔を出さなかったヤツや部活動しか来なくて留年を繰り返
したヤツなんかも居たよなぁ。

あいつらよりこのフンワリした学生の方が真面目なんだけどなぁ。

誰もいない列を見ながらそんな事を考えている。

あ、1番後ろの学生がいた。前5人がいない事を気に留めている気配はない。
作品を作ることに一生懸命でそんな事は知ったこっちゃ無いのだろう。マンガ
描きはそれぐらい個人主義の方がいいよ。

◎竜巻竜次
マンガ家 自称、たぶん♀。関西のクリエーターコミュニティ、オルカ通信の
メンバーとしても活躍中。この連載も、呑んだ勢いで引き受けてしまった模様
http://www.mmjp.or.jp/orca/tatumaki/tatumaki.html
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■はてな?現代美術編 koko
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第102回 『アートのお値段 ─── 作品が輝く時』

今年の秋に、現代美術に興味がある人にはもってこいのドキュメンタリー映画
が日本でも公開されました。ナサニエル・カーン監督作品『The price of 
everything』(アートのお値段)は、NYで展開する現代美術の現場を、様々
な立場の関係者を通じて紹介しています。

アーティスト・コレクショナー・オークショナー・ギャラリストなどの視点か
ら現代美術市場を映し出しています。

□『アートのお値段』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=37At3ON2tE0

先日、このドキュメンタリー出演者の一人であるアメリカの富豪の訃報ニュー
スを読みました。Stefan Edlisはアメリカの実業家です。

50年間、美術館にこれらの絵が展示されることを条件に、2015年アメリカシ
カゴ美術館に、550億円相当の美術品を寄贈しました。2015年フォーブス、
最も寄付をしたアメリカ人リストの4位にその名が載っています。

≪The Edlis/Neeson Collection≫寄贈品アーティストリスト
※The Wall Street Journalの記事に基づく ()内は作品数
Jasper Johns(3)/Robert Rauschenberg(1)/Andy Warhol(9)/Roy 
Lichtenstein(2)/Gerhard Richter(4)/Brice Marden(1)/Cy Twombly(2)/
Jeff Koons(2)/Damien Hirst(1)/Charles Ray(1)/Katharina Fritsch(1)/
Eric Fischl(1)/John Currin(1)/Takashi Murakami(1)
写真:Richard Prince(6)/Cindy Sherman(6)

これらのアーティストについては、ほぼこのコラムで一度は取り扱っているこ
とでもわかるように教科書リストですね。美術館も喜んだことだと思います。

私がこのドキュメンタリーで一番感動したのは、彼のNYにある自宅ライブラ
リーの本棚と本棚の間に、あの『Him』が置かれていたこと。

彼がオーストリアから幼少の頃にナチから逃れアメリカへ渡った人間であるこ
とを知っていると、この作品の意味が何倍にも膨れあがります。

Maurizio Cattelan(マウリツィオ・カテラン)の作品『Him』の印象は、ほ
かの素晴らしい作品の中でもひときわ心に残る映像でした。

□Maurizio Cattelan『Him』Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=1cdbNAbPLy0

今までもコレクターが自宅に大切に飾る作品で心を打たれるものが多くありま
した。
美術館で観るよりも、生活と共にある作品はさらに輝きを増す気がします。
Edlis氏のコレクションは、ナチスドイツの歴史や、アメリカンドリーム、さ
らに現代美術について考える良い機会となりました。
機会があれば映画見てみてください。

参考サイト
□『アートのお値段』の映画内容についての記事(日本語)
https://h-media.jp/report/20190809/
□Stefan Edlisの訃報記事(The Artnews papaer)(英語)※Youtube動画で
寄贈作品映像が見れます。
https://www.theartnewspaper.com/news/stefan-edlis-prolific-chicago-
philanthropist-and-collector-of-contemporary-art-has-died-aged-94

◎koko
円とユーロとドルの間で翻弄されるアートセールコーディネーター。
まぐまぐメルマガ「Sacres Francais!映画と美術とパリジャンと」。
http://www.mag2.com/m/0000191817.html(現在休刊中)

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スプートニクとガガリーンの闇 25 内藤陽介
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帰還事業と社会主義への“憧れ”

第二次大戦後の1945年10月15日に結成された“在日本朝鮮人連盟(朝
連)”は、当初、帰国斡旋や生活相談、朝鮮語講習などを行う民族的社会事業
団体としてスタートし、必ずしも、政治色が強いわけではなかった。

しかし、日本共産党(日共)幹部の指導により、急速に左傾化。こうした動き
に反発した朝連内部の右派・民族派は建国促進青年同盟(建青)や新朝鮮建設
同盟(建同)などを結成。その後、朝鮮半島における南北・左右の対立を反映
して、1946年10月、建同を発展的に解消した“在日本朝鮮人居留民団(現在の
在日本大韓民国居留民団の前身)”が結成され、以後、朝連と民団の激しい対
立・抗争が展開される。

1948年4月、朝連は“四・二四教育事件”と呼ばれる騒擾事件を起こしたほ
か、同年9月9日の朝鮮民主主義人民共和国の成立後は北朝鮮支持の姿勢を鮮
明にして占領当局と対立。このため、1949年9月、傘下団体の在日朝鮮民主
青年同盟とともに、団体等規制令による暴力団体に指定され、解散・財産没
収・幹部追放などの処分を受けた。

そこで、1949年12月、日共の中央委員候補でもあった朴恩哲が日共朝鮮人
部に代わり、同民族対策本部(民対)を組織。以後、朴のイニシアチブの下、
朝連の活動は、朝鮮学生同盟、朝鮮女性同盟、朝鮮解放救援会などの傘下団体
が継承したが、6月25日の朝鮮戦争勃発後、「在日朝鮮統一民主戦線(民
戦)」が結成された。民戦は、祖国防衛隊の結成など、日共の武装革命方針の
尖兵として、朝鮮戦争の後方撹乱を目的とした武装闘争を展開する。

朝鮮戦争休戦後の1955年2月、北朝鮮の南日外相が日本へ国交正常化を呼
びかけるとともに、金日成は“内政不干渉”の原則を理由に在日朝鮮人に対して
日共からの離脱を求める国際指令を発する。その真意は、荒廃した北朝鮮経済
を再建するため、日共の影響下から在日朝鮮人を切り離し(そのために、日共
民対を仕切っていた朴恩哲と対立し、冷遇されていた韓徳銖が金日成によって
クローズアップされる)、その資金と労働力を北朝鮮が直接掌握することにあ
った。

はたして、1955年5月24日、北朝鮮政府と韓徳銖の間で綿密な打ち合わせ
の上、東京・浅草公会堂で開催された民戦六全臨時大会では、韓徳銖、李季
伯、李浩然、尹徳昆が議長団として選出され、民戦の解散と日共民族指導部
の“指導”を排した北朝鮮直結の在日朝鮮人団体として、現在の在日本朝鮮人総
聯合会(朝鮮総連)の創立が決議された。

朝鮮総連は自らを北朝鮮の在日代表組織と位置づけ、在日朝鮮同胞の共和国
政府周囲への結集、南半部同胞との連帯・団結強化、外来侵略者の撤収と手先
傀儡の孤立化による平和的統一独立、在日子弟への民主民族教育実施などの八
大綱領を掲げ、日共からの“独立”を宣言する。

こうして誕生した朝鮮総連は、さっそく、同年7月15日、“朝鮮人帰国希望
者東京大会”を開催し、全国の帰国希望者は415名(うち東京に100名)と発
表。以後、朝鮮総連は国際赤十字も巻き込んで在日朝鮮人の帰還運動を本格的
に展開していった。

時あたかも、1956年、フルシチョフによるスターリン批判を契機として、北
朝鮮でも金日成個人崇拝に対する批判が発生。また、同年8月には、ソ連国籍
を有するなどソ連と関係の深いソ連派の朴昌玉が、中国共産党中央と関係の深
い延安派の崔昌益らとともに、党全員会議で公然と金日成批判を行う8月宗派
事件が発生した。

8月宗派事件を抑え込んだ金日成は、1958年までに、中ソ両国と関係のあ
る“反党分派”勢力を根こそぎ弾圧し、ソ連・中国の影響を排して自主路線を模
索するようになる。

すなわち、金日成は、1957年に始まる5ヵ年計画の発動を前にした1956年12
月の党中央委員会総会で、「最大限の増産と節約」とのスローガンを掲げ、重工
業(中でも製鉄と機械)優先路線の大衆動員運動として“千里馬運動”を展開する
とともに、“農業協同化(集団化)”を強行した。しかし、これらの大衆動員は
結果として惨憺たる失敗に終わり、北朝鮮の一般国民の生活水準は悲惨な状態
のままであった。

在日朝鮮人の労働力・資金・技術を獲得するための帰還事業は、こうした北朝
鮮の国内事情とも連動したものだった。

さて、1957年10月、インド。ニューデリーで開催の第19回赤十字国際会議
で、各国の赤十字に離散家族の再開に向けた責任を果たすよう求める“決議第
20”が採択されたことも追い風になって、1958年3月には衆院外務委員会でも
在日朝鮮人問題が審議されている。

こうした地ならしを経て、1958年8月11日、北朝鮮側と事前に打ち合わせ
たうえで、神奈川県川崎市の朝鮮総連分会が金日成首相に帰国を嘆願する手紙
を送ることを決議。これに呼応するという形式をとって、9月8日、金日成が
在日朝鮮人の帰国を歓迎すると明言した。

こうした在日朝鮮人および北朝鮮の動きを見て、日本社会も在日朝鮮人の帰
還事業を好意的に受け止め、1958年11月17日には元首相の鳩山一郎を会長と
する“在日朝鮮人帰国協力会”の結成総会が衆院第一議員会館で開催された。

帰国者たちの動機はさまざまだったが、その多くは、朝鮮人を差別する日本
での生活苦から逃れたい、日本では発揮できない自分の能力を祖国の発展に役
立てたい、故郷は“南”だがまもなく統一されるのだろうからとりあえず“北”に
行こう、などというものが多かったといわれている。

また、当時の日本社会では、北朝鮮の実態に関する情報がほとんどなかったた
め、“貧困にあえぐ韓国”に対して“発展する北朝鮮”、“(北朝鮮は)教育も医療
も無料の社会主義祖国”、“地上の楽園”という北朝鮮のプロパガンダがそのまま
メディアでも垂れ流されていただけでなく、親北朝鮮の立場を取っていた日本
国内の“進歩的知識人”がさかんに北朝鮮の体制を礼賛していたことも在日朝鮮
人の帰国を促す要因となったことは間違いない。

じっさい、1959年1月に田村茂が有楽町で開いた写真展「新しい中国と朝
鮮」や、同年4月に出版された寺尾五郎の『三十八度線の北』などは、北朝鮮
の暗部には一切触れず、“地上の楽園”として極端に理想化した内容で、それら
を見て、北朝鮮への“帰国”を決断した在日朝鮮人も多かったという。

また、1957年のスプートニク1号の打ち上げ以降、ソ連の科学技術(特に宇
宙開発)は米国を凌駕しているとの俗説が全世界に流布し、ソ連に対する若者
の純朴な憧れを喚起していたが、そうした中で、朝鮮総連が、在日朝鮮人の若
者に対して、努力次第で“友好国・ソ連”の大学に留学するチャンスもありうる
との甘言を弄していたことも見逃せない。当時の日本国内では、高校進学さえ
ままならない境遇の在日朝鮮人も少なくなかったから、ソ連への留学とい
う“人参”は、彼らにとってかなり魅力的なものに映ったのは想像に難くない。

1959年1月にソ連がルナ1号の打ち上げに成功してから4カ月後の同年5
月、北朝鮮は“ソ連での月に向けての宇宙ロケット発射”の切手
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/20191225120626324.jpg 
を発行し、ソ連の科学技術を礼賛する切手を発行した背景にも、そうした文脈
があったことはほぼ確実であろう。

なお、在日朝鮮人に対する差別感情が強い中で、日本社会には、朝鮮人が帰
国する(=日本から出ていく)のは結構なことではないかという空気が強かっ
たことも見落としてはならない事実である。

当然のことながら、北朝鮮の存在そのものを“非合法”として認めない韓国
は、在日朝鮮人の多くが朝鮮半島南半部の出身であったこともあって、北朝鮮
への“帰還事業”には強く反発したが、1959年2月13日、日本政府は在日朝鮮
人の北朝鮮帰還に関して、「もつぱら基本的人権に基づく居住地選択の自由と
いう国際通念に従つて処理さるべきものである」との原則を閣議了解。これを
受けて、同16日には北朝鮮側も内閣決定第16号『日本から帰国する朝鮮公民
の歓迎に際して』を決定し、帰還受け入れの体制を着々と固めていった。

一方、2月13日の日本政府の閣議了解以降、韓国側は態度を硬化させ、閣
議了解の撤回を強く要求。これに対して、日本政府は「(在日朝鮮人の帰還事
業は)個人が自由意思によつて北朝鮮に帰還することを妨げないというに過ぎ
ないのであるから、これがすこしも北朝鮮政府承認の如き意味合いをもつもの
でないことはもちろんであり、韓国の主権の侵害でもなく、また韓国政府に対
する非友誼的行為でもない」と説明したが、韓国側は納得せず、1959年5月
28日、駐日韓国代表部の柳泰夏大使は日本政府に対して在日朝鮮人の帰還事
業を武力で阻止する旨を申し入れた。

さらに、6月15日、韓国は、日本政府が“北送事業”を撤回しないことを理由
に、対抗措置として、対日通商断交を声明する。
しかし、8月13日、インドのカルカッタで、日本赤十字社副社長の葛西嘉
資と朝鮮赤十字会副会長の李一卿が「日本赤十字社と朝鮮民主主義人民共和国
赤十字会との間における在日朝鮮人の帰還に関する協定」(カルカッタ協定)
を締結。これに対して、8月25日、柳が日本側に申し入れた通り、民団員
が“北送”に反対して日本赤十字社本社に乱入。さらに、12月4日には、帰還事
業に反対する韓国人テロ工作員二名が新潟日赤センター爆破未遂事件で逮捕さ
れている。

結局、12月10日には第一次帰国団を運ぶための専用列車が品川駅を出発。
同14日、第一次帰国船(ソ連船籍)が新潟港を出港し、16日、清津港に入港
し、金日成は在日朝鮮人の帰還運動を“わが党と人民の大きな勝利”と賞賛し
た。

こうして、当時の日朝間の経済格差や社会の現状を隠して、自らの体制を自
画自賛することで帰国者を集めた北朝鮮と朝鮮総連だったが、事前の宣伝とは
裏腹に、農業協同化によって荒廃した北朝鮮の生活環境は劣悪であった。さら
に、帰国者たちは潜在的な反体制分子もしくはスパイとみなされ、社会的にも
苦しい状態に置かれ続けた。

こうした実態が知られるようになったため、1960年には4万9036名、1961
年には2万2801名もいた帰国者数は、1962年には3497名に激減する。
最後に、次の2枚の切手を見ていただこう。
切手はいずれも、高麗青磁の名品として有名な飛龍形注子をほぼ同じ構図で
描いたもので、
https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201912251632265d0.jpg 
が1958年に北朝鮮が発行したもの、

https://blog-imgs-134.fc2.com/y/o/s/yosukenaito/201912251632253c8.jpg
が1962年に韓国が発行したものである。

1960年代初頭の韓国では、人口の40%が“絶対的貧困層”で、1963年の失業者
は、公式統計に表れただけで250万名に上っていた。所得水準(米ドル換算)
も極めて低く、朴正煕政権下で第一次五ヵ年計画が発動された1964年でさ
え、85ドルしかなかった。ちなみに、同年のフィリピンは213ドル、マレーシ
アは242ドルと倍以上、シンガポールは487ドル、香港は537ドルと5倍以上の
開きがある。

独立後間もない低開発国が多かったアフリカでも、ザンビアが144ドル、アル
ジェリアが195ドル、ガーナが215ドル、日系移民も多かったラテンアメリカ
では、ブラジルが180ドル、コロンビアが235ドル、メキシコおよびチリが458
ドル、アルゼンチンが652ドルで、韓国の貧困が際立っている。

その韓国が発行した切手に比べても、北朝鮮の切手は、印刷物としての品質が
劣悪なのは一目瞭然である。

現在でも、しばしば、1960年代までは韓国よりも北朝鮮の方が豊かだった
という記述が見かけられる。たしかに、北朝鮮の発表した公式の統計データが
すべて正しいとすれば、国家全体のGDPレベルにおいては北朝鮮の経済力は
韓国を凌駕していたということになるのだろう。しかし、どれほどGDPが大
きかろうと、富の再分配が適正に機能しなければ、一般国民の生活は豊かにな
らないし、社会の活力も生まれない。一般国民の生活水準を比較するうえで、
彼らが日常的に使用している切手の品質は一つの目安となるだろうが、北朝鮮
よりも韓国のほうが高品質の切手を発行していたということは、国民生活の実
態において、北朝鮮は決して韓国よりも“豊か”ではなかったと考えてよい。

こうした現実に目を背けて北朝鮮を礼賛し続け、多くの在日朝鮮人を地獄へ
の帰還事業に追い込んだ“進歩的知識人”の無責任な言動は、絶対に忘れてはな
らない。

内藤陽介
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会
員。フジインターナショナルミント株式会社・顧問。切手等の郵便資料から国
家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動を続けてい
る。主な著書に、戦後記念切手の読む事典<解説・戦後記念切手>シリーズ
(日本郵趣出版、全7巻+別冊1)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新
書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『皇室切手』(平凡社)、『満洲切手』
(角川選書)、『大統領になりそこなった男たち』(中公新書ラクレ)など。
最新作『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』えにし書房。電子書籍で「切
手と戦争 もうひとつの昭和戦史」「年賀状の戦後史」角川oneテーマ21な
どがある。
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■編集後記
クリスマスイブも、クリスマスもこうやってメルマガの編集をしているわけだ
けども、毎年のことながらご執筆いただいているみなさまには頭が上がらな
い。

「クリスマスにも無償の原稿書いてもらっている」と申し訳ない気分でいっぱ
いになるのだけども、よくよく考えるとクリスマス前に原稿書いてもらえば問
題ないのだと気が付くw

早く出していただく分は、いっこうに問題ないのである。
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