[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ vol.726


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.8.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book        [夏はもうおわりですか?号]
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 ●20190815号
 ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
 
 『サー・ガウェインと緑の騎士:トールキンのアーサー王物語』
 
 J・R・R・トールキン著 山本史郎訳
 四六判 260ページ 本体1,600円+税 ISBN:9784562056736
 
 映画やゲーム、アニメなど様々なところで登場するアーサー王伝説の有名な物
 語を巨匠トールキンが翻案。1953年にBBCラジオで放送された幻の作品を収
 録した中世騎士道物語集。表題作の他「真珠」「サー・オルフェオ」を収録。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 著者ご多忙につきお休みです。またをご期待ください。

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第122回 知ろうとしなければ、わからないこと
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → <名古屋>―戦後日本を代表する都市
  
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 ■トピックス
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 一つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第122回 知ろうとしなければ、わからないこと

 
  遅ればせながら映画「新聞記者」を見た。森友事件や過去の疑獄事件を思わ
 せるストーリーは、見る前から思っていたとおり「やるせない映画」だった。
 扱っているテーマがテーマだし、アクションシーンなど皆無な地味な映画だし、
 よくぞ「忖度」せずに大手の劇場が公開したな、と思う。大掛かりな宣伝をし
 なくても、口コミで話題となってロングランとなっている。

  ヒット作には目が無いらしい首相も主役の松坂桃李をお食事会に誘えばいい
 のにね。そのぐらいすれば、「いいね!」のひとつもポチンとしてあげるのに。

  気になってネットにあがっている「新聞記者」のレビューを読んでみた。
 低評価の意見もある。たとえば新聞記者の描き方にリアリティがないとか、内
 閣情報調査室で全員がコンピュータに向かってフェイク情報をネットに打ち込
 んでいるとか…。確かにね、そうかもしれない。

  でもTwitterなどのSNSでは、政権に都合の悪い意見はすぐに削除されるし、
 先日の「おもてなし」アナウンサーと若手議員の結婚報道は大ニュースとして
 演出されて大きく報道された。しかも国会で何もしていないと書かれたその議
 員は官房長官から総理大臣候補のお墨付きをもらったという。どこかで仕組
 まれているとしか考えられない、この見え透いたタイミング!
  現実は、映画よりも“ありえない”作り物のストーリーのように展開してい
 るようだ。

  先日の参院選のときに、投票に行かない理由に多くの若者が「わからないか
 ら」と語っていた。自分たちは学校でも政治、社会について習ったことがない、
 友人たちとも話したことがない、だからだれに投票したらいいのかわからない
 という。

  ぼくは戦後生まれ、というか「もはや戦後ではない」といわれた時代に生ま
 れた。戦後10年過ぎでまだ民主主義がまだ元気だったのかもしれない。どんな
 にひどい政治が行われても、日本が戦争をすることはない、とどこか信じてい
 た。小学校の先生の中には、特攻隊の生き残りがいたし、高校の生物の先生
 は、授業をするのを忘れて南方のジャングルを彷徨った話をした。戦争の悲惨
 な体験を直に聞くことができた。変わり者の世界史の先生が授業中「軍隊を持
 たない国家などありえない」と憲法9条を批判したとき、ぼくは頭の中でこの
 時代錯誤のクソジジイは何をいっているんだ、とせせら笑った。だがいまはど
 うだろう。近いうちに徴兵制だって復活するかもしれない、という危機感を持
 たざるを得なくなっている。

  以前、反戦の名コピーを作った有名コピーライターは過去の作品を否定して、
 「好きなものに囲まれて、嫌なものには目を向けないようにする」事業を展開
 している。もちろん楽しくおしゃれに暮らすのは悪いことじゃない。でもなん
 で今なんだろう?

  こうやって気づかないうちに、いや、国家は気づかせないようにして、戦前
 の世界に戻そうとしている。
『知らなかった、ぼくらの戦争』
 (アーサー・ビナード編著 小学館)を読んだ。アメリカ出身の詩人アーサー
 ・ビナードが、日本人の太平洋戦争体験者たちを訪ね歩き、個人の体験から戦
 争とは何なのかを明らかにしていく。文化放送の番組「アーサー・ビナード
 『さがしています』(2015年4月〜2016年3月放送)でのインタビューをまとめ
 たもので、2017年に発行しているから、もう読んだ人もいるかもしれない。
 戦争について、読まなければわからないこと、国家というものについて、知ろ
 うとしなければわからないことがたくさん書いてあって、2年前の本だけれど、
 今、読むとますます、読まなくてはいけない本だと実感する。とくに若い人に
 読んでほしい。

  この本では、真珠湾攻撃に参加したゼロ戦の元パイロット、「毒ガス島」
 (瀬戸内海の大久野島)で働いた元女子学徒、戦後GHQで働いた元事務員など23
 人を訪ねて話を聞いている。戦時中、アメリカで生まれながら収容所に送られ
 た日系人、そして昨年亡くなったジブリの高畑勲や、元沖縄県知事の太田昌秀
 もインタビューを受けている。漫画家のちばてつやが語る、満州で中国人に助
 けられる話、そして明日のジョーの名前の由来が面白い。

  語り部たちは、高齢者だから、インタビューを終えて1年以内に亡くなる人
 も多い。戦後74年(インタビュー当時は70年)の貴重な記録になった。

  アーサー・ビナードさんとは菅原克己を偲ぶ会、げんげ忌で知り合って、英
 語や詩の講座にも通ったこともあるので、本を読んでいてその語り口、話をす
 るときの真摯な表情が目の前に浮かんでくる。ビナードさんは、アメリカ人で
 日本に来てから20年になる。1967年生まれで、太平洋戦争でいえば戦後生まれ
 だが、アメリカは1967年といえばベトナム戦争が激しくなっている頃、だから
 自らを「戦中派」といっている。日本で暮らすうちに「戦争」について疑問が
 生まれてくる。アメリカでは定説になっている、「大日本帝国は予告もなしに、
 アメリカ・ハワイ州真珠湾に奇襲攻撃をかけた」「原子爆弾の投下は戦争を終
 わらせるために必要かつ正しかった」は本当か?

 
 真珠湾攻撃で、艦隊護衛任務に就いたゼロ戦のパイロット原田要は、攻撃隊
 員から米軍空母は「一隻もなかった」と聞いた。そのとき「米国は日本の攻撃
 を知っていたと直観した」と語っている。ベテランの戦闘機乗りである原田さ
 んは、航空母艦の重要性を知っていた。すでに優れたレーダーを開発していた
 アメリカは、日本軍の動きを事前に察知していた。だから重要な航空母艦など
 はハワイから遠い海域に避難させていた。もちろん公式には偶然演習に出てい
 たことになっているが。そのかわり戦力的には価値の低いアリゾナ号のような
 戦艦をパールハーバーに並べておいたのだ。一刻も早く参戦したかったアメリ
 カは、無防備なパールハーバーを日本軍に攻撃させて、「開戦」の口実を作ら
 せたわけだ。その口実のためにアメリカ軍の2345人は犠牲となった。

  原田さんはその後も数々の戦場へ向かう。そしてミッドウェーで搭乗してい
 たゼロ戦が被弾、着水して8時間も海に浮いていたという。やがて駆逐艦に救
 出されるが、軍医は重傷者を放っておいて、原田さんに聴診器をあてた。軽傷
 の自分よりも、苦しんでいる負傷兵を診てやれ、と原田さんがいうと軍医はい
 った。
「ちゃんと使える人間を先に診て治療する。重傷を負ってもう使えなく
 なった者はいちばん後回しだ。これが戦争の決まり」。

  兵士は結局、機関銃や大砲や戦闘機と同じなんだ。使えなくなれば捨てられ
 る」と原田さんは、そのとき戦争を憎む一人になった。

  詩人であるビナードさんは、「玉砕」、「引き揚げ者」、「ピカ」と「ピカ
 ドン」の違い…英語に翻訳を試みるなどして、言葉のカラクリを追求しながら
 国家の欺瞞を暴いていく。国家という権力者は巧みな言葉や、ムード作り、プ
 ロパガンダを使って国民を掌握していこうとする。

  広島に落とされた原爆は「リトルボーイ」、長崎に落とされたプルトニウム
 原子爆弾は「ファットマン」と名前がつけられていることは知っていた。だが、
 長崎原爆の模擬爆弾「パンプキン」が投下されていた事、それも30都市に落と
 されていたことは知らなかった。それは長崎の原子爆弾が太平洋戦争を終わら
 せるためではなく、その後の新たな勢力争い、軍備力のための実験であったこ
 とを示している。

  2016年、オバマ米大統領の広島を訪問して、核兵器の廃絶を訴えてマスコミ
 はそろって感動の出来事として報道した。だがそのとき大統領に同行したスタ
 ッフは、核弾頭ミサイルを発射するための発射司令装置が入った黒い鞄が持っ
 ていた。どんなに平和を謳う素晴らしい演説をしても、その事実が欺瞞を表し
 ているとビナードさんはいう。

  ぼんやりしていると、いつのまにか、後戻りの出来なくなっているのではな
 いか、と不安になる。麻生太郎副総理が2013年に憲法改正論議に関して「ドイ
 ツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気
 が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね」と発言した。ぼくたちは、こ
 のことを忘れてはいけない。
 
 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  名古屋には行ったことがありません。与田とか今中とか好きな選手がいたの
 で(今は…どうだろう)中日ドラゴンズは好きなんですけどね。愛知県で行った
 ことがあるのは、東三河だけです。
 
 『夢みる名古屋』、矢部史郎、現代書館、2019
 
  タイトルを見ると楽しげにも聞こえますが、矢部さんがそんな名古屋礼賛本
 を書くわけはありませんね。『愛と暴力の現代思想』(矢部史郎/山の手緑、
 青土社、2006)をしみじみ読んでいた者としてはそう思いながら本書を手に取
 るのでした。
 
  まだ読んでない方には『愛と暴力の現代思想』もお薦めです。「失業者や非
 正規労働者が何もしていないように見えたり、遊んでいるように見えるのは、
 それは眼が腐っているからだ。」(『愛と暴力…』、p,191)とかいいですね。
 
  で『夢みる名古屋』。冒頭から名古屋についてこう書いています。
 
 「私はね、好きじゃないんだ、この街は。」(p,6)
 「ここに暮らしてもう八年になるが、いまだに慣れない」(p,7)
 
  もちろんここには著者の好みも多分に含まれています。アジア的なごみごみ
 した街が好きで、整然と街路が並んだような街を寒々しいと感じるような感覚。
 そういったものとは逆の感性の人にはちょっとわかりにくいのかもしれません。
 
  どうでもいいですが、私もどちらかと言えば整然と計画されて作られたよう
 な街はあまり好きではなくて、つくば(ひらがなの方)とかに行くとちょっと
 心が落ち着きません。もちろんそれは単に計画的に作られたと言う理由だけで
 はありませんが。
 
  さて、ではこの本は何について書かれているのかと言えば、なぜ名古屋はこ
 んな寒々しい都市になってしまったかという歴史について書かれています。第
 一章では戦前の名古屋の歴史と空襲後の都市計画、第二章では工業化とモータ
 リゼーション、第三章では新自由主義と排除についてといった感じでしょうか。
 
  各章とも興味深い(というか忘れ去られている?)歴史に色々と触れられていま
 す。トヨタ自動車がベトナム戦争向けのトラック受注で大もうけしたなんて、
 ぼんやりとそうなんだなと思っていても、朝鮮特需しかり戦後の経済成長に周
 辺諸国の紛争が関わっていたことを改めて認識させられます。
 
  自動車産業はそうして復興を遂げたわけですが、それには当然国内道路網の
 整備も不可分であったわけで。それは必然的に自動車にまつわる様々な問題を
 引き起こしてきます。交通事故、犯罪の広域化、そして口裂け女。
 
  口裂け女は自動車とどう関係があるのかと言うと、著者は口裂け女が目撃さ
 れたとされた場所である駐車場に注目します。駐車場はそれまで人間の尺度で
 作られていた都市空間を自動車の尺度に変えていったときに現れるものだと。
 
  モータリゼーションの進展に伴って駐車場はどんどん街を蚕食するようにな
 っていきます。かつては商店などがあったところに駐車場が現れて、街中に空
 白が生じます。口裂け女はそうして生じた街の空白に現れるのではないかと。
 また徒歩で生活する子供たちは駐車場で不審者と遭遇することがあるのに対し
 て、車を利用する大人たちは口裂け女には遭遇しない。そう考えると口裂け女
 の噂もモータリゼーションと関係があるように思えます。
 
  著者も言っていますが、こういう街は魅力に乏しく感じます。
 
  というか魅力どうこうという前に、隣の建物へ行くだけなのに巨大な駐車場
 をぐるりと回っていかないといけなかったり、横断歩道が無くて地下道や歩道
 橋を強制的に通らされたりして、単純に体にきつい。というのは私の実感です
 が。
 
  こんな街だったらみんな車に乗るに決まっています。地方では車が無いとや
 っていけないというのは、真実の部分があるとは思います。だからといって車
 に乗らないとやっていけない街づくりを進めるべきとは全く思えませんがね。
 
  自動車の尺度で作られた街が人間に向いているはずがありません。私は車に
 乗らないので、前述のとおり広大な駐車場を歩かされるハメになることがある
 のですが、そうやってとぼとぼ歩いてるとき、哲学とか思想とか関係なく「あ
 あ今疎外されてるな」と実感します。
 
  宇沢弘文『自動車の社会的費用』(岩波新書)が出されたのは1974年です。
 そこで自動車優先の街づくりは批判されていましたが、それから半世紀近く経
 っても世の中はあまり変わったように思えません。
 
  減ってはいるものの自動車事故で多くの死者が出ていることは変わりません。
 「おそろしいのは、人びとが死亡事故に慣れてしまったことだ。」(p,127)
 とあるように、私もそうですが現実を追認する方向に心が動いてしまいます。
 
  と、あまり自動車をくさしても仕方ないですが。本書を読んで感じることは
 結局人間の尺度を無視して作られた街は、人間にとって居心地の悪い街になる
 のではないかということです。見栄えのいい都市計画とか経済的効率性とかそ
 ういうものを優先してしまうと名古屋みたいな(行ったこと無いですけど…)街
 になってしまうのでしょうか。
 
  市街地からの野宿者の排除も名古屋が先駆的な事例として取り上げられてい
 ます。行政にとっては野宿者の生活よりも景観が大事という視点がうかがえま
 す。
 
  とまあ名古屋の話の一冊なわけですが、著者はこうも述べています。
 
 「これは名古屋の歴史でありながら、同時に、工業国日本がたどってきた不愉
 快な歴史だ」(p,10)
 
  実は名古屋こそ(反面教師的な意味で)日本を代表する都市であり、名古屋
 が抱える問題は多かれ少なかれ他の都市にもあるものです。そういう意味では
 単に名古屋だけのこととして済ますわけにはいきません。
 
  ところで171〜173ページの岐阜に対する賞賛ぶりがすごい。これも岐阜に行
 ったことがないので真偽の程はわかりませんが…。いずれ直接この目で確かめ
 たいものです。
      
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ ちいさいミシマ社展 @スーベニアフロムトーキョー
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 小さな総合出版社・ミシマ社の「一冊入魂」の本づくりの世界をご紹介いたし
 ます。
 
 創業から13年、本の内容はもちろん、装丁や制作、流通の面でも新たなこと
 にチャレンジしてきたミシマ社。本展示では、一冊一冊の本がどのようにして
 生み出されたのか、制作資料や編集メモとともにご紹介します。色校正や装
 丁ラフ、編集者による手書きメモなど、普段は表に出ることのない資料も展示。
 一冊の本ができるまでの試行錯誤の数々やこだわりの片鱗を、ぜひご覧くだ
 さいませ。
 
 みなさまのご来場、お待ちしております。

                                  ―HPより抜粋

 ◆日時:2019年8月21日(水)〜10月14日(月・祝)10時〜18時(土・20時)
 
     定休・火曜日 (祝日または休日に当たる場合は開館し、翌日休館)
     
     
 
 ◇場所:スーベニアフロムトーキョー
     港区六本木7-22-2 国立新美術館地下1階ミュージアムショップ
 
          東京メトロ千代田線乃木坂駅
                                       青山霊園方面改札6 出口(美術館直結)

          ※ミュージアムショップへの入場は無料

    
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 ■あとがき 
  久ぶりにネット通販で本を購入しました。『全身編集者』白取千夏雄著・お
 おかみ書房刊 。
 伝説の雑誌『ガロ』の編集者だった著者の、ガロを通して生きてきた編集者と
 しての追想。漫画論であり、編集論でもあります。また、パートナー・やまだ
 紫さんへの惜しみない愛、『ガロ』への溢れる気持ちを率直に誠実に描かれて
 いました。
 青林堂のことは詳しくなく、騒動の末『ガロ』が休刊する顛末については元々
 よく知らなかったので、かなり胸が苦しい出来事でしたが、著者の言うとおり
 当事者によって見方は違うだろうし、意見もあるだろうと思います。
 ただ、神田神保町すずらん通りで、毎日胸を高鳴らせながら、すごいマンガ、
 新しい才能や表現と出会い『ガロ』をつくっていた時間の尊さを、そのいとし
 い時間を思いました。
 自分自身の、同じ神田神保町すずらん通りで書肆アクセスという書店で働い
 ていた時間が甦り、継続できなかった悔いとともに出会ったひとや出来事
 のかけがえのなさを感じました。

  今月も刊行が遅くなり申し訳ありませんでした。お詫びいたします。
                                                           畠中理恵子

 

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   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
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[本]のメルマガ vol.725


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■■ [本]のメルマガ                 2019.08.05.発行
■■                              vol.725
■■  mailmagazine of books         [そろそろ、旧のお盆 号]
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『図解 異常気象のしくみと自然災害対策術』

ゲリー・マッコール著 内藤典子訳
A5判 192ページ 本体1,800円+税 ISBN:9784562056439

予想不能のゲリラ豪雨、台風による冠水や暴風、落雷…異常気象のしくみと災
害の発生をイラストでわかりやすく紹介。自然災害大国アメリカの防災アドバ
イザーがおくる、あなたと家族を守るためのガイドブック。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その38「幽霊と囲む食卓」その2『黄泉から』

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 転生したら?

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その38「幽霊と囲む食卓」その2『黄泉から』

 何度も言うようだが、私は幽霊が苦手だ。

 だからこう書いていながら、幽霊と食卓を囲むなんて本当のところぞっとし
ないねと思っているのだが、そんな私でも嬉々として亡き人の霊と共に食卓を
囲みたい日がある。

 そう、それがお盆だ。

 実は私は、お盆の風習をあまり知らない。典型的な核家族で育ったことに加
え、親が京都人だったせいもある。あちらでは、これだけ盛大な五山の送り火
をしているのだから、送り火はもちろん迎え火も必要ない、というふうに過ご
していたらしい。実際マンション住まいでは気軽に迎え火を焚くわけにもいか
ないから、今でもせいぜい故人の好物を仏壇に供えて、みんなで食事をするく
らいで過ごしている。

 お盆というものはフランスにもあるようで、そんな風景や、戦前の下町のお
盆の様子が描かれている物語がある。

 それが、久生十蘭著の『黄泉から』という作品だ。
 
 物語は、戦争が終わった次の年のお盆の日から始まる。

 主人公の光太郎は、電話でこんな品々を注文する。

「ショコラ、キャンデイ、マロン・グラッセ、ブリュノオ……」

そして、

「女の子が飲むような甘口のヴァン・ド・リキュウル」はなかったので、
貴腐ワインの「オゥ・ソーテルヌ」を用意させる。

それから銀座にまわり、

「ボン・トンで誂えさせたキャナッペ」

を抱えて帰って行く。

 是非、この文章はフランス語の発音で思い浮かべて欲しい。

“Chocolat, Candy,  Maron Grasse,  Pruneau……et  Haut Sauternes”

 戦後すぐの東京では、まず手に入らないような贅沢でハイカラな品々だ。
 
 電話の相手は、闇屋のような怪しげな相手だろう。若い女性を連れ込むため
の品だと決めつけていたようだが、実は光太郎が迎えたかったのは、死者の霊、
若い女性の霊なのだ。

 彼が誂えたのは、仏蘭西に憧れた若い女性のためのお供えの品なのだ。

 彼女の名はおけい。光太郎のたった一人の肉親で従妹だった。生きていれば
たぶん二十二、三歳くらいだろうか。仏英和女学校を出て仏蘭西人の私塾に通
っていて、やがてはソルボンヌに留学する予定だった。そして何より光太郎を
慕っていて、パリに留学中の光太郎に招かれる事を待ち望んでいたという。け
れど光太郎にとって彼女はあまりにも子供で、その思いにこたえるつもりはな
かった。留学中の八年間も連絡を取ろうとしなかったし、今の今まで彼女のこ
とを思い出してもいなかったのだ。

 けれどこの日、偶然駅のホームでフランス語の私塾の主のルダンさんに会っ
たことから、全てが始まったのだ。

 ルダンさんは戦死したかつての生徒たちの霊を迎えに、今からお墓に行くの
だと言うのだった。そして、彼らが生還したら開くと約束していた大宴会を、
お盆のこの日、その霊の為に催すのだと言う。ルダンさんは、従妹のおけいに
ついても、きっと大宴会に来てくれると思うと言う。

 おけいは、戦争の末期に軍属の和文タイプライターとして従軍し、ニューギ
ニアで亡くなったらしい。いまだに遺骨も戻らず、墓もないままなのだった。

 おけいについて語るルダンさんの言葉から、光太郎は、もはや子供ではなく
なっていた彼女の思いと自分の冷酷さを改めて思い知ったのだ。

 すべての仕事の予定をキャンセルし、お盆の準備を始めた光太郎だったが、
遺骨も仏壇もない家では、このご馳走をどこに供えればいいのかがわからない。
小机に並べてみたり、暖炉に移したり、ピアノの上に飾ってみたりと、あれこ
れしてみるのだがどうも落ち着かない。結局そのまま、ぽつねんと椅子に腰を
かけて、様々なことを思いだしながらこおろぎの鳴く声を聞いているしかなく
なってしまう。

 そこへ思いもかけない来客があり、光太郎は従妹の最後の様子を知り、さら
に従妹の霊がここにいることを確信するのだが、その物語は読んでからのお楽
しみにしよう。

 光太郎は銀座に店を構えていた家の息子という設定で、下町の祖母の家での
戦前のお盆の風景も覚えている。

「真菰の畳を敷いてませ垣をつくり、小笹の藪には小さな瓢箪と酸漿がかかっ
ていた。巻葉を添えた蓮の蕾。葛餅に砧巻。真菰で編んだ馬。蓮の葉に盛った
団子と茄子の細切れ……」

 葛餅に砧巻、団子と茄子の細切れ、そんなお菓子や料理を供えるものなのだ
という事を私も初めて知ったのだが、きっと舞台となった戦後すぐの東京では
こんな品々も手に入らなかっただろう。

 この他に、物語の中にはフランスのお盆と呼ばれるレ・モール「死者の日」
のペール・ラシェーズの墓地の風景も描かれている。秋の日に墓参りをする人
々を見ながら、墓地を見下ろす墓地展望亭というカフェで、死者を悼む人々の
中に混じって感慨にふけったこともある彼なのだった。

 この物語で残念なのは、主人公たちが食べ物を味わう場面が一切ないことだ。
たとえ一粒のショコラであっても、光太郎は従妹の霊と共に味わうべきだった
のではないだろうか?

 ショコラ、その甘い響きを口にしながら味わうことによって、死者が持って
いた異国への憧れや、あの世とこの世を繋ぐ儚い感覚を、共に感じられるので
はないだろうか?けれど、光太郎がその甘く官能的な菓子を口にすることはな
く、物語は進んでいく。

 最後に光太郎は従妹の霊を伴って、ルダンさんが自宅で開いているという死
者との大宴会に行こうとする。

 ルダンさんは弟子に対してはいつも大盤振る舞いで、アルムーズやシャトゥ
・イクェムとかのボルドオやブルゴーニュの古酒の栓を開けてその旅立ちを祝
っていたとあるから、すごいご馳走が用意されているかもしれない。けれど、
そちらのパーティの様子を見ることはなく、物語は途中の道で終わってしまっ
ている。

 物語の最後の一行で、光太郎は闇に向かって手を差し伸べる。この姿に幽霊
談の怖ろしさを感じるべきか、それとも私のように、ああ彼にとって従妹はい
つまでも幼い女の子の感覚なんだなという寂しさを感じるべきかは、ぜひこの
短い物語を手に取ってご判断いただきたい。

 そろそろ、旧のお盆だ。

 私も亡き人の大好物、シュウ・ア・ラ・クレェムなどを用意しようと思う。
そして、その笑顔を思い浮かべ共に味わうことで、私なりのお盆を過ごそうと
思っている。

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『黄泉から』久生十蘭著
「文豪の怪談ジュニアセレクション 霊」   汐文社
「女霊は誘う 文豪怪談傑作選 ; 昭和篇」  ちくま文庫
「久生十蘭短篇選」            岩波文庫 
「定本久生十蘭全集 6」          国書刊行会
「久生十蘭全集 第2」            三一書房,

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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転生したら?

 お盆だから、というわけではないが、遅ればせながら『転生したらスライム
だった件』をAmazonプライムで見て、面白い。なんじゃこりゃ、と思ってマン
ガも読んでしまった。現在、12巻。続きが早く読みたいところである。

 ただ、マンガとアニメとを比較したとき、アニメ版の方がストーリーがよく
まとまっている気がしたので、その印象を記載したい。

 初めてこのラノベというかマンガというかアニメの話を聞いたときに、印象
としてはさほど面白さを感じず、フーン、という印象だった。しかし、実際に
アニメを見てみると、ほほう、なるほど、と思った。

 以下、できるだけストーリーをばらさないように書くが、ネタバレが含まれ
るかもしれないので、これから読む人、見る人は気をつけられたい。

 まず転生ものということで、うだつのあがらない主人公が転生して活躍する、
という話かと思えば、まあ、そういう側面もあるかもしれないが、ゼネコン勤
務で37歳ということで、ああ、そうなんだ、と。

 彼女が居ないという設定はまあ、いろいろこの世に未練が残りそうなので、
そういう設定と解釈。

 で、ストーリー開始早々に転生し、現世の話はまったくと言っていいほど出
てこない。あれよあれよという間に事件に巻き込まれて話がぐいぐい進んでい
く。

 このストーリー展開、何かに似ているな、と思ったら、シュミレーションゲ
ームのそれだ、と思った。戦って勝って兵を育てたり食糧を作ったり城を築い
たりとしていくうち、だんだんと強くなって領土を拡大していく、というゲー
ム。あれをストーリーに起こすとこうなるんかなーという印象である。

 このマンガを読んで、例えば、パズルゲームなんかもそのうちストーリーに
なるんじゃないかと、そんなことも思った。

 話は全体として、非常に御都合主義である。その御都合主義が「転生したス
ライム」ということですべて片付いてしまうところがすごい。しかし、その御
都合主義が気にならない仕掛けが強力な「敵」の存在。

ちなみに、私がこのタイトルを最初に見たのがこちら。

講談社 純利益64%増 電子書籍好調 紙の不振補う
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41565580R20C19A2X30000/

「人気漫画「進撃の巨人」や「転生したらスライムだった件」などの電子の単
行本の販売が好調で、売上高を押し上げた。」

とのこと。確かに、Amazonプライムとかでアニメを見て、続きを知りたくなっ
て電子書籍、というのは行動としてアリ、だと思う。

 そしてこの本のユニークなのは、もともと、下記のサイトでの掲載から始ま
った、とのこと。

転生したらスライムだった件 小説家になろう
https://ncode.syosetu.com/n6316bn/

 以前、どこかで紹介した『まおゆう』もネットでの小説掲載からのスタート
だった。

 ネットに小説(プロットレベル)を掲載する→面白いからメディアミックス
展開

 そんな流れが既にメジャーになっていることに、驚くが、では、なんでもか
んでもそうなるわけではない。やはりこのプロットが圧倒的に面白かったから
メディアミックス展開にも耐え、なおかつ、講談社という大型出版社の業績に
ついての記事にまでタイトルが掲載されるのだろう。

 いわゆる編集者というのは、やはり一般のヒトとは違う嗅覚を持っているん
だなぁ、ということを、しみじみと感じた作品であった。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
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■あとがき
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 お盆まっさい中ですね。台風も通過中です。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.723


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.7.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book           [もうすぐ夏っ!号]
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 ジョナサン・モリス著 龍和子訳
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 になるまでの歴史。栽培と消費の移り変わり、各地のコーヒー文化のほか、コ
 ーヒー産業の実態やスペシャルティコーヒーについても詳述する。レシピ付。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月もお休みです。またをご期待ください。

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第121回 美味しい甘味をとおして台湾の日常を感じる
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → そこに在りつづけることの揺らぎ、みたいな。
  
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 ■トピックス
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 2つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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第121回 美味しい甘味をとおして台湾の日常を感じる

 


  鬱陶しい梅雨の天気が続いている。暑いのはもちろんだが、湿気が体にまつ
 わりつく梅雨寒の天気も体にこたえる。梅雨明けは20日ごろと天気予報でいっ
 ていたが、それまではひんやりした氷菓子を食べてしのぎたいということで、コ
 ンビニに寄るとついついアイス売り場をのぞいてしまう。

  それで気づいたのだけど、近所のコンビニにはいちばんシンプルで安価なカッ
 プの氷菓がなくなってしまった。スティックのアイスキャンディーもいいけれど、
 小さな木製スプーンでゴリゴリとカップ氷菓の、まだかたい表面をほるのが好き
 だった。幼いころから親しんでいたおやつの味だ。

  小学生低学年のころ、親戚に海水浴に連れて行ってもらって、海の家でかき
 氷を買ってもらった。赤いシロップが入ったガラス容器の上に機械でけずられ
 た氷が降り積もるのが面白かった。親戚のおじさんは、うず高くなっている氷の
 頂上を右手でサッとはらった。白い氷が砂の上に散っていった。そのときの氷
 のキラキラした感じがきれいだったことをよく覚えている。せっかくの氷なのに、
 もったいないな、とも思ったものだ。

 
  蒸し暑さにあえぎながら、ノスタルジーにひたっていたら、ミントブルーの涼し
 げな表紙の本が目に飛び込んできた。『台湾レトロ氷菓店』(ハリー・チェン 著
  中村加代子 訳 グラフィック社)。サブタイトルに「あの頃の甘味と人びとを
 めぐる旅」とある。氷菓店というのは、かき氷やアイスクリーム、飲み物を出す、
 台湾の人々に昔から愛されてきた店のことだと説明がある。さまざまな言い方
 があるが、原文では氷菓室といっている。

  このごろ、台湾ブームらしくファッション雑誌の特集になっていたり、トラベル
 ガイドもたくさん出ている。この本もタイトルだけみると、氷菓店めぐりをすすめ
 る台湾ガイド本のようだが、しっかりしたハードカバーの造本が表すように、観
 光地の本ではなくて、台湾の小さな暮らしが見えてくる旅のエッセイだった。訪
 ねる先は、あまり観光客が来そうもない小さな町だったりする。

  しっかりした造本には、長く読み継がれる本でありたいこと、もし描かれた台
 湾の姿が今後、失われていくものならば、きちんと本の中に残しておこうとい
 う意志が感じられる。著者は、デザイナーでもあるので、造本にもこだわりがあ
 ったのだろう。

  そういえば、ぼくも一度だけ台湾のかき氷を食べたことがある。もう30年以上
 も前のこと、船旅をすることがあって台湾に1日だけ寄港したことがあった。慌
 ただしい滞在で、なにを食べたのかはよく覚えていないのだが、屋台で食べた
 かき氷はよく覚えている。紙のカップに入ったかき氷は、日本と同じように色の
 ついたシロップがかけられていた。驚いたのがトッピングで、なんとクリームコ
 ーンがかけられていた。甘いシロップとトウモロコシの香りがアンバランスで不
 思議な味だった。当時の流行だったのか、いまでも普通にあるのだろうか。

  著者のハリー・チェンは日本の純喫茶をめぐるのが好きで、純喫茶を紹介し
 た写真集を読みあさっていた。ふと、自分の国でも同じように庶民の食文化を
 訪ね歩くことが出来ないかと考えたという。それがこの本を書くきっかけになっ
 た。氷菓店は、ハリーにとって小学生のころにおやつを食べに寄ったり、中学
 生になってデートをしたり、兵役についたときでも、こっそり行ったり、つねに
 「人生にかかせない風景」だったという。著者にとっても、台湾の人にとって心
 のふるさとのようなものなのだろう。

 
 著者が訪ねた氷菓室は22店。台湾中をめぐって取材を進めるうちに、著者
 は氷菓室はただかき氷を食べさせるだけの場所ではないことに気づく。地域
 によって明らかに違う特色を持っている。食を重んじる台南がもっとも氷菓室
 が多い地域ということだ。そして時代とともに氷菓室も様変わりしていく。氷菓
 室を訪ねることは、時代の足跡と庶民生活を訪ねることなのだった。

  著者の写真を見ると、どの店も小さくて古い。ガラスケースの中にある果物、
 タイルが貼られたキッチン、プラスチック製の椅子、そしてアンモニア式製氷機
 というのも初めて見た。アンモニア式製氷機というのは、日本では明治時代に
 使われたらしい。50年以上も営業している店も多い。ほとんどが老夫婦や家
 族でやっている店だった。それぞれの店がこだわりを持っている。氷を手作業
 でかき、削る店。機械で削った氷と比べると氷の粒粗くて溶けるのがゆっくり
 になるらしい。トッピングの小豆やピーナッツを8時間もかけて煮る店。看板に
 「もっとも道徳的な調理法」と掲げてある店。「すべてはお客さんのため」とい
 う仕事に対する態度という。どの店も誠実に美味しい氷菓や軽食を作ってい
 る。それがプライドでもあるようだ。

  それにしても写真で見るかき氷の美味しそうなこと!
  とろりと煮えた小豆がのったかき氷、食べたいなあ。

  東京にもこんな店がたくさんあったような気がする。写真に出てくる店主の顔
 は、ぼくが子どものころにあった個人商店のおやじさん、おばさんの顔とどこか
 似ているように思えた。店の屋号ではなくて、おじさんのパン屋とかおばさんの
 お菓子屋といっていたし。そんな店もつぎつぎに姿を消してコンビニやドラッグ
 ストア、牛丼屋になってしまった。

  台湾でも再開発やチェーン店化が進んでいるという。24時間営業のコンビニ
 が林立して、古い氷菓室は次々に姿を消していく。店主が高齢になり、後継者
 が見つからず休業に追い込まれることもある。著者は、氷菓室を訪ねて記録
 する作業は時間との競争となっていたという。

  東京の商店街から個人商店が消えていって、小さな店がなくなってしまった
 のはいつごろからだろうか。無駄を排して、経済的な効率をあげることばかり
 に血道をあげる。ぼくの知っている東京は、はるか遠く、過去のものになって
 しまったようだ。
 
 
 最近、移転をした古書ほうろうのブログ
 (https://horo.bz/topics/20190630021655/)にあった文章が心に響く。

 「一人の人が商売を続けられない場所には、大きな資本が入ってくる。個性が
 なくなり均質化した町は面白みがなくなり、人が来なくなる。小さな単位は、
 個々の人生の単位で入れ替わりができるけれど、大きな資本が永遠に続くこ
 とはなく、力尽きれば一気にゴースト化してしまう。」
 東京でも台湾でも同じこ
 とが起きているようだ。

  読み進めるうちにノスタルジーに浸っている自分に気がつく。台湾に暮らした
 ことのないぼくだけれど、どこか見覚えのある風景が見えて、会ったことのある
 おじさん、おばさんがいるような気になっている。この本の原書のタイトルは
 「遥遠的氷菓室」という。「遥遠的」は「センチメンタル、消え去った時間、触れ
 ることのできない距離」だという。ブラジルでいう「サウダージ」と同じ意味だろ
 うか。

  中華民国政府が台湾に渡ってきたころ、たくさんの兵隊がやってきた。その
 頃は氷菓室が独身の兵隊たちの見合いの会場になったという。いいところを
 見せたい兵隊は高級品だった珈琲を注文した。当時、氷菓室はおしゃれな喫
 茶店の役割をしていたという話を聞いた著者が「こんな物語を聞くのが好きな
 んです」というと、それまで隣で静かにしていたおかみさんが「お兄ちゃん、こ
 れは物語じゃないのよ。時代というものよ!」
 訳者の中村加代子さんがいう
 とおり、この本は「冰果室」という食文化を通して、台湾の今という「時代」を鮮
 やかに切り取った記録なのだと思う。
 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  新しい職場に移ってきて、やるべきこともわからないまま机の前に座ってい
 るとき、なんとなく居心地の悪さを感じます。最初から何の指示もなく動けるわ
 けも無く、別にそれが悪いわけではないのですが、どうにも後ろめたい気分に
 なります。
 
 『居るのはつらいよ』、東畑開人、医学書院、2019
 
  この本は沖縄のデイケア施設に就職した著者の体験をもとに「居る」ことに
 ついて記されています。それだけだと難しい学術書のように聞こえますが、実
 際は著者をモデルとした主人公を中心に物語仕立てで書かれていますので、
 逆にこんなにスルスル読んでいいのか心配になるくらいです。
 
  この本の主人公も、沖縄のデイケア施設(精神障害を抱えた人たちが一日集
 まってリハビリをする施設)に赴任して最初の日に、部長から「とりあえず座っ
 といてくれ」と言われて、デイケア室で文字通り「とりあえず座って」いることに
 なります。
 
  座っといてくれと言われたのだから座ってればいいわけですが、実に居心地
 が悪い。当然周りでは看護師さんや事務の人たちが忙しそうに(こういう時っ
 て一段と忙しそうに見えますよね)仕事をしているわけだし、自分だけ何もしな
 いでいると、だんだん申し訳ない気分になってきます。
 
  そこでリハビリ室に居るデイケアの利用者の人たちに話しかけてみたりしま
 すが、新参者がいきなり話しかけてもなかなか期待通りにはいきません。全
 然時間は進まず、初っ端からただ「居る」ことの難しさを感じてしまいます。
 
  それには主人公がカウンセラーとしてセラピーをやりたいと思っていたことと
 も関係しているのかもしれません。著者の紹介するところによれば、セラピー
 は相手の心の奥深くに向き合い介入することによって問題の解決を図る手法
 です。一方でデイケア施設で行われるケアというものは、相手を傷つけないよ
 うに相手の依存を引き受ける方法と言うことになるでしょうか。
 
  これは別にどちらが良いとか悪いとかではなく、他人との関係の志向をざっく
 りふたつに大別したものです。だから実際には局面ごとにどちらが相手にとっ
 てよいものなのかは変わってきます。そしてこれは一般的な人間関係におい
 ても当てはまることでもあります。
 
  ただデイケア施設に通ってくる人たちの多くは心に脆弱性を抱えています。
 その人たちの脆弱性をスタッフが支えることによって居場所を作ることに重き
 がおかれているので、ケアが中心となります。
 
  だからカウンセリングをバリバリやって臨床経験を積むつもりだった主人公に
 とっては、当初このケアの居場所を支えるために「居る」ということはなかなか
 価値の見出せないものでした。
 
  臨床心理の専門家として雇われたはずなのに、送迎のハイエースを運転し
 たり、麦茶を作ったりして、専門職の世界から遠く離れてしまう自分。誰でもや
 るような仕事(著者はそれを「素人仕事」と言っています)をなぜはるばる沖縄で
 やっているのだろう。プロローグでどこからともなく「それ、なんか、意味あるの
 か?」と語りかけてくる声にそれは表れています。
 
  主人公はカウンセリングの仕事ももちろんしていたわけですが、デイケアの
 利用者にカウンセリングを施して、相手の心の深い部分に触れてしまい相手が
 デイケアに来ることができなくなってしまうという経験もしています。
 
  さてデイケア施設ではそうやって利用者の人たちが安心して支えてもらえる
 状況を作り、安定した日常を送れるように努めています。しかしそのスタッフ達
 の間にはなぜか不穏な空気が漂っています。
 
  主人公も先輩に自分より先に辞めないように約束させられてしまいます(酒
 の席での話ですが)。デイケア施設はケアを行っていくことに努めて、障害福祉
 サービスの一翼を担う。話はそう簡単には行きません。
 
  デイケアの世界は、ケアされる人そしてケアする人も軽視する黒い影に覆わ
 れています。
 
  当然のことですがデイケアには軽視される要素はありません。心に脆さがあ
 る人に居場所を提供するのは大事なことです。しかしその黒い影は黒どころか
 空気や水の如く私たちに浸透しているので、そこから自由になることは難しい
 のかもしれない、とさえ感じさせる存在です。
 
  本書の冒頭にもある、主人公がただ座っているのが居心地が悪いと感じた
 のというのが何故なのか。それが黒い影の正体を暴くヒントにもなります。
 
  察しのいい方には、黒い影の正体が見えてきているのかもしれません。伏
 線を回収しながら黒い影の姿を暴く怒涛の終盤は学術書というよりも小説の
 ように読み進められます。種明かしは本書を最後まで読んでのお楽しみと言
 うことで。
     
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 ■ デビュー50周年記念「萩尾望都 ポーの一族展」
                  in MATSUYA GINZA
 └─────────────────────────────────
 「ポーの一族」を中心に半世紀の軌跡をたどる原画展
  
 少女マンガに革新をもたらした萩尾望都さんの代表作「ポーの一族」。
 バンパネラ(吸血鬼)の一族に加えられ、少年の姿のまま永遠の旅を続け
 る主人公・エドガーの哀しみを描いたこの作品は、1972年の第1作から多
 くの読者を魅了してきました。2016年に40年ぶりのシリーズ新作が発表さ
 れ、2018年には宝塚歌劇団が満を持して舞台化するなど、今なお世代を
 超えて読み継がれています。
 本展ではデビュー50周年を記念し、「ポーの一族」シリーズ最新作や本展
 のための描き下ろしを含む原画、予告カットなど200点以上を展観します。
 さらに宝塚歌劇公演の衣装・小道具も特別展示し、夢のステージを再現し
 ます。
 また「トーマの心臓」をはじめとする名作の数々を紹介するほか、執筆風景
 やスケッチブックも公開し、他分野にも多大な影響を及ぼした「萩尾望都の
 世界」の魅力に迫ります。

                                                             〜HPより抜粋〜


 ◆日時:2019年7月25日(木)−8月6日(火)
       ※7月26日(金)は20:30まで。
        7月28日(日)、8月4日(日)は19:30まで。
        <最終日17:00閉場。入場は閉場の30分前まで。>
 
 場所:MATSUYA GINZA
     東京都中央区銀座3-6-1 ☎03-3567-1211(大代表)


★入場料:一般1000円、高校生700円、中学生500円、小学生300円
   前売券:一般700円、高校生500円、中学生400円、小学生300円

   前売券はヤフーパスマーケット、ローソンチケット、セブンイレブンにて
   7月24日(水)まで販売。
 
 
 主催/朝日新聞社 総監修/萩尾望都 特別協力/小学館 
 協力/宝塚歌劇団、秋田書店、講談社、集英社、新書館、白泉社
 
 ■ 原田治 展 「かわいい」の発見              in 世田谷文学館
 └─────────────────────────────────
 1970年代後半から90年代にかけて、女子中高生を中心に爆発的な人気
 を博した「オサムグッズ」の生みの親、原田治(1946-2016)。
 
 50-60年代のアメリカのコミックやTVアニメ、ポップアートなどから影響を
 受けたイラストレーション――とりわけ、簡潔な描線と爽やかな色彩で描
 かれたキャラクターたちは、その後の日本の“かわいい”文化に多大な
 影響を与えました。
 
 没後初の全国巡回展となる本展では、イラストレーターとして活動する
 端緒となった、1970年代「an・an」の仕事をはじめとして、広告・出版・各種
 グッズなど多分野にわたる作品を中心に、幼少期〜20代前半の初期資料
 や、エッセイ集『ぼくの美術帖』関連資料も交えて展示し、時代を超えて愛
 される、原田治の全貌に迫ります。原画や版下、スケッチなど、初公開資
 料多数。この機会をお見逃しなく。
                                                         〜公式サイト紹介文より抜粋〜
 
 ◆日時:2019年7月13日(土)〜9月23日(月)
       10:00〜18:00(入館は閉館30分前まで)
       月曜日(ただし、月曜が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
 
 ◇場所:世田谷文学館 2F 展示室
       東京都世田谷区南烏山1-10-1003-5374-9111
 
              https://www.setabun.or.jp/
 
 ★入場料:  一般800円/65歳以上、高校・大学生600円
        /障害者手帳をお持ちの方400円/中学生以下無料

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 ■あとがき 
 いつもお世話になっております。毎々遅れて申し訳ありません。
 参院選が終わりました。この結果をどう解釈していいのか、正直まだわか
 りません。
 結果を知ったときはぐったりして無力感を感じました。
 消費税は上がるのでしょう、たぶん。色々なことが起きる梅雨の日々でし
 た。雨の影響で災害が多く暗い日々でした。被災された方、心からお見
 舞い申し上げます。不意の災害、胸が痛みます。
 夏は暑いけど、何とか元気を出したい、です。       畠中理恵子

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[本]のメルマガ vol.722


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■■ [本]のメルマガ                 2019.07.05.発行
■■                              vol.722
■■  mailmagazine of books            [幽霊が苦手 号]
■■------------------------------------------------------------------
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★PR★ 原 書 房 好評発売中 ★ http://harashobo.co.jp/

『インド神話物語 マハーバーラタ』[上下]

デーヴァダッタ・パトナーヤク著 沖田瑞穂監訳 村上彩訳
四六判 上下合計560頁 本体各1,900円+税

◎読売新聞で書評掲載(6月30日)。売れています!/壮大な叙事詩『マハー
バーラタ』の物語を再話し、挿絵つきの読みやすい物語に。背景となる神話や
インドの文化をコラムで解説。マハーバーラタ入門として最適の一冊。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その37「幽霊と囲む食卓」その1『菊花の契り』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第120回 暮らしと妖しいもの―『怪と幽 001』(カドカワムック)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
----------------------------------------------------------------------
その37「幽霊と囲む食卓」その1『菊花の契り』

 私は幽霊が苦手だ。

 その理由を考えてみたのだが、それは幽霊が人間だからなのだろうと思う。

 幽霊が人を怖がらせて復讐をしたりするのは、人間の欲望そのもののように
思える。死んでも元のとおりの心持で、幽霊になって「うらめしや」と人の世
界に戻って来るというのでは、死んだかいがないんじゃないか。死んで祟って
やるという復讐心で幽霊になって出てくるのでは、まさしく死んでも死に切れ
ていないわけで、現実世界の悪意の続きのようで恐怖は感じるけれど、神秘的
な魅力を感じることができないのだ。

 もう一つの理由は、私はかなりのうっかり者なので、自分が死んだことに気
づかないまま、ついうかうかと幽霊になってしまいそうな気がするからだ。行
くべき道を見つけられずに、いつまでもこの世をさ迷うなんて、それこそ地獄
のようだ。

 だから幽霊談などは極力読まないようにしているのだが、そうもいかない。
人間である限り死は逃れられないし、あの世への好奇心は太古の昔から尽きる
ことなく物語を生み続けているからだ。

 そういうわけで物語を読んでいて、ふと幽霊は何を食べるのかなと気になっ
てしまった。だが、本当のところ幽霊が食事をするという事はありえないよう
にも思える。

 そこで、物語の中で幽霊が食事をする場面、あるいは少なくとも食卓につく
場面を見て行こうと思う。もしかすると、幽霊の大好物に出会えるかもしれな
い。

 まずは「うらめしや」と祟るために幽霊となったわけではない物語を一つ見
てみよう。

 それは、上田秋成著『雨月物語』の中の「菊花の契り」の物語だ。

 現代の腐女子たちにも、ボーイズラヴ、いわゆるBLの原点として愛されるこ
の物語。ご存知の方も多いだろうけれど、もう一度ご一緒に原文も少し見なが
ら、私の意訳で食卓の様子まで読み進んでいって欲しい。古典のいいところは
様々な訳や再話があるところなので、それも参照しながら粗筋を書いていこう。
 
 播磨の国加古に母と二人で暮らす貧しい学者の左門は、ある日知り合いの家
の一室に病に倒れた旅の武士がいるのを知る。彼に同情した左門は足しげく通
って介抱する。その武士の名は赤穴宗右衛門。彼も学問に明るく、城主に兵法
を教えるほどの人だった。二人は仲良く語り合い、やがて義兄弟の契りをかわ
す。   

 宗右衛門の主は、宗右衛門が密使としてその土地の領主を尋ねているときに、
前の城主に奇襲攻撃に合い亡くなってしまっていた。宗右衛門は、領主に共に
敵を討とうと言って工作していたのだがうまくいかず、今は城の元の仲間たち
の様子を見に行こうと戻る途中で病に倒れたのだった。

 やがて彼は旅立つことになる。

 寂しがる佐門は帰る日をはっきり決めてくれとねだり、宗右衛門は、必ず重
陽の節句、つまり九月九日の菊の節句には帰ると約束して出雲に向かう。

 さて、この物語のどこがBLなんだと思われる方には、ここのやり取りにご注
目いただきたい。この九月九日の約束を引き出すあたりが、なにやら怪しげな
のだ。左門は学者だということなのだが、この帰る日を指定してくれとねだる
のが、奇妙に子供っぽく思われるのだ。

 佐門はこう言う、

「秋はいつの日を定めて待つべきや。ねがふは約し給へ」

(秋に帰るとおっしゃられても、いつの日まで待てばいいのでしょう?   
 とても待ちきれません。どうかお願いです何日と決めてください)

 こんな風に言われては、宗右衛門も日にちを口にするしかないだろう。

「重陽の佳節をもて帰り来る日とすべし」

(重陽の節句、あの菊の美しい節句の日を帰ってくる日に決めましょう)

 左門いふ    

「一枝の菊花に薄酒を備えてまちたてまつらん」

(私は、一枝の菊と心ばかりの酒を用意して、お待ちしています)

 この戦国の時代に、宗右衛門が攻め滅ぼされた城に戻るという意味が左門に
は本当にわかっているのだろうか? 敵地に向かい、潜伏しているはずの元の
仲間たちに会えば、どういうことになるか想像できるだろう。それなのに、帰
る日を決めてくれないと耐えられないと言うなんて、ずいぶんと甘えた言動で
はないか? そして、それに答えて菊の節句を口にする宗右衛門。きっと彼も、
その言動を可愛く思っているに違いない。ということは、二人は……。等々と、
妄想を膨らませていただこう。

 私がこの物語を初めて読んだのは小学生だったので、秋にそんな節句がある
と知らなかった。しかも、その本では何故か、宗右衛門がこう言うようになっ
ていた。

「菊の花をいけて、おさけのしたくとしておいてくれ、たのみますぞ」

 やはり、これでは左門の可愛らしさが伝わらない気がする。こんなふうに直
しているのはこの本だけなので、なにやら危険を感じたのだろうか?
 でも、いずれにしろ、秋の日の一日に菊の節句といって大人たちがお酒を酌
み交わして祝う日があるというのは、菊の香りとともに心に残った。桃の節句
や端午の節句があるのだから、大人の節句もあるのだろうと思ったのかもしれ
ない。
 
 やがて秋になり、垣根に野菊の花も咲き乱れるようになり、菊の節句がやっ
てくる。左門は老母と二人暮らしの独身の男性なのだが、この九月九日に宗右
衛門を待っている時の描写を読むと、まるで子供のようなのだ。

 老母云ふ

「かの八雲たつ国は山陰の果にありて、ここには百里を隔つると聞けば、けふ
とも定めがたきに、其の来しを見ても物すとも遅からじ」

(出雲の国は山陰の果てにあって、ここからは百里もあると聞きますよ。それ
だけ遠いのだから今日帰って来るとは限らないでしょう? 帰ってくる姿をみ
てから支度をしても遅くはないでしょうに)

 そう母にたしなめられても、左門は到着してから用意をしているのでは失礼
だからと言ってきかない。きっと、着いたら一時も離れたくないと思っている
のだろうと妄想してしまう。

 朝から家の掃除をし、白菊と黄菊を二三本小瓶に活け、美酒や鮮魚を買って
きて料理し、台所に備えて準備万端にして、それから、一日中街道を通る人を
見て、宗右衛門を待ち続けた。

 だんだん日が暮れていく中で、老母が、今日だけが秋でも菊の色が濃い日で
もない。明日になっても、たとえ冬になってもいいではありませんかと諭して
もききわけがない。

 月が出ても待ち続け、夜も更けて母を先に寝かせた後、もはやこれまでと思
っていた時に、やっとぼんやりとした影が風に吹き寄せられるようにやって来
てその中から宗右衛門が出て来る。

 もう左門は嬉しくて躍り上がりそうになりながら、宗右衛門を招き入れ、客
室に座らせ、酒の燗をつけ、肴を並べ、盃をすすめる。

 けれど、宗右衛門は、

「袖を持て面をおほい其の臭ひを嫌放るに似たり」

(袖で顔を隠して、料理の匂いを嫌い避けるようであった)

 いやあ、せつないだろう左門。ここまで用意したのにねえ。きっと、魚が生
臭くなってしまったのだろうとか、いろいろ思って悲しくなってしまっただろ
う。

 盃を受けてくれない宗右衛門に、左門はこういう。

「井臼の力はもてなすに足らざれども、己が心なり。いやしみ給うことなかれ」

(粗末な手料理で、何のおもてなしになりはしないのですが、私の気持ちです。
どうぞ蔑まないでください)

 宗右衛門は、長い長い溜息をつき、こう言うのだ。

「賢弟が信ある饗応をなどいなむべきことわりやあらん」

(私の可愛い弟が心を込めて作ってくれたご馳走を嫌がるわけがないじゃない
か)

 そして、信じられないかもしれないが、これにはわけがあるのだと言い、自
分は今、幽霊なのだと打ち明けるのだ。

 宗右衛門は出雲で敵方に寝返った親戚に捕えられ、牢に閉じ込められてしま
ったのだと言う。逃げられないまま今日にいたってしまった。九月九日の約束
に間に合わなくなったら、あなたはどう思うだろうと思い沈んでいたのだが、
魂は千里を走るという古事を思い出して、自害してここに来たのだと言い、親
孝行をしてくれと言ってかき消えてしまう。
     
 物語はこの後、左門が遺体を弔うために出雲に行き、宗右衛門を閉じ込めた
親戚の男を一刀のもとに切り捨てて行方をくらまして終わるのだが、今回は食
卓だけに注目していこう。

 この物語では具体的にどんなご馳走を用意したかわからないのだが、舞台は
播磨の国加古の駅とあるので、現代の兵庫県加古川市のあたり。左門の家の前
を街道が走り、道行く人は明石から船に乗る話や、高砂市の駅で蕎麦をご馳走
しようなどという話をしながら街道を歩いている。

 酒の肴には事欠かない場所のように思える。

 旧暦の九月ごろの旬の魚と言えば、たぶん黒鯛。市場で買って刺身や塩焼き
はもちろん、さっと煮つけても、すばらしい肴になるだろう。明石の蛸も忘れ
てはならない。そして季節柄、栗ごはんや秋茄子の煮物なども、母は用意して
おいてくれただろう。

 そしてなんと言っても銘酒には事欠かない土地柄。気合を入れて貧しいお財
布を空にして、よいお酒を買って来たに違いない。

 二人が再会の時を思うとき、きっと思い浮かべたのは、これだろう。

 菊の花びらをはらりと浮かせた盃。

 その盃を交わすことを宗右衛門は牢屋の中で何度も夢見ていたに違いない。
そうでなければ、わざわざ幽霊になってまで、この菊の節句の日に現れること
はなかったろう。

 それなのに、その心尽くしの食卓に座りながらも、大事な弟分の作ったご馳
走の香りを嗅ぐこともできない身の上となってしまった宗右衛門が実に哀れだ。

 私はあまり日本酒の盃を手にしないのだが、時折、酒席で刺身に菊の花が添
えられているのを見ると、この物語を思い出してしまう。

 盃に入れられるのは食用の菊だけという事なので、その花を日本酒に浮かば
せたりはしないのだが、機会があれば食用菊を手に入れて、左門と宗右衛門の
飲めなかった盃を干して、二人を忍んでみようと思う。

 それにしても、せっかく幽霊になって別れを告げに来たのに、何も食べられ
なかった宗右衛門は本当に哀れだ。ご馳走は何皿もあったというから、ゆめゆ
め幽霊になれば思いは叶うと信じ込んではいけないと、肝に銘じる物語でもあ
る。

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『雨月物語』上田秋成著 筒井敏雄文 少年少女世界名作文学47  小学館
『雨月物語 春月物語』 高田衛注訳 完訳日本の古典57     小学館
『若い人への古典案内 雨月物語 春月物語』神保五彌・棚橋正弘訳
                               教養文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第120回 暮らしと妖しいもの―『怪と幽 001』(カドカワムック)

 昨年、愛読していた怪談専門誌『幽』が活動を終えるという話を聞きがっか
りしていたが、何と、妖怪専門誌『怪』と合流して新しい雑誌『怪と幽』が4
月に立ち上がると聞き、小躍りして買いに行った。手にしたものの、仕事の忙
しさに加えて読まねばならない本が何冊かあり、今ようやく読了したところだ。
450ページ近いずっしりした造り、取材記事、対談、コラム、小説、漫画、何
でもありの内容でビジュアルも豊か。本体価格1800円はお買い得だ。

 巻頭は『怪』に深く関わってきた京極夏彦と『幽』編集長だった東雅夫の対
談。どんな編集方針になるのか気になるところだが、対談開始早々から思いが
けない発言が飛び出す。「世間一般の方からすると妖怪も怪談も似たようなも
ので、合流することにさしたる違和感はないのかもしれませんが、それほど単
純な話ではないですよね」(東)、「扱うものが同じでも怪談と妖怪では切り
取り方がまるきり違うんです」(京極)。京極によると、「恐ろしさや怪しさ
を骨抜きにして生活に取り込む、恐さや怪しさを笑うという基本が妖怪にはあ
る」故に、恐さを主眼とする怪談と妖怪とは「水と油」の関係にあるのだとい
う。この区分けは極めて明晰で面白い。妖怪ファンも怪談ファンも覚えておき
ましょう(笑)。とは言え、両者は日常をはずれた世界を扱うという点では共
通しており、2つの軸を活用してどこまで面白い誌面作りができるかが問われ
るということだ。

 全体として民俗学関係のコンテンツの比重が多く、「妖しいもの」を腰を据
えて楽しみたい人にはうってつけの硬派な内容になっている。硬派と言っても
肩の凝る感じではなく、すいすい読み進められる文章ばかりだ。

 荒俣宏「妖怪少年の日々 アラマタ自伝」。自伝と銘打たれてはいるが、博
覧強記の筆者が興味が向いたものを次々取り上げるものだからもう大変。芥川
龍之介の遺書から始まって東西の人魚のへ、そして人造の海の化け物「ジェニ
ー・ハニヴァー」へ。自分語りそっちのけで対象について熱っぽく綴るその筆
はまさに「妖怪少年」のものだ。

 小松和彦の「葛城山の土蜘蛛」は、日本文化の「封印されたり背後に押しや
られて忘れられた側面の発掘」の試みの一つ。「聖地」や「魔所」を探ること
で、隠されてきた歴史を可視化させるというもの。能の「土蜘蛛」の由来を調
べる中で、ヤマト政権によって滅ぼされた葛城氏の存在が浮かび上がる。妖怪
・土蜘蛛の背後にある悲しみ・恨みに胸を突かれる。

 多田克巳・村上健司に編集Rを加えた「それいけ! 妖怪旅おやじ」第一回
は「河童の妙薬」を訪ねる旅。中年男性3人による、グダグダ・ユルユルした
旅ルポだが、勘所はがっちり押さえている。切り落とした河童の手を返したお
礼に、河童は手接の秘法を教える―。その跡を訪ねていくうちに一行は意外な
事実を知る。河童伝説を残した芹沢俊幹の末裔が、河童から教わったという家
伝薬を代々伝え、希望者に分けていた、そんな旧家が今もある。一行は実際に
家を訪ね、薬を口にするに至るのだ。まさに足を使わないと辿り着けない、歴
史の裏通りを覗く面白さ。

 『怪と幽』は本や作家についてのコンテンツも充実している。東雅夫の「文
豪たちの幽と怪」は、古今の文豪たちと幽霊や妖怪との関わりを紹介するコラ
ム。その第一回は太宰治。子守役をつとめた使用人のタケが連れて行った寺に
あった地獄絵は幼い太宰の心に大きな衝撃を与えたという。イタコが集う霊場
・地獄堂では死者の言葉を伝える行事が今も続けられており、こうした風土が
太宰の文学に影を落としていると東は指摘する。怪談好きを自称した太宰には
怪奇な出来事を扱った作品も多いが、それ以上に、その文体そのものがイタコ
の語りから力を得ているのだ。

 小説作品も多数収録されており、中でも京極夏彦『巷説百物語』シリーズ再
開はファンにとって朗報だろう。長くなってしまうので作品一つ一つについて
のコメントは控えるが、ミステリー風あり、時代小説風あり、ユーモア小説風
あり、ファンタジー風あり、バラエティに富んだラインナップだ。欲を言えば、
ストレートに怖さだけを狙った作品が欲しかったが、それは次回以後のお楽し
みだ。

 読み終わった全体の印象としては、様々な点に律儀に気を配った、全方位的
な雑誌という感じ。そしてどの記事にも感じられるのが、妖怪や怪奇現象は、
他でもない我々の暮らしや歴史に根差すものだという強い信念である。

 論考やルポはどれも裏付けがしっかりしていて信頼性の高いものであり、
「怪」や「幽」が紛れもない文化遺産であることを示す。暮らしに根差す故に、
妖怪や怪談は、万人が読み、語り、書いて、楽しむべきものだ。自治体の方は、
地域活性化のために、この『怪と幽』を毎号熟読してみてはどうだろうか。ま
た学生の方は、自由研究や調べ学習のネタに、本誌を活用してみてはどうだろ
うか。個人の楽しみとして読むのもおおいに結構だが、自ら行動を起こし、同
好の士とつながるための知的実用書として本書を使うのも、おおいにありだと
思うのである。

*『怪と幽 001』(カドカワムック 本体1800円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 またもや、とてつもなく配信が遅れました。
 配信完了したと思っていたら、配信ミスでした。すみません!

 いろいろあるもんです。(aguni原口)

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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。次回に乞う、ご期待!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第120回 市場(マチグヮー)の風景
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「動く住まいの世界をのぞく」
  
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 ■トピックス
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 のイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第120回 市場(マチグヮー)の風景
 
   那覇にある第一牧志公設市場が老朽化に伴い現地建て替えするために6月
 16日に営業を終了するという。沖縄県民や那覇市民の台所として、観光名所
 にもなっているところだ。

   戦後のヤミ市から続いているという、肉、魚、野菜、乾物とありとあらゆるも
 のが並んでいて、賑やかな市場を知る友人たちはそろって、その風景が消えて
 しまうことを惜しんでいる。

   残念ながら、ぼくは沖縄に行ったことがない。
 下北沢にあった食品市場が大きくなった感じかな、なんて思うけれど。
 やはり実際に見たことがないとよくわからないな。
 東京をほとんど離れたことがないぼくにとって、沖縄は遠いところだ。
 でも最近、沖縄に移り住んだ友人がいて、ここ数年、だんだんと身近な場所に
 なってきた。
「音の台所」(http://oto-kitchen.com/)というペンネームでイラ
 ストを描いている茂木淳子さんは、不忍ブックストリートの一箱古本市で知り合
 った。
 知り合ってもう10年になるのだな。

   その10年のあいだに茂木さんは、さまざまな創作活動を始めていた。
 月刊誌ムジカノーヴァ(音楽之友社)で「ブルクミュラー25の練習曲」にイラスト
 と言葉をつけた「ブルクミュラー鳥ノオト」を連載したり、昨年には作曲家の春
 畑セロリさんとの音楽と茂木さんの絵と文のコラボレーション
 「ゼツメツキグシュノオト」(音楽之友社)という楽譜、絵本、CDを発表している。

   ピアノと語りと絵で物語の世界をつくる音楽紙芝居も楽しい。
 アンデルセン「ナイチンゲール」、オスカー・ワイルドの「幸福な王子」など親し
 みやすい童話を元にしたストーリーを茂木さんの朗読、川津直子さんのピアノ、
 そして紙芝居のように茂木さんのイラストがスクリーンに映し出される。
   子どもだけでなく、大人も童話の世界に引き込まれてしまう。
 いつも満員になって、ときには会場に入れないこともあるのもわかる。

   茂木さんは2013年から那覇に住んでいて、「市場の古本屋ウララ」で店番
 の手伝いをするようになった。
 日本一小さい古本屋といわれるウララは、第一牧志公設市場の前にあって、
 建替工事が始まると店の前の風景が変わってしまう。茂木さんは市場の消え
 てしまう風景をリトグラフにして残した。

   いま、そのリトグラフ「市場のねこ」展が明大前駅そばにある古書店、七月
 堂古書部(東京都世田谷区松原2-26-6-102 
 https://twitter.com/shichigatsudo2)で6月30日(日)まで行われている。
   もともと七月堂は詩集を数多く出版している出版社。
 3年ほど前から古書を販売するようになった。
 そのきっかけが営業で沖縄に行った際、日本一狭い古本屋ウララを知って、
 この狭さで出来るなら、と古書部を開いたという。
   6月9日(日)には、茂木さんの朗読とトークの会、「ゆんたくライブ」に呼ん
 でいただいて、ギターを弾いた。
 茂木さんは、「辻占」(『市場のことば、本の声』 晶文社)、「くもこ」
 (『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』 ボーダ
 ーインク)などウララの店主である宇田智子さんのエッセイを中心に数作を
 朗読した。
 どれも市場の日常をおだやかな文章で描いたエッセイだ。

   ぼくは自分で歌をつくって歌ったり、ギターを弾いているけれど、朗読とい
 しょにギターを弾くのは初めてだった。
   メロディーのある歌の伴奏とも違うし、イラストレーターの門馬則雄さん
 のライブペインティングともまったく違う経験だった。
 もちろん楽譜はないし、歌のリズムと朗読のリズムはちがう。
 音楽紙芝居での茂木さんの朗読が大好きだったぼくとしては、なかなかの
 プレッシャーを感じていた。
 いちおう作曲とまではいかないが、曲のモチーフをいくつか準備した。
 本番の二日前、打ち合わせとリハーサルをしたが、やはり台本を見ただけ
 ではわからないことがたくさんあった。
 作ったモチーフを弾こうとすると、曲を弾くことばかりに気をとられてしまう。
 弾き切らないうちに、つぎの言葉、文章が始まってしまったり、うまくタイミン
 グが合わなくなってしまう。

   呼吸を合わせる、それがいちばん大切なことだった。
 茂木さんの朗読に耳をすまして、反応するようにギターを弾いた。
 茂木さんの言葉のひとつひとつに集中していると、宇田さんの文章がスーッ
 と体に入っていくような気がした。
 目で文字を追って読むのとは、またちがった感覚だった。
 朗読といっしょにギターを弾くご褒美みたいなものかな。
 沖縄の言葉で「しーぶん」(おまけ)か。

   フリートークのときも、ポロポロと弾いたから、2時間、ずっとギターを弾
 きっぱなしだった。
 ライブのときだって、こんなには弾かないから、楽しかったけれど、終わって
 緊張から解き放たれたらぐったりしていた。
 どうやら朗読の邪魔にはならなかったみたいでホッとしている。

   市場という言葉は、公設市場だけのことを指すのではなくて、そのまわりに
 あるほかの店も含めて「市場(マチグヮー)」ということ、いつも行く店は決
 まっていて、その店が閉まっているときも、ほかの店に浮気はしてはいけない
 こと、でもコーヒーは違う店に入ってもいいのかも?
   とか橋本倫史さんが『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』
 (本の雑誌社)を書いたきっかけとなったのは茂木さんだったとか、トークで
 の話もとても面白かった。

   茂木淳子さんのリトグラフを見ていると、にぎやかな市場ではなくて、少し
 のあいだ、ふと客足が途絶えたゆったりとした時間だったり、蒸し暑い日に
 サーッと風が吹いてきたような心地よい気分になる。
 音楽が聞こえてくるのだけど、それは三線の音というよりピアノの音のような
 気がするのは、ぼくだけだろうか。
 「市場のアーケード」という作品に描かれた、公設市場のまわりにぐるりと張
 られた幌を歩くネコ、みーちゃん。
 市場の工事が始まったらどこに行ってしまうのだろう、なんて考えてしまう。

   これから新しい建物が出来て、新しい風景が生まれる。
 市場はどんなふうになっていくのだろう?
   沖縄に旅行した友人は、「あの市場の風景を見られなかったのは残念だ
 ねえ」という。
 きっと味気ない近代的な建物ができるのだろう。

   東京では駅の周辺の商店が消えて、どこの街も同じような商業ビルが並ぶ
 ようになってしまった。小さな商店が経営が出来なくなって、資本力のあるチェ
 ーン店ばかりが目立つようになってしまった。

   でも、ぼくは思う。
 建物は変わっても、市場で働く人たち、そしてそこに昔ながらのお客さんがい
 れば、きっとたくさん「変わらないもの」があるはずだと。
 きっと20年、30年と年月を積み重ねていくうちに、その人たちにふさわしい市
 場の姿になっていくのだと思う。
 茂木さんの話を聞いていると、東京とはちがって、そんな希望を持てるような
 気がした。

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
   天井の高い家を作ってしまったが、実は狭い方が好きだったという男のCM
 がありました。生活に必要なものがコンパクトにまとまった、狭い住居というも
 のにも心惹かれるものがあります。
 
 『Mobitecture』、レベッカ・ローク著/八木恭子訳、グラフィック社、2018
 
    この本には動かすことのできる住まいが沢山紹介されています。人の手で
 持ち運びができるものから、車で牽引するトレーラーハウスのようなものまで
 実に様々です。
 
   動く家ということで、一番シンプルなのが人力でも簡単に持ち運べるものとい
 うことになるでしょうか。「Melina」と名付けられたイスラエル製の移動式住居は、
 背負って運ぶことができます。テントとして使うときには、蛇腹状に折りたたん
 であるものを伸ばすだけで一人用のテントに速変わりします。都会の喧騒の中
 でも安心して休むことができます。
 
   あるいはアメリカで作られた「Tent2」という作品は普段コートとバッグとして
 身につけることのできるものがテントに変身するという優れものです。ひとりで
 持ち運ぶ分で二人が入れるテントになります。このテントは移動を余儀なくされ
 る難民を守ることを視野に入れています。
 
  本書に紹介されている簡易式の住居は、災害時や難民・ホームレスといった
 人たちに活用されることを考えて作られたものも数多くあります。
 
   そのなかには日本の折り紙技術が活用されているものもあります。「山折り
 谷折りテント」という日本製のテントは、紙製でそれを折ることによって一人用の
 居住スペースを生み出すことができます。このテントは東日本大震災を受けて
 開発されました。避難所などでプライベートな空間を持てることで、ストレスを和
 らげることができるでしょう。
 
   また「ミウラ折り」と呼ばれる日本で開発された、人工衛星の太陽電池パネ
 ルの折りたたみ技術を援用したプラスチック製の簡易テントも紹介されていま
 す。
 
   ホームレスの人が荷物と一緒に移動できるタイプの住居には、スーパーマ
 ーケットのショッピングカートも簡易住居のベースとして使われています。
 
   「Camper Kart」というショッピングカートはハンドルを回して屋根を上げれば、
 ショッピングカート上にテントと寝床が展開するという優れものです。ただ写真
 だとちょっとバランスが悪そうに見えるのですが…。
 
   「EDAR Mobile Unit」は折りたためばコンパクトなカートになるにもかかわら
 ず、テントとしての使用時は十分に住まいと呼べるくらいの安心感があります。
 
   ショッピングカートではありませんが「Homeless Homes Project」は様々な
 廃品を活用した車輪つきモバイルハウスです。安上がりにホームレスの人も
 安心して寝ることができるスペースが生み出されています。
 
   ほかにも氷上での釣りに使われる簡易小屋や移動式サウナなど、趣味の色
 が濃い移動住居も紹介されています。わざわざ移動させてまでサウナに入りた
 いのかとも思いますが。温泉好きの日本人にしてみれば、移動露天風呂のよう
 な感覚なのでしょうか?

   本書の後半には車で引っ張るトレーラーハウスや、船で運ぶ水上住居も多く
 紹介されています。ただそちらはどちらかというと設備の快適性やデザインの
 センスなどの特徴が強調されているように思われます。車や船だと重いものも
 運べるので、あれもこれもという感じでしょうか
   設計者の創意工夫がより生きているのは、自転車や人力での運搬や設置が
 想定されている作品の方にあると思います。条件が厳しいほど工夫のしがいが
 あるということでしょう。
 
   思わず住んでみたくなるようなものから、ちょっと御免蒙りたくなるようなもの
 まで。現代の様々な動く住まいの世界をのぞくことが出来ます。
    
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------
 ■ 企画展 茨木でつながる作家   「富士正晴」と「井上靖」展
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2019年3月28日(木)〜7月31日(水)
           9時30分〜17時まで 
           第2・3・4・5月曜日(祝日と重なる場合は開館しその翌々日が休館)

 ◇場所:富士正晴記念館 茨木市畑田町1番51号(中央図書館併設)  
           TEL 072-627-7937  

      阪急茨木市駅・JR茨木駅から、
      阪急バス(80系統、82系統)「中央図書館前」バス停下車すぐ
      なお、中河原南口行きは、中央図書館前を通らない便もありますので、
      乗車前にご確認ください。

   http://www.lib.ibaraki.osaka.jp/?page_id=180


 富士正晴の残した日記によると、戦後二年目、井上靖に茨木町下中条
 (現、茨木市西中条)の自宅(六畳の離れ家)に招かれ、のちの出世作「闘牛」
 の第一稿を読み聞かされたとあります。富士に宛てた井上の書簡に加え、
 井上が富士のノートに記した自宅までの地図など、茨木にまつわる資料も眺め
 てもらいましょう。            ―富士正晴記念館HPより抜粋―


 ■ 四角い宇宙 「ブックデザイン展」  ―珈琲&ギャラリー ウィリアム モリス―
 └─────────────────────────────────
 ◆期間:2019年6月4日〜27日 開廊12:30―18:30 
                                                  休廊日 日・月・第三土曜日
 
 ◇場所:珈琲&ギャラリー ウィリアム モリス
       渋谷区渋谷1‐6‐4The Neat青山2F
 
 石間淳/小川恵子/折原カズヒロ/河村誠/白畠かおり/武中祐紀/原田恵都子
 
 [挿画展示作家]
 
荒川耕/大久保つぐみ/柿崎えま/河村誠
                             /信濃八太郎/杉山真依子/竹中ゆみ子/原田リカズ

 ■ 第13回 被爆者の声をうけつぐ映画祭2019
 └─────────────────────────────────
 2007年にスタートした映画祭は、今年で13回目となりました。
 
 ◆日時:2019年7月13日(土)、14日(日) 10時〜21時

 ◇場所:武蔵大学江古田キャンパス
  13日(土):1号館地下1002シアター教室
  14日(日):8号館8階武蔵大学50周年記念ホール

  西武池袋線江古田駅南口 徒歩6分
  都営地下鉄大江戸線新江古田駅A2出口 徒歩7分
  西武有楽町線新桜台駅2番出口 徒歩6分

 【主催】
 被爆者の声をうけつぐ映画祭実行委員会
                    /武蔵大学社会学部メディア社会学科永田浩三ゼミ
 
 【後援】
 日本原水爆被害者団体協議会
      /ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会/練馬・文化の会
 
 ★鑑賞券★
 前売り 大人→1000円 学生・子ども→500円
 当日  大人→1500円 学生・子ども→800円
 
 2日間フリーパス券→4000円
 
 ☆ご予約・お申込み・お問い合わせ☆
 TEL 03-5466-2311(共同映画)
 fax 03-5466-2312(共同映画)
 E-MAIL  eigasai@gmeil.com
 https://hikakueiga.exblog.jp/

 「広島長崎における原子爆弾の影響 長崎編」84分・13日
「黒い雨」123分・13日
「青葉学園物語」100分・13日
「アトミック・カフェ」87分・13、14日両日
「原発ゼロの未来を 福島を忘れない」16分・14日
「ふたつの故郷を生きる」65分・14日
「西から昇った太陽」75分・14日
「声が世界を動かした 〜ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産
             の継承センター設立に向けて」42分・14日 


 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 
 「幻燈15号」は、先日亡くなられた漫画家のうらたじゅんさんの追悼号です。
   うらたさんの作品「冬のプラネタリウム」、2016年に国立のギャラリービブ
 リオでの『幻燈』展覧会の際行われた、漫画家おんちみどりさんや甲野酉
 さんとの鼎談「少女マンガ体験を語る」、『幻燈』編集部宛てに送られてきた
 うらたさんの手紙、「うらたじゅんさんの思い出」として田ノ下勝、川勝徳重、
 原マスミつげ忠男ら各氏からの寄稿を収録しています。 
   うらたじゅんさんの漫画の大ファンでした。亡くなられたことが未だに信じら
 れません。これからゆっくり『幻燈15号』を拝読し、うらたさんを思い出させ
 ていただきます。まださよならが言えません。         畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.719


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■■ [本]のメルマガ                 2019.06.05.発行
■■                              vol.719
■■  mailmagazine of books        [恋の味も知らぬくせに 号]
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「ゼロ」、「確率」、「無限大」、「ゲーム理論」、「カオス理論」など全20
章で、数学の根幹をなす理論から、われわれの暮らしに関わりの深いテーマま
で、画期的な理論や大発見を関連図版とともにわかりやすく説明する。


■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その36「吸血鬼たち」その4.彼女たちのお食事風景

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 軽減税率

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その36「吸血鬼たち」その4.彼女たちのお食事風景

 その4.三人の貴婦人、ズデンカ、クラリモンド 

 今回は、ある意味番外編。

 と、いうのも、今回の食物はあなただからなのだ。

 そう、吸血鬼の物語の中の女たちが、どんなお作法であなたを食べようとす
るかについての話なのだ。気の弱い方には辛い場面もあるだろうけれど、かの
芥川龍之介訳の華麗な食事場面も出てくるので、お楽しみに。

 それではまず、前回に引き続いてブラム・ストーカーの『ドラキュラ』の中
の三人の貴婦人を見ていこう。

 ドラキュラ城に招かれてロンドンの地所の事務を請け負った弁護士のジョナ
サン・ハーカー。彼はドラキュラ伯爵に「他の部屋で寝てはいけない」と言わ
れていたのに、伯爵の留守中に城の中の探検に出かけて、鍵が壊れていた部屋
に入り込んでしまう。

 そこは、ダイヤ型の窓から月の光が差し込む婦人部屋らしき小部屋で、瀟洒
な樫の小机で婚約者に読ませるために日記を書いたり、長椅子を引っ張り出し
て夜景を見ながら横になったりしているうちに、ジョナサンは眠ってしまう。

 しばらくして、彼は三人の貴婦人らしき姿が月の光の中にいるのに気付く。
黒髪で鷲鼻の伯爵に似た二人と金髪にサファイアのような青い目の素晴らしい
美人。むっちりとした赤い唇に真っ白い歯を持つ三人の様子を見ながら怪しげ
な気持ちなっていくジョナサン。やがて、黒髪の二人が口々に金髪の美女をそ
そのかし始める。

「おやりよ。お前さんが先だよ。わたしたちは後さ。お前さんが皮切りだよ」

「若くて丈夫そうな男だよ。三人で接吻したって大丈夫さ」

 そこで金髪の女は歩み出る。

 ジョナサンは目を閉じ、彼女が近づいてくるとその甘い香りとともに何かむ
かつくようなほど血なまぐさい匂いがするのを感じている。そして、彼女が床
に膝をついたままのしかかるように自分の顔をみているのを瞼の裏にまざまざ
と見る。彼女が、猫か犬のようにぴちゃぴちゃ舌なめずりしている音がジョナ
サンをわくわくさせる。そして、首筋に熱い息がかかったところで一息を入れ
てから、彼女の熱い唇が喉の皮膚に押し付けられる。三本の堅い鋭い歯がそこ
にとどまる。

「自分は恍惚として目を閉じ、胸を波打たせながら待った」

 何とも官能的な気分で餌食となろうとしているジョナサン。

 ところがその瞬間、部屋はドラキュラ伯爵の怒りで満たされる。彼は女たち
を薙ぎ払い、この男は自分のものだ、おぬしらも同じ目に合わせるぞと怒鳴り
つける。が、金髪美人は、

「おほほ!恋の味も知らぬくせに、おほほほ!」

と、あざ笑うのだ。

 これは、吸血鬼の食事ではないのだろうか?
 餌食をものにすることが、恋なのだろうか?

 伯爵は自分だって恋は知っているというのだが、果たして……。

 この後、村からさらわれてきたらしい赤子が入った袋をひっさらって彼女た
ちは消えてしまうのだ。この場面は、人間を餌としているようで大変恐い。ジ
ョナサンが婚約者に日記を見られたら困るなと思いながらも書きつけた官能的
な誘惑の場面とはほど遠いところが、実は彼女たちの本性なのかもしれない。

 次に紐解いてみたいのは、セルビアの地での物語だ。アレクセイ・コンスタ
ンチノヴィッチ・トルストイ著の『吸血鬼の家族』。

 ヒロインの名はズデンカ。

 主人公はフランス人の青年デュルフェ。ある公爵夫人への恋の辛さからモル
タヴィア公国へ外交官として赴くことにする。その途中にセルビアの小さな村
の家に宿を取る。その家の娘がズデンカ。

 彼は素朴で慎み深いズデンカに夢中になるのだが、二人きりになって話した
のはただ一時のことだった。警戒する兄に追い出されるようにその村を出るこ
とになる。

 そして、モルタヴィアに赴くと、それはそれで、その公国の皇妃に夢中にな
って時を過ごす。
 やがて、パリから帰国命令が出て戻る道すがら、修道院で、ズデンカの一家
が吸血鬼になってしまい、ズデンカは気が狂ったと教えられる。けれど、その
言葉が信じられずに村に行ってしまう。

 誰もいない荒れ果てた家に、ズデンカ一人が現れる。最後に会ったときのよ
うに素朴な刺繍のブラウス姿のズデンカは、最初はデュルフェを追い返そうと
する。だが、やがて折れて、二人は甘いひとときを過ごすのだ。

 だが、ズデンカはいつも身に着けていたイコンをなくしたといい、彼が以前
にプレゼントした七宝の十字架のネックレスも身につけようとしない。
 やがて、デュルフェが我慢できなくなってズデンカを強く抱きしめたとき、
かの公爵夫人からもらって身に着けていた十字架の角が彼の胸を刺す。その途
端、ズデンカの様相が変る。そして、ふと部屋の窓を見ると、吸血鬼と化した
ズデンカの家族が窓に目を張り付けるようにして二人のことを見ているのに気
づくのだ。

 デュルフェはすぐ戻るとズデンカをだまして馬小屋に行き、馬に飛び乗って
逃げ出そうとする。振り向くと家の周りには、村中の人々が取り囲むようにし
て窓を覗いている。

 けれど、やっと逃げおおせたと思った時に、ズデンカの声がする。

「待って、待って、いとしい方。あなたは私の魂よりも大切なおかたです。」

「待って、待って。あなたの血は私のもの!」

 ズデンカは走りながらそう言って馬に飛び乗って来る。そして、背後から彼
の身体に手を回して自分の方に向かせて喉に噛み付こうとするのだ。

「いとしい人、私の心。……私にはあなたしか見えません。私に必要なのはあ
なただけ。私はもう自分を抑えられない。強い力に私は堪えられない。赦して、
あなた、わたしを赦して!」

 なんで後ろから噛み付かなかったのだろう?こんなことを言ってないで、さ
っさと血を吸ってしまえばよいものを。

 というのはこの後、彼女の家族をはじめ村中の人々が吸血鬼となって彼を追
いかけてくるさまが、情け容赦なく怖いからだ。棒高飛びの要領で杭を使う吸
血鬼や、子供を投げつけて噛み付かせようとする吸血鬼なんていう、聞いたこ
ともないほど元気で荒っぽい吸血鬼たちの群れが追いかけてくるのだ。セルビ
アの吸血鬼恐るべし。

 そんな吸血鬼たちの中でズデンカだけが、まるで吸血鬼の作法どおりに喉元
に唇を寄せたかったように思えるのは、やはり、この恋がズデンカの生前唯一
手に入れた恋で、その力が吸血鬼の食欲と拮抗するところがあったからに違い
ない。もっとも、それから二人は馬の上で凄まじい格闘を行うことになるのだ
が……。

 かなり遠くまで逃げてしまった恋人を走って追いかけ、あげくに疾走する馬
に跳び乗ってしまう彼女の情熱も、その恐ろしさと同時に忘れがたい物語だ。

 さて、最後に語りたいのが、テオフィエ・ゴーチエが描く絶世の美女クラリ
モンドの食事場面だ。

 この物語は芥川龍之介の翻訳では『クラリモンド』。青柳瑞穂では『死霊の
恋』(原題はLa morte amoureuse)というのだが、後者ではもうすべて種明か
しがされてしまうので、私は最初に芥川の翻訳を読んでよかったと思っている。

 主人公は神学生の青年ロミュアル。彼は幼いときから神へ仕える道を選んで
いて嬉々として神父になるための儀式に臨んでいる。その教会での儀式の最中
に、彼はふと顔を上げて絶世の美女の姿を見てしまう。彼女の眼が語りかけて
くる誘惑に度を失いながらも、夢うつつのうちに彼は神父の誓いを立ててしま
う。教会の出口で、彼女はロミュアルの手を握り、

「不仕合わせな方ね、不仕合わせな方ね。何と云う事をなすったの」

と、言うのだ。

 彼女は、コンチニ宮殿に住む有名な娼婦のクラリモンド。

 初めて恋に落ちたロミュアルの動揺する様子を心配した神学院の院長セラピ
オン師の計らいで、彼は寒村の牧師補に就任してパリを去る。

 ある夜のこと、見覚えのある召使が迎えに来て、彼はクラリモンドの臨終の
儀式を行うことになる。彼が耐え切れずにその死体の唇に接吻すると、一瞬彼
女は生き返り、再会を約束して又事切れるのだった。

 その言葉どおり、ある夜彼女は見事生き返ってロミュアルを迎えに来る。そ
して、その夜から彼はクラリモンドと共にヴェニスに住み、毎晩快楽の限りを
尽くして遊びまわる貴公子になるのだ。昼間は神父、夜は貴公子。もはやどち
らが本当の自分か分らないまま日を送っていく。

 けれどクラリモンドは病気になり、床に伏すことが多くなってくる。そんな
ある日、彼女のために果物をむいてやろうとして、ロミュアルはナイフで手を
切ってしまう。血が一、二滴彼女にかかると、不意にクラリモンドは寝床から
躍り出て彼の手から、夢中になって血を啜り続ける。

……わしの傷口に飛びつくと、云い難い愉快を感じるように、わしの血を啜り
始めた。しかも、彼女は静かに注意しつつ恰も鑑定上手が、セレスやシュラキ
ュラウズの古酒を味わうように、その小さな口に何杯となく啜って飽きないの
である。と、次第に彼女の瞼は垂れ、緑色の眼の瞳は、丸いと云うよりも、寧
ろ楕円になった。……

 正体が現れる大変怖い場面だ。

 でも、クラリモンドは夢中で血を啜りながらも、彼の手に接吻しようと唇を
離す。かと思えば、又傷口を搾り、出てきた血を啜るのだ。ここら辺がなんと
も可愛いくけなげに描かれていて、クラリモンドが何度も言うように、彼女も
ロミュアルを愛しているのに違いないと思わされてしまう。

 この後、彼女は見事にまた美しく蘇り元気になる。

 自分が寒村に住む貧しい神父なのか、ヴェニスに住む裕福な貴公子なのかが
わからない、昼夜逆転したような奇妙な生活は、現実のロミュアルの体も蝕ん
でいったようで、セラピオン師は心配して訪ねてくるようになる。そして、こ
う叫ぶのだ。

「お前は魂を失う丈では飽き足りなくて、肉体をも失おうとするのかの。見下
げ果てた奴め。何と云う恐ろしい目にあうものじゃ」

 だんだん、クラリモンドに疑惑を感じるようになったロミュアルは、ある夜、
鏡に映った彼女が、寝酒のリキュールにこっそり粉薬を入れているのを見る。

(この吸血鬼は鏡に映るのだと驚いたのだが、この作品はここにあげた中では
一番古いので、『ドラキュラ』の規則には縛られていない。)

 そこで、その酒を飲んで寝たふりをしていると、彼女は髪の留め針をはずし
て彼の腕に突き刺し、血を啜り始める。彼女はさめざめ泣きながら長々と彼を
愛していると言い、だから他に恋人を作ってその血を飲むことができないのだ
と言い訳をして、ほんの五、六滴だけ血を飲むと、丁寧に傷の手当をするのだ
った。

 さすがにここでロミュアルはクラリモンドの正体を悟るのだったが(遅い!)
それでも、逆に喜んでクラリモンドに自分の血を与えたいと思ってしまう。そ
して、それからも平気で麻酔入りの寝酒を飲んで暮らしていく。
 この酒を「魔酔の酒」と訳す芥川の遊び心がなんとも言えずたまらないとこ
ろだ。私もロミュアルのように、そう知りながらも飲んでみたくなる気がする。
けれど、昼間の、神に仕える身としてのロミュアルは苦悩し、眠りにつくのを
止めようと闘い、疲れ果てていく。その有様を憂えたセラピオン師は、ロミュ
アルを連れてクラリモンドの墓を暴きにいき、聖水をかけられたクラリモンド
は骨になってしまう。

 セラピオン師によるとクラリモンドは何度も蘇ったことがあるらしいから、
またまた現れるかもしれない。けれど、その後クラリモンドは夢の中でロミュ
アルに別れを告げるので、この恋はここで終わるのだ。

 この作品でゴーチエは、クラリモンドの美しい顔やなやましい肢体、その身
にまとう衣装や豪奢な部屋のインテリアや小物までを見事に描写している。特
に、真っ白いリネンの経帷子をまとって青い小さな花を髪にさした姿のしどけ
なく色っぽい姿は、実に怖しくも美しく描かれていて見事だ。それだけではな
く、ゴーチエは「可愛い恋人」としての魅力をありったけクラリモンドに注ぎ
込んでいる。

 芥川龍之介が翻訳し彼女の口から語らせた言葉の数々はその後の小説家に影
響を与えているなと感じることがある。

 ときたま私は、包丁で手を切ったときとか、縫い物をしていて針を手に刺し
たときとかに、クラリモンドの視線を感じることがある。傷口に唇を当てて自
分の血を味わうとき、針が刺した穴から紅い血が丸く盛り上がってくるのを見
ているとき、

「一滴、たった一滴、私の針の先へ紅玉球をたった一滴……あなたは私をまだ
愛しているのですから、私ははまだ死なれません……ああ可哀想に、私は美し
い血を、まっ赤な血を飲まなくてはならないのね」

 そんな言葉が不意に頭の中に蘇ってきて、クラリモンドの気持ちになってし
まうのだ。

 ここに挙げた三様の食事場面を振り返ってみると、彼女たちにとって、それ
が食事なのかそれとも恋の仕草なのか、そして、そこで与えられるのが死なの
か、それとも永遠の命なのか等々と、謎はさらに深まったようでもある。吸血
鬼の闇はなかなか深く、簡単には解き明かせないようだ。


 さて、長々と続いた吸血鬼たちの食事風景のシリーズも今回で終わりです。
どの吸血鬼の食事がお気に召したでしょうか?どの吸血鬼と共にテーブルにつ
いてみたいとお思いですか?

 それとも、嬉々としてその身を差し出してしまいたいでしょうか?

 是非、作品を手にとって、その世界を味わい直していただければ、幸いです。

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『吸血鬼ドラキュラ』ブラム・ストーカー著平井貞一訳創元推理文庫
『吸血鬼の家族』アレクセイ・トルストイ著 粟原成郎訳 
         ロシア怪談集 河出書房新社
『クラリモンド』テオフィール・ゴーチエ著 芥川龍之介訳
         世界幻想文学大全 怪奇小説精華  ちくま文庫
『死霊の恋』  テオフィール・ゴーチエ著 青柳瑞穂訳
怪奇小説傑作集4 創元推理文庫
   
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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軽減税率

 シーズンとなり、税務署で税制改革の説明会なんぞを聞いてきた。で、その
日遅くなってタクシーの運ちゃんと話した話。

 まあ、たいていのタクシーの運転手さんは景気の話をしたがる。で、だいた
いにおいて、景気が悪いという話をするのが普通である。最近は特に、遅くま
で外で飲む人が減っているようで、みんな早く帰っちゃうのでタクシー使わな
い人が増えてるんですよ、とは運ちゃんの弁。

 外を見ると、分譲住居の建築がガンガン進んでいる。これから先、消費税値
上げがあるので駆け込み需要なんだろうか、という話をしていて、ふと疑問に
思った。

 なんで景気が悪くなるような軽減税率制度を導入するのだろう、ということ
だ。

 例えば、食料品の場合、テイクアウトや出前、スーパーでの買い物は軽減税
率の対象だという。しかし、外食したら10%になるという。これって、外食を
控えろ、というメッセージにならないだろうか?

 どうでもいいが、イートインだと10%で、テイクアウトだと8%って、そん
な無理無理なルール、どうやって税務署は取り締まるんでしょうかね。

 意味不明なのが新聞。他のものはまだ、嗜好品・ぜいたく品に近いものが税
率アップの対象になり、生活水準が低い人には軽減税率になるようなイメージ
もあるが、新聞だけはわからない。値上げをきっかけに止めちゃう人を防ごう
という配慮かしら?

 いずれにしても、10%が基本なのか、それとも累進課税みたいに高級品には
課税を増やしていくのか、そのあたりの考え方がさっぱりわからない。新聞も
電子版の新聞は10%らしいから、いずれ紙の新聞は無くなるという考えのもと
の経過措置なんでしょうか。

 出版物、つまりは書籍が軽減税率の対象にならなかったのは、これは紙の書
籍は将来も無くならないと考えたからなのか、嗜好品だと考えられたのか、あ
るいは、別に本なんて読まなくても死なないし、ということなんでしょうか。
確かに、普段から本を読む人、買う人は、税金2%くらい関係無さそうではあ
ります。

 そもそも書籍の値段ってどうやって決まっているのか、不思議と言えば、不
思議です。出版不況が言われて久しいですが、自社で値段を設定できる自由が
あり、他社の商品と比較されにくい出版物という商材の特徴を考えると、他社
といかに差別化できる商品を生み出せるのか、ということを考えることが、実
は大事なんではないかな、と思ったりもします。

 紙に印刷して、パッケージングしてバーコードを付けて、段ボールに詰めて
書籍として流通できる商材。それでいて、高価な価格をつけても違和感がない
商品。

 文庫や新書、雑誌も良いですが、そういう利益率の高い商材を開発すること
が、出版社の成功要因なんではないかと、軽減税率を考えているうちに思い当
たりましたので、これを今回のネタとさせていただきました。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 今回は、とてつもなく配信が遅れました。お待たせしてしまい、恐縮です。
(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.717

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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.5.15.発行
 ■■                             vol.717
 ■■  mailmagazine of book        [芍薬の美しい季節です号]
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 内戦、革命にいたるまで、人類の歩みをあざやかに目撃する歴史写真集。

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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第59回「肩書が変わり仕事が変わり」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第119回 銭湯と町が愛おしくなる
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 新しい「働き方」
  
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 ■トピックス
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 ふたつのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
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 第59回「肩書が変わり仕事が変わり」
 
 こんにちは。
 
 4月になって年度が変わり,5月になって元号も変わりました。「元号が変わっ
 ても世の中は何も変わっていない。お祭り騒ぎはまやかしだ」と批判したり愚
 痴をこぼしたりしていたひともいますが,何より「変わる」ためには,まず自
 分が何かを変えようとしなければダメなんじゃないかと思う今日このごろです。
 
 わたしはこの4月から肩書が変わり,本務が常勤講師で兼務が図書館の中のひ
 とになりました。おかげで3月末から今日まで講義の準備に追われる毎日です。
 10連休があったじゃないか,と言われそうですが,そちらはそちらで,普段や
 っていない後期高齢者とその孫へのサービスをこなしておりまして。毎週,
 1600字程度のレポートを4つ書き上げて次に進む,という感じでやっています。
 
 これまで,それなりに大学図書館の業務もこなしてきましたし,非常勤講師も
 務めましたし,論文や記事を書き講演も頼まれてきましたが(5月と6月も依頼
 をいただいて,著作権法と大学周りのお話をする予定です),大学の講義を複
 数ほぼ同時に準備するという作業は,またこれまでとは異なる難しさがありま
 す。
 
 もちろん,教科書の類は司書課程においても,いくつも出版されており,その
 うちのどれかを選んで,教科書(あるいはそれに基づく講義ノート)を読みな
 がら淡々と進める,というスタイルをとることはできますが,教科書を頭から
 読むのなら自学自修で充分。生身の人間が教壇に立って講義をするというのは,
 教科書以外のところにある「知識」や「経験」を伝えるためにやるのではない
 かと思っているので,結局のところ教科書は参考程度(いまわたしが持ってい
 る「知識」の再確認が主)で,わたしが改めて調べて再構成した内容を中心に
 講義をしています。
 
 数年前から講義もぼちぼち引き受けていたので,各種の教科書を拾い読みして
 いますが,例えば「情報資源組織論」という講義。ここでは図書館が所蔵もし
 くは所有していない,Webに点在しているネットワーク情報資源も含めた(情
 報検索のための)「図書館目録」のあり方を考えることが求められているのだ
 ろうと思うに,いまだにむかしの「分類・目録論」から一歩も踏み出していな
 い,具体的に述べると「メタデータ」にすら触れていない教科書がある,とい
 う有様です。いまやWebを使った情報検索など一般社会に普及しており,(そ
 の是非はともかく)Web上に存在しないものは世の中に存在しないものとほと
 んど同義になっていると言うのに,情報のハブたらんと欲しているはずの図書
 館の,その業務の中枢のひとつであるはずの図書館目録の教科書が,カード目
 録の時代と変わらぬ意識と技術を以って執筆されている,というのはさすがに
 如何なものかと思うところです。
 
 ところで,最近の学生は講義内での教員の雑談を嫌い,シラバスの通りに講義
 が進まないと低い授業評価を付けるのだそうです。35年ほど前に,大学1年の
 新学期に受けた第1回の講義が「わたしは若いころ,刺繍のデザインで生計を
 立てていたことがありましてね」で始まったなどということは,おそらくいま
 の大学生には「ありえない」ことなのだろうと少々残念な気持ちになります。
 
 それでも,図書館というところは「知の伽藍」「知の広場」だと思っているわ
 たしは,やっぱり余計な話を織り交ぜて講義をしていきます。講義しているわ
 たしが聴きたい講義をやることが,モチベーションを維持するためにも必要だ
 ろうと思っています。わたしの「面白いこと」が受講生にとっても「面白いこ 
 と」として記憶されれば幸甚でしょう。
 
 では,また次回。
 
 
 ◎停雲荘主人
 2019年4月から本務と兼務が入れ替わった大学と大学図書館の中のひと。南東
 北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は我に存す,毀誉は他人の主
 張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第119回 銭湯と町が愛おしくなる

 
  4月28日、黄金週間の二日目に催された不忍ブックストリートの一箱古本市
 は、たくさんの人が訪れて、売り上げもとてもよかったそうだ。今年は箱数が
 40、12スポットと規模が小さくなっての開催だった。店主の申し込みも数秒で
 埋まってしまったそうだ。雨の多かった黄金週間だったが、この日は快晴で、
 しかもそれほど暑くならなかった。一箱古本市の成功の鍵は、やはり天候なの
 だと思う。池の端に移転した古書ほうろうは、28日に仮オープンしたけれど、
 引っ越し直後のカオスのような様子とは違って、店内はきちんと整理されてい
 て驚いた。洒落た雰囲気の古本屋になりそうで、正式なオープンがとても楽し
 み!

 
  黄金週間の前、4月26日は、イラストレーターの武藤良子さんのエッセイ集
 『銭湯断片日記』(武藤良子 著 龜鳴屋)が出版されたということを聞いて、
 目白のブックギャラリーポポタムに行った。出版を記念してポポタムで武藤さ
 んと編集者・ライターの南陀楼綾繁とのトークがあったからだ。『銭湯断片日
 記』は、武藤さんが2007年から書き続けたブログから銭湯について書いた文章
 のみをまとめたもの。版元の龜鳴屋(かめなきや 
 http://kamenakuya.main.jp/)は金沢での小さな出版社で、ぼくは矢部登さん
 の『田端抄』を持っている。龜鳴屋の本は原則的に通販のみの販売なのだが、
 トークの会場には龜鳴屋の本がほぼ全タイトルが少部数ずつ並んでいた。一冊
 一冊、心をこめて作られていて、装丁、造本がじつに美しい書籍ばかりで、手
 に取ると欲しくなるものばかりで、ぼくは新潟在住の児童文学者・杉みき子
 『マンドレークの声』を買った。表紙の絵は高野文子だ。ミステリを愛してや
 まない児童文学者のミステリのひきだしから集めて編んだヴァラエティ・ブッ
 ク、ということで読むのが楽しみだ。

 『銭湯断片日記』の造本もやはり凝っていて、512ページという分厚さだが、
 それほど重くない。各章扉にはその年に描いた絵(印刷)を9年分の9枚貼りこ
 んであって、奥付には検印紙が貼ってある。付録の栞も差し込んであって古書
 店「石神井書林」店主・内堀弘のエッセイが読める。もちろん、すべて手作業
 で限定526部(ゴー・風呂)ということだが、まだ100部ほどしか出来ていない
 らしい。
 
 
 武藤良子さんの文章が好きで、いつかまとめて読みたいと思っていたから、
 この本は待ちに待ったという感じだ。武藤さんのエッセイはたんたんとしてい
 て飾らない文章で読んだあとに、胸に温かさとじわーっとひろがる。

 
  銭湯について書いた文章を集めてあるといっても、もちろんガイドブックで
 はない。武藤さんが絵を描いて、ビールを飲み、餃子を食べて、そして銭湯を
 訪ねるという日々の記録だ。そして東京という町の暮らしが浮かび上がってく
 る。

 
  9年の日々の記録、年月の重みを感じる。9年という年月を、武藤さんの軽快
 な文章を読みながら自分の過ごした時間を思い返してみる。あっという間に過
 ぎた気もするが、やはり長いよね。

 
  武藤さんはポポタムでのトークで、ブログをまとめるということで、出版に
 あたり読み直して、悩んで、もがいて、苦しんだという。何回も校正を取り直
 したということだった。軽快なエッセイ集な仕上げるにはやはりそれなりの苦
 労があるものだ。
 
 
 日常のことだから、それほどドラマチックな出来事はない。読みながら先日
 聞いた漫画家の山川直人さんの言葉を思い出した。
「永島慎二、つげ義春、滝
 田ゆうの漫画というのは、街を歩いていたら、すべってころんだというくらい
 の、そういうことで漫画を描いてて、しかも自分にはそれが面白いということ
 が発見だった」

 
  そうなのだ、武藤さんのエッセイを読んでいても、面白いのは日常だ、と改
 めて思うようになった。2008年4月9日の「鍵なしッ子」では、旅先の大阪、公
 園で小学生の男の子と出会う。鍵を持っていなくて家に入れないらしい。その
 子を連れて古本屋に行って、結局、そこに預けてしまう話。どうってことのな
 い話だけれど笑ってしまう。
 
 
 同じ年の6月16日に、アトリエに行く途中で表面がぼろぼろの傷ついたビー
 玉を拾う話も好きだ。そのビー玉を「アトリエの机の上に、小さなビー玉を、
 ことん、と置く。」それだけなのだが、じつに鮮やかにイメージが浮かび上が
 る。
 
 
 イラストレーターだからだろうか、映像を捉える目がすごいなあ。銭湯の様
 子が目の前にありありと浮かんできそうだ。スケッチしたり、写真を撮ってい
 るわけがないだろう。メモだってとっていないだろう。銭湯までの道、銭湯の
 外観、扉、番台、湯船、桶、カランのこと、そしてお風呂に入っている人たち
 との会話。武藤さんの文章で脳内銭湯を楽しむことができるのだ。それもおそ
 らく一生入ることのない女湯! だ。湯気の香りまで蘇ってくる。
 
 
 ぼくは歩いていても、いつもボーッとしていて、風景のことや、すれ違う人
 の顔、服装などまったく覚えていない。たとえば、いつも行っている喫茶店を
 文章で描写しようとしても、どこまで出来るか、まったく自信がない。いつだ
 ったか児童文学者の筒井敬介さんが「ファンタジーを書くには、ディテールを
 書き込まなくてはならない」と教えてくれたことがある。描写がリアルでなく
 ては、ファンタジーはなりたたないということだった。この本は銭湯通いをし
 ないぼくにとっては、銭湯ファンタジーなのかもしれない。
 
 
 銭湯の数はどんどん減っているらしい。そういえば近所にあった「亀の湯」
 も昨年6月に廃業してしまった。本の終わりに武藤さんが訪れた銭湯のリスト
 があるが、98件の銭湯のうち33軒は廃業している。銭湯でなくても、町から自
 分の好きな店や場所がなくなることがある。そのときにただ嘆くだけでなく、
 その店、場所を守るために自分にできることをやってきたのか、と自分に問い
 かけることが大事だと思う。

 
  2010年5月3日の「あなたの好きなもの」で武藤さんはこう書いている。
 「あなたが好きなものが銭湯でなくてもいい。飯屋でも酒場でも雑貨屋でも本
 屋でも古本屋でもいい。あなたの好きなものたちは、誰かではなく、あなたが
 大事にし、守るべきだ。」

 
  自分の好きな店、友人がいる店が閉店するのは、とてもつらい。そのつらさ
 を思うとき、武藤さんの言葉はぐさりと胸をえぐるようだ。閉店を残念に思う
 資格さえ、自分にはないのではないかと思うのだ。
「あとがき断片日記」で武
 藤さんは、2019年2月9日に閉店した古書信天翁のことを書いている。閉店する
 ために店にあった本を古書市場に持っていくが、その選にもれた本を路上で売
 っていた。ネットでの閉店情報を知らずに何人かの人が古書信天翁を訪ねてき
 た。だれもが驚き、閉店を惜しむ。武藤さんは思う。本を書くことで、閉店を
 知らずに訪ねてきた人たちの行き場のない声を「あそこに古本屋があったよね、
 あそこに銭湯があったはず。そうした声をわたしたちがいなくなった先までず
 っと、本が受けとめ続けてくれる。」と。

 
  写真家の大西みつぐさんは、撮影で町を歩くときは、銭湯セットをバッグに
 入れているといっていた。ぶらぶら歩きながら、銭湯を見つけたら、ひとっ風
 呂浴びる、そんな散歩ができるようになりたいものだ。

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  会社に勤めていると、やれ仕事ができるできないだの、いくら利益を生み出
 しているだの、いろいろ値踏みされているように感じて、なんだか面倒くさく
 思います。とか思っているとこういうタイトルの本には心を惹かれます。 
 
 『ルポ雇用なしで生きる』、工藤律子、岩波書店、2016
 
  雇用されて生活の糧を得ることが当たり前に思っていると、なかなか刺激的
 なタイトルかもしれません。ただし本書の舞台は日本ではなくスペイン。かの
 地で雇用主に振り回されることなく生きていく試みしている人々を取り上げて
 います。
 
  そのなかのひとつに時間銀行というものがあります。これはそれぞれが自ら
 の提供できるサービスを時間単位で他人に提供し、その分貯まった時間で他人
 からサービスを提供してもらうというシステムです。
 
  時間銀行に登録した人が、誰かの家で1時間料理をする。すると1時間分の貯
 金ができます。そしてその貯金は誰か別の人に1時間語学を教えてもらうのに
 その貯金を使う、そんな感じです。
 
  そうすると結局何も提供できるものがない人も出てきてしまうのではないか
 という懸念もありますが、実際には高齢者の買い物の付き添いなど、そこまで
 ハードルの高くない仕事などもニーズがあるようです。
 
  またこのシステムの特徴は個人間の信頼に基づくものであるという点にあり
 ます。普通にサービスを提供する企業だと、対価を支払った分のサービスを提
 供するという点に重点が置かれます。しかしこの場合は個人同士のことになり
 ますので、相手に喜んでほしいということに力が注がれるのではないでしょう
 か(もちろんどちらが良いとか悪いとかの話ではありません)。やり取りするの
 もお金ではありませんし。
 
  こういうシステムがあれば、必ずしもお金を沢山持っていなくても様々なサ
 ービスを受けることが可能です。そのぶん賃金労働を減らすことも夢ではあり
 ませんね。
 
  もちろんお金が時間に置き換わっただけというわけではありません。誰でも
 平等に何をしても1時間は1時間の貯金にしかならないし、運用して増やすこと
 もできません。そして時間銀行では時間を貯める一方の人には、使用が推奨さ
 れます。銀行とはいうものの資本主義的に効率的な投資をして多くの利益を上
 げるという考え方とは全く異なる思想です。
 
  他にもフードバンクや地域通貨、協同組合などスペイン各地で行われている
 魅力的な取り組みが紹介されています。ちなみに協同組合は組合員自身で組合
 の方針を決めて運営していく、直接民主主義的な組織です。
 
  そんななか最後に取り上げられているのが、アンダルシア地方の小さな村マ
 リナレダです。
 
  この村は1980年代から貴族の農園をはじめ、長い闘争の末に最終的に農地を
 農民のものとし、組合方式の農園を設立。その農園が村の主要な産業となって
 います。
 
  村長のサンチェス・ゴルディーヨは反資本主義的な思想の持ち主で、ここでは
 それがさまざまなところで表れています。直接民主的な議論で運営される村政、
 低価格で受けられる公共サービスなどです。住宅も月15ユーロ(1,800円くらい)
 で済むことが出来るというから驚きです。
 
  村長のキャラクターも含めてこの村はなかなか興味深いのですが、ちょっと
 本書では扱いが小さい。マリナレダについては『理想の村マリナレダ』
 (ダン・ハンコックス著/プレシ南日子訳、太田出版、2014)が詳しく、こちら
 もお薦めです。
 
  この村の思想を表しているのが、その農園です。ここでは労働者が多く必要
 で、加工工場で加工して出荷できる作物を作ることを選択しました。それはそ
 の方がより多くの人を雇用することができるからです。機械を使って収穫でき
 る小麦ではなく、サヤインゲンやブロッコリーが栽培されています。
 
  そしてこの農場では利益は組合員に分配されるのではなく、新たな雇用を創
 出するために投資されます。組合員の給料も一律です。もちろん決して低いわ
 けではなくスペインの最低賃金の倍の額です。
 
  村長のサンチェス・ゴルディーヨはこう語ります。「今、人間は商品と見な
 されています。利益を生み出しているうちは利用されますが、利益を生み出さ
 なくなれば捨てられます。この残酷で非人間的な価値観を変えなければなりま
 せん。」(『理想の村マリナレダ』、p,222)
 
  スペインに広まるこうした資本主義とは異なる価値観を探る試みは、実は他
 の国々でも行われています。いくら稼ぐかか人間を測る物差しなのはおかしい
 と思っている人が、世界にも沢山いるのだと思うと勇気付けられます。
    
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
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 ■トピックス
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 ■ 鬼海弘雄写真展 「PERSONA ペルソナ」
  └─────────────────────────────────
 ◆日時:2019年4月27日〜6月30日 10時〜19時 (4水曜日休館)
 
 ◇場所:寒河江市立美術館 山形県寒河江市本町2丁目
 
 ★入場無料
 
 寒河江市出身の写真家・鬼海弘雄氏が故郷の美術館で自身の代表作、2004年
 に土門拳賞を受賞した写真集『PERSONA』などから浅草の市井の人々の肖像
 写真を45点展示しています。

 ■ 萬画家・石ノ森章太郎展    ボクは、ダ・ビンチになりたかった
  └─────────────────────────────────
 
 ◆日時:2019年4月20日(土)〜6月30日(日)
                 毎週月曜日(祝・休日の場合は開館し翌日休館) 
 
 ◇場所:世田谷文学館 2階展示室  
     〒157-0062 東京都世田谷区南烏山1丁目10-1 
      TEL03-5374-9111   
 
 ★入場料:一般=800円、65歳以上、高校・大学生=600円
        障害者手帳をお持ちの方=400円  中学生以下無料

 マンガ家として『サイボーグ009』『仮面ライダー』『佐武と市捕物控』など数々
 のヒット作で知られる石ノ森章太郎(1938-1998)は、エンターテインメント作品
 を量産する一方で実験的作品『章太郎のファンタジーワールド ジュン』や
 『マンガ日本経済入門』など画期的なテーマにもチャレンジし続け、万物を表現
 できるメディアとしての<萬画>を提唱しました。また、後進育成のための、
 マンガ入門書やエッセイ刊行の他、晩年は郷里貢献活動として、「マンガを活
 かした街づくり」に尽力するなど、教育者や作家、社会企業家(社会変革の担
 い手)としての側面も併せ持ちます。本展では「世界一多作なマンガ家」の多
 様性、先見性をご紹介します。
 
 ■ 「ある編集者のユートピア」展 小野次郎:W・モリス、晶文社、高山建築学校
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2019年4月27日〜6月23日 10時〜18時
              (入場は17時半まで) 月曜休館
 
 ◇場所:世田谷美術館 1階展示室
      〒157‐0075世田谷区砧公園1‐2 TEL03‐3415‐6011
 
 ★入場料:一般1000円、65斎以上800円、大高生800円、中小生500円
 
 編集者にしてウィリアム・モリス研究家の小野二郎(1929-1982)が生涯を通し
 て追い求めたテーマがユートピアの思想でした。弘文堂の編集者を経て、1960
 年には仲間と晶文社を設立、平野甲賀の装幀による本が出版社の顔となります。
 一方では明治大学教授として英文学を講じる教育者でもありました。晩年には
 飛騨高山の高山建築学校でモリスの思想を説き、そこに集った石山修武ら建築
 家に大きな影響を与えました。W・モリス、晶文社、高山建築学校の3部構成で
 小野二郎の“ユートピア”を探ります。
 
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 ■あとがき 
 また、発行が遅くなってしまいました。いつも申し訳ありません。
 涼しくて湿度も少なく快適な五月…と思いきや、いきなり真夏日連続でちょっと
 残念ですが、緑が映えて気持ちいい季節です。
 面白そうな展示も目白押し。外に出かけてみたい今日この頃です。畠中理恵子 
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[本]のメルマガ vol.716


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みやすい物語に。背景となる神話やインドの文化をコラムで解説。英語圏で15
万部を売り上げている、マハーバーラタ入門として最適の一冊。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その35「吸血鬼たち」その3.ドラキュラ

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第119回 テロとの闘い? ―「仮面ライダー1号」の世界

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その35「吸血鬼たち」その3.ドラキュラ

その3.ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』
 
 さて、いよいよ吸血鬼の代名詞ともいえるドラキュラについて語る時が来た。
 
 ご期待に沿えなくては申し訳ないが、ブラム・ストーカー描くこの物語に、
私はあまりエロスを感じない。ドラキュラと言えば、恐ろしくも魅力的なドラ
キュラ伯爵が若い女性を次々に襲って行き、彼女たちも彼に魅せられてうっと
りと首筋を差し出す話だと思いこんでいた。だが、そんな場面はなかった。き
っと、映画のせいでそう思い込んでいたのだろう。

 けれど、今回読み直してみて、「蝋管録音機」や「速記術」や「輸血」が使
われ、「新しい女」という言葉も出てくる、実に時代の最先端を行く物語であ
ったことに気づかされた。

 そして、かのドラキュラ城の食事の風景が意外や意外……。

 と、いうところで、まずは順を追ってストーリーを見て行こう。

 若い事務弁護士のジョナサンがトランシルヴァニアへ出張で出かけるところ
から物語は始まる。彼の仕事はドラキュラ伯爵がイギリスで買う地所の手続き
やロンドンへの渡航準備をすることらしい。道中の宿で彼の行き先を知った土
地の人々は、なぜか魔よけの品を彼に差し出し、宿の女将は十字架のロザリオ
を彼の首にかけてくれる。断崖絶壁に建つドラキュラ城ではドラキュラ伯爵が
直々に出迎えてくれ手厚いもてなしを受けるのだが、ジョナサンは徐々に奇妙
さを覚えていく。やがてトカゲのように城を這い下りる伯爵の姿を見たり、影
のない貴婦人三人に襲われそうになったりして彼らの正体を知るのだが、伯爵
はジョナサンを城に閉じ込めたままイギリスに出発してしまうのだ。

 ジョナサンの婚約者のミーナは、親友のルーシーに会いに海辺の保養地を訪
ねる。ルーシーは、夢遊病にかかって夜出歩くようになる。ある夜、ルーシー
を探しに出たミーナは、墓地の腰掛に倒れたルーシーの上に、赤いギラギラし
た光を放つ黒い影が覆いかぶさっているのを見る。

 ロンドンに帰ったルーシーは日に日にやつれて行き、心配した婚約者のアー
サーは友人の精神科医に相談する。医師は恩師のオランダ人ヴァン・ヘルシン
グに相談し、彼がこれは吸血鬼の仕業と見破る。彼は輸血を施し、様々な防御
策を駆使するのだが、吸血鬼は蝙蝠に化けて窓から入りこんでルーシーを襲い
続け、ルーシーは亡くなってしまう。

 しばらく後、子供たちが夜に襲われる事件が続けざまに起きる。この事件は、
「不死者」の吸血鬼として蘇えったルーシーの行いだとヴァン・ヘルシングは
断定し、彼女に求婚した三人の男たちと共に彼女に杭を打つのだ。

 ヴァン・ヘルシングはルーシーの友人ミーナに連絡を取る。そして、城をか
らくも脱出して彼女と結婚したジョナサンが、伯爵をロンドンで見かけたとい
う事から吸血鬼の正体を知る。ここで彼らは合流し、伯爵を追い詰めていくこ
とになる。

 けれど伯爵は反撃に出てミーナを襲い、無理やり自分の血を飲ませて「不死
者」にしようとする。

 ここから舞台がロンドンから大陸に、トランシルヴァニアのドラキュラ城の
方へと行くのだが、ミーナが逆に伯爵を追い詰めていくのが意外な成り行きだ
った。ミーナは吸血鬼に襲われて泣き伏すヒロインではないのだ。自分自身が
徐々に吸血鬼に変身していくという恐ろしい状況なのに、果敢に戦いに参加し
ていくところが、読んでいて意外でもあり痛快でもあった。

 彼女は、速記や蝋管録音機の記録をタイプ原稿に起こして状況分析ができる
ようにし、催眠術で自分とつながる伯爵の無意識を探り行方を探求するという
方法を提案する。そして、自ら男たちとの同行を願い出て、伯爵を狩り出して
行く。最後の最後には、ジョナサンの日記をもとにドラキュラ城への道筋を推
理してみせ、実にあっぱれな活躍をするのだ。

 ブラム・ストーカーのこの小説で、吸血鬼のイメージは固まったと言えるだ
ろう。

 吸血鬼は何も食べず、ただ人間の首筋に二つの穴を牙で開けて血を吸って生
きていく。蝙蝠や様々なものに変身できる。獲物に自分の血を飲ませると、吸
血鬼として蘇えらせる事ができる。鏡に映らず、影がない。

 彼らに効く魔よけには、ニンニク、野イバラ、ナナカマドの実や、十字架や
聖餠のようなキリスト教のシンボルがある。そして、朝の太陽の光を浴びるこ
とはできず、昼間に屋外に出られない。

 彼らを退治するには胸に杭を打ち首を切り落とす。その時、口の中にニンニ
クを詰めたりもする。すると、吸血鬼は一瞬元の人間の姿に戻ってから塵と化
すのだ。

 この小説の後に書かれた吸血鬼物語では、これらの特徴が当たり前のように
踏襲されていく。国民の多くがキリスト教徒ではなく、ニンニクの花を見たこ
とのないような国でも同様なのが何かおかしい。
 
 ところで、ここであげた第一の点について、私はとても疑問に思っている。
それは、この物語の第一章のドラキュラ城での場面から来る。

 ジョナサンが城に着くと、伯爵は自ら荷物を運んでくれて、寝室に案内して
くれる。その部屋の隣の隣にある八角形の小部屋の食堂には夜食の用意ができ
ている。

「さあ、なにもないが、気楽に一つやってもらおう。わしが相伴せんで申しわ
けないが、わしは夕食をすませたし、夜食はやらんのでな」

 なんて言いながら、伯爵は手ずから食器のふたを取ってくれる。
 
そこにあるのは、

「けっこうなローストチキン、それにチーズにサラダ。酒はトケイの古酒」

 若い青年の腹をたっぷり満たしてくれるご馳走だった。

 翌日も同じ部屋に朝食の準備がしてあり、明け方近くまで伯爵と話し込んだ
せいで夕方まで寝てしまったジョナサンは、一人で冷たいが豪勢な朝食と暖炉
にかけてあった暖かいコーヒーを飲む。

 やがて現れた伯爵と話し合い、仕事の処理を終えた後の夕飯は、
 
「わしは今、外ですましてきたから、遠慮なく一人でやってもらおう」

という伯爵の言葉で、食堂で「ごちそうが並べてある」夕飯を食べることにな
る。

 伯爵が何も食べていないことや、召使が一人もいないことに気づいてきたジ
ョナサンは、ある日隣の部屋の様子を盗み見て、伯爵が寝室でベッドを整え、
食堂で「膳ごしらえ」しているのに気付くのだ。

 そう、伯爵が食器を並べおかずを置き、飲み物の用意をしているのだ。食器
を片付けるガチャガチャした音も聞いているので、お皿洗いも伯爵がしている
のだろう。

 もしかすると、料理も?

 ジョナサンは五月から六月まで、二カ月近い日々をこのドラキュラ城で過ご
している。その間の食事は特に記述はないが、きちんと与えられていただろう。
それだけの食物を調達するには、かなりのたくわえも必要だったろうと思う。
近くの宿屋等からできあがった料理を運んできたのかもしれないが、毎食のお
かずを取ってくるわけにはいかなかったろう。

 私は平井呈一のこの古風な「膳ごしらえ」という訳語に「食卓の用意」と
「料理する」に二つの意味があるのがうれしかった。もちろん原書ではlaying 
the table in the dining-roomで、お膳立ての意味しかないのだけれど。

 ベッドの用意を整え、コーヒーを淹れるドラキュラ伯爵というだけでも十分
宿屋の主人のような印象を受けるのだから、その上エプロンをかけて料理を始
めてもおかしくない気がする。少なくとも、朝食のゆで卵ぐらいはゆでただろ
うし、もしかするとフライパンに卵を割入れて目玉焼きくらいは焼いたかもし
れない。ここまでくると頭の中では、オムレツをひっくり返す伯爵の姿が浮か
び上がってきて仕方ない。
 珈琲だって入れるときには味見くらいはしただろう。もしかすると、あの香
りにつられてゆっくりと味わったかもしれないなんて思うのだ。


 ようこそ、ドラキュラ城へ。

 当館では、ジョナサンが行きがけの旅で楽しんだ「パプリカ・ヘンドル」と
いうカルパチア地方の郷土料理のパプリカで煮込んだチキンの料理や、「ママ
リガ」というトウモロコシの粥を添えてたべる「インブレタタ」という挽肉を
なすに詰めた料理などはご用意できません。

 けれども、最後に泊った宿屋で食べた「ロバー・ステーク(どろぼう焼き)」
という唐がらしのきいたベーコン、玉ねぎ、牛肉の串刺しの料理なら、たぶん
取り寄せることもできるはずです。

 まずは、ローストチキンにチーズの盛り合わせをご賞味ください。

 やっと、おいしそうなものをこんな風に並べて、おもてなしができるのがう
れしいです。さ、ハンガリー名物のトケイの古酒か辛口のゴルデン・メディア
ッシュもご一緒にどうぞ。

 ただ、お酒はあまりお過ごしになさらずにお休みくださいね。飲みすぎて寝
室ではないお部屋で眠ったりすると、三人の美女に襲われて、ドラキュラ城に
永遠に取り残されてしまいますから。

 無事に朝を迎えられれば、暖炉にかかった熱々の珈琲もお楽しみいただける
はずです。ドラキュラ伯爵が自ら入れた珈琲ですぞ。そのときお出しする冷た
いハムも伯爵が手ずから切った物に間違いありません。

 さあ今宵は待ちに待ったドラキュラ城の夜。ここでの味わいをあれこれ想像
してお楽しみください。


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『吸血鬼ドラキュラ』ブラム・ストーカー著 平井呈一訳 創元推理文庫

『ドラキュラ 完訳詳注版』ブラム・ストーカー著
              新妻昭彦・丹治愛訳・注釈 水声社

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第119回 テロとの闘い? ―「仮面ライダー1号」の世界

 1960年代生まれのぼくにとって、「仮面ライダー」はテレビの楽しみのど真
ん中に位置するものだった。「仮面ライダー」は1971年から放映が開始された
子供向け特撮ヒーローもののドラマシリーズで、現在でも続いている。

 当時、テレビの影響力は絶大であり、「ウルトラマン」シリーズとともに少
年たちの心を鷲掴みしていた。仮面ライダーカードがおまけについていた「ラ
イダースナック」が、カードだけ抜き取られ菓子が捨てられる事件が多発し、
社会問題になった程だ。ぼく自身も、スナック菓子を捨てたことこそないが、
仮面ライダーのマネをして自転車やぶらんこから飛び降りて叱られた記憶があ
る。最近になって東映がyoutubeで毎週2話ずつ「仮面ライダー」を公開して
いることを知り、懐かしさの余り見ていたのだが、子供の頃には気づかなかっ
たことでいろいろ考えさせられるところがあった。今回はその雑感を書くこと
にする。ぼくは仮面ライダーのマニアではなく、再公開された話も全ては見て
いないし、原作の石ノ森章太郎の漫画さえ読んでいない。従って、事実関係的
な点でピリッとしたことは言えないことをあらかじめ断っておく。

 注目したことは、初期の「仮面ライダー」は左翼過激派との戦い、つまりテ
ロリストたちとの戦いをイメージして作られたのではないかということ。「ウ
ルトラマン」シリーズにおいて、ウルトラマンと怪獣・宇宙人は巨大化した姿
で戦う。これは国家対国家の大戦争をイメージした戦いであり、ビルが倒れた
りなど被害も大規模で、ほとんど東京大空襲を思い起こさせる。そしてウルト
ラマンをサポートする「科学特捜隊」「地球防衛軍」といった組織は、国家が
膨大な予算を割いて作った軍隊であり、各国との連携も緊密である。「ウルト
ラマン」シリーズは恐らく太平洋戦争がモデルであり、日本が連合国側の一員
として枢軸国と戦うといったイメージが前提にされている。

 しかし、等身大の姿で戦う「仮面ライダー」において、敵は社会の内部に紛
れている存在だ。仮面ライダーたちが立ち向かう「ショッカー」「ゲルショッ
カー」は今で言えばISのような非国家的・超国家的組織であり、その目的は
地球を侵略することなどではなく、既存の国家の転覆にある。「仮面ライダー」
の放映が始まった1970年代前半当時は日本赤軍や東アジア反日武装戦線といっ
た過激派が活動を始めた時期に当たる。作中で敵の隠れ家を指す言葉として
「アジト」が頻繁に用いられるが、これは左翼用語であろう。彼らの手口は、
圧倒的な武力を用いての国家との直接対決ではなく、身を隠して隙を突く形で
行うテロリズムである。仕掛けを施したペットや観葉植物を送り込んで庶民を
混乱に陥れるなど、比較的小規模で地道なものが多い。武装闘争も辞さずとい
う方向で過激化していった一部の新左翼の動きに、制作者たちは敏感に反応し
たのではないか。「ウルトラマン」では敵は外からやって来るが、「仮面ライ
ダー」においては敵は内部に潜んでいるのだ。
 
 ショッカーは山岳地域に基地を構え、「首領」(姿を現さない)がスピーカ
ーを通じて指令を出し、「地獄大使」らの幹部が作戦を立て、改造人間と戦闘
員が実行する。彼らは拉致・洗脳というやり方で仲間を増やし、見どころのあ
る人間には改造を施して怪人に仕立てる。仮面ライダーの仲間には「少年ライ
ダー隊」という子供たちの団体があるが、その子供たちを拉致して彼らが運営
する「恐怖学校」という施設で再教育し、彼らの仲間に入れようと試みる回も
あった。ショッカーは利権を貪る暴力団ではなく、独自の「思想」を持つ集団
であり、構成員はそれを狂信していることになっているのだ。ショッカーの幹
部らは仮面ライダーと対決して敗れていくが、死ぬ間際に「ショッカー万歳!」
のようなセリフを残す。その忠誠心は仮面ライダーが「勇敢だった」と認める
程だ。

 ショッカーはメンバーに絶対の忠誠を求めるが、組織としての決断は極めて
冷酷である。ショッカーの力に限界を感じた「首領」はゲルダムという別の暴
力的な組織との合併を果たし、ゲルショッカーという新しい組織を作る。その
際、古くからのメンバーは全員始末してしまうのだ。ゲルショッカーに追われ
た古参の戦闘員が無残に殺されていく様子は、子供ながらにショックだった。
いわゆる内ゲバ・粛清は過激化した運動によく見られる現象だ。

 では仮面ライダー側が右翼・保守勢力を代表しているかと言うと、それは違
うのである。「ウルトラマン」シリーズでは、国家直属の機関がウルトラマン
をサポートしているが、「仮面ライダー」シリーズ(少なくとも初期において
は)では、ライダーたちが軍や警察と協力してショッカーを倒す場面は一切見
られない。滝という相棒がFBI捜査官という設定になっているがFBIが前面に出
てくることはない。仮面ライダーはもともと本郷猛という文武にすぐれた若者
がショッカーに拉致され、怪人に改造される過程で、脳だけ改造を免れた状態
で脱出したという設定になっている。本来ショッカー側の人間であったはずが、
洗脳を免れた故にショッカーの敵対者となるという設定は、左翼内部での路線
の違いによる仲間割れを思い起こさせる。過激派と穏健派の抗争ということだ。 

 仮面ライダーの重要な仲間として立花藤兵衛という人物がいる。彼は本郷の
大学の先輩で、アミーゴというバーのマスターをしていたが、後にレーシング
クラブの経営者となり、更に前述の「少年ライダー隊」という組織の会長とな
る。「少年ライダー隊」は、恐らく江戸川乱歩の少年探偵団からヒントを得た
ものと考えられるが、ショッカーを監視する全国的なネットワークを備えた少
年少女による団体である。仮面ライダーの顔を模した派手なヘルメットをかぶ
って危険を伴う諜報活動を展開しているが、この団体を仕切るのは自治体の人
間でもなければ彼らの親でもない、立花という一個人である。また、ショッカ
ーに恨みを持つ者が作り上げた「アンチショッカー同盟」というベタな名前の
組織も存在する。これも政府から独立した自主組織である。同盟員の女性がシ
ョッカーの戦闘員を、まだ危害を加えられていないにもかかわらず跡をつけて
きたという理由だけで、いきなり殺してしまう場面もある。「少年ライダー隊」
にしても「アンチショッカー同盟」にしても、政府や警察や法とは独立して動
く、私的な組織であることは「仮面ライダー」を語る上で大きなポイントとな
るだろう。内部抗争故に警察の手を借りるわけにはいかない、そうした事情を
匂わせる。

 昭和の「仮面ライダー」については思い入れがあり、他にも書きたいことが
たくさんあるのだが、長くなってしまうので機会を改めることにしたい。最後
に強調しておきたいのは、太平洋戦争がバックにあるであろう「ウルトラマン」
に比べ、テロとの戦いや内部抗争がバックにあるであろう「仮面ライダー」は
より陰惨でドロドロした物語だということだ。大勢の市民がいる街中でドーン
と姿を現す「ウルトラマン」の怪獣と違い、「仮面ライダー」の等身大の怪人
たちはいつ、どこで、どのような形で現れるかわからない。その後、オウム真
理教事件や3.11他、多くのテロ事件を見てきた我々にとって、「仮面ライダー」
はより身近な世界なのかもしれない。

*『キャラクター大全 仮面ライダー大全 昭和編』(講談社 本体4800円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 またまた配信遅れました。すみません。

 気づけば、令和第1号です。(aguni原口)

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 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。また、にご期待を!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第118回 漫画家・山川直人さんと詩人・菅原克己
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 働くことは、なぜ辛いのか?
  
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 ■トピックス
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 ひとつのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第118回 漫画家・山川直人さんと詩人・菅原克己


  「こんにちは、山川と申します。漫画を描くことを職業としています」。最初の
 ひとことで、山川直人さんの漫画家としての誇りと意思の強さが伝わってきた。

   4月6日、今年の「げんげ忌」は、暖かな春の日差しに恵まれて、会場となる
 谷中・全生庵のまだ散っていない桜を楽しみつつ、なごやかで、楽しい会にな
 った。


   げんげ忌は、詩人・菅原克己を偲ぶ会で今年で31回になる。世話人代表の
 小沢信男さんが最初の挨拶で「菅原克己は、そんなに有名な詩人じゃない。
 高田渡さんが菅原さんの詩『ブラザー軒』を歌にした。それで読者が増えた。
 いま、高田漣さんや佐久間順平さんが歌ってくれている。詩が歌と交流してと
 いうか、ジャンルを越えて新しいものを作った。そして今度は山川直人さん、
 保光敏将さんという漫画家、絵描きが菅原さんの詩を絵にしてくれた。それで
 また読者が増えた。これはジャンルを越えた総合芸術だ。げんげ忌は、芸術の
 総合化に向けて進んでいる、たいへんな会なんだ」

 
   今年のげんげ忌のトークは、芸術総合化の代表として、山川さんが話すこと
 になった。

   おそらく人前で話すことは得意でなく、そういう機会も少ないだろう山川さん
 だが、創作について誠実に伝えようという気持ちに溢れて、とても充実した内
 容だった。山川さんは、保光さん、漫画家の内田かずひろさんといっしょに菅
 原克己の詩をテーマにした同人誌『夜のもひとつ向うに〜菅原克己の風景』を
 出版することをきっかけにげんげ忌に来るようになった。2016年に出版された
 『日常の椅子』(ビレッジプレス)には、同人誌などで約10年にわたり発表され
 てきた、菅原克己の詩をモチーフにした短編を収録、描き下ろしを加えた全13
 本が収められている。


   たんたんとした、落ち着いた口調で山川さんは話し始めた。テーマは「詩を
 漫画にすること」。山川さんと菅原克己の詩との出会いは、やはり高田渡の
 「ブラザー軒」だった。市川準監督の映画「東京夜曲」の最後に流れた高田渡
 の歌「さびしいと、いま」(詩・石原吉郎)のシングルCDを劇場で買ったが、そ
 のカップリング曲が「ブラザー軒」だった。
「わたしは石原吉郎も菅原克己もど
 このだれだか知らなかったのですけれど、高田渡の歌としていいよなあ、って、
 聴いていました」
 その後、グループ展仲間の保光さんから聞いた菅原克己、
 最後の詩集『ひとつの机』(西田書店)を手に入れて、次に現代詩文庫にある
 菅原克己詩集(思潮社)、そして2003 年に出た菅原克己全詩集(西田書店)
 を買って読んだという。山川さん、保光さん、そして漫画家の内田かずひろさ
 んが喫茶店でコーヒーを飲みながら、菅原克己の詩がいい、と話すようになる。
 「うだつのあがらない漫画家、イラストレーターが、今まで聞いたこともない
 西田書店という小さな出版社が出した、菅原克己という、あまり有名でない詩
 人の詩集を囲んで話している」という話には笑えたし、その場にいたかったな、
 とちょっとうらやましかった。

 
   山川さんが、なぜ菅原克己の詩を漫画にしようと思ったのか、という話も興
 味深い。高田渡はたくさんの詩人の詩を取り上げている。山之口獏、金子
 光晴、木山捷平、三木卓、石原吉郎、黒田三郎、それから外国の翻訳詩。だ
 が、漫画にしたいと思ったのは菅原克己が初めてだという。どうして菅原克己
 に限って、漫画にしようと思ったのか、それは、山川さんがどんな漫画を描こう
 としているのか、山川さんの漫画の原点と大きな関係があるようだ。山川さん
 は、このトークをするにあたって、自分の漫画についても考えたという。
 菅原克己は、「ヒバリとニワトリが鳴くまで」という詩で「事大主義、深刻、見せ
 かけ、難解、それがいちばん嫌いだったので ぼくは詩人になったはずだ。」
 と書いている。この言葉は、なんということもない日常にある喜び、悲しみを
 描く山川さんの漫画に通じるものがありそうだ。

 
   山川さんは昭和37年生まれ。生まれた翌年に国産テレビアニメ第一号とい
 われる鉄腕アトムが始まっている。ジャングル大帝、オバケのQ太郎、ゲゲゲ
 の鬼太郎など、テレビアニメにどっぷりつかって育った世代だ。小学生になっ
 てからは手塚治虫、石森章太郎、藤子不二雄を本や雑誌で漫画を夢中に読
 むようになった。ここまでは、この時代に生まれた人ならば、みんな同じだと
 思うけれど、山川さんが漫画を描くきっかけが面白い。山川さんが自分で漫
 画を描くようになったのは、中学3年のときだという。「ガロ」という漫画雑誌で、
 つげ義春、永島慎二、滝田ゆうを知り、ゲゲゲの鬼太郎の水木しげるが妖怪
 ものでない漫画を描いているのもガロで知った。とくに永島慎二の漫画は、
 どうということのない日常を描いていて、それが手塚治虫や藤子不二雄の漫
 画で育ってきた山川さんにはすごく新鮮で面白かった。「面白いというか、こ
 んなものが漫画になるんだという感じ」という。こうしてガロを読むようになった
 中学3年の山川さんは、気がついたら自分で漫画を描くようになっていたそう
 だ。
 手塚治虫のような漫画を描くには、科学とか歴史とかそういう知識が必
 要だし、赤塚不二夫とか藤子不二雄のような漫画を描くには、ものすごく特別
 な発想が必要だけど、永島慎二、つげ義春、滝田ゆうの漫画は、「街を歩いて
 いたら、すべってころんだ」というくらいのことで漫画を描いている。それが面
 白いと感じることが山川さん自身、発見だったし、そういうものなら、自分だっ
 て描けるんじゃないか思ったという。「それがとんでもない間違いだったと気づ
 くのは高校を卒業して、漫画雑誌に持ち込むようになってすぐわかったんです
 けれど」

 
   そんなふうに漫画を描くようになった山川さんは、菅原克己の詩を読んだと
 き、これなら漫画にできるんじゃないかと思ったという。それは金子光晴の詩
 を読んだときには感じなかった。「詩をあまり読んだことのない自分でも、これ
 はわかる、読むと情景が目に浮かぶ。永島慎二の漫画を知って、自分で漫画
 を描くようになったときと同じような感じだったのではないか、という。

  
 山川さんは『日常の椅子』に収められた作品ひとつひとつを具体的に取り上
 げて、詩を漫画にする面白さ、難しさを語った。
「漫画は娯楽ですから、はった
 りとか深刻とか難解というのが、けっこう大事なんじゃないかと思うときがあっ
 て、読者がそれを求めているんではないかとか。あと、売れている漫画家を見
 ると、そうしたほうがいいんじゃないかなって、思うこともあるんですけれど、
 菅原克己の読者としては、そうでないほうがいいのかなと思ったりします」。

 
   山川さんの話を聞きながら、詩を読み込むというのは、こういうことなんだ、
 と改めて思い、枕元に置いてあった『菅原克己全詩集』をとったのだけど、寝
 転んで読むには、ちょっと重かった。

  
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
   読む前からタイトルに惹かれる小説というものがあります。残念ながら山
 崎さんのほかの著作は読んだことはありませんが、この作品はタイトルから
 して読み心(?)をくすぐられました。
 
 『趣味で腹いっぱい』、山崎ナオコーラ、河出書房新社、2019
 
   主人公は野原鞠子と小太郎の夫婦。銀行員の小太郎に対して鞠子は専
 業主婦です。そんな鞠子が趣味として絵手紙を始めるところから物語は始ま
 ります。
 
   ただ鞠子が趣味に求めるものは、趣味を通じて人とつながりたいとかいう
 ことではありません。むしろ彼女はどちらかというと人づきあいが苦手なタイ
 プです。曰く「友達作りの手段としてしか趣味を見ない人は、純粋な趣味人じ
 ゃないと思う」(p,9)とさえ言います。
 
   もっとも、人との交流を敢えて避けるわけではなく、あくまで楽しむことが
 主で交流は従ということです。絵手紙の次に家庭菜園に手を出した鞠子は、
 さすがに何の教えも受けず始めるのではなく、土地を借りた先の女性に色々
 教わったりしていきます。
 
   一方の小太郎は父親が「働かざるもの食うべからず」という思想をやかま
 しく言う人で、さすがにそれを頭から信じているわけではありませんが、働い
 てお金を稼ぐことに重きを置いています。銀行員としての出世に限界を感じ
 たりしつつも日々の仕事に精を出しています。
 
   鞠子ももともとは書店のアルバイトと大学非常勤講師をしていましたが、
 結婚を機に非常勤講師を辞めています。小太郎としては大学で教えている
 方が体裁が良いので、辞めるなら書店アルバイトの方にしてもらいたかっ
 たようです。しかし鞠子は「体裁なんて気にするのはくだらない。楽しいか
 楽しくないかで決めた方が、より人間らしい判断ができる」(p,54)と言い放
 ちます。そして東京から飯能への小太郎の転勤を機に書店アルバイトも辞
 めてしまいました。
 
   なにやら実は考え方に齟齬のありそうなふたりですが、結婚前から鞠子
 は専業主婦志望で子供をもうける予定もあったので、そこはあまり目立た
 なかったのかもしれません。
 
   後に鞠子が小説が書くことを趣味にした時も、ふたりの考え方の違いが
 際立ってきます。サークル(といっても鞠子を小説に誘った人との二人だけ
 ですが)内での合評で厳しい意見が出なかったときに、小太郎はなぜもっと
 厳しい目を持った人に読んでもらったり新人賞に応募しないのかと言い出
 します。
 
   そしてついには小太郎が小説を書いて新人賞に応募してしまいます。
 
   しかしいざそれが受賞作に選ばれ、職業作家として書くようになると銀行
 員時代と同じ仕事としての悩みを感じるようになってしまいます。「仕事とい
 うものは、上を目指して努力をしなければならないのだろうか。上を見てい
 ない場合は、仕事とは言えないのだろうか」(p,132-133)
 
   まあ鞠子は「上を見なければいいんだよ」(p,133)と言い放つわけですが。
 
   鞠子は仕事の特権性をあまり認めません。およそ人間の活動するところ、
 仕事だろうが趣味だろう家事だろうが子育てだろうが変わりないのではない
 かと思っているように感じられます。ニートと主婦である自分を一緒にされて
 も、なんとも思わないところにそれがよく表れています。むしろ彼女は働いて
 いる人とニート&主婦は違うとする意見に異を唱えます。(p,90-91)
 
   もちろん上を目指して働くことが悪いとかそういうことではありません。上を
 目指していきたい人はそうすればいいし、それなりでいいやと思っている人
 は、それなりでいいことはそれなりにやって他のこともやってみればいいので
 はないでしょうか。
 
  「雨でも風でも満員電車に揺られて出社して、嫌な人にぺこぺこするのが仕
 事だ」(p,182)だから辛いことに耐えて働いている人は偉いとする考えが世の
 中にはかなりあるように感じます。
 
   しかしむしろなぜ働くことが辛くなっているのかを考えた方が良いのではな
 いでしょうか。多くの人がかかわる中で働くことは辛いことだと多くの人が思
 っているにもかかわらず、その辛さを解消する方向に力が注がれないのは残
 念なことです。
 
   ああ、そうすると働いてる人が偉くなくなってしまうからかな。とか邪推した
 りしてみたくなりますね。特に家父長制的なシステムにおいて働いて金を稼
 いでくることが偉くないとされてしまうと、お父さんの権威がガタ落ちですから
 ね。
 
   もっとも家父長制批判に舵を切っていくと、女性の社会進出とか専業主婦批
 判とかに行きついてしまって、鞠子さんの思うところと違うところに出ていく可
 能性もあるので、これについてはこのくらいで。
 
   物語はこの後小太郎の文学賞受賞後、鞠子の新しい趣味からさらには移住
 生活にまで話は及びます。果てしない鞠子の趣味の広がりの行きつく先や如何
 に!!(と力むほどではないですが)。
 
   あとひとつ言えるのは、飯能駅前のパン屋は確かにうまい(商店街の中にあ
 るパン屋もうまい)ということですね。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------
 ■ 塔に谺す蛇の声 The snak's voice echoing in the tower 
               グリゼット@新宿ゴールデン街(まねき通り)
  └─────────────────────────────────
  ―「塔に谺す蛇の声」という、5名の作品、および、匿名で郵送された
    不特定多数の俳句によって構成される展示に参加することに
    なりました。―

 ◆日時:2019年5月25日(土)〜6月8日(土)
       ギャラリー時間:13時〜17時半 木金土(会期中のみ)
                 入場無料/300円でお茶のご用意有
       バー時間:18時〜1時 日曜休
                 チャージ 1000円(お通し付)ドリンク500円〜
 
 ◇場所:グリゼット 新宿区歌舞伎町1−1−5

 
 ■参加アーティスト
   展示 團良子/言水ヘリオ/斉島明/大木裕之/窪田美樹
 
   俳句 鈴木崇/有賀真澄/後藤大輔/吉田裕子/前田恭規/岡安聡史/
         渡辺小夏/郡宏暢/田日苗水/小田桐生/藤本ナオ子/
 
  昨年、機会あって詩の朗読をすることになり、
  かといって詩を書くわけでもなく、
  朗読するでもなく、
  代わりに行ったのがカタカナの印字作業でした。
  小さな壺のなかに活版印刷用活字をかきまぜて
  たまたま手にした一文字を紙の上に印字するということを繰り返します。
  聞こえるのは、
  アとかイとかの弁別された音でなく、
  活字の接触により起こる金属音でした。
  残ったのは、
  紙の上の意味を目指さないカタカナの羅列。
  読むことの困難な文字列が神の上に発生する/したということ。
  その一枚の紙をひっくり返すということ。
  それが何なのかはわかりませんが、
  そんなものを今回の展示に置きます。 ―言水ヘリオ 案内状より抜粋
 
      
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき  
 さて、もうすぐ大連休ですね。皆様いかがお過ごしの予定ですか?
 一斉の長い休みというのは馴染めず、いまだたいした予定もたてず、
 絶賛ボンヤリ中です。何だか疲れますね。
 
 GW明けの愉しみを!本の雑誌社さんから『ドライブイン探訪』の橋本倫史
 さんの新刊『市場界隈』が刊行されます。
 沖縄那覇名物「第一牧志公設市場ですが、今年6月に老朽化による建て
 替えが予定されています。数年来市場に通い交流を深めている著者が
 記録する市場の風景。橋本さんの視点で描かれる、沖縄の市場の人々を
 早く読みたいです!
 では、どうぞよい休日を!(お休みでない方もいっぱいいますよね。
 その方たちも、よい五月を!)               畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.713


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『科学でアートを見てみたら』

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ゴッホの描く太陽は日の出と日の入り、どちら? 十字架にかけられたキリス
トはどんな痛みを感じたのか。ブリューゲルの《バベルの塔》はどのように建
築されたのか。科学的知識を用いると、アートの新たな側面が見えてくる。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その34「吸血鬼たち」その2.カーミラ

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『論語と算盤』と『徳川慶喜公伝』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
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 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その34「吸血鬼たち」その2.カーミラ

その2.レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』

 レ・ファニュを長い間フランス人作家だと勘違いしていたのだが、実はアイ
ルランド人作家だった。フランス人と思いこんだ理由はその名前の他に、『吸
血鬼カーミラ』という作品が偽善に満ちたヴィクトリア朝の小説とは思えない
ほどエロテイックだったせいだと思う。

 レ・ファニュが1872年に発表した『吸血鬼カーミラ』は、私が最も愛する吸
血鬼小説だ。主人公も吸血鬼も美しい少女で、レズビアン的なエロティシズム
が濃厚に漂う小説だ。

 けれども、それだけではなく、この小説には謎が残されたまま終わるという
幻想小説が持つべき特徴があり、心の中に余韻を残す作品でもあるからだ。読
者はこの本を閉じた後に未解決の物事があるのに気付いて、待てよ、あれはど
うなってるんだ?説明がつかないぞ?と、思い悩むことになる。そのもどかし
い後味こそ、推理小説にはない、幻想文学特有の楽しみなのだ。

 物語の舞台はどうやらオーストリアのはずれらしい、スチリア州グラッツの
近くの寒村。イギリス人の父親と二人きりで城に住んでいる少女ローラが語り
手だ。その他には育ての親のフランス人家庭教師とドイツ系フランス人の家庭
教師の二人だけが家族で、あとは召使だけの寂しい生活を送っている。

 ある日、月夜に散歩に出ていた一家は、城の前の道で一台の馬車がひっくり
返るという事故に出くわす。馬車からは気絶した少女が外に運び出される。馬
車はすぐに元に返され、母親らしい貴婦人は急いで出発したがるのだが少女の
様子に困り果てている。そこで、ローラの父親は少女を預かると言い出すこと
になる。とても威厳に満ちた様子のその貴婦人は、つんとした切り口上で早口
に父親に事情を説明すると、三か月後に引き取りにくると言って、娘を残し慌
ただしく立ち去って行く。
 
 さてこの病弱な少女こそカーミラ。彼女はとても美しく秘密めいていて、部
屋に鍵をかけて寝たり、召使を寄せ付けなかったりする。朝も絶対起きて来ず、
昼の一時過ぎまで寝ていて、起きてチョコレートを飲むほかには何も口にしよ
うとしない。

 ローラはカーミラの美しさに陶然としてしまう。金色の混じったこげ茶色の
たっぷりした髪が見事で、そっとその髪に手を差し入れて髪いじりをしたりし
ながら、その低くて甘い声のささやきにうっとりと聞き入ってしまうのだ。

 カーミラの顔つきに、ローラは昔子供だった時の悪夢を思い出す。夢の中に
出てきた瓜二つの顔をした女性に抱かれ、胸に針を刺されたような痛みを感じ
た夢。そして、ローラの母方の一族、カルンスタイン家の「伯爵夫人マーカラ」
と書かれている肖像画の女性にもカーミラは似ているのだ。
 
 けれどもカーミラは自分については決して語ろうとしない。娘らしい好奇心
でローラが聞きだそうとしても答えない。

 だんだんに二人は親しくなって行き、カーミラは熱に浮かされたようになっ
ては、ローラを抱擁したり接吻したりするようになる。そして、その美しい腕
をローラの首に巻き付けて傍に引き寄せ、頬ずりしながら耳に口を寄せてこう
囁くのだ。

「あなたはわたしのものよ。きっとわたしのものにしてよ。わたしとあなたは
いつまでもいつまでも一つのものよ」
 
「……あなたはわたくしを愛しながら、わたくしといっしょに死ぬのよ。さも
なければ、わたくしのことを憎んで、憎みながらもわたくしについてきて、そ
して憎みながらも死んで、死んだ後も憎みつづけるか。……」

 等々と謎めいたことをいう。

 この頃、城の近くの村では農婦や娘たちが喉を絞められたように苦しいと言
っては急死する病が蔓延している。そして、部屋に厳重に鍵をかけないと眠れ
ないと言っているはずのカーミラが、いつの間にか夜、城の外を歩いている姿
が目撃されるようになる。

 ローラはだんだんと顔色が悪くなり、医師が呼ばれて診察を受けると、喉の
下に二つ青い痣ができているのがわかる。

 まあ、ここまで読めば、ローラを襲っているのがカーミラなのは一目瞭然だ
ろう。

 カーミラの歯は二本とても尖っているらしい。旅芸人がやすりをかけてやろ
うかと揶揄する場面でそれがわかる。

 やがてローラは、黒い影のような猫に似たものがベッドの裾に来て、ぐさり
と縫い針に似たものに胸に刺されるような痛みを感じて飛び起きる、という夜
を頻繁に過ごすようになって行く。また、白い寝巻の裾を血だらけにしたカー
ミラがベッドの裾に立っているのを見たりする。

 ポリドリの吸血鬼から数十年。この吸血鬼は変身の術を身に着けてきたよう
だ。そして、鍵をかけても侵入してしまう技も。
 けれど、魔よけの札も彼女には効かないようだし、苦手なのは讃美歌ぐらい
で、彼女を防ぐ手段はまだ現れない。

 さて、物語はローラが父と家庭教師と共に今は廃れてしまった村に馬車でピ
クニックに出かけ、近所に住む将軍とばったり出会うところから大団円が始ま
る。彼は最近亡くなった姪の敵を打つために、村のはずれの森の中の古い一族
の屋敷跡に出かけてきたのだ。そして、ミラーカという少女がいかにして自分
の屋敷に入り込み姪を殺したかを話し始める。後からもう一人の家庭教師とピ
クニックにやって来たカーミラは、その話の最中に姿を消してしまう。

 次の日、ヴォルデンベルグ男爵という吸血鬼研究の専門家と共に将軍とロー
ラの父は、ミラーカでもありカーミラでもあったカルンスタイン家のマーカラ
伯爵夫人の墓の位置を選定し墓を暴く。こうして、官命でやって来た医者の立
会いの下に、吸血鬼は退治されたのだ。

 この物語はこうやって解決がつくのだが、いくつもの疑問を読者に残してい
く。

 例えば、カーミラの母親は何者なのか?
 どこへ行ってしまったのか?

 美しいが、けんのある顔立ちをした貴婦人で、威厳がありながらも人をそら
さず、城の仮面舞踏会で仮面を外さないまま将軍を昔からの知り合いのように
騙して、娘を預けた女。

 さらに「たいそう人相が悪い」とされた彼女のお付きの者たちもどこに行っ
たのだろう?馬車の中にはターバンを巻いた黒人女性もいたらしい。また、舞
踏会の会場で彼女に「伯爵夫人」と呼びかけて、馬車まで送って行った顔色の
青い男性は何者なのか?

 カーミラ一人では演じきれないほどの人間が、この母親の周りにはいる。こ
の世には吸血鬼の一族がいて、人間に近づくために手を変え品を変えて小芝居
をうっているのだろうか?

 さらに、農婦や村の少女たちはそう何度も襲われないうちに死んでしまう。
将軍の姪も同様だ。ローラは子供の時に一度、そしてカーミラが現れてからも
何度も吸血鬼に襲われているのだが、なぜすぐ死なずにいるのかという疑問が
残る。カーミラは、ローラを自分の一族に入れようとして、普段とは違う方法
で、ローラの血を吸っているのではないかと思えるのだが、謎は残されたまま
だ。

 ここらの疑問がブラム・ストーカーを引き付け『ドラキュラ』を書かせたこ
とは間違いないと思う。ただし、そこがうまく明かされると、逆に魅力が落ち
るような気もするのだが……。そこは次回に回したい。

 そして、かの名作『ポーの一族』(ああ、薔薇のお茶!)という漫画を生み
出した様々な要素も、ここに溢れているように思えるのだ。

 けれども一番重要な疑問は、ローラの住むこの城で、カーミラは一体どうい
う食事をしていたかという事だ。

 この城での食事風景は特に描かれていないのだが、テーブルにつくのは父親
とローラと二人の家庭教師の四人だけのようだ。料理や給仕をするのは召使た
ち。客人であるカーミラが食べるふりをして食事を残したとしても、咎めるも
のは誰もいないと思える。

 もし、これが現代の食卓だとしたら、その家の主婦は残り物の多さにすぐ気
が付くことだろう。けれども、この城では親子はイギリス人で、家庭教師はフ
ランス人。召使たちとは言葉も人種も違うという設定なのだ。カーミラが何も
食べない、あるいは極端な小食であることを召使が怪しんでも、それをわざわ
ざ言いつけたりはしないだろう。カーミラはその病弱を理由に、ローラたちと
夕食を共にしないことの方が多かったのかもしれない。

 もし私が現代を生きる吸血鬼で誰かの家に入り込むならどうしよう?アレル
ギー体質だと言って、極力普通の食べ物が食べられないふりをしてごまかすの
も一つの手かもしれない等と考える。

 チョコレートのほかに、カーミラがすすめられて口にしようとしたのは酒だ。
カーミラのあまりの顔色の悪さにローラが酒をすすめると、

「じゃあ、お酒を少しいただかしてね」

とは答えるのだが、客間で家庭教師たちとともにコーヒーやチョコレートでく
つろぐことになっても、何一つ口にせず終わる。それでも一度は飲むと言うと
ころを見ると、酒は液体だから飲めるのだろうか等とも考えてしまう。

 結局カーミラが口にするのは一日にただ一回の、寝覚めのチョコレートだけ
らしい。

 そこで今宵は是非熱いココアを片手に、あるいはチョコレートなどを口に過
ごしていただきたい。

 そして、美しいカーミラが、ずしりと重いこげ茶色の髪をのせた頭をもの憂
げに枕から持ち上げ、ベッドの上で一杯のチョコレートを飲む姿に思いをはせ
てみて欲しいのだ。

 カーミラの唇のように熱いカップの中に入った茶色くてどろりとした甘い液
体。その中に隠れるほのかな苦みは、カーミラがローラに抱いた愛の苦さの味
かもしれない。

 でも、もしかするとその甘さは、彼等一族が獲物から得る味わいに近いのか
もしれない……。

などと、私はつい考えてしまうのだが、吸血鬼ならぬわが身では、真実を知る
ことはできないままなのだ。

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『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ著 平井呈一訳 創元推理文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『論語と算盤』と『徳川慶喜公伝』

 メルマガの配信が遅れたせいで、新札発行のニュースが飛び込んできた。新
一万円札は渋沢栄一氏ということで、このメルマガの創始者であらせられる守
屋淳さんの翻訳された『論語と算盤』を再び手に取ってみた。

『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)渋沢栄一著 守屋 淳 翻訳
 https://amzn.to/2KnEqWA

 この本の巻末に付されている「渋沢栄一小伝」がとっても面白い。正直、こ
っから大河ドラマにしたら、オリンピックなんかより視聴率取れるんじゃない
かなぁ、と思う。

 私が渋沢栄一という人物を最初に知ったのは、確か、映画『帝都物語』の冒
頭で、勝新太郎が演じていて、帝都改造で魔法陣を敷くみたいな人だという認
識だった。これが、たまたま守屋さんのお誘いで、飛鳥山にある渋沢栄一記念
館でのツアーに参加し、その人生を知ったのは、それから10年後くらいだった
のではないかと思う。

 渋沢栄一氏のすばらしさについては、おそらくテレビ他のメディアで様々出
てくると思うのでこの原稿では扱わず、彼の人生を知って思ったのは、徳川慶
喜という人物のことだ。

 簡単に、しかも現代風に言うと、渋沢栄一は埼玉のリッチな農家の息子。大
人になるちょっと手前で世の中だとか社会だとかにムシャクシャするようにな
り、やんちゃしようとしたら関係者に逮捕者が出てビビって名前を変えて頼っ
ていった先が後の徳川慶喜。尊王攘夷にカブれて追われた輩を部下に置くって
いうのだから、何とも懐の深い話である。

 結果として、慶喜の弟が行くフランスツアーに同行し、世界に開眼して、そ
の後の活躍があるわけだから、この出会いが無ければどうなっていたか、わか
ったものではない。

 私はまだ未読だが、後に、渋沢栄一は慶喜の伝記を編纂している。なんとい
う関係だろう、と思った。この関係をメインに描けば、きっと面白い大河ドラ
マになると思うんだけどなぁ。

 そういえば昔、本木雅弘主演で、徳川慶喜の大河ドラマがあった。渋沢栄一
の『徳川慶喜公伝』も参考資料にされたそうだが、あまりヒットした記憶はな
いし、申し訳ないけれども、ちょっとイメージが違うのだなぁ。

 江戸時代という時代を終わらせ、明治時代という新しい時代を開いた立役者
とも言えるし、逆に、江戸時代という良い時代を文化ごと終わらせてしまった
責任者とも言える。

 しかし、一方で、渋沢栄一を見出し、影響を与え、その後の繁栄のきっかけ
を創ったとも言え、賛否両論の取り扱いをされるように運命づけられた人物。

 そうした人物像を知ったきっかけの本が『論語と算盤』というところに、ま
た妙な同型性を感じてしまうのでありました。

 ところで、何で渋沢栄一が徳川慶喜に何でこだわったのか、ということは、
『徳川慶喜公伝』の前書きを読むとわかる。

徳川慶喜公伝. 巻1(国立国会図書館デジタルコレクション)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953146

 渋沢栄一がこだわっていたのは、どうも「鳥羽・伏見の戦い」のようだ。政
権を返上しつつ、なぜ武力衝突が起こってしまったのか、本当にこれが慶喜公
の本意だったのか、ということにこだわっている。最後の方には、

「公が国難を一身に引受けられ、終始一貫して其生涯を終られた偉大なる精神
は、実に万世の儀表であり、又大いなる犠牲的観念の権化であると思う。さす
れば世人が此書によって公の御事跡を善く心得て、其御一身を国家の為に捧げ
られた精神の在る所を了解したならば、此御伝記が百年専念の後までも、日本
の人心を針■(機種依存文字)刺戟して、国民の精神に偉大なる感化を与える
ようになろうと思う。」

 とある。同文で関ヶ原の戦いにも触れられたりしていて、徳川幕府を拓いた
家康、閉じた慶喜ということで、その「偉大なる精神」が「犠牲的観念の権化」
であるとしている。

 考えてみれば、当時は明治時代。徳川は悪であり、渋沢栄一は現政権と絡ん
でいる。この資料も「公にはできない」と語っている一節もあり、それでも、
ちゃんと資料を集めて正当に評価して残しておくんだ、という気概を感じる。
言ってみれば、仕えた主君に対する忠義であり、愛、である。

 個人的には、名著『失敗の研究』ではないが、なぜトップである慶喜が望ま
なかったのに、武力衝突を止められなかったのか、というのは、今の日本の組
織にもつながる重要な視点だと思うので、そういう意味でもこの『徳川慶喜公
伝』を再解釈しても面白いのではないかと思う。

 しかし、渋沢栄一には、あまりこうした組織論の視点というのには、関心が
なかったのかなぁ、と思う。渋沢栄一にとってのガバナンスというのは、あく
までもリーダーの人格の問題であり、組織が人の意思決定を誤らせたり、無能
にする、ということは、あまり考えていなかったのだろうなぁ、と思うのであ
る。

 日本の組織の問題ってのは、最近のニュースを見ても、実はあんまり昔から
変わっていないのではないか、と思える。まだまだ先になる新一万円札。その
ころまでには変わっていると良いのにな。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れました。すみません。

 が、おかげでネタができました(笑。(aguni原口)

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