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[本]のメルマガ vol.716


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■■ [本]のメルマガ                 2019.05.05.発行
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■■  mailmagazine of books             [令和第1号 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『インド神話物語 マハーバーラタ』[上下]

デーヴァダッタ・パトナーヤク著 沖田瑞穂監訳 村上彩訳
四六判 上下合計560頁 本体各1,900円+税

インド神話の壮大な叙事詩『マハーバーラタ』の物語を再話し、挿絵つきの読
みやすい物語に。背景となる神話やインドの文化をコラムで解説。英語圏で15
万部を売り上げている、マハーバーラタ入門として最適の一冊。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その35「吸血鬼たち」その3.ドラキュラ

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第119回 テロとの闘い? ―「仮面ライダー1号」の世界

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その35「吸血鬼たち」その3.ドラキュラ

その3.ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』
 
 さて、いよいよ吸血鬼の代名詞ともいえるドラキュラについて語る時が来た。
 
 ご期待に沿えなくては申し訳ないが、ブラム・ストーカー描くこの物語に、
私はあまりエロスを感じない。ドラキュラと言えば、恐ろしくも魅力的なドラ
キュラ伯爵が若い女性を次々に襲って行き、彼女たちも彼に魅せられてうっと
りと首筋を差し出す話だと思いこんでいた。だが、そんな場面はなかった。き
っと、映画のせいでそう思い込んでいたのだろう。

 けれど、今回読み直してみて、「蝋管録音機」や「速記術」や「輸血」が使
われ、「新しい女」という言葉も出てくる、実に時代の最先端を行く物語であ
ったことに気づかされた。

 そして、かのドラキュラ城の食事の風景が意外や意外……。

 と、いうところで、まずは順を追ってストーリーを見て行こう。

 若い事務弁護士のジョナサンがトランシルヴァニアへ出張で出かけるところ
から物語は始まる。彼の仕事はドラキュラ伯爵がイギリスで買う地所の手続き
やロンドンへの渡航準備をすることらしい。道中の宿で彼の行き先を知った土
地の人々は、なぜか魔よけの品を彼に差し出し、宿の女将は十字架のロザリオ
を彼の首にかけてくれる。断崖絶壁に建つドラキュラ城ではドラキュラ伯爵が
直々に出迎えてくれ手厚いもてなしを受けるのだが、ジョナサンは徐々に奇妙
さを覚えていく。やがてトカゲのように城を這い下りる伯爵の姿を見たり、影
のない貴婦人三人に襲われそうになったりして彼らの正体を知るのだが、伯爵
はジョナサンを城に閉じ込めたままイギリスに出発してしまうのだ。

 ジョナサンの婚約者のミーナは、親友のルーシーに会いに海辺の保養地を訪
ねる。ルーシーは、夢遊病にかかって夜出歩くようになる。ある夜、ルーシー
を探しに出たミーナは、墓地の腰掛に倒れたルーシーの上に、赤いギラギラし
た光を放つ黒い影が覆いかぶさっているのを見る。

 ロンドンに帰ったルーシーは日に日にやつれて行き、心配した婚約者のアー
サーは友人の精神科医に相談する。医師は恩師のオランダ人ヴァン・ヘルシン
グに相談し、彼がこれは吸血鬼の仕業と見破る。彼は輸血を施し、様々な防御
策を駆使するのだが、吸血鬼は蝙蝠に化けて窓から入りこんでルーシーを襲い
続け、ルーシーは亡くなってしまう。

 しばらく後、子供たちが夜に襲われる事件が続けざまに起きる。この事件は、
「不死者」の吸血鬼として蘇えったルーシーの行いだとヴァン・ヘルシングは
断定し、彼女に求婚した三人の男たちと共に彼女に杭を打つのだ。

 ヴァン・ヘルシングはルーシーの友人ミーナに連絡を取る。そして、城をか
らくも脱出して彼女と結婚したジョナサンが、伯爵をロンドンで見かけたとい
う事から吸血鬼の正体を知る。ここで彼らは合流し、伯爵を追い詰めていくこ
とになる。

 けれど伯爵は反撃に出てミーナを襲い、無理やり自分の血を飲ませて「不死
者」にしようとする。

 ここから舞台がロンドンから大陸に、トランシルヴァニアのドラキュラ城の
方へと行くのだが、ミーナが逆に伯爵を追い詰めていくのが意外な成り行きだ
った。ミーナは吸血鬼に襲われて泣き伏すヒロインではないのだ。自分自身が
徐々に吸血鬼に変身していくという恐ろしい状況なのに、果敢に戦いに参加し
ていくところが、読んでいて意外でもあり痛快でもあった。

 彼女は、速記や蝋管録音機の記録をタイプ原稿に起こして状況分析ができる
ようにし、催眠術で自分とつながる伯爵の無意識を探り行方を探求するという
方法を提案する。そして、自ら男たちとの同行を願い出て、伯爵を狩り出して
行く。最後の最後には、ジョナサンの日記をもとにドラキュラ城への道筋を推
理してみせ、実にあっぱれな活躍をするのだ。

 ブラム・ストーカーのこの小説で、吸血鬼のイメージは固まったと言えるだ
ろう。

 吸血鬼は何も食べず、ただ人間の首筋に二つの穴を牙で開けて血を吸って生
きていく。蝙蝠や様々なものに変身できる。獲物に自分の血を飲ませると、吸
血鬼として蘇えらせる事ができる。鏡に映らず、影がない。

 彼らに効く魔よけには、ニンニク、野イバラ、ナナカマドの実や、十字架や
聖餠のようなキリスト教のシンボルがある。そして、朝の太陽の光を浴びるこ
とはできず、昼間に屋外に出られない。

 彼らを退治するには胸に杭を打ち首を切り落とす。その時、口の中にニンニ
クを詰めたりもする。すると、吸血鬼は一瞬元の人間の姿に戻ってから塵と化
すのだ。

 この小説の後に書かれた吸血鬼物語では、これらの特徴が当たり前のように
踏襲されていく。国民の多くがキリスト教徒ではなく、ニンニクの花を見たこ
とのないような国でも同様なのが何かおかしい。
 
 ところで、ここであげた第一の点について、私はとても疑問に思っている。
それは、この物語の第一章のドラキュラ城での場面から来る。

 ジョナサンが城に着くと、伯爵は自ら荷物を運んでくれて、寝室に案内して
くれる。その部屋の隣の隣にある八角形の小部屋の食堂には夜食の用意ができ
ている。

「さあ、なにもないが、気楽に一つやってもらおう。わしが相伴せんで申しわ
けないが、わしは夕食をすませたし、夜食はやらんのでな」

 なんて言いながら、伯爵は手ずから食器のふたを取ってくれる。
 
そこにあるのは、

「けっこうなローストチキン、それにチーズにサラダ。酒はトケイの古酒」

 若い青年の腹をたっぷり満たしてくれるご馳走だった。

 翌日も同じ部屋に朝食の準備がしてあり、明け方近くまで伯爵と話し込んだ
せいで夕方まで寝てしまったジョナサンは、一人で冷たいが豪勢な朝食と暖炉
にかけてあった暖かいコーヒーを飲む。

 やがて現れた伯爵と話し合い、仕事の処理を終えた後の夕飯は、
 
「わしは今、外ですましてきたから、遠慮なく一人でやってもらおう」

という伯爵の言葉で、食堂で「ごちそうが並べてある」夕飯を食べることにな
る。

 伯爵が何も食べていないことや、召使が一人もいないことに気づいてきたジ
ョナサンは、ある日隣の部屋の様子を盗み見て、伯爵が寝室でベッドを整え、
食堂で「膳ごしらえ」しているのに気付くのだ。

 そう、伯爵が食器を並べおかずを置き、飲み物の用意をしているのだ。食器
を片付けるガチャガチャした音も聞いているので、お皿洗いも伯爵がしている
のだろう。

 もしかすると、料理も?

 ジョナサンは五月から六月まで、二カ月近い日々をこのドラキュラ城で過ご
している。その間の食事は特に記述はないが、きちんと与えられていただろう。
それだけの食物を調達するには、かなりのたくわえも必要だったろうと思う。
近くの宿屋等からできあがった料理を運んできたのかもしれないが、毎食のお
かずを取ってくるわけにはいかなかったろう。

 私は平井呈一のこの古風な「膳ごしらえ」という訳語に「食卓の用意」と
「料理する」に二つの意味があるのがうれしかった。もちろん原書ではlaying 
the table in the dining-roomで、お膳立ての意味しかないのだけれど。

 ベッドの用意を整え、コーヒーを淹れるドラキュラ伯爵というだけでも十分
宿屋の主人のような印象を受けるのだから、その上エプロンをかけて料理を始
めてもおかしくない気がする。少なくとも、朝食のゆで卵ぐらいはゆでただろ
うし、もしかするとフライパンに卵を割入れて目玉焼きくらいは焼いたかもし
れない。ここまでくると頭の中では、オムレツをひっくり返す伯爵の姿が浮か
び上がってきて仕方ない。
 珈琲だって入れるときには味見くらいはしただろう。もしかすると、あの香
りにつられてゆっくりと味わったかもしれないなんて思うのだ。


 ようこそ、ドラキュラ城へ。

 当館では、ジョナサンが行きがけの旅で楽しんだ「パプリカ・ヘンドル」と
いうカルパチア地方の郷土料理のパプリカで煮込んだチキンの料理や、「ママ
リガ」というトウモロコシの粥を添えてたべる「インブレタタ」という挽肉を
なすに詰めた料理などはご用意できません。

 けれども、最後に泊った宿屋で食べた「ロバー・ステーク(どろぼう焼き)」
という唐がらしのきいたベーコン、玉ねぎ、牛肉の串刺しの料理なら、たぶん
取り寄せることもできるはずです。

 まずは、ローストチキンにチーズの盛り合わせをご賞味ください。

 やっと、おいしそうなものをこんな風に並べて、おもてなしができるのがう
れしいです。さ、ハンガリー名物のトケイの古酒か辛口のゴルデン・メディア
ッシュもご一緒にどうぞ。

 ただ、お酒はあまりお過ごしになさらずにお休みくださいね。飲みすぎて寝
室ではないお部屋で眠ったりすると、三人の美女に襲われて、ドラキュラ城に
永遠に取り残されてしまいますから。

 無事に朝を迎えられれば、暖炉にかかった熱々の珈琲もお楽しみいただける
はずです。ドラキュラ伯爵が自ら入れた珈琲ですぞ。そのときお出しする冷た
いハムも伯爵が手ずから切った物に間違いありません。

 さあ今宵は待ちに待ったドラキュラ城の夜。ここでの味わいをあれこれ想像
してお楽しみください。


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『吸血鬼ドラキュラ』ブラム・ストーカー著 平井呈一訳 創元推理文庫

『ドラキュラ 完訳詳注版』ブラム・ストーカー著
              新妻昭彦・丹治愛訳・注釈 水声社

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第119回 テロとの闘い? ―「仮面ライダー1号」の世界

 1960年代生まれのぼくにとって、「仮面ライダー」はテレビの楽しみのど真
ん中に位置するものだった。「仮面ライダー」は1971年から放映が開始された
子供向け特撮ヒーローもののドラマシリーズで、現在でも続いている。

 当時、テレビの影響力は絶大であり、「ウルトラマン」シリーズとともに少
年たちの心を鷲掴みしていた。仮面ライダーカードがおまけについていた「ラ
イダースナック」が、カードだけ抜き取られ菓子が捨てられる事件が多発し、
社会問題になった程だ。ぼく自身も、スナック菓子を捨てたことこそないが、
仮面ライダーのマネをして自転車やぶらんこから飛び降りて叱られた記憶があ
る。最近になって東映がyoutubeで毎週2話ずつ「仮面ライダー」を公開して
いることを知り、懐かしさの余り見ていたのだが、子供の頃には気づかなかっ
たことでいろいろ考えさせられるところがあった。今回はその雑感を書くこと
にする。ぼくは仮面ライダーのマニアではなく、再公開された話も全ては見て
いないし、原作の石ノ森章太郎の漫画さえ読んでいない。従って、事実関係的
な点でピリッとしたことは言えないことをあらかじめ断っておく。

 注目したことは、初期の「仮面ライダー」は左翼過激派との戦い、つまりテ
ロリストたちとの戦いをイメージして作られたのではないかということ。「ウ
ルトラマン」シリーズにおいて、ウルトラマンと怪獣・宇宙人は巨大化した姿
で戦う。これは国家対国家の大戦争をイメージした戦いであり、ビルが倒れた
りなど被害も大規模で、ほとんど東京大空襲を思い起こさせる。そしてウルト
ラマンをサポートする「科学特捜隊」「地球防衛軍」といった組織は、国家が
膨大な予算を割いて作った軍隊であり、各国との連携も緊密である。「ウルト
ラマン」シリーズは恐らく太平洋戦争がモデルであり、日本が連合国側の一員
として枢軸国と戦うといったイメージが前提にされている。

 しかし、等身大の姿で戦う「仮面ライダー」において、敵は社会の内部に紛
れている存在だ。仮面ライダーたちが立ち向かう「ショッカー」「ゲルショッ
カー」は今で言えばISのような非国家的・超国家的組織であり、その目的は
地球を侵略することなどではなく、既存の国家の転覆にある。「仮面ライダー」
の放映が始まった1970年代前半当時は日本赤軍や東アジア反日武装戦線といっ
た過激派が活動を始めた時期に当たる。作中で敵の隠れ家を指す言葉として
「アジト」が頻繁に用いられるが、これは左翼用語であろう。彼らの手口は、
圧倒的な武力を用いての国家との直接対決ではなく、身を隠して隙を突く形で
行うテロリズムである。仕掛けを施したペットや観葉植物を送り込んで庶民を
混乱に陥れるなど、比較的小規模で地道なものが多い。武装闘争も辞さずとい
う方向で過激化していった一部の新左翼の動きに、制作者たちは敏感に反応し
たのではないか。「ウルトラマン」では敵は外からやって来るが、「仮面ライ
ダー」においては敵は内部に潜んでいるのだ。
 
 ショッカーは山岳地域に基地を構え、「首領」(姿を現さない)がスピーカ
ーを通じて指令を出し、「地獄大使」らの幹部が作戦を立て、改造人間と戦闘
員が実行する。彼らは拉致・洗脳というやり方で仲間を増やし、見どころのあ
る人間には改造を施して怪人に仕立てる。仮面ライダーの仲間には「少年ライ
ダー隊」という子供たちの団体があるが、その子供たちを拉致して彼らが運営
する「恐怖学校」という施設で再教育し、彼らの仲間に入れようと試みる回も
あった。ショッカーは利権を貪る暴力団ではなく、独自の「思想」を持つ集団
であり、構成員はそれを狂信していることになっているのだ。ショッカーの幹
部らは仮面ライダーと対決して敗れていくが、死ぬ間際に「ショッカー万歳!」
のようなセリフを残す。その忠誠心は仮面ライダーが「勇敢だった」と認める
程だ。

 ショッカーはメンバーに絶対の忠誠を求めるが、組織としての決断は極めて
冷酷である。ショッカーの力に限界を感じた「首領」はゲルダムという別の暴
力的な組織との合併を果たし、ゲルショッカーという新しい組織を作る。その
際、古くからのメンバーは全員始末してしまうのだ。ゲルショッカーに追われ
た古参の戦闘員が無残に殺されていく様子は、子供ながらにショックだった。
いわゆる内ゲバ・粛清は過激化した運動によく見られる現象だ。

 では仮面ライダー側が右翼・保守勢力を代表しているかと言うと、それは違
うのである。「ウルトラマン」シリーズでは、国家直属の機関がウルトラマン
をサポートしているが、「仮面ライダー」シリーズ(少なくとも初期において
は)では、ライダーたちが軍や警察と協力してショッカーを倒す場面は一切見
られない。滝という相棒がFBI捜査官という設定になっているがFBIが前面に出
てくることはない。仮面ライダーはもともと本郷猛という文武にすぐれた若者
がショッカーに拉致され、怪人に改造される過程で、脳だけ改造を免れた状態
で脱出したという設定になっている。本来ショッカー側の人間であったはずが、
洗脳を免れた故にショッカーの敵対者となるという設定は、左翼内部での路線
の違いによる仲間割れを思い起こさせる。過激派と穏健派の抗争ということだ。 

 仮面ライダーの重要な仲間として立花藤兵衛という人物がいる。彼は本郷の
大学の先輩で、アミーゴというバーのマスターをしていたが、後にレーシング
クラブの経営者となり、更に前述の「少年ライダー隊」という組織の会長とな
る。「少年ライダー隊」は、恐らく江戸川乱歩の少年探偵団からヒントを得た
ものと考えられるが、ショッカーを監視する全国的なネットワークを備えた少
年少女による団体である。仮面ライダーの顔を模した派手なヘルメットをかぶ
って危険を伴う諜報活動を展開しているが、この団体を仕切るのは自治体の人
間でもなければ彼らの親でもない、立花という一個人である。また、ショッカ
ーに恨みを持つ者が作り上げた「アンチショッカー同盟」というベタな名前の
組織も存在する。これも政府から独立した自主組織である。同盟員の女性がシ
ョッカーの戦闘員を、まだ危害を加えられていないにもかかわらず跡をつけて
きたという理由だけで、いきなり殺してしまう場面もある。「少年ライダー隊」
にしても「アンチショッカー同盟」にしても、政府や警察や法とは独立して動
く、私的な組織であることは「仮面ライダー」を語る上で大きなポイントとな
るだろう。内部抗争故に警察の手を借りるわけにはいかない、そうした事情を
匂わせる。

 昭和の「仮面ライダー」については思い入れがあり、他にも書きたいことが
たくさんあるのだが、長くなってしまうので機会を改めることにしたい。最後
に強調しておきたいのは、太平洋戦争がバックにあるであろう「ウルトラマン」
に比べ、テロとの戦いや内部抗争がバックにあるであろう「仮面ライダー」は
より陰惨でドロドロした物語だということだ。大勢の市民がいる街中でドーン
と姿を現す「ウルトラマン」の怪獣と違い、「仮面ライダー」の等身大の怪人
たちはいつ、どこで、どのような形で現れるかわからない。その後、オウム真
理教事件や3.11他、多くのテロ事件を見てきた我々にとって、「仮面ライダー」
はより身近な世界なのかもしれない。

*『キャラクター大全 仮面ライダー大全 昭和編』(講談社 本体4800円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 またまた配信遅れました。すみません。

 気づけば、令和第1号です。(aguni原口)

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おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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[本]のメルマガ vol.714


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 不屈の精神力で目的を果たした「脱走王」を描く痛快ノンフィクション。
  
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。また、にご期待を!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第118回 漫画家・山川直人さんと詩人・菅原克己
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 働くことは、なぜ辛いのか?
  
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 ■トピックス
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 ひとつのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第118回 漫画家・山川直人さんと詩人・菅原克己


  「こんにちは、山川と申します。漫画を描くことを職業としています」。最初の
 ひとことで、山川直人さんの漫画家としての誇りと意思の強さが伝わってきた。

   4月6日、今年の「げんげ忌」は、暖かな春の日差しに恵まれて、会場となる
 谷中・全生庵のまだ散っていない桜を楽しみつつ、なごやかで、楽しい会にな
 った。


   げんげ忌は、詩人・菅原克己を偲ぶ会で今年で31回になる。世話人代表の
 小沢信男さんが最初の挨拶で「菅原克己は、そんなに有名な詩人じゃない。
 高田渡さんが菅原さんの詩『ブラザー軒』を歌にした。それで読者が増えた。
 いま、高田漣さんや佐久間順平さんが歌ってくれている。詩が歌と交流してと
 いうか、ジャンルを越えて新しいものを作った。そして今度は山川直人さん、
 保光敏将さんという漫画家、絵描きが菅原さんの詩を絵にしてくれた。それで
 また読者が増えた。これはジャンルを越えた総合芸術だ。げんげ忌は、芸術の
 総合化に向けて進んでいる、たいへんな会なんだ」

 
   今年のげんげ忌のトークは、芸術総合化の代表として、山川さんが話すこと
 になった。

   おそらく人前で話すことは得意でなく、そういう機会も少ないだろう山川さん
 だが、創作について誠実に伝えようという気持ちに溢れて、とても充実した内
 容だった。山川さんは、保光さん、漫画家の内田かずひろさんといっしょに菅
 原克己の詩をテーマにした同人誌『夜のもひとつ向うに〜菅原克己の風景』を
 出版することをきっかけにげんげ忌に来るようになった。2016年に出版された
 『日常の椅子』(ビレッジプレス)には、同人誌などで約10年にわたり発表され
 てきた、菅原克己の詩をモチーフにした短編を収録、描き下ろしを加えた全13
 本が収められている。


   たんたんとした、落ち着いた口調で山川さんは話し始めた。テーマは「詩を
 漫画にすること」。山川さんと菅原克己の詩との出会いは、やはり高田渡の
 「ブラザー軒」だった。市川準監督の映画「東京夜曲」の最後に流れた高田渡
 の歌「さびしいと、いま」(詩・石原吉郎)のシングルCDを劇場で買ったが、そ
 のカップリング曲が「ブラザー軒」だった。
「わたしは石原吉郎も菅原克己もど
 このだれだか知らなかったのですけれど、高田渡の歌としていいよなあ、って、
 聴いていました」
 その後、グループ展仲間の保光さんから聞いた菅原克己、
 最後の詩集『ひとつの机』(西田書店)を手に入れて、次に現代詩文庫にある
 菅原克己詩集(思潮社)、そして2003 年に出た菅原克己全詩集(西田書店)
 を買って読んだという。山川さん、保光さん、そして漫画家の内田かずひろさ
 んが喫茶店でコーヒーを飲みながら、菅原克己の詩がいい、と話すようになる。
 「うだつのあがらない漫画家、イラストレーターが、今まで聞いたこともない
 西田書店という小さな出版社が出した、菅原克己という、あまり有名でない詩
 人の詩集を囲んで話している」という話には笑えたし、その場にいたかったな、
 とちょっとうらやましかった。

 
   山川さんが、なぜ菅原克己の詩を漫画にしようと思ったのか、という話も興
 味深い。高田渡はたくさんの詩人の詩を取り上げている。山之口獏、金子
 光晴、木山捷平、三木卓、石原吉郎、黒田三郎、それから外国の翻訳詩。だ
 が、漫画にしたいと思ったのは菅原克己が初めてだという。どうして菅原克己
 に限って、漫画にしようと思ったのか、それは、山川さんがどんな漫画を描こう
 としているのか、山川さんの漫画の原点と大きな関係があるようだ。山川さん
 は、このトークをするにあたって、自分の漫画についても考えたという。
 菅原克己は、「ヒバリとニワトリが鳴くまで」という詩で「事大主義、深刻、見せ
 かけ、難解、それがいちばん嫌いだったので ぼくは詩人になったはずだ。」
 と書いている。この言葉は、なんということもない日常にある喜び、悲しみを
 描く山川さんの漫画に通じるものがありそうだ。

 
   山川さんは昭和37年生まれ。生まれた翌年に国産テレビアニメ第一号とい
 われる鉄腕アトムが始まっている。ジャングル大帝、オバケのQ太郎、ゲゲゲ
 の鬼太郎など、テレビアニメにどっぷりつかって育った世代だ。小学生になっ
 てからは手塚治虫、石森章太郎、藤子不二雄を本や雑誌で漫画を夢中に読
 むようになった。ここまでは、この時代に生まれた人ならば、みんな同じだと
 思うけれど、山川さんが漫画を描くきっかけが面白い。山川さんが自分で漫
 画を描くようになったのは、中学3年のときだという。「ガロ」という漫画雑誌で、
 つげ義春、永島慎二、滝田ゆうを知り、ゲゲゲの鬼太郎の水木しげるが妖怪
 ものでない漫画を描いているのもガロで知った。とくに永島慎二の漫画は、
 どうということのない日常を描いていて、それが手塚治虫や藤子不二雄の漫
 画で育ってきた山川さんにはすごく新鮮で面白かった。「面白いというか、こ
 んなものが漫画になるんだという感じ」という。こうしてガロを読むようになった
 中学3年の山川さんは、気がついたら自分で漫画を描くようになっていたそう
 だ。
 手塚治虫のような漫画を描くには、科学とか歴史とかそういう知識が必
 要だし、赤塚不二夫とか藤子不二雄のような漫画を描くには、ものすごく特別
 な発想が必要だけど、永島慎二、つげ義春、滝田ゆうの漫画は、「街を歩いて
 いたら、すべってころんだ」というくらいのことで漫画を描いている。それが面
 白いと感じることが山川さん自身、発見だったし、そういうものなら、自分だっ
 て描けるんじゃないか思ったという。「それがとんでもない間違いだったと気づ
 くのは高校を卒業して、漫画雑誌に持ち込むようになってすぐわかったんです
 けれど」

 
   そんなふうに漫画を描くようになった山川さんは、菅原克己の詩を読んだと
 き、これなら漫画にできるんじゃないかと思ったという。それは金子光晴の詩
 を読んだときには感じなかった。「詩をあまり読んだことのない自分でも、これ
 はわかる、読むと情景が目に浮かぶ。永島慎二の漫画を知って、自分で漫画
 を描くようになったときと同じような感じだったのではないか、という。

  
 山川さんは『日常の椅子』に収められた作品ひとつひとつを具体的に取り上
 げて、詩を漫画にする面白さ、難しさを語った。
「漫画は娯楽ですから、はった
 りとか深刻とか難解というのが、けっこう大事なんじゃないかと思うときがあっ
 て、読者がそれを求めているんではないかとか。あと、売れている漫画家を見
 ると、そうしたほうがいいんじゃないかなって、思うこともあるんですけれど、
 菅原克己の読者としては、そうでないほうがいいのかなと思ったりします」。

 
   山川さんの話を聞きながら、詩を読み込むというのは、こういうことなんだ、
 と改めて思い、枕元に置いてあった『菅原克己全詩集』をとったのだけど、寝
 転んで読むには、ちょっと重かった。

  
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
   読む前からタイトルに惹かれる小説というものがあります。残念ながら山
 崎さんのほかの著作は読んだことはありませんが、この作品はタイトルから
 して読み心(?)をくすぐられました。
 
 『趣味で腹いっぱい』、山崎ナオコーラ、河出書房新社、2019
 
   主人公は野原鞠子と小太郎の夫婦。銀行員の小太郎に対して鞠子は専
 業主婦です。そんな鞠子が趣味として絵手紙を始めるところから物語は始ま
 ります。
 
   ただ鞠子が趣味に求めるものは、趣味を通じて人とつながりたいとかいう
 ことではありません。むしろ彼女はどちらかというと人づきあいが苦手なタイ
 プです。曰く「友達作りの手段としてしか趣味を見ない人は、純粋な趣味人じ
 ゃないと思う」(p,9)とさえ言います。
 
   もっとも、人との交流を敢えて避けるわけではなく、あくまで楽しむことが
 主で交流は従ということです。絵手紙の次に家庭菜園に手を出した鞠子は、
 さすがに何の教えも受けず始めるのではなく、土地を借りた先の女性に色々
 教わったりしていきます。
 
   一方の小太郎は父親が「働かざるもの食うべからず」という思想をやかま
 しく言う人で、さすがにそれを頭から信じているわけではありませんが、働い
 てお金を稼ぐことに重きを置いています。銀行員としての出世に限界を感じ
 たりしつつも日々の仕事に精を出しています。
 
   鞠子ももともとは書店のアルバイトと大学非常勤講師をしていましたが、
 結婚を機に非常勤講師を辞めています。小太郎としては大学で教えている
 方が体裁が良いので、辞めるなら書店アルバイトの方にしてもらいたかっ
 たようです。しかし鞠子は「体裁なんて気にするのはくだらない。楽しいか
 楽しくないかで決めた方が、より人間らしい判断ができる」(p,54)と言い放
 ちます。そして東京から飯能への小太郎の転勤を機に書店アルバイトも辞
 めてしまいました。
 
   なにやら実は考え方に齟齬のありそうなふたりですが、結婚前から鞠子
 は専業主婦志望で子供をもうける予定もあったので、そこはあまり目立た
 なかったのかもしれません。
 
   後に鞠子が小説が書くことを趣味にした時も、ふたりの考え方の違いが
 際立ってきます。サークル(といっても鞠子を小説に誘った人との二人だけ
 ですが)内での合評で厳しい意見が出なかったときに、小太郎はなぜもっと
 厳しい目を持った人に読んでもらったり新人賞に応募しないのかと言い出
 します。
 
   そしてついには小太郎が小説を書いて新人賞に応募してしまいます。
 
   しかしいざそれが受賞作に選ばれ、職業作家として書くようになると銀行
 員時代と同じ仕事としての悩みを感じるようになってしまいます。「仕事とい
 うものは、上を目指して努力をしなければならないのだろうか。上を見てい
 ない場合は、仕事とは言えないのだろうか」(p,132-133)
 
   まあ鞠子は「上を見なければいいんだよ」(p,133)と言い放つわけですが。
 
   鞠子は仕事の特権性をあまり認めません。およそ人間の活動するところ、
 仕事だろうが趣味だろう家事だろうが子育てだろうが変わりないのではない
 かと思っているように感じられます。ニートと主婦である自分を一緒にされて
 も、なんとも思わないところにそれがよく表れています。むしろ彼女は働いて
 いる人とニート&主婦は違うとする意見に異を唱えます。(p,90-91)
 
   もちろん上を目指して働くことが悪いとかそういうことではありません。上を
 目指していきたい人はそうすればいいし、それなりでいいやと思っている人
 は、それなりでいいことはそれなりにやって他のこともやってみればいいので
 はないでしょうか。
 
  「雨でも風でも満員電車に揺られて出社して、嫌な人にぺこぺこするのが仕
 事だ」(p,182)だから辛いことに耐えて働いている人は偉いとする考えが世の
 中にはかなりあるように感じます。
 
   しかしむしろなぜ働くことが辛くなっているのかを考えた方が良いのではな
 いでしょうか。多くの人がかかわる中で働くことは辛いことだと多くの人が思
 っているにもかかわらず、その辛さを解消する方向に力が注がれないのは残
 念なことです。
 
   ああ、そうすると働いてる人が偉くなくなってしまうからかな。とか邪推した
 りしてみたくなりますね。特に家父長制的なシステムにおいて働いて金を稼
 いでくることが偉くないとされてしまうと、お父さんの権威がガタ落ちですから
 ね。
 
   もっとも家父長制批判に舵を切っていくと、女性の社会進出とか専業主婦批
 判とかに行きついてしまって、鞠子さんの思うところと違うところに出ていく可
 能性もあるので、これについてはこのくらいで。
 
   物語はこの後小太郎の文学賞受賞後、鞠子の新しい趣味からさらには移住
 生活にまで話は及びます。果てしない鞠子の趣味の広がりの行きつく先や如何
 に!!(と力むほどではないですが)。
 
   あとひとつ言えるのは、飯能駅前のパン屋は確かにうまい(商店街の中にあ
 るパン屋もうまい)ということですね。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 塔に谺す蛇の声 The snak's voice echoing in the tower 
               グリゼット@新宿ゴールデン街(まねき通り)
  └─────────────────────────────────
  ―「塔に谺す蛇の声」という、5名の作品、および、匿名で郵送された
    不特定多数の俳句によって構成される展示に参加することに
    なりました。―

 ◆日時:2019年5月25日(土)〜6月8日(土)
       ギャラリー時間:13時〜17時半 木金土(会期中のみ)
                 入場無料/300円でお茶のご用意有
       バー時間:18時〜1時 日曜休
                 チャージ 1000円(お通し付)ドリンク500円〜
 
 ◇場所:グリゼット 新宿区歌舞伎町1−1−5

 
 ■参加アーティスト
   展示 團良子/言水ヘリオ/斉島明/大木裕之/窪田美樹
 
   俳句 鈴木崇/有賀真澄/後藤大輔/吉田裕子/前田恭規/岡安聡史/
         渡辺小夏/郡宏暢/田日苗水/小田桐生/藤本ナオ子/
 
  昨年、機会あって詩の朗読をすることになり、
  かといって詩を書くわけでもなく、
  朗読するでもなく、
  代わりに行ったのがカタカナの印字作業でした。
  小さな壺のなかに活版印刷用活字をかきまぜて
  たまたま手にした一文字を紙の上に印字するということを繰り返します。
  聞こえるのは、
  アとかイとかの弁別された音でなく、
  活字の接触により起こる金属音でした。
  残ったのは、
  紙の上の意味を目指さないカタカナの羅列。
  読むことの困難な文字列が神の上に発生する/したということ。
  その一枚の紙をひっくり返すということ。
  それが何なのかはわかりませんが、
  そんなものを今回の展示に置きます。 ―言水ヘリオ 案内状より抜粋
 
      
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき  
 さて、もうすぐ大連休ですね。皆様いかがお過ごしの予定ですか?
 一斉の長い休みというのは馴染めず、いまだたいした予定もたてず、
 絶賛ボンヤリ中です。何だか疲れますね。
 
 GW明けの愉しみを!本の雑誌社さんから『ドライブイン探訪』の橋本倫史
 さんの新刊『市場界隈』が刊行されます。
 沖縄那覇名物「第一牧志公設市場ですが、今年6月に老朽化による建て
 替えが予定されています。数年来市場に通い交流を深めている著者が
 記録する市場の風景。橋本さんの視点で描かれる、沖縄の市場の人々を
 早く読みたいです!
 では、どうぞよい休日を!(お休みでない方もいっぱいいますよね。
 その方たちも、よい五月を!)               畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.713


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■■  mailmagazine of books      [おかげでネタができました 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『科学でアートを見てみたら』

ロイク・マンジャン著 木村高子訳
B5判 224頁 本体2,500円+税 ISBN: 9784562056415

ゴッホの描く太陽は日の出と日の入り、どちら? 十字架にかけられたキリス
トはどんな痛みを感じたのか。ブリューゲルの《バベルの塔》はどのように建
築されたのか。科学的知識を用いると、アートの新たな側面が見えてくる。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その34「吸血鬼たち」その2.カーミラ

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『論語と算盤』と『徳川慶喜公伝』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その34「吸血鬼たち」その2.カーミラ

その2.レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』

 レ・ファニュを長い間フランス人作家だと勘違いしていたのだが、実はアイ
ルランド人作家だった。フランス人と思いこんだ理由はその名前の他に、『吸
血鬼カーミラ』という作品が偽善に満ちたヴィクトリア朝の小説とは思えない
ほどエロテイックだったせいだと思う。

 レ・ファニュが1872年に発表した『吸血鬼カーミラ』は、私が最も愛する吸
血鬼小説だ。主人公も吸血鬼も美しい少女で、レズビアン的なエロティシズム
が濃厚に漂う小説だ。

 けれども、それだけではなく、この小説には謎が残されたまま終わるという
幻想小説が持つべき特徴があり、心の中に余韻を残す作品でもあるからだ。読
者はこの本を閉じた後に未解決の物事があるのに気付いて、待てよ、あれはど
うなってるんだ?説明がつかないぞ?と、思い悩むことになる。そのもどかし
い後味こそ、推理小説にはない、幻想文学特有の楽しみなのだ。

 物語の舞台はどうやらオーストリアのはずれらしい、スチリア州グラッツの
近くの寒村。イギリス人の父親と二人きりで城に住んでいる少女ローラが語り
手だ。その他には育ての親のフランス人家庭教師とドイツ系フランス人の家庭
教師の二人だけが家族で、あとは召使だけの寂しい生活を送っている。

 ある日、月夜に散歩に出ていた一家は、城の前の道で一台の馬車がひっくり
返るという事故に出くわす。馬車からは気絶した少女が外に運び出される。馬
車はすぐに元に返され、母親らしい貴婦人は急いで出発したがるのだが少女の
様子に困り果てている。そこで、ローラの父親は少女を預かると言い出すこと
になる。とても威厳に満ちた様子のその貴婦人は、つんとした切り口上で早口
に父親に事情を説明すると、三か月後に引き取りにくると言って、娘を残し慌
ただしく立ち去って行く。
 
 さてこの病弱な少女こそカーミラ。彼女はとても美しく秘密めいていて、部
屋に鍵をかけて寝たり、召使を寄せ付けなかったりする。朝も絶対起きて来ず、
昼の一時過ぎまで寝ていて、起きてチョコレートを飲むほかには何も口にしよ
うとしない。

 ローラはカーミラの美しさに陶然としてしまう。金色の混じったこげ茶色の
たっぷりした髪が見事で、そっとその髪に手を差し入れて髪いじりをしたりし
ながら、その低くて甘い声のささやきにうっとりと聞き入ってしまうのだ。

 カーミラの顔つきに、ローラは昔子供だった時の悪夢を思い出す。夢の中に
出てきた瓜二つの顔をした女性に抱かれ、胸に針を刺されたような痛みを感じ
た夢。そして、ローラの母方の一族、カルンスタイン家の「伯爵夫人マーカラ」
と書かれている肖像画の女性にもカーミラは似ているのだ。
 
 けれどもカーミラは自分については決して語ろうとしない。娘らしい好奇心
でローラが聞きだそうとしても答えない。

 だんだんに二人は親しくなって行き、カーミラは熱に浮かされたようになっ
ては、ローラを抱擁したり接吻したりするようになる。そして、その美しい腕
をローラの首に巻き付けて傍に引き寄せ、頬ずりしながら耳に口を寄せてこう
囁くのだ。

「あなたはわたしのものよ。きっとわたしのものにしてよ。わたしとあなたは
いつまでもいつまでも一つのものよ」
 
「……あなたはわたくしを愛しながら、わたくしといっしょに死ぬのよ。さも
なければ、わたくしのことを憎んで、憎みながらもわたくしについてきて、そ
して憎みながらも死んで、死んだ後も憎みつづけるか。……」

 等々と謎めいたことをいう。

 この頃、城の近くの村では農婦や娘たちが喉を絞められたように苦しいと言
っては急死する病が蔓延している。そして、部屋に厳重に鍵をかけないと眠れ
ないと言っているはずのカーミラが、いつの間にか夜、城の外を歩いている姿
が目撃されるようになる。

 ローラはだんだんと顔色が悪くなり、医師が呼ばれて診察を受けると、喉の
下に二つ青い痣ができているのがわかる。

 まあ、ここまで読めば、ローラを襲っているのがカーミラなのは一目瞭然だ
ろう。

 カーミラの歯は二本とても尖っているらしい。旅芸人がやすりをかけてやろ
うかと揶揄する場面でそれがわかる。

 やがてローラは、黒い影のような猫に似たものがベッドの裾に来て、ぐさり
と縫い針に似たものに胸に刺されるような痛みを感じて飛び起きる、という夜
を頻繁に過ごすようになって行く。また、白い寝巻の裾を血だらけにしたカー
ミラがベッドの裾に立っているのを見たりする。

 ポリドリの吸血鬼から数十年。この吸血鬼は変身の術を身に着けてきたよう
だ。そして、鍵をかけても侵入してしまう技も。
 けれど、魔よけの札も彼女には効かないようだし、苦手なのは讃美歌ぐらい
で、彼女を防ぐ手段はまだ現れない。

 さて、物語はローラが父と家庭教師と共に今は廃れてしまった村に馬車でピ
クニックに出かけ、近所に住む将軍とばったり出会うところから大団円が始ま
る。彼は最近亡くなった姪の敵を打つために、村のはずれの森の中の古い一族
の屋敷跡に出かけてきたのだ。そして、ミラーカという少女がいかにして自分
の屋敷に入り込み姪を殺したかを話し始める。後からもう一人の家庭教師とピ
クニックにやって来たカーミラは、その話の最中に姿を消してしまう。

 次の日、ヴォルデンベルグ男爵という吸血鬼研究の専門家と共に将軍とロー
ラの父は、ミラーカでもありカーミラでもあったカルンスタイン家のマーカラ
伯爵夫人の墓の位置を選定し墓を暴く。こうして、官命でやって来た医者の立
会いの下に、吸血鬼は退治されたのだ。

 この物語はこうやって解決がつくのだが、いくつもの疑問を読者に残してい
く。

 例えば、カーミラの母親は何者なのか?
 どこへ行ってしまったのか?

 美しいが、けんのある顔立ちをした貴婦人で、威厳がありながらも人をそら
さず、城の仮面舞踏会で仮面を外さないまま将軍を昔からの知り合いのように
騙して、娘を預けた女。

 さらに「たいそう人相が悪い」とされた彼女のお付きの者たちもどこに行っ
たのだろう?馬車の中にはターバンを巻いた黒人女性もいたらしい。また、舞
踏会の会場で彼女に「伯爵夫人」と呼びかけて、馬車まで送って行った顔色の
青い男性は何者なのか?

 カーミラ一人では演じきれないほどの人間が、この母親の周りにはいる。こ
の世には吸血鬼の一族がいて、人間に近づくために手を変え品を変えて小芝居
をうっているのだろうか?

 さらに、農婦や村の少女たちはそう何度も襲われないうちに死んでしまう。
将軍の姪も同様だ。ローラは子供の時に一度、そしてカーミラが現れてからも
何度も吸血鬼に襲われているのだが、なぜすぐ死なずにいるのかという疑問が
残る。カーミラは、ローラを自分の一族に入れようとして、普段とは違う方法
で、ローラの血を吸っているのではないかと思えるのだが、謎は残されたまま
だ。

 ここらの疑問がブラム・ストーカーを引き付け『ドラキュラ』を書かせたこ
とは間違いないと思う。ただし、そこがうまく明かされると、逆に魅力が落ち
るような気もするのだが……。そこは次回に回したい。

 そして、かの名作『ポーの一族』(ああ、薔薇のお茶!)という漫画を生み
出した様々な要素も、ここに溢れているように思えるのだ。

 けれども一番重要な疑問は、ローラの住むこの城で、カーミラは一体どうい
う食事をしていたかという事だ。

 この城での食事風景は特に描かれていないのだが、テーブルにつくのは父親
とローラと二人の家庭教師の四人だけのようだ。料理や給仕をするのは召使た
ち。客人であるカーミラが食べるふりをして食事を残したとしても、咎めるも
のは誰もいないと思える。

 もし、これが現代の食卓だとしたら、その家の主婦は残り物の多さにすぐ気
が付くことだろう。けれども、この城では親子はイギリス人で、家庭教師はフ
ランス人。召使たちとは言葉も人種も違うという設定なのだ。カーミラが何も
食べない、あるいは極端な小食であることを召使が怪しんでも、それをわざわ
ざ言いつけたりはしないだろう。カーミラはその病弱を理由に、ローラたちと
夕食を共にしないことの方が多かったのかもしれない。

 もし私が現代を生きる吸血鬼で誰かの家に入り込むならどうしよう?アレル
ギー体質だと言って、極力普通の食べ物が食べられないふりをしてごまかすの
も一つの手かもしれない等と考える。

 チョコレートのほかに、カーミラがすすめられて口にしようとしたのは酒だ。
カーミラのあまりの顔色の悪さにローラが酒をすすめると、

「じゃあ、お酒を少しいただかしてね」

とは答えるのだが、客間で家庭教師たちとともにコーヒーやチョコレートでく
つろぐことになっても、何一つ口にせず終わる。それでも一度は飲むと言うと
ころを見ると、酒は液体だから飲めるのだろうか等とも考えてしまう。

 結局カーミラが口にするのは一日にただ一回の、寝覚めのチョコレートだけ
らしい。

 そこで今宵は是非熱いココアを片手に、あるいはチョコレートなどを口に過
ごしていただきたい。

 そして、美しいカーミラが、ずしりと重いこげ茶色の髪をのせた頭をもの憂
げに枕から持ち上げ、ベッドの上で一杯のチョコレートを飲む姿に思いをはせ
てみて欲しいのだ。

 カーミラの唇のように熱いカップの中に入った茶色くてどろりとした甘い液
体。その中に隠れるほのかな苦みは、カーミラがローラに抱いた愛の苦さの味
かもしれない。

 でも、もしかするとその甘さは、彼等一族が獲物から得る味わいに近いのか
もしれない……。

などと、私はつい考えてしまうのだが、吸血鬼ならぬわが身では、真実を知る
ことはできないままなのだ。

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『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ著 平井呈一訳 創元推理文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『論語と算盤』と『徳川慶喜公伝』

 メルマガの配信が遅れたせいで、新札発行のニュースが飛び込んできた。新
一万円札は渋沢栄一氏ということで、このメルマガの創始者であらせられる守
屋淳さんの翻訳された『論語と算盤』を再び手に取ってみた。

『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)渋沢栄一著 守屋 淳 翻訳
 https://amzn.to/2KnEqWA

 この本の巻末に付されている「渋沢栄一小伝」がとっても面白い。正直、こ
っから大河ドラマにしたら、オリンピックなんかより視聴率取れるんじゃない
かなぁ、と思う。

 私が渋沢栄一という人物を最初に知ったのは、確か、映画『帝都物語』の冒
頭で、勝新太郎が演じていて、帝都改造で魔法陣を敷くみたいな人だという認
識だった。これが、たまたま守屋さんのお誘いで、飛鳥山にある渋沢栄一記念
館でのツアーに参加し、その人生を知ったのは、それから10年後くらいだった
のではないかと思う。

 渋沢栄一氏のすばらしさについては、おそらくテレビ他のメディアで様々出
てくると思うのでこの原稿では扱わず、彼の人生を知って思ったのは、徳川慶
喜という人物のことだ。

 簡単に、しかも現代風に言うと、渋沢栄一は埼玉のリッチな農家の息子。大
人になるちょっと手前で世の中だとか社会だとかにムシャクシャするようにな
り、やんちゃしようとしたら関係者に逮捕者が出てビビって名前を変えて頼っ
ていった先が後の徳川慶喜。尊王攘夷にカブれて追われた輩を部下に置くって
いうのだから、何とも懐の深い話である。

 結果として、慶喜の弟が行くフランスツアーに同行し、世界に開眼して、そ
の後の活躍があるわけだから、この出会いが無ければどうなっていたか、わか
ったものではない。

 私はまだ未読だが、後に、渋沢栄一は慶喜の伝記を編纂している。なんとい
う関係だろう、と思った。この関係をメインに描けば、きっと面白い大河ドラ
マになると思うんだけどなぁ。

 そういえば昔、本木雅弘主演で、徳川慶喜の大河ドラマがあった。渋沢栄一
の『徳川慶喜公伝』も参考資料にされたそうだが、あまりヒットした記憶はな
いし、申し訳ないけれども、ちょっとイメージが違うのだなぁ。

 江戸時代という時代を終わらせ、明治時代という新しい時代を開いた立役者
とも言えるし、逆に、江戸時代という良い時代を文化ごと終わらせてしまった
責任者とも言える。

 しかし、一方で、渋沢栄一を見出し、影響を与え、その後の繁栄のきっかけ
を創ったとも言え、賛否両論の取り扱いをされるように運命づけられた人物。

 そうした人物像を知ったきっかけの本が『論語と算盤』というところに、ま
た妙な同型性を感じてしまうのでありました。

 ところで、何で渋沢栄一が徳川慶喜に何でこだわったのか、ということは、
『徳川慶喜公伝』の前書きを読むとわかる。

徳川慶喜公伝. 巻1(国立国会図書館デジタルコレクション)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953146

 渋沢栄一がこだわっていたのは、どうも「鳥羽・伏見の戦い」のようだ。政
権を返上しつつ、なぜ武力衝突が起こってしまったのか、本当にこれが慶喜公
の本意だったのか、ということにこだわっている。最後の方には、

「公が国難を一身に引受けられ、終始一貫して其生涯を終られた偉大なる精神
は、実に万世の儀表であり、又大いなる犠牲的観念の権化であると思う。さす
れば世人が此書によって公の御事跡を善く心得て、其御一身を国家の為に捧げ
られた精神の在る所を了解したならば、此御伝記が百年専念の後までも、日本
の人心を針■(機種依存文字)刺戟して、国民の精神に偉大なる感化を与える
ようになろうと思う。」

 とある。同文で関ヶ原の戦いにも触れられたりしていて、徳川幕府を拓いた
家康、閉じた慶喜ということで、その「偉大なる精神」が「犠牲的観念の権化」
であるとしている。

 考えてみれば、当時は明治時代。徳川は悪であり、渋沢栄一は現政権と絡ん
でいる。この資料も「公にはできない」と語っている一節もあり、それでも、
ちゃんと資料を集めて正当に評価して残しておくんだ、という気概を感じる。
言ってみれば、仕えた主君に対する忠義であり、愛、である。

 個人的には、名著『失敗の研究』ではないが、なぜトップである慶喜が望ま
なかったのに、武力衝突を止められなかったのか、というのは、今の日本の組
織にもつながる重要な視点だと思うので、そういう意味でもこの『徳川慶喜公
伝』を再解釈しても面白いのではないかと思う。

 しかし、渋沢栄一には、あまりこうした組織論の視点というのには、関心が
なかったのかなぁ、と思う。渋沢栄一にとってのガバナンスというのは、あく
までもリーダーの人格の問題であり、組織が人の意思決定を誤らせたり、無能
にする、ということは、あまり考えていなかったのだろうなぁ、と思うのであ
る。

 日本の組織の問題ってのは、最近のニュースを見ても、実はあんまり昔から
変わっていないのではないか、と思える。まだまだ先になる新一万円札。その
ころまでには変わっていると良いのにな。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れました。すみません。

 が、おかげでネタができました(笑。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.711

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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.3.15.発行
 ■■                             vol.711
 ■■  mailmagazine of book         [サクラサキソウ号]
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 儀式みたいにムダな会議。予防するより高額医療…。人間はなぜ不効率な行動
 をするのか? それは「脳のなかのゾウ=隠された動機」のせい。AIと経済
 学の気鋭研究者が進化心理学からときあかす「戦略的不合理」の真相。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第58回「名指揮者の相次ぐ逝去」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
第117回 ページから細野さんが聞こえる 
  
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 『科学の黒歴史』…その暗黒な闇
  
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 ■トピックス
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 1つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第58回「名指揮者の相次ぐ逝去」
 
 こんにちは。
 
 あれこれ図書館や著作権のネタを寝かせていて,さて今回は「違法ダウンロー
 ドの対象範囲を全著作物に拡大すること」を目的とした著作権法改正案の今国
 会への提出が見送りになった件(1)を取り上げるべきところ,近頃ふたりの
 名指揮者が相次いで世を去り,このふたりがわたしのレコード音楽との付き合
 いの上で欠かせない指揮者だったものですから,そちらを取り上げさせてくだ
 さいませ。
 
 ひとりは2月28日に亡くなったアンドレ・プレヴィン(1929-2019)です。ラフマ
 ニノフとショスタコーヴィチに関してわたしがプレヴィンの録音から受けた影
 響はひとかたならぬもので,ラフマニノフではEMIに録音した交響曲第2番やウ
 ラディミール・アシュケナージとDECCAに録音したピアノ協奏曲全集(オーケ
 ストラはいずれもロンドン交響楽団),ショスタコーヴィチではシカゴ交響楽
 団とEMIに録音した交響曲第4番,第10番,第13番やロンドン交響楽団とDGに録
 音した第8番など,いずれもご贔屓の録音でありました。なかでもショスタコ
 ーヴィチの交響曲第4番は,交響曲としてはやや破格の一風変わった音楽から
 豪快な演奏を引き出していて,常任指揮者ゲオルク・ショルティの薫陶宜しき
 を得た1977年当時のシカゴ交響楽団のアンサンブルを存分に堪能できる録音で
 す。わたしは,いまもなおショスタコーヴィチの第4番ではこの録音を第一に
 推すものです。
 
 プレヴィンはジャズ・映画音楽からクラシックの指揮者に転身したひとであっ
 たこともあり,1980年代の初めごろまではその出自故にプレヴィンを嫌う音楽
 評論家がおりました。例えば長いこと「レコード芸術」誌の交響曲選評を担当
 していた大木正興がプレヴィン嫌いで,どんな録音が出てもけなしつけていた
 のでした。わたしが「レコード芸術」を読み始めた1970年代後半は,まだ選評
 がジャンルごとにひとりで当たっていました(現在は新譜はふたり体制になっ
 ていたかと)から,プレヴィンはレコードセールスでかなり損をしたのではな
 いかと思われます。東日本大震災のあとで処分してしまったのですが,わたし
 はあるところからいただいた「レコード芸術」を20年分を所持していまして,
 それを手に入れたときに上で触れたショスタコーヴィチの交響曲第4番を大木
 正興がどのように評価しているか確認してみたら,何とその月は大木正興急病
 のため宇野功芳大先生が代打で登場し,ショスタコは大先生の「準推薦」だっ
 たというですね(苦笑)。ちと残念な思い出です。
 
 そして亡くなった名指揮者のいまひとりが3月8日に亡くなったミヒャエル・ギ
 ーレン(1927-2019)です。南西ドイツ放送交響楽団の常任指揮者として果敢な
 現代音楽の紹介者として知られた指揮者ですが,わたしにとってはクラシック
 を聴き始めFM放送のエアチェックを始めた1970年代後半からこの方,グスタフ
 ・マーラーの交響曲を感情過多に陥らず(マーラーの感情過多な演奏もそれは
 それで好きですが,そればっかりでは息苦しい)厳しく明晰に交通整理して聴
 かせることにすぐれた指揮者である,と評価していた指揮者でした。1970年代
 後半にFMで聴いたギーレンによるマーラーの演奏が第7番だったり第6番だった
 り,いわゆる「リュッケルト交響曲」とも呼ばれる中期のすぐれた素オケの作
 品群であったことも幸いしました。録音ではしばらく,第二次世界大戦で破壊
 されたフランクフルト歌劇場の跡に建てられたコンサートホールのこけら落と
 し公演だった1981年の交響曲第8番「千人の交響曲」の録音(CBS)くらいしか
 なかったのですが,1980年代後半からこつこつと録音されたものが全集として
 まとめられています(ヘンスラー → SWR Music)。
 
 これは余談ですが,フランクフルト歌劇場の再建されたホールのこけら落とし
 に当初招かれていたのはカール・ベーム(1894-1981)だったのだそうです。す
 でに高齢だったベームはそのこけら落とし公演を振ることなくこの世を去って
 しまうのですが,ほとんどマーラーを振らなかった(オーケストラ伴奏の歌曲
 集をフィッシャー・ディースカウと録音していることはしていますが)ベーム
 が健在だったとして,果たしてマーラーの交響曲第8番を振ったのかどうか興
 味深いところではあります。
 
 残念ながら,ギーレンの録音は2000年ごろを境に厳しかった造形が遅緩し始め,
 テンポも遅くなっていきます。わたしの手元には,ギーレンによるマーラーの
 交響曲第9番の2種類の録音がありますが,1990年に録音された古い方の録音は
 張り詰めた雰囲気と少し早めのテンポを基本に進んでいく演奏で,それが例え
 ば第1楽章の85小節後半のリタルダンドがハッとするような鮮烈な印象を残す
 (1988年頃FMで聴いた同じ曲の演奏では一層際立っていた記憶があります)の
 ですが,2003年に録音したものは全体にテンポが遅くなっており(旧盤はCD
 1枚に収まっていたものが新盤はCD2枚にまたがっている),第1楽章85小節後
 半のリタルダンドもあることはありますがさほど印象的ではなくなっています。
 ひとはそれを「巨匠的」と呼ぶのかもしれませんが,わたしは異なる感慨を持
 つものです。
 
 プレヴィン,ギーレンとも最近まで現役で指揮を続けており,年齢的には逝去
 もやむを得ないと言えないこともないのですが,わたしの音楽人生にもたらし
 た愉しみは甚大なものがありました故に,その逝去を悼むものです。
 
 
 「2月は逃げる,3月は去る」と言う言葉もありますが,このところ慌ただしい
 日々を過ごしておりまして,なかなかゆっくり原稿を書く時間もとれませんで,
  みなさまにもご迷惑をおかけしております。3月末で「出版ニュース」が休刊
 するということで,来月はわたしの立場から見た「出版ニュース」の功と罪に
 ついてお話できればと考えております。では,また次回。
 
 
 注記
 (1)政府、著作権法案提出を見送り - 毎日新聞 
   https://mainichi.jp/articles/20190313/k00/00m/010/037000c
 
 (2)追悼 アンドレ・プレヴィン(1929年4月6日 - 2019年2月28日)
                                                - TOWER RECORDS ONLINE 
    https://tower.jp/article/campaign/2019/03/01/03
 
 (3)追悼 ミヒャエル・ギーレン(1927年7月20日 - 2019年3月8日)
                                                - TOWER RECORDS ONLINE 
    https://tower.jp/article/campaign/2019/03/11/03
 
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
  
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第117回 ページから細野さんが聞こえる

 
  2月28日、千駄木にある古書ほうろう(https://horo.bz/)での最後のイベ
 ント「サウダージな夜」には12名のミュージシャンが駆けつけてくれた。あ
 いにくの冷たい雨という天候に関わらずお客さんもたくさん来てくれた。2時
 間のライブは、それぞれのミュージシャンが古書ほうろうへの思いをこめた素
 敵な演奏を披露してくれた。本棚の間に流れる個性的な音楽を聴きながら、ひ
 とりで弾き始めた8年前のことを思い出していた。地味な小さなイベントだけ
 ど、こんなにたくさんの人たちに愛されているんだな、と感謝とうれしい気持
 ちでいっぱいになった。古書ほうろうは、上野池之端に移転するけれど、
 「サウダージな夜」も続けることになっています。4月中頃に開店するという、
 古書ほうろうの新店舗がとても楽しみです。
「サウダージな夜」が終わって、
 たくさんの人たちがまだ残ってビールを飲んだり、話をしている中、後片付け
 をしようとマイクのコードを巻こうとしていたら、友人が「はい、これをどう
 ぞ」と紙袋を手渡してくれた。紙袋をのぞくと『緑の歌。』(Gao Yan 作
 
  劉堅白 訳 Mangasick)という、薄いコミック本が入っていた。台湾の
 アーチスト、Gao Yan(高妍)が細野晴臣の音楽にインスピレーションを得て
 描いた作品で、ぼくはブックギャラリーポポタムのサイト(https://popotame.
 com/)でこのコミックのことを知って、ずっと気になっていた。台湾での細野
 晴臣のコンサートに行ってきた友人がおみやげにくれたのだ。「緑の歌」は、
 細野晴臣の曲にインスピレーションを得た4つの短編を収めているから、細野
 さんの台湾コンサートの最高のおみやげだった。

 
  最初の一編のタイトルは「風をあつめて」。高校時代に「風をあつめて」を
 聴いた主人公が日本を訪れて、すぐにタワーレコードに行ってアルバム「風街
 ろまん」を買う。そのとき店内に流れていた曲が気に入って、店員に曲名を訊
 く…。そこに流れていたのは「恋は桃色」だった。モノローグのような静かな
 作品でストーリー展開もほとんどないのだけれど、「細野さん愛」にあふれて
 いて、読んでいて涙が出そうになった。ぼくが初めて細野晴臣の音楽を聴いた
 ときに感じた、あの頃の感覚を思い出したからだ。


  作者のGao Yanは、まだ22歳の女性で、日本でも雑誌にイラストを描くなど
 活躍しているアーティストらしい。彼女のtwitterには、細野さんとの記念写
 真があがっていた。
「風をあつめて」を収録している、はっぴいえんどのセカ
 ンドアルバム「風街ろまん」がリリースされたのは1971年だから、もう半世紀
 近くも前の曲だ。
「風街ろまん」を買ったとき、ぼくは14歳だった。近所のレ
 コード店で、人相の悪い4人の顔がならんだジャケットを見つけたときのこと
 をよく覚えている。はっぴいえんどは、フォーク歌手・岡林信康のバックバン
 ドをしている頃から知っていて、ファーストアルバム「はっぴいえんど」
 (通称ゆでめん)も買っていた。でもセカンドアルバムが出ていたことは知ら
 なかった。その日は、たぶん、マデュラというロックバンドのデビュー盤を買
 いに行ったのに、邦盤ロックの棚に「風街ろまん」を見つけたとたん、マデュ
 ラのことは頭から飛んでしまっていた。ちなみにマデュラのレコードを買った
 のは、あれから40数年後の昨年のこと。中古で700円だった。いまから考える
 と、町の小さなレコード店なのに、それほど有名でないバンドのレコードも置
 いてある品揃えのいい店だったようだ。昔はそういう小さな店がたくさんあっ
 たんだ。
「風街ろまん」は、どの曲も良くて何度も繰り返して聴いたけれど、
 なかでも細野さんが作り、歌っている「風をあつめて」は大好きな曲だった。
 そのころギターはうまく弾けなくて、イントロのギターをどうやって弾いてい
 るのか見当もつかなかったっけ。まあ、「風をあつめて」のギターはなかなか
 難しいから当然だろう、細野さん本人もうまく弾けないくらいなのだから。

 
  ぼくが中学生のころは、まわりはだれも、はっぴいえんどのことなんか知ら
 なかった。ロック好きの男子も知らないのだから「風をあつめて」を聴いたこ
 とのある女の子はどれだけいたんだろうか?
 
  インターネット、SNSのない時代、だれがどんな音楽を聴いているかなんて、
 知りようもなかった。はっぴいえんどの曲は、テレビはもちろん、ラジオで
 もあまりかからなかった。
 

 

 台湾で「風をあつめて」はどんなふうに聞こえたのだろうか。言葉だってわ
 からないだろうし、40数年まえの曲がどんなふうに彼女に響いたんだろう。日
 本のアニメと漫画を見て育った世代だから、それほどギャップは感じなかった
 のだろうか?
 
  それでも半世紀近く前の中学生と同じように感動した、台湾の女の子がいる、
 ということに驚いてしまう。「風をあつめて」は時代も国境も越えてしまう音
 楽で、そして、このコミックのように新しい作品を生み出している。世の中、
 悲観することばかりではないのだな。

 
  主人公がタワーレコードで聴いた曲は「恋は桃色」だった。細野さんのファ
 ーストソロアルバム「HOSONO HOUSE」に入っている。主人公はこの曲を聴いて
 「とても昔になくした、でもどこか懐かしい思い出に足を踏み入れたみたいだ
 った」と感じている。細野さんの音楽を聴いていると、昔懐かしい風景が目に
 浮かんでくる。でも、それは実際にある風景ではないだろう。細野さんは、当
 時暮らしていた福生の風景を描いていると語っているけれど、それは細野さん
 の頭の中にある“懐かしい風景”なのではないか、と思う。細野さん独特のメ
 ロディ、和音、リズム、そしてα波が出ているという細野さんの歌声が作り出
 す細野さんの“ノスタルジーの世界”に入り込んでしまうのだ。現実にはあり
 得ないパラダイス、「はらいそ」なのだろう。

 
  Gao Yanの『緑の歌。』を読んでいると、細野さんの歌が聞こえてくる。そ
 して台湾に住んだことのないぼくにとっても「とても昔になくした、でもどこ
 か懐かしい思い出に足を踏み入れたみたい」な気持ちになる。きっとGao Yan
 の、「はらいそ」に行っているのだろう。
つい先日、『HOSONO HOUSE』を新た
 に録音した『HOCHONO HOUSE』がリリースされたばかり。新バージョンの
 「恋は桃色」を聴きながら、もういちどページをめくりたい。

 
 ◎吉上恭太
 
文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。翻訳絵
 本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。
 セカンドアルバム
 「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


 
 
  

 
 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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    この版元の本はずっと気になっていました。近所の書店でも数学書の棚で
 イチオシされているもので…。しかしながら実際に手に取ってみると数学とは
 縁遠い人生を送ってきた私には、容易に理解できそうもないものが多く敬遠し
 ておりました。そんな中ようやく私にも理解できそうで、ここでも紹介できそうな
 本を発見。
 
 『科学の黒歴史』、茗荷さくら、暗黒通信団、2018
 
  「黒歴史」とはインターネット上などではよく目にすることばですが、もう一般
 的に使われているのでしょうか?まだ少し早いか。意味としては封印してしま
 いたいような過去の行いのことです。
 
  科学の発展というときらびやかな印象ですが、もちろん皆さんもご存じのと
 おり、 そこには後ろ暗いあれこれもつきまとっているものです。
 
  まずはエジソンとニコラ・テスラという大物が登場。ニコラ・テスラというとマッド
 サイエンティストというイメージもあったりして黒いのはテスラかと思いきや、電
 流戦争という送電システムを巡る争いの中ではエジソンがかなり悪辣な行いに
 出ました。
  
  送電システムには直流と交流がありますが、当時直流を売り出そうとしてい
 たのがエジソン、交流を推し進めていたのがテスラでした。そしてこの争いの
 中で、エジソンは交流電流のネガティブキャンペーンを始めます。その中で用
 いられたのが動物に感電させて交流電流がいかに危険かをアピールすると
 いう方法です。それは次第にエスカレートしていくことになるわけですが…。
 歴史上の大発明家とされるエジソンですが、これはちょっとひどい。
 
  さらには核兵器の開発も科学の黒歴史と言えるでしょう。核兵器による一般
 市民の大量虐殺は、当時の倫理観からしても看過できるものではないでしょう
 (もちろん日本軍の行いにも同様に看過できないものがありますが、本書は戦
 争についての本ではないので)。
  
  核兵器の開発中に行われた、後にデーモン・コアと名付けられたプルトニウ
 ムの球を使った実験は放射線の脅威をまざまざと感じさせます。臨界に達す
 るかどうかのぎりぎりのラインをマイナスドライバーで調整するなんて恐ろしす
 ぎます。
 
  それでも原爆が投下されると核兵器には批判的な態度をとる科学者が多く
 出ました。しかし中にはエドワード・テラーのように核開発に邁進し続けた人
 物もいました。彼が計画したものとして本書に紹介されているチャリオット作
 戦なるものは、実行こそされなかったものの、本当にそんな計画があったの
 かとあきれてしまうような内容です。まさに黒歴史と呼ぶにふさわしいのかも
 しれません。
 
  他にもロボトミー手術だとかサリンの人体実験だとか、気の重くなるような話
 が続きます。軍事が絡んでいたり、未発達の分野で実験が行われたりする時
 に黒歴史が生まれているようにも思えます。戦争に勝ちたいとか、新技術で利
 益を得たいとか名誉を得たいとか、そういった欲望が絡むと何か別のところを
 踏み外してしまうのでしょうか。
 
  現代も様々な科学技術が発展し続けているだけに、今もどこかで黒歴史が
 生まれ続けているのかもしれません。著者は出生前診断の例を引いています。
 胎児が生まれる前に遺伝子疾患の恐れがあるから中絶してしまうことは議論
 があるところかもしれませんが…。
 
  人間は平等でむやみに生命を奪うことはよくないこと。というのは現代社会
 の基本だと思うので、そこは肝に銘じておかないと、世の中は変わったとか科
 学の進歩とかいう言葉に惑わされて、黒歴史にうっかり巻き込まれかねません
 ので気をつけないといけませんね。
 
  ちなみに暗黒通信団はこのほかにも数学や科学関係の難しそうな(薄い)本
 を多数刊行してしておりますので、興味のある人は手に取ってみたらよろしい
 のではないでしょうか。そして数学や科学関係の難しそうな(薄い)本以外の本
 も多数刊行してしておりますので、興味のある人は手に取ってみたらよろしい
 のではないでしょうか。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 武藤良子『先頭断片日記』刊行記念トークショー    ブックギャラリーポポタム
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  イラストレーター武藤良子さんの初の単行本が
  金沢の龜鳴屋から出ることになりました。
 
  ゆかりの地、池袋で刊行記念のトークショーが開催されます。
 
 
 ◆日時:2019年4月25日(木) 19時半〜21時
      オープニングパーティートーク ゲスト:内堀弘(石神井書林)×武藤良子
 
      ★入場料:1500円(1ドリンク付)
      ☆定員:20名(要・予約)
 
      2019年4月26日(金) 19時半〜21時
      トークイベント ゲスト:南陀楼綾繁×武藤良子
 
      ★入場料:1500円(1ドリンク付)
      ☆定員:20名(要・予約)
 
      2019年4月27日(土)まるまる一日サイン会
       入場無料
 
 □予約は、ブックギャラリーポポタムまで、TELかメールでお願いします。
 
       TEL 03−5952−0114
 
       email popotame@kiwi.ne.jp    (営業時間は13時〜19時です)
 
 ◇場所:ブックギャラリーポポタム
      〒171-0021 豊島区西池袋2−15−17
      
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 ■あとがき 今年の春は暖かく、もう桜が咲きそうですが、本の世界は(いつも
 ですが)厳しい話ばかり耳にします。出版も流通も読者も、当たり前のように
 変わっていくこのとき。しっかり目を開けてみていこうと思います。 畠中理恵子
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
   ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
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[本]のメルマガ vol.710


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■■ [本]のメルマガ                 2019.03.05.発行
■■                              vol.710
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『世界の核被災地で起きたこと』

フレッド・ピアス著 多賀谷正子・黒河星子・芝瑞紀訳
四六判 368頁 本体2,500円+税 ISBN: 9784562056392

人類は核の被害をいかに被ってきたか。著名環境ジャーナリストが、福島はも
ちろん世界の事故・被ばく現場、放射性廃棄物を抱える地域を取材。原爆以降
の核被災の歴史を一望、いま世界で何が問われているのかを明らかにする。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その33「吸血鬼たち」その1.

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第118回 「対象化する」言葉の身振り

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その33「吸血鬼たち」その1.

その1.バイロンからポリドリ、そして中井英夫へ

 吸血鬼についてあれこれ考えている。実は吸血鬼の物語には、とてもおいし
そうな食物がたくさん描かれているからだ。
 
「なんだって、おまえも吸血鬼なのか?」
 
なんて、言わないでほしい。
 
 もちろん、吸血鬼は食事をしない。少なくとも普通の人間が食べるように一
日三食食べたりはしない。
 
 獲物を狙いその血を吸うという行為はするのだが、これを食事と言い切って
いいかは疑問でもある。様々な作品の中で作者はその行為を、狩りとか愛とか
エネルギーの交換とか言い換えているからだ。

 だが、まるきり食物を口にしないかと言うと、そうでもない。吸血鬼が獲物
である人間に近づく時、吸血鬼はその正体を隠して普通の人間のふりをしなく
てはならない。獲物である人間の家に同居したりもする。その時、どうやって
食物を食べずに生活するのだろうか? やはり少しは何かを口にするのではな
いだろうか?

 そこで、私のお気に入りの吸血鬼の物語から、吸血鬼の食事場面を見て行こ
うと思う。

 数ある物語の中では、登場人物たちが実においしそうな食事をする場面もあ
るのでお楽しみに。
 
 もちろん見るもおぞましい場面があるかもしれないので、繊細な方は少々ご
注意を。
 
 吸血鬼について語るにあたっては、まず、レマン湖のほとりのディオダティ
荘の怪奇談義から始めざるを得ない。
 
 時は、1816年の夏。レマン湖のほとりの別荘で、長雨に降りこめられて退屈
したバイロンは、ドイツの幽霊物語に倣って、めいめい物語を書こうと言い出
す。メンバーはバイロンの侍医ポリドリ、シェリーとその時はまだメアリー・
ゴドウィンだったメアリー・シェリーとその義妹。シェリーは詩を書き、ポリ
ドリは頭をしゃれこうべにされた女性の物語を書こうとして果たせなかったと、
メアリー・シェリーは『フランケンシュタイン』の第三版の序文に書いている。
そう、ここで生み出されたのがメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』
の物語なのだ。そして、バイロンは『断章』を書き、詩『マゼッパ』に添えて
出版した。

 バイロンが生み出したこの『断章』は文字通り最後まで書かれてはいないの
だが、大変魅力に満ちた物語だ。主人公は若い青年。謎に満ちた年上の男性に
惹かれ、欧州旅行に同行してくれるよう頼む。トルコでこの男性は体調が悪く
なり死の間際に青年にあることを頼む。それは、どの月でもいいから九日の日
に指輪をある塩泉に投げ入れて欲しい、そして、次の日またそこに来てくれと
いうもの。今際の際なのに、男性は他にも実に謎めいたことを語りながら死ん
でいく……。
 
 この物語の唐突な終わり方は逆にここから広がる物語の可能性を示し、読者
の想像力をかきたてる。

 ポリドリもそれを感じたのだろう。物語の発端はほとんどこの枠組みのまま
『吸血鬼』を書くのだ。イギリスに初めて現れた小説としての『吸血鬼』。け
れども、雑誌社がこの物語の作者をバイロンとしたため、バイロンとポリドリ
の抗議にもかかわらずこの作品はバイロン作としてヨーロッパ中に広まり、人
々を魅了し、何十年にもわたる吸血鬼ブームを呼び起こした。だが、ポリドリ
は失意のまま早逝する。

 そんな不運な運命をまとった物語ながら、この小説は見事にバイロンの系譜
を継いでいると言える。そしてその系譜とは例えばオスカー・ワイルドの作品
などにもみられるようなホモセクシュアルな愛を描いたもので、現代ではBL
などともよばれているゲイ文学の系譜なのだ。

 それでは、まずこの小説の中をさぐって行こう。

 物語は奇妙な年上の男性ルスヴン卿に魅了されたオーブレーという裕福な青
年が、欧州旅行に出かける計画をルスヴン卿に打ち明け、ルスヴン卿から同行
の意を受け、大喜びで出かけていくところから始まる。けれども、ルスヴン卿
の行いには邪悪なものがあり、ためらいを感じ始めた頃、オーブレーは後見人
たちから、ルスヴン卿が極悪漢であるから直ちに手を切るようにという内容の
手紙を受け取る。彼は、ルスヴン卿が若い伯爵令嬢を毒牙にかけるのを阻止し、
一人でギリシャに旅立つ。ここで、間借りをした家の純朴な娘から、土地に伝
わる不死の吸血鬼の奇譚を聞く。ある嵐の一夜、彼女が森の小屋の中で吸血鬼
に襲われるのをみたオーブレーは、助けようとして果たせず、病に陥る。やが
て追いついてきたルスヴン卿が、手厚い介抱をしてくれ、二人はまた仲直りし
て旅に出る。だが、その道中で山賊に襲われ、ルスヴン卿は亡くなってしまう。
彼は今際の際に、一年間は自分の死を口にしないようにとオーブレーに誓わせ
る。ロンドンに戻ってしばらくたった時、ルスヴン卿がいつのまにか生き返っ
て社交界に出没しているのを知る。だが沈黙の誓いはオーブレーを脅えさせ狂
気に追い込み、ルスヴン卿が狙いをつけた自分の妹を守ることもできない。ル
スヴン卿と結婚した妹は吸血鬼に貪りつくされた姿で発見され、卿は姿をくら
ますのだった。

 これを読んでまず驚いたのは、吸血鬼の吸血場面がないことだった。
 ルスヴン卿は誰にも咬みつかない。牙も出さない。蝙蝠にもならない。ただ
その餌食たる若い女性が犠牲になったとあるので、血を吸われたのだろうと分
るだけだ。
 さらに、ルスヴン卿は魅力ある男として社交界の宴席に必ず招かれるとある
ので、飲食を人間のようにしているはずなのだが、残念ながらそういう場面も
ない。残念だ。

 この小説は見事にバイロンを踏襲し、青年の年上の男性への憧れと、無力感
と破滅が描かれていて、ある意味その実人生においてポリドリがバイロンに感
じたものを想像させずにはおかない。

 だからといって、本の中の食物を描かずに終わるわけにもいかないので、こ
の系譜に連なる小説をもう一つご紹介しようと思う。

 ある青年が近所の行きつけのスナック”彼”でに出会う。

……カウンターに並んだ客としきりに悪魔の話に興じているのが関心を唆った。
……

 興味ある奇妙な話題を盛んに話す”彼”に惹かれ、スナックに行くたびにぼ
んやりとグラスを片手にその話を聞きいていた青年は、ある日その隣の席に座
ることができ、言葉を交わすようになる。そして、親しくなり、水曜と土曜の
宵にはカウンターで話をする約束をする。
 
 不思議な符号に満ちた話は幾晩も続く。

……悪魔、変光星、馬の首星雲、洞窟の壁画、フランス革命暦……

 やがて、青年は期待に満ちた思いで待ち受けるようになる。

 そう、”彼”が首筋に触れる夜を。

 さてこの物語にも残念ながらいわゆる吸血場面はない。”彼”には牙もなく
喉元に咬みついたりもしないのだ。

 ただ、この物語で不思議に思うのは、毎週水曜と土曜、二人は延々とスナッ
クのカウンターで話を続け「ふたりは遅くまで飲んだ」とまで書かれているの
に、”彼”が何を飲んだかは一度も描かれていないのだ。夜のスナックなら、
おつまみくらい食べただろうに。

…青年はいつもより長く、余分にウィスキーグラスを手にしていた…

 と、あるので、”彼”も同じ酒を飲んでいたに違いないと思っている。

 たぶん”彼”は、その長い指でナッツの入ったガラス皿をもてあそびながら
も、決して口にしなかっただろうとも想像するのだ。

 読者の方は是非、バーのカウンターに座る時、あるいはウィスキーグラスを
手にする時、”彼”の姿を捜してみて欲しい。吸血鬼がいかなる味わいをこの
琥珀色の液体に見出したのかを思うこと、それが今宵の絶好のおつまみになる
だろう。

と、いうわけで、今回はここまで。

 次回は、美しく謎に満ちた少女の吸血鬼の食物を見て行きたい。

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「血と薔薇のエクスタシー 吸血鬼小説傑作集」 幻想文学出版局
『影の狩人』中井英夫著「書物の王国12吸血鬼」図書刊行会
『解題 浪漫派の交流の中から』須永朝彦著
『断章』  ジョージ・ゴードン・バイロン著
『吸血鬼』       ジョン・ポリドリ著
『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー著 光文社古典新訳文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第118回 「対象化する」言葉の身振り
    ―シャルル・ボードレール(山田兼士訳)『パリの憂愁』(思潮社)

 ぼくは翻訳詩を余り読まない。外国語ができないぼくは、原詩の言葉の音楽
性はどうなっているんだろうかということが気にかかり、悔しい想いが先に立
ち、読むのを躊躇してしまうのだ。その中で、シャルル・ボードレール(1821
-1867)の詩は別格で、若い頃から愛読してきた。反道徳的なもの、不愉快な
もの、醜いもの、それまで詩のテーマにされなかったものをクローズアップし、
更にそれを意表を突く視点から表現する。思考の稼働領域を広げようとする強
い意志に魅されてしまうのである。

 ボードレールの2冊の詩集『悪の華』と『パリの憂愁』のうち、一般的に知
名度が高いのは圧倒的に前者だろう。大胆に価値の転倒を歌い上げるこの詩集
は、発表当時スキャンダラスな話題を呼び、風俗壊乱の罪で罰金刑に問われた
という。『悪の華』はすごい詩集だと思うが、ぼくが何度も読み返したのは
『パリの憂愁』の方だった。『パリの憂愁』は散文詩集で明確なプロットがあ
り、読みやすかったこともあるが、それ以上に内容面で共感するところが多か
った。『悪の華』は負の道徳的価値観を、ある意味、元気よく肯定的に描いて
いると言える。そのやや抽象的でペダンティックな表現は、負の価値観に則っ
たヒロイズムを感じさせる。ひねりにひねった表現ではあるが『悪の華』は青
春の文学なのだろう。しかし『パリの憂愁』にはヒロイズムやダンディズムは
ない。裏切られた期待、冴えない生活、浮かない気分、中年期(ボードレール
の人生では晩年にあたるが)にさしかかった人間の真情が伝わってくる。と同
時に、そうした「冴えないもの」を高次から見つめる詩人としての確かな目が
感じられる。その両義的で複雑な味わいがたまらなく魅力的なのだ。

 昨年秋に思潮社から刊行された山田兼士訳・解説の『パリの憂愁』は、この
不思議な風韻の詩集について改めて考える機会を与えてくれた一冊だ。訳者の
山田兼士は、各編ごと懇切丁寧な解説を書いている。きびきびとした訳文も良
いが、この解説は研究者らしく言葉の裏の裏まで考え尽くしていてすばらしい。
本稿では素で読んだ印象を大切にしたいため、山田の解釈に触れるのは控える
ことにするが、各詩への解説は単なる解題を超えた、踏み込んだ内容の批評先
品であり、是非実際にお手に取って確かめていただきたいと思う。

 本書には不条理な出来事を描いた詩が多数収められている。超自然的な、い
わゆる怪談ではないのだが、怪談以上に既存の日常的な意識を食い破るスリリ
ングさがある。「不都合なガラス売り」はその代表格。冒頭で普段行動的でな
いくせに衝動にかられて突発的な行動を取る人がいる、と一般論的に述べた後、
自身のとんでもない体験を語る。ガラスを売り歩く商人を呼び止め、アパート
の7階まで昇らせた挙句、商品にケチをつけて帰らせ、そればかりか路上を歩
く商人の荷物めがけて鉢植を落として商品のガラスをメチャメチャにしてしま
うという内容だ。話者は「ほんの一瞬にせよ悦楽の無限を見出した者のことだ、
地獄落ちの永遠などかまうものか?」とウソぶく。この作品が掌編小説でなく
詩であるのは、自らの奇異さに驚きつつ奇異を成し遂げてしまう意識のありよ
うをイメージの層で捉えているからではないかと思う。冒頭で一般論として述
べた「そういう性質の人々」に、いつのまにか自身が当事者として加わり積極
的に行為してしまう。透徹した意識が撓み、暴発する様を、更に高次の意識が
歪なグラフのように描き出していく。お話としての面白さを超えた、メタ認知
の様態の面白さが特徴的な詩だ。

 貧困に目を向けた作品も複数ある。ボードレールは父の遺産を散財したこと
で禁治産者の扱いを受け、しばしば母親に金の無心をしている。これらの作品
には、贅沢と困窮の両方を経験した彼の社会に対する意識が明瞭に伺える。
「菓子」は旅をしている時の体験を描いた作品。休憩時にパンを取り出すと、
汚い恰好の少年がパンを凝視しながら「菓子」と囁く。哀れに思ってパンをひ
と切れ彼に手渡すが、そこへもう一人浮浪児が現れ、パンを争って先の少年と
喧嘩を始める。精根尽き果てて二人が喧嘩を止めた時、パンは最早食べ物とは
呼べない屑になり果てていた。それを見た話者は「実に見事な国があるものだ、
そこではパンが菓子と呼ばれ、完全な兄弟殺しの闘いを引き起こすのに十分な
美味とされるのだ!」と呟く。ここで描かれるのは、一般の貧困を超えた貧困、
最下層の人間の貧困である。金に困った経験のあるボードレールは、貧困の極
限というものについて考えてみようと思い立ったのだろう。その結果生まれた
のが、「パン」と「菓子」の言葉の対比関係である。小麦で作られた食べ物が
「パン」と呼ばれているうちは、世界はまだ既存の日常の枠の中にある。だが、
「菓子」と呼ばれるようになると世界は全く違った様相を纏うようになる。
「菓子」という単語一つで、日常が異世界に変わってしまったのだ。

 ボードレールは多くの女性と交際し、彼女たちは彼にとってインスピレーシ
ョンの源となった。「情婦たちの肖像」は、賭博場に集った4人の男たちが、
つきあってきた女性について語りあうという詩。この詩には前作と考えられる
別の詩「天職」がある。それは4人の少年が気にかかったことをそれぞれ語る
というものである。少年たちがどんな大人になったかということを女性とのつ
きあいを通じて描くというわけだ。芝居に関心を持った少年は男勝りな性格の
美女とつきあって疲れ果て、神の実在を信じていた少年は従順だが不感症の女
とつきあって嫌気が差し、家のメードに性的関心を抱いていた早熟な少年は多
情な女性とつきあって裏切られた。作者自身を投影したと思しき、世界を流れ
歩く楽師たちへの憧れを語った少年は、自分を完全にコントロールしようとす
る女性とつきあって束縛の苦しみを味わった。希望は気楽に語れるものだが、
生身の女性は他者であり、思い通りにできるものではない。しかし、実は思い
通りにできないところに他者としての女性の魅力があるわけだ。お気楽だった
彼らは女性の姿を纏った「現実」と出会って挫折し、冴えない姿を曝け出すが、
それでも人生は続いていく。その「〈生〉を加速するために」彼らは「新しい
酒壜を注文するのだ」。

 これまで物語としての骨格がはっきりした叙事的な詩を紹介してきたが、孤
独な胸のうちを吐露した叙情的な詩も少なくない。その場合でも、ボードレー
ルは決して一本調子に歌を奏でることはない。「二重の部屋」は自室で一人静
かに過ごすひとときを描いている。誰も邪魔する者のない部屋で自由気儘に夢
想に耽るひとときは、孤独を愛する話者にとって「至高の生」を生きる時間で
あり、「歓喜にあふれた永遠」にも思えるものだった。が、そこへ「妖怪」が
入ってくる。その「乱暴な一撃」によってそれまでの陶酔は吹き飛んでしまう。
「妖怪」とは何か? それはどうやら「現実」のことである。話者の外部にあ
って、話者の意志に従わず、話者の行動に制約を設ける。その力が端的に示さ
れるのは老いと死と衰退を運ぶ「時間」においてである。さっきまで楽園のよ
うだった部屋は、「狭苦しく不快感に充ちた」ものに変わり果ててしまった。
話者は時間が「その二本の針で、まるで私を牛か何かのように追い立てる」よ
うに感じる。詩の前半では話者は自分の人生を主体的に楽しんでいるが、後半
では擬人化された「時間」によって、奴隷のように「生きさせられ」ている。
情景としては、男が一人、部屋に佇んでいるだけなのに、詩の言葉は地獄落ち
を語るようにドラマティックである。

 『パリの憂愁』は、それまで詩が扱ってこなかったような散文的な事象、い
や、どんな散文も扱わなかった微細な事柄を大胆に主題に据えている。しかし
この詩集の真価はその独創的な題材の選び方にあるのではない。対象を描くに
あたって、対象を殊更に「対象化する」身振りをもって語る、その語り口にあ
る。それは、絶えず物事の自明性を疑い、見慣れた現実から日常性を剥ぎ取っ
ていく。話者は、あたかも自身の主体性を切り崩すかのように、絶えず逡巡し
ながら語るのだ。自分自身をも対象に加えながら語る、つまり自己言及を底に
秘めた語りなのである。

 ボードレールは序文で「律動も脚韻もなく音楽的で、魂の抒情的運動にも夢
想の波動にも意識の突発的振動にも適応するほど、十分に柔軟で十分に対照の
激しさをもった、詩的散文の奇跡」を夢みた、と書いている。外形からはっき
りわかる韻律を持たないこれらの詩からは、一定の方向に進まない、寄せては
返すような意識の律動が生々しく感じられる。この律動のことをボードレール
は言葉の「音楽」と呼ぼうとしたのではないだろうか。『パリの憂愁』には作
曲家・ピアニストのフランツ・リストに捧げた詩がある。リストは晩年、無調
の音楽を夢想し、調性感の曖昧な曲を書いた。リストが現代音楽への扉を開い
たように、ボードレールは現代文学への扉を開いたのかもしれない。

*シャルル・ボードレール(山田兼士訳・解説)『パリの憂愁』
(思潮社 本体2200円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れました。すみません。(aguni原口)

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 展と科学革命が17世紀オランダにもたらした「見る」概念の大転換点を解説。
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第57回「平成30年著作権法改正について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第116回 町に愛される書店

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → AIって何?
  
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 ■トピックス
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 1つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
 ----------------------------------------------------------------------
 第57回「平成30年著作権法改正について」
 
 こんにちは。大変ご無沙汰をしておりました。昨年の12月初旬に,その半年ほ
 ど前から入退院を繰り返していた父親が亡くなりまして,常日頃より定命は逃
 れがたしと考えているので,特に残念とかそのようなことはなかったのですが,
 それにしてもひとひとり亡くなると諸手続きが面倒な上に財布がどんどん軽く
 なり,その上幾分離れたところに住んでいたものですから手続きに関わるため
 の移動がまた大変ということで,結局3回も連載をお休みすることになりました。
 今回より復帰いたしますが,休んだ分を取り戻せるような記事を書けるかどう
 か,寝かせておいたネタが寝かされすぎて時期を失してしまったりしているの
 でかなり不安です(苦笑)。
 
 さて今回は著作権のお話でみなさまのご機嫌を伺います。実のところ著作権を
 巡る喫緊のトピックは海賊版対策において,違法ダウンロードの対象を静止画
 も含めた著作物すべてに広げる著作権法改正を安倍晋三政権が検討している
 ことですが,これはもう少し追いかけてから取り上げることにします。
 
 ご存知のとおり,2018年5月に公布され2019年1月より施行されている「著作
 権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)」により,次の4点につい
 て法改正がなされました(1)。
 
 1) デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
    (第30条の4,第47条の,第47条の5等関係)
 2) 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
 3) 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
    (第37条関係)
 4) アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等
    (第31条,第47条,第67条等関係)
 
 改正に関する解説(2)でも1)の「柔軟な権利制限規定の整備」についてはかな
 りのページを割いて説明がなされており,Web上においてもこの改正をビジネ
 スチャンスだと捉えているページが散見される一方,図書館業界では3)の「盲
 人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物
 を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(3)締結に伴う対応が重要
 視されているようで,日本図書館協会や国立国会図書館から様々な形でアナ
 ウンスがなされています(4)。マラケシュ条約への対応は,特に公共図書館が
 担うべき「ユニバーサルサービス」や「社会的公正」の保障という点からも重
 要であり,図書館業界が今次著作権改正の中で最重要視するのは当然のこと
 です。
 
 ところで,わたしは大学図書館に勤務していることもあって,今次著作権改正
 では2)の「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」が気になってい
 ます。2018年5月,まさに今次著作権法改正が成立したその日に開催されて
 いた大学図書館シンポジウム(5)のテーマになってはいましたが,改正が成立
 したのちも,管見の限りではさほどひとの口の端に上ることがないように見え
 ます。しかし,大学を含む教育機関(営利を目的とするものを除く)にとって
 この改正は,JASRACが楽器教室から著作権使用料の徴収を開始する決定を出し
 たこと(6)にも匹敵する,あるいはそれ以上の社会的影響を及ぼす改正なので
 はないかと,わたしは考えています。
 
 この改正は,これまで営利を目的としない学校その他の教育機関においては,
 授業内での使用に限って他者の著作物の無断使用および複製を認めていた
 (教室の外に持ち出すことはできない)ものを,今後は授業で利用していた他
 者の著作物の無断使用・複製を含めた教材を教室の外での公開・利用も可能
 にしますよ(元著作者の権利制限の拡大),そのかわり補償金の支払い義務
 を営利を目的としない教育機関にも課しますよ,というものです。言葉だけで
 説明しようとするとなかなかややこしい話です。
 
 ここで問題になるのは,営利を目的としない教育機関であってもこの改正の補
 償金の支払い義務を負わされることです。権利者側からすると,これまでが間
 違っている,という主張のようです(7)し,文部科学省も「本条における著作物
 の利用の主体は非営利教育機関であり,その教育活動には高い公益性が認めら
 れることから,当該教育機関が支払うべき補償金の額は,同条の趣旨も踏まえ
 たふさわしい額とすることが適当」(7)とは言うものの,これまで一銭も払う必
 要のなかったものを新たに予算措置して支払うことには抵抗がありそうです。
 
 漏れ伝わるところでは,補償金が支払われる先となる「指定管理団体」,また
 教育機関の側で補償金の支払いを取りまとめる「教育機関の設置者の代表団
 体」および補償金の算定方式は未定とのことですが,遅くとも「公布の日から
 起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」の期限である2021年
 5月25日までには上記団体が決定し補償金を各教育機関が支払う義務が生じ
 ると考えられます。そのときになって悶着の種にならないような対応が,教育
 機関の側にいまから求められることになるのではないでしょうか。
 
 では,また次回。
 
 
 注記
 (1) 著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について 
      | 文化庁
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                                      /h30_hokaisei/
 
 (2) 著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                  /h30_hokaisei/pdf/r1406693_11.pdf
 
 (3) 盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された
     著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約 | 外務省 
      https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page25_001279.html
 
 (4) E2041 - マラケシュ条約の締結・著作権法の改正と障害者サービス
      | カレントアウェアネス・ポータル
      http://current.ndl.go.jp/e2041
      著作権法の改正とマラケシュ条約の締結(日本図書館協会)
      http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai
           /%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1
                 %E4%BC%9A/Marrakesh%20Treaty_Flyer_20181106.pdf
 
 (5) 大学図書館著作権検討委員会主催「大学教育のICT化と著作権法改正
      : 学習資源のデジタル化と図書館資料の活用」の開催について
      (お知らせ) | 国公私立大学図書館協力委員会(JULIB) 
      https://julib.jp/blog/archives/1977
 
 (6) 楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A) JASRAC 
      https://www.jasrac.or.jp/info/gakki/faq.html
 
 (7) 著作権法の一部を改正する法律?概要説明資料 p.13
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                  /h30_hokaisei/pdf/r1406693_02.pdf
 
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  

 
 第116回 町に愛される書店

 
  千駄木にある古書ほうろう(https://horo.bz/)が3月に移転することにな
 った。移転先が池の端なので、それほど遠くはないことを知ってホッとしてい
 る。それでも、いつも、そして、いつまでも「そこにある」と思っていた古書
 ほうろうが、千駄木の町からなくなってしまうのだ。やはりさびしいなあ。つ
 い先日、日暮里にある古書信天翁が閉店したばかりだ。古書信天翁は、古書ほ
 うろうにいた山崎さんと神原さんのおふたりが2010年に開店した古書店だった。
 町から、ふたつも古書店がなくなってしまう。誰に文句を言えばいいのか、わ
 からないけれど、町は大きな財産を失ったのだと思う。

 
  古書ほうろうのホームページに掲載された移転の挨拶をなんども読んだのだ
 けれど、道灌山下の交差点に、古書ほうろうのウィンドウがなくなることはど
 うしても想像しにくい。クリーニング店のとなりに「BOOKS HORO」の看板がな
 くなった風景を思うと、ちょっとおおげさだけれど、大きな喪失感を覚える。
 千駄木がもう知っている町ではなくなってしまうような気がするのだ。それほ
 どこの町の風景に溶け込んでいたし、その存在は大きかった。それは古書店と
 して、本を売ったり、買ったりする店としてだけでなく、町と人を結びつける、
 人と人が出会う「場」であったからだ。古書ほうろうを知っている人なら、き
 っと、だれでもが感じることだろう。
 
 
 古書ほうろうでは、本について、映画について、音楽、落語、町のこと、
 ジャンルを超えたバラエティに富んだトークショーや展示も行われてきた。い
 わゆる流行を追ったものではなく、地味だけど知っておきたいことがテーマに
 なっていた。そして、なによりも不忍ブックストリートの一箱古本市の本部と
 しての役割も大きい。そういえば、一箱古本市のときに古書ほうろうの宮地
 健太郎さんが「恭太さんにぜひ会ってほしい人が箱を出しているから、行って
 ください」と声をかけてくれた。それが音楽やサブカルに詳しい「たけうま書
 房」さんだった。おたがいに人見知りをするタイプだったから、そのときは、
 それほど話は弾まなかったけれど、いまでも大切な友人のひとりになっている。
 そうやって、人と人を結びつけてくれる場所でもあった。

 
  ぼくが古書ほうろうを訪ねるようになったのは、一箱古本市がきっかけだっ
 たから、もう14年になるのか。本好きの友人たちがいっしょだったかもしれな
 い。初めて訪れた印象は、以前のホームページの口上にあるように「ほこりっ
 ぽくない、薄暗くない、敷居が高くない」だった。町の古本屋にしては広い店
 内の棚には日本文学、外国文学、詩集、美術書、そして音楽関係の本がずらり
 と並んでいた。通路に余裕があるせいか、たいていの古本屋に入ると感じる息
 苦しさがまったくなかった。それでいて新刊書店にあるよそよそしさがなくて、
 古い本の匂いが心地よかったくらいだ。

 
  店は、若い(当時は…です)二組のカップルが運営していた。ぼくの持って
 いた古本屋のイメージとまったく違っていて新鮮だった。


  古書ほうろうの「ほうろう」は、音楽好きなら「ああ、そうか」と思うだろ
 う。小坂忠の名盤「ほうろう」が由来となっている。2010年暮れには、本当に
 小坂忠さんがやってきて歌ってくれた。古書ほうろうで名曲「ほうろう」を聴
 くことができるなんて夢のようだったな。そう、古書ほうろうは、夢を叶えて
 くれる場所だった。

 
  2010年の7月から「サウダージな夜」というライブをやらせてもらうように
 なった。ぼくはギターを弾くことが好きで子どものころから、とくにプロを目
 指すでもなく、ずっと弾き続けてきた。縁があり、50歳近くになって、ライブ
 でギターを弾いたり歌ったりするようになったのだが、もちろん大きなコンサ
 ートなど夢見たこともなかった。ただ友人たちにギターを聴いてもらえる、ち
 いさな集まりが出来たらいいな、とはずっと考えていた。
 そんな夢が実現したのも古書ほうろうだった。

  
  きっかけは不忍ブックストリートの茶話会で、ぼくがギターの師匠である
 伊勢昌之というジャズギタリストの話をしたことだった。筒井康隆のエッセイ
 集「狂気の沙汰も金次第」(新潮文庫)にも登場する伊勢昌之は、どうしても
 その奇行ばかりが話題になってしまうが、だれよりも早くブラジル音楽を研究
 し、独自の音楽に昇華した音楽家だった。正当な評価を得ることなく1995年に
 53歳で亡くなった。その話のあとで数曲、ギターを弾いたのだが、それを聴い
 た古書ほうろうの宮地さんが声をかけてくれた。

 
  古書ほうろうでの「サウダージな夜」は、古本屋の営業中に店の奥でする入
 場無料のライブ。午後8時から1時間くらい、椅子に腰掛けて聴いてもよし、
 本棚を眺めながらもよし、飲み物の持ち込みもかまわないという、ゆるいイベ
 ント。スケジュールのお知らせに、「三軒隣に酒屋あり」と書かれているのが
 好評だ。2010年7月に始まったイベントも、もう9年目、61回を数える。よく続
 いた、というか、続けさせてもらったと思う。

 
  そして、2011年3月には東日本大震災があった。そのときのブログにこんな
 ことを書いていた。

 「地震の後に、すぐに思い浮かべたのは不忍ブックストリートの友人たち。
 そして元気をくれたのも、ツイッターのタイムラインに流れる彼らの言葉でし
 た。ふだんどおりの言葉、会話にどんなに力づけられたか!
  ぼくも、いつもどおりの力の抜けたサウダージをやろうと思います」

 
  2011年3月29日の「サウダージな夜」から、震災をきっかけに歌詞を書くよ
 うになった鶯じろ吉さんといっしょに作ったオリジナル曲を演奏するようにな
 ったんだっけ。震災がなければ、こんなに続かなかったかもしれない。


  友人、仲間たち、そして古書ほうろうという場に支えられて続けてきた「サ
 ウダージな夜」は、千駄木では最後の夜を迎える。そこでいままで出演してく
 れたミュージシャンに声をかけたら、なんと10人以上の人からオーケーの返事
 が!
 

  みんな、古書ほうろうで演奏することを楽しんでくれていた!
  いったいどんなライブになるかわかりませんが、よかったら遊びに来てくだ
 さい。


 「サウダージな夜」

  2月28日(木)午後7時から2時間ほど。
  無料(投げ銭歓迎)飲み物持ち込み自由。三軒隣に酒屋あり。
 
  古書ほうろう(https://horo.bz/)


  上野池の端の新しい古書ほうろうは、3月30日に開店予定。カフェスペース
 があって美華子さんが焙煎した萬福亭のコーヒーも飲めるらしい。
 「サウダージな夜」も続けさせてもらえる。ぼくの母が使っていたアップライ
 トピアノも持っていってくれるそうです。よかった!

  そうだ、新しい古書ほうろうで、いつか宮地健太郎さんと美華子さんに「古
 書ほうろう」について語るトークをしてほしい! そして新しい古書ほうろうは、
 池の端で、どんな風景を見せてもらえるのだろう? とても楽しみだ。

 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
 

 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  最近AIの話が巷を騒がせていますね。なんでも人間の仕事をAIはどんどん
 奪っていくだの、その分ベーシックインカムを導入すべきだなど、薔薇色なん
 だか真っ暗なんだかわからない未来が待っているようです。
 
  しかしAIはそんなに万能なのだろうか、と思うこともしばしばです。もう少
 し奴らのことを知っておかなければならないような気もします。と言うわけで
 今月はこちら。
 
 『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』、松田雄馬、新潮選書、2018
 
  チェスや将棋の世界では人工知能が人間よりも強くなってきています。もは
 や人間の行う様々な仕事も人工知能に置き換わってしまうという話も昨今色々
 と言われています。それでも人工知能はそんなにすごいのだろうかと、ぼんや
 りした疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。本書では現在の人工
 知能がどういったことができて、どういったことができないかを、人間の知能
 と比較しながらわかりやすく教えてくれます。
 
  人工知能が得意とするのは「最適解を発見すること」。その点で言えばチェ
 スや将棋などは、人間では学習しえないくらいの膨大な棋譜を読み込んで、実
 際の局面でどう指せば勝利をより得やすくなるのかを学習すればよいので、人
 工知能の得意とするところです。

 色々なデータをもとにして、どうすればいいのかを導き出すことは人工知能
 の得意な点です。しかしここで注意しなければいけないのは、何について最適
 解を見つけないといけないかは、人工知能自身が判断するわけではないことで
 す。その問題設定は人間がしてあげないといけません。チェスや将棋に強い人
 工知能は、(当然ですが)予めゲームに勝つという目的ために作られているか
 らこそ力を発揮できるわけです。
 
  逆に人工知能は現実の世界を認識することが不得手です。本書にもグラスに
 ワインが注がれている写真があるのですが、それを見せても人工知能はグラス
 にワインが注がれている写真であることが理解できません。ただの色の付いた
 画像としか認識できず、意味を見出すことができないのです。p,164にロボッ
 トに見えている世界の図があるのですが、そもそも世界の中から物体を抽出す
 ることが難しいようです。
 
  では人間はなぜ軽々とそのハードルをクリアできるのかと言うと、身体を持
 っていることが大きく関わっています。ゴンドラ猫という(ちょっとかわいそ
 うな)実験が紹介されていますが、幼少時に身体の動きを拘束されていた猫と
 能動的に体を動かした猫とでは、拘束されていた猫は拘束が解かれた後も、視
 覚での感覚認識に不十分な点が出てきてしまうのだそうです。ここからも人間
 が世界を認識するためには身体が重要なことがわかってきます。
 
  当然ながら世界では様々な出来事が発生しますが、人間(や他の生物)はそれ
 に対処しながら生きていかなければなりません。それに対応するために人間は
 身体と精神をフル活用して世界を認識し、それに立ち向かっていきます。コン
 ピュータはそれができません。
 
  じゃあ全部言葉で教え込めばいいかというと、それはおそらく無理でしょう。
 「フレーム問題」として本書に紹介されているように、定義したものと現実と
 の照合に無限の時間をとられてしまうのではないでしょうか。
 
  コンピュータは条件が限定された空間では力を発揮しやすいのですが、変化
 の激しいこの世界の中に投げ込んでしまうと、なかなか力を発揮できません。
 翻って人間や他の生き物が日常に行っている些細なことのひとつひとつが、細
 かな判断と動作の巧みな積み重ねであることが実感されます。
 
  人間のような知能を持つ人工知能は未だ開発されていません。そもそも人間
 の知能自体がまだまだ未解明なところも多い中で、どの程度の達成がなされれ
 ばそれは開発されたと言えるのでしょうか?
 
  人工知能に過度な期待や落胆をしたりせず、冷静に考えるために本書はよい
 案内役になります。そして人工知能に世界を認識させることの厄介さから、人
 間の持っている能力のすごさも改めて認識させられます。
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ 坂本千明 『退屈をあげる』原画展
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2019年2月22日(金)ー3月24日(日) 11時〜18時 火・水休
 
 ◇場所:ギャラリー 日色 
     〒921-8031 石川県金沢市野町3-16-2
     TEL 076-205-6119
         https://hiro-g.com
 
 イラストレーター/紙版画作家・坂本千明さんの詩画集『退屈をあげる』
 私家版でも話題を呼び、2017年秋、青土社から新装版として出版されました。
 猫好きに限らず、多くの人が手にしている本作の原画展を開催いたします。
 特別出演として、陶芸作家・駒ケ瀬三彩さんのブローチとオブジェ、
 寅印菓子屋さんのお菓子の販売もあります。
                         (案内状より抜粋)
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 毎度遅れてすみません。
 福岡県の出版社、書肆侃侃房さんが本年度の福岡市民文化活動功労賞を受賞さ
 れました。「芸術を中心とした地元文化の向上、発展に顕著な功績を残した人
 や団体に贈る文化賞」。書肆侃侃房さんは「主に小説や短歌、気候ガイドなど
 を刊行している。同社発行の文芸誌『たべるのがおそい』に掲載された今村夏
 子さんの小説「あひる」は、16年の芥川賞候補作とな」りました。(「あひる」
 は同社で単行本『あひる』としてかんこうされています)
 おめでとうございます!                                畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.707

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■■------------------------------------------------------------------
■■ [本]のメルマガ                 2019.02.05.発行
■■                              vol.707
■■  mailmagazine of books       [実は食べられるという話 号]
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ー王物語』から『メアリー・ポピンズ』『オズの魔法使い』『ハリー・ポッタ
ー』まで、写真と共に名作ファンタジーの世界を作って味わう100のレシピ!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その32「イラクサ」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ スリップの話

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その32「イラクサ」

 イラクサときいて、あなたはどんな物語を思い浮かべるだろうか?

 アンデルセン童話集の中の『野の白鳥』が物語の中では一番有名かもしれな
い。

 物語はこうだ。ある国の王さまは十一人の王子と一人の姫に恵まれていたの
だが、ある日再婚をする。新しい后様は、魔法を使って王子たちを白鳥に変え
て城から追い払ってしまう。同じようにエリサ姫も胡桃の汁などを擦り付けら
れて醜い姿に変えられて、城から追われてしまう。森をさまよい、湖で身を清
めて元の姿に戻ったエリサは、白鳥の姿の兄たちに巡り合う。彼らに連れられ
て海の向こうの国へ渡り、その国の王様に見初められて城へ連れていかれる。
けれども、エリサは、夢の中の仙女から、沈黙を守るように言われていて、一
言も口をきくことができない。そして、ひたすら編み物をしている。仙女が言
うには、兄たちの魔法をとくためには、洞穴と墓場にあるイラクサを摘んでア
マ糸にしたもので鎖帷子を作り、それを兄たちに着せなくてはいけないという
のだ。

 この物語の中に出てくるイラクサの痛そうな事、仙女が手にしたイラクサを
見せてこう言うのだ、

「私の手に持っている、このトゲトゲのイラクサをごらん!…中略…それをお
まえはつみ取るのです。たとえ、そのために、ひふがヒリヒリして火ぶくれが
できても、がまんおし!それから、足でイラクサをふみしだくのですよ。そう
するとアマ糸がとれるから、それをより合わせて、長い袖のついた、くさりか
たびらを十一枚おあみなさい」

 エリサの手や腕は火ぶくれだらけになるけれど、一番下のお兄さん白鳥の涙
が触れた時だけ、治るらしい。

 そんな試練に耐えてイラクサを編み続けたエリサが魔女と間違えられて絞首
刑台に連れられて行った時、やっと、十一枚のイラクサの鎖帷子が片袖を残し
てできあがり、白鳥の王子たちは人間に戻ることができる。

 この物語で描かれるイラクサの痛さ(「がまんおし!」と、いわれてもねえ
……)と、この草が生える墓地の情景の気味悪さに、この草ばかりは触れては
いけない禁断の草なのだと知ったのだ。


 ところがある日、このイラクサが、実は食べられるという話を聞いたのだっ
た。

 それは現代のセルビアでの物語だった。

 <それがすべて、底をつくと祖母は「建物の周りに萌えているイラクサの若
葉を見つけて摘んでおいで」と言った。イラクサで、本物のホウレンソウみた
いなスープを作ってくれた。ピッタの生地を作って、そこに湯がいたイラクサ
を巻き込んで、ゼーリェ(菜っ葉の一種)のピッタみたいなものを焼いてくれ
た。>

 へええ、イラクサって食べられるんだ。と、私は驚いたのだが、その続きに
はこうある。

<じきにイラクサの若葉もなくなった。後には動物たちが小便をかけ、人間が
唾を吐いたイラクサの茎だけが残った。やがて茎さえもなくなった。ぼくたち
がすべて食べ尽したのだ。>

イラクサを?
すべて?

 そう、この食べ物が出てくるのは、1991年からの十年間、バルカン半島の多
民族国家ユーゴスラビアを解体させた内戦時下の物語なのだ。

『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著
 
 民族が違い宗教が違う国々。そこで起きた戦争の下、難民となった人々が語
った戦時下での食べ物の記憶が記されたこの本を、私はなんとジャンル分けし
ていいかわからない。
 著者の友人たちが語る戦時下での食糧事情や非常事態での料理の方法、難民
への食糧支援の現状などを通して、いかに生きのびたかが語られる貴重な記録
であり、何代にもわたる料理や食べ物の記憶でもある。
 口承文芸の国でもあるというセルビアにおいて、まだ若い記憶の詰まったこ
の語りは、実に貴重なものであると同時に、物語というには生々しく、難民と
いうものが次々に発生している世界の状況を思わされずにはいられないものだ。

 そこでは、アンデルセンの物語の中で、触るだけで火ぶくれがするイラクサ
までもが食べられているという事に、私は驚いたし、おびえもした。

 ただ、この西洋イラクサというのは、ヨーロッパでは実によくみられる植物
らしく、放っておくと庭がイラクサだらけになってしまうというほどの繁殖力
の強い雑草らしい。

 イラクサには薬効もあって、アレルギー薬としてそのお茶も注目されている
らしい。そういう観点で食べられることがあっても、平時にはあまり誰も食べ
ようとしないようだ。
 
 例えば、この本の著者は最後にイラクサのスープ(チョルバ・オト・コブリ
エ)のレシピをのせている。レストランで出しているところもあると書いてい
るが、家族は著者のほかに誰もこれを好まないとある。

 非常時の味なのだろうか?

<戦争になって初めてイラクサを食べました。まずいと言われるでしょう?で
も、とても美味しかった。最高だったわ。チュスパイズという名前の料理、ホ
ウレンソウのように湯がいてから、小麦粉でとろみをつけます>

と、別の語り手も言っているのだが。
 
 この本には戦時に食べたものとして野にある草の花のてんぷらなどが語られ
ている。これらの戦時下で草を食べた記憶というものは、日本でも第二次大戦
下の記憶として語られているのだが、今の若者で聞いたことがある人はいるだ
ろうか?

 ノビルやタンポポ、どんぐりの実。

 今でもいつでも食べられるけれど、誰も食べようとはしない植物。

 何かの時のために記憶の中には残しておかなくてはならない食べ物だけれど、
それを食べなくてはならないようなときが二度と来なければいいなんと思える
食べ物だ。

 「蕁麻にな触れそ……愛の絆の固ければ」

 これは、『チャタレイ夫人の恋人』の中で、主人公のコニーがピアノを弾き
ながら歌う歌だけれど、もはや、この歌を思い浮かべると、戦時下で家族の為
にイラクサを摘むような場面が思い浮かんでしまうのだ。

 そして、このイラクサのスープの話は、戦争というものへの恐怖を心の奥底
に、深く植え付けるのだ。
 
 普段は触ることも恐れる草を摘むとき、家族への愛や、次の日も生き延びよ
うとする意志などが大地に試されるような気がしてくる。

 食べてみたくはあるけれど、食べるときが来ないでほしい本の中の食物、そ
れが、私にとってはこのイラクサのスープなのだ。

----------------------------------------------------------------------

『アンデルセン童話集2』   アンデルセン著 大畑末吉訳 岩波少年文庫
『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著  勁草書房
『チャタレイ夫人の恋人』   D.H.ロレンス著 伊藤整訳  新潮文庫

----------------------------------------------------------------------

高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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スリップの話

 とある場でスリップの話をした。といっても滑った話でも女性用下着の話で
もない。書籍に入っている奴のことである。

 このメルマガの読者の方はきっとご存じだと思う。でも、もしかしたら、知
らないという方も増えているかもしれない。

 先日、ソフトバンクの通信障害が起こった際、公衆電話の掛け方がわからな
い、さらには、受話器の戻し方がわからない、テレホンカードって何?という
パニックが起こったという話も聞いた。スリップも同じようなことになってい
る可能性もある。

 スリップというのは、書籍に入っている細長い短冊上の紙のことである。二
つ折りになっていて、上の部分が丸く切られており、出っ張っている。

 本来、これは書店で回収されるものであり、読者の手には渡らないはずのも
のであるが、最近のネット書店では抜かずに配送してしまうこともあり、しお
り代わりに使っている人も多いかもしれない。

 で、このスリップをよく見てみると、表面と裏面(正確には、どっちが表で
どっちが裏なのかは私は知らない。)で書かれている内容が違うことに気付く。

 どちらかが注文カード(だいたい、出っ張ったボウズの部分がくっついてい
る方である。)になっており、反対側が売上カードになっている。

 注文カードには、「帳合・書店名」とか「注文数」とかの欄がある。実は昔
の書店や取次は、この紙で注文をしていたのである。書店がバンセンという判
子を押し、冊数を記載する。記載が無い場合には1冊ということになる。で、
取次に渡す。取次さんは自社の倉庫に行き、同じ本を探し出し、このスリップ
の注文カードを入れて書店に納品する。恐るべき人海戦術。

 売上カードには、このような説明が書かれている。「販売実績として配本等
の参考資料に活用させていただきます。(中略)お手数でも毎月定期的にお送
りください。」つまり、書店に、出版社に送り返して欲しい、と言っているの
だ。

 出版社によっては、この売上カードにインセンティブ(報酬)をつけている
ところもあった。締め前ともなると、その出版社の本で書店があふれかえるこ
とになっていたのはひとつの風物詩である。

 さて。

 こんな涙ぐましい手作業の数々も、基本的には大書店を中心に、POSレジ
を活用した自動発注システムに切り替わっている。当然、出版社との間もデー
タでやりとりするので、売上カードも必要が無い。町の小さな書店ではいまだ
に活用しているんだろうか? そもそも売上カード送っても配本に影響なさそ
うではあるが。

 取次も当然のように進化している。ピックアップが完全自動ってことはない
だろうが、少なくともスリップの注文カードを手で挟んで、という非効率な業
務はイレギュラーになりつつあると思う。

 で、ひとつ疑問なのは、このスリップはいつまで書籍に入り続けるのだろう
か、ということである。無くしちゃマズいんだろうか?

 ちなみに私は未だにガラケーであるが、携帯会社からついに、2022年3月末
でガラケー廃止するとの通知が来た。まだ2年以上もひっぱるあたりが日本の
すごいところだと思う。

 以前、ある方の講演を聞いていて、面白いことを言っていた。高速道路にETC
の仕組みを入れる際、日本の場合には、全車がETC対応にならないだろうからと
上下にばったんばったん開くゲートをつけた。これにより、ETC対応車も減速し
なければならないので、渋滞は緩和されなかった。シンガポールでは、法律で
義務化し、補助金もつけた。結果としてゲートをつけなくてよかったので設備
投資コストもかからず、渋滞も緩和された、というお話。

 スリップ無くせば、少しでも出版社の利益率って上がらないんだろうか?

 などと思う今日この頃であった。

 ガラケー愛好家としては、個人的に、少し、寂しい気もしますが。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れましたすみません。平成が終わるのを理由に、いろんなサービスが
終わりそうな今年ですね。(aguni原口)

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おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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[本]のメルマガ vol.704


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 仲野徹氏「すごい本だ。ノンフィクションの醍醐味をこれほど味わえる本はな
 い」HONZで話題! https://honz.jp/articles/-/45043
 第2次世界大戦、類まれな戦績を残したソヴィエト赤軍女性狙撃手の回想
 録。1932年にキエフで射撃の訓練を始めた頃から退役後1970年までの半
 生を綴る。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 残念ながら今月もお休みです。次回にご期待ください!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第115回 絵本が教えてくれること
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「宇宙的肯定」な世界観の「ぐりとぐら」カルタとは!
  
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 ■トピックス
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 1つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第115回 絵本が教えてくれること

 
  遅ればせながら名画座で映画『プーと大人になった僕』を見た。ディズニー
 のキャラクター「くまのプーさん」を実写映画化したファンタジーで、ユアン・マ
 グレガー扮する大人になったクリストファー・ロビンがかつての親友プーと再
 会して、忙しさの中で失った大切なものを取り返すというストーリー。
 話そのものもよく出来ていたと思うけれど、アニメでなく実写というところがミソ
 で、ぬいぐるみのプーが動いたり話すのを見ているだけで胸がキュンとしてし
 まった。
 じつに、“ぬいぐるみ”らしく動くのを見ていると、子どものころ、ひとりでぬいぐ
 るみを相手に遊んでいたころを思い出してしまった。
 ひとりぼっちだったけれど、想像の世界で遊んだ豊かな時間だった。

 
  友人の編集者が一冊の本を送ってくれた。
 『「どの絵本読んだらいいですか?」』(向井ゆか編 かもがわ出版)という、
 元「童話屋」読書相談員の向井惇子さんの講演録をまとめた本だった。
 童話屋は渋谷にあった絵本専門店で向井さんは、創業スタッフ・読書相談員
 として約20年間働いたあと、フリーの絵本アドバイザーとして、2017年に亡
 くなる三日前まで講演会や勉強会の講師をしていたという。

 
 子どもがなく、もちろん孫もいないぼくには絵本を選ぶということには無縁だ
 ったから、気にもかけていなかった。
 このような本は、カタログのようなもの程度にしか思っていなかった。
 正直言って、この本を読むまでは、絵本アドバイザーなんて、大げさだなあ、
 と思っていた。
 そんなことを子どもの本の翻訳もしたことがある従姉妹したら、実際におかあ
 さんたちに「どんな絵本を選べばいいの?」と聞かれることが多いという。
 自分たちが子どものころよりも本の数が増えているし、世の中も変わっている。
 いまはゲームもあるし、はでなキャラクターを使った絵本という商品もたくさん
 並んでいる。
 子どもにいいものを選ぼうとすると、迷ってしまうのもわかるといっていた。
 なるほど。

 
  向井さんが子どもたちに選んだ絵本は、ほとんどぼくが子どものときに親し
 んだ絵本だった。
 ぼくの母である内田莉莎子が翻訳した絵本も載っている。
 『おおきなかぶ』(ロシア民話 A・トルストイ再話 佐藤忠良 画 福音館書店)
 は教科書に取り上げられているし、人気がある作品だから選んでもらっても驚
 かなかったが、『ちいさなヒッポ』(マーシャ・ブラウン作・絵 偕成社)が選ばれ
 ているのは意外だったし、嬉しかった。

 
  というのは、『ちいさなヒッポ』は最近の絵本とくらべると、とても地味な、色使
 いが渋いからだ。
 それでも毎年、版を重ねていているので、いつも不思議に思っていた。
 向井さんはヒッポを「信頼できるおとなと過ごす安心感」を与える本として、くわ
 しく解説している。
 講演録だから、いっしょに絵本を表紙からじっくり見て、テキストを読んでいるよ
 うな気分だ。

  
 大人が子どもに絵本を読むとき、どうしても文字を目で追ってしまう。
 絵本なのに、大人は絵を100パーセント楽しむことが出来ないことになるわ
 けだ。
 でも、子どもは言葉を耳で聞きながら、絵をすみずみまで見て楽しんでいる。
 大人って文字がないと用のないページとばかり、ぱっぱっとめくってしまい
 がちだ。
 子どもは字のないページでも絵をすみずみまで見ている。
 なるほど!
 
  ときどき、大人も絵本を読んでもらったほうがいいのかもしれない。
 絵本の楽しみ方は子どものほうが知っている。
 
「絵本は、お話が書いてなくても絵をめくっていけばお話がわかるもの。だか
 ら絵が大事。絵、本というくらいだから、という言い方がわりと広くされていた」
 と向井さんはいう。
 いつだったか童話作家の神沢利子さんが「絵本は、どうしても絵描 きさんの
 ほうが注目される」といっていたけれど、向井さんがこの本に書いているとお
 り、絵本であっても『なにを』語っているのかというのが大事なのだ。
 そう、「物語」がなくちゃね。
 
『ちいさなヒッポ』が長い間、多くの人に受け入れられているのは、自然のなか
 にいるカバが成長していく話が、人間の子どもの成長と重なる話になっている
 からだという。
 ヒッポは成長していく上で危険な目にもあうけれど、そんなときは母親が助け
 てくれる…この本を読んだ子どもは「社会にはいろんな人がいて、危険もある。
 自分はまだ力が弱いけれど、なにかのときはおかあさんが助けてくれる」と
 母親を含めた社会というものを認識する。
 そして『ちいさなヒッポ』には母親に対する全面的な信頼感が描かれていて、
 ヒッポと同じ気持ちを子どもは体験する。
 自分が守られている、という安心感が子どもを包むんだろう。
 子どもだけでなく、読んでやっている大人も温かい気持ちにする。
 ヒッポは、だからこそ、長く愛されているのだな。
 
『ちいさなヒッポ』に書かれている言葉には、「かわいいヒッポちゃん」のような
 子どもにおもねるような言葉使いはなく、流行語も使っていない。
 きちんとした日本語が使われているから、何十年も経っても通用する絵本にな
 る。
 母は翻訳をするときに、「そんな言葉、すぐに古くなっちゃうでしょ」と決して流
 行語は使おうとしなかった。
 これは肝に銘じなきゃいけないな。
 
『どろんこハリー』(ジーン・シオン文  マーガレット・ブロイ・グレアム  絵
   渡辺茂男  訳 福音館書店)、『アンガスとあひる』(マージョリー・フラック
 作 瀬田貞二 訳 福音館書店)『あおい目のこねこ』( エゴン・マチーセン 
 作 瀬田貞二 訳 福音館書店) 『ロバのシルベスターとまほうの小石』
 (ウィリアム・スタイグ 作 瀬田貞二 訳 評論社)など絵本の名作を向井さ
 んの解説を受けながら、ふたたび味わってみようと思う。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
 

 
 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  お正月になりました。皆さんカルタやってますか?私はやってません。残念
 ながら最低限の人数が集まらない…。それはともかく子供のころはお正月
 と言わず一年中カルタで遊んでいた記憶があります。私など遊ぶだけでなく
 食べてしまって、破損している札もありました。そのかでも日本全国の老若
 男女にお薦めしたいのがこちらです。
 
 『ぐりとぐらかるた』、中川李枝子さく/山脇百合子え、福音館書店
 
  おなじみ「ぐりとぐら」シリーズのカルタではありますが、もちろん「ぐり
 とぐら」の絵本を読んだことが無くても大丈夫です。ここでお薦めしている私
 にしたところで、どちらが「ぐり」でどちらが「ぐら」かと聞かれるとわからなか
 ったりして…。(ちなみに青い帽子がぐり、赤い帽子がぐら。)
 
 このカルタのとにかくいいところが言葉のリズムです。札に書かれた文章
 には頭韻が多用されていて、聞いているだけで心地よくなってきます。
 
 にいさん にこにこ にんじんたべた 
 
 ほしが ほしいと ほえるいぬ
 
 みどりのライオン みみまで みどり
 
  ほんの一部ですがいかがでしょう。五七調ではないですが、なんだか呟いて
 みると楽しくなってくるのではないでしょうか。同じ音が繰り返されているので
 印象にも残りやすいのではないかと思います。私も数十年のブランクがありな
 がらいまだに幾つかの札は暗誦できます。
 
  そしてお気づきかと思いますが、この札に書いてある文章の全く教育的意味
 の無さが素敵です。いろはかるたのように諺を持ってきたり、学習カルタのよう
 に勉強の足しになるものではありません。「兄さんがニコニコ人参を食べた」か
 ら何だというのか。
 
  しかし逆に遊ぶ側の想像はふくらみます。「みどりのライオン みみまで
  みどり」の絵札には、全身緑色(たてがみも緑色)のライオンがキャベツ畑の
 ような場所で帽子からトランプを羽ばたかせるようなマジック的な動作をしてい
 るイラストが描かれています。いったいこのライオンは何なんでしょう。
 
  子供心に私はこのライオンはキャベツを食べ過ぎて緑になってしまったのだ
 と思っていました。もちろん普段の「ぐりとぐら」と同じタッチの絵柄で、ライオン
 にも怖さは全然なくかわいらしいものです。
 
  調べてみると「ぐりとぐら」以外にも作者の生み出した物語の登場人物が出
 てきているようで、みどりのライオンもその一人のようです。当時はそんなこと
 知らなかったけど、知らなくてもライオンが緑というだけでもう面白くてしょうが
 なかったものです。
 
  読み札は語感を大事にして作られているようですが、その読み札に添えられ
 ている絵札のイラストも遊ぶ側の想像力をかきたてるようによく考えられて描か
 れているように感じます。
 
 まどから おでかけ まほうつかい
 
  絵札には家の窓からほうきに乗って飛び去っていく魔法使いが描かれていま
 す。家にはちゃんとちゃんと玄関があるのに!
 
 けむしがあんだ けいとのはらまき
 
  絵札ではちゃんと毛糸で編んでますけど、その毛糸の毛はもしかしたら自分
 の毛…?
 
  昔読んだ絵本のあるページが記憶に焼きついて、全体は思い出せないのに
 そのページだけ覚えていると言うことがありますが、このカルタは一枚一枚が
 そういう印象深い言葉と絵で作られています。
 
  作者中川李枝子のエッセイ集『本・子ども・絵本』(文春文庫、2018)に寄せた
 小川洋子の解説のタイトルは「宇宙的肯定」となっています。確かにこのカルタ
 もそうした肯定的世界観に根ざしたものと言えるかもしれません。
 
  子ブタはオオカミとおしくらまんじゅうをするし、イルカは陸上に上がってくるし、
 兄さんは人参を食べる。そういう平和な世界観をまず肯定することによって、子
 どもの想像力もさらに発揮されるのではないでしょうか。そしてそれがこのカル
 タの最大の魅力かもしれません。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 橋本倫史+森山裕之「“モテる雑誌”を作るために」
        橋本倫史『ドライブイン探訪』(筑摩書房)刊行記念トークイベント
 └─────────────────────────────────
 Titleでも取り扱い、人気を博したリトルプレス『月刊ドライブイン』が、
 筑摩書房によって書籍化され、『ドライブイン探訪』として刊行されます。
 単行本化を記念して、トークイベントを開催します。
 登壇いただくのは、『月刊ドライブイン』をひとりで企画・取材・執筆され
 た橋本倫史さんと、2016年に出版社「STAND!BOOKS」を立ち上げられ
 た森山裕之さんです。

 *書籍『ドライブイン探訪』は1月末頃の発売予定です
 
 
 
 「トークイベントに向けて」文・橋本倫史
 
 初めてリトルプレスを作ったのは、2007年のこと。そのリトルプレスで
 インタビューをお願いしたのが、当時『QJ』の編集長を辞められたばかり
 の森山裕之さんでした(そしてそのリトルプレスを取り扱ってくれた少な
 いお店の一つが、当時「Title」の辻山さんが店長をされていたお店でし
 た)。
 
 そのインタビューにつけたタイトルは、「モテる雑誌が作りたかった」。
 インタビュー中の発言から採ったものですが、よくこのタイトルを引き受け
 てくれたものだと申し訳ない気持ちになります。でも、やっぱり今でもこの
 タイトルをつけたいという気がします。森山さんが言う「モテる」というのは、
 ちゃんと読者に届く雑誌を作る、ということだと思います。その大切さは、
 『月刊ドライブイン』というリトルプレスを作った今だからこそよくわかります。
 ドライブインというのは、ともすればニッチだと捉えられかねないテーマです。
 ドライブインという場所に流れてきた時間を、どうすればより多くの読者に
  読んでもらえるか。そのことを考えながら『月刊ドライブイン』を作ってきた
 気がします。
  
 森山さんは、僕がライターになってまもない頃に仕事を依頼してくれた編集
 者でもあります。森山さんが僕に依頼してくれたテーマの一つはドキュメント
 でした。今でもドキュメントを書くとき、森山さんに言われた言葉が頭を過ぎ
 ることがあります。現在は「STAND!BOOKS」という出版社を立ち上げた森山
 さんと、どうすれば言葉を広く世界に届けることができるのか、話してみたい
 と思います。
  
 橋本倫史(はしもと・ともふみ)
 
  1982年東広島市生まれ。ライター。2007年、リトルマガジン『HB』を創刊。
  2017年4月、日本全国のドライブインを巡るリトルマガジン『月刊ドライブイン』
  を創刊。2019年1月末、初の著書となる『ドライブイン探訪』(筑摩書房)が
  刊行される。
 
 森山裕之(もりやま・ひろゆき)
 
  1974年長野市生まれ。編集/執筆。元『クイック・ジャパン』『マンスリー
  よしもとPLUS』編集長。2016年に出版社STAND! BOOKSを設立し、
  前野健太『百年後』、サニーデイ・サービス/北沢夏音『青春狂走曲』、
  中島岳志『保守と立憲』、パリッコ『酒場っ子』を出版。最新刊の寺尾紗穂
  『彗星の孤独』が好評発売中。

                                                      _Title HP より_
 
  
 
 ◆日時:2019年2月15日(金) 19時30分スタート/21時頃終了予定
               *イベント当日、お店は18時にてクローズ致します
  
 ◇場所:Title 1階特設スペース
       〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
                  TEL. 03‐6884‐2894
 
 
 ★参加費:1000円+1ドリンク500円
 
 ☆定員:25名
 
 申し込⇒
 手順1:メールの件名にイベント名、メール本文にお名前(氏名)
      /電話番号/枚数(1人2枚まで)を明記して、
      以下のアドレスに送信ください。
 
      title@title-books.com
 
 手順2:「予約完了」の返信をいたします。
            (メールの受信設定にご注意ください)。
 
 手順3:参加費は当日会場受付でのお支払いとなります。
 
 お申し込み・ご予約は定員に達し次第締め切らせていただきます
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき

 今月号は、偶然にも‘児童書‘‘絵本‘の寄稿になりました。
 こどもの頃に読んだ本をまた読み返してみたい、近頃思います。
 本の記憶の芳しさや切なさ、楽しさは何にも代えがたい宝であることを
 実感するこの頃です。
  
 2月15日から中江裕司監督のドキュメンタリー「盆歌」が上映されます。
 
 「2015年、東日本大震災から4年経過した後も、福島県双葉町の人々は
 散り散りに避難先での生活を送り、先祖代々守り続けていた伝統『盆歌』
 存続の危機にひそかに胸を痛めていた。そんな中、100年以上前に福島
 からハワイに移住した人々が伝えた盆踊りがフクシマオンドとなって、今
 も日系人に愛され熱狂的に踊られていることを知る。町一番の唄い手、
 太鼓の名手ら双葉町のメンバーは、ハワイ・マウイ島へと向かう。自分た
 ちの伝統を絶やすことなく後世に伝えられるのではという、新たな希望と
 共に奮闘が始まった―。」チラシより
 
 失う前に、取り戻そうとする人たちの、過去から未来への物語。
 期待しています。 
 (テアトル新宿、フォーラム福島、まちポレいわき上映)     
                                                             畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.703


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『フォト・ドキュメント 世界の統合と分断の「橋」』

アレクサンドラ・ノヴォスロフ著 児玉しおり訳
A5判 380ページ 本体3,200円+税 ISBN:9784562056170

川を隔てたコミュニティをつなぐ「橋」。統合の象徴としても語られる「橋」
は、しかし時として民族の分断を強め、人間を選別し、争いの根源になること
もある。「橋」から見た「今ある世界」を、多くの写真とともに活写する。


■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その31「お酒」その2「ニーガス酒」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その31「お酒」その2「ニーガス酒」

 寒いこの季節、ドイツでもフランスでもホットワインがよく飲まれているよ
うだ。ワインを熱して砂糖や蜂蜜を入れ、レモンやオレンジやナツメグやシナ
モンなどの香料を入れたこの飲み物、クリスマスの飲み物というイメージがあ
るようだけれど、私のお気に入りは、夜桜見物の時に飲むホットワイン。どん
なに寒い夜でも、桜の香りに包まれて最高の気分になれる。

 そんな、ホットワインの一種だと思えるお酒のせいで私は、めくるめく世界
に引き込まれてしまったことがある。

 それは、イギリスのヴィクトリア朝の小説の中に出てくる「ニーガス酒」。

 私はたいてい物語の中に現れる食物に惹かれてその時代の風習やその国につ
いて調べたりするのだが、この場合は逆だった。 
 
 きっかけは、ダニエル・プール著の『19世紀のロンドンはどんな匂いがした
のだろう』を読んだことだった。これは、いわゆるヴィクトリア朝小説を読む
ための生活万端に渡っての解説書だが、どのページから読んでも実に面白く、
挿絵も多くて楽しい本だ。二部構成になっていて、第一部は社会生活、地方で
の生活、個人生活等の章に別れ、「宮中伺候」はどんな儀式か、「舞踏会」は
どう行なわれていたか等が、ブロンテ、トロロープ、ディケンズ、オースティ
ン等の小説からの引用を持って説明されている。 第二部は英語の辞書として
使え、各用語のこの時代特有の使われ方が説明されている。この部分も辞書と
して使うというより、読んでいて面白い読み物となっている。もちろん日本語
の索引も最後に付いている。 
 
 そして、この本の中で、あまりに多くのオースティン作品が引用されている
上に、舞踏会の夜食についての項目で、『マンスフィールド・パーク』の一場
面が引用された「ニーガス酒」についての項目があまりに不思議だったので、
私はついに長年手に取るのをためらっていた『高慢と偏見』を読んだのだ。 
  
 結果は強烈だった。

 それからの1年間、私は次から次へとジェイン・オースティンを読み続け、
研究書を漁り、大学の講演会に出かけたりした。

 講演会の会場で年上の奥様方に囲まれて座り、皆様がイギリスのチョートン
にあるオースティンの家を訪ねた話や(「ジェーンが小説を書いたあの小さな
机ごらんになりました?」)大学時代の思い出話を夢中でしているのを聞きな
がら、昔はお嬢様学校の英文科では、必ずオースティンを学ばせたんだなぁ等
と思ったりした。 
  
 我ながら、あれだけブロンテ姉妹に夢中だったのに何故ジェィン・オーステ
ィンに近づかなかったのかと、今にして思う。 

 その答えは一つ。題名が悪かったのだ。 

 『高慢と偏見』又は『自負と偏見』。 

 何だか、年上の女性にお説教されるようなイメージがある。

 まさか、あんなに生き生きとしたエリザベスという主人公に出会えるなんて
とても思えない題名だ。誰に対してもしっかりと発言するエリザベスが高慢な
のではない。高慢で偏見を抱いた男が出てくるのだ。そして彼の求婚を言葉で
たたきのめして退ける場面が実に爽快でユーモアに満ちていて、オースティン
独特なのだ。私は時たまこの場面だけを読み返してしまうくらい、この物語に
はまってしまった。 

 とにかく、「ニーガス酒」に感謝。 

 この言葉に惹かれなかったら、私は一生、ジェイン・オースティンに出会え
なかったろう。

 では、そのニーガス酒が『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』
でどのように出てくるかというと、それは「舞踏会」の章の夜食の説明部分で、
こう書かれていたのだ。

「ジェイン・オースティンの時代には、舞踏会でニーガス酒を混ぜたスープを
出すことがよくあった」

 スープに葡萄酒?

 赤い葡萄酒が泡立つスープにまざって行く映像が頭から離れず、気がつけば
私は『高慢と偏見』を手にとっていたというわけだ。 

 それにしても、甘いニーガス酒を塩味のスープに混ぜるなんてことを本当に
したのだろうか?

 そこで、ここで引用されていた『マンスフィールド・パーク』を手に取って、
読んでみた。

 ない。

 どこにも、そんな変な飲み物は書かれていない。

『マンスフィールド・パーク』でこの酒が現れるのは、舞踏会で踊り疲れた主
人公のファニーが、部屋に向かう場面だけだ。大好きな兄のためにおじが開い
てくれた舞踏会。気に染まない求婚者や大好きな兄や従弟と踊り、ふらふらに
なった様子を見かねて眠るように言われて階段を上って行くファニー。

「様々な希望や不安、スープやニーガス酒のためにまだ昂奮醒めやらず、足の
痛みと疲労感と、それに何となく落ち着かぬ心の動揺を覚えながらも、それで
もやっぱり舞踏会は本当に素晴らしい、と感じながら。」

 どう見ても、ニーガス酒はスープに混ぜられていない感じだ。

 そこで、本当にそんな飲み物があるのかと『ジェイン・オースティンの料理
読本』という本を手に取ってみた。この本はただのレシピ本ではなくて、前半
はオースティンの作品と実生活における食事場面や食物などが書かれ(なんと、
家禽や蜂を飼っている)、後半部はオースティンの兄の未亡人となった後も長
く同居し、その後、弟の後妻となった女性の収集したレシピでできている。そ
のレシピは実生活の場面ごとに分かれているため、「パーティと夜食」といっ
た章もあり、そこには、実に体が温まりそうなホワイトスープやアスパラガス
のイタリア風なんていうスープがあり、ファニーはこれを飲んだのかしらと考
えて楽しむことができる。

 でも、どこにも、ニーガス酒をスープに混ぜるとは書いていない。

 私が知っているお酒をスープに混ぜる場面がある小説は、フランソワーズ・
ドゥ・ボーヴォワールの『招かれた女』だけだ。

「ひとつ先生がたまげるようなことをやってみましょうか」と、ジェルベール
がおどかした。
「どんなこと?」
「この酒をスープの中に入れちゃうんです」そう言いながら手を動かす。
「きっとすごい味よ」
ジェルベールは赤い汁をスプーンにすくって、口へもっていった。
「天下の珍味です。やってごらんなさい」
「世界中の宝を積んでもまっぴらよ」

 場所は山の中の農家の食堂。若い役者で舞台監督のジェルベールと小説家で
脚本家のフランソワーズがキャンプに出かけた夜の場面。風の強い夜なのでテ
ントを張るのをあきらめて、農家のカフェに逃げ込み食事を始めるところだ。
年上の女性の気を引く為のパフォーマンスなんだろうけれど、フランソワーズ
ではないが、実にまずそうでまっぴらな感じの酒入りスープだ。

 と、いうわけでスープに混ぜたりしない、おいしいニーガス酒のレシピを、
先にあげた『ジェイン・オースティンの料理読本』で見てみよう。
 
 「ポートワインを大きな耐熱性の水差しに注ぐ。レモンに角砂糖をこすりつ
けてから、果汁を絞って漉す。砂糖、レモン、ポートワインを混ぜあわせ、熱
湯を加える。水差しに蓋をし、こころもち冷ます。すりおろしたナツメッグ少
々を浮かべ、グラスに注いで出す。」

 その他のレシピでも、鍋に入れて煮たり電子レンジを使用したりと熱し方は
様々だけれど、今も昔も作り方にはほとんど差はない。

 実は読み逃していたけれど、私がニーガス酒と最初に出会ったのは、シャー
ロット・ブロンテ著の『ジェイン・エア』の中だった。
 
 家庭教師になるために初めて一人旅をしてきたジェイン。たどり着いたのは
荒野にあるソーンフィールドの屋敷。出迎えてくれたフェアファックス夫人は
大変親切で、手ずからジェインのショールやボンネットを脱ぐのを手伝ってく
れる。そして、こう言う。

「いえ、ちっともめんどうなことはございませんよ。さぞかし寒さでお手がか
じかんだでございましょう。リアや熱いニーガス酒をこしらえて、サンドイッ
チを少し切ってください…」

 深い霧の中を馬車に揺られ不安におびえながらたどり着いた先にいたのは高
慢な雇い主の夫人ではなく、親切な家政婦の女性。お茶ではなく熱いニーガス
酒を用意してくれるところが、夜の食事らしく配慮に行き届いている気がする
場面だ。

 そんな風に暖かい眠りの中に連れて行ってくれそうなニーガス酒を、いつか、
霧の深い夜にでも作って、心も体も温めてみようと思う。そのヴィクトリア朝
の味わいは、きっと不思議な夢に誘ってくれるのに違いない。
 
 霧の中から蹄の音が聞こえてくる。

 迎えの馬車がやって来たようだ……。

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『世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』ダニエル・プール著 青土社
『マンスフィールド・パーク』ジェイン・オースティン著     中公文庫
『高慢と偏見』    ジェイン・オースティン著      岩波文庫
『招かれた女』    シモーヌ・ド・ボーヴォワール著    講談社
『ジェイン・エア』    シャーロット・ブロンテ著      新潮社
『ジェイン・オースティン料理読本』マギー・ブラック、
              ディアドレ・ル・フェイ著  晶文社
----------------------------------------------------------------------
高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

----------------------------------------------------------------------
■声のはじまり / 忘れっぽい天使
----------------------------------------------------------------------
第117回 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

 昨年10月、詩人の入沢康夫が亡くなった。87歳だった。虚構性を暴露させな
がら語りを進行させる擬物語形式の採用、カリグラム等を取り入れた視覚的効
果の導入、文意を破壊する刺激的なイメージの連鎖など、実験的な試みを意欲
的に行ってきた人で、その点で同年生まれの作曲家松田頼暁を思い起させる。
入沢はフランス文学者で(専門はネルヴァル)、世界文学の動向に詳しく、数
々の実験は西欧文学に対する豊かな教養にしっかり支えられたものであり、現
代詩人たちから一目置かれる存在だったように記憶している。

 宮沢賢治の研究家でもあり、一般にはその道の仕事の方でより知られている
かもしれない。ぼくは彼の良い読者というほどではないが、『わが出雲・わが
鎮魂』(1968)や『牛の首のある三十の情景』(1979)など幾つかの詩集から
は強い印象を受けた。逝去の報道を知り、彼の代表的な詩論『詩の構造につい
ての覚え書』(思潮社 1968)をまだ読んでいなかったことを思い出して、早
速ネット古書店に注文を入れてみた。届いたその本は予想に反して(?)平明
な文章で記述された、ごく読みやすいものだった。

 本書の副題は「ぼくの<詩作品入門>」である。「はじめに」ではこの詩論
が他でもない自分自身のために書いたものであることが明かされる。「人を啓
蒙するなど、とんでもないこと」「入門しようとしているのは、ぼく自身なの
である」。自身の考えを整理し、詩人として前進するための、実作と結びつい
た論考というわけだ。

 本書の主要なテーマは、虚構としての詩作品はいかにして成立するか、とい
うことにある。「手もちの材料と道具の点検」という章では、論を進めるにあ
たっての了解事項として「詩は表現ではない」ということを挙げる。挑発的な
言い方だが、もちろん詩が芸術表現でないと言っているわけではない。

 「まず表現したいもの(ヴィジョン・感情・思想・体験その他)を持ち、次
にそれを読者と共有するために作品化しようとして、表現に努める」態度に否
を唱えているのだ。詩の言葉は自律的な虚構の世界を造形するものであり、既
存の意味(観念)の伝達の手段(道具)にしてはならない、ということ。実体
験を描いた私詩の中でも成功した作品は、現実を虚構の世界に昇華する高度な
造形意識に支えられているというわけだ。

 そこで出てくるのが作者と発話者を厳然と区別するという考え。詩は一人称
で語りが進められることが多いが、作者と作品内で語りを進める発話者はとも
すると同一視されることが多い。入沢は詩の言葉は自律したものであるべきと
の認識から、作者と発話者、そして発話内容の中心人物(主人公)の区別を訴
える。そんなの当たり前じゃないか、という人もいるかもしれないが、この詩
論が書かれた当時は、詩と言えば作者が胸の内を「ありのまま」にうたい上げ
るもの、という通念が世間にあったのだろう。入沢は世間にはびこるこうした
偏見を取り除こうという意図があったためかもしれないが、この三者を区別す
る作業を、様々なケースを取り上げながら、非常に綿密に行っている。

 さて、ここまでの議論は、その精緻さに驚かされるとは言え、教科書的にす
っきりまとめられており、専門家が文学の常識を講義する(啓蒙的!)感じに
近い。しかし、本書の半分辺りから入沢独自の問題意識が突出してきてよりエ
キサイティングな展開になってくる。入沢は、「発話者が作者とイコールでな
いこと」を「かくす」書き方、「あばく」書き方、「ことさらかくしもあばき
もしない」書き方を詳細に比較した上で、発話者が「イカニモ作者ラシイ」方
向(私詩的)と「イカニモ作者ラシクナイ」方向(物語的)の軸を持つ座標を
考える。そして、座標のゼロ地点に位置する「関係が曖昧な発話者」に注目す
る。入沢は、どのような関係を設定するにせよ、一度この「発話者の零度」を
通過することが詩にとって重要と考える。

 入沢は「詩作品においては、作者と発話者は常に別である」という命題と
「詩作品においては、作者と発話者は相互に曖昧に依存し合う」という命題が、
「車輪の両輪」のようなものだとする。作者と発話者は「別であることで相互
に依存」し、「『依存関係』の本質的な在りかたが常に『曖昧』」である。更
に、その曖昧さは「ぼくたちの実存の本質的曖昧さと通底的」なのだという。

 この議論は、それまでの歯切れの良い冷静な進め方と打って変わって、やや
こしく、かつ論理に飛躍が見られる。しかし、ぼくは、このパートにおける若
き日の入沢の性急さ、熱さが好きだ。小説などの散文芸術においては、発話者
は登場人物の一人として、作者とは全く独立した存在として扱われる。しかし、
詩においては、発話者は作者とは別の存在でありながら、作者の意識をどこか
で引きずった存在として現れる。その曖昧な在り方は、現実における人間の複
雑で多様な在り方を反映したものだ……。こうした議論は、詩論や文学論とい
うより、むしろ人間論ではないだろうか。個別でありながら曖昧に依存し合う、
とくれば、都市空間の中で生まれた「孤独な群衆」の姿を思い出さないわけに
はいかない。

 入沢は更に、この作者と発話者の曖昧な関係の中に、「読者」を引きずり込
んでいく。詩の読者は与えられたテキストを享受するだけでは済まされない。
「読者はいわば主体的に詩行為を演じなければならない」のだ。それを突き詰
めた地点で、入沢は驚くべき認識に達する。「詩人は、降霊の儀式としての詩
作を進めながら、その詩作の刻一刻に、同時に一個の読者として立ち合うとい
う態度を要求される」。この激しい主張は、詩作とは単に詩を書くことではな
く、詩作の場そのものの神秘化の作業である、と言い換えることができそうだ。

 入沢はこの論で何度も言及する「作者」の中身について、特に詳しい説明を
していないが、この「作者」が、食べたり飲んだり仕事したり恋したり、とい
った生活者としての作者でないことは明らかだ。彼が「作者」と呼んでいるの
は、文脈から考えて、表現意識を持つ作者、更に言えば、創作に向かう作者の
自意識のことではないだろうか。現実の作者から抽出・昇華され、神秘化され
た自意識が、作品の隅々まで満ち渡り、多様な姿をとって波打ち、読者の心の
奥深くに侵入する。その具現化のケースとして、彼が追求した「擬物語」があ
り、個我意識を抽象化させる形で発展した「現代詩」がある。

 とすれば、彼が削ぎ落していった「生活者としての作者」「猥雑な日常を生
きる作者」から生まれる詩の可能性とは何だろう、と考えてみるのも面白いか
もしれない。本書には他にも興味深い問題がたくさん論じられているので是非
お手にとって精読していただきたいと思う。

*入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社 本体600円)
*『続・入沢康夫詩集 現代詩文庫』(思潮社 本体1258円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
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■あとがき
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 あけましておめでとうございます。平成最後の年、次の元号はなんだろな。
(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.671

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 大規模農業論、6次産業化…机上の改革案が日本農業をつぶす。農家減少・高
 齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作
 物の是非、移民…プロ農家のリアルすぎる目で見た日本農業の現状と突破口。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 残念ながらお休みです。来年にご期待ください!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語 
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 今年を振り返って…
  
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 ■トピックス
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 イベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語
 
 
 台湾の作家、呉明益の新しい本が出ていると知って、すぐに書店に向かった。
 『自転車泥棒』(呉明益著 天野健太郎訳 文藝春秋)という長編小説だった。
 好きな小説家、小説に出会うというのはうれしいものだ。以前、邦訳一作目の
 『歩道橋の魔術師』(呉明益著 天野健太郎訳 白水社)を読んだとき、若い
 時に感じた「本を読む喜び」を感じた。
 「この本は自分のために書かれたんではないか?」というような…。二十代に
 デビュー当時の村上春樹を読んだときや、それよりもっと前、中学生のころに
 レイ・ブラッドベリのSFファンタジーを読んだときに感じた、自分の中にスー
 ッと溶け込んでいくような感覚だった。
 優れた小説であるとか、美しい文章であるとかだけではない、きっと自分にと
 って大切なものになるだろうという予感といったらいいのだろうか。音楽でい
 えば、ビートルズやジェームス・テイラーを聴いたときの感動と同じだった。
 「自転車泥棒」というタイトルですぐに思い出すのは、イタリア映画、デ・シ
 ーカ監督の作品だ。ネオリアリズモ映画の代表作で、貧困にあえぐ人々を描い
 たモノクロ映画を子どものころ、教育テレビで見た記憶がある。名画座だった
 かもしれない。仕事に必要な自転車を盗まれた主人公が息子といっしょにロー
 マ中を探し回る話だったが、この小説でも「盗まれた自転車」をさがすことか
 ら、とんでもないスケールのストーリーが展開する。
 この小説のタイトルも映画から発想したようだ。
「鐡馬(自転車)が盗まれた
 ことで家族の運命が変わった」と主人公の母は口癖のようにいっていた……
 主人公である小説家の「ぼく」が、20年前の父の失踪事件の鍵となる自転車
 「幸福」を見つけたことから、100年にわたる主人公の家族史をたどりなが
 ら、やがて時間を超えた物語の世界に迷い込んでいく。

 
  この物語は訳者あとがきに、「ストーリーはある意味、非常にシンプルだ」
 とあるけれど、戦時下の台湾のこと、そして出会った人々のさまざまな記憶か
 ら生まれるいくつもの物語がタペストリーのように編まれていて、かんたんに
 言い表せない重厚なストーリーになっている。

 
  後記に「この小説は第二次世界大戦史、台湾史、台湾の自転車史、動物園史、
 チョウの工芸史…と関わりがある」書いてあるとおり、どうしてこれだけの情
 報量をひとつの小説に編み上がることが出来るのだろう、と圧倒されてしまっ
 た。過剰とも思われる情報量がきちんと物語の鍵としての役割を果たしている。
 なめらかな文体がじつに読みやすい。これは翻訳者の力量でもあるのだろう。
 
『歩道橋の魔術師』の感想にも書いたが、作者はたんねんにディテールを書き
 込んでいて、まるで映像を見ているようだ。東南アジアのジャングルでの戦争
 で負傷した兵隊たちに群がる鳥や虫たちの描写など思わず自分の体から虫をは
 ねのけたくなるような気分になったし、チョウの工芸品を作るところでは、チ
 ョウの鱗粉を肺に吸い込んで、むせてしまうようだった。戦時中に動物園の動
 物たちを殺処分していく話に胸がつぶれる思いになる。ぼくは、どういうわけ
 か、人間の生き死によりも、動物の命が奪われるほうが耐え難い気持ちになっ
 てしまう。

 
  自転車をテーマにしているのだから、もちろん自転車の構造から、台湾にお
 ける自転車の歴史について詳しく書かれている。自転車がロールスロイスのよ
 うに贅沢な乗り物だったころからの話だ。それにしてもよく調べたものだ。著
 者自身もじつは自転車のマニアらしい。それも「乗る」という行為ではなく、
 「物」としての自転車という。古い自転車を見つけて、足りない部品を探して
 修理する。ベテランの職人から知識、技術を学ぶ…と、かなり本格的のようだ。
 ちょうどギターマニアが1950年代、60年代のギターに夢中になるように。
 なんであれ、マニアというのはそういうものだ。

 
  読み終えると、不思議な安堵感があった。大きな時間の流れの中に身を任せ
 たような感覚なのかな。生きること、死ぬこと、家族、さまざまなことが頭を
 浮かんでいく。読んだあとに、ぜったいに再読しなければと思う。読むほどに
 違うものが見えてくる、そんな小説だと思う。呉明益という作家に出会えて本
 当に良かったと思う。ぜひ、新しい作品、そして過去の作品も読んでみたい。
 早く邦訳を出してもらえないものか。

 
  残念ながら呉明益の『歩道橋の魔術師』『自転車泥棒』の訳者である天野健
 太郎さんは今年11月12日に亡くなっている。まだ47歳だったという。太台本屋
  tai-tai booksというサイト
 (http://taitaibooks.blog.jp/archives/13977427.html)に呉明益が追悼文
 を寄せている。この文章を読むと、天野さんという翻訳家がいかに熱意を持っ
 て、そして綿密に作品について調べて翻訳をしているのかがわかる。ときに作
 家が当惑するほどの細かいことを問い合わせていると書いてあった。天野さん
 は、翻訳という仕事が作家の黒子で「どんなにいい訳をつけようが、読者はそ
 れを作家自身の腕によるものとしか思わない」と嘆いたそうだ。いや、そんな
 ことはないだろう。翻訳者の存在を感じさせず、作者が身近に感じられる訳文
 ということでいえば、ぼくが読んだ天野さんが翻訳した2冊は見事だと思う。
 そして天野さんが翻訳した香港のミステリー『13・67』(陳浩基 著 天野健太
 郎 訳 文藝春秋)を読もうと思う。
 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
 
 
 ★★第62回 吉上恭太のサウダージなクリスマス☆★★
 
 ◆日時:2018年12月25日(火) 20時〜
 
 ★投げ銭
 
 「サウダージなクリスマス」、今年で9回目です。
 2018年もいよいよ終わろうとしていますね。
 みなさんにとって、今年はどんな一年だったでしょう?
 
 楽しいばかりではないし、つらいばかりでもない、
 一日一日、泣いたり笑ったりしているうちに時は過ぎていくものですね。
 いろいろなことがあっても、
 古書ほうろうで、一年の終わりを親しい人たちといっしょに過ごせるのは、
 本当に幸せなことだと思います。
 今年のゲストは、棚木竜介さんとクララズさん!
 棚木さんは1stアルバム『スーベニール』、
 クララズさんは1stミニアルバム『海が見えたら』をリリースして、
 ふたりともノリに乗っている、いま注目のアーチストです。
 オリジナル曲、カバー曲を織り交ぜて楽しい、
 ロックなクリスマスになりそうだな。
 踊ってもいいですよ。
 もちろん3人のセッションもやりたいな。
 仰木ゆず子さんのクリスマスケーキも楽しみ!
 
 12月25日に会いましょう。
 Merry Christmas!(吉上恭太)
 
 
                        ―古書ほうろうHPより―  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  一年の締めくくりということで、今回は今年読んだ本で取り上げられなかっ
 たものをいくつか御紹介したいと思います。取り上げられなかったのは、私が
 締め切りにまでに読み終わらなかったとか、そういうパッとしない理由です。
 
  今年いちばんよく読んだのは栗原康さんでしょうか。黒い表紙の岩波新書
 『アナキズム』(2018)は、装丁もさることながら文章も従来の岩波新書とは一
 線を画しています。2017年に出た筑摩新書『アナキズム入門』(森元斎著)が
 思想史的なアプローチだったのに対して、こちらは現代社会の状況に触れなが
 らアナキズムについて力強く語られています。文章の方も独特の栗原節が響き
 渡っています。
 
  白石嘉治さんとの共著『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン、
 2018)は対談本なので、栗原節に慣れてない方はこちらがお勧めです。対談本
 の常として色々と話が多岐にわたるので、本書の中で紹介されている本をさら
 に読みたくなってしまう悩みが…。
 
 瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015)『縄文の思想』(講談社現
 代新書、2017)もそこで紹介されていて手に取りました。弥生時代に始まる農
 耕から現代にいたる文化の前に次第に見えなくなっていった縄文の思想ではあ
 りますが、資本主義的な考え方に代わる別の道として改めてスポットライトを
 当てていて非常に興味深いです。
 
  縄文と弥生の比較ということでは『文明の恐怖…』で、白石氏が縄文時代の
 土偶が個性的であるのに対して、弥生時代の「埴輪は人身御供で、目も虚ろ」
 (p,55)と述べているのが印象的です。埴輪の目は穴ですからね。
 
  栗原さんの主張の最大の眼目は、人間はやりたいことをやって生きるべきだ
 という点にあると思います。しかししかしさしあたり我々の大部分は食うため
 に働かねばならない。(もちろん働くことが大好きだという人もいるとは思い
 ますが。)この現実と向かい合うのは時にゲンナリしてしまいます。
 
  ゲンナリする現実にはパワハラ・セクハラなんてものもあったりします。し
 た側は無自覚でも、やられた側には深い傷が残ることもあります。そういった
 『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』小川たまかさ
 んの本で読みました(タバブックス、2018)。
 
  小川さんはジェンダー格差や年齢差別などについて、差別される側からの視
 点から世界を見てみようとしています。そこから見た世界はまだまだ改善の余
 地ばかりという印象です。だからといって何でもかんでも切って捨てるわけで
 なく、時に逡巡したりもしています。
 
  あるときはマイノリティでも別の切り口から見ればマジョリティだったりす
 るし。自分の中にある加害者性と絶えず向き合って生きることが大切なのかも
 しれません。しかしまあそれ以前にほんとに腹立たしくなるような事例もたく
 さんありますが。
 
  ところで、最近はセクハラとかパワハラとか大変だという嘆き節を耳にした
 り目にしたりしますが、ひとつ言っておきたいのは、昔だって傷ついてた人は
 沢山いたはずで。ただ泣き寝入りしていただけのこと。不快なことをされた側
 が「それは嫌だ」と声をあげられる社会はとても健全な社会のはずなのに、そ
 の状況を嘆くのはどうかと思います。嫌なことをされてもマイノリティはもし
 くは「弱者」は黙ってればいいんだよとでも?
 
  と憤懣やるかたない日々は続くわけですが。そんなとき川崎昌平は労働者に
 漫画を描くことを薦めます。『労働者のための漫画の描き方教室』(春秋社、
 2018)は決して労働者に漫画家への転進を薦める本ではなく、働きながら表現
 行為をすることによって辛い(重ねて言いますが辛くない人もいるのはわかっ
 てます)労働の日々に風穴を開けていこうという内容です。
 
  何故漫画なのか。それは川崎氏曰く割と技術的な修練を必要としない表現手
 段である為ということです。まあ私自身は漫画じゃなくてもいいかなー、とは
 思いますけれども。本書で述べられている漫画の描き方は、その他の表現技法
 をとったとしても大いに参考になると思います。
 
  いずれにせよ巧拙関係なく自分の中に表現者という部分があるのは生きてい
 く上で大きな助けになることは間違いありません(経済的な意味ではない)。
 
  この本を読んでいて思い出したのが詩人有馬敲の「唄ひとつ・スケルツォ」
 と言う詩です。
 
 あの熟慮する政治家よりも/きみは自分の言葉をえらんで/他者をそそのかせね
 ばならない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの慎み深い学者よりも/きみは自分の純粋をまもって/論理を組み立てねばな
 らない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの苦労性の商人よりも/きみは自分の修辞をきたえて/表現を磨かなければな
 らない
 (以下略 『糺の森』、竹林館、2010)
 
  表現しなければ、声をあげなければ、闘わなければ今感じているモヤモヤを
 晴らすことはできない。無力感に苛まれ堂々巡りで終わるだけ。本当はそんな
 無力感に苛まれる必要なんてないはずなんですけどね。今の社会では多くの人
 が自分は「弱者」だと思い込まされてしまう。というのは栗原さんの『アナキ
 ズム』で語られていたことです。
 
  それでも色々なところで声をあげている人が増えたことはよいことだと思い
 ます。ただそこでも自らの論理や表現や思考を鍛えていかなければいけません
 が。
 
  と栗原康に戻ってきたところで今月はここまでということで、皆さんも年末
 年始楽しい読書ライフをお過ごしください。一年お付き合いありがとうござい
 ました。また来年お目にかかります。 
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 三崎 いしいしんじまつり2018
 └─────────────────────────────────
 https://ishiishinji2018.peatix.com/

 2015年の三崎プチプチいしいしんじ祭から3年。
 昨年三崎に引っ越した
 夫婦出版社アタシ社と作家いしいしんじさんが出会い、
 3年ぶりに“いしいしんじ祭”を開催することとなりました!
 
 
 【イベントの目玉】
 来る2019年初春、アタシ社からいしいしんじさんの新刊が発売予定。
 物語の舞台はもちろん“三崎”。
 イベント当日、アタシ社の蔵書室「本と屯」で
 先行予約を受け付けます!
 
 \さらに、さらに/
 このイベントだけの特別ライブをあなたに。
 原田郁子さんが三崎にやってきます。
 50名限定のスペシャルライブとなりますので、
 お早めにチケットをお求めください。
 
 ほかにも……
 いしいしんじ縁の土地、三崎の商店街を中心に
 小さなブックフェア、トークイベント、ライブ、パフォーマンスなど、
 一日限りのお祭りを開催します。
 クリスマス・イヴイヴの日、
 本に囲まれながら一日を三崎で過ごしませんか? 
                        ―HP告知より抜粋― 


 ◆日時:2018年12月23日日曜日 11:00〜20:30 JST

 ◇場所:本と屯 三浦市三崎3丁目3-6 
 
 【イベント詳細】
 
 ◆場所:三崎港周辺のあちこち
 ◆アクセス:京急三崎口駅よりバスで10-15分、バス停「三崎港」下車
 ◆駐車場:近隣のコインパーキングをご利用ください
                                       (1日最大600円程度が多いです)
 ◆料金:
 (1)【チケットA】「いしいしんじ祭」チケット1000円(上映会とライブは除く)
 (2)【チケットB】完売

 【お祭りの具体的な内容】
 
 贈り物にしたい本たちの小さなブックフェア(入場無料)
 新潮文庫、ミシマ社、アノニマ・スタジオ、港の人、ニジノ絵本屋、藤原印刷、
 BOOK TRUCK、横須賀上町休憩室とその仲間たち、
 自由大学「Publisher入門」
 @三崎港前 山田屋2階、中華ポパイ前の蔵 11:00-16:00
 
 いしいしんじの本棚(入場無料)
 いしいしんじさんの家にあった本が集結!
 いしい家の本棚を数百冊の本で再現! 
 @ミサキファクトリー前の蔵 11:00-16:00
 
 まるいち企画 マグロの頭輪投げ
 まるいち食堂さんのご協力のもと、マグロの頭を使った特製輪投げ!
 @本と屯横駐車場 12:00-15:00
 
 ■戌井昭人の朗読パフォーマンス(チケットA)
 @本と屯 12:30-13:00
 
 ■出張ニジノ音楽会 The Worthless 絵本LIVE(入場無料)
 @佐藤薬局駐車場 13:30-14:00
 
 ■湯浅学の音楽ライブ(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 15:00-15:30
 
 ■いしいしいんじ その場小説(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:00-16:30
 
 ■三崎談話 トークイベント
   (いしいしんじ×矢野優×石田千×戌井昭人×湯浅学)(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:45-17:45
 
 ■いしいしんじ十一のはなし上映会
   (映像:香山宏三)と原田郁子special LIVE(チケットB)
 @ミサキドーナツ本店2階 18:30-20:30
 上映会/18:30-20:00、原田郁子ライブ/20:00-20:30
 
 企画・運営/アタシ社      ―HPより転載させていただきました―

 詳細は⇒https://ishiishinji2018.peatix.com/

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 ■あとがき 
 今年も終わりますね。皆様にとってはどんな年だったのでしょうか。個人的に
 は別れることの多い年でした。父、18年暮らした猫、たった三か月だったけ
 ど家族になってくれた猫。
 夫の闘病も六年目を迎え、「回復」から「進行」に移行してきた年でした。
 でも、今思うと毎日は結構充実していた…ような。忘れっぽいからな?
 とにかく、健康!と唱えていました。
 
 一年間、本当にありがとうございました。
 来年もよろしくお願いします。どうぞ、よいお年を!  畠中理恵子
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