[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ vol.693


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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.9.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book          [小さい秋見つけた?号]
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 ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
 
 『世界史を変えた13の病』
 
 ジェニファー・ライト著 鈴木涼子訳
 四六判 338ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562055982
 
 数多くの犠牲者を生み、時には文明を崩壊させた疫病の数々が、人類史に与え
 た影響とは? 無知蒙昧からくる迷信のせいで行われた不条理な迫害や、命が
 けで患者の救済に尽くした人、病気にまつわる文化までの知られざる歴史。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 →今月はお休みです。次回にご期待ください。 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第111回 リズムがみえる
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 歴史マニア必読?「分国法」で戦国大名がどんなことに心を砕い
   ていたかを読み解く
  
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 ■トピックス
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 ひとつ、イベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第111回 リズムがみえる

  アレサ・フランクリンが亡くなった。8月16日、「ソウルの女王、死去」と
 いうニュースが大きく報道された。ふだんはFMラジオでも滅多に流れな
 いアレサだが、いくつかの番組で追悼特集が組まれて、あのパワフル
 な歌声を聴くことが出来た。

 
  アレサの力強い歌声を聴いているうちに映画『ブルースブラザース』を
 見たくなって、レンタル店に走った。ブルースブラザースのジェイクとエル
 ウッドがバンドを再結成しようと、ギタリストのマット・マーフィーを誘いに
 くるシーンを見たかったのだ。アレサはソウルカフェのおかみさんの役で、
 出て行こうとする夫マットを引き止めよう、というか、身勝手な男に対して
 抗議しようと「Think」を歌う。大きな体をゆさぶって歌うアレサ、やっぱり
 最高だ。この時代のソウルミュージックは、ダンスも楽しいね。
「ブルース
 ブラザース」という映画、ストーリーはめちゃくちゃだけど、黒人音楽への
 愛情が溢れていて見ていると胸が熱くなる。続編の「ブルースブラザース
 2000」も亡くなったジョン・ベルーシは出ていないけれど、B.B.キング、エ
 リック・クラプトンからドクター・ジョン、アイザック・ヘイズやら書ききれな
 いほどの大御所ミュージシャンが登場するし、もちろん音楽が素晴らしい。
 クラプトンが本当に嬉しそうにギターを弾いているのを見ていると、感動し
 て涙がこぼれてしまう。

 
  そういうわけで、ここのところブルースや、ソウルを聴いていたのだけど、
 このタイミングで一冊の本が届いた。ダンボールを開けてみると、
 『リズムがみえる』(文 トヨミ・アイガス 絵 ミシェル・ウッド 訳 
 金原瑞人  監修 ピーター・バラカン サウザンブックス社)という絵本だ
 った。ピーター・バラカンさんのフェイスブックで知って、
 サウザンブックス社のクラウドファンディングで購入した。この絵本も黒人
 音楽への愛情があふれた素晴らしい本だった。
 『リズムがみえる』はアフ
 リカ系アメリカ人の音楽の歴史を描いた絵本で、黒人音楽のルーツである
 16世紀のアフリカ音楽から始まり、奴隷歌、ブルーズ、ラグタイム、ジャズ
 の誕生、スウィング、ビバップ、クール・ジャズ、ゴスペル、R&B/ ソウル、
 ファンク、ロック、そして、現代のラップ/ヒップホップまでを追っている。

  
  
とにかくダイナミックでエネルギッシュな絵に目を奪われる。画家の
 ミシェル・ウッドはこの絵本のためにミュージシャンのことを調べ、黒人
 コミュニテイの視点をさぐるために老人から若者までインタビューをしたとい
 う。
「はじまり」の見開きにあるアフリカの絵からは太古のリズムが響いてく
 るし、奴隷時代の絵からは農場で働く奴隷たちの労働歌が聞こえてくる。
 ジャズが誕生したニューオーリンズのストリートでは、にぎやかだけれど、
 どこか悲しいディキシーが流れている。とても大胆にデフォルメした絵、でも
 ディテイルがきちんと描かれていて、その時代の音楽や空気が伝わってくる。
 たとえばハーレムのジャズスポットのムッとするような空気を感じることが出
 来る。
 デューク・エリントン、ディジー・ガレスピー、あっ、このピアニストは
 モンクかな?
  と登場するミュージシャンを見ているのも楽しい。絵本にジミ・ヘンドリックス、
 Pファンクも登場するなんて最高だな。

 
  トヨミ・アイガスの文章は、歴史を描いているが、決して解説ではなくて、そ
 れぞれの時代の音楽を詩にしている。音楽を文字にするのは難しいと思うの
 だが、とてもリズミックで読んでいるとまるでブルースを歌っているようだ。翻
 訳のうまさなのだと思う。ぼくは「読み聞かせ」という“風習”は嫌いだが、こ
 の絵本ならば、気分よく読めそうだ。

 
  それぞれの見開きに解説と年表がついていて、アフリカ系アメリカンにとっ
 て重要な歴史的な事件と音楽のトピックがいっしょに書かれている。南北戦
 争、公民権運動など、黒人音楽は歴史と切り離せないことがよくわかる。

 
  たとえば1969年にマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された翌年に
 ウッドストックフェスティバルでジミ・ヘンドリックスが激しいギターソロで
 「星条旗を永遠なれ」を演奏している。ブルース、ジャズ、そしてロックは抵抗
 の音楽だったんだ。

 
  黒人音楽はアメリカのポップスの原点だといえるだろうし、日本のポップス
 も大きな影響を受けている。いま日本でも主流の音楽はヒップホップ(ダンス
 も含めてね)なんだろうけれど、そのルーツである黒人音楽の歴史をたどっ
 てみてはどうだろう。『リズムがみえる』は理想的な教科書になりそうだ。
 
「ファンクによって産みだされ、母なるアフリカによって育てられた
  ヒップホップのリズムがみえる
  わたしのなかに生きつづけるリズムがみえる。」
                                            (ラップ/ヒップホップの章から)

 
  こんなかっこいい教科書だったら、勉強したくなるでしょう?
 
  黒人音楽の歴史を知ったうえで、今のヒット曲を聴くと楽しさに深みが加わ
 ると思う。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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   西日本では台風、北海道では地震と災害が多い夏になりました。被害に遭
 われた方々にお見舞い申し上げます。
 
  テレビでは外国人観光客の人たちが途方にくれる姿も報道されていました。
 正直なところ日本では地震・台風・火山の噴火などは避けられないのですから、
 外国人の方々には「日本は安全」というよりも「災害にあっても何とかなる」とい
 うアピールが大事かもしれませんね。
 
  関西の某空港のように、災害に巻き込まれると途方に暮れるほどひどい目に
 遭うという印象をもたれてしまうのは残念なことです。その点でも原発は全廃し
 た方が外国の人たちも安心して遊びに来れますね。
 
  ともあれ今月の本はそのこととは何の関係もありません。
 
 『戦国大名と分国法』、清水克行、岩波新書、2018
 
  分国法というとアレですね。日本史の教科書に出てくる、「六角氏式目」とか
 「相良氏法度」とかいう、戦国大名が領内の統治のために定めた法律のことで
 す。
  
  とか聞くと、堅い話みたいだから興味ないよ、という方もいるかもしれません
 が、そんなことはありませぬ。分国法の世界を覗いてみれば、戦国大名がど
 んなことに心を砕いていたのか、当時の社会はどんな感じだったのかが見え
 てきます。
 
  とりあげる分国法は五つ。下総結城氏「結城氏新法度」、伊達氏「塵芥集」、
 六角氏「六角氏式目」、今川氏「今川かな目録」、甲斐武田氏「甲州法度之次
 第」。どれも分国法業界(?)では名の知れたラインナップです。
 
  分国法というと「法」という名前が付いているだけに、仰々しいものであると
 いう印象を私たちは受けますが、じつはそこまで厳密なものではなかったよう
 です。
 例えば「結城氏新法度」ではその条文には妙に具体的な箇所があったりしま
 すし、その上この法度を定めた結城政勝の独白のような箇所も見出すことが
 できます。
 
  法律を定めるというと、家臣も含めて皆で合議して決定というイメージがあり
 ますが、この「結城氏新法度」については、結城政勝がひとりで書き上げたよ
 うなのです。そのためか野放図で自分勝手な家臣に対する、愚痴のような文
 章も頻出します。
 
  結城氏といえば源頼朝を烏帽子親に持つ結城朝光以来、連綿と続く名家に
 して、室町時代には「関東八屋形」のひとつにも数えられた名門ではあります
 が、戦国時代には本拠地結城(茨城県)周辺に勢力を張るのみでした。有力家
 臣の多賀谷氏・水谷氏・山川氏などは半ば独立勢力とも言える状態で、周りを
 見ても佐竹・宇都宮・小田といった大名に囲まれ安穏としていられるような状
 況ではありませんでした。
 
  それだけにこの結城政勝の著した「結城氏新法度」もグチグチした中身にな
 ったのでしょうか。そして残念ながらこの法度の実効性は疑問符が付くようで
 す。なんだか悲しい。
 
  そういった点では伊達稙宗の著した「塵芥集」もやや似たようなところがあり
 ます。ちなみに伊達稙宗はあの独眼竜こと伊達政宗の曽祖父に当たる人物
 です。
 
  その稙宗がおそらく「御成敗式目」を参考に作ったのであろうと考えられるの
 がこの「塵芥集」です。それもおそらくひとりで。なぜなら明らかに
 「御成敗式目」を参考にした箇所とそうでない箇所で内容の一貫性が無かっ
 たりしているのです。おそらくブレーンがいて内容のチェックや矛盾の解消をし
 たり、なんてことはしていない。
 
  「塵芥集」からは、土地問題についての条文の粗雑さから、まだ当時の東北
 には未開発地が多くあり、他の地域ほど土地争いが深刻がしていなかったの
 ではないかとか、落し物は居城である西山城下に立て札を立てて持ち主に返
 すようにと定められていることから、徐々に家臣団が大名の居城に集住する
 ようになっていたのではないかとか、色々と興味深い解読がなされていきます。
 
  このほかにも色々面白いテーマがありますが、そんな「塵芥集」を完成させた
 稙宗は、家臣団にこの法への服従を誓わせます。
 
  ところが、稙宗はその六年後に息子晴宗を担ぎ出した家臣団に攻勢をかけ
 られ、すったもんだの挙句隠居に追い込まれてしまいました。どうも独裁的な
 稙宗に対して家臣団の不満が高まっていたようです。そして「塵芥集」は無か
 ったことに…。
 
  あれ…。教科書に取り上げられるほどの分国法ですが、なにやら雲行きが…。
 
  あと本書で取り扱っているのは織田信長に本拠地を追われた近江の六角氏
 と、桶狭間での敗戦で一気に衰退した今川氏と、勝頼の代に滅亡に追い込ま
 れた武田氏。いずれも戦国時代を生き残れていませんね。
 
  分国法を定めた大名は戦国時代のなかでもとりわけ進んだ大名という気が
 していましたが、なにやらそれも怪しくなってきます。最終章では個別の
 分国法を見た上で、何故法を整えようとした大名は衰退していったのかとい
 う点について考察がなされています。
 
  分国法のイメージが変わると共に、分国法から見た戦国時代の社会が生き
 生きと描かれてます。戦国時代好き(?)必読の一冊です。
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 30周年記念
  沖縄の出版社 ボーダーインクフェア in ジュンク堂書店那覇店
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 実はボーダーインクもうすぐ30年なんです。
 
 ということでジュンク堂那覇店一階にて
 
 ボーダーインクフェアを開催します。
 9月1日(土)から9月30日(日)のまるまる1ヶ月
 
 場所はモノレール側の入口入ったあたり
 
 イタリアントマトの近くの広いスペースです。
 
 ボーダーインクの本でこれだけ埋められるのか。。。
 
 と思いましたが、なんとかなりそうです。
 ボーダーインクの新刊、既刊本、希少本まで
 全て並べます。
 
 会長宮城が選書した50冊(ボーダーインクの本ではない)や
 ヨシ子さんの写真展や本のイラスト展もあります。
                                                〜HPより抜粋〜
 
 
 ◆日時:2018年9月1日〜30日 10:00〜22:00 
 
 ◇場所:ジュンク堂書店那覇店1F
     〒900-0013
     沖縄県那覇市牧志1-19-29 D-NAHA 地下1階〜3階
       TEL098-860-7175

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 ■あとがき
 一ヵ月の間、近畿地方を台風が襲い、北海道では大きな地震がありました。
 被災された方々に心からお見舞い申し上げます。まだまだ大変な思いをされ、
 つらい生活を強いられていらっしゃると思います。どうか一日も早く、日常生活
 を取り戻されるよう祈っております。
 
 やっと少し涼しくなって、頭が落ち着いてきたような気がします。イベントで
 ご紹介9月いっぱいさせて頂いていますが、那覇のジュンク堂書店さんで
 沖縄の出版社、ボーダーインクさんの大大的フェアが催されています!
 30周年!素晴らしいですね。30年間の沖縄の現場の声、生の暮らしが
 出版物に表現されている!そんな感慨を覚えました。ますますお元気で、
 今の視点で沖縄を語っていただきたいです。ファンです!!畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.692


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■■ [本]のメルマガ                 2018.09.05.発行
■■                              vol.692
■■  mailmagazine of books      [用心はしつつ、お健やかに 号]
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『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

ジェニファー・ライト著 二木かおる訳
四六判 328ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562055920

ネロとポッパエア、ヘンリー八世とアン・ブーリン、オスカー・ワイルドとダ
グラス卿など、歴史に名を残すカップルたちの別離にまつわる13の逸話。傷心
ゆえの悲しみ、愚かさ、みじめさに突き動かされた人々の奇異な運命を描く。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その27「究極の食べ物」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 痛みと笑い―川上亜紀詩集『あなたとわたしと無数の人々』(七月堂)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その27「究極の食べ物」

 究極の食べ物ときいてどんな物を想像するだろう。

 芳しい香りを漂わせ、素晴らしい歯ごたえを持ち、口の中ではとろけてしま
うようなもの。

 それは肉?魚?野菜?果物?それともお菓子だろうか?

 究極の食べ物はそれだけで完璧なので、料理をしなくても食べられるものと
して物語の中に現れる。

 例えばまず思いつくのは、聖書の中のマナだ。

 これは神が与えてくれた食べ物で、空から降ってきた露が大地の上に広がっ
た後に、乾いて残った霜のようなものだという。薄くて壊れやすく、コエンド
ロの種のように白くて、蜜の入ったウエファースのような味がしたと書かれて
いる。

 マナは翌朝まで残すと虫がついて臭くなるので、戒律を守って週六日だけ拾
い集めなくてはならない。そして、安息日の前の日だけ、蓄えることができる
という。

 このマナだけで四十年生きていけたという。

 あまりにありがたいものだけれど、これだけでそんな長い間を耐えられたの
だろうか?

 私はつい、あきなかったのかなと考えてしまう。

 次に、妖精界の究極の食べ物を見てみよう。

 トールキンの『指輪物語』の中に出てくる究極の食べ物といえば、もちろん、
旅ゆく二人のホビット、フロドとサムに、エルフが持たせてくれた携行食糧
「レンバス」だ。 

 それは、

「非常に薄い焼き菓子の形をしていて、外側がうすいとび色に焼け、中がクリ
ーム色をしており、あら挽きの粉でできていました。」

 保存食でもあり、高カロリーで滋養も高く、少し食べればかなりの距離を歩
くことができるという優れもの。この言葉で想像するのは、おいしそうなビス
ケットのような物なのだが、ホビットの二人は、辛い旅程の最後には、これし
か食べられないのに嫌気がさしてきてしまう。 

 サムが

「今は違ったものが食べたくなりましただ。何にもついてねえ、ただのパンを
ちょっぴり、それからジョッキ一杯のーいいや、半杯でもええービールがあれ
ば、さぞ結構だと思うことでしょうて」

と、言い出すのもしかたないだろう。 

 何せ、ホビットは本当のところ、ものすごく食いしん坊なのだ。そもそもの
この物語の発端である『ホビットの冒険』に出てくるご馳走ときたら、滅茶苦
茶食欲をそそられる。 

 魔法使いガンダルフだけをお茶に招待しただけのつもりだったホビットのビ
ルボのところに、ドワーフ小人たちが次々に現れる。

 彼らが要求する物は……。

お菓子に、丸い大きな種入りの焼き菓子にビール、バタつきホットケーキ、コ
ーヒー。一息ついたところに現れた別のドワーフは「赤ブドウ酒を」と言い、
別のものたちは「イチゴジャムとリンゴのパイを」「ほしブドウ入りのパイと
チーズを」「ポークパイとサラダを」「卵」「とりのむしたのとトマトも」等
々と口々に注文してくる。

 さすがのビルボも

「うちの食物ぐらのなかみを、わたしよりくわしく知っているみたいだぞ」
と、怪しむほど、食物ぐらをスッカラカンにしてくれる。 

 つまり、こんな多種多様な食べ物で常に食物ぐらを満たし、一日に何度もお
茶をし、食後のおつまみを用意しないではいられないのが、ホビットなのだ。
彼らにとって、どんなに芳しくおいしい究極の食べ物でも、「レンバス」だけ
で旅をするのはきつすぎるのが、ご納得いただけたろうか。  

 『指輪物語』の中で二人がおいしそうにレンバスを食べるのは、「二つの塔」
の巻に出てくる子兎の香草入りシチュウが出てくる場面だけだ。
 ゴクリが捕まえてきた小さな子兎をサムが二羽鍋に並べて、香草と貴重な塩
を放り込んで煮込んだシチュウ。フロドとサムの二人はスプーンとフォークを
かわりばんこに使ってそれを食べ、最後にレンバスを贅沢にも半分こずつおご
ることにしたとある。
「宴会と言ってもいいくらいのご馳走になりました」
と、書かれているところを見ると、やっぱりレンバスはデザート代わりの美味
しいお菓子なんだろうなと思うのだ。

 その後は過酷な旅が続いて、干し果物に細く切った干し肉という糧食を食べ
ることもあるけれど、二人はレンバスと水だけで残りの行程を乗り切っていく
ことになる。

「サムの心はともすれば食べものの思い出と、ただのパンと肉への渇望に満た
されるのでした。」

 わかるよ、サム。

 そもそも、このレンバスとは「旅人たちが他のものを食べたり混ぜたりしな
いで、これだけを頼り切っていれば効力が増し、意志や耐える力を与えてくれ
て肉体を不可能なまでに使いこなすことができるようにするもの」なんだそう
だ。これだけを食べることが重要なのだ。デザートではなく。

 だから、最後までがんばってくれ。

と、この長い物語を読んでいるほうもへとへとになりながら、思ったものだっ
た。

 でもこんなものは、科学的に考えられた究極の食べ物の悪夢に比べれば、天
国の味わいだ

 そんな悪名高い食べ物を生み出したのは、ロシア(ソ連と言うべきか)のSF
作家ベリヤーエフ。

 悪夢のように膨れあがった『永久パン』の物語を見てみよう。 

 物語の舞台は、ドイツのある島。住民はほとんどが漁師で、海が荒れれば漁
に出られず、生活はきつくなる一方だ。そんな彼らの村で、何故か最近めきめ
きと太ってきた老人がいる。怪しく思った漁師たちがそのハンス老人を問いつ
めてみると、彼が差し出したのは鍋に入った奇妙な「ねり粉」。それは、島に
暮す科学者が作った実験中の食べ物で、ハンスを哀れんだ博士が実験的に分け
てくれた「永久パン」というものだった。 

「半分食べると、お前は一日中お腹がくちくなる。おまけに、一昼夜たつと、
ねり粉は増えて、かんはまたいっぱいになる…」

と、博士が言うように、これは、栄養価も十分で食べれば健康になり、老人や
赤ん坊の胃にさえ吸収されやすいという優れものなのだ。その上、次の日には
空気の中の栄養分を吸って増えてくれるらしい。形状は、

「まるで、蛙の卵のようで、とても気味が悪いのじゃ。」

が、味は、

「それはそれはおいしくて、ちょうどすり下ろした焼き林檎のような味がした」

と、なかなか心をそそる甘味があるようだ。 

 これを見つけた島の住民は、無理矢理手に入れて増やそうとする。さらにこ
れを知った世界中の人間がこのパンを欲しがり、それを独占しようとした企業
の手先が島に乗り込んできて……と、話の方もすごい勢いで膨れあがっていく。

 そして、ある日永久パンも人知れず膨れあがっていき、島の人々は、逆にそ
れを食べるのに四苦八苦することになる。

 この本が面白いのは、主人公たちが漁師だということだ。目の前には豊かな
海が広がっているのに、魚を食べずに永久パンを食べたり売ったりすることに
夢中になって、漁を忘れてしまう。

 私がこの島の住人だとしたら、まず永久パンの味に飽きてしまうだろう。舞
台が日本だったら、島の住人は永久パンで余った食費でおいしい刺身が買いた
くなり、高級魚が売れて漁が盛んになっていくんじゃないかなんて思ってしま
う。

 けれどこの物語では、海は打ち捨てられたままだ。

 やがて、増えすぎたパンが人も家も飲み込んでしまい、捨て場に困ったパン
は海に捨てられ、海の滋養を得たパンはますます膨れあがって増えていき、や
がては、人類の滅亡の危機を予感させていく……。と、話は進んでいく。 

 もうこれは絶対、パンを発酵させる場面を見ていて思いついたなと感じる物
語だ。

 この物語が収められている一九六三年度版の「ベリヤーエフ少年科学空想小
説選集6」の解説には、「酵母とクロレラ」が載っている。四〇年たった今で
も、クロレラは相変わらず不人気で、ここでのご推薦の宇宙食にもなっていな
い。

 人間は科学的に優れたものよりも、食べ慣れた物(例えばラーメンやアイス
クリーム)をもって、宇宙に行きたがるからだ。

 この永久パンを一度は味見してみたいと思うのだけれど、お腹の中で膨れあ
がってはじけてしまったらどうしよう等と思ってしまう。永久パンは大気中の
栄養素をもとに作られるというのだから、逆に食べたものを内部から食い尽く
すのではないかという恐怖心も起こる。そして、体の中から膨れ上がっていく
のではないだろうか?一応原作では、そちらの作用はないことになっているみ
たいだが…。 

 それにしても、食べ物の方が人間を飲み込んでしまうという恐怖は耐え難い。

 物語の中の宇宙では、ロバート・シェクリイの『人間の手がまだ触れない』
のように、食べるという観念の違う宇宙人に出会ってしまうこともある。

 赤色矮星に辿り着いた腹ぺこの地球人二人が、無人の倉庫で見つけた食料を
食べようとする。宇宙語の辞書を片手に缶詰の説明を読みながら。でも、そこ
にあるのはゼリーのようなゴムのようなくすくす笑う赤い物体や、「誰でもヴ
ージイを飲む」と書いてある桶から現れ、躍動して襲ってくる液体のようなも
のばかり。実は、この星の住人は毛穴からしみ出した何かを、「飲むより飲ま
れる方を好んでいた」らしく、桶には実は「ヴージイは誰でも飲む」と書いて
あったのだ。

 膨れあがった永久パンに飲み込まれるのが好きな宇宙人もいるのかもしれな
い。 
 
 「食べる」という概念まで狂ってしまった宇宙に行き着いてしまっては、究
極の食べ物を目指す旅は、どうも続けられないようだ。 

 そろそろ、ここらで旅の終わりとするにしよう。

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『指輪物語』J・R・R・トールキン著           評論社
『ホビットの冒険』J・R・R・トールキン著        評論社
『ベリヤーエフ少年科学空想小説選集6』
             アレクサンドル・ベリャーエフ著 岩崎書店
『人間の手がまだ触れない』ロバート・ シェクリイ著   ハヤカワ文庫SF
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第115回 痛みと笑い
     ―川上亜紀詩集『あなたとわたしと無数の人々』(七月堂)

 芸術家の伝記的事実はしばしば作品の鑑賞に影響する。歴史的・社会的な背
景だけでなく、交際相手との関係などのプライベートな事実も、作品の印象を
大きく左右するものである。ゴッホが自ら耳を切ったとか、ショパンがサンド
と恋人関係にあったといったようなことは、最早作品と切り離せない。作品は
作者によって創造されるわけだが、作者もまた作品の一部なのかもしれない。
しかし、作者の実人生に拘り過ぎると作品に込められた作者の本来の意図を読
み損なう危険も出てくるので難しいものである。

 詩集『あなたとのわたしと無数の人々』(七月堂)の作者川上亜紀は、詩集
の刊行前に50歳の若さで亡くなっている。実はぼくは彼女の知人なので、その
事実を知った時は大きなショックを受けた。彼女は長い間難病と戦っていた。
最後の本となってしまった今度の詩集も、本人を知っている身からすると、詩
のどの言葉も自らの遠くない死を予感したものに思えて、涙が出そうになって
しまう。しかし、本詩集には闘病について触れている詩は一編もない。切迫し
た実人生から離れて彼女が詩の中で生きようとした人生とは何だったのか、そ
れについて考えてみたい(作者を「川上さん」と呼びたいところだが、本コラ
ムは敬称略で書いているため、それを踏襲する)。

 『あなたとわたしと無数の人々』は生活の機微を現代小説のような緻密なタ
ッチで描くことを基調としているが(彼女はもともと小説家を目指しており
『グリーンカルテ』(作品社)という著作もある)、突如として奇抜なイメー
ジを挿入し、大胆な流れを作ることを大きな特色にしている。「蜂たちはどこ
へ?」は、「閉め切った家を掃除しに行った」ことを回想する詩。ベランダに
古い蜂の巣が落ちていて作者は捨ててしまった。「わたし」はそのことを不意
に思い出し、「蜂たちはどこへ?/暗黒の宇宙に飛び出してしまったのか」と
問う。そして眠りにつく直前、「宇宙を飛んでいく蜂たちの羽音が聞こえて/
暗闇のなかで目を開けるがもちろん/なにも見えはしないのだ」ともう一度思
い起こすのだ。蜂そのものを見ていない。巣を片付けただけだ。が、その何気
ない行為が心に引っかかりを与え、怖いような勇ましいような、暗黒を搔き乱
す「羽音」を生み出す。現時点は春、掃除しに行ったのは「昨年の寒い曇天の
日」で時空の交差も面白い。

 「寒天旅行」も大胆な発想が魅力の詩。「わたし」は新幹線に乗って窓の外
の雪景色を眺めている。その雪の様子から寒天ゼリーを連想した「わたし」は
「そのなかにわたしも静かに入って温かくなるまで固まっていてもいい」など
と考えた挙句、「梅田駅周辺をよく混ぜあわせて砂糖を加えたものに心斎橋の
スライスと中之島公園を細かく砕いた大坂のキタを散らして寒天ゼリーで固め
て皿に盛る」という「大阪の寒天ゼリーよせ」という名の珍妙なスイーツ(?)
を考案する。大坂への旅行は「寒天旅行」に早変わりしてしまった。

 「水道橋の水難」は、水道橋の駅に「巨大な水道の蛇口のオブジェ」が「あ
るような気がしていた」けれどそんなものは見当たらなかった、と始まる。水
道橋には校正教室があり、「わたし」はそこに通っている。本を出したことの
ある「わたし」にとって、細かなミスも見逃さない校正者は「神」のような存
在なのだ。「わたし」の履いている靴は擦り減っており、「こんな靴では、そ
う、神にはなれないよ」とやや落ち込んだ調子で呟き、詩人としての自信もな
くしかけたところに、「振り返ると空には大きな水道の蛇口が浮かび/誰かの
大きな手がその蛇をひねるのが見えた」と、何だこれ、と叫びたくなるような
急展開がやってくる。街には大量の水が溢れ、「わたし」は欲しかった赤い靴
への未練もなくなり、校正教室も通り過ぎ、「クマ泳ぎネコ泳ぎしながらずっ
と遠くまで行くだけさ」と、スッとした感じで終わる。

 「ベートヴェンの秋」は、マンションの修繕工事中に、部屋の中でベートー
ヴェンのピアノソナタのCDを聞くという設定である。工事の騒音を聞いた
「わたし」は、「子どもを産まず子どもを育てず昼間から家にいる女を攻撃す
る会」みたいな連中が来たのかと思ってしまう。ドリルの音は「ワルトシュタ
イン」ソナタのパッセージに似ており、「わたし」は「独身で子どももいなか
った」ベートーヴェンに、ドリルに対抗してもらう気になったりする。やがて
工事員は帰り、夕闇の中に静かな「月光」ソナタが流れる。子どものいない女
性を揶揄することは差別の典型だが、残念ながら世間一般ではそうした差別や
偏見が後を絶たない。工事の音を聞いて世間から攻撃されている気分に陥った
「わたし」は、同じ芸術家で独身でもあったベートーヴェンに助けを求めると
同時に癒しを得る。工事が終わり、戻ってきた静寂は、「わたし」に今のまま
で良いと、慰めてくれるかのようだ。

 「馬たちは草原を越えてゆく」は、子どもの頃、かわいがってくれた叔母を
訪ねたことを、大人になった現在の視点で描いた詩。家には何頭もの木彫りの
馬があり、子どもの「わたし」は絨毯の上に並べて遊ぶ。絨毯を草原に見立て、
馬たちが助け合って進む様子を「ハヤク行かないともう雪が降る/病気で倒れ
てしまった馬のそばにべつの馬がかけよってゆく」といったように、物語風に
展開させていく。一方で、訪ねた時のことやその周辺を小説的に描出していく。
「うちは子どもがいないから と叔母はよくわたしにそう言った/大人になっ
たら自分も誰かにそう言うのだろうか/わたしは密かに考えたりした(誰にわ
たしはそう言うのだろうか)」というくだりにドキリとさせられる。子どもの
頃の視点と大人になった現在の視点が重なり、叔母の人生と自分の人生が重な
る。思うようにいくこと、いかないこと、人生にはいろいろあるが、それでも
「馬たちはゆっくりと草原を越えてゆく」の一行で詩は締めくくられ、そうし
た全てのことを受け止めている「わたし」の姿が浮かび上がる。

 表題作の「あなたとわたしと無数の人々」は父母の会話の中によく出てくる
「オガワのトラさん」にまつわる詩。留置場に入れられたことがあり、ベート
ーヴェンの第九を歌うのが趣味、ドイツに行ったこともあったが、もう「シン
ジャッタ」という。「わたし」にとっては小耳にはさんで少し興味をそそられ
る程度の人物で、深く詮索するほどの関心はない。本名さえわからない。しか
し、堆積した記憶の中で「それでもオガワのトラさんは雲の上で第九を歌って
いて/いまでは父もそこに加わって夢のオーケストラを指揮していて/さきに
いっていたSさんは雄猫のルリを撫でてくれているのだ」と神話の人のような
存在になっていく。「わたし」は「このさきにはもうほんとうに恐ろしいこと
などありはしないと思う」とシリアスになりかけるが、直後、詩は「オガワの
トラさんは雲の上で…。」と軽い調子で締めくくられる。この気分の交代の描
出は重要である。「雲の上」に行くことは恐ろしいことなのだが、「雲の上で
歌うオガワのトラさん」を楽しく想像することは生者の特権だ。誰しもいつか
は「雲の上」に行かざるを得ないが、今はとりあえず「雲の下」で生きている
のである。

 この詩集の作品は全て何らかの意味で、素の自分を受け止めようとする意志
を示している。それはあっけらかんとした楽観性とは無縁のものである。求め
たが得られなかったもの、望んだが叶わなかったこと、そうした苦さを含んだ
自己肯定なのである。ありのままの自分を認めるということは、本来そうした
ものではないだろうか。そこには、残されたもの、得られたもの、抱きとめて
くれるものがある。つまり、自分のかけがえのない居場所を発見できるのであ
る。それは挫折を噛みしめたことのある者だけが味わえる幸せだ。痛みを伴っ
た幸せではあるけれど。

 そんな切ない心情を、川上亜紀は、涙ではなく笑いで表現する。それもかな
り大胆でダイナミックな笑いだ。そこに彼女の詩人としての特質がある。涙は
読者に一定の心情への同一化を促すものだが、笑いは話者と読者の間に適当な
距離を作る。そして、一定の気分に凝り固まる状態から解放させてくれる。あ
りのままの自分とは、行き当たりばったりに生きて自由に感じる、躍動的な自
分でもあるのである。痛みを持って過去を振り返り、自分に残されたものを抱
きしめた上で、そこから飛躍して軽やかに呼吸する。川上亜紀は、そんな人生
を詩の中で生きようとしたのではないだろうか。

*『川上亜紀詩集 あなたとわたしと無数の人々』(七月堂 本体1200円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 発行準備作業中に飛び込んできた、北海道胆振東部地震のニュースに驚きま
した。

 現地では、停電、断水、余震と大変、不安な状況かと思います。しかし、パ
ニックにならず、用心はしつつ、お健やかに過ごされることを祈っております。
(aguni原口)

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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第55回「緑陰読書ならぬ緑陰音楽をどうぞ」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第110回 「寄席」に行きたい!
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → <火の見櫓>の役割
  
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 ■トピックス
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 ひとつ、イベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第55回「緑陰読書ならぬ緑陰音楽をどうぞ」
 
 こんにちは。残暑お見舞い申し上げます。
 昨年までとは異なり,転居したおかげで冷房のある部屋で盛夏を迎えています
 が,転居せず以前のアパートにそのまま居座っていたら,間違いなく部屋で熱
 中症に倒れていたのではないかとすら思われる,それほどの猛暑ですね。
 
 現在,大学の研究紀要というものに図書館情報学関連(なのかどうかいささか
 怪しい,という話もありますがそれはさておき)の記事を投稿すべく参考文献の
 収集中ですが,暑さのために外へ出るのが億劫になり,なかなか足で稼ぐこと
 も出来ない状況で,どうしても文献探索も机に向かいながらインターネットでオ
 ープンアクセス文献を探すことが中心になります。自室に居ながらにして,いま
 や日本語文献へのアクセスもそれなりに容易になりつつあり,わたしのような
 図書館情報学,と言っても人文・社会科学系の図書館情報学研究者ではあり
 ますが,そのような立場の人間もオープンアクセスの恩恵にあずかる場面が多
 くなっています。
 
 図書館業界的には,ここから「シリアルズクライシスとオープンアクセス運動」に
 ついて語り出すのが政治的に正しいあり方でしょうが,その方面の話はわたし
 が語らずとも記事が年々増加して汗牛充棟,つい先日もあるblogが立派な記
 事を投稿しています(1)。今回このあたりの話は,他のみなさまに譲り,わたしは
 自室ではどうしても切れてしまう集中力を補うために,いったん書も端末も放擲
 して暑い夏をしのごうと思います。
 
 わたしが敬愛する作曲家グスタフ・マーラーの好敵手であったリヒャルト・シュト
 ラウス(1864-1949)(2)の作品の,わたしはよい聴き手ではなく,なかでもシュ
 トラウスが後半生で取り組んだ歌劇を全くと言っていいほど聴かないので,シュ
 トラウスについて的確な評価をしているかどうか心もとないところはありますが,
 それでも交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30(3)と「英雄の生涯」作品
 40(4)の両作品は40年ほどの付き合いがあり,マーラーと同様に大規模な管絃
 楽を縦横無尽に使いこなしたオーケストレーションの妙技には聴くべきものがあ
 ります。
 
 「英雄の生涯」は1898年,シュトラウスが最後に完成した交響詩ですが,シュト
 ラウスは当時まだ34歳です。そこからシュトラウスは50年以上長命を保ちま
 すが,「サロメ」「エレクトラ」「薔薇の騎士」などすぐれた歌劇を世に送り出す一
 方で,最晩年にヴィーン・フィルに献呈すべく取り組んだ「ドナウ」はとうとう完成
 せずに終わりました。歌劇に取り組む一方でシュトラウスは「家庭交響曲」
 (1904年)(5),「アルプス交響曲」(1915年)(6)という2曲の「交響曲」と名付け
 られた作品を世に送り出します。交響曲と名付けられていいるとはいえ,どちら
 もいわゆる絶対音楽ではなく,ある情景を描写する標題音楽です。ちなみに絶
 対音楽としての交響曲をシュトラウスは10代の頃に2曲書いていますが,あまり
 取り上げられません。シュトラウスの若い頃の作品で現在も時々取り上げられる
 のは,むしろ室内楽の佳品であるヴァイオリン・ソナタ(1888年)(7)とチェロ・ソ
 ナタ(1883年)(8)です。
 
 「家庭交響曲」では作曲当時としては珍しくなっていたオーボエ・ダモーレと,
 当時の目新しい楽器だったサクソフォンとを用いて作品を書いてますが,「アル
 プス交響曲」では舞台裏の金管アンサンブル(バンダ)をはじめ,ヘッケルフォ
 ーン,ワーグナー・テューバからカウベル,ウィンドマシーン,サンダーシートな
 どという風変わりな楽器を動員して,アルプス山脈の様子を描写することを試み
 ており,それは成功したと言っていいでしょう。
 
 今年の,あまりに暑い夏を乗り切るべく,聴くために頭を使う音楽よりも流れて
 いく派手な音響を楽しめる音楽が執筆のBGMとして適当なものなのですが,
 この夏のオススメは,まさにこの条件を満たすリヒャルト・シュトラウスの「アル
 プス交響曲」です。全編通して45分から50分ほどかかる作品ですが,冒頭数
 分と末尾数分がピアニシモの,暗闇に溶解してしまうような音楽になっている
 ため,リピートをかけてエンドレスで聴いていてもさして抵抗がない(「ツァラトゥ
 ストラはかく語りき」も同じような冒頭と末尾ですが,こちらは冒頭すぐに出る動
 機があまりに圧倒的なため,起承転結の「起」がわかりやすすぎてリピートして
 聴くことに向いていないような気がします)ところがBGMとして適しているんじゃ
 ないかと思うところです。全体に親しみやすい旋律と起伏に富んでおり,何を描
 写しているかわからなくてもあまり問題になりません。それどころか,冒頭から
 数分たって最初のクライマックスに現れるのはチャイコフスキーの交響曲第6番
 第1楽章の第2主題後半に出てきたのと同じ動機ですし,登山者の躍動するよ
 うな主題が現れてしばらくすると出現する「岩壁の動機」というのが「ウルトラセ
 ブン」のテーマにそっくりという,実に親しみやすく聴きやすい(苦笑)音楽では
 ないかと愚考する次第です。
 
 シュトラウスの管絃楽作品は,有能な指揮者でもあったシュトラウス自身による
 録音もあり,「ドン・ファン」などが早くから取り上げられてきましたが,「アルプ
 ス交響曲」は上に書いたような多彩な楽器群を150人ほどのオーケストラで演
 奏するのが適当,とされたこともあり,ようやく1970年代に,デッカによるメータ
 とロサンゼルス・フィルの録音(9)など,優秀な録音のサンプラーとして取り上げ
 られるようになりました。中でも1980年に録音されたヘルベルト・フォン・カラヤ
 ンとベルリン・フィルによる「アルプス交響曲」の録音(ドイツ・グラモフォン)(10)
 は,当時導入されたばかりのデジタル録音初期の優秀録音として,またその
 音楽の持つ説得力において桁違いの魅力を醸し出しています。さて,これから
 誰がカラヤンを越える録音をものするでしょうか。
 
 暑い夏が続きます。どうかみなさまもお身体にお気をつけてお過ごしくださいま
 せ。では,また次回。
 
 (1) 研究者諸賢への引継ぎ:学術誌の購読料高騰と論文のオープンアクセスに
      ついての情報まとめ - Take a Risk:林岳彦の研究メモ
  http://takehiko-i-hayashi.hatenablog.com/entry/2018/08/09/214457
 (2) アルマ・マーラーなどの伝えるエピソードのためか,マーラーに比べてシュト
     ラウスは夫妻揃って「俗物」という評価が定着しているような気がするので
     すが。
 (3) Richard Strauss: "Also sprach Zarathustra" op.30
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=o5bU7ibqGko&t=16s
 (4) Strauss: Ein Heldenleben ? hr-Sinfonieorchester ?
     Andres Orozco-Estrada
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=Us1jfC7bMpA
 (5) STRAUSS Domestic Symphony | RAI Torino, F.Leitner | video 1990 R
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=i8P-nAZGbf8
 (6) Strauss: Eine Alpensinfonie ? hr-Sinfonieorchester ? 
     Andres Orozco-Estrada
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=zsTo7QxxgYg
 (7) Minami Yoshida | Strauss | Sonata in E Flat 
      | 2016 Montreal International Violin Comp
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=tQS1LqsDWGs
 (8) Mischa Maisky: Richard Strauss ?
      Sonata for cello & piano in F major, Op 6 (2003)
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=L838Gfi8Hmw
 (9) ズービン・メータ/R.シュトラウス:アルプス交響曲/ドン・ファン<限定盤>
      - TOWER RECORDS ONLINE https://tower.jp/item/537395/
 (10)  ヘルベルト・フォン・カラヤン/R.シュトラウス:アルプス交響曲
      - TOWER RECORDS ONLINE https://tower.jp/item/4290578/

 なお,演奏へのリンクは音楽の雰囲気を確認するためのもので,これが名演で
 あったり決定版であったりするわけではありません。念の為。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  

  第110回 「寄席」に行きたい!

  
 このところ落語ブームらしくて、毎日のように落語会が行われているという。そ
 ういえば区報の催し物には必ず落語の公演が載っているし、町の掲示板にも若
 手の落語会のお知らせが貼ってあったりする。ぼくは落語に詳しくないし、寝しな
 にyoutubeで聞くのは漫才のほうが多い。古典の教養のないぼくには落語は正
 直いってどうも敷居が高い。

  もちろん寄席という場所があるのは知っている。若い頃、自転車通勤をしてい
 て新宿末廣亭の前はしょっちゅう通っていたけれど、なんとなく入ってみる“勇気”
 がなかった。寄るのはもっぱら新宿ピットインだった。そういえば昔はテレビで寄席
 中継はあったけれど、最近はないものなあ。「笑点」くらいなのかな。どうしても寄
 席には、縁遠くなってしまう。

  寄席に興味はあっても、行くきっかけがない入門者、入門者以前の人にも、ぴっ
 たりの本がこの本、『寄席の底ぢから』(中村伸 著 三賢社)だ。
 落語の入門書
 はあっても、ここまでくわしくて初心者にもわかりやすい寄席の本っていままでなか
 ったのではないかな。寄席が大衆娯楽の場としていかに大切なのか、ということが
 伝わってくる。寄席の歴史はもちろん、寄席がある上野、新宿、浅草、池袋などの
 街のこと、著者が経験した寄席での出来事、色物といわれる落語以外の漫才、曲
 芸などの芸の重要性など、一年を通じて空いている時間をすべて寄席通いをして
 いるんじゃないかと思われる著者だからこそ書ける愛情あふれる、チャーミングな
 寄席ガイドだ。この本で出囃子の大切さを知って、今度寄席に行くときは三味線に
 耳を澄まそうと思った。

 
  ぼくが初めて寄席に行ったのは1年ほど前のこと。この本の著者、中村伸さんが
 誘ってくれたからだった。夕方、新宿で待ち合わせて、まず向かったのは新宿三
 丁目の楽屋(らくや)。落語関係者がよく利用している純喫茶だそうだ。小腹が空
 いていたので磯辺巻きを食べた。

  そしてついに新宿末廣亭に入ることになった。古い木造の建物で、頭の中にあっ
 た寄席のイメージどおりの小屋だった。昼夜の入れ替えがないせいか、けっこう席
 はうまっていた。馴染みの芸人が出演しているわけでなく、初めて見るぼくは、少し
 緊張したのを覚えている。そのためか、大爆笑をすることはなかったのだが、あま
 り可笑しくない芸も、かえってそれが面白かったりする。あまり面白くない芸があっ
 ても、出番の時間は15分程度なので退屈することはない。曲芸、紙切り、漫才、
 そして落語とバラエティに富んでいてあっというまに時間が過ぎていった。ふーん、
 ほんとうに気楽なところなんだ、というのが感想だ。ただ初心者のアウェイ感はあ
 ったかな。何回か通って自分のお気に入りの芸人さんが出来ると、きっと楽しいだ
 ろうなあ。「寄席はワッと笑って、気分よく帰ってもらうことを誰もが大事にしている
 から、想像以上に面白くて楽しい場所だ」と本にあったけれど、その通りだった。
 
「初めての寄席ならば、きょうはこんなところでしょう」と中村さん。まずは、寄席は
 けっして敷居の高い場所でないこと、落語だけでなく幕の内弁当のようにいろんな
 芸を楽しめる場所ということがわかればいいということだったのだと思う。末廣亭を
 出ると、深夜寄席を待つ人たちの行列が出来ていた。

 
  じつは著者の中村伸さんは、ぼくのジャワの案内人でもある。知り合ったときは、
 ジャワに伝わる影絵劇ワヤンにくわしい人として、だった。初めて会ったのは、イン
 ドネシア、ジョグジャカルタのホテルのロビーだった。挨拶をすると、伸さんは
 「さ、ちょっと散歩しましょう」といって近くの駅まで連れて行ってくれた。時刻表を
 見ると「一駅だけでも乗ってみようと思いましたけれど、ちょうどいい列車がありま
 せんね」と駅員に交渉して駅構内を見学することになった。伸さん、けっこう“鉄分”
 の高い人だったのだ。驚いたのは、初めて会った駅員に構内の案内までさせてし
 まう交渉力。暇だったのだろうが、駅員はぼくたちふたりを実に丁寧にガイドしてく
 れた。中村伸という人は、人心掌握術というか、人の懐に飛び込んで気持ちを掴ん
 でしまう天才なんである。

  ジョグジャカルタの町でも、東京の下町でも、どこを歩いていてもその才能は発揮
 される。田舎の定食屋のおばちゃんにも、聞きたいことがあると、さっと声をかけて
 しまう。きっとインタビュアーとしても優秀なんだろうな。いつのまにか、心を許して
 胸の奥にしまっていたこと、自分でも気づかなかった本音を話してしまうにちがいな
 い。ぼくにとって、寄席、インドネシアの先生は、町歩きの師匠でもあるようだ。町を
 そぞろ歩く姿は、速すぎず遅すぎず、とてもいい感じだ。

 
  江戸時代に400軒ほどあった寄席は、いまでは定席といわれる本来一年を通じ
 て無休で開演している寄席は、上野・鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、
 池袋演芸場の4つだけという。そのほか落語、講談、浪曲などの興行をほぼ毎日
 やっている国立演芸場や上野広小路亭などを加えると11軒だという。落語そのも
 のは50年、100年後にも廃れることはないだろう。漫才やコントもそうだ。だが寄
 席はどうだろうか?
  と中村さんは問いかける。災害などで何かひとつ条件が崩れれば、寄席が今の
 まま残るかどうかはわからない、という。寄席のある町の風景を愛おしむように歩
 く中村さんの思いが伝わってくる。

 
 ◎吉上恭太
 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し
 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。
 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
  火の見櫓。残っているところには残っていますが、無いところには全然ないので
 馴染みのない人もいるかもしれません。もしかすると「火の見櫓」って何?と言う人も
 いる…のだろうか。
 
  鉄骨等で組まれて一番てっぺんに望楼が付いており、そこから火災を発見・確認
 し、同時に半鐘で火災を住民や消防団に周知する建造物です。
 
  火の見櫓なぞ同じようなものだと思いきや、実はデザイン色々。よく眺めれば眺め
 るほど面白いものです。本書はその火の見櫓についてまとめた数少ない解説書で
 す。
 
 『火の見櫓-地域を見つめる安全遺産』、火の見櫓から町づくりを考える会編、
鹿島出版会、2010

  いつごろから登場したのかというと、消防の体制が整いだした明治期以降が多い
 ようです。その後順調に数を増やしていった火の見櫓でしたが、戦時中には鉄材供
 出のため取り壊されてしまいます。現在残ってる火の見櫓の多くは戦後昭和20〜
 30年ごろに作られたものが多いようです。
 
  半鐘が取り外されたり、明らかに現役ではなさそうなまま立ち続けているものも散
 見されます。それでも消防ホースの乾燥用だったり、防災スピーカーの設置用だっ
 たり用途を変えて生き残っているものもありますし、今なおてっぺんに半鐘をぶら下
 げている現役の櫓ももちろんあります。
 
  そうした火の見櫓を色々な視点から考えていくのですが、一番わかりやすいのは
 見た目のバリエーションの楽しさでしょうか。
 
  先ほど鉄骨と書きました。まあ普通火の見櫓と聞いてイメージするのは鉄骨製で
 しょうが、他にも鉄筋コンクリートや丸太で作られたものもあります。
 
  またその高さも様々。30メートル級のものも存在したようですが、さすがにそれ
 は珍しい方で。一般的なものだと10メートル程度。高さ2メートルぐらいのものま
 であるようです。もともと眺望のいい場所なら櫓自体の高さは要りませんし…。
 
  そして同じ鉄骨製でも細かい意匠は様々です。踊り場があるか、望楼の形は円
 形か四角か八角形か、屋根の形状、風見鶏のデザインや有無など、細かいところ
 を見ていくと、それぞれに個性豊かな味わいがあります。
 
  機能から考えれば、そんなに個性を出す必要はないはずのモノではありますが、
 その機能の内側での違いがマニア心をくすぐります。当時はそれぞれの地区の顔
 となる建造物であっただけに、同じ火の見櫓でも近隣のものとは違うかっこいいも
 のを…という思いもあったのかもしれません。
 
  火の見櫓の形態論は奥が深い。静岡県の大井川流域や森町の火の見櫓の詳
 しい調査は一見の価値ありです。
 
  それ以外にも半鐘の音がもたらすサウンドスケープや、火の見櫓から地域社会
 のあり方を考えたり、様々な角度から火の見櫓について考えています。
 
  火の見櫓が建てられる場所は地区のうちでも、公共機関や神社のそばなど重要
 な場所であることも多いものです。取り壊しの検討に際して火の見櫓と共にあった
 様々な記憶がよみがえり、結局取り壊しが中止となった富士宮市星山のような例
 もあります。まだまだ地区を象徴する建造物という側面は残っています。
 
  じつは登録有形文化財になっている火の見櫓もあったりします。実際的な機能
 はだいぶ失いつつある火の見櫓ではありますが、地元の人々と共に積み上げて
 きた歴史しかり、デザインしかり、まだまだ魅力が沢山潜んでいそうです。本書を
 読めばそうした魅力を色々引き出すことができるでしょう。
 
  ちなみにそういった火の見櫓が宿す物語にもっと深く耳を傾けてみたい方には
 『火の見櫓慕情』(内藤昌康、春夏秋冬叢書、2008)がおすすめです。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 ■ 藤岡拓太郎 コーヒー吹き出さないよう気をつけ展
 └───────────────────────────────── 
 ◆日時:2018年 8月14日(火) - 26日(日)10時〜18時 定休日:月曜日

 ◇場所:CLOUDS ART+COFFEE
     〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2-25-4

『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』の作品や、
 最近の1ページ漫画、原画も数点展示いたします。
 サイン本やポストカード販売もあります。
 小学生の身長でもたやすく見れるように、壁の下のほうにも展示してもらいます。
 これでもかとばかりにご家族でおいで下さい。
                             ―HPより抜粋
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 毎日暑い日々ですね。本当に体に効きます。早く秋が来ることを
  願いつつ。読書だけが友達の夏です。           畠中理恵子
 ----------------------------------------------------------------------
 ■広告募集のお知らせ:当メルマガは現在4245名の読者名の皆さんに配信して
 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
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[本]のメルマガ vol.689


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■■ [本]のメルマガ                 2018.08.05.発行
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まくいく。嗅覚心理学の第一人者が、本当に「満たされる」ための食の科学を
指南する。最新の科学で明らかになった人間の食行動とその理由。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その26「探偵たちの食生活」<その三 スペンサー>

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『ライフデザイン スタンフォード式最高の人生設計』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■出版関係勉強会「でるべんの会」
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「出版界のスリップ廃止問題」に関する意見交換

ここ数か月の間に、一部の出版社が書籍に封入するスリップを廃止する動きが
見られ、このことが書店から賛否様々な声が挙がっている。スリップがなくな
ることで在庫管理や発注等が不便になってしまうと訴える書店がある一方で、
すでにPOSデータで管理している書店からは「抜き取って捨てるだけの無駄な
労力、なくてよい」という声もある。
出版業界紙でも記事として取り上げられたこの問題だが、一定の結論を出すに
は議論が尽くされていないのではないか。書店、取次、出版社がそれぞれ自分
の立場を主張し、お互いに理解をしあい、課題を整理する必要があるのではな
いか。
今回「でるべんの会」では、この「スリップ廃止問題」の現状をとらえるため
に、『スリップの技法』を著したフリーランス書店員・久禮亮太氏をゲストに
むかえ、参加者皆さんとの意見交換・討議を行いたい。

○日時:2018年8月6日(月)19:00〜20:30 ※終了後、希望者で懇親会予定あり
○場所:東京・水道橋 貸会議室「内海」 http://www.kaigishitsu.co.jp/access/
○参加者:久禮亮太(フリーランス書店員)、梶原治樹(でるべんの会幹事・
 (株)扶桑社)ほか
○参加費:勉強会のみ 1000円 (懇親会は当日実費徴収)
○申し込み方法:下記サイトよりお申込ください
https://www.kokuchpro.com/event/9c6591ea52e7b0cdb901090363f28b5d/

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■第6回文化通信フォーラムのご案内
└──────────────────────────────────
第6回文化通信フォーラムのご案内

これからの雑誌ビジネスを考える1
『レタスクラブ』がトップシェアをつかめた理由

KADOKAWAの『レタスクラブ』は2017年下期ABC部数が
前年同期比143.2%に達し、web版も月間PVが前年の3倍に
跳ね上がっている。松田紀子編集長と、ウェブ版の責任者が、
紙とデジタル両面で成長させた理由と雑誌ビジネスについて
語ります。

■講師
 KADOKAWAビジネス・生活文化局 生活情報ブランド部部長
  松田紀子氏
 KADOKAWAビジネス・生活文化局デジタル・カスタム部部長
 大家太氏
■日 時:8月21日(火)16時〜18時(終了後懇親会)
■会 場:文化産業信用組合会議室 3階会議室
 〒101-0051 千代田区神田神保町1-101神保町101ビル
■参加料:5000円(懇親会費5000円)
■問い合わせ=電話03(3812)7466
■お申し込み=https://goo.gl/qs1Rvk

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■第 7 回文化通信フォーラムのご案内
└──────────────────────────────────
第7回文化通信フォーラム
これからの雑誌ビジネスを考える2
NewsPicksが紙の雑誌を出した理由

 NewsPicksは6月に雑誌『NewsPicksMagazine』を創刊。
書籍「NewsPicksBook」も14点を発行し、ベストセラーが
相次いでいる。佐々木紀彦CCOに紙の書籍、雑誌を出す
理由と、これからのメディアのあり方について聞く。

■日時:9月10日(月)16時〜18時(懇親会18時30分から)
■会場:文化産業信用組合会議室
 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-101神保町101ビル
■参加料:5000円(別途懇親会あり・会費5000円)
■問い合わせ=電話03(3812)7466
■詳細・お申し込み=https://goo.gl/mUAqtX

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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その26「探偵たちの食生活」<その三 スペンサー>

 数ある探偵小説の中で料理をする場面が一番多いのは、ロバート・B・パー
カーが生み出した、ボストンのタフな探偵スペンサーの物語だろう。
 スペンサーの人気は凄いもので、一九七三年に『ゴッドウルフの行方』でデ
ビュウし作者が亡くなった一年後に出た『春嵐』(二千十一年)至るまで、全
三十九作が翻訳され文庫化もされている。
 
 これは、読者にとってはとてもありがたいのだ。

 登場人物が探偵とその恋人のスーザン、そして凄腕の殺し屋の友人のホーク。
その他おなじみのギャングとその部下の殺し屋たち。ほとんどそのメンバーさ
え覚えておけば、いつこのシリーズの中の一冊を手にとっても楽しめる。出張
先や所用で出かけた知らない街の本屋や図書館にも必ずあって、時間つぶしの
一冊としていつでも気楽に手に入れることができるのだ。
 
 そして、私にとってうれしいことに、必ず料理をする場面かレストランかバ
ーに行く場面があり、おいしそうな食べ物が沢山出てくるのだ。
 
 用事があって時間をつぶさなくてはいけない時、例えば家族の為に病院に薬
を取りに行って延々と待たなくちゃいけないような時、おいしそうなものを食
べたり飲んだりする小説はとても力になる。面倒くさい仕事をした後の食欲も
なくした帰り道にそういう本を読めば、まあ料理はともかく何かおいしいもの
を買って食べようかなという気にはなるのだ。
 
 そういう便利で力をくれる本について私が頂点に置いているのはもちろん池
波正太郎の作品群なのだが、それはまた別の機会に語ることにして、ボストン
に住むタフな探偵の食生活を見ていくことにしよう。

 実はこの作品は殆ど全巻読んだことがあると思っていたのだが、なぜか第一
巻である『ゴッドウルフの行方』を読んでいなかった。そこで、この探偵のデ
ビュウ作を読んでみると、まず気づかされるのは、スペンサーが自分のために
しっかりと料理をしていることだ。朝起きると、きちんとハムエッグやししと
うがらしとトマト入りのスパニッシュオムレツやホットビスケットなどを作り、
コーヒーを飲んでから、依頼人の求めに応じて町に出る。
 そして、依頼人の娘テリーを保護した時には、彼女のためにも料理をする。

「冷凍庫からトリの骨なしの胸肉を四つ取り出した。ワイン、バター、クリー
ム、マッシュルームと一緒にトリ肉を煮た。火が通るのを待つ間にサラダの材
料を用意し、ライムジュース、ハッカ、オリーヴ油、蜜、ワイン酢でドレッシ
ングを作った」

 ほとんどレシピのような記述だ。

 このトリ料理はたぶん私も作ったことがある。でもドレッシングの材料はな
かなか珍しいし、よくこれだけのものを家にそろえているなあと思う。それだ
けでも、スペンサーが常に家で料理をする人間であることがわかる。

 この第一巻を読んで思ったのだが、ハードボイルドな女流探偵たちは皆この
作品に影響を受けているようだ。

 例えばスペンサーが依頼人であるテリーの父に呼び出され、豪邸の一室で高
価なブランディを薦められて飲む場面。

「極上等の酒で、喉を通るときに液体のような感じがほとんどしない。このよ
うなブランディを人に出すところをみると、まんざらくだらない人間でもなさ
そうだ」なんてスペンサーは思うのだが、もちろん皮肉なんだろう。

 サンタ・テレサの探偵キンジーやシカゴの探偵ヴィクにも、大金持ちの家に
呼びだされ、まだ午前中だったり昼間だったりするのに高価なワインやブラン
ディを一緒に飲む場面がある。そして同じように、こんな高価なもので朝から
うがいをする気にはならないと心の中で皮肉を言うのだ。

 さらに、この物語のギャングに呼び出され脅される場面など、あまりにヴィ
クの物語と似ていて呆れていたら、作者のサラ・パレツキーが来日時に一番影
響を受けた作家として、ロバート・B・パーカーをあげていたということを知
った。

 後続の作家たちは皆ここから学んだのだろう。

 ところで、この作品ではハードボイルドの常で、女たちは皆、依頼人の妻や
娘までスペンサーの腕の中に倒れ込むのだが、あまり楽しそうでもない。誘惑
や恋の匂いがしない、まるで相手を慰めるために仕方なく応えているような情
事のシーンになってしまっている。

 そこで、作者は第二巻である『誘拐』でスペンサーにある女性と恋に落ちさ
せる。そして、その女性が永遠の恋人として、ほとんどすべての作品に顔を出
すことになって行く。

 彼女の名前はスーザン。黒髪で浅黒い肌のユダヤ人。年齢は三十代後半。出
会った時にはスクールカウンセラーだったが、やがて、ハーヴァート大学で博
士号をとり、精神科医を開業する。
 スペンサーに言わせると、
「頭がよくて、いくぶん自己中心的、気性が激しく、頭の回転が速くて、ひじ
ょうにタフ、ひじょうに愉快、とても料理が下手で、美しい」
のだそうだ。
 そういうわけでその後の巻では、ほとんどスペンサーは彼女のために料理を
する。

 回が重なるにつれ、スペンサーのスーザンへの愛着に読者が飽きないように
するためか、スーザンは大学の講座に通う頃からスペンサーと距離を置くよう
になり、やがてはサンフランシスコに就職して彼の元を去り、二人はそれぞれ
浮気をするのだが、またよりを戻して延々と食事とベッドを共にすることにな
る。

 熱心な読者も、呆れながらそれに付き合わざるを得ず、仕方なく、あれこれ
彼女のことを考えるはめになる。
 あまりに魅力がない彼女のことを、白いドレスを着ていたからハードボイル
ド小説に特有の運命の女なのだと読み解くあとがきまである。(『誘拐』文庫
版あとがき「宿命の女、スーザン」香山二三郎著)
 又、スーザンの拒食症じみた振る舞いとその幼児性を指摘し、さらに彼女が
いなくなる日を望む実に痛快なあとがきもある。(『虚空』単行本あとがき
「スーザンが餓死する日」北川れい子著)ちなみに、この文章は実にスカッと
するので、スペンサーを愛する読者は是非ご一読を。
 
 さて、そんな彼女と最初のデートのためにスペンサーが作ったのは、ポーク
・テンダーロイン・アン・クルート。ブタのフィレ肉をパイ皮で包んで焼いた
もの。なんと、パイ皮から自力で作っているところが驚きだ。青リンゴと人参
とオニオンのシードル煮も添え、カンバランドソースを作り、大きなトマトを
スライスしてドレッシングをかけたサラダも用意している。フランスパンも買
って来て、飲み物はウォッカギムレットにラインのワイン。
 レストラン級の料理で、私もスーザンと一緒に驚いてしまった。

 探偵に料理を教えたのは、父と叔父たちだという事だ。母親は交通事故で亡
くなってしまったから彼は男手のみで育てられ、大工だった父や叔父は何もか
も自分で作ることを彼に教えたらしい。その後は独学でメニュウを増やしてい
ったようだ。

 さて、スペンサーはほとんどの作品で料理を作り続けるのだが、そのあまり
の魅力に『スペンサーの料理』というレシピも付いたエッセイ集が早くも一九
八五年に出ている。さらに、二〇〇八年には『ロバート・B・パーカー読本』
という解説書が出て、その中にも「新・スペンサーの料理」という章があり、
スペンサーの作る料理の背後にあるアメリカを知るのに最適なエッセイが楽し
める。

 けれど、これだけの膨大な物語の中で料理を作り続ける探偵に対し、シリー
ズの中でだんだんスーザンが拒食症じみた振る舞いをし始め、またまたスペン
サーが「食べないスーザン」を全面的に肯定している様子には、なにやらぞく
りとした感触を覚えてしまうのだ。

 例えば、飲み物について。

 スペンサーはスーザンの個性として、彼女は冷たい飲み物が嫌いで、オレン
ジウォッカやダイエット・コークでさえぬるいのを飲むと言っているのだが、
この初登場の『誘拐』では、スーザンは赤ワインを氷で冷やして出したスペン
サーに、自分も同じ趣味だと言っている。そして彼女は決してビールを飲まな
いということになっているのだが(三十一巻『背信』)、六巻目の『レイチェ
ルウォレスを探せ』では、ボストンのクインシイ・マーケットのスタンドで牡
蠣を食べながら、ちびちびとした飲み方ながらもビールのお代わりをしている。

 けれども、そんな初期の健啖家のスーザンはどんどん消えて行って、何もか
も少しずつしか飲まなくなり、お気に入りのリースリングの白ワインも「ごく
少量しか飲まない」ようになり、二十五巻目の『ペイパードール』では、二〇
分かけてやっとグラスの四分の一のシャンパンを飲んでみせ、その後も一ミリ
グラム単位で飲んでいく。一ミリグラムってどうやって飲むのだろう?今度シ
ャンパンを飲むと時に試してみようと思うのだが、こんな飲み方では泡もなく
なってしまうだろう。

 あげくの果てに二十九巻の『笑う未亡人』では「スーザンはマティーニのミ
クロ飲みをやっていた」となるのだ。ミクロではもう試す気にもならない。
 
 食べ物についても同様だ。どんどん食べる量が減って行って、レストランで
の食事の仕方を見ると、小食を通りこした彼女の食べ方は決してエレガントで
はなくて気味が悪い。でも、スペンサーはそんな「小鳥の量くらいしか食べな
い女」のために料理をし、レストランで彼女が食べない様子をうっとり見つめ
続けるのだ。

 スペンサーほどの大男と食べる量が違うのがわかるし、アメリカのステーキ
なら半分で十分だろうから、その残りはスペンサーに食べてもらえばいいし、
飼い犬のお土産に持って帰るのも賛成だ。
 二十二巻目の『虚空』で、レモン・ローステッド・チキンの皮を切り離して
いるスーザンを見ながら、スペンサーが「彼女は体重にかけては用心深く、絶
対に脂肪を食べない」と言い、なにか皮肉めいたことを語っているのはダイエ
ットについての男性のあたりまえの反応だろう。
 けれども、三十一巻の『背信』の朝食場面で、スペンサーが「ポーチドエッ
グ付きのコーン・ビーフ・ハッシュを、スーザンが時間をかけてベイグルの半
分を食べていた」というくらいの食べ方の差ならわかるのだが、「彼女はベイ
グルの端をちぎって、クリーム・チーズを目薬の一滴ほど塗り付けた」と書か
れてしまうと、少々病的なダイエット風景に思えてきてしまう。

 最後の作品の『春嵐』でも、車の中でサブマリンサンドイッチをばらばらに
してまるでサラダをつまむように食べる行儀の悪いスーザンの様子が描かれる。
いわゆる炭水化物ダイエットでもしているのだろうか?

 あげくに、スペンサーと入ったレストランで「夢のようなブランチ」を食べ
る場面を見ると、確かに彼女の食べ方は小鳥のようになってしまっている。

「スーザンはベリーのシャンパン・サバイヨン仕立てを副菜に取っていた。そ
れだけで彼女の一食分を超えるかもしれない」
「スーザンはまだ細々とベリーを食べていた。ときおり粒にサバイヨンをわず
かに乗せ口に運んでいる」

 その間に、スペンサーはパッションフルーツのカクテルを飲み、マグロのタ
ルタルソースがけを食べている。レストランにやって来たギャングにすすめら
れた神戸牛の肉団子も食べたかもしれない。

 その間にスーザンは、ブラックベリーを半分食べて微笑む。

 スペンサーはステーキと卵にとりかかっている。

 そして、スーザンはいちごとブルーベリーを食べるのだ。

 せっかく精神科医になったのに、なぜスーザンはこんな拒食症じみた女性に
なり、スペンサーもそれを受け入れているのだろう。時たまスーザンが人並み
の食欲を見せると、スペンサーはうろたえるようになって行く。

 それぞれの家にとまりに行く夜、スペンサーはたいてい夕飯を作る。スーザ
ンの家では持ち帰り料理や出前をとることが多い。けれど日曜の朝には、スペ
ンサーがコーン・マフィンを焼いたり、ブルーベリー入りのパンケーキを焼い
たりする。家族なら普通の場面だけれど、恋人同士としては異様なのかもしれ
ない。餌を与えられ過ぎて嫌になった小鳥のように、拒食症じみていくスーザ
ンという風にも読めてくる。

 今回、記憶になかった本は取り寄せて殆ど全巻を読み直したのだが、作者の
スーザンの描き方には矛盾が多い。例えば彼女は料理が苦手なのだがまるきり
しないわけでもなく、二回目のデートでスペンサーを自宅に招いた時にはカス
レを用意している。まあ、出来合いのものだったかもしれないが。その他にも
同居を試みた『ダブル・デュースの対決』では、自分のためだけにパスタとサ
ラダを作っている。だが、作者は残酷なことにこの作品の中でスーザンにスペ
ンサーのために料理をさせている。新聞に載っていたというレシピで作ったブ
ランズウィックシチュウはもちろん失敗で、ルーがダンプリングのような塊に
なって浮かんでいるものとなった。これは家庭料理なら許される範囲だと思う。
けれど、スーザンはまずいと思いながら食べるスペンサーに我慢ができない。
というわけで同居は解消され、彼女は料理ができない女性という事になって行
き、三十巻の『真相』では、

「私、生まれてこの方、サンドウイッチを作ったことは一度もないと思うわ」

 とまで言うようになって行く。これは真っ赤な嘘で、それ以前の巻には何度
もサンドイッチを作る場面が出てきているのだ。

「スーザンはなぜスペンサーのために料理をしないのだ」とか「フェミニズム
の影響で料理をしないのか」という疑問や見解を抱く男性の読者が多いようだ
が、前述のようにスーザンは料理をしているし、『笑う未亡人』では、ノーカ
ロリー・バター風味・スプレーをふりかけたハムや卵のフィンガー・サンドイ
ッチを用意して、サイクリングにスペンサーを連れ出している。

 作者がそんなスーザンの過去を無視して、まるきり料理をしない女性に彼女
を仕立てて行き、スペンサーと食事をするときには極度の小食となる女性にし
ていったと読むべきだろう。

 はっきり言ってレストランで会食中に相手が食欲を示さないのは別れのサイ
ンだと思うのだが、スペンサーも作者も絶対にそれを認めず、スーザンをただ
ダイエット中の女性と言い張っているような気もする。

 そんな矛盾を感じながらこの作品群を読み直していくうちに気づいてしまっ
たことがある。それは、スペンサーが実にたくさんの人を殺しているという事
だ。もちろん正当防衛だったり、人の命を守るためだったりするのではあるの
だが……。もしかするとこの物語は探偵ものというよりも、自分自身の信念に
よって殺人も辞さない生き方をする男と、そんな男を愛する女との物語なのか
もしれない。

 スペンサーにとって、料理は明日を生きるための力だ。

 自分自身と恋人のためにひたすら料理をするスペンサーの姿には、常に死と
隣り合わせの稼業を生きている自己を肯定していく意志のようなものを感じる。
そして、全身をもって矛盾した女スーザンを愛するスペンサーは、そんな自分
を肯定してくれることを、スーザンに求めているのかもしれない。

 けれども、スーザンの拒食症じみた振る舞いは、そんな彼への微かな拒絶で
あり、衰弱と死への傾斜を表しているようにも思える。

 きっと、そのことにもスペンサーは愛着を感じているのだろう

 スーザンは殺人者でもある彼の姿を映す鏡となり、彼は鏡に映る自分の姿を
うっとりと見つめて続けているようだ。

 というわけで、皆さまには過激なダイエットなどに走らずに、おいしいスペ
ンサーの料理を楽しんでほしい。本格的な料理が面倒な場合は『レイチェルウ
ォレスを探せ』で、スーザンが作ったおいしいハムのサンドイッチでもいい。
スペンサーに言わせるとそのハムは、ミラートンで作られた「塩と糖蜜で保存
処理をしてヒッコリイで燻製にする」ものだそうだが、そこまで凝らなくても
いい。ただ、その味に思いを馳せて、普通のハムサンドイッチを食べてみて欲
しい。そうすれば、味覚の想像力によって最上の食事ができるだろう。それこ
そが、面白い本を読んだ時の本当の醍醐味なのだ。
    
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『ゴッドウルフの行方』ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『誘拐』       ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『レイチェルウォレスを探せ』

           ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『虚空』       ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ノヴェルズ 
『ペイパードール』  ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『笑う未亡人』    ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『真相』       ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『背信』       ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『春嵐』       ロバート・B・パーカー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『スペンサーの料理』    東理夫・馬場啓一著 早川書房
『ロバート・B・パーカー読本』早川書房編集部・篇 早川書房
『スペンサーという者だ ロバート・B・パーカー研究読本』
                  里中哲彦著 論創社
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『ライフデザイン スタンフォード式最高の人生設計』

 「人生100年時代」とか「働き方改革」とか、キャッチコピーみたいな政
治が続いていると、個人と国家の関係について疑問を持ってしまう。なんとな
く統計とか人口動態とか言われると、自然現象なので災害よろしく抗えないよ
うな気になってしまうが、結局のところ、今と自分のことしか考えていなかっ
た政治や行政の人たちが、未来のことまで考えて政策を遂行してこなかったの
を、国民に責任を押し付けようとしているとしか見えないからだ。

 さて、そんな政治はもうとっくに終わっているとしても、ひとつ諦めてはい
けないのは教育というか文化というか、あるいは我々の生き方。つまりは自分
の人生というものだ。こればっかりは、他人にどうこう言われたくない。

 では、これからどういう人生を送りたいと考えるのか、ということは、これ
はこれで結構、考えるのがしんどい話である。

 人生のビジョンを描いたり、夢を描くツールなんてのは、仕事柄、結構、扱
ってきている。理想像を描く、という意味ではどんなツールもワークも一定の
意味と価値があると思っているけれども、心の満足度というか、こういう人生
を送りたい、というものではないような気がしていた。

 そんなとき、これからの日本人にとって必要な能力は「ライフ(人生)デザ
イン」能力なんではないか、とふと思って、検索してみたらこの本に出会った。

 ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス著 千葉敏生訳
 『ライフデザイン スタンフォード式最高の人生設計』(早川書房)
 https://amzn.to/2OINPWZ

 著者の2人はスタンフォード大学デザイン・プログラム内にライフデザイン
・ラボを設立した人らしい。で、この本の中心は、学生たちが将来、どんな仕
事につくべきか、ということを考えるというワークブックのようなものになっ
ている。

 この本の冒頭で「ワーク・ライフ・バランスの4つの分野」というものが紹
介されている。これが個人的に、いちばんインパクトがあった。

 その分野とは、「健康」「仕事」「遊び」「愛」。

 うーむ。と自らの人生を振り返り、うなってしまった。

 この本によると、「健康」というのは「心(感情)」「体(肉体)」「精神
(メンタル)」の3つとのこと。「体(肉体)」の健康のことは気にしてても、
「心(感情)」と「精神(メンタル)」の健康のことを気にしている人は少な
いんではないだろうか? アンガーマネジメントとかストレスケアとかの講座
のにぎわいぶりを見ると、そう思ったりもする。

 「仕事」とは、有償・無償関係なく「人類社会に対する貢献」のすべてだそ
うだ。このメルマガのコラムを書いているのも、これに当たるってことになる。

 あとの2つが問題である。

 「遊び」とは「楽しいこと」。サッカーの試合のようなものは含まないそう
だ。勝利、出世、目標達成のための活動は遊びとはみなされない。「純粋に楽
しむための活動」が「遊び」である。

 「愛」は「説明不要」らしい。「愛のあるなしは一発でわかる」とのこと。
「愛がなければ人間は活動する意欲を失ってしまう」とのこと。愛にはいろい
ろなタイプがあるが「つながっているという感覚」が含まれるという点が共通
している。

 ということらしい。このコラムを読んでいる方も自分の今の人生について、
考えてみて欲しい。

 「人生100年時代」にしても「働き方改革」にしても、経済産業書の旗振
りのせいか、「仕事」と「体(肉体)の健康」のことばかり話題に上るような
気がしているが、「心(感情)の健康」「精神(メンタル)の健康」「遊び」
「愛」については、どことなく置き去りにされているような気がしている。っ
ていうか、「遊び」や「愛」については担当省庁もないのだから、これは政府
に頼っているわけにもいかない。

 そして、この本にも書いてあるが、この4つの分野について、誰か他人が誰
かの人生を評価することはありえない。あくまでも、これらのバランスをどう
取るのかを自分で決めることが大事なのであり、それが「ライフデザイン」と
いう考え方なのである。

 ちなみにこの本では「デザインシンキング」の考えた方に基づいて、アイデ
ア創造、プロトタイピング、行動主義、選択などの手法が紹介されている。こ
れはこれで参考になる人も多いだろう。

 しかし、「遊び」「愛」をどうやって「増量」したらよいか、という方法に
ついては書かれていない。これは自分にとっては、結構、深刻な問題なんだと
いうことに気づいた。

 で、思ったのは、結構、ライフデザインにこの「遊び」「愛」が減って行っ
ている人というのは、特に男性で、年齢が高くなってしまっている人に多いの
ではないだろうか、ということだ。

 もちろん「誰か他人が誰かの人生を評価することはありえない」ので、あく
までも「そう思った」というだけのことなのだけれども、最近、仕事ばかりで
ちょっと引きこもりがちだったのを改めて、少しは「つながり」を求めて「遊
び」に出かけようと思ったので、この観点が、このコラムを読んでいただいた
どこかの誰かの、もう少し幸せな「ライフデザイン」に役に立ったら嬉しいな、
と思ったので、今回は紹介した次第である。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
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■あとがき
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 めずらしく発行日に発行です。って、当たり前といえば当たり前なんですが。

 考えてみたら、このメルマガで4000人以上の方とつながれているんだなぁ、
と思うと、それはそれで幸せなことかなー、と思ったりもします。

 執筆者も若干名、募集中です。完全に無報酬ですが、自分のコラムを発信し
て読んでもらう&書き貯めることに価値を見いだしてくださる方、サンプル原
稿とともに御応募ください。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.687


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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.7.15.発行
 ■■                             vol.687
 ■■  mailmagazine of book      [体験したことのない酷暑の夏号]
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 ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
 
 『世界から消えた50の国 1840-1975年』
 
 ビョルン・ベルゲ著 角敦子訳
 四六判 396ページ 本体2,800円+税 ISBN:9784562055845
 
 数年から数十年といった短い期間のみ実在し、そして消えた50の国を紹介した
 書籍。植民地主義、帝国主義、国家主義、移住ブーム、反乱、戦争が入り乱れ
 ていた時代を背景に、歴史の片隅に実在した国の知られざる運命を記す。
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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第54回「自然災害と図書館:記録作成の勧め」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第109回 沖縄への招待状のような本
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 東ヨーロッパのサッカー事情
  
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 ■トピックス
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 ひとつ、イベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第54回「自然災害と図書館:記録作成の勧め」
 
 こんにちは。先日の大阪北部地震,西日本豪雨災害にて罹災したみなさまに,
 謹んでお見舞い申し上げます。復旧の途上で何かとご苦労が多くなるかと存じ
 ますが,どうかお疲れの出ませんように祈っております。この連載ではあまり
 取り上げてきませんでしたが,わたしも東日本大震災に罹災した身であり,勤
 務先も大きな被害を受けましたので,その復旧には多大な労力を傾注しなけれ
 ばならないことは理解できるところです。
 
 東日本大震災については以前,二度ほどお招きをいただき,自らの体験をお話
 したことがあります。どうしたことか,今回この連載記事を書くための参考に
 しようと,以前の記録を探してみたのですが掲載誌はおろか,そもそもの講演
 原稿,当日使用したパワーポイントのファイルも,講演の文字起こしやそれを
 仕立て直した記事原稿のデータすら見つからず,図書館員ともあろうものが保
 存への配慮不足に愕然とする始末です。よほど思い出したくないこともあると
 見えます(苦笑)。
 
 とにかく,当事者になると情報が入ってこなくなります。震災の真っ只中にい
 るのだから,置かれている状況が手に取るようにわかるのか,と言うと,そん
 なことはありません。眼の前の惨状にとりかかるのが精一杯で,周囲で何が起
 きているのか,さっぱりわからなくなります。マスメディアとICT(SNS)が頼
 りになりますが,どうしたってノイズが増えます。同じ県内,同じ市内でも他
 の施設にどの程度被害が出ているのか,すぐには把握できません。このあたり,
 被災地から少し距離のある方々が,被災地の情報を俯瞰してまとめたものを提
 供していただくものが役に立ちます。
 
 残念ながら,図書館業界はここの手当が必ずしも充分ではないのが現状です。
 日本図書館協会は個人会員,団体会員とも被害状況調査をしようとはしません。
 東日本大震災からこちら,被害まとめはsaveMLAKやカレントアウェアネス・ポ
 ータルが機能し始めています。しかし,例えば東日本大震災から7年を経過し
 ていますが,図書館に関わる東日本大震災関連書誌ですら,名のある団体から
 出ているものでも充分な内容に仕上がっているものではないようです。これは,
 本来は時間を作って後世に伝えるに足る東日本大震災関連書誌を,図書館関連
 団体が集合知を以って作成しなければならないものでしょうが,そのような機
 運が醸成されているようには見えません。党派的に偏りのある,不完全な書誌
 は淘汰されなければならないはずですが,難しいのでしょうか。「未熟」を言
 い訳に,その不完全なものに居直ることも可能でしょうが,そのツケはいずれ
 誰かが払わなければならなくなります。
 
 大災害の際に,余裕を持つことは難しいとは思いますが,できるだけ災害の記
 録,復旧の記録は作成しましょう。写真を撮影して災害時の現場の有様を,復
 旧の模様を残しましょう。そしてその記録を,私的な空間でも構わないので,
 できるかぎり何らかの形で公開することが大切です。それは災害からの復旧と
 同時進行でなくてもよく,復旧が一段落した頃合いに,休養しながらまとめれ
 ばよいのです。努めて客観的に振る舞うこともありません。個人の声が,感情
 が反映されていても恥じることはないのです。個人の感情も,時が経てば立派
 な記録の一部分足り得るのです。
 
 願わくば,図書館関連のそのような記録が拾い上げられて,何らかの編集物が
 出版されるようなことがあれば,わたしたちの経験を後世の誰かが役立てるこ
 とができるようになるかもしれません。今後,再度大きな自然災害が起こらな
 いことが最善でしょうが,この国は自然災害には事欠きません。少しでも防災
 ・減災のお役に立つような記録が党派の偏りなく編纂されることを祈ってやみ
 ません。
 
 では,また次回。
 
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第109回 沖縄への招待状のような本

 
  暑いなあ。テレビで沖縄のきれいなビーチなどが映されると、ちょっとうら
 やましくなる。沖縄には行ったことがない。もともとリゾートなんかには縁が
 ないけれど、沖縄の音楽には興味があって、大島保克のライブには何度も行っ
 たし、比屋定篤子の「RYUKYU STANDARD」というアルバムはいつも聴いている。
 沖縄に旅行に行った友人に土産話を聞けば、行ってみたいと思う。それでも、
 沖縄旅行はためらってしまっている。

 
 沖縄が日本に返還されたのは1972年だから、ぼくは中学生だった。ベトナム
 戦争は終わっていなかったし、学生運動もまだ盛んだった。でも思春期真っ只
 中だったぼくは、社会の変動よりも好きな女の子のほうが気になっていたし、
 弾き方を覚え始めたギターに夢中だった。面白いことに当時の記憶はカラー映
 像として思い出せるのだけど、どういうわけか社会状況のこととなると、記憶
 はモノクロームになってしまう。うちのテレビが白黒だったからか?
 
  いやいや、さすがにカラーテレビだったはずだ。そのころ、ぼくの周りで沖
 縄について語られることは、ひめゆり部隊、沖縄戦、そして米軍基地のことだ
 った。ぼくの通っていた学校が社会的な意識が高い教育をしていたせいもある
 だろう。だから沖縄のことを思うとき、どこか後ろめたい気分になってしまう
 のだった。ぼくのようなノンポリが行ったら、怒られるんじゃないか、なんて
 思ってしまう。四の五の言わずに、行きたきゃ行けよってことはわかっている
 んだけど。
 
 
 そんな凝り固まった頭をスーッとほぐしてくれた本があった。『本日の栄町
 市場と、旅する小書店』(宮里綾羽 著 ボーダーライン)という沖縄那覇市
 の栄町市場にある小さな古本屋「宮里小書店」の副店長が綴ったエッセイ集。
 著者の宮里綾羽さんの肩書きは「副店長」?
 
  店長はお父さんの宮里千里さんというエッセイストで沖縄民族音楽の収集家
 だ。店長は音楽を求めてほとんど店にいないようで、お店のカウンターにいつ
 も座っているのは、宮里綾羽さんということらしい。

 
  先日、古書ほうろうで宮里千里さんと大竹昭子さんのトークショーに行って
 きたのだけど、宮里さんと大竹さんの話や宮里さんが録音した音楽を聞いてい
 ると、バリ、奄美、宮古…と行ったことのないところの風景が目の前に浮かん
 でくる不思議な体験だった。宮里千里さんが持ってきたドイツ製のオープンリ
 ールのテープレコーダーが柔らかくて、素晴らしい音色だった。テープレコー
 ダーも楽器なんだな、と改めて実感した。
 
 
 栄町市場は沖縄師範学校女子部、沖縄県立第一高等女学校(ひめゆり学徒隊
 の母校)の跡地に戦後、地域が再び栄えるようにと誕生したという。ようする
 に闇市があった場所がそのまま市場となったらしい。栄町市場の公式ホームペ
 ージ(http://sakaemachi-ichiba.net/index.html)を見たら、精肉店、
 青果店、鮮魚店、酒屋、菓子店、健康食品店、雑貨、かばん、花屋、洋品店、
 居酒屋、バー、喫茶店、古書店、整形外科まであった!
 
  けっこう大きい市場なんだろうか?
 
  ミュージシャンの店も多いらしい。ただ一度行ったことがある店に再び行こ
 うと思っても、なかなか行き着けないというから、迷路のように道が入り組ん
 でいるみたいだ。
「宮里小書店」は、小書店というとおり本当に小さいようだ。
 4畳ほどのスペースに本棚が置いてある。向かいにはベビー服や肌着を扱って
 いる金城さんの店がある。お店同士を隔てる壁はなく、シェアショップとして
 ひとつの空間に共存している。本に載っている写真を見ると、これはひとつの
 ショップだな。本とベビー服の取り合わせがへんだけど。ぼくだったら、息が
 つまってしまうかもしれない。でも、栄町歴40年という金城さんとの距離感が
 抜群で心地よい。著者が初めて店番に座ったとき、「がんばります!」とはり
 きって挨拶をすると、金城さんはカウンターから身を乗り出して、
 「が・ん・ば・る・な」という。がんばったところで客がくるわけじゃない。
 まずは続けること、まずは3年、休んでもいいから3年続けることだよ!
 とアドバイスをしてくれる。なんて含蓄のある言葉なんだろう。こんな言葉を
 かけてくれる人がそばにいるっていいなあ。

 
  市場には、ほかにも面白い人が集まっているみたいだ。世界中から弟子が訪
 れる70代を優に越えている空手の先生、南米料理店を経営しながら、キューバ
 のカストロ元議長を尊敬して、移民の支援をしている艶子おばさん。金城さん
 は85歳で須賀敦子の本に出会い、夢中になっている。金城さんは沖縄戦で破壊
 されてしまった女学校の最後の生徒で、上級生たちは看護要員として動員され
 たという。須賀敦子と同じ年の金城さん、学ぶ機会を失ったが、どんなときも
 本を一生懸命読んだという。
 
 
 市場にある本屋だから、いろいろな人がやってくる。多くの人が本だけをさ
 がしに来るわけではないだろう。ちょっとした買い物のついでに本屋をのぞく
 人のほうが多いかもしれない。日常生活の延長にある本屋というのか、いろい
 ろな人がやってきて、それぞれの人生をほんの少しずつ垣間見せてくれる。そ
 のひとつひとつのエピソードを拾い集めて、愛おしい文章にしている。ひとつ
 ひとつの文章はそれほど長くはないし、さりげないのだけど、その人にきちん
 と向き合って愛情を込めて書いてある。

 
  読み終えると、すぐにでも栄町市場に行ってみたくなるのは、人間味あふれ
 る、その温かさに触れたくなるからだろうな。遠かった沖縄がとても身近に感
 じさせてくれた一冊だった。沖縄に行ったら、どんなリゾートよりも、栄町市
 場に行って、おかずの店「かのう家」の300円のお弁当を食べたい!

 
◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 
タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  このたびの西日本豪雨で被災された方々に心よりお見舞い申しあげます。中
 国地方には何度か足を運んだことがあるだけに、ニュースで流れる映像はにわ
 かには信じがたいものでした。
 
  そんな中ではありますが、サッカーのワールドカップはそろそろ最終盤です。
 このメルマガが配信されるころには、優勝国も決まっているのかな。
 
  しかし今回はあの国もあの国も予選敗退でちょっと残念。といってもイタリ
 アやオランダのことじゃないですよ。ルーマニア・ブルガリア・ハンガリー・
 ギリシャ…。
 
  スーパースター達の華麗なプレーも確かにワールドカップの魅力ではありま
 すが、名も知らぬ選手達が結束してスーパースター達に伍する戦いを見せてく
 れるのも、それに劣らないくらい観るものの心を震わせます。
 
  と言うか私はそっちの方が好き。今大会ではアイスランド代表が良かったで
 す。韓国対ドイツ戦もかなり熱かったですね。山椒は小粒でもぴりりと辛い。
 一寸の虫にも五分の魂。
 
  ストイチコフやハジのようなスターは今のブルガリアやルーマニアにはいな
 いようですが、是非頑張ってほしいものです。
 
  そんなこんなでみんな東欧サッカーにもっとどっぷり浸かろう。
 
 『東欧サッカークロニクル』、長束恭行、カンゼン、2018
 
  これを読まなきゃヨーロッパーサッカーは語れません。もっとも私にはヨー
 ロッパのサッカーについて熱く語る気持ちは毛頭ないんですけどね。
 
  本書はサッカーライターの著者がこの10年くらいに書いてきた、東欧・北欧
 のサッカーレポートをまとめたものです。ちょっと情報が古いところもあるか
 もですが、それを補うに余りある素晴らしい内容です。
 
  なんせクロアチアの強豪クラブチームであるディナモ・ザグレブ(かつて三
 浦知良がいたチームですね)のサポーター集団に混じって、謎の国家沿ドニエ
 ストル共和国(日本は未承認)への応援ツアーに行ったりしてしまうんですから。
 
  沿ドニエストル共和国。モルドバから一方的に独立を宣言したこの国は国際
 社会からは承認されていません。日本人にとってはかなり謎の場所です。サッ
 カーがあったからこその貴重なレポートと言えるかもしれません。
 
  ディナモ・ザグレブのサポータ集団はクロアチアから沿ドニエストル間の往
 復3000キロを自分達で車を運転していくのですから、それだけでクラブにかけ
 る愛の深さがわかろうというもの。その上荒っぽい人が多い上に、行き先も謎
 の国とあれば、珍道中となることは必至です?
 
  ほかにもセルビア永遠の3番手、セルビアのヴォイヴォディナ自治州の州都
 ノヴィサドに本拠を置く、FKヴォイヴォディナの記事も、バルト三国のサッカ
 ー事情も面白い。ラトビア・エストニアがやや強いのに対してリトアニアは…。
 
  サッカーを通して東欧の社会も覗くことができる、とてもとても興味の尽き
 ない本です。リトアニアが自殺率世界一を争う国だなんて知らなかったよ。
 
  そういえばアイスランドについても5年前のレポートで、「『世界で最も人口
 の少ないW杯出場国』になるのは決して夢の話ではない」(p,224)と書いてい
 ますが、夢どころかわりとすぐ現実となりました。
 
  あと国情がイマイチですが強いギリシャ代表の復活にも期待したい。
 
  ヨーロッパ五大リーグだけがサッカーではなく。それぞれの国にそれぞれの
 サッカーを愛する人がいて、バスケットボールの方が好きな人もいて、贔屓の
 チームが勝ち続けるわけでもなく、ひどい時には消滅したりもして。
 それでもサッカー。サッカーのある風景がよりいっそういとしくてたまらない。
 そんな心が呼び起こされます。熱く語るというよりはしみじみサッカーの奥深
 さを味わるのです。
 
  東欧のサッカー本といえば『ディナモ・フットボール』(宇都宮徹壱、
 みすず書房、2004)もお薦めですが、版元品切れのようなので、4年後のカター
 ルW杯に東欧のチーム大量出場とともに書物復権の一冊に選ばれるという筋書
 きがいいのではないでしょうか。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 『ブルーノ・ムナーリのデザイン教本 』(トランスビュー)刊行記念
     阿部雅世×工藤秀之 対談 
   「ムナーリの本をつくる。日欧の極小出版社がめざす未来」
 └───────────────────────────────── 
 イタリアを代表するアーティスト、ブルーノ・ムナーリ。
 没後20周年を記念して、全国で巡回展が開催中です。
 ムナーリにとって「本」とは誰の手にも届く、最高の芸術作品でした。
 また、出版事業はたくさんの実験と挑戦に満ちた、とても個人的な活動である
 べきと捉えていたと言います。
 
 先駆的な発想に満ちたムナーリの本作りを支え、目指す本のあり方を実現す
 るために出版事業を始めた、
 イタリアの小さな家族経営の極小出版社、コッライーニ。
 個性ある本屋を育てることにも積極的です。
 出版・流通・販売のすべてにおいて、異端とも言える独自のやり方に挑戦しな
 がら、世界中に所望される本を、
 どんな風に作り、人々に届けているのでしょうか。
 
 一方、日本で社員3名の極小出版社でありながら、同じく異端とも言える独自
 の取り組み、取次を通さず書店との直取引で新しい出版のあり方を目指す、
 トランスビューの工藤秀之氏は、コッライーニの特殊な本、ムナーリの集大成
 ともいえる最後の本を、どのように日本の書店に届けようとしているのでしょうか。
 
 ブルーノ・ムナーリのデザイン教本『空想旅行』『点と線のひみつ』の翻訳者で
 あり、制作者として、デザイナーとして、コッライーニと長年のパートナーシップ
 を組んできた阿部雅世さんとともに、お話しいただきます。
 
 制作者と出版社、書店の未来を示唆する、ちいさなヒントを掘り起こす一夜。
 欧州と日本をつなぐスカイプによるサプライズゲストにも乞うご期待。
 
                                                    B&B HPより
 

◆日時: 2018年8月10日 20:00〜22:00 (19:30開場)
 

◇場所: 本屋B&B  東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F
       hello<AT>bookandbeer.com
                 ※<AT>の部分は「@」に直してください。

       TEL 03-6450-8272  FAX 020-4664-1622

 
★入場料: 前売1500円+ 1 drink order
       当日店頭2000円 + 1 drink order


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 ■あとがき 
 大阪北部地震、西日本豪雨災害にて被災した皆様に、心よりお見舞い申し上げ
 ます。一日も早く日常の暮らしに戻られるよう、心よりお祈りいたしております。
 過酷な毎日、どうぞどうぞお体を大切になさってください。
 この災害の多い国に住むものとして、自分のこととして、いかにお互い支え合っ
 ていけるか、試されているときであると切実に思います。       畠中理恵子
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   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
   ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
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[本]のメルマガ vol.686


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■■ [本]のメルマガ                 2018.07.05.発行
■■                              vol.686
■■  mailmagazine of books     [探偵らしい食事場面の始まり 号]
■■------------------------------------------------------------------
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『ヴィジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて:
 身近なトピックで学ぶ基礎構造から最先端研究まで』

キャット・アーニー著 長谷川知子監訳 桐谷知未訳
B5変型判 232ページ 本体2,800円+税 ISBN:9784562055784

遺伝子DNAの基本構造から「iPS細胞」「エピジェネティクス」「遺伝子編
集」まで最新の話題をフルカラーでクリアに解説した遺伝学の決定版!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その25「探偵たちの食生活」<その二 ヴィク>

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ ルポルタージュとしての絵画

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その25「探偵たちの食生活」<その二 ヴィク>

 アングロサクソンに比べて、イタリア人というのは美食家だといわれている。
そこで、イタリア人の母とポーランド系移民の父の間に生まれた、シカゴの探
偵ヴィクことV・I・ウォーショースキーの食生活を見てみよう。

 『サマータイム・ブルース』は一九八二年(邦訳一九八五年)から始まるこの
シリーズは、昨年『フォールアウト』が邦訳され、今のところ長編を十八冊、
短編集二冊を翻訳で読むことができる。
 
 『サマータイム・ブルース』で現れたヴィクは、シカゴの危険な地域に事務
所を持つ。夜の九時に現われた怪しげな依頼人とのやり取りをした後、彼女が
向かうのは事務所の裏にあるアーニーの店。そこで、サーロイン・ステーキに
ジョニー・ウォーカーの黒ラベルという夕食をとる。

 いかにも、探偵らしい食事場面の始まりだ。

 彼女の物語には格闘場面が必ずあり、この最初の作品の中でも前半にギャン
グに捕まって壮絶な暴力を受けるシーンが展開する。もちろん彼らにも相当の
痛手を負わせるのだが……。
 脅しに屈したと見せかけて外に放り出された次の日には、郊外のユダヤ人地
区にある店でコンビーフ入りのベーグルを食べ、あれだけのことがあったのだ
からと二個目を注文するのだ。ハードな日常にはハードな食生活というハード
ボイルドの典型的なスタイルだ。

 でも、ヴィクが読者を魅了するのは、満身創痍になりながらも彼女が恐怖に
負けずに真実を追求するからだけではない。

 ギャングに捕まえられたその夜、ヴィクは全身あざだらけになりながら、デ
ートのために素敵なロングドレスで傷を隠し颯爽と出かけるのだ。濃いアイシ
ャドウでも隠しきれない目の周りのあざにびっくりしながらも、デートのお相
手はヴィクに惹かれていく。

 ところで、このシリーズはキンジーのような評伝がない代わりに、二〇一〇
年に作者の自伝が出版されている。その『沈黙の時代に書くということポスト
9・11を生きる作家の選択』で、ヴィク誕生の秘話を知ることができる。

 作者のパレツキーはヴィクとは違い、大学教授の父親と図書館司書の母の間
に生まれた。だからと言って、とても恵まれた環境に育ったお嬢様というわけ
ではないようだ。兄と弟に囲まれた五人兄弟のただ一人の女の子として、あら
ゆる家事をこなすことを求められ、なんと七歳の時から家族のためにパンを焼
き続けたという。そして、大学進学時にも兄弟とは違ってカンザスから出るこ
とを許されず、学費も自分持ち。ニューヨークで働いてから、シカゴの大学院
に進んだ時も、教授たちから受ける女性蔑視の態度に苦しんだという。

 そんな彼女がひたすら読んで楽しんでいたのはミステリの世界。けれども、
その世界にいる女性は、残酷なサディズムの犠牲者か、ファム・ファタールや
悪女ばかりだった。
 作者がヴィクの構想を得たのは、勤めていた保険会社の上司の無意味なお説
教にひたすら「すばらしいお考えです」と答えているときだと、短編集『アン
サンブル』の前書きにも書いてある。勇敢で、度胸があって、こんな時に、は
っきりと自分の意見が言える人物、女性探偵ヴィクが作者の中に現われたのだ。

 けれど、ヴィクを作り上げた時、
「わたしの探偵をどんな人物にしたくないかはわかっていたが、なにをさせれ
ばいいかがわからなかった。結果として、女性探偵にどのような特別な役割が
果たせるかを考える代わりに、ハードボイルドものの王道をいく探偵にしてし
まった―親はいない、武器はスミス&ウエッソン、酒はウィスキー」にしたの
だという。

 さて、こんな風に典型的なハードボイルド探偵でありながらも、ヴィクは料
理ができるようだ。この最初の作品での料理場面は、朝食を取るために作るオ
ープンサンドだけなのだが、シリーズの中で、その後何度も繰り返される名場
面だから、ここに抜粋しておこう。

 ヴィクの亡くなった父親は警察官だった。だから父親の同僚だった警部補ボ
ビー・マロリーは、彼女が事件に関わると心配のあまりカンカンに怒って事情
聴取に現れる。探偵なんて危険な仕事は辞めろ、引っ込んでいろと。

 ヴィクは、自分用の朝食を作ったりして相手をじらし、秘密を守ろうとする。

「チーズ、ピーマン、玉ねぎを順々に薄切りにして、黒パンにのせ、そのオー
プンサンドを天火に入れた。ボビーと部長刑事に背中を向けたままチーズが溶
けるのを待ち、それから全部皿に移して、自分のためにコーヒーを注いだ。ボ
ビーの息づかいから、彼の癇癪が破裂しそうになっていることが推察できた」

 朝の八時十分にしては、なかなかこってりしたチーズトーストだ。ちなみに、
ヴィクのコーヒーは深入りのウィーン風でなかなかおいしいらしい。こんな風
に朝早く押しかけてくる警察官たちも、すすめられると時たま飲んだりして、
そのおいしさにびっくりしている。これは、友人で第二次大戦下にオーストリ
アから逃れてきたユダヤ人医師ロティに教えられた味らしい。

 この作品の中で、ヴィクはジルという少女とロティのためにフリッタータと
いうイタリア風オムレツを作ると約束している。材料は玉ねぎとほうれん草。
でも、ロティに、

「ヴィクは料理の腕はいいけれど、散らかし屋なのよ」

と、顔をしかめられていて、この料理は実現しない。
 
 ヴィクは皿洗いも苦手で、流しの中には皿が常にたまっていて、代々のボー
イフレンドがそれを洗ってくれる場面があるのも楽しい。

 もちろん回が進むにつれ、作者もこんなハードボイルド設定から主人公をじ
ょじょに解放していく。

 長編七作目の『ガーディアン・エンジェル』を見てみよう。

 この中では、ヴィクはアパートの階下に住む老人ミスター・コントレーラス
に、チキンの料理などすばやく作り、

「うまいチキンだな、嬢ちゃん。オリーブを入れたのか。わしにはとても思い
つけんな」

 なんて言わせている。

 ヴィクのシリーズの特徴は、事件の始まりが意外に身近な友人や親戚から起
きるという事だ。両親が亡くなったイコール孤独な探偵という設定では、一人
の人間として厚みが生じない。ヴィクはオペラ歌手を目指していた母親を常に
思い出し、誠実な警察官だった父を思う。友人たちに囲まれ、アパートの階下
に住む老人ミスター・コントレーラスとは、まるで相棒のように仲がいい。

 けれども、それと独立心は別なのだ。彼女はプロの探偵で、一人で戦える人
間だ。そして、彼女が取り組んだ事件は、最後には背後にある社会的犯罪にま
で到達する。大きな権力と戦うヴィクの姿は、読者にとって素晴らしい満足感
を与えてくれると同時に、アメリカ社会の問題点を知らしめてくれる。そして、
気が付くとそれは今、日本社会の問題点となって来ている。

 企業や金融関係の顧客を持ち、裕福な病院経営者の友人もいるヴィクは、あ
まりファースト・フードを利用しない。友人のロティやマックスと行くホテル
にある見事なワイン・セラーに囲まれたレストラン、ドートマンダーや、デー
トで訪れる有名レストランでのおしゃれな食事場面は実に魅力的だ。だが、ヘ
ルシーでローカロリーな食事を好む現代の風潮には何か反発があるようで、普
段の生活では、なかなかハイカロリーな食事をとる。

 彼女が行くのはダイナー、軽食堂とでも訳すのだろうか?日本で言うなら定
食屋かもしれない。セルフサービスではなく、ちゃんと馴染みのウエイトレス
が何人もいて、揚げたてのポテトフライを出してくれる、そんな食堂だ。彼女
の行きつけのベルモント・ダイナーでは、BLTサンド(ベイコン・レタス・ト
マト)に揚げたてのフライド・ポテトが常食だ。時たま、ヨーグルトと果物と
いうヘルシーな朝食を口にするが、やはりそれでは体が持たないようだ。 
  
 ヴィクもキンジーのように、必ずジョギングに出かけ体を鍛えている。だか
らハイカロリーな食事をとれるのよ、ということをつい見せびらかしてしまう
ときもある。その舞台になるのが馴染みのベルモント・ダイナーだ。ここは、
短編集『ヴィク・ストーリー』の中の「マルタの猫」にも出てくるのだが、こ
の『ガーディアン・エンジェル』の中ではなんと四回も舞台になっている。
 
 遠い昔に別れた夫と久しぶりにこのダイナーで話し合いをした場面を見てみ
よう。現われた元夫ディックは弁護士として出世し金持ちの娘と再婚していて、
そのしゃれたスーツ姿という身なりでダイナーの他の客とは身分違いであるこ
とを見せつける。彼はウエイトレスに新鮮な果物はあるかと横柄な態度でたず
ねた後、こう注文する。 

「イチゴにしよう。ヨーグルトをかけて。それからグラノラ。グラノラにはス
キムミルクね。」 

 思わず、ウエイトレスが、ローファットと呟くディックのメニューに対し、
ヴィクはひねくれてこんな注文をする。 

「コンビーフ・ハッシュとポーチド・エッグ。それからフライド・ポテト。」 

 ハッシュというのは、茹でたジャガイモに卵黄などを混ぜて油で焼いたもの
だから、これにコンビーフが入るとなると、ちょっとマッチョな西部の男の味
という気がする。さらに、フライド・ポテトをつけたら、ディックならずとも、 

「コレステロールってものを聞いたことないのか、ヴィク。」 

という以外に、言葉はない。 

 だが、ヴィクが

「玉子にナイフを入れて、黄身をハッシュと混ぜあわせた。フライド・ポテト
はかりっと金茶色に揚がっていた。二,三本つまんでから、ハッシュにとりか
かった」

 この場面、ディックと共に思わず、よだれをたらしてみつめてしまった。で
も、これが、朝七時の朝食なのだ。やっぱり、今の私には無理かもしれない。

 まあ、それはいいのだが、実はいわゆるヘルシーな食事に対する嫌悪が強す
ぎて、少々気になる場面がこの『ガーディアン・エンジェル』にはある。

 いくら、ジョギングで鍛えているとはいえ、アパートの階下に住む住人ミス
ター・コントレーラスにスペアリブをご馳走になったり、オリーブ添えのチキ
ンの料理を作ってあげたりするような食生活に、自分でもちょっと心配になっ
たのか、後半を過ぎた頃ヴィクは、こんな料理を作っている。 

「ここらでヘルシーな食生活に戻らなくては。トーフにほうれん草とマッシュ
ルームを加えて炒め、スミス&ウエッソンと一緒に居間に運んだ。」 

 添え物のスミス&ウエッソンは、彼女の好きなウィスキーの銘柄ではなく拳
銃だ。かなり命をねらわれ続けている緊迫した状況なのだ。

 けれど、トーフを半分ほど食べたところで電話がいくつかかかり、その間に、
ほうれん草は冷えてしまい、ほとんど食べないまま皿を流しに下げて、この食
事場面は、おしまいになる。 
 
 前回のキンジーもそうだったが、ヘルシーというイメージの食事には、どう
も日本食が絡むようだ。でも、豆腐は冷や奴だったらヘルシーだが、炒めて食
べるとなると中華風で、ちょっとカロリーが高くなる気がする。(でも、おい
しい。私は豆腐のチャンプルーが大好き)前回のキンジーの玄米チャーハンの
ように、それでも低カロリー料理ということになっているのだろうなと思うと、
妙におかしい。たぶん、作者もそこら辺の矛盾に気がついてわざと書いている
のだろう。けれど、私は、食べ物が捨てられる場面があまり好きではないので、
こういうところにアメリカを感じるのだ。

 この時代から、はや二十数年。小説の主人公はあまり年を取らないが、それ
でもヴィクは、九作目の『バースデイ・ブルー』で四十歳の誕生日を迎えたこ
とになっている。たぶん、それ以降あまり年を取っていないのだろう。最新作
『フォールアウト』でも、相変わらず、なかなか健啖家だ。この作品の舞台は
作者の故郷カンザスの田舎町なのだが、そこでは警察だけでなく保安官まで相
手にせざるを得ずさらに軍が絡んできて、行く手を阻むミソジニー全開のマッ
チョな男性たちに囲まれながら、ヴィクは果敢に謎を解いていくことになる。
そして、その過程で垣間見ることのできる、9.11後に図書館の自由を失ったア
メリカの姿には戦慄を覚えざるを得ない。

 さて、この物語の中盤、ホテルの部屋にまで押しかけて来た保安官はピザを
持ってくるのだが、ヴィクはその残りには手を付けずにごみ箱に捨てる。(ま
たも!)そして、オーガニックの店にでかけ、そこで夕飯に「バーベキュー味
の豆腐」などを買い求めようとする。けれど、知り合いの若い女性から「おば
あちゃんの作ったローストチキン」を持っていくという電話を受けて、あっさ
りヘルシー嗜好を捨てて、ワインとローストチキンを食べるのだ。

 果たして、ヴィクが豆腐をおいしそうに、たいらげる日は来るのだろうか?

 社会派でフェミニストで逞しいシカゴの探偵には今後も活躍してほしいから、
偽物っぽい豆腐のヘルシー料理など食べずに、シカゴらしくサラミやベーコン
やステーキなどをがんがん食べ、コレステロールなどものともせずに頑張って
ほしいと私は思う。

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『サマータイム・ブルース』サラ・パレツキー著  ハヤカワ・ミステリ文庫
『ガーディアン・エンジェル』サラ・パレツキー著 ハヤカワ・ノヴェルズ
『ヴィク・ストーリーズ』  サラ・パレツキー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『アンサンブル』      サラ・パレツキー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『フォールアウト』      サラ・パレツキー著 ハヤカワ・ミステリ文庫
『沈黙の時代に書くということ―ポスト9・11を生きる作家の選択』
               サラ・パレツキー著 早川書房
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第114回 ルポルタージュとしての絵画
    ―「戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想」(練馬区立美術館)

 池田龍雄という画家の絵は、何と言ってもその奇抜な造形、アイディアに目
を奪われる。シュールリアリズムの影響を受けた美術家は多いが、ここまで上
手に人の心を刺激するツボを心得た、華やかな構図を思いつくことのできる人
は、世界的にも余りいないのではないだろうか。あのぐねぐねとした描線は、
ちらと見ただけで「あ、池田龍雄だ」と叫びたくなるような、クセになるよう
な魅力を湛えている。練馬区立美術館で開催された「戦後美術の現在形 池田
龍雄展楕円幻想」は、多彩な試みを続けるこの画家が一貫して追い求めている
ものを示すような、質量ともに充実した回顧展だった。

 池田龍雄は1928年佐賀県伊万里市生まれ。特攻隊員として訓練中に終戦を迎
える。GHQの通達により軍国主義者として教師不適格になり、佐賀師範学校
を退学させられたという。1947年に陶芸家の内弟子になるが、辞めて美術の道
を志す。1948年、花田清輝らの主催するアヴァンギャルド芸術研究会に参加。
以後、多彩なジャンルの多くの芸術家と交流を持ちつつ多産な創作活動を行う。
受賞歴は見当たらない。

 池田龍雄の初期の作品では戦争を描いたものが印象的だ。池田は特攻の訓練
中に終戦を迎えた。展覧会カタログのインタビューによると、前線にこそ出な
かったが、戦闘で死ぬ覚悟もあったという。終戦を迎えた時は嬉しいというよ
り残念無念という気持ちだったが、戦後、教え込まれてきたことが出鱈目とわ
かり、以来、愛国心というものが「いかがわしいもの」になったのだという。
「僕らを傷つけたもの 1945年の記憶」(1954)は、空襲の惨事を描いた作品。
人が折り重なるように倒れている傾斜地。右上方に米軍の戦闘機が飛び、手前
に大きく描かれた人物は頭を覆って腰を深く曲げて姿勢を低くし、後方では戦
闘機を睨みつけながら竹やりをかざす人物がいる。傾いた画面が緊張を高め、
国家の欲望の犠牲になった人々の悲惨が伝わってきてやりきれない気分になる。
「にんげん」(1954)は帽子をとって挨拶する眼鏡姿の人物を描いた作品。菊
の紋章と日章旗が描かれており、天皇の「人間宣言」だということがわかる。
日章旗は右下から左上に人物の首を刺し貫く形に配置されており、表立っては
口に出せない天皇に対する庶民の怨念を浮き上がらせているようだ。

 池田は社会問題をテーマにした絵を数多く残している。どれも非常に見応え
があり、本展のバイライトともなっている。実際に現地に赴き、取材を行った
上で描くこともしばしばだったようだ。「網元」(1953)は米軍試射場反対闘
争をテーマにしたシリーズの1作。反対の立場をとっているものの、土地が試
射場に決定すれば多額の補償金がもらえる。禿げ頭の網元はほくそえみながら
計算している。その表情はいかにもふてぶてしく、悪役の魅力でいっぱいだ。
但し、失敗すれば土地も仕事も失う羽目に陥る。首に巻かれた太い綱が危ない
橋を渡っていることを示している。

 ビキニ環礁での水爆実験を機に企画された「反原爆」シリーズ(1954)に池
田も参加した。それらの作品には、放射能で汚染された魚が描かれている。魚
たちは目をガッと開き、鋭い歯を剥きだしにして苦悶の表情を受かべており、
見ていて辛くなってしまう程である。「犠牲者」という作品では、下半分被爆
した倒れた人間を、上半分に虚ろな目つきの大きな魚を配置し、人間も自然界
も全てを破壊してしまう核の残酷さを訴えている。

 池田には怪奇趣味があり、まるでホラー漫画のようなグロテスクな造形を押
し出した作品が幾つもある。「化物の系譜」シリーズの「倉庫」(1957)は、
球状の物体をぎっしり詰め込んだ倉庫を描いているが、ところどころで長いし
っぽがにょろっと覗いている。倉庫に大きなネズミが出ると聞いて作った作品
だそうだが、気づかぬところで悪いことが起こる予兆が感じられる。「巨人」
(1956)は鼻と口がなく、代わりに目がたくさんある顔を描いている。目の形
は様々で、一人の人間の中に複数の人格が宿っているような不気味さが漂う。
「アトラス」(1960)はアメリカの弾道ミサイルを描いた作品。ミサイルの周
りには不定形の化け物がうようよしていて、まるでサバトのようだ。これらの
作品における形態の歪み加減は、社会や心理の闇を巧みに引き出しており、絶
妙としか言いようがない。どことなく、『寄生獣』で知られる漫画家岩明均の
タッチに似ているが、岩明均が池田龍雄のファンだったなどということはない
だろうか。

 池田龍雄はイベントやパフォーマンスにも熱心である。「梵天の塔」(1973)
は、インドの神話を基にした作品。3本の棒が立った台座。その1本に64枚の
輪がはめられており、それらの輪を他の棒に移し終わるのに5800億年かかり、
その時世界は終末を迎えるのだという。池田は真鍮で「梵天の塔」を作り、輪
を写す行為を始めた。他の多くの人もこのパフォーマンスに加わり、インドや
ネパールでも開催されたという。その行為は詳細にノートに記録されている。
池田自身はこのパフォーマンスをいつも黒子の装束で行っていたそうだ。「AS
ARAT橄欖計画」(1972)もそれに匹敵する壮大な試み。池田が敬愛する詩人・
評論家の瀧口修造の自宅のオリーブの実を浅間山の周り約35キロ、81箇所に撒
くというもの。ノアの方舟が漂着したと伝えられるアララット山と浅間山をか
けて「ASARAT」と洒落たわけだ。武満徹や中西夏之らの芸術家が参加し、その
場その場でユニークなパフォーマンスが繰り広げられた。この試みもノートや
映像の形で詳細にわたる記録が残された。やりっぱなしになりがちなハプニン
グ風の表現に関しても、企画立案から実行、記録を残すところまで、実に几帳
面である。
 
 「梵天の塔」の試みと並行して、「BRAHMAN」シリーズの絵画の制作が始ま
る(1973)。ブラフマンとはヒンドゥー教における普遍原理を表すそうである。
インドの宗教思想を手掛かりに宇宙の根本原理を探求するというこの試みは15
年にわたって続けられた。細胞や器官、或いはプランクトンのような微生物を
思わせる不思議なイメージに魅了される。これらは抽象画のように見えながら、
実は、抽象画の対極にあるものなのだろう。恐らく池田はインド思想や科学に
関する多くの本を読み、対象の意味について考え尽くした末に、これらのイメ
ージを創造したのだろう。これ以外はあり得ない、という地点まで論理を詰め
た上で、慎重に筆を進めている様子がそのぐねぐね・うねうねした複雑な形態
から透けて見えるようである。

 池田龍雄の作品は奇抜なアイディア、構図、イメージを備えているが、どれ
も視点が明快であり、難解なところが少しもない。思わせぶりな表現法をとっ
て、作品の解釈を鑑賞者に投げてしまうことがないのである。彼の絵画は全て、
広い意味でのルポルタージュなのではないだろうか。社会問題に取り組む時も、
パフォーマンスを行う時も、世界の原理について考える時も、常に具体的な対
象があり、それについてきちんと「取材」をし、解釈した結果を誰にもわかる
ようにイメージ化する。一枚ものの絵を直観だけで描くのではなく、「企画」
を立てた上で描いている。この律儀さは、戦争体験に負う部分があったのでは
ないかと想像する。愛国少年であった池田は敗戦後、国家が掌返しする様子を
まざまざと見た。その経験が権力に対する不信感を生み、国家事業である万博
への協力を断る行為にもつながった。彼には、自分の目で見たり調べたりした
ことを、細部にわたって直接手渡したい気持ちが強かったのではないだろうか。
その意味で、この回顧展には、手練れのジャーナリストの仕事を一覧するよう
な魅力が漲っていたように感じられた。

*「戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想」
 練馬区立美術館 会期:2018/4/26-6/17

*『池田龍雄の発言 絵画のうしろにあるもの』(論創社 本体2200円)

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 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 西日本で大雨洪水の被害に遭われた方に、心よりお悔やみ申し上げます。今
後、少しでも早く生活が復旧するよう祈っております。(aguni原口)

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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。来月にご期待を! 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第108回 プラハ「黄金の虎」へ 

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → モグラ、虹、ハエトリグモ…。鬱々とした時は異世界へ!
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第108回 プラハ「黄金の虎」へ


  5月の連休後、1週間ほどプラハに行ってきた。ひさしぶりのヨーロッパ、
 チェコを訪れるのは初めてだ。じつはプラハ行きが決まったのは、ひょんな
 ことだった。最初はハワイに住む友人を訪ねる予定だった。すっかりその
 つもりで常夏気分を味わおうとウクレレを引っ張り出してポロポロと弾いて
 いた。ところが友人からキャンセルのメールが届いた。ぼくが予定してい
 た期間にプラハに行くことになった。ついては、いっしょに行かないか?
 という内容だった。出不精で旅慣れないぼくは、それまでヨーロッパ旅行な
 ど考えたこともなかった。それもヨーロッパのど真ん中、チェコ!

  子どもの頃から、両親はたびたび東欧に出かけていたから、まったくなじ
 みがないわけではない。ポーランドに行ったこともあるけれど、はるか30
 年以上も前のことだ。予算もかかるわけで一旦は断ろうと思った。だがそ
 のとき、ふと父・吉上昭三(ポーランド文学者)の友人だったチェコ文学者の
 千野栄一さんのことを思い出した。


  16年前のことだった。入院していた千野さんからハガキをいただいた。
 話したいことがあるという。千野さんは病気のせいで耳が聞こえなくなって
 いたけれど、病室には原書が山のように積み上がっていた。「ここはゆっく
 り仕事が出来るからいいよ」とにっこりした。

 
   父と千野さんは、本当に仲がよかった。しょっちゅう家に遊びにきては、
 いたずらっ子のような笑顔で冗談をいっていた。
たとえば、こうだ。イギリス
 に行ったとき、切符を買おうとして、「ツー(to)・リバプール」といったら駅員
 が切符を2枚よこしたので、「フォー(for)・リバプール」といい直すと今度は
 4枚切符をわたされてしまった。「ああ、これじゃ、てんで話にならないぜ」と
 いったら、駅員は切符を10枚わたした…なんていうジョークを得意そうに
 話した。千野さんは言語学の先生だったから、アクセントにもうるさかった。
 ちなみに千野さんの千野は、チにアクセントがあるそうだ。アクセントをつけ
 ずに平坦に「千野さん」といわれると、「チ!の」と直していた。

   あまりにしょっちょう家に来ていたので、ぼくにとってはエラい言語学の
 先生ではなく、近所の面白いおじさんだった。父が亡くなってからも、なに
 かと気にかけていただいた。

 
   病院のロビーでいつかチェコ、プラハを訪ねなさいといってくれた。父が
 ポーランド、ワルシャワを愛していたように、千野さんはチェコを、プラハを
 愛していた。千野さんは、それからしばらくして亡くなった。
 
   友人がくれたこの機会を逃しては、一生プラハに行けないかもしれない。
 それでは千野さんにも申し訳が立たない。というわけですぐにエアチケット
 とホテルを予約した。
 
   プラハについて、なんの予備知識がなかった。ガイドブックをパラパラと
 めくってみたが、どうもイメージがわかない。チャペック兄弟、カフカ、エゴン
 ・シーレ、ミュシャ……と文学、美術の大家を生んだ街であり、中世ヨーロッ
 パがそのまま残る街であることは知っているけれど、行くまでは、それが
 どういうことなのか感じることが出来ない。いやいや今だってチェコの文学
 や美術、歴史に知識があるわけじゃない。
 
    だけど、プラハの街を歩き始めたとたんに千野さん、そして意外に多い
 チェコ好きの友人たちの気持ち わかった。名所旧跡に行かずとも石畳の
 道をコツコツと歩き、百塔といわれる、街中に見られる教会の尖塔を見上げ
 ていると中世の歴史にすっぽりと飲み込まれた感じがする。多くの小説家、
 詩人、たとえばミラン・クンデラが原稿を書いていたという老舗カフェ・スラヴ
 ィアで窓の外を行き交う路面電車を見ながらコーヒーを飲んでいると、じわじ
 わとこの街にいる喜びが湧いてきた。

 
   路面電車を乗り継げば、たいていのところに行くことが出来る。友人が教え
 てくれた古本カフェ「オーキー・ドーキー」に行った。入ってみると普通のカフェ
 でけっこう大きな音でポップスが流れている。古本カフェは奥の部屋だった。
 テーブルが4つほどで窓からの自然光がやわらかく、ほの暗い。とても落ち
 着く。壁一面は本棚になっていて、ほとんど天井まで古本でうまっている。棚
 はジャンルごとに分類されていた。本はすべて売り物のようで値札がついて
 いる。ちょっとかび臭いが古書好きならば、それもまた魅力になっているのか
 もしれない。このカフェが近くにあれば通うだろうなあ。ただこんなにたくさん
 の本があるのに、読める本が一冊もないのが残念。ああ、チェコ語が出来れ
 ば天国なのに。
 
   1週間の旅はあっという間に過ぎてしまう。とりあえず古書店でチャペック
 の「ダーシェンカ」を手に入れたし、感じのいい中古レコード店も見つけた。
 あとは…。フェイスブックに写真をあげたら、知人から「千野先生のお気に入
 りだったビアホールに行ってみては」というアドバイスがあった。そうだ、千野
 さんのエッセイ集『ビールと古本のプラハ』(白水社)に登場する「黄金の虎」
 に行かなくては!
 
   グーグルマップを頼りに旧市街近くにあるビアホールにたどり着くと、まだ
 午後6時前というのにテーブルは満席で、ジョッキを手にした人たちでごった
 返していた。これでは仕方がないとあきらめようとしたところ、旅慣れた友人
 夫婦が奥に入っていくと、「せっかく日本から来たのだから」と席を譲ってくれ
 た。千野さんのエッセイにも同じようなことが書いてあった。自慢のビールを
 遠い国から来た人に味わってもらいたい、という地元愛なのだろう。このとき
 ばかりは下戸の自分を恨んだ。ああ、くやしい。千野さん曰くプラハで一番お
 いしいビールなのだ。エッセイによると、常連たちは何十年も同じテーブルで
 飲んでいるそうだ。もしかしたら奥のテーブルには、千野さんといっしょに飲
 んだ人たちがいたのかもしれない。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
   失恋してしまったので、もうお天道様の下で生きていくのは嫌になってしま
 ったよ。よし、モグラになろう。私にはうらぶれた日陰暮らしがぴったりさ。
 けどどんなモグラになればいいのかわからないな?そんなときはこれ。
 
 『モグラハンドブック』、飯島正広・土屋公幸、文一総合出版、2015
 
   これで好きなモグラを選べばいいんだ。ミズラモグラやセンカクモグラは絶滅
 の危機にあるらしい。ちょっと生き延びるのが大変そうだからやめておこうかな。
 それにしてもセンカクモグラは尖閣諸島に固有のモグラなのか、日本固有種と
 書いてあるけど中国から抗議は来ないのかな。
 
   まあそれはそれとして、やっぱり関東人だしアズマモグラあたりがいいかな。
 だけど西からコウベモグラが進出してきてるのがちょっと心配だな。単独生活で
 坑道を守るために絶えず激しい喧嘩もするらしい。地中ならほとんど天敵もいな
 いように見えるけど、なかなか楽はできないものだ。
 
   地中をうごめくモグラの写真を見ると、なんだか目を見開いてるぞ。モグラは
 ほとんど視力がないように思っていたけど、どうもそうでもないらしいな。そもそ
 も生モグラを見たことがないような気がするので、今度見に行こうかな。
 
   そうだ、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。もっと上を向いていかないと。雨の
 後には虹も出る。と思ったら見たことない虹が出てきたな。下のほうまである丸
 い虹だ。
 
  『空の虹色ハンドブック』、池田圭一・服部貴昭、文一総合出版、2013
 
   これを紐解けば珍しい虹でもどんな現象かバッチリ解説してくれる。丸い虹…
 眼下に水滴がある場合には虹が丸く見える。そんなにレアな現象ではなかった
 …残念。
 
   だけどレア度の高い現象が起こっていても、こっちが気づかなきゃお話になら
 ないわけで、この本での予習は欠かせない。
 
   この本の中であと見たことあるのは、「紫色の夕焼け」かな。昔山口市で見た
 けど、あれはなかなか視界一面が赤紫に染まって幻想的な風景だったなあ。で
 きればまた体験したいもんだ。
 
   とこんな具合に、今まで風景の一部でしかなかったものに、実は名前があっ
 たことを知ると、世界の見方が昨日とは少し変わります。そういう体験を味わう
 には文一総合出版のハンドブックシリーズは実にお薦めです。
 
 『ハエトリグモハンドブック』、須黒達巳、文一総合出版、2017
 
   こちらは最近出たハエトリグモのガイドブック。なんと著者は日本産のハエト
 リグモ全種の採集・撮影を目指しフリーターになったという。カラフルでモフモフ
 なハエトリグモの姿を楽しむことができます。
 
   部屋の隅でピョンピョンしているあいつも、これを読めば単なるクモからアダン
 ソンハエトリ(例)として認識されることになるでしょう。
 
   ハエトリグモの生態についても知ることができます。なになにハエトリグモの
 オスはこんな風に求愛して、カップルになるのか。求愛…。…そういえば振られ
 ちゃったんだっけ。ハエトリグモでさえ出来ることが私にはできなかったと言うこ
 とか…。…。…。(冒頭に戻る)
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ 「trip to zine ~zineへの旅〜」展
 └───────────────────────────────── 
 ◆期間:2018年6月14日 (木) 〜 7月16 日(月)  9:00〜21:30
 
 ◇場所:多賀城市立図書館 3階 ギャラリー
 
 □主催:多賀城市立図書館/Book!Book!Sendai
 
 □問い合わせ先:多賀城市立図書館 022-368-6226
 
 ホームページ
 http://bookbooksendai.com/
 
 
 “近年、zineへの関心は高まっていて、ニューヨーク、フランス、台湾、
 韓国、東京など世界各地でzineのイベントが開かれています。
 なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。
 本展は『日本のZINEについて知ってることすべて』に掲載されている
 zineを中心に、1960年代から2010年代までに発行されたzineを
 年代順にセレクトして展示。
 会場内にzineライブラリーを開設し、東北のzine、世界のストリート
 ペーパーも合わせて紹介いたします。
                                 ======火星の庭HPより抜粋======

 ■ 僕の人形 原田栄夫作品展 at 長野県茅野市 アノニムギャラリー
 └─────────────────────────────────
 ◆期間:2018年7月5日(金)〜31日(火)  
                                     11:00−18:00 水・木曜は休み
 
 ◇場所:アノニム・ギャラリー&カフェ
       〒391-0211 長野県茅野市湖東4278
              Tel/Fax  0266-75-1658
              E-Mail  contact@anonym-gallery.com
 
            電車の場合
            JR中央本線 茅野駅よりタクシーか路線バス 
            路線バスの場合は
            「茅野駅〜横谷峡入口〜渋川口〜麦草峠線」で
            「北部中学校入口」下車 
 
 90歳を過ぎてから
 日々の趣味としてつくるようになったという
 原田栄夫氏の人形。
 
 テッシュでつくられた「ちり紙人形」。
 紙粘土を使った動物、張り子たち。
 
 唯一無二の人形たち。
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 
 何だか嫌なことが続く年のような気がするのは私だけでしょうか。2018年、
 後に忘れられない年、として思い出すような気がします。毎度、遅くなって
 しまい本当に申し訳ありません。来月もよろしくお願いします。                 
                              畠中理恵子

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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
 ■ トピックスの情報提供もよろしくお願いします。
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[本]のメルマガ vol.684


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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.6.15.発行
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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。来月にご期待を! 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第108回 プラハ「黄金の虎」へ 

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → モグラ、虹、ハエトリグモ…。鬱々とした時は異世界へ!
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第108回 プラハ「黄金の虎」へ


  5月の連休後、1週間ほどプラハに行ってきた。ひさしぶりのヨーロッパ、
 チェコを訪れるのは初めてだ。じつはプラハ行きが決まったのは、ひょんな
 ことだった。最初はハワイに住む友人を訪ねる予定だった。すっかりその
 つもりで常夏気分を味わおうとウクレレを引っ張り出してポロポロと弾いて
 いた。ところが友人からキャンセルのメールが届いた。ぼくが予定してい
 た期間にプラハに行くことになった。ついては、いっしょに行かないか?
 という内容だった。出不精で旅慣れないぼくは、それまでヨーロッパ旅行な
 ど考えたこともなかった。それもヨーロッパのど真ん中、チェコ!

  子どもの頃から、両親はたびたび東欧に出かけていたから、まったくなじ
 みがないわけではない。ポーランドに行ったこともあるけれど、はるか30
 年以上も前のことだ。予算もかかるわけで一旦は断ろうと思った。だがそ
 のとき、ふと父・吉上昭三(ポーランド文学者)の友人だったチェコ文学者の
 千野栄一さんのことを思い出した。


  16年前のことだった。入院していた千野さんからハガキをいただいた。
 話したいことがあるという。千野さんは病気のせいで耳が聞こえなくなって
 いたけれど、病室には原書が山のように積み上がっていた。「ここはゆっく
 り仕事が出来るからいいよ」とにっこりした。

 
   父と千野さんは、本当に仲がよかった。しょっちゅう家に遊びにきては、
 いたずらっ子のような笑顔で冗談をいっていた。
たとえば、こうだ。イギリス
 に行ったとき、切符を買おうとして、「ツー(to)・リバプール」といったら駅員
 が切符を2枚よこしたので、「フォー(for)・リバプール」といい直すと今度は
 4枚切符をわたされてしまった。「ああ、これじゃ、てんで話にならないぜ」と
 いったら、駅員は切符を10枚わたした…なんていうジョークを得意そうに
 話した。千野さんは言語学の先生だったから、アクセントにもうるさかった。
 ちなみに千野さんの千野は、チにアクセントがあるそうだ。アクセントをつけ
 ずに平坦に「千野さん」といわれると、「チ!の」と直していた。

   あまりにしょっちょう家に来ていたので、ぼくにとってはエラい言語学の
 先生ではなく、近所の面白いおじさんだった。父が亡くなってからも、なに
 かと気にかけていただいた。

 
   病院のロビーでいつかチェコ、プラハを訪ねなさいといってくれた。父が
 ポーランド、ワルシャワを愛していたように、千野さんはチェコを、プラハを
 愛していた。千野さんは、それからしばらくして亡くなった。
 
   友人がくれたこの機会を逃しては、一生プラハに行けないかもしれない。
 それでは千野さんにも申し訳が立たない。というわけですぐにエアチケット
 とホテルを予約した。
 
   プラハについて、なんの予備知識がなかった。ガイドブックをパラパラと
 めくってみたが、どうもイメージがわかない。チャペック兄弟、カフカ、エゴン
 ・シーレ、ミュシャ……と文学、美術の大家を生んだ街であり、中世ヨーロッ
 パがそのまま残る街であることは知っているけれど、行くまでは、それが
 どういうことなのか感じることが出来ない。いやいや今だってチェコの文学
 や美術、歴史に知識があるわけじゃない。
 
    だけど、プラハの街を歩き始めたとたんに千野さん、そして意外に多い
 チェコ好きの友人たちの気持ち わかった。名所旧跡に行かずとも石畳の
 道をコツコツと歩き、百塔といわれる、街中に見られる教会の尖塔を見上げ
 ていると中世の歴史にすっぽりと飲み込まれた感じがする。多くの小説家、
 詩人、たとえばミラン・クンデラが原稿を書いていたという老舗カフェ・スラヴ
 ィアで窓の外を行き交う路面電車を見ながらコーヒーを飲んでいると、じわじ
 わとこの街にいる喜びが湧いてきた。

 
   路面電車を乗り継げば、たいていのところに行くことが出来る。友人が教え
 てくれた古本カフェ「オーキー・ドーキー」に行った。入ってみると普通のカフェ
 でけっこう大きな音でポップスが流れている。古本カフェは奥の部屋だった。
 テーブルが4つほどで窓からの自然光がやわらかく、ほの暗い。とても落ち
 着く。壁一面は本棚になっていて、ほとんど天井まで古本でうまっている。棚
 はジャンルごとに分類されていた。本はすべて売り物のようで値札がついて
 いる。ちょっとかび臭いが古書好きならば、それもまた魅力になっているのか
 もしれない。このカフェが近くにあれば通うだろうなあ。ただこんなにたくさん
 の本があるのに、読める本が一冊もないのが残念。ああ、チェコ語が出来れ
 ば天国なのに。
 
   1週間の旅はあっという間に過ぎてしまう。とりあえず古書店でチャペック
 の「ダーシェンカ」を手に入れたし、感じのいい中古レコード店も見つけた。
 あとは…。フェイスブックに写真をあげたら、知人から「千野先生のお気に入
 りだったビアホールに行ってみては」というアドバイスがあった。そうだ、千野
 さんのエッセイ集『ビールと古本のプラハ』(白水社)に登場する「黄金の虎」
 に行かなくては!
 
   グーグルマップを頼りに旧市街近くにあるビアホールにたどり着くと、まだ
 午後6時前というのにテーブルは満席で、ジョッキを手にした人たちでごった
 返していた。これでは仕方がないとあきらめようとしたところ、旅慣れた友人
 夫婦が奥に入っていくと、「せっかく日本から来たのだから」と席を譲ってくれ
 た。千野さんのエッセイにも同じようなことが書いてあった。自慢のビールを
 遠い国から来た人に味わってもらいたい、という地元愛なのだろう。このとき
 ばかりは下戸の自分を恨んだ。ああ、くやしい。千野さん曰くプラハで一番お
 いしいビールなのだ。エッセイによると、常連たちは何十年も同じテーブルで
 飲んでいるそうだ。もしかしたら奥のテーブルには、千野さんといっしょに飲
 んだ人たちがいたのかもしれない。


 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
   失恋してしまったので、もうお天道様の下で生きていくのは嫌になってしま
 ったよ。よし、モグラになろう。私にはうらぶれた日陰暮らしがぴったりさ。
 けどどんなモグラになればいいのかわからないな?そんなときはこれ。
 
 『モグラハンドブック』、飯島正広・土屋公幸、文一総合出版、2015
 
   これで好きなモグラを選べばいいんだ。ミズラモグラやセンカクモグラは絶滅
 の危機にあるらしい。ちょっと生き延びるのが大変そうだからやめておこうかな。
 それにしてもセンカクモグラは尖閣諸島に固有のモグラなのか、日本固有種と
 書いてあるけど中国から抗議は来ないのかな。
 
   まあそれはそれとして、やっぱり関東人だしアズマモグラあたりがいいかな。
 だけど西からコウベモグラが進出してきてるのがちょっと心配だな。単独生活で
 坑道を守るために絶えず激しい喧嘩もするらしい。地中ならほとんど天敵もいな
 いように見えるけど、なかなか楽はできないものだ。
 
   地中をうごめくモグラの写真を見ると、なんだか目を見開いてるぞ。モグラは
 ほとんど視力がないように思っていたけど、どうもそうでもないらしいな。そもそ
 も生モグラを見たことがないような気がするので、今度見に行こうかな。
 
   そうだ、いつまでもくよくよしてちゃダメだ。もっと上を向いていかないと。雨の
 後には虹も出る。と思ったら見たことない虹が出てきたな。下のほうまである丸
 い虹だ。
 
  『空の虹色ハンドブック』、池田圭一・服部貴昭、文一総合出版、2013
 
   これを紐解けば珍しい虹でもどんな現象かバッチリ解説してくれる。丸い虹…
 眼下に水滴がある場合には虹が丸く見える。そんなにレアな現象ではなかった
 …残念。
 
   だけどレア度の高い現象が起こっていても、こっちが気づかなきゃお話になら
 ないわけで、この本での予習は欠かせない。
 
   この本の中であと見たことあるのは、「紫色の夕焼け」かな。昔山口市で見た
 けど、あれはなかなか視界一面が赤紫に染まって幻想的な風景だったなあ。で
 きればまた体験したいもんだ。
 
   とこんな具合に、今まで風景の一部でしかなかったものに、実は名前があっ
 たことを知ると、世界の見方が昨日とは少し変わります。そういう体験を味わう
 には文一総合出版のハンドブックシリーズは実にお薦めです。
 
 『ハエトリグモハンドブック』、須黒達巳、文一総合出版、2017
 
   こちらは最近出たハエトリグモのガイドブック。なんと著者は日本産のハエト
 リグモ全種の採集・撮影を目指しフリーターになったという。カラフルでモフモフ
 なハエトリグモの姿を楽しむことができます。
 
   部屋の隅でピョンピョンしているあいつも、これを読めば単なるクモからアダン
 ソンハエトリ(例)として認識されることになるでしょう。
 
   ハエトリグモの生態についても知ることができます。なになにハエトリグモの
 オスはこんな風に求愛して、カップルになるのか。求愛…。…そういえば振られ
 ちゃったんだっけ。ハエトリグモでさえ出来ることが私にはできなかったと言うこ
 とか…。…。…。(冒頭に戻る)
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 「trip to zine ~zineへの旅〜」展
 └───────────────────────────────── 
 ◆期間:2018年6月14日 (木) 〜 7月16 日(月)  9:00〜21:30
 
 ◇場所:多賀城市立図書館 3階 ギャラリー
 
 □主催:多賀城市立図書館/Book!Book!Sendai
 
 □問い合わせ先:多賀城市立図書館 022-368-6226
 
 ホームページ
 http://bookbooksendai.com/
 
 
 “近年、zineへの関心は高まっていて、ニューヨーク、フランス、台湾、
 韓国、東京など世界各地でzineのイベントが開かれています。
 なぜこれほど人を惹きつけるのでしょうか。
 本展は『日本のZINEについて知ってることすべて』に掲載されている
 zineを中心に、1960年代から2010年代までに発行されたzineを
 年代順にセレクトして展示。
 会場内にzineライブラリーを開設し、東北のzine、世界のストリート
 ペーパーも合わせて紹介いたします。
                                 ======火星の庭HPより抜粋======

 ■ 僕の人形 原田栄夫作品展 at 長野県茅野市 アノニムギャラリー
 └─────────────────────────────────
 ◆期間:2018年7月5日(金)〜31日(火)  
                                     11:00−18:00 水・木曜は休み
 
 ◇場所:アノニム・ギャラリー&カフェ
       〒391-0211 長野県茅野市湖東4278
              Tel/Fax  0266-75-1658
              E-Mail  contact@anonym-gallery.com
 
            電車の場合
            JR中央本線 茅野駅よりタクシーか路線バス 
            路線バスの場合は
            「茅野駅〜横谷峡入口〜渋川口〜麦草峠線」で
            「北部中学校入口」下車 
 
 90歳を過ぎてから
 日々の趣味としてつくるようになったという
 原田栄夫氏の人形。
 
 テッシュでつくられた「ちり紙人形」。
 紙粘土を使った動物、張り子たち。
 
 唯一無二の人形たち。
  
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 ■あとがき 
 何だか嫌なことが続く年のような気がするのは私だけでしょうか。2018年、
 後に忘れられない年、として思い出すような気がします。毎度、遅くなって
 しまい本当に申し訳ありません。来月もよろしくお願いします。                 
                              畠中理恵子

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[本]のメルマガ vol.683

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■■ [本]のメルマガ                 2018.06.05.発行
■■                              vol.683
■■  mailmagazine of books        [お悔やみ申し上げます 号]
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『新時代「戦争論」』

マーティン・ファン・クレフェルト著 石津朋之日本語版監修
江戸伸禎訳 四六判 348ページ 本体2,600円+税 ISBN:9784562055753

軍事戦略思想の世界的大家が、戦争の原因や経済の役割など、現代の戦争を取
り巻く状況の変化を読み込みつつ、クラウゼヴィッツと孫子を批判的に参照す
ることであらたに包括的な「戦争論」を提示。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その24「探偵たちの食生活』<その一 キンジー>

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『展望と開運』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
----------------------------------------------------------------------
その24「探偵たちの食生活』<その一 キンジー>

 異国の食べ物や食生活について知ることができるのは、推理小説が一番だと
思う。推理小説の主人公である探偵さんは一人で行動するせいか、私たち読者
に食べ物について語ってくれることが多い。顧客や被害者の日常生活に張りつ
いたり調べたりして、他人の食生活にも立ち入ることも多い。まあ、毒も入っ
ていたりするからね。

 探偵さんは忙しい。張り込みの間はろくにものも食べられない。だから彼ら
はやたらにジャンクフードを口にする。

 いつから食べ物に気を遣わないのがハードボイルドでマッチョな探偵の常識
になったのか分からないのだが、まずは私の愛する女性探偵たちの食生活から、
現代アメリカの推理小説における食生活を見てみたいと思う。
 
 推理小説の謎の解き手は、ミス・マープル(アガサ・クリスティ著)から始
まって主婦探偵ジェイン(ジル・チャーチル著)のように巻き込まれ型が多い
のだが、ここはまず、一世を風靡したハードボイルド型の女性探偵、キンジー
・ミルホーン(スー・グラフトン著)とV・Iウォーショースキー(サラ・バ
レツキー著)を見て行きたい。 

 カリフォルニアの架空の街サンタ・テレサに住む探偵キンジー・ミルホーン
が誕生したのは一九八二年。邦訳は一九八七年。『アリバイのA』から始まっ
て、去年スー・グラフトンが亡くなったので、二十六番目の『 "Z" Is for 
Zero』までが予定されていたらしいが、結局去年出版された『"Y" Is for 
Yesterday』が最後の作品となったようだ。ただし邦訳は『ロマンスのR』で
終わってしまっているので、私が読んだのは二〇〇四年までの十八冊という事
になる。
 
 花の八十年代。日本では贅沢なフランス料理店やイタリア料理店が山ほど開
いたころなのだが、同時にヘルシーな食生活という事が言われ始めた時代でも
ある。この言葉が使われ出したのは、アメリカでは一九七六年ころらしいので、
一九八〇年には一般常識となっていただろう。

 そんなアメリカ人の食生活の中で(もちろんここで話題にするのは本の中の
食生活だけなのだが)頻繁に目にするのは、ハンバーガー・ショップの登場率
の多さである。その中でも、何といってもハンバーガー・ショップが多く出て
くるのは、カリフォルニアにある架空の都市サンタ・テレサでのキンジー・ミ
ルホーンの物語だ。

 彼女の好きなのは、チーズ入りクォーター・パウンダーにフライドポテトと
コーラの組み合わせ。これは、お肉の量が約一一〇グラムという、お腹にずし
んと来る感じのハンバーガーのことで、日本でも昔は売られていたらしい。 

 一人暮らしのキンジーは、自宅では殆どサンドイッチしか口にしていない。
潰したゆで卵のマヨネーズあえということもあるが、たいていはお得意のピー
ナッツバターとピクルスの組み合わせのサンドイッチを食べて食事場面はおし
まいになる。

 その他には、行きつけのハンガリー料理の店に行くか、隣人で大家の元パン
職人の老人ヘンリーにご馳走してもらうかが、日常の食生活のすべてだ。あと
は、物語の中で出かけた町のレストラン、依頼人や聞き込みに行った先で出さ
れた食事を食べ、デートでレストランに行く。時たま、アメリカ人らしく、カ
リフォルニア風のダイエットフードを口にするのだが、まるでその事を打ち消
すかのようにジャンクな食事を口にする。それも、とてもおいしそうに。 
 
 数ある物語の中から『死体のC』を例にとってみてみよう。

 キンジーは交通事故で肢体不自由になった富豪の息子ボビーから、その事故
について調べるよう依頼を受ける。自分は殺されかけたのだが、事故による損
傷で記憶が抜け落ちていて思いだせないから調べて欲しいのだと。

 二人が出会ったのは、キンジーが骨折した腕の機能改善のために通っていた
フィットネス・センター。そこにあるヘルシー・フード・カフェで二人は食べ
ながら話し合う。ここは肉の代わりに大豆でできた偽の肉を食べさせる菜食主
義の店らしく、なぜこういう店をヘルシーというのか私にもキンジーにもわか
らないのだが、すでにこういう店はカリフォルニアでは常識だったらしい。い
かにも八十年代の終わりの話だ。彼女が注文したのは、

「いためた野菜と玄米、いびつな水差しのような瓶に入った白ワイン」

 これは、玄米のチャーハンみたいなものかと思える。筋肉トレーニングの後
にはズシンときておいしそうだ。 

 別の日にこんなものも食べている。

「百パーセント完璧な栄養素をそろえた長生きサラダ」
それは、
「海草と種が山盛りになった皿の上にぴりっと辛いピンクのソースがかかって
いる…ハンバーガーの味にははるかにおよばないが、体にいいものを食べてい
るという満足感は得られた。」

なんていうものらしいが、どうみても、お刺身のつまにアルファルファ―とか
モヤシをのっけて、ナッツをかけたようなサラダで、少し探偵さんには軽くな
いだろうか。 

 案の定、この後すぐに訪れた家で、彼女は、サンドイッチを作ろうとしてい
る男に出会い、彼女の視線に気がついた男に腹が減っているのかと聞かれて、

「ペコペコだわ。」 

と答えてしまい、自分でもびっくりしている。 

 ここで、男の作ってくれたサンドイッチというのが、とても体に悪そうで、
そして、とても美味しそうなのだ。 

「浴室で使うスポンジのようにぐんにゃりと二つ折りできそうな柔らかい食パ
ンに、ミラクルホイップをべったり塗りつけている。…パンのうえにうすくス
ライスしたオニオンをのせ、つぎにチーズのまわりの包装セロファンをとり、
レタス、ディルピクルス、マスタード、肉と次々重ね合わせていった。」 

 材料は、ごく普通のプロセスチーズに、甘ったるいマヨネーズのようなウル
トラ・ホイップというソース、オリーヴと何の動物の肉だか分からない塊を混
ぜたランチミート。

 キンジーは、どうやらこのサンドイッチには防腐剤がたっぷり入っていそう
だと思いながらも、このほうが私の健康には良さそうだと言って、三角形に切
ってくれたこのサンドイッチに無我夢中でむしゃぶりつき、ビールを飲む。 

 ヘルシーへの要求は、防腐剤入りのウルトラ・ホイップとランチョンミート
で、見事消え去ったようだ。

 この物語の中でキンジーが作ったのは、

「ダークブレッドにクリームチーズ、うすくスライスしたキュウリとオニオン
を挟んだサンドイッチ」

 皿も使わず、ペーパーナプキンに挟んでワインと一緒に食べている。

 ちょっとわけありの警官のジョブと再会する時も、裁判所の庭でサンドイッ
チの昼食を取ることを提案している。彼が持ってきたのは、

「サンドイッチにペプシと、フェイマス・エイモス・クッキーかな」

 そう言えば、このチョコチップクッキーは八十年代後半にアメリカで大ブー
ムになり、たしか銀座でも売りに出されていたような気がする。気取らないけ
れどちょっと気になるデザートを添えたんだ、やるなジョブ、という感じだ。

 この物語は、大金持ちが何人も話の中に出てくるので、その家でのパーティ
の様子や、言いつけると、あっという間に使用人によって用意される豪奢な食
事をする場面等があるが、どうも印象に残るのはサンドイッチの場面ばかりな
のだ。 

 ところで、このシリーズについては評伝があって、その『グラフトンのG』
(N・H・コーフマン、C・M・ケイ著)でも、「キンジーの日常生活」という章
で食事について書かれている。

 そこで指摘されるのは、女性探偵小説の愛読者が惹きつけられるのは「主人
公が彼女たちにはできないと思うことをしているからだ」

という事。その一つとして、キンジーは実によく食べると言って、色々な食事
場面を引用している。つまり、ことあるごとにワインを飲み、食事をご馳走さ
れれば心ゆくまで楽しみ残さず食べるキンジーの様子に、常にダイエットを気
にしている女性たちは惹きつけられるというのだ。そして、キンジーは必ずジ
ョギングに出かけ、決して太らないというところが魅力なのだとしている。

 これは裏を返せば、読者は常にカロリー計算をしてジャンクなものを食べる
わけにはいかないという事になるのだろうか?このダイエットという脅迫概念
は、アメリカ人を常に脅かしている気がする。けれどもこの説は、なんだか釈
然としない。本当のところは、ジャンクなものを常に食べ、運動嫌いで太って
いる自分たちとは違うから、惹きつけられるのだという事なのだろうか?

 私はそういう単純なものではなく、時代が見出した「ヘルシー」な日本食ブ
ームとかから始まる、「ヘルシー」や「菜食主義」の偽物臭さを、若くて元気
で体を張って生きている女性探偵たちが、ジャンクな食べ物を食べながら生き
抜いて見せて否定するところに、読者をひきつける魅力があるように思う。

 彼女たちは独身で、その多忙さから「料理をする」とい義務からも自分を解
放している。その事への羨望も感じられる気がするのだ。

 キンジーは、『探偵のM』で、ボディガードに雇って同居する羽目になった
探偵のディーツに

「私は料理をしないわ」

と宣言している。

もちろん、ディーツも

「私もだ」

と、答えている。

 おいおい、どうやって食べていくんだ、探偵さんたち?

 二人の食生活を見ていくと、朝はシリアルに牛乳をかけて食べている。確か
にこれは料理ではない。コーヒーはディーツが毎朝沸かしている。

 一度だけ、いり卵を作っているのだが、作者はこの場面でキンジーに、卵を
フライにするのは苦手、つまり目玉焼きも作れないと言わせている。まさか、
卵を割ってフライパンにのせるだけの料理を苦手というとはと呆れるかもしれ
ないが、実は目玉焼きほど個々人の好みが出るものもない気がする。白い膜が
黄身に張らないように必ず取るとか、黄身が固まるように両面を焼くとか、半
熟はいやだとか、いや半熟じゃなきゃいやだとか、その上、調味料には塩とコ
ショウだ、いやソースだ、いや醤油だ、とか……。私が聞いた、わがままな家
人の好みに合わせるやり方はこんな風に様々だ。食べる相手の好みに沿わなく
ては歓迎されない料理の最たるものかもしれない。苦手だ、やらない。つまり、
誰かのための料理をしないということが暗に感じられるやり取りだ。

 場面には出てこないが、買出しに出たディーツが買ってきたものの中にベー
コンもあるのでこれも焼いたのだろうけれど、野菜についてはなにも書かれて
いない。

 料理をしない生活は自由だけれど、ヘルシー以前に栄養が偏る気もする。

 ところで、 最初にあげたキンジーが作る

「ピーナッツバターとピクルスの組み合わせのサンドイッチ」

は、周囲の人たちにもあきれられるような食べ物なのだが、シリーズの中で何
度も現れ、キンジーを象徴するような食べ物となって行き、物語が進むにつれ、
実はキンジー自身も知らない過去に関わって行く。

 もちろん私も最初から気になっていて、作ってみたことがある。自家製のあ
っさり目のピクルスだったせいか、普通においしくて拍子抜けがした。ちょっ
と甘いキュウリのサンドイッチという感じ。これでは『悪意のM』 で、キン
ジーがこのサンドイッチを作ると言ったときにディーツに

「“庭のナメクジを料理する“とでも言ったかのようににらみつけられた」

というほどの気持ち悪さは感じられなかった。

 今度アメリカ産の毒々しい感じのピクルスとピーナッツバターを手に入れた
ら試してみようとは思っている。そのときは又、その味について語る予定なの
でお楽しみに。

以上、報告します。

と、キンジー風にまとめたところで、次回は、シカゴの探偵ヴィクの食生活を
見て行こうと思う。

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「死体のC」スー・グラフトン著    ハヤカワ・ミステリ文庫
「探偵のG」スー・グラフトン著    ハヤカワ・ミステリ文庫
「グラフトンのG―キンジー・ミルホーンの世界」
 N.H.コーフマン・C.M.ケイ著   ハヤカワ・ミステリ文庫    

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『展望と開運』

 村山幸徳先生がお亡くなりになられた。

 http://www.mindzoom.co.jp/news/view/284

 といっても、普通の方には「?」という感じだと思う。ので、プロフィール
を引用してみる。

村山幸徳

(株)シンクタンクマインドズーム代表取締役、教育学博士。

1948年新潟県柏崎の日蓮宗僧侶の家に生まれ、国際平和活動・宗教活動に関わ
り、衆議院議員政策秘書などを務めたのち、1998年「都市開発」と「企業経営」
のコンサルティングを行うシンクタンク・マインドズームを設立。

日本各地で「正法眼蔵」などの仏教哲学を基礎とした経営指導やビジネスマン
向けのセミナーを実施して高い評価を得ている。海外にも熱心な支持者が多い。
「気学」や「易」の研究者としても著名であり「社会運勢学」の第一人者。

著書に『幸せをつかむ「気」の活かし方』(たま出版)、毎年の『展望と開運』
(角川学芸出版)、『宇宙を見方につけて成功する方法』(大和出版)『正法
眼蔵の経営力』(PHP研究所)など。

http://www.mindzoom.co.jp/profile.html

 これを見ても「?」という方が多いだろう。

 私が知ったのは書店で『展望と開運』の2005年版を手に取ったときだと思う
が、どこでどんな風に出会ったのか、さっぱり思い出せない。ちなみに2005年
の頃は「TPIジャパン副社長」という肩書であったようだ。

 この本、まあ、言ってみれば占いの本ではあるのだが、いわゆる確率論の占
い解説本かといえば、そうではない。晩年、「社会運勢学」という言葉を用い
られて、後継者も講座形式で教育されていたようだから、単なる感覚に頼った
ものではないのだろうが、それにしても、様々な歴史的なエピソードや筆者の
体験談なども豊富に盛り込まれていて、読み物としても面白い。

 その後、コーチングなどという仕事をしていて、「TPIジャパン」という
のが、かつて日本に海外のコーチングプログラムを輸入してきた会社であった
ことを知った。

 さて、実際に村山先生にお目にかかったことが1度だけある。誘われて仏教
についての勉強会に参加し、大いに面白く受講させていただいたのだが、やめ
とけばいいのに紹介者に連れられてご挨拶した。先生は、なんじゃこの小さい
のは、というくらいの見方をされているようで、実際、こちらは緊張して小さ
くなっていた。

 なんていうか、高校生がお世話になっているグラビアアイドルかセクシータ
レントに会ったような、そんな緊張感であった。

 は、いいとして。

 亡くなられて思うのは、晩年、占いではなく「社会運勢学」とし、理論立て
て後継者を育てられたことには、どのような意味があるのか、ということであ
る。

 いわゆる九星気学は中国の易の影響を受けながら、江戸時代の日本で独自発
達した占術の体系であるという。天と地と人のそれぞれの60パターンの組み合
わせから、世の中の動きや人の好ましい動きを知ろうとするものである。

 問題なのは、村山先生の本は実際に起こる現象を予測し、それを的中させる
ところにある。といっても、リーディングのように非科学的なものではなく、
この流れで今年はこういう年になるから、こういう事件・災害が起こりやすい、
という、まさにフローを見ているようであった。

 実際、大変な事件が起こったり、今年であれば、様々な伝統的な組織で不祥
事が連続して起こったりしている。こういう「当たり年」を予測する、という
もので、別に何月何日何が起こる、という予言ではない。

 ユングの集団無意識にもつながる考え方でもあるようにも思うが、そもそも
ユングはタオ(易)の思想の影響を受けているので、当たり前と言えば当たり
前だ。

 最近、コーチングの効果に関する検証をしていて、言わゆる易のような占い
系との共通点について考えていた。

 某TV番組で強烈な呪うようなことを言っていたおばちゃんの影響もあって、
占いと言うと人の人生を勝手に決めつけるもののような印象があるが、実際の
ところには、これはそもそも、カメの甲羅を火にくべたときの割れ方から何か
予兆を読み解くというもので、つまりは合理的な意思決定の中に、偶然性の要
素を入れようというものである。

 コーチングでもイノベーションに関する研究でもわかる通り、合理的で論理
的な思考パターンというのは決して逸脱しないので、同じ結論にしかたどり着
かないことが多い。社会構成主義的な考え方に立てば、それはある種、偏った
物の見方しかしていないことになり、多様性を持つことのできない考え方であ
る。

 では、ここに何か意味ありげな偶然性・偶発性のものが挿入されるとどうな
るか。人間の思考はそこに関係性を求めようとするので、今まで見えていなか
ったものが見えたり、気づかなかった視点が生まれたりする。いわゆる「気づ
き」である。

 おそらく有効な占いというものは、この偶然性をさらに効果が高くなるよう
にするために体系づけたものではないかと思うのであるが、まだまだ仮説であ
って、これは検証の域にはない。

 さて、村山先生が残された「社会運勢学」が単にビジネスとしてではなく、
学として有効であるのかどうかは、後継者の皆様の今後のアウトプットに期待
するとして、私は草葉の陰の1ファンとして、このコーチングの有効性にもつ
ながる占いや東洋思想的、宗教的な考え方の検証について、バトンを受け取っ
たような気が、勝手にしている現在である。

 死者のバトンを生者が受け取る。しかもたくさんの生者に。私も物を書く人
間のはしくれとして、そういう生き方、死に方をしたい。

 心より、お悔やみ申し上げます。ありがとうございました。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 梅雨入りしましたね。とはいえ、雨が降ったのは1日だけですが。

 台風も来ているそうで、今年は梅雨明けも早いかもしれませんね。

 うちの紫陽花は成長が遅いので、開花が間に合うか心配です。(aguni原口)

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 や中央アジアを中心とする関係各国への影響から、EU等の経済圏との比較ま
 で、グローバルな視点から解説。「一帯一路」解説本の決定版!
 
【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第53回「著作権法を巡る話題」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第107回 旅する本屋

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → ダムの歩き方!ダム愛好家が増えている?
  
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 ■トピックス
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 三つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第53回「著作権法を巡る話題」
 
 こんにちは。ゴールデンウィークはみなさまいかがお過ごしだったでしょうか。
 わたしは,前半はとある原稿執筆に専念し(しかも書き上がってません),後
 半は後期高齢者のお世話であちらこちらに出かけてきました。某所でいただい
 たジンギスカン鍋は美味でした。
 
 さて4月は,著作権を巡る動きがいくつもありました。その最たるものは著作
 権法の改正(1)で,4月17日には衆議院を通過し,参議院で審議入りするはずが,
 国会空転のあおりを被って,ようやく最近実質的な審議に入ったところです。
 この稿を執筆している時点ではまだ成立しておらず,改正点に関してある程度
 の見通しはあるものの,あまり先走るのもナニですから,今回は今次改正につ
 いては触れるのを控えます。
 
 さて,2018年4月13日に知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が「インターネ
 ット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を決定しました(2)。これはいわゆ
 る「海賊版サイト」対策として,「漫画村」など3つのサイトを指定してブロ
 ッキング(遮断)することを,刑法が定める「緊急避難」措置と解釈し,ブロ
 ッキングの実施をISP等に暗に要請したものです。これを受けて4月23日には
 NTTグループがブロッキングを実施したました(3)。
 
 日本国内ではこれまでいわゆる「児童ポルノ」に限定して,これも「緊急避
 難」としてブロッキングが実施されてきたものでしたが,同時にブロッキング
 の根拠となる「法制度の整備に向けて検討する」と謳っているとは言え,今回
 のブロッキングに至る経緯とその決定の内容を見るにつけ,あまりに拙速であ
 り,なおかつ「著作権」が時の為政者の都合で何事かをなす際の「錦の御旗」
 として機能してしまったことを,我々は憂えなければならないのではないかと
 愚考しますが如何でしょうか(4)。
 
 特に,今回のブロッキングを歓迎している大手出版社の関係者は,自分で自分
 の存立基盤を突き崩していることに思いが至らないのかなあ,と嘆息しきりで
 す(5)。マンガのビジネスモデルが大正年間より続いてきた「円本モデル」か
 ら電子書籍への移行の過渡期にありビジネスモデルとして盤石の地盤を築いて
 いるとは言い難いものの,「緊急避難」を謳う今回のブロッキングがISP利用
 者の「通信の自由」を侵害していることは明らかであり(6),大手出版社が
 ロビイングで獲得したのであろう「緊急避難」が他のケースに濫用され思想信
 条の自由を侵害することはない,と言い切れるのでしょうか。
 
 たまたま2018年4月には九州大学附属図書館の蔵書がいわゆる「自炊」のため
 破壊された状態で発見されるという事件が起きています(7)。これは,「電子
 書籍の未普及が招いた悲劇」でも「研究熱心さが招いた暴走」でも何でもな
 く,社会の秩序を維持するための法制度への挑戦であり,このような行為を図
 書館関係者は厳しく指弾しなければなりません。わたしが図書館関係者の端く
 れとしてこの件に「教育的指導」などと甘いことを言いたくないのは,この蔵
 書毀損事件から漫画村の件までが,著作権と社会秩序もしくは社会倫理にかか
 わる地続きの事件だと踏んでいるからです。著作権を保護しなければならない
 のはもちろんのことですが,だからといって著作権を錦の御旗にして棍棒よろ
 しく振り回し,必要な法整備なきまま「通信の自由」に踏み込もうとする国家
 権力による著作権の保護を求める,出版業界における権力との距離感の欠如と
 いうところまでを,著作権法制度の運用,さらには著作権教育の一連の問題と
 して提起する必要があると思うのです。
 
 これは大学図書館のみならず,広く図書館業界,関係者において著作権法制度
 の理解と的確な運用がこれまで以上に求めらる社会状況にあると思うのですが,
 それにもかかわらず図書館業界内における今回のブロッキングをめぐる議論は
 低調に見え,蔵書毀損事件が「電子書籍の未普及」に話がすり替えられている
 ように見えるのが残念です。
 
 では,また次回。
 
 注記:
 (1) 著作権法の一部を改正する法律案(概要)
     http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles
                               /afieldfile/2018/02/23/1401718_001.pdf
 
 (2)インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策
     https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/honpen.pdf
 
 (3)海賊版サイト、NTTが接続遮断へ 
                                  政府要請受け初実施:朝日新聞デジタル
     https://www.asahi.com/articles/ASL4R4Q81L4RULFA01G.html
 
 (4)社説 サイト遮断 NTTの説明が聞きたい | 信濃毎日新聞[信毎web] 
     http://www.shinmai.co.jp/news/nagano
                                   /20180425/KT180424ETI090007000.php
 
 (5)出版業界はブロッキング問題で岐路に立っている ≪ マガジン航 
     https://magazine-k.jp/2018/05/01/editors-note-32/
 
 (6)政府の海賊版サイト対策「あまりにも早急で杜撰」、「漫画村」
                        「Anitube」「Miomio」遮断へ - 弁護士ドットコム 
     https://www.bengo4.com/internet/n_7717/
 
 (7)ゴミ袋から九大図書館の蔵書78冊 背表紙だけの本も:朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASL4N63PVL4NTIPE038.html
     専門性から発覚…九大院生、大学図書館の本盗んだ疑い
                                                   :朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASL4T3H7VL4TTIPE00P.html

 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。 
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  
   
 第107回 旅する本屋

 
  4月29日(日)に行われた不忍ブックストリートの一箱古本市は、お天気にも
 恵まれて、盛況のうち、無事に終わりました。それにしても通算20回というのは、
 すごいなあ、と思う。すでに歴史っていう感じがする。ぼくは、助っ人という形で
 ほとんど参加しているけれど、
飽きることがない。さすがに歳のせいか、全部の
 スポットをまわると疲労困憊になってしまうけれど。時間が足りなくてゆっくり箱
 の中の本を見ることが出来なくても、全部の箱を見たくなってしまう。

 
 一年に一度、一箱古本市でしか会えない人もいる。職業もどんなバックグラウ
 ンドを持っているかも知らない、でも顔合わせで久しぶりに会うと、気持ちが通
 じ合うような気がする。一箱古本市が、そして本が結んでくれた縁だろう。

 
 本というのは不思議な力を持っているようだ。

 
 そんなことを思いを強くしたのは『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』
 (内田洋子著 方丈社)を読んだからだ。読みながら「ヘーっ」とか「「ホーッ」と
 か
 声をだして何度も驚き、感嘆のため息をついた。著者の内田洋子がヴェネツィア
 の古書店で「何世紀にもわたり、本の行商で生計を立ててきた村がある」ことを
 知ったことからこの猊垰弋弔世本当瓩諒語が始まる。籠いっぱいの本を担
 いでイタリア中を旅した行商人がいて、そのおかげで各地に書店が生まれ、「読
 むということ」が広まったというなんてこと、本当にあったんだ。

 
 著者が訪れたヴェネツィアの古書店がとても良い。路地の奥にひっそりと開いて
 いる古書店。店主と親しくなり、修行先を尋ねると「代々、本の行商人でしたの
 で」と答える。なんでもトスカーナ州のモンテレッジォという山村から、すべてが始
 まったという。


 多分、本好き、古書店好きな人ならば、「はじめに」を読んだだけで、この本の虜
 になるだろう。ぼくも書店で立ち読みをして、すぐにレジに持っていった。古書店
 のちょっと暗い店内が頭に浮かび、古い本の匂いがしてくるようだった。

 
 イタリア生活が長い著者も知らなかった山奥の小さな村モンテレッジォ。ネットで
 検索してもそれほどの情報が現れない村、山奥の辺鄙な場所にあり、これとい
 った観光資源もない小さな村だ。農繁期の夏から収穫期の秋にかけて、イタリア
 各地では祭りが行われる。モンテレッジオの収穫祭は、ワインでもソーセージで
 も、きのこでもなく、本なのだという。本を祀って踊る祭りがあるなんて!
 と著者でなくても興味がわいてくる。そして「行ってみることですね」と古本屋の
 老店主の一言に押されて出かけることになる。知らない世界への旅の予感。胸
 がわくわくしてくる。ノンフィクションなのだが、ファンタジーを読んでいるようだっ
 た。著者といっしょに冒険の旅に出かける気分。こんなにわくわくさせる本に出
 会ったのは久しぶりだ。

 
 どうしてモンテレッジォという村が本と深く結びついていくのか、村を訪ね、数少な
 い村の人たちに話を聞きながら、疑問を解いていく。大飢饉、ナポレオン、小さな
 村がイタリアの中世の歴史とどのように関わってきたか、そしてなぜ村人が籠い
 っぱいの本を売る旅に出るようなになったのか。それは壮大なドラマだった。

 
 ナポレオンの時代、本は、高価で一般人には手に入らなかった。モンテレッジォ
 の行商人は、小さな出版社から売れ残りや猝あり瓩遼椶鮹闇阿暴犬瓩毒笋
 に歩いた。当時、知識欲は旺盛でも、経済的にまだ余裕がなかった人々は本の
 行商人が来るのを心待ちにしていたという。
 オーストリアに支配されていた時
 代には、禁書を運んだこともあったという。注文を受けて、こっそりと届けたこと
 もあったという。文化の密売人だったのだ。 
 
 ファシスト政権下、憲兵たちが禁書の検閲に来たときには、こっそりとポルノ本
 を売った。憲兵が来ると「ご本尊様が入荷してます」と耳打ちした。憲兵は禁書
 の検閲に来ては、実際には「ご本尊様」を持ち帰った。「禁書取りが禁書買い」
 になったわけだ。

 
 小さな、貧しい村はこうやって本を愛して、本を愛する人のためにきびしい歴史
 の試練を知恵を使って生き延びてきた。そしてモンテレッジォの村人たちは「本
 があるから生きてこられた」と、本への感謝祭を開いた。それがイタリアのもっ
 とも由緒ある文学賞のひとつである『露店商賞』で、1953年最初の受賞者は
 ヘミングウェイだった。この賞は、文芸評論家も記者も出版社も加わらず、本屋
 だけで決定する文学賞だ。日本の「本屋大賞」の原点はモンテレッジォにあっ
 たわけだ。

 
 日本では、書店にとって苦しい状況が続いている。ぼくが若い頃から通ってい
 た青山ブックセンター六本木店が6月に閉店するというショッキングなニュース
 が流れた。東京でも書店が商売として成り立たない時代が来ているのだろう
 か?
 
 
 読み終えたあと、この本を熱心に勧めていた小さな書店の若い店主の顔や、
 近所にある、小さな書店の素敵な棚を思い浮かべた。ここにだってモンテレッ
 ジォの村人たちの誇りを持った書店があるのだ。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。
 http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 
 
  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ----------------------------------------------------------------------
  海外旅行に必須のガイドブックといえばダイヤモンド社『地球の歩き方』シ
 リーズが有名ですが、今回そのラインナップに新たな一冊が加わることになり
 ました。
 
 『ダムの歩き方』、萩原雅紀監修、ダイヤモンド社、2018
 
  「はじめてのダム旅入門ガイド」と銘うたれております。ついに地球の歩き
 方編集部もダムマニアの毒気にやられ…、もとい感化されたのですね。喜ばし
 い限りです。やっぱりダムは現物を見て楽しむのが一番ですから。ダム見学っ
 てハードルが高そうと思ってる方にお薦めです。
 
  第1章ではダムマニアがプランニングする選りすぐりのモデルプランが18も
 あります。プランに従って車を走らせれば、特に見ておくべきダムを効率よく
 回ることができます。対象の地域は北海道から九州までありますので、色々な
 地域の人に参考にしてもらえるのではないでしょうか。
 
  第2章は日本中のダムから厳選した100のダムを紹介しています。前章では触
 れられなかった特徴あるダムもこちらに載っていますので、あわせて回れば楽
 しさ倍増間違いなしです。
 
  もちろん旅の楽しみはダム見学のみにあらず。ダムカレーを食したり、ダム
 カードを集めたりの他にも温泉等の観光情報もしっかり記載されています。美
 味しい食事の情報もしっかり載っていますが、ところどころ食糧調達困難の注
 意書きもあるので気をつけましょう。
 
  しかし、ダムに行ってみたいけどどこをどう見ればいいのかよくわからない
 という方も多いはず。でもモデルプランにはそれぞれテーマがありますので、
 注目ポイントも自ずと浮かび上がってきます。
 
  たとえば「神戸ダム三兄弟を訪ねる」プランでは主役は千苅ダム・立ヶ畑ダ
 ム・布引五本松ダム(の三兄弟)が主役です。やっぱり神戸に行ったらこの三
 箇所ははずせませんね。(とか言いつつも私は立ヶ畑ダムしか行ったことがな
 い…時間の都合で。)
 
  これらのダムはいずれも作られてから100年近くが経過していますので、も
 はや土木遺産級の歴史的建造物です。しかもそれでいて今なお現役で神戸市民
 の水道用水を供給し続けています。
 
  ダム自体の装飾などつくり自体も優美に仕上がっており、途中に挟まってい
 る21世紀に完成した石井ダムと比べると全然違うことがわかります(石井ダム
 も近づいて見学できるいいダムです)。ダムの鑑賞ポイントがよくわからない
 という方は、まずビジュアルでぐっとくるダムへ行ってみるのもいいかもしれ
 ません。
 
  まあ実は鑑賞とか難しいことを言わなくても良かったりもします。神奈川県
 の宮ヶ瀬ダムでは、ケーブルカーに乗ったり観光放流があったりダム湖に遊覧
 船もあります。正直なところダム自体にさほど興味がなくても、一日楽しめる
 ようなスポットになっています。観光できるダムは富山県の黒部ダムだけでは
 ないんです。
 
  見学の申し込みをしなくてもダム内部に入れるダムもあります。監査廊と言
 われるダムの内部の管理用通路やエレベーターが太っ腹にも開放されているダ
 ムがあるんですね。実は普通の人が思ってる以上にダムは開かれているんです。
 資料館が併設されているところも多いですし、ダムの管理所の人もかなりフレ
 ンドリー。ダムカードを配るついでに色々なお話を聞かせてくれたりします。
 第2章の個別のダム紹介にはそういった情報も出ています。
 
  ということで皆さんも本書片手にぷらっとダムに行ってみるところから始め
 てみるのはいかがでしょうか。
 
  え…車に乗らないから行けない?
 
  そう、ひとつだけ(ひとつだけのはず)難があるとすると、紹介されているル
 ートのほとんどが車での移動が前提になっていることです。「ダムへの交通」
 のページでも車移動が薦められていますし。車がないと無理かと思いがちです。
 
  でも神戸の三兄弟は徒歩と電車で巡れるコースになっていますし。バスまで
 含めれば容易にアクセスできるダムも沢山あります。秩父の浦山・合角・滝沢
 ・二瀬の4ダムや、先に挙げた宮ヶ瀬ダムも大丈夫。逆にハイキング気分でダ
 ムまでの道をはるばる歩くのも達成感がありますけどね。
 
  何を隠そう(?)ここまでダムをプッシュしている私自身が車を運転しないで、
 これまで色んなダムを巡ってきたのですから。極度に山奥のダムでなければ
 大丈夫。里山をふらふら歩くのもなかなか良いものです。
 
  それではこの春は皆さんも本書片手に楽しいダム旅を楽しんできてくださ
 い。 
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 川口ブックマーケット                          〜埼玉県川口市
 └───────────────────────────────── 
 事前登録した「店主さん」が決められたスペースでの古本を販売する古本市です。
 誰でも気軽に「店主」になれる古本市です。本を探しながら歴史ある川口の街を
 歩いてみませんか。

 開催日 :2018年5月19日(土)11:00〜17:00
             雨天決行 ※雨天の場合は川口神社向いの金山町会館で開催予定。

 会 場 :川口神社(埼玉県川口市金山町6-15)
 
 アクセス:JR川口駅東口より徒歩約10分
 
 主 催 :川口ブックマーケット実行委員会
  
 協 力 :川口市立映像・情報メディアセンター メディアセブン
 
 問合せ :khitohako@gmail.com 
 URL  :http://khitohako.blogspot.jp/

 ■ 「手紙」 川上未映子×マームとジプシー「みえるわ」ツアーの記録  〜Title
 └─────────────────────────────────

 川上未映子さんの詩を、マームとジプシーを主宰する演劇作家・藤田貴大さんが
 演出し、女優の青柳いづみさんによる一人芝居として上演する。
 「みえるわ」と題したこの作品は、2018年の春に、全国10都市11会場を巡演しま
 した。
 その旅を記録した「手紙」を展示いたします。
 写真と文は橋本倫史さん、デザインは名久井直子さんが手がけた37通の「手紙」
 です。

 ◆会期:2018年6月7日(月) - 25日(金)
           時間12:00 - 21:00 水曜・第三火曜日休み
          *イベント開催日(6月8日、14日、18日)は18:00にて終了

 ◇場所:Title 〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2 
             八丁交差点すぐ セブンイレブン隣 
           JR中央線荻窪駅から青梅街道を西荻窪方面に歩いて
                                     、10分とすこし。
 
 【展示によせて】
 
 演劇というものは、現在という瞬間にだけ存在します。記録映像を残すことは可
 能でも、上演とはやはり別物で、その時間に劇場に足を運んだ俳優と観客のあ
 いだにだけ存在しうるものです。それに対して、ドキュメントとして書き記された
 言葉は常に過去にあります。そこに書き綴られた風景というのは、すでに過ぎ
 去ってしまったものです。その言葉というのもまた、読者の目に触れる瞬間から
 見れば、過去に綴られたものです。
 
 どうすれば現在という瞬間にだけ存在する演劇を記録することができるのか。
 そこで僕は、手紙としてドキュメントを書き記すという方法を選んでみました。
 ツアーに密着して全国を巡りながら、その土地土地で言葉を綴り、旅先から手紙
 として発送する。片面にはテキストが、片面には写真が印刷された手紙は、それ
 ぞれの土地の風景印を押してもらって投函しました。全部で37通をかぞえる、旅
 の記録です。(橋本倫史)
 
 
 
 彼の目に映っていた、みえるわ。言葉の瞬間に、目を凝らし、耳を澄まし、綴り、
 過ごした日々は、どういう風に、どこへ届いて、だれに残るのだろう。
 藤田貴大(マームとジプシー主宰・演劇作家)
 
 
 
 三月が終わり、大好きな四月がやってきて、五月を通り越して、そうしてまた六月
 になる。
 わたし達のみたもの、みなかったもの、かたちのないもの、ほんとうにはないもの、
 それらは言葉となって、ずっとずっと残ってゆく。
 青柳いづみ(女優)
 
 
 
 過去も、未来も思い出も想像も、ぜんぶが「今」に立ちあがる不思議。そしてその
 「今」は、言葉にすることができないということによってのみ存在するという、これ
 また不思議。
 わたしら何をしてるねやろ。何にむかって何のために、一回きりや今を、なんで
 別のものに置き換えていくことをやめられんのやろ。
 藤田くんが青柳さんを、橋本さんがふたりを、青柳さんが藤田くんを、言葉がみん
 なを、みんなが言葉をみている四月、今どこに?
 川上未映子(作家)
 
 
 
 *イベント会期中の6月18日(月)、橋本倫史さんと木村衣有子さんのトークイベント
 「風景を記述する」を開催します。お申し込みは、こちらのページよりお願いします
 : http://www.title-books.com/event/4510
 
 橋本倫史(はしもと・ともふみ) 

 橋本倫史(はしもと・ともふみ)

 1982年生まれ。広島県東広島市出身。2007年よりライターとして活動。また、2007
 年にリトルプレス『HB』を創刊。以降、『hb paper』、『SKETCHBOOK』、『月刊ドライ
 ブイン』などいくつかのリトルプレスを手がける。また、マームとジプシーの活動に密
 着し、『沖縄観劇日記』、『沖縄再訪日記』、『Firenze,2013』、『イタリア再訪日記』、
 『まえのひを再訪する』などを刊行。
 
                       〜Title HPより抜粋させていただきました。 
 


 ■ 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』刊行トークイベント  〜ひるねこBOOK
 └─────────────────────────────────

 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(岩崎書店)刊行を記念してイベントを開催し
 ます。
 
 訳者である枇谷玲子(ひだに・れいこ)さんをお招きして、男女平等の先進国と言
 われるスウェーデンの社会やフェミニズムの動きなどについて、また北欧語翻訳
 者としての普段のお仕事のことも伺いたいと思います。
 
 北欧の社会や子どもの本、フェミニズムなどに関心のある方、ぜひご参加ください。
 
 お待ちしております!
 
 ◆日時:2018年6月8日(金)18:30〜20:00 
           営業時間 11:00〜20:00 5月⇒毎月曜日定休、6月⇒毎火曜日定休

 ◇場所:ひるねこBOOKS 〈台東区谷中2-1-14-101〉
          千代田線根津駅1番出口より徒歩約6分

 ★定員:10名

 ●参加費:1,000円(当日お支払い)

 ◎営業の詳細、MAPはこちら⇒http://hirunekodou.seesaa.net/article/455909 
  
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 ■あとがき GWも終わり、暑かったり寒かったり何だか暮らしにくい毎日ですね。
 湿度が高いと頭に靄がかかったようで、いつも以上に鈍い感じです。ナナロク社から
 『猫はしっぽでしゃべる』という本が出ました。熊本で橙書店という本屋の主人・
 田尻久子さんが書いたエッセイ。まだ初めの方しか読めていませんが、誠実な文章
 に惹かれました。本を売る現場の声を楽しみながら読んでいきたいです。畠中理恵子
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