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[本]のメルマガ vol.710


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■■ [本]のメルマガ                 2019.03.05.発行
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■■  mailmagazine of books      [味わいがたまらなく魅力的 号]
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『世界の核被災地で起きたこと』

フレッド・ピアス著 多賀谷正子・黒河星子・芝瑞紀訳
四六判 368頁 本体2,500円+税 ISBN: 9784562056392

人類は核の被害をいかに被ってきたか。著名環境ジャーナリストが、福島はも
ちろん世界の事故・被ばく現場、放射性廃棄物を抱える地域を取材。原爆以降
の核被災の歴史を一望、いま世界で何が問われているのかを明らかにする。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その33「吸血鬼たち」その1.

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 第118回 「対象化する」言葉の身振り

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その33「吸血鬼たち」その1.

その1.バイロンからポリドリ、そして中井英夫へ

 吸血鬼についてあれこれ考えている。実は吸血鬼の物語には、とてもおいし
そうな食物がたくさん描かれているからだ。
 
「なんだって、おまえも吸血鬼なのか?」
 
なんて、言わないでほしい。
 
 もちろん、吸血鬼は食事をしない。少なくとも普通の人間が食べるように一
日三食食べたりはしない。
 
 獲物を狙いその血を吸うという行為はするのだが、これを食事と言い切って
いいかは疑問でもある。様々な作品の中で作者はその行為を、狩りとか愛とか
エネルギーの交換とか言い換えているからだ。

 だが、まるきり食物を口にしないかと言うと、そうでもない。吸血鬼が獲物
である人間に近づく時、吸血鬼はその正体を隠して普通の人間のふりをしなく
てはならない。獲物である人間の家に同居したりもする。その時、どうやって
食物を食べずに生活するのだろうか? やはり少しは何かを口にするのではな
いだろうか?

 そこで、私のお気に入りの吸血鬼の物語から、吸血鬼の食事場面を見て行こ
うと思う。

 数ある物語の中では、登場人物たちが実においしそうな食事をする場面もあ
るのでお楽しみに。
 
 もちろん見るもおぞましい場面があるかもしれないので、繊細な方は少々ご
注意を。
 
 吸血鬼について語るにあたっては、まず、レマン湖のほとりのディオダティ
荘の怪奇談義から始めざるを得ない。
 
 時は、1816年の夏。レマン湖のほとりの別荘で、長雨に降りこめられて退屈
したバイロンは、ドイツの幽霊物語に倣って、めいめい物語を書こうと言い出
す。メンバーはバイロンの侍医ポリドリ、シェリーとその時はまだメアリー・
ゴドウィンだったメアリー・シェリーとその義妹。シェリーは詩を書き、ポリ
ドリは頭をしゃれこうべにされた女性の物語を書こうとして果たせなかったと、
メアリー・シェリーは『フランケンシュタイン』の第三版の序文に書いている。
そう、ここで生み出されたのがメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』
の物語なのだ。そして、バイロンは『断章』を書き、詩『マゼッパ』に添えて
出版した。

 バイロンが生み出したこの『断章』は文字通り最後まで書かれてはいないの
だが、大変魅力に満ちた物語だ。主人公は若い青年。謎に満ちた年上の男性に
惹かれ、欧州旅行に同行してくれるよう頼む。トルコでこの男性は体調が悪く
なり死の間際に青年にあることを頼む。それは、どの月でもいいから九日の日
に指輪をある塩泉に投げ入れて欲しい、そして、次の日またそこに来てくれと
いうもの。今際の際なのに、男性は他にも実に謎めいたことを語りながら死ん
でいく……。
 
 この物語の唐突な終わり方は逆にここから広がる物語の可能性を示し、読者
の想像力をかきたてる。

 ポリドリもそれを感じたのだろう。物語の発端はほとんどこの枠組みのまま
『吸血鬼』を書くのだ。イギリスに初めて現れた小説としての『吸血鬼』。け
れども、雑誌社がこの物語の作者をバイロンとしたため、バイロンとポリドリ
の抗議にもかかわらずこの作品はバイロン作としてヨーロッパ中に広まり、人
々を魅了し、何十年にもわたる吸血鬼ブームを呼び起こした。だが、ポリドリ
は失意のまま早逝する。

 そんな不運な運命をまとった物語ながら、この小説は見事にバイロンの系譜
を継いでいると言える。そしてその系譜とは例えばオスカー・ワイルドの作品
などにもみられるようなホモセクシュアルな愛を描いたもので、現代ではBL
などともよばれているゲイ文学の系譜なのだ。

 それでは、まずこの小説の中をさぐって行こう。

 物語は奇妙な年上の男性ルスヴン卿に魅了されたオーブレーという裕福な青
年が、欧州旅行に出かける計画をルスヴン卿に打ち明け、ルスヴン卿から同行
の意を受け、大喜びで出かけていくところから始まる。けれども、ルスヴン卿
の行いには邪悪なものがあり、ためらいを感じ始めた頃、オーブレーは後見人
たちから、ルスヴン卿が極悪漢であるから直ちに手を切るようにという内容の
手紙を受け取る。彼は、ルスヴン卿が若い伯爵令嬢を毒牙にかけるのを阻止し、
一人でギリシャに旅立つ。ここで、間借りをした家の純朴な娘から、土地に伝
わる不死の吸血鬼の奇譚を聞く。ある嵐の一夜、彼女が森の小屋の中で吸血鬼
に襲われるのをみたオーブレーは、助けようとして果たせず、病に陥る。やが
て追いついてきたルスヴン卿が、手厚い介抱をしてくれ、二人はまた仲直りし
て旅に出る。だが、その道中で山賊に襲われ、ルスヴン卿は亡くなってしまう。
彼は今際の際に、一年間は自分の死を口にしないようにとオーブレーに誓わせ
る。ロンドンに戻ってしばらくたった時、ルスヴン卿がいつのまにか生き返っ
て社交界に出没しているのを知る。だが沈黙の誓いはオーブレーを脅えさせ狂
気に追い込み、ルスヴン卿が狙いをつけた自分の妹を守ることもできない。ル
スヴン卿と結婚した妹は吸血鬼に貪りつくされた姿で発見され、卿は姿をくら
ますのだった。

 これを読んでまず驚いたのは、吸血鬼の吸血場面がないことだった。
 ルスヴン卿は誰にも咬みつかない。牙も出さない。蝙蝠にもならない。ただ
その餌食たる若い女性が犠牲になったとあるので、血を吸われたのだろうと分
るだけだ。
 さらに、ルスヴン卿は魅力ある男として社交界の宴席に必ず招かれるとある
ので、飲食を人間のようにしているはずなのだが、残念ながらそういう場面も
ない。残念だ。

 この小説は見事にバイロンを踏襲し、青年の年上の男性への憧れと、無力感
と破滅が描かれていて、ある意味その実人生においてポリドリがバイロンに感
じたものを想像させずにはおかない。

 だからといって、本の中の食物を描かずに終わるわけにもいかないので、こ
の系譜に連なる小説をもう一つご紹介しようと思う。

 ある青年が近所の行きつけのスナック”彼”でに出会う。

……カウンターに並んだ客としきりに悪魔の話に興じているのが関心を唆った。
……

 興味ある奇妙な話題を盛んに話す”彼”に惹かれ、スナックに行くたびにぼ
んやりとグラスを片手にその話を聞きいていた青年は、ある日その隣の席に座
ることができ、言葉を交わすようになる。そして、親しくなり、水曜と土曜の
宵にはカウンターで話をする約束をする。
 
 不思議な符号に満ちた話は幾晩も続く。

……悪魔、変光星、馬の首星雲、洞窟の壁画、フランス革命暦……

 やがて、青年は期待に満ちた思いで待ち受けるようになる。

 そう、”彼”が首筋に触れる夜を。

 さてこの物語にも残念ながらいわゆる吸血場面はない。”彼”には牙もなく
喉元に咬みついたりもしないのだ。

 ただ、この物語で不思議に思うのは、毎週水曜と土曜、二人は延々とスナッ
クのカウンターで話を続け「ふたりは遅くまで飲んだ」とまで書かれているの
に、”彼”が何を飲んだかは一度も描かれていないのだ。夜のスナックなら、
おつまみくらい食べただろうに。

…青年はいつもより長く、余分にウィスキーグラスを手にしていた…

 と、あるので、”彼”も同じ酒を飲んでいたに違いないと思っている。

 たぶん”彼”は、その長い指でナッツの入ったガラス皿をもてあそびながら
も、決して口にしなかっただろうとも想像するのだ。

 読者の方は是非、バーのカウンターに座る時、あるいはウィスキーグラスを
手にする時、”彼”の姿を捜してみて欲しい。吸血鬼がいかなる味わいをこの
琥珀色の液体に見出したのかを思うこと、それが今宵の絶好のおつまみになる
だろう。

と、いうわけで、今回はここまで。

 次回は、美しく謎に満ちた少女の吸血鬼の食物を見て行きたい。

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「血と薔薇のエクスタシー 吸血鬼小説傑作集」 幻想文学出版局
『影の狩人』中井英夫著「書物の王国12吸血鬼」図書刊行会
『解題 浪漫派の交流の中から』須永朝彦著
『断章』  ジョージ・ゴードン・バイロン著
『吸血鬼』       ジョン・ポリドリ著
『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー著 光文社古典新訳文庫

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第118回 「対象化する」言葉の身振り
    ―シャルル・ボードレール(山田兼士訳)『パリの憂愁』(思潮社)

 ぼくは翻訳詩を余り読まない。外国語ができないぼくは、原詩の言葉の音楽
性はどうなっているんだろうかということが気にかかり、悔しい想いが先に立
ち、読むのを躊躇してしまうのだ。その中で、シャルル・ボードレール(1821
-1867)の詩は別格で、若い頃から愛読してきた。反道徳的なもの、不愉快な
もの、醜いもの、それまで詩のテーマにされなかったものをクローズアップし、
更にそれを意表を突く視点から表現する。思考の稼働領域を広げようとする強
い意志に魅されてしまうのである。

 ボードレールの2冊の詩集『悪の華』と『パリの憂愁』のうち、一般的に知
名度が高いのは圧倒的に前者だろう。大胆に価値の転倒を歌い上げるこの詩集
は、発表当時スキャンダラスな話題を呼び、風俗壊乱の罪で罰金刑に問われた
という。『悪の華』はすごい詩集だと思うが、ぼくが何度も読み返したのは
『パリの憂愁』の方だった。『パリの憂愁』は散文詩集で明確なプロットがあ
り、読みやすかったこともあるが、それ以上に内容面で共感するところが多か
った。『悪の華』は負の道徳的価値観を、ある意味、元気よく肯定的に描いて
いると言える。そのやや抽象的でペダンティックな表現は、負の価値観に則っ
たヒロイズムを感じさせる。ひねりにひねった表現ではあるが『悪の華』は青
春の文学なのだろう。しかし『パリの憂愁』にはヒロイズムやダンディズムは
ない。裏切られた期待、冴えない生活、浮かない気分、中年期(ボードレール
の人生では晩年にあたるが)にさしかかった人間の真情が伝わってくる。と同
時に、そうした「冴えないもの」を高次から見つめる詩人としての確かな目が
感じられる。その両義的で複雑な味わいがたまらなく魅力的なのだ。

 昨年秋に思潮社から刊行された山田兼士訳・解説の『パリの憂愁』は、この
不思議な風韻の詩集について改めて考える機会を与えてくれた一冊だ。訳者の
山田兼士は、各編ごと懇切丁寧な解説を書いている。きびきびとした訳文も良
いが、この解説は研究者らしく言葉の裏の裏まで考え尽くしていてすばらしい。
本稿では素で読んだ印象を大切にしたいため、山田の解釈に触れるのは控える
ことにするが、各詩への解説は単なる解題を超えた、踏み込んだ内容の批評先
品であり、是非実際にお手に取って確かめていただきたいと思う。

 本書には不条理な出来事を描いた詩が多数収められている。超自然的な、い
わゆる怪談ではないのだが、怪談以上に既存の日常的な意識を食い破るスリリ
ングさがある。「不都合なガラス売り」はその代表格。冒頭で普段行動的でな
いくせに衝動にかられて突発的な行動を取る人がいる、と一般論的に述べた後、
自身のとんでもない体験を語る。ガラスを売り歩く商人を呼び止め、アパート
の7階まで昇らせた挙句、商品にケチをつけて帰らせ、そればかりか路上を歩
く商人の荷物めがけて鉢植を落として商品のガラスをメチャメチャにしてしま
うという内容だ。話者は「ほんの一瞬にせよ悦楽の無限を見出した者のことだ、
地獄落ちの永遠などかまうものか?」とウソぶく。この作品が掌編小説でなく
詩であるのは、自らの奇異さに驚きつつ奇異を成し遂げてしまう意識のありよ
うをイメージの層で捉えているからではないかと思う。冒頭で一般論として述
べた「そういう性質の人々」に、いつのまにか自身が当事者として加わり積極
的に行為してしまう。透徹した意識が撓み、暴発する様を、更に高次の意識が
歪なグラフのように描き出していく。お話としての面白さを超えた、メタ認知
の様態の面白さが特徴的な詩だ。

 貧困に目を向けた作品も複数ある。ボードレールは父の遺産を散財したこと
で禁治産者の扱いを受け、しばしば母親に金の無心をしている。これらの作品
には、贅沢と困窮の両方を経験した彼の社会に対する意識が明瞭に伺える。
「菓子」は旅をしている時の体験を描いた作品。休憩時にパンを取り出すと、
汚い恰好の少年がパンを凝視しながら「菓子」と囁く。哀れに思ってパンをひ
と切れ彼に手渡すが、そこへもう一人浮浪児が現れ、パンを争って先の少年と
喧嘩を始める。精根尽き果てて二人が喧嘩を止めた時、パンは最早食べ物とは
呼べない屑になり果てていた。それを見た話者は「実に見事な国があるものだ、
そこではパンが菓子と呼ばれ、完全な兄弟殺しの闘いを引き起こすのに十分な
美味とされるのだ!」と呟く。ここで描かれるのは、一般の貧困を超えた貧困、
最下層の人間の貧困である。金に困った経験のあるボードレールは、貧困の極
限というものについて考えてみようと思い立ったのだろう。その結果生まれた
のが、「パン」と「菓子」の言葉の対比関係である。小麦で作られた食べ物が
「パン」と呼ばれているうちは、世界はまだ既存の日常の枠の中にある。だが、
「菓子」と呼ばれるようになると世界は全く違った様相を纏うようになる。
「菓子」という単語一つで、日常が異世界に変わってしまったのだ。

 ボードレールは多くの女性と交際し、彼女たちは彼にとってインスピレーシ
ョンの源となった。「情婦たちの肖像」は、賭博場に集った4人の男たちが、
つきあってきた女性について語りあうという詩。この詩には前作と考えられる
別の詩「天職」がある。それは4人の少年が気にかかったことをそれぞれ語る
というものである。少年たちがどんな大人になったかということを女性とのつ
きあいを通じて描くというわけだ。芝居に関心を持った少年は男勝りな性格の
美女とつきあって疲れ果て、神の実在を信じていた少年は従順だが不感症の女
とつきあって嫌気が差し、家のメードに性的関心を抱いていた早熟な少年は多
情な女性とつきあって裏切られた。作者自身を投影したと思しき、世界を流れ
歩く楽師たちへの憧れを語った少年は、自分を完全にコントロールしようとす
る女性とつきあって束縛の苦しみを味わった。希望は気楽に語れるものだが、
生身の女性は他者であり、思い通りにできるものではない。しかし、実は思い
通りにできないところに他者としての女性の魅力があるわけだ。お気楽だった
彼らは女性の姿を纏った「現実」と出会って挫折し、冴えない姿を曝け出すが、
それでも人生は続いていく。その「〈生〉を加速するために」彼らは「新しい
酒壜を注文するのだ」。

 これまで物語としての骨格がはっきりした叙事的な詩を紹介してきたが、孤
独な胸のうちを吐露した叙情的な詩も少なくない。その場合でも、ボードレー
ルは決して一本調子に歌を奏でることはない。「二重の部屋」は自室で一人静
かに過ごすひとときを描いている。誰も邪魔する者のない部屋で自由気儘に夢
想に耽るひとときは、孤独を愛する話者にとって「至高の生」を生きる時間で
あり、「歓喜にあふれた永遠」にも思えるものだった。が、そこへ「妖怪」が
入ってくる。その「乱暴な一撃」によってそれまでの陶酔は吹き飛んでしまう。
「妖怪」とは何か? それはどうやら「現実」のことである。話者の外部にあ
って、話者の意志に従わず、話者の行動に制約を設ける。その力が端的に示さ
れるのは老いと死と衰退を運ぶ「時間」においてである。さっきまで楽園のよ
うだった部屋は、「狭苦しく不快感に充ちた」ものに変わり果ててしまった。
話者は時間が「その二本の針で、まるで私を牛か何かのように追い立てる」よ
うに感じる。詩の前半では話者は自分の人生を主体的に楽しんでいるが、後半
では擬人化された「時間」によって、奴隷のように「生きさせられ」ている。
情景としては、男が一人、部屋に佇んでいるだけなのに、詩の言葉は地獄落ち
を語るようにドラマティックである。

 『パリの憂愁』は、それまで詩が扱ってこなかったような散文的な事象、い
や、どんな散文も扱わなかった微細な事柄を大胆に主題に据えている。しかし
この詩集の真価はその独創的な題材の選び方にあるのではない。対象を描くに
あたって、対象を殊更に「対象化する」身振りをもって語る、その語り口にあ
る。それは、絶えず物事の自明性を疑い、見慣れた現実から日常性を剥ぎ取っ
ていく。話者は、あたかも自身の主体性を切り崩すかのように、絶えず逡巡し
ながら語るのだ。自分自身をも対象に加えながら語る、つまり自己言及を底に
秘めた語りなのである。

 ボードレールは序文で「律動も脚韻もなく音楽的で、魂の抒情的運動にも夢
想の波動にも意識の突発的振動にも適応するほど、十分に柔軟で十分に対照の
激しさをもった、詩的散文の奇跡」を夢みた、と書いている。外形からはっき
りわかる韻律を持たないこれらの詩からは、一定の方向に進まない、寄せては
返すような意識の律動が生々しく感じられる。この律動のことをボードレール
は言葉の「音楽」と呼ぼうとしたのではないだろうか。『パリの憂愁』には作
曲家・ピアニストのフランツ・リストに捧げた詩がある。リストは晩年、無調
の音楽を夢想し、調性感の曖昧な曲を書いた。リストが現代音楽への扉を開い
たように、ボードレールは現代文学への扉を開いたのかもしれない。

*シャルル・ボードレール(山田兼士訳・解説)『パリの憂愁』
(思潮社 本体2200円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れました。すみません。(aguni原口)

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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第57回「平成30年著作権法改正について」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 
 第116回 町に愛される書店

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → AIって何?
  
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 ■トピックス
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 1つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第57回「平成30年著作権法改正について」
 
 こんにちは。大変ご無沙汰をしておりました。昨年の12月初旬に,その半年ほ
 ど前から入退院を繰り返していた父親が亡くなりまして,常日頃より定命は逃
 れがたしと考えているので,特に残念とかそのようなことはなかったのですが,
 それにしてもひとひとり亡くなると諸手続きが面倒な上に財布がどんどん軽く
 なり,その上幾分離れたところに住んでいたものですから手続きに関わるため
 の移動がまた大変ということで,結局3回も連載をお休みすることになりました。
 今回より復帰いたしますが,休んだ分を取り戻せるような記事を書けるかどう
 か,寝かせておいたネタが寝かされすぎて時期を失してしまったりしているの
 でかなり不安です(苦笑)。
 
 さて今回は著作権のお話でみなさまのご機嫌を伺います。実のところ著作権を
 巡る喫緊のトピックは海賊版対策において,違法ダウンロードの対象を静止画
 も含めた著作物すべてに広げる著作権法改正を安倍晋三政権が検討している
 ことですが,これはもう少し追いかけてから取り上げることにします。
 
 ご存知のとおり,2018年5月に公布され2019年1月より施行されている「著作
 権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)」により,次の4点につい
 て法改正がなされました(1)。
 
 1) デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
    (第30条の4,第47条の,第47条の5等関係)
 2) 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
 3) 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
    (第37条関係)
 4) アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等
    (第31条,第47条,第67条等関係)
 
 改正に関する解説(2)でも1)の「柔軟な権利制限規定の整備」についてはかな
 りのページを割いて説明がなされており,Web上においてもこの改正をビジネ
 スチャンスだと捉えているページが散見される一方,図書館業界では3)の「盲
 人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物
 を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(3)締結に伴う対応が重要
 視されているようで,日本図書館協会や国立国会図書館から様々な形でアナ
 ウンスがなされています(4)。マラケシュ条約への対応は,特に公共図書館が
 担うべき「ユニバーサルサービス」や「社会的公正」の保障という点からも重
 要であり,図書館業界が今次著作権改正の中で最重要視するのは当然のこと
 です。
 
 ところで,わたしは大学図書館に勤務していることもあって,今次著作権改正
 では2)の「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」が気になってい
 ます。2018年5月,まさに今次著作権法改正が成立したその日に開催されて
 いた大学図書館シンポジウム(5)のテーマになってはいましたが,改正が成立
 したのちも,管見の限りではさほどひとの口の端に上ることがないように見え
 ます。しかし,大学を含む教育機関(営利を目的とするものを除く)にとって
 この改正は,JASRACが楽器教室から著作権使用料の徴収を開始する決定を出し
 たこと(6)にも匹敵する,あるいはそれ以上の社会的影響を及ぼす改正なので
 はないかと,わたしは考えています。
 
 この改正は,これまで営利を目的としない学校その他の教育機関においては,
 授業内での使用に限って他者の著作物の無断使用および複製を認めていた
 (教室の外に持ち出すことはできない)ものを,今後は授業で利用していた他
 者の著作物の無断使用・複製を含めた教材を教室の外での公開・利用も可能
 にしますよ(元著作者の権利制限の拡大),そのかわり補償金の支払い義務
 を営利を目的としない教育機関にも課しますよ,というものです。言葉だけで
 説明しようとするとなかなかややこしい話です。
 
 ここで問題になるのは,営利を目的としない教育機関であってもこの改正の補
 償金の支払い義務を負わされることです。権利者側からすると,これまでが間
 違っている,という主張のようです(7)し,文部科学省も「本条における著作物
 の利用の主体は非営利教育機関であり,その教育活動には高い公益性が認めら
 れることから,当該教育機関が支払うべき補償金の額は,同条の趣旨も踏まえ
 たふさわしい額とすることが適当」(7)とは言うものの,これまで一銭も払う必
 要のなかったものを新たに予算措置して支払うことには抵抗がありそうです。
 
 漏れ伝わるところでは,補償金が支払われる先となる「指定管理団体」,また
 教育機関の側で補償金の支払いを取りまとめる「教育機関の設置者の代表団
 体」および補償金の算定方式は未定とのことですが,遅くとも「公布の日から
 起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」の期限である2021年
 5月25日までには上記団体が決定し補償金を各教育機関が支払う義務が生じ
 ると考えられます。そのときになって悶着の種にならないような対応が,教育
 機関の側にいまから求められることになるのではないでしょうか。
 
 では,また次回。
 
 
 注記
 (1) 著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について 
      | 文化庁
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                                      /h30_hokaisei/
 
 (2) 著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                  /h30_hokaisei/pdf/r1406693_11.pdf
 
 (3) 盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された
     著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約 | 外務省 
      https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page25_001279.html
 
 (4) E2041 - マラケシュ条約の締結・著作権法の改正と障害者サービス
      | カレントアウェアネス・ポータル
      http://current.ndl.go.jp/e2041
      著作権法の改正とマラケシュ条約の締結(日本図書館協会)
      http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai
           /%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1
                 %E4%BC%9A/Marrakesh%20Treaty_Flyer_20181106.pdf
 
 (5) 大学図書館著作権検討委員会主催「大学教育のICT化と著作権法改正
      : 学習資源のデジタル化と図書館資料の活用」の開催について
      (お知らせ) | 国公私立大学図書館協力委員会(JULIB) 
      https://julib.jp/blog/archives/1977
 
 (6) 楽器教室における演奏等の管理開始について(Q&A) JASRAC 
      https://www.jasrac.or.jp/info/gakki/faq.html
 
 (7) 著作権法の一部を改正する法律?概要説明資料 p.13
      http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei
                                  /h30_hokaisei/pdf/r1406693_02.pdf
 
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  

 
 第116回 町に愛される書店

 
  千駄木にある古書ほうろう(https://horo.bz/)が3月に移転することにな
 った。移転先が池の端なので、それほど遠くはないことを知ってホッとしてい
 る。それでも、いつも、そして、いつまでも「そこにある」と思っていた古書
 ほうろうが、千駄木の町からなくなってしまうのだ。やはりさびしいなあ。つ
 い先日、日暮里にある古書信天翁が閉店したばかりだ。古書信天翁は、古書ほ
 うろうにいた山崎さんと神原さんのおふたりが2010年に開店した古書店だった。
 町から、ふたつも古書店がなくなってしまう。誰に文句を言えばいいのか、わ
 からないけれど、町は大きな財産を失ったのだと思う。

 
  古書ほうろうのホームページに掲載された移転の挨拶をなんども読んだのだ
 けれど、道灌山下の交差点に、古書ほうろうのウィンドウがなくなることはど
 うしても想像しにくい。クリーニング店のとなりに「BOOKS HORO」の看板がな
 くなった風景を思うと、ちょっとおおげさだけれど、大きな喪失感を覚える。
 千駄木がもう知っている町ではなくなってしまうような気がするのだ。それほ
 どこの町の風景に溶け込んでいたし、その存在は大きかった。それは古書店と
 して、本を売ったり、買ったりする店としてだけでなく、町と人を結びつける、
 人と人が出会う「場」であったからだ。古書ほうろうを知っている人なら、き
 っと、だれでもが感じることだろう。
 
 
 古書ほうろうでは、本について、映画について、音楽、落語、町のこと、
 ジャンルを超えたバラエティに富んだトークショーや展示も行われてきた。い
 わゆる流行を追ったものではなく、地味だけど知っておきたいことがテーマに
 なっていた。そして、なによりも不忍ブックストリートの一箱古本市の本部と
 しての役割も大きい。そういえば、一箱古本市のときに古書ほうろうの宮地
 健太郎さんが「恭太さんにぜひ会ってほしい人が箱を出しているから、行って
 ください」と声をかけてくれた。それが音楽やサブカルに詳しい「たけうま書
 房」さんだった。おたがいに人見知りをするタイプだったから、そのときは、
 それほど話は弾まなかったけれど、いまでも大切な友人のひとりになっている。
 そうやって、人と人を結びつけてくれる場所でもあった。

 
  ぼくが古書ほうろうを訪ねるようになったのは、一箱古本市がきっかけだっ
 たから、もう14年になるのか。本好きの友人たちがいっしょだったかもしれな
 い。初めて訪れた印象は、以前のホームページの口上にあるように「ほこりっ
 ぽくない、薄暗くない、敷居が高くない」だった。町の古本屋にしては広い店
 内の棚には日本文学、外国文学、詩集、美術書、そして音楽関係の本がずらり
 と並んでいた。通路に余裕があるせいか、たいていの古本屋に入ると感じる息
 苦しさがまったくなかった。それでいて新刊書店にあるよそよそしさがなくて、
 古い本の匂いが心地よかったくらいだ。

 
  店は、若い(当時は…です)二組のカップルが運営していた。ぼくの持って
 いた古本屋のイメージとまったく違っていて新鮮だった。


  古書ほうろうの「ほうろう」は、音楽好きなら「ああ、そうか」と思うだろ
 う。小坂忠の名盤「ほうろう」が由来となっている。2010年暮れには、本当に
 小坂忠さんがやってきて歌ってくれた。古書ほうろうで名曲「ほうろう」を聴
 くことができるなんて夢のようだったな。そう、古書ほうろうは、夢を叶えて
 くれる場所だった。

 
  2010年の7月から「サウダージな夜」というライブをやらせてもらうように
 なった。ぼくはギターを弾くことが好きで子どものころから、とくにプロを目
 指すでもなく、ずっと弾き続けてきた。縁があり、50歳近くになって、ライブ
 でギターを弾いたり歌ったりするようになったのだが、もちろん大きなコンサ
 ートなど夢見たこともなかった。ただ友人たちにギターを聴いてもらえる、ち
 いさな集まりが出来たらいいな、とはずっと考えていた。
 そんな夢が実現したのも古書ほうろうだった。

  
  きっかけは不忍ブックストリートの茶話会で、ぼくがギターの師匠である
 伊勢昌之というジャズギタリストの話をしたことだった。筒井康隆のエッセイ
 集「狂気の沙汰も金次第」(新潮文庫)にも登場する伊勢昌之は、どうしても
 その奇行ばかりが話題になってしまうが、だれよりも早くブラジル音楽を研究
 し、独自の音楽に昇華した音楽家だった。正当な評価を得ることなく1995年に
 53歳で亡くなった。その話のあとで数曲、ギターを弾いたのだが、それを聴い
 た古書ほうろうの宮地さんが声をかけてくれた。

 
  古書ほうろうでの「サウダージな夜」は、古本屋の営業中に店の奥でする入
 場無料のライブ。午後8時から1時間くらい、椅子に腰掛けて聴いてもよし、
 本棚を眺めながらもよし、飲み物の持ち込みもかまわないという、ゆるいイベ
 ント。スケジュールのお知らせに、「三軒隣に酒屋あり」と書かれているのが
 好評だ。2010年7月に始まったイベントも、もう9年目、61回を数える。よく続
 いた、というか、続けさせてもらったと思う。

 
  そして、2011年3月には東日本大震災があった。そのときのブログにこんな
 ことを書いていた。

 「地震の後に、すぐに思い浮かべたのは不忍ブックストリートの友人たち。
 そして元気をくれたのも、ツイッターのタイムラインに流れる彼らの言葉でし
 た。ふだんどおりの言葉、会話にどんなに力づけられたか!
  ぼくも、いつもどおりの力の抜けたサウダージをやろうと思います」

 
  2011年3月29日の「サウダージな夜」から、震災をきっかけに歌詞を書くよ
 うになった鶯じろ吉さんといっしょに作ったオリジナル曲を演奏するようにな
 ったんだっけ。震災がなければ、こんなに続かなかったかもしれない。


  友人、仲間たち、そして古書ほうろうという場に支えられて続けてきた「サ
 ウダージな夜」は、千駄木では最後の夜を迎える。そこでいままで出演してく
 れたミュージシャンに声をかけたら、なんと10人以上の人からオーケーの返事
 が!
 

  みんな、古書ほうろうで演奏することを楽しんでくれていた!
  いったいどんなライブになるかわかりませんが、よかったら遊びに来てくだ
 さい。


 「サウダージな夜」

  2月28日(木)午後7時から2時間ほど。
  無料(投げ銭歓迎)飲み物持ち込み自由。三軒隣に酒屋あり。
 
  古書ほうろう(https://horo.bz/)


  上野池の端の新しい古書ほうろうは、3月30日に開店予定。カフェスペース
 があって美華子さんが焙煎した萬福亭のコーヒーも飲めるらしい。
 「サウダージな夜」も続けさせてもらえる。ぼくの母が使っていたアップライ
 トピアノも持っていってくれるそうです。よかった!

  そうだ、新しい古書ほうろうで、いつか宮地健太郎さんと美華子さんに「古
 書ほうろう」について語るトークをしてほしい! そして新しい古書ほうろうは、
 池の端で、どんな風景を見せてもらえるのだろう? とても楽しみだ。

 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
 

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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  最近AIの話が巷を騒がせていますね。なんでも人間の仕事をAIはどんどん
 奪っていくだの、その分ベーシックインカムを導入すべきだなど、薔薇色なん
 だか真っ暗なんだかわからない未来が待っているようです。
 
  しかしAIはそんなに万能なのだろうか、と思うこともしばしばです。もう少
 し奴らのことを知っておかなければならないような気もします。と言うわけで
 今月はこちら。
 
 『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』、松田雄馬、新潮選書、2018
 
  チェスや将棋の世界では人工知能が人間よりも強くなってきています。もは
 や人間の行う様々な仕事も人工知能に置き換わってしまうという話も昨今色々
 と言われています。それでも人工知能はそんなにすごいのだろうかと、ぼんや
 りした疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。本書では現在の人工
 知能がどういったことができて、どういったことができないかを、人間の知能
 と比較しながらわかりやすく教えてくれます。
 
  人工知能が得意とするのは「最適解を発見すること」。その点で言えばチェ
 スや将棋などは、人間では学習しえないくらいの膨大な棋譜を読み込んで、実
 際の局面でどう指せば勝利をより得やすくなるのかを学習すればよいので、人
 工知能の得意とするところです。

 色々なデータをもとにして、どうすればいいのかを導き出すことは人工知能
 の得意な点です。しかしここで注意しなければいけないのは、何について最適
 解を見つけないといけないかは、人工知能自身が判断するわけではないことで
 す。その問題設定は人間がしてあげないといけません。チェスや将棋に強い人
 工知能は、(当然ですが)予めゲームに勝つという目的ために作られているか
 らこそ力を発揮できるわけです。
 
  逆に人工知能は現実の世界を認識することが不得手です。本書にもグラスに
 ワインが注がれている写真があるのですが、それを見せても人工知能はグラス
 にワインが注がれている写真であることが理解できません。ただの色の付いた
 画像としか認識できず、意味を見出すことができないのです。p,164にロボッ
 トに見えている世界の図があるのですが、そもそも世界の中から物体を抽出す
 ることが難しいようです。
 
  では人間はなぜ軽々とそのハードルをクリアできるのかと言うと、身体を持
 っていることが大きく関わっています。ゴンドラ猫という(ちょっとかわいそ
 うな)実験が紹介されていますが、幼少時に身体の動きを拘束されていた猫と
 能動的に体を動かした猫とでは、拘束されていた猫は拘束が解かれた後も、視
 覚での感覚認識に不十分な点が出てきてしまうのだそうです。ここからも人間
 が世界を認識するためには身体が重要なことがわかってきます。
 
  当然ながら世界では様々な出来事が発生しますが、人間(や他の生物)はそれ
 に対処しながら生きていかなければなりません。それに対応するために人間は
 身体と精神をフル活用して世界を認識し、それに立ち向かっていきます。コン
 ピュータはそれができません。
 
  じゃあ全部言葉で教え込めばいいかというと、それはおそらく無理でしょう。
 「フレーム問題」として本書に紹介されているように、定義したものと現実と
 の照合に無限の時間をとられてしまうのではないでしょうか。
 
  コンピュータは条件が限定された空間では力を発揮しやすいのですが、変化
 の激しいこの世界の中に投げ込んでしまうと、なかなか力を発揮できません。
 翻って人間や他の生き物が日常に行っている些細なことのひとつひとつが、細
 かな判断と動作の巧みな積み重ねであることが実感されます。
 
  人間のような知能を持つ人工知能は未だ開発されていません。そもそも人間
 の知能自体がまだまだ未解明なところも多い中で、どの程度の達成がなされれ
 ばそれは開発されたと言えるのでしょうか?
 
  人工知能に過度な期待や落胆をしたりせず、冷静に考えるために本書はよい
 案内役になります。そして人工知能に世界を認識させることの厄介さから、人
 間の持っている能力のすごさも改めて認識させられます。
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
 -------------------------------------------------------------------

 ■ 坂本千明 『退屈をあげる』原画展
 └─────────────────────────────────
 ◆日時:2019年2月22日(金)ー3月24日(日) 11時〜18時 火・水休
 
 ◇場所:ギャラリー 日色 
     〒921-8031 石川県金沢市野町3-16-2
     TEL 076-205-6119
         https://hiro-g.com
 
 イラストレーター/紙版画作家・坂本千明さんの詩画集『退屈をあげる』
 私家版でも話題を呼び、2017年秋、青土社から新装版として出版されました。
 猫好きに限らず、多くの人が手にしている本作の原画展を開催いたします。
 特別出演として、陶芸作家・駒ケ瀬三彩さんのブローチとオブジェ、
 寅印菓子屋さんのお菓子の販売もあります。
                         (案内状より抜粋)
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき
 毎度遅れてすみません。
 福岡県の出版社、書肆侃侃房さんが本年度の福岡市民文化活動功労賞を受賞さ
 れました。「芸術を中心とした地元文化の向上、発展に顕著な功績を残した人
 や団体に贈る文化賞」。書肆侃侃房さんは「主に小説や短歌、気候ガイドなど
 を刊行している。同社発行の文芸誌『たべるのがおそい』に掲載された今村夏
 子さんの小説「あひる」は、16年の芥川賞候補作とな」りました。(「あひる」
 は同社で単行本『あひる』としてかんこうされています)
 おめでとうございます!                                畠中理恵子
 ----------------------------------------------------------------------
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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[本]のメルマガ vol.707

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■■ [本]のメルマガ                 2019.02.05.発行
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読んで見て食べるファンタジー! 『ナルニア国物語』『アラジン』『アーサ
ー王物語』から『メアリー・ポピンズ』『オズの魔法使い』『ハリー・ポッタ
ー』まで、写真と共に名作ファンタジーの世界を作って味わう100のレシピ!

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その32「イラクサ」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ スリップの話

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

----------------------------------------------------------------------
■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その32「イラクサ」

 イラクサときいて、あなたはどんな物語を思い浮かべるだろうか?

 アンデルセン童話集の中の『野の白鳥』が物語の中では一番有名かもしれな
い。

 物語はこうだ。ある国の王さまは十一人の王子と一人の姫に恵まれていたの
だが、ある日再婚をする。新しい后様は、魔法を使って王子たちを白鳥に変え
て城から追い払ってしまう。同じようにエリサ姫も胡桃の汁などを擦り付けら
れて醜い姿に変えられて、城から追われてしまう。森をさまよい、湖で身を清
めて元の姿に戻ったエリサは、白鳥の姿の兄たちに巡り合う。彼らに連れられ
て海の向こうの国へ渡り、その国の王様に見初められて城へ連れていかれる。
けれども、エリサは、夢の中の仙女から、沈黙を守るように言われていて、一
言も口をきくことができない。そして、ひたすら編み物をしている。仙女が言
うには、兄たちの魔法をとくためには、洞穴と墓場にあるイラクサを摘んでア
マ糸にしたもので鎖帷子を作り、それを兄たちに着せなくてはいけないという
のだ。

 この物語の中に出てくるイラクサの痛そうな事、仙女が手にしたイラクサを
見せてこう言うのだ、

「私の手に持っている、このトゲトゲのイラクサをごらん!…中略…それをお
まえはつみ取るのです。たとえ、そのために、ひふがヒリヒリして火ぶくれが
できても、がまんおし!それから、足でイラクサをふみしだくのですよ。そう
するとアマ糸がとれるから、それをより合わせて、長い袖のついた、くさりか
たびらを十一枚おあみなさい」

 エリサの手や腕は火ぶくれだらけになるけれど、一番下のお兄さん白鳥の涙
が触れた時だけ、治るらしい。

 そんな試練に耐えてイラクサを編み続けたエリサが魔女と間違えられて絞首
刑台に連れられて行った時、やっと、十一枚のイラクサの鎖帷子が片袖を残し
てできあがり、白鳥の王子たちは人間に戻ることができる。

 この物語で描かれるイラクサの痛さ(「がまんおし!」と、いわれてもねえ
……)と、この草が生える墓地の情景の気味悪さに、この草ばかりは触れては
いけない禁断の草なのだと知ったのだ。


 ところがある日、このイラクサが、実は食べられるという話を聞いたのだっ
た。

 それは現代のセルビアでの物語だった。

 <それがすべて、底をつくと祖母は「建物の周りに萌えているイラクサの若
葉を見つけて摘んでおいで」と言った。イラクサで、本物のホウレンソウみた
いなスープを作ってくれた。ピッタの生地を作って、そこに湯がいたイラクサ
を巻き込んで、ゼーリェ(菜っ葉の一種)のピッタみたいなものを焼いてくれ
た。>

 へええ、イラクサって食べられるんだ。と、私は驚いたのだが、その続きに
はこうある。

<じきにイラクサの若葉もなくなった。後には動物たちが小便をかけ、人間が
唾を吐いたイラクサの茎だけが残った。やがて茎さえもなくなった。ぼくたち
がすべて食べ尽したのだ。>

イラクサを?
すべて?

 そう、この食べ物が出てくるのは、1991年からの十年間、バルカン半島の多
民族国家ユーゴスラビアを解体させた内戦時下の物語なのだ。

『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著
 
 民族が違い宗教が違う国々。そこで起きた戦争の下、難民となった人々が語
った戦時下での食べ物の記憶が記されたこの本を、私はなんとジャンル分けし
ていいかわからない。
 著者の友人たちが語る戦時下での食糧事情や非常事態での料理の方法、難民
への食糧支援の現状などを通して、いかに生きのびたかが語られる貴重な記録
であり、何代にもわたる料理や食べ物の記憶でもある。
 口承文芸の国でもあるというセルビアにおいて、まだ若い記憶の詰まったこ
の語りは、実に貴重なものであると同時に、物語というには生々しく、難民と
いうものが次々に発生している世界の状況を思わされずにはいられないものだ。

 そこでは、アンデルセンの物語の中で、触るだけで火ぶくれがするイラクサ
までもが食べられているという事に、私は驚いたし、おびえもした。

 ただ、この西洋イラクサというのは、ヨーロッパでは実によくみられる植物
らしく、放っておくと庭がイラクサだらけになってしまうというほどの繁殖力
の強い雑草らしい。

 イラクサには薬効もあって、アレルギー薬としてそのお茶も注目されている
らしい。そういう観点で食べられることがあっても、平時にはあまり誰も食べ
ようとしないようだ。
 
 例えば、この本の著者は最後にイラクサのスープ(チョルバ・オト・コブリ
エ)のレシピをのせている。レストランで出しているところもあると書いてい
るが、家族は著者のほかに誰もこれを好まないとある。

 非常時の味なのだろうか?

<戦争になって初めてイラクサを食べました。まずいと言われるでしょう?で
も、とても美味しかった。最高だったわ。チュスパイズという名前の料理、ホ
ウレンソウのように湯がいてから、小麦粉でとろみをつけます>

と、別の語り手も言っているのだが。
 
 この本には戦時に食べたものとして野にある草の花のてんぷらなどが語られ
ている。これらの戦時下で草を食べた記憶というものは、日本でも第二次大戦
下の記憶として語られているのだが、今の若者で聞いたことがある人はいるだ
ろうか?

 ノビルやタンポポ、どんぐりの実。

 今でもいつでも食べられるけれど、誰も食べようとはしない植物。

 何かの時のために記憶の中には残しておかなくてはならない食べ物だけれど、
それを食べなくてはならないようなときが二度と来なければいいなんと思える
食べ物だ。

 「蕁麻にな触れそ……愛の絆の固ければ」

 これは、『チャタレイ夫人の恋人』の中で、主人公のコニーがピアノを弾き
ながら歌う歌だけれど、もはや、この歌を思い浮かべると、戦時下で家族の為
にイラクサを摘むような場面が思い浮かんでしまうのだ。

 そして、このイラクサのスープの話は、戦争というものへの恐怖を心の奥底
に、深く植え付けるのだ。
 
 普段は触ることも恐れる草を摘むとき、家族への愛や、次の日も生き延びよ
うとする意志などが大地に試されるような気がしてくる。

 食べてみたくはあるけれど、食べるときが来ないでほしい本の中の食物、そ
れが、私にとってはこのイラクサのスープなのだ。

----------------------------------------------------------------------

『アンデルセン童話集2』   アンデルセン著 大畑末吉訳 岩波少年文庫
『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶』山崎佳代子著  勁草書房
『チャタレイ夫人の恋人』   D.H.ロレンス著 伊藤整訳  新潮文庫

----------------------------------------------------------------------

高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

----------------------------------------------------------------------
■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
----------------------------------------------------------------------
スリップの話

 とある場でスリップの話をした。といっても滑った話でも女性用下着の話で
もない。書籍に入っている奴のことである。

 このメルマガの読者の方はきっとご存じだと思う。でも、もしかしたら、知
らないという方も増えているかもしれない。

 先日、ソフトバンクの通信障害が起こった際、公衆電話の掛け方がわからな
い、さらには、受話器の戻し方がわからない、テレホンカードって何?という
パニックが起こったという話も聞いた。スリップも同じようなことになってい
る可能性もある。

 スリップというのは、書籍に入っている細長い短冊上の紙のことである。二
つ折りになっていて、上の部分が丸く切られており、出っ張っている。

 本来、これは書店で回収されるものであり、読者の手には渡らないはずのも
のであるが、最近のネット書店では抜かずに配送してしまうこともあり、しお
り代わりに使っている人も多いかもしれない。

 で、このスリップをよく見てみると、表面と裏面(正確には、どっちが表で
どっちが裏なのかは私は知らない。)で書かれている内容が違うことに気付く。

 どちらかが注文カード(だいたい、出っ張ったボウズの部分がくっついてい
る方である。)になっており、反対側が売上カードになっている。

 注文カードには、「帳合・書店名」とか「注文数」とかの欄がある。実は昔
の書店や取次は、この紙で注文をしていたのである。書店がバンセンという判
子を押し、冊数を記載する。記載が無い場合には1冊ということになる。で、
取次に渡す。取次さんは自社の倉庫に行き、同じ本を探し出し、このスリップ
の注文カードを入れて書店に納品する。恐るべき人海戦術。

 売上カードには、このような説明が書かれている。「販売実績として配本等
の参考資料に活用させていただきます。(中略)お手数でも毎月定期的にお送
りください。」つまり、書店に、出版社に送り返して欲しい、と言っているの
だ。

 出版社によっては、この売上カードにインセンティブ(報酬)をつけている
ところもあった。締め前ともなると、その出版社の本で書店があふれかえるこ
とになっていたのはひとつの風物詩である。

 さて。

 こんな涙ぐましい手作業の数々も、基本的には大書店を中心に、POSレジ
を活用した自動発注システムに切り替わっている。当然、出版社との間もデー
タでやりとりするので、売上カードも必要が無い。町の小さな書店ではいまだ
に活用しているんだろうか? そもそも売上カード送っても配本に影響なさそ
うではあるが。

 取次も当然のように進化している。ピックアップが完全自動ってことはない
だろうが、少なくともスリップの注文カードを手で挟んで、という非効率な業
務はイレギュラーになりつつあると思う。

 で、ひとつ疑問なのは、このスリップはいつまで書籍に入り続けるのだろう
か、ということである。無くしちゃマズいんだろうか?

 ちなみに私は未だにガラケーであるが、携帯会社からついに、2022年3月末
でガラケー廃止するとの通知が来た。まだ2年以上もひっぱるあたりが日本の
すごいところだと思う。

 以前、ある方の講演を聞いていて、面白いことを言っていた。高速道路にETC
の仕組みを入れる際、日本の場合には、全車がETC対応にならないだろうからと
上下にばったんばったん開くゲートをつけた。これにより、ETC対応車も減速し
なければならないので、渋滞は緩和されなかった。シンガポールでは、法律で
義務化し、補助金もつけた。結果としてゲートをつけなくてよかったので設備
投資コストもかからず、渋滞も緩和された、というお話。

 スリップ無くせば、少しでも出版社の利益率って上がらないんだろうか?

 などと思う今日この頃であった。

 ガラケー愛好家としては、個人的に、少し、寂しい気もしますが。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 配信遅れましたすみません。平成が終わるのを理由に、いろんなサービスが
終わりそうな今年ですね。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.704


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 ■■ [本]のメルマガ                 2019.1.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book     [今年も本をたのしみましょう号]
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 『最強の女性狙撃手:レーニン勲章の称号を授与されたリュドミラの回想』
 
 リュドミラ・パヴリチェンコ著 龍和子訳 本体2,400円+税
 
 仲野徹氏「すごい本だ。ノンフィクションの醍醐味をこれほど味わえる本はな
 い」HONZで話題! https://honz.jp/articles/-/45043
 第2次世界大戦、類まれな戦績を残したソヴィエト赤軍女性狙撃手の回想
 録。1932年にキエフで射撃の訓練を始めた頃から退役後1970年までの半
 生を綴る。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 残念ながら今月もお休みです。次回にご期待ください!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第115回 絵本が教えてくれること
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 「宇宙的肯定」な世界観の「ぐりとぐら」カルタとは!
  
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 ■トピックス
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 1つのイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第115回 絵本が教えてくれること

 
  遅ればせながら名画座で映画『プーと大人になった僕』を見た。ディズニー
 のキャラクター「くまのプーさん」を実写映画化したファンタジーで、ユアン・マ
 グレガー扮する大人になったクリストファー・ロビンがかつての親友プーと再
 会して、忙しさの中で失った大切なものを取り返すというストーリー。
 話そのものもよく出来ていたと思うけれど、アニメでなく実写というところがミソ
 で、ぬいぐるみのプーが動いたり話すのを見ているだけで胸がキュンとしてし
 まった。
 じつに、“ぬいぐるみ”らしく動くのを見ていると、子どものころ、ひとりでぬいぐ
 るみを相手に遊んでいたころを思い出してしまった。
 ひとりぼっちだったけれど、想像の世界で遊んだ豊かな時間だった。

 
  友人の編集者が一冊の本を送ってくれた。
 『「どの絵本読んだらいいですか?」』(向井ゆか編 かもがわ出版)という、
 元「童話屋」読書相談員の向井惇子さんの講演録をまとめた本だった。
 童話屋は渋谷にあった絵本専門店で向井さんは、創業スタッフ・読書相談員
 として約20年間働いたあと、フリーの絵本アドバイザーとして、2017年に亡
 くなる三日前まで講演会や勉強会の講師をしていたという。

 
 子どもがなく、もちろん孫もいないぼくには絵本を選ぶということには無縁だ
 ったから、気にもかけていなかった。
 このような本は、カタログのようなもの程度にしか思っていなかった。
 正直言って、この本を読むまでは、絵本アドバイザーなんて、大げさだなあ、
 と思っていた。
 そんなことを子どもの本の翻訳もしたことがある従姉妹したら、実際におかあ
 さんたちに「どんな絵本を選べばいいの?」と聞かれることが多いという。
 自分たちが子どものころよりも本の数が増えているし、世の中も変わっている。
 いまはゲームもあるし、はでなキャラクターを使った絵本という商品もたくさん
 並んでいる。
 子どもにいいものを選ぼうとすると、迷ってしまうのもわかるといっていた。
 なるほど。

 
  向井さんが子どもたちに選んだ絵本は、ほとんどぼくが子どものときに親し
 んだ絵本だった。
 ぼくの母である内田莉莎子が翻訳した絵本も載っている。
 『おおきなかぶ』(ロシア民話 A・トルストイ再話 佐藤忠良 画 福音館書店)
 は教科書に取り上げられているし、人気がある作品だから選んでもらっても驚
 かなかったが、『ちいさなヒッポ』(マーシャ・ブラウン作・絵 偕成社)が選ばれ
 ているのは意外だったし、嬉しかった。

 
  というのは、『ちいさなヒッポ』は最近の絵本とくらべると、とても地味な、色使
 いが渋いからだ。
 それでも毎年、版を重ねていているので、いつも不思議に思っていた。
 向井さんはヒッポを「信頼できるおとなと過ごす安心感」を与える本として、くわ
 しく解説している。
 講演録だから、いっしょに絵本を表紙からじっくり見て、テキストを読んでいるよ
 うな気分だ。

  
 大人が子どもに絵本を読むとき、どうしても文字を目で追ってしまう。
 絵本なのに、大人は絵を100パーセント楽しむことが出来ないことになるわ
 けだ。
 でも、子どもは言葉を耳で聞きながら、絵をすみずみまで見て楽しんでいる。
 大人って文字がないと用のないページとばかり、ぱっぱっとめくってしまい
 がちだ。
 子どもは字のないページでも絵をすみずみまで見ている。
 なるほど!
 
  ときどき、大人も絵本を読んでもらったほうがいいのかもしれない。
 絵本の楽しみ方は子どものほうが知っている。
 
「絵本は、お話が書いてなくても絵をめくっていけばお話がわかるもの。だか
 ら絵が大事。絵、本というくらいだから、という言い方がわりと広くされていた」
 と向井さんはいう。
 いつだったか童話作家の神沢利子さんが「絵本は、どうしても絵描 きさんの
 ほうが注目される」といっていたけれど、向井さんがこの本に書いているとお
 り、絵本であっても『なにを』語っているのかというのが大事なのだ。
 そう、「物語」がなくちゃね。
 
『ちいさなヒッポ』が長い間、多くの人に受け入れられているのは、自然のなか
 にいるカバが成長していく話が、人間の子どもの成長と重なる話になっている
 からだという。
 ヒッポは成長していく上で危険な目にもあうけれど、そんなときは母親が助け
 てくれる…この本を読んだ子どもは「社会にはいろんな人がいて、危険もある。
 自分はまだ力が弱いけれど、なにかのときはおかあさんが助けてくれる」と
 母親を含めた社会というものを認識する。
 そして『ちいさなヒッポ』には母親に対する全面的な信頼感が描かれていて、
 ヒッポと同じ気持ちを子どもは体験する。
 自分が守られている、という安心感が子どもを包むんだろう。
 子どもだけでなく、読んでやっている大人も温かい気持ちにする。
 ヒッポは、だからこそ、長く愛されているのだな。
 
『ちいさなヒッポ』に書かれている言葉には、「かわいいヒッポちゃん」のような
 子どもにおもねるような言葉使いはなく、流行語も使っていない。
 きちんとした日本語が使われているから、何十年も経っても通用する絵本にな
 る。
 母は翻訳をするときに、「そんな言葉、すぐに古くなっちゃうでしょ」と決して流
 行語は使おうとしなかった。
 これは肝に銘じなきゃいけないな。
 
『どろんこハリー』(ジーン・シオン文  マーガレット・ブロイ・グレアム  絵
   渡辺茂男  訳 福音館書店)、『アンガスとあひる』(マージョリー・フラック
 作 瀬田貞二 訳 福音館書店)『あおい目のこねこ』( エゴン・マチーセン 
 作 瀬田貞二 訳 福音館書店) 『ロバのシルベスターとまほうの小石』
 (ウィリアム・スタイグ 作 瀬田貞二 訳 評論社)など絵本の名作を向井さ
 んの解説を受けながら、ふたたび味わってみようと思う。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 翻訳絵本『あめのひ』『かぜのひ』は徳間書店から出ています。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします!
 

 
 
 
 
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  お正月になりました。皆さんカルタやってますか?私はやってません。残念
 ながら最低限の人数が集まらない…。それはともかく子供のころはお正月
 と言わず一年中カルタで遊んでいた記憶があります。私など遊ぶだけでなく
 食べてしまって、破損している札もありました。そのかでも日本全国の老若
 男女にお薦めしたいのがこちらです。
 
 『ぐりとぐらかるた』、中川李枝子さく/山脇百合子え、福音館書店
 
  おなじみ「ぐりとぐら」シリーズのカルタではありますが、もちろん「ぐり
 とぐら」の絵本を読んだことが無くても大丈夫です。ここでお薦めしている私
 にしたところで、どちらが「ぐり」でどちらが「ぐら」かと聞かれるとわからなか
 ったりして…。(ちなみに青い帽子がぐり、赤い帽子がぐら。)
 
 このカルタのとにかくいいところが言葉のリズムです。札に書かれた文章
 には頭韻が多用されていて、聞いているだけで心地よくなってきます。
 
 にいさん にこにこ にんじんたべた 
 
 ほしが ほしいと ほえるいぬ
 
 みどりのライオン みみまで みどり
 
  ほんの一部ですがいかがでしょう。五七調ではないですが、なんだか呟いて
 みると楽しくなってくるのではないでしょうか。同じ音が繰り返されているので
 印象にも残りやすいのではないかと思います。私も数十年のブランクがありな
 がらいまだに幾つかの札は暗誦できます。
 
  そしてお気づきかと思いますが、この札に書いてある文章の全く教育的意味
 の無さが素敵です。いろはかるたのように諺を持ってきたり、学習カルタのよう
 に勉強の足しになるものではありません。「兄さんがニコニコ人参を食べた」か
 ら何だというのか。
 
  しかし逆に遊ぶ側の想像はふくらみます。「みどりのライオン みみまで
  みどり」の絵札には、全身緑色(たてがみも緑色)のライオンがキャベツ畑の
 ような場所で帽子からトランプを羽ばたかせるようなマジック的な動作をしてい
 るイラストが描かれています。いったいこのライオンは何なんでしょう。
 
  子供心に私はこのライオンはキャベツを食べ過ぎて緑になってしまったのだ
 と思っていました。もちろん普段の「ぐりとぐら」と同じタッチの絵柄で、ライオン
 にも怖さは全然なくかわいらしいものです。
 
  調べてみると「ぐりとぐら」以外にも作者の生み出した物語の登場人物が出
 てきているようで、みどりのライオンもその一人のようです。当時はそんなこと
 知らなかったけど、知らなくてもライオンが緑というだけでもう面白くてしょうが
 なかったものです。
 
  読み札は語感を大事にして作られているようですが、その読み札に添えられ
 ている絵札のイラストも遊ぶ側の想像力をかきたてるようによく考えられて描か
 れているように感じます。
 
 まどから おでかけ まほうつかい
 
  絵札には家の窓からほうきに乗って飛び去っていく魔法使いが描かれていま
 す。家にはちゃんとちゃんと玄関があるのに!
 
 けむしがあんだ けいとのはらまき
 
  絵札ではちゃんと毛糸で編んでますけど、その毛糸の毛はもしかしたら自分
 の毛…?
 
  昔読んだ絵本のあるページが記憶に焼きついて、全体は思い出せないのに
 そのページだけ覚えていると言うことがありますが、このカルタは一枚一枚が
 そういう印象深い言葉と絵で作られています。
 
  作者中川李枝子のエッセイ集『本・子ども・絵本』(文春文庫、2018)に寄せた
 小川洋子の解説のタイトルは「宇宙的肯定」となっています。確かにこのカルタ
 もそうした肯定的世界観に根ざしたものと言えるかもしれません。
 
  子ブタはオオカミとおしくらまんじゅうをするし、イルカは陸上に上がってくるし、
 兄さんは人参を食べる。そういう平和な世界観をまず肯定することによって、子
 どもの想像力もさらに発揮されるのではないでしょうか。そしてそれがこのカル
 タの最大の魅力かもしれません。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 橋本倫史+森山裕之「“モテる雑誌”を作るために」
        橋本倫史『ドライブイン探訪』(筑摩書房)刊行記念トークイベント
 └─────────────────────────────────
 Titleでも取り扱い、人気を博したリトルプレス『月刊ドライブイン』が、
 筑摩書房によって書籍化され、『ドライブイン探訪』として刊行されます。
 単行本化を記念して、トークイベントを開催します。
 登壇いただくのは、『月刊ドライブイン』をひとりで企画・取材・執筆され
 た橋本倫史さんと、2016年に出版社「STAND!BOOKS」を立ち上げられ
 た森山裕之さんです。

 *書籍『ドライブイン探訪』は1月末頃の発売予定です
 
 
 
 「トークイベントに向けて」文・橋本倫史
 
 初めてリトルプレスを作ったのは、2007年のこと。そのリトルプレスで
 インタビューをお願いしたのが、当時『QJ』の編集長を辞められたばかり
 の森山裕之さんでした(そしてそのリトルプレスを取り扱ってくれた少な
 いお店の一つが、当時「Title」の辻山さんが店長をされていたお店でし
 た)。
 
 そのインタビューにつけたタイトルは、「モテる雑誌が作りたかった」。
 インタビュー中の発言から採ったものですが、よくこのタイトルを引き受け
 てくれたものだと申し訳ない気持ちになります。でも、やっぱり今でもこの
 タイトルをつけたいという気がします。森山さんが言う「モテる」というのは、
 ちゃんと読者に届く雑誌を作る、ということだと思います。その大切さは、
 『月刊ドライブイン』というリトルプレスを作った今だからこそよくわかります。
 ドライブインというのは、ともすればニッチだと捉えられかねないテーマです。
 ドライブインという場所に流れてきた時間を、どうすればより多くの読者に
  読んでもらえるか。そのことを考えながら『月刊ドライブイン』を作ってきた
 気がします。
  
 森山さんは、僕がライターになってまもない頃に仕事を依頼してくれた編集
 者でもあります。森山さんが僕に依頼してくれたテーマの一つはドキュメント
 でした。今でもドキュメントを書くとき、森山さんに言われた言葉が頭を過ぎ
 ることがあります。現在は「STAND!BOOKS」という出版社を立ち上げた森山
 さんと、どうすれば言葉を広く世界に届けることができるのか、話してみたい
 と思います。
  
 橋本倫史(はしもと・ともふみ)
 
  1982年東広島市生まれ。ライター。2007年、リトルマガジン『HB』を創刊。
  2017年4月、日本全国のドライブインを巡るリトルマガジン『月刊ドライブイン』
  を創刊。2019年1月末、初の著書となる『ドライブイン探訪』(筑摩書房)が
  刊行される。
 
 森山裕之(もりやま・ひろゆき)
 
  1974年長野市生まれ。編集/執筆。元『クイック・ジャパン』『マンスリー
  よしもとPLUS』編集長。2016年に出版社STAND! BOOKSを設立し、
  前野健太『百年後』、サニーデイ・サービス/北沢夏音『青春狂走曲』、
  中島岳志『保守と立憲』、パリッコ『酒場っ子』を出版。最新刊の寺尾紗穂
  『彗星の孤独』が好評発売中。

                                                      _Title HP より_
 
  
 
 ◆日時:2019年2月15日(金) 19時30分スタート/21時頃終了予定
               *イベント当日、お店は18時にてクローズ致します
  
 ◇場所:Title 1階特設スペース
       〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
                  TEL. 03‐6884‐2894
 
 
 ★参加費:1000円+1ドリンク500円
 
 ☆定員:25名
 
 申し込⇒
 手順1:メールの件名にイベント名、メール本文にお名前(氏名)
      /電話番号/枚数(1人2枚まで)を明記して、
      以下のアドレスに送信ください。
 
      title@title-books.com
 
 手順2:「予約完了」の返信をいたします。
            (メールの受信設定にご注意ください)。
 
 手順3:参加費は当日会場受付でのお支払いとなります。
 
 お申し込み・ご予約は定員に達し次第締め切らせていただきます
 
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 ■あとがき

 今月号は、偶然にも‘児童書‘‘絵本‘の寄稿になりました。
 こどもの頃に読んだ本をまた読み返してみたい、近頃思います。
 本の記憶の芳しさや切なさ、楽しさは何にも代えがたい宝であることを
 実感するこの頃です。
  
 2月15日から中江裕司監督のドキュメンタリー「盆歌」が上映されます。
 
 「2015年、東日本大震災から4年経過した後も、福島県双葉町の人々は
 散り散りに避難先での生活を送り、先祖代々守り続けていた伝統『盆歌』
 存続の危機にひそかに胸を痛めていた。そんな中、100年以上前に福島
 からハワイに移住した人々が伝えた盆踊りがフクシマオンドとなって、今
 も日系人に愛され熱狂的に踊られていることを知る。町一番の唄い手、
 太鼓の名手ら双葉町のメンバーは、ハワイ・マウイ島へと向かう。自分た
 ちの伝統を絶やすことなく後世に伝えられるのではという、新たな希望と
 共に奮闘が始まった―。」チラシより
 
 失う前に、取り戻そうとする人たちの、過去から未来への物語。
 期待しています。 
 (テアトル新宿、フォーラム福島、まちポレいわき上映)     
                                                             畠中理恵子
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 ■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
 ■ 今号のご意見・ご質問は
  15日号編集同人 「畠中理恵子」まで nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp 
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   なお、当メルマガは配信日によって、情報の提供先が変わり
   ・5日号:aguni原口 hon@aguni.com
   ・15日号:畠中理恵子 nora.7-4.ttpnkffb.c@ezweb.co.jp
   ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
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[本]のメルマガ vol.703


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■■ [本]のメルマガ                 2019.01.05.発行
■■                              vol.703
■■  mailmagazine of books           [題名が悪かった 号]
■■------------------------------------------------------------------
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『フォト・ドキュメント 世界の統合と分断の「橋」』

アレクサンドラ・ノヴォスロフ著 児玉しおり訳
A5判 380ページ 本体3,200円+税 ISBN:9784562056170

川を隔てたコミュニティをつなぐ「橋」。統合の象徴としても語られる「橋」
は、しかし時として民族の分断を強め、人間を選別し、争いの根源になること
もある。「橋」から見た「今ある世界」を、多くの写真とともに活写する。


■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その31「お酒」その2「ニーガス酒」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その31「お酒」その2「ニーガス酒」

 寒いこの季節、ドイツでもフランスでもホットワインがよく飲まれているよ
うだ。ワインを熱して砂糖や蜂蜜を入れ、レモンやオレンジやナツメグやシナ
モンなどの香料を入れたこの飲み物、クリスマスの飲み物というイメージがあ
るようだけれど、私のお気に入りは、夜桜見物の時に飲むホットワイン。どん
なに寒い夜でも、桜の香りに包まれて最高の気分になれる。

 そんな、ホットワインの一種だと思えるお酒のせいで私は、めくるめく世界
に引き込まれてしまったことがある。

 それは、イギリスのヴィクトリア朝の小説の中に出てくる「ニーガス酒」。

 私はたいてい物語の中に現れる食物に惹かれてその時代の風習やその国につ
いて調べたりするのだが、この場合は逆だった。 
 
 きっかけは、ダニエル・プール著の『19世紀のロンドンはどんな匂いがした
のだろう』を読んだことだった。これは、いわゆるヴィクトリア朝小説を読む
ための生活万端に渡っての解説書だが、どのページから読んでも実に面白く、
挿絵も多くて楽しい本だ。二部構成になっていて、第一部は社会生活、地方で
の生活、個人生活等の章に別れ、「宮中伺候」はどんな儀式か、「舞踏会」は
どう行なわれていたか等が、ブロンテ、トロロープ、ディケンズ、オースティ
ン等の小説からの引用を持って説明されている。 第二部は英語の辞書として
使え、各用語のこの時代特有の使われ方が説明されている。この部分も辞書と
して使うというより、読んでいて面白い読み物となっている。もちろん日本語
の索引も最後に付いている。 
 
 そして、この本の中で、あまりに多くのオースティン作品が引用されている
上に、舞踏会の夜食についての項目で、『マンスフィールド・パーク』の一場
面が引用された「ニーガス酒」についての項目があまりに不思議だったので、
私はついに長年手に取るのをためらっていた『高慢と偏見』を読んだのだ。 
  
 結果は強烈だった。

 それからの1年間、私は次から次へとジェイン・オースティンを読み続け、
研究書を漁り、大学の講演会に出かけたりした。

 講演会の会場で年上の奥様方に囲まれて座り、皆様がイギリスのチョートン
にあるオースティンの家を訪ねた話や(「ジェーンが小説を書いたあの小さな
机ごらんになりました?」)大学時代の思い出話を夢中でしているのを聞きな
がら、昔はお嬢様学校の英文科では、必ずオースティンを学ばせたんだなぁ等
と思ったりした。 
  
 我ながら、あれだけブロンテ姉妹に夢中だったのに何故ジェィン・オーステ
ィンに近づかなかったのかと、今にして思う。 

 その答えは一つ。題名が悪かったのだ。 

 『高慢と偏見』又は『自負と偏見』。 

 何だか、年上の女性にお説教されるようなイメージがある。

 まさか、あんなに生き生きとしたエリザベスという主人公に出会えるなんて
とても思えない題名だ。誰に対してもしっかりと発言するエリザベスが高慢な
のではない。高慢で偏見を抱いた男が出てくるのだ。そして彼の求婚を言葉で
たたきのめして退ける場面が実に爽快でユーモアに満ちていて、オースティン
独特なのだ。私は時たまこの場面だけを読み返してしまうくらい、この物語に
はまってしまった。 

 とにかく、「ニーガス酒」に感謝。 

 この言葉に惹かれなかったら、私は一生、ジェイン・オースティンに出会え
なかったろう。

 では、そのニーガス酒が『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』
でどのように出てくるかというと、それは「舞踏会」の章の夜食の説明部分で、
こう書かれていたのだ。

「ジェイン・オースティンの時代には、舞踏会でニーガス酒を混ぜたスープを
出すことがよくあった」

 スープに葡萄酒?

 赤い葡萄酒が泡立つスープにまざって行く映像が頭から離れず、気がつけば
私は『高慢と偏見』を手にとっていたというわけだ。 

 それにしても、甘いニーガス酒を塩味のスープに混ぜるなんてことを本当に
したのだろうか?

 そこで、ここで引用されていた『マンスフィールド・パーク』を手に取って、
読んでみた。

 ない。

 どこにも、そんな変な飲み物は書かれていない。

『マンスフィールド・パーク』でこの酒が現れるのは、舞踏会で踊り疲れた主
人公のファニーが、部屋に向かう場面だけだ。大好きな兄のためにおじが開い
てくれた舞踏会。気に染まない求婚者や大好きな兄や従弟と踊り、ふらふらに
なった様子を見かねて眠るように言われて階段を上って行くファニー。

「様々な希望や不安、スープやニーガス酒のためにまだ昂奮醒めやらず、足の
痛みと疲労感と、それに何となく落ち着かぬ心の動揺を覚えながらも、それで
もやっぱり舞踏会は本当に素晴らしい、と感じながら。」

 どう見ても、ニーガス酒はスープに混ぜられていない感じだ。

 そこで、本当にそんな飲み物があるのかと『ジェイン・オースティンの料理
読本』という本を手に取ってみた。この本はただのレシピ本ではなくて、前半
はオースティンの作品と実生活における食事場面や食物などが書かれ(なんと、
家禽や蜂を飼っている)、後半部はオースティンの兄の未亡人となった後も長
く同居し、その後、弟の後妻となった女性の収集したレシピでできている。そ
のレシピは実生活の場面ごとに分かれているため、「パーティと夜食」といっ
た章もあり、そこには、実に体が温まりそうなホワイトスープやアスパラガス
のイタリア風なんていうスープがあり、ファニーはこれを飲んだのかしらと考
えて楽しむことができる。

 でも、どこにも、ニーガス酒をスープに混ぜるとは書いていない。

 私が知っているお酒をスープに混ぜる場面がある小説は、フランソワーズ・
ドゥ・ボーヴォワールの『招かれた女』だけだ。

「ひとつ先生がたまげるようなことをやってみましょうか」と、ジェルベール
がおどかした。
「どんなこと?」
「この酒をスープの中に入れちゃうんです」そう言いながら手を動かす。
「きっとすごい味よ」
ジェルベールは赤い汁をスプーンにすくって、口へもっていった。
「天下の珍味です。やってごらんなさい」
「世界中の宝を積んでもまっぴらよ」

 場所は山の中の農家の食堂。若い役者で舞台監督のジェルベールと小説家で
脚本家のフランソワーズがキャンプに出かけた夜の場面。風の強い夜なのでテ
ントを張るのをあきらめて、農家のカフェに逃げ込み食事を始めるところだ。
年上の女性の気を引く為のパフォーマンスなんだろうけれど、フランソワーズ
ではないが、実にまずそうでまっぴらな感じの酒入りスープだ。

 と、いうわけでスープに混ぜたりしない、おいしいニーガス酒のレシピを、
先にあげた『ジェイン・オースティンの料理読本』で見てみよう。
 
 「ポートワインを大きな耐熱性の水差しに注ぐ。レモンに角砂糖をこすりつ
けてから、果汁を絞って漉す。砂糖、レモン、ポートワインを混ぜあわせ、熱
湯を加える。水差しに蓋をし、こころもち冷ます。すりおろしたナツメッグ少
々を浮かべ、グラスに注いで出す。」

 その他のレシピでも、鍋に入れて煮たり電子レンジを使用したりと熱し方は
様々だけれど、今も昔も作り方にはほとんど差はない。

 実は読み逃していたけれど、私がニーガス酒と最初に出会ったのは、シャー
ロット・ブロンテ著の『ジェイン・エア』の中だった。
 
 家庭教師になるために初めて一人旅をしてきたジェイン。たどり着いたのは
荒野にあるソーンフィールドの屋敷。出迎えてくれたフェアファックス夫人は
大変親切で、手ずからジェインのショールやボンネットを脱ぐのを手伝ってく
れる。そして、こう言う。

「いえ、ちっともめんどうなことはございませんよ。さぞかし寒さでお手がか
じかんだでございましょう。リアや熱いニーガス酒をこしらえて、サンドイッ
チを少し切ってください…」

 深い霧の中を馬車に揺られ不安におびえながらたどり着いた先にいたのは高
慢な雇い主の夫人ではなく、親切な家政婦の女性。お茶ではなく熱いニーガス
酒を用意してくれるところが、夜の食事らしく配慮に行き届いている気がする
場面だ。

 そんな風に暖かい眠りの中に連れて行ってくれそうなニーガス酒を、いつか、
霧の深い夜にでも作って、心も体も温めてみようと思う。そのヴィクトリア朝
の味わいは、きっと不思議な夢に誘ってくれるのに違いない。
 
 霧の中から蹄の音が聞こえてくる。

 迎えの馬車がやって来たようだ……。

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『世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』ダニエル・プール著 青土社
『マンスフィールド・パーク』ジェイン・オースティン著     中公文庫
『高慢と偏見』    ジェイン・オースティン著      岩波文庫
『招かれた女』    シモーヌ・ド・ボーヴォワール著    講談社
『ジェイン・エア』    シャーロット・ブロンテ著      新潮社
『ジェイン・オースティン料理読本』マギー・ブラック、
              ディアドレ・ル・フェイ著  晶文社
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第117回 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

 昨年10月、詩人の入沢康夫が亡くなった。87歳だった。虚構性を暴露させな
がら語りを進行させる擬物語形式の採用、カリグラム等を取り入れた視覚的効
果の導入、文意を破壊する刺激的なイメージの連鎖など、実験的な試みを意欲
的に行ってきた人で、その点で同年生まれの作曲家松田頼暁を思い起させる。
入沢はフランス文学者で(専門はネルヴァル)、世界文学の動向に詳しく、数
々の実験は西欧文学に対する豊かな教養にしっかり支えられたものであり、現
代詩人たちから一目置かれる存在だったように記憶している。

 宮沢賢治の研究家でもあり、一般にはその道の仕事の方でより知られている
かもしれない。ぼくは彼の良い読者というほどではないが、『わが出雲・わが
鎮魂』(1968)や『牛の首のある三十の情景』(1979)など幾つかの詩集から
は強い印象を受けた。逝去の報道を知り、彼の代表的な詩論『詩の構造につい
ての覚え書』(思潮社 1968)をまだ読んでいなかったことを思い出して、早
速ネット古書店に注文を入れてみた。届いたその本は予想に反して(?)平明
な文章で記述された、ごく読みやすいものだった。

 本書の副題は「ぼくの<詩作品入門>」である。「はじめに」ではこの詩論
が他でもない自分自身のために書いたものであることが明かされる。「人を啓
蒙するなど、とんでもないこと」「入門しようとしているのは、ぼく自身なの
である」。自身の考えを整理し、詩人として前進するための、実作と結びつい
た論考というわけだ。

 本書の主要なテーマは、虚構としての詩作品はいかにして成立するか、とい
うことにある。「手もちの材料と道具の点検」という章では、論を進めるにあ
たっての了解事項として「詩は表現ではない」ということを挙げる。挑発的な
言い方だが、もちろん詩が芸術表現でないと言っているわけではない。

 「まず表現したいもの(ヴィジョン・感情・思想・体験その他)を持ち、次
にそれを読者と共有するために作品化しようとして、表現に努める」態度に否
を唱えているのだ。詩の言葉は自律的な虚構の世界を造形するものであり、既
存の意味(観念)の伝達の手段(道具)にしてはならない、ということ。実体
験を描いた私詩の中でも成功した作品は、現実を虚構の世界に昇華する高度な
造形意識に支えられているというわけだ。

 そこで出てくるのが作者と発話者を厳然と区別するという考え。詩は一人称
で語りが進められることが多いが、作者と作品内で語りを進める発話者はとも
すると同一視されることが多い。入沢は詩の言葉は自律したものであるべきと
の認識から、作者と発話者、そして発話内容の中心人物(主人公)の区別を訴
える。そんなの当たり前じゃないか、という人もいるかもしれないが、この詩
論が書かれた当時は、詩と言えば作者が胸の内を「ありのまま」にうたい上げ
るもの、という通念が世間にあったのだろう。入沢は世間にはびこるこうした
偏見を取り除こうという意図があったためかもしれないが、この三者を区別す
る作業を、様々なケースを取り上げながら、非常に綿密に行っている。

 さて、ここまでの議論は、その精緻さに驚かされるとは言え、教科書的にす
っきりまとめられており、専門家が文学の常識を講義する(啓蒙的!)感じに
近い。しかし、本書の半分辺りから入沢独自の問題意識が突出してきてよりエ
キサイティングな展開になってくる。入沢は、「発話者が作者とイコールでな
いこと」を「かくす」書き方、「あばく」書き方、「ことさらかくしもあばき
もしない」書き方を詳細に比較した上で、発話者が「イカニモ作者ラシイ」方
向(私詩的)と「イカニモ作者ラシクナイ」方向(物語的)の軸を持つ座標を
考える。そして、座標のゼロ地点に位置する「関係が曖昧な発話者」に注目す
る。入沢は、どのような関係を設定するにせよ、一度この「発話者の零度」を
通過することが詩にとって重要と考える。

 入沢は「詩作品においては、作者と発話者は常に別である」という命題と
「詩作品においては、作者と発話者は相互に曖昧に依存し合う」という命題が、
「車輪の両輪」のようなものだとする。作者と発話者は「別であることで相互
に依存」し、「『依存関係』の本質的な在りかたが常に『曖昧』」である。更
に、その曖昧さは「ぼくたちの実存の本質的曖昧さと通底的」なのだという。

 この議論は、それまでの歯切れの良い冷静な進め方と打って変わって、やや
こしく、かつ論理に飛躍が見られる。しかし、ぼくは、このパートにおける若
き日の入沢の性急さ、熱さが好きだ。小説などの散文芸術においては、発話者
は登場人物の一人として、作者とは全く独立した存在として扱われる。しかし、
詩においては、発話者は作者とは別の存在でありながら、作者の意識をどこか
で引きずった存在として現れる。その曖昧な在り方は、現実における人間の複
雑で多様な在り方を反映したものだ……。こうした議論は、詩論や文学論とい
うより、むしろ人間論ではないだろうか。個別でありながら曖昧に依存し合う、
とくれば、都市空間の中で生まれた「孤独な群衆」の姿を思い出さないわけに
はいかない。

 入沢は更に、この作者と発話者の曖昧な関係の中に、「読者」を引きずり込
んでいく。詩の読者は与えられたテキストを享受するだけでは済まされない。
「読者はいわば主体的に詩行為を演じなければならない」のだ。それを突き詰
めた地点で、入沢は驚くべき認識に達する。「詩人は、降霊の儀式としての詩
作を進めながら、その詩作の刻一刻に、同時に一個の読者として立ち合うとい
う態度を要求される」。この激しい主張は、詩作とは単に詩を書くことではな
く、詩作の場そのものの神秘化の作業である、と言い換えることができそうだ。

 入沢はこの論で何度も言及する「作者」の中身について、特に詳しい説明を
していないが、この「作者」が、食べたり飲んだり仕事したり恋したり、とい
った生活者としての作者でないことは明らかだ。彼が「作者」と呼んでいるの
は、文脈から考えて、表現意識を持つ作者、更に言えば、創作に向かう作者の
自意識のことではないだろうか。現実の作者から抽出・昇華され、神秘化され
た自意識が、作品の隅々まで満ち渡り、多様な姿をとって波打ち、読者の心の
奥深くに侵入する。その具現化のケースとして、彼が追求した「擬物語」があ
り、個我意識を抽象化させる形で発展した「現代詩」がある。

 とすれば、彼が削ぎ落していった「生活者としての作者」「猥雑な日常を生
きる作者」から生まれる詩の可能性とは何だろう、と考えてみるのも面白いか
もしれない。本書には他にも興味深い問題がたくさん論じられているので是非
お手にとって精読していただきたいと思う。

*入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社 本体600円)
*『続・入沢康夫詩集 現代詩文庫』(思潮社 本体1258円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 あけましておめでとうございます。平成最後の年、次の元号はなんだろな。
(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.671

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 大規模農業論、6次産業化…机上の改革案が日本農業をつぶす。農家減少・高
 齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作
 物の是非、移民…プロ農家のリアルすぎる目で見た日本農業の現状と突破口。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 残念ながらお休みです。来年にご期待ください!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語 
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 今年を振り返って…
  
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 ■トピックス
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 イベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語
 
 
 台湾の作家、呉明益の新しい本が出ていると知って、すぐに書店に向かった。
 『自転車泥棒』(呉明益著 天野健太郎訳 文藝春秋)という長編小説だった。
 好きな小説家、小説に出会うというのはうれしいものだ。以前、邦訳一作目の
 『歩道橋の魔術師』(呉明益著 天野健太郎訳 白水社)を読んだとき、若い
 時に感じた「本を読む喜び」を感じた。
 「この本は自分のために書かれたんではないか?」というような…。二十代に
 デビュー当時の村上春樹を読んだときや、それよりもっと前、中学生のころに
 レイ・ブラッドベリのSFファンタジーを読んだときに感じた、自分の中にスー
 ッと溶け込んでいくような感覚だった。
 優れた小説であるとか、美しい文章であるとかだけではない、きっと自分にと
 って大切なものになるだろうという予感といったらいいのだろうか。音楽でい
 えば、ビートルズやジェームス・テイラーを聴いたときの感動と同じだった。
 「自転車泥棒」というタイトルですぐに思い出すのは、イタリア映画、デ・シ
 ーカ監督の作品だ。ネオリアリズモ映画の代表作で、貧困にあえぐ人々を描い
 たモノクロ映画を子どものころ、教育テレビで見た記憶がある。名画座だった
 かもしれない。仕事に必要な自転車を盗まれた主人公が息子といっしょにロー
 マ中を探し回る話だったが、この小説でも「盗まれた自転車」をさがすことか
 ら、とんでもないスケールのストーリーが展開する。
 この小説のタイトルも映画から発想したようだ。
「鐡馬(自転車)が盗まれた
 ことで家族の運命が変わった」と主人公の母は口癖のようにいっていた……
 主人公である小説家の「ぼく」が、20年前の父の失踪事件の鍵となる自転車
 「幸福」を見つけたことから、100年にわたる主人公の家族史をたどりなが
 ら、やがて時間を超えた物語の世界に迷い込んでいく。

 
  この物語は訳者あとがきに、「ストーリーはある意味、非常にシンプルだ」
 とあるけれど、戦時下の台湾のこと、そして出会った人々のさまざまな記憶か
 ら生まれるいくつもの物語がタペストリーのように編まれていて、かんたんに
 言い表せない重厚なストーリーになっている。

 
  後記に「この小説は第二次世界大戦史、台湾史、台湾の自転車史、動物園史、
 チョウの工芸史…と関わりがある」書いてあるとおり、どうしてこれだけの情
 報量をひとつの小説に編み上がることが出来るのだろう、と圧倒されてしまっ
 た。過剰とも思われる情報量がきちんと物語の鍵としての役割を果たしている。
 なめらかな文体がじつに読みやすい。これは翻訳者の力量でもあるのだろう。
 
『歩道橋の魔術師』の感想にも書いたが、作者はたんねんにディテールを書き
 込んでいて、まるで映像を見ているようだ。東南アジアのジャングルでの戦争
 で負傷した兵隊たちに群がる鳥や虫たちの描写など思わず自分の体から虫をは
 ねのけたくなるような気分になったし、チョウの工芸品を作るところでは、チ
 ョウの鱗粉を肺に吸い込んで、むせてしまうようだった。戦時中に動物園の動
 物たちを殺処分していく話に胸がつぶれる思いになる。ぼくは、どういうわけ
 か、人間の生き死によりも、動物の命が奪われるほうが耐え難い気持ちになっ
 てしまう。

 
  自転車をテーマにしているのだから、もちろん自転車の構造から、台湾にお
 ける自転車の歴史について詳しく書かれている。自転車がロールスロイスのよ
 うに贅沢な乗り物だったころからの話だ。それにしてもよく調べたものだ。著
 者自身もじつは自転車のマニアらしい。それも「乗る」という行為ではなく、
 「物」としての自転車という。古い自転車を見つけて、足りない部品を探して
 修理する。ベテランの職人から知識、技術を学ぶ…と、かなり本格的のようだ。
 ちょうどギターマニアが1950年代、60年代のギターに夢中になるように。
 なんであれ、マニアというのはそういうものだ。

 
  読み終えると、不思議な安堵感があった。大きな時間の流れの中に身を任せ
 たような感覚なのかな。生きること、死ぬこと、家族、さまざまなことが頭を
 浮かんでいく。読んだあとに、ぜったいに再読しなければと思う。読むほどに
 違うものが見えてくる、そんな小説だと思う。呉明益という作家に出会えて本
 当に良かったと思う。ぜひ、新しい作品、そして過去の作品も読んでみたい。
 早く邦訳を出してもらえないものか。

 
  残念ながら呉明益の『歩道橋の魔術師』『自転車泥棒』の訳者である天野健
 太郎さんは今年11月12日に亡くなっている。まだ47歳だったという。太台本屋
  tai-tai booksというサイト
 (http://taitaibooks.blog.jp/archives/13977427.html)に呉明益が追悼文
 を寄せている。この文章を読むと、天野さんという翻訳家がいかに熱意を持っ
 て、そして綿密に作品について調べて翻訳をしているのかがわかる。ときに作
 家が当惑するほどの細かいことを問い合わせていると書いてあった。天野さん
 は、翻訳という仕事が作家の黒子で「どんなにいい訳をつけようが、読者はそ
 れを作家自身の腕によるものとしか思わない」と嘆いたそうだ。いや、そんな
 ことはないだろう。翻訳者の存在を感じさせず、作者が身近に感じられる訳文
 ということでいえば、ぼくが読んだ天野さんが翻訳した2冊は見事だと思う。
 そして天野さんが翻訳した香港のミステリー『13・67』(陳浩基 著 天野健太
 郎 訳 文藝春秋)を読もうと思う。
 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
 
 
 ★★第62回 吉上恭太のサウダージなクリスマス☆★★
 
 ◆日時:2018年12月25日(火) 20時〜
 
 ★投げ銭
 
 「サウダージなクリスマス」、今年で9回目です。
 2018年もいよいよ終わろうとしていますね。
 みなさんにとって、今年はどんな一年だったでしょう?
 
 楽しいばかりではないし、つらいばかりでもない、
 一日一日、泣いたり笑ったりしているうちに時は過ぎていくものですね。
 いろいろなことがあっても、
 古書ほうろうで、一年の終わりを親しい人たちといっしょに過ごせるのは、
 本当に幸せなことだと思います。
 今年のゲストは、棚木竜介さんとクララズさん!
 棚木さんは1stアルバム『スーベニール』、
 クララズさんは1stミニアルバム『海が見えたら』をリリースして、
 ふたりともノリに乗っている、いま注目のアーチストです。
 オリジナル曲、カバー曲を織り交ぜて楽しい、
 ロックなクリスマスになりそうだな。
 踊ってもいいですよ。
 もちろん3人のセッションもやりたいな。
 仰木ゆず子さんのクリスマスケーキも楽しみ!
 
 12月25日に会いましょう。
 Merry Christmas!(吉上恭太)
 
 
                        ―古書ほうろうHPより―  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  一年の締めくくりということで、今回は今年読んだ本で取り上げられなかっ
 たものをいくつか御紹介したいと思います。取り上げられなかったのは、私が
 締め切りにまでに読み終わらなかったとか、そういうパッとしない理由です。
 
  今年いちばんよく読んだのは栗原康さんでしょうか。黒い表紙の岩波新書
 『アナキズム』(2018)は、装丁もさることながら文章も従来の岩波新書とは一
 線を画しています。2017年に出た筑摩新書『アナキズム入門』(森元斎著)が
 思想史的なアプローチだったのに対して、こちらは現代社会の状況に触れなが
 らアナキズムについて力強く語られています。文章の方も独特の栗原節が響き
 渡っています。
 
  白石嘉治さんとの共著『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン、
 2018)は対談本なので、栗原節に慣れてない方はこちらがお勧めです。対談本
 の常として色々と話が多岐にわたるので、本書の中で紹介されている本をさら
 に読みたくなってしまう悩みが…。
 
 瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015)『縄文の思想』(講談社現
 代新書、2017)もそこで紹介されていて手に取りました。弥生時代に始まる農
 耕から現代にいたる文化の前に次第に見えなくなっていった縄文の思想ではあ
 りますが、資本主義的な考え方に代わる別の道として改めてスポットライトを
 当てていて非常に興味深いです。
 
  縄文と弥生の比較ということでは『文明の恐怖…』で、白石氏が縄文時代の
 土偶が個性的であるのに対して、弥生時代の「埴輪は人身御供で、目も虚ろ」
 (p,55)と述べているのが印象的です。埴輪の目は穴ですからね。
 
  栗原さんの主張の最大の眼目は、人間はやりたいことをやって生きるべきだ
 という点にあると思います。しかししかしさしあたり我々の大部分は食うため
 に働かねばならない。(もちろん働くことが大好きだという人もいるとは思い
 ますが。)この現実と向かい合うのは時にゲンナリしてしまいます。
 
  ゲンナリする現実にはパワハラ・セクハラなんてものもあったりします。し
 た側は無自覚でも、やられた側には深い傷が残ることもあります。そういった
 『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』小川たまかさ
 んの本で読みました(タバブックス、2018)。
 
  小川さんはジェンダー格差や年齢差別などについて、差別される側からの視
 点から世界を見てみようとしています。そこから見た世界はまだまだ改善の余
 地ばかりという印象です。だからといって何でもかんでも切って捨てるわけで
 なく、時に逡巡したりもしています。
 
  あるときはマイノリティでも別の切り口から見ればマジョリティだったりす
 るし。自分の中にある加害者性と絶えず向き合って生きることが大切なのかも
 しれません。しかしまあそれ以前にほんとに腹立たしくなるような事例もたく
 さんありますが。
 
  ところで、最近はセクハラとかパワハラとか大変だという嘆き節を耳にした
 り目にしたりしますが、ひとつ言っておきたいのは、昔だって傷ついてた人は
 沢山いたはずで。ただ泣き寝入りしていただけのこと。不快なことをされた側
 が「それは嫌だ」と声をあげられる社会はとても健全な社会のはずなのに、そ
 の状況を嘆くのはどうかと思います。嫌なことをされてもマイノリティはもし
 くは「弱者」は黙ってればいいんだよとでも?
 
  と憤懣やるかたない日々は続くわけですが。そんなとき川崎昌平は労働者に
 漫画を描くことを薦めます。『労働者のための漫画の描き方教室』(春秋社、
 2018)は決して労働者に漫画家への転進を薦める本ではなく、働きながら表現
 行為をすることによって辛い(重ねて言いますが辛くない人もいるのはわかっ
 てます)労働の日々に風穴を開けていこうという内容です。
 
  何故漫画なのか。それは川崎氏曰く割と技術的な修練を必要としない表現手
 段である為ということです。まあ私自身は漫画じゃなくてもいいかなー、とは
 思いますけれども。本書で述べられている漫画の描き方は、その他の表現技法
 をとったとしても大いに参考になると思います。
 
  いずれにせよ巧拙関係なく自分の中に表現者という部分があるのは生きてい
 く上で大きな助けになることは間違いありません(経済的な意味ではない)。
 
  この本を読んでいて思い出したのが詩人有馬敲の「唄ひとつ・スケルツォ」
 と言う詩です。
 
 あの熟慮する政治家よりも/きみは自分の言葉をえらんで/他者をそそのかせね
 ばならない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの慎み深い学者よりも/きみは自分の純粋をまもって/論理を組み立てねばな
 らない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの苦労性の商人よりも/きみは自分の修辞をきたえて/表現を磨かなければな
 らない
 (以下略 『糺の森』、竹林館、2010)
 
  表現しなければ、声をあげなければ、闘わなければ今感じているモヤモヤを
 晴らすことはできない。無力感に苛まれ堂々巡りで終わるだけ。本当はそんな
 無力感に苛まれる必要なんてないはずなんですけどね。今の社会では多くの人
 が自分は「弱者」だと思い込まされてしまう。というのは栗原さんの『アナキ
 ズム』で語られていたことです。
 
  それでも色々なところで声をあげている人が増えたことはよいことだと思い
 ます。ただそこでも自らの論理や表現や思考を鍛えていかなければいけません
 が。
 
  と栗原康に戻ってきたところで今月はここまでということで、皆さんも年末
 年始楽しい読書ライフをお過ごしください。一年お付き合いありがとうござい
 ました。また来年お目にかかります。 
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
 -------------------------------------------------------------------
 ■トピックス
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 ■ 三崎 いしいしんじまつり2018
 └─────────────────────────────────
 https://ishiishinji2018.peatix.com/

 2015年の三崎プチプチいしいしんじ祭から3年。
 昨年三崎に引っ越した
 夫婦出版社アタシ社と作家いしいしんじさんが出会い、
 3年ぶりに“いしいしんじ祭”を開催することとなりました!
 
 
 【イベントの目玉】
 来る2019年初春、アタシ社からいしいしんじさんの新刊が発売予定。
 物語の舞台はもちろん“三崎”。
 イベント当日、アタシ社の蔵書室「本と屯」で
 先行予約を受け付けます!
 
 \さらに、さらに/
 このイベントだけの特別ライブをあなたに。
 原田郁子さんが三崎にやってきます。
 50名限定のスペシャルライブとなりますので、
 お早めにチケットをお求めください。
 
 ほかにも……
 いしいしんじ縁の土地、三崎の商店街を中心に
 小さなブックフェア、トークイベント、ライブ、パフォーマンスなど、
 一日限りのお祭りを開催します。
 クリスマス・イヴイヴの日、
 本に囲まれながら一日を三崎で過ごしませんか? 
                        ―HP告知より抜粋― 


 ◆日時:2018年12月23日日曜日 11:00〜20:30 JST

 ◇場所:本と屯 三浦市三崎3丁目3-6 
 
 【イベント詳細】
 
 ◆場所:三崎港周辺のあちこち
 ◆アクセス:京急三崎口駅よりバスで10-15分、バス停「三崎港」下車
 ◆駐車場:近隣のコインパーキングをご利用ください
                                       (1日最大600円程度が多いです)
 ◆料金:
 (1)【チケットA】「いしいしんじ祭」チケット1000円(上映会とライブは除く)
 (2)【チケットB】完売

 【お祭りの具体的な内容】
 
 贈り物にしたい本たちの小さなブックフェア(入場無料)
 新潮文庫、ミシマ社、アノニマ・スタジオ、港の人、ニジノ絵本屋、藤原印刷、
 BOOK TRUCK、横須賀上町休憩室とその仲間たち、
 自由大学「Publisher入門」
 @三崎港前 山田屋2階、中華ポパイ前の蔵 11:00-16:00
 
 いしいしんじの本棚(入場無料)
 いしいしんじさんの家にあった本が集結!
 いしい家の本棚を数百冊の本で再現! 
 @ミサキファクトリー前の蔵 11:00-16:00
 
 まるいち企画 マグロの頭輪投げ
 まるいち食堂さんのご協力のもと、マグロの頭を使った特製輪投げ!
 @本と屯横駐車場 12:00-15:00
 
 ■戌井昭人の朗読パフォーマンス(チケットA)
 @本と屯 12:30-13:00
 
 ■出張ニジノ音楽会 The Worthless 絵本LIVE(入場無料)
 @佐藤薬局駐車場 13:30-14:00
 
 ■湯浅学の音楽ライブ(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 15:00-15:30
 
 ■いしいしいんじ その場小説(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:00-16:30
 
 ■三崎談話 トークイベント
   (いしいしんじ×矢野優×石田千×戌井昭人×湯浅学)(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:45-17:45
 
 ■いしいしんじ十一のはなし上映会
   (映像:香山宏三)と原田郁子special LIVE(チケットB)
 @ミサキドーナツ本店2階 18:30-20:30
 上映会/18:30-20:00、原田郁子ライブ/20:00-20:30
 
 企画・運営/アタシ社      ―HPより転載させていただきました―

 詳細は⇒https://ishiishinji2018.peatix.com/

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 ■あとがき 
 今年も終わりますね。皆様にとってはどんな年だったのでしょうか。個人的に
 は別れることの多い年でした。父、18年暮らした猫、たった三か月だったけ
 ど家族になってくれた猫。
 夫の闘病も六年目を迎え、「回復」から「進行」に移行してきた年でした。
 でも、今思うと毎日は結構充実していた…ような。忘れっぽいからな?
 とにかく、健康!と唱えていました。
 
 一年間、本当にありがとうございました。
 来年もよろしくお願いします。どうぞ、よいお年を!  畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.701

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■■ [本]のメルマガ                 2018.12.05.発行
■■                              vol.701
■■  mailmagazine of books     [ジンジャーエールをぐびぐび 号]
■■------------------------------------------------------------------
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『「食」の図書館 牡蠣の歴史』

キャロライン・ティリー著 大間知 知子訳
四六判 192ページ 本体2,200円+税 ISBN:9784562055616

有史以前から食べられ、二千年以上前から養殖もされてきた牡蠣をめぐって繰
り広げられてきた濃厚な歴史。古今東西の牡蠣料理、牡蠣の保護、「世界の牡
蠣産業の救世主」日本の牡蠣についてもふれる。レシピ付。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その30「お酒」その1

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 2011.3.11 大川小学校で起きた悲劇

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■クリスマス絵本を楽しもう! in 青猫書房
└──────────────────────────────────
12月5日(水)〜12月17日(月)(火曜日定休)
こどもの本青猫書房では、クリスマスに読みたい絵本やプレゼントに最適な絵
本をギャラリーに展示しています。期間中、以下のワークショップを行います。
絵本選びのお手伝いもいたします。

<布の絵本のはなし&ミニ布絵本制作ワークショップ>
人気の布の絵本の紹介と制作秘話を聞き、手作りミニ布絵本作りを体験してみ
ましょう。糸までついたキットから作ります。
●12月8日(土)14:00〜15:30ごろ
●12月9日(日)14:00〜15:30ごろ (両日、同じ内容です)
場所:東京都北区赤羽2-28-8 こどもの本・青猫書房
対象:中学生以上
参加費:500円(持参するもの。定規またはメジャー、針とはさみなど裁縫セ
ット)
先着 各6名(要電話申し込み 03-3901-4080)
見学のみは無料(当日、直接ご来店ください)
伝え手 絵本専門士 中澤由梨子 制作指導 青猫書房店主 岩瀬惠子
申込み・問い合わせ 青猫書房 03-3901-4080 HP:http://aoneko_shobou.jp

掲載に関するお問い合わせ 中澤由梨子(世界文化社)
yuriko.ehon8@gmail.com   070-1257-2956

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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その30「お酒」その1

 子供のころから本を読んでは、こっそり憧れていたもの。それは、禁断の味。
子供には絶対口にすることのできないもの。そう、つまりお酒なのだ。

 例えば、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』で始まるシリーズ
の中では、子供たちはスティーヴンスの『宝島』に憧れていて、ラム酒の代わ
りにジンジャーエールをぐびぐび飲んでいる。

 同じように、私も葡萄酒、ワインに憧れた。

 我が家では、父がまるきりの下戸だったので、日本酒やいただき物のウィス
キーは来客用に置いてあったけれど、ワインやらラム酒やらとは無縁の家だっ
た。一度だけ、同じ社宅に住む人たちが集まってクリスマス・パーティを開い
てくれて、「パンチ」なる物を飲ませてもらったことがある。あれは、今でい
うサングリアの子供版だろうか?ほんの少しのワインをサイダーで割ってフル
ーツを浮かべた飲み物だった。サイダーでさえ飲めないような子供だったけれ
ど、その赤くて果物が浮いたきれいな飲み物が飲めて嬉しくてしょうがなかっ
た。

 たぶん、私は、ワインの色に憧れていたのだ。だから、ファンタ・グレープ
なる飲み物が現れた時は嬉しくて、それをわざわざワイングラスのような脚付
きのグラスに入れて、炭酸を飛ばしてから、自分なりに優雅にすすりながら本
を読んで楽しんだ。

 今ではどんなお酒も飲めるようになったけれど、まだまだ飲んだことのない
お酒は物語の中に沢山あって、私はひたすら憧れている。

 その中のいくつかをここに書きだしてみようと思う。

 まずは児童文学の中から。

 『赤毛のアン』の間違えたイチゴ水の話を見てみよう。

 たぶん『赤毛のアン』の中で一番有名な飲み物は、このイチゴ水だ。かき氷
のイチゴシロップはあっても、飲み物としては聞いたことがなかったので、ど
んな味なんだろうといろいろ考えてしまった。でも、本当に飲みたかったのは
実は別のものなのだ。子供心に憧れたのは……。

 それは、こんな場面に出てくる。

 ある日、講演会に出かけようとした養母のマリラがアンに、親友のダイアナ
を呼んで「午後ふたりでお茶会をしてもいいよ」と、言う。生まれて初めて人
を招くことのできるアンは、はりきって準備をする。やって来たダイアナも子
供だけのお茶会に招待されるのは初めて。しゃちこばって大人のように挨拶を
かわす二人の様子は、何度読んでも可愛いい。

 けれど、このお茶会は、マリラが親切に「先週教会の集まりで出した残りの
イチゴ水があるからお飲み」と言ってくれたことによって、大変なことになっ
てしまう。

 アンがイチゴ水と間違えて棚から出したのは、マリラのお手製の三年物のス
グリの果実酒。それをコップに三杯も飲んでしまったダイアナは具合が悪くな
って早々に帰ってしまった。帰ってきた娘の様子を見て酔っ払っているのに気
付いたダイアナの母は、アンがわざと娘にお酒を飲ませたと思い込んで激怒し、
二人は引き裂かれてしまう。

 アンにとっては大変に悲劇的な場面なのだが、この一見イチゴ水に見える果
実酒が、とてもおいしそうなのだ。

 少し大人になった今、はっきり言える。あの頃、私が飲んでみたかったのは、
このイチゴ水(木苺水=ラズベリー・コーディアル)ではなく、スグリの果実
酒(英語でカラント・ワイン、フランス語でカシス)だった。

 だって、こんなに美しくておいしそうなのだ。少し引用してみよう。

 <ダイアナは、自分からコップになみなみとつぎ、その鮮やかな赤い色合い
を感心して眺め、それから、お上品に、少しずつ啜った。
「まあ、アン、なんておいしい木苺水でしょう……」>

 そして、近所のリンド夫人が作ったものとは全然違う、てんで味が違うと言
い、コップに三杯も飲んでしまう。

 つまり、ダイアナにとっておいしかったのは、スグリの果実酒なのだ。
 ラズベリー・コーディアルも真っ赤だし、たぶん赤いスグリの身を漬け込ん
だマリラお手製の果実酒も同じように赤くてきれいだったから間違えたのだろ
う。でも、ダイアナが言うように、味は果実酒の方が上なのだ。梅酒のように
甘かったのかもしれない。

 そして、なによりダイアナが感心して見つめるほど美しいお酒なのだ。そん
なに見惚れるほど真っ赤で綺麗なものなら、飲みたいのは果実酒の方だとずっ
と思っていた。

 もちろん、マリラの手作りの果実酒は無理だけれど、カラントのリキュール
なら聞いたことがある。松本侑子訳の『赤毛のアン』の註は実に詳細で、シャ
ンパンにカシスエキスを加えた「キール・ロワイヤル」について書いてある。

 仕方がないから、これで我慢するとしよう。大人になったから、楽しめる世
界もあるのだと思おう。

 
 同じように、子供心に憧れたお酒がある。

 それは、宮沢賢治の『やまなし』に出てくるお酒だ。

 このお話の主人公は川の底に住む三匹の蟹。お兄さんと弟とお父さん。舞台
は十二月のある月夜。あまり月の光がきれいなので蟹の子たちは眠らずにいる
と、

 <そのとき、トブン。
  黒くて円い大きなものが天井から落ちてすうっとしづんでまた上へのぼっ
て行きました。キラキラッと黄金のぶちぶちが光りました>
 
おびえる子供たちに、これはやまなしの実だよとお父さんが教え、
月の光を浴びた水の中はやまなしの実のいい匂いで一杯になる。
蟹たちは流れて行くやまなしの実の後をついて行く。
やがて、やまなしの実が木の枝に引っかかると、お父さんは、三日待てば実が
下に沈んできて美味しいお酒になると言い、蟹の子たちはみんなで穴に引き返
す。

 もう、賢治の文章が何度読んでも美しくて、水のゆれ、月の光、虹、香り、
すべてがゆらゆらと美しい幻燈の世界の物語なのだ。

 この物語、私は子供のとき読んだっきり忘れていた。誰が書いたのかもたぶ
ん知らなかったのかもしれない。けれど、友人に誘われて行った花巻の「宮沢
賢治記念館」で幻燈の展示を見て、この本を読んだ時のことを思い出し、そし
て、自分の中に眠る宮沢賢治への思いに気付いたのだった。それから改めて賢
治を読み直して行った、そんな思い出の作品なのだ。

 では、なぜそんなに忘れられなかったのか?

 それは絶対、水の中に沈んで、ゆっくり発酵して、やがて美味しいお酒にな
るというやまなしの実の魅力によるものだと思う。

 果たして、やまなしはうまく沈んできたか?
 お父さんはそのお酒を飲めたのか?
 蟹の子供たちは、やまなしの実を食べただろうか?
 その味は?香りは?その色は?

 何も書かれていないからこそ、月の光のきらめく水の中へと、思いがいつま
でも漂って行くのだ。

 私が子供のときすすめられて困っていた梅酒の中の梅の実のように、お父さ
ん蟹も発酵したやまなしの実をはさみでちょんと切って、子供たちに、ほらお
食べと差し出したかもしれない。お父さん蟹も子蟹も、みんな少し赤くなって
笑いあっただろう。

 そんな風景を考えながら、でも、できればお父さんになってお酒を飲みたい
なあと憧れるのだ。

 洋梨が出回ると必ず買ってしまうのはこの物語のせいかもしれない。食べき
れずに熟しすぎた実はケーキの材料に使うのだけれど、レシピによっては、ウ
イリアムという洋梨のリキュールをかけるようにと書いてあったりする。

 そのうちにこのリキュールを手に入れて、サイダーで割って月の光を注ぎ入
れ、お父さん蟹の気分で味わってみようと思っている。
 
 でもそれより、本を開いてこの幻燈世界の中に入り込むほうがもっと酔える
気もしている。

 大人だからお酒は手に入る。でも結局は、そんな代用品より、物語の世界の
住人となってその味を味わう方が、ずっと酔えると思うのだ。

 物語の世界の味わいとその酩酊は、とても深くて長いのだ。

----------------------------------------------------------------------
『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ著        集英社文庫
『やまなし』宮沢賢治著 宮沢賢治全集第八巻    ちくま文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

----------------------------------------------------------------------
■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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2011.3.11 大川小学校で起きた悲劇

 昨日、早稲田大学で、2011年の東日本大震災と大川小学校で起きた悲劇を今
に伝える、佐藤敏郎さんのお話をお聞きする機会をいただきました。

佐藤敏郎さんの紹介記事
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/dango24

 下記は、佐藤さんが講義の中で紹介していたブログです。

【被災地の教育現場 vol.13】新学期は中島みゆきから
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/10/13/15990/

【被災地の教育現場 vol.16】 青空バレーボール部I
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/11/05/16504/

【被災地の教育現場 vol.17】 青空バレーボール部II
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/11/19/16507/

 下記は、講義でも配布された、大川小の教訓を活かすための小冊子です。

冊子『津波から命を守るために』 
http://sspj.jp/brochure-tsunami/
冊子『小さな命の意味を考える』 
http://sspj.jp/brochure-chiisanainochi/

 私も詳しく知らなかったのですが、大川小学校では、周辺の学校ではほとん
ど犠牲者が出なかったにも関わらず、児童78名中74名、教職員13名中、校内に
いた11名のうち10名が死亡したとのこと。しかも、逃げる時間も手段もあり、
逃げる意思もあったことが確認されています。しかし、このような犠牲が出て
しまったのです。

 現在も裁判が行われているので、責任問題云々は置いておくとして、お話を
お伺いして思ったのは、これは、どこにでも起きうることである、という認識
です。

 これは組織が持つ逆機能が起こしてしまっていることであり、子どもだけで
自主避難していれば、ほとんどが救われたであろうことを思うと、大人の作っ
ている「組織」というものの弊害の恐ろしさに、ひとりでも多くの人が気づく
べきだと感じました。

 自分で考え、判断する、意思決定することを推奨した教育をしつつ、子ども
全員の安全を守るという「大義名分」によって、自律した思考・行動をつぶし
ているのが日本の組織やコミュニティの原型ではないかと思います。多様性を
認めるというのはリスクもありますが、生物界同様、生き残りや突然変異、イ
ノベーションのチャンスでもあります。

 津波が来る中、余震が続き土砂崩れも可能性のある中、おそらく子どもたち
に自主避難させて、ひとりでも犠牲者が出れば、その学校や先生はメディアや
世間から強烈なバッシングを受けたことでしょう。そういう意味では、子ども
たちや先生を見殺しにしたのは「世間の目」かもしれません。そして「世間の
目」は、まさに私たちの心の中にあるもので、だから怖いな、と思いました。

 悲しい話、苦しい話ばかりでもなく、その経験から生きるということを見つ
け出した子ども達の姿も紹介されました。

 国語の先生であった佐藤敏郎さんは、震災後、言葉を無くしていた子ども達
が俳句の授業を通して「伝える」ようになったことを話されていました。今で
はそれがいくつかの書籍になっているそうです。

震災後の思い「五七五」に込め空へ 宮城・女川の中学校
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201112240124.html

本に託した「伝えたい」という想い
『16歳の語り部』表彰式スピーチ全文
http://www.webasta.jp/serial/interview/post-242.php

 佐藤さんがおっしゃっていたのは「被災地」という言葉の意味についてです。
どうして阪神大震災の時に、中越地震の時に、次は自分のところが被災地にな
る、と思えなかったのだろう、と。実際、東日本大震災の被災地には、津波を
警告する石碑が立っていたそうですが、ほとんどは意味が分からない単なる石
碑になっていたそうです。「被災地」ではなく「間災地」と思えば、日本全国
どこも同じだ、ということです。

参考)此処より下に家建てるな…先人の石碑、集落救う
http://archive.is/iGMl

 実際、佐藤さんのお話では、子どもの頃から、大地震・津波が来たら高台に
逃げろ、と子どもの頃から叩き込まれていた地域では、寝たきりの老人が走っ
て高台に逃げ、難を逃れたという話もあったそうです。一方で、2010年のチリ
地震による大津波の影響を受けた地域では、前回はここまでしか来なかったか
ら大丈夫、と言っていた老人たちに犠牲者が多かったそうです。

 佐藤さんの話は実際に起きた話ですので、そこには正解も間違いもありませ
ん。どんな教訓をそこから引き出そうが、誰か自分とは関係ない世界の話、と
するのも良いのではないかと思います。

 私が感じたのは、脳の持っている「可塑性」という性質の怖さです。脳はエ
ネルギーを使いたくないので、できるだけ反応を自動化し、省力化しようとし
ます。それは当然、老化によって、子どもよりも大人の方に、そういう性質が
強くなります。

 前例主義、組織依存、動くことより動かないことの選択、変えることより変
えないことへの執着。こういったものは、脳の可塑性の影響下にあることも、
ひとつの要因ではないかと、私は仮説を立てています。実際、大川小の事例で
も、目で見るまでは津波が実際に襲ってくることをイメージできなかった先生
方が多かったことが、避難を遅らせた原因のひとつではなかったのかと思いま
す。ラジオの音声をビジュアルに変換することができなかったのでしょう。例
えば停電してもネットで検索し、映像を見ることができれば、行動も変わった
のではないかと思います。

 佐藤さんは、行政が詳細なマニュアルを作り込む方に労力をかけていること
を批判していました。そんなもの、パニックになっている現場では役に立たな
い。私もそう思います。

 パニックになった脳でも処理出来て、行動に移せるような、そんな対策を普
段から自分に、そして自分の大切な人にインストールしておく。そんなことが、
私の学んだことでした。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 大川小学校についての本は、このメルマガの姉妹紙の[書評]のメルマガ内、
多呂ささんの連載「日記をつけるように本の紹介を書く」にて、2度ほど取り
上げられています。

第100回 死んでしまった子どもたちと生き残ってしまった大人たち
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979084

第43回 東日本震災関連(その18)・・・子どもたちの悲劇
http://back.shohyoumaga.net/?eid=978975

 私も読んではいましたが、いや、実際に関係者の方からお話を聴くと、数字
が単なる数字ではなく、胸に飛び込んできまし、自分事として話を聴くことが
できました。

 機会があれば是非、皆さんもどこかでお聞きになっていただきたい、と思い
ます。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.699

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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.11.15.発行
 ■■                             vol.699
 ■■  mailmagazine of book  [もうすぐ平成が暮れゆきます号]
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 黒船、大八車、零戦、スーパーカブ、ミゼット、新幹線……。幕末から昭和に
 かけて日本の歴史的瞬間に立ち会った50の乗り物について、技術的側面
 とともに社会にどのように作用したかを、写真やデータを交えて解説する。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。次回に乞うご期待!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第113回 白い一本柱のテントのもとで
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 廃校活用術!
  
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 ■トピックス
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 2のイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第113回 白い一本柱のテントのもとで


  11月3日、千駄木の養源寺で開催された「しのばずくんの本の縁日2018」
 は、お天気にも恵まれてじつに楽しいブックイベントだった。もう今年で3回
 になるのだなあ。養源寺のご住職の「境内を本でいっぱいにしたい」とい
 う思いは、すっかり秋のイベントとして定着したみたいだ。
 出版社、古書店、
 ミニコミ・リトルプレスのブースが並んで、お寺の境内は本であふれている。
 境内の奥にはキッチンカーもあって、ちょっとしたフェスティバルだった。

  若い人からお年寄りまでたくさんの人が本のブースをのぞきこんだり、出
 版社の人たちと話をしていた。キッチンカーで買ったホットドックをのんびり
 芝生にすわって食べる人たち、なんとも平和な景色だった。ぼくは、全体の音
 響や潮田登久子さんのトークイベント、アイリッシュバンドの「きゃめる」のライ
 ブのお手伝いで本堂の縁側から、境内にひろがる幸福感にうっとりとしていた。

  春の一箱古本市も楽しいけれど、こじんまりした空間に本好きな人たちが
 集まるのはいいものだ。
境内には、とんちピクルスさんのDJで流れてくる洒
 落たBGMも気持ちよかった。DJだけでなく、ウクレレを弾きながら、“とんち”
 の効いた歌も披露してくれた。本堂の縁側でウクレレ片手に歌うとんちピクル
 スさんを階段下で夢中で見てた子どもたちが可愛い。人形メンバーと話す腹
 話術には子どもたちが目を丸くしていた。

  これだけ大勢の人が集まるのは、もちろん魅力的な出版社、古書店、ミニ
 コミのブースがあるからだろうけれど、ただ「本の売り買い」だけではなく、手
 作りのイベントが醸し出す、やわらかく、ゆるやかな感触が魅力になっている
 からだろう。

  来場した人ならば、すぐに気づいただろうけれど、境内には大きな白いテ
 ントが張られていた。一本の支柱が立てられて、数本のロープが木に結びつけ
 られただけのテントだ。見るからに手作りのテント!
  市販のテントのようにきっちりとはしていないが、なんだか人間味があふれ
 ているというか、人を包み込むような雰囲気がある。この手作りテントがこのイ
 ベントの象徴じゃないかと、ぼくは思う。

  このテントは、千駄木のジョージ・ルーカス、Iさんが考案したものだ。毎年
 七月にある光源寺での「ほおずき千成市」ではおなじみの一本柱の白い大き
 なテント。このテントを張るのが祭りの儀式のようで、白い天幕が風にたなび
 くのを見上げると気分が盛り上がってくる。
「しのばずくんの本の縁日」でも、
 Iさんのテントを張ろうということになったのだが、これがなかなかの試練だった。

  3年前の準備の日、次から次へ本や荷物が運び込まれ、ブースの配置が
 決まっていった。だが、テントの作業はいっこうに進まなかった。初めての会場
 で、位置がなかなか決まらない。下見をしてはいても、実際にテントを立てると
 なると予定どおりにはいかない。

  ぼくはIさんのことをアーチストだと思っている。テントは、現代美術のインス
 タレーションのようにIさんの表現だ。毎年、恒例になっている「ほおずき千成
 市」でも、少しずつ張り方がちがっている。Iさんは頭の中にあるイメージを再現
 しようと、指示をしていく。位置が決まったかと思うと、すぐにやり直しの指示が
 飛ぶ。降り出した雨がだんだん激しくなってくるし、あたりは暗くなってくる。

  これが、いまや伝説となっている(か、どうかは知らないが)3年前のテント
 張り事件だ。冷たい雨が降る中、何時間も作業が続いたが、Iさんは、なかな
 か納得がいかない。あたりはもう真っ暗になっていた。終わりのない作業に、
 ぼくたちも疲れ果てて、夜中近くに一旦作業を中止して、暗澹たる気持ちで朝
 を待つことになった。

  翌朝、前夜の雨が嘘のように晴天になっていた。そして、テント!
   なにがうまくいったのか、ぼくにはわからないが、支柱が立てられて天幕が
 きれいに張られた。見上げると、天幕のすきまから見える青空がまぶしかった。
 疲れ切っているはずなのに、実行委員の人たち、助っ人もじつに軽快に作業を
 進めていった。奇跡を見ているようだった。きっと神様がブックイベント「しのば
 ずくんの本の縁日」を祝福してくれたにちがいない。いや、お寺なんだから仏様
 のお慈悲なのかな。

  一度、うまく張れたからといって、翌年は簡単になるというわけではない。
 2年目もそれなりに時間がかかった。Iさんは、やはりアーチストで、同じ張り方
 を繰り返すことは意に反するようだ。やれやれ、と思いながらも白いテントが風
 になびくのを見ると、気分がよくなって苦労を忘れてしまう。

  今年のテント張りは、年寄りのぼくはお役御免になったのだが、1時間半ほ
 どで作業がすんだという。縁日当日の朝、テント微調整を終えたIさんは、ビー
 ル片手にご機嫌だった。おおっ、3年目にしてコツをつかんだのか? いや、
 あまり期待しないほうがいいのかな。アーチストのひらめきはそのときになって
 みないとわからない。とかく効率、能率の高さが求められる世の中だけれども、
 こうやって“ゆっくり”時間をかけて作っていくのもいいものだ、と思う。既製品
 のイベント用テントを張っても味気ないだろう。人一倍、地元愛溢れるIさんの
 本の縁日への熱い思いがあるからこそ、テントは美しく張られるのだ。

  ときおり本堂の縁側から境内を眺めると、助っ人さんたちが働いている様子
 が目に入る。会場の案内をするのはもちろんだけれど、指示されたわけではな
 いのに、ゴミに気づくと箒を持ってきて掃除をしたり、常に気を配っている。
 そして笑顔。だれもがイベントを大切にしているのが伝わってきた。最後の
 かたづけが終わって、「じゃあ、また」とさらりと別れるのもいいな。

  体力的にきつくなってきたけれど、「ああ、またこの人たちといっしょに助っ
 人をやりたい」と思ってしまうのだ。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


   
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  うちの近所にもあるんですよ。なんだか産業関係の施設になったようなんで
 すけど、正直何をやってるのかよく分からないんですよね。建物はそのまま流
 用しているようなんですが…。
 
  何の話か分からない?廃校の話です。ということで今月はこちら。
 
 『廃校再生ストーリーズ』、美術出版社、2018
 
  少子化や過疎化に伴って日本全国で廃校が増えています。本書によれば毎
 年500校も廃校になっているといいます。(最近はいくつもあった小学校や
 中学校を一度にひとつにまとめてしまうこともよくあるので、いつまでもこの
 ペースで廃校が増え続けるとも思えないですけど。)廃校が今後も増えてい
 くのは間違いないところでしょう。
 
  そこで課題となるのが、廃校をどう生かしていくのかということになります。
 本書は日本全国から20の廃校活用の事例を挙げています。
 
  例えば廃校の活用事例として、本書に取り上げられている鳥取県八頭町
 の隼Lab.や東京都世田谷区のIID世田谷ものづくり学校のようにベンチャー
 企業などに入居してもらうという例は、割と多いのではないでしょうか。
 
  しかし冒頭の我が家の近所の廃校のように、産業関係の施設って地元の
 人からするとあまり関係が無いんですよね。(もちろんその企業に興味があ
 れば別ですが。)
 
  先に挙げたふたつの施設に共通しているのは、学校の面影を残すことや
 地域に開かれていることです。隼Lab.は学校の外観を「あえて改修しなか
 った」(p,19)、地域の人たちの「思い出を損なわ」(同)ないことにも意識を
 向けています。IID世田谷ものづくり学校ではクリエイティブな人たちが集ま
 ることで「敷居が高い」(p,27)と感じてしまう人たちが、気軽に入れるように
 することに心を砕いています。
 
  どちらの施設にもカフェがあったり、イベントを開いたりして、これといった
 用がなくても入れるような構造になっているのも共通しています。
 
  この本に紹介されている廃校の中で、唯一私が行ったことのあるアーツ
 千代田3331も広いエントランスがあって、実に入りやすい作りでした。小学
 校とその隣にあった公園を一体化させてその構造を実現しています。
 
  もちろん廃校の使われ方は千差万別。その他にも色々と面白いものにな
 ったりしています、道の駅・ドローン開発施設・病院・福祉施設・etc.…。
 
  長崎県西海市にはひとりの人が集めたレコードとプレーヤー等のコレクシ
 ョンを展示している、音浴博物館という施設になった廃校があります。
 
  この建物は廃校後一時寮として使われていたのですが、ちょうどコレクシ
 ョンの展示場所を探していたコレクターの男性が岡山からやってきて、地元
 の人たちを巻き込んでオープンさせました。その後寮だった時代に失われ
 ていた学校時代の面影を取り戻すためのリニューアル工事が行われていま
 す。
 
  音浴博物館は今年間8000人のお客さんが訪れる場所になっています。
 地元のみならず、多くの観光客を集める場所になりました。
 
  山口市の阿東文庫も廃校を資料館として利用しています。もともとある人
 が地元で捨てられる本を収集していたものを、廃校の一画に置かせてもらっ
 ていました。それがだんだん増えて管理しているうちに、それを生かしたイ
 ベントもするようになっていくという過程を経て、ついに廃校自体が資料館と
 なったのです。
 
  捨てられた本ではありますが、明治・大正期の本も収蔵しており、そのコ
 レクションはなかなかのものなようです。行き先の無くなった大学教授からの
 寄贈本もあります。
 
  巻末には廃校を使って事業をする際のQ&A も色々載っています。学校を
 他の用途に転用するには、都市計画法や建築基準法・消防法など様々な
 法律で定められた基準の違いを乗り越えないといけません。それに公共の
 資産を使うわけで、用途もなんでもOKなわけではありません。老朽化した施
 設の補修も、自治体が全部してくれるとは限りません。
 
  本書に取り上げられた廃校再活用の事例はそうした様々な課題をクリアし
 た上で行われています。
 
  それぞれに共通していることは、学校がその地域のシンボルであることを
 強く意識していること。地元の人たちが学校に抱いている思いに充分に意を
 注いでいます。
 
  その上で廃校であることにマイナスのイメージを持っていない。むしろここ
 をもう一度地域のシンボルにしようという意気込みが感じられます。
 
  観光という意味でも、おもちゃ博物館・漫画ミュージアムや水族館など様々
 なものに生まれ変わった廃校を訪ねてみるのも面白いかもしれません。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。

  
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 ■トピックス
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 ■ 古書ほうろう サウダージな夜
 └─────────────────────────────────

 今回の「サウダージな夜」は、
 朗読詩人の成宮アイコさんをゲストに迎えます。
 7月10日、ほおずき市のときに古書ほうろうで店番をしましたね。
 ぼくは、ふげん社で行われた南陀楼綾繁さんとのトークで会いました。
 「新潟の魅力と残念を語る」というテーマのトークでしたが、
 成宮さんの聖地「イトーヨーカドー」の話は面白かったなあ。
 サウダージでも新潟の話や
 アイドルRYUTistのことも聞いてみたいと思います。
 もちろん、生きづらさを抱えた人たちに語りかける成宮さんの
 パフォーマンスをたっぷりお届けします。             吉上恭太

                                                             〜古書ほうろうHPより

 

◆日時:2018年11月23日(金)20時より(1時間ほどの予定)

  出演  吉上恭太  ブログ 昨日の続き  https://twitter.com/ykyota

         https://www.facebook.com/kyota.yoshigami

  ゲスト 成宮アイコ http://aico-narumiya.info/

◇会場:古書ほうろう

★入場料:無料(投げ銭歓迎) (飲み物持込み可/三軒隣に酒屋あり)

     *空き缶などのお持ち帰りにご協力ください。

 ■ 第6回いしのまき本の教室  
                                       ちいさな出版物の設計図を作るワークショップ
 └─────────────────────────────────
 お待たせしました「いしのまき本の教室」第6回目の開催です!
 小さいけど良質な本を発表しつづける出版社や、
 地域で活動する編集室など、
 近年の出版のあり方は多様化しています。
 出版に関わる主体が多様化しているとも言えるかもしれません。
 本や雑誌をつくること、やってみたいけど、
 どうすれば最初の一歩が踏み出せるか判らない人たちに
 入り口をご用意します。
 ミニコミ、リトルプレス、zine、フリーペーパーなど
 呼びかたはいろいろありますが、
 要は少部数・自主流通のちいさな出版物のことです。
 それらをつくる第一歩として、「設計図」を一緒に考えていきます。
 出版や編集の経験は必要ありません。年齢も不問です。
 お子さんと一緒の参加も歓迎です。
 「こんなものをつくってみたい」
 「こういう内容をカタチにしてみたい」という気持ちがあれば、
 誰でも参加できます。

                         〜石巻 まちの本棚HPより抜粋

 ◆日時:2018年12月7日(金)18:30-21:00
 ◇場所:石巻まちの本棚(宮城県石巻市中央2-3-16)
 ★参加費: 2500円(材料費含む)
 ☆定員: 12名
  持ち物/自分の好きな雑誌、リトルプレス、フリーペーパーなど1冊。筆記具。

 ●講師:南陀楼綾繁
 1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、
 図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・
 根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開
 催される多くのブックイベントにも関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人
 として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営
 にも携わる。雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。
 著書に『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
 (ちくま文庫)、『蒐める人』(皓星社)などがある。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 今年も残すところ、一ヵ月余り。「平成」も終わりが近づいてきま
 した。ここにきて出版や流通も大きな変化が起きています。思いもよらないこと。
 でも動いているのだから変化は当たり前なのかもしれません。何を手放さずに
 いるか、見極めていきたいと思います。 畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.698


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■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その29「ル・グィン追悼―魔法使いと竜」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立版画美術館)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
----------------------------------------------------------------------
■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

----------------------------------------------------------------------
■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その29「ル・グィン追悼―魔法使いと竜」
 
 今年一月にアーシュラ・K・ル・グィンが亡くなった。その時から、なにか
追悼の文章を書きたいと思ってきた。私らしく、彼女の世界を彷徨いながら、
おいしいものが出てくる場面を見て行こうかと。

 けれども、彼女の作り上げてきたSFやファンタジー世界はあまりに広すぎる
ので、今回はアースシーの世界、いわゆる「ゲド戦記」の舞台である海と島の
世界だけを見て行こうと思う。そして、その中に描かれる魔法使いやファンタ
ジーで最も重要な生物である竜の食生活を見て行きたい。

 このアースシー、「ゲド戦記」の世界は、前半三部作(『影との戦い』『こ
われた腕環』『さいはての島へ』)と後半三部作(『帰還』『アースシーの風』 
『ゲド戦記外伝』)では食事の描かれ方が違う。さらに、竜の描かれ方もまた
全然違ってしまうのだ。

 例えば、前半三部作にはほとんど食事の場面は出てこない。というのも、第
一巻ではゲドは若い魔術師として修業する話なので、自分で料理などしないか
らだ。食事の場面も、魔術を学ぶロークの学院の給食を食べたり、旅に出ても
友人の妹が用意してくれる糧食を食べたりする場面くらいしかない。第二巻、
第三巻も同様に、冒険に出た先でもゲドは料理などしない。物語に出てくる他
の魔法使いたちも料理をしない。ただ第三巻で若い学生が、アレン王子をから
かって我々魔法使いは呪文で好きな料理を出して食事をすると言うのだが、す
ぐに調理場で作っているレンズマメと玉ねぎのスープを食べることになりウソ
がばれてしまうところがある。だから、魔法学校でも料理は普通に作っている
ことがわかる。

 後半の『帰還』になると主人公が第二巻に出てきた元巫女のテナーに変わる。
テナーは魔女ではないけれど、魔力を秘めた存在だ。けれどもこの物語では、
長い間農家の主婦として働いてきた中年の女性になっている。農作物を育て羊
の世話をし、チーズを作り料理をして家族に食べさせる。テナーのそんな生活
の描写が現れてきてやっと、食事の場面は物語の中に書き込まれていく。さら
に後半部に入ると、ゲドも料理はしないにしろ皿を洗うし、『アースシーの風』
では、熟したスモモを収穫して訪ねてきた旅人にパンとチーズと共にふるまっ
たりするようになって行く。

 さて、肝心の竜なのだが、実は以前に物語や伝説の中の竜というのは何を食
べているのかを調べてみたことがある。
 東洋の龍も西洋の竜も、玉や宝石を好むのだが、それだけが食べ物かという
と、そうとも言い切れないようだ。若い燕の肉や血を食べるという説もあれば、
いやいや真龍は露の気だけを食べるのだという説もある。だが、どちらにも共
通するのは若い女性を生贄にするという話だ。
 本当に食べるのだろうか?
 この生贄とやらは、多くは年に一度捧げられればいいらしいのだけれど、そ
のお肉の量などを考えると、竜の大きさに対して、どうも少なすぎる気もしな
いでもない。

 そんなことを考えながら、ル・グィンの世界に入って行こう。
 第一作の『影との戦い』では、ゲドと竜の戦いの場面がある。この竜イエボ
ーは魔法も使える邪悪な存在で、金銀財宝を略奪するために人を殺す残虐な奴
だ。イエボーはベンダー島でメスの竜と暮らしていたのだが、彼女が出て行っ
た後に残された卵から孵った八匹の息子を育てていた。そして、ゲドは子供の
竜が食欲を感じるまでに退治しなくてはならないという使命を帯びて島へ行く。
そして竜の息子三匹を殺し、イエボーを真の名前で縛って彼らが多島海に来ら
れないようにしてしまう。
 ここでわかるのは、例え竜であっても子供の時に、いきなり「生娘」を食べ
たりしないということだ。さらに、メスの竜がいるならば、その食事も「生娘」
だとは思えない。たぶん若い燕ではないにしろ、羊や小動物を食べているのだ
ろう。

 これに対し第三巻の『さいはての島へ』と後半の三部作に現れる竜は、古代
からの長い寿命を持った深い知恵の持ち主で、ゲドを助ける存在として描かれ
ていく。彼らは超越した存在で、なにかを食べているところは描かれない。
 さらに、物語が進んでいくと、このアースシーの成り立ちの根本に、人間と
竜が元々は同じものだったという話があることが明らかになって来る。やがて、
それとは知らずに、あるいは知りながらも人間として生きているが実はその本
質は竜であるという者たちが後半の物語の中心になって行く。

 では、この竜である人は何を食べるのかといえば、ごく普通の食事なのだ。
 『帰還』で現れるテルーという少女は、テナーが作った

「パンとチーズに、ハーブ入りのオリーブ油に漬けた、よく冷えた豆、それに
オニオン・スライスとソーセージのたっぷりとした食事」

をテナーと一緒にお腹いっぱい食べる。
 旅の途中ではオートミールをすすり、胡桃や干し葡萄で元気をつける。魔法
使いのオジオンの家に生えている桃の木の真っ赤な実も大好物で、種を植えて
育てようとしたりする。  
 
 けれども、そんな普段の食事では、ファンタジーには魅力を感じないという
方々のために、魔法使いと竜が作る食事の場面を見てみよう。
 
 それは、「ゲド戦記」がこの世に生まれる前に書かれた短編『名前の掟』に
出てくる主人公ミスタ・アンダーヒルの料理だ。
 アースシーの東の果てにあるちっぽけな島サティンズ島。ここで、丘のふも
との洞窟に住む魔法使いのミスタ・アンダーヒルは、あまりまじないの腕が良
くない。イボを取ってもらっても三日もたつとまた出てきてしまうし、猫の疥
癬を直してもらったときには赤毛の猫なのに灰色の毛が生えてくる始末。でも、
村の人はよそ者の彼と安心して付き合っていて、夕食に呼んだり、洞窟におよ
ばれしたりしている。

 では、その豪華な魔法使いの食卓を見てみよう。そこにあるのは、

「銀や水晶の食器、綾織のナプキン。供されるのは、ガチョウの蒸し焼きにア
ンドレード産の発泡酒のぶどう酒、そして、こってりソースの掛かったプラム
プディング」

なのだ。けれども、このご馳走を食べた面々は、半時もたたぬうちにお腹がす
いてしまうという。
 魔法使いの作るご馳走というのは、半分目くらましで、その実体は「言葉」
に過ぎないから、食べてもすぐお腹が空いてしまうのだろう。

 けれども、このミスタ・アンダーヒルが自分のために作るお料理はおいしそ
うだ。
 それは、ある日のお昼ご飯。
 町に行って卵とレバーを買った帰り道、彼は学校の前を通りかかる。そして、
丸ぽちゃの美人のパラニ先生の授業をのぞくことになる。授業の内容は「真の
名前は人に告げてはいけない」という掟について。真の名前を誰かに知られる
と相手に支配されてしまうからなのだ。子供たちと一緒に話を聞きながら、彼
はふいに、ものすごくお腹がすいてしまったのに気付き、あわてて洞窟に帰っ
て料理をし始める。彼が涎をたらしながら作るのは、目玉焼きとレバーの料理。
じゅうじゅうと焼ける音と匂いが洞窟の奥から漏れてくる。その様子が実にお
いしそうなのだ。

 ところが、ミスタ・アンダーヒルがたらした涎には秘密があった。実は彼は
竜なのだ。多島海にあるベンダーという島の領主の一族を滅ぼしその宝をすべ
て自分のものとし、ダイヤモンドやエメラルドの上でごろごろ楽しんで暮らし
ては、食事には大好物の「生娘」をさらって食べるという大悪党の竜だったの
だ。ミスタ・アンダーヒルが食べたかったのは、本当は目玉焼きではなくてパ
ラニ先生なのかもしれない。

 物語はこの後、ベンダーの領主の子孫がやってきて急展開をする。彼は、黒
魔術でミスタ・アンダーヒルの真の名前を知ったからと自信満々でミスタ・ア
ンダーヒルに戦いを挑み、彼が奪った先祖伝来の宝を取り戻そうとする。けれ
ど、ミスタ・アンダーヒルが実は竜であることを知らなかった為、この領主の
子孫は魔法合戦に負けてしまう。竜の姿に戻ったミスタ・アンダーヒルは、生
娘という真の食事を始めるだろう……というところで、この短編は終わるのだ。

 それにしても、勝ったとはいえ、真の名前を知られてしまうとは実に迂闊な
竜であるとは言えないだろうか?
 実は、この竜は「ゲド戦記」にも出てきたあのイエボーなのだ。ゲドもイエ
ボーという真の名前を使って、殺さない代わりに多島海に行ってはいけないと
いう縛りをかけて、竜に勝つ。
 二人もの魔法使いに真の名前を知られてしまうとは、イエボーは、ミスタ・
アンダーヒルのように少々間抜けな竜さんであるようだ。
 ゲドと対決した時と、この東の果ての島に逃げてきている時と、どちらの時
代が古いかはわからないのだが、竜の真の食事が「生娘」だとしても、常食で
はないことがはっきりわかるこの物語が私は好きだ。
 ル・グィンの竜は『帰還』『ゲド戦記外伝』を経て『アースシーの風』へと
変化して行き、最古の知恵に満ちた竜だけではなく、美しく実に自由な若い女
性の竜が描かれていく。だから、イエボーは、後半を知ったものの目から見る
と、もはや真の竜ではなく、欲張りでせいぜい大蛇に成り下がったくらいの竜
ということになる。

 けれど、サディアン島でミスタ・アンダーヒルに化けていた時、彼は実は幸
せだったのかもしれない。
 私にとってル・グィンの描く世界で、この小悪党イエボーは一番のお気に入
りの竜であり、鼻から蒸気の煙を吐きながら内股でよたよたと歩き回るちびで
でぶの五十男のミスタ・アンダーヒルは、一番のお気に入りの魔法使いなのだ。

 ル・グィンは最終的に、人間と竜が実はひとつのものであったという物語世
界をこのアースシーで作り上げた。何度も何度もこの世界を旅し、問い続け、
アースシーの中を味わってきたのだけれど、やはり、アースシーが最初に現わ
れた『名前の掟』の物語の中で、魔法使いに化けた竜が作る目玉焼きこそが、
私が一番食べたい食物なのだと思う。
 それにしても、油と塩と卵だけという同じ材料なのに、なぜ目玉焼きとオム
レツは焼ける匂いが違うのだろう?
 そんなことを思いながら本の中でミスタ・アンダーヒルになって、のんびり
とこの平和な島の洞窟でお昼を食べてみようと思う。いやいや、卵は三ダース
ほど買ってあるらしいから、村人になって訪ねて行ってもひとつくらいはご馳
走してもらえるかもしれない。

 こんな風にファンタジーの世界を旅する自由と楽しみは、著者の意図するも
のとは違ってしまうかもしれないけれど、それでも、竜について考えていくこ
とは「独自のやり方で真実に達することができる」ことなのだとル・グィンは
言っている。

 今宵はぜひ竜に変身し、ダイヤモンドや真珠やエメラルド(その名も高い緑
玉のイナルキル!)などを食みながら、ファンタジーという真実の味を味わっ
てほしい。
 アースシーへの旅があなたを待っている。

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アーシュラ・K・ル・グィン著作
「ゲド戦記」のシリーズ
1 『影との戦い』                 岩波書店
2 『こわれた腕環』                岩波書店
3 『さいはての島へ』               岩波書店
4 『帰還』                    岩波書店
5 『アースシーの風』               岩波書店
6 『ゲド戦記外伝』                岩波書店
『名前の掟』     短編集「風の十二方位」   早川文庫SF
『夜の言葉』      同時代ライブラリー    岩波書店
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第116回 目を閉じて見る
―「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立版画美術館)

 美術家と旅は面白い関係にある。写真がなかった頃は遠い土地の風物を視覚
で伝えるという点で、絵は重要な役割を果たしていた。広重の「東海道五十三
次」は代表的な例だろう。博物学者や探検家たちは例外なく絵がうまい。もち
ろん、実用的な目的以外でも、旅は美術家にインスピレーションを与えてきた。
そうした作品には人間の精神が環境に影響される様が生々しく刻まれて興味深
い。王道の名所から強い印象を受けることもあるだろうが、人々の何気ない仕
草やどうということもない日常的なスポットからその地方特有のものを感じ取
ることもあるだろう。目に飛び込んでくる珍しい風物にどうしようもなく反応
してしまう、人間の性が実感できるというわけだ。

 町田市立版画美術館で開催中の「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展
は、旅を愛し旅に生きた版画家を回顧する展覧会である。ヨルク・シュマイサ
ーは1942年ドイツのポメラニア・シュトルプ(現在ポーランド領)に生まれ。
ハンブルク造形大学で幻想的な作風で知られるパウル・ヴンダーリッヒに師事。
京都でも学び、日本に長く住んでいた(夫人も日本人女性である)。各地を旅
しながら創作活動を続け、2012年に最後にアトリエを構えたオーストラリアで
亡くなっている。

 シュマイサーの創作は、師ヴンターリッヒ譲りの半具象的な幻想的な作風か
ら始まった。但し、ヴンターリッヒの持つ暗いロマンティシズム、不安を孕ん
だ官能性はシュマイサーの作品には見られない。「月と化石のようなもの」
(1965)は、化石や月面の模様をデフォルメさせたような不思議な形態の作品
だが、縦横の整理が行き届いたすっきりした造形である。連作「彼女は老いて
いく」(1967-68)は20代頃から老年に至る女性の横顔の変化を描いているが、
ここには日本人が好むような「もののあはれ」の要素はない。老いていく過程
を科学的と言って良いほど冷徹に捉えている。シュマイサーは70、80年代にも、
一人の女性をいろいろな視点で描く「変化」と題する連作を手掛けている。女
性は一個の物体として極めてスタイリッシュに描かれ、女性に対する特別な思
い入れは見い出せない。

 シュマイサーはある時期以降、前述のように世界中を旅して創作するように
なるが、対象に飲み込まれることのない冷静な姿勢は驚くほど一貫している。

 「京都清水寺」(1979-80)は清水寺の春夏秋冬を描いた連作だが、清水寺
一帯の地域が何者かによって浸食を受けている、といった印象を与えられる。
日本画に見られるような、柔らかな筆致で四季の変化を慈しむいわゆる「日本
的情緒」は欠片もない。清水寺は化学反応の実験の場であるかのようだ。シュ
マイサーは日本で学び、「日光絵巻」(1969)のような伝統的な技法による水
墨画の作品もあるほどだが、勝負をする時は、花鳥風月とかわびさびとかいっ
た日本的な感性を、意識的に切り捨てているように見える。

 「プリンストンにて奈良を想う」(1978)は、タイトルの通り、滞在先のア
メリカのプリンストンで、妻の出身地でもある奈良の印象を描くという作品。
下方に狛犬が、中央にイソギンチャクと波が、上方に山脈と楓が、左に釣り鐘
のようなものが、描かれている。海を渡って奈良を回想し、心に浮かんだもの
を一つの画面に収めたという感じだが、日本らしさを象徴するものたちが異次
元の空間に移植されて浮遊しているようで、眺めていると何とも不思議な気分
になってくる。

 「アルチ、夢」(1985)はヒマラヤ山麓ラダックを6週間かけてほぼ徒歩で
旅した体験に基づく作品。寺院、土地の神々、独特の様式の建築物、集落、険
しい山々が描かれている。描かれた対象はどれに重きが置かれているわけでも
なく、パノラマ風に配置されている。確かに幻想的な作品なのだが、その土地
の信仰の在り方をジャーナリストのような客観的な視線で捉えているようで、
見ている者には陶酔よりも覚醒を促す。神に敬意を払いながら神に飲み込まれ
ず、同調しない姿勢が印象的である。

 シュマイサーは、何と南極大陸も訪れている(オーストラリア政府のフェロ
ーシップによるもの)。不定形の氷山を描くのに苦労したそうだが、結果は見
事である。氷の形態は捉えがたいように見えるが、実際は一つ一つ、明確な個
性を持っている。日本や中国の水墨画の画家は、決まった形がないように見え
る事物を表現するのに長けているが、氷山の連作を創るにあたって東洋の美術
を研究した成果が出たのではないかと感じた。連作「ビッグチェンジズ」
(2002)や「オパール・ゲート」(2004)他の作品は、写実に終わらず、氷山
が形をなすに至った風や水などのダイナミックな自然の動きを生々しく感じさ
せる。氷の塊は「動き」そのものなのだ。

 シュマイサーは晩年をオーストラリアで過ごし、先住民アーティストたちと
の共同制作なども行った。「イルパラ海岸のかけら」と題された連作(2010)
は、同じ海岸の光景を様々な変奏を加えながら描いたもの。メインに据えるの
は白い珊瑚のかけらだったり、細長い藻だったり、不気味な蜃気楼だったり。
背後には貝殻や蟹のハサミが浮かんでおり、更に日録と思われる文字を配置さ
せている。同じ場所だが、季節や天候その他の環境の変化によって、光景はめ
まぐるしく変わる。シュマイサーはオーストラリアの海の豊穣さを讃えながら、
その変化を冷静に捉えている。

 シュマイサーは確かに「旅の版画家」であり、訪れた各地の情景を素材とし
て創作しているが、実際に自分の目で見た印象を基にしているかは疑問に感じ
る。彼は世界中を旅して回っているが、彼の創作の対象は意外と狭く、その土
地のシンボルとなるような事物にほぼ限られている。例えば、京都なら清水寺、
カンボジアならアンコールワット、オーストラリアならエアーズロックといっ
た具合である。日本に長く住んでいるなら、修学旅行で退屈そうに仏像を眺め
ている高校生に目を留めても良いし、オーストラリアならiPODで音楽に聞
き入るアボリジニー出身の青年を題材にしても良さそうだが、そうした生活の
様子はほとんど彼の創作の対象にはならない。むしろその土地での現時点での
生活といった要素を夾雑物として切り捨てるところからシュマイサーの創作が
始まると言っても良いほどだ。むしろ、彼の旅は向かう土地を定めたところか
ら始まる。書物や地図で下調べし、この土地からどんな観念を抽出できるのか
を想像することが重要だったのではないか。

 ヨルク・シュマイサーは、現地に赴いてその空気を存分に吸った後、意識的
に目を閉じ、闇の中から浮かんでくるものを拾い上げるようにして創作に向か
ったのではだろうか。目に飛び込んでくるものそのものより、その奥に蠢く妖
しい何ものかの本質を捉えようとする態度が露わであり、写実よりも幻想を重
視するその態度は、若い頃の師ヴンターリッヒ譲りのもののように思える。彼
は、同じ人物・光景を違った視点で描く連作を幾つも残しているが、好んで変
化をテーマにするということは、逆に言えば、変わったように見えても、底に
は不変な何かが流れているということを証明したい気持ちの表れのようにも受
け取れる。ヨルク・シュマイサーの旅は、珍しいものを見聞するための旅では
なく、胸の奥で密かに抱いていた観念を完全にするための旅だったように思う
のである。


*「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立国際版画美術館)
会期:2018年9月15日(土)〜11月18日(日)
*『ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅』(求龍堂 本体2500円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 もう11月ですから当たり前ですが、体感的には急に寒くなったような気がし
ています。先日までぽかぽか陽気だったものが、コートが必要な季節に…。

 ハロウィンも終わって、もう街はクリスマスの準備です。季節は確実に移り
変わっているんだなぁ、と実感します。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.696


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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第56回「『出版ニュース』休刊のニュースを聞いて」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第112回 耳鳴りが教えてくれたこと
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 似鳥鶏からの「読者への挑戦状」
  
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 ージさせる料理写真や、アンの物語の舞台となった場所の写真やイラスト、
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
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 第56回「『出版ニュース』休刊のニュースを聞いて」
 
 こんにちは。このところ暑さ寒さが乱高下して体調が追いつかない日々ですが,
 みなさま如何お過ごしでしょうか。
 
 この8月から9月にかけて,出張続きに加えて身内が入院するなど,公私共に
 気忙しく,先月は本来なら8月半ばに明らかになった高知県立大学附属図書館
 の蔵書処分問題を取り上げたかったところですが,やむを得ずお休みをいただ
 きました。高知県立大学の問題についてはいささか時期を失してしまったので
 詳しくは触れませんが,新自由主義的な大学政策が猖獗を極める昨今,大学
 図書館の蔵書処分が話題に上ること自体が,まだまだ「知識」というものが巷
 間それなりに尊重されていることの現れであるか,とも思わないでもありません。
 この件,手続き上の瑕疵がないことを擁護する図書館関係者もおりますが,個
 人的には「手続きが適正であることは,内容が適正であることを保証するもので
 はない」と考えています。
 
 閑話休題。
 先日,「出版ニュース」が2019年3月末で休刊するというニュースが入ってきま
 した(1)。わたし実は20年ほど前から「出版ニュース」を定期購読していたもの
 で,そのニュースを目にしたときは「あらまー」という心境でした。定期購読をお
 願いしている書店さんの配本サービスの都合なのか,休刊のお知らせが出て
 いる10月中旬号は拝見していないのですが,朝日,毎日両紙の報道に加えて,
 先程確認した「出版ニュース」のサイトにも「お知らせ」が出ております(2)。
 
 バブルが華やかなりし頃は,図書館には「出入りの書店が置いていくものです
 よ」(つまり書店で復数冊購読していたということでしょう)とまで古株の図書館
 関係者から言われていた「出版ニュース」でしたが,最近は部数の減少が停ま
 らず,休刊は時間の問題だったとも仄聞しました。「出版ニュース」が休刊して
 しまうと,Webなど代わりになる媒体がないわけではないのですが,日頃ディス
 プレイに向かっての作業が多いとはいえ,最近はRSSリーダーも確認している
 余裕が無いほど気忙しい毎日を送っているので,10日に1回届く定期刊行の
 印刷物というものは刊行頻度から言っても大変ありがたかったのですが,さて
 どうしたものか。
 
 「出版ニュース」では出版流通関係の記事が掲載されるのは当然として,図書
 館(特に公共図書館関係)の記事が手厚かったのが,編集者の見識であった
 とは思います。見識であったとは思いますが,しかしわたしの考え方からする
 と,いささか図書館関係の記事(特に巻頭記事)の執筆者の人選に守旧派へ
 の偏りが見られ,結果として図書館に関わる記事の内容も偏向していたのは
 残念でした。偏向した記事については,ときどきこの連載でも取り上げていた
 かと記憶していますが,一方的な身内(『市民の図書館』信者)褒めと裏返し
 の(指定管理者受託)企業批判に陥りがちで,出版流通関係は私企業なのに
 ここまで「(お上が直営する)公立図書館」を一方的に善なる存在とする記事
 を躊躇(解説)なく掲載するものだなあ,と編集者の見識を疑うような記事もあ
 りました。その最たる記事が,ここ3年ほど連載されている「図書館界ウォッチ
 ング」と題された匿名レビューでした。これはわたしの周囲でも「あれはひど
 い」と眉をひそめるひとがいた代物で,印象操作に満ちたプロパガンダであり,
 公共図書館業界の面目を却って失墜させるような連載だったと考えています。
 総じて図書館にまつわる巻頭記事の人選は,「出版ニュース」という媒体に
 掲載されることで編集者が期待されたであろう,図書館業界と出版流通業界
 の相互理解(そもそも出版流通業界が存在しなければ,書籍や雑誌が図書
 館の資料として,図書館の書架に排架されるはずものないのですが,図書館
 業界人は往々にしてそのことを忘れて,眼の前にある書籍や雑誌が何かの
 魔法によってそこに出現すると思っているんじゃないか,と)という目的は達
 せられず,記事によっては出版流通関係者の失望と憎悪を招くだけに終わっ
 てしまったいるのではないかと危惧します。
 
 そのような記事もある一方で,海外の出版状況に関する記事,吉田大輔氏の
 著作権に関する記事,出版とICTにまつわる記事,「ブックストリート」枠に掲
 載されていた学校図書館に関する連載コラムや,瀬戸内市民図書館の嶋田
 学さんによる「公共図書館」に関するコラムは,毎回わたしが掲載を楽しみ
 にしていました。嶋田さんの連載は新自由主義的な政策,風潮に抗するため
 には,巻頭記事のようにむかしの労働運動よろしく直営護持を妥協なく声高
 に理事者に対し叫び続けるだけではなく,市民/住民の視点を活かした,粘り
 強くかつ柔軟なありようが図書館運動として認められてしかるべき,とわたし
 も読後に教えられることの多いコラムでした。嶋田さんの連載が,(日本図書
 館協会以外の)どこかの出版者でまとめられ単行本として出版されることを
 期待しています。
 
 では,また次回。
 
 注記
 (1) 雑誌「出版ニュース」が休刊へ 75年の歴史に幕:朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASLBB5X2YLBBUCVL02R.html
     雑誌「出版ニュース」:来年3月下旬号で休刊 - 毎日新聞 
     https://mainichi.jp/articles/20181012/k00/00m/040/060000c
 
 (2) Magazine Shuppan NEWS 
     http://www.snews.net/news/
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第112回 耳鳴りが教えてくれたこと

 
   もう20年近くも耳鳴りとつきあっている。ある日突然、左耳が聞こえなくな
 った。突発性難聴だった。耳鼻科に行くと「君の年齢(当時、40歳)だと治ら
 ない」と診断された。本来なら入院して薬を点滴するのだが、年末だったせ
 いか、自宅で絶対安静ということになった。ほとんど外出をせず、音楽を聴
 かない生活を1ヶ月ほどすると、なんとか聴力が戻ってきた。聴力検査を受
 けると、左耳の聴力はほとんど回復していた。ただ400Hz周辺ßの音域だけ
 が極端に落ちたままで、以来ぼくの左耳は、正確な音程を判断することがで
 きない。それほど(笑)音痴になっていないのは、右耳で補っているからなの
 だろう。医者は、僕ぐらいの年齢でここまで聴力が戻るのは幸運と言ってい
 た。生活をするのに不便はないし、ギターを弾くことにも支障はなかった。


 

 聴力は戻ったのだが、後遺症が残った。キーンという高音の耳鳴りがする
 ようになっていた。ふだんはごくごく小さな音で気にならないほどなのだが、
 静かな場所ではうるさいほどに大きく感じる。疲れてくると左耳が塞がってい
 るような感じになって、キーンという耳鳴りがひどくなる。医者に相談したが、
 これといった治療はしてくれなかった。
 きっと同じような悩みを持っている人
 は多いのだろう。健康雑誌の新聞広告には「〇〇で、耳鳴りが治る!」なん
 ていう宣伝文句が書かれているし、耳鳴り関連の書籍もたくさん出ている。
 耳鳴りが良くなる音楽を収録したCDがついているものもあるみたいだ。でも、
 この手の本にはあまり興味が持てなかった。病院に行っても治らないものが
 本を読むだけで治るとは思えない。
 
  ところが最近、どうしても読みたくなった本があった。『耳鳴りに悩んだ音楽
 家がつくったCDブック』(鈴木惣一朗 著 DU BOOKS)だ。著者の鈴木惣一
 朗は、音楽プロデューサーで、ぼくの好きなワールドスタンダードや
 Soggy Cheeriosといったバンドで活躍するミュージシャンでもある。耳鳴りに
 悩んでいることは知らなかったし、自分の好きな音楽家が耳鳴りに対してどう
 対処しているのか知りたかった。

 
  手に取ると56ページのうすい本だが、内容は、耳鳴りに悩んでいる人だけ
 が読むだけではもったいなく思えるほど充実している。

 
  いったい耳鳴りとは何なのか?
 
  パート1では、専門医の大石直樹(慶應義塾大学病院)との対談で耳鳴りに
 ついて医学でわかっていること、わかっていないことを明らかにしていく。ぼく
 自身、ずっと耳鳴りを抱えているけれど、きちんと耳鳴りについて調べたこと
 はなかったし、だれかと話すことがなかったので、専門医の話はとても興味
 深かった。

 
  耳鳴りは、耳が鳴ると書くけれど、「頭の中の中枢神経系の症状」であって、
 「耳が鳴る」「頭が鳴る」「首の後ろが鳴る」と感じ方によって人それぞれ違う。
 どうやら耳が悪いせいで耳鳴りがするわけではなさそうだ。ただ「耳そのもの
 と耳鳴りは関係ない」わけではないらしい。傾向として耳鳴りのある人の9割
 ぐらいは、難聴があるということだった。高い音が難聴になると高い耳鳴りが
 して、逆に低い音が難聴になると低い耳鳴りになるという。ぼくのは400Hzの
 耳鳴りなんだろうか?
 
  今度、耳鼻科に行って確かめてみようかな。耳鳴りは「消えない、治らない」
 と意識すると、より悪くなってしまうものらしい。だから、うまく「共存する」こと
 が大切ということらしい。

  対談の最後にアナログレコードについて、専門家の意見を聞いているのが
 レコード愛好家らしくていい。どうやらアナログレコードのほうが音が「豊か」
 らしい!

 
  パート2は坂本龍一との対談で、ふたりの音楽家が耳鳴りについて語り合っ
 ている。音楽家にとって耳鳴りが死活問題なのは当然で、坂本龍一は耳鳴り
 の状態、その日の温度、湿度、食べ物をきちんと記録につけてみたり、TRT
 (耳鳴り順応療法)の機器を使ったり様々な対処法をしている。耳鳴りと向き
 合うことで、音、音楽についても、考えをより深めていったようだった。

 
 耳鳴りについてのふたりの対話は、やがて音楽の話になっていく。高音質な
 デジタル録音には興味はあるが、音楽そのものとは関係がない。つまりハイフ
 ァイな音だから心が震えるということはありえなくて、「喫茶店の悪いスピーカー
 から流れてきた音楽に惹かれる」ことはいくらでもあるのだから。「音楽を伝え
 る」ことはハイファイ、ローファイなんて関係ない、という話にはうなずくばかり。

 
  音というのは自然界のものなのだから、話はだんだん自然への向き合い方に
 なっていく。ふたりの「静けさ」についての話が面白い。鈴木惣一郎の北海道で
 の経験談。雪に囲まれた世界で、雪に吸音されて驚くほどの静けさに包まれる。
 そこでは耳鳴りでさえも、自然のウェイトが大きくて、気にならなくなってしまう。
 都会では病になって排除したいと考えるのに、あまりにも大きな自然の静けさ
 の中では、耳鳴りを受け入れてしまうようだ。坂本龍一が経験したアフリカの静
 けさは、レコーダーでは録音出来ない。静けさは「音」ではなく、全身で感じるも
 ののようだ。アフリカでは、流れる雲の音が聞こえてきそうだったという。音楽や
 音を求めて旅をするのもいいけれど、「静けさ」を求める旅をしてみたくなる。た
 った13ページの対談なのに、どれだけ深い話になるんだろう。ふたりの対談だ
 けで一冊の本を読んでみたくなった。

 
  そうだ、この本はCDブックだから、素敵な音楽もついている。鈴木惣一郎が
 作曲した、耳に優しい11曲の音楽が収録されている。耳鳴りを持つ人が作曲し
 ているので、どんな音が耳に優しいのかを考えられている。曲想もむやみに交
 感神経を刺激しないようにしたとのこと。この音楽が医療的に耳鳴りに効果が
 あるかどうかはわからないけれど、指示通りに小さな音量でかけると、読書を
 するのにちょうどいい、心地よい音楽だった。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 
   この連載では小説についてほとんど書かないのですが、全然小説を読まない
 わけではありません。ここ数年は岡山に行くことが多く、横溝正史の金田一耕
 助シリーズを色々と読んでいました。けっこうどろどろした人間関係が出てくる
 小説が好きだったりします。
 
   逆に謎解きがメインで、あんまり動機とか関係なく次々に人が死ぬような小
 説は得意じゃないかもしれません。正直なところトリックを見破れるほどの推理
 力は無いので、人間関係や背景を考えながらストーリーを楽しめる方が好みで
 す。 
 
   最近のものでは米澤穂信の小市民シリーズや古典部シリーズとか、七河迦
 南の七海学園ものとか、少しずつ読んではいます。
 
   しかしミステリ小説はネタバレをしてしまうとよろしくないので、本の紹介にし
 てもなかなか加減の難しいところがあります。しかしこの本なら安心。なぜなら
 最初から作者がどこに注意して読めばいいか書いているからです。
 
  『叙述トリック短編集』、似鳥鶏、講談社、2018
 
   似鳥鶏というと河出書房の「戦力外捜査官」シリーズや、東京創元社の
 「市立高校」シリーズが有名ですが、今回はノンシリーズもの(だと思う)です。
 ちなみに「あとがき」が他の作家に比べて長いのと、本文に折々妙な注が付
 いているのも、私の中では似鳥鶏の最大の特徴だと思っていますが…。
 
   叙述トリックとは何か。まあミステリ小説を読む方でしたら言うまでもないこ
 とではありますが「小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリッ
 ク」(p,8)です。
 
   まあ実際のところ叙述トリックの小説を読んでいて、謎の真相に気付くこと
 はなかなか難しいと思います。作者は文中に色々ヒントを示していますが、
 そこに違和感を感じることはあっても、それをスパッと謎解きにつなげること
 はなかなか…。小説のストーリーを追って楽しむ分には「なるほど」という意
 表を突かれた驚きを味わう楽しみがありますが、謎を解いてやると思って読
 んでいると「何だそりゃ」という不満を感じるかもしれません。
 
   そんな叙述トリックですが、本書では短編のそれぞれに予め叙述トリックが
 使われていることが明示されています。タイトルの言う通り。だからこの小説
 は、作者から読者への挑戦状とも言えるわけです。
 
   どんなトリックを使っているのかわかるなら、謎だって解けるでしょという。
 
   私は…まあ「おかしいな」と思うところはありましたが、真相にはたどり着け
 ませんでした。
 
   第2章「背中合わせの恋人」とか第4章の「なんとなく買った本の結末」とか
 は明らかにおかしいところに気づいたんですけど、逆に違和感の正体を知り
 たくてサクサク読み進めてしまったので、自分で謎を解くより先に解決編に突
 入してしまいました。
 
   自分で謎を解かなくても、作者の鮮やかな手並みを楽しむだけでも十分で
 はあります。ただ第3章の「閉じられた三人と二人」は真相が明かされたあと、
 ちょっと「ええっ…それはあまりな」と思いましたけど。
 
   まあしかし、こんな形式の短編集を出すなんて似鳥鶏はなかなかひねくれ
 た作家のような気がしてきました。
 
   そもそも冒頭の「読者への挑戦状」で叙述トリックを使っていることを宣言し
 た以外に、どういうところに注意して読めばいいかというところまで、わざわざ
 太字で示しています。しかしわざわざ太字で書いてあるにもかかわらず、
 何故このヒントはこんなに回りくどく書いてあるのか…。
 
   回りくどいくせに実際そのとおりだし…。読んでいるのは楽しいけど、作者
 のの思うつぼにはまってしまうのは、ちょっと悔しい。
 
   今回も似鳥鶏の最大の特徴である「あとがき」まで十分楽しめます。こんな
 ひねくれた短編集を出してきたわけですから、その書きっぷりを堪能するのが
 良いでしょう。もちろん意気揚々と謎解きに挑むのも一興です。そして石黒正
 数の表紙と帯イラストも含めて、(電子書籍もあるみたいですが)本という形式
 で楽しみたい一冊です。 
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。

  
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 ■トピックス
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 ■ BOOKUOKA2018   / ブックオカ 福岡を本の街に
 └─────────────────────────────────
 
 *福岡を本の街に
 
 この数年、「天神書店戦争」といった見出しが紙面を飾り、まるで福岡(天神)
 は本で溢れかえった読書人のための快適空間に変貌したかのようです。
 
 しかしよく観察すると、「本」というエンターテインメント内部の競争に止まらず、
 TVや音楽はもちろん、インターネットから携帯電話まで、他のあらゆるメディ
 アを相手に、青色吐息の過当競争を強いられているのが現状です。
 
 また同時に福岡の実状は、新刊書店から、古書店、図書館まで広い意味で
 「本」が有機的につながった文化都市と呼ぶにはまだまだ遠く、本好きの読
 者はもちろん、これから本と出会うべき子供たちの受け皿になりえていませ
 ん。
 
 そこで、われわれ「ブックオカ実行委員会」はこの秋、出版社から古書店・
 新刊書店までを広く巻き込んだ「本のお祭り」を開催し、あらためて本という
 メディアの魅力を広く伝えるべく、「BOOKUOKA 2006」という催しを行うこと
  にいたしました。
 
                            ―BOOKOKA HPより―
 
 2006年より開催されている福岡の本の祭典「BOOKOKA」も今年で12年目
 を迎えます。
 第一回にお邪魔した時の、街の一体感と若い方たちの熱気、書店や出版社
 だけでない異業種の参加など、本当に新鮮なイベントでした。
 このクオリティを10年以上続けられ、また鮮度も落ちずに運営されているスタ
 ッフや福岡の街のみなさんを心から尊敬します。
 今年も楽しいイベントの盛りだくさんで、福岡に本の一ヵ月が訪れました。
 どうぞ、ぜひ、福岡へいらしてください!


◆日時:2018年10月23日(火)〜11月23日(金)
 
 http://bookuoka.com/


 □のきさき古本市inけやき通り 
 
 日時:11月3日(土・祝)11時〜16時
 場所:中央区けやき通り  

 現在出店者募集中です!(先着100組・出店費1000円)
 詳細はこちらで ⇒ http://bookuoka.com/archives/1555
 
 ご存じブックオカのメインイベント、
 けやき通りに並ぶ店先を借りて行う青空古本市!
 
 出店者が思い思いの古本を詰め込んだ1日
 古本店が100店、軒を連ねます。
 個性豊かなラインナップとの出会いをお楽しみください。
 記念品がもらえるスタンプラリーもやってます
 (古本を買わなくてもOK)。


 □書店員ナイト 拡大版 
 
 日時:11/18(日)19時〜(会場18時半)
 場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 ★2000円 *1ドリンク&軽食付き

 ⇒ http://bookuoka.com/archives/2654

 ゲスト:田口幹人さん(さわや書店)
          古幡瑞穂さん(日本出版販売株式会社)
          大矢靖之さん(株式会社ブクログ)
  本好き・出版社・書店員・有志の交流会。
  今年のゲストは8月に『もういちど、本屋へようこそ』(PHP研究所)を刊行した
  ばかりで、あの「文庫X」の発信源として知られるさわや書店(岩手)の名物書
  店員・田口幹人さんら豪華お三方。


 □祝!通巻5号「読婦の友」座談会 〜「拝読!カバンの1冊」 
 
 日時:2018.11.18(日) 15時〜16時半(開場14時半) 
 場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 ★1000円(1ドリンク付き)

 先着10名、予約フォームからお申込み下さい。
 ⇒ http://bookuoka.com/archives/2651
 
 通巻5号を迎えた『読婦の友』を刊行するブックオカ婦人部の公開座談会!
 最近ハマってる本、心のバイブル、なんでもOK!
 カバンに入れて集合、車座で語りましょう!老若男女問わず。
 
 その他たくさんのトークショーや書店によりフェア有り!
 福岡に行かなくちゃっ!


 ■ 第8回 かまくらブックフェスタ in 京都
 └─────────────────────────────────
  個性豊かな出版社や、
  本と活字にまつわるユニークな活動をする人々が集まり、
  出版物を展示販売します。
  広い庭のある落ち着いた空間で、
  大切な一冊となる本に出会えますように。
  会場にはコーヒーと軽食のコーナーも。
  書店ではうもれがちなおもしろい本、
  貴重な本の数々が、
  本好きのかたのご来場をお待ちしています。
 
  2018年は京都で開催!

 ◆日時:2018年11月17日(土) 11時から19時 
            11月18日(日) 10時から18時

 ◇会場:恵文社一乗寺店 コテージ
       アクセスはこちらのページをごらんください。
       恵文社一乗寺店 http://www.keibunsha-store.com/access

 ■出展■
 牛若丸 /ecrit(エクリ) /北と南とヒロイヨミ /共和国 /群像社
 タバブックス /トムズボックス /編集工房ノア+ぽかん編集室
 りいぶる・とふん /港の人
 
 
 会場ではコーヒーや軽食の販売もおこないます。
 本とともにゆっくりとお過ごしください。
    17日 yugue
    18日 喫茶 never on monday


                          ―港の人HPより抜粋―
 
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 ■あとがき 今月も大変配信が遅くなり、申し訳ありません。読者の皆様、
 ご寄稿頂いている皆様や配信してくださっている皆様には、毎度毎度本当
 に申し訳ないです。
 「読書の秋」になりました。本の頁を繰る楽しさを皆様も存分に味わってくだ
 さいませ。                                               畠中理恵子
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 おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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