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[本]のメルマガ vol.703


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■■ [本]のメルマガ                 2019.01.05.発行
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■■  mailmagazine of books           [題名が悪かった 号]
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★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/

『フォト・ドキュメント 世界の統合と分断の「橋」』

アレクサンドラ・ノヴォスロフ著 児玉しおり訳
A5判 380ページ 本体3,200円+税 ISBN:9784562056170

川を隔てたコミュニティをつなぐ「橋」。統合の象徴としても語られる「橋」
は、しかし時として民族の分断を強め、人間を選別し、争いの根源になること
もある。「橋」から見た「今ある世界」を、多くの写真とともに活写する。


■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その31「お酒」その2「ニーガス酒」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その31「お酒」その2「ニーガス酒」

 寒いこの季節、ドイツでもフランスでもホットワインがよく飲まれているよ
うだ。ワインを熱して砂糖や蜂蜜を入れ、レモンやオレンジやナツメグやシナ
モンなどの香料を入れたこの飲み物、クリスマスの飲み物というイメージがあ
るようだけれど、私のお気に入りは、夜桜見物の時に飲むホットワイン。どん
なに寒い夜でも、桜の香りに包まれて最高の気分になれる。

 そんな、ホットワインの一種だと思えるお酒のせいで私は、めくるめく世界
に引き込まれてしまったことがある。

 それは、イギリスのヴィクトリア朝の小説の中に出てくる「ニーガス酒」。

 私はたいてい物語の中に現れる食物に惹かれてその時代の風習やその国につ
いて調べたりするのだが、この場合は逆だった。 
 
 きっかけは、ダニエル・プール著の『19世紀のロンドンはどんな匂いがした
のだろう』を読んだことだった。これは、いわゆるヴィクトリア朝小説を読む
ための生活万端に渡っての解説書だが、どのページから読んでも実に面白く、
挿絵も多くて楽しい本だ。二部構成になっていて、第一部は社会生活、地方で
の生活、個人生活等の章に別れ、「宮中伺候」はどんな儀式か、「舞踏会」は
どう行なわれていたか等が、ブロンテ、トロロープ、ディケンズ、オースティ
ン等の小説からの引用を持って説明されている。 第二部は英語の辞書として
使え、各用語のこの時代特有の使われ方が説明されている。この部分も辞書と
して使うというより、読んでいて面白い読み物となっている。もちろん日本語
の索引も最後に付いている。 
 
 そして、この本の中で、あまりに多くのオースティン作品が引用されている
上に、舞踏会の夜食についての項目で、『マンスフィールド・パーク』の一場
面が引用された「ニーガス酒」についての項目があまりに不思議だったので、
私はついに長年手に取るのをためらっていた『高慢と偏見』を読んだのだ。 
  
 結果は強烈だった。

 それからの1年間、私は次から次へとジェイン・オースティンを読み続け、
研究書を漁り、大学の講演会に出かけたりした。

 講演会の会場で年上の奥様方に囲まれて座り、皆様がイギリスのチョートン
にあるオースティンの家を訪ねた話や(「ジェーンが小説を書いたあの小さな
机ごらんになりました?」)大学時代の思い出話を夢中でしているのを聞きな
がら、昔はお嬢様学校の英文科では、必ずオースティンを学ばせたんだなぁ等
と思ったりした。 
  
 我ながら、あれだけブロンテ姉妹に夢中だったのに何故ジェィン・オーステ
ィンに近づかなかったのかと、今にして思う。 

 その答えは一つ。題名が悪かったのだ。 

 『高慢と偏見』又は『自負と偏見』。 

 何だか、年上の女性にお説教されるようなイメージがある。

 まさか、あんなに生き生きとしたエリザベスという主人公に出会えるなんて
とても思えない題名だ。誰に対してもしっかりと発言するエリザベスが高慢な
のではない。高慢で偏見を抱いた男が出てくるのだ。そして彼の求婚を言葉で
たたきのめして退ける場面が実に爽快でユーモアに満ちていて、オースティン
独特なのだ。私は時たまこの場面だけを読み返してしまうくらい、この物語に
はまってしまった。 

 とにかく、「ニーガス酒」に感謝。 

 この言葉に惹かれなかったら、私は一生、ジェイン・オースティンに出会え
なかったろう。

 では、そのニーガス酒が『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』
でどのように出てくるかというと、それは「舞踏会」の章の夜食の説明部分で、
こう書かれていたのだ。

「ジェイン・オースティンの時代には、舞踏会でニーガス酒を混ぜたスープを
出すことがよくあった」

 スープに葡萄酒?

 赤い葡萄酒が泡立つスープにまざって行く映像が頭から離れず、気がつけば
私は『高慢と偏見』を手にとっていたというわけだ。 

 それにしても、甘いニーガス酒を塩味のスープに混ぜるなんてことを本当に
したのだろうか?

 そこで、ここで引用されていた『マンスフィールド・パーク』を手に取って、
読んでみた。

 ない。

 どこにも、そんな変な飲み物は書かれていない。

『マンスフィールド・パーク』でこの酒が現れるのは、舞踏会で踊り疲れた主
人公のファニーが、部屋に向かう場面だけだ。大好きな兄のためにおじが開い
てくれた舞踏会。気に染まない求婚者や大好きな兄や従弟と踊り、ふらふらに
なった様子を見かねて眠るように言われて階段を上って行くファニー。

「様々な希望や不安、スープやニーガス酒のためにまだ昂奮醒めやらず、足の
痛みと疲労感と、それに何となく落ち着かぬ心の動揺を覚えながらも、それで
もやっぱり舞踏会は本当に素晴らしい、と感じながら。」

 どう見ても、ニーガス酒はスープに混ぜられていない感じだ。

 そこで、本当にそんな飲み物があるのかと『ジェイン・オースティンの料理
読本』という本を手に取ってみた。この本はただのレシピ本ではなくて、前半
はオースティンの作品と実生活における食事場面や食物などが書かれ(なんと、
家禽や蜂を飼っている)、後半部はオースティンの兄の未亡人となった後も長
く同居し、その後、弟の後妻となった女性の収集したレシピでできている。そ
のレシピは実生活の場面ごとに分かれているため、「パーティと夜食」といっ
た章もあり、そこには、実に体が温まりそうなホワイトスープやアスパラガス
のイタリア風なんていうスープがあり、ファニーはこれを飲んだのかしらと考
えて楽しむことができる。

 でも、どこにも、ニーガス酒をスープに混ぜるとは書いていない。

 私が知っているお酒をスープに混ぜる場面がある小説は、フランソワーズ・
ドゥ・ボーヴォワールの『招かれた女』だけだ。

「ひとつ先生がたまげるようなことをやってみましょうか」と、ジェルベール
がおどかした。
「どんなこと?」
「この酒をスープの中に入れちゃうんです」そう言いながら手を動かす。
「きっとすごい味よ」
ジェルベールは赤い汁をスプーンにすくって、口へもっていった。
「天下の珍味です。やってごらんなさい」
「世界中の宝を積んでもまっぴらよ」

 場所は山の中の農家の食堂。若い役者で舞台監督のジェルベールと小説家で
脚本家のフランソワーズがキャンプに出かけた夜の場面。風の強い夜なのでテ
ントを張るのをあきらめて、農家のカフェに逃げ込み食事を始めるところだ。
年上の女性の気を引く為のパフォーマンスなんだろうけれど、フランソワーズ
ではないが、実にまずそうでまっぴらな感じの酒入りスープだ。

 と、いうわけでスープに混ぜたりしない、おいしいニーガス酒のレシピを、
先にあげた『ジェイン・オースティンの料理読本』で見てみよう。
 
 「ポートワインを大きな耐熱性の水差しに注ぐ。レモンに角砂糖をこすりつ
けてから、果汁を絞って漉す。砂糖、レモン、ポートワインを混ぜあわせ、熱
湯を加える。水差しに蓋をし、こころもち冷ます。すりおろしたナツメッグ少
々を浮かべ、グラスに注いで出す。」

 その他のレシピでも、鍋に入れて煮たり電子レンジを使用したりと熱し方は
様々だけれど、今も昔も作り方にはほとんど差はない。

 実は読み逃していたけれど、私がニーガス酒と最初に出会ったのは、シャー
ロット・ブロンテ著の『ジェイン・エア』の中だった。
 
 家庭教師になるために初めて一人旅をしてきたジェイン。たどり着いたのは
荒野にあるソーンフィールドの屋敷。出迎えてくれたフェアファックス夫人は
大変親切で、手ずからジェインのショールやボンネットを脱ぐのを手伝ってく
れる。そして、こう言う。

「いえ、ちっともめんどうなことはございませんよ。さぞかし寒さでお手がか
じかんだでございましょう。リアや熱いニーガス酒をこしらえて、サンドイッ
チを少し切ってください…」

 深い霧の中を馬車に揺られ不安におびえながらたどり着いた先にいたのは高
慢な雇い主の夫人ではなく、親切な家政婦の女性。お茶ではなく熱いニーガス
酒を用意してくれるところが、夜の食事らしく配慮に行き届いている気がする
場面だ。

 そんな風に暖かい眠りの中に連れて行ってくれそうなニーガス酒を、いつか、
霧の深い夜にでも作って、心も体も温めてみようと思う。そのヴィクトリア朝
の味わいは、きっと不思議な夢に誘ってくれるのに違いない。
 
 霧の中から蹄の音が聞こえてくる。

 迎えの馬車がやって来たようだ……。

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『世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』ダニエル・プール著 青土社
『マンスフィールド・パーク』ジェイン・オースティン著     中公文庫
『高慢と偏見』    ジェイン・オースティン著      岩波文庫
『招かれた女』    シモーヌ・ド・ボーヴォワール著    講談社
『ジェイン・エア』    シャーロット・ブロンテ著      新潮社
『ジェイン・オースティン料理読本』マギー・ブラック、
              ディアドレ・ル・フェイ著  晶文社
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第117回 作者と発話者―入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

 昨年10月、詩人の入沢康夫が亡くなった。87歳だった。虚構性を暴露させな
がら語りを進行させる擬物語形式の採用、カリグラム等を取り入れた視覚的効
果の導入、文意を破壊する刺激的なイメージの連鎖など、実験的な試みを意欲
的に行ってきた人で、その点で同年生まれの作曲家松田頼暁を思い起させる。
入沢はフランス文学者で(専門はネルヴァル)、世界文学の動向に詳しく、数
々の実験は西欧文学に対する豊かな教養にしっかり支えられたものであり、現
代詩人たちから一目置かれる存在だったように記憶している。

 宮沢賢治の研究家でもあり、一般にはその道の仕事の方でより知られている
かもしれない。ぼくは彼の良い読者というほどではないが、『わが出雲・わが
鎮魂』(1968)や『牛の首のある三十の情景』(1979)など幾つかの詩集から
は強い印象を受けた。逝去の報道を知り、彼の代表的な詩論『詩の構造につい
ての覚え書』(思潮社 1968)をまだ読んでいなかったことを思い出して、早
速ネット古書店に注文を入れてみた。届いたその本は予想に反して(?)平明
な文章で記述された、ごく読みやすいものだった。

 本書の副題は「ぼくの<詩作品入門>」である。「はじめに」ではこの詩論
が他でもない自分自身のために書いたものであることが明かされる。「人を啓
蒙するなど、とんでもないこと」「入門しようとしているのは、ぼく自身なの
である」。自身の考えを整理し、詩人として前進するための、実作と結びつい
た論考というわけだ。

 本書の主要なテーマは、虚構としての詩作品はいかにして成立するか、とい
うことにある。「手もちの材料と道具の点検」という章では、論を進めるにあ
たっての了解事項として「詩は表現ではない」ということを挙げる。挑発的な
言い方だが、もちろん詩が芸術表現でないと言っているわけではない。

 「まず表現したいもの(ヴィジョン・感情・思想・体験その他)を持ち、次
にそれを読者と共有するために作品化しようとして、表現に努める」態度に否
を唱えているのだ。詩の言葉は自律的な虚構の世界を造形するものであり、既
存の意味(観念)の伝達の手段(道具)にしてはならない、ということ。実体
験を描いた私詩の中でも成功した作品は、現実を虚構の世界に昇華する高度な
造形意識に支えられているというわけだ。

 そこで出てくるのが作者と発話者を厳然と区別するという考え。詩は一人称
で語りが進められることが多いが、作者と作品内で語りを進める発話者はとも
すると同一視されることが多い。入沢は詩の言葉は自律したものであるべきと
の認識から、作者と発話者、そして発話内容の中心人物(主人公)の区別を訴
える。そんなの当たり前じゃないか、という人もいるかもしれないが、この詩
論が書かれた当時は、詩と言えば作者が胸の内を「ありのまま」にうたい上げ
るもの、という通念が世間にあったのだろう。入沢は世間にはびこるこうした
偏見を取り除こうという意図があったためかもしれないが、この三者を区別す
る作業を、様々なケースを取り上げながら、非常に綿密に行っている。

 さて、ここまでの議論は、その精緻さに驚かされるとは言え、教科書的にす
っきりまとめられており、専門家が文学の常識を講義する(啓蒙的!)感じに
近い。しかし、本書の半分辺りから入沢独自の問題意識が突出してきてよりエ
キサイティングな展開になってくる。入沢は、「発話者が作者とイコールでな
いこと」を「かくす」書き方、「あばく」書き方、「ことさらかくしもあばき
もしない」書き方を詳細に比較した上で、発話者が「イカニモ作者ラシイ」方
向(私詩的)と「イカニモ作者ラシクナイ」方向(物語的)の軸を持つ座標を
考える。そして、座標のゼロ地点に位置する「関係が曖昧な発話者」に注目す
る。入沢は、どのような関係を設定するにせよ、一度この「発話者の零度」を
通過することが詩にとって重要と考える。

 入沢は「詩作品においては、作者と発話者は常に別である」という命題と
「詩作品においては、作者と発話者は相互に曖昧に依存し合う」という命題が、
「車輪の両輪」のようなものだとする。作者と発話者は「別であることで相互
に依存」し、「『依存関係』の本質的な在りかたが常に『曖昧』」である。更
に、その曖昧さは「ぼくたちの実存の本質的曖昧さと通底的」なのだという。

 この議論は、それまでの歯切れの良い冷静な進め方と打って変わって、やや
こしく、かつ論理に飛躍が見られる。しかし、ぼくは、このパートにおける若
き日の入沢の性急さ、熱さが好きだ。小説などの散文芸術においては、発話者
は登場人物の一人として、作者とは全く独立した存在として扱われる。しかし、
詩においては、発話者は作者とは別の存在でありながら、作者の意識をどこか
で引きずった存在として現れる。その曖昧な在り方は、現実における人間の複
雑で多様な在り方を反映したものだ……。こうした議論は、詩論や文学論とい
うより、むしろ人間論ではないだろうか。個別でありながら曖昧に依存し合う、
とくれば、都市空間の中で生まれた「孤独な群衆」の姿を思い出さないわけに
はいかない。

 入沢は更に、この作者と発話者の曖昧な関係の中に、「読者」を引きずり込
んでいく。詩の読者は与えられたテキストを享受するだけでは済まされない。
「読者はいわば主体的に詩行為を演じなければならない」のだ。それを突き詰
めた地点で、入沢は驚くべき認識に達する。「詩人は、降霊の儀式としての詩
作を進めながら、その詩作の刻一刻に、同時に一個の読者として立ち合うとい
う態度を要求される」。この激しい主張は、詩作とは単に詩を書くことではな
く、詩作の場そのものの神秘化の作業である、と言い換えることができそうだ。

 入沢はこの論で何度も言及する「作者」の中身について、特に詳しい説明を
していないが、この「作者」が、食べたり飲んだり仕事したり恋したり、とい
った生活者としての作者でないことは明らかだ。彼が「作者」と呼んでいるの
は、文脈から考えて、表現意識を持つ作者、更に言えば、創作に向かう作者の
自意識のことではないだろうか。現実の作者から抽出・昇華され、神秘化され
た自意識が、作品の隅々まで満ち渡り、多様な姿をとって波打ち、読者の心の
奥深くに侵入する。その具現化のケースとして、彼が追求した「擬物語」があ
り、個我意識を抽象化させる形で発展した「現代詩」がある。

 とすれば、彼が削ぎ落していった「生活者としての作者」「猥雑な日常を生
きる作者」から生まれる詩の可能性とは何だろう、と考えてみるのも面白いか
もしれない。本書には他にも興味深い問題がたくさん論じられているので是非
お手にとって精読していただきたいと思う。

*入沢康夫『詩の構造についての覚え書』(思潮社 本体600円)
*『続・入沢康夫詩集 現代詩文庫』(思潮社 本体1258円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 あけましておめでとうございます。平成最後の年、次の元号はなんだろな。
(aguni原口)

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おり、広告は随時募集中です。詳細はメールにて編集同人までお尋ね下さい。
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[本]のメルマガ vol.671

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 大規模農業論、6次産業化…机上の改革案が日本農業をつぶす。農家減少・高
 齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作
 物の是非、移民…プロ農家のリアルすぎる目で見た日本農業の現状と突破口。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 残念ながらお休みです。来年にご期待ください!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語 
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 今年を振り返って…
  
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 ■トピックス
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 イベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第114回 古い自転車から始まる壮大な物語
 
 
 台湾の作家、呉明益の新しい本が出ていると知って、すぐに書店に向かった。
 『自転車泥棒』(呉明益著 天野健太郎訳 文藝春秋)という長編小説だった。
 好きな小説家、小説に出会うというのはうれしいものだ。以前、邦訳一作目の
 『歩道橋の魔術師』(呉明益著 天野健太郎訳 白水社)を読んだとき、若い
 時に感じた「本を読む喜び」を感じた。
 「この本は自分のために書かれたんではないか?」というような…。二十代に
 デビュー当時の村上春樹を読んだときや、それよりもっと前、中学生のころに
 レイ・ブラッドベリのSFファンタジーを読んだときに感じた、自分の中にスー
 ッと溶け込んでいくような感覚だった。
 優れた小説であるとか、美しい文章であるとかだけではない、きっと自分にと
 って大切なものになるだろうという予感といったらいいのだろうか。音楽でい
 えば、ビートルズやジェームス・テイラーを聴いたときの感動と同じだった。
 「自転車泥棒」というタイトルですぐに思い出すのは、イタリア映画、デ・シ
 ーカ監督の作品だ。ネオリアリズモ映画の代表作で、貧困にあえぐ人々を描い
 たモノクロ映画を子どものころ、教育テレビで見た記憶がある。名画座だった
 かもしれない。仕事に必要な自転車を盗まれた主人公が息子といっしょにロー
 マ中を探し回る話だったが、この小説でも「盗まれた自転車」をさがすことか
 ら、とんでもないスケールのストーリーが展開する。
 この小説のタイトルも映画から発想したようだ。
「鐡馬(自転車)が盗まれた
 ことで家族の運命が変わった」と主人公の母は口癖のようにいっていた……
 主人公である小説家の「ぼく」が、20年前の父の失踪事件の鍵となる自転車
 「幸福」を見つけたことから、100年にわたる主人公の家族史をたどりなが
 ら、やがて時間を超えた物語の世界に迷い込んでいく。

 
  この物語は訳者あとがきに、「ストーリーはある意味、非常にシンプルだ」
 とあるけれど、戦時下の台湾のこと、そして出会った人々のさまざまな記憶か
 ら生まれるいくつもの物語がタペストリーのように編まれていて、かんたんに
 言い表せない重厚なストーリーになっている。

 
  後記に「この小説は第二次世界大戦史、台湾史、台湾の自転車史、動物園史、
 チョウの工芸史…と関わりがある」書いてあるとおり、どうしてこれだけの情
 報量をひとつの小説に編み上がることが出来るのだろう、と圧倒されてしまっ
 た。過剰とも思われる情報量がきちんと物語の鍵としての役割を果たしている。
 なめらかな文体がじつに読みやすい。これは翻訳者の力量でもあるのだろう。
 
『歩道橋の魔術師』の感想にも書いたが、作者はたんねんにディテールを書き
 込んでいて、まるで映像を見ているようだ。東南アジアのジャングルでの戦争
 で負傷した兵隊たちに群がる鳥や虫たちの描写など思わず自分の体から虫をは
 ねのけたくなるような気分になったし、チョウの工芸品を作るところでは、チ
 ョウの鱗粉を肺に吸い込んで、むせてしまうようだった。戦時中に動物園の動
 物たちを殺処分していく話に胸がつぶれる思いになる。ぼくは、どういうわけ
 か、人間の生き死によりも、動物の命が奪われるほうが耐え難い気持ちになっ
 てしまう。

 
  自転車をテーマにしているのだから、もちろん自転車の構造から、台湾にお
 ける自転車の歴史について詳しく書かれている。自転車がロールスロイスのよ
 うに贅沢な乗り物だったころからの話だ。それにしてもよく調べたものだ。著
 者自身もじつは自転車のマニアらしい。それも「乗る」という行為ではなく、
 「物」としての自転車という。古い自転車を見つけて、足りない部品を探して
 修理する。ベテランの職人から知識、技術を学ぶ…と、かなり本格的のようだ。
 ちょうどギターマニアが1950年代、60年代のギターに夢中になるように。
 なんであれ、マニアというのはそういうものだ。

 
  読み終えると、不思議な安堵感があった。大きな時間の流れの中に身を任せ
 たような感覚なのかな。生きること、死ぬこと、家族、さまざまなことが頭を
 浮かんでいく。読んだあとに、ぜったいに再読しなければと思う。読むほどに
 違うものが見えてくる、そんな小説だと思う。呉明益という作家に出会えて本
 当に良かったと思う。ぜひ、新しい作品、そして過去の作品も読んでみたい。
 早く邦訳を出してもらえないものか。

 
  残念ながら呉明益の『歩道橋の魔術師』『自転車泥棒』の訳者である天野健
 太郎さんは今年11月12日に亡くなっている。まだ47歳だったという。太台本屋
  tai-tai booksというサイト
 (http://taitaibooks.blog.jp/archives/13977427.html)に呉明益が追悼文
 を寄せている。この文章を読むと、天野さんという翻訳家がいかに熱意を持っ
 て、そして綿密に作品について調べて翻訳をしているのかがわかる。ときに作
 家が当惑するほどの細かいことを問い合わせていると書いてあった。天野さん
 は、翻訳という仕事が作家の黒子で「どんなにいい訳をつけようが、読者はそ
 れを作家自身の腕によるものとしか思わない」と嘆いたそうだ。いや、そんな
 ことはないだろう。翻訳者の存在を感じさせず、作者が身近に感じられる訳文
 ということでいえば、ぼくが読んだ天野さんが翻訳した2冊は見事だと思う。
 そして天野さんが翻訳した香港のミステリー『13・67』(陳浩基 著 天野健太
 郎 訳 文藝春秋)を読もうと思う。
 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
 
 
 ★★第62回 吉上恭太のサウダージなクリスマス☆★★
 
 ◆日時:2018年12月25日(火) 20時〜
 
 ★投げ銭
 
 「サウダージなクリスマス」、今年で9回目です。
 2018年もいよいよ終わろうとしていますね。
 みなさんにとって、今年はどんな一年だったでしょう?
 
 楽しいばかりではないし、つらいばかりでもない、
 一日一日、泣いたり笑ったりしているうちに時は過ぎていくものですね。
 いろいろなことがあっても、
 古書ほうろうで、一年の終わりを親しい人たちといっしょに過ごせるのは、
 本当に幸せなことだと思います。
 今年のゲストは、棚木竜介さんとクララズさん!
 棚木さんは1stアルバム『スーベニール』、
 クララズさんは1stミニアルバム『海が見えたら』をリリースして、
 ふたりともノリに乗っている、いま注目のアーチストです。
 オリジナル曲、カバー曲を織り交ぜて楽しい、
 ロックなクリスマスになりそうだな。
 踊ってもいいですよ。
 もちろん3人のセッションもやりたいな。
 仰木ゆず子さんのクリスマスケーキも楽しみ!
 
 12月25日に会いましょう。
 Merry Christmas!(吉上恭太)
 
 
                        ―古書ほうろうHPより―  
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 ---------------------------------------------------------------------- 
  一年の締めくくりということで、今回は今年読んだ本で取り上げられなかっ
 たものをいくつか御紹介したいと思います。取り上げられなかったのは、私が
 締め切りにまでに読み終わらなかったとか、そういうパッとしない理由です。
 
  今年いちばんよく読んだのは栗原康さんでしょうか。黒い表紙の岩波新書
 『アナキズム』(2018)は、装丁もさることながら文章も従来の岩波新書とは一
 線を画しています。2017年に出た筑摩新書『アナキズム入門』(森元斎著)が
 思想史的なアプローチだったのに対して、こちらは現代社会の状況に触れなが
 らアナキズムについて力強く語られています。文章の方も独特の栗原節が響き
 渡っています。
 
  白石嘉治さんとの共著『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン、
 2018)は対談本なので、栗原節に慣れてない方はこちらがお勧めです。対談本
 の常として色々と話が多岐にわたるので、本書の中で紹介されている本をさら
 に読みたくなってしまう悩みが…。
 
 瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015)『縄文の思想』(講談社現
 代新書、2017)もそこで紹介されていて手に取りました。弥生時代に始まる農
 耕から現代にいたる文化の前に次第に見えなくなっていった縄文の思想ではあ
 りますが、資本主義的な考え方に代わる別の道として改めてスポットライトを
 当てていて非常に興味深いです。
 
  縄文と弥生の比較ということでは『文明の恐怖…』で、白石氏が縄文時代の
 土偶が個性的であるのに対して、弥生時代の「埴輪は人身御供で、目も虚ろ」
 (p,55)と述べているのが印象的です。埴輪の目は穴ですからね。
 
  栗原さんの主張の最大の眼目は、人間はやりたいことをやって生きるべきだ
 という点にあると思います。しかししかしさしあたり我々の大部分は食うため
 に働かねばならない。(もちろん働くことが大好きだという人もいるとは思い
 ますが。)この現実と向かい合うのは時にゲンナリしてしまいます。
 
  ゲンナリする現実にはパワハラ・セクハラなんてものもあったりします。し
 た側は無自覚でも、やられた側には深い傷が残ることもあります。そういった
 『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』小川たまかさ
 んの本で読みました(タバブックス、2018)。
 
  小川さんはジェンダー格差や年齢差別などについて、差別される側からの視
 点から世界を見てみようとしています。そこから見た世界はまだまだ改善の余
 地ばかりという印象です。だからといって何でもかんでも切って捨てるわけで
 なく、時に逡巡したりもしています。
 
  あるときはマイノリティでも別の切り口から見ればマジョリティだったりす
 るし。自分の中にある加害者性と絶えず向き合って生きることが大切なのかも
 しれません。しかしまあそれ以前にほんとに腹立たしくなるような事例もたく
 さんありますが。
 
  ところで、最近はセクハラとかパワハラとか大変だという嘆き節を耳にした
 り目にしたりしますが、ひとつ言っておきたいのは、昔だって傷ついてた人は
 沢山いたはずで。ただ泣き寝入りしていただけのこと。不快なことをされた側
 が「それは嫌だ」と声をあげられる社会はとても健全な社会のはずなのに、そ
 の状況を嘆くのはどうかと思います。嫌なことをされてもマイノリティはもし
 くは「弱者」は黙ってればいいんだよとでも?
 
  と憤懣やるかたない日々は続くわけですが。そんなとき川崎昌平は労働者に
 漫画を描くことを薦めます。『労働者のための漫画の描き方教室』(春秋社、
 2018)は決して労働者に漫画家への転進を薦める本ではなく、働きながら表現
 行為をすることによって辛い(重ねて言いますが辛くない人もいるのはわかっ
 てます)労働の日々に風穴を開けていこうという内容です。
 
  何故漫画なのか。それは川崎氏曰く割と技術的な修練を必要としない表現手
 段である為ということです。まあ私自身は漫画じゃなくてもいいかなー、とは
 思いますけれども。本書で述べられている漫画の描き方は、その他の表現技法
 をとったとしても大いに参考になると思います。
 
  いずれにせよ巧拙関係なく自分の中に表現者という部分があるのは生きてい
 く上で大きな助けになることは間違いありません(経済的な意味ではない)。
 
  この本を読んでいて思い出したのが詩人有馬敲の「唄ひとつ・スケルツォ」
 と言う詩です。
 
 あの熟慮する政治家よりも/きみは自分の言葉をえらんで/他者をそそのかせね
 ばならない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの慎み深い学者よりも/きみは自分の純粋をまもって/論理を組み立てねばな
 らない
 (ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ)
 あの苦労性の商人よりも/きみは自分の修辞をきたえて/表現を磨かなければな
 らない
 (以下略 『糺の森』、竹林館、2010)
 
  表現しなければ、声をあげなければ、闘わなければ今感じているモヤモヤを
 晴らすことはできない。無力感に苛まれ堂々巡りで終わるだけ。本当はそんな
 無力感に苛まれる必要なんてないはずなんですけどね。今の社会では多くの人
 が自分は「弱者」だと思い込まされてしまう。というのは栗原さんの『アナキ
 ズム』で語られていたことです。
 
  それでも色々なところで声をあげている人が増えたことはよいことだと思い
 ます。ただそこでも自らの論理や表現や思考を鍛えていかなければいけません
 が。
 
  と栗原康に戻ってきたところで今月はここまでということで、皆さんも年末
 年始楽しい読書ライフをお過ごしください。一年お付き合いありがとうござい
 ました。また来年お目にかかります。 
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
  
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 ■トピックス
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 ■ 三崎 いしいしんじまつり2018
 └─────────────────────────────────
 https://ishiishinji2018.peatix.com/

 2015年の三崎プチプチいしいしんじ祭から3年。
 昨年三崎に引っ越した
 夫婦出版社アタシ社と作家いしいしんじさんが出会い、
 3年ぶりに“いしいしんじ祭”を開催することとなりました!
 
 
 【イベントの目玉】
 来る2019年初春、アタシ社からいしいしんじさんの新刊が発売予定。
 物語の舞台はもちろん“三崎”。
 イベント当日、アタシ社の蔵書室「本と屯」で
 先行予約を受け付けます!
 
 \さらに、さらに/
 このイベントだけの特別ライブをあなたに。
 原田郁子さんが三崎にやってきます。
 50名限定のスペシャルライブとなりますので、
 お早めにチケットをお求めください。
 
 ほかにも……
 いしいしんじ縁の土地、三崎の商店街を中心に
 小さなブックフェア、トークイベント、ライブ、パフォーマンスなど、
 一日限りのお祭りを開催します。
 クリスマス・イヴイヴの日、
 本に囲まれながら一日を三崎で過ごしませんか? 
                        ―HP告知より抜粋― 


 ◆日時:2018年12月23日日曜日 11:00〜20:30 JST

 ◇場所:本と屯 三浦市三崎3丁目3-6 
 
 【イベント詳細】
 
 ◆場所:三崎港周辺のあちこち
 ◆アクセス:京急三崎口駅よりバスで10-15分、バス停「三崎港」下車
 ◆駐車場:近隣のコインパーキングをご利用ください
                                       (1日最大600円程度が多いです)
 ◆料金:
 (1)【チケットA】「いしいしんじ祭」チケット1000円(上映会とライブは除く)
 (2)【チケットB】完売

 【お祭りの具体的な内容】
 
 贈り物にしたい本たちの小さなブックフェア(入場無料)
 新潮文庫、ミシマ社、アノニマ・スタジオ、港の人、ニジノ絵本屋、藤原印刷、
 BOOK TRUCK、横須賀上町休憩室とその仲間たち、
 自由大学「Publisher入門」
 @三崎港前 山田屋2階、中華ポパイ前の蔵 11:00-16:00
 
 いしいしんじの本棚(入場無料)
 いしいしんじさんの家にあった本が集結!
 いしい家の本棚を数百冊の本で再現! 
 @ミサキファクトリー前の蔵 11:00-16:00
 
 まるいち企画 マグロの頭輪投げ
 まるいち食堂さんのご協力のもと、マグロの頭を使った特製輪投げ!
 @本と屯横駐車場 12:00-15:00
 
 ■戌井昭人の朗読パフォーマンス(チケットA)
 @本と屯 12:30-13:00
 
 ■出張ニジノ音楽会 The Worthless 絵本LIVE(入場無料)
 @佐藤薬局駐車場 13:30-14:00
 
 ■湯浅学の音楽ライブ(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 15:00-15:30
 
 ■いしいしいんじ その場小説(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:00-16:30
 
 ■三崎談話 トークイベント
   (いしいしんじ×矢野優×石田千×戌井昭人×湯浅学)(チケットA)
 @三崎館本店 大広間 16:45-17:45
 
 ■いしいしんじ十一のはなし上映会
   (映像:香山宏三)と原田郁子special LIVE(チケットB)
 @ミサキドーナツ本店2階 18:30-20:30
 上映会/18:30-20:00、原田郁子ライブ/20:00-20:30
 
 企画・運営/アタシ社      ―HPより転載させていただきました―

 詳細は⇒https://ishiishinji2018.peatix.com/

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 ■あとがき 
 今年も終わりますね。皆様にとってはどんな年だったのでしょうか。個人的に
 は別れることの多い年でした。父、18年暮らした猫、たった三か月だったけ
 ど家族になってくれた猫。
 夫の闘病も六年目を迎え、「回復」から「進行」に移行してきた年でした。
 でも、今思うと毎日は結構充実していた…ような。忘れっぽいからな?
 とにかく、健康!と唱えていました。
 
 一年間、本当にありがとうございました。
 来年もよろしくお願いします。どうぞ、よいお年を!  畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.701

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り広げられてきた濃厚な歴史。古今東西の牡蠣料理、牡蠣の保護、「世界の牡
蠣産業の救世主」日本の牡蠣についてもふれる。レシピ付。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その30「お酒」その1

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 2011.3.11 大川小学校で起きた悲劇

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■クリスマス絵本を楽しもう! in 青猫書房
└──────────────────────────────────
12月5日(水)〜12月17日(月)(火曜日定休)
こどもの本青猫書房では、クリスマスに読みたい絵本やプレゼントに最適な絵
本をギャラリーに展示しています。期間中、以下のワークショップを行います。
絵本選びのお手伝いもいたします。

<布の絵本のはなし&ミニ布絵本制作ワークショップ>
人気の布の絵本の紹介と制作秘話を聞き、手作りミニ布絵本作りを体験してみ
ましょう。糸までついたキットから作ります。
●12月8日(土)14:00〜15:30ごろ
●12月9日(日)14:00〜15:30ごろ (両日、同じ内容です)
場所:東京都北区赤羽2-28-8 こどもの本・青猫書房
対象:中学生以上
参加費:500円(持参するもの。定規またはメジャー、針とはさみなど裁縫セ
ット)
先着 各6名(要電話申し込み 03-3901-4080)
見学のみは無料(当日、直接ご来店ください)
伝え手 絵本専門士 中澤由梨子 制作指導 青猫書房店主 岩瀬惠子
申込み・問い合わせ 青猫書房 03-3901-4080 HP:http://aoneko_shobou.jp

掲載に関するお問い合わせ 中澤由梨子(世界文化社)
yuriko.ehon8@gmail.com   070-1257-2956

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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その30「お酒」その1

 子供のころから本を読んでは、こっそり憧れていたもの。それは、禁断の味。
子供には絶対口にすることのできないもの。そう、つまりお酒なのだ。

 例えば、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』で始まるシリーズ
の中では、子供たちはスティーヴンスの『宝島』に憧れていて、ラム酒の代わ
りにジンジャーエールをぐびぐび飲んでいる。

 同じように、私も葡萄酒、ワインに憧れた。

 我が家では、父がまるきりの下戸だったので、日本酒やいただき物のウィス
キーは来客用に置いてあったけれど、ワインやらラム酒やらとは無縁の家だっ
た。一度だけ、同じ社宅に住む人たちが集まってクリスマス・パーティを開い
てくれて、「パンチ」なる物を飲ませてもらったことがある。あれは、今でい
うサングリアの子供版だろうか?ほんの少しのワインをサイダーで割ってフル
ーツを浮かべた飲み物だった。サイダーでさえ飲めないような子供だったけれ
ど、その赤くて果物が浮いたきれいな飲み物が飲めて嬉しくてしょうがなかっ
た。

 たぶん、私は、ワインの色に憧れていたのだ。だから、ファンタ・グレープ
なる飲み物が現れた時は嬉しくて、それをわざわざワイングラスのような脚付
きのグラスに入れて、炭酸を飛ばしてから、自分なりに優雅にすすりながら本
を読んで楽しんだ。

 今ではどんなお酒も飲めるようになったけれど、まだまだ飲んだことのない
お酒は物語の中に沢山あって、私はひたすら憧れている。

 その中のいくつかをここに書きだしてみようと思う。

 まずは児童文学の中から。

 『赤毛のアン』の間違えたイチゴ水の話を見てみよう。

 たぶん『赤毛のアン』の中で一番有名な飲み物は、このイチゴ水だ。かき氷
のイチゴシロップはあっても、飲み物としては聞いたことがなかったので、ど
んな味なんだろうといろいろ考えてしまった。でも、本当に飲みたかったのは
実は別のものなのだ。子供心に憧れたのは……。

 それは、こんな場面に出てくる。

 ある日、講演会に出かけようとした養母のマリラがアンに、親友のダイアナ
を呼んで「午後ふたりでお茶会をしてもいいよ」と、言う。生まれて初めて人
を招くことのできるアンは、はりきって準備をする。やって来たダイアナも子
供だけのお茶会に招待されるのは初めて。しゃちこばって大人のように挨拶を
かわす二人の様子は、何度読んでも可愛いい。

 けれど、このお茶会は、マリラが親切に「先週教会の集まりで出した残りの
イチゴ水があるからお飲み」と言ってくれたことによって、大変なことになっ
てしまう。

 アンがイチゴ水と間違えて棚から出したのは、マリラのお手製の三年物のス
グリの果実酒。それをコップに三杯も飲んでしまったダイアナは具合が悪くな
って早々に帰ってしまった。帰ってきた娘の様子を見て酔っ払っているのに気
付いたダイアナの母は、アンがわざと娘にお酒を飲ませたと思い込んで激怒し、
二人は引き裂かれてしまう。

 アンにとっては大変に悲劇的な場面なのだが、この一見イチゴ水に見える果
実酒が、とてもおいしそうなのだ。

 少し大人になった今、はっきり言える。あの頃、私が飲んでみたかったのは、
このイチゴ水(木苺水=ラズベリー・コーディアル)ではなく、スグリの果実
酒(英語でカラント・ワイン、フランス語でカシス)だった。

 だって、こんなに美しくておいしそうなのだ。少し引用してみよう。

 <ダイアナは、自分からコップになみなみとつぎ、その鮮やかな赤い色合い
を感心して眺め、それから、お上品に、少しずつ啜った。
「まあ、アン、なんておいしい木苺水でしょう……」>

 そして、近所のリンド夫人が作ったものとは全然違う、てんで味が違うと言
い、コップに三杯も飲んでしまう。

 つまり、ダイアナにとっておいしかったのは、スグリの果実酒なのだ。
 ラズベリー・コーディアルも真っ赤だし、たぶん赤いスグリの身を漬け込ん
だマリラお手製の果実酒も同じように赤くてきれいだったから間違えたのだろ
う。でも、ダイアナが言うように、味は果実酒の方が上なのだ。梅酒のように
甘かったのかもしれない。

 そして、なによりダイアナが感心して見つめるほど美しいお酒なのだ。そん
なに見惚れるほど真っ赤で綺麗なものなら、飲みたいのは果実酒の方だとずっ
と思っていた。

 もちろん、マリラの手作りの果実酒は無理だけれど、カラントのリキュール
なら聞いたことがある。松本侑子訳の『赤毛のアン』の註は実に詳細で、シャ
ンパンにカシスエキスを加えた「キール・ロワイヤル」について書いてある。

 仕方がないから、これで我慢するとしよう。大人になったから、楽しめる世
界もあるのだと思おう。

 
 同じように、子供心に憧れたお酒がある。

 それは、宮沢賢治の『やまなし』に出てくるお酒だ。

 このお話の主人公は川の底に住む三匹の蟹。お兄さんと弟とお父さん。舞台
は十二月のある月夜。あまり月の光がきれいなので蟹の子たちは眠らずにいる
と、

 <そのとき、トブン。
  黒くて円い大きなものが天井から落ちてすうっとしづんでまた上へのぼっ
て行きました。キラキラッと黄金のぶちぶちが光りました>
 
おびえる子供たちに、これはやまなしの実だよとお父さんが教え、
月の光を浴びた水の中はやまなしの実のいい匂いで一杯になる。
蟹たちは流れて行くやまなしの実の後をついて行く。
やがて、やまなしの実が木の枝に引っかかると、お父さんは、三日待てば実が
下に沈んできて美味しいお酒になると言い、蟹の子たちはみんなで穴に引き返
す。

 もう、賢治の文章が何度読んでも美しくて、水のゆれ、月の光、虹、香り、
すべてがゆらゆらと美しい幻燈の世界の物語なのだ。

 この物語、私は子供のとき読んだっきり忘れていた。誰が書いたのかもたぶ
ん知らなかったのかもしれない。けれど、友人に誘われて行った花巻の「宮沢
賢治記念館」で幻燈の展示を見て、この本を読んだ時のことを思い出し、そし
て、自分の中に眠る宮沢賢治への思いに気付いたのだった。それから改めて賢
治を読み直して行った、そんな思い出の作品なのだ。

 では、なぜそんなに忘れられなかったのか?

 それは絶対、水の中に沈んで、ゆっくり発酵して、やがて美味しいお酒にな
るというやまなしの実の魅力によるものだと思う。

 果たして、やまなしはうまく沈んできたか?
 お父さんはそのお酒を飲めたのか?
 蟹の子供たちは、やまなしの実を食べただろうか?
 その味は?香りは?その色は?

 何も書かれていないからこそ、月の光のきらめく水の中へと、思いがいつま
でも漂って行くのだ。

 私が子供のときすすめられて困っていた梅酒の中の梅の実のように、お父さ
ん蟹も発酵したやまなしの実をはさみでちょんと切って、子供たちに、ほらお
食べと差し出したかもしれない。お父さん蟹も子蟹も、みんな少し赤くなって
笑いあっただろう。

 そんな風景を考えながら、でも、できればお父さんになってお酒を飲みたい
なあと憧れるのだ。

 洋梨が出回ると必ず買ってしまうのはこの物語のせいかもしれない。食べき
れずに熟しすぎた実はケーキの材料に使うのだけれど、レシピによっては、ウ
イリアムという洋梨のリキュールをかけるようにと書いてあったりする。

 そのうちにこのリキュールを手に入れて、サイダーで割って月の光を注ぎ入
れ、お父さん蟹の気分で味わってみようと思っている。
 
 でもそれより、本を開いてこの幻燈世界の中に入り込むほうがもっと酔える
気もしている。

 大人だからお酒は手に入る。でも結局は、そんな代用品より、物語の世界の
住人となってその味を味わう方が、ずっと酔えると思うのだ。

 物語の世界の味わいとその酩酊は、とても深くて長いのだ。

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『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ著        集英社文庫
『やまなし』宮沢賢治著 宮沢賢治全集第八巻    ちくま文庫
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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2011.3.11 大川小学校で起きた悲劇

 昨日、早稲田大学で、2011年の東日本大震災と大川小学校で起きた悲劇を今
に伝える、佐藤敏郎さんのお話をお聞きする機会をいただきました。

佐藤敏郎さんの紹介記事
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/dango24

 下記は、佐藤さんが講義の中で紹介していたブログです。

【被災地の教育現場 vol.13】新学期は中島みゆきから
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/10/13/15990/

【被災地の教育現場 vol.16】 青空バレーボール部I
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/11/05/16504/

【被災地の教育現場 vol.17】 青空バレーボール部II
https://www.collabo-school.net/news/kyouikugenba/2015/11/19/16507/

 下記は、講義でも配布された、大川小の教訓を活かすための小冊子です。

冊子『津波から命を守るために』 
http://sspj.jp/brochure-tsunami/
冊子『小さな命の意味を考える』 
http://sspj.jp/brochure-chiisanainochi/

 私も詳しく知らなかったのですが、大川小学校では、周辺の学校ではほとん
ど犠牲者が出なかったにも関わらず、児童78名中74名、教職員13名中、校内に
いた11名のうち10名が死亡したとのこと。しかも、逃げる時間も手段もあり、
逃げる意思もあったことが確認されています。しかし、このような犠牲が出て
しまったのです。

 現在も裁判が行われているので、責任問題云々は置いておくとして、お話を
お伺いして思ったのは、これは、どこにでも起きうることである、という認識
です。

 これは組織が持つ逆機能が起こしてしまっていることであり、子どもだけで
自主避難していれば、ほとんどが救われたであろうことを思うと、大人の作っ
ている「組織」というものの弊害の恐ろしさに、ひとりでも多くの人が気づく
べきだと感じました。

 自分で考え、判断する、意思決定することを推奨した教育をしつつ、子ども
全員の安全を守るという「大義名分」によって、自律した思考・行動をつぶし
ているのが日本の組織やコミュニティの原型ではないかと思います。多様性を
認めるというのはリスクもありますが、生物界同様、生き残りや突然変異、イ
ノベーションのチャンスでもあります。

 津波が来る中、余震が続き土砂崩れも可能性のある中、おそらく子どもたち
に自主避難させて、ひとりでも犠牲者が出れば、その学校や先生はメディアや
世間から強烈なバッシングを受けたことでしょう。そういう意味では、子ども
たちや先生を見殺しにしたのは「世間の目」かもしれません。そして「世間の
目」は、まさに私たちの心の中にあるもので、だから怖いな、と思いました。

 悲しい話、苦しい話ばかりでもなく、その経験から生きるということを見つ
け出した子ども達の姿も紹介されました。

 国語の先生であった佐藤敏郎さんは、震災後、言葉を無くしていた子ども達
が俳句の授業を通して「伝える」ようになったことを話されていました。今で
はそれがいくつかの書籍になっているそうです。

震災後の思い「五七五」に込め空へ 宮城・女川の中学校
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201112240124.html

本に託した「伝えたい」という想い
『16歳の語り部』表彰式スピーチ全文
http://www.webasta.jp/serial/interview/post-242.php

 佐藤さんがおっしゃっていたのは「被災地」という言葉の意味についてです。
どうして阪神大震災の時に、中越地震の時に、次は自分のところが被災地にな
る、と思えなかったのだろう、と。実際、東日本大震災の被災地には、津波を
警告する石碑が立っていたそうですが、ほとんどは意味が分からない単なる石
碑になっていたそうです。「被災地」ではなく「間災地」と思えば、日本全国
どこも同じだ、ということです。

参考)此処より下に家建てるな…先人の石碑、集落救う
http://archive.is/iGMl

 実際、佐藤さんのお話では、子どもの頃から、大地震・津波が来たら高台に
逃げろ、と子どもの頃から叩き込まれていた地域では、寝たきりの老人が走っ
て高台に逃げ、難を逃れたという話もあったそうです。一方で、2010年のチリ
地震による大津波の影響を受けた地域では、前回はここまでしか来なかったか
ら大丈夫、と言っていた老人たちに犠牲者が多かったそうです。

 佐藤さんの話は実際に起きた話ですので、そこには正解も間違いもありませ
ん。どんな教訓をそこから引き出そうが、誰か自分とは関係ない世界の話、と
するのも良いのではないかと思います。

 私が感じたのは、脳の持っている「可塑性」という性質の怖さです。脳はエ
ネルギーを使いたくないので、できるだけ反応を自動化し、省力化しようとし
ます。それは当然、老化によって、子どもよりも大人の方に、そういう性質が
強くなります。

 前例主義、組織依存、動くことより動かないことの選択、変えることより変
えないことへの執着。こういったものは、脳の可塑性の影響下にあることも、
ひとつの要因ではないかと、私は仮説を立てています。実際、大川小の事例で
も、目で見るまでは津波が実際に襲ってくることをイメージできなかった先生
方が多かったことが、避難を遅らせた原因のひとつではなかったのかと思いま
す。ラジオの音声をビジュアルに変換することができなかったのでしょう。例
えば停電してもネットで検索し、映像を見ることができれば、行動も変わった
のではないかと思います。

 佐藤さんは、行政が詳細なマニュアルを作り込む方に労力をかけていること
を批判していました。そんなもの、パニックになっている現場では役に立たな
い。私もそう思います。

 パニックになった脳でも処理出来て、行動に移せるような、そんな対策を普
段から自分に、そして自分の大切な人にインストールしておく。そんなことが、
私の学んだことでした。

----------------------------------------------------------------------
■「[本]マガ★著者インタビュー」:
----------------------------------------------------------------------

 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

----------------------------------------------------------------------
■あとがき
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 大川小学校についての本は、このメルマガの姉妹紙の[書評]のメルマガ内、
多呂ささんの連載「日記をつけるように本の紹介を書く」にて、2度ほど取り
上げられています。

第100回 死んでしまった子どもたちと生き残ってしまった大人たち
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979084

第43回 東日本震災関連(その18)・・・子どもたちの悲劇
http://back.shohyoumaga.net/?eid=978975

 私も読んではいましたが、いや、実際に関係者の方からお話を聴くと、数字
が単なる数字ではなく、胸に飛び込んできまし、自分事として話を聴くことが
できました。

 機会があれば是非、皆さんもどこかでお聞きになっていただきたい、と思い
ます。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.699

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 かけて日本の歴史的瞬間に立ち会った50の乗り物について、技術的側面
 とともに社会にどのように作用したかを、写真やデータを交えて解説する。
 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 今月はお休みです。次回に乞うご期待!

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第113回 白い一本柱のテントのもとで
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 廃校活用術!
  
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 ■トピックス
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 2のイベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第113回 白い一本柱のテントのもとで


  11月3日、千駄木の養源寺で開催された「しのばずくんの本の縁日2018」
 は、お天気にも恵まれてじつに楽しいブックイベントだった。もう今年で3回
 になるのだなあ。養源寺のご住職の「境内を本でいっぱいにしたい」とい
 う思いは、すっかり秋のイベントとして定着したみたいだ。
 出版社、古書店、
 ミニコミ・リトルプレスのブースが並んで、お寺の境内は本であふれている。
 境内の奥にはキッチンカーもあって、ちょっとしたフェスティバルだった。

  若い人からお年寄りまでたくさんの人が本のブースをのぞきこんだり、出
 版社の人たちと話をしていた。キッチンカーで買ったホットドックをのんびり
 芝生にすわって食べる人たち、なんとも平和な景色だった。ぼくは、全体の音
 響や潮田登久子さんのトークイベント、アイリッシュバンドの「きゃめる」のライ
 ブのお手伝いで本堂の縁側から、境内にひろがる幸福感にうっとりとしていた。

  春の一箱古本市も楽しいけれど、こじんまりした空間に本好きな人たちが
 集まるのはいいものだ。
境内には、とんちピクルスさんのDJで流れてくる洒
 落たBGMも気持ちよかった。DJだけでなく、ウクレレを弾きながら、“とんち”
 の効いた歌も披露してくれた。本堂の縁側でウクレレ片手に歌うとんちピクル
 スさんを階段下で夢中で見てた子どもたちが可愛い。人形メンバーと話す腹
 話術には子どもたちが目を丸くしていた。

  これだけ大勢の人が集まるのは、もちろん魅力的な出版社、古書店、ミニ
 コミのブースがあるからだろうけれど、ただ「本の売り買い」だけではなく、手
 作りのイベントが醸し出す、やわらかく、ゆるやかな感触が魅力になっている
 からだろう。

  来場した人ならば、すぐに気づいただろうけれど、境内には大きな白いテ
 ントが張られていた。一本の支柱が立てられて、数本のロープが木に結びつけ
 られただけのテントだ。見るからに手作りのテント!
  市販のテントのようにきっちりとはしていないが、なんだか人間味があふれ
 ているというか、人を包み込むような雰囲気がある。この手作りテントがこのイ
 ベントの象徴じゃないかと、ぼくは思う。

  このテントは、千駄木のジョージ・ルーカス、Iさんが考案したものだ。毎年
 七月にある光源寺での「ほおずき千成市」ではおなじみの一本柱の白い大き
 なテント。このテントを張るのが祭りの儀式のようで、白い天幕が風にたなび
 くのを見上げると気分が盛り上がってくる。
「しのばずくんの本の縁日」でも、
 Iさんのテントを張ろうということになったのだが、これがなかなかの試練だった。

  3年前の準備の日、次から次へ本や荷物が運び込まれ、ブースの配置が
 決まっていった。だが、テントの作業はいっこうに進まなかった。初めての会場
 で、位置がなかなか決まらない。下見をしてはいても、実際にテントを立てると
 なると予定どおりにはいかない。

  ぼくはIさんのことをアーチストだと思っている。テントは、現代美術のインス
 タレーションのようにIさんの表現だ。毎年、恒例になっている「ほおずき千成
 市」でも、少しずつ張り方がちがっている。Iさんは頭の中にあるイメージを再現
 しようと、指示をしていく。位置が決まったかと思うと、すぐにやり直しの指示が
 飛ぶ。降り出した雨がだんだん激しくなってくるし、あたりは暗くなってくる。

  これが、いまや伝説となっている(か、どうかは知らないが)3年前のテント
 張り事件だ。冷たい雨が降る中、何時間も作業が続いたが、Iさんは、なかな
 か納得がいかない。あたりはもう真っ暗になっていた。終わりのない作業に、
 ぼくたちも疲れ果てて、夜中近くに一旦作業を中止して、暗澹たる気持ちで朝
 を待つことになった。

  翌朝、前夜の雨が嘘のように晴天になっていた。そして、テント!
   なにがうまくいったのか、ぼくにはわからないが、支柱が立てられて天幕が
 きれいに張られた。見上げると、天幕のすきまから見える青空がまぶしかった。
 疲れ切っているはずなのに、実行委員の人たち、助っ人もじつに軽快に作業を
 進めていった。奇跡を見ているようだった。きっと神様がブックイベント「しのば
 ずくんの本の縁日」を祝福してくれたにちがいない。いや、お寺なんだから仏様
 のお慈悲なのかな。

  一度、うまく張れたからといって、翌年は簡単になるというわけではない。
 2年目もそれなりに時間がかかった。Iさんは、やはりアーチストで、同じ張り方
 を繰り返すことは意に反するようだ。やれやれ、と思いながらも白いテントが風
 になびくのを見ると、気分がよくなって苦労を忘れてしまう。

  今年のテント張りは、年寄りのぼくはお役御免になったのだが、1時間半ほ
 どで作業がすんだという。縁日当日の朝、テント微調整を終えたIさんは、ビー
 ル片手にご機嫌だった。おおっ、3年目にしてコツをつかんだのか? いや、
 あまり期待しないほうがいいのかな。アーチストのひらめきはそのときになって
 みないとわからない。とかく効率、能率の高さが求められる世の中だけれども、
 こうやって“ゆっくり”時間をかけて作っていくのもいいものだ、と思う。既製品
 のイベント用テントを張っても味気ないだろう。人一倍、地元愛溢れるIさんの
 本の縁日への熱い思いがあるからこそ、テントは美しく張られるのだ。

  ときおり本堂の縁側から境内を眺めると、助っ人さんたちが働いている様子
 が目に入る。会場の案内をするのはもちろんだけれど、指示されたわけではな
 いのに、ゴミに気づくと箒を持ってきて掃除をしたり、常に気を配っている。
 そして笑顔。だれもがイベントを大切にしているのが伝わってきた。最後の
 かたづけが終わって、「じゃあ、また」とさらりと別れるのもいいな。

  体力的にきつくなってきたけれど、「ああ、またこの人たちといっしょに助っ
 人をやりたい」と思ってしまうのだ。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


   
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  うちの近所にもあるんですよ。なんだか産業関係の施設になったようなんで
 すけど、正直何をやってるのかよく分からないんですよね。建物はそのまま流
 用しているようなんですが…。
 
  何の話か分からない?廃校の話です。ということで今月はこちら。
 
 『廃校再生ストーリーズ』、美術出版社、2018
 
  少子化や過疎化に伴って日本全国で廃校が増えています。本書によれば毎
 年500校も廃校になっているといいます。(最近はいくつもあった小学校や
 中学校を一度にひとつにまとめてしまうこともよくあるので、いつまでもこの
 ペースで廃校が増え続けるとも思えないですけど。)廃校が今後も増えてい
 くのは間違いないところでしょう。
 
  そこで課題となるのが、廃校をどう生かしていくのかということになります。
 本書は日本全国から20の廃校活用の事例を挙げています。
 
  例えば廃校の活用事例として、本書に取り上げられている鳥取県八頭町
 の隼Lab.や東京都世田谷区のIID世田谷ものづくり学校のようにベンチャー
 企業などに入居してもらうという例は、割と多いのではないでしょうか。
 
  しかし冒頭の我が家の近所の廃校のように、産業関係の施設って地元の
 人からするとあまり関係が無いんですよね。(もちろんその企業に興味があ
 れば別ですが。)
 
  先に挙げたふたつの施設に共通しているのは、学校の面影を残すことや
 地域に開かれていることです。隼Lab.は学校の外観を「あえて改修しなか
 った」(p,19)、地域の人たちの「思い出を損なわ」(同)ないことにも意識を
 向けています。IID世田谷ものづくり学校ではクリエイティブな人たちが集ま
 ることで「敷居が高い」(p,27)と感じてしまう人たちが、気軽に入れるように
 することに心を砕いています。
 
  どちらの施設にもカフェがあったり、イベントを開いたりして、これといった
 用がなくても入れるような構造になっているのも共通しています。
 
  この本に紹介されている廃校の中で、唯一私が行ったことのあるアーツ
 千代田3331も広いエントランスがあって、実に入りやすい作りでした。小学
 校とその隣にあった公園を一体化させてその構造を実現しています。
 
  もちろん廃校の使われ方は千差万別。その他にも色々と面白いものにな
 ったりしています、道の駅・ドローン開発施設・病院・福祉施設・etc.…。
 
  長崎県西海市にはひとりの人が集めたレコードとプレーヤー等のコレクシ
 ョンを展示している、音浴博物館という施設になった廃校があります。
 
  この建物は廃校後一時寮として使われていたのですが、ちょうどコレクシ
 ョンの展示場所を探していたコレクターの男性が岡山からやってきて、地元
 の人たちを巻き込んでオープンさせました。その後寮だった時代に失われ
 ていた学校時代の面影を取り戻すためのリニューアル工事が行われていま
 す。
 
  音浴博物館は今年間8000人のお客さんが訪れる場所になっています。
 地元のみならず、多くの観光客を集める場所になりました。
 
  山口市の阿東文庫も廃校を資料館として利用しています。もともとある人
 が地元で捨てられる本を収集していたものを、廃校の一画に置かせてもらっ
 ていました。それがだんだん増えて管理しているうちに、それを生かしたイ
 ベントもするようになっていくという過程を経て、ついに廃校自体が資料館と
 なったのです。
 
  捨てられた本ではありますが、明治・大正期の本も収蔵しており、そのコ
 レクションはなかなかのものなようです。行き先の無くなった大学教授からの
 寄贈本もあります。
 
  巻末には廃校を使って事業をする際のQ&A も色々載っています。学校を
 他の用途に転用するには、都市計画法や建築基準法・消防法など様々な
 法律で定められた基準の違いを乗り越えないといけません。それに公共の
 資産を使うわけで、用途もなんでもOKなわけではありません。老朽化した施
 設の補修も、自治体が全部してくれるとは限りません。
 
  本書に取り上げられた廃校再活用の事例はそうした様々な課題をクリアし
 た上で行われています。
 
  それぞれに共通していることは、学校がその地域のシンボルであることを
 強く意識していること。地元の人たちが学校に抱いている思いに充分に意を
 注いでいます。
 
  その上で廃校であることにマイナスのイメージを持っていない。むしろここ
 をもう一度地域のシンボルにしようという意気込みが感じられます。
 
  観光という意味でも、おもちゃ博物館・漫画ミュージアムや水族館など様々
 なものに生まれ変わった廃校を訪ねてみるのも面白いかもしれません。
   
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。

  
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 ■トピックス
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 ■ 古書ほうろう サウダージな夜
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 今回の「サウダージな夜」は、
 朗読詩人の成宮アイコさんをゲストに迎えます。
 7月10日、ほおずき市のときに古書ほうろうで店番をしましたね。
 ぼくは、ふげん社で行われた南陀楼綾繁さんとのトークで会いました。
 「新潟の魅力と残念を語る」というテーマのトークでしたが、
 成宮さんの聖地「イトーヨーカドー」の話は面白かったなあ。
 サウダージでも新潟の話や
 アイドルRYUTistのことも聞いてみたいと思います。
 もちろん、生きづらさを抱えた人たちに語りかける成宮さんの
 パフォーマンスをたっぷりお届けします。             吉上恭太

                                                             〜古書ほうろうHPより

 

◆日時:2018年11月23日(金)20時より(1時間ほどの予定)

  出演  吉上恭太  ブログ 昨日の続き  https://twitter.com/ykyota

         https://www.facebook.com/kyota.yoshigami

  ゲスト 成宮アイコ http://aico-narumiya.info/

◇会場:古書ほうろう

★入場料:無料(投げ銭歓迎) (飲み物持込み可/三軒隣に酒屋あり)

     *空き缶などのお持ち帰りにご協力ください。

 ■ 第6回いしのまき本の教室  
                                       ちいさな出版物の設計図を作るワークショップ
 └─────────────────────────────────
 お待たせしました「いしのまき本の教室」第6回目の開催です!
 小さいけど良質な本を発表しつづける出版社や、
 地域で活動する編集室など、
 近年の出版のあり方は多様化しています。
 出版に関わる主体が多様化しているとも言えるかもしれません。
 本や雑誌をつくること、やってみたいけど、
 どうすれば最初の一歩が踏み出せるか判らない人たちに
 入り口をご用意します。
 ミニコミ、リトルプレス、zine、フリーペーパーなど
 呼びかたはいろいろありますが、
 要は少部数・自主流通のちいさな出版物のことです。
 それらをつくる第一歩として、「設計図」を一緒に考えていきます。
 出版や編集の経験は必要ありません。年齢も不問です。
 お子さんと一緒の参加も歓迎です。
 「こんなものをつくってみたい」
 「こういう内容をカタチにしてみたい」という気持ちがあれば、
 誰でも参加できます。

                         〜石巻 まちの本棚HPより抜粋

 ◆日時:2018年12月7日(金)18:30-21:00
 ◇場所:石巻まちの本棚(宮城県石巻市中央2-3-16)
 ★参加費: 2500円(材料費含む)
 ☆定員: 12名
  持ち物/自分の好きな雑誌、リトルプレス、フリーペーパーなど1冊。筆記具。

 ●講師:南陀楼綾繁
 1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、
 図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・
 根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開
 催される多くのブックイベントにも関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人
 として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営
 にも携わる。雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。
 著書に『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
 (ちくま文庫)、『蒐める人』(皓星社)などがある。
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 今年も残すところ、一ヵ月余り。「平成」も終わりが近づいてきま
 した。ここにきて出版や流通も大きな変化が起きています。思いもよらないこと。
 でも動いているのだから変化は当たり前なのかもしれません。何を手放さずに
 いるか、見極めていきたいと思います。 畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.698


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■■ [本]のメルマガ                 2018.11.05.発行
■■                              vol.698
■■  mailmagazine of books       [美術家と旅は面白い関係 号]
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■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その29「ル・グィン追悼―魔法使いと竜」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立版画美術館)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その29「ル・グィン追悼―魔法使いと竜」
 
 今年一月にアーシュラ・K・ル・グィンが亡くなった。その時から、なにか
追悼の文章を書きたいと思ってきた。私らしく、彼女の世界を彷徨いながら、
おいしいものが出てくる場面を見て行こうかと。

 けれども、彼女の作り上げてきたSFやファンタジー世界はあまりに広すぎる
ので、今回はアースシーの世界、いわゆる「ゲド戦記」の舞台である海と島の
世界だけを見て行こうと思う。そして、その中に描かれる魔法使いやファンタ
ジーで最も重要な生物である竜の食生活を見て行きたい。

 このアースシー、「ゲド戦記」の世界は、前半三部作(『影との戦い』『こ
われた腕環』『さいはての島へ』)と後半三部作(『帰還』『アースシーの風』 
『ゲド戦記外伝』)では食事の描かれ方が違う。さらに、竜の描かれ方もまた
全然違ってしまうのだ。

 例えば、前半三部作にはほとんど食事の場面は出てこない。というのも、第
一巻ではゲドは若い魔術師として修業する話なので、自分で料理などしないか
らだ。食事の場面も、魔術を学ぶロークの学院の給食を食べたり、旅に出ても
友人の妹が用意してくれる糧食を食べたりする場面くらいしかない。第二巻、
第三巻も同様に、冒険に出た先でもゲドは料理などしない。物語に出てくる他
の魔法使いたちも料理をしない。ただ第三巻で若い学生が、アレン王子をから
かって我々魔法使いは呪文で好きな料理を出して食事をすると言うのだが、す
ぐに調理場で作っているレンズマメと玉ねぎのスープを食べることになりウソ
がばれてしまうところがある。だから、魔法学校でも料理は普通に作っている
ことがわかる。

 後半の『帰還』になると主人公が第二巻に出てきた元巫女のテナーに変わる。
テナーは魔女ではないけれど、魔力を秘めた存在だ。けれどもこの物語では、
長い間農家の主婦として働いてきた中年の女性になっている。農作物を育て羊
の世話をし、チーズを作り料理をして家族に食べさせる。テナーのそんな生活
の描写が現れてきてやっと、食事の場面は物語の中に書き込まれていく。さら
に後半部に入ると、ゲドも料理はしないにしろ皿を洗うし、『アースシーの風』
では、熟したスモモを収穫して訪ねてきた旅人にパンとチーズと共にふるまっ
たりするようになって行く。

 さて、肝心の竜なのだが、実は以前に物語や伝説の中の竜というのは何を食
べているのかを調べてみたことがある。
 東洋の龍も西洋の竜も、玉や宝石を好むのだが、それだけが食べ物かという
と、そうとも言い切れないようだ。若い燕の肉や血を食べるという説もあれば、
いやいや真龍は露の気だけを食べるのだという説もある。だが、どちらにも共
通するのは若い女性を生贄にするという話だ。
 本当に食べるのだろうか?
 この生贄とやらは、多くは年に一度捧げられればいいらしいのだけれど、そ
のお肉の量などを考えると、竜の大きさに対して、どうも少なすぎる気もしな
いでもない。

 そんなことを考えながら、ル・グィンの世界に入って行こう。
 第一作の『影との戦い』では、ゲドと竜の戦いの場面がある。この竜イエボ
ーは魔法も使える邪悪な存在で、金銀財宝を略奪するために人を殺す残虐な奴
だ。イエボーはベンダー島でメスの竜と暮らしていたのだが、彼女が出て行っ
た後に残された卵から孵った八匹の息子を育てていた。そして、ゲドは子供の
竜が食欲を感じるまでに退治しなくてはならないという使命を帯びて島へ行く。
そして竜の息子三匹を殺し、イエボーを真の名前で縛って彼らが多島海に来ら
れないようにしてしまう。
 ここでわかるのは、例え竜であっても子供の時に、いきなり「生娘」を食べ
たりしないということだ。さらに、メスの竜がいるならば、その食事も「生娘」
だとは思えない。たぶん若い燕ではないにしろ、羊や小動物を食べているのだ
ろう。

 これに対し第三巻の『さいはての島へ』と後半の三部作に現れる竜は、古代
からの長い寿命を持った深い知恵の持ち主で、ゲドを助ける存在として描かれ
ていく。彼らは超越した存在で、なにかを食べているところは描かれない。
 さらに、物語が進んでいくと、このアースシーの成り立ちの根本に、人間と
竜が元々は同じものだったという話があることが明らかになって来る。やがて、
それとは知らずに、あるいは知りながらも人間として生きているが実はその本
質は竜であるという者たちが後半の物語の中心になって行く。

 では、この竜である人は何を食べるのかといえば、ごく普通の食事なのだ。
 『帰還』で現れるテルーという少女は、テナーが作った

「パンとチーズに、ハーブ入りのオリーブ油に漬けた、よく冷えた豆、それに
オニオン・スライスとソーセージのたっぷりとした食事」

をテナーと一緒にお腹いっぱい食べる。
 旅の途中ではオートミールをすすり、胡桃や干し葡萄で元気をつける。魔法
使いのオジオンの家に生えている桃の木の真っ赤な実も大好物で、種を植えて
育てようとしたりする。  
 
 けれども、そんな普段の食事では、ファンタジーには魅力を感じないという
方々のために、魔法使いと竜が作る食事の場面を見てみよう。
 
 それは、「ゲド戦記」がこの世に生まれる前に書かれた短編『名前の掟』に
出てくる主人公ミスタ・アンダーヒルの料理だ。
 アースシーの東の果てにあるちっぽけな島サティンズ島。ここで、丘のふも
との洞窟に住む魔法使いのミスタ・アンダーヒルは、あまりまじないの腕が良
くない。イボを取ってもらっても三日もたつとまた出てきてしまうし、猫の疥
癬を直してもらったときには赤毛の猫なのに灰色の毛が生えてくる始末。でも、
村の人はよそ者の彼と安心して付き合っていて、夕食に呼んだり、洞窟におよ
ばれしたりしている。

 では、その豪華な魔法使いの食卓を見てみよう。そこにあるのは、

「銀や水晶の食器、綾織のナプキン。供されるのは、ガチョウの蒸し焼きにア
ンドレード産の発泡酒のぶどう酒、そして、こってりソースの掛かったプラム
プディング」

なのだ。けれども、このご馳走を食べた面々は、半時もたたぬうちにお腹がす
いてしまうという。
 魔法使いの作るご馳走というのは、半分目くらましで、その実体は「言葉」
に過ぎないから、食べてもすぐお腹が空いてしまうのだろう。

 けれども、このミスタ・アンダーヒルが自分のために作るお料理はおいしそ
うだ。
 それは、ある日のお昼ご飯。
 町に行って卵とレバーを買った帰り道、彼は学校の前を通りかかる。そして、
丸ぽちゃの美人のパラニ先生の授業をのぞくことになる。授業の内容は「真の
名前は人に告げてはいけない」という掟について。真の名前を誰かに知られる
と相手に支配されてしまうからなのだ。子供たちと一緒に話を聞きながら、彼
はふいに、ものすごくお腹がすいてしまったのに気付き、あわてて洞窟に帰っ
て料理をし始める。彼が涎をたらしながら作るのは、目玉焼きとレバーの料理。
じゅうじゅうと焼ける音と匂いが洞窟の奥から漏れてくる。その様子が実にお
いしそうなのだ。

 ところが、ミスタ・アンダーヒルがたらした涎には秘密があった。実は彼は
竜なのだ。多島海にあるベンダーという島の領主の一族を滅ぼしその宝をすべ
て自分のものとし、ダイヤモンドやエメラルドの上でごろごろ楽しんで暮らし
ては、食事には大好物の「生娘」をさらって食べるという大悪党の竜だったの
だ。ミスタ・アンダーヒルが食べたかったのは、本当は目玉焼きではなくてパ
ラニ先生なのかもしれない。

 物語はこの後、ベンダーの領主の子孫がやってきて急展開をする。彼は、黒
魔術でミスタ・アンダーヒルの真の名前を知ったからと自信満々でミスタ・ア
ンダーヒルに戦いを挑み、彼が奪った先祖伝来の宝を取り戻そうとする。けれ
ど、ミスタ・アンダーヒルが実は竜であることを知らなかった為、この領主の
子孫は魔法合戦に負けてしまう。竜の姿に戻ったミスタ・アンダーヒルは、生
娘という真の食事を始めるだろう……というところで、この短編は終わるのだ。

 それにしても、勝ったとはいえ、真の名前を知られてしまうとは実に迂闊な
竜であるとは言えないだろうか?
 実は、この竜は「ゲド戦記」にも出てきたあのイエボーなのだ。ゲドもイエ
ボーという真の名前を使って、殺さない代わりに多島海に行ってはいけないと
いう縛りをかけて、竜に勝つ。
 二人もの魔法使いに真の名前を知られてしまうとは、イエボーは、ミスタ・
アンダーヒルのように少々間抜けな竜さんであるようだ。
 ゲドと対決した時と、この東の果ての島に逃げてきている時と、どちらの時
代が古いかはわからないのだが、竜の真の食事が「生娘」だとしても、常食で
はないことがはっきりわかるこの物語が私は好きだ。
 ル・グィンの竜は『帰還』『ゲド戦記外伝』を経て『アースシーの風』へと
変化して行き、最古の知恵に満ちた竜だけではなく、美しく実に自由な若い女
性の竜が描かれていく。だから、イエボーは、後半を知ったものの目から見る
と、もはや真の竜ではなく、欲張りでせいぜい大蛇に成り下がったくらいの竜
ということになる。

 けれど、サディアン島でミスタ・アンダーヒルに化けていた時、彼は実は幸
せだったのかもしれない。
 私にとってル・グィンの描く世界で、この小悪党イエボーは一番のお気に入
りの竜であり、鼻から蒸気の煙を吐きながら内股でよたよたと歩き回るちびで
でぶの五十男のミスタ・アンダーヒルは、一番のお気に入りの魔法使いなのだ。

 ル・グィンは最終的に、人間と竜が実はひとつのものであったという物語世
界をこのアースシーで作り上げた。何度も何度もこの世界を旅し、問い続け、
アースシーの中を味わってきたのだけれど、やはり、アースシーが最初に現わ
れた『名前の掟』の物語の中で、魔法使いに化けた竜が作る目玉焼きこそが、
私が一番食べたい食物なのだと思う。
 それにしても、油と塩と卵だけという同じ材料なのに、なぜ目玉焼きとオム
レツは焼ける匂いが違うのだろう?
 そんなことを思いながら本の中でミスタ・アンダーヒルになって、のんびり
とこの平和な島の洞窟でお昼を食べてみようと思う。いやいや、卵は三ダース
ほど買ってあるらしいから、村人になって訪ねて行ってもひとつくらいはご馳
走してもらえるかもしれない。

 こんな風にファンタジーの世界を旅する自由と楽しみは、著者の意図するも
のとは違ってしまうかもしれないけれど、それでも、竜について考えていくこ
とは「独自のやり方で真実に達することができる」ことなのだとル・グィンは
言っている。

 今宵はぜひ竜に変身し、ダイヤモンドや真珠やエメラルド(その名も高い緑
玉のイナルキル!)などを食みながら、ファンタジーという真実の味を味わっ
てほしい。
 アースシーへの旅があなたを待っている。

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アーシュラ・K・ル・グィン著作
「ゲド戦記」のシリーズ
1 『影との戦い』                 岩波書店
2 『こわれた腕環』                岩波書店
3 『さいはての島へ』               岩波書店
4 『帰還』                    岩波書店
5 『アースシーの風』               岩波書店
6 『ゲド戦記外伝』                岩波書店
『名前の掟』     短編集「風の十二方位」   早川文庫SF
『夜の言葉』      同時代ライブラリー    岩波書店
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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第116回 目を閉じて見る
―「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立版画美術館)

 美術家と旅は面白い関係にある。写真がなかった頃は遠い土地の風物を視覚
で伝えるという点で、絵は重要な役割を果たしていた。広重の「東海道五十三
次」は代表的な例だろう。博物学者や探検家たちは例外なく絵がうまい。もち
ろん、実用的な目的以外でも、旅は美術家にインスピレーションを与えてきた。
そうした作品には人間の精神が環境に影響される様が生々しく刻まれて興味深
い。王道の名所から強い印象を受けることもあるだろうが、人々の何気ない仕
草やどうということもない日常的なスポットからその地方特有のものを感じ取
ることもあるだろう。目に飛び込んでくる珍しい風物にどうしようもなく反応
してしまう、人間の性が実感できるというわけだ。

 町田市立版画美術館で開催中の「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展
は、旅を愛し旅に生きた版画家を回顧する展覧会である。ヨルク・シュマイサ
ーは1942年ドイツのポメラニア・シュトルプ(現在ポーランド領)に生まれ。
ハンブルク造形大学で幻想的な作風で知られるパウル・ヴンダーリッヒに師事。
京都でも学び、日本に長く住んでいた(夫人も日本人女性である)。各地を旅
しながら創作活動を続け、2012年に最後にアトリエを構えたオーストラリアで
亡くなっている。

 シュマイサーの創作は、師ヴンターリッヒ譲りの半具象的な幻想的な作風か
ら始まった。但し、ヴンターリッヒの持つ暗いロマンティシズム、不安を孕ん
だ官能性はシュマイサーの作品には見られない。「月と化石のようなもの」
(1965)は、化石や月面の模様をデフォルメさせたような不思議な形態の作品
だが、縦横の整理が行き届いたすっきりした造形である。連作「彼女は老いて
いく」(1967-68)は20代頃から老年に至る女性の横顔の変化を描いているが、
ここには日本人が好むような「もののあはれ」の要素はない。老いていく過程
を科学的と言って良いほど冷徹に捉えている。シュマイサーは70、80年代にも、
一人の女性をいろいろな視点で描く「変化」と題する連作を手掛けている。女
性は一個の物体として極めてスタイリッシュに描かれ、女性に対する特別な思
い入れは見い出せない。

 シュマイサーはある時期以降、前述のように世界中を旅して創作するように
なるが、対象に飲み込まれることのない冷静な姿勢は驚くほど一貫している。

 「京都清水寺」(1979-80)は清水寺の春夏秋冬を描いた連作だが、清水寺
一帯の地域が何者かによって浸食を受けている、といった印象を与えられる。
日本画に見られるような、柔らかな筆致で四季の変化を慈しむいわゆる「日本
的情緒」は欠片もない。清水寺は化学反応の実験の場であるかのようだ。シュ
マイサーは日本で学び、「日光絵巻」(1969)のような伝統的な技法による水
墨画の作品もあるほどだが、勝負をする時は、花鳥風月とかわびさびとかいっ
た日本的な感性を、意識的に切り捨てているように見える。

 「プリンストンにて奈良を想う」(1978)は、タイトルの通り、滞在先のア
メリカのプリンストンで、妻の出身地でもある奈良の印象を描くという作品。
下方に狛犬が、中央にイソギンチャクと波が、上方に山脈と楓が、左に釣り鐘
のようなものが、描かれている。海を渡って奈良を回想し、心に浮かんだもの
を一つの画面に収めたという感じだが、日本らしさを象徴するものたちが異次
元の空間に移植されて浮遊しているようで、眺めていると何とも不思議な気分
になってくる。

 「アルチ、夢」(1985)はヒマラヤ山麓ラダックを6週間かけてほぼ徒歩で
旅した体験に基づく作品。寺院、土地の神々、独特の様式の建築物、集落、険
しい山々が描かれている。描かれた対象はどれに重きが置かれているわけでも
なく、パノラマ風に配置されている。確かに幻想的な作品なのだが、その土地
の信仰の在り方をジャーナリストのような客観的な視線で捉えているようで、
見ている者には陶酔よりも覚醒を促す。神に敬意を払いながら神に飲み込まれ
ず、同調しない姿勢が印象的である。

 シュマイサーは、何と南極大陸も訪れている(オーストラリア政府のフェロ
ーシップによるもの)。不定形の氷山を描くのに苦労したそうだが、結果は見
事である。氷の形態は捉えがたいように見えるが、実際は一つ一つ、明確な個
性を持っている。日本や中国の水墨画の画家は、決まった形がないように見え
る事物を表現するのに長けているが、氷山の連作を創るにあたって東洋の美術
を研究した成果が出たのではないかと感じた。連作「ビッグチェンジズ」
(2002)や「オパール・ゲート」(2004)他の作品は、写実に終わらず、氷山
が形をなすに至った風や水などのダイナミックな自然の動きを生々しく感じさ
せる。氷の塊は「動き」そのものなのだ。

 シュマイサーは晩年をオーストラリアで過ごし、先住民アーティストたちと
の共同制作なども行った。「イルパラ海岸のかけら」と題された連作(2010)
は、同じ海岸の光景を様々な変奏を加えながら描いたもの。メインに据えるの
は白い珊瑚のかけらだったり、細長い藻だったり、不気味な蜃気楼だったり。
背後には貝殻や蟹のハサミが浮かんでおり、更に日録と思われる文字を配置さ
せている。同じ場所だが、季節や天候その他の環境の変化によって、光景はめ
まぐるしく変わる。シュマイサーはオーストラリアの海の豊穣さを讃えながら、
その変化を冷静に捉えている。

 シュマイサーは確かに「旅の版画家」であり、訪れた各地の情景を素材とし
て創作しているが、実際に自分の目で見た印象を基にしているかは疑問に感じ
る。彼は世界中を旅して回っているが、彼の創作の対象は意外と狭く、その土
地のシンボルとなるような事物にほぼ限られている。例えば、京都なら清水寺、
カンボジアならアンコールワット、オーストラリアならエアーズロックといっ
た具合である。日本に長く住んでいるなら、修学旅行で退屈そうに仏像を眺め
ている高校生に目を留めても良いし、オーストラリアならiPODで音楽に聞
き入るアボリジニー出身の青年を題材にしても良さそうだが、そうした生活の
様子はほとんど彼の創作の対象にはならない。むしろその土地での現時点での
生活といった要素を夾雑物として切り捨てるところからシュマイサーの創作が
始まると言っても良いほどだ。むしろ、彼の旅は向かう土地を定めたところか
ら始まる。書物や地図で下調べし、この土地からどんな観念を抽出できるのか
を想像することが重要だったのではないか。

 ヨルク・シュマイサーは、現地に赴いてその空気を存分に吸った後、意識的
に目を閉じ、闇の中から浮かんでくるものを拾い上げるようにして創作に向か
ったのではだろうか。目に飛び込んでくるものそのものより、その奥に蠢く妖
しい何ものかの本質を捉えようとする態度が露わであり、写実よりも幻想を重
視するその態度は、若い頃の師ヴンターリッヒ譲りのもののように思える。彼
は、同じ人物・光景を違った視点で描く連作を幾つも残しているが、好んで変
化をテーマにするということは、逆に言えば、変わったように見えても、底に
は不変な何かが流れているということを証明したい気持ちの表れのようにも受
け取れる。ヨルク・シュマイサーの旅は、珍しいものを見聞するための旅では
なく、胸の奥で密かに抱いていた観念を完全にするための旅だったように思う
のである。


*「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展(町田市立国際版画美術館)
会期:2018年9月15日(土)〜11月18日(日)
*『ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅』(求龍堂 本体2500円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 もう11月ですから当たり前ですが、体感的には急に寒くなったような気がし
ています。先日までぽかぽか陽気だったものが、コートが必要な季節に…。

 ハロウィンも終わって、もう街はクリスマスの準備です。季節は確実に移り
変わっているんだなぁ、と実感します。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.696


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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第56回「『出版ニュース』休刊のニュースを聞いて」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第112回 耳鳴りが教えてくれたこと
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 似鳥鶏からの「読者への挑戦状」
  
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 ■トピックス
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 二つのイベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
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 第56回「『出版ニュース』休刊のニュースを聞いて」
 
 こんにちは。このところ暑さ寒さが乱高下して体調が追いつかない日々ですが,
 みなさま如何お過ごしでしょうか。
 
 この8月から9月にかけて,出張続きに加えて身内が入院するなど,公私共に
 気忙しく,先月は本来なら8月半ばに明らかになった高知県立大学附属図書館
 の蔵書処分問題を取り上げたかったところですが,やむを得ずお休みをいただ
 きました。高知県立大学の問題についてはいささか時期を失してしまったので
 詳しくは触れませんが,新自由主義的な大学政策が猖獗を極める昨今,大学
 図書館の蔵書処分が話題に上ること自体が,まだまだ「知識」というものが巷
 間それなりに尊重されていることの現れであるか,とも思わないでもありません。
 この件,手続き上の瑕疵がないことを擁護する図書館関係者もおりますが,個
 人的には「手続きが適正であることは,内容が適正であることを保証するもので
 はない」と考えています。
 
 閑話休題。
 先日,「出版ニュース」が2019年3月末で休刊するというニュースが入ってきま
 した(1)。わたし実は20年ほど前から「出版ニュース」を定期購読していたもの
 で,そのニュースを目にしたときは「あらまー」という心境でした。定期購読をお
 願いしている書店さんの配本サービスの都合なのか,休刊のお知らせが出て
 いる10月中旬号は拝見していないのですが,朝日,毎日両紙の報道に加えて,
 先程確認した「出版ニュース」のサイトにも「お知らせ」が出ております(2)。
 
 バブルが華やかなりし頃は,図書館には「出入りの書店が置いていくものです
 よ」(つまり書店で復数冊購読していたということでしょう)とまで古株の図書館
 関係者から言われていた「出版ニュース」でしたが,最近は部数の減少が停ま
 らず,休刊は時間の問題だったとも仄聞しました。「出版ニュース」が休刊して
 しまうと,Webなど代わりになる媒体がないわけではないのですが,日頃ディス
 プレイに向かっての作業が多いとはいえ,最近はRSSリーダーも確認している
 余裕が無いほど気忙しい毎日を送っているので,10日に1回届く定期刊行の
 印刷物というものは刊行頻度から言っても大変ありがたかったのですが,さて
 どうしたものか。
 
 「出版ニュース」では出版流通関係の記事が掲載されるのは当然として,図書
 館(特に公共図書館関係)の記事が手厚かったのが,編集者の見識であった
 とは思います。見識であったとは思いますが,しかしわたしの考え方からする
 と,いささか図書館関係の記事(特に巻頭記事)の執筆者の人選に守旧派へ
 の偏りが見られ,結果として図書館に関わる記事の内容も偏向していたのは
 残念でした。偏向した記事については,ときどきこの連載でも取り上げていた
 かと記憶していますが,一方的な身内(『市民の図書館』信者)褒めと裏返し
 の(指定管理者受託)企業批判に陥りがちで,出版流通関係は私企業なのに
 ここまで「(お上が直営する)公立図書館」を一方的に善なる存在とする記事
 を躊躇(解説)なく掲載するものだなあ,と編集者の見識を疑うような記事もあ
 りました。その最たる記事が,ここ3年ほど連載されている「図書館界ウォッチ
 ング」と題された匿名レビューでした。これはわたしの周囲でも「あれはひど
 い」と眉をひそめるひとがいた代物で,印象操作に満ちたプロパガンダであり,
 公共図書館業界の面目を却って失墜させるような連載だったと考えています。
 総じて図書館にまつわる巻頭記事の人選は,「出版ニュース」という媒体に
 掲載されることで編集者が期待されたであろう,図書館業界と出版流通業界
 の相互理解(そもそも出版流通業界が存在しなければ,書籍や雑誌が図書
 館の資料として,図書館の書架に排架されるはずものないのですが,図書館
 業界人は往々にしてそのことを忘れて,眼の前にある書籍や雑誌が何かの
 魔法によってそこに出現すると思っているんじゃないか,と)という目的は達
 せられず,記事によっては出版流通関係者の失望と憎悪を招くだけに終わっ
 てしまったいるのではないかと危惧します。
 
 そのような記事もある一方で,海外の出版状況に関する記事,吉田大輔氏の
 著作権に関する記事,出版とICTにまつわる記事,「ブックストリート」枠に掲
 載されていた学校図書館に関する連載コラムや,瀬戸内市民図書館の嶋田
 学さんによる「公共図書館」に関するコラムは,毎回わたしが掲載を楽しみ
 にしていました。嶋田さんの連載は新自由主義的な政策,風潮に抗するため
 には,巻頭記事のようにむかしの労働運動よろしく直営護持を妥協なく声高
 に理事者に対し叫び続けるだけではなく,市民/住民の視点を活かした,粘り
 強くかつ柔軟なありようが図書館運動として認められてしかるべき,とわたし
 も読後に教えられることの多いコラムでした。嶋田さんの連載が,(日本図書
 館協会以外の)どこかの出版者でまとめられ単行本として出版されることを
 期待しています。
 
 では,また次回。
 
 注記
 (1) 雑誌「出版ニュース」が休刊へ 75年の歴史に幕:朝日新聞デジタル 
     https://www.asahi.com/articles/ASLBB5X2YLBBUCVL02R.html
     雑誌「出版ニュース」:来年3月下旬号で休刊 - 毎日新聞 
     https://mainichi.jp/articles/20181012/k00/00m/040/060000c
 
 (2) Magazine Shuppan NEWS 
     http://www.snews.net/news/
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 ----------------------------------------------------------------------  

  
 第112回 耳鳴りが教えてくれたこと

 
   もう20年近くも耳鳴りとつきあっている。ある日突然、左耳が聞こえなくな
 った。突発性難聴だった。耳鼻科に行くと「君の年齢(当時、40歳)だと治ら
 ない」と診断された。本来なら入院して薬を点滴するのだが、年末だったせ
 いか、自宅で絶対安静ということになった。ほとんど外出をせず、音楽を聴
 かない生活を1ヶ月ほどすると、なんとか聴力が戻ってきた。聴力検査を受
 けると、左耳の聴力はほとんど回復していた。ただ400Hz周辺ßの音域だけ
 が極端に落ちたままで、以来ぼくの左耳は、正確な音程を判断することがで
 きない。それほど(笑)音痴になっていないのは、右耳で補っているからなの
 だろう。医者は、僕ぐらいの年齢でここまで聴力が戻るのは幸運と言ってい
 た。生活をするのに不便はないし、ギターを弾くことにも支障はなかった。


 

 聴力は戻ったのだが、後遺症が残った。キーンという高音の耳鳴りがする
 ようになっていた。ふだんはごくごく小さな音で気にならないほどなのだが、
 静かな場所ではうるさいほどに大きく感じる。疲れてくると左耳が塞がってい
 るような感じになって、キーンという耳鳴りがひどくなる。医者に相談したが、
 これといった治療はしてくれなかった。
 きっと同じような悩みを持っている人
 は多いのだろう。健康雑誌の新聞広告には「〇〇で、耳鳴りが治る!」なん
 ていう宣伝文句が書かれているし、耳鳴り関連の書籍もたくさん出ている。
 耳鳴りが良くなる音楽を収録したCDがついているものもあるみたいだ。でも、
 この手の本にはあまり興味が持てなかった。病院に行っても治らないものが
 本を読むだけで治るとは思えない。
 
  ところが最近、どうしても読みたくなった本があった。『耳鳴りに悩んだ音楽
 家がつくったCDブック』(鈴木惣一朗 著 DU BOOKS)だ。著者の鈴木惣一
 朗は、音楽プロデューサーで、ぼくの好きなワールドスタンダードや
 Soggy Cheeriosといったバンドで活躍するミュージシャンでもある。耳鳴りに
 悩んでいることは知らなかったし、自分の好きな音楽家が耳鳴りに対してどう
 対処しているのか知りたかった。

 
  手に取ると56ページのうすい本だが、内容は、耳鳴りに悩んでいる人だけ
 が読むだけではもったいなく思えるほど充実している。

 
  いったい耳鳴りとは何なのか?
 
  パート1では、専門医の大石直樹(慶應義塾大学病院)との対談で耳鳴りに
 ついて医学でわかっていること、わかっていないことを明らかにしていく。ぼく
 自身、ずっと耳鳴りを抱えているけれど、きちんと耳鳴りについて調べたこと
 はなかったし、だれかと話すことがなかったので、専門医の話はとても興味
 深かった。

 
  耳鳴りは、耳が鳴ると書くけれど、「頭の中の中枢神経系の症状」であって、
 「耳が鳴る」「頭が鳴る」「首の後ろが鳴る」と感じ方によって人それぞれ違う。
 どうやら耳が悪いせいで耳鳴りがするわけではなさそうだ。ただ「耳そのもの
 と耳鳴りは関係ない」わけではないらしい。傾向として耳鳴りのある人の9割
 ぐらいは、難聴があるということだった。高い音が難聴になると高い耳鳴りが
 して、逆に低い音が難聴になると低い耳鳴りになるという。ぼくのは400Hzの
 耳鳴りなんだろうか?
 
  今度、耳鼻科に行って確かめてみようかな。耳鳴りは「消えない、治らない」
 と意識すると、より悪くなってしまうものらしい。だから、うまく「共存する」こと
 が大切ということらしい。

  対談の最後にアナログレコードについて、専門家の意見を聞いているのが
 レコード愛好家らしくていい。どうやらアナログレコードのほうが音が「豊か」
 らしい!

 
  パート2は坂本龍一との対談で、ふたりの音楽家が耳鳴りについて語り合っ
 ている。音楽家にとって耳鳴りが死活問題なのは当然で、坂本龍一は耳鳴り
 の状態、その日の温度、湿度、食べ物をきちんと記録につけてみたり、TRT
 (耳鳴り順応療法)の機器を使ったり様々な対処法をしている。耳鳴りと向き
 合うことで、音、音楽についても、考えをより深めていったようだった。

 
 耳鳴りについてのふたりの対話は、やがて音楽の話になっていく。高音質な
 デジタル録音には興味はあるが、音楽そのものとは関係がない。つまりハイフ
 ァイな音だから心が震えるということはありえなくて、「喫茶店の悪いスピーカー
 から流れてきた音楽に惹かれる」ことはいくらでもあるのだから。「音楽を伝え
 る」ことはハイファイ、ローファイなんて関係ない、という話にはうなずくばかり。

 
  音というのは自然界のものなのだから、話はだんだん自然への向き合い方に
 なっていく。ふたりの「静けさ」についての話が面白い。鈴木惣一郎の北海道で
 の経験談。雪に囲まれた世界で、雪に吸音されて驚くほどの静けさに包まれる。
 そこでは耳鳴りでさえも、自然のウェイトが大きくて、気にならなくなってしまう。
 都会では病になって排除したいと考えるのに、あまりにも大きな自然の静けさ
 の中では、耳鳴りを受け入れてしまうようだ。坂本龍一が経験したアフリカの静
 けさは、レコーダーでは録音出来ない。静けさは「音」ではなく、全身で感じるも
 ののようだ。アフリカでは、流れる雲の音が聞こえてきそうだったという。音楽や
 音を求めて旅をするのもいいけれど、「静けさ」を求める旅をしてみたくなる。た
 った13ページの対談なのに、どれだけ深い話になるんだろう。ふたりの対談だ
 けで一冊の本を読んでみたくなった。

 
  そうだ、この本はCDブックだから、素敵な音楽もついている。鈴木惣一郎が
 作曲した、耳に優しい11曲の音楽が収録されている。耳鳴りを持つ人が作曲し
 ているので、どんな音が耳に優しいのかを考えられている。曲想もむやみに交
 感神経を刺激しないようにしたとのこと。この音楽が医療的に耳鳴りに効果が
 あるかどうかはわからないけれど、指示通りに小さな音量でかけると、読書を
 するのにちょうどいい、心地よい音楽だった。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

 
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
 
   この連載では小説についてほとんど書かないのですが、全然小説を読まない
 わけではありません。ここ数年は岡山に行くことが多く、横溝正史の金田一耕
 助シリーズを色々と読んでいました。けっこうどろどろした人間関係が出てくる
 小説が好きだったりします。
 
   逆に謎解きがメインで、あんまり動機とか関係なく次々に人が死ぬような小
 説は得意じゃないかもしれません。正直なところトリックを見破れるほどの推理
 力は無いので、人間関係や背景を考えながらストーリーを楽しめる方が好みで
 す。 
 
   最近のものでは米澤穂信の小市民シリーズや古典部シリーズとか、七河迦
 南の七海学園ものとか、少しずつ読んではいます。
 
   しかしミステリ小説はネタバレをしてしまうとよろしくないので、本の紹介にし
 てもなかなか加減の難しいところがあります。しかしこの本なら安心。なぜなら
 最初から作者がどこに注意して読めばいいか書いているからです。
 
  『叙述トリック短編集』、似鳥鶏、講談社、2018
 
   似鳥鶏というと河出書房の「戦力外捜査官」シリーズや、東京創元社の
 「市立高校」シリーズが有名ですが、今回はノンシリーズもの(だと思う)です。
 ちなみに「あとがき」が他の作家に比べて長いのと、本文に折々妙な注が付
 いているのも、私の中では似鳥鶏の最大の特徴だと思っていますが…。
 
   叙述トリックとは何か。まあミステリ小説を読む方でしたら言うまでもないこ
 とではありますが「小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリッ
 ク」(p,8)です。
 
   まあ実際のところ叙述トリックの小説を読んでいて、謎の真相に気付くこと
 はなかなか難しいと思います。作者は文中に色々ヒントを示していますが、
 そこに違和感を感じることはあっても、それをスパッと謎解きにつなげること
 はなかなか…。小説のストーリーを追って楽しむ分には「なるほど」という意
 表を突かれた驚きを味わう楽しみがありますが、謎を解いてやると思って読
 んでいると「何だそりゃ」という不満を感じるかもしれません。
 
   そんな叙述トリックですが、本書では短編のそれぞれに予め叙述トリックが
 使われていることが明示されています。タイトルの言う通り。だからこの小説
 は、作者から読者への挑戦状とも言えるわけです。
 
   どんなトリックを使っているのかわかるなら、謎だって解けるでしょという。
 
   私は…まあ「おかしいな」と思うところはありましたが、真相にはたどり着け
 ませんでした。
 
   第2章「背中合わせの恋人」とか第4章の「なんとなく買った本の結末」とか
 は明らかにおかしいところに気づいたんですけど、逆に違和感の正体を知り
 たくてサクサク読み進めてしまったので、自分で謎を解くより先に解決編に突
 入してしまいました。
 
   自分で謎を解かなくても、作者の鮮やかな手並みを楽しむだけでも十分で
 はあります。ただ第3章の「閉じられた三人と二人」は真相が明かされたあと、
 ちょっと「ええっ…それはあまりな」と思いましたけど。
 
   まあしかし、こんな形式の短編集を出すなんて似鳥鶏はなかなかひねくれ
 た作家のような気がしてきました。
 
   そもそも冒頭の「読者への挑戦状」で叙述トリックを使っていることを宣言し
 た以外に、どういうところに注意して読めばいいかというところまで、わざわざ
 太字で示しています。しかしわざわざ太字で書いてあるにもかかわらず、
 何故このヒントはこんなに回りくどく書いてあるのか…。
 
   回りくどいくせに実際そのとおりだし…。読んでいるのは楽しいけど、作者
 のの思うつぼにはまってしまうのは、ちょっと悔しい。
 
   今回も似鳥鶏の最大の特徴である「あとがき」まで十分楽しめます。こんな
 ひねくれた短編集を出してきたわけですから、その書きっぷりを堪能するのが
 良いでしょう。もちろん意気揚々と謎解きに挑むのも一興です。そして石黒正
 数の表紙と帯イラストも含めて、(電子書籍もあるみたいですが)本という形式
 で楽しみたい一冊です。 
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。

  
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 ■トピックス
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 ■ BOOKUOKA2018   / ブックオカ 福岡を本の街に
 └─────────────────────────────────
 
 *福岡を本の街に
 
 この数年、「天神書店戦争」といった見出しが紙面を飾り、まるで福岡(天神)
 は本で溢れかえった読書人のための快適空間に変貌したかのようです。
 
 しかしよく観察すると、「本」というエンターテインメント内部の競争に止まらず、
 TVや音楽はもちろん、インターネットから携帯電話まで、他のあらゆるメディ
 アを相手に、青色吐息の過当競争を強いられているのが現状です。
 
 また同時に福岡の実状は、新刊書店から、古書店、図書館まで広い意味で
 「本」が有機的につながった文化都市と呼ぶにはまだまだ遠く、本好きの読
 者はもちろん、これから本と出会うべき子供たちの受け皿になりえていませ
 ん。
 
 そこで、われわれ「ブックオカ実行委員会」はこの秋、出版社から古書店・
 新刊書店までを広く巻き込んだ「本のお祭り」を開催し、あらためて本という
 メディアの魅力を広く伝えるべく、「BOOKUOKA 2006」という催しを行うこと
  にいたしました。
 
                            ―BOOKOKA HPより―
 
 2006年より開催されている福岡の本の祭典「BOOKOKA」も今年で12年目
 を迎えます。
 第一回にお邪魔した時の、街の一体感と若い方たちの熱気、書店や出版社
 だけでない異業種の参加など、本当に新鮮なイベントでした。
 このクオリティを10年以上続けられ、また鮮度も落ちずに運営されているスタ
 ッフや福岡の街のみなさんを心から尊敬します。
 今年も楽しいイベントの盛りだくさんで、福岡に本の一ヵ月が訪れました。
 どうぞ、ぜひ、福岡へいらしてください!


◆日時:2018年10月23日(火)〜11月23日(金)
 
 http://bookuoka.com/


 □のきさき古本市inけやき通り 
 
 日時:11月3日(土・祝)11時〜16時
 場所:中央区けやき通り  

 現在出店者募集中です!(先着100組・出店費1000円)
 詳細はこちらで ⇒ http://bookuoka.com/archives/1555
 
 ご存じブックオカのメインイベント、
 けやき通りに並ぶ店先を借りて行う青空古本市!
 
 出店者が思い思いの古本を詰め込んだ1日
 古本店が100店、軒を連ねます。
 個性豊かなラインナップとの出会いをお楽しみください。
 記念品がもらえるスタンプラリーもやってます
 (古本を買わなくてもOK)。


 □書店員ナイト 拡大版 
 
 日時:11/18(日)19時〜(会場18時半)
 場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 ★2000円 *1ドリンク&軽食付き

 ⇒ http://bookuoka.com/archives/2654

 ゲスト:田口幹人さん(さわや書店)
          古幡瑞穂さん(日本出版販売株式会社)
          大矢靖之さん(株式会社ブクログ)
  本好き・出版社・書店員・有志の交流会。
  今年のゲストは8月に『もういちど、本屋へようこそ』(PHP研究所)を刊行した
  ばかりで、あの「文庫X」の発信源として知られるさわや書店(岩手)の名物書
  店員・田口幹人さんら豪華お三方。


 □祝!通巻5号「読婦の友」座談会 〜「拝読!カバンの1冊」 
 
 日時:2018.11.18(日) 15時〜16時半(開場14時半) 
 場所:本のあるところ ajiro(中央区天神3-6-8-1B)
 ★1000円(1ドリンク付き)

 先着10名、予約フォームからお申込み下さい。
 ⇒ http://bookuoka.com/archives/2651
 
 通巻5号を迎えた『読婦の友』を刊行するブックオカ婦人部の公開座談会!
 最近ハマってる本、心のバイブル、なんでもOK!
 カバンに入れて集合、車座で語りましょう!老若男女問わず。
 
 その他たくさんのトークショーや書店によりフェア有り!
 福岡に行かなくちゃっ!


 ■ 第8回 かまくらブックフェスタ in 京都
 └─────────────────────────────────
  個性豊かな出版社や、
  本と活字にまつわるユニークな活動をする人々が集まり、
  出版物を展示販売します。
  広い庭のある落ち着いた空間で、
  大切な一冊となる本に出会えますように。
  会場にはコーヒーと軽食のコーナーも。
  書店ではうもれがちなおもしろい本、
  貴重な本の数々が、
  本好きのかたのご来場をお待ちしています。
 
  2018年は京都で開催!

 ◆日時:2018年11月17日(土) 11時から19時 
            11月18日(日) 10時から18時

 ◇会場:恵文社一乗寺店 コテージ
       アクセスはこちらのページをごらんください。
       恵文社一乗寺店 http://www.keibunsha-store.com/access

 ■出展■
 牛若丸 /ecrit(エクリ) /北と南とヒロイヨミ /共和国 /群像社
 タバブックス /トムズボックス /編集工房ノア+ぽかん編集室
 りいぶる・とふん /港の人
 
 
 会場ではコーヒーや軽食の販売もおこないます。
 本とともにゆっくりとお過ごしください。
    17日 yugue
    18日 喫茶 never on monday


                          ―港の人HPより抜粋―
 
 ----------------------------------------------------------------------
 ■あとがき 今月も大変配信が遅くなり、申し訳ありません。読者の皆様、
 ご寄稿頂いている皆様や配信してくださっている皆様には、毎度毎度本当
 に申し訳ないです。
 「読書の秋」になりました。本の頁を繰る楽しさを皆様も存分に味わってくだ
 さいませ。                                               畠中理恵子
 ----------------------------------------------------------------------
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[本]のメルマガ vol.695

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■■  mailmagazine of books        [笑いのツボが違うから 号]
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史。調理法、伝承、文化との関係も織り交ぜてつづる驚きの物語。

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★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その28「魅惑と悪夢のトルコ菓子」

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 『フィッシュストーリー』

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
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 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
----------------------------------------------------------------------
その28「魅惑と悪夢のトルコ菓子」

 ターキッシュ・ディライト(Turkish Delight)と聞いて、ははあと思う人
はどれくらいいるだろう。

 これは、C.S.ルイスの『ライオンと魔女』に出てくるお菓子なのだが、本文
中には一度も出てこない。訳者の瀬田貞二さんが、この馴染みのないお菓子に
ついて「プリン」と訳したからだ。

 この言葉は、この本の最後の最後、訳者の「あとがき」の最後から三行目に
初めて出てくる。この物語に夢中になり何度も何度も読み返して、そう、チョ
コレートケーキを食べ尽した後に最後に包んであったセロファンまで舐めるよ
うな感じでこの「あとがき」を読んだ時に初めて、私はこんなお菓子がこの世
にあることを知ったのだ。

 それがどんなお菓子なのか、まず物語を見てみよう。

 古い洋服ダンスのむこうにある国に迷い込んだエドマンドは、雪の中をさま
よっていて、橇にのってやって来たナルニア国の女王を名乗る白い魔女に出会
う。寒さにふるえていたエドマンドは、魔女に暖かい飲み物をご馳走してもら
う。甘くて泡立ったクリームのようなその不思議な飲み物を飲むとエドマンド
は足の先まで暖かくなる。そして、魔女はその上こうきいてくれる。

「そちがいちばんすきなものは、なんじゃ」

 エドマンドが、プリンでございますと言うと、

「……女王は、おなじびんから、雪の中へまた一しずくたらしました。すると
たちまち、緑色の絹のリボンでしばった、まるい箱がひとつあらわれ、それを
ひらくと、おいしそうなプリンがどっさりでてきました。どのプリンもふわふ
わして、あまくて、これ以上おいしいものをエドマンドは食べたことがありま
せんでした。」

 ところがこの魔女のお菓子には魔法がかかっていて、一度これを食べたらま
すます食べたくなってしまい、どしどし食べていいことになろうものなら、食
べても食べても食べ足りなくなって、ついには死んでしまう……という怖い物
なのだ。

 この後、エドマンドはどんなすばらしい料理を前にしてもおいしいと思えな
くなってしまい、ナルニア国の他の住人達には、魔女の魔法にかかってしまっ
ているな、と見破られてしまうようになる。そして、このプリンのためなら、
この後一緒にこの国にやって来た兄妹たちまで裏切ろうとするようになってし
まう。

 そこまで、エドマンドを夢中にさせた菓子、プリンと翻訳されているからに
は、同じようなものじゃないかと思っていたのだが、実は全然違っていた。

 では、どんなものかというと、意外な作品にこのお菓子についての詳細な記
述があるので引用してみよう。

 それは、サルトルの『部屋』という短編の冒頭に描かれている。

「ダルベルダ夫人はトルコ菓子をつまんだ。その上にふりかかっている薄い砂
糖の粉を吹き飛ばさないように息をひそめて、静かに唇を近づけた。<ばらみ
たいな匂いだわ>と思った。そして、不透明なその肉に不意に噛み付いた。口
の中が、腐ったような匂いで一杯になった」

 腐ったような匂い?

 なんだかおいしそうじゃない。

 このお菓子はキシキシするような細かい砂糖の粉で覆われていて、病床で本
を読みながら食べているダルベルダ夫人は、その粉を本からはらいながら、海
でそんなふうに本から砂をはらい落としていたときのことを思い出すのだ。そ
してその味については、アルジェに旅行した時に出会った東洋人と同じように、

<トルコ菓子もまたお追従的だった>

と結論付けている。

 うーん。

「薔薇の香りがして、口に入れると腐ったような匂いになり、不透明な色合い
で、細かい砂糖に覆われていて、食べた後にお追従的な感じが残るお菓子」

が、トルコ菓子なんですね、サルトルさん?

 この記述を読む限り、このトルコ菓子は、京都の高級和菓子店で出している
それは細かい砂糖の粉に覆われた上品な求肥のようなお菓子に似ている気がす
る。もっとも、あのお菓子には香りが一切なく上等な砂糖の味わいがするだけ
で、腐った薔薇のような香りなどは一切ないのだが。

 そこで、フランス語では何というのだろうと調べてみたら、rahat-loukoum
とあり、ルークーム、おや、そういえば他の作品にも出てきたなと思い出した
のだった。

 それは、サルトルのパートナーでもあったボーヴォワールの『招かれた女』
の一場面だ。今では読む人は少ないと思うので、ざっと粗筋を述べてみよう。

 物語は、パリに住む小説家で脚本家でもあるフランソワーズとその恋人であ
る俳優で演出家でもあり劇団を主宰するピエールの下に、グザヴィエールとい
う若い女がルーアンからやってくる。若い人にチャンスを与えてあげようとい
う方針のピエールは、映画の元子役で売れなくなったジェルヴェールという俳
優を助監督として雇ったりしている。だから、パリに来たいというグザヴィエ
ールにも金を貸してあげたらとフランソワーズに提案する。けれど、退廃的で
何もしたがらないグザヴィエール。美貌で才能があるようにみえる彼女に女優
になるようすすめ演劇学校で指導するのだけれど気まぐれで努力をしない……。
この四人がそれぞれに恋をして苦しむところが、いわゆる自由恋愛の不思議さ
を描いていて新鮮だったと思う。又、その舞台として描きだされたパリの風景
は実に魅力に富んでいる。

 女性二人の関係も恋だと認識をし、ピエールとの間に一種のトリオが形成さ
れている時期の一場面に、ルークームが現れる。

 二人は夕方のモンパルナス通りを散歩している。ドームを行き過ぎたあたり
で、洗礼式の贈り物の菓子箱のように桃色に輝く店の前で、足を止める。

 甘いもの好きのフランソワーズにぜひキャラメルを買いなさいとすすめるグ
ザヴィエール。綺麗な店の様子に、中にいると活人画の中にいるみたい、(今
風に言うとアニメの中に入ったみたいという感じだろうか)と喜ぶフランソワ
ーズがこうきく。

「あなたはなにか欲しくないの?」

「ルークームが欲しいわ」

 そうか、グザヴィエール、あなたもルークームが好きなんだね。

 そして、店員が品物を入れた桃色のひも付きの紙のポシェットの可愛さには
しゃぎながら、にちゃにちゃしたキャラメルを食べ、自分たちはよく街角で見
かけるおばあさんみたい、昔と味が変わったとか、ルークームの香料が違うと
か文句をいったりするのよね、と笑いあう。

 けれどもこの後、グザヴィエールがルークームを食べる場面はない。それど
ころか、きれいな名前だから買いなさいと彼女がフランソワーズにすすめて買
わせた「仙女の指」という名の細い飴ん棒も、すっきりとした純粋な味でおい
しいわよと差し出されると、

「でもあたし純粋なものが嫌いなんですもの」

と、断るのだ。

 女二人で<植民地人ダンスホール>へ出かける夜の楽しさも、だんだん雲行
きが怪しくなってくる。そして、このあまいキャラメルで始まった夜はマルチ
ニックポンスの盃のあまったるい味わいのように、胸が悪くなる感じで終わる
のだ。

 さて、なにやら不穏な感じに扱われるこのお菓子、実は食べたことがあるの
だが、確かにゼリーのようなのに求肥のような噛み心地がして、独特の感触の
食べ物だった。バラ水入りではなかったので香りについては特に記憶に残らな
かった。ただ、甘さは強烈だった気がする。

 先日、北野佐久子著の『物語のティータイム――お菓子と暮らしとイギリス
児童文学』という本に、このお菓子のレシピが載っていたので、もはや作るこ
とも可能なのだがまだ試していない。

 この不思議なお菓子がいったい何でできているのかと長い間思ってきたのだ
が、その正体は砂糖とレモンの汁と粉ゼラチンとコーンスターチで、これらを
ゆっくり煮詰めればいいらしい。あのキシキシする砂糖も粉砂糖とコーンスタ
ーチを混ぜればできるらしいのだ。そこまでは、驚かないのだが、やはりレシ
ピにはバラ水小さじ1とあるので、この香料はトルコのお菓子には必要なもの
なのだと悟ったのだ。

 我が家には、薔薇園で思わず買ってしまったバラ水があるのだが、薔薇の香
りの香水とは全然違った香りがする。これが食べ物に入るといったいどんな様
相に変わるのだろうと思う。

 異国の香りと異国の味が魅力なこのお菓子。どの物語の味わいを楽しんで食
べるのがいいのだろうか。

 パリの街角のウィンドウの中で、クリームをつめたデーツや胡桃の砂糖漬け
やチョコレートトリュフなどと一緒に、大きな木の盆にのってゆっくり回転し
ているルークームも魅力的だけれど、やはり私は、「銅でできたらしい小瓶」
から「ダイヤモンドのようなきらめきを持つ液体」を一滴雪の中にたらして魔
女が作るターキッシュディライトが食べてみたい。

 もはや、「どしどし食べていいことになろうものなら、食べても食べても食
べ足りなくなる」のではなく「読んでも読んでも読み足りなくなってしまいそ
れ以外の食べ物は受け付けない」という魔女の魔法に半分かかってしまってい
るような気がしているからなのだ。

 もし私と同じように、この世の中での一番おいしい食べ物は書物の中の食べ
物、そう思っていただけたのなら、いつの日かこの魔法を身につけ、銅の小瓶
を携えて魅惑のお菓子を作りに参上したいと思っている。

 ご期待ください。

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『ライオンと魔女』       C.S.ルイス著    岩波書店
『部屋』     ジャン・ポール・サルトル著    新潮文庫
『招かれた女』シモーヌ・ド・ボーヴォワール著     講談社   
『物語のティータイム お菓子と暮らしとイギリス児童文学』
               北野 佐久子著     岩波書店

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高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

----------------------------------------------------------------------
■ホンの小さな出来事に / 原口aguni
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『フィッシュストーリー』

 突然ですが、デートで映画ってどう思います?

 映画を見ているときっと普通、集中しているから周りのことなんて気にしな
いじゃないですか。言ってみれば、映画と向き合って楽しむ時間ではないかと。

 でも、これが2人でデートで読書、となると、ちょっと違う気もします。そ
れぞれのスピードで本を読む。違う本でもいい。それぞれがコンテンツに向き
合いつつ、それぞれの時間を楽しんでいる。だからゆえに、孤独な作業をして
いるでのはなく、2人の時間を楽しんでいる。そんな感じ。

 でも、映画は違うような気がします。ストーリーに時間を支配され、それに
向き合うとき、人はみな孤独。周りのことなんて構ってられない。そういえば
昔、一緒に映画を見た女性に、笑いのツボが違うから、という理由でフラれた
ことがあったとかなかったとか…。

 だからって訳でもないですが、最近、時間があると、YouTubeやらGao!やら、
Amazonプライムやらで動画を楽しんでおります。はい。

 で、今回、この文章を書くきっかけとなったのは、タイトル通り『フィッシ
ュストーリー』。Amazonプライムで発見してしまい、また見てしまった。いや、
好きなんです。この映画。なんとなく観たあとに物足りなさが残るんですが、
それもコミコミで好きです。

 なお、小説版も再読してみたところ、もちろん、コンセプトは同じだけれども、
映画版の方は、映画らしく壮大な規模の『フィッシュストーリー』になっていて、
小説版も好きではあるけれども、私はやはり映画版の方が好きかもしれない。原
作ファンの皆様、ごめんなさい。

 ということで、以下、基本的に映画版の内容に基づいて書いておりますので、
あらかじめ御了承ください。

 以下、微妙にネタバレ要素を含むので、未見の方はご注意ください。

 このストーリーの中で架空の書物が登場するのだけれども、その架空の書物
の冒頭に挿入された詩があって、それが誤訳だった、というところ。その英語
版が表示されるシーンが映画である。その英文はこちら。

 My own solitary fish story may scare a whale in its size and ferocity.

 紙質・インクの質が悪いという設定なのか、ところどころ文中にピリオドっ
ぽいものが印刷されているので、それが誤訳につながったのかな、と思って考
えてみたが、どうも、そういうわけでもないらしい。

 で、これ、誤訳なの? というのが、実は気になった。というか、正しい訳
はどうなるの? これがいまいちわからなかった、というのがこの文章を書く
きっかけとなった。誰か詳しい人が居たら教えてください。

 この映画のストーリー紹介では、

1975年、「セックス・ピストルズ」がデビューする1年前。日本の売れないパ
ンクバンド「逆鱗」が解散前の最後のレコーディングで演奏した「FISH STORY」
という曲が時空を超えて奇跡を起こし、地球を救う。(Wikipedia)

 とあるのだけれども、実は、この「FISH STORY」という曲も、この架空の書
物から歌詞をインスパイアされて誕生した、というお話になっていて、という
ことは、もともと、世界を救うきっかけになったのはこの曲じゃなくてこの本
じゃーん、というツッコミを入れてみたくなるような仕掛けにもなっている。

 ちなみに小説版の方では英語版の文章は登場せず、また架空の書物のタイト
ルも登場せず、この書籍から2種類の違う文章が、それぞれ違う章の一部とし
て登場する。「僕の孤独が魚だとしたら…」という文章と「僕の勇気が魚だと
したら…」という文章がそれ。小説版では物語の進行上、本もレコードも普通
に買えちゃう設定になっているので、本の文章をそのまま歌詞に使って発売し
ちゃったら「盗作」だよなぁ…。ということで、映画版はその辻褄合わせをし
たのが、面白いスパイスになったという感じかもしれない。

 話を戻すと、架空の文章の翻訳をまじめに突っ込んでも仕方がないし、無い
本の正しい訳も調べようがないので、自分で無理やり訳してみた。

 私の孤独な「フィッシュストーリー」は、その大きさと獰猛さで鯨を怯えさ
せるかもしれない。

 映画版のこの物語の中では、この誤訳された架空の書籍「フィッシュストー
リー」は一冊しか残っていないことになっているので、まさに「孤独」な「フ
ィッシュストーリー」ということにもなって、面白い仕掛けになっている。

 原作ではこの作者は最後、廃屋で過ごした(たぶん独りで)変人ということ
になっているから、これが孤独ってことで、非常にシンプルな解釈ができる。
この変人の小説が、ひいては世界を救うってことになる。

 孤独なフィッシュはその解釈で良いとして、となると、もうひとつ、比較さ
れている「鯨」というのはなんじゃいな、というのが気になる。まあ、フィッ
シュが魚だから、対比で鯨、ってのはわからなくはないけれども、少なくとも
映画には、孤独なフィッシュは描かれても、鯨に当たるものは直接的には描か
れていない。

・マスコミの言葉を信じて逃げてしまった人々?
・新しい音楽を受け入れられない大衆や業界?
・教祖の預言の言葉を信じない信者?
・シージャック(小説だとハイジャック)犯?
・隕石(小説だとサイバーテロ犯)?

 でも、別に、これらを、魚の孤独の大きさと獰猛さで怯えている、ってこと
は無さそうである。「怯え」というのでは、映画版で、せいぜい「フィッシュ
ストーリー」について、アルバム都市伝説的な話が怖い話として伝わった、く
らいの描写しかない。ピンとこない。

 となると、飛躍するようだけれども、鯨というのは、言ってみれば、もっと
内面的なもの。個人個人の行動が世界を変えるなんて無理なんだよ、といった
運命論・決定論、あるいは無力感みたいな認識のこと、なのかもしれない。

 この物語の登場人物達がそうであるように、何らかの役割を果たしながらク
ライマックスまで物語を運んでいくのだけれども、全員がヒーローとして評価
された訳ではない。幸せに生きたのかどうかもわからない。誰にも知られずに、
孤独に死んでいったのかもしれない。しかし、結果として、それらすべての人
が起こした偶然が重なり、人の力でどうしようもなさそうな大きな物事を動か
した。

 伊坂幸太郎氏は宮城県仙台市在住。この作品が書かれたのは2005年なので、
震災の影響で書かれた訳ではないけれども、預言的に言えば、人の奇跡の力で
大きな地震や津波を防ぐことはできなかったかもしれないけれども、もっと最
悪の事態からは、たくさんの人の紡ぎ出した奇跡で防げたってことがあったの
かもしれない。そしてその事実も誰にも知られないまま、過ぎ去っているのか
もしれない。

 ノンフィクションでは教訓・反面教師的な事実として悲惨な話か、あるいは
美談としてのヒーローの話ばかりが流れるが、もっと根底には、名も知られず
自分も意識せずに世界を守るために活躍した人たちがたくさん居て、それで世
界は今でも回っているのかもしれない。

 そんなことを妄想させるようなお話、というと、ちょっと大げさでウソっぽ
いですかね?

 ということで、「フィッシュストーリー」、マジにヘビロテお勧めですので、
未見・未読の方は、また、獰猛で大きな孤独を飼っている人は、是非、騙され
たと思って見て/読んでみてください。既読/既聴の方は、是非、もう一度。

 きっと素敵に騙されて、ちょっと勇気が出てきます(笑。

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 台風やら地震やらの激動の2018年もあと3ヶ月。少し落ち着いてきたような
気もします。

 涼しくなってきて、今度は、体調を崩されたり、疲労が出たりという方が周
囲で多くなっています。

 皆さま、ご自愛ください。(aguni原口)

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[本]のメルマガ vol.693


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 ■■ [本]のメルマガ                 2018.9.15.発行
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 『世界史を変えた13の病』
 
 ジェニファー・ライト著 鈴木涼子訳
 四六判 338ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562055982
 
 数多くの犠牲者を生み、時には文明を崩壊させた疫病の数々が、人類史に与え
 た影響とは? 無知蒙昧からくる迷信のせいで行われた不条理な迫害や、命が
 けで患者の救済に尽くした人、病気にまつわる文化までの知られざる歴史。 
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 【連載】………………………………………………………………………………
 
 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 →今月はお休みです。次回にご期待ください。 

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第111回 リズムがみえる
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 歴史マニア必読?「分国法」で戦国大名がどんなことに心を砕い
   ていたかを読み解く
  
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 ■トピックス
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 ひとつ、イベントをご紹介します。
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第111回 リズムがみえる

  アレサ・フランクリンが亡くなった。8月16日、「ソウルの女王、死去」と
 いうニュースが大きく報道された。ふだんはFMラジオでも滅多に流れな
 いアレサだが、いくつかの番組で追悼特集が組まれて、あのパワフル
 な歌声を聴くことが出来た。

 
  アレサの力強い歌声を聴いているうちに映画『ブルースブラザース』を
 見たくなって、レンタル店に走った。ブルースブラザースのジェイクとエル
 ウッドがバンドを再結成しようと、ギタリストのマット・マーフィーを誘いに
 くるシーンを見たかったのだ。アレサはソウルカフェのおかみさんの役で、
 出て行こうとする夫マットを引き止めよう、というか、身勝手な男に対して
 抗議しようと「Think」を歌う。大きな体をゆさぶって歌うアレサ、やっぱり
 最高だ。この時代のソウルミュージックは、ダンスも楽しいね。
「ブルース
 ブラザース」という映画、ストーリーはめちゃくちゃだけど、黒人音楽への
 愛情が溢れていて見ていると胸が熱くなる。続編の「ブルースブラザース
 2000」も亡くなったジョン・ベルーシは出ていないけれど、B.B.キング、エ
 リック・クラプトンからドクター・ジョン、アイザック・ヘイズやら書ききれな
 いほどの大御所ミュージシャンが登場するし、もちろん音楽が素晴らしい。
 クラプトンが本当に嬉しそうにギターを弾いているのを見ていると、感動し
 て涙がこぼれてしまう。

 
  そういうわけで、ここのところブルースや、ソウルを聴いていたのだけど、
 このタイミングで一冊の本が届いた。ダンボールを開けてみると、
 『リズムがみえる』(文 トヨミ・アイガス 絵 ミシェル・ウッド 訳 
 金原瑞人  監修 ピーター・バラカン サウザンブックス社)という絵本だ
 った。ピーター・バラカンさんのフェイスブックで知って、
 サウザンブックス社のクラウドファンディングで購入した。この絵本も黒人
 音楽への愛情があふれた素晴らしい本だった。
 『リズムがみえる』はアフ
 リカ系アメリカ人の音楽の歴史を描いた絵本で、黒人音楽のルーツである
 16世紀のアフリカ音楽から始まり、奴隷歌、ブルーズ、ラグタイム、ジャズ
 の誕生、スウィング、ビバップ、クール・ジャズ、ゴスペル、R&B/ ソウル、
 ファンク、ロック、そして、現代のラップ/ヒップホップまでを追っている。

  
  
とにかくダイナミックでエネルギッシュな絵に目を奪われる。画家の
 ミシェル・ウッドはこの絵本のためにミュージシャンのことを調べ、黒人
 コミュニテイの視点をさぐるために老人から若者までインタビューをしたとい
 う。
「はじまり」の見開きにあるアフリカの絵からは太古のリズムが響いてく
 るし、奴隷時代の絵からは農場で働く奴隷たちの労働歌が聞こえてくる。
 ジャズが誕生したニューオーリンズのストリートでは、にぎやかだけれど、
 どこか悲しいディキシーが流れている。とても大胆にデフォルメした絵、でも
 ディテイルがきちんと描かれていて、その時代の音楽や空気が伝わってくる。
 たとえばハーレムのジャズスポットのムッとするような空気を感じることが出
 来る。
 デューク・エリントン、ディジー・ガレスピー、あっ、このピアニストは
 モンクかな?
  と登場するミュージシャンを見ているのも楽しい。絵本にジミ・ヘンドリックス、
 Pファンクも登場するなんて最高だな。

 
  トヨミ・アイガスの文章は、歴史を描いているが、決して解説ではなくて、そ
 れぞれの時代の音楽を詩にしている。音楽を文字にするのは難しいと思うの
 だが、とてもリズミックで読んでいるとまるでブルースを歌っているようだ。翻
 訳のうまさなのだと思う。ぼくは「読み聞かせ」という“風習”は嫌いだが、こ
 の絵本ならば、気分よく読めそうだ。

 
  それぞれの見開きに解説と年表がついていて、アフリカ系アメリカンにとっ
 て重要な歴史的な事件と音楽のトピックがいっしょに書かれている。南北戦
 争、公民権運動など、黒人音楽は歴史と切り離せないことがよくわかる。

 
  たとえば1969年にマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された翌年に
 ウッドストックフェスティバルでジミ・ヘンドリックスが激しいギターソロで
 「星条旗を永遠なれ」を演奏している。ブルース、ジャズ、そしてロックは抵抗
 の音楽だったんだ。

 
  黒人音楽はアメリカのポップスの原点だといえるだろうし、日本のポップス
 も大きな影響を受けている。いま日本でも主流の音楽はヒップホップ(ダンス
 も含めてね)なんだろうけれど、そのルーツである黒人音楽の歴史をたどっ
 てみてはどうだろう。『リズムがみえる』は理想的な教科書になりそうだ。
 
「ファンクによって産みだされ、母なるアフリカによって育てられた
  ヒップホップのリズムがみえる
  わたしのなかに生きつづけるリズムがみえる。」
                                            (ラップ/ヒップホップの章から)

 
  こんなかっこいい教科書だったら、勉強したくなるでしょう?
 
  黒人音楽の歴史を知ったうえで、今のヒット曲を聴くと楽しさに深みが加わ
 ると思う。

 
 ◎吉上恭太

 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し

 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。

 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。

 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017

 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 


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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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   西日本では台風、北海道では地震と災害が多い夏になりました。被害に遭
 われた方々にお見舞い申し上げます。
 
  テレビでは外国人観光客の人たちが途方にくれる姿も報道されていました。
 正直なところ日本では地震・台風・火山の噴火などは避けられないのですから、
 外国人の方々には「日本は安全」というよりも「災害にあっても何とかなる」とい
 うアピールが大事かもしれませんね。
 
  関西の某空港のように、災害に巻き込まれると途方に暮れるほどひどい目に
 遭うという印象をもたれてしまうのは残念なことです。その点でも原発は全廃し
 た方が外国の人たちも安心して遊びに来れますね。
 
  ともあれ今月の本はそのこととは何の関係もありません。
 
 『戦国大名と分国法』、清水克行、岩波新書、2018
 
  分国法というとアレですね。日本史の教科書に出てくる、「六角氏式目」とか
 「相良氏法度」とかいう、戦国大名が領内の統治のために定めた法律のことで
 す。
  
  とか聞くと、堅い話みたいだから興味ないよ、という方もいるかもしれません
 が、そんなことはありませぬ。分国法の世界を覗いてみれば、戦国大名がど
 んなことに心を砕いていたのか、当時の社会はどんな感じだったのかが見え
 てきます。
 
  とりあげる分国法は五つ。下総結城氏「結城氏新法度」、伊達氏「塵芥集」、
 六角氏「六角氏式目」、今川氏「今川かな目録」、甲斐武田氏「甲州法度之次
 第」。どれも分国法業界(?)では名の知れたラインナップです。
 
  分国法というと「法」という名前が付いているだけに、仰々しいものであると
 いう印象を私たちは受けますが、じつはそこまで厳密なものではなかったよう
 です。
 例えば「結城氏新法度」ではその条文には妙に具体的な箇所があったりしま
 すし、その上この法度を定めた結城政勝の独白のような箇所も見出すことが
 できます。
 
  法律を定めるというと、家臣も含めて皆で合議して決定というイメージがあり
 ますが、この「結城氏新法度」については、結城政勝がひとりで書き上げたよ
 うなのです。そのためか野放図で自分勝手な家臣に対する、愚痴のような文
 章も頻出します。
 
  結城氏といえば源頼朝を烏帽子親に持つ結城朝光以来、連綿と続く名家に
 して、室町時代には「関東八屋形」のひとつにも数えられた名門ではあります
 が、戦国時代には本拠地結城(茨城県)周辺に勢力を張るのみでした。有力家
 臣の多賀谷氏・水谷氏・山川氏などは半ば独立勢力とも言える状態で、周りを
 見ても佐竹・宇都宮・小田といった大名に囲まれ安穏としていられるような状
 況ではありませんでした。
 
  それだけにこの結城政勝の著した「結城氏新法度」もグチグチした中身にな
 ったのでしょうか。そして残念ながらこの法度の実効性は疑問符が付くようで
 す。なんだか悲しい。
 
  そういった点では伊達稙宗の著した「塵芥集」もやや似たようなところがあり
 ます。ちなみに伊達稙宗はあの独眼竜こと伊達政宗の曽祖父に当たる人物
 です。
 
  その稙宗がおそらく「御成敗式目」を参考に作ったのであろうと考えられるの
 がこの「塵芥集」です。それもおそらくひとりで。なぜなら明らかに
 「御成敗式目」を参考にした箇所とそうでない箇所で内容の一貫性が無かっ
 たりしているのです。おそらくブレーンがいて内容のチェックや矛盾の解消をし
 たり、なんてことはしていない。
 
  「塵芥集」からは、土地問題についての条文の粗雑さから、まだ当時の東北
 には未開発地が多くあり、他の地域ほど土地争いが深刻がしていなかったの
 ではないかとか、落し物は居城である西山城下に立て札を立てて持ち主に返
 すようにと定められていることから、徐々に家臣団が大名の居城に集住する
 ようになっていたのではないかとか、色々と興味深い解読がなされていきます。
 
  このほかにも色々面白いテーマがありますが、そんな「塵芥集」を完成させた
 稙宗は、家臣団にこの法への服従を誓わせます。
 
  ところが、稙宗はその六年後に息子晴宗を担ぎ出した家臣団に攻勢をかけ
 られ、すったもんだの挙句隠居に追い込まれてしまいました。どうも独裁的な
 稙宗に対して家臣団の不満が高まっていたようです。そして「塵芥集」は無か
 ったことに…。
 
  あれ…。教科書に取り上げられるほどの分国法ですが、なにやら雲行きが…。
 
  あと本書で取り扱っているのは織田信長に本拠地を追われた近江の六角氏
 と、桶狭間での敗戦で一気に衰退した今川氏と、勝頼の代に滅亡に追い込ま
 れた武田氏。いずれも戦国時代を生き残れていませんね。
 
  分国法を定めた大名は戦国時代のなかでもとりわけ進んだ大名という気が
 していましたが、なにやらそれも怪しくなってきます。最終章では個別の
 分国法を見た上で、何故法を整えようとした大名は衰退していったのかとい
 う点について考察がなされています。
 
  分国法のイメージが変わると共に、分国法から見た戦国時代の社会が生き
 生きと描かれてます。戦国時代好き(?)必読の一冊です。
  
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 30周年記念
  沖縄の出版社 ボーダーインクフェア in ジュンク堂書店那覇店
 └───────────────────────────────── 
 
 実はボーダーインクもうすぐ30年なんです。
 
 ということでジュンク堂那覇店一階にて
 
 ボーダーインクフェアを開催します。
 9月1日(土)から9月30日(日)のまるまる1ヶ月
 
 場所はモノレール側の入口入ったあたり
 
 イタリアントマトの近くの広いスペースです。
 
 ボーダーインクの本でこれだけ埋められるのか。。。
 
 と思いましたが、なんとかなりそうです。
 ボーダーインクの新刊、既刊本、希少本まで
 全て並べます。
 
 会長宮城が選書した50冊(ボーダーインクの本ではない)や
 ヨシ子さんの写真展や本のイラスト展もあります。
                                                〜HPより抜粋〜
 
 
 ◆日時:2018年9月1日〜30日 10:00〜22:00 
 
 ◇場所:ジュンク堂書店那覇店1F
     〒900-0013
     沖縄県那覇市牧志1-19-29 D-NAHA 地下1階〜3階
       TEL098-860-7175

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 ■あとがき
 一ヵ月の間、近畿地方を台風が襲い、北海道では大きな地震がありました。
 被災された方々に心からお見舞い申し上げます。まだまだ大変な思いをされ、
 つらい生活を強いられていらっしゃると思います。どうか一日も早く、日常生活
 を取り戻されるよう祈っております。
 
 やっと少し涼しくなって、頭が落ち着いてきたような気がします。イベントで
 ご紹介9月いっぱいさせて頂いていますが、那覇のジュンク堂書店さんで
 沖縄の出版社、ボーダーインクさんの大大的フェアが催されています!
 30周年!素晴らしいですね。30年間の沖縄の現場の声、生の暮らしが
 出版物に表現されている!そんな感慨を覚えました。ますますお元気で、
 今の視点で沖縄を語っていただきたいです。ファンです!!畠中理恵子
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[本]のメルマガ vol.692


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■■ [本]のメルマガ                 2018.09.05.発行
■■                              vol.692
■■  mailmagazine of books      [用心はしつつ、お健やかに 号]
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『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

ジェニファー・ライト著 二木かおる訳
四六判 328ページ 本体2,500円+税 ISBN: 9784562055920

ネロとポッパエア、ヘンリー八世とアン・ブーリン、オスカー・ワイルドとダ
グラス卿など、歴史に名を残すカップルたちの別離にまつわる13の逸話。傷心
ゆえの悲しみ、愚かさ、みじめさに突き動かされた人々の奇異な運命を描く。

■CONTENTS------------------------------------------------------------

★トピックス
→ トピックスをお寄せください

★味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
→ その27「究極の食べ物」

★声のはじまり / 忘れっぽい天使
→ 痛みと笑い―川上亜紀詩集『あなたとわたしと無数の人々』(七月堂)

★ホンの小さな出来事に / 原口aguni
→ 今回はお休みです。

★「[本]マガ★著者インタビュー」
→ インタビュー先、募集中です。

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■トピックス
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■トピックスをお寄せください
└──────────────────────────────────

 出版社の皆様、あるいは出版業界の皆様より、出版関係に関わるトピックス
(イベント、セミナー、サイン会、シンポジウム、雑誌創刊、新シリーズ刊行
など)の情報を、広く募集しております。

 情報の提供は、5日号編集同人「aguni」hon@aguni.com まで。

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■味覚の想像力−本の中の食物 / 高山あつひこ
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その27「究極の食べ物」

 究極の食べ物ときいてどんな物を想像するだろう。

 芳しい香りを漂わせ、素晴らしい歯ごたえを持ち、口の中ではとろけてしま
うようなもの。

 それは肉?魚?野菜?果物?それともお菓子だろうか?

 究極の食べ物はそれだけで完璧なので、料理をしなくても食べられるものと
して物語の中に現れる。

 例えばまず思いつくのは、聖書の中のマナだ。

 これは神が与えてくれた食べ物で、空から降ってきた露が大地の上に広がっ
た後に、乾いて残った霜のようなものだという。薄くて壊れやすく、コエンド
ロの種のように白くて、蜜の入ったウエファースのような味がしたと書かれて
いる。

 マナは翌朝まで残すと虫がついて臭くなるので、戒律を守って週六日だけ拾
い集めなくてはならない。そして、安息日の前の日だけ、蓄えることができる
という。

 このマナだけで四十年生きていけたという。

 あまりにありがたいものだけれど、これだけでそんな長い間を耐えられたの
だろうか?

 私はつい、あきなかったのかなと考えてしまう。

 次に、妖精界の究極の食べ物を見てみよう。

 トールキンの『指輪物語』の中に出てくる究極の食べ物といえば、もちろん、
旅ゆく二人のホビット、フロドとサムに、エルフが持たせてくれた携行食糧
「レンバス」だ。 

 それは、

「非常に薄い焼き菓子の形をしていて、外側がうすいとび色に焼け、中がクリ
ーム色をしており、あら挽きの粉でできていました。」

 保存食でもあり、高カロリーで滋養も高く、少し食べればかなりの距離を歩
くことができるという優れもの。この言葉で想像するのは、おいしそうなビス
ケットのような物なのだが、ホビットの二人は、辛い旅程の最後には、これし
か食べられないのに嫌気がさしてきてしまう。 

 サムが

「今は違ったものが食べたくなりましただ。何にもついてねえ、ただのパンを
ちょっぴり、それからジョッキ一杯のーいいや、半杯でもええービールがあれ
ば、さぞ結構だと思うことでしょうて」

と、言い出すのもしかたないだろう。 

 何せ、ホビットは本当のところ、ものすごく食いしん坊なのだ。そもそもの
この物語の発端である『ホビットの冒険』に出てくるご馳走ときたら、滅茶苦
茶食欲をそそられる。 

 魔法使いガンダルフだけをお茶に招待しただけのつもりだったホビットのビ
ルボのところに、ドワーフ小人たちが次々に現れる。

 彼らが要求する物は……。

お菓子に、丸い大きな種入りの焼き菓子にビール、バタつきホットケーキ、コ
ーヒー。一息ついたところに現れた別のドワーフは「赤ブドウ酒を」と言い、
別のものたちは「イチゴジャムとリンゴのパイを」「ほしブドウ入りのパイと
チーズを」「ポークパイとサラダを」「卵」「とりのむしたのとトマトも」等
々と口々に注文してくる。

 さすがのビルボも

「うちの食物ぐらのなかみを、わたしよりくわしく知っているみたいだぞ」
と、怪しむほど、食物ぐらをスッカラカンにしてくれる。 

 つまり、こんな多種多様な食べ物で常に食物ぐらを満たし、一日に何度もお
茶をし、食後のおつまみを用意しないではいられないのが、ホビットなのだ。
彼らにとって、どんなに芳しくおいしい究極の食べ物でも、「レンバス」だけ
で旅をするのはきつすぎるのが、ご納得いただけたろうか。  

 『指輪物語』の中で二人がおいしそうにレンバスを食べるのは、「二つの塔」
の巻に出てくる子兎の香草入りシチュウが出てくる場面だけだ。
 ゴクリが捕まえてきた小さな子兎をサムが二羽鍋に並べて、香草と貴重な塩
を放り込んで煮込んだシチュウ。フロドとサムの二人はスプーンとフォークを
かわりばんこに使ってそれを食べ、最後にレンバスを贅沢にも半分こずつおご
ることにしたとある。
「宴会と言ってもいいくらいのご馳走になりました」
と、書かれているところを見ると、やっぱりレンバスはデザート代わりの美味
しいお菓子なんだろうなと思うのだ。

 その後は過酷な旅が続いて、干し果物に細く切った干し肉という糧食を食べ
ることもあるけれど、二人はレンバスと水だけで残りの行程を乗り切っていく
ことになる。

「サムの心はともすれば食べものの思い出と、ただのパンと肉への渇望に満た
されるのでした。」

 わかるよ、サム。

 そもそも、このレンバスとは「旅人たちが他のものを食べたり混ぜたりしな
いで、これだけを頼り切っていれば効力が増し、意志や耐える力を与えてくれ
て肉体を不可能なまでに使いこなすことができるようにするもの」なんだそう
だ。これだけを食べることが重要なのだ。デザートではなく。

 だから、最後までがんばってくれ。

と、この長い物語を読んでいるほうもへとへとになりながら、思ったものだっ
た。

 でもこんなものは、科学的に考えられた究極の食べ物の悪夢に比べれば、天
国の味わいだ

 そんな悪名高い食べ物を生み出したのは、ロシア(ソ連と言うべきか)のSF
作家ベリヤーエフ。

 悪夢のように膨れあがった『永久パン』の物語を見てみよう。 

 物語の舞台は、ドイツのある島。住民はほとんどが漁師で、海が荒れれば漁
に出られず、生活はきつくなる一方だ。そんな彼らの村で、何故か最近めきめ
きと太ってきた老人がいる。怪しく思った漁師たちがそのハンス老人を問いつ
めてみると、彼が差し出したのは鍋に入った奇妙な「ねり粉」。それは、島に
暮す科学者が作った実験中の食べ物で、ハンスを哀れんだ博士が実験的に分け
てくれた「永久パン」というものだった。 

「半分食べると、お前は一日中お腹がくちくなる。おまけに、一昼夜たつと、
ねり粉は増えて、かんはまたいっぱいになる…」

と、博士が言うように、これは、栄養価も十分で食べれば健康になり、老人や
赤ん坊の胃にさえ吸収されやすいという優れものなのだ。その上、次の日には
空気の中の栄養分を吸って増えてくれるらしい。形状は、

「まるで、蛙の卵のようで、とても気味が悪いのじゃ。」

が、味は、

「それはそれはおいしくて、ちょうどすり下ろした焼き林檎のような味がした」

と、なかなか心をそそる甘味があるようだ。 

 これを見つけた島の住民は、無理矢理手に入れて増やそうとする。さらにこ
れを知った世界中の人間がこのパンを欲しがり、それを独占しようとした企業
の手先が島に乗り込んできて……と、話の方もすごい勢いで膨れあがっていく。

 そして、ある日永久パンも人知れず膨れあがっていき、島の人々は、逆にそ
れを食べるのに四苦八苦することになる。

 この本が面白いのは、主人公たちが漁師だということだ。目の前には豊かな
海が広がっているのに、魚を食べずに永久パンを食べたり売ったりすることに
夢中になって、漁を忘れてしまう。

 私がこの島の住人だとしたら、まず永久パンの味に飽きてしまうだろう。舞
台が日本だったら、島の住人は永久パンで余った食費でおいしい刺身が買いた
くなり、高級魚が売れて漁が盛んになっていくんじゃないかなんて思ってしま
う。

 けれどこの物語では、海は打ち捨てられたままだ。

 やがて、増えすぎたパンが人も家も飲み込んでしまい、捨て場に困ったパン
は海に捨てられ、海の滋養を得たパンはますます膨れあがって増えていき、や
がては、人類の滅亡の危機を予感させていく……。と、話は進んでいく。 

 もうこれは絶対、パンを発酵させる場面を見ていて思いついたなと感じる物
語だ。

 この物語が収められている一九六三年度版の「ベリヤーエフ少年科学空想小
説選集6」の解説には、「酵母とクロレラ」が載っている。四〇年たった今で
も、クロレラは相変わらず不人気で、ここでのご推薦の宇宙食にもなっていな
い。

 人間は科学的に優れたものよりも、食べ慣れた物(例えばラーメンやアイス
クリーム)をもって、宇宙に行きたがるからだ。

 この永久パンを一度は味見してみたいと思うのだけれど、お腹の中で膨れあ
がってはじけてしまったらどうしよう等と思ってしまう。永久パンは大気中の
栄養素をもとに作られるというのだから、逆に食べたものを内部から食い尽く
すのではないかという恐怖心も起こる。そして、体の中から膨れ上がっていく
のではないだろうか?一応原作では、そちらの作用はないことになっているみ
たいだが…。 

 それにしても、食べ物の方が人間を飲み込んでしまうという恐怖は耐え難い。

 物語の中の宇宙では、ロバート・シェクリイの『人間の手がまだ触れない』
のように、食べるという観念の違う宇宙人に出会ってしまうこともある。

 赤色矮星に辿り着いた腹ぺこの地球人二人が、無人の倉庫で見つけた食料を
食べようとする。宇宙語の辞書を片手に缶詰の説明を読みながら。でも、そこ
にあるのはゼリーのようなゴムのようなくすくす笑う赤い物体や、「誰でもヴ
ージイを飲む」と書いてある桶から現れ、躍動して襲ってくる液体のようなも
のばかり。実は、この星の住人は毛穴からしみ出した何かを、「飲むより飲ま
れる方を好んでいた」らしく、桶には実は「ヴージイは誰でも飲む」と書いて
あったのだ。

 膨れあがった永久パンに飲み込まれるのが好きな宇宙人もいるのかもしれな
い。 
 
 「食べる」という概念まで狂ってしまった宇宙に行き着いてしまっては、究
極の食べ物を目指す旅は、どうも続けられないようだ。 

 そろそろ、ここらで旅の終わりとするにしよう。

----------------------------------------------------------------------
『指輪物語』J・R・R・トールキン著           評論社
『ホビットの冒険』J・R・R・トールキン著        評論社
『ベリヤーエフ少年科学空想小説選集6』
             アレクサンドル・ベリャーエフ著 岩崎書店
『人間の手がまだ触れない』ロバート・ シェクリイ著   ハヤカワ文庫SF
----------------------------------------------------------------------

高山あつひこ:ライター(主に書評)。好きなものは、幻想文学と本の中に書
かれている食物。なので、幻想文学食物派と名乗っています。著書に『みちの
く怪談コンテスト傑作選 2011』『てのひら怪談庚寅』等

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■声のはじまり / 忘れっぽい天使
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第115回 痛みと笑い
     ―川上亜紀詩集『あなたとわたしと無数の人々』(七月堂)

 芸術家の伝記的事実はしばしば作品の鑑賞に影響する。歴史的・社会的な背
景だけでなく、交際相手との関係などのプライベートな事実も、作品の印象を
大きく左右するものである。ゴッホが自ら耳を切ったとか、ショパンがサンド
と恋人関係にあったといったようなことは、最早作品と切り離せない。作品は
作者によって創造されるわけだが、作者もまた作品の一部なのかもしれない。
しかし、作者の実人生に拘り過ぎると作品に込められた作者の本来の意図を読
み損なう危険も出てくるので難しいものである。

 詩集『あなたとのわたしと無数の人々』(七月堂)の作者川上亜紀は、詩集
の刊行前に50歳の若さで亡くなっている。実はぼくは彼女の知人なので、その
事実を知った時は大きなショックを受けた。彼女は長い間難病と戦っていた。
最後の本となってしまった今度の詩集も、本人を知っている身からすると、詩
のどの言葉も自らの遠くない死を予感したものに思えて、涙が出そうになって
しまう。しかし、本詩集には闘病について触れている詩は一編もない。切迫し
た実人生から離れて彼女が詩の中で生きようとした人生とは何だったのか、そ
れについて考えてみたい(作者を「川上さん」と呼びたいところだが、本コラ
ムは敬称略で書いているため、それを踏襲する)。

 『あなたとわたしと無数の人々』は生活の機微を現代小説のような緻密なタ
ッチで描くことを基調としているが(彼女はもともと小説家を目指しており
『グリーンカルテ』(作品社)という著作もある)、突如として奇抜なイメー
ジを挿入し、大胆な流れを作ることを大きな特色にしている。「蜂たちはどこ
へ?」は、「閉め切った家を掃除しに行った」ことを回想する詩。ベランダに
古い蜂の巣が落ちていて作者は捨ててしまった。「わたし」はそのことを不意
に思い出し、「蜂たちはどこへ?/暗黒の宇宙に飛び出してしまったのか」と
問う。そして眠りにつく直前、「宇宙を飛んでいく蜂たちの羽音が聞こえて/
暗闇のなかで目を開けるがもちろん/なにも見えはしないのだ」ともう一度思
い起こすのだ。蜂そのものを見ていない。巣を片付けただけだ。が、その何気
ない行為が心に引っかかりを与え、怖いような勇ましいような、暗黒を搔き乱
す「羽音」を生み出す。現時点は春、掃除しに行ったのは「昨年の寒い曇天の
日」で時空の交差も面白い。

 「寒天旅行」も大胆な発想が魅力の詩。「わたし」は新幹線に乗って窓の外
の雪景色を眺めている。その雪の様子から寒天ゼリーを連想した「わたし」は
「そのなかにわたしも静かに入って温かくなるまで固まっていてもいい」など
と考えた挙句、「梅田駅周辺をよく混ぜあわせて砂糖を加えたものに心斎橋の
スライスと中之島公園を細かく砕いた大坂のキタを散らして寒天ゼリーで固め
て皿に盛る」という「大阪の寒天ゼリーよせ」という名の珍妙なスイーツ(?)
を考案する。大坂への旅行は「寒天旅行」に早変わりしてしまった。

 「水道橋の水難」は、水道橋の駅に「巨大な水道の蛇口のオブジェ」が「あ
るような気がしていた」けれどそんなものは見当たらなかった、と始まる。水
道橋には校正教室があり、「わたし」はそこに通っている。本を出したことの
ある「わたし」にとって、細かなミスも見逃さない校正者は「神」のような存
在なのだ。「わたし」の履いている靴は擦り減っており、「こんな靴では、そ
う、神にはなれないよ」とやや落ち込んだ調子で呟き、詩人としての自信もな
くしかけたところに、「振り返ると空には大きな水道の蛇口が浮かび/誰かの
大きな手がその蛇をひねるのが見えた」と、何だこれ、と叫びたくなるような
急展開がやってくる。街には大量の水が溢れ、「わたし」は欲しかった赤い靴
への未練もなくなり、校正教室も通り過ぎ、「クマ泳ぎネコ泳ぎしながらずっ
と遠くまで行くだけさ」と、スッとした感じで終わる。

 「ベートヴェンの秋」は、マンションの修繕工事中に、部屋の中でベートー
ヴェンのピアノソナタのCDを聞くという設定である。工事の騒音を聞いた
「わたし」は、「子どもを産まず子どもを育てず昼間から家にいる女を攻撃す
る会」みたいな連中が来たのかと思ってしまう。ドリルの音は「ワルトシュタ
イン」ソナタのパッセージに似ており、「わたし」は「独身で子どももいなか
った」ベートーヴェンに、ドリルに対抗してもらう気になったりする。やがて
工事員は帰り、夕闇の中に静かな「月光」ソナタが流れる。子どものいない女
性を揶揄することは差別の典型だが、残念ながら世間一般ではそうした差別や
偏見が後を絶たない。工事の音を聞いて世間から攻撃されている気分に陥った
「わたし」は、同じ芸術家で独身でもあったベートーヴェンに助けを求めると
同時に癒しを得る。工事が終わり、戻ってきた静寂は、「わたし」に今のまま
で良いと、慰めてくれるかのようだ。

 「馬たちは草原を越えてゆく」は、子どもの頃、かわいがってくれた叔母を
訪ねたことを、大人になった現在の視点で描いた詩。家には何頭もの木彫りの
馬があり、子どもの「わたし」は絨毯の上に並べて遊ぶ。絨毯を草原に見立て、
馬たちが助け合って進む様子を「ハヤク行かないともう雪が降る/病気で倒れ
てしまった馬のそばにべつの馬がかけよってゆく」といったように、物語風に
展開させていく。一方で、訪ねた時のことやその周辺を小説的に描出していく。
「うちは子どもがいないから と叔母はよくわたしにそう言った/大人になっ
たら自分も誰かにそう言うのだろうか/わたしは密かに考えたりした(誰にわ
たしはそう言うのだろうか)」というくだりにドキリとさせられる。子どもの
頃の視点と大人になった現在の視点が重なり、叔母の人生と自分の人生が重な
る。思うようにいくこと、いかないこと、人生にはいろいろあるが、それでも
「馬たちはゆっくりと草原を越えてゆく」の一行で詩は締めくくられ、そうし
た全てのことを受け止めている「わたし」の姿が浮かび上がる。

 表題作の「あなたとわたしと無数の人々」は父母の会話の中によく出てくる
「オガワのトラさん」にまつわる詩。留置場に入れられたことがあり、ベート
ーヴェンの第九を歌うのが趣味、ドイツに行ったこともあったが、もう「シン
ジャッタ」という。「わたし」にとっては小耳にはさんで少し興味をそそられ
る程度の人物で、深く詮索するほどの関心はない。本名さえわからない。しか
し、堆積した記憶の中で「それでもオガワのトラさんは雲の上で第九を歌って
いて/いまでは父もそこに加わって夢のオーケストラを指揮していて/さきに
いっていたSさんは雄猫のルリを撫でてくれているのだ」と神話の人のような
存在になっていく。「わたし」は「このさきにはもうほんとうに恐ろしいこと
などありはしないと思う」とシリアスになりかけるが、直後、詩は「オガワの
トラさんは雲の上で…。」と軽い調子で締めくくられる。この気分の交代の描
出は重要である。「雲の上」に行くことは恐ろしいことなのだが、「雲の上で
歌うオガワのトラさん」を楽しく想像することは生者の特権だ。誰しもいつか
は「雲の上」に行かざるを得ないが、今はとりあえず「雲の下」で生きている
のである。

 この詩集の作品は全て何らかの意味で、素の自分を受け止めようとする意志
を示している。それはあっけらかんとした楽観性とは無縁のものである。求め
たが得られなかったもの、望んだが叶わなかったこと、そうした苦さを含んだ
自己肯定なのである。ありのままの自分を認めるということは、本来そうした
ものではないだろうか。そこには、残されたもの、得られたもの、抱きとめて
くれるものがある。つまり、自分のかけがえのない居場所を発見できるのであ
る。それは挫折を噛みしめたことのある者だけが味わえる幸せだ。痛みを伴っ
た幸せではあるけれど。

 そんな切ない心情を、川上亜紀は、涙ではなく笑いで表現する。それもかな
り大胆でダイナミックな笑いだ。そこに彼女の詩人としての特質がある。涙は
読者に一定の心情への同一化を促すものだが、笑いは話者と読者の間に適当な
距離を作る。そして、一定の気分に凝り固まる状態から解放させてくれる。あ
りのままの自分とは、行き当たりばったりに生きて自由に感じる、躍動的な自
分でもあるのである。痛みを持って過去を振り返り、自分に残されたものを抱
きしめた上で、そこから飛躍して軽やかに呼吸する。川上亜紀は、そんな人生
を詩の中で生きようとしたのではないだろうか。

*『川上亜紀詩集 あなたとわたしと無数の人々』(七月堂 本体1200円)

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■「[本]マガ★著者インタビュー」:
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 メールにて、インタビューを受けていただける印象に著者の方、募集中です。
 【著者インタビュー希望】と表題の上、
 下記のアドレスまでお願い致します。
 5日号編集同人「aguni」まで gucci@honmaga.net

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■あとがき
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 発行準備作業中に飛び込んできた、北海道胆振東部地震のニュースに驚きま
した。

 現地では、停電、断水、余震と大変、不安な状況かと思います。しかし、パ
ニックにならず、用心はしつつ、お健やかに過ごされることを祈っております。
(aguni原口)

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【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第55回「緑陰読書ならぬ緑陰音楽をどうぞ」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 →  第110回 「寄席」に行きたい!
 
 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → <火の見櫓>の役割
  
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 ■トピックス
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 ひとつ、イベントをご紹介します。
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第55回「緑陰読書ならぬ緑陰音楽をどうぞ」
 
 こんにちは。残暑お見舞い申し上げます。
 昨年までとは異なり,転居したおかげで冷房のある部屋で盛夏を迎えています
 が,転居せず以前のアパートにそのまま居座っていたら,間違いなく部屋で熱
 中症に倒れていたのではないかとすら思われる,それほどの猛暑ですね。
 
 現在,大学の研究紀要というものに図書館情報学関連(なのかどうかいささか
 怪しい,という話もありますがそれはさておき)の記事を投稿すべく参考文献の
 収集中ですが,暑さのために外へ出るのが億劫になり,なかなか足で稼ぐこと
 も出来ない状況で,どうしても文献探索も机に向かいながらインターネットでオ
 ープンアクセス文献を探すことが中心になります。自室に居ながらにして,いま
 や日本語文献へのアクセスもそれなりに容易になりつつあり,わたしのような
 図書館情報学,と言っても人文・社会科学系の図書館情報学研究者ではあり
 ますが,そのような立場の人間もオープンアクセスの恩恵にあずかる場面が多
 くなっています。
 
 図書館業界的には,ここから「シリアルズクライシスとオープンアクセス運動」に
 ついて語り出すのが政治的に正しいあり方でしょうが,その方面の話はわたし
 が語らずとも記事が年々増加して汗牛充棟,つい先日もあるblogが立派な記
 事を投稿しています(1)。今回このあたりの話は,他のみなさまに譲り,わたしは
 自室ではどうしても切れてしまう集中力を補うために,いったん書も端末も放擲
 して暑い夏をしのごうと思います。
 
 わたしが敬愛する作曲家グスタフ・マーラーの好敵手であったリヒャルト・シュト
 ラウス(1864-1949)(2)の作品の,わたしはよい聴き手ではなく,なかでもシュ
 トラウスが後半生で取り組んだ歌劇を全くと言っていいほど聴かないので,シュ
 トラウスについて的確な評価をしているかどうか心もとないところはありますが,
 それでも交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30(3)と「英雄の生涯」作品
 40(4)の両作品は40年ほどの付き合いがあり,マーラーと同様に大規模な管絃
 楽を縦横無尽に使いこなしたオーケストレーションの妙技には聴くべきものがあ
 ります。
 
 「英雄の生涯」は1898年,シュトラウスが最後に完成した交響詩ですが,シュト
 ラウスは当時まだ34歳です。そこからシュトラウスは50年以上長命を保ちま
 すが,「サロメ」「エレクトラ」「薔薇の騎士」などすぐれた歌劇を世に送り出す一
 方で,最晩年にヴィーン・フィルに献呈すべく取り組んだ「ドナウ」はとうとう完成
 せずに終わりました。歌劇に取り組む一方でシュトラウスは「家庭交響曲」
 (1904年)(5),「アルプス交響曲」(1915年)(6)という2曲の「交響曲」と名付け
 られた作品を世に送り出します。交響曲と名付けられていいるとはいえ,どちら
 もいわゆる絶対音楽ではなく,ある情景を描写する標題音楽です。ちなみに絶
 対音楽としての交響曲をシュトラウスは10代の頃に2曲書いていますが,あまり
 取り上げられません。シュトラウスの若い頃の作品で現在も時々取り上げられる
 のは,むしろ室内楽の佳品であるヴァイオリン・ソナタ(1888年)(7)とチェロ・ソ
 ナタ(1883年)(8)です。
 
 「家庭交響曲」では作曲当時としては珍しくなっていたオーボエ・ダモーレと,
 当時の目新しい楽器だったサクソフォンとを用いて作品を書いてますが,「アル
 プス交響曲」では舞台裏の金管アンサンブル(バンダ)をはじめ,ヘッケルフォ
 ーン,ワーグナー・テューバからカウベル,ウィンドマシーン,サンダーシートな
 どという風変わりな楽器を動員して,アルプス山脈の様子を描写することを試み
 ており,それは成功したと言っていいでしょう。
 
 今年の,あまりに暑い夏を乗り切るべく,聴くために頭を使う音楽よりも流れて
 いく派手な音響を楽しめる音楽が執筆のBGMとして適当なものなのですが,
 この夏のオススメは,まさにこの条件を満たすリヒャルト・シュトラウスの「アル
 プス交響曲」です。全編通して45分から50分ほどかかる作品ですが,冒頭数
 分と末尾数分がピアニシモの,暗闇に溶解してしまうような音楽になっている
 ため,リピートをかけてエンドレスで聴いていてもさして抵抗がない(「ツァラトゥ
 ストラはかく語りき」も同じような冒頭と末尾ですが,こちらは冒頭すぐに出る動
 機があまりに圧倒的なため,起承転結の「起」がわかりやすすぎてリピートして
 聴くことに向いていないような気がします)ところがBGMとして適しているんじゃ
 ないかと思うところです。全体に親しみやすい旋律と起伏に富んでおり,何を描
 写しているかわからなくてもあまり問題になりません。それどころか,冒頭から
 数分たって最初のクライマックスに現れるのはチャイコフスキーの交響曲第6番
 第1楽章の第2主題後半に出てきたのと同じ動機ですし,登山者の躍動するよ
 うな主題が現れてしばらくすると出現する「岩壁の動機」というのが「ウルトラセ
 ブン」のテーマにそっくりという,実に親しみやすく聴きやすい(苦笑)音楽では
 ないかと愚考する次第です。
 
 シュトラウスの管絃楽作品は,有能な指揮者でもあったシュトラウス自身による
 録音もあり,「ドン・ファン」などが早くから取り上げられてきましたが,「アルプ
 ス交響曲」は上に書いたような多彩な楽器群を150人ほどのオーケストラで演
 奏するのが適当,とされたこともあり,ようやく1970年代に,デッカによるメータ
 とロサンゼルス・フィルの録音(9)など,優秀な録音のサンプラーとして取り上げ
 られるようになりました。中でも1980年に録音されたヘルベルト・フォン・カラヤ
 ンとベルリン・フィルによる「アルプス交響曲」の録音(ドイツ・グラモフォン)(10)
 は,当時導入されたばかりのデジタル録音初期の優秀録音として,またその
 音楽の持つ説得力において桁違いの魅力を醸し出しています。さて,これから
 誰がカラヤンを越える録音をものするでしょうか。
 
 暑い夏が続きます。どうかみなさまもお身体にお気をつけてお過ごしくださいま
 せ。では,また次回。
 
 (1) 研究者諸賢への引継ぎ:学術誌の購読料高騰と論文のオープンアクセスに
      ついての情報まとめ - Take a Risk:林岳彦の研究メモ
  http://takehiko-i-hayashi.hatenablog.com/entry/2018/08/09/214457
 (2) アルマ・マーラーなどの伝えるエピソードのためか,マーラーに比べてシュト
     ラウスは夫妻揃って「俗物」という評価が定着しているような気がするので
     すが。
 (3) Richard Strauss: "Also sprach Zarathustra" op.30
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=o5bU7ibqGko&t=16s
 (4) Strauss: Ein Heldenleben ? hr-Sinfonieorchester ?
     Andres Orozco-Estrada
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=Us1jfC7bMpA
 (5) STRAUSS Domestic Symphony | RAI Torino, F.Leitner | video 1990 R
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=i8P-nAZGbf8
 (6) Strauss: Eine Alpensinfonie ? hr-Sinfonieorchester ? 
     Andres Orozco-Estrada
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=zsTo7QxxgYg
 (7) Minami Yoshida | Strauss | Sonata in E Flat 
      | 2016 Montreal International Violin Comp
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=tQS1LqsDWGs
 (8) Mischa Maisky: Richard Strauss ?
      Sonata for cello & piano in F major, Op 6 (2003)
      - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=L838Gfi8Hmw
 (9) ズービン・メータ/R.シュトラウス:アルプス交響曲/ドン・ファン<限定盤>
      - TOWER RECORDS ONLINE https://tower.jp/item/537395/
 (10)  ヘルベルト・フォン・カラヤン/R.シュトラウス:アルプス交響曲
      - TOWER RECORDS ONLINE https://tower.jp/item/4290578/

 なお,演奏へのリンクは音楽の雰囲気を確認するためのもので,これが名演で
 あったり決定版であったりするわけではありません。念の為。
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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  第110回 「寄席」に行きたい!

  
 このところ落語ブームらしくて、毎日のように落語会が行われているという。そ
 ういえば区報の催し物には必ず落語の公演が載っているし、町の掲示板にも若
 手の落語会のお知らせが貼ってあったりする。ぼくは落語に詳しくないし、寝しな
 にyoutubeで聞くのは漫才のほうが多い。古典の教養のないぼくには落語は正
 直いってどうも敷居が高い。

  もちろん寄席という場所があるのは知っている。若い頃、自転車通勤をしてい
 て新宿末廣亭の前はしょっちゅう通っていたけれど、なんとなく入ってみる“勇気”
 がなかった。寄るのはもっぱら新宿ピットインだった。そういえば昔はテレビで寄席
 中継はあったけれど、最近はないものなあ。「笑点」くらいなのかな。どうしても寄
 席には、縁遠くなってしまう。

  寄席に興味はあっても、行くきっかけがない入門者、入門者以前の人にも、ぴっ
 たりの本がこの本、『寄席の底ぢから』(中村伸 著 三賢社)だ。
 落語の入門書
 はあっても、ここまでくわしくて初心者にもわかりやすい寄席の本っていままでなか
 ったのではないかな。寄席が大衆娯楽の場としていかに大切なのか、ということが
 伝わってくる。寄席の歴史はもちろん、寄席がある上野、新宿、浅草、池袋などの
 街のこと、著者が経験した寄席での出来事、色物といわれる落語以外の漫才、曲
 芸などの芸の重要性など、一年を通じて空いている時間をすべて寄席通いをして
 いるんじゃないかと思われる著者だからこそ書ける愛情あふれる、チャーミングな
 寄席ガイドだ。この本で出囃子の大切さを知って、今度寄席に行くときは三味線に
 耳を澄まそうと思った。

 
  ぼくが初めて寄席に行ったのは1年ほど前のこと。この本の著者、中村伸さんが
 誘ってくれたからだった。夕方、新宿で待ち合わせて、まず向かったのは新宿三
 丁目の楽屋(らくや)。落語関係者がよく利用している純喫茶だそうだ。小腹が空
 いていたので磯辺巻きを食べた。

  そしてついに新宿末廣亭に入ることになった。古い木造の建物で、頭の中にあっ
 た寄席のイメージどおりの小屋だった。昼夜の入れ替えがないせいか、けっこう席
 はうまっていた。馴染みの芸人が出演しているわけでなく、初めて見るぼくは、少し
 緊張したのを覚えている。そのためか、大爆笑をすることはなかったのだが、あま
 り可笑しくない芸も、かえってそれが面白かったりする。あまり面白くない芸があっ
 ても、出番の時間は15分程度なので退屈することはない。曲芸、紙切り、漫才、
 そして落語とバラエティに富んでいてあっというまに時間が過ぎていった。ふーん、
 ほんとうに気楽なところなんだ、というのが感想だ。ただ初心者のアウェイ感はあ
 ったかな。何回か通って自分のお気に入りの芸人さんが出来ると、きっと楽しいだ
 ろうなあ。「寄席はワッと笑って、気分よく帰ってもらうことを誰もが大事にしている
 から、想像以上に面白くて楽しい場所だ」と本にあったけれど、その通りだった。
 
「初めての寄席ならば、きょうはこんなところでしょう」と中村さん。まずは、寄席は
 けっして敷居の高い場所でないこと、落語だけでなく幕の内弁当のようにいろんな
 芸を楽しめる場所ということがわかればいいということだったのだと思う。末廣亭を
 出ると、深夜寄席を待つ人たちの行列が出来ていた。

 
  じつは著者の中村伸さんは、ぼくのジャワの案内人でもある。知り合ったときは、
 ジャワに伝わる影絵劇ワヤンにくわしい人として、だった。初めて会ったのは、イン
 ドネシア、ジョグジャカルタのホテルのロビーだった。挨拶をすると、伸さんは
 「さ、ちょっと散歩しましょう」といって近くの駅まで連れて行ってくれた。時刻表を
 見ると「一駅だけでも乗ってみようと思いましたけれど、ちょうどいい列車がありま
 せんね」と駅員に交渉して駅構内を見学することになった。伸さん、けっこう“鉄分”
 の高い人だったのだ。驚いたのは、初めて会った駅員に構内の案内までさせてし
 まう交渉力。暇だったのだろうが、駅員はぼくたちふたりを実に丁寧にガイドしてく
 れた。中村伸という人は、人心掌握術というか、人の懐に飛び込んで気持ちを掴ん
 でしまう天才なんである。

  ジョグジャカルタの町でも、東京の下町でも、どこを歩いていてもその才能は発揮
 される。田舎の定食屋のおばちゃんにも、聞きたいことがあると、さっと声をかけて
 しまう。きっとインタビュアーとしても優秀なんだろうな。いつのまにか、心を許して
 胸の奥にしまっていたこと、自分でも気づかなかった本音を話してしまうにちがいな
 い。ぼくにとって、寄席、インドネシアの先生は、町歩きの師匠でもあるようだ。町を
 そぞろ歩く姿は、速すぎず遅すぎず、とてもいい感じだ。

 
  江戸時代に400軒ほどあった寄席は、いまでは定席といわれる本来一年を通じ
 て無休で開演している寄席は、上野・鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、
 池袋演芸場の4つだけという。そのほか落語、講談、浪曲などの興行をほぼ毎日
 やっている国立演芸場や上野広小路亭などを加えると11軒だという。落語そのも
 のは50年、100年後にも廃れることはないだろう。漫才やコントもそうだ。だが寄
 席はどうだろうか?
  と中村さんは問いかける。災害などで何かひとつ条件が崩れれば、寄席が今の
 まま残るかどうかはわからない、という。寄席のある町の風景を愛おしむように歩
 く中村さんの思いが伝わってくる。

 
 ◎吉上恭太
 文筆業。エッセイ集『ときには積ん読の日々』がトマソン社から発売中。詳し
 くはトマソン社のサイトを見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、こちらで試聴出来ます。
 https://soundcloud.com/kyotayoshigami2017
 タワーレコード、アマゾンでも入手出来ます。よろしくお願いします! 

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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  火の見櫓。残っているところには残っていますが、無いところには全然ないので
 馴染みのない人もいるかもしれません。もしかすると「火の見櫓」って何?と言う人も
 いる…のだろうか。
 
  鉄骨等で組まれて一番てっぺんに望楼が付いており、そこから火災を発見・確認
 し、同時に半鐘で火災を住民や消防団に周知する建造物です。
 
  火の見櫓なぞ同じようなものだと思いきや、実はデザイン色々。よく眺めれば眺め
 るほど面白いものです。本書はその火の見櫓についてまとめた数少ない解説書で
 す。
 
 『火の見櫓-地域を見つめる安全遺産』、火の見櫓から町づくりを考える会編、
鹿島出版会、2010

  いつごろから登場したのかというと、消防の体制が整いだした明治期以降が多い
 ようです。その後順調に数を増やしていった火の見櫓でしたが、戦時中には鉄材供
 出のため取り壊されてしまいます。現在残ってる火の見櫓の多くは戦後昭和20〜
 30年ごろに作られたものが多いようです。
 
  半鐘が取り外されたり、明らかに現役ではなさそうなまま立ち続けているものも散
 見されます。それでも消防ホースの乾燥用だったり、防災スピーカーの設置用だっ
 たり用途を変えて生き残っているものもありますし、今なおてっぺんに半鐘をぶら下
 げている現役の櫓ももちろんあります。
 
  そうした火の見櫓を色々な視点から考えていくのですが、一番わかりやすいのは
 見た目のバリエーションの楽しさでしょうか。
 
  先ほど鉄骨と書きました。まあ普通火の見櫓と聞いてイメージするのは鉄骨製で
 しょうが、他にも鉄筋コンクリートや丸太で作られたものもあります。
 
  またその高さも様々。30メートル級のものも存在したようですが、さすがにそれ
 は珍しい方で。一般的なものだと10メートル程度。高さ2メートルぐらいのものま
 であるようです。もともと眺望のいい場所なら櫓自体の高さは要りませんし…。
 
  そして同じ鉄骨製でも細かい意匠は様々です。踊り場があるか、望楼の形は円
 形か四角か八角形か、屋根の形状、風見鶏のデザインや有無など、細かいところ
 を見ていくと、それぞれに個性豊かな味わいがあります。
 
  機能から考えれば、そんなに個性を出す必要はないはずのモノではありますが、
 その機能の内側での違いがマニア心をくすぐります。当時はそれぞれの地区の顔
 となる建造物であっただけに、同じ火の見櫓でも近隣のものとは違うかっこいいも
 のを…という思いもあったのかもしれません。
 
  火の見櫓の形態論は奥が深い。静岡県の大井川流域や森町の火の見櫓の詳
 しい調査は一見の価値ありです。
 
  それ以外にも半鐘の音がもたらすサウンドスケープや、火の見櫓から地域社会
 のあり方を考えたり、様々な角度から火の見櫓について考えています。
 
  火の見櫓が建てられる場所は地区のうちでも、公共機関や神社のそばなど重要
 な場所であることも多いものです。取り壊しの検討に際して火の見櫓と共にあった
 様々な記憶がよみがえり、結局取り壊しが中止となった富士宮市星山のような例
 もあります。まだまだ地区を象徴する建造物という側面は残っています。
 
  じつは登録有形文化財になっている火の見櫓もあったりします。実際的な機能
 はだいぶ失いつつある火の見櫓ではありますが、地元の人々と共に積み上げて
 きた歴史しかり、デザインしかり、まだまだ魅力が沢山潜んでいそうです。本書を
 読めばそうした魅力を色々引き出すことができるでしょう。
 
  ちなみにそういった火の見櫓が宿す物語にもっと深く耳を傾けてみたい方には
 『火の見櫓慕情』(内藤昌康、春夏秋冬叢書、2008)がおすすめです。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■トピックス
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 ■ 藤岡拓太郎 コーヒー吹き出さないよう気をつけ展
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 ◆日時:2018年 8月14日(火) - 26日(日)10時〜18時 定休日:月曜日

 ◇場所:CLOUDS ART+COFFEE
     〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2-25-4

『藤岡拓太郎作品集 夏がとまらない』の作品や、
 最近の1ページ漫画、原画も数点展示いたします。
 サイン本やポストカード販売もあります。
 小学生の身長でもたやすく見れるように、壁の下のほうにも展示してもらいます。
 これでもかとばかりにご家族でおいで下さい。
                             ―HPより抜粋
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 ■あとがき 毎日暑い日々ですね。本当に体に効きます。早く秋が来ることを
  願いつつ。読書だけが友達の夏です。           畠中理恵子
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