[本]のメルマガ

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[本]のメルマガ vol.642


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 ■■ [本]のメルマガ                 2017.4.15.発行
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 ■■  mailmagazine of book         [雉鳴き羽の音春過ぎる号]
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 ●20170415号
 ★PR★ 原 書 房 最新刊 ★ http://harashobo.co.jp/
 
 『王妃たちの最期の日々』(上下)
 
 J=C・ビュイッソン/J・セヴィリア著 神田順子/土居佳代子訳
 四六判 本体各2000円+税 ISBN:9784562053858(上) 9784562053865(下)
 
 古代から20世紀まで、世界中でもっとも有名な女王や王妃たち20人の最後の
 日々は、つねに悲劇的で、しばしば残忍で、壮大かつ予期できないものであ
 る。世界史に大きな影響をあたえたさまざまな人生と死と運命を描く物語!
 
【連載】………………………………………………………………………………

 ★「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人 
 → 第43回「図書館に関わる,図書館を学ぶことについて」

 ★「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
 → 第94回 菅原克己を歌う

 ★「本棚つまみ食い」 / 副隊長 
 → 灯台、どうだい?ー灯台に恋する人たちのための一冊…
 
 ★「小さな本屋の小さな話」 / のん 
 → 古本屋には古本時間が流れている…。
  古本屋が出会ったちょっと不思議なお話。

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 ■トピックス
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 ■「散慮逍遥月記」 /  停雲荘主人
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 第43回「図書館に関わる,図書館を学ぶことについて」
 
 こんにちは。ようやくこちらでは桜が咲き始めました。この号が届く頃には満
 開になって,僕の職場の隣りにある講演は花見客でにぎわうことでしょう。
 
 さて,また今年も新しい受講生を迎えて,僕が担当する演習がスタートしまし
 た。特に思うところがあったわけではない,穏やかなスタートですが,それで
 も演習を始めるにあたって,「図書館情報学を学ぶとは如何なることか」につ
 いて少々考えるところがありました。いや,本当はこんなカッコつけた言葉で
 はなく,「図書館情報学を勉強すると何がわかるのかなあ」くらいの軽いノリ
 ですが。
 
 「図書館情報学とは何か」という問いについては,1980年代後半に茨城県の片
 田舎で,24時間営業のファミリーレストランに陣取って喧々囂々な議論を何度
 かやったものですが,それ以来現在に至るまで,僕の中では簡潔な言葉にでき
 るほどの熟成が出来ぬまま,学問の進展に追い越され取り残されてしまったよ
 うなところがあります。
 
 この原稿を書いている日がたまたま,ある演習の1回目にあたっていたので,
 受講生に手を動かしてもらう前(受講生には常々「演習は手を使う,口を使う,
 頭を使うものだよ」と説いています)に存念を語ってきました。「図書館情報
 学を学ぶ」と言うと,どうしても学問一辺倒になりがちだし,頭でっかちにな
 るのも嫌なので,では「図書館を学ぶ」とは何を学ぶことになるのか,という
 話をしてみましょう,と。
 
 昔は「選書論」という大命題があったように,図書館の持つ「資料の収集・提
 供・保存」という機能の中で,これまでは「収集」と「保存」つまりストック
 の部分が重要だったところに,『市民の図書館』が公共図書館では利用者の欲
 求に応える選書を,というフロー重視の発想を持ち込んできて,それが1990年
 代までは上手く当たって拡大路線を走ってきた。それがバブル経済が崩壊し,
 リーマンショックが追い打ちをかけ,元来『市民の図書館』が「予算獲得」の
 美名の下に内包していたネオリベラリズムが掬い散られて利用された結果が
 「CCC(ツタヤ)図書館」と俗称される,文化がエンターテインメントと化し
 てひたすら消費に奉仕する,消費のための公共図書館として目の前に現れてき
 たのが現状です。
 
 しかし,公共図書館というものは「消費」が全てではないでしょう。『生活の
 なかの図書館』というタイトルの本(学文社)があるように,特に公共図書館
 はひとびとの生活の中で折りに触れ,何かの際には参照される場所として把握
 されていなければならないのではないか。教養のための図書館,調査研究のた
 めの図書館,レクリエーションのための図書館,ひとによって用途は様々でし
 ょう。どれかひとつの役割に偏ること無く,その立地の風土,民俗,社会条件
 に応じた貌を見せることはあるでしょうが,求められたときにそれなりの引き
 出しを開けることが出来る図書館である必要があるわけです。
 
 いま出した「教養」「調査研究」「レクリエーション」はいずれも図書館法の
 第2条に,実際に使われている言葉です。ファナティックな公共図書館関係者
 は公共図書館の目的を「貸出し」(『市民の図書館』に由来する用字)だと言
 いますが,貸出は図書館が持つ機能,あるいは手段のひとつでしかなく,貸出
 が自己目的化したマスに奉仕する公共図書館の時代は,『市民の図書館』とと
 もに過去の遺産として顕彰しこそすれ,もはや継承に値するものではないので
 はないでしょうか。
 
 「しかし何がどのように変化しようと,この世界には,書物というかたちでし
 か,伝えることのかなわない思いや情報が,変わることなくあります。活字に
 なった物語というかたちでしか,表すことのできない魂の動きや震えが,変わ
 ることなくあります。」(村上春樹「枝葉が激しく揺れようと」『村上春樹雑
 文集』)
 
 図書館と出版流通は,元からひとつながりの紐帯で結ばれている存在です。そ
 もそも出版者なかりせば誰が図書館に本を提供するのでしょうか。それをカー
 ル・シュミット『政治的なものの概念』よろしく敵と味方に仕立てて,お互い
 を敵視している関係者もいます。「出版には商業主義なところがある」と書い
 た図書館業界関係者もいました。そのようなものの見方,関わり方は過去のも
 のとして,そこから僕たちは脱却していかなければならないでしょう。
 
 予算も人材も場所も限られ疲弊していく中で,何を収集し,何を提供し,何を
 保存していくのか。これからしばらくが図書館にも,図書館を学ぶひとたちに
 も,図書館を教える僕たちにも,図書館の周辺にいる方々にも,それぞれ正念
 場です。
 
 では,また次回。
 
 
 ◎停雲荘主人
 大学図書館の中の人。南東北在住。好きな音楽は交響曲。座右の銘は「行蔵は
 我に存す,毀誉は他人の主張,我に与らず我に関せずと存候。」(勝海舟)。 
 
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 ■「ときには積ん読の日々」 / 吉上恭太
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 第94回 菅原克己を歌う 
 
  このメルマガでも何回か紹介しているが、今年も4月1日に「げんげ忌」が
 開かれた。詩人の菅原克己を偲ぶ会だ。春にしては寒い日が続き、会場である
 全生庵の桜の花もまだ七分咲きといったところだった。今回で29回を迎える
 げんげ忌だから、高齢になり、いらっしゃれない方も多くなってきたみたいだ。
 それでもあまり天候の良くない中、80人近い人が集まった。ほとんどの人は生
 前の菅原克己を知らないのではないかな。菅原克己の詩に引きつけられた若い
 人が増えてきたようだ。もちろんぼくも菅原克己には会ったことがない。
 
  今年のげんげ忌はちょっと気が重たかった。会の冒頭に演奏をすることにな
 っていたからだ。三年前にも『ブラザー軒』を歌ったのだけれど、菅原克己を
 慕っている人の前でその詩を歌うのは、けっこうなプレッシャーで当日が近づ
 くとガチガチに緊張してきた。今回は、菅原克己の詩に自作のメロディーをつ
 けて歌うことにしたのもプレッシャーに拍車をかけたようだ。ひとりでは心許
 ないので前回のように白崎淳さんにトランペットをお願いした。
 
  一曲は第一詩集『手』に入っている『雑司ガ谷―戦争中に死んだ人に』を選
 んだ。ブルース調の歌にしたかったこともあるのだが、この詩を読んで軍国主
 義に向かおうとする最近の政治のことを思ったからだ。けっして声高に反戦を
 叫んでいるのではない。美しい言葉で書かれた詩だ。だが、読んでいると空襲
 で焼かれた人、風景が目の前に広がって胸にせまる。
 
  もちろん歌にするために書かれた詩ではないけれど、「別れてから振り返っ
 て…」とメロディーを口ずさんでいくと自然に歌になっていった。「雑司ガ谷、
 鬼子母神うら。その名はまだあるけれども、いまはあなたの家もない、木漏れ
 日もない。」歌ううちに、菅原克己の怒りが染みこんできて、ぼくの胃袋あた
 りにふつふつと沸き上がってくるのを感じる。「墓石がころがる道に夕ぐれが
 暗くよどんでいるばかり。」ぼくは歌いながら、焼け落ちた雑司ガ谷の町に立
 ちすくんでいる。
 
  おそらくこの不思議な感覚は、詩を歌にしなければ経験しなかっただろう、
 と思う。言葉をメロディーにしていくと、自分の中に詩人が入ってくるようだ
 った。こんなことをいうと怒られるかな。もしかしたら詩を読み違えているか
 もしれないし。
 
  そしてもう一曲、やはり第一詩集から『涙』という詩を歌った。「十七の娘
 には わからないことが多すぎて、なぜ、素直なことが素直にいかないか」。
 この詩に出てくる少女は、ぼくの叔母をモデルにしている。十七歳のまっすぐ
 な心を持つ少女が大人の世界に戸惑うすがたを優しく見つめる詩だ。
 
  ぼくには珍しくシャンソンのような曲調のワルツにした。シャンソンのよう
 にしたのは、理由がある。2001年、菅原克己の奥さんであるミツさんに誘
 ってもらって、初めてげんげ忌に出席した。そのときミツさんは懐かしそうに
 ぼくを見て、「あなたの両親の秘密をたくさん教えてあげるからね」といって
 くれた。両親は菅原夫妻に仲人をしてもらって結婚したのだった。その年の秋、
 火事でミツさんは亡くなってしまって、両親の秘密はそのままになってしまっ
 たのだが。ミツさんの葬儀のとき、流れていたのがシャンソンだった。若き日
 の両親も菅原さんを訪ねて、いっしょにシャンソンを聴いていたのかもしれな
 い。そんなことを思いながら詩を口ずさみながらギターを弾いて作った。
 
  ところで現在、八〇歳を過ぎた叔母は、まだこの少女のようにまっすぐな人
 だ。ただ耳が遠くなっているので、はたしてぼくの歌が届いたかどうかはわか
 らない。

  この日、フォークシンガーの佐久間順平さんも来ていて、昨年に続いて、す
 てきな歌を聴かせてくれた。佐久間さんは菅原克己の詩で何曲も作っていて、
 菅原克己の詩を歌うアルバムを作りたいといっていた。ぜひ実現して欲しいな
 あ。いまから楽しみで仕方がない。
 
  菅原克己の詩は、歌にしやすいのだろうか?
  佐久間さんの曲を聴いているとじつに自然に“歌”になっている。難解な言
 葉を使わずに、暮らしの中の言葉で詩を書いているからだろうか?
  歌になる詩は、きっとすぐれた詩なのだろうと思う。

  そして、曲を作り、歌うことも、詩を読むひとつの方法かもしれない。以前、
 佐久間さんは歌を作ろうと思って、『菅原克己全詩集』(西田書店)を手にと
 ったけれど、立派な本すぎて曲が生まれなかったという。詩をセレクトした軽
 装版『陽気な引越し』(西田書店)を読み始めたら、つぎつぎと曲が生まれた、
 と話していた。本の装丁や手に持ったときの重さなどでも読み方が変わってく
 るんだな。そこが本の面白いところだ。ぼくは全詩集を読みながら作った。
 
  菅原克己は教え子たちに「賞をとったり、売れる詩集を出版するのが詩人で
 はない。毎日、詩を書く人が詩人なんだよ」といっていたという。詩人として
 生活することが大切なのだ。ぼくは詩人ではないけれど、せめて毎日とはいか
 ないまでも、歌やメロディーを作り続けていきたいと思う。
 
   2017年・第19回不忍ブックストリート一箱古本市 は2017年4月30日[日]
 に開催予定です。
  くわしくは公式サイトを見てください。
 
                    http://sbs.yanesen.org/?page_id=4619
 
   ぼくも助っ人として、どこかで道案内をしています。

 ◎吉上恭太
 文筆業。仕事よりギターを弾いていることが多い。初めてのエッセイ集『とき
 には積ん読の日々』がトマソン社から出ました。詳しくはトマソン社のサイト
 を見てください。http://tomasonsha.com/ 。
 セカンドアルバム「ある日の続き」、6月にリリースの予定です。
  
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 ■「本棚つまみ食い」 / 副隊長
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  折々「灯台、灯台…」と本連載で言い続けているうちに、なにやら灯台趣味も
 それなりに認知されてきたような気がする今日この頃です。灯台関係の本もポ
 ツポツ出されるようになり、海上保安庁も一部で「灯台カード」なるものを配り
 だしたりしています。私も先日那珂湊の茨城海上保安部にお邪魔してきました。
 
 さて、つい先日出版された
 
 『灯台に恋したらどうだい?』、不動まゆう、洋泉社、2017
 
 はそんな中でも、灯台の良さを知らしめる活動を続けてきた著者の本だけに感
 慨深いものがあります。
 
  おそらく誰一人として覚えていないでしょうが、2014年7月に本項で『灯台
 どうだい?』という、灯台のすばらしさを伝えるべく当時創刊されたばかりの
 フリーペーパーを紹介したことがあります。その編集長がこの本の著者なんで
 すね。当時まだ第2号が出たばかり(季刊年4回発行)でしたが、こちらも順調に
 続き、今や13号まで積み重ねてきています。
  
  本書はそんなフリーペーパーで紹介されてきた灯台の楽しみ方を凝縮したも
 のと言えます。もちろん『灯台どうだい?』の読者の方にも十分楽しめる内容
 になっていますよ。
 
  何よりカラーページが多くて、美しい灯台のビジュアルを沢山楽しめるのが
 いいところです。トップに「建築美」の項目が持ってきてあるのも当然といえる
 かもしれません。ひとつひとつ個性的な灯台の姿に魅了される人は少なくない
 はずです。
 
  灯台といえば真っ白い塔が立っているだけと思っている方も多いのではない
 かと思いますが、そんな単純なものではないんですよ。使われている材質もカ
 ラーリングも様々です。
 
  犬吠埼灯台のような白い塔ばかりではなく、紅白や黒白のツートンカラーだ
 ったりもします。また防波堤灯台には全体が真っ赤に塗装されているものもあ
 ります。もっとも単におしゃれのためにそうしているわけでなく、理由があっ
 てのことです。詳しく知りたい方はぜひ本文を読んでください。海外の灯台に
 いたっては、とても日本では見られないようなカラーリングのものも沢山あり
 ます。
 
  かたちも様々です。四角柱だったり円柱だったり色々です。高さもずんぐり
 むっくりして低いものから、すっと高いものまであります。必ずしも灯台は高
 くなければいけないというわけではありません。低い灯台は顔がよく見えます
 しね。
 
  そしてその立地の厳しさも灯台を語る上では外せません。水ノ子島・神子元
 島といった灯台は本土から遠く離れた沖合いの島にひとり建って働きつづけて
 います。無人島なので定期船もなく、なかなかたどり着ける場所ではなく、そ
 れ故に灯台マニア憧れの地です。
 
  本書には秋田沖の小島にある久六島灯台を建設した方へのインタビューも収
 録されています。人跡稀な地に灯台を作り上げる苦労は並大抵のものではなく、
 こちらも興味がつきません。
 
  そして灯台といえばレンズ。著者の不動さんはフレネルレンズという灯台に
 使われているレンズに強いこだわりがあるだけに、本書でも詳しく解説されて
 います。実際に灯台に登ったことがある方なら、灯台のレンズは眼鏡に使われ
 ているような普通のレンズではないことを御存知かと思います。目玉のように
 も見えますが、フレネルレンズには独特の美しさがあります(ちなみに全ての
 灯台でフレネルレンズを使っているわけではありません)。
 
  レンズの美しさがひときわ輝くのはやはり灯台に明かりが灯ってからといえ
 るかもしれません。灯台に行くといっても昼間行くことがほとんどだと思いま
 すが、夕闇の中で灯器の光にきらめくレンズはぜひ一見をお薦めします。ただ
 しそのときは暗くても安全に行動できる灯台で見学してくださいね。
 
  本書にはその他にも多岐にわたる灯台の見所や灯台にまつわるルールから施
 設・設備の解説まで記事も充実しておりますので、灯台巡りの予習・復習にも
 最適です。灯台を旅先のランドマークから目的地へと変える一冊になると思い
 ます。
 
  そこから底なしのマニア道を突っ走るもよし、ゆったりと灯台ライフを楽し
 むもよしです(灯台ライフって何だろう)。
 
  それじゃあ灯台巡りでもしてみるかと思った方には『ニッポン灯台紀行』
 (岡克己、世界文化社、2015)、『ライトハウス』(野口毅+藤岡洋保、トラン
 スビュー、2015)を参考にしてみたらよいのではないかと思います。
 
 ◎副隊長 
 鉄道とペンギンの好きな元書店員。
 
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 ■「小さな本屋の小さな話」 / のん
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 「雨宿りさせてくださーい」
 
  詰襟の学生服を着た男の子が元気よく入ってきたのは、晴れていた空がみる
 みる暗くなり、ポツ、ポツ、ポツが、ポツポツポツとなって、ついにザーッと
 なったときだった。店の前に急ぎ停めた自転車には、すぐ近くの古くからある
 高校のステッカーが貼ってあった。

 「急に降ってきて大変だったね。どうぞどうぞ。雨がやむまでゆっくりしてい
 ってね」
 
 私が言うと男の子はほっとしたのかにっこりとして、そして濡れた制服を気に
 しながら物珍しそうに店内を見まわした。
  
 朝店を開けて閉店するまで、いつもそんなにたくさんお客は来ない。しかもそ
 の年齢はやや高め。よく言えば落ち着いてるということになるけど、今男子高
 校生が一人入ってきただけで一気に棚の空気まで若返った感じがした。めった
 にないことだ。
 
 「こんなところに古本屋があったなんて知らなかったなぁ。いつも自転車で通
 ってたんだけど」キョロキョロする男子高校生を見て、私まで若返った気がし
 てきた。
 
 いろんな本があるなぁうわーこれなんかそうとう古そう、ひとりごとのように
 つぶやきながら彼は興味深そうに歩きまわる。しばらくしてはっと顔を上げ、
 「やべ、今何時?わーもう待ち合わせ時間過ぎてるよ。友達と数学の問題集買
 いに行く約束してたんだよなぁ」と困ったようにどしゃ降りの外を見た。
 
 「にわか雨だからすぐやむよ。ちょっと遅れるって連絡したら?メールとかラ
 インとかで」私がそう言うと、彼は不思議そうに首をかしげ何か言いたそうだ
 ったが、すぐに「あーっ」と驚きの声をあげた。視線の先は文庫の棚だった。
 
 「『ノルウェイの森』!このまえ友達に借りて読んだんだ、これ。今本屋にい
 っぱい積んであるし、持ってるやつもけっこういるよ。でもこんなに小さいサ
 イズは初めて見たなぁ」そう言って手に取り、パラパラとめくった。
 
 「読むのは読んだけど、正直いって大人っぽ過ぎてよくわからなかったんだよ
 ね、実は。でも三日で読んだよ。わかんないんだけどさ、読むのをやめられな
 くなるっていうか。文章がいいのかな。村上春樹のほかの本も読んでみたいっ
 て思ったよ」
 
 「村上春樹のファンはあの独特の世界が好きなんでしょうね。なかなかノーベ
 ル賞が取れないけどね」少し笑いながら私がそう言うと、彼は笑わず、
 
 「へ?ノーベル賞ってあのノーベル賞?村上春樹が?まっさかー」目をまるく
 して私を見た。受賞するかどうか毎年騒がれていることを本当に知らないよう
 だった。
 
 「これ買うよ。文庫、だっけ?この小さいサイズの『ノルウェイの森』なんて
 誰も持ってないからみんなに自慢してやるんだ」
 
 「ありがとうございます。大学生になったらまた読んでみてね」
 
 袋に入れて手渡す。
 
 窓の外をみると、もう雨は上っていた。
 
 「よかったー、すぐやんで。自転車飛ばせば五分で着くかな」彼はそう言って
 待ち合わせ場所の本屋を教えてくれた。それは、何年も前に店を閉めた地元の
 老舗書店の名前だった。
 
 「ちょっと、その本屋はもう・・・」私が言いかけると、
 
 「おっと急がなきゃ。おねーさん今日はありがと」あっという間に自転車にま
 たがった。
 
 「よーし、共通一次まであと十ヶ月、がんばるぞー」そう言うと彼は私を見て
 にっこりとして、そして雨上がりのきらきらした町を元気に遠ざかっていった。
 私は不思議な気持ちで見送った。店はまたいつもの落ち着いた空気に戻ってい
 た。
 
  
 ◎古書五車堂 のん
 2016年7月から古書五車堂店主になりました。

 古書五車堂 http://www.gosyado.com/

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 ■トピックス
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 ■ 不忍ブックストリート  第19回 一箱古本市
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 今年も谷中で一箱古本市が開催されます!ゴールデンウィークの始まりは、 
 谷中の一箱古本市で!小誌の 吉上恭太 さんにもお会いできるかも!
 
        http://sbs.yanesen.org/?page_id=4619
  
 ◆日時:4/30(日) 11時〜16時30分(雨天決行)
 
 ◇会場: 東京都台東区・文京区 谷中・根津・千駄木(谷根千)地域
  
      最寄駅 東京メトロ千代田線根津駅・千駄木駅
  
          JR山手線日暮里駅・西日暮里駅
 
 ★大家さん★
  
  / 花歩 / 谷中の家 / 古書ほうろう / 旧安田楠雄邸 / 千駄木の郷 
  / 特別養護老人ホーム谷中 / 往来堂書店 / 喜多の園
  / ギャラリーKINGYO / ひるねこBOOKS / 根津教会 
  / ハウスサポート八號店
  / タナカホンヤ / HOTEL GRAPHY NEZU

   
 ■ 岡崎武志還暦記念トーク&ライブ     「風来坊 ふたたび」
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 岡崎武志さんの「還暦」記念トーク&ライブ が、京都で開催!
 なんかめでたいではないですか!とっても!
 みんなで集まってお祝いしましょう!
 
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 いいじゃないか
 
 笑うなよ 木よ風よ石よ
 
 そして友よ
  
 
 
 ◆日時:2017年5月3日(水・祝)15:00開場 16:00開演(18:00終演)
 
 ◇場所:徳正寺
 
     〒600-8051京都府京都市下京区富小路通り四条下る徳正寺町39
 
 ●出演:岡崎武志(60) 山本善行(60) 林哲夫(61)
                    扉野良人(45) 荻原魚雷(48)
 
 ○特別ゲスト:世田谷ピンポンズ
 
 ★入場料:2,000円(おみやげ付き)
 
 ☆定員:70名(予約の方優先)
 
 ⇒ご予約はメリーゴーランド京都まで   mgr-kyoto@globe.ocn.ne.jp
 
 ⇒詳細は、
 http://sumus2013.exblog.jp/iv/detail/?s=27682573&i
         =201704%2F23%2F92%2Ff0307792_09004919.jpg
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 ■あとがき
 今年の桜は長かったけれど、散ってみるとあっという間に春も終わり?気が
 つけばGWです。暑くなったかと思えば何となくうそ寒くもあり、体が定ま
 らない今日この頃。どうぞくれぐれもご自愛ください。配信が悉く遅れてす
 みません。猛省しています。                           畠中理恵子
 どうぞよい休暇を!
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   ・15日号:畠中理恵子 hatanaka3floor@jcom.home.ne.jp
   ・25日号:朝日山 asahi_yama@nifty.com
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